IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 松本油脂製薬株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-複合粒子及びその製造方法 図1
  • 特許-複合粒子及びその製造方法 図2
  • 特許-複合粒子及びその製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】複合粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/73 20060101AFI20240313BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20240313BHJP
   A61K 8/55 20060101ALI20240313BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20240313BHJP
   A61K 8/86 20060101ALI20240313BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240313BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20240313BHJP
   C08L 101/14 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
A61K8/73
A61K8/02
A61K8/55
A61K8/81
A61K8/86
A61Q19/00
C08L1/02
C08L101/14
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019194451
(22)【出願日】2019-10-25
(65)【公開番号】P2021066704
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000188951
【氏名又は名称】松本油脂製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】徳村 幸子
(72)【発明者】
【氏名】三木 勝志
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/094569(WO,A1)
【文献】特開2003-146829(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103275336(CN,A)
【文献】特表2016-510742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
C08B 1/00-37/18
C08J 3/00- 3/28
C08L 1/00- 1/32
C08L 101/14
B01F 21/00-35/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノセルロースを含むセルロースと、界面活性剤(ただし、ポリエーテル変性シリコーンを除く)及び/又は水溶性高分子とを含む複合粒子であって、
前記複合粒子は前記ナノセルロースが造膜して形成されてなるものであり、
前記界面活性剤及び/又は前記水溶性高分子の含有量が、前記セルロース100重量部に対して0.2~50重量部であり、
下記条件1を満たす、複合粒子。
条件1:乾式型レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて乾式法により測定される複合粒子の平均粒子径DD50と、湿式型レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて分散媒体を水とした湿式法により測定される複合粒子の平均粒子径DW50の比(DD50/DW50)が、下記式(1)の関係を有する。
0.6≦(DD50/DW50)≦1.8 式(1)
【請求項2】
前記DW50が1~100μmである、請求項1に記載の複合粒子。
【請求項3】
吸油量が20~200ml/100gである、請求項1又は2に記載の複合粒子。
【請求項4】
吸水量が50~400ml/100gである、請求項1~3のいずれかに記載の複合粒子。
【請求項5】
JIS-Z8835に基づくせん断試験において、垂直圧力20MPaにおける複合粒子からなる粉体層のせん断付着力が、0kPa超5kPa以下である、請求項1~4のいずれかに記載の複合粒子。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の複合粒子の製造方法であって、
セルロース粉末と、界面活性剤及び/又は水溶性高分子と、溶媒を含有する分散液を処理し、擬似粒度分布曲線における平均粒子径が1~30μmである処理液を得る工程と、
前記処理液を噴霧乾燥する工程を含む、複合粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌上でのすべり性及び肌上でのしっとり感に優れ、皮膚感覚が良好な複合粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品には、さまざまな粉体が配合されており、粉体に求められる機能としては、隠蔽性、べたつき低減、塗布時の化粧料の広がり性、すべり性、感触付与などがある。
