(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】往復表示機構及び時計
(51)【国際特許分類】
G04C 3/00 20060101AFI20240313BHJP
G04C 3/14 20060101ALI20240313BHJP
G04B 19/00 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
G04C3/00 B
G04C3/14 T
G04B19/00 L
(21)【出願番号】P 2020138004
(22)【出願日】2020-08-18
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 翔一郎
(72)【発明者】
【氏名】坪井 理子
(72)【発明者】
【氏名】山田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕之
【審査官】櫻井 健太
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05608386(US,A)
【文献】特開2009-019987(JP,A)
【文献】特開2008-116435(JP,A)
【文献】国際公開第2006/108878(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 11/00 - 13/28
G04B 1/00 - 99/00
G04C 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定の範囲で、指針を往復動させることにより、所定の表示を行う往復表示機構であって、
前記一定の範囲を往復動が可能な指針と、
前記指針を駆動する、歯車を有する指針駆動車と、
前記歯車の歯に噛み合うことにより、前記指針駆動車を回転させる伝動車と、
前記指針を前記往復動の一方の向きに付勢する付勢部材と、を備え、
前記歯車は、前記一定の範囲に対応した角度範囲に歯が形成され、かつ、前記歯が形成された範囲に隣接する領域のうち一方の領域に、前記伝動車が空回りする空転領域が形成され、
前記付勢部材が付勢する前記一方の向きは、前記空転領域が前記伝動車に面している状態において、前記空転領域に隣接する前記歯を前記伝動車に噛み合わせる向きであり、
前記歯車は、前記歯が形成された範囲に隣接する領域のうち、前記空転領域とは反対側の隣接する領域が、前記伝動車を突き当てて回転を停止させるストッパに形成されている、往復表示機構。
【請求項2】
一定の範囲で、指針を往復動させることにより、所定の表示を行う往復表示機構であって、
前記一定の範囲を往復動が可能な指針と、
前記指針を駆動する、歯車を有する指針駆動車と、
前記歯車の歯に噛み合うことにより、前記指針駆動車を回転させる伝動車と、
前記指針駆動車に形成された突起に接して押圧することにより、前記指針を前記往復動の一方の向きに付勢する付勢部材と、を備え、
前記歯車は、前記一定の範囲に対応した角度範囲に歯が形成され、かつ、前記歯が形成された範囲に隣接する領域のうち一方の領域に、前記伝動車が空回りする空転領域が形成され、
前記付勢部材が付勢する前記一方の向きは、前記空転領域が前記伝動車に面している状態において、前記空転領域に隣接する前記歯を前記伝動車に噛み合わせる向きであり、
前
記突起が形成された位置が、平面視で前記歯車の円周内にある、往復表示機構。
【請求項3】
前記伝動車との噛み合いが、前記歯が形成された範囲から前記空転領域に向かって進むときの、前記伝動車の回転方向が、前記伝動車を回転させるステップモータの、正転方向に対応して設定されている請求項1又は2に記載の往復表示機構。
【請求項4】
前記指針は、扇状の範囲を円弧状に往復動するように設定されている請求項1から3のうちいずれか1項に記載の往復表示機構。
【請求項5】
請求項1から4のうちいずれか1項に記載の往復表示機構と、前記駆動車を回転駆動させるステップモータと、を備え、前記一方の向きが、前記ステップモータのロータの、正転方向とは反対向きの回転に対応した方向に設定されている時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、往復表示機構及び時計に関する。
【背景技術】
【0002】
時計の文字板の一定の扇状の範囲で、指針を正転方向及び反転方向に往復運針させて、所定の物理量を表示させる往復表示機構を有する時計が知られている。往復表示機構によって表示させる物理量としては、例えば、時計を駆動する動力源である電池やぜんまいの残量(パワーリザーブ)がある。
