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特許7453882溶存アンモニア濃度測定装置およびこれを用いた溶存アンモニア濃度測定方法
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  • 特許-溶存アンモニア濃度測定装置およびこれを用いた溶存アンモニア濃度測定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】溶存アンモニア濃度測定装置およびこれを用いた溶存アンモニア濃度測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/00 20060101AFI20240313BHJP
   G01N 33/18 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
G01N31/00 G
G01N33/18 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020141336
(22)【出願日】2020-08-25
(65)【公開番号】P2022037285
(43)【公開日】2022-03-09
【審査請求日】2023-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000120401
【氏名又は名称】荏原実業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大平 美智男
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-010145(JP,A)
【文献】特開平09-318503(JP,A)
【文献】特開昭58-052558(JP,A)
【文献】特開昭57-196147(JP,A)
【文献】特開平11-241977(JP,A)
【文献】特開平05-199645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00 - 31/22
G01N 33/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアが溶存された試料水と、当該試料水をアルカリ性域にするためのpH調整剤とを混合してなる被測定液を収容し、当該被測定液との間に一定容積の気相部が形成されるように構成された測定槽と、
前記測定槽に連結して前記被測定液を連続的に供給可能な被測定液供給機構と、
アンモニアガスを検知するアンモニアガス検知器と、
前記測定槽の前記気相部に連結し、アンモニアガスを含む試料ガスを前記アンモニアガス検知器に供給する試料ガス供給機構と、
を備え、前記試料水中に溶存するアンモニアの濃度を測定するための溶存アンモニア濃度測定装置であって、
前記測定槽は、一定レベル以上に達した前記被測定液を外部に排出する被測定液排出管と、前記被測定液が収容される液相部から前記気相部の一部まで貫通する試料ガス供給管を備え、
前記試料ガス供給管の先端部は、前記試料ガス供給機構側を塞ぎ、かつ少なくとも前記気相部に配置される領域に複数の開口を有し、前記被測定液から気化して生成された前記試料ガスが前記開口を介して前記気相部へ供給されるようになっており、
前記被測定液供給機構は、前記アンモニアガス検知器を通過した前記試料ガスを前記被測定液と混合して前記測定槽に供給し循環することにより、前記測定槽中のアンモニアガス濃度を気液平衡状態にすることを特徴とする溶存アンモニア濃度測定装置。
【請求項2】
前記被測定液供給機構は、
前記試料水を供給する試料水供給装置と、
前記pH調整剤を供給するpH調整剤供給装置と、
前記試料水供給装置から供給された前記試料水と前記pH調整剤供給装置から供給された前記pH調整剤とを混合して、pHが12以上の前記被測定液を生成する混合器と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の溶存アンモニア濃度測定装置。
【請求項3】
前記被測定液供給機構は、
前記試料水または前記被測定液を加温するヒーターを備えることを特徴とする請求項1または2に記載の溶存アンモニア濃度測定装置。
【請求項4】
前記試料ガス供給機構は、
