(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】回転機械の診断装置、診断方法及び診断プログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/34 20200101AFI20240313BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20240313BHJP
【FI】
G01R31/34 A
G01M99/00 A
(21)【出願番号】P 2020130180
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】知識 陽平
(72)【発明者】
【氏名】立石 浩毅
(72)【発明者】
【氏名】園田 隆
【審査官】永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-2785(JP,A)
【文献】特開2015-227889(JP,A)
【文献】特開2005-241089(JP,A)
【文献】国際公開第2019/049188(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/020545(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0033580(US,A1)
【文献】岸野 光佑 ほか,稼動電動機の確率的巻線短絡故障診断システムの提案,電気学会論文誌C,日本,一般社団法人電気学会,2012年12月01日,Vol.132 No.12,p.1913-1918
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/34
G01M 99/00
H02P 29/024
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ又は発電機を含む回転機械の回転時に計測された電流の電流波形から前記電流の特徴をそれぞれ示す複数の特徴量を取得するように構成された特徴量取得部と、
前記複数の特徴量の各々の分布又は前記複数の特徴量の多次元分布と、前記回転機械の正常時における前記複数の特徴量の各々の基準分布又は基準多次元分布との乖離に基づいて、前記回転機械の異常判定をするように構成された異常判定部と、
を備え
、
前記異常判定部は、前記複数の特徴量の確率分布と、前記正常時の前記複数の特徴量の基準確率分布との距離をそれぞれ取得し、取得した複数の前記距離に基づいて前記回転機械の異常判定をするように構成された
回転機械の診断装置。
【請求項2】
前記異常判定部は、前記複数の距離のうち最大のものを用いて、前記回転機械の異常判定をするように構成された
請求項
1に記載の回転機械の診断装置。
【請求項3】
モータ又は発電機を含む回転機械の回転時に計測された電流の電流波形から前記電流の特徴をそれぞれ示す複数の特徴量を取得するように構成された特徴量取得部と、
前記複数の特徴量の各々の分布又は前記複数の特徴量の多次元分布と、前記回転機械の正常時における前記複数の特徴量の各々の基準分布又は基準多次元分布との乖離に基づいて、前記回転機械の異常判定をするように構成された異常判定部と、
を備え、
前記異常判定部は、前記複数の特徴量の多次元確率分布と、前記正常時の前記複数の特徴量の基準多次元確率分布の距離を取得し、取得した前記距離に基づいて前記回転機械の異常判定をするように構成され
た
回転機械の診断装置。
【請求項4】
前記回転機械は、三相モータ又は三相発電機を含み、
前記特徴量取得部は、前記複数の特徴量として、前記三相モータ又は前記三相発電機の三相の電流に対応する1以上の特徴量を取得するように構成された
請求項
3に記載の回転機械の診断装置。
【請求項5】
前記距離は、カルバック・ライブラー距離、ピアソン距離、相対ピアソン距離、又はL
2距離を含む
請求項
1乃至
4の何れか一項に記載の回転機械の診断装置。
【請求項6】
モータ又は発電機を含む回転機械の回転時に計測された電流の電流波形から前記電流の特徴をそれぞれ示す複数の特徴量を取得するように構成された特徴量取得部と、
前記複数の特徴量の各々の分布又は前記複数の特徴量の多次元分布と、前記回転機械の正常時における前記複数の特徴量の各々の基準分布又は基準多次元分布との乖離に基づいて、前記回転機械の異常判定をするように構成された異常判定部と、
を備え、
前記複数の特徴量は、前記電流波形における前記電流
の実効値、平均値、スキューネス、又は波高率を含
む
回転機械の診断装置。
【請求項7】
前記電流波形から、規定パルス数の分割波形を取得するように構成された分割波形取得部を備え、
前記特徴量取得部は、前記分割波形の各々について前記複数の特徴量を取得するように構成された
請求項1乃至
6の何れか一項に記載の回転機械の診断装置。
【請求項8】
前記分割波形取得部は、前記電流波形のうち、前記電流がゼロを通過するとともに、前記電流の符号が同一方向に変化する複数のゼロクロス点にて前記電流波形を分割して複数の前記分割波形を取得するように構成された
請求項
7に記載の回転機械の診断装置。
【請求項9】
前記電流波形は、規定のサンプリング周期で取得される前記電流の計測値を結ぶ曲線として表され、
前記分割波形取得部は、前記符号が異なる二つの前記計測値の線形補間により前記ゼロクロス点を特定するように構成された
請求項
8に記載の回転機械の診断装置。
【請求項10】
前記電流を示す信号からノイズ成分を低減又は除去するように構成されたフィルタを備え、
前記分割波形取得部は、前記フィルタで処理された信号に基づいて前記ゼロクロス点を特定するように構成された
請求項
9に記載の回転機械の診断装置。
【請求項11】
複数の前記分割波形にそれぞれ含まれる前記電流の計測値のサンプリング数の最大値と最小値との差が許容範囲内に収まるように、前記フィルタの時定数を増加するように構成されたフィルタ設定部を備える
請求項
10に記載の回転機械の診断装置。
【請求項12】
前記フィルタ設定部は、前記差が前記許容範囲内に入るまで、前記時定数の一定量の増加を繰り返すように構成された
請求項
11に記載の回転機械の診断装置。
【請求項13】
モータ又は発電機を含む回転機械の回転時に計測された電流の電流波形から前記電流の特徴をそれぞれ示す複数の特徴量を取得するステップと、
前記複数の特徴量の各々の分布又は前記複数の特徴量の多次元分布と、前記回転機械の正常時における前記複数の特徴量の各々の基準分布又は基準多次元分布との乖離に基づいて、前記回転機械の異常判定をするステップと、
を備え
、
前記異常判定をするステップでは、前記複数の特徴量の確率分布と、前記正常時の前記複数の特徴量の基準確率分布との距離をそれぞれ取得し、取得した複数の前記距離に基づいて前記回転機械の異常判定をする
回転機械の診断方法。
【請求項14】
モータ又は発電機を含む回転機械の回転時に計測された電流の電流波形から前記電流の特徴をそれぞれ示す複数の特徴量を取得するステップと、
前記複数の特徴量の各々の分布又は前記複数の特徴量の多次元分布と、前記回転機械の正常時における前記複数の特徴量の各々の基準分布又は基準多次元分布との乖離に基づいて、前記回転機械の異常判定をするステップと、
を備え、
前記異常判定をするステップでは、前記複数の特徴量の多次元確率分布と、前記正常時の前記複数の特徴量の基準多次元確率分布の距離を取得し、取得した前記距離に基づいて前記回転機械の異常判定をする
回転機械の診断方法。
【請求項15】
モータ又は発電機を含む回転機械の回転時に計測された電流の電流波形から前記電流の特徴をそれぞれ示す複数の特徴量を取得するステップと、
前記複数の特徴量の各々の分布又は前記複数の特徴量の多次元分布と、前記回転機械の正常時における前記複数の特徴量の各々の基準分布又は基準多次元分布との乖離に基づいて、前記回転機械の異常判定をするステップと、
を備え、
前記複数の特徴量は、前記電流波形における前記電流の実効値、平均値、スキューネス、又は波高率を含む
回転機械の診断方法。
【請求項16】
コンピュータに、
モータ又は発電機を含む回転機械の回転時に計測された電流の電流波形から前記電流の特徴をそれぞれ示す複数の特徴量を取得する手順と、
前記複数の特徴量の各々の分布又は前記複数の特徴量の多次元分布と、前記回転機械の正常時における前記複数の特徴量の各々の基準分布又は基準多次元分布との乖離に基づいて、前記回転機械の異常判定をする手順と、
を実行させる
ように構成され、
