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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】植物賦活剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 37/42 20060101AFI20240313BHJP
   A01G 7/06 20060101ALI20240313BHJP
   A01N 25/26 20060101ALI20240313BHJP
   A01N 37/36 20060101ALI20240313BHJP
   A01P 21/00 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
A01N37/42
A01G7/06 A
A01N25/26
A01N37/36
A01P21/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020045775
(22)【出願日】2020-03-16
(65)【公開番号】P2021102596
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2019235189
(32)【優先日】2019-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 勝也
(72)【発明者】
【氏名】植村 謙太
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/157614(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/043470(WO,A1)
【文献】特開2006-008608(JP,A)
【文献】特開平10-059812(JP,A)
【文献】国際公開第2018/168860(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 37/
A01P 21/
A01N 25/
A01G 7/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物、および、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物を内包したカプセルを含む植物賦活剤であって、前記オキソ脂肪酸が、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸であり、また、前記水酸化脂肪酸が、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデセン酸または9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデセン酸である植物賦活剤
【請求項2】
請求項1記載の植物賦活剤であって、前記オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物を内包したカプセルが、徐放性カプセルである。
【請求項3】
請求項1記載の植物賦活剤であって、前記カプセルが、少なくとも1種のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と少なくとも1種の水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とを含む。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の植物賦活剤であって、前記カプセルが、二種以上の異なるシェルの厚さを有するカプセルの混合物である。
【請求項5】
前記植物賦活剤は、アブラナ科、イネ科、マメ科、ナス科、バラ科、ヒユ科、またはアオイ科植物から選択される植物に対して使用される請求項1~のいずれか1項に記載の植物賦活剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物賦活剤に関する。
【背景技術】
【0002】
穀物植物や園芸植物の供給効率を向上させること等を目的として、植物の生長を調整する技術が開発されてきた。温度条件や日照条件の最適化や施肥などの対策に加え、生長促進、休眠抑制、ストレス抑制等の植物生長調節作用を有する植物賦活剤を用いて植物を賦活させる方法が報告されている。
【0003】
特許文献1には、オキソ脂肪酸またはその塩もしくはエステルを有効成分として含むことを特徴とする植物賦活剤が報告されている。特許文献1に記載の植物賦活剤は、植物への優れた抵抗性誘導効果および生長促進効果を有している。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の植物賦活剤は、活性が持続せず、植物賦活剤として、植物が成長し、収穫が終了するまで複数回にわたって植物賦活剤を散布しなければならず、手間がかかるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2018/168860号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは鋭意研究した結果、特許文献1に記載の植物賦活剤は、空気中の酸素と接触することで分解し、それ故活性が持続しないという意外な事実を知見するに至った。そこで本発明者らは植物賦活剤をカプセル中に閉じ込めて酸素に触れにくい状態とし、このカプセルが壊れて、植物賦活剤が徐々に放出されることで、上記問題を解決できることに想到した。
【0007】