【0003】
時刻を表示する指針は一般的には回転し、そのような回転する指針は、全周に亘って歯が形成された歯車を有する車に固定され、その歯車の歯が、他の回転する車に設けられたかなと噛み合うことで、回転が伝達される。
【0004】
これに対して、指針の動く範囲を扇状の範囲に限定したものは、指針が固定される車自体やこの指針が固定された車に噛み合う他の車に形成される歯が、全周ではなく、扇形状の範囲に対応した回転角度範囲のみに形成された構造となっている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、別の構造として、指針が固定された車には全周に歯を形成しつつ、指針が固定された車の、扇状の範囲に対応した回転角度範囲に、円弧状の開口を形成し、回転しないストッパをこの開口に挿入して配置し、指針が固定された車が回転したとき、ストッパが開口の端縁に突き当たることで、指針固定車の回転範囲を扇状に制限するものもある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-116435号公報
【文献】特開2010-223799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1,2に開示された技術は、いずれも、指針が固定された車を他の部材に突き当てることにより、指針の動く範囲を扇状の範囲に限定したものである。
【0008】
ところで、指針が固定された車を駆動する駆動車を、ステップモータで駆動する場合、指針を扇状の範囲で往復運針させるときは、ステップモータの回転方向を、正転方向から反転方向に切り替え、また、反転方向から正転方向に切り替える必要がある。
【0009】
ここで、ステップモータのロータは、静止した状態から反転方向に回転させるときは、静止した状態から、一旦、正転方向にわずかに回転させ、その正転方向へわずかに回転した状態から元の静止した位置に戻る反転の勢いを利用して、元の静止した位置を通り過ぎて反転方向に回転させる必要がある。
【0010】
このため、扇状の範囲の一端側において、車が他の部材に突き当たって静止している状態では、そこから反転方向に回転させるための、正転方向へのわずかな回転を行わせることができない、という問題がある。
【0011】
ここで、特許文献2に開示されたものは、外部操作部材を操作することにより、外部操作部材に連動する時計の内部に配置された連動部材が、他の部材と突き当たって静止した状態の車を、正転方向にわずかに回転させることにより、ステップモータのロータを反転方向に回転可能にしている。
【0012】
しかし、そのような外部操作部材を別途設けるには、時計の内部にスペースが必要であるため、時計のサイズが大きくなったり、また、構成部品が増えてコストが大きくなったりする、という問題がある
【0013】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、外部操作部材を設けることなく、指針を一定の範囲で往復動させることができる往復表示機構及びこの往復表示機構を有する時計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1は、一定の範囲で、指針を往復動させることにより、所定の表示を行う往復表示機構であって、前記一定の範囲を往復動が可能な指針と、前記指針を駆動する、歯車を有する指針駆動車と、前記歯車の歯に噛み合うことにより、前記指針駆動車を回転させる伝動車と、前記指針を前記往復動の一方の向きに付勢する付勢部材と、を備え、前記歯車は、前記一定の範囲に対応した角度範囲に歯が形成され、かつ、前記歯が形成された範囲に隣接する領域のうち一方の領域に、前記伝動車が空回りする空転領域が形成され、前記付勢部材が付勢する前記一方の向きは、前記空転領域が前記伝動車に面している状態において、前記空転領域に隣接する前記歯を前記伝動車に噛み合わせる向きである、往復表示機構である。
【0015】
本発明の第2は、本発明に係る往復表示機構と、前記駆動車を回転駆動させるステップモータと、を備え、前記一方の向きが、前記ステップモータのロータの、正転方向とは反対向きの回転に対応した方向に設定されている時計である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る往復表示機構及びこの往復表示機構を備えた時計によれば、外部操作部材を設けることなく、指針を一定の範囲で往復動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る往復表示機構の一実施形態である扇状表示機構を備えた時計を示す平面図である。