前記異常判定をする手順では、前記複数の特徴量の確率分布と、前記正常時の前記複数の特徴量の基準確率分布との距離をそれぞれ取得し、取得した複数の前記距離に基づいて前記回転機械の異常判定をする
回転機械の診断プログラム。
【請求項17】
コンピュータに、
モータ又は発電機を含む回転機械の回転時に計測された電流の電流波形から前記電流の特徴をそれぞれ示す複数の特徴量を取得する手順と、
前記複数の特徴量の各々の分布又は前記複数の特徴量の多次元分布と、前記回転機械の正常時における前記複数の特徴量の各々の基準分布又は基準多次元分布との乖離に基づいて、前記回転機械の異常判定をする手順と、
を実行させるように構成され、
前記異常判定をする手順では、前記複数の特徴量の多次元確率分布と、前記正常時の前記複数の特徴量の基準多次元確率分布の距離を取得し、取得した前記距離に基づいて前記回転機械の異常判定をする
回転機械の診断プログラム。
【請求項18】
コンピュータに、
モータ又は発電機を含む回転機械の回転時に計測された電流の電流波形から前記電流の特徴をそれぞれ示す複数の特徴量を取得する手順と、
前記複数の特徴量の各々の分布又は前記複数の特徴量の多次元分布と、前記回転機械の正常時における前記複数の特徴量の各々の基準分布又は基準多次元分布との乖離に基づいて、前記回転機械の異常判定をする手順と、
を実行させるように構成され、
前記複数の特徴量は、前記電流波形における前記電流の実効値、平均値、スキューネス、又は波高率を含む
回転機械の診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転機械の診断装置、診断方法及び診断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
回転機械の異常を、回転機械の回転時に計測される電流値に基づいて検知することが提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、回転機械の回転時に測定される電流に基づいて、回転機械を含む機械を診断する診断装置が開示さている。この診断装置では、測定した電流から取得される電流実効値の分布を、回転機械の正常時に測定された電流から取得される電流実効値の分布と比較することで、機械の異常を検知するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、回転機械の特性や異常の種類によっては、回転機械に異常が発生したときであっても、測定電流から取得される特徴量(電流実効値等)の分布に対してそれほど影響が出ない場合がある。したがって、特許文献1に記載されるように、測定電流から取得される1つの特徴量(特許文献1では電流実効値)の分布のみに基づいて回転機械の異常検知をしたのでは、回転機械の特性や検知対象の異常の種類によっては、回転機械の異常を適切に検知できない場合がある。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、回転機械の異常を適切に検知可能な回転機械の診断装置、診断方法及び診断プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の少なくとも一実施形態に係る回転機械の診断装置は、
モータ又は発電機を含む回転機械の回転時に計測された電流の電流波形から前記電流の特徴をそれぞれ示す複数の特徴量を取得するように構成された特徴量取得部と、
前記複数の特徴量の各々の分布又は前記複数の特徴量の多次元分布と、前記回転機械の正常時における前記複数の特徴量の各々の基準分布又は基準多次元分布との乖離に基づいて、前記回転機械の異常判定をするように構成された異常判定部と、
を備える。
【0008】
また、本発明の少なくとも一実施形態に係る回転機械の診断方法は、
モータ又は発電機を含む回転機械の回転時に計測された電流の電流波形から前記電流の特徴をそれぞれ示す複数の特徴量を取得するステップと、
前記複数の特徴量の各々の分布又は前記複数の特徴量の多次元分布と、前記回転機械の正常時における前記複数の特徴量の各々の基準分布又は基準多次元分布との乖離に基づいて、前記回転機械の異常判定をするステップと、
を備える。
【0009】
また、本発明の少なくとも一実施形態に係る回転機械の診断プログラムは、
コンピュータに、
モータ又は発電機を含む回転機械の回転時に計測された電流の電流波形から前記電流の特徴をそれぞれ示す複数の特徴量を取得する手順と、
前記複数の特徴量の各々の分布又は前記複数の特徴量の多次元分布と、前記回転機械の正常時における前記複数の特徴量の各々の基準分布又は基準多次元分布との乖離に基づいて、前記回転機械の異常判定をする手順と、
を実行させるように構成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、回転機械の異常を適切に検知可能な回転機械の診断装置、診断方法及び診断プログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係る診断装置が適用される回転機械の概略図である。
【
図3】一実施形態に係る回転機械の診断方法のフローチャートである。
【
図4】一実施形態に係る回転機械の診断方法のフローチャートである。
【
図5】一実施形態に係る診断装置により取得される電流波形の一例を示すグラフである。
【
図6】回転機械の電流の実効値の確率分布の一例を視覚的に示すグラフである。
【
図7】回転機械の電流の実効値及び波高率の多次元確率分布の一例を視覚的に示すグラフである。
【
図8A】回転機械の計測電流に基づき算出される実効値及び波高率に係る多次元確率分布の一例である。
【
図8B】
図8Aと同様の状況で取得される実効値に係る確率分布の一例である。
【
図8C】
図8Aと同様の状況で取得される波高率に係る確率分布の一例である。
【
図9A】回転機械の計測電流に基づき算出される実効値及び波高率に係る多次元確率分布の一例である。
【
図9B】
図9Aと同様の状況で取得される実効値に係る確率分布の一例である。
【
図9C】
図9Aと同様の状況で取得される波高率に係る確率分布の一例である。
【
図10】一実施形態に係る診断装置で取得される電流波形の一例を示すチャートである。
【
図11】一実施形態に係る診断方法において分割波形を取得する手順を説明するためのフローチャートである。
【
図12】一実施形態に係る診断装置で取得される電流波形の一例を示すグラフである。
【
図13】一実施形態に係る診断装置で取得される電流波形の一例を示すグラフである。
【
図14】一実施形態に係る診断装置で取得される電流波形の一例を示すグラフである。
【
図15】一実施形態に係る診断装置で取得される電流波形の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0013】
(診断装置の構成)
図1は、一実施形態に係る診断装置が適用される回転機械の概略図である。
図2は、一実施形態に係る診断装置の概略図である。幾つかの実施形態に係る診断装置は、モータ又は発電機を含む回転機械を診断するための診断装置である。
【0014】
幾つかの実施形態では、診断対象の回転機械はモータを含む。
図1に示す回転機械1は、モータを含む回転機械の一例であり、流体を圧縮するための圧縮機2と、圧縮機2を駆動するためのモータ4と、を含む。圧縮機2は、モータ4の出力シャフト3を介してモータ4に接続されている。モータ4は、電力供給を受けて駆動されるようになっている。
【0015】
モータ4は、交流電力によって駆動されるように構成されていてもよい。
図1に示す例示的な実施形態では、直流電源6(蓄電池等)からの直流電力が、インバータ8で交流電力に変換されてモータ4に供給されるようになっている。他の実施形態では、交流電源からの交流電力がモータ4に供給されるようになっていてもよい。
【0016】
幾つかの実施形態では、診断対象の回転機械は発電機を含む。このような回転機械は、例えば、流体によって駆動されるように構成されたタービンと、該タービンによって駆動されるように構成された発電機と、を含んでもよい。発電機は、交流電力を生成するように構成されていてもよい。
【0017】
診断装置20は、回転機械1の回転時に電流計測部10によって計測される電流に基づいて、回転機械1を診断するように構成される。
【0018】
電流計測部10は、回転機械1に含まれるモータ(例えば
図1のモータ4)に供給される電流、又は、回転機械1に含まれる発電機から出力される電流を計測するように構成される。電流計測部10は、回転機械1に含まれるモータ又は発電機の巻線電流を計測するように構成されていてもよい。
