(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】植物賦活剤
(51)【国際特許分類】
A01N 37/42 20060101AFI20240313BHJP
A01G 7/06 20060101ALI20240313BHJP
A01N 37/36 20060101ALI20240313BHJP
A01P 21/00 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
A01N37/42
A01G7/06 A
A01N37/36
A01P21/00
(21)【出願番号】P 2020045779
(22)【出願日】2020-03-16
【審査請求日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2019235249
(32)【優先日】2019-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 勝也
(72)【発明者】
【氏名】植村 謙太
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-131006(JP,A)
【文献】特開平06-157209(JP,A)
【文献】特開平05-058808(JP,A)
【文献】特表2009-544720(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 37/
A01P 21/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物、および、結着剤を含む植物賦活剤
であって、前記オキソ脂肪酸が、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸であり、また、前記水酸化脂肪酸が、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデセン酸または9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデセン酸である植物賦活剤。
【請求項2】
前記植物賦活剤が徐放性の植物賦活剤である請求項1記載の植物賦活剤。
【請求項3】
請求項1
または2記載の植物賦活剤であって、前記結着剤が、難水溶性樹脂である。
【請求項4】
請求項
3記載の植物賦活剤であって、前記難水溶性樹脂が、スチレンマレイン酸ポリマーおよびその誘導体である。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の植物賦活剤であって、さらに溶出制御剤を含む。
【請求項6】
請求項
5記載の植物賦活剤であって、前記溶出制御剤が、水溶性高分子または酸化ケイ素である。
【請求項7】
請求項
5記載の植物賦活剤であって、前記溶出制御剤が、疎水性シリカである。
【請求項8】
請求項
5~7のいずれか1項に記載の植物賦活剤であって、前記溶出制御剤が、崩壊剤をさらに含む。
【請求項9】
前記植物賦活剤は、アブラナ科、イネ科、マメ科、ナス科、バラ科、ヒユ科、またはアオイ科植物から選択される植物に対して使用される請求項1~
8のいずれか1項に記載の植物賦活剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物賦活剤に関する。
【背景技術】
【0002】
穀物植物や園芸植物の供給効率を向上させること等を目的として、植物の生長を調整する技術が開発されてきた。温度条件や日照条件の最適化や施肥などの対策に加え、生長促進、休眠抑制、ストレス抑制等の植物生長調節作用を有する植物賦活剤を用いて植物を賦活させる方法が報告されている。
【0003】
特許文献1には、オキソ脂肪酸またはその塩もしくはエステルを有効成分として含むことを特徴とする植物賦活剤が報告されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の植物賦活剤は、活性が持続せず、植物賦活剤として、植物が成長し、収穫が終了するまで複数回にわたって植物賦活剤を散布しなければならず、手間がかかるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは鋭意研究した結果、特許文献1に記載の植物賦活剤は、空気中の酸素と接触することで分解し、それ故活性が持続しないという意外な事実を知見するに至った。そこで本発明者らは植物賦活剤を結着剤を介して集合させることで空気中の酸素に触れにくい状態とし、この集合体が壊れて、植物賦活剤が徐々に放出されることで、上記問題を解決できることに想到した。
【0007】
本発明は、植物賦活成分が徐々に放出され、長期間に渡ってその効力を持続させることができる、優れた病害抵抗性および生長促進効果を有する植物賦活剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、「オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩」と「水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩」とから選ばれる少なくとも1種の化合物、および、結着剤を含む植物賦活剤に関する。
【0009】
前記植物賦活剤中には、溶出制御剤を含んでいてもよい。
【0010】
前記植物賦活剤が徐放性の植物賦活剤であることが好ましい。
【0011】
前記オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩が以下の式:
HOOC-(R1)-CH=CH-C(=O)-R2 (I)
(式中、
R1:6個~12個の炭素原子を含む、直鎖または分岐の、飽和または不飽和の炭化水素基であり、
