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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】エスシタロプラム錠剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/343 20060101AFI20240313BHJP
   A61K 9/44 20060101ALI20240313BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240313BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
A61K31/343
A61K9/44
A61P43/00 111
A61P25/24
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020106937
(22)【出願日】2020-06-22
(65)【公開番号】P2022001562
(43)【公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】591040753
【氏名又は名称】東和薬品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大礒 裕輝
(72)【発明者】
【氏名】堤 雄洋
(72)【発明者】
【氏名】中村 慶吾
(72)【発明者】
【氏名】北田 幸二
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第99/051207(WO,A1)
【文献】特表2011-526582(JP,A)
【文献】国際公開第2010/032717(WO,A1)
【文献】特開2008-208078(JP,A)
【文献】特表2005-525993(JP,A)
【文献】国際公開第2018/190294(WO,A1)
【文献】特表2011-520798(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
9/00-9/72
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エスシタロプラムまたはその薬学的に許容される塩を含む錠剤であって、
表面側からの投影形状が長円である胴部を有し、
上記長円の長軸と短軸が対称軸であり、
上記胴部の表面側に、上記長円の中心から長軸の両端部にかけて左右対称の隆起部を有し、
上記隆起部の最大高さの位置の上記短軸からの距離が、上記短軸から端部までの長さの2分の1よりも長く、
上記隆起部から上記胴部にかけて、その中心が上記短軸上にあるV字割線を有し、
上記長軸長さが8mm以上、15mm以下、上記短軸長さが3mm以上、8mm以下であり、
上記2つの隆起部にわたる上記V字割線の最大幅が1.1mm以上、1.4mm以下であり、
上記V字割線のV字先端部の角度が75°以上、110°以下であり、
上記胴部の表面側からの上記隆起部の最大高さが1.1mm以上、1.4mm以下であることを特徴とするエスシタロプラム錠剤。
【請求項2】
上記胴部の表面側の周縁に幅が0.05mm以上、0.4mm以下の平坦部を有する請求項1に記載のエスシタロプラム錠剤。
【請求項3】
上記胴部の裏面側にドーム部を有する請求項1または2に記載のエスシタロプラム錠剤。
【請求項4】
上記胴部の裏面側の周縁に幅が0.05mm以上、0.4mm以下の平坦部を有する請求項3に記載のエスシタロプラム錠剤。
【請求項5】
上記胴部の裏面側からの上記ドーム部の最大高さが0.4mm以上、1.0mm以下である請求項3または4に記載のエスシタロプラム錠剤。
【請求項6】
上記胴部の厚さが1.3mm以上、2.0mm以下である請求項1~5のいずれかに記載のエスシタロプラム錠剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容易に分割することができるエスシタロプラム錠剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セロトニンは生理活性アミンの一種で、中枢神経系の伝達物質として働き、脳機能の調節において重要な役割を果たすと考えられている。特にうつ病との関連が知られており、うつ病の罹患歴のある被験者では、トリプトファンの欠乏によって実験的に一過性のセロトニンレベルの低下を生じさせると抑うつ気分が生じる。