【0019】
診断装置20は、電流計測部10から、電流計測値を示す信号を受け取るように構成される。診断装置20は、電流計測部10からの電流計測値を示す信号を、規定のサンプリング周期毎に受け取るように構成されていてもよい。また、診断装置20は、電流計測部10から受け取った信号を処理して、回転機械1の異常の有無を判定するように構成される。診断装置20による診断結果は、表示部40(ディスプレイ等;
図2参照)に表示されるようになっていてもよい。
【0020】
なお、診断装置20による異常判定の対象となる回転機械1の異常は、電流計測部10による電流計測値に影響を与え得る回転機械1の異常である。このような異常の例として、例えば、回転機械1におけるミスアライメント(芯ずれ)、キャビテーション、ベルトの緩み、地絡等が挙げられる。
【0021】
図2に示すように、一実施形態に係る診断装置20は、電流波形取得部22と、特徴量取得部23と、分布取得部25と、基準分布取得部27と、乖離算出部29と、異常判定部30と、分割波形取得部32と、フィルタ34と、フィルタ設定部36と、を含む。
【0022】
診断装置20は、プロセッサ(CPU等)、記憶装置(メモリデバイス;RAM等)、補助記憶部及びインターフェース等を備えた計算機を含む。診断装置20は、インターフェースを介して、電流計測部10から電流計測値を示す信号を受け取るようになっている。プロセッサは、このようにして受け取った信号を処理するように構成される。また、プロセッサは、記憶装置に展開されるプログラムを処理するように構成される。これにより、上述の各機能部(電流波形取得部22等)の機能が実現される。
【0023】
診断装置20での処理内容は、プロセッサにより実行されるプログラムとして実装される。プログラムは、補助記憶部に記憶されていてもよい。プログラム実行時には、これらのプログラムは記憶装置に展開される。プロセッサは、記憶装置からプログラムを読み出し、プログラムに含まれる命令を実行するようになっている。
【0024】
電流波形取得部22は、電流計測部10から受け取られる信号に基づいて、計測電流値の時間変化を示す電流波形110(
図5参照)を取得するように構成される。
【0025】
特徴量取得部23は、電流波形取得部22により取得される電流波形110から、計測電流の特徴をそれぞれ示す複数の特徴量を取得するように構成される。なお、特徴量取得部23は、後述する分割波形取得部32により取得される複数の分割波形の各々について電流の実効値を取得するように構成されてもよい。
【0026】
特徴量取得部23で取得する電流の特徴量は、例えば、電流波形取得部22で取得される電流波形110(又は該電流波形から取得される分割波形)における電流の最大値と最小値との差分(最大値-最小値)、該電流の実効値(二乗平均の平方根)、該電流の平均値(絶対値の平均)、該電流のスキューネス(平均値周りの3次モーメントを標準偏差3乗で正規化(除算)したもの)、又は該電流の波高率(最大値/実効値)であってもよい。
【0027】
特徴量取得部23は、複数の特徴量として、電流波形110から、上述した複数種の特徴量のうち2種以上を取得するように構成されていてもよい。この場合、2種以上の特徴量の組合せは特に限定されないが、例えば、実効値と波高率の組合せを採用してもよい。
【0028】
あるいは、回転機械1が三相モータ又は三相発電機を含む場合、特徴量取得部23は、複数の特徴量として、三相モータ又は三相発電機の三相の電流(巻線電流)のそれぞれについての1種以上の特徴量を取得するように構成されていてもよい。この場合、1種以上の特徴量の種類は特に限定されないが、例えば、実効値であってもよい。
【0029】
分布取得部25は、特徴量取得部23で取得された複数の特徴量の各々の分布、又は、該複数の特徴量の多次元分布を算出するように構成される。なお、2種の特徴量の多次元分布は、2次元分布である。
【0030】
分布取得部25で取得される複数の特徴量の各々の分布は、該複数の特徴量の各々の確率分布であってもよい。また、分布取得部25で取得される複数の特徴量の多次元分布は、該複数の特徴量の多次元確率分布であってもよい。
【0031】
基準分布取得部27は、回転機械1の正常時における複数の特徴量(分布取得部25で取得される分布に関する特徴量と同じ特徴量)の各々の基準分布、又は、該複数の特徴量の基準多次元分布を取得するように構成される。基準分布取得部27によって取得される基準分布又は基準多次元分布は、予め、回転機械1の正常時(異常が発生していないとき)に取得されたものである。これらの基準分布又は基準多次元分布は、記憶部12(
図2参照)に記憶されていてもよい。また、基準分布取得部27は、記憶部12から、基準分布又は基準多次元分布を読み出すことによって取得するようになっていてもよい。なお、記憶部12は、診断装置20を構成する計算機の記憶装置を含んでもよく、あるいは、遠隔地に設けられた記憶装置を含んでいてもよい。
【0032】
基準分布取得部27で取得される複数の特徴量の各々の基準分布は、該複数の特徴量の各々の確率分布(基準確率分布)であってもよい。また、基準分布取得部27で取得される複数の特徴量の基準多次元分布は、該複数の特徴量の多次元確率分布(基準多次元確率分布)であってもよい。
【0033】
乖離算出部29は、分布取得部25により算出される各々の分布又は多次元分布と、基準分布取得部27により取得される各々の基準分布又は基準多次元分布との乖離を取得するように構成される。
【0034】
異常判定部30は、乖離算出部29で取得される乖離に基づいて、回転機械1の異常判定(即ち、回転機械1の異常有無の判定)をするように構成される。
【0035】
幾つかの実施形態では、乖離算出部29は、上述の乖離として、分布取得部25により算出される複数の特徴量の各々の確率分布と、基準分布取得部27により取得される正常時の複数の特徴量の各々の基準確率分布との距離をそれぞれ算出するように構成されてもよい。また、異常判定部30は、このように算出された複数の距離に基づいて回転機械1の異常判定をするようになっていてもよい。上述の距離は、2つの確率分布(確率密度関数)の違いを定量化することが可能な指標値であり、例えば、ある特徴量の確率分布と、当該特徴量の基準確率分布とのカルバック・ライブラー距離、ピアソン距離、相対ピアソン距離、又はL2距離であってもよい。
【0036】
一実施形態では、異常判定部30は、算出された複数の距離(すなわち、複数の特徴量の分布のそれぞれについての距離)のうち最大のものを用いて回転機械1の異常判定をするようになっていてもよい。例えば、異常判定部は、算出された複数の距離のうち最大のものが閾値以上であるときに回転機械1に異常が生じていると判断し、前記最大のものが閾値未満であるときに回転機械1は正常である(異常は生じていない)と判断するように構成されてもよい。
【0037】
幾つかの実施形態では、乖離算出部29は、上述の乖離として、分布取得部25により算出される複数の特徴量の多次元確率分布と、基準分布取得部27により取得される正常時の複数の特徴量の基準多次元確率分布との距離を算出するように構成されてもよい。また、異常判定部30は、このように算出された距離に基づいて回転機械1の異常判定をするようになっていてもよい。例えば、異常判定部30は、算出された距離が閾値以上であるときに回転機械1に異常が生じていると判断し、前記距離が閾値未満であるときに回転機械1は正常である(異常は生じていない)と判断するように構成されてもよい。上述の距離は、2つの確率分布(確率密度関数)の違いを定量化することが可能な指標値であり、複数の特徴量の多次元確率分布と、基準多次元確率分布とのカルバック・ライブラー距離、ピアソン距離、相対ピアソン距離、又はL2距離であってもよい。
【0038】
分割波形取得部32は、電流波形取得部22により取得される電流波形110を、規定パルス数毎に分割して、複数の分割波形112を取得するように構成される(
図5参照)。ここで、電流波形を規定パルス数毎に分割して得られる分割波形112は、電流波形110から、該電流波形110に現れる山(peak)と谷(trough)のペアを規定数組含む部分(すなわち、概ね規定数周期分の波形)をそれぞれ切り出したものである。例えば、パルス数1の分割波形112は、電流波形取得部22により得られる電流波形110から、電流波形に現れる山と谷のペアを1組含む部分(すなわち、概ね1周期分の波形)をそれぞれ切り出して得られる分割波形である(
