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  • 特許-金属樹脂接合体の製造方法及び金型 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】金属樹脂接合体の製造方法及び金型
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20240313BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
B29C45/14
B29C45/26
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020086173
(22)【出願日】2020-05-15
(65)【公開番号】P2021178495
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 和樹
(72)【発明者】
【氏名】冨永 高広
(72)【発明者】
【氏名】三隅 正毅
(72)【発明者】
【氏名】中島 慎治
(72)【発明者】
【氏名】森元 海
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-320268(JP,A)
【文献】特開2013-233776(JP,A)
【文献】特開2016-150547(JP,A)
【文献】特開2018-111277(JP,A)
【文献】特開2019-104138(JP,A)
【文献】国際公開第2019/082983(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/14,45/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材と樹脂とを収容するための空間と、前記空間の内部と外部とを連通するベント口と、を備える金型の前記空間に金属部材を配置する工程と、
前記空間に溶融した樹脂を供給する工程と、を備え、
前記ベント口は前記空間内で前記金属部材と前記樹脂とが接する部分に設けられ、
前記ベント口の前記空間側の最小径が0.001mm~0.2mmであり、
前記樹脂は熱可塑性樹脂である、金属樹脂接合体の製造方法。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂はポリオレフィン系樹脂である、請求項1に記載の金属樹脂接合体の製造方法。
【請求項3】
前記ベント口はスリット状である、請求項1又は請求項2に記載の金属樹脂接合体の製造方法。
【請求項4】
前記金属部材は表面処理による凹凸構造を有する、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の金属樹脂接合体の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂は前記凹凸構造に入り込んだ状態になる、請求項4に記載の金属樹脂接合体の製造方法。
【請求項6】
金属部材と樹脂とを収容するための空間と、前記空間の内部と外部とを連通するベント口と、を備え、
前記ベント口は前記空間内で前記金属部材と前記樹脂とが接する部分に設けられ、
前記ベント口の前記空間側の最小径が0.001mm~0.2mmであり、
前記樹脂は熱可塑性樹脂である、金属樹脂接合体を製造するための、金型。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂はポリオレフィン系樹脂である、請求項6に記載の金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属樹脂接合体の製造方法及び金型に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形法のひとつであるインサート成形は、金属部材と樹脂部材とが接合して一体化された成形品を製造する方法である。インサート成形では一般に、金属部材を金型のキャビティ内に配置した状態で溶融した樹脂をキャビティ内に射出して、樹脂を成形するとともに金属部材との接合が行われる(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-49804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インサート成形により製造される成形品は、種々の用途に利用されている。しかしながら、冷却装置、電力変換装置などの金属部材と樹脂部材との接合面に高度な気密性が要求される分野では、金属部材と樹脂部材との接合強度のさらなる改善が求められている。