R2:炭素数2~8のアルキル基であって、1つまたはそれ以上の分岐および/または二重結合を含んでいてもよい)
の構造式を有するオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩である植物賦活剤が好ましい。
【0012】
前記オキソ脂肪酸が、前記オキソ脂肪酸のR1の炭化水素基の炭素数が8~10であり、R2のアルキル基の炭素数が4~6であるオキソ脂肪酸である植物賦活剤が好ましい。
【0013】
前記オキソ脂肪酸が、前記オキソ脂肪酸のR1が式(I)におけるカルボニル基のαおよびβ炭素の間の二重結合と共役二重結合を形成する二重結合を含むオキソ脂肪酸である植物賦活剤が好ましい。
【0014】
前記オキソ脂肪酸が、前記オキソ脂肪酸のR1が、炭素数9の直鎖または分岐の炭化水素基であり、R2が、炭素数5のアルキル基であるオキソ脂肪酸である植物賦活剤が好ましい。
【0015】
前記オキソ脂肪酸が、ケトオクタデカジエン酸である植物賦活剤が好ましい。
【0016】
前記オキソ脂肪酸が、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸である植物賦活剤が好ましい。
【0017】
前記水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩が、以下の式(II)および/または(III):
HOOC-(R3)-CH(OH)-CH(OH)-CH=CH-CH(OH)-R4 (II)
HOOC-(R3)-CH(OH)-CH=CH-CH(OH)-CH(OH)-R4 (III)
(式中、
R3は、4個~12個の炭素原子を有する直鎖または分岐の炭化水素基であって、1つまたはそれ以上の二重結合および/またはOH基を含んでいてもよく、二重結合を含んでいる場合、二重結合の位置は限定されない、
R4は、2個~8個の炭素原子を有する直鎖または分岐の炭化水素基であって、1つまたはそれ以上の二重結合および/またはOH基を含んでいてもよく、二重結合を含んでいる場合、二重結合の位置は限定されない)
の構造式を有する水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩である植物賦活剤が好ましい。
【0018】
前記水酸化脂肪酸が、R3の炭化水素基が6個~8個の炭素原子を有し、R4の炭化水素基が4個~6個の炭素原子を有する植物賦活剤が好ましい。
【0019】
前記水酸化脂肪酸が、R3が、-(CH2)n-(nは4~12である整数)の構造であり、R4が、CnH2n+1-(nは2~8である整数)の構造である植物賦活剤が好ましい。
【0020】
前記水酸化脂肪酸が、R3が、炭素数7の直鎖の飽和炭化水素基(-(CH2)7-)であり、R4が、炭素数5のアルキル基(CH3CH2CH2CH2CH2-)である植物賦活剤が好ましい。
【0021】
前記水酸化脂肪酸が、ヒドロキシオクタデカエン酸である植物賦活剤が好ましい。
【0022】
前記水酸化脂肪酸が、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸である植物賦活剤が好ましい。
【0023】
前記水酸化脂肪酸が、9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸である植物賦活剤が好ましい。
【0024】
なお、「オクタデカエン酸」は慣用的な表記であり(例えば、特開平3-14539号公報等)、上述の「9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸」は、「9,10,13-トリヒドロキシオクタデカ-11-エン酸」または「9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデセン酸」とも表記される。同様に、上述の「9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸」は、「9,12,13-トリヒドロキシオクタデカ-10-エン酸」または「9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデセン酸」とも表記される。なお、実施例では、かっこ書きで製造元の表記も併記している。また、上記説明は、本明細書、特許請求の範囲、図面および要約書中で使用される「オクタデカエン酸」全てに適用される。
【0025】
「9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸」の構造式は、下記構造式(1)で示されるものである。
【0026】
【0027】
「9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸」の構造式は、下記構造式(2)で示されるものである。
【0028】
【0029】
少なくとも1種の前記オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と少なくとも1種の前記水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と結着剤とを含む植物賦活剤が好ましい。
【0030】
前記オキソ脂肪酸が、ケトオクタデカジエン酸であり、および、前記水酸化脂肪酸が、ヒドロキシオクタデカエン酸である植物賦活剤が好ましい。
【0031】
前記オキソ脂肪酸が、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸であり、および、前記水酸化脂肪酸が、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸および/または9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸である植物賦活剤が好ましい。