図5参照)。
【0039】
フィルタ34は、電流計測部10から受け取られる信号からノイズ成分(高周波成分)を低減するためのフィルタである。フィルタ設定部36は、フィルタ34の時定数等の設定を変更可能に構成される。
【0040】
本発明者らの知見によれば、回転機械1に異常が発生したときに、測定電流から取得可能な複数の特徴量の分布のそれぞれに対する影響の大きさは、回転機械1の特性や異常の種類によって異なる。この点、上述の実施形態に係る診断装置20では、測定電流の電流波形110から取得される複数の特徴量の各々の分布と複数の特徴量の各々の基準分布との乖離、又は、複数の特徴量の多次元分布と複数の特徴量の基準多次元分布との乖離に基づいて回転機械1の異常判定をする。したがって、単独の特徴量の分布と基準分布との乖離に基づく異常判定に比べ、回転機械1の特性や異常の種類に関してより網羅的な異常検知が可能となる。よって、回転機械1の異常をより適切に検知することができる。
【0041】
(回転機械の診断のフロー)
以下、一実施形態に係る回転機械の診断の流れについて、より具体的に説明する。なお、以下において、上述の診断装置20を用いて一実施形態に係る回転機械の診断方法を実行する場合について説明するが、幾つかの実施形態では、他の装置を用いて回転機械の診断方法を実行するようにしてもよい。
【0042】
図3及び
図4は、それぞれ、一実施形態に係る回転機械の診断方法のフローチャートである。
【0043】
図3に示す実施形態では、まず、電流計測部10を用いて、回転機械1の回転時に電流を計測する(S2)。ステップS2で計測される電流は、モータに供給される電流、又は、発電機から出力される電流であってもよい。
【0044】
次に、電流波形取得部22により、電流計測部10から受け取られる信号(電流計測値を示す信号)に基づいて、計測電流値の時間変化を示す電流波形110を取得する(S4)。ここで、
図5は、一実施形態に係る電流波形取得部22(診断装置20)により取得される電流波形110の一例を示すグラフである。
図5に示すように、ステップS4で取得される電流波形110は、山P(peak;正のピーク)と谷T(trough;負のピーク)が交互に出現する交流電流の波形である。
【0045】
次に、分割波形取得部32により、ステップS4で取得される電流波形110を、規定パルス数毎に分割して、複数の分割波形112を取得する(S6)。ステップS6では、電流波形110を1パルスごとに分割した複数の分割波形112(パルス数1の分割波形;
図5参照)を取得してもよい。ステップS6では、電流波形110を、回転機械1の回転数に関連する期間毎、又は、交流電流の周期に関連する期間毎に、電流波形110から当該期間に含まれる部分を切り出すことによって複数の分割波形112を取得してもよい。あるいは、後述するように、電流波形110から把握されるゼロクロス点に基づいて該電流波形110を分割することにより、複数の分割波形112を取得してもよい。
【0046】
以下の説明では、ステップS6において、電流波形110を1パルスごとに分割して複数の分割波形112を取得した場合について説明する。なお、電流波形110を2パルス以上のパルス数毎に分割して分割波形を取得した場合についても、以下の説明を適用可能である。
【0047】
次に、特徴量取得部23により、ステップS6で得られた複数の分割波形112の各々について、計測電流の特徴をそれぞれ示す複数の特徴量を取得する(S8)。なお、特徴量取得部23は、後述する分割波形取得部32により取得される複数の分割波形の各々について複数の特徴量を取得するように構成されてもよい。ここでは、一例として、複数の特徴量として、第1の特徴量である実効値と、第2の特徴量である波高率と、を取得する。
【0048】
ここで、各分割波形112の電流の実効値I
rmsは、各分割波形112の電流計測値Iの二乗平均(時間平均)の平方根として算出することができる。なお、電流計測値が規定サンプリング周期毎に取得される場合、各分割波形112に含まれる複数の計測点における電流値I
t、及び、各分割波形112の開始点から終了点までの時間長さTを用いれば、分割波形112の電流の実効値I
rmsは下記式(A)で表現することができる。
【数1】
【0049】
また、各分割波形112の電流の波高率Iefは、各分割波形112の電流計測値Iの最大値Imaxと実効値Irmsとの比として算出することができる。すなわち、波高率Iefは、下記式(B)で表現することができる。
Ief=Imax/Irms …(B)
【0050】
次に、分布取得部25により、ステップS8で取得された複数の分割波形112についての複数の特徴量(実効値Irms及び波高率Ief)の各々の分布を取得する。ここでは、ステップS8で取得された複数の分割波形112の実効値Irmsの確率分布、及び、ステップS8で取得された複数の分割波形112の波高率Iefの確率分布をそれぞれ取得する。
【0051】
図6は、回転機械1の電流の実効値の確率分布の一例を視覚的に示すグラフである。なお、この確率分布は、電流波形110を分割して得られる複数の分割波形112の各々の実効値に基づき取得されるものである。
図6のグラフにおいて、横軸は実効値を表し、縦軸は確率を表す。
【0052】
ステップS10では、計測電流の実効値の確率分布として、例えば、曲線102で示す確率分布が得られる。なお、
図6における曲線100は、回転機械1の正常時における実効値の確率分布を示す。本発明者らの知見によれば、モータ(例えば
図1のモータ4)又は発電機を含む回転機械1に異常が発生したとき、計測される電流波形110に乱れが生じ、電流波形110から得られる特徴量(実効値等)の分布のばらつきが大きくなる場合がある。このように、回転機械1に異常が発生した場合には、通常、正常時とは異なる確率分布が得られる。
【0053】
特に図示しないが、計測電流の波高率の確率分布についても、ステップS10にて同様に取得される。
【0054】
次に、基準分布取得部27により、回転機械1の正常時における計測電流の複数の特徴量の分布である基準分布をそれぞれ取得する。ここでは、実効値I
rmsの基準確率分布及び波高率I
efの基準確率分布をそれぞれ取得する。なお、実効値及び波高率の基準分布(基準確率分布等)は、例えば、予め取得されたものが記憶部12に記憶されている。基準分布取得部27は、記憶部12に記憶された実効値の基準分布及び波高率の基準分布を読み出すことによりこれらの基準分布を取得する。なお、
図6のグラフにおける曲線100は、上述の実効値の基準確率分布の一例を示す。
【0055】
次に、乖離算出部29により、分布取得部25により算出される複数の特徴量の各々の確率分布と、基準分布取得部27により取得される正常時の複数の特徴量の各々の基準確率分布との距離をそれぞれ算出する(S14)。ここでは、上述の距離として、相対ピアソン距離を算出する。すなわち、実効値に係る確率分布と基準確率分布との相対ピアソン距離D1、及び、波高率に係る確率分布と基準確率分布との相対ピアソン距離D2をそれぞれ算出する。
【0056】
なお、基準確率分布をp(x)、確率分布をp’(x)とすると、これらの確率分布と基準確率分布の相対ピアソン距離は、例えば、∫qα(x)[{p(x)/qα(x)}-1]2dxで算出可能であり、この際、qα=αp+(1-α)p’(0≦α<1)の関係を有する。
【0057】
次に、異常判定部30により、ステップS14で算出された複数の距離(すなわち、上述の、実効値に係る相対ピアソン距離D1、及び、波高率に係る相対ピアソン距離D2)を用いて、回転機械1の異常判定を行う(S16)。ステップS16では、複数の距離のうち、最大のものを用いて回転機械1の異常判定を行ってもよい。
【0058】
例えば、上述の2つの距離D1,D2のうち、実効値に係る相対ピアソン距離D1の方が大きい場合、当該実効値に係る相対ピアソン距離D1を用いて回転機械1の異常判定を行う。この相対ピアソン距離D1が予め設定された閾値以上である場合(S16でYes)、回転機械1に異常が生じていると判定する(S18)。あるいは、この相対ピアソン距離D1が上述の閾値未満である場合(S16でNo)、回転機械1は正常である(異常は生じていない)と判定する(S20)。
【0059】
ステップS18,S20での判定結果は、表示部40に表示されるようになっていてもよい(S22)。
【0060】