本発明は、植物賦活成分が徐々に放出され、長期間に渡ってその効力を持続させることができる、優れた病害抵抗性および生長促進効果を有する植物賦活剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、「オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩」と「水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩」とから選ばれる少なくとも1種の化合物、および、「オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩」と「水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩」とから選ばれる少なくとも1種の化合物を内包したカプセルを含む植物賦活剤に関する。
【0009】
前記オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物を内包したカプセルが、徐放性カプセルである植物賦活剤が好ましい。
【0010】
前記オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩が以下の式:
HOOC-(R1)-CH=CH-C(=O)-R2 (I)
(式中、
1:6個~12個の炭素原子を含む、直鎖または分岐の、飽和または不飽和の炭化水素基であり、
2:炭素数2~8のアルキル基であって、1つまたはそれ以上の分岐および/または二重結合を含んでいてもよい)
の構造式を有するオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩である植物賦活剤が好ましい。
【0011】
前記オキソ脂肪酸が、前記オキソ脂肪酸のR1の炭化水素基の炭素数が8~10であり、R2のアルキル基の炭素数が4~6であるオキソ脂肪酸である植物賦活剤が好ましい。
【0012】
前記オキソ脂肪酸が、前記オキソ脂肪酸のR1が式(I)におけるカルボニル基のαおよびβ炭素の間の二重結合と共役二重結合を形成する二重結合を含むオキソ脂肪酸である植物賦活剤が好ましい。
【0013】
前記オキソ脂肪酸が、前記オキソ脂肪酸のR1が、炭素数9の直鎖または分岐の炭化水素基であり、R2が、炭素数5のアルキル基であるオキソ脂肪酸である植物賦活剤が好ましい。
【0014】
前記オキソ脂肪酸が、ケトオクタデカジエン酸である植物賦活剤が好ましい。
【0015】
前記オキソ脂肪酸が、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸である植物賦活剤が好ましい。
【0016】
前記水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩が、以下の式(II)および/または(III):
HOOC-(R3)-CH(OH)-CH(OH)-CH=CH-CH(OH)-R4 (II)
HOOC-(R3)-CH(OH)-CH=CH-CH(OH)-CH(OH)-R4 (III)
(式中、
3は、4個~12個の炭素原子を有する直鎖または分岐の炭化水素基であって、1つまたはそれ以上の二重結合および/またはOH基を含んでいてもよく、二重結合を含んでいる場合、二重結合の位置は限定されない、
4は、2個~8個の炭素原子を有する直鎖または分岐の炭化水素基であって、1つまたはそれ以上の二重結合および/またはOH基を含んでいてもよく、二重結合を含んでいる場合、二重結合の位置は限定されない)
の構造式を有する水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩である植物賦活剤が好ましい。
【0017】
前記水酸化脂肪酸が、R3の炭化水素基が6個~8個の炭素原子を有し、R4の炭化水素基が4個~6個の炭素原子を有する植物賦活剤が好ましい。
【0018】
前記水酸化脂肪酸が、R3が、-(CH2n-(nは4~12である整数)の構造であり、R4が、Cn2n+1-(nは2~8である整数)の構造である植物賦活剤が好ましい。
【0019】
前記水酸化脂肪酸が、R3が、炭素数7の直鎖の飽和炭化水素基(-(CH27-)であり、R4が、炭素数5のアルキル基(CH3CH2CH2CH2CH2-)である植物賦活剤が好ましい。
【0020】
前記水酸化脂肪酸が、ヒドロキシオクタデカエン酸である植物賦活剤が好ましい。
【0021】
前記水酸化脂肪酸が、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸である植物賦活剤が好ましい。
【0022】
前記水酸化脂肪酸が、9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸である植物賦活剤が好ましい。
【0023】
なお、「オクタデカエン酸」は慣用的な表記であり(例えば、特開平3-14539号公報等)、上述の「9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸」は、「9,10,13-トリヒドロキシオクタデカ-11-エン酸」または「9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデセン酸」とも表記される。同様に、上述の「9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸」は、「9,12,13-トリヒドロキシオクタデカ-10-エン酸」または「9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデセン酸」とも表記される。なお、実施例では、かっこ書きで製造元の表記も併記している。また、上記説明は、本明細書、特許請求の範囲、図面および要約書中で使用される「オクタデカエン酸」全てに適用される。
【0024】
「9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸」の構造式は、下記構造式(1)で示されるものである。
【0025】
【化1】
【0026】
「9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸」の構造式は、下記構造式(2)で示されるものである。
【0027】
【化2】
【0028】
前記カプセルが、少なくとも1種のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と少なくとも1種の水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とを含む植物賦活剤が好ましい。
【0029】
前記オキソ脂肪酸が、ケトオクタデカジエン酸であり、および、前記水酸化脂肪酸が、ヒドロキシオクタデカエン酸である植物賦活剤が好ましい。
【0030】
前記オキソ脂肪酸が、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸であり、および、前記水酸化脂肪酸が、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸および/または9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸である植物賦活剤が好ましい。
【0031】
なお、前記オキソ脂肪酸および水酸化脂肪酸の誘導体としては、それぞれ、オキソ脂肪酸および水酸化脂肪酸のエステルが望ましい。また、前記オキソ脂肪酸および水酸化脂肪酸の塩としては、後述されるが、例えばナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などの塩を使用できる。
【0032】
前記カプセルが、二種以上の異なるシェルの厚さを有するカプセルの混合物である植物賦活剤が好ましい。
【0033】
前記植物賦活剤は、アブラナ科、イネ科、マメ科、ナス科、バラ科、ヒユ科、またはアオイ科植物から選択される植物に対して使用される植物賦活剤であることが好ましい。
【発明の効果】
【0034】
本発明の植物賦活剤は、高い病害抵抗性誘導効果および生長促進効果を長時間維持することができ、少ない植物賦活剤の投与でも効果的に所望の作用を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
植物賦活剤
本発明の植物賦活剤は、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物、および、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物を内包したカプセルを含むことを特徴とする。
【0036】
本発明における「植物賦活」とは、何らかの形で植物の生長活動を活性化または維持するように調整することを意味するものであり、生長促進(茎葉の拡大、塊茎塊根の生長促進等を包含する概念である)、休眠抑制、植物のストレス(例えば病害など)に対する抵抗性を誘導、付与し、抗老化等の植物生長調節作用を包含する概念である。
【0037】
本発明の植物賦活剤は、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物を植物賦活効果のための有効成分として含む。オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物は、植物の茎葉または根の一部に施用されることによって、植物に生長促進効果を付与することができる。本発明の植物賦活剤が接種された植物体において、未処理植物と比較して、植物の生長指標である葉の長さおよび葉の重さの増加、塊茎または塊根の生長促進が確認されることから、本発明の植物賦活剤は植物に生長促進効果を付与していると考えられる。本発明の植物賦活剤を用いることによって、植物体の生育を促進し、野菜や穀物、果物等の植物体の収量増加をもたらすことができる。本発明の植物賦活剤の植物生長促進効果は非常に高く、この結果、商品作物の優れた収量増加効果や向上された収穫効率をもたらすことができる。さらに、本発明の植物賦活剤は、植物の茎葉または根の一部に施用することにより、植物体において抵抗性誘導に関係するサリチル酸経路を活性化することができ、この結果、植物に病害などへの抵抗性を誘導することができる。
【0038】
本発明の植物賦活剤において、上記オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物は、植物賦活作用を示す有効成分としてカプセルに内包されている。このため、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物は空気中の酸素と接触しにくく、酸化分解が抑制される。
【0039】
また、植物賦活剤をこのような形状のものとすることにより、本発明の植物賦活剤は、目的とする環境で効率的に有効成分を放出したり、経時と共に徐々に有効成分を放出したりできる。上述の高い植物賦活効果と共に、本発明の植物賦活剤は、一回の施用で効果が持続するため、何回も施用する必要がなく、省力化という点からも非常に優れている。
【0040】
本発明のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物を内包したカプセルは、当該技術分野に公知のカプセル化の方法によって調製され得る。例えば、界面重合法やコアセルベーション法、オリフィス法、液中乾燥法、界面無機反応法などが好適に用いられ得る。また、シクロデキストリン等の包接化合物等を利用したカプセル化法を利用することもできる。
【0041】
