IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイヘンスタッド株式会社の特許一覧

特許7453807溶接ガン、スタッド溶接セット及びスタッド溶接方法
<>
  • 特許-溶接ガン、スタッド溶接セット及びスタッド溶接方法 図1
  • 特許-溶接ガン、スタッド溶接セット及びスタッド溶接方法 図2
  • 特許-溶接ガン、スタッド溶接セット及びスタッド溶接方法 図3
  • 特許-溶接ガン、スタッド溶接セット及びスタッド溶接方法 図4
  • 特許-溶接ガン、スタッド溶接セット及びスタッド溶接方法 図5
  • 特許-溶接ガン、スタッド溶接セット及びスタッド溶接方法 図6
  • 特許-溶接ガン、スタッド溶接セット及びスタッド溶接方法 図7
  • 特許-溶接ガン、スタッド溶接セット及びスタッド溶接方法 図8
  • 特許-溶接ガン、スタッド溶接セット及びスタッド溶接方法 図9
  • 特許-溶接ガン、スタッド溶接セット及びスタッド溶接方法 図10
  • 特許-溶接ガン、スタッド溶接セット及びスタッド溶接方法 図11
  • 特許-溶接ガン、スタッド溶接セット及びスタッド溶接方法 図12
  • 特許-溶接ガン、スタッド溶接セット及びスタッド溶接方法 図13
  • 特許-溶接ガン、スタッド溶接セット及びスタッド溶接方法 図14
  • 特許-溶接ガン、スタッド溶接セット及びスタッド溶接方法 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】溶接ガン、スタッド溶接セット及びスタッド溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/20 20060101AFI20240313BHJP
【FI】
B23K9/20 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020033015
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021133409
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】594083911
【氏名又は名称】ダイヘンスタッド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100127340
【弁理士】
【氏名又は名称】飛永 充啓
(72)【発明者】
【氏名】清水 文夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀明
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-307168(JP,A)
【文献】特開平06-269945(JP,A)
【文献】米国特許第04475026(US,A)
【文献】特開昭48-056545(JP,A)
【文献】実開平03-042378(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタッド保持用のチャックを軸方向に往復移動させるガン本体と、
フェルール保持用のフェルールグリップと、
を備える溶接ガンにおいて、
前記ガン本体が母材の溶接面に対して垂直な向きとなるように前記フェルールの周囲で当該溶接面に軸方向に接触させられる垂直ガイドと、
前記垂直ガイドと前記溶接面が軸方向に接触させられた状態のときに前記フェルールの軸方向一端側の端面を当該溶接面に押し付けた状態に保つプッシャー機構と、
をさらに備え、
前記垂直ガイドが、前記フェルールグリップに対して軸方向一端側に配置された固定板を有し、前記固定板が、前記フェルールグリップに保持されたフェルールの外周全周との間に隙間を形成する内周を有し、前記固定板の内周が、フェルールの外周との隙間の大きさを周方向に一定ピッチで変化させた形状になっていることを特徴とする溶接ガン。
【請求項2】
前記プッシャー機構が、前記フェルールグリップを軸方向に移動可能に支持する直動ガイドと、軸方向他端側に変位した前記フェルールグリップを軸方向一端側に向けて付勢する弾性部とを有する請求項1に記載の溶接ガン。
【請求項3】
前記ガン本体のハンドルグリップにケーブルホルダが接続されており、前記ケーブルホルダは、前記ガン本体に接続するケーブルを軸方向他端側に向けて取り出すものである請求項1又は2に記載の溶接ガン。
【請求項4】
前記固定板の内周が、周方向に一定ピッチで形成された円孤面と、周方向に隣り合う円孤面間に連なる中間面とで形成されており、前記固定板の内周の内径が、前記中間面で規定されている請求項に記載の溶接ガン。
【請求項5】
前記プッシャー機構が、前記固定板に取り付けられており、前記フェルールグリップが、前記プッシャー機構と前記固定板によって軸方向に往復移動可能に保持されている請求項4に記載の溶接ガン。
【請求項6】
溶接ガンと、母材の溶接面に取り付けられるテンプレートとを備え、
前記溶接ガンが、スタッド保持用のチャックを軸方向に往復移動させるガン本体と、フェルール保持用のフェルールグリップと、前記ガン本体が母材の溶接面に対して垂直な向きとなるように前記フェルールの周囲で当該溶接面に軸方向に接触させられる垂直ガイドと、前記垂直ガイドと前記溶接面が軸方向に接触させられた状態のときに前記フェルールの軸方向一端側の端面を前記溶接面に押し付けた状態に保つプッシャー機構とを備え、
前記垂直ガイドが、前記フェルールグリップに対して軸方向一端側に配置された固定板を有し、前記固定板が、前記フェルールグリップに保持されたフェルールの外周全周との間に隙間を形成する内周を有し、
前記テンプレートが、前記溶接ガンの固定板を軸方向に嵌め込み可能な嵌合口部と、当該嵌合口部の軸方向他端側の縁から周囲に延びる板面部と、前記溶接面に吸着する永久磁石部とを有し、
前記固定板の外周と前記板面部が互いに異なる色になっており、