少なくとも前記アンモニアガスを含まないゼロガスを生成するゼロガス生成器と、
前記アンモニアガス検知器への前記試料ガスの供給と前記ゼロガスの供給とを切り替える切り替え弁と、
を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の溶存アンモニア濃度測定装置。
【請求項5】
前記ゼロガス生成器は、前記試料ガスに含まれるアンモニアガスをアンモニアガス吸着剤に吸着させて前記ゼロガスを生成することを特徴とする請求項4に記載の溶存アンモニア濃度測定装置。
【請求項6】
前記測定槽は、前記被測定液を収容する2つのセルが連結管により連結されており、
一方の前記セルは、前記被測定液供給機構および前記試料ガス供給機構と連結し、
他方の前記セルは、前記被測定液排出管と連結し、
前記被測定液供給機構は、前記2つのセルそれぞれに収容される前記被測定液の水位が前記連結管より高くなるように前記被測定液を連続的に供給することを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の溶存アンモニア濃度測定装置。
【請求項7】
請求項1からのいずれか1項に記載の溶存アンモニア濃度測定装置を用いて試料水中に溶存するアンモニアの濃度を測定する方法であって、
前記試料水と前記pH調整剤とを混合してなる前記被測定液を前記測定槽に供給する被測定液供給ステップと、
前記測定槽の前記気相部に存在する前記試料ガスを前記アンモニアガス検知器に供給する試料ガス供給ステップと、
前記試料ガスに含まれるアンモニアガスを前記アンモニアガス検知器で検知し、前記試料水中の溶存アンモニア濃度を測定する測定ステップと、
を含み、
前記被測定液供給ステップは、前記アンモニアガス検知器を通過した前記試料ガスを前記被測定液と混合して前記測定槽に供給し循環することにより、前記測定槽中のアンモニアガス濃度を気液平衡状態にすることを特徴とする溶存アンモニア濃度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料水中に溶存するアンモニアの濃度を測定可能な溶存アンモニア濃度測定装置およびこれを用いた溶存アンモニア濃度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニアは自然界や人工の発生源から排出される塩基性の大気汚染物質である。アンモニアは、水溶性であり、容易に大気中の水滴、水分に移行し、河川等の水源の富栄養化の原因となる。このため、河川水等の一般水域において、水中のアンモニア濃度を測定することは、水質汚濁の指標を得る上で重要である。また、生活排水、工場排水、下水等の処理においても、排出規制値の基準レベルを維持しているかどうかを判断する上でアンモニア濃度の測定は重要である。
【0003】
水中のアンモニア濃度の測定方法としては、中和滴定法、インドフェノール青吸光光度法、イオン電極法、およびアンモニア測定用微生物センサ(例えば、特許文献1を参照)が一般的に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭55-72853
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
中和滴定法は、試料を加熱蒸留するため測定に時間を要するという欠点を有する。また、インドフェノール青吸光光度法は、懸濁物質等が多く存在する場合にこれが妨害となり、その除去操作が必要となりかつ操作が煩雑になるという欠点を有する。イオン電極法は、試料にアルカリ溶液を添加してpHを調整する必要があるため、試料中から金属水酸化物等が析出して隔膜に付着し、測定精度が低下すること、アンモニア以外の揮発性アミンが測定の妨害となること等の欠点を有している。アンモニア測定用微生物センサは、アンモニアのみを選択的に酸化して亜硝酸または硝酸に酸化する微生物を固定化したセンサである。この微生物センサによる測定法によれば、簡単な操作かつ短時間でアンモニア濃度を測定できる。
【0006】
しかしながら、上述の微生物センサによる測定法では、微生物センサの寿命が短いという問題がある。また、微生物センサによる測定法では、種々の有機物を含む試料を測定する場合において、長時間使用すると、微生物センサ内に亜硝酸生成細菌以外の微生物が増殖して微生物センサのアンモニアに対する選択性が低下して誤差を与える虞がある。
