(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】ポリフェニレンスルフィドモノフィラメントからなる繊維パッケージ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 6/76 20060101AFI20240313BHJP
D02J 1/22 20060101ALI20240313BHJP
D01D 7/00 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
D01F6/76 D
D02J1/22 K
D01D7/00 D
(21)【出願番号】P 2020065383
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】305037123
【氏名又は名称】KBセーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【氏名又は名称】田中 勝也
(74)【代理人】
【識別番号】100158861
【氏名又は名称】南部 史
(74)【代理人】
【識別番号】100194674
【氏名又は名称】青木 覚史
(72)【発明者】
【氏名】山下 裕之
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/157543(WO,A1)
【文献】特開2019-203215(JP,A)
【文献】国際公開第2016/104236(WO,A1)
【文献】特開2002-046939(JP,A)
【文献】国際公開第2022/211116(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00 - 6/00
D02G 1/00 - 3/00
D02J 1/00 - 13/00
D01D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たる構成単位がp-フェニレンスルフィド単位であるポリフェニレンスルフィドモノフィラメントをパーン状のボビンに捲いた繊維パッケージであり、捲幅が100~250mm、テーパー角が30~140°、綾角が0.8~2°であり、
油脂付着率が0.15~0.45質量%であり、最内外層の熱収縮応力比が0.85~1.15であるポリフェニレンスルフィドモノフィラメント繊維パッケージ。
【請求項2】
ポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの繊度が6~35dtexである請求項1記載の繊維パッケージ。
【請求項3】
ポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの破断強度が3.4cN/dtex以上、破断伸度が、24~40%である請求項1または2記載の繊維パッケージ。
【請求項4】
5%モジュラスが、1.0~1.8cN/dtex、10%モジュラスが、1.4~2.6cN/dtexである請求項1~3いずれか1項に記載の繊維パッケージ。
【請求項5】
主たる構成単位がp-フェニレンスルフィド単位であるポリフェニレンスルフィド樹脂を溶融押出し、冷却固化した後、得られた未延伸糸を一旦捲き取ることなく連続して延伸し
、捲取張力0.1~0.5cN/dtexにてワインダーによりパーン状のボビンに捲き取る直接紡糸延伸法によりポリフェニレンスルフィドモノフィラメントからなる繊維パッケージを製造する方法であって、未延伸糸をボビンに捲き取る前にポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの油脂付着率が、0.15~0.45質量%となるように油脂を付与し、捲幅が100~250mm、テーパー角が30~140°、綾角が0.8~2°となるようにパーン状にボビンに捲き取ることを特徴とするポリフェニレンスルフィドモノフィラメントからなる繊維パッケージを製造する方法。
【請求項6】
得られた未延伸糸にポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの油脂付着率が0.15~0.45質量%となるように油脂を付着させた後、延伸しボビンに捲き取ることを特徴とする請求項5記載のポリフェニレンスルフィドモノフィラメントからなる繊維パッケージを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンスルフィドモノフィラメントからなる繊維パッケージ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業用フィルターは、耐薬品性や寸法安定性、熱耐久性等の点から、現在では、ポリフェニレンスルフィド、ポリフッ化ビニリデン、液晶ポリエステルなどからなるメッシュ織物が多く使用されている。特に、ポリフェニレンスルフィド製のメッシュ織物は、耐薬品性、寸法安定性やコストパフォーマンスに優れ、高度なフィルター性能が求められる分野に適しているため、広く用いられている。さらに、近年、細物のモノフィラメントは、生産性が非常に低いため、直接紡糸延伸法を用いて工程を短縮化することにより、コストの削減することも期待されている。