前記永久磁石部によって前記テンプレートが前記溶接面に取り付けられて前記板面部が当該溶接面に対して平行に配置され、かつ前記固定板が前記嵌合口部に軸方向に嵌め込まれて当該溶接面に対して垂直な向きで接触させられた状態のとき、当該固定板の外周の軸方向他端縁全周と当該板面部が当該溶接面から同一高さに位置するスタッド溶接セット。
【請求項7】
前記テンプレートの板面部に第1のけがき線と第2のけがき線が表示されており、これら第1のけがき線と第2のけがき線が、互いに異なる方向であって前記嵌合口部の中心軸線に対して交差する方向に延びている請求項に記載のスタッド溶接セット。
【請求項8】
前記第1のけがき線又は第2のけがき線と平行な方向に延びる第3のけがき線が前記テンプレートの板面部に表示されており、
前記テンプレートが、前記嵌合口部から離れた位置かつ前記第3のけがき線の延長上の位置に前記溶接面を露出させる覗き窓部を有する請求項に記載のスタッド溶接セット。
【請求項9】
前記テンプレートの嵌合口部が、前記固定板の外周を周方向に異なる複数の向きで嵌め込み可能な形状になっている請求項からのいずれか1項に記載のスタッド溶接セット。
【請求項10】
請求項からのいずれか1項に記載のスタッド溶接セットの前記テンプレートの永久磁石部を、水平に対して下向き又は傾斜した平坦面状の前記溶接面に吸着させることによって、前記板面部を当該溶接面に対して平行に配置するテンプレート取り付け工程と、
前記チャックにスタッドを保持させかつ前記フェルールグリップにフェルールを保持させた状態で前記溶接ガンの固定板を前記配置されたテンプレートの嵌合口部に軸方向に嵌め込み、当該固定板と当該フェルールの軸方向一端側の端面を当該溶接面に接触させ、当該テンプレートの嵌合口部から当該固定板の外周が軸方向他端側に食み出た部分の有無を判別する目視確認工程と、を備えるスタッド溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アークスタッド溶接に用いる溶接ガン、この溶接ガンを備えるスタッド溶接セット、及びこのスタッド溶接セットを用いるスタッド溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁に用いられる床版として、鋼製のフラットなデッキプレートの下面に、同じく鋼製の縦リブや横リブを配設して補強した鋼床版が知られている。このような鋼床版は、コンクリートの打設が不要なことや軽量であること等の理由から鉄筋コンクリート床版等に比べて現場施工が簡便であり、汎用されている。
【0003】
鋼床版が疲労損傷し、デッキプレートと縦リブとの溶接部などがひび割れ、その亀裂がデッキプレートや溶接ビード内に進展する現象が生じる場合、これを補強する必要がある。例えば、鋼床版の下面にあるデッキプレートおよび縦リブにスタッドを溶接し、デッキプレートの下面および縦リブの側面に当てた補強板をこのスタッドにねじ込まれたナットにより固定する補強方法がある。
【0004】
この補強方法においてスタッドの溶接作業を一般的なスタッド溶接方法で行う場合、作業者は、溶接ガンのハンドルグリップを片手で握りながら上向きの姿勢のままで作業を行う。このため、溶接ガンを鋼床版に対して垂直に接触させることが困難であり、ひいては精度の高い溶接が困難であって溶接不良の原因ともなる。特に鋼床版が縦断方向(車両進行方向)および横断方向(幅方向)に勾配をもつ場合、溶接ガンをこの勾配に対応させて片手で微妙に傾けながら作業をおこなうことになり、一層の困難をともなう。
【0005】
このような困難に対応するため、ジャッキと複数のチルト機構とを備える溶接装置が提案されている。この溶接装置は、チルト機構やジャッキを操作して溶接ガンの姿勢や高さを調整することができる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-68089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、水平又は水平に対して勾配をもった鋼床版の下面にスタッドを溶接する場合、特許文献1の溶接装置を用いると、1本のスタッドを溶接するごとに溶接装置のチルト機構やジャッキを操作することになるため、溶接ガンを握る作業者が溶接ガンの姿勢を操作するときに比して、溶接作業時間を要してしまう。
【0008】
一方、水平又は水平に対して勾配をもった鋼床版の下面にスタッドを溶接する場合、溶接ガンを握る作業者が溶接ガンの姿勢を操作すると、溶接ガンの重量をフェルールと鋼床版の下面の接触部に作用させて当該接触を安定させることができない。この接触が安定しないと、溶接時のガスや溶融金属の不正漏洩が生じて溶接不良に至る可能性がある。
【0009】
上述の背景に鑑み、この発明が解決しようとする課題は、溶接ガンを握る作業者が溶接ガンの姿勢を操作して橋梁の鋼床版の下面に対してスタッドを溶接する場合に好適な溶接ガンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を達成するため、この発明は、スタッド保持用のチャックを軸方向に往復移動させるガン本体と、フェルール保持用のフェルールグリップとを備える溶接ガンにおいて、前記ガン本体が母材の溶接面に対して垂直な向きとなるように前記フェルールの周囲で当該溶接面に軸方向に接触させられる垂直ガイドと、前記垂直ガイドと前記溶接面が軸方向に接触させられた状態のときに前記フェルールの軸方向一端側の端面を当該溶接面に押し付けた状態に保つプッシャー機構と、をさらに備える構成を採用した。
【0011】
上記構成によれば、溶接ガンがフェルールの周囲で溶接面に軸方向に接触させる垂直ガイドを備えるので、溶接ガンを握る作業者が溶接ガンを母材の溶接面に向けて動かしてフェルール及びスタッドを溶接面に押し付けると、ガン本体が溶接面に対して傾くことが溶接面と垂直ガイドの接触で防止される。このため、水平又は水平に対して勾配をもった母材の下面である溶接面にスタッドを溶接する場合でも、溶接ガンを握る作業者が溶接ガンの姿勢を適切にし易くなる。その垂直ガイドと溶接面が軸方向に接触させられた状態のとき、その溶接ガンのプッシャー機構がフェルールの軸方向一端側の端面を溶接面に押し付けた状態に保つため、溶接ガンの重量をフェルールと溶接面の接触部に作用させることができない場合でも、その接触が安定する。