【0007】
本発明は、従来から公知の各種センサの上記課題に鑑みてなされたものであり、メンテナンスが容易で、かつ長期間安定して試料水中の溶存アンモニア濃度を連続測定可能な溶存アンモニア濃度測定装置およびこれを用いた溶存アンモニア濃度測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記目的を達成するための一実施形態に係る溶存アンモニア濃度測定装置は、アンモニアが溶存された試料水と、当該試料水をアルカリ性域にするためのpH調整剤とを混合してなる被測定液を収容し、当該被測定液との間に一定容積の気相部が形成されるように構成された測定槽と、前記測定槽に連結して前記被測定液を連続的に供給可能な被測定液供給機構と、アンモニアガスを検知するアンモニアガス検知器と、前記測定槽の前記気相部に連結し、アンモニアガスを含む試料ガスを前記アンモニアガス検知器に供給する試料ガス供給機構と、を備え、前記試料水中に溶存するアンモニアの濃度を測定するための溶存アンモニア濃度測定装置であって、前記測定槽は、一定レベル以上に達した前記被測定液を外部に排出する被測定液排出管を備え、前記被測定液供給機構は、前記アンモニアガス検知器を通過した前記試料ガスを前記被測定液と混合して前記測定槽に供給し循環することにより、前記測定槽中のアンモニアガス濃度を気液平衡状態にする。
(2)別の実施形態に係る溶存アンモニア濃度測定装置では、好ましくは、前記被測定液供給機構は、前記試料水を供給する試料水供給装置と、前記pH調整剤を供給するpH調整剤供給装置と、前記試料水供給装置から供給された前記試料水と前記pH調整剤供給装置から供給された前記pH調整剤とを混合して、pHが12以上の前記被測定液を生成する混合器と、を備えても良い。
(3)別の実施形態に係る溶存アンモニア濃度測定装置では、好ましくは、前記被測定液供給機構は、前記試料水または前記被測定液を加温するヒーターを備えても良い。
(4)別の実施形態に係る溶存アンモニア濃度測定装置では、好ましくは、前記試料ガス供給機構は、少なくとも前記アンモニアガスを含まないゼロガスを生成するゼロガス生成器と、前記アンモニアガス検知器への前記試料ガスの供給と前記ゼロガスの供給とを切り替える切り替え弁と、を備えても良い。
(5)別の実施形態に係る溶存アンモニア濃度測定装置では、好ましくは、前記ゼロガス生成器は、前記試料ガスに含まれるアンモニアガスをアンモニアガス吸着剤に吸着させて前記ゼロガスを生成しても良い。
(6)別の実施形態に係る溶存アンモニア濃度測定装置では、好ましくは、前記測定槽は、前記被測定液が収容される液相部から前記気相部の一部まで貫通する試料ガス供給管を備え、前記試料ガス供給管の先端部は、前記試料ガス供給機構側を塞ぎ、かつ少なくとも前記気相部に配置される領域に複数の開口を有し、前記被測定液から気化して生成された前記試料ガスが前記開口を介して前記気相部へ供給されても良い。
(7)別の実施形態に係る溶存アンモニア濃度測定装置では、好ましくは、前記測定槽は、前記被測定液を収容する2つのセルが連結管により連結されており、一方の前記セルは、前記被測定液供給機構および前記試料ガス供給機構と連結し、他方の前記セルは、前記被測定液排出管と連結し、前記被測定液供給機構は、前記2つのセルそれぞれに収容される前記被測定液の水位が前記連結管より高くなるように前記被測定液を連続的に供給しても良い。
(8)本発明の一実施形態に係る溶存アンモニア濃度測定方法は、上述のいずれか1つの溶存アンモニア濃度測定装置を用いて試料水中に溶存するアンモニアの濃度を測定する方法であって、前記試料水と前記pH調整剤とを混合してなる前記被測定液を前記測定槽に供給する被測定液供給ステップと、前記測定槽の前記気相部に存在する前記試料ガスを前記アンモニアガス検知器に供給する試料ガス供給ステップと、前記試料ガスに含まれるアンモニアガスを前記アンモニアガス検知器で検知し、前記試料水中の溶存アンモニア濃度を測定する測定ステップと、を含み、前記被測定液供給ステップは、前記アンモニアガス検知器を通過した前記試料ガスを前記被測定液と混合して前記測定槽に供給し循環することにより、前記測定槽中のアンモニアガス濃度を気液平衡状態にする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、メンテナンスが容易で、かつ長期間安定して試料水中の溶存アンモニア濃度を連続測定可能な溶存アンモニア濃度測定装置およびこれを用いた溶存アンモニア濃度測定方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る溶存アンモニア濃度測定装置の概略構成図を示す。