なかでもセルロース粉末は、自然由来の原料であり、安全性が高く、ソフトな感触から、化粧用配合剤として使用されている。しかし、セルロース粉末は木材パルプ等の繊維状物を機械的に粉砕したものが多く、形状として繊維状、またはいびつな形状をしており、肌上でのすべり性に劣るものであった。
形状として球状のセルロース粒子については、例えば特許文献1など各種の製法で製造され、使用されているが、粉同士のすべり性、皮膚感覚において満足なものではなかった。
また、例えば特許文献2や特許文献3では、表面処理を施すことで、粉体の粉感覚を改善するセルロース粉体やその製造方法が記載されている。しかし、これらの方法において製造されたセルロース粉体は表面が処理剤により覆われており、セルロースの特徴である保水性を損なうため、しっとりとした粉感に劣るものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-181147号公報
【文献】特開2003-146829号公報
【文献】特開2007-56236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、肌上でのすべり性及び肌上でのしっとり感に優れ、皮膚感覚が良好な複合粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、特定の成分を含有し、特定の物性を示す複合粒子であれば、肌上でのすべり性及び肌上でのしっとり感に優れ、皮膚感覚が良好になることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明の複合粒子は、セルロースと、界面活性剤及び/又は水溶性高分子とを含む複合粒子であって、前記界面活性剤及び/又は前記水溶性高分子の含有量が、前記セルロース100重量部に対して0.2~50重量部であり、下記条件1を満たす、複合粒子である。
条件1:乾式法により測定される複合粒子の平均粒子径DD50と、湿式法により測定される複合粒子の平均粒子径DW50の比(DD50/DW50)が、下記式(1)の関係を有する。
0.6≦(DD50/DW50)≦1.8 式(1)
【0007】
前記DW50が1~100μmであると好ましい。
吸油量が20~200ml/100gであると好ましい。
吸水量が50~400ml/100gであると好ましい。
JIS-Z8835に基づくせん断試験において、垂直圧力20MPaにおける複合粒子からなる粉体層のせん断付着力が、0kPa超5kPa以下であると好ましい。
【0008】
本発明の複合粒子の製造方法は、上記複合粒子の製造方法であって、セルロース粉末と、界面活性剤及び/又は水溶性高分子と、溶媒を含有する分散液を処理し、擬似粒度分布曲線における平均粒子径が1~30μmである処理液を得る工程と、前記処理液を噴霧乾燥する工程を含む、複合粒子の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の複合粒子は、肌上でのすべり性及び肌上でのしっとり感に優れ、皮膚感覚が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1の分散液の光学顕微鏡写真
図2】実施例1の処理液の光学顕微鏡写真
図3】実施例1で得られた複合粒子の光学顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の複合粒子は、セルロースと、界面活性剤及び/又は水溶性高分子とを含む。以下では複合体を構成する成分について詳しく説明する。
【0012】
〔セルロース〕
セルロースは木材、綿花、麻、竹等由来の天然セルロースや、再生あるいは精製セルロース等を挙げることができる。これらセルロース原料は、粉砕や切断することで、微細繊維化することができる。粉砕には、例えば、ボールミル、ビーズミル、振動ミル、カッターミル、ハンマーミル、ウイレーミル、ジェットミル、押出機、臼式粉砕機、グラインダー、高圧ホモジナイザー等が用いられる。
上記セルロースは、カルボキシル基、燐酸基、アミノ基等により変性されていてもよい。
【0013】
本発明の複合粒子に含まれるセルロースは、肌上でのすべり性の観点から、ナノセルロースが結合してなるものであると好ましい。ナノセルロースとは、一般的に繊維幅がナノサイズのセルロース微細繊維を含むセルロース繊維である。
【0014】
〔界面活性剤〕