カプセル化することにより、カプセルに内包される芯物質は、利用しようとする時に状況に適合した速度で取り出され得る。本発明の植物賦活剤においては、芯物質のシェル透過速度に依存して芯物質が時間をかけて少しずつしみだしてくるカプセル、すなわち徐放性カプセルが好ましい。また、外部環境などに応答してカプセルのシェルが破壊されることにより芯物質が放出されてもよい。所望の放出特徴は、カプセルの芯物質を包み込むカプセルのシェルの材料、シェルの膜厚、カプセルの粒子径などを適宜選択することにより得ることができる。本発明のカプセルのシェルの材料としては、適用するカプセル化の方法によっても異なり得るが、例えば、ポリアミド、アルギン酸塩、キトサン、ゼラチン、ジェランガム、カラギーナン、ペクチン、ワックス、ロウ、アラビアゴム、セルロース、改質デンプン、炭酸カルシウム、メラミン樹脂、尿素・ホルマリン樹脂、ウレタン樹脂およびこれらの組み合わせなど、が挙げられる。上述のように、カプセルのシェルを形成する物質およびシェルの性能に依存して、芯物質のカプセルからの放出速度は制御され得る。施用される植物に対して、悪影響がないまたは生物活性機能があることから、アルギン酸ナトリウム、寒天やアガロースなどの多糖類やゼラチンが特に好ましい場合がある。
【0042】
本発明のカプセルのシェルとしては、シェルの厚さを変化させることによって放出速度を制御できるという点から、アルギン酸塩、ゼラチンなどが特に好ましい。カプセルのシェルの厚さは、0.02~2000μm程度、好ましくは0.33~100μm程度である。このような厚みのシェルを有するカプセルとすることにより、持続的に芯物質が放出され得る。
【0043】
また、本発明の一実施形態において、カプセルは、二種以上の異なるシェルの厚さを有するカプセルの混合物として製造され得る。この結果、芯物質の放出速度が異なるカプセルが混在することになり、さらに長期間にわたって持続的かつ安定的に芯物質の放出が制御され得る。例えば、0.02~100μm程度の厚さのシェルをもつカプセルと200~2000μm程度の厚さのシェルをもつカプセルなどが好適に組み合わされ得る。
【0044】
また、本発明の一実施形態において、カプセルのシェルは、低耐候性の材料から形成され得る。例えば、紫外線の作用下で分解するポリエチレンやアクリルアミド、ポリウレタン、ポリウレア、光感受性のグラフト基を有するポリマーなどが用いられ得る。このような材料からなるシェルを含むカプセルは、紫外線および/または光により、例えば受ける放射量に依存して、分解され、内包される芯物質がカプセルから漸進的に放出され得る。
【0045】
本発明のカプセルに内包される芯物質は、上述のように、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物を含む。本発明のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩としては、以下の式:
HOOC-(R1)-CH=CH-C(=O)-R2 (I)
(式中、
1:6個~12個の炭素原子を含む、直鎖または分岐の、飽和または不飽和の炭化水素基であり、
2:炭素数2~8のアルキル基であって、1つまたはそれ以上の分岐および/または二重結合を含んでいてもよい)
の構造式を有するオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩が好適に使用され得る。
【0046】
本発明の一実施形態において、上記オキソ脂肪酸におけるR1の炭化水素基の炭素数は8~10であり、R2のアルキル基の炭素数は4~6である。また、別の一実施形態において、上記オキソ脂肪酸におけるR1は式(I)におけるカルボニル基のαおよびβ炭素の間の二重結合と共役二重結合を形成する二重結合を含んでいる。さらに、別の一実施形態において、上記オキソ脂肪酸におけるR1は、炭素数9の直鎖または分岐の炭化水素基であり、R2は、炭素数5のアルキル基であることが好ましい。
【0047】
本発明のオキソ脂肪酸としては、具体的には、ケトオクタデカジエン酸が挙げられる。例えば、ケトオクタデカジエン酸としては、これらに限定される訳ではないが、9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸(9-oxoODA)、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸(13-oxoODA)、5-オキソ-6,8-オクタデカジエン酸、6-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、8-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、10-オキソ-8,12-オクタデカジエン酸、11-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、12-オキソ-9,13-オクタデカジエン酸および14-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸ならびにそれらの異性体等が挙げられる。
【0048】
なお、オキソ脂肪酸の誘導体としては、エステルが望ましい。本発明のオキソ脂肪酸のエステルとしては、これらに限定されるものではないが、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ペンチルエステル、イソペンチルエステル、オクチルエステル等を挙げることができる。また、オキソ脂肪酸の塩としては、例えばアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩などのアンモニウム塩、例えばカルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩や例えばナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、コバルト塩、マンガン塩などの金属塩等が挙げられるが、肥料などに含まれる塩などの農業上容認可能な1種以上の塩であれば特に限定されない。