【0032】
なお、前記オキソ脂肪酸および水酸化脂肪酸の誘導体としては、それぞれ、オキソ脂肪酸および水酸化脂肪酸のエステルが望ましい。また、前記オキソ脂肪酸および水酸化脂肪酸の塩としては、後述されるが、例えばナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などの塩を使用できる。
【0033】
前記結着剤が、難水溶性樹脂である植物賦活剤が好ましい。
【0034】
前記難水溶性樹脂が、スチレンマレイン酸ポリマーおよびその誘導体である植物賦活剤が好ましい。
【0035】
前記溶出制御剤が、水溶性高分子または酸化ケイ素である植物賦活剤が好ましい。
【0036】
前記溶出制御剤が、疎水性シリカである植物賦活剤が好ましい。
【0037】
前記溶出制御剤が、崩壊剤をさらに含む植物賦活剤が好ましい。
【0038】
前記植物賦活剤は、アブラナ科、イネ科、マメ科、ナス科、バラ科、ヒユ科、またはアオイ科植物から選択される植物に対して使用される植物賦活剤であることが好ましい。
【発明の効果】
【0039】
本発明の植物賦活剤は、高い病害抵抗性誘導効果および生長促進効果を長時間維持することができ、少ない植物賦活剤の投与でも効果的に所望の作用を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0040】
植物賦活剤
本発明の植物賦活剤は、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物、および、結着剤を含むことを特徴とする。
【0041】
本発明の植物賦活剤は、溶出制御剤を含んでいてもよい。
【0042】
本発明における「植物賦活」とは、何らかの形で植物の生長活動を活性化または維持するように調整することを意味するものであり、生長促進(茎葉の拡大、塊茎塊根の生長促進等を包含する概念である)、休眠抑制、植物のストレス(例えば病害など)に対する抵抗性を誘導、付与し、抗老化等の植物生長調節作用を包含する概念である。
【0043】
本発明の植物賦活剤は、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物を植物賦活効果のための有効成分として含む。オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物は、植物の茎葉または根の一部に施用されることによって、植物に生長促進効果を付与することができる。本発明の植物賦活剤が接種された植物体において、未処理植物と比較して、植物の生長指標である葉の長さおよび葉の重さの増加、塊茎または塊根の生長促進が確認されることから、本発明の植物賦活剤は植物に生長促進効果を付与していると考えられる。本発明の植物賦活剤を用いることによって、植物体の生育を促進し、野菜や穀物、果物等の植物体の収量増加をもたらすことができる。本発明の植物賦活剤の植物生長促進効果は非常に高く、この結果、商品作物の優れた収量増加効果や向上された収穫効率をもたらすことができる。さらに、本発明の植物賦活剤は、植物の茎葉または根の一部に施用することにより、植物体において抵抗性誘導に関係するサリチル酸経路を活性化することができ、この結果、植物に病害などへの抵抗性を誘導することができる。
【0044】
本発明において、植物賦活作用を示す有効成分であるオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物は、結着剤により集合して粒子状となっており、上記化合物が粒子状の集合体の内部に存在し、または結着剤により被覆されるため、上記化合物は空気中の酸素と接触しにくくなり、酸化分解が抑制される。
【0045】
また、本発明の植物賦活剤において、植物賦活作用を示す有効成分である上記オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物は、目的とする環境下で、また経時と共に、結着剤が分解することで、または上記化合物が水に溶解することで上記化合物の集合体が壊れ、あるいは、本発明の植物賦活剤が溶出制御剤を含む場合は溶出制御剤による溶出制御作用を併せて受けることにより、徐々に放出される。すなわち、本発明の植物賦活剤は、有効成分を徐々に、連続して、時には遅くまたは速く、経時的に遊離する。本発明の植物賦活剤は、徐放効果による卓越した残効性を発揮するため、一回の施用で効果が持続し、したがって、何回も施用する必要がない。本発明の植物賦活剤は、上述の高い植物賦活効果と共に、省力化という点からも非常に優れた植物賦活剤である。しかも、その高い徐放効果により施用直後に有効成分が大量に放出されるいわゆる初期バーストのおそれもなく、薬害も発生しない。
【0046】
本発明の植物賦活剤は、有効成分である上記オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物、および、結着剤を含む。本発明の植物賦活剤が、さらに溶出制御剤を含む場合は、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物および溶出制御剤が結着剤を介して結着され得る。結着剤としては、任意の高分子化合物や樹脂組成物を適宜用いることができるが、難水溶性樹脂が好ましく、例えば、スチレンマレイン酸ポリマーまたはその誘導体、スチレンマレイン酸ポリマーとポリオレフイン系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂 、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂などとの混合樹脂などが挙げられる。スチレンマレイン酸ポリマーの誘導体としては、例えば、アルコールによりエステル化された誘導体、スルホン化剤によりスルホン化された誘導体、アミンによりイミド化された誘導体などが使用され得る。