【
図2】
図1に示した扇状表示機構を含む時計のムーブメントを、時計の裏蓋側から見た図である。
【
図3】
図1に示した扇状表示機構における指針駆動車を、時計の文字板側から見た斜視図である。
【
図4】かなと指針駆動車の歯車の歯が形成された角度範囲との噛み合わせの状態と、扇表示領域と、指針と、の位置関係を説明する平面図(その1)である。
【
図5】かなと指針駆動車の歯車の歯が形成された角度範囲との噛み合わせの状態と、扇表示領域と、指針と、の位置関係を説明する平面図(その2)である。
【
図6】かなと指針駆動車の歯車の歯が形成された角度範囲との噛み合わせの状態と、扇表示領域と、指針と、の位置関係を説明する平面図(その3)である。
【
図7】かなと指針駆動車の歯車の歯が形成された角度範囲との噛み合わせの状態と、扇表示領域と、指針と、の位置関係を説明する平面図(その4)である。
【
図8】かなと指針駆動車の歯車の歯が形成された角度範囲との噛み合わせの状態と、扇表示領域と、指針と、の位置関係を説明する平面図(その5)である。
【
図9】かなと指針駆動車の歯車の歯が形成された角度範囲との噛み合わせの状態と、扇表示領域と、指針と、の位置関係を説明する平面図(その6)である。
【
図10】変形例における指針駆動車を示す、
図7相当の図である。
【
図11】変形例における指針駆動車を示す、
図9相当の図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る往復表示機構及びこの往復表示機構を備えた時計の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0019】
<構成>
図1は本発明に係る往復表示機構の一実施形態である扇状表示機構10を備えた時計100を示す平面図、
図2は
図1に示した扇状表示機構10を含む時計100のムーブメントを、時計100の裏蓋側から見た図、
図3は
図1に示した扇状表示機構10における指針駆動車12を、時計100の文字板40側から見た斜視図である。なお、時計100は、本発明に係る時計の一実施形態でもある。
【0020】
図示の時計100は、文字板40に表示された数字やインデックスバー等の時字を、時針51及び分針52で指し示すことにより、時刻を表示する。なお、
図1において、時字の表示は省略している。
【0021】
文字板40の6時の方向の領域(文字板40の下部の領域)には、小針領域60が形成されていて、小針領域60には、秒針53が配置されている。
【0022】
文字板40の12時の方向には、扇状表示機構10が設けられている。また、文字板40の12時の方向の領域(文字板40の上部の領域)には、中心角度が120[度]程度の扇状の輪郭を有する扇表示領域41が形成されている。扇表示領域41は、扇の円弧が文字板40の中心の側、扇の要が文字板40の12時の側に向いた姿勢で形成されている。
【0023】
扇表示領域41には、図示を省略した目盛りが表示されている。目盛りは、扇の要を中心とした円周方向に所定の間隔(一例として等角度間隔でもよい)で表示されている。目盛りは、例えば、時計100を駆動する動力源である電池の残量等の変化する物理量を表す。
【0024】
扇状表示機構10は、扇表示領域41を含む一定の範囲で、後述する指針11を円弧状に往復動させることにより、所定の表示を行う。本実施形態においては、指針11が往復動する一定の範囲のうち扇表示領域41に表示された目盛りを指し示すことで、電池の残量を、時計100の使用者に知らせる。
【0025】
なお、上述したように、指針11は、目盛りが表示された扇表示領域41よりも角度範囲が広い範囲を動くが、電池の残量を認知可能に表示する範囲は、目盛りが表示された扇表示領域41の範囲のみである。
【0026】
扇状表示機構10は、指針11と、指針駆動車12と、中間車14(伝動車の一例)と、キックばね(ねじりコイルばね)13(付勢部材の一例)と、を備える。
【0027】
指針駆動車12は、
図3に示すように歯車121と軸125とが一体に形成されたものである。軸125には、指針11が固定されていて、指針11と指針駆動車12は、一体に、軸125回りに回転する。
【0028】
歯車121は、軸125回りの全周に亘って歯122が形成されているのではなく、1周の半分程度の角度範囲123(一例として、164[度]の角度範囲)にのみ歯122が形成されている。歯122は、中間車14のかな14b(
図4~9参照)に噛み合う。
【0029】