【発明の効果】
【0012】
このように、この発明は、上記構成の採用により、溶接ガンを握る作業者が溶接ガンの姿勢を操作して橋梁の鋼床版の下面に対してスタッドを溶接する場合に好適な溶接ガンを提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】この発明の実施形態に係る溶接ガンの正面図
図2図1に示す溶接ガンの平面図
図3図1に示す溶接ガンの部分左側面図
図4図1に示す溶接ガンに用いる固定板の斜視図
図5図4に示す固定板の左側面図
図6図1に示す溶接ガンに用いるフェルールグリップの斜視図
図7図6のフェルールグリップの左側面図
図8図1に示す溶接ガンにフェルールを保持させた状態を示す左側面図
図9図8のIX-IX線の切断面で図8のフェルールを溶接面に押し付けた状態を示す部分断面図
図10図1に示す溶接ガンと共に使用するテンプレートを示す斜視図
図11図10に示すテンプレートを溶接面に取り付けた状態を示す部分断面図
図12図11の状態からフェルートとスタッドと溶接ガンの固定板を溶接面に押し付けた状態を示す部分断面図
図13図12の状態から溶接ガンを作動させてスタッド溶接する状態を示す部分断面図
図14】テンプレートの変更例を示す斜視図
図15図14に示すテンプレートの使用例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の一例としての実施形態に係る溶接ガンを図1図9に基づいて説明する。
【0015】
図1図2に示す溶接ガン1は、スタッド保持用のチャック2を軸方向に往復移動させるガン本体3と、フェルール保持用のフェルールグリップ4と、ガン本体3を母材の溶接面MPに対して垂直な向きに配置するための垂直ガイド5と、フェルールグリップ4を溶接面MPに向けて付勢するためのプッシャー機構6と、を備える。
【0016】
溶接面MPは、例えば、水平又は水平に対して勾配をもった鋼床版の下面からなる。
【0017】
ガン本体3は、チャック2を着脱可能なシャフト7と、ハンドルグリップ8とを有する。ガン本体3のハウジング内には、シャフト7を軸方向に進退させるためのソレノイド、制御回路等(図示省略)が収容されている。
【0018】
シャフト7とチャック2は所定の同心性をもって連結されるので、これらの軸線(図示省略。以下、同じ。)は、同一の直線上にあると考えてよい。ここで、軸方向は、その軸線に沿った方向のことをいう。図1において左右方向が軸方向に相当し、以下では、その左側を軸方向一端側とし、その右側を軸方向他端側とする。また、シャフト7の軸線に対して垂直な方向のことを径方向といい、その軸線回りの円周方向のことを周方向という。
【0019】
ガン本体3のハンドルグリップ8は、作業者(図示省略。以下、同じ。)が片手で握る部位となる。ハンドルグリップ8は、シャフト7の軸線に対して交差する方向に突出している。
【0020】
ハンドルグリップ8の突出端面にケーブルホルダ9が接続されている。ケーブルホルダ9は、ガン本体3に接続するケーブル10、11を保持する。ケーブル10は、アーク放電用の電気を流すための溶接ケーブルになっている。ケーブル11は、ハンドルグリップ8からガン本体3内に導入された制御ケーブルになっている。
【0021】
ケーブルホルダ9は、その内部にケーブル10、11を通すため、二分割可能なケース状になっている。ケーブルホルダ9の軸方向他端側には、ケーブル10、11を軸方向他端側に向けて取り出すホルダ口部9aが設けられている。溶接ガン1を水平に対して上向き又は傾けた姿勢にしたとき、ケーブルホルダ9から軸方向他端側に取り出されたケーブル10、11が大きく垂れさがらず、ハンドルグリップ8を握る作業者(以下、ガン操作員という。)の邪魔になり難い。
【0022】
ハンドルグリップ8には、ガン本体3を作動させるためのスイッチ12が配置されている。ガン操作員がスイッチ12を押すと、ガン本体3は、ケーブル10、11から供給される電力及び制御信号に基づいてシャフト7を所定時間だけ軸方向他端側に後退させ、その後、軸方向一端側へ復帰させるようになっている。その後退に際し、ケーブル10にアーク放電用の電気が流れることになる。
【0023】
ガン本体3のブラケット13に一対のレグ14が固定されている。レグ14は、軸方向に延びる棒材からなる。一対のレグ14は、シャフト7の両側に配置されている。一対のレグ14の軸方向一端に絶縁板15が接続されている。絶縁板15は、レグ14の雌ねじ部(図示省略)にねじ込むボルト16によって、レグ14と締結されている。
【0024】
絶縁板15は、チャック2を取り囲む内周部を有する絶縁材からなる。絶縁板15は、四角を丸めた略矩形板状になっている。絶縁板15の軸方向両端の各端面は、径方向に沿っている。
【0025】
絶縁板15の外周に補助グリップ17が接続されている。補助グリップ17は、絶縁板15からハンドルグリップ8と同方向に突出している。補助グリップ17は、絶縁板15によって絶縁されている。ガン操作員は、補助グリップ17とハンドルグリップ8を握って溶接ガン1を両手で操作することができ、片手操作に比して溶接ガン1の姿勢を操作し易い。
【0026】
絶縁板15の軸方向一端側の端面に一対の延長部材18が接続されている。延長部材18は、例えば、軸方向に延びるパイプから構成して、軽量化を図ることが好ましい。延長部材18の軸方向両端の各端面は、径方向に沿っている。
【0027】
これら一対の延長部材18の軸方向一端に固定板19が接続されている。絶縁板15と一対の延長部材18と固定板19は、図3に示す一対の雄ねじ部材20によって締結されている。雄ねじ部材20は、絶縁板15の雌ねじ部(図示省略)にねじ込まれている。
【0028】