【0047】
本発明の植物賦活剤は、例えば、スプレードライヤーを用いて、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物、および、結着剤、および必要に応じて、溶出制御剤を含む分散液を噴霧乾燥することによって製造され得る。スプレードライ方式では噴霧ノズルからミスト状に噴霧された微粒子が、サイクロン空気滞留中に乾燥が完結するため、分散液のまま乾燥され、したがって、凝集のない非常に良好な微粒子を造粒することができる。スプレードライ方式のための分散液の調製のための、溶媒、浸漬など他の条件については特に限定されず、また、噴霧乾燥条件も、用いる結着剤や溶出制御剤、溶媒などの種類、噴霧乾燥に使用する装置等に応じて適宜設定することができる。また、本発明の植物賦活剤は、スプレードライ方式以外の方法で、例えば、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物および結着剤、および必要に応じて、溶出制御剤を含む混合物を加熱溶解混練し、得られた混練物を冷却解砕した後、粉砕機にかけ微粒子化する方法や、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物および結着剤を溶媒に溶解し、必要に応じて溶出制御剤をこれに添加し、分散または溶解させた後、加熱減圧濃縮により溶媒を完全に留去し、得られた粉体を粉砕機にかけ、微粒子化する方法などで製造されてもよい。造粒された本発明の植物賦活剤は、例えば、0.2~500μm程度の平均粒子径を有し得る。しかしながら、平均粒子径は、使用目的により適宜選択され得、特に限定されるものではない。
【0048】
本発明の一実施形態において、有効成分である上記オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物は、溶出制御剤中に分散され得る。溶出制御剤は、本発明の植物賦活剤における有効成分の溶出性をさらにコントロールし得る。例えば、溶出制御剤は、水溶性高分子や水に難溶性の材料である。水に難溶性の材料が溶出制御剤として用いられる場合は、溶出制御剤は水膨潤性物質であるような崩壊剤を含んでいてもよい。溶出制御剤は、水に溶解もしくは水で分解されることによって、または、崩壊剤を含んでいる場合崩壊剤が膨張することによって、崩壊・細分化され、脱落する。溶出制御剤中に含有されている有効成分は、周りを取り囲む溶出制御剤によって、外部環境に存在する水媒体との接触面積が減少されている。周りの溶出制御剤が崩壊していくと、崩壊した場所の有効成分が水媒体と接触し、有効成分の溶出が開始される。例えば、有効成分が水溶性である場合であっても、本実施形態の植物賦活剤では、有効成分と水媒体との接触面積は減少されているため、その溶出が効果的に抑制され得る。より優れた徐放特性が得られ得る。
【0049】
本発明で使用され得る溶出制御剤は、溶出する有効成分量を促進または抑制し得る。すなわち、本実施形態の植物賦活剤において、有効成分である上記オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物は、植物賦活剤が施用されるであろう外部環境や利用しようとする状況に適合した速度で取り出され得る。例えば、溶出制御剤の崩壊度合いを制御することにより、有効成分の水媒体との接触面積を変えることができ、これにより有効成分の溶出を制御することができる。例えば、溶出制御剤の崩壊度合いを高くし、溶出制御剤がより細分化されるようにすれば、溶出制御剤の表面積は増大し、内部に含有されていた生理活性物質の溶出速度は大きくなる。
【0050】
本発明の植物賦活剤は、有効成分としてオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物を含むものである。本発明のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩としては、以下の式:
HOOC-(R1)-CH=CH-C(=O)-R2 (I)
(式中、
R1:6個~12個の炭素原子を含む、直鎖または分岐の、飽和または不飽和の炭化水素基であり、
R2:炭素数2~8のアルキル基であって、1つまたはそれ以上の分岐および/または二重結合を含んでいてもよい)
の構造式を有するオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩が好適に使用され得る。
【0051】
本発明の一実施形態において、上記オキソ脂肪酸におけるR1の炭化水素基の炭素数は8~10であり、R2のアルキル基の炭素数は4~6である。また、別の一実施形態において、上記オキソ脂肪酸におけるR1は式(I)におけるカルボニル基のαおよびβ炭素の間の二重結合と共役二重結合を形成する二重結合を含んでいる。さらに、別の一実施形態において、上記オキソ脂肪酸におけるR1は、炭素数9の直鎖または分岐の炭化水素基であり、R2は、炭素数5のアルキル基であることが好ましい。
【0052】
本発明のオキソ脂肪酸としては、具体的には、ケトオクタデカジエン酸が挙げられる。例えば、ケトオクタデカジエン酸としては、これらに限定される訳ではないが、9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸(9-oxoODA)、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸(13-oxoODA)、5-オキソ-6,8-オクタデカジエン酸、6-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、8-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、10-オキソ-8,12-オクタデカジエン酸、11-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、12-オキソ-9,13-オクタデカジエン酸および14-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸ならびにそれらの異性体等が挙げられる。