また、歯車121は、歯122が形成された角度範囲123に隣接する領域のうち一方の領域に、歯122に噛み合う中間車14のかな14bが空回りする空転領域124が形成されている。空転領域124は、具体的には、歯車121に形成された歯122の歯底に相当する半径以下で形成されていることで、かな14bが空転する。また、空転領域124は、歯車121のピッチ円(基準円)上において、1モジュール以上の長さで形成されている。
【0030】
なお、歯車121は、歯122が形成された角度範囲123に隣接する領域のうち、空転領域124が形成された側とは反対の領域には、ストッパ129が形成されている。このストッパ129は、歯122に噛み合って回転するかな14bの歯が突き当たって、中間車14の回転を止める。
【0031】
本実施形態におけるストッパ129は、歯122の歯先に相当する半径で形成されているが、歯先の半径に限定されるものではなく、かな14bの歯に突き当たってかな14の回転を停止させる作用を発揮するものであれば、歯122の歯先の半径よりも大きくてもよいし、小さくてもよい。
【0032】
歯車121の一方の面(例えば、文字板40に向いた面)側には、軸125の方向に突出した円柱状の突起126が形成されている。この突起126は、突起126の周面が後述するキックばね13のアーム部13aに接し、歯車121の回転にしたがって、アーム部13aを押圧して、キックばね13のコイル部分をねじるように弾性変形させる。
【0033】
また、歯車121の、突起126が形成されている面と同じ面には、突起126と同じような略円柱状の突起127が2つ形成されている。この突起127は、突起126のように、他の部材に対して何らかの作用を及ぼすものではなく、突起126との重量的な均衡を図るために設けられている。
【0034】
このため、3つの突起126,127,127は近い質量で、かつ軸125回りに概ね等角度間隔で配置されていることが好ましい。また、突起127は、2つに限定されず、3つ以上でもよいし、1つでもよい。なお、重量的な均衡を考慮しない場合は、突起127は無くてもよい。
【0035】
中間車14は、歯車14aと、歯車14aよりも歯の数が少ないかな14bとが同軸に一体に設けられている。歯車14aは、ステップモータ20のロータ21と同軸に固定された、図示を略した歯車と噛み合う。かな14bは、指針駆動車12の歯車121の歯122に噛み合う。これにより、ステップモータ20のロータ21の回転が、中間車14を介して指針駆動車12に伝達される。
【0036】
キックばね13は、時計回り方向に駆動される指針駆動車121を、反時計回り方向に押圧(付勢)する。
【0037】
図4~9は、かな14bと指針駆動車12の歯車121の歯122が形成された角度範囲123との噛み合わせの状態と、扇表示領域41と、指針11と、の位置関係を説明する平面図である。
【0038】
ここで、ステップモータ20は、
図4~9に示すように、ロータ21の正転方向の回転が、文字板40側から見て時計回り方向の回転となるように設定されている。したがって、中間車14は、ロータ21の正転方向の回転により反時計回りに回転し、指針駆動車12は、時計回り方向に回転する。つまり、伝動車である中間車14との噛み合いが、歯車121の歯122が形成された範囲から空転領域124に向かって進むときの、中間車14の回転方向が、中間車14を回転させるステップモータ20の、正転方向に対応して設定されている。
【0039】
また、ロータ21の反転方向の回転(文字板40側から見て反時計回り方向への回転)により、中間車14は時計回りに回転し、指針駆動車12は反時計回り方向に回転する。
【0040】
次に、指針駆動車12の歯車121の歯122が形成された角度範囲123(
図3参照)と指針11の位置との関係について説明する。
【0041】
図4は、かな14bが、歯122の形成された角度範囲123のうち時計回り方向の先端(反時計回り方向の後端)の歯122に噛み合うように、指針駆動車12が回転した状態であって、かな14が、歯122の形成された角度範囲123に隣接するストッパ129に突き当たって歯車121が反時計回り方向の回転を停止した状態を示す。
【0042】
歯車121の歯122は中間車14のかな14bが噛み合って回転するが、
図4に示すように、かな14bがストッパ129に突き当たった状態では、かな14bは時計回りの回転を阻止されて停止する。
【0043】
この状態は、ロータ21が反転方向(反時計回り)に回転し、ロータ21と同軸の歯車に噛み合う中間車14が時計回りに回転して、かな14bがストッパ129に突き当たって、時計回りの回転を阻止された状態である。そして、指針駆動車12は、反時計回りの回転が阻止されて停止した状態である。