【0005】
本発明は上記事情に鑑み、金属部材と樹脂部材との接合強度に優れる金属樹脂接合体の製造方法、及び金属部材と樹脂部材との接合強度に優れる金属樹脂接合体を製造できる金型を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1>金属部材と樹脂とを収容するための空間と、前記空間の内部と外部とを連通するベント口と、を備える金型の前記空間に金属部材を配置する工程と、
前記空間に溶融した樹脂を供給する工程と、を備える金属樹脂接合体の製造方法。
<2>前記ベント口は前記空間内で前記金属部材と前記樹脂とが接する部分に設けられる、<1>に記載の金属樹脂接合体の製造方法。
<3>前記ベント口の前記空間側の最小径が0.001mm~0.2mmである<1>又は<2>に記載の金属樹脂接合体の製造方法。
<4>前記金属部材は表面処理による凹凸構造を有する、<1>~<3>のいずれか1項に記載の金属樹脂接合体の製造方法。
<5>前記樹脂は前記凹凸構造に入り込んだ状態になる、<4>に記載の金属樹脂接合体の製造方法。
<6>金属部材と樹脂とを収容するための空間と、前記空間の内部と外部とを連通するベント口と、を備える、金属樹脂接合体を製造するための、金型。
<7>前記ベント口は前記空間内で前記金属部材と前記樹脂とが接する部分に設けられる、<6>に記載の金型。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、金属部材と樹脂部材との接合強度に優れる金属樹脂接合体の製造方法、及び金属部材と樹脂部材との接合強度に優れる金属樹脂接合体を製造できる金型が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】金属樹脂接合体の製造方法に使用する金型の構成の一例を模式的に示す断面図である。
図2】金属樹脂接合体の製造方法に使用する金型の構成の一例を模式的に示す断面図である。
図3】実施例1で作製した金属樹脂接合体の金属部材と樹脂部材との界面の電子顕微鏡写真である。
図4】比較例1で作製した金属樹脂接合体の金属部材と樹脂部材との界面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値または下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値または下限値に置き換えてもよく、また、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、材料中の各成分の量は、材料中の各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、材料中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
【0010】
<金属樹脂接合体の製造方法>
本発明の金属樹脂接合体の製造方法は、金属部材と樹脂とを収容するための空間と、前記空間の内部と外部とを連通するベント口と、を備える金型の前記空間に金属部材を配置する工程と、前記空間に溶融した樹脂を供給する工程と、を備える金属樹脂接合体の製造方法である。
【0011】
上記方法によれば、金属部材と樹脂部材との接合強度に優れる金属樹脂接合体を製造することができる。その理由は必ずしも明らかではないが、下記のように考えられる。
金型の空間(キャビティ)に溶融した樹脂が供給されると、空間内部のガスが急速に圧縮される。さらに、金属部材の表面に凹凸構造が存在している場合は凹凸の窪みにガスが溜まりやすいことに加え、溜まったガスが邪魔をして、樹脂が金属部材表面の凹凸に侵入できなくなり、界面に隙間が生まれる。また、ガスの急速な圧縮に伴う断熱圧縮による熱により、樹脂の表面が高温となり、金属表面の凹凸に入りこんだ樹脂が分解してしまい、樹脂にボイドが発生することもある。その結果、金属部材と樹脂との接触面積が充分に得られず、充分な接合強度が得られにくい。
上記方法では、金型に空間との内部と外部とを連通するベント口が設けられている。このベント口から空間内部のガスを逃がすことで、金属部材と樹脂部材との界面における隙間やボイドの発生が抑制され、接合強度が向上する。
【0012】
上記方法で使用する金型は、金属部材と樹脂とを収容するための空間を備える(すなわち、インサート成形用の金型である)ものであり、かつ、空間の内部と外部とを連通するベント口を備えるものであれば、その構成は特に制限されない。
【0013】
金型におけるベント口の位置は、金属部材と樹脂との界面におけるガスを効率よく逃がす観点から、金型の空間内で金属部材と樹脂とが接する部分に設けられることが好ましい。