【0003】
生体内のセロトニンは必須アミノ酸のトリプトファンから合成され、開口放出によって細胞外に放出されたセロトニンは標的細胞の受容体を活性化してその効果を発揮した後、セロトニントランスポーターによって細胞内に取り込まれる。よって、セロトニンの再取り込みを阻害する薬剤は、セロトニンの細胞外濃度を維持または上昇させる。エスシタロプラム[(1S)-1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-1-(4-フルオロフェニル)-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボニトリル]は、選択的なセロトニン再取り込み阻害作用を示し、脳内での細胞外セロトニン濃度を持続的に上昇させることによりセロトニン神経系を賦活化し、抗うつ作用を示すと考えられる(非特許文献1)。
【0004】
特に抗うつ錠剤の場合、投与量の調整のため、分割可能に成型される場合がある。特許文献1には、容易に且つ均等に分割可能であるといった特性を有する錠剤として、断面V形の割溝を有しておらず、摩損や欠損の起端となるエッジや角部を有しない分割可能な錠剤が開示されている。特許文献2には、分割するための割線が少なくとも一つの表面に設けられ、割線が設けられた表面側からの投影形状が楕円形であり、割線が設けられた表面が楕円の中心方向に向かって隆起した形状を有する錠剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-36159号公報
【文献】特開2013-127008号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】レクサプロ(登録商標)錠添付文書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、分割可能な錠剤は知られている。しかし例えば特許文献1に記載の錠剤は、V字割線を有さないものであるが、V字割線が無いと割り難い傾向があることは否めない。また、特許文献2に具体的に開示されている錠剤は、両面に隆起部とV字割線を有するものであるが、錠剤を分割する際にはV字割線がある面を下にしてテーブルや手の平などにおいて裏面から力を加えるのが一般的であり、両面に隆起部とV字割線のある錠剤は決して割り易いものではない。更に、分割可能錠剤が記載されている特許文献1と特許文献2には、主剤としてエスシタロプラムは記載されていない。
そこで本発明は、容易に分割することができるエスシタロプラム錠剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、特に錠剤の形状と分割のし易さとの関係を明らかにし、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0009】
[1] エスシタロプラムまたはその薬学的に許容される塩を含む錠剤であって、
表面側からの投影形状が長円である胴部を有し、
上記長円の長軸と短軸が対称軸であり、
上記胴部の表面側に、上記長円の中心から長軸の両端部にかけて左右対称の隆起部を有し、
上記隆起部の最大高さの位置の上記短軸からの距離が、上記短軸から端部までの長さの2分の1よりも長く、
上記隆起部から上記胴部にかけて、その中心が上記短軸上にあるV字割線を有し、
上記長軸長さが8mm以上、15mm以下、上記短軸長さが3mm以上、8mm以下であり、
上記2つの隆起部にわたる上記V字割線の最大幅が1.1mm以上、1.4mm以下であり、
上記V字割線のV字先端部の角度が75°以上、110°以下であり、
上記胴部の表面側からの上記隆起部の最大高さが1.1mm以上、1.4mm以下であることを特徴とするエスシタロプラム錠剤。
[2] 上記胴部の表面側の周縁に幅が0.05mm以上、0.4mm以下の平坦部を有する上記[1]に記載のエスシタロプラム錠剤。
[3] 上記胴部の裏面側にドーム部を有する上記[1]または[2]に記載のエスシタロプラム錠剤。
[4] 上記胴部の裏面側の周縁に幅が0.05mm以上、0.4mm以下の平坦部を有する上記[3]に記載のエスシタロプラム錠剤。
[5] 上記胴部の裏面側からの上記ドーム部の最大高さが0.4mm以上、1.0mm以下である上記[3]または[4]に記載のエスシタロプラム錠剤。
