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  • 特許-鉄道車両用のパンタグラフ 図1
  • 特許-鉄道車両用のパンタグラフ 図2
  • 特許-鉄道車両用のパンタグラフ 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】鉄道車両用のパンタグラフ
(51)【国際特許分類】
   B60L 5/26 20060101AFI20240313BHJP
【FI】
B60L5/26 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020140345
(22)【出願日】2020-08-21
(65)【公開番号】P2022035791
(43)【公開日】2022-03-04
【審査請求日】2023-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003115
【氏名又は名称】東洋電機製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】中島 伸治
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-143866(JP,A)
【文献】特開2009-203729(JP,A)
【文献】実開平02-134276(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の屋根上に搭載される台枠と、この台枠に設けた主軸に揺動自在に連結される下枠とこの下枠に揺動自在に連結されて集電舟を支持する上枠とを有する枠組と、架線に集電舟が摺接する展開姿勢に枠組を付勢する主ばねと、集電舟が架線から離隔する折畳姿勢に枠組を保持するロック機構とを備え、
ロック機構が、枠組または集電舟に設けた係合部に係合可能な鉤部を有する旋回自在な鉤部材と、鉤部材をその鉤部が係合部に係合可能となる旋回方向一方に向けて付勢する付勢手段と、鉤部材をその鉤部が係合部から離隔する退避姿勢に付勢手段の付勢力に抗して旋回方向他方に向けて旋回させるアクチュエータとを有する鉄道車両用のパンタグラフにおいて、
枠組が正規の折畳姿勢になったときの係合部の位置を正規下降位置とし、
鉤部材は、鉤部として正規下降位置で係合部に係合可能な主鉤部と正規下降位置から上方に離間した中途下降位置で係合部に係合可能な補助鉤部とを備え、正規下降位置での係合部と主鉤部との係合状態または中途下降位置での係合部と補助鉤部との係合状態に応じて、枠組が上下方向高さの異なる2段階の折畳姿勢を取れるように構成したことを特徴とする鉄道車両用のパンタグラフ。
【請求項2】
前記鉤部材は、前記主鉤部と前記補助鉤部とが設けられている旋回自在な単一の部材で構成されていることを特徴とする請求項1記載の鉄道車両用のパンタグラフ。
【請求項3】
前記鉤部材は、前記主鉤部が設けられた旋回自在な第1の部材と、前記補助鉤部が設けられた旋回自在な第2の部材との2つの部材で構成されることを特徴とする請求項1記載の鉄道車両用のパンタグラフ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の屋根上に搭載されて架線から電力を集電するための鉄道車両用パンタグラフに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の鉄道車両用のパンタグラフは、例えば特許文献1で知られている。このものは、鉄道車両の屋根上に搭載される台枠と、この台枠に設けた主軸に揺動自在に連結される下枠とこの下枠に揺動自在に連結されて集電舟を支持する上枠とを有する枠組と、架線に集電舟が摺接する展開姿勢に枠組を付勢する主ばねと、集電舟が架線から離隔する折畳姿勢に枠組を保持するロック機構とを備える。
【0003】
ロック機構は、集電舟に設けた天井管(係合部)に係合する鉤部を有する旋回自在な鉤部材と、鉤部材をその鉤部が係合部に係合可能となる旋回方向一方に向けて付勢する付勢手段と、鉤部材をその鉤部が係合部から離隔する退避姿勢に付勢手段の付勢力に抗して旋回方向他方に向けて旋回させるアクチュエータとを有する。そして、例えば台枠に設けたエアシリンダにより、主ばねの付勢力に抗して展開姿勢から枠組を下降させると、天井管が鉤部を押圧して付勢手段の付勢力に抗して鉤部材を旋回方向他方に旋回させ、天井管が鉤部を通過すると、付勢手段の付勢力により旋回方向一方に旋回して鉤部が係合部に係合する。これにより、枠組が折畳姿勢に保持される。以下において、枠組が正規の折畳姿勢になったときの係合部の(高さ)位置を正規下降位置とする。他方、折畳姿勢から展開姿勢に戻す場合には、アクチュエータを作動してその押圧部を鉤部材に当接させ、付勢手段の付勢力に抗して押圧部の先端が鉤部材表面を摺動しながら当該鉤部材を押圧して鉤部材を旋回方向他方に旋回させ、鉤部と係合部との係合を解除する。これにより、鉤部材は退避姿勢となり、枠組が上昇する。
【0004】