図1に示すように、固定板19から軸方向他端側に向かって一対の直動ガイド21が延びている。固定板19は、フェルールグリップ4に対して軸方向一端側に配置されている。フェルールグリップ4は、一対の直動ガイド21によって軸方向に移動可能に支持されている。フェルールグリップ4を軸方向一端側に向けて付勢する弾性部22が配置されている。
【0029】
固定板19は、図1、4、5に示すように、内周19aを有する板状になっている。フェルールグリップ4は、図1、6、7に示すように、内周4aを有する板状になっている。図1、3に示すフェルールグリップ4の内周4aと固定板19の内周19aの各中心軸は、チャック2の軸線と同一直線上に設定されている。フェルールグリップ4の内周4aは、図8、9に示すように、筒状のフェルール30の軸方向位置を保ちつつ、フェルールグリップ4に対して所定の同軸度に保つ。
【0030】
フェルール30の内側にスタッド40が通される。スタッド40は、溶接面MPに溶接される棒状の金属部材であり、例えば、頭付きスタッド、異形スタッド、ねじ付きスタッド(いわゆるスタッドボルト)が挙げられる。
【0031】
フェルール30は、アーク発生中に空気を遮断して溶融金属と空気の反応を防ぎ、同時に発生熱を集中し、冷却速度を緩やかにする役目と、スタッド40を溶接面MPの溶融池に押し込んだとき、溶融金属をフェルール30の内側に閉じ込め、スタッド40の溶接部の周りにできるカラーの鋳型の役目とを果たす。フェルール30は、一般には、耐熱性の磁器からなり、溶接後、軽く衝撃を与えて除去される。
【0032】
フェルール30の外周は、軸方向一端側を大径部とし、軸方向他端側を小径部とした段付き丸筒状になっている。フェルール30の軸方向一端側の端面30aは、フェルール30を平坦面状の溶接面MPに対して垂直な向きに立てることができるように周方向に一定ピッチで形成されている。周方向に隣り合う端面30a間は溝部30bになっている。溝部30bは、アーク放電時にフェルール30の内側の圧力を逃がすための通路になる。溝部30bは、フェルール30の軸線上に放射中心を定めた放射状に延びている。
【0033】
フェルールグリップ4の内周4aは、図6~9に示すように、周方向に一定ピッチで形成された凹面4a1と、周方向に隣り合う掴み面4a2とで形成されている。
【0034】
フェルールグリップ4の内径dは、周方向に一定ピッチの掴み面4a2に対する内接円の直径に相当し、フェルール30の外周小径部に対して締め代をもった寸法に設定されている。これら掴み面4a2と、フェルール30の外周小径部との間の摩擦によってフェルール30の軸方向移動が防止され、特に、フェルール30の段部と各掴み面4a2との接触でフェルール30の軸方向他端側への移動が阻止される。掴み面4a2の周方向の両端面は、面取り状になっている。これは、フェルール30を押し込む際の損傷を防止するためである。
【0035】
フェルールグリップ4の凹面4a1は、掴み面4a2に保持されたフェルール30との間に隙間を形成する。凹面4a1とフェルール30間の隙間は、溝部30bから逃がす圧力で生じる噴流を大気に放散し易くするためのものである。凹面4a1は、円孤面状になっている。これは、凹面4a1の形状を回転工具によって簡単に形成するためであって、他の面形状にしてもよい。
【0036】
フェルールグリップ4の軸方向一端側の端面4bは、径方向に沿っている。フェルールグリップ4は、その端面4bと固定板19の軸方向接触によって軸方向一端側への移動が阻止される。
【0037】
フェルールグリップ4の外周は、対向する一対の短辺部と、対向する二対の長辺部と、周方向に隣り合う長辺部同士の間に連続する一対の面取り部とで形成された略六角形状になっている。フェルールグリップ4は、一対の短辺部を一対の延長部材18間に位置させる向きに配置されている。
【0038】
フェルールグリップ4に一対のガイド孔部4cが形成されている。ガイド孔部4cは、直動ガイド21に対して摺動する被案内面となる。ガイド孔部4cは、軸方向に沿った円筒面状になっている。ガイド孔部4cは、フェルールグリップ4の外周の面取り部と掴み面4a2との間に配置されている。
【0039】
図8、9に示すように、固定板19の内周19aは、フェルールグリップ4に保持されたフェルール30の外周全周との間に隙間を形成する。この隙間は、溝部30bから逃がす圧力で生じる噴流を固定板19とフェルールグリップ4間の空間へ逃がすためのものである。
【0040】
固定板19の内周19aは、フェルール30の外周との隙間の大きさを周方向に一定ピッチで変化させた形状である。固定板19の内周19aとフェルール30の外周間の隙間が径方向に比較的小さなところでは、フェルール30の溝部30bからの噴流が比較的流れにくくなる。
【0041】
水平又は水平に対して勾配をもった鋼床版の下面にスタッド40を溶接する場合、フェルール30の内側で生じる溶融金属が重力の作用で流下し、フェルール30の周囲への漏洩が多くなって溶融池が良好に形成されず、溶接不良を招く懸念がある。このような場合でも、固定板19の内周19aの形状によってフェルール30の周囲での圧力拡散を抑制すれば、溶融金属の漏洩を抑えることができ、良好な溶融池を得易くすることができる。
【0042】
固定板19の内周19aは、図5、8、9に示すように、周方向に一定ピッチで形成された円孤面19a1と、周方向に隣り合う円孤面19a1間に連なる中間面19a2とで形成されている。固定板19の内周19aの内径d19は、各中間面19a2に内接する円筒面の直径で規定されている。したがって、中間面19a2とフェルール30の外周間の径方向距離は、円孤面19a1とフェルール30の外周間の径方向距離よりも小さい。円孤面19a1は、回転工具によって簡単に形成することができる。なお、フェルール30の外周との隙間の大きさを変化させるための凹形状は、円孤面以外の他の面形状にしてもよい。
【0043】
図4、5、9に示すように、固定板19の軸方向両端の端面は、径方向に沿った平坦面状であって、内周19aの軸方向両端に連続している。固定板19の軸方向一端側の端面19bは、図1に示すように、溶接ガン1の軸方向一端に位置しており、図9に示すように、フェルール30の周囲で溶接面MPに軸方向に接触させられる。