【0049】
本発明の水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩としては、以下の式(II)および/または(III)
HOOC-(R3)-CH(OH)-CH(OH)-CH=CH-CH(OH)-R4 (II)
HOOC-(R3)-CH(OH)-CH=CH-CH(OH)-CH(OH)-R4 (III)
(式中、
3は、4個~12個の炭素原子を有する直鎖または分岐の炭化水素基であって、1つまたはそれ以上の二重結合および/またはOH基を含んでいてもよく、二重結合を含んでいる場合、二重結合の位置は限定されない、
4は、2個~8個の炭素原子を有する直鎖または分岐の炭化水素基であって、1つまたはそれ以上の二重結合および/またはOH基を含んでいてもよく、二重結合を含んでいる場合、二重結合の位置は限定されない)
の構造式を有する水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩が好適に使用され得る。
【0050】
本発明の一実施形態において、上記水酸化脂肪酸におけるR3の炭化水素基は6個~8個の炭素原子を有し、R4の炭化水素基は4個~6個の炭素原子を有する。また、別の一実施形態において、上記水酸化脂肪酸におけるR3は、-(CH2n-(nは4~12である整数)の構造であり、R4は、Cn2n+1-(nは2~8である整数)の構造である。さらに、別の一実施形態において、上記水酸化脂肪酸におけるR3は、炭素数7の直鎖の飽和炭化水素基(-(CH27-)であり、R4は、炭素数5のアルキル基(CH3CH2CH2CH2CH2-)であることが好ましい。
【0051】
本発明の水酸化脂肪酸としては、具体的には、ヒドロキシオクタデカエン酸が挙げられる。例えば、ヒドロキシオクタデカエン酸としては、これらに限定される訳ではないが、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸および/または9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸およびそれらの異性体が挙げられる。
【0052】
なお、水酸化脂肪酸の誘導体としては、エステルが望ましい。本発明の水酸化脂肪酸のエステルとしては、これらに限定されるものではないが、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ペンチルエステル、イソペンチルエステル、オクチルエステル等を挙げることができる。また、水酸化脂肪酸の塩としては、例えばアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩などのアンモニウム塩、例えばカルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩や例えばナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、コバルト塩、マンガン塩などの金属塩等が挙げられるが、肥料などに含まれる塩などの農業上容認可能な1種以上の塩であれば特に限定されない。
【0053】
なお、本明細書において例示されている化合物に異性体が存在する場合、特に記載のない限り、存在し得る全ての異性体が本発明において使用可能である。
【0054】
本発明の植物賦活剤は、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物として、上述のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩や上述の水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩のうちの少なくとも一つを含んでいればよく、すなわち、例えば、2種以上のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩または水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩を含んでいてもよいし、少なくとも1種のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩および少なくとも1種の水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩を含んでいてもよい。
【0055】
本発明のカプセルは、上に例示されるようなオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物のW/O型エマルション、O/W型エマルションおよびO/W/O型エマルションを出発状態として調製される。芯物質が、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物として、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩および水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩の両方を含む場合、カプセルは、O/W/O型エマルションとして調製されることが好ましい。例えば、O/W/O型エマルションは、芯物質を含む水相にゲル化剤を含む内油相を添加してO/W型エマルションを調製したのち、このO/W型エマルションを、シェル材料を溶解させた外油相に投入することにより調製され得る。これにより、水に対する溶解性が相違する2種以上のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とが一つのカプセル中に含有され、これら複数の芯物質の溶出性が同一に制御された植物賦活剤が得られる。