図2図2は、図1の一部Aの拡大図を示す。
図3図3は、本発明の第2実施形態に係る溶存アンモニア濃度測定装置の概略構成図を示す。
図4図4は、本発明の実施形態に係る溶存アンモニア濃度測定方法の主なステップを含むフローチャートを示す。
図5図5は、溶存アンモニア濃度(0~0.2mg/L)とアンモニアガス検知器による測定値との関係を示したグラフを示す。
図6図6は、溶存アンモニア濃度(0~20mg/L)とアンモニアガス検知器による測定値との関係を示したグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の各実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、各実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0012】
1.溶存アンモニア濃度測定装置
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る溶存アンモニア濃度測定装置の概略構成図を示す。図2は、図1の一部Aの拡大図を示す。なお、図1において、実線の矢印およびブロック矢印は液体の流れ、二点鎖線の矢印は気体の流れをそれぞれ示す。以後の実施形態においても同様である。
【0013】
(1)概略構成
この実施形態に係る溶存アンモニア濃度測定装置1は、試料水中に溶存するアンモニアの濃度を測定するための装置である。溶存アンモニア濃度測定装置1は、アンモニアが溶存された試料水と、試料水をアルカリ性域にするためのpH調整剤とを混合してなる被測定液を収容し、被測定液との間に一定容積の気相部25が形成されるように構成された測定槽2と、測定槽2に連結して被測定液を連続的に供給可能な被測定液供給機構4と、アンモニアガスを検知するアンモニアガス検知器70と、測定槽2の気相部25に連結し、アンモニアガスを含む試料ガスをアンモニアガス検知器70に供給する試料ガス供給機構6と、を備える。測定槽2は、一定レベル以上に達した被測定液を外部に排出する被測定液排出管34を備える。被測定液供給機構4は、アンモニアガス検知器70を通過した試料ガスを被測定液と混合して測定槽2に供給し循環することにより、測定槽2の気相部25内のアンモニアガス濃度を気液平衡状態にする。
【0014】
(2)被測定液供給機構
被測定液供給機構4は、好ましくは、試料水を供給する試料水供給装置40と、pH調整剤を供給するpH調整剤供給装置44と、試料水供給装置40から供給された試料水とpH調整剤供給装置44から供給されたpH調整剤とを混合して、pHが12以上の被測定液を生成する混合器48と、を備える。また、被測定液供給機構4は、好ましくは、アンモニアガス検知器70を通過した試料ガスを循環する試料ガス循環装置50を備える。また、被測定液供給機構4は、好ましくは、試料水または被測定液を加温するヒーター54を備える。
【0015】
試料水供給装置40は、好ましくは、アンモニアが溶存された試料水を調整する試料水調整槽42から混合器48へ試料水を送り出すポンプである。試料水調整槽42は、好ましくは、試料水調整槽42内の所定位置から底部へ貫通する試料水排出管43を備え、試料水調整槽42から一定レベル以上に達した試料水が試料水排出管43から外部に排出される。試料水は、好ましくは、試料水調整槽42へ連続的に供給される。また、試料水は、好ましくは、試料水調整槽42に収容される試料水の水位が試料水排出管43を超えると、その水位が試料水排出管43の先端位置となるように余剰分が試料水排出管43から排出される。被測定液供給機構4は、試料水調整槽42と試料水供給装置40との間にフィルタ41を備えることが好ましい。フィルタ41は、試料水調整槽42から採取された試料水に含まれる不要物質を除去することができる。試料水供給装置40は、好ましくは、所定流量の試料水を連続的に供給するポンプである。この実施形態において、試料水供給装置40は、好ましくは、5cc/minの流量で試料水を連続的に混合器48へ送り出す。
【0016】