【0044】
図1、2、9に示すように、垂直ガイド5は、ガン本体3に固定された一対のレグ14と、一対のレグ14に固定された絶縁板15と、絶縁板15に固定された一対の延長部材18と、一対の延長部材18に固定された固定板19とで構成されている。垂直ガイド5は、その固定板19の軸方向一端側の端面19bがフェルール30の端面30aを取り込む全周に亘って径方向に幅広い領域で溶接面MPに軸方向に接触させられるので、ガン本体3が溶接面MPに対してどの方向に傾こうとしても、ガン本体3が溶接面MPに対して垂直な向きとなるようにガン本体3の傾きを規制することができる。
【0045】
固定板19の外周は、図4、5、9に示すように、四角部を丸めた略矩形状になっている。固定板19は、その略矩形状の第1の対角線上の位置に一対のザグリ穴部19cを有し、第2の対角線上の位置に一対の雌ねじ部19dを有する。
【0046】
固定板19のザグリ穴部19cは、固定板19の軸方向一端側の端面19bから軸方向他端側に深さをもっている。一対のザグリ穴部19cは、端面19bから図3に示す雄ねじ部材20を突出させないためのものである。
【0047】
固定板19の雌ねじ部19dは、図2、3、9に示すように、直動ガイド21を固定板19に接続するためのものである。直動ガイド21は、円筒部及び頭部を有する雄ねじ部材からなる。直動ガイド21の円筒部は、フェルールグリップ4のガイド孔部4cに通されている。一対の直動ガイド21の円筒部は、一対のガイド孔部4cとの接触によってフェルールグリップ4を固定板19と所定の同軸度に保ち、また、フェルールグリップ4の移動を軸方向に案内する。
【0048】
直動ガイド21の頭部は、フェルールグリップ4の軸方向他端側の端面と軸方向に対向する。弾性部22は、直動ガイド21の頭部とフェルールグリップ4の軸方向他端側の端面との間に挟まれている。弾性部22は、直動ガイド21の円筒部に通されたコイルばねからなる。
【0049】
図1、2に示すプッシャー機構6は、一対の直動ガイド21と、一対の弾性部22とで構成されている。プッシャー機構6は、一対の直動ガイド21において固定板19に取り付けられる。フェルールグリップ4は、プッシャー機構6と固定板19によって軸方向に往復移動可能に保持される。
【0050】
フェルールグリップ4の軸方向の往復ストロークの一端は、フェルールグリップ4が固定板19と接触するときの位置である。一対の弾性部22は、その往復ストロークの一端から軸方向他端側に変位したフェルールグリップ4を軸方向一端側に向けて付勢して、往復ストロークの一端の位置まで復帰させることができる。
【0051】
また、フェルールグリップ4の軸方向の往復ストロークの他端は、図9に示すように固定板19の軸方向一端側の端面19bとフェルール30の軸方向一端側の端面30aが溶接面MPに軸方向に接触するときの位置である。溶接面MPが水平に対して下向き(すなわち重力方向)又は水平に対して傾いた方向に向いた面であるとき、一対の弾性部22は、図9に示すフェルール30及びフェルールグリップ4の重量及びアーク放電時の圧力に抗してフェルール30の軸方向一端側の端面30aを溶接面MPに対して軸方向に押し付けた状態に保てる大きさの付勢力をフェルールグリップ4に与えることができる。
【0052】
上述のように、図1~9に示す溶接ガン1は、スタッド40保持用のチャック2を軸方向に往復移動させるガン本体3と、フェルール30保持用のフェルールグリップ4と、ガン本体3が母材の溶接面MPに対して垂直な向きとなるようにフェルール30の周囲で当該溶接面MPに軸方向に接触させられる垂直ガイド5と、垂直ガイド5と溶接面MPが軸方向に接触させられた状態のときにフェルール30の軸方向一端側の端面30aを溶接面MPに押し付けた状態に保つプッシャー機構6とを備えるものである。
【0053】
ガン操作員が、溶接ガン1を溶接面MPに向けて動かしてフェルール30及びスタッド40を溶接面MPに押し付けると、溶接面MPと垂直ガイド5の接触により、溶接面MPに対するガン本体3の傾きが防止される。このため、水平又は水平に対して勾配をもった母材の下面である溶接面MPにスタッド40を溶接する場合でも、ガン操作員が溶接ガン1の姿勢を適切にし易くなる。その垂直ガイド5と溶接面MPが軸方向に接触させられた状態のとき、プッシャー機構6がフェルールグリップ4を付勢してフェルール30の軸方向一端側の端面30aを溶接面MPに押し付けた状態に保つため、溶接ガン1の重量をフェルール30と溶接面MPの接触部に作用させることができない場合でも、その接触が安定する。
【0054】
このような溶接ガン1を使用すれば、水平又は水平に対して勾配をもった母材の下面(溶接面MP)にスタッド40を溶接する場合でも、ガン操作員が溶接ガン1の姿勢を操作して適切にし易く、しかも、フェルール30と溶接面MPの接触が安定するため、溶接精度の低下や溶接不良を防止することができる。したがって、溶接ガン1は、ガン操作員が溶接ガン1の姿勢を操作して橋梁の鋼床版の下面に対してスタッド40を溶接する場合に好適なものといえる。
【0055】
例えば、プッシャー機構6が、フェルールグリップ4を軸方向に移動可能に支持する直動ガイド21と、軸方向他端側に変位したフェルールグリップ4を軸方向一端側に向けて付勢する弾性部22とを有することにより、溶接ガン1の重量をフェルール30と溶接面MPの接触部に作用させることができない場合でも、フェルールグリップ4を付勢してフェルール30の軸方向一端側の端面30aを溶接面MPに押し付けた状態に保つことができる。
【0056】
また、ガン本体3のハンドルグリップ8にケーブルホルダ9が接続されており、ケーブルホルダ9は、ガン本体3に接続するケーブル10、11を軸方向他端側に向けて取り出すものであることにより、溶接ガン1を水平に対して上向き又は傾けた姿勢にしたとき、ケーブルホルダ9から軸方向他端側に取り出されたケーブル10、11が大きく垂れさがらず、作業の邪魔になりにくい。このため、溶接ガン1は、橋梁の鋼床版の下面に対してスタッド40を溶接する場合に良好な操作性を得ることができる。