【0053】
なお、オキソ脂肪酸の誘導体としては、エステルが望ましい。本発明のオキソ脂肪酸のエステルとしては、これらに限定されるものではないが、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ペンチルエステル、イソペンチルエステル、オクチルエステル等を挙げることができる。また、オキソ脂肪酸の塩としては、例えばアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩などのアンモニウム塩、例えばカルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩や例えばナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、コバルト塩、マンガン塩などの金属塩等が挙げられるが、肥料などに含まれる塩などの農業上容認可能な1種以上の塩であれば特に限定されない。
【0054】
本発明の水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩としては、以下の式(II)および/または(III)
HOOC-(R3)-CH(OH)-CH(OH)-CH=CH-CH(OH)-R4 (II)
HOOC-(R3)-CH(OH)-CH=CH-CH(OH)-CH(OH)-R4 (III)
(式中、
R3は、4個~12個の炭素原子を有する直鎖または分岐の炭化水素基であって、1つまたはそれ以上の二重結合および/またはOH基を含んでいてもよく、二重結合を含んでいる場合、二重結合の位置は限定されない、
R4は、2個~8個の炭素原子を有する直鎖または分岐の炭化水素基であって、1つまたはそれ以上の二重結合および/またはOH基を含んでいてもよく、二重結合を含んでいる場合、二重結合の位置は限定されない)
の構造式を有する水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩が好適に使用され得る。
【0055】
本発明の一実施形態において、上記水酸化脂肪酸におけるR3の炭化水素基は6個~8個の炭素原子を有し、R4の炭化水素基は4個~6個の炭素原子を有する。また、別の一実施形態において、上記水酸化脂肪酸におけるR3は、-(CH2)n-(nは4~12である整数)の構造であり、R4は、CnH2n+1-(nは2~8である整数)の構造である。さらに、別の一実施形態において、上記水酸化脂肪酸におけるR3は、炭素数7の直鎖の飽和炭化水素基(-(CH2)7-)であり、R4は、炭素数5のアルキル基(CH3CH2CH2CH2CH2-)であることが好ましい。
【0056】
本発明の水酸化脂肪酸としては、具体的には、ヒドロキシオクタデカエン酸が挙げられる。例えば、ヒドロキシオクタデカエン酸としては、これらに限定される訳ではないが、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸および/または9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸およびそれらの異性体が挙げられる。
【0057】
なお、水酸化脂肪酸の誘導体としては、エステルが望ましい。本発明の水酸化脂肪酸のエステルとしては、これらに限定されるものではないが、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ペンチルエステル、イソペンチルエステル、オクチルエステル等を挙げることができる。また、水酸化脂肪酸の塩としては、例えばアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩などのアンモニウム塩、例えばカルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩や例えばナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、コバルト塩、マンガン塩などの金属塩等が挙げられるが、肥料などに含まれる塩などの農業上容認可能な1種以上の塩であれば特に限定されない。
【0058】
なお、本明細書において例示されている化合物に異性体が存在する場合、特に記載のない限り、存在し得る全ての異性体が本発明において使用可能である。
【0059】
本発明の植物賦活剤は、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物として、上述のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩や上述の水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩のうちの少なくとも一つを含んでいればよく、すなわち、例えば、2種以上のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩または水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩を含んでいてもよいし、少なくとも1種のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩および少なくとも1種の水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩を含んでいてもよい。