【0044】
したがって、
図4に示した状態は、指針駆動車12に固定された指針11が、回転可能の範囲のうち、反時計回り方向の先端縁(時計回り方向の後端縁)に位置する。なお、この位置においては、指針11は、扇表示領域41から反時計回り方向に外れた位置となる。
【0045】
図4に示した状態においては、ロータ21はその停止した状態から反転方向にこれ以上、回転することはできないが、ステップモータ20は、ロータ21を反転方向にわずかでも回転させることなく正転方向(時計回り)に回転方向を切り替えて回転することが可能である。
【0046】
なお、
図4に示した状態における指針駆動車12の突起126の位置を基準位置とし、
図5~9においては、この基準位置にある突起126を、仮想線である二点鎖線で示す。
【0047】
図5は、かな14bがストッパ129に突き当たった基準位置(
図4の状態)から時計回り方向に回転した状態であり、指針11が扇表示領域41の反時計回り方向の先端縁(時計回り方向の後端縁)に一致した状態を示す。
【0048】
このとき、歯車121は、
図4に示した基準位置における突起の126の位置から、
図5に示した指針11が扇表示領域41の先端縁に一致した位置まで、時計回りに角度α[度]回転している。
【0049】
図5に示した状態は、かな14bが、歯122の形成された角度範囲123において歯122に噛み合い、時計回りにも反時計回りにも回転可能な状態である。なお、
図5に示した状態は、
図4に示した基準位置から、ステップモータ20に駆動信号(例えば、ステップ信号)を、予め設定された所定の個数入力することにとって到達する。
【0050】
ここで、角度αは、
図4に示した基準位置のばらつき(ロータ21の安定した停止位置のばらつき)や、バックラッシによる正転後の指針11の停止位置と反転後の指針11の停止位置とのずれを防ぐためのバックラッシ取り用の運針動作(例えば、目標停止位置まで反転10ステップとした場合、まず反転12ステップした後に正転2ステップして停止するような運針動作)などの観点から、4ステップ以上が望ましい。
【0051】
なお、例えば、指針11が1ステップ当たり3[度]運針する構成の場合、12[度](=4ステップ)以上となるように設定されることが好ましい。
【0052】
図6は、
図5に示した状態から、歯車121が時計回り方向に回転し、指針11が扇表示領域41の時計回り方向の先端縁(反時計回り方向の後端縁)に一致した状態を示す。
【0053】
扇表示領域141が、時計回り方向の先端縁から後端縁までの角度がβ[度]に設定されている場合、
図5に示した突起の126の位置から、
図6に示した突起126の位置まで、歯車121は時計回りに角度β[度]回転している。なお、角度βは、一例として120[度]を適用することができるが、120[度]に限定されるものではない。
【0054】
そして、
図5に示した、指針11が扇表示領域41の時計回り方向の後端縁に一致した位置から、ステップモータ20に駆動信号を、指針駆動車12の回転角度β[度]に対応した所定の個数入力することにとって、
図6に示した、指針11が扇表示領域41の時計回り方向の先端縁に一致した位置状態に到達する。
【0055】
図6に示した状態も、かな14bが、歯122の形成された角度範囲123において歯122に噛み合い、時計回りにも、反時計回りにも回転可能な状態である。
【0056】
なお、
図5に示した状態と
図6に示した状態との間では、指針駆動車12の回転に応じて、指針11が扇表示領域41の範囲を往復動することができ、指針11が、扇表示領域41に表示された目盛りを指し示すことで、所定の表示を行うことができる。
【0057】
図7は、かな14bが、歯122の形成された角度範囲123のうち時計回り方向の後端(反時計回り方向の先端)の歯122に噛み合うように、指針駆動車12が
図6に示した状態から時計回り方向に角度γ[度]回転した状態を示す。なお、
図7に示した状態は、歯車121の突起126が、ムーブメントに固定されたキックばね13のアーム部13aに接し始める状態である。
【0058】
図6に示した位置から、ステップモータ20に駆動信号を、指針駆動車12の回転角度γ[度]に対応した所定の個数入力することにとって、
図7に示した位置に到達する。突起126及びキックばね13等のばらつきにより、指針11が扇表示領域41内にあるときに、歯車121がキックばね13による押圧力を受け、指針11の停止位置がバックラッシによって影響を受けることがないようにするために、駆動信号のステップ数としては1ステップ以上であることが望ましい。