[6] 上記胴部の厚さが1.3mm以上、2.0mm以下である上記[1]~[5]のいずれかに記載のエスシタロプラム錠剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る錠剤の主剤であるエスシタロプラムまたはその塩は抗うつ作用を示すが、うつ病患者では抗うつ剤の投与により自殺念慮や自殺企図のリスクが増加するとの報告があるため、本発明に係る錠剤も、患者の症状などを慎重に観察しつつ、分割などにより服用量を細やかに調整する必要がある。本発明に係る錠剤は、2つに分割し易く、分割に際して患者などにストレスを与え難く、また、分割された錠剤間での質量差が小さく、且つ分割による損失量も小さい。よって本発明に係るエスシタロプラム錠剤は、分割し易い抗うつ薬として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明に係るエスシタロプラム錠剤の一態様の上面からの模式図である。
図2図2は、本発明に係るエスシタロプラム錠剤の一態様の側面からの模式図である。
図3図3は、本発明に係るエスシタロプラム錠剤の一態様の側面からの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るエスシタロプラム錠剤は、エスシタロプラムまたはその薬学的に許容される塩を含む。
【0013】
エスシタロプラムの化学名は(1S)-1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-1-(4-フルオロフェニル)-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボニトリルであり、エスシタロプラムは以下の化学構造を有し、セロトニン(5-HT)再取り込み阻害作用を示し、脳内での細胞外5-HT濃度を持続的に上昇させることにより5-HT神経系を賦活化し抗うつ作用を示す。
【0014】
【化1】
【0015】
エスシタロプラムは、薬学的に許容される塩の形態で医薬組成物に配合されていてもよい。エスシタロプラムと塩を形成する酸は、薬学上許容されるものであれば特に制限されないが、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、過塩素酸、リン酸などの無機酸;シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、安息香酸、トリフルオロ酢酸、酢酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、グルタミン酸やアスパラギン酸などの酸性アミノ酸などの有機酸が挙げられる。また、エスシタロプラムおよびその塩は、水和物の形態で医薬組成物に配合されていてもよい。
【0016】
原料であるエスシタロプラムおよびその塩の大きさは、適宜調整すればよい。例えば平均粒子径を5μm以上、200μm以下とすることができ、10μm以上、100μm以下が好ましい。よって、エスシタロプラムおよびその塩は、事前に粉砕することが好ましい。なお、本開示において平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により体積基準で測定するものとする。
【0017】
本発明に係る錠剤におけるエスシタロプラムおよびその塩の量や割合は、エスシタロプラムがその作用効果を発揮可能な範囲で適宜調整すればよい。例えば、1錠あたりのエスシタロプラムの量としては、1mg以上、100mg以下とすることができ、5mg以上、50mg以下が好ましく、10mgまたは50mgがより好ましい。また、医薬組成物におけるエスシタロプラムまたはその塩の割合は、1質量%以上、50質量%以下とすることができ、2質量%以上、20質量%以下が好ましく、5質量%以上、10質量%以下がより好ましい。
【0018】
本発明に係るエスシタロプラム錠剤には、主剤であるエスシタロプラムまたはその塩に加えて、錠剤に配合される一般的な成分を配合してもよい。かかる錠剤成分としては、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤が挙げられる。
【0019】
賦形剤は、製剤の成形性や服用し易さの向上のために主剤を希釈したり製剤を増量するために配合される添加剤である。賦形剤としては、例えば、結晶セルロース、乳糖、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、マンニトール、デキストリン、白糖などが挙げられる。
【0020】