【0060】
本発明の植物賦活剤におけるオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物の所望の溶出特性は、上述の結着剤や溶出制御剤の材料などを適宜選択することにより得ることができる。例えば、溶出制御剤としては、例えば、これらに限定されるわけではないが、デンプン、ゼラチンカルボキシメチルセルロース、メチルセルロースもしくはヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリピルアルコール、ポリアクリル酸系ポリマー、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどの水溶性高分子、カルナバロウワックスなどの植物系ワックス、モンタン酸ワックス、オゾケライトなどの鉱物系ワックス、パラフィンワックスなどの石油系ワックス、変性ワックス、酸化ケイ素、シラスバルーン、ケイ酸塩白土などが挙げられる。好ましくは、溶出制御剤は、酸化ケイ素である。酸化ケイ素としては、ホワイトカーボン、焼成ホワイトカーボン、疎水性ホワイトカーボン、疎水性シリカなどが好ましい。オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物の放出の制御、また、本発明の植物賦活剤の製造の際に溶媒中に均一に分散させることが容易であることなどから、溶出制御剤としては、疎水性ホワイトカーボンや疎水性シリカがより好ましい。
【0061】
溶出制御剤は、必要に応じて、崩壊剤を含んでいてもよい。崩壊剤は、上述のように、溶出制御剤の崩壊度合いを制御し得る。崩壊剤としては、例えば、水分を吸収しその膨潤圧力により溶出制御剤を崩壊させる水膨潤性物質、微生物の分解により崩壊する生分解性樹脂、水に溶解することにより溶出制御剤を崩壊させる水溶性物質、水との反応で発泡することにより溶出制御剤を崩壊させる発泡性物質などが挙げられる。崩壊剤は、好ましくは、例えば、水膨張性の高分子化合物である。具体的には、デンプン、可溶性デンプン、デキストリン、αデンプン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アラビアガム、ゼラチン、トラガントガム、ローカストビーンガム、カゼイン、キサンタンガム、ペクチン、プルラン、グアーガム、カラギーナン、コラーゲン、リグニンスルホン酸塩、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、メチルセルロース、ヒドロキシルエチルセルロース、カルボキシルメチル化デンプンナトリウム塩、ヒドロキシルエチル化デンプン、デンプンリン酸エステルナトリウム塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ナトリウム塩、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸塩、ポリエチレンオキサイド、部分ケン化酢酸ビニルとビニルエーテルの共重合体、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸およびそのエステルまたは塩の重合体または共重合体などが挙げられる。
【0062】
本発明の植物賦活剤は、また、界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤を添加することにより、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物の溶出制御剤への結着を促進したり、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物の溶出速度を調整することができる。界面活性剤は、アニオン界面活性剤でも、ノニオン界面活性剤でもよく、例えば、ジアルキルスルホサクシネートなどのアニオン界面活性剤や、ポリオキシアルキレンアリルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエステル、植物油エーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸ポリグリセライド、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどのノニオン界面活性剤が使用され得る。とりわけ、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルアミン塩、アルキルグリシン塩、アラニン塩などは、空気-水界面張力を変化させることができ、特には水の表面張力を減少させることができるため、有効成分であるオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物を結着された溶出制御剤から水中へと剥離しやすくできるため好ましい。
【0063】
本発明のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物、結着剤、および必要に応じて添加される溶出制御剤の混合比は、徐放性を最適化するために任意に設定されるものであり、特に限定されるものではないが、例えば、重量比で、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物が、0.001~0.2質量%、好ましくは、0.01~0.1%、結着剤が0.05~40%、好ましくは、0.1~35%、および必要に応じて添加される溶出制御剤が0.1~2%好ましくは、0.15~1%、程度の範囲である。
【0064】