pH調整剤供給装置44は、好ましくは、pH調整剤を貯留するpH調整剤タンク45から混合器48へpH調整剤を送り出すポンプである。pH調整剤は、好ましくは、試料水をpHが12以上のアルカリ性域にするためのアルカリ剤である。この実施形態において、pH調整剤は、水酸化ナトリウム水溶液である。なお、pH調整剤は、試料水をpHが12以上のアルカリ性域にすることが可能な溶液であれば水酸化ナトリウムに限定されず、例えば、水酸化カリウム等であっても良い。pH調整剤供給装置44は、好ましくは、所定流量のpH調整剤を連続的に供給するポンプである。この実施形態において、pH調整剤供給装置44は、好ましくは、0.8cc/minの流量でpH調整剤を連続的に混合器48へ送り出す。
【0017】
混合器48は、試料水供給装置40から供給された試料水と、pH調整剤供給装置44から供給されたpH調整剤とを混合してpHが12以上の被測定液を生成する容器である。試料水に溶存するアンモニアは、NHおよびNH として存在し、両者の関係は下記の化学式(1)により表される。
【0018】
【化1】
【0019】
pHが12以上の状態において、上記化学式(1)の反応はほぼ完全に左側にシフトする。すなわち、pHが12以上の状態において、試料水に溶存するアンモニアは、アンモニアガスとして存在することになる。よって、混合器48で生成された被測定液中に溶存するアンモニアはアンモニアガスとして存在している。なお、被測定液供給機構4は、試料水供給装置40から供給された試料水と、pH調整剤供給装置44から供給されたpH調整剤とを混合して生成されたpHが12以上の被測定液を測定槽2へ供給可能であれば、混合器48を備えていなくても良い。
【0020】
試料ガス循環装置50は、好ましくは、アンモニアガス検知器70を通過した試料ガスを吸引し連続的に循環するポンプである。試料ガス循環装置50から送り出された試料ガスは、好ましくは、試料ガス流量計52により当該試料ガスの流量が計測され、混合器48から送り出された被測定液と混合されて気液混合状態で測定槽2へ供給し循環される。このとき、気液混合状態で測定槽2へ供給される被測定液に溶存するアンモニアは、上述の通り、アンモニアガスとして存在している。
【0021】
ヒーター54は、好ましくは、試料ガス循環装置50から送り出された試料ガスと混合器48から送り出された被測定液とが混合された気液混合状態の被測定液(以後、単に「気液混合状態の被測定液」ともいう。)を加温する。すなわち、ヒーター54は、混合器48から送り出された被測定液に試料ガス循環装置50から送り出された試料ガスが混合される位置Jから測定槽2までのいずれかの位置に備えられることが好ましい(図1を参照)。ただし、ヒーター54は、試料ガス循環装置50から送り出された試料ガスが混合されていない被測定液、すなわち、混合器48から送り出された被測定液を加温しても良いし、試料水供給装置40から供給される試料水を加温しても良い。この場合、ヒーター54は、例えば、混合器48から当該位置Jまでのいずれかの位置、または試料水供給装置40から混合器48までのいずれかの位置に備えられていれば良い。ヒーター54としては、例えば、カートリッジヒータ、シーズヒータ、テープヒータ等が挙げられる。
【0022】
溶存アンモニア濃度測定装置1において、測定槽2の気相部25内のアンモニアガス濃度が気液平衡状態にあるため、測定槽2に収容される被測定液の温度が上昇すると、気相部25に存在するアンモニアガスの濃度が高くなり、アンモニアガス検知器70による測定値が大きくなる。溶存アンモニア濃度測定装置1では、ヒーター54により被測定液を加温することにより、気相部25のアンモニアガスの濃度が高くなり、アンモニアガス検知器70による測定値が大きくなる。よって、溶存アンモニア濃度測定装置1は、ヒーター54の加温により、溶存アンモニア濃度が低い試料水であっても溶存アンモニア濃度を測定することができる。また、溶存アンモニア濃度測定装置1は、ヒーター54の温度を変化させて試料水または被測定液の温度を変化させることによりアンモニアガス検知器による感度を調節できるため、測定範囲に適合したアンモニアガス検知器を選定することができる。また、溶存アンモニア濃度測定装置1は、測定槽2に供給される前に試料水または被測定液をヒーター54で加温するため、測定槽2を加温する場合に比べて試料水または被測定液の温度上昇までの時間を短縮することができる。
