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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】血液処理システム
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/36 20060101AFI20240313BHJP
   A61M 1/16 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
A61M1/36 141
A61M1/36 111
A61M1/16 110
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020066680
(22)【出願日】2020-04-02
(65)【公開番号】P2021159574
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000138037
【氏名又は名称】株式会社メテク
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 理人
(72)【発明者】
【氏名】林 寛
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-214632(JP,A)
【文献】特開平03-131268(JP,A)
【文献】特開2002-119585(JP,A)
【文献】特開2019-092643(JP,A)
【文献】米国特許第04643714(US,A)
【文献】特開2007-167108(JP,A)
【文献】特開2010-253130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/36
A61M 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液浄化器と、
前記血液浄化器の入口部に一端が接続された脱血流路と、血液浄化器の出口部に一端が接続された返血流路と、を有する血液回路と、
前記血液回路の血液を圧送する血液ポンプと、
前記血液回路に接続され、前記血液回路内の気体を捕捉する気体捕捉部と、
一本の穿刺針が接続部材を介して脱血流路の他端と返血流路の他端の両方に接続された際に、前記接続部材内における前記脱血流路側及び前記返血流路側の気体が前記血液回路を流れて前記気体捕捉部に捕捉されるように前記血液ポンプを一時的に作動させる制御部と、を備えた、血液処理システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記一本の穿刺針が接続部材を介して前記脱血流路の他端と前記返血流路の他端の両方に接続された際に、前記血液ポンプを規定数回転させて止める、請求項1に記載の血液処理システム。
【請求項3】
前記気体捕捉部は、前記脱血流路に接続されており、
前記制御部は、前記一本の穿刺針が接続部材を介して前記脱血流路の他端と前記返血流路の他端の両方に接続された際に、前記接続部材内における前記脱血流路側及び前記返血流路側の気体が前記脱血流路側に向かって流れるように前記血液ポンプを作動させる、請求項1又は2に記載の血液処理システム。
【請求項4】
前記返血流路を開閉可能な開閉手段をさらに備え、
前記血液ポンプは、前記脱血流路に備えられ、
前記制御部は、前記接続部材内における前記脱血流路側及び前記返血流路側の気体が前記血液回路を流れて前記気体捕捉部に捕捉されるように前記開閉手段により前記返血流路を開放した状態で前記血液ポンプを一時的に作動させる、請求項1に記載の血液処理システム。
【請求項5】
前記制御部は、前記血液ポンプを一時的に作動させた後、患者からの血液を前記脱血流路に送るため前記開閉手段により前記返血流路を閉塞した状態で前記血液ポンプを作動させる、請求項4に記載の血液処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
透析治療には、血液処理システムが用いられている。血液処理システムは、血液浄化器と、患者の穿刺針と血液浄化器を接続する血液回路と、血液回路に設けられた血液ポンプなどを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公昭63-002630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の血液処理システムにおいて、脱血用と返血用の2本の穿刺針を用いて透析治療(いわゆるダブルニードル治療)を行うのが一般的であるが、1本の穿刺針を用いて透析処理(いわゆるシングルニードル治療)が行われることがある。例えば、通常の2本の穿刺針を用いた透析治療を施行していたところ、脱血あるいは返血が困難な状況に至った場合などには、脱血或いは返血の正常な側を活かして1本の穿刺針の透析治療に切り替える場合がある。このとき、血液回路の脱血側と返血側の2つの末端と1本の穿刺針との間に、新たにT型やY型の三方コネクタや三方活栓などの接続部材を取り付けて、血液回路の脱血側と返血側の2つの末端と穿刺針とを連通させる。
【0005】
ところで、上述のように血液回路に新たに接続部材を取り付けた際には、接続部材の内部の空気を抜くため、接続部材を患者の血液で満たす必要があり、その作業は作業者が手技で実施している。しかし、万一、作業者が接続部材を血液で満たすことを忘れてしまった場合や、作業者が作業を行ったが接続部材が血液で十分に満たされていないような場合には、接続部材内の空気が患者の体内に入る恐れがある。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、接続部材内の気体が患者の体内に入ることを防止する血液処理システムを提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、一本の穿刺針が接続部材を介して脱血流路と返血流路の両方に接続された際に血液ポンプを一時的に作動させることにより、上記問題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の態様を含む。