金型の空間内で「金属部材と樹脂とが接する部分」は、金属部材と樹脂との界面におけるガスを逃がすことができる部分全体を含む。すなわち、金属部材と樹脂との界面に相当する部分と、その近傍であって金属部材と樹脂との界面におけるガスを逃がすことができる部分とが「金属部材と樹脂とが接する部分」に含まれる。
【0014】
ある実施態様では、金属部材と樹脂との界面に相当する部分と、当該部分からの距離が100mm以内、好ましくは50mm以内、より好ましくは30mm以内の領域を「金属部材と樹脂とが接する部分」とする。
【0015】
金型に設けられるベント口の数は特に制限されず、1つでも複数であってもよい。
ベント口の形状は特に制限されず、スリット、貫通孔などであってもよい。また、ベント口は、穴開け加工等により形成されたものであっても、金型を構成する部材の間に隙間を設けることにより形成されたものであっても、その他の方法で形成されたものであってもよい。ベント口に入り込んだガスを効率よく排出するために、ベント口から入ったガスが、金型外部の大気へ逃げるようになっている構造を有していることが好ましい。
【0016】
金属部材と樹脂との界面におけるガスを効率よく逃がす観点からは、ベント口はスリット状であることが好ましく、金属部材と樹脂との界面に沿って延伸するスリット状であることがより好ましい。
【0017】
金属部材と樹脂との界面におけるガスを効率よく逃がす観点からは、ベント口の空間側の最小径(スリット状の場合は、スリット高さ)は0.001mm以上であることが好ましく、0.005mm以上であることがより好ましく、0.01mm以上であることがさらに好ましい。
【0018】
金型からの樹脂の漏出を抑制する観点からは、ベント口の空間側の最小径は0.2mm以下であることが好ましく、0.15mm以下であることがより好ましく、0.1mm以下であることがさらに好ましい。
【0019】
金型は、金属部材と樹脂とを収容するための空間のみを備えていても、その他の空間(たとえば、樹脂のみを収容するための空間)をさらに備えていてもよい。
【0020】
金型の内部に溶融した樹脂を供給する方法は特に制限されず、一般的なインサート成形の手法で行うことができる。
【0021】
金属樹脂接合体の製造方法について、図面を参照して説明する。
図1は金属樹脂接合体の製造方法に使用する金型の構成の一例を模式的に示す断面図である。図1に示す金型100は、内部に金属部材11と樹脂12とを収容するための空間10と、空間10の内部と外部とを連通するベント口13と、を備えている。
空間10に供給された樹脂12は、溶融した状態で矢印方向に流動する。これに伴い、空間10の内部のガスがベント口13を通じて空間10の外部に放出される。このため、金属部材11と樹脂12との界面にガスが溜まって、隙間やボイドが発生するのが抑制され、良好な接合強度が達成される。
図1に示す構成では、ベント口13が金属部材11と樹脂12との界面に相当する部分設けられているが、本発明の構成はこれに限られない。たとえば、図2に示すように、ベント口13が金属部材11と樹脂12との界面に相当する部分の近傍に設けられていてもよい。
【0022】
(金属部材)
金属樹脂接合体の製造に用いる金属部材の材質は特に制限されず、金属樹脂接合体の用途などに応じて選択できる。
金属部材の材質として具体的には、鉄、銅、ニッケル、金、銀、プラチナ、コバルト、亜鉛、鉛、スズ、チタン、クロム、アルミニウム、マグネシウム、マンガンおよび前記金属を含む合金(ステンレス、真鍮、リン青銅等)が挙げられる。
熱伝導性の観点からは、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅および銅合金が好ましく、銅および銅合金がより好ましい。
軽量化および強度確保の観点からは、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、およびマグネシウム合金がより好ましい。
【0023】
樹脂との接合強度を高める観点からは、金属部材は、少なくとも樹脂部材と接合する部分が表面処理による凹凸構造を有していることが好ましい。
金属部材が表面処理による凹凸構造を有していると、溶融した樹脂が凹凸構造に入り込んだ状態となり、接合強度が向上する傾向にある。
【0024】
金属部材の表面処理を行う方法は特に制限されず、公知の方法から選択してもよい。