一般的に、50dtex以下の細繊度のモノフィラメントの製造法としては、溶融紡糸した後、冷風により糸条を冷却し、未延伸糸を捲き取った後に延伸するコンベンショナル法や、マルチフィラメントからなる親糸を直接紡糸延伸法により製造し、その後、親糸を分繊してモノフィラメントを得る方法がある。
特許文献1は、繊度が、25dtex以下、強度が3.0cN/dtex以上、伸度が30%未満などであることを特徴とする細繊度のポリフェニレンスルフィドモノフィラメントが記載され、このモノフィラメントの製法としてコンベンショナル法を用いることが記載されている。
また、特許文献2には、得られた未延伸糸を一旦捲き取ることなく連続して延伸しワインダーにて捲き取る直接紡糸延伸法で得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントがドラム形状に捲き取られたパッケージが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4844515号公報
【文献】特開2017-101365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1から得られるモノフィラメントのパーン状繊維パッケージは、最内層部の解舒時にパーン曳けが発生し易い。また特許文献1記載のようにコンベンショナル法で製造したり、直接紡糸延伸法でマルチフィラメントからなる親糸を分繊したりすると、生産工程数が増えるため、歩留りが低下したり、またコストが上昇する。
特許文献2に記載されたようなドラム形状の場合、捲き端面から糸が落ちる(綾落ち)による糸の解舒不良が発生し、製織時に問題が生じる可能性がある。
【0005】
したがって、本発明は上記の課題を解決し、生産効率よく直接紡糸延伸法で得ることができ、かつボビンの捲き崩れを防止し、解舒時のヒケを改善した、製織時の糸切れやスカム、筋の発生の抑制などができる品位の高いポリフェニレンスルフィドモノフィラメント繊維パッケージを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、ポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの繊維パッケージにおいて、特定の糸条への油脂付着率や捲取張力にし、ボビンの繊維パッケージを特定することによって、ヒケや筋、スカムの発生が無く、捲き締まり、崩れの発生しない繊維パッケージを直接紡糸延伸法で得ることができることを見出した。
すなわち、本発明は、第1に主たる構成単位がp-フェニレンスルフィド単位であるポリフェニレンスルフィドモノフィラメントをパーン状のボビンに捲いた繊維パッケージであり、捲幅が100~250mm、テーパー角が30~140°、綾角が0.8~2°であり、パッケージの最内層と最外層の熱収縮応力値の比(最内外層の熱収縮応力比)が0.85~1.15であるポリフェニレンスルフィドモノフィラメント繊維パッケージである。
本発明の第2に、ポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの繊度が6~35dtexである上記繊維パッケージである。
本発明の第3に、ポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの破断強度が3.4cN/dtex以上、破断伸度が、24~40%である上記繊維パッケージである。
本発明の第4に、5%モジュラスが、1.0~1.8cN/dtex、10%モジュラスが、1.4~2.6cN/dtexである上記繊維パッケージである。
本発明の第5に、主たる構成単位がp-フェニレンスルフィド単位であるポリフェニレンスルフィド樹脂を溶融押出し、冷却固化した後、得られた未延伸糸を一旦捲き取ることなく連続して延伸しワインダーへの捲取張力0.1~0.5cN/dtexにてパーン状のボビンに捲き取る直接紡糸延伸法によりポリフェニレンスルフィドモノフィラメントからなる繊維パッケージを製造する方法である。
本発明の第6に、得られた未延伸糸にポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの油脂付着率が0.15~0.45質量%となるように油脂を付着させた後、延伸しボビンに捲き取ることを特徴とするポリフェニレンスルフィドモノフィラメントからなる上記繊維パッケージを製造する方法である。