【0056】
本発明のカプセル中の芯物質の含有量は、例えば、5wt%~70wt%程度であり、好ましくは、10wt%~50wt%である。施用された植物体において、薬害が生じたりすることなく、植物賦活効果が良好に得られる。カプセルの外径(直径)は、例えば、0.1~5000μm程度、好ましくは0.1~500μm程度とすることができる。
【0057】
本発明の植物賦活剤は、徐々に芯物質を放出することで、長期にわたって植物賦活作用を発現させる。例えば、本発明の植物賦活剤は、約14日間超の、約30日間超の、または約60日間超の、長期にわたって植物賦活効果を発揮することができる。また、本発明の植物賦活剤は、カプセル化されているため、内包する芯物質を酸化等から保護することができる。すなわち、植物賦活効果をもつオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩および/または水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩は、酸化に感受性である場合があるが、このような場合でも、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩および/または水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩を外部環境から保護することができ、安定した植物賦活剤効果が発揮され得る。
【0058】
本発明の植物賦活剤には、必要に応じて、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物以外の他の成分を含んでもよい。このような他の成分としては、脂肪酸、増粘剤や消泡剤、分散剤、界面活性剤、凍結防止剤等の農業上容認可能な添加剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
本発明の植物賦活剤は、任意の方法で植物に施用することができる。例えば、畑にそのまま均一散布して使用するか、あるいは田面水中にそのまま散布すればよい。また、植穴処理剤、作条散布剤、株元散布剤あるいは箱処理剤としても使用することができる。施用された植物において、本発明の植物賦活剤は、長期にわたって持続的に植物生長促進効果および例えば病害などのストレスに対する抵抗性を付与する。
【0060】
本発明の植物賦活剤を施用することのできる植物は、特に限定されるものではなく、植物一般に対して良好に用いることができる。例えば、アブラナ科、イネ科、マメ科、ナス科、バラ科、ヒユ科、またはアオイ科の植物に対して、好適に施用され得る。また、施用の対象となる植物は野生型の植物に限定されず、例えば変異体や形質転換体等であってもよい。また、それぞれの植物の品種も特に限定されない。
【0061】
また、本発明の植物賦活剤は、強力な抵抗性誘導効果を示す植物賦活剤として利用できることを見出しており、さまざまな植物の成長促進効果や果実の収量増加効果、病害抑制効果を示すことを知見している。例えば病害抑制に関して効果のある具体的な例としては、キュウリ、スイカ、メロン、カボチャなどウリ科の葉の灰色カビ病、つる割れ病、つる枯病、ベト病、トマト、ナス、ジャガイモなどナス科の青枯れ病、萎凋病、半身萎凋病、立枯病、褐色根腐病、バラやイチゴなどバラ科植物のうどん粉病、黒星病、灰色カビ病、炭疽病、ホウレンソウなどヒユ科のベト病、ハクサイ、キャベツ、コマツナなどアブラナ科の黒腐病、軟腐病、斑点細菌病、リゾクトニア病、ニンジンなどセリ科の白絹病、イネ科植物のいもち病などに有効である。
【実施例
【0062】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【0063】
実施例1
(1)13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸(13-oxoODA)((9Z,11E)-13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸、ケイマンケミカル社製、100μg/100μLエタノール溶液) 100mg(100mL)を、エバポレーターでエタノールを蒸散させた。そこに、1Lの水を加えて溶解させて、0.01wt%の13-oxoODA溶液を調整した。
(2)(1)の溶液に1%のアルギン酸ナトリウムの水溶液濃度となるようにアルギン酸ナトリウムを添加した。
(3)(2)の溶液を0.5mLスポイドで吸い取り、乳酸カルシウム1wt%水溶液に滴下して5分放置して、平均直径5mm(カプセルのシェルの厚さ0.5mm)の13-oxoODA溶液の徐放性カプセルを製造した。
(4)(1)の溶液に2%のアルギン酸ナトリウムの水溶液濃度となるようにアルギン酸ナトリウムを添加した。
(5)(4)の溶液を0.5mLスポイドで吸い取り、乳酸カルシウム1wt%水溶液に滴下して5分放置して、平均直径5mm(カプセルのシェルの厚さ1.34mm)の13-oxoODA溶液の徐放性カプセルを製造した。
【0064】
徐放性カプセルは、(3)で得られた徐放性カプセルの方が先に分解して破れ、(5)で得られた徐放性カプセルの方が後に分解して破れる。このため2種類の厚さのカプセルを使用することで、13-oxoODA溶液を徐放させることができる。
【0065】
また、13-oxoODAは、カプセルに封入されている間は、酸素に触れにくいため酸化分解せず、活性が低下しない。そのため、長期間にわたる徐放が可能となる。
【0066】
実施例2