既に述べたように、回転機械1に異常が発生したときに、測定電流から取得可能な複数の特徴量の分布のそれぞれに対する影響の大きさは、回転機械1の特性や異常の種類によって異なる。そして、複数の特徴量の各々の確率分布と複数の特徴量の各々の基準確率分布との距離が大きいほど、回転機械に異常が生じている可能性(回転機械1の異常度)が高いことを意味する。この点、上述の実施形態によれば、取得した複数の距離(上述の相対ピアソン距離D1、D2)のうち最大のもの(例えば、実効値に係る相対ピアソン距離D1)に基づいて、回転機械の異常を適切に検知することができる。
【0061】
次に、
図4に示す実施形態について説明する。
図4のフローチャートに示すステップS32,S34,S36,S38及びS52は、
図3のフローチャートに示すステップS2,S4,S6,S8,S22とそれぞれ同様であるので、これらのステップS2の内容については説明を省略する。
【0062】
図4に示す実施形態では、分布取得部25により、ステップS38で取得された複数の分割波形112についての複数の特徴量(実効値I
rms及び波高率I
ef)の多次元分布を取得する(S40)。ここでは、ステップS38で取得された複数の分割波形112の実効値I
rms、及び、ステップS8で取得された複数の分割波形112の波高率I
efの多次元確率分布を取得する。なお、本実施形態では複数の特徴量として2つの特徴量(実効値及び波高率)を用いているので、多次元分布は2次元分布である。
【0063】
図7は、回転機械1の電流の実効値及び波高率の多次元確率分布の一例を視覚的に示すグラフである。なお、この多次元確率分布は、電流波形110を分割して得られる複数の分割波形112の各々の実効値及び波高率に基づき取得されるものである。
【0064】
ステップS40では、計測電流の実効値及び波高率の多次元確率分布として、例えば、
図7に示す多次元確率分布が得られる。モータ(例えば
図1のモータ4)又は発電機を含む回転機械1に異常が発生したとき、計測される電流波形110に乱れが生じ、電流波形110から得られる特徴量(実効値又は波高率等)の分布のばらつきが大きくなる場合がある。このように、回転機械1に異常が発生した場合には、通常、正常時とは異なる確率分布が得られる。
【0065】
次に、基準分布取得部27により、回転機械1の正常時における計測電流の複数の特徴量の分布である基準多次元分布を取得する。ここでは、実効値Irms及び波高率Iefの基準多次元確率分布を取得する。なお、実効値及び波高率の基準多次元分布(基準確率多次元分布等)は、例えば、予め取得されたものが記憶部12に記憶されている。基準分布取得部27は、記憶部12に記憶された実効値及び波高率の基準多次元分布を読み出すことにより該基準多次元分布を取得する。
【0066】
次に、乖離算出部29により、分布取得部25により算出される複数の特徴量の多次元確率分布と、基準分布取得部27により取得される正常時の複数の特徴量の基準多次元確率分布との距離を算出する(S44)。ここでは、上述の距離として、相対ピアソン距離を算出する。すなわち、実効値及び波高率に係る多次元確率分布と基準多次元確率分布との相対ピアソン距離Dmを算出する。
【0067】
次に、異常判定部30により、ステップS44で算出された距離(すなわち、実効値及び波高率に係る相対ピアソン距離Dm)を用いて、回転機械1の異常判定を行う(S46)。この相対ピアソン距離Dmが、予め設定された閾値以上である場合(S46でYes)、回転機械1に異常が生じていると判定する(S48)。あるいは、この相対ピアソン距離Dmが上述の閾値未満である場合(S46でNo)、回転機械1は正常である(異常は生じていない)と判定する(S50)。
【0068】
上述の実施形態では、複数の特徴量(例えば実効値及び波高率)に対して、上述の乖離を示す1つの値(例えば相対ピアソン距離Dm)を算出する。したがって、このように算出される単一の指標を用いて回転機械1の正常又は異常を判別可能であるため、回転機械1の異常判定を容易にすることができる。
【0069】
ここで、
図8A及び
図9Aは、回転機械1の計測電流に基づき算出される実効値及び波高率(複数の特徴量)に係る多次元確率分布の一例である。このうち
図8Aは回転機械1の正常時における計測電流に基づく多次元確率分布であり、
図9Aは回転機械1の異常時における計測電流に基づく多次元確率分布である。
図8B及び
図9Bは、それぞれ、
図8A及び
図9Aと同様の状況で取得される実効値(単一の特徴量)に係る確率分布の一例である。
図8C及び
図9Cは、それぞれ、
図8A及び
図9Aと同様の状況で取得される波高率(単一の特徴量)に係る確率分布の一例である。
なお、説明の単純化のため、
図8A~
図9Cにおいて、多次元確率分布及び確率分布の一部の範囲のみ(具体的には、実効値が0.65以上0.67の範囲、及び、波高率が1.10以上1.12以下の範囲)が示されている。
【0070】
図8Aに示す回転機械1の正常時における多次元確率分布では、図示する範囲において、表中の各セルにおける確率がそれぞれ0.05であり、一様な確率分布となっている。これに対し、
図9Aに示す回転機械1の異常時における多次元確率分布では、図示する範囲において、0.02~0.08の確率となっており、正常時(
図8A)とは異なる確率分布となっている。したがって、正常時における多次元確率分布(基準多次元確率分布)と異常時における多次元確率分布との乖離(例えば相対ピアソン距離等の距離)を算出することができるとともに、この乖離に基づいて回転機械1の異常判定をすることができる。
【0071】
一方、このように、回転機械1の正常時と異常時とで複数の特徴量に係る多次元確率分布に差が現れる場合であっても、単一の特徴量に係る確率分布には差が現れない場合がある。例えば、
図8B及び
図9Bに示す実効値(単一の特徴量)に係る確率分布は、回転機械1の正常時と異常時との間で差はない。また、
図8C及び
図9Cに示す波高率(単一の特徴量)に係る確率分布は、回転機械1の正常時と異常時との間で差はない。
【0072】
したがって、回転機械1に異常が生じている場合であっても、単一の特徴量のみに着目したのでは、分布(確率分布等)と基準分布(基準確率分布等)の距離がゼロとなり得る。このように算出された距離を用いたのでは、回転機械1の異常を適切に検出することができない場合がある。
【0073】
この点、
図4を参照して説明した上述の実施形態では、複数の特徴量(例えば実効値及び波高率)との関係で上述の乖離(例えば相対ピアソン距離Dm)を算出するので、単一の特徴量(例えば実効値又は波高率の一方)の分布に関して乖離(例えば相対ピアソン距離)を算出する場合に比べ、回転機械1の異常発生時における複数の特徴量の分布の変化をより詳細に把握することができる。よって、回転機械1の異常検知性能を向上させることができる。
【0074】
幾つかの実施形態では、三相モータ又は三相発電機を含む回転機械1の診断にあたり、
図4に示すフローチャートに係る診断方法を適用してもよい。
【0075】
すなわち、この場合、ステップS32では、三相モータ又は三相発電機の三相の各々の電流を計測する。これにより、三相分の電流計測値が得られる。ステップS34、S36では、三相の電流の各々について、電流波形及び分割波形を取得する。ステップS38では、複数の特徴量として、三相の各々の電流についての1種以上の特徴量(例えば実効値)を取得する。ステップS40では、三相の各々の電流の特徴量(例えば実効値)の多次元分布を取得する。1種の特徴量を用いる場合、多次元分布は3次元分布となる。ステップS42では、三相の電流の特徴量(例えば実効値)の基準多次元分布を取得する。ステップS44では、多次元分布と基準多次元分布との乖離(距離)を算出する。そして、ステップS46~S50で、上述の乖離に基づき、回転機械1の異常判定を行う。
【0076】
上述の実施形態によれば、複数の特徴量として、三相モータ又は三相発電機の三相の電流のそれぞれに対応する特徴量を取得し、これらの特徴量の多次元確率分布と基準多次元確率分布との距離を取得するようにしたので、取得した距離に基づいて、三相モータ又は三相発電機を含む回転機械1の異常を適切に検知することができる。
【0077】
幾つかの実施形態では、ステップS6,S36において、分割波形取得部32は、ステップS4で取得される電流波形110を、複数のゼロクロス点ZP(例えば
図5中のZP
0~ZP
3)にて分割して複数の分割波形112を取得してもよい。ここで、ゼロクロス点ZPは、電流波形110において、電流がゼロを通過するとともに、電流の符号が同一方向(負から正、又は、正から負)に変化する点である。なお、
図5中のゼロクロス点ZP