本発明の植物賦活剤は、さらに、拡散バリアとして作用し得る被覆層によりコーティングされていてもよい。要求される徐放性能により合わせた、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物の放出の制御が可能となる場合がある。例えば、被覆層は、ポリアミド樹脂や硝酸セルロースなどの任意の透過性物質を用いて形成され得る、透過性物質は、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物の拡散を抑制する効果を有する。この結果、本発明の植物賦活剤が水と接触した場合のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物の放出速度がより一層制御され、徐放性がより高められる場合がある。
【0065】
本発明の植物賦活剤は、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物を徐々に放出することで、長期にわたって植物賦活作用を発現させる。例えば、本発明の植物賦活剤は、約14日間超の、約30日間超の、または約60日間超の、長期にわたって植物賦活効果を発揮することができる。
【0066】
本発明の植物賦活剤は、徐放特性の異なる二種以上の、例えば異なる平均粒子径や組成を有するように造粒された、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物を含む賦活剤の組み合わせを含んでいてもよい。さらに長期間にわたって持続的かつ安定的にオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物の放出速度を制御することができる。
【0067】
本発明の植物賦活剤は、必要に応じて、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物以外の他の成分を含んでもよい。このような他の成分としては、脂肪酸、増量剤、滑沢剤、アンチケーキング剤、溶剤、吸収剤、分解防止剤、紫外線吸収剤、無機塩、賦形剤、酸化防止剤等の農業上容認可能な添加剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0068】
本発明の植物賦活剤は、任意の方法で植物に施用することができる。例えば、畑にそのまま均一散布して使用するか、あるいは田面水中にそのまま散布すればよい。また、植穴処理剤、作条散布剤、株元散布剤あるいは箱処理剤としても使用することができる。また、本発明の植物賦活剤の製剤としての剤型も、特に限定されるものではなく、例えば、粉剤(一般粉剤、DL粉剤、フローダストなど)、粒剤または粉粒剤(微粒剤、微粒剤Fなど)とすることができ、これらは公知の製造法に従って製造され得る。施用された植物において、本発明の植物賦活剤は、長期にわたって持続的に植物生長促進効果および例えば病害などのストレスに対する抵抗性を付与する。
【0069】
本発明の植物賦活剤を施用することのできる植物は、特に限定されるものではなく、植物一般に対して良好に用いることができる。例えば、アブラナ科、イネ科、マメ科、ナス科、バラ科、ヒユ科、またはアオイ科の植物に対して、好適に施用され得る。また、施用の対象となる植物は野生型の植物に限定されず、例えば変異体や形質転換体等であってもよい。また、それぞれの植物の品種も特に限定されない。
【0070】
また、本発明の植物賦活剤は、強力な抵抗性誘導効果を示す植物賦活剤として利用できることを見出しており、さまざまな植物の成長促進効果や果実の収量増加効果、病害抑制効果を示すことを知見している。例えば病害抑制に関して効果のある具体的な例としては、キュウリ、スイカ、メロン、カボチャなどウリ科の葉の灰色カビ病、つる割れ病、つる枯病、ベト病、トマト、ナス、ジャガイモなどナス科の青枯れ病、萎凋病、半身萎凋病、立枯病、褐色根腐病、バラやイチゴなどバラ科植物のうどん粉病、黒星病、灰色カビ病、炭疽病、ホウレンソウなどヒユ科のベト病、ハクサイ、キャベツ、コマツナなどアブラナ科の黒腐病、軟腐病、斑点細菌病、リゾクトニア病、ニンジンなどセリ科の白絹病、イネ科植物のいもち病などに有効である。
【実施例】
【0071】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【0072】
実施例1
(1)13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸(13-oxoODA)((9Z,11E)-13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸、ケイマンケミカル社製、100μg/100μLエタノール溶液) 120mg(120mL)を、1Lの水に溶解させて、0.012wt%の13-oxoODAエマルジョン溶液を調製した。
(2)原料液の調製
30℃に加温したアセトン3kgに、(1)で調製した13-oxoODAエマルジョン溶液1Lを投入し、攪拌溶解した。続いて、スチレンマレイン酸ポリマー(SMA(登録商標) 17352、サートマー社製)2.1kgを加え、溶解した。さらに、この溶液に、疎水性シリカ(SipernatD17(登録商標)、デグッサ社製)0.1kgを投入し、分散させた。再度アセトンで濃度調整をおこない、30%固形分濃度の原料液Aとした。
(3)噴霧乾燥
原料液Aを、熱風温度100℃、風量4.0m3/min、出口温度56℃、原料液供給量0.38kg/minとして、スプレードライ装置((株)篠田製作所製)を用いて噴霧乾燥し、本発明の徐放性製剤組成物(以下、噴霧乾燥物)Aを得た。