界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アルキル硫酸塩、リン酸エステル塩、アミドエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩等のアニオン性界面活性剤;第四級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤;アルキルベタイン、アルキルアミンオキサイド等の両性界面活性剤;グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリアオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、アクリルグリセリルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、アルキロールアミド、アルキルポリグルコシド等の非イオン性界面活性剤;アシルアミノ酸塩、グルタミン酸塩、アラニン塩、グリシン塩等のアミノ酸系界面活性剤;レシチン、レシチン誘導体等のリン脂質;高級アルコール、サポニン、タンパク質加水分解物、タンパク質加水分解物誘導体等が挙げられる。
界面活性剤としては、皮膚への低刺激性の観点から、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤が好ましく、また、環境へ配慮の観点から、アミノ酸系界面活性剤、リン脂質が好ましい。
【0015】
界面活性剤の分子量は、特に限定はされないが、肌上でのすべり性の観点から、200以上であると好ましい。界面活性剤の分子量は、より好ましくは400以上、特に好ましくは500以上である。一方、界面活性剤の平均分子量の好ましい上限は20000である。
【0016】
〔水溶性高分子〕
水溶性高分子としては、特に限定されないが、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム等のアクリル系重合体;ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等のビニル系重合体;ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド等のポリアルキレンオキサイド;デキストリン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アラビアガム、タマリンドガム、ペクチン、プルラン、カゼイン、キサンタンガム、カラギナン、トラガントガム、ゼラチン等の多糖類;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロプルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース等のセルロース誘導体等が挙げられる。
本発明の複合粒子に自然由来の水溶性高分子を含有させる場合、多糖類とセルロース誘導体から選ばれる少なくとも1種であると好ましい。
【0017】
水溶性高分子の分子量は、特に限定されないが、皮膚感覚の観点から、10000以上であると好ましい。水溶性高分子の分子量は、より好ましくは20000以上、特に好ましくは40000以上である。一方、水溶性高分子の分子量の好ましい上限は1000000である。
上記界面活性剤及び/又は水溶性高分子は、1種または2種以上併用してもよい。
【0018】
本発明の複合粒子は、セルロースと界面活性剤及び/又は水溶性高分子とを必須に含むものであり、界面活性剤及び/又は水溶性高分子の含有量は、セルロース100重量部に対して0.2~50重量部である。界面活性剤および/又は水溶性高分子の含有量が0.2重量部未満であると、肌上での滑り性に劣り、50重量部超であると、しっとり感に劣る。界面活性剤及び/又は水溶性高分子の含有量の下限は、好ましくは0.3重量部、より好ましくは0.5重量部、さらに好ましくは0.8重量部、特に好ましくは1.0重量部である。一方、界面活性剤及び/又は水溶性高分子の含有量の上限は、好ましくは30重量部、より好ましくは20重量部、更に好ましくは10重量部、特に好ましくは6重量部、最も好ましくは3重量部である。
【0019】
本発明の複合粒子が界面活性剤及び水溶性高分子を含む場合、界面活性剤の含有量と水溶性高分子の含有量の重量比((界面活性剤)/(水溶性高分子))は、特に限定されないが、好ましくは0.1/99.9~99.9/0.1である。より好ましくは、0.5/99.5~99/1、更に好ましくは、1/99~95/5、特に好ましくは2/98~90/10である。
【0020】
本発明の複合粒子は、本発明の効果を阻害しない範囲で、セルロースと界面活性剤および/又は水溶性高分子以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。
他の成分としては、特に限定されないが、例えば、スクワランオイル、オリーブオイル、流動パラフィンオイル、シリコンオイル、アルカン等のオイル系化合物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、ヒドロキシアパタイト、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化亜鉛、窒化ホウ素等の無機化合物;ベントナイト、モンモリロナイト、スクメタイト、クレイ、カオリン、マイカ、タルク、セリサイト等の鉱物;ラウリン酸、ミスチリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、セロチン酸等の脂肪酸;ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸亜鉛、ラウリン酸カリウム、ミスチリン酸亜鉛、ミスチリン酸ナトリウム、パルミチン酸亜鉛、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、12-ヒドロキシステアリン酸カルシウム、12-ヒドロキシステアリン酸亜鉛、12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウム、12-ヒドロキシステアリン酸アルミニウム、ベヘン酸カルシウム、ベヘン酸亜鉛、ベヘン酸マグネシウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸亜鉛、モンタン酸マグネシウム、モンタン酸アルミニウム等の脂肪酸金属塩;N-ラウロイル-L-アルギニン、N-ラウロイル-L-リジン、N-ヘキサノイル-L-リジン、N-オレイルイル-L-リジン、N-パルミトイル-L-リジン、N-ステアノイル-L-リジン、N-ヘキサノイル-L-リジン、N-ミリストイル-L-リジン、N-カプリロイル-L-リジン、N-デカノイル-L-リジン等のアミノ酸系化合物;澱粉、ポリ乳酸、酢酸セルロース、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリヒドロキシブタン酸、ポリグリコール酸、芳香族変性脂肪族ポリエステル、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、ポリカプロラクトン、ポリエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリウレタン、ポリアミド等の高分子化合物が挙げられる。
【0021】
他の成分の含有量としては、特に限定されないが、セルロース100重量部に対し、好ましくは0~10000重量部、より好ましくは0~5000重量部、さらに好ましくは0~1000重量部、特に好ましくは0~100重量部、最も好ましくは0~50重量部である。
【0022】
〔複合粒子〕
本発明の複合粒子は、上記成分を含み、下記条件(1)を満たすものである。
【0023】
条件1:乾式法により測定される複合粒子の平均粒子径DD50と、湿式法により測定される複合粒子の平均粒子径DW50の比(DD50/DW50)が、下記式(1)の関係を有する。
0.6≦(DD50/DW50)≦1.8 式(1)
【0024】
上記式(1)において、DD50/DW50が上記範囲外であると、皮膚感覚に劣る。DD50/DW50が0.6よりも小さい場合、粒子が水により膨潤していることを示す。一方、DD50/DW50が1.8よりも大きい場合、水に分散させた際に、粒子が崩壊していることを示す。よって、複合粒子が上記成分を含み、かつ上記条件1を満たさなければ、湿度や皮膚の水分により粒子形状が変化することで、皮膚感覚に劣るだけでなく、水により形状が変化してしまう。そのため、水を含む組成物、特に化粧料に用いることが困難となりうる。
D50/DW50の下限は、好ましくは0.65、より好ましくは0.70、さらに好ましくは0.73、特に好ましくは0.75、最も好ましくは0.80である。一方、DD50/DW50の上限は、好ましくは1.7、より好ましくは1.6、さらに好ましくは1.5、特に好ましくは1.3、最も好ましくは1.2である。
なおDD50及びDW50の測定方法は、実施例で測定される方法によるものである。
【0025】
本発明の複合粒子のDW50は、特に限定されないが、好ましくは1~100μであると好ましい。DW50が1μm未満であると、粒子としての機能が不足することがある。一方、DW50が100μm超であると、皮膚感覚に劣ることがある。
W50は、より好ましくは1~50μm、さらに好ましくは1~40μm、特に好ましくは1~30μm、最も好ましくは1~20μmである。
【0026】
本発明の複合粒子の吸油量は、特に限定されないが、20~200ml/100gであると好ましい。吸油量が20ml/100g未満であると、化粧料へ配合した場合にべたつきを感じることがある。一方、吸油量が200ml/100g超であると、すべり性に劣ることがある。吸油量の下限は、より好ましくは40ml/100g、さらに好ましくは50ml/100g、最も好ましくは60ml/100gである。一方、吸油量の上限は、より好ましくは190ml/100g、さらに好ましくは180ml/100g、最も好ましくは160ml/100gである。
なお、複合粒子の吸油量の測定方法は、実施例で測定される方法によるものである。
【0027】
本発明の複合粒子の吸水量は、特に限定されないが、50~400ml/100gであると好ましい。吸水量が50ml/100g未満であると、しっとり感に劣ることがある。一方、吸水量が400ml/100g超であると、すべり性に劣ることがある。吸水量の下限は、より好ましくは70ml/100g、さらに好ましくは100ml/100g、特に好ましくは120ml/100g、最も好ましくは150ml/100gである。一方、吸水量の好ましい上限は380ml/100g、さらに好ましくは360ml/100g、特に好ましくは330ml/100g、最も好ましくは300ml/100gである。
なお、複合粒子の吸水量の測定方法は、実施例で測定される方法によるものである。