0~ZP
3は、電流がゼロを通過するとともに、電流の符号が負から正に変化する点である。
【0078】
図5に示す電流波形110の場合、例えば、隣り合う一対のゼロクロス点間(例えばZP
0とZP
1の間、ZP
1とZP
2の間等)の部分を分割波形112として取得することができる。
【0079】
電流波形110を分割する際、規定の周波数(回転機械の回転数と関連する周波数等)ごとに分割することが考えられるが、この場合、計測機器のサンプリング間隔等によっては、一周期あたりのサンプル数が安定しない可能性がある。この点、上述の実施形態によれば、上述のゼロクロス点にて電流波形110を分割する。これにより、始点(ゼロクロス点)及び終点(即ちゼロクロス点)における電流値がゼロの複数の分割波形112を得ることができる。よって、このように得られる複数の分割波形112の各々について、ステップS8,S38にて複数の特徴量を適切に取得することができる。
【0080】
図10は、ステップS4,S34で取得される電流波形110の一例を示すチャートである。一実施形態では、
図10に示すようにステップS4、S34で取得される電流波形110は、規定のサンプリング周期Tsで取得される電流の計測値を結ぶ曲線として表される。一実施形態では、ステップS6,S36において、分割波形取得部32は、符号が異なる二つの計測値(例えば
図10中の計測点P
A,P
Bでの計測値)の線形補間によりゼロクロス点ZPを特定するようにしてもよい。
【0081】
図10に示す例では、計測電流の符号が負である計測点P
Aの計測時刻t
aから、計測電流の符号が正である計測点P
Bの計測時刻t
bまでの間に電流値がゼロを通過しているが、この間、電流計測値がゼロとなる計測点が含まれない。この場合、計測点P
AとP
Bとの間に存在するゼロクロス点ZPの時刻t
zは、計測点P
Aの時刻t
a及び計測電流値I
a、及び、計測点P
Bの時刻t
b及び計測電流値I
bに基づいて、線形補間により特定することができる。
【0082】
上述したように、電流の計測値は、所定のサンプリング周期毎の離散的な計測値として取得されることがある。この点、上述の実施形態では、規定のサンプリング周期Tsで取得される複数の電流計測値のうち、符号が異なる二つの計測値(例えばPAとPB)の線形補間によりゼロクロス点ZPを特定することができる。よって、離散的な複数の電流計測値の中に電流値ゼロの計測点が含まれない場合であっても、電流波形110の分割波形112への分割を適切に行うことができる。
【0083】
幾つかの実施形態では、電流波形取得部22は、ステップS4,S34において、フィルタ34を用いて、電流計測部10から受け取られる信号(電流計測値を示す信号)からノイズ成分(高周波成分)を低減して、電流波形110を取得するようにしてもよい。一実施形態では、ステップS6,S36において、分割波形取得部32は、フィルタ34で処理された信号に基づいて得られる電流波形110から、ゼロクロス点ZPを特定するようにしてもよい。
【0084】
ノイズが含まれる信号から得られる電流波形において、ノイズに起因する波形の乱れにより、本来の(即ち、ノイズがない場合の)ゼロクロス点ZP以外にも、電流値がゼロとなる点がランダムに現れる場合がある。この点、上述の実施形態では、フィルタ34によってノイズ成分が低減された信号に基づいてゼロクロス点ZPを特定するようにしたので、このように特定したゼロクロス点ZPに基づいて、電流波形110をより適切に分割して分割波形112を得ることができる。
【0085】
図11は、一実施形態に係る診断装置及び診断方法において分割波形を取得する手順を説明するためのフローチャートである。
【0086】
図11に示すように、一実施形態では、フィルタ34を用いて、ステップS2で計測される電流計測値を示す信号から、ノイズを低減して、電流波形110を取得する(S102、
図3のS4、
図4のS34)。次に、得られた電流波形110における複数のゼロクロス点ZPを特定する(S104)。ステップS104では、上述したように、線形補間の手法を用いてもよい。
【0087】
次に、複数のゼロクロス点ZPの各ゼロクロス点間に含まれる電流計測点数(サンプル数)を取得する(S106)。また、各ゼロクロス点間に含まれる電流計測点数の最大値及び最小値を取得する(S108)。
【0088】
そして、ステップS108で得られる最大値と最小値の差が許容範囲内であるか否かを判定する(S110)。上述の差が許容範囲外である場合(S110でNo)、フィルタ設定部36は、フィルタ34の時定数を増加して(S112)、ステップS102に戻る。そして、新たな時定数が設定されたフィルタ34を用いて、ステップS102~S108を繰り返し行う。
【0089】
一方、ステップS110で上述の差が許容範囲内である場合(S110でYes)、直近に行ったステップS102及びS104で取得された電流波形110及びゼロクロス点ZPに基づいて、複数の分割波形を取得する(S114、
図3のS6、
図4のS36)。
【0090】
ここで、
図12及び
図13は、ステップS108で得られる最大値と最小値の差が許容範囲外である場合(ステップS108でNo)の電流波形110の一例を示すグラフである。なお、
図13は、
図12中に示される部分Aの拡大図である。
【0091】
図12及び
図13に示す電流波形にはノイズが多量に含まれており、ノイズに起因する波形の乱れにより、本来のゼロクロス点(回転機械1の回転数に対応する周期で出現するはずのゼロクロス点)以外に、電流値がゼロとなる点がランダムに多数含まれている。例えば
図13に示すように、比較狭い時間範囲の間(グラフ中の横軸4.5~5.5の範囲)に、ゼロクロス点zp1~zp4が含まれている。なお、この部分A(
図12参照)の期間は、本来であれば(回転機械1の回転数に基づけば)、電流値が負から正に変化する点(ゼロクロス点)を1点含む期間である。仮にこれらのゼロクロス点zp1~zp4に基づいて電流波形を分割した場合、周期がランダムの多数の波形(例えば
図13に示す波形1~波形5等)を分割波形として取得してしまうことになり、適切な分割波形を得ることができない。
【0092】
ところで、この場合、ゼロクロス点間の時間長さ(
図13における波形1~波形5の時間長さ)のばらつきが大きい。したがって、各ゼロクロス点間に含まれる電流計測点数(サンプル数)のばらつきも大きく、該サンプル数の最大値と最小値の差が大きい。そこで、各ゼロクロス点間に含まれる電流計測点数(サンプル数)の最大値と最小値の差が許容範囲内に収まるように、フィルタ34の時定数を変更することで(ステップS110~S112)、各ゼロクロス点間に含まれる電流計測点数(サンプル数)のばらつきを小さくすることができる。
【0093】
ここで、
図14及び
図15は、ステップS108で得られる最大値と最小値の差が許容範囲内である場合の電流波形110の一例を示すグラフである。なお、
図15は、
図14中に示される部分Aの拡大図である。
図12と
図14、又は、
図13と
図15を比較してわかるように、
図14及び
図15では、
図12及び
図13に比べて、電流波形110におけるノイズが低減されているとともに、部分Aにはゼロクロス点ZPが1点だけ含まれている。すなわち、フィルタ34の時定数を適宜増加することにより、電流波形110から、本来のゼロクロス点ZP(回転機械1の回転数に対応する周期で出現するゼロクロス点)のみを抽出可能となることが示されている。適切に抽出された複数のゼロクロス点ZPに基づいて電流波形を分割することにより、分割波形を適切に得ることができる。
【0094】
上述したように、ノイズが含まれる信号の場合、本来のゼロクロス点ZP以外にも電流値がゼロとなる点がランダムに現れる。このため、このような見かけ上のゼロクロス点zpに基づいて得られる複数の分割波形には、始点から終点までの長さ(分割波形の周期)及びサンプル数に大きなばらつきがある場合がある。
【0095】
この点、上述の実施形態では、フィルタ設定部36により、複数の分割波形(あるいは、電流波形110における一対のゼロクロス点間)に含まれる電流の計測値のサンプル数の最大値と最小値との差が許容範囲内に収まるようにフィルタ34の時定数を増加する。したがって、フィルタ34での処理により得られる信号からゼロクロス点ZPに基づいて得られる複数の分割波形112に含まれる電流計測値のサンプル数のばらつきを小さくすることができる。よって、電流波形110をより適切に分割して分割波形を得ることができる。
【0096】