錠剤における賦形剤の量は適宜調整すればよいが、例えば、素錠全体に対して50質量%以上、90質量%以下とすることができ、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。
【0021】
結晶セルロースは硬度が比較的高く、錠剤に配合することにより錠剤強度を高めることが可能になる。例えば、ケイ酸で処理した結晶セルロース(「PROSOLV(R) SMCC」等)を配合すれば、低打錠圧で硬度の高い錠剤が得られる。しかし、ケイ酸処理結晶セルロースのみでは硬度が高くなり過ぎるおそれがあるため、錠剤に賦形剤として結晶セルロースを配合する場合、ケイ酸処理結晶セルロースまたは平均粒子径が比較的大きい結晶セルロースと、無処理結晶セルロースまたは平均粒子径が比較的小さい結晶セルロースを併用することが好ましい。これらの混合割合は適宜調整すればよいが、例えば、無処理結晶セルロースまたは平均粒子径が比較的小さい結晶セルロースに対してケイ酸処理結晶セルロースまたは平均粒子径が比較的大きい結晶セルロースを1質量倍以上、4質量倍以下用いることができる。当該混合割合は、1.5質量倍以上が好ましく、また、3質量倍以下が好ましく、2.5質量倍以下がより好ましい。上記平均粒子径は、カタログ値があればそれを参照すればよいが、例えば体積平均粒子径を実測すればよい。
【0022】
崩壊剤は、水分を取り込んで錠剤の崩壊を促進させ、有効成分が放出され易くするために配合される成分である。崩壊剤としては、特に制限されないが、例えばクロスカルメロースナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等が挙げられる。
【0023】
本発明錠剤における崩壊剤の量や割合は、錠剤が服用後に良好に崩壊する範囲で適宜調整すればよい。例えば、素錠全体に対して0.5質量%以上、10質量%以下とすることができ、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、また、5質量%以下が好ましい。
【0024】
結合剤は、各成分を結合し、錠剤の強度を増すために加えられる成分である。結合剤としては、特に制限されないが、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、エチルセルロース等を用いることができる。なお、ヒドロキシプロピルセルロースは、上記で賦形剤として例示されているが、結合剤としての作用も示す。
本発明錠剤における結合剤の量や割合は、所望の錠剤強度などに応じて適宜調整すればよい。例えば、素錠全体に対して1質量%以上、10質量%以下とすることができる。当該割合としては、2質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、また、6質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。なお、結合剤は配合しなくてもよい。
【0025】
滑沢剤は、各成分の表面に付着してその流動性を高めたり、各成分の装置への付着を抑制するために加えられる成分である。滑沢剤としては、特に制限されないが、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、水素添加植物油、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等を用いることができ、主剤であるエスシタロプラムまたはその塩の安定性の観点からステアリン酸マグネシウムが好ましい。
【0026】
滑沢剤の量や割合は、打錠が良好に行える範囲で適宜調整すればよい。例えば、素錠全体に対して0.1質量%以上、5質量%以下とすることができる。当該割合としては、0.2質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、また、2質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がより好ましい。
【0027】
本発明に係るエスシタロプラム錠剤は、素錠の表面にフィルムコーティング層を有するフィルムコーティング錠剤であってもよい。
錠剤のフィルムコーティング層は、皮膜形成剤として、一般的に、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、タルク、イーストラップ、シェラック、ツェイン等を含む。フィルムコーティング層100質量%における皮膜形成剤の割合は、例えば、30質量%以上、80質量%以下とすることができる。