たとえば、特許第4020957号に開示されているようなレーザーを用いる方法;NaOH等の無機塩基、またはHCl、HNO等の無機酸の水溶液に金属部材の表面を浸漬する方法;特許第4541153号に開示されているような、陽極酸化により金属部材の表面を処理する方法;国際公開第2015-8847号に開示されているような、酸系エッチング剤(好ましくは、無機酸、第二鉄イオンまたは第二銅イオン)および必要に応じてマンガンイオン、塩化アルミニウム六水和物、塩化ナトリウム等を含む酸系エッチング剤水溶液によってエッチングする置換晶析法;国際公開第2009/31632号に開示されているような、水和ヒドラジン、アンモニア、および水溶性アミン化合物から選ばれる1種以上の水溶液に金属部材の表面を浸漬する方法(以下、NMT法と呼ぶ場合がある);特開2008-162115号公報に開示されているような温水処理法;ブラスト処理等の粗化処理が挙げられる。粗化処理の方法は、金属部材の材質、所望の比表面積の値等に応じて使い分けることが可能である。
【0025】
上記方法の中でも、樹脂との接合強度を確保する観点からは、酸系エッチング剤による表面処理が好ましい。
酸系エッチング剤による処理としては、例えば、下記工程(1)~(4)をこの順に実施する方法が挙げられる。
【0026】
(1)前処理工程
金属部材の表面に存在する酸化膜や水酸化物等からなる被膜を除去するための前処理を行う。通常、機械研磨や化学研磨処理が行われる。接合側表面に機械油等の著しい汚染がある場合は、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液等のアルカリ性水溶液による処理や、脱脂を行ってもよい。
【0027】
(2)亜鉛イオン含有アルカリ水溶液による処理工程
水酸化アルカリ(MOH)と亜鉛イオン(Zn2+)とを質量比(MOH/Zn2+)1~100の割合で含む亜鉛イオン含有アルカリ水溶液中に、前処理後の金属部材を浸漬し、表面に亜鉛含有被膜を形成する。なお、前記MOHのMはアルカリ金属またはアルカリ土類金属である。
【0028】
(3)酸系エッチング剤による処理工程
工程(2)の後に、金属部材を、第二鉄イオンと第二銅イオンの少なくとも一方と、酸を含む酸系エッチング剤により処理して、金属部材の表面上の亜鉛含有被膜を溶離させると共に、ミクロンオーダーの凹凸形状を形成する。
【0029】
(4)後処理工程
上記工程(3)の後に、金属部材を洗浄する。通常は、水洗および乾燥操作からなる。スマット除去のために超音波洗浄操作を含めてもよい。
【0030】
金属部材と樹脂との接触面積を増大させる観点からは、表面処理を2回以上行ってもよい。例えば、上記工程(1)~(4)を実施して金属部材の表面にミクロンオーダーの凹凸構造(ベース粗面)を形成し、その後さらにナノオーダーの凹凸構造(ファイン粗面)を形成してもよい。
【0031】
金属部材の表面にベース粗面を形成した後にファイン粗面を形成する方法としては、例えば、ベース粗面が形成された金属部材を25℃における標準電極電位Eが-0.2超え0.8以下、好ましくは0超え0.5以下の金属カチオンを含む酸化性酸性水溶液と接触させる方法が挙げられる。
上記酸化性酸性水溶液は、上記Eが-0.2以下の金属カチオンを含まないことが好ましい。
25℃における標準電極電位Eが-0.2超え0.8以下である金属カチオンとしては、Pb2+、Sn2+、Ag、Hg2+、Cu2+等が挙げられる。これらの中では、金属の希少性の視点、対応金属塩の安全性・毒性の視点からは、Cu2+が好ましい。
Cu2+を発生させる化合物としては、水酸化銅、酸化第二銅、塩化第二銅、臭化第二銅、硫酸銅、硝酸銅などの無機化合物が挙げられ、安全性、毒性の視点、樹枝状層の付与効率の視点からは、酸化銅が好ましい。
【0032】
酸化性酸性水溶液としては、硝酸または硝酸に対し塩酸、弗酸、硫酸のいずれかを混合した酸が挙げられる。さらに、過酢酸、過ギ酸に代表される過カルボン酸水溶液を用いてもよい。酸化性酸性水溶液として硝酸を用い、金属カチオン発生化合物として酸化第二銅を用いる場合、水溶液を構成する硝酸濃度は、例えば10質量%~40質量%、好ましくは15質量%~38質量%、より好ましくは20質量%~35質量%である。また、水溶液を構成する銅イオン濃度は、例えば1質量%~15質量%、好ましくは2質量%~12質量%、より好ましくは2質量%~8質量%である。
【0033】
ベース粗面が形成された金属部材を酸化性酸性水溶液と接触させる際の温度は特に制限されないが、発熱反応を制御しつつ経済的なスピードで粗化を完結するために、例えば常温~60℃、好ましくは30℃~50℃の処理温度が採用される。この際の処理時間は、例えば1分~15分、好ましくは2分~10分の範囲にある。
【0034】
金属部材の表面処理により形成される凹凸構造の状態は、樹脂との接合強度を充分に得られるものであれば特に制限されない。