一実施形態では、フィルタ設定部36は、複数の分割波形(あるいは、電流波形110における一対のゼロクロス点間)に含まれる電流の計測値のサンプル数の差が許容範囲内に入るまで、時定数の一定量の増加を繰り返すように構成されてもよい。すなわち、一実施形態では、ステップS112において、フィルタ34の時定数を一定量だけ増加するようにしてもよい。この場合、フィルタ34の時定数は、ステップS102~S110のループ数に比例して増加することになる。
【0097】
上述の実施形態によれば、複数の分割波形(あるいは、電流波形における一対のゼロクロス点間)に含まれる電流の計測値のサンプル数の最大値と最小値との差が許容範囲内に入るまで、時定数の一定量の増加を繰り返すようにしたので、フィルタ34での処理により得られる信号からゼロクロス点ZPに基づいて得られる複数の分割波形112に含まれる電流計測値のサンプル数のばらつきを確実に小さくすることができる。よって、電流波形110をより適切に分割して分割波形112を得ることができる。
【0098】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0099】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る回転機械(1)の診断装置(20)は、
モータ(4)又は発電機を含む回転機械の回転時に計測された電流の電流波形から前記電流の特徴をそれぞれ示す複数の特徴量を取得するように構成された特徴量取得部(23)と、
前記複数の特徴量の各々の分布又は前記複数の特徴量の多次元分布と、前記回転機械の正常時における前記複数の特徴量の各々の基準分布又は基準多次元分布との乖離に基づいて、前記回転機械の異常判定をするように構成された異常判定部(30)と、
を備える。
【0100】
本発明者らの知見によれば、回転機械に異常が発生したときに、測定電流から取得可能な複数の特徴量の分布のそれぞれに対する影響の大きさは、回転機械の特性や異常の種類によって異なる。この点、上記(1)の構成では、測定電流の電流波形から取得される複数の特徴量の各々の分布と複数の特徴量の各々の基準分布との乖離、又は、複数の特徴量の多次元分布と複数の特徴量の基準多次元分布との乖離に基づいて回転機械の異常判定をする。したがって、単独の特徴量の分布と基準分布との乖離に基づく異常判定に比べ、回転機械の特性や異常の種類に関してより網羅的な異常検知が可能となる。よって、回転機械の異常をより適切に検知することができる。
【0101】
また、上記(1)の構成において、複数の特徴量の多次元分布及び基準多次元分布を用いる場合、複数の特徴量に対して、上述の乖離を示す1つの値を算出する。したがって、このように算出される単一の指標を用いて回転機械の正常又は異常を判別可能であるため、回転機械の異常判定を容易にすることができる。また、複数の特徴量の多次元分布及び基準多次元分布を用いる場合、複数の特徴量との関係で上述の乖離を算出するので、単一の特徴量の分布に関して乖離を算出する場合に比べ、回転機械の異常発生時における複数の特徴量の分布の変化をより詳細に把握することができる。よって、回転機械の異常検知性能を向上させることができる。
【0102】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記異常判定部は、前記複数の特徴量の確率分布と、前記正常時の前記複数の特徴量の基準確率分布との距離をそれぞれ取得し、取得した複数の前記距離に基づいて前記回転機械の異常判定をするように構成される。
【0103】
上記(2)の構成によれば、複数の特徴量の各々の分布と、回転機械の正常時の複数の特徴量の各々の基準分布との乖離を示すものとして、複数の特徴量の確率分布と複数の特徴量の基準確率分布とのそれぞれの距離を取得するようにしたので、取得した複数の距離に基づいて、回転機械の異常を適切に検知することができる。
【0104】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)の構成において、
前記異常判定部は、前記複数の距離のうち最大のものを用いて、前記回転機械の異常判定をするように構成される。
【0105】
複数の特徴量の各々の確率分布と複数の特徴量の各々の基準確率分布との距離が大きいほど、回転機械に異常が生じている可能性(以下、回転機械の異常度ともいう。)が高いことを意味する。この点、上記(3)の構成によれば、取得した複数の距離のうち最大のものに基づいて、回転機械の異常を適切に検知することができる。
【0106】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記異常判定部は、前記複数の特徴量の多次元確率分布と、前記正常時の前記複数の特徴量の基準多次元確率分布の距離を取得し、取得した前記距離に基づいて前記回転機械の異常判定をするように構成される。
【0107】
上記(4)の構成によれば、複数の特徴量の多次元確率分布と、回転機械の正常時の複数の特徴量の基準多次元分布との乖離を示すものとして、複数の特徴量の多次元確率分布と複数の特徴量の基準多次元確率分布との距離を取得するようにしたので、取得した距離に基づいて、回転機械の異常を適切に検知することができる。
【0108】
(5)幾つかの実施形態では、上記(4)の構成において、
前記回転機械は、三相モータ又は三相発電機を含み、
前記特徴量取得部は、前記複数の特徴量として、前記三相モータ又は前記三相発電機の三相の電流のそれぞれに対応する1以上の特徴量を取得するように構成される。
【0109】
上記(5)の構成によれば、複数の特徴量として、三相モータ又は三相発電機の三相の電流のそれぞれに対応する特徴量を取得し、これらの特徴量の多次元確率分布と基準多次元確率分布との距離を取得するようにしたので、取得した距離に基づいて、三相モータ又は三相発電機を含む回転機械の異常を適切に検知することができる。
【0110】
(6)幾つかの実施形態では、上記(2)乃至(5)の何れかの構成において、
前記距離は、カルバック・ライブラー距離、ピアソン距離、相対ピアソン距離、又はL2距離を含む。
【0111】
上記(6)の構成によれば、複数の特徴量の確率分布と複数の特徴量の基準確率分布とのそれぞれの距離、又は、複数の特徴量の多次元確率分布と複数の特徴量の基準多次元確率分布との距離として、カルバック・ライブラー距離、ピアソン距離、相対ピアソン距離、又はL2距離を取得するようにしたので、取得した距離に基づいて、回転機械の異常を適切に検知することができる。
【0112】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(6)の何れかの構成において、
前記複数の特徴量は、前記電流波形における前記電流の最大値と最小値との差分、実効値、平均値、スキューネス、又は波高率を含む。
【0113】
上記(7)の構成によれば、複数の特徴量として、計測電流の電流波形における電流の最大値と最小値との差分、実効値、平均値、スキューネス、又は波高率を用いるようにしたので、これらの特徴量の分布と基準分布との乖離、又はこれらの特徴量の多次元分布と基準多次元分布との乖離を取得することで、該乖離に基づいて回転機械の異常を適切に検知することができる。
【0114】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(7)の何れかの構成において、
前記回転機械の診断装置は、
前記電流波形から、規定パルス数の分割波形を取得するように構成された分割波形取得部(32)を備え、
前記特徴量取得部は、前記分割波形の各々について前記複数の特徴量を取得するように構成される。
【0115】
上記(8)の構成によれば、電流計測により得られる電流波形から、規定パルス数の分割波形を取得するようにしたので、このように得られる複数の分割波形の各々について複数の特徴量を取得することで、複数の特徴量の分布又は多次元分布、及び、複数の特徴量の基準分布又は基準多次元分布を適切に取得することができる。よって、このように取得される分布等に基づいて、複数の特徴量の各々の分布と基準分布とのそれぞれの乖離、又は、複数の特徴量の多次元分布と基準多次元分布との乖離を適切に取得し、該乖離に基づいて回転機械の異常を適切に検知することができる。
【0116】
(9)幾つかの実施形態では、上記(8)の構成において、
前記分割波形取得部は、前記電流波形のうち、前記電流がゼロを通過するとともに、前記電流の符号が同一方向に変化する複数のゼロクロス点(ZP)にて前記電流波形を分割して複数の前記分割波形を取得するように構成される。