本発明の第7に、主たる構成単位がp-フェニレンスルフィド単位であるポリフェニレンスルフィド樹脂を溶融押出し、冷却固化した後、得られた未延伸糸を一旦捲き取ることなく連続して延伸しワインダーによりパーン状のボビンに捲き取る直接紡糸延伸法によりポリフェニレンスルフィドモノフィラメントからなる繊維パッケージを製造する方法であって、未延伸糸をボビンに捲き取る前にポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの油脂付着率が、0.15~0.45質量%となるように油脂を付与し、捲幅が100~250mm、テーパー角が30~140°、綾角が0.8~2°となるようにパーン状にボビンに捲き取ることを特徴とするポリフェニレンスルフィドモノフィラメントからなる繊維パッケージを製造する方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリフェニレンスルフィドモノフィラメントからなる繊維パッケージによれば、直接紡糸延伸法により製造でき、かつモノフィラメントの捲取操業性を改善し、ボビンの捲き崩れ、捲き締まりを防止し、解舒時のヒケも改善し、製織時の筋、糸切れ、スカムの発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明のポリフェニレンスルフィドモノフィラメント繊維パッケージの概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明におけるポリフェニレンスルフィド樹脂は、主な繰り返し単位としてフェニレンスルフィド単位を有するポリマーからなるポリフェニレンスルフィドである。フェニレンスルフィド単位としては、p-フェニレンスルフィド単位やm-フェニレンスルフィド単位などが挙げられる。ポリフェニレンスルフィドは、p-フェニレンスルフィド単位やm-フェニレンスルフィド単位等からなるホモポリマーであってもよいし、これらを有する共重合体であってもよいが、耐熱性、加工性、経済的観点からp-フェニレンスルフィドの繰り返し単位が好ましい。
【0011】
ポリフェニレンスルフィドのポリマータイプには、架橋タイプ、半架橋タイプ、線状タイプ(リニアー型)があるが、紡糸、延伸性において線状タイプが好ましい。
【0012】
さらに本発明の効果を損なわない範囲内で、各種金属酸化物、カオリン、シリカなどの無機物や、着色剤、艶消剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤、末端基封止剤、相溶化剤等の各種添加剤をポリフェニレンスルフィドに少量含有しても良い。
【0013】
本発明におけるポリフェニレンスルフィド樹脂のメルトフローレート(MFR)は100~250g/10minが好ましい。さらに好ましくは130~200g/10minである。紡糸をし易い点から、100g/10min以上が好ましい。繊維の強度を保持し、フィルターのようなメッシュ織物に強度耐久性を持たせて好適に使用する点から、250g/10minを以下であることが好ましい。
【0014】
本発明におけるポリフェニレンスルフィド樹脂の紡糸前のペレットの水分率として、100ppm以下が好ましく、さらに好ましくは10~50ppmである。100ppmを超える場合、紡糸での糸切れの原因や、泡(気泡)の混入が発生し、紡糸操業性が低くなる恐れがある。
【0015】
本発明におけるポリフェニレンスルフィド樹脂のペレットは、予備乾燥として、真空乾燥による低分子量成分をできるだけ除去したものが好ましく、乾燥温度は130~190℃、乾燥時間は6~12時間が好ましい。
【0016】
本発明におけるポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの横断面形状は特に限定されないが、繊維の外形は円形であることが好ましい。
【0017】
本発明におけるポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの繊度は、フィルターなどに好適に使用する点から、6~35dtexが好ましい。35dtex以下であれば、冷風による固化が容易で、フィルターなどの製品に好適な品位の高いモノフィラメントを得られ易い。
【0018】
本発明におけるポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの破断強度は、フィルターなどのメッシュの耐久性の点から、3.4cN/dtex以上であり、より好ましくは3.8cN/dtex以上である。強度が3.4cN/dtex未満の場合、フィルターなどのメッシュの耐久性が低下する傾向があった。