ところで、降雪時、枠組の上枠や下枠の外表面に積雪することがある。このような積雪した状態で展開姿勢から枠組を下降させても、上枠と下枠の間に雪が挟まって正規下降位置まで枠組が下降せずに枠組を折畳姿勢に保持できない場合がある。このとき、枠組には主ばねの付勢力が常時作用しているので、集電舟が架線に着線した状態に戻る虞がある。このため、鉤部材により枠組を折畳姿勢に保持できないと、架線をき電停止させることにとって障害になるばかりか、屋根上からの雪降ろし作業やパンタグラフの点検作業もできなくなってしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-12744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、展開姿勢から正規位置まで枠組が下降しない状態でも、枠組を折畳姿勢に保持することができる鉄道車両用のパンタグラフを提供することをその目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の鉄道車両用のパンタグラフは、鉄道車両の屋根上に搭載される台枠と、この台枠に設けた主軸に揺動自在に連結される下枠とこの下枠に揺動自在に連結されて集電舟を支持する上枠とを有する枠組と、架線に集電舟が摺接する展開姿勢に枠組を付勢する主ばねと、集電舟が架線から離隔する折畳姿勢に枠組を保持するロック機構とを備え、ロック機構が、枠組または集電舟に設けた係合部に係合可能な鉤部を有する旋回自在な鉤部材と、鉤部材をその鉤部が係合部に係合可能となる旋回方向一方に向けて付勢する付勢手段と、鉤部材をその鉤部が係合部から離隔する退避姿勢に付勢手段の付勢力に抗して旋回方向他方に向けて旋回させるアクチュエータとを有し、枠組が正規の折畳姿勢になったときの係合部の位置を正規下降位置とし、鉤部材は、鉤部として正規下降位置で係合部に係合可能な主鉤部と正規下降位置から上方に離間した中途下降位置で係合部に係合可能な補助鉤部とを備え、正規下降位置での係合部と主鉤部との係合状態または中途下降位置での係合部と補助鉤部との係合状態に応じて、枠組が上下方向高さの異なる2段階の折畳姿勢を取れるように構成したことを特徴とする。
【0008】
本発明において、前記鉤部材は、前記主鉤部と前記補助鉤部とが設けられている旋回自在な単一の部材とした構成、または、前記鉤部材は、前記主鉤部が設けられた旋回自在な第1の部材と、前記補助鉤部が設けられた旋回自在な第2の部材との2つの部材とした構成を採用することができる。
【0009】
以上によれば、降雪時の積雪の影響で展開姿勢から枠組を正規下降位置まで下降できないときでも、中途下降位置まで枠組を下降することができれば、補助鉤部を係合部に係合させることで、集電舟を架線から確実に離線させた中途下降位置にて枠組を折畳姿勢に一時的に保持することができる。なお、正規下降位置と中途下降位置との間の間隔は、仕様やパンタグラフの構造などを考慮して、例えば、10mm~50mmの範囲内で適宜設定すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の鉄道車両用のパンタグラフをその展開姿勢で示す正面図。
図2図1に示すパンタグラフを折畳姿勢で示す正面図。
図3】(a)及び(b)は、変形例に係る鉤部材の部分拡大斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、鉄道車両の屋根上に搭載されて架線から電力を集電する本発明の鉄道車両用のパンタグラフをシングルアーム式のものを例にその実施形態を説明する。以下において、上、下、左、右や時計回り、反時計回りといった方向を示す用語は、鉄道車両の屋根上へのパンタグラフの搭載姿勢で示す図1を基準とする。
【0012】
図1及び図2を参照して、PGは、本実施形態のパンタグラフである。パンタグラフPGは、図外の鉄道車両の屋根上に碍子を介して配置される台枠1を備える。台枠1上に図示省略のブラケットが設けられ、ブラケットに車幅方向にのびるように主軸2が軸支されている。主軸2には下枠31が揺動自在に連結され、下枠31の上端にはヒンジ32を介して上枠33が揺動自在に連結され、これら下枠31と上枠33とで枠組3が構成される。上枠33の下端と台枠1との間には釣合ロッド34が連結されている。そして、上枠33により集電舟4が支持されている。枠組3や集電舟4としては、公知のものが利用できるため、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0013】
台枠1上には、枠組3を上方の伸び側に付勢する主ばね5が設けられている。主軸2にはカム部材6が取り付けられ、一端が主ばね5に連結された索条51をカム部材6の周面に沿わせて、索条51の他端をカム部材6の所定箇所に連結し、主ばね5の付勢力(圧縮力)によりカム部材6を介して主軸2に時計回りの回転モーメントが作用するようにしている。なお、カム部材6としては、公知のものが利用できるため、これ以上の説明は省略する。また、特に図示して説明しないが、台枠1上には、エアシリンダ等の駆動手段が設けられ、主軸2に、主ばね5の圧縮力に抗して逆方向の回転力を付与することで、展開姿勢にある枠組3を下降させることができるようになっている。更に、台枠1上には、枠組3を折畳姿勢に保持するロック機構7が設けられている(図1中、右端部)。