【0059】
なお、例えば、指針11が1ステップ当たり3[度]運針する構成の場合、3[度](=1ステップ)以上となるように設定されることが好ましい。
【0060】
歯車121の、歯122が形成された角度範囲123に隣接する領域のうち、時計回り方向の後端(反時計回り方向の先端)の歯122に隣接する外側の領域は、空転領域124であるため、
図7に示した状態から、さらに、かな14bは反時計回りに回転することができる。なお、
図7に示す状態においては、指針11は、扇表示領域41から時計回り方向に外れた位置となる。
【0061】
図8は、かな14bの回転により角度範囲123の歯122が全て、かな14bよりも時計回り方向に送られた状態であり、指針駆動車12が、
図7に示した状態から時計回り方向に角度δ[度]回転した状態を示す。
【0062】
図8に示す状態では、かな14bは歯122を全て時計回り方向に送り切った状態となって、空転領域124に位置している。空転領域124では、かな14bには歯122が接しているが、かな14bが反時計回り方向の回転をしても歯車121は回転せずに空転する。
【0063】
かな14bの反時計回り方向の回転は、ステップモータ20におけるロータ21の正転方向(時計回り方向)への回転に対応しているため、かな14bが反時計回りに空転することにより、ロータ21の正転方向への回転は阻害されず、回転可能である。
【0064】
なお、制御装置の制御により、空転領域124がかな14bに位置するまで、ステップモータ20への駆動信号の所定数の入力が完了すると、ロータ21の正転方向への回転は停止する。
【0065】
図8に示した状態では、中間車14が指針駆動車12を、これ以上、時計回りに回転させることはないため、指針駆動車12に固定された指針11は、回転可能の範囲のうち、時計回り方向の先端縁(反時計回り方向の後端縁)に位置する。
【0066】
また、
図8に示した状態においては、歯車121が、
図7に示した状態から時計回り方向に角度δ[度]回転した状態となるため、歯車121の突起126が、キックばね13の一方のアーム部13aを、時計回り方向に押圧した状態となる。これにより、キックばね13は2つのアーム部13a,13b間の角度間隔が狭くなる弾性変形を起こす。
【0067】
この結果、キックばね13は、弾性変形に応じた反力で、歯車121に形成された突起126を、図示の左方に押圧(付勢)することで、歯車121を反時計回り方向に押圧する。
図8に示した状態では、歯車121は、キックばね13から受けた反時計回り方向のトルクにより、反時計回りに回転し、歯車121の歯122がかな14bを押圧する。
【0068】
図9は、キックばね13から受けた反時計回り方向のトルクにより、歯車121が反時計回りにわずかに回転し、歯車121の歯122がかな14bに噛み合って停止した状態を示す。
【0069】
かな14bは、ロータ21の回転が停止しているため、キックばね13のトルクにより、歯122から時計回りに押圧されることにより時計回りに回転するが、かな14bに連結されたロータ21が停止状態を維持しようとする保持トルクとキックばね13の弾性力によるトルクとの釣り合いにより、
図9に示すように、突起126が、
図8ににおける突起126(二点鎖線で示す)の位置から角度ε[度]だけ反時計回り方向に戻された状態で停止する。
【0070】
なお、部品のばらつきを考慮した場合であっても、歯車121が、
図8に示した位置から
図9に示した位置まで、必ず移行することができるように、角度εが角度δよりも小さくなる(ε<δ)ように、キックばね13や指針駆動車12の仕様を設定しておくことが好ましい。
【0071】
なお、
図9に示した停止した状態では、歯122はかな14bと接し、突起126はキックばね13のアーム部13aと接した状態となっているが、
図4~6に示した状態では、突起126はキックばね13に接しない。したがって、
図4~6に示した状態においては、歯車121には、キックばね13による反時計回り方向へのトルクは掛からない。
【0072】
<作用>
以上のように構成された実施形態の扇状表示機構10及び時計100の作用について説明する。つまり、指針11により、時計100の有する機能における所定の物理量を、指針11によって扇表示領域41に表示する場合について説明する。
【0073】
時計100は、時計100が有する制御装置の制御により、ステップモータ20のロータ21を反時計回りに回転させ、ロータ21と同軸の歯車に噛み合った中間車14の歯車14aを時計回りに回転させ、中間車14のかな14bに歯122が噛み合った指針駆動車12を反時計回りに回転させる。