【0019】
本発明におけるポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの破断伸度は、24~40%である。より好ましくは30~35%である。破断伸度が24%未満の場合、紡糸時の糸切れが多発し、製織時に筬削れが生じたり、製織性が低下するおそれがある。破断伸度が40%を超える場合には、フィラメントの非晶部分が増えることにより、メッシュの寸法安定性が悪くなり、耐久性が低下するおそれがある。
【0020】
本発明におけるポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの5%モジュラスは、1.0~1.8cN/dtexが好ましく、より好ましくは、1.2~1.6cN/dtexである。5%モジュラスは、メッシュの耐久性の観点から、高い方が好ましいが、ボビン内層部の解舒時に起きるヒケを生じさせないようにする点からは、1.8cN/dtex以下が好ましい。メッシュの寸法安定性や強度耐久性を保つ点からは1.0cN/dtex以上が好ましく、この範囲であれば目ずれを抑制し易くなる。
【0021】
本発明におけるポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの10%モジュラスは、1.4~2.6cN/dtexが好ましく、より好ましくは、1.7~2.1cN/dtexである。10%モジュラスは、メッシュの耐久性の観点から、高い方が好ましいが、ボビン内層部の解舒時に起きるヒケを生じさせずに品位のよいメッシュを得る点からは、2.6cN/dtex以下であることが好ましい。メッシュの寸法安定性や強度耐久性を保ち、目ずれを抑制し易い点からは1.4cN/dtex以上であることが好ましい。
【0022】
本発明におけるポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの熱水収縮率は、10%以下であることが好ましい。より好ましくは、2~8%である。熱水収縮率は、メッシュの寸法安定性の観点から低くする方が好ましい。10%を超える場合には、メッシュの寸法安定性が悪くなる傾向にあることから、品位の悪いフィルターとなる恐れがある。
【0023】
本発明におけるポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの熱収縮応力値の最内層と最外層の比(最内外層の熱収縮応力比)は、0.85~1.15であることが好ましい。さらに好ましくは、0.9~1.1である。最内外層の熱収縮応力比が範囲外の場合、捲き崩れや捲き締まりの一因になったり、メッシュ生地での、応力差による歪みの発生が生じ、品位の悪いメッシュ生地なる恐れがある。
【0024】
本発明におけるポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの後工程通過性、品位の良好なメッシュ織物を得る点などから、油脂付着率は、0.15~0.45質量%が好ましい。より好ましくは、0.25~0.35質量%である。0.15質量%未満では、静電気が発生し易く、製織などの取り扱い性が劣る傾向がある。0.45質量%超える場合、製織時のスカム発生し易い傾向があり、メッシュ織物、工業用フィルターの品位に影響したり、紡糸捲取工程での、ボビン崩れの原因となる恐れがある。
【0025】
本発明におけるポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの好適な油剤としては、平滑性と筬スレ予防の点から、脂肪酸エステル系の平滑剤を30質量%以上含み、この他に制電剤や乳化剤を適宜添加してもよい。加えて変性シリコーンを油剤原液に対して1~3質量%添加して、平滑性をさらに上げることがさらに好ましい。かかる変性シリコーンは、添加過剰となる場合、捲き取り時、糸条がボビン内で滑り、捲き崩れの起因となるおそれがあるため上記の範囲が好ましい。好適な油剤付与方法として、イオン交換水で5~20質量%のエマルションにし、プレテンションロールの直上にて、オイリングノズルにて付与する方法が挙げられる。
【0026】
本発明におけるポリフェニレンスルフィドモノフィラメントは、紡糸して得た未延伸糸を一旦捲き取ることなく、延伸して、モノフィラメントを得る直接紡糸延伸法で製造する。
未延伸糸を延伸した後、ワインダーでボビンへ捲き取り、繊維パッケージを得るが、捲取工程において、最終のゴデッドロールから出てきた糸条をワインダーで捲き取る際の捲取張力は、0.1~0.5cN/dtexである。より好ましくは、0.2~0.3cN/dtexである。捲取張力が0.1cN/dtex未満の時、ゴデッドロールとワインダー間の張力が低すぎるため、ボビンの捲き崩れや、糸切れが多発し、正常にモノフィラメントを採取することが難しい。0.5cN/dtexを超える場合、ボビンの捲き締まりが発生し、ワインダーのボビンホルダーより、ボビンを抜くことが難しい。