本発明の複合粒子は、本願効果を奏する観点から、吸水量が50~400ml/100gであり、かつ、吸油量が20~200ml/100gであると好ましい。
【0028】
本発明の複合粒子は、JIS-Z8835に基づくせん断試験において、垂直圧力20MPaにおける複合粒子からなる粉体層のせん断付着力C20が、特に限定されないが、0kPa超5kPa以下であると好ましい。C20は粉体層に20MPaかけて圧縮した時の粉体(複合粒子)同士の付着性を示す。C20が大きいと圧力下における付着性が強いことを意味する。C20が5kPaより大きいと、圧力下において付着性が強く、肌上での滑り性に劣る場合がある。
20は、より好ましくは0kPa超4kPa以下、さらに好ましくは0kPa超3kPa以下、特に好ましくは0kPa超2kPa以下である。
【0029】
本発明の複合粉体の円形度は、特に限定されないが、0.4~1.0であると好ましい。円形度が0.4未満であると、形状がいびつであることがあり、また、偏平度が高くなりすぎることがあり、肌上でのすべり性が劣ることがある。複合粉体の円形度は、より好ましくは0.5~1.0、さらに好ましくは0.55~1.0、特に好ましくは0.6~1.0である。
なお、複合粉体の円形度の測定方法は、実施例で測定される方法によるものである。
【0030】
〔複合粒子の製造方法〕
本発明の複合粒子は、下記1)~4)の工程を含む製造方法により製造することができる。
1)セルロース粉末を得る工程
2)セルロース粉末と界面活性剤及び/又は水溶性高分子と溶媒を含む分散液を得る工程
3)分散液を処理し、処理液を得る工程
4)処理液を噴霧乾燥する工程
上記1)~4)の工程について、以下にて詳細に説明する。
【0031】
(セルロース粉末を得る工程)
セルロース粉末を得る工程(以下、工程1ということがある)は、セルロース原料を粉砕及び/又は切断し、微粉末化する工程である。粉砕及び/又は切断には、例えば、ボールミル、振動ミル、カッターミル、ハンマーミル、ウイレーミル、ジェットミル、押出機、臼式粉砕機等を用いることができる。
セルロース原料としては、例えば、木材、綿花、麻、竹等由来の天然由来のセルロースを挙げることができ、また、広葉樹や針葉樹等のクラフトパルプや、古紙等から製造される古紙パルプも挙げられ、なかでも精製パルプが好ましい。工程1にて得られるセルロース粉末の湿式法により測定される体積基準の平均粒子径は、1~100μmであると好ましい。
【0032】
(セルロース粉末と界面活性剤および/又は水溶性高分子と溶媒を含む分散液を得る工程)
セルロース粉末と界面活性剤および/又は水溶性高分子化合物と溶媒を含む分散液を得る工程(以下、工程2ということがある)は、セルロース粉末と、界面活性剤および/又は水溶性高分子と、溶媒と、必要に応じて上記他の成分を混合し、分散液を得る工程である。工程2で使用するセルロース粉末としては、工程1で得られるセルロース粉末でもよく、市販のセルロース粉末でもよい。湿式法により測定される市販のセルロース粉末の体積基準の平均粒子径は、好ましくは1~100μmである。また、セルロース粉末は、溶媒と混合する前に酵素処理、酸化処理等の化学処理を行ってもよい。
溶媒としては、例えば、炭素数6~15の炭化水素;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール;イオン液体;水道水、イオン交換水、蒸留水等の水が挙げられる。なかでも、環境への配慮の観点から水が好ましい。
【0033】
セルロース粉末と、界面活性剤および/又は水溶性高分子と、溶媒と、上記他の成分を混合する方法としては、例えば、溶媒に上記材料を順に添加して混合してもよく、全ての材料を混合してから溶媒に添加して混合してもよい。混合は、室温にて攪拌羽、ディスパー、ホモミキサー等を用いて、浮上物がなくなるまで攪拌すると好ましい。
【0034】
分散液において、界面活性剤および/又は水溶性高分子の含有量は、セルロース粉末100重量部に対して、0.2~50重量部であると好ましい。また、分散液において、固形分濃度が0.5~40重量%であると好ましい。
【0035】
(分散液を処理し、処理液を得る工程)
分散液を処理し、処理液を得る工程(以下、工程3ということがある)は、工程2で得られた分散液を処理し、処理液を得る工程である。分散液の処理方法としては、ビーズミル、ボールミル、グラインダー、高圧ホモジナイザー、マスコロイダー等により解砕等の処理を行う方法が挙げられる。
【0036】
分散液を処理して得られる処理液は、擬似粒度分布曲線における平均粒子径が1~30μmであると好ましい。本発明における「擬似粒度分布曲線」とは、湿式型レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて、湿式測定法により測定される体積基準粒度分布曲線である。
処理液の擬似粒度分布曲線における平均粒子径の下限は、より好ましくは2μm、さらに好ましくは3μmである。一方、処理液の擬似粒度分布曲線における平均粒子径の上限は、より好ましくは25μm、さらに好ましくは20μm、最も好ましくは15μmである。
【0037】
(処理液を噴霧乾燥する工程)