(1)血液浄化器と、前記血液浄化器の入口部に一端が接続された脱血流路と、血液浄化器の出口部に一端が接続された返血流路と、を有する血液回路と、前記血液回路の血液を圧送する血液ポンプと、前記血液回路に接続され、前記血液回路内の気体を捕捉する気体捕捉部と、一本の穿刺針が接続部材を介して脱血流路の他端と返血流路の他端の両方に接続された際に、前記接続部材内の気体が前記血液回路を流れて前記気体捕捉部に補足されるように前記血液ポンプを一時的に作動させる制御部と、を備えた、血液処理システム。
(2)前記制御部は、前記一本の穿刺針が接続部材を介して前記脱血流路の他端と前記返血流路の他端の両方に接続された際に、前記血液ポンプを規定数回転させて止める、(1)に記載の血液処理システム。
(3)前記気体捕捉部は、前記脱血流路に接続されており、前記制御部は、前記一本の穿刺針が接続部材を介して前記脱血流路の他端と前記返血流路の他端の両方に接続された際に、前記接続部材内の気体が前記脱血流路側に向かって流れるように前記血液ポンプを作動させる、(1)又は(2)に記載の血液処理システム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、接続部材内の気体が患者の体内に入ることを防止する血液処理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施の形態に係る血液処理システム1の構成の概略を示す説明図である。
図2】ダブルニードル処理における血液処理システム1の構成の概略を示す説明図である。
図3】シングルニードル制御への切り替えの際のプロセスを示すフロー図である。
図4】シングルニードル制御のプロセスを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態の一例について説明する。なお、本明細書における上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。
【0012】
図1は、本実施の形態に係る血液処理システム1の構成の概略を示す説明図である。血液処理システム1は、血液浄化器10と、血液回路11と、血液ポンプ12と、制御部13を主に備えている。
【0013】
血液浄化器10は、例えば中空糸膜の束を内蔵した中空糸モジュールであり、血液から不要成分を分離することができる。血液浄化器10の上部には、中空糸膜の管内空間(血液側)に通じる入口部20が設けられ、血液浄化器10の下部には、中空糸膜の管内空間(血液側)に通じる出口部21が設けられている。血液浄化器10の側部には、中空糸膜の管外空間(透析液側)に通じる入口部22と、出口部23が設けられている。入口部22には、透析液の供給流路が接続され、出口部23には、透析液の廃液流路が接続されている。
【0014】
血液回路11は、例えばチューブにより構成され、脱血流路30と返血流路31を有する。脱血流路30の一端30aは、血液浄化器10の入口部20に接続されている。脱血流路30の他端30bは、シングルニードル処理で使用する一本の穿刺針Aに通じる接続部材としてのT型の三方コネクタ50に接続することができる。また、脱血流路30の他端30bは、図2に示すようにダブルニードル処理で使用する脱血用の穿刺針Bに接続することもできる。
【0015】
図1に示すように脱血流路30には、例えば血液回路11内の気体を捕捉する気体捕捉部としての第1のドリップチャンバー40が接続されている。
【0016】
返血流路31の一端31aは、血液浄化器10の出口部21に接続されている。返血流路31の他端31bは、シングルニードル処理で使用する一本の穿刺針Aに通じるT型の三方コネクタ50に接続することができる。また、返血流路31の他端31bは、図2に示すようにダブルニードル処理で使用する返血用の穿刺針Cに接続することもできる。
【0017】
図1及び図2に示す返血流路31には、第2のドリップチャンバー60が接続されている。第2のドリップチャンバー60には、返血流路31内(第2のドリップチャンバー60内)の圧力を検出する圧力センサ61が取り付けられている。返血流路31には、返血流路31内の気泡を検出する気泡検知器62と、返血流路31を開閉するクランパ63が取り付けられている。第2のドリップチャンバー60、気泡検知器62及びクランパ63は、返血流路31の一端31aから他端31bに向かってこの順番で配置されている。圧力センサ61や気泡検知器62の検出結果は、制御部13に出力することができる。
【0018】
血液ポンプ12は、いわゆるチューブポンプであり、脱血流路30に取り付けられている。血液ポンプ12は、脱血流路30における第1のドリップチャンバー40よりも他端30b側に取り付けられている。血液ポンプ12は、回転体を回転させ、脱血流路30のチューブを外側から扱いて脱血流路30の液体を圧送することができる。
【0019】
制御部13は、例えばコンピュータであり、例えば記憶部に記憶されたプログラムをCPUで実行することによって、血液ポンプ12やクランパ63の動作を制御して、透析治療のための透析処理を実行することができる。制御部13は、一本の穿刺針Aが三方コネクタ50を介して脱血流路30の他端30bと返血流路31の他端31bの両方に接続された際に、三方コネクタ50内の気体が血液回路11を流れて第1のドリップチャンバー40に補足されるように血液ポンプ12を一時的に作動させる構成を有している。