【0014】
ロック機構7は、台枠1に設けたブラケット71に軸支された軸体72を介して旋回自在な鉤部材73を備え、鉤部材73の先端には、集電舟4に設けた係合部としての天井管41に係合する鉤部74が設けられている。また、台枠1には、フレーム75が設けられ、フレーム75と鉤部材73との間にはコイルばね76が縮設され、コイルばね76により、鉤部74が天井管41に係合可能となる旋回方向一方(反時計方向)に向けて常時付勢されるようにしている。また、鉤部材73の下端部分には、押圧ロッド77aを有するアクチュエータ77が台枠1に設けられている。アクチュエータ77としては、エアシリンダやソレノイド等の公知のものが利用できるため、ここでは詳細な説明を省略する。そして、図外の架線に集電舟4のすり板が摺接する展開姿勢から枠組3を下降させると、天井管41が鉤部74の上面に当接し、鉤部74の傾斜した上面を摺動することで、コイルばね76の付勢力に抗して鉤部材73が旋回方向他方に旋回され、天井管41が鉤部74の斜面を通過すると、コイルばね76の付勢力により旋回方向一方に旋回して鉤部74が天井管41に係合する。これにより、枠組3が折畳姿勢に保持される。以下において、枠組3が正規の折畳姿勢になったときの天井管41の高さ位置を正規下降位置とする。他方で、アクチュエータ77を作動すると、コイルばね76の付勢力に抗して押圧ロッド77aの先端が鉤部材73の下端部を押圧して鉤部材73を旋回方向他方(時計方向)に旋回させ、鉤部74と天井管41との係合を解除できる退避位置となる。これにより、枠組3が主ばね5の付勢力により折畳姿勢から展開姿勢に戻る。
【0015】
ところで、降雪時、枠組3の上枠33や下枠31の外表面に積雪することがある。このような積雪した状態で展開姿勢から枠組3を下降させても、上枠33と下枠31の間に雪が挟まって正規下降位置まで枠組3が下降せずに枠組3を折畳姿勢に保持できない場合がある。このため、正規下降位置まで枠組が下降しないときでも、枠組3を折畳姿勢に保持できるようにしておく必要がある。そこで、本実施形態では、鉤部74として、正規下降位置で天井管41に係合可能な主鉤部74aと、正規下降位置から上方に離間した中途下降位置で天井管41に係合可能な補助鉤部74bとを単一の部材である鉤部材73に設けることとした。この場合、主鉤部74aと補助鉤部74bとは同一の形状を有し、補助鉤部74bが鉤部材73の先端に、また、主鉤部74aが補助鉤部74bから所定間隔だけ離間させた位置に設けられている。主鉤部74aと補助鉤部74aとの間隔、言い換えると、正規下降位置と中途下降位置との間の間隔は、仕様やパンタグラフの構造などを考慮して、例えば、10mm~50mmの範囲内で適宜設定される。
【0016】
以上によれば、降雪時の積雪の影響で展開姿勢から枠組3を正規下降位置まで下降できないときでも、中途下降位置まで枠組3を下降することができれば、補助鉤部74bを天井管41に係合させることで、集電舟4を架線から確実に離線させた中途下降位置にて枠組3を折畳姿勢に一時的に保持することができる。そして、枠組3に積もった雪が排除されると、中途下降位置の枠組3を正規下降位置まで更に下降させ、主鉤部74aを天井管41に係合させることで、枠組3が折畳姿勢に保持される。
【0017】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記のものに限定されるものではなく、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で適宜変形が可能である。上記実施形態では、シングルアーム式のパンタグラフPGを例に説明したが、これに限定されるものではなく、所謂菱形や下枠交差形のものにも本発明を適用することができる。また、上記実施形態では、鉤部材73は、主鉤部74aと補助鉤部74bとが設けられている旋回自在な単一の部材で構成されているものを例に説明したが、これに限定されるものではない。
【0018】
図3を参照して、変形例に係る鉤部材8a,8bでは、正規下降位置にて天井管41に係合する主鉤部81aが設けられた旋回自在な第1の部材81と、中途下降位置にて天井管41に係合する補助鉤部82aが設けられた旋回自在な第2の部材82との2つの部材で構成されている。この場合、図3(a)に示すものでは、第1及び第2の各部材81,82が軸方向に間隔を置いて設けられる一方で、図3(b)に示すものでは、第1及び第2の各部材81,82が軸方向に密接して(或いは、微小な隙間を存して)設けられる。これらは、例えば、主鉤部81aと補助鉤部82aが係合する鉤受けとしての係合部の形状等に応じて使い分けされ、このとき、第1及び第2の各部材81,82は、単一のアクチュエータで同期して旋回させることが好ましいが、別のアクチュエータで別々に旋回させてもよい。
【符号の説明】
【0019】
PG…パンタグラフ、1…台枠、2…主軸、3…枠組、31…下枠、33…上枠、4…集電舟、41…係合部、5…主ばね、7…ロック機構、73,8a,8b…鉤部材、74…鉤部、74a…主鉤部、74b…補助鉤部、76…コイルばね(付勢手段)、77…アクチュエータ、81…第1の部材、82…第2の部材。
図1
図2
図3