【0027】
本発明のポリフェニレンスルフィドモノフィラメントからなる繊維パッケージのボビン形状としては、通常使用される直接紡糸延伸法に使用される紙管にテーパー状に捲き取ったパーン状が好ましい。一般的に直接紡糸延伸法ではドラム形状のボビンを用いるが、ドラム形状の場合、モノフィラメントを捲くとボビン端面から糸が落ちる(綾落ち)が発生しやすくなる。これが発生した場合、解舒時、糸が端面に引っかかって、糸切れや製織不良、筋の発生を引き起こし、製織等の後工程通過性の低下や、製品の品位を低下が生じる。
【0028】
本発明のポリフェニレンスルフィドモノフィラメントからなる繊維パッケージの捲取条件としては、紙管の最内層部の捲幅は、100~250mmである。より好ましくは150~200mmである。捲幅100mm未満の場合、テーパー角を大きくしない限り、捲量を上げることができず、テーパー角を上げすぎるとボビン端面から糸が落ちる(綾落ち)が発生し、解舒時に糸が引っ掛かり、糸切れや筋の発生を引き起こし、製織性に劣ったものとなる。ワインダーのエンド数や、ワインダー長に限りがあることを勘案すると、繊維パッケージの生産性、コストの点から、捲幅の上限は250mmがよい。
【0029】
本発明の繊維パッケージのテーパー角は、30~140°である。より好ましくは、45~100°である。テーパー角が30°未満の場合、捲き崩れは発生しないが、正規の捲量が捲き上がる前に、両端の捲幅が捲き厚が上がるに従い、近づいて、接触してしまい、崩れるなど生産性に劣る。テーパー角が140°を超える場合、テーパー部から、糸が落ちて、捲き崩れが生じる傾向がある。参考までに180°の条件(ドラム型捲きに相当)では、綾落ちによる捲き崩れが頻発する。
【0030】
本発明の繊維パッケージの綾角は、0.8~2°である。さらに好ましくは、0.9~1.2°である。綾角が0.8°未満の場合、パッケージ表面にリボン状の糸条の寄り付きが発生し、ボビンの解舒不良や、外観不良となる。2°を超える場合、トラバースが両端に糸を移動させたときに糸条が勢いではじき出されことによるテーパー部から糸が落ちて、捲き崩れが発生し特に20dtex以上の繊度で頻発し易い。
【実施例】
【0031】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。実施例におけるフィラメントの物性、評価は、以下の通りとした。
A.MFR
JIS K 7210(1999年)に準じて、温度315.5℃、荷重5000gの条件でMFR値を測定した。
B. 繊度
JIS L 1013に準じ、試料を枠周1.125mの検尺機を用い、120回/minの速度で捲き取り、その質量を量り、繊度を求めた。これを5回測定し、平均値を出した。
C.破断強度、破断伸度、5%モジュラス、10%モジュラス
JIS L 1013に準じ、島津製作所製のAGS-1KNGオートグラフ(登録商標)引張試験機を用い、試料糸長20cm、定速引張速度20cm/minの条件で測定する。荷重-伸び曲線での荷重の最高値を繊度で除した値を破断強度(cN/dtex)とし、その時の伸び率を破断伸度(%)とし、伸び率が5%の時の強度を5%モジュラス(cN/dtex)、伸び率が10%の時の強度を10%モジュラス(cN/dtex)とする。
D. 最内外層の熱収応力比
熱収縮応力は、カネボウエンジニアリング製のKE-II型収縮応力測定装置を用いて測定する。長さ5cmのループ状として糸端を結んだ試料に、繊度×2/30(cN)の初期荷重をかけて、室温から120℃/minの昇温速度で加熱した際の熱収縮力を測定する。測定した熱収縮力の最高点を熱収縮力のピーク(cN)とし、そのときの温度を熱収縮力ピーク温度(℃)とする。そして上記熱収縮力の最高値を、繊維繊度の2倍で除した値を熱収縮応力(cN/dtex)とし、5回測定し平均値を熱収縮応力とした。最内外層の熱収応力比(Sr)は以下の式1により求める。
Sr=Si/So ・・・ 式1
(Sr:最内外層の熱収応力比、Si:パッケージの最内層の熱収縮応力〔紙管外径より、捲厚1mmのポイントを測定〕、So:パッケージの最外層の熱収縮応力〔パッケージの表面層部を1分解舒後のポイントを測定〕)
E.繊維パッケージの捲き状態
捲取操業性は、捲き形状が良好であれば「○」、軽微な捲き崩れ、捲量不足を「△」、酷い捲き崩れ、捲き付け不可などは「×」とした。
F.製織性及び外観評価
得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントを用いて、スルーザー型織機により、回転数300rpmで、420メッシュ/2.54cm(11dtex未満)、22