凹凸構造における凹部の平均孔径は、たとえば5nm~250μmであってよく、好ましくは10nm~150μmであり、より好ましくは15nm~100μmである。
また、凹凸構造における凹部の平均孔深さは、たとえば5nm~250μmであってよく、好ましくは10nm~150μmであり、より好ましくは15nm~100μmである。
凹凸構造における凹部の平均孔径または平均孔深さのいずれかまたは両方が上記数値範囲内であると、より強固な接合が得られる傾向にある。
【0035】
凹凸構造における凹部の平均孔径および平均孔深さは、電子顕微鏡またはレーザー顕微鏡を用いることによって求めることができる。具体的には、金属部材の表面および表面の断面を撮影する。得られた写真から、任意の凹部を50個選択し、それらの凹部の孔径および孔深さから、凹部の平均孔径および平均孔深さをそれぞれ算術平均値として算出することができる。
【0036】
必要に応じ、金属部材は、メッキ層を有していてもよい。メッキ層の効果や役割は様々であり、金属部材への導電性の付与、金属部材の溶接、防食性の付与等が挙げられる。例えば、導電性を付与するためのメッキ層は、金属部材の表面に絶縁性の皮膜が形成されて接触抵抗が生じるのを抑制するなどの効果がある。メッキ層の材質は特に制限されず、スズ(Sn)、亜鉛(Zi)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)等の公知の材料を使用することができる。メッキ層の厚みは特に制限されない。例えば、10nm~2,000μmの範囲であってもよい。
【0037】
金属部材がメッキ層を有する場合、金属部材の表面の全体にメッキ層を有していても、表面の一部にメッキ層を有していてもよい。
接触抵抗を抑制する観点からは、金属部材が少なくとも樹脂部材と接していない部分にメッキ層を有していることが好ましい。
樹脂部材との接合強度を確保する観点からは、金属部材が樹脂部材と接合している部分にメッキ層を有しないことが好ましい。
【0038】
(樹脂)
金属樹脂接合体の製造に用いる樹脂の種類は特に制限されず、金属樹脂接合体の用途などに応じて選択できる。
樹脂として具体的には、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン系樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ(メタ)アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、フッ素樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリケトン樹脂等の熱可塑性樹脂;
フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂;
オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマー(TPE);及びゴム等の熱硬化性エラストマーが挙げられる。
【0039】
金属樹脂接合体の製造に用いる樹脂は1種のみでも、2種以上の組み合わせであってもよい。2種以上の樹脂を組み合わせて使用する場合、すべての樹脂を金属部材と接合させても、2種以上のうち1種以上の樹脂を金属部材と接合させない構成としてもよい。たとえば、樹脂として第1の樹脂及び第2の樹脂を使用し、第1の樹脂を金属部材と接合させ、第2の樹脂を第1の樹脂と接合させてもよい。
【0040】
樹脂は、樹脂以外の成分と混合されてもよい。樹脂以外の成分としては、ガラス繊維、カーボン繊維、無機粉末等の充填材、熱安定剤、酸化防止剤、顔料、耐候剤、難燃剤、可塑剤、分散剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0041】
樹脂が樹脂以外の成分と混合されている場合、混合物全体に占める樹脂の割合は10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。
【0042】
<金型>
本発明の金型は、金属部材と樹脂とを収容するための空間と、前記空間の内部と外部とを連通するベント口と、を備える、金属樹脂接合体を製造するための、金型である。
【0043】
上記金型を用いて製造される金属樹脂接合体は、金属部材と樹脂部材との接合強度に優れている。
金型におけるベント口の位置は、金属部材と樹脂との界面におけるガスを効率よく逃がす観点から、金型の空間内で金属部材と樹脂とが接する部分に設けられることが好ましい。