【0057】
また、垂直ガイド5が、フェルールグリップ4に対して軸方向一端側に配置された固定板19を有し、固定板19が、フェルールグリップ4に保持されたフェルール30の外周全周との間に隙間を形成する内周19aを有し、固定板19の内周19aが、フェルール30の外周との隙間の大きさを周方向に一定ピッチで変化させた形状になっていることにより、水平又は水平に対して勾配をもった母材の下面(溶接面MP)にスタッド40を溶接する場合でも、アーク放電時にフェルール30の周囲で適切な圧力を確保し、フェルール30の内側で発生した溶融金属の漏出を抑えて、良好な溶融池を得易くすることができる。したがって、溶接ガン1は、橋梁の鋼床版の下面に対してスタッド40を溶接するのにより好適なものといえる。
【0058】
また、固定板19の内周19aが、周方向に一定ピッチで形成された円孤面19a1と、周方向に隣り合う円孤面19a1間に連なる中間面19a2とで形成されており、固定板19の内周19aの内径d19が中間面19a2で規定されていることにより、フェルール30の外周との隙間の大きさを変化させるための凹形状加工を簡単な円孤面19a1の加工で済む。このため、溶接ガン1は、固定板19の調達コストを抑えることができる。
【0059】
また、プッシャー機構6が、固定板19に取り付けられており、フェルールグリップ4が、プッシャー機構6と固定板19によって軸方向に往復移動可能に保持されていることにより、絶縁板15側に保持させる場合に比して、フェルールグリップ4とプッシャー機構6と固定板19をユニット化し、フェルールグリップ4と固定板19の同軸性を確保することが容易である。したがって、溶接ガン1は、比較的にフェルールグリップ4を溶接面MPに対して垂直な向きに保ち易くすることができる。
【0060】
上述のような垂直ガイド5の固定板19を備える溶接ガン1は、溶接面MPに取り付けられるテンプレートを利用すれば、適切な配置を容易に実現することが可能である。
【0061】
図10に例示するテンプレート50は、平板部51と、平板部51から軸方向他端側となる方に立てられた把持部52と、平板部51の軸方向一端側となる方の板面に固定された複数の永久磁石部53と、永久磁石部53と平板部51を締結するねじ具54とで構成されている。
【0062】
平板部51は、溶接ガン1の固定板19を軸方向に嵌め込み可能な嵌合口部51aと、嵌合口部51aの軸方向他端側の縁から周囲に延びる板面部51bと、ねじ具54を通すための多数の貫通孔部51cとを有する。
【0063】
複数の永久磁石部53が母材の溶接面MPに磁気的に吸着することによって、テンプレート50が着脱可能に溶接面MPに取り付けられる。この取り付けによって、板面部51bが平坦面状の溶接面MPに対して平行に配置される。永久磁石部53の数や配置を調整可能とするため、多数の貫通孔部51cが分散配置されている。永久磁石部53及び貫通孔部51cの分散配置は、平板部51の姿勢を板面部51bと溶接面MPが平行な状態に安定させられるように適宜に決定すればよい。
【0064】
永久磁石部53の軸方向一端側の端面から板面部51bまでの軸方向幅は、固定板19の軸方向幅と同一に設定されている。したがって、図11のテンプレート50が溶接面MPに取り付けられた状態から、図12中に実線で描くように、垂直ガイド5の固定板19がテンプレート50の嵌合口部51aに軸方向に嵌め込まれ、溶接面MPに対して垂直な向きで接触させられた状態になると、固定板19の外周19fのうち、固定板19の軸方向他端側の端面19eと交わる軸方向他端縁の全周は、テンプレート50の板面部51bと径方向に対向し、これら固定板19の外周19fの軸方向他端縁全周と板面部51bが溶接面MPから同一高さに位置することになる。
【0065】
一方、図12中に一点鎖線で固定板19の傾き姿勢を例示したように、固定板19が溶接面MPに対して傾いた接触状態の場合、固定板19がテンプレート50の板面部51bに対して傾き、固定板19の外周19fが部分的にテンプレート50の嵌合口部51aから軸方向他端側に食み出た状態となる。このような食み出た部分の有無によって固定板19が溶接面MPに対して垂直に接触させられているか否かを判別することができる。
【0066】
その判別を目視で容易に行えるようにするため、固定板19の外周19fとテンプレート50の板面部51bは、互いに異なる色になっている。例えば、固定板19の外周19fは、明瞭な視認性を得るため、JIS Z 9103:2018 「図記号?安全色及び安全標識? 安全色の色度座標の範囲及び測定方法」に準拠して着色してもよい。
【0067】
図10に示すように、溶接面MPにけがき線ML1~ML4が表示されている。けがき線ML1~ML4は、図11に示すスタッド40を溶接すべき位置の中心点を示すためのものである。図10に示すように、テンプレート50は、複数の嵌合口部51aを有し、これら嵌合口部51aは、けがき線ML1~ML4に対応した間隔で並んでいる。
【0068】
また、テンプレート50の板面部51bには、けがき線ML1~ML4に対応した方向及び間隔で複数のけがき線51d~51gが表示されている。けがき線51d~51gは、けがき針で引いてもよいし、インクで描いてもよい。
【0069】
テンプレート50の第1のけがき線51dと第2のけがき線51eは、互いに異なる方向であって嵌合口部51aの中心(図示省略。以下、同じ。)に対して交差する方向に延びている。
【0070】
テンプレート50の第1のけがき線51dを溶接面MPのけがき線ML1に合わせ、テンプレート50の第2のけがき線51eを溶接面MPのけがき線ML2に合わせることにより、テンプレート50の嵌合口部51aの中心がスタッド40を溶接すべき位置の中心と対向するようにテンプレート50の位置を定めることができる。
【0071】