(1)9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸(ラローダンファインケミカルズ社製、9(S),10(S),13(S)-トリヒドロキシ-11(E)-オクタデセン酸(英語表記で9(S),10(S),13(S)-trihydroxy-11(E)-octadecenoic acid)、200mg/L エタノール溶液)、および、9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸(ラローダンファインケミカルズ社製、9(S),12(S),13(S)-トリヒドロキシ-10(E)-オクタデセン酸(英語表記で9(S),12(S),13(S)-trihydroxy-10(E)-octadecenoic acid)、200mg/L エタノール溶液)を2:1で混合した。9(S),10(S),13(S)-トリヒドロキシ-11(E)-オクタデセン酸(200mg/L エタノール溶液)を300mL(60mg)と9(S),12(S),13(S)-トリヒドロキシ-10(E)-オクタデセン酸(200mg/L エタノール溶液)150mL(30mg)を混合し、エバポレーターでエタノールを蒸散させた。そこに、イオン交換水を900mL加えて溶解させ、ヒドロキシオクタデカエン酸換算で濃度が100mg/Lの水溶液を調製した。
(2)(1)の溶液に1%のアルギン酸ナトリウムの水溶液濃度となるようにアルギン酸ナトリウムを添加した。
(3)(2)の溶液を0.5mLスポイドで吸い取り、乳酸カルシウム1wt%水溶液に滴下して2分放置して、平均直径5mm(カプセルのシェルの厚さ0.5mm)のトリヒドロキシオクタデカエン酸溶液の徐放性カプセルを製造した。
(4)(1)の溶液に2%のアルギン酸ナトリウムの水溶液濃度となるようにアルギン酸ナトリウムを添加した。
(5)(4)の溶液を0.5mLスポイドで吸い取り、乳酸カルシウム1wt%水溶液に滴下して4分放置して平均直径5mm(カプセルのシェルの厚さ1.34mm)のトリヒドロキシオクタデカエン酸溶液の徐放性カプセルを製造した。
【0067】
徐放性カプセルは、(3)で得られた徐放性カプセルの方が先に分解して破れ、(5)で得られた徐放性カプセルの方が後に分解して破れる。このため2種類の厚さのカプセルを使用することで、トリヒドロキシオクタデカエン酸を徐放させることができる。
【0068】
また、トリヒドロキシオクタデカエン酸は、カプセルに封入されている間は、酸素に触れにくいため酸化分解せず、活性が低下しない。そのため、長期間にわたる徐放が可能となる。
【0069】
実施例3
(1)13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸(13-oxoODA)((9Z,11E)-13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸、ケイマンケミカル社製、100μg/100μLエタノール溶液)を90mg(90mL)、ならびに、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸(ラローダンファインケミカルズ社製、9(S),10(S),13(S)-トリヒドロキシ-11(E)-オクタデセン酸(英語表記で9(S),10(S),13(S)-trihydroxy-11(E)-octadecenoic acid)、200mg/L エタノール溶液)を300mL(60mg)、および、9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸(ラローダンファインケミカルズ社製、9(S),12(S),13(S)-トリヒドロキシ-10(E)-オクタデセン酸(英語表記で9(S),12(S),13(S)-trihydroxy-10(E)-octadecenoic acid)、200mg/L エタノール溶液)を150mL(30mg)を混合し、エバポレーターでエタノールを蒸散させた。そこに、イオン交換水を900mL加えて溶解させ13-oxoODAとトリヒドロキシオクタデカエン酸の混合溶液とした。
(2)(1)の溶液に1%のアルギン酸ナトリウムの水溶液濃度となるようにアルギン酸ナトリウムを添加した。
(3)(2)の溶液を0.5mLスポイドで吸い取り、乳酸カルシウム1wt%水溶液に滴下して2分放置して、平均直径5mm(カプセルのシェルの厚さ0.5mm)の徐放性カプセルを製造した。
(4)(1)の溶液に2%のアルギン酸ナトリウムの水溶液濃度となるようにアルギン酸ナトリウムを添加した。
(5)(4)の溶液を0.5mLスポイドで吸い取り、乳酸カルシウム1wt%水溶液に滴下して4分放置して、平均直径5mm(カプセルのシェルの厚さ1.34mm)の徐放性カプセルを製造した。
【0070】
徐放性カプセルは、(3)で得られた徐放性カプセルの方が先に分解して破れ、(4)で得られた徐放性カプセルの方が後に分解して破れる。このため2種類の厚さのカプセルを使用することで、13-oxoODAとトリヒドロキシオクタデカエン酸とを徐放させることができる。
【0071】
また、13-oxoODAとトリヒドロキシオクタデカエン酸は、カプセルに封入されている間は、酸素に触れにくいため酸化分解せず、活性が低下しない。そのため、長期間にわたる徐放が可能となる。
【0072】
以上の結果より、植物賦活剤の有効成分であるオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物をカプセルに内包させることにより、高い病害抵抗性誘導効果および生長促進効果を有するオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物を長期にわたって徐放できる植物賦活剤が作製できることがわかる。