上記金型、金属部材及び樹脂の詳細及び好ましい態様は、上述した金属樹脂接合体の製造方法における金型、金属部材及び樹脂の詳細及び好ましい態様と同様である。
上記金型を用いて製造される金属樹脂接合体の詳細及び好ましい態様は、上述した金属樹脂接合体の製造方法により製造される金属樹脂接合体の詳細及び好ましい態様と同様である。
【実施例
【0044】
以下、本発明に係る実施形態を、実施例を参照して詳細に説明する。なお本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0045】
<実施例1>
(1)金属部材の表面処理
JIS H4000に規定された合金番号A5052のアルミニウム合金板(厚み:2.0mm)を、長さ45mm、幅18mmに切断し、せん断接合強度測定用試験片を得た。
得られたアルミニウム試験片を脱脂処理した後、水酸化ナトリウムを19質量%と酸化亜鉛を3.2質量%とを含有するアルカリ系エッチング剤(30℃)が充填された処理槽にて、2分間浸漬(以下の説明では「亜鉛前処理」と略称する場合がある)後、水洗した。次いで、得られたアルミニウム合金板を、塩化第二鉄を3.9質量%と、塩化第二銅を0.2質量%と、硫酸を4.1質量%とを含有する酸系エッチング水溶液が充填された処理槽にて、30℃で6分間浸漬し搖動させた。次いで、流水で超音波洗浄(水中、1分)を行った。
【0046】
(2)金属樹脂接合体の作製
上記方法で得られたせん断接合強度測定用試験片を、日本製鋼所製の射出成形機J55-ADに装着された、図1に示すような構成の小型ダンベル金属インサート金型内に設置した。金属部材と金型との隙間(ベント口に相当)の高さは、0.05mmとした。
次いで、ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー製、V7100)を、シリンダー温度250℃、金型温度110℃、一次射出圧90MPa、保圧80MPa、射出速度25mm/秒の条件にて金型内に射出成形して、アルミニウム試験片の上に樹脂の層が形成された金属樹脂接合体を作製した。
【0047】
(3)接合強度の評価
接合強度の指標として、ISO19095に準拠した方法にて金属樹脂接合体のせん断接合強度を測定した。
具体的には、引張試験機「モデル1323(アイコーエンジニヤリング社製)」に専用の治具を取り付け、室温(23℃)、チャック間距離60mm、引張速度10mm/minの条件にて、金属樹脂接合体のせん断接合強度の測定を行った。測定結果は28MPaであり、破壊形態は材料破壊であった。
【0048】
<実施例2>
金属部材として厚みの異なるアルミニウム合金板を使用することで、金型と金属部材との隙間の高さを0.03mmとしたこと以外は実施例1と同様にして金属樹脂接合体を作製し、せん断接合強度を測定した。測定結果は27MPaであり、破壊形態は材料破壊であった。
【0049】
<実施例3>
金属部材として厚みの異なるアルミニウム合金板を使用することで、金型と金属部材との隙間の幅を0.01mmとしたこと以外は実施例1と同様にして金属樹脂接合体を作製し、せん断接合強度を測定した。測定結果は26MPaであり、破壊形態は材料破壊であった。
【0050】
<比較例1>
金属部材として厚みの異なるアルミニウム合金板を使用することで、金型と金属部材との隙間の幅を0mmとしたこと以外は実施例1と同様にして金属樹脂接合体を作製し、せん断接合強度を測定した。測定結果は15MPaであり、破壊形態は一部界面剥離であった。
【0051】
(4)接合界面の観察
実施例1及び比較例1で作製した金属樹脂接合体を切断し、金属部材と樹脂部材との界面を電子顕微鏡で観察した。
図3は実施例1で作製した金属樹脂接合体の金属部材と樹脂部材との界面の電子顕微鏡写真であり、図4は比較例1で作製した金属樹脂接合体の金属部材と樹脂部材との界面の電子顕微鏡写真である。図中の相対的に明度が高い領域が金属部材を示し、相対的に明度が低い領域が樹脂部材を示している。
図3に示すように、実施例1では金属部材と樹脂部材との界面に空隙(隙間、ボイド等)と認められる領域はほとんど観察されなかった。これに対し、比較例1では金属部材と樹脂部材との界面に空隙と認められる領域が観察された。
【0052】
以上の結果に示すように、ベント口を設けた金型を用いて作製した金属樹脂接合体は、ベント口を設けない金型を用いて作製した金属樹脂接合体に比べて金属部材と樹脂部材との接合強度に優れていた。また、電子顕微鏡観察の結果から、金属部材と樹脂部材との界面における空隙の発生が抑制されていることがその理由として考えられる。
【符号の説明】
【0053】
100…金型
10…空間
11…金属部材
12…樹脂
13…ベント口
図1
図2
図3
図4