処理液を噴霧乾燥する工程は、工程3で得られた処理液を噴霧乾燥する工程(以下、工程4ということがある)である。この工程により、処理液中のナノセルロースが造膜し、界面活性剤および/又は水溶性高分子とを含む複合粒子が形成されると考えられる。噴霧乾燥は、スプレードライヤー法が好ましく、噴霧式又はディスク式の分散化機構を有する装置を使用する方法が望ましい。
また、使用する装置については、乾燥部の入口温度が100~250℃であると好ましく、140~220℃であるとさらに好ましく、160~200℃であると特に好ましい。一方、乾燥部の出口温度は100℃を超えないように制御することが好ましい。
工程4にて用いる処理液のpHが4~8であると、得られる複合粒子が弱酸性から中性を示すため、肌への刺激が少なくなり好ましい。なお、処理液のpHは、pHメーターを用いて測定した。
【0038】
本発明の複合粒子は、化粧料として好適に用いることができる。化粧料に用いる場合、公知の化粧料成分と組み合わせて使用することができる。化粧料成分としては、例えば、油剤、界面活性剤、アルコール類、水、保湿剤、ゲル化剤、増粘剤、本発明の複合粒子以外の粉体、紫外線吸収剤、防腐剤、抗菌剤、酸化防止剤、機能性成分等が挙げられる。
本発明の複合粒子を配合した化粧料の形態としては、粉末状、固形状、クリーム状、ゲル状、液状、ムース状、スプレー状等が挙げられる。
化粧料全体に占める本発明の複合粒子の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.1~50重量%、より好ましくは0.5~30重量%、さらに好ましくは1~20重量%である。
【実施例
【0039】
以下に、本発明の複合粒子の実施例について、具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、実施例、及び比較例の粒子又は粉体について次に示す要領で物性を測定し、さらに評価を行った。
【0040】
(乾式法による平均粒子径の測定)
乾式型レーザー回折式粒度分布測定装置(マスタサイザー3000、Malvern社製)を使用し、乾式測定法により測定した。平均粒子径は体積基準測定によるD50値を採用した。
【0041】
(湿式法による平均粒子径の測定)
湿式型レーザー回折式粒度分布測定装置(マイクロトラック粒度分布計(型式9320-HRA)、日機装株式会社製)を使用し、湿式測定法により測定した。平均粒子径は体積基準測定によるD50値採用した。
【0042】
(吸水量、吸油量の測定)
JIS-K5101吸油量の測定法に基づき、吸水量測定はイオン交換水を、吸油量測定はオレイン酸を用いて測定した。
【0043】
(せん断付着力評価)
JIS-Z8835(一面せん断試験による限界状態線(CSL)及び壁面崩壊線(WYL)の測定法)に基づき、せん断式粉体流動性測定機(Volution Powder Tester、Mercury Scientific社製)を使用し、回転セル型定容積法により測定した。
複合粒子は水分量10%以下のものを測定した。水分量は赤外線水分計法により測定した。垂直圧力20MPaにおける複合粒子からなる粉体層の崩壊挙動を測定し、垂直圧力20MPaにおける粉体層のせん断付着力C20を求めた。
【0044】
(円形度の測定)
粒子分析画像装置(モフォロギG3、Malvern社製)を使用し、画像解析法により測定した。
【0045】
(感触評価)
パネラー5名により、各種粉体を肌上に塗布した際の粉感について、しっとり感、滑り性、柔らかさ、きしみ感の4項目について、1~5段階評価を行った。各々の評価項目における評価基準は以下とした。
しっとり感:しっとり感を感じるほど数値が大きい。
滑り性:滑り性がよいと感じるほど数値が大きい。
柔らかさ:柔らかさを感じるほど数値が大きい。
きしみ感:きしみ感がないと感じるほど数値が大きい。
各々の項目において、各パネラーの評価結果の平均値を求め、平均値の数値が高いほど、皮膚感覚に優れるとして評価した。
【0046】
〔実施例1〕
イオン交換水10000重量部と精製した木材パルプ由来のセルロース粉末(湿式法による平均粒子径25.2μm)100重量部とポリビニルアルコール(分子量22000)10重量部を含有した分散液をダイノミル装置にて処理することにより処理液を得た。処理液の擬似粒度分布曲線における平均粒子径は12.2μmであった。
得られた処理液(pH6.7)をスプレードライヤー(入口温度;200℃、出口温度;80℃)にて噴霧乾燥し、複合粒子1を得た。得られた複合粒子1の物性を表1に示す。
感触評価において、全てに項目において数値が大きく、感触に優れる結果であった。
なお、上記分散液、上記処理液、上記複合粒子1の光学顕微鏡を、それぞれ図1(分散液)、図2(処理液)、図3(複合粒子1)に示す。
【0047】
〔実施例2〕
ポリビニルアルコール10重量部を、タマリンドガム2重量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、処理液を得た。処理液の擬似粒度分布曲線における平気粒子径は9.6μmであった。
実施例1と同様にして、得られた処理液(pH6.6)を噴霧乾燥し、複合粒子2を得た。得られた複合粒子2の物性を表1に示す。
感触評価において、全てに項目において数値が大きく、感触に優れる結果であった。
【0048】
〔実施例3〕