5メッシュ/2.54cm(11dtex以上、21dtex未満)、150メッシュ/2.54cm(21dtex以上、35dtex)のメッシュ織物を製織した。その際、筬のスカムの発生、タテ糸、ヨコ糸切れの状態を目視で確認し製織性として評価した。得られた織物の外観(節、ヒケ、筋の発生など)を目視で確認し外観評価として評価した。製織性及び外観評価が共に良ければ「○」、いずれかが悪ければ「△」、どちらも悪い場合は「×」とした。
G.メッシュ性能評価
Fで得られたメッシュ織物を用いて、160℃、20分間熱セットを行い、加工したメッシュ織物(熱セット前後)の伸長回復サイクルを実施した後の外観を評価する。伸長回復サイクルは、JIS L 1013に準じ、島津製作所製のAGS-1KNGオートグラフ(登録商標)引張試験機を用い、試料長20cm、幅5cm、定速引張速度20cm/minの条件で、10%伸長回復サイクルを5回実施する。その時のメッシュ織物の外観を目視にて観察した。目ずれ、歪みや破損が無いものを「〇」、歪み、軽微な破損が有るものを「×」、歪みや破損の有無の判断ができなかったものを「△」とした。
H. 総合評価
紡糸操業性、製織性及び外観評価、並びにメッシュ性能評価の項目について、全て〇の判定のものを「〇」、△が1つ以上あり×がないものを「△」、1項目でも×があるものは、「×」とした。
【0032】
〔実施例1〕
MFRが160g/10minのp-ポリフェニレンスルフィド樹脂(水分率:20ppm) を準備し、紡糸温度328℃で溶融した。溶融したポリフェニレンスルフィドを、孔を2個有する紡糸用口金(L/D=0.65mm/0.65mm)を用い、延伸後の繊度が33dtexとなる吐出量で吐出した。吐出したポリフェニレンスルフィドの糸条は、ユニフロー型冷却装置にて冷却し、エマルション油剤を付与(OPU=0.3質量%)し、次いで、糸条を速度1040m/minで非加熱のプレテンションロールに捲き取り、引き続きゴデッドロール1(速度1058m/min、115℃)の間で、テンションを加えたのち、ゴデッドロール2(速度3520m/min、135℃)で本延伸と熱セットを施し、ゴデッドロール3(速度3500m/min、非加熱)でリラックス処理して緩和させ、捲取張力0.2cN/dtexでワインダー(速度3495m/min)でボビンに捲き取った。この際、ボビン形状は端面をテーパー状にしたパーン形状とし、捲幅200mm、テーパー角60°、綾角1°でボビンに捲き取り、繊維パッケージを得た。
【0033】
〔実施例2〕
テーパー角を120°、捲取速度を調整し、捲取張力を0.4cN/dtex、油脂付着率を0.4質量%に変更した以外は、実施例1と同様に、繊維パッケージを得た。
【0034】
〔比較例1〕
テーパー角を180°、ボビン形状をドラム型、綾角を5°に変更した以外は、実施例1と同様に、繊維パッケージを得た。
【0035】
〔比較例2〕
テーパー角を180°、ボビン形状をドラム型に変更した以外は、実施例1と同様に、繊維パッケージを得た。
【0036】
〔比較例3,4〕
テーパー角を160°、20°に変更した以外は、実施例1と同様に繊維パッケージを得た。
【0037】
〔比較例5,6〕
綾角を0.5°、2.5°に変更した以外は、実施例1と同様に繊維パッケージを得た。
【0038】
〔実施例3〕
MFRが160g/10minのp-ポリフェニレンスルフィド樹脂を準備し、紡糸温度328℃で溶融した。溶融したポリフェニレンスルフィドを、孔を2個有する紡糸用口金(L/D=0.35mm/0.31mm)を用い、延伸後の繊度が10dtexとなる吐出量で吐出した。吐出したポリフェニレンスルフィドの糸条は、ユニフロー型冷却装置にて冷却し、未延伸糸を得た後、エマルション油剤を付与し、未延伸糸を一旦捲き取ることなく、延伸工程、リラックス工程を経て、ワインダーでボビンに捲き取り、10 dtexのポリフェニレンスルフィドモノフィラメントからなる繊維パッケージを得た。延伸工程では、まず糸条を非加熱のプレテンションロール(速度940m/min)に捲き取り、次のゴデッドロール1(速度970m/min、100℃)との間で、テンションを加えたのち、ゴデッドロール2(速度3110m/min、130℃)で本延伸と熱セットを施し、リラックス工程では、ゴデッドロール3(速度3100m/min、非加熱)で緩和させ、ワインダーの捲取張力0.4cN/dtexでワインダー(速度3100m/min)でボビンに捲き取った。ボビン形状は端面をテーパー状にしたパーン形状とし、捲幅200mm、テーパー角60°、綾角1°とした。
【0039】
〔実施例4〕