【0028】
錠剤を被覆するフィルムコーティング層は、皮膜に可塑性を付与してフィルムコーティング層の強度を高めるため一般的に可塑剤を含む。フィルムコーティング層の可塑剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリエチレングリコール、コポリビドン等が挙げられる。フィルムコーティング層100質量%における可塑性の割合は、例えば、1質量%以上、20質量%以下とすることができる。
【0029】
錠剤を被覆するフィルムコーティング層にも、滑沢剤を配合してもよい。フィルムコーティング層の滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、水素添加植物油、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等を用いることができる。フィルムコーティング層100質量%における滑沢剤の割合は、例えば、1質量%以上、20質量%以下とすることができる。
【0030】
フィルムコーティング層には、色素を配合してもよい。フィルムコーティング層を色素で着色することにより、錠剤の意匠性が改善されたり、また有効成分であるエスシタロプラムまたはその塩の安定性がより一層向上する可能性がある。色素としては酸化チタン、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、酸化亜鉛などの金属酸化物;タルク;硫酸バリウム等が挙げられ、金属酸化物が好ましく、酸化チタンがより好ましい。フィルムコーティング層100質量%における色素の割合は、例えば、0.1質量%以上、10質量%以下とすることができる。
【0031】
本発明に係るエスシタロプラム錠剤(以下、「本発明錠剤」と略記する)は、錠剤を分割するためのV字割線を一方の面に有し、V字割線を有する表面側からの投影形状が長円である胴部を有する。
【0032】
図1に、V字割線を有する表面側から見た本発明錠剤の平面図を示し、図2に、図1の矢印A側から見た本発明錠剤の長軸を含む厚さ方向の断面の図を示し、図3に、図1の矢印B側から見た本発明錠剤の短軸を含む厚さ方向の断面の図を示し、図4に、割線を有さない裏面側から見た本発明錠剤の平面図を示す。
【0033】
胴部3は、本発明錠剤の表面側の隆起部と裏面側のドーム部を除いた長円板部分をいう。胴部の表面側または裏面側からの投影形状は長円である。長円とは、二点からの距離の和が一定である点の軌跡である楕円に限られず、角部、長辺または短辺の1以上がR(アール)を有するいわゆる角丸長方形や、長軸と短軸の長さが等しい円や角丸正方形も含まれる。但し、分割のし易さから、短軸長さr2よりも長軸長さr1の方が長い方が好ましく、短軸長さr2に対する長軸長さr1(r1/r2)としては、1.5以上、2.5以下が好ましく、1.8以上、2.2以下がより好ましく、2以上がより更に好ましい。
【0034】
胴部厚さtは、1.3mm以上、2.0mm以下とすることができ、1.5mm以上が好ましく、1.7mm以上がより好ましい。
【0035】
胴部の表面形状である長円においては、長軸1と短軸2が対称軸である。対称軸とは、一つの直線を軸にして図形が線対称であるときのその直線をいい、即ち、上記長円を長軸1または短軸2で分割して得られる2つの図形が同一であり、長軸1または短軸2を介して重ね合わせられる。上記長円の長軸1と短軸2が対称軸である結果、本発明錠剤を割線で分割した場合、得られる2つの分割錠剤の重量は同一または略同一となる。
【0036】
長軸1の長さr1は、8mm以上、15mm以下であり、短軸2の長さr2は、3mm以上、8mm以下である。長軸1の長さr1としては、9mm以上、14mm以下が好ましく、短軸2の長さr2は、4mm以上、7mm以下が好ましい。
【0037】
胴部3の表面側には、上記長円の中心から長軸の両端部にかけて左右対称の隆起部4を有する。かかる隆起部4により、本発明錠剤は割線において分割され易くなっている。長円の中心とは、長円の長軸と短軸との交点をいう。長円の中心から長軸の両端部にかけて隆起部が左右対称であるとは、例えば本発明錠剤の長軸を含む厚さ方向の断面である図2において、上記長円の短軸を通る厚さ方向の線に対して、隆起部の断面形状が線対称であることをいう。その結果、本発明錠剤を割線で分割した場合、得られる2つの分割錠剤の重量は同一または略同一となる。また、服用し易さの観点からは、上記長円の中心から短軸の両端部にかけての隆起部4の形状も左右対称であることが好ましい。
【0038】
隆起部4の最大高さの位置6の短軸2からの距離l2は、短軸2から端部までの長さl1の2分の1よりも端部側にある。即ち、上記長円の長軸に平行な厚さ方向の断面における隆起部の最大高さ位置は、両端部に偏在している。その結果、本発明錠剤は、割線で分割し易くなっている。
【0039】
胴部3の表面側からの隆起部4の最大高さh1は、1.1mm以上、1.4mm以下である。当該最大高さh1が1.1mm以上であることで、本発明錠剤は割線で分割し易い。当該最大高さh1が高過ぎると、錠剤の平面形状の大きさに対して錠剤の全体厚さが高くなり過ぎてかえって分割し難くなるおそれがあるため、当該最大高さh1としては1.4mm以下が好ましい。
【0040】
隆起部4は、錠剤の服用し易さの観点から、角を有さないことが好ましい。即ち、隆起部は、図2に示すように長軸方向の断面において、また、図3に示すように短軸方向の断面において、2以上のR(アール)を有することが好ましい。
【0041】
本発明錠剤は、隆起部4から胴部3にかけて、その中心が短軸2の上にあるV字割線7を有する。V字割線7は、隆起部4から胴部3までわたっており、当然に短軸2を中心とする2つの隆起部4にわたっており、その最大幅w1が1.1mm以上、1.4mm以下であり、且つそのV字先端部の角度θが75°以上、110°以下である。V字割線7の最大幅w1が1.1mm以上、1.4mm以下で且つV字先端部の角度θが75°以上、110°以下であれば、本発明錠剤は割線で分割し易い。V字割線7の幅とは、長軸1に平行な直線と、V字割線7のV字先端部とは反対側の端部と隆起部4の表面との境界部との2つの交点間の距離をいう。また、V字割線7の最大幅を規定したのは、隆起部4が短軸方向にR(アール)を有する場合、図1に示すように、V字割線7の形状、即ちV字割線7と隆起部4との境界の形状は葉状となり、V字割線7の幅は一定でないことによる。
【0042】
V字割線7のV字先端部も、R(アール)を有していてもよい。なお、V字割線7のV字先端部がR(アール)を有していても、V字割線7を構成する隆起部4の側面の断面が直線である限り、V字先端部の角度θの測定または同定は可能である。
【0043】
胴部3の表面側の周縁には、幅w2が0.05mm以上、0.4mm以下である平坦部を設けてもよい。当該平坦部は、胴部3の表面側周縁において、0.05mm以上、0.4mm以下の幅w2にわたって隆起部4を有さない部分であるともいえる。当該幅w2としては、0.3mm以下が好ましく、0.2mm以下がより好ましい。
【0044】
V字割線を有する表面側の反対側、即ちV字割線を有さない裏面側には、ドーム部5を有していてもよい。ドームとは、一般に円形または円形に近い水平断面を有する局所的に上方にもり上がった構造をいう。ドーム部5も、錠剤の服用し易さの観点から、角を有さないことが好ましい。即ち、ドーム部5は、図2に示すように長軸方向の断面において、また、図3に示すように短軸方向の断面において、2以上のR(アール)を有することが好ましい。
【0045】
胴部3の裏面側からのドーム部5の最大高さとしては、0.4mm以上、1.0mm以下が好ましい。また、胴部3の裏面側の周縁にも、幅w3が0.05mm以上、0.4mm以下である平坦部を設けてもよい。当該幅w3としては、0.3mm以下が好ましく、0.2mm以下がより好ましい。
【0046】
本発明錠剤は、常法により製造することができる。具体的には、主剤であるエスシタロプラムまたはその塩と、賦形剤、崩壊剤、結合剤などをよく混合し、更に滑沢剤を混合するか、或いは打錠機の杵に滑沢剤を付けた後、打錠すればよい。更にコーティングする場合には、コーティング成分を精製水などの溶媒に溶解または分散させ、得られた溶液または分散液を素錠に吹き付け、乾燥した後に冷却すればよい。
本発明錠剤の投与量は、患者の症状、重篤度、年齢、性別などに応じて適宜調整すればよいが、例えば、エスシタロプラムの投与量に換算して、1日あたり5mg以上、20mg以下を1回投与すればよい。
【実施例
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0048】
実施例1: エスシタロプラム錠剤の製造
表1に示す組成で、エスシタロプラムシュウ酸塩、ケイ酸処理結晶セルロース、結晶セルロース、およびクロスカルメロースナトリウムを混合した後、ステアリン酸マグネシウムを添加して混合し、製錠することにより、エスシタロプラム10mgを含有する質量110mgの素錠を得た。この素錠にヒプロメロース、ヒドロキシプロピルセルロース、酸化チタン、タルクを溶解または分散させたフィルムコーティング液をスプレーし、図1に示す形状を有する質量115mgのフィルムコーティング錠を得た。