【0023】
(3)測定槽
測定槽2は、好ましくは、被測定液を収容する2つのセル20,22が連結管24により連結されている(図2を参照)。連結管24は、セル20の側面とセル22の側面とを連結して、セル20とセル22との間で被測定液が移動可能となっている。一方のセル20は、好ましくは、その底部が被測定液供給機構4と連結し、かつその上部が試料ガス供給機構6と連結している。他方のセル22は、好ましくは、被測定液排出管34と連結している。より詳細には、2つのセル20,22は、上部約1/3を気相部25,27とし、残りの液相部26,28の水位が一定となるように各セル20,22が連結管24で連結されている。被測定液供給機構4は、2つのセル20,22それぞれに収容される被測定液の水位が連結管24の上面と一致若しくはそれより高くなるように、連続的にセル20へ気液混合状態の被測定液を供給する。より具体的には、被測定液供給機構4は、2つのセル20,22それぞれに収容される被測定液の水位が被測定液排出管34の先端の高さとなるように、連続的にセル20へ気液混合状態の被測定液を供給する。測定槽2は、被測定液の水位が連結管24の上面と一致若しくはそれより高いため、気相部25に存在するアンモニアガスが連結管24を通ってセル22へ流れ込む事態を抑制できる。被測定液供給機構4は、気液混合状態の被測定液を連続的に供給することにより、セル20の気相部25内のアンモニアガス濃度を気液平衡状態とする。また、セル22は、気相部27と液相部28との境界から底部へ貫通する被測定液排出管34を備え、測定槽2から一定レベル以上に達した被測定液が被測定液排出管34から外部に排出される。すなわち、測定槽2は、被測定液排出管34の長さを調整することにより、液相部26,28の水位を調整することができる。セル22は、その上部に大気に通じる開口部36を備える。セル22内を常に大気圧にするためである。セル22の開口部36から排出される試料ガスは、アンモニア吸着材38により試料ガス中のアンモニアガスが吸着されることが好ましい。試料ガス中のアンモニアガスが大気へ拡散される事態を抑制するためである。セル22に収容される被測定液の水位が被測定液排出管34を超えると、被測定液は、その水位が被測定液排出管34の先端位置となるように余剰分が被測定液排出管34から排出される。
【0024】
セル20は、好ましくは、被測定液が収容される液相部26から気相部25の一部まで貫通する試料ガス供給管30を備える。試料ガス供給管30の先端部は、試料ガス供給機構6側(セル20の上側)を塞ぎ、かつ少なくとも気相部25に配置される領域に複数の開口32を有する(図2を参照)。セル20に収容される被測定液から気化して生成された試料ガスは、開口32を介して気相部25へ供給される。そして、気相部25に存在する試料ガスは、セル20の上部に連結された試料ガス供給機構6へ供給される。溶存アンモニア濃度測定装置1において、試料ガス供給管30は試料ガス供給機構6側が塞がれた構造をとる。このため、セル20に収容される気液混合状態の被測定液は、試料ガス供給管30の側面から略水平方向に出ることになり、セル20の上部に連結された試料ガス供給機構6へ気液混合状態の被測定液が混入する事態を抑制することができる。
【0025】
(4)試料ガス供給機構
試料ガス供給機構6は、好ましくは、少なくともアンモニアガスを含まないゼロガスを生成するゼロガス生成器60と、アンモニアガス検知器70への試料ガスの供給とゼロガスの供給とを切り替える切り替え弁62と、を備える。ゼロガス生成器60は、好ましくは、大気中の空気からアンモニア等のアンモニアガス検知器70による測定に影響を与える成分を触媒(例えば、活性炭等)やアンモニア吸着材等で除去することにより、当該成分を含まないゼロガスを生成するゼロガスフィルタである。なお、ゼロガス生成器60は、大気中の空気をゼロガスフィルタに通すことによりゼロガスを生成しているが、これに限定されず、例えば、空気を供給するボンベをさらに備え、ボンベから供給される空気をゼロガスフィルタに通すことによりゼロガスを生成しても良い。また、ゼロガス生成器60は、ゼロガスフィルタを用いず、例えば、窒素ガスやアルゴンガス等、アンモニアガス検知器70による測定に影響を与える成分を含まないガスを供給するボンベを備え、当該ボンベから供給されるガスをゼロガスとしても良い。