【0074】
かな14bは、角度範囲123に形成された歯122と噛み合い、指針駆動車12を反時計回りに回転させるが、
図4に示すように、かな14bが、歯122の形成された角度範囲123に隣接するストッパ129に突き当たると、かな14bの時計回り方向の回転は停止して、かな14bは指針駆動車12を反時計回りにそれ以上回転させることができず、指針駆動車12の回転が停止する。このとき、ステップモータ20のロータ21は、反時計回りの回転が停止する。
【0075】
指針駆動車12が停止した位置を基準位置(
図4参照)として、制御装置の制御により、ステップモータ20に、予め設定された所定の個数の駆動信号を入力し、ロータ21を基準位置から時計回りに回転させ、指針11を、扇表示領域41の時計回り方向の後端縁に一致した位置に移動させる(
図5参照)。
【0076】
なお、例えば、指針11が1ステップ当たり3[度]運針する構成の場合、12[度](=4ステップ)以上となるように駆動信号が設定されることが好ましい。
【0077】
ここで、ステップモータ20のロータ21は、反時計回り(反転方向)の回転が停止した基準位置から、時計回り(正転方向)の回転に切り替えられるが、ステップモータ20は、反転方向から正転方向への切り替えに際しては、正転方向への回転に先立つ反転方向へのわずかな回転を必要としない。
【0078】
続いて、制御装置の制御により、扇表示領域41の時計回り方向の後端縁に一致した位置にある指針11(
図5)を、表示しようとする物理量に対応した扇表示領域41の所定の目盛りの位置まで移動させるように、ステップモータ20に、その目盛りの位置までの指針駆動車12の回転角度に対応した数の駆動信号が入力される。
【0079】
これにより、指針11は、扇表示領域41の時計回り方向の後端縁に一致した位置から、時計回り方向に回転して、扇表示領域41の所定の目盛りを指し示した位置で停止し、指針11が指し示した目盛りによって、所定の物理量が表示される。
【0080】
この状態から、指針11を時計回り方向にさらに回転させるために、ステップモータ20に、ロータ21を正転させる駆動信号を入力すると、
図6に示した状態、続いて、
図7に示した状態を経て、
図8に示すように、空転領域124がかな14bに対応する位置まで指針駆動車12が時計回りに回転する。
【0081】
空転領域124がかな14bに対応した位置まで指針駆動車12が回転すると、かな14bは空転し、ステップモータ20への駆動信号の所定数の入力が完了すると、制御装置の制御により、ロータ21の正転方向への回転は停止する。
【0082】
このとき、指針駆動車12をそれ以上、時計回り方向に回転しないため、指針11は回転可能の範囲のうち最も時計回り方向の先端側に位置する。
【0083】
そして、指針駆動車12の歯車121に形成された突起126が、
図7に示した状態から、アーム部13aを押圧して弾性変形したキックばね13の反力を受けるため、指針駆動車12は、
図8に示した状態から
図9に示した位置まで反時計回りに戻って停止する。
【0084】
図9に示した状態では、かな14bは歯122に噛み合った状態で停止しているが、ロータ21が時計回りに回転して停止した場合、次に、ロータ21を反時計回りに反転させるためには、この反時計回りの回転に先立って、ロータ21を、一旦、正転方向に回転させる必要がある。
【0085】
本実施形態の扇状表示機構10は、ロータ21が時計回りに回転して停止した状態において、かな14bは歯車121の空転領域124に位置しているため、かな14bを反転方向に空転させることができる。
【0086】
したがって、指針11を反時計回りに回転して、基準位置に戻す場合にも、ロータ21を、一旦、正転方向にわずかに回転させ、その後、正転方向から停止したときの位置に戻る反動を利用して、ロータ21を反時計回りに回転させることができる。
【0087】
これにより、回転可能の範囲における時計回り方向の先端縁(ロータ21の正転方向の回転)で停止した指針11を、直接、反時計回りに回転させて、扇表示領域41に形成された目盛りを指し示すことで、反時計回りの指針11によっても、所定の物理量の表示を行うことができる。
【0088】
このようにキックばね13が付勢する向きは、空転領域124が中間車14のかな14bに面している状態において、空転領域124に隣接する歯122をかな14bに噛み合わせる向きである。
【0089】
このように、本実施形態の扇状表示機構10及びこの扇状表示機構10を備えた時計100によれば、外部からの操作を受ける外部操作部材を設けることなく、指針11を一定の範囲で往復動させることができる。