【0020】
以下、血液処理システム1を用いた透析処理について説明する。
【0021】
例えば2本の穿刺針B,Cを用いた透析処理(ダブルニードル処理)を実行する際には、図2に示すように脱血流路30の他端30bに穿刺針Bが接続され、返血流路31の他端31bに穿刺針Cが接続される。そして、穿刺針Bが患者の動脈に穿刺され、穿刺針Cが患者の静脈に穿刺された状態で、血液ポンプ12を作動させる。これにより、患者の血液が脱血流路30を通って血液浄化器10に送られ、血液浄化器10から返血流路31を通って患者に戻される。このとき、血液浄化器10では、透析液が入口部22から中空糸膜の管外空間に供給され出口部23から排出される。血液が血液浄化器10の中空糸膜の管内空間を通過する際に、血液の不要成分が中空糸膜の管内空間側から管外空間側に排出され、血液が浄化される。
【0022】
そして、患者の脱血あるいは返血が困難な状況に至った場合などには、一本の穿刺針Aを用いた透析処理(シングルニードル処理)に切り替えられる。このとき、血液ポンプ12が停止され、クランパ63は閉じられている。そして、図1に示すように脱血流路30の他端30bと返血流路31の他端31bが三方コネクタ50に接続され、三方コネクタ50に一本の穿刺針Aが直接或いは間接的に接続される。図3は、このダブルニードル処理からシングルニードル処理への切り替えの際の制御部13による制御のプロセスを示すフロー図である。
【0023】
先ず、クランパ63を開放し(図3の工程S1)、血液ポンプ12を所定数、例えば1回だけ回転させる(工程S2)。これにより、三方コネクタ50内の気体(空気)が脱血流路30を通じて第1のドリップチャンバー40まで送られ補足される。
【0024】
次に血液ポンプ12を所定数回転させ停止させると、クランパ63を閉塞し(工程S3)、続いてシングルニードル制御(工程S4)を開始する。図4は、シングルニードル制御のプロセスを示すフロー図である。
【0025】
シングルニードル制御では、先ずクランパ63を閉じ(図4の工程T1)、血液ポンプ12を作動させる(工程T2)。これにより、患者の血液が、穿刺針Aから三方コネクタ50、脱血流路30を通って血液浄化器10に送られる。そして、圧力センサ61により検出される返血流路31側の圧力(静脈圧)が、予め設定されている切替の圧力上限値(切替圧上限値)よりも高くなると、血液ポンプ12を停止させる(工程T3)。続いてクランパ63を開放し(工程T4)、これにより、患者の血液が、返血流路31、三方コネクタ50を通って穿刺針Aから患者に戻される。そして、圧力センサ61により検出される返血流路31側の圧力(静脈圧)が、予め設定されている切替の圧力下限値(切替圧下限値)よりも低くなると、透析処理を終了するか、若しくは、再度クランパ63を閉塞し(工程T1)、血液ポンプ12を作動させて(工程T2)、上記工程T1~T4を繰り返す。こうして、患者の血液が浄化される。
【0026】
本実施の形態によれば、血液処理システム1が、一本の穿刺針Aが三方コネクタ50を介して脱血流路30と返血流路31の両方に接続された際に、三方コネクタ50内の気体が血液回路11を流れて第1のドリップチャンバー40に補足されるように血液ポンプ12を一時的に作動させる制御部13を備えている。これにより、血液回路11に三方コネクタ50を取り付けてシングルニードル処理を行う際に、三方コネクタ50内の気体が患者の体内に入ることを防止することができる。
【0027】
制御部13は、一本の穿刺針Aが三方コネクタ50を介して脱血流路30と返血流路31の両方に接続された際に、血液ポンプ12を規定数回転させて止めるので、三方コネクタ50内の気体を取り除く作業を簡単な制御で行うことができる。
【0028】
第1のドリップチャンバー40が脱血流路30に接続されており、制御部13は、一本の穿刺針Aが三方コネクタ50を介して脱血流路30と返血流路31の両方に接続された際に、三方コネクタ50内の気体が脱血流路30側に向かって流れるように血液ポンプ12を作動させる。これにより、三方コネクタ50内の気体を取り除く作業を短時間で行うことができる。
【0029】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0030】
例えば以上の実施の形態で記載したシングルニードル制御は、ダブルニードル制御から切り替えられたものであったが、本発明は、初めからシングルニードル制御を行う場合にも適用することができる。
【0031】
以上の実施の形態で記載した気体捕捉部としての第1のドリップチャンバー40は、血液回路11の返血回路31などの他の位置に接続されていてもよい。また、気体捕捉部は、同様の機能を有するものであれば、ドリップチャンバーでなくてもよい。血液回路11の構成も本実施の形態のものに限られない。接続部材は、三方コネクタ50に限られず、三方活栓等であってもよい。
【0032】
また、血液処理システム1の透析処理は、上記実施の形態で記載したものに限らず他のプロセスの透析処理であってもよい。本発明は、透析処理に限られず他の血液処理を行う血液処理システムにも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、接続部材内の気体が患者の体内に入ることを防止する血液処理システムを提供する際に有用である。
【符号の説明】
【0034】
1 血液処理システム
10 血液浄化器
11 血液回路
12 血液ポンプ
13 制御部
30 脱血流路
30a 脱血流路の一端
30b 脱血流路の他端
31 返血流路
31a 返血流路の一端
31b 返血流路の他端
40 第1のドリップチャンバー
50 三方コネクタ
A、B,C 穿刺針
図1
図2
図3
図4