MFRが160g/10minのp-ポリフェニレンスルフィド樹脂を準備し、紡糸温度328℃で溶融した。溶融したポリフェニレンスルフィドを、孔を2個有する紡糸用口金(L/D=0.4mm/0.37mm)を用い、延伸後の繊度が13dtexとなる吐出量で吐出した。吐出したポリフェニレンスルフィドの糸条は、ユニフロー型冷却装置にて冷却し、未延伸糸を得た後、エマルション油剤を付与し、未延伸糸を一旦捲き取ることなく、延伸工程、リラックス工程を経て、ワインダーでボビンに捲き取り、13dtexのポリフェニレンスルフィドモノフィラメントからなる繊維パッケージを得た。延伸工程では、まず糸条を非加熱のプレテンションロール(速度920m/min)に捲き取り、次のゴデッドロール1(速度940m/min、103℃)の間で、テンションを加えた後、ゴデッドロール2(速度3110m/min、135℃)で本延伸と熱セットを施し、リラックス工程として、ゴデッドロール3(速度3100m/min、非加熱)で緩和させ、捲取張力0.3cN/dtexでワインダー(速度3100m/min)にて捲き取った。ボビン形状は端面をテーパー状にしたパーン形状とし、捲幅200mm、テーパー角60°、綾角1°とした。
【0040】
〔比較例7、8〕
捲幅を70mm、300mmに変更した以外は、実施例1と同様に、繊維パッケージを得た。
【0041】
〔実施例5〕
捲取速度を調整し、捲取張力を1.2cN/dtex、綾角を1.2°とする以外は、実施例1と同様に、繊維パッケージを得た。
【0042】
〔比較例9、10〕
捲取速度を調整し、捲取張力を0.05cN/dtex、0.65cN/dtexに変更した以外は、実施例1と同様に、ボビンへの捲き取りを試みた。
【0043】
〔比較例11、12〕
糸条への油脂付着率を0.1質量%、0.6質量%に変更した以外は、実施例1と同様に、繊維パッケージを得た。
【0044】
実施例1~5、比較例1~12のポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの製造条件、糸物性、各評価の結果について、表1に示す。
【0045】
【0046】
破断強度、破断伸度、5、10%モジュラスなどの物性、ボビン形状、ワインダー捲き取り時の捲取張力、糸条への油脂付着率などの捲き取り、捲幅、テーパー角、綾角などの捲取条件を制御することによって、得られた実施例1~5から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの繊維パッケージのモノフィラメントは、直接紡糸延伸法で製造でき、高強度で節の少ない品位の良いモノフィラメントであった。これらの繊維パッケージは、パッケージの捲き形状は良好で、捲き締まり、捲き崩れなどの形状不良がなく、解舒性も良いものであり、最内外層の熱収縮応力比も良く、均一で品位の良いものであった。また、テーパー部のあるパーン型パッケージに捲かれたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントから得られたメッシュ織物は、スカムの発生がなく、タテ及びヨコの糸切れの発生がなく、外観でも、ヒケやその他の要因による筋、太糸、光沢異常など、発生の無い品位の良いものであった。さらに、強度も十分あり、寸法安定性も良好でフィルターとしての耐久性の高い品位の良いものであった。
なかでも、実施例1、5のものは、繊維物性が良好で、ヒケ発生、筋などがなく、特に優れた性能を持つポリフェニレンスルフィドのメッシュ織物が得られた。
繊維パッケージがドラム型で、綾角が大きい比較例1から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの繊維パッケージは、ドラム型であることと綾角5°であるためと思われるが、トラバースの移動速度が速くなり、糸条がその勢いで外に流されやすくなり、綾落ちが発生しやすくなり、糸の解舒性が悪いパッケージとなった。製織の際にパッケージからの解舒性が悪いため、筋や糸切れが発生し、品位の良くないものになった。それに伴ってと思われるが、メッシュ性能もあまり良くないものであった。
繊維パッケージがドラム型の比較例2から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの繊維パッケージは、ドラム型であるためと思われるが、比較例1より軽減されたものの綾落ちが発生しやすくなり、糸の解舒性が悪いパッケージとなった。製織性はボビンからの少し解舒性が悪いため、筋や糸切れが発生し、品位の良くないものとなった。それに伴ってと思われるが、メッシュ性能もあまり良くなかった。