切り替え弁62は、好ましくは、測定槽2から供給される試料ガスのアンモニアガス検知器70への供給と、ゼロガス生成器60により生成されるゼロガスのアンモニアガス検知器70への供給とを切り替える電磁弁あるいはエアー弁である。ただし、切り替え弁62を手動弁としても良い。溶存アンモニア濃度測定装置1は、切り替え弁62を定期的に切り替えてアンモニアガス検知器70へゼロガスを供給することにより、アンモニアガス検知器70のゼロ点を定期的に補正することが好ましい。なお、試料ガス供給機構6は、ゼロガス生成器60を備えず、アンモニアガス検知器70のゼロ点を定期的に補正しなくとも良い。この場合、試料ガス供給機構6は、切り替え弁62も備えなくても良い。
【0026】
試料ガス供給機構6は、好ましくは、測定槽2と切り替え弁62との間に、溶存アンモニア濃度測定装置1における圧力バランスを調節するための圧力バランス用清浄空気生成器64を備える。圧力バランス用清浄空気生成器64は、好ましくは、試料ガスからアンモニア等の成分を触媒(例えば、活性炭等)やアンモニア吸着材等で除去することにより、清浄空気を生成するフィルタである。また、試料ガス供給機構6は、好ましくは、切り替え弁62とアンモニアガス検知器70との間に、アンモニアガス検知器70による測定に影響を与えないように試料ガス中の余剰水分を除湿する除湿器66を備える。
【0027】
(5)アンモニアガス検知器
アンモニアガス検知器70は、試料ガス中のアンモニア濃度を測定可能なものであれば特に制約されないが、定電位電解式、紫外線吸収式、半導体式のアンモニアガス検知器が好ましい。この実施形態では、アンモニアガス検知器70は、定電位電解式のアンモニアガス検知器である。アンモニアガス検知器70は、試料ガス供給機構6から供給されてきたアンモニアガスの濃度を測定するとともに、当該量から試料水中のアンモニア濃度を算出可能である。溶存アンモニア濃度測定装置1において、好ましくは、試料水の温度が測定される。アンモニアガス検知器70は、好ましくは、試料ガス供給機構6から供給されてきたアンモニアガスの濃度および試料水の温度から試料水中のアンモニア濃度(すなわち、溶存アンモニア濃度)を算出する。試料水の温度により気液平衡時の液相濃度と気相濃度の比率が変化するため、溶存アンモニア濃度の算出時に当該温度を用いて補正することにより、より正確に溶存アンモニア濃度を算出することができる。なお、試料水の温度の測定方法は、特に制約されず、例えば、公知の温度計等であっても良い。
【0028】
このように構成された溶存アンモニア濃度測定装置1は、被測定液供給機構4から気液混合状態の被測定液を連続的に供給してセル20の気相部25内のアンモニアガス濃度を気液平衡状態とし、セル20の気相部25に存在する試料ガスを試料ガス供給機構6によりアンモニアガス検知器70へ供給して試料ガス中のアンモニア濃度を測定する。また、溶存アンモニア濃度測定装置1は、ヒーター54の加温により、気相部25のアンモニアガスの濃度が高くなり、アンモニアガス検知器70による測定値が大きくなるため、溶存アンモニア濃度が低い試料水の溶存アンモニア濃度を測定することができる。また、溶存アンモニア濃度測定装置1は、気液混合状態の被測定液からガス化した試料ガスを測定するため、被測定液の水質や汚れの影響を受けることなく測定できる。また、溶存アンモニア濃度測定装置1は、気液平衡状態において試料ガス中のアンモニア濃度を測定するため、試料水の流量および試料ガスの流量の影響を受けることなく測定できる。また、溶存アンモニア濃度測定装置1は、アンモニアガス検知器70による測定後の試料ガスを外気に放出することなく、被測定液と混合させて気液混合状態で再度測定槽2へ循環するため、環境汚染を抑制することができる。よって、溶存アンモニア濃度測定装置1は、メンテナンスが容易で、かつ長期間安定して試料水中の溶存アンモニア濃度を測定できる。
【0029】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る溶存アンモニア濃度測定装置について説明する。先の実施形態と共通する部分については同じ符号を付して重複した説明を省略する。
【0030】
図3は、本発明の第2実施形態に係る溶存アンモニア濃度測定装置の概略構成図を示す。
【0031】