【0049】
【表1】
【0050】
得られた錠剤の大きさは以下の通りである。
胴部長軸(r1): 10.0mm
胴部短軸(r2): 4.6mm
胴部厚さ(t): 1.4mm
隆起部最大高さ(h1): 1.2mm
V字割線角度(θ): 90°
V字割線最大幅(w1): 1.2mm
表面側周縁平坦部幅(w2): 0.2mm
裏面側ドーム部最大高さ(h2): 0.67mm
裏面側周縁平坦部幅(w3): 0.2mm
短軸から端部までの長さ(l1): 5.0mm
隆起部の最大高さの位置の上記短軸からの距離(l2): 3.73mm
【0051】
比較例1: エスシタロプラム錠剤の製造
隆起部最大高さ(h1)を0.974mmと低くした以外は実施例1と同様にして、エスシタロプラム錠剤を製造した。
【0052】
比較例2: エスシタロプラム錠剤の製造
V字割線の最大幅(w1)を1.0mmと狭くした以外は比較例1と同様にして、エスシタロプラム錠剤を製造した。
【0053】
比較例3: エスシタロプラム錠剤の製造
V字割線角度(θ)を124°に広げた以外は比較例1と同様にして、エスシタロプラム錠剤を製造した。
【0054】
試験例1: 分割性評価
2枚の金属板を間隔2mmで対向させた3点曲げ治具の上に、板面方向に長軸方向が直交し、割線を有する表面側が下になるように実施例1および比較例1~3で製造した素錠を置き、治具の圧子を素錠の割線に平行に当たるように設置し、小型万能試験機(「テクスチャーアナライザーTA.XT plusC」英弘精機社製)を用い、1mm/secの速度で圧子を下降させ、素錠が破断した際の荷重を破断強度として測定した。
また、分割後、各分割片を正確に秤量し、両者の質量差を求めた。
測定は素錠毎に10例行い、その平均値と標準偏差を求めた。結果を表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
比較例3はV字割線角度(θ)を90°から124°に変更した例であるが、破断強度が高く割れ難いものである上に、分割後の分割片の質量差が大きいものであることが示された。
比較例1は隆起部最大高さ(h1)を低くし、比較例2はV字割線の最大幅(w1)を狭くした例であり、その破断強度は有意に高くなってはいないが、分割後の2つの分割片の質量差が比較的大きく、依然として問題があった。
それに対して本発明に係る実施例1の素錠は、分割時の破断強度が小さく分割し易いものである上に、分割後の分割片の質量差も小さいものであった。
【0057】
試験例2: 分割性評価
20歳代から50歳代の男性5名と20歳代の女性1名に、割線を有する表面側が下になるようテーブル上に置いた実施例1および比較例1~3の錠剤を上から親指で押すことにより錠剤をそれぞれ6個ずつ分割してもらい、割り易い1から割り難い5までの5段階で評価してもらった。
また、分割後、各分割片を正確に秤量し、両者の質量差を求めた。
更に、分割後、下記式により分割後の損失率を求めた。結果を表3に示す。
分割後損失率(%)=100-[(分割後錠剤の質量の和)/(分割前錠剤の質量)]×100
【0058】
【表3】
【0059】
表3に示される結果の通り、割線を有する表面側の隆起部高さが比較的高い実施例1の錠剤は、「割り易い」と感じられるようであった。
V字割線幅が比較的狭い比較例2の錠剤と、V字割線角度が比較的広い比較例3の錠剤では、分割後の質量差が大きかった。分割後の質量差は、割線を有する表面側の隆起部高さが比較的低い比較例1の錠剤で最も小さかったが、実施例1の錠剤はそれに次いだ。
分割後の損失率に関しては、実施例1の錠剤が最も低かった。この結果は、上記の割り易さと関連して、錠剤が割線部で乱れなく2つに分割されたことを示すといえる。
【符号の説明】
【0060】
1: 長円の長軸
2: 長円の短軸
3: 胴部
4: 隆起部
5: ドーム部
6: 隆起部の最大高さの位置
7: V字割線部
r1: 長軸長さ
r2: 短軸長さ
l1: 短軸から長軸方向端部までの長さ
l2: 隆起部の最大高さの位置の短軸からの距離
t: 胴部厚さ
θ: V字割線角度
w1: V字割線の最大幅
w2: 胴部の表面側の周縁の平坦部幅
w3: 胴部の裏面側の周縁の平坦部幅
h1: 胴部の表面側の隆起部の最大高さ
h2: 胴部の裏面側のドーム部の最大高さ
図1
図2
図3