繊維パッケージがドラム型に近いパーン型の比較例3から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの繊維パッケージは、ドラム型に近いためと思われるが、比較例2より軽減されたものの綾落ちが発生しやすくなり、糸の解舒性が少し悪いパッケージとなった。製織性はボビンからの少し解舒性が悪いため、筋や糸切れが発生し、品位の良くないものとなった。それに伴って、メッシュ性能もあまり良くなかった。
テーパー角が非常に小さい比較例4から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの繊維パッケージは、捲き形状は良好だが、テーパー角が低いため、十分な捲き量を捲くことができず、コストが悪いことや生産効率が悪くなった。このため、製織時、捲量が少ないため、ボビン切り替えによる糸つなぎでのノットの混入や作業効率の低下をきたした。
綾角が非常に小さい比較例5から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの繊維パッケージは、捲き取りボビンの表面に寄り糸による筋が表面中央部に発生し、捲き取り中、発生し続けた。これによって、外観不良となり、解舒性が少し悪かった。このため、製織時、筋や糸切れが発生し、品位の良くないものとなった。メッシュ性能もあまり良くなかった。
綾角が大きい比較例6から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの繊維パッケージは、テーパー部に軽度の綾落ちが発生し、糸の解舒性が悪いパッケージとなった。このため、製織時、筋や糸切れが少し発生し、品位の良くないものとなった。メッシュ性能もあまり良くないものであった。
パッケージの捲幅が小さい比較例7から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの繊維パッケージは、捲き形状は良好だが、捲幅が低いため、十分な捲き量を捲くことができず、高コストとなり生産効率が悪くなった。このため、製織時、捲量が少ないため、ボビン切り替えによる糸つなぎでのノットの混入や作業効率の低下きたした。メッシュ性能は良好なものであった。
パッケージの捲幅が大きい比較例8から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの繊維パッケージは、捲き形状は良好だが、最内層の解舒時、ヒケが発生しやすくなり、製織後のメッシュ織物に筋が発生し、品位の悪いものになった。
ワインダーへの捲取張力の高い比較例9から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの繊維パッケージは、捲取張力が高いことにより、10%モジュラスが高くなり、1kg以上捲きとった時点で、ワインダーに捲き締まりが発生し、繊維パッケージを採取することができなかった。さらに、最内外層の熱収縮応力比が大きく崩れ、品位の悪いモノフィラメントとなった。
ワインダーへの捲取張力の低い比較例10から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの繊維パッケージは、捲取張力が低いことにより、GR3とワインダー間で糸が緩み、ワインダーに捲き付けることが難しく、繊維パッケージを採取することができなかった。
糸条への油脂付着率が少ない比較例11から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの繊維パッケージは、油脂付着率が少ないため、ゴデッドロール上の糸揺れによる糸切れが発生した。また繊維パッケージから解舒した糸条は、静電気の発生などがあり、製織工程通過性を低減させた。それに伴って、メッシュ性能もあまり良くないものであった。
糸条への油脂付着率が多い比較例12から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの繊維パッケージは、ボビンに捲かれた糸条が滑りやすくなるため、テーパー部から糸が落ちる綾落ちが発生し、外観不良となった。また、ボビンの解舒性が悪く、製織にて、筋や糸切れ、スカムが発生し、品位の悪いものとなった。それに伴って、メッシュ性能もあまり良くないものであった。
【0047】
このように、実施例1~5から得られたポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの繊維パケージは、捲き締まり、捲量不足、寄り糸、綾落ちの発生がなく、最内外層の品バラつきが小さく、製織時の解舒での糸切れもなく、製織でのヒケや解舒による筋、筬削れ、スカム、糸切れの発生が殆どなく、強度を合わせ持った高品位なものであった。得られた加工前及び後のメッシュ織物は、目ずれやヒケによる筋などの外観異常などが殆ど無い、寸法安定性に優れ、強度も併せ持っているので、高性能なフィルター用途に使用可能な高品位のものであった。