【0117】
電流波形を分割する際、規定の周波数(回転機械の回転数と関連する周波数等)ごとに分割することが考えられるが、この場合、計測機器のサンプリング間隔等によっては、一周期あたりのサンプル数が安定しない可能性がある。この点、上記(9)の構成によれば、電流波形において電流がゼロを通過するとともに電流の符号が同一方向(負から正又は正から負)に変化するゼロクロス点にて電流波形を分割する。これにより、始点及び終点における電流値がゼロの複数の分割波形を得ることができ、このように得られる複数の分割波形の各々について、複数の特徴量を適切に取得することができる。
【0118】
(10)幾つかの実施形態では、上記(9)の構成において、
前記電流波形は、規定のサンプリング周期で取得される前記電流の計測値を結ぶ曲線として表され、
前記分割波形取得部は、前記符号が異なる二つの前記計測値の線形補間により前記ゼロクロス点を特定するように構成される。
【0119】
電流の計測値は、所定のサンプリング周期毎の離散的な計測値として取得されることがある。上記(10)の構成によれば、規定のサンプリング周期で取得される複数の電流計測値のうち、符号が異なる二つの計測値の線形補間によりゼロクロス点を特定するようにしたので、離散的な複数の電流計測値の中に電流値ゼロの計測点が含まれない場合であっても、電流波形の分割波形への分割を適切に行うことができる。
【0120】
(11)幾つかの実施形態では、上記(10)の構成において、
回転機械の診断装置は、
前記電流を示す信号からノイズ成分を低減又は除去するように構成されたフィルタ(34)を備え、
前記分割波形取得部は、前記フィルタで処理された信号に基づいて前記ゼロクロス点を特定するように構成される。
【0121】
ノイズが含まれる信号では、ノイズに起因する波形の乱れにより、本来の(即ち、ノイズがない場合の)ゼロクロス点以外にも、電流値がゼロとなる点がランダムに現れる場合がある。この点、上記(11)の構成によれば、フィルタによってノイズ成分が低減された信号に基づいてゼロクロス点を特定するようにしたので、このように特定したゼロクロス点に基づいて、電流波形をより適切に分割して分割波形を得ることができる。
【0122】
(12)幾つかの実施形態では、上記(11)の構成において、
前記回転機械の診断装置は、
複数の前記分割波形にそれぞれ含まれる前記電流の計測値のサンプリング数の最大値と最小値との差が許容範囲内に収まるように、前記フィルタの時定数を増加するように構成されたフィルタ設定部(36)を備える。
【0123】
上述したように、ノイズが含まれる信号の場合、本来のゼロクロス点以外にも電流値がゼロとなる点がランダムに現れる。このため、このような見かけ上のゼロクロス点に基づいて得られる複数の分割波形には、始点から終点までの長さ(分割波形の周期)及びサンプリング数に大きなばらつきがある場合がある。この点、上記(12)の構成によれば、複数の分割波形に含まれる電流の計測値のサンプリング数の最大値と最小値との差が許容範囲内に収まるようにフィルタの時定数を増加するようにしたので、フィルタでの処理により得られる信号からゼロクロス点に基づいて得られる複数の分割波形に含まれる電流計測値のサンプリング数のばらつきを小さくすることができる。よって、電流波形をより適切に分割して分割波形を得ることができる。
【0124】
(13)幾つかの実施形態では、上記(12)の構成において、
前記フィルタ設定部は、前記差が前記許容範囲内に入るまで、前記時定数の一定量の増加を繰り返すように構成される。
【0125】
上記(13)の構成によれば、複数の分割波形に含まれる電流の計測値のサンプリング数の最大値と最小値との差が許容範囲内に入るまで、時定数の一定量の増加を繰り返すようにしたので、フィルタでの処理により得られる信号からゼロクロス点に基づいて得られる複数の分割波形に含まれる電流計測値のサンプリング数のばらつきを確実に小さくすることができる。よって、電流波形をより適切に分割して分割波形を得ることができる。
【0126】
(14)本発明の少なくとも一実施形態に係る回転機械の診断方法は、
モータ又は発電機を含む回転機械の回転時に計測された電流の電流波形から前記電流の特徴をそれぞれ示す複数の特徴量を取得するステップ(S8,S38)と、
前記複数の特徴量の各々の分布又は前記複数の特徴量の多次元分布と、前記回転機械の正常時における前記複数の特徴量の各々の基準分布又は基準多次元分布との乖離に基づいて、前記回転機械の異常判定をするステップ(S16~S20、S46~S50)と、
を備える。
【0127】
上記(14)の方法では、測定電流の電流波形から取得される複数の特徴量の各々の分布と複数の特徴量の各々の基準分布との乖離、又は、複数の特徴量の多次元分布と複数の特徴量の基準多次元分布との乖離に基づいて回転機械の異常判定をする。したがって、単独の特徴量の分布と基準分布との乖離に基づく異常判定に比べ、回転機械の特性や異常の種類に関してより網羅的な異常検知が可能となる。よって、回転機械の異常をより適切に検知することができる。
【0128】
また、上記(14)の方法において、複数の特徴量の多次元分布及び基準多次元分布を用いる場合、複数の特徴量に対して、上述の乖離を示す1つの値を算出する。したがって、このように算出される単一の値を用いて回転機械の正常又は異常を判別可能であるため、回転機械の異常判定を容易にすることができる。また、複数の特徴量の多次元分布及び基準多次元分布を用いる場合、複数の特徴量との関係で上述の乖離を算出するので、単一の特徴量の分布に関して乖離を算出する場合に比べ、回転機械の異常発生時における複数の特徴量の分布の変化をより詳細に把握することができる。よって、回転機械の異常検知性能を向上させることができる。
【0129】
(15)本発明の少なくとも一実施形態に係る回転機械の診断プログラムは、
コンピュータに、
モータ又は発電機を含む回転機械の回転時に計測された電流の電流波形から前記電流の特徴をそれぞれ示す複数の特徴量を取得する手順と、
前記複数の特徴量の各々の分布又は前記複数の特徴量の多次元分布と、前記回転機械の正常時における前記複数の特徴量の各々の基準分布又は基準多次元分布との乖離に基づいて、前記回転機械の異常判定をする手順と、
を実行させるように構成される。
【0130】
上記(15)のプログラムでは、測定電流の電流波形から取得される複数の特徴量の各々の分布と複数の特徴量の各々の基準分布との乖離、又は、複数の特徴量の多次元分布と複数の特徴量の基準多次元分布との乖離に基づいて回転機械の異常判定をする。したがって、単独の特徴量の分布と基準分布との乖離に基づく異常判定に比べ、回転機械の特性や異常の種類に関してより網羅的な異常検知が可能となる。よって、回転機械の異常をより適切に検知することができる。
【0131】
また、上記(15)のプログラムにおいて、複数の特徴量の多次元分布及び基準多次元分布を用いる場合、複数の特徴量に対して、上述の乖離を示す1つの値を算出する。したがって、このように算出される単一の値を用いて回転機械の正常又は異常を判別可能であるため、回転機械の異常判定を容易にすることができる。また、複数の特徴量の多次元分布及び基準多次元分布を用いる場合、複数の特徴量との関係で上述の乖離を算出するので、単一の特徴量の分布に関して乖離を算出する場合に比べ、回転機械の異常発生時における複数の特徴量の分布の変化をより詳細に把握することができる。よって、回転機械の異常検知性能を向上させることができる。
【0132】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0133】
本明細書において、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
また、本明細書において、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
また、本明細書において、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【符号の説明】
【0134】
1 回転機械
2 圧縮機
3 出力シャフト
4 モータ
6 直流電源
8 インバータ
10 電流計測部
12 記憶部
20 診断装置
22 電流波形取得部
23 特徴量取得部
25 分布取得部
27 基準分布取得部
29 乖離算出部
30 異常判定部
32 分割波形取得部
34 フィルタ
36 フィルタ設定部
40 表示部
P 山
T 谷
ZP ゼロクロス点