【0090】
なお、本実施形態の扇状表示機構10における指針駆動車12は、反転方向については所定の角度以上は機械的に回転しないようにストッパ129を有しているため、かな14bがストッパ129に突き当たって機械的に停止した位置を基準位置とし、歯車121に取り付けられる指針11と扇表示領域41の目盛り位置との位置関係設定することができる。
【0091】
<変形例>
上述した実施形態の扇状表示機構10及び時計100は、指針駆動車12と付勢部材の一例であるキックばね13とが別体に形成されたものであるが、指針駆動車12と付勢部材とを一体化した構成としてもよい。
【0092】
図10,11は、指針駆動車82の歯車821の一部を、歯車821の周方向に延びた円弧状の弾性部83(付勢部材の一例)として形成したものである。
【0093】
歯車821は、実施形態1の歯車121と同様に、歯122が形成された角度範囲123と、角度範囲123に隣接する空転領域124と、ストッパ129とが形成されている。
【0094】
円弧状の弾性部83は、円弧の一端が、ストッパ129に連なった固定端83bとして形成され、円弧の他端が、固定端83bよりも、時計回り方向の前方において自由端83aとして形成されている。自由端83aは、歯車821の本体(歯車821の弾性部83を除いた部分)から離れて形成されている。
【0095】
このように構成された歯車821は、実施形態1における
図7に示した状態と同様に、
図10に示す状態で、自由端83aが、ムーブメントの地板等に形成された傾斜壁95に接し始める。
【0096】
そして、かな14bの反時計回りへの回転により、歯車821が時計回り方向にさらに回転することで、自由端83aが、傾斜壁95に接しながら傾斜壁95に沿って移動し、これにより、自由端83aは、
図11に示すように、歯車821の半径方向の内側に向けて移動し、弾性部83は、固定端83bを固定した梁と同様に、自由端83aが傾斜壁95に接していない状態(自然状態)に比べて、円弧の曲率が大きくなって撓む。
【0097】
これにより、歯車821は、固定端83bから、弾性部83の撓みに応じた反力を受け、これが、反時計回りに回転するトルクとなる。なお、
図11は、実施形態1における
図8に示す状態に相当する。
【0098】
このように構成された変形例の扇状表示機構によっても、実施形態1と同様の作用、効果を得ることができるとともに、指針駆動車と付勢部材とを一体に構成することで、部品点数を減らすことができる。
【0099】
上述した実施形態及び変形例の扇状表示機構10は、付勢部材として、弾性部材を適用し、その弾性部材としてキックばねを適用したものであるが、弾性部材は、キックばねに限定されず、コイルばねや板ばねなど、他の形態のばねを適用してもよいし、また、弾性材料であるゴム等を適用してもよい。
【0100】
また、付勢部材は、一方の向きに付勢する部材であって、弾性力によって所定方向に押圧したり、引っぱったりして付勢する弾性部材に限定されず、弾性料以外の荷重によって、所定方向に押圧したり、引っぱったりして付勢するものであってもよい。
【0101】
上述した実施形態及び変形例の扇状表示機構10は、扇表示領域41を含む扇状の範囲(
図4に示した状態から
図8に示した状態までの、扇表示領域41よりも広い範囲)で、指針11を円弧状に往復動させることにより、所定の物理量の表示を行うものであるが、本発明に係る往復表示機構は、扇状の範囲で指針を円弧状に往復動するものに限定されない。
【0102】
すなわち、本発明に係る往復表示機構は、一定の矩形の範囲で指針を直線状に往復動するものであってもよいし、その他の形状の経路に沿って往復動するものであってもよい。
【0103】
上述した実施形態及び変形例の扇状表示機構10は、扇表示領域41よりも広い範囲を、本発明に係る往復表示機構における指針が往復動する「一定の範囲」としたが、扇表示領域41を本発明における「一定の範囲」としてもよい。
【0104】
上述した実施形態及び変形例の扇状表示機構10は、指針11と指針駆動車12とが一体に形成されたものであるが、指針11は、指針駆動車の動きに連動するものであれば、指針駆動車12と一体では無く別体であってもよい。
【符号の説明】
【0105】
10 扇状表示機構(往復表示機構)
11 指針
12 指針駆動車
13 キックばね
14 中間車
14b かな
20 ステップモータ
21 ロータ
41 扇表示領域
100 時計
121 歯車
122 歯
123 角度範囲
124 空転領域
126 突起
129 ストッパ