ポリビニルアルコール10重量部を、水素添加レシチン0.5重量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、処理液を得た。処理液の擬似粒度分布曲線における平均粒子径は8.7μmであった。
実施例1と同様にして、得られた処理液(pH6.6)を噴霧乾燥し、複合粒子3を得た。得られた複合粒子3の物性を表1に示す。
感触評価において、全てに項目において数値が大きく、感触に優れる結果であった。
【0049】
〔実施例4〕
水素添加レシチンを5重量部に変更し、フュームドシリカ75重量部を含有した分散液に変更したこと以外は、実施例3と同様にして、処理液を得た。処理液の擬似粒度分布曲線における平均粒子径は7.5μmであった。
実施例3と同様にして、得られた処理液(pH6.6)を噴霧乾燥し、複合粒子4を得た。得られた複合粒子4の物性を表1に示す。
感触評価において、全てに項目において数値が大きく、感触に優れる結果であった。
【0050】
〔実施例5〕
イオン交換水10000重量部と実施例1と同じセルロース粉末100重量部とソルビタンモノラウレートのエチレンオキサイド20モル付加物であるPOE(20)ソルビタンモノラウレート3重量部とタマリンドガム4重量部とポリエーテル変性シリコーン16重量部を含有した分散液に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、処理液を得た。処理液の擬似粒度分布曲線における平均粒子径は8.2μmであった。
実施例1と同様にして、得られた処理液(pH6.6)を噴霧乾燥し、複合粒子5を得た。得られた複合粒子5の物性を表1に示す。
感触評価において、全てに項目において数値が大きく、感触に優れる結果であった。
【0051】
〔実施例6〕
ポリビニルアルコールを18重量部に変更し、ベントナイト67重量部を含有した分散液に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、処理液を得た。処理液の擬似粒度分布曲線における平均粒子径は10.1μmであった。
実施例1と同様にして、得られた処理液(pH7.8)を噴霧乾燥し、複合粒子6を得た。得られた複合粒子6の物性を表1に示す。
感触評価において、全てに項目において数値が大きく、感触に優れる結果であった。
【0052】
〔比較例1〕
イオン交換水10000重量部と精製した木材パルプ由来のセルロース粉末(湿式法による平均粒子径25.2μm)100重量部を含有した分散液を、実施例1と同様にして、処理液を得た。処理液の擬似粒度分布曲線における平均粒子径は21.6μmであった。
実施例1と同様にして、得られた処理液(pH6.9)を噴霧乾燥し、セルロース粒子Aを得た。得られたセルロース粒子Aの物性を表1に示す。
感触評価において、全てに項目において数値が小さく、感触に劣る結果であった。
【0053】
〔比較例2〕
衝突板式ジェット粉砕機を用いて、精製した木材パルプ由来のセルロース粉末(湿式法による平均粒子径25.2μm)を、圧力0.6MPaにて供給量2kg/hで粉砕し、セルロース粉体Bを得た。得られたセルロース粉体Bの物性を表1に示す。
感触評価において、全てに項目において数値が小さく、感触に劣る結果であった。
【0054】
〔比較例3〕
イオン交換水10000重量部に比較例2のセルロース粉体B(湿式法による平均粒子径8.7μm)100重量部とポリビニルアルコール10重量部を添加し、攪拌混合して分散液を得た。
得られた分散液をスプレードライヤー(入口温度;200℃、出口温度;80℃)にて噴霧乾燥し、複合粒子Cを得た。得られた複合粒子Cの物性を表1に示す。
感触評価において、全てに項目において数値が小さく、感触に劣る結果であった。
【0055】
〔比較例4〕
ポリビニルアルコール10重量部をポリエチレングリコール(分子量400)60重量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、処理液を得た。処理液の擬似粒度分布曲線における平均粒子径は17.3μmであった。
実施例1と同様にして、得られた処理液(pH6.8)を噴霧乾燥し、複合粒子Dを得た。得られた複合粒子Dの物性を表1に示す。
感触評価において、全てに項目において数値が小さく、感触に劣る結果であった。
【0056】
【表1】
【0057】
実施例1~6の複合粒子は、界面活性剤及び/又は水溶性高分子の含有量がセルロース100重量部に対して0.2~50重量部であり、(DD50/DW50)が0.6~1.8であるため、本願課題を解決している。
一方、界面活性剤及び/又は水溶性高分子の含有量がセルロース100重量部に対して0.2~50重量部の範囲外である粉体(比較例1、2)、(DD50/DW50)が0.6~1.8の範囲外である複合粒子(比較例3、4)であると、本願課題を解決できていない。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の複合粒子は、皮膚感覚良好であるので、粉末化粧料、固形化粧料、液状化粧料、クリーム状化粧料、スプレー状化粧料等の化粧料に用いることができる。また、乾燥状態から湿潤状態における形状変化が少ないため、樹脂や塗料用の改質剤や、意匠性付与剤等として用いることができる。
図1
図2
図3