(4)徐放性製剤組成物A 1gを、10mLの蒸留水に懸濁し、15℃のインキュベーター内に設置した振とう器に載せ、190rpmで24時間振とうした。振とう後の上澄み液をHPLCにより分析し、13-oxoODAを測定した。13-oxoODAは、液体クロマトグラフィーの分離条件(移動相:A液(100%アセトニトリル液)、B液(0.1%酢酸溶液)、Accucore PR-MSカラム(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、カラムサイズφ2.1×150mm、粒子径5μm)、流速0.25mL/min、カラム温度40℃、検出波長272nm、グラジエント条件:移動相B濃度80%(0分)→移動相B濃度60%(10分)→60%(20分))で確認した。あらかじめ、上記市販の13-oxoОDAのピークが確認される保持時間を求めておき、当該保持時間に相当するピークが検出限界以上(S/N比=2以上)で確認できる場合、13-oxoODAが上澄みに存在しているとした。
【0073】
上澄み液の分析において13-oxoODAが確認された。この結果は13-oxoODAが、水との接触により徐放性製剤組成物から水中に放出されたことを示している。本発明の徐放性製剤組成物が13-oxoODAを徐放することができることがわかる。
【0074】
13-oxoODAは、集合して粒子状となっており、また、結着剤であるスチレンマレイン酸ポリマーによりその一部が被覆されているため、空気中の酸素に触れにくい。そのため、酸化分解せず、活性が低下しない。それ故、長期間にわたる徐放が可能となる。
【0075】
実施例2
(1)9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸(ラローダンファインケミカルズ社製、9(S),10(S),13(S)-トリヒドロキシ-11(E)-オクタデセン酸(英語表記で9(S),10(S),13(S)-trihydroxy-11(E)-octadecenoic acid)、200mg/L エタノール溶液)、および、9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸(ラローダンファインケミカルズ社製、9(S),12(S),13(S)-トリヒドロキシ-10(E)-オクタデセン酸(英語表記で9(S),12(S),13(S)-trihydroxy-10(E)-octadecenoic acid)、200mg/L エタノール溶液)を2:1で混合した混合物から、エタノールを蒸発させて除去し、その17mgを、1Lの水に溶解させて、トリヒドロキシオクタデカエン酸溶液を調製した。
(2)原料液の調製
30℃に加温したアセトン3kgに、(1)で調製したトリヒドロキシオクタデカエン酸溶液1Lを投入し、攪拌溶解した。続いて、スチレンマレイン酸ポリマー(SMA(登録商標) 17352、サートマー社製)2.1kgを加え、溶解した。さらに、この溶液に、疎水性シリカ(SipernatD17(登録商標)、デグッサ社製)0.1kgを投入し、分散させた。再度アセトンで濃度調整をおこない、30%固形分濃度の原料液Bとした。
(3)噴霧乾燥
原料液Bを、熱風温度100℃、風量4.0m3/min、出口温度56℃、原料液供給量0.38kg/minとして、スプレードライ装置((株)篠田製作所製)を用いて噴霧乾燥し、本発明の徐放性製剤組成物(以下、噴霧乾燥物)Bを得た。
(4)徐放性製剤組成物B 1gを、10mLの蒸留水に懸濁し、15℃のインキュベーター内に設置した振とう器に載せ、190rpmで24時間振とうした。振とう後の上澄み液をHPLCにより分析し、トリヒドロキシオクタデカエン酸を測定した。トリヒドロキシオクタデカエン酸は、液体クロマトグラフィーの分離条件(移動相:A液(100%アセトニトリル液)、B液(0.1%酢酸溶液)、Accucore PR-MSカラム(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、カラムサイズφ2.1×150mm、粒子径5μm)、流速0.25mL/min、カラム温度40℃、検出波長272nm、グラジエント条件:移動相B濃度80%(0分)→移動相B濃度60%(10分)→60%(20分))であらかじめ上記市販の9(S),10(S),13(S)-トリヒドロキシ-11(E)-オクタデセン酸および9(S),12(S),13(S)-トリヒドロキシ-10(E)-オクタデセン酸にて、計測しておいた(これらは上記条件では分離したピークとして確認されず、1本のトリヒドロキシオクタデカエン酸のピークとして観察される)トリヒドロキシオクタデカエン酸のピークの保持時間において、観察されるトリヒドロキシオクタデカエン酸としてのピークの有無で上澄み液中にトリヒドロキシオクタデカエン酸が存在するか否かを確認した。存在の確認は、S/N比=2を検出限界とした。本実施例2では、上澄み液の分析においてトリヒドロキシオクタデカエン酸が確認された。この結果はトリヒドロキシオクタデカエン酸が、水との接触により徐放剤から水中に放出されたことを示している。本発明の徐放性製剤組成物がトリヒドロキシオクタデカエン酸を徐放することができることがわかる。
【0076】
トリヒドロキシオクタデカエン酸は、集合して粒子状となっており、また、結着剤であるスチレンマレイン酸ポリマーによりその一部が被覆されているため、空気中の酸素に触れにくい。そのため、酸化分解せず、活性が低下しない。それ故、長期間にわたる徐放が可能となる。
【0077】
以上の結果より、植物賦活剤の有効成分であるオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物を結着剤を用いて、必要に応じて溶出制御剤と共に、造粒することにより、高い病害抵抗性誘導効果および生長促進効果を有するオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とから選ばれる少なくとも1種の化合物を長期にわたって徐放できる植物賦活剤が作製できることがわかる。