テンプレート50の第3のけがき線51f、51gは、第1のけがき線51d又は第2のけがき線51eと平行な方向に延びている。平板部51は、嵌合口部51aから離れた位置かつ第3のけがき線51f、51gの延長上の位置に溶接面MPを露出させる覗き窓部51hを有する。第1のけがき線51dを溶接面MPのけがき線ML1に合わせ、テンプレート50の第2のけがき線51eを溶接面MPのけがき線ML2に合わせる際、覗き窓部51hを通して第3のけがき線51f、51gを溶接面MPの対応のけがき線ML3、ML4に合わせることにより、テンプレート50の外周により近いところでも溶接面MPに対するテンプレート50の位置定めを行うことができる。
【0072】
テンプレート50の嵌合口部51aは、固定板19の外周19fを周方向に異なる複数の向きで嵌め込み可能な形状である。このため、固定板19の向き(つまり溶接ガンの向き)を複数の中から選択して嵌合口部51aに嵌め込むことが可能なため、ガン操作員は、作業空間の都合に応じて溶接ガンの向きを選んで安定した姿勢を取り易い。また、テンプレート50は、作業空間の都合に応じてテンプレート50の向きを選んで溶接面MPに取り付け易いものとなる。
【0073】
具体的には、図4、5に示すように、固定板19の外周19fは、軸線に関して回転対称形になっており、図示例では4回対称形になっている。一方、図10に示すテンプレート50の嵌合口部51aは、固定板19の外周19fの形状を周方向に異なる向きで同心に重ねて投影した形状になっている。図示例では、固定板19の向きをテンプレート50に対して周方向に45°ピッチで選択することができる。
【0074】
図1に示す溶接ガン1と図10に示すテンプレート50を備えるスタッド溶接セットを用いたスタッド溶接方法の一例について説明する。ここでは、水平に対して下向き又は傾斜した平坦面状の溶接面MPを想定し、その溶接面MPには予め、図10に示すけがき線ML1~ML4を表示したものとする。
【0075】
先ず、テンプレート50を取り扱う作業者は、上述のように平板部51のけがき線51d~51gを活用し、図11に示すように、テンプレート50の永久磁石部53に溶接面MPを吸着させ、テンプレート50を適切な位置で溶接面MPに取り付け、板面部51bを溶接面MPに対して平行に配置する(テンプレート取り付け工程)。
【0076】
そのテンプレート50の嵌合口部51a付近を径方向から目視観察するための作業者(以下、監視員と呼ぶ。)を一人以上配置する。ガン操作員は、図11に示すように、チャック2にスタッド40を保持させ、フェルールグリップ4にフェルール30を保持させた状態で、垂直ガイド5の固定板19をテンプレート50の嵌合口部51aに軸方向に嵌め込む作業を開始する。この開始時点では、スタッド40及びフェルール30が固定板19よりも溶接面MP側に突出した状態にある。
【0077】
その嵌め込み作業が進行すると、スタッド40が溶接面MPに軸方向一端側に向かって押し付けられることにより、チャック2が軸方向他端側に変位していく。遅れて、フェルール30の軸方向一端側の端面30aが溶接面MPに軸方向一端側に向かって押し付けられることにより、フェルール30を受けるフェルールグリップ4と一対の直動ガイド21の頭部に挟まれた一対の弾性部22が圧縮され、これに伴い、フェルールグリップ4が固定板19に対して軸方向他端側に移動させられる。さらに遅れて、固定板19の軸方向一端側の端面19bが溶接面MPに軸方向一端側に向かって押し付けられて、図12に示す状態となる。この際、監視員がテンプレート50の嵌合口部51a周囲を径方向から目視観察し、固定板19の外周19fが嵌合口部51aから軸方向他端側に食み出た部分の有無によって固定板19が溶接面MPに対して垂直に接触させられているか否かを判別する。監視員は、固定板19の外周19fの食み出し部分を視認した場合、その食み出し部分の方位から傾き修正方向をガン操作員に指示することができ、一方、固定板19の外周19fの食み出し部分が無い状態であることを視認した場合、ガン操作員に溶接開始の合図を送る(目視確認工程)。
【0078】
その後、ガン操作員は、その溶接面MPに対する溶接ガンの姿勢と固定板19の押し付けを保ちつつ、図1に示すスイッチ12を押す。すると、チャック2が図12に示す位置から軸方向他端側に移動させられて、スタッド40がフェルール30に対して軸方向他端側に移動し、図13に示す位置となる。この際、フェルール30と溶接面MPの接触がプッシャー機構6(直動ガイド21、弾性部22)で安定させられた状態にあり、スタッド40と溶接面MP間においては、アーク放電が発生して溶融池が形成される。ここで、フェルール30の内側の高圧が溝部30bから逃げるが、その噴流(図中に矢線で示す)は、固定板19の内周19aにぶつかり、固定板19の内周19aとフェルール30の外周間の隙間が比較的狭いところで流れが滞り、流下しようとする溶融金属の漏洩が抑えられる。やがて所定時間が経過すると、チャック2がガン本体3によって軸方向一端側に移動させられて、スタッド40が溶融池に突っ込まれ、スタッド40と溶接面MPが溶接される。その溶接部をフェルール30の内側で緩やかに冷却・凝固させる(溶接工程)。
【0079】
上述のように、溶接ガン1と、母材の溶接面MPに取り付けられるテンプレート50とを備え、溶接ガン1が、スタッド40保持用のチャック2を軸方向に往復移動させるガン本体3と、フェルール30保持用のフェルールグリップ4と、ガン本体3が母材の溶接面MPに対して垂直な向きとなるようにフェルール30の周囲で当該溶接面MPに軸方向に接触させられる垂直ガイド5と、垂直ガイド5と溶接面MPが軸方向に接触させられた状態のときにフェルール30の軸方向一端側の端面30aを溶接面MPに押し付けた状態に保つプッシャー機構6とを備え、垂直ガイド5が、フェルールグリップ4に対して軸方向一端側に配置された固定板19を有し、固定板19が、フェルールグリップ4に保持されたフェルール30の外周全周との間に隙間を形成する内周19aを有し、テンプレート50が、溶接ガン1の固定板19を軸方向に嵌め込み可能な嵌合口部51aと、嵌合口部51aの軸方向他端側の縁から周囲に延びる板面部51bと、溶接面MPに吸着する永久磁石部53とを有し、固定板19の外周19fと板面部51bが互いに異なる色になっており、永久磁石部53によってテンプレート50が溶接面MPに取り付けられて板面部51bが溶接面MPに対して平行に配置され、かつ固定板19が嵌合口部51aに軸方向に嵌め込まれて溶接面MPに対して垂直な向きで接触させられた状態のとき、固定板19の外周19fの軸方向他端縁全周と板面部51bが溶接面MPから同一高さに位置するスタッド溶接セットを採用することにより(図1、12参照)、水平に対して下向き又は傾斜した平坦面状の溶接面MP、例えば橋梁の鋼床版の下面に対して、テンプレート50の着脱を容易とし、また、ガン操作員が溶接ガン1を垂直な向きにすることを容易とし、さらにプッシャー機構6でフェルール30と溶接面MPの接触を安定させてスタッド40を適切に溶接することができる。
【0080】
すなわち、テンプレート50の永久磁石部53を、水平に対して下向き又は傾斜した平坦面状の溶接面MPに吸着させることによって、板面部51bを当該溶接面MPに対して平行に配置するテンプレート取り付け工程と、チャック2にスタッド40を保持させかつフェルールグリップ4にフェルール30を保持させた状態で溶接ガン1の固定板19を当該配置されたテンプレート50の嵌合口部51aに軸方向に嵌め込み、当該固定板19と当該フェルール30の軸方向一端側の端面30aを当該溶接面MPに接触させ、当該テンプレート50の嵌合口部51aから当該固定板19の外周19fが軸方向他端側に食み出た部分の有無を判別する目視確認工程と、を備えるスタッド溶接方法を行うことにより、橋梁の鋼床版の下面のような溶接面MPに対して適切なスタッド溶接を容易に実施することができる。
【0081】
また、このスタッド溶接セットは、テンプレート50の板面部51bに第1のけがき線51dと第2のけがき線51eが表示されており、これら第1のけがき線51dと第2のけがき線51eが、互いに異なる方向であって嵌合口部51aの中心軸線に対して交差する方向に延びていることにより(図10参照)、溶接面MPのけがき線ML1~ML2を利用して、テンプレート50をスタッド溶接すべき適切な位置に合わせることができる。
【0082】
また、このスタッド溶接セットは、第1のけがき線51d又は第2のけがき線51eと平行な方向に延びる第3のけがき線51f、51gがテンプレート50の板面部51bに表示されており、テンプレート50が、嵌合口部51aから離れた位置かつ第3のけがき線51f、51gの延長上の位置に溶接面MPを露出させる覗き窓部51hを有することにより、溶接面MPのけがき線ML3、ML4を利用して、テンプレート50の外周により近いところでも溶接面MPに対するテンプレート50の位置定めを行うことができる。
【0083】
また、このスタッド溶接セットは、テンプレート50の嵌合口部51aが、固定板19の外周19fを周方向に異なる複数の向きで嵌め込み可能な形状になっていることにより、ガン操作員が作業空間の都合に応じて溶接ガン1の向きを選んで安定した姿勢を取り易くすることができ、また、テンプレート50が作業空間の都合に応じてテンプレート50の向きを選んで溶接面MPに取り付け易いものとなる。
【0084】
なお、橋梁の鋼床版の下面にスタッド溶接する場合、溶接すべき個所の近くにリブが存在するときがある。このようなときは、リブを活用して位置定めを行い易いテンプレートを採用すればよい。その一例を図14、15に示す。
【0085】
図14、15に示すテンプレート60は、平板部61の短手方向一端から立ち上がる側板部62と、側板部62の貫通孔の周囲に固定された一対のナット部64と、ナット部64に対応の雄ねじ部材65とを有する。
【0086】
平板部61は、その全長を短くするため、図10例に比して、嵌合口部61aを長手方向の一端で切欠いた形状とし、板面部61bに表示するけがき線を第1のけがき線61d及び第2のけがき線61eだけとし、永久磁石部63の取り付けに使用する貫通孔部61cを平板部61の長手方向の中央部だけに分散配置で形成し、覗き窓部を無くした点で相違している。
【0087】
一対のナット部64にねじ込む雄ねじ部材65を回せば、雄ねじ部材65の軸部が側板部62から短手方向に突出する長さを調整することができる。
【0088】
例えば、図15に示すように、母材の溶接面MPの近くで真っすぐ延びるリブMRに平行な一直線上に複数のスタッドを並べて溶接する場合、その一直線上に第2のけがき線61eが位置するように雄ねじ部材65の軸部の突出長さを予め調整しておき、一対の雄ねじ部材65の軸部をリブMRの側面に突き当てるようにテンプレート60を溶接面MPに取り付けるだけで、短手方向に関してテンプレート60の位置を簡単に定めることができる。
【0089】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。例えば、可動片を省略し、揺動脚部が係合子を直接に受けるようにしてもよい。したがって、本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0090】
1 溶接ガン
2 チャック
3 ガン本体
4 フェルールグリップ
5 垂直ガイド
6 プッシャー機構
9 ケーブルホルダ
10、11 ケーブル
14 レグ
15 絶縁板
18 延長部材
19 固定板
19a 固定板の内周
19a1 円孤面
19a2 中間面
19b 固定板の軸方向一端側の端面
19f 固定板の外周
21 直動ガイド
22 弾性部
30 フェルール
30a フェルールの軸方向一端側の端面
40 スタッド
50、60 テンプレート
51a、61a 嵌合口部
51b、61b 板面部
51d、61d 第1のけがき線
51e、61e 第2のけがき線
51f、51g 第3のけがき線
51h 覗き窓部
53、63 永久磁石部
MP 溶接面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15