第2実施形態に係る溶存アンモニア濃度測定装置1aは、第1実施形態に係る溶存アンモニア濃度測定装置1と類似の構成を有するが、試料ガス供給機構6に代えて、試料ガス供給機構6aを備える点において、第1実施形態に係る溶存アンモニア濃度測定装置1と異なる。なお、溶存アンモニア濃度測定装置1aにおいて、試料ガス供給機構6a以外の構成は、第1実施形態に係る溶存アンモニア濃度測定装置1と同様のため、詳細な説明を省略する。
【0032】
試料ガス供給機構6aは、先述のゼロガス生成器60に代えて、ゼロガス生成器60aを備える。また、試料ガス供給機構6aは、測定槽2の気相部25に存在する試料ガスを、ゼロガス生成器60aと切り替え弁62とに分岐して供給する点において、第1実施形態に係る試料ガス供給機構6と異なる。ゼロガス生成器60aは、好ましくは、試料ガスからアンモニア等のアンモニアガス検知器70による測定に影響を与える成分を触媒(例えば、活性炭等)やアンモニア吸着材等で除去することにより、当該成分を含まないゼロガスを生成するゼロガスフィルタである。すなわち、ゼロガス生成器60aは、外部からゼロガスを取り込むことなく、試料ガスを利用してゼロガスを生成する。このように構成された溶存アンモニア濃度測定装置1aもまた、第1実施形態に係る溶存アンモニア濃度測定装置1と同様の効果を奏する。
【0033】
2.溶存アンモニア濃度測定方法
次に、本発明の実施形態に係る溶存アンモニア濃度測定方法について説明する。
【0034】
図4は、本発明の実施形態に係る溶存アンモニア濃度測定方法の主なステップを含むフローチャートを示す。図5は、溶存アンモニア濃度(0~0.2mg/L)とアンモニアガス検知器による測定値との関係を示したグラフを示す。図6は、溶存アンモニア濃度(0~20mg/L)とアンモニアガス検知器による測定値との関係を示したグラフを示す。
【0035】
この実施形態に係る溶存アンモニア濃度測定方法は、先に説明した第1実施形態若しくは第2実施形態に係る溶存アンモニア濃度測定装置1,1aを用いて試料水中に溶存するアンモニアの濃度を測定する方法である。この実施形態に係る溶存アンモニア濃度測定方法は、被測定液供給ステップ(S110)と、試料ガス供給ステップ(S120)と、測定ステップ(S130)と、を含む。以下、各工程について説明する。なお、この実施形態に係る溶存アンモニア濃度測定方法は、被測定液供給ステップ(S110)と、試料ガス供給ステップ(S120)と、測定ステップ(S130)と、が繰り返し実行されることが好ましい。
【0036】
2.1 被測定液供給ステップ(S110)
被測定液供給ステップは、試料水とpH調整剤とを混合してなる被測定液を測定槽2に供給するステップである。より具体的には、被測定液供給ステップでは、まず、試料水供給装置40から試料水が供給され、かつpH調整剤供給装置44からpH調整剤が供給される。そして、試料水とpH調整剤とが混合器48内で混合されて、pHが12以上の被測定液が生成される。そして、混合器48内で生成された被測定液と試料ガス循環装置50から循環された試料ガスとが混合された気液混合状態の被測定液が生成され、気液混合状態の被測定液がヒーター54で加温された状態で測定槽2へ供給される。このとき、測定槽2へ供給される気液混合状態の被測定液に溶存するアンモニアは、アンモニアガスとして存在している。なお、試料水供給装置40から供給される試料水の流量は、1~10cc/minが好ましく、5cc/minがより好ましい。また、pH調整剤供給装置45から供給するpH調整剤の流量は、0.5~1.5cc/minが好ましく、0.8cc/minがより好ましい。また、アンモニアガス検知器70を通過した試料ガスが存在しない場合(すなわち、アンモニアガス検知器70による測定が行われていない初回の測定時)は、試料水中にアンモニアが存在しないため、試料ガス循環装置50は、アンモニアガスを含まない試料ガスを循環する。
【0037】
2.2 試料ガス供給ステップ(S120)
試料ガス供給ステップは、測定槽2の気相部25に存在する試料ガスをアンモニアガス検知器70に供給するステップである。より具体的には、試料ガス供給ステップでは、まず、セル20に収容される被測定液から気化して気相部25に存在する試料ガスが、切り替え弁62を介して除湿器66へ供給される。そして、除湿器66において余剰水分が除湿された試料ガスがアンモニアガス検知器70に供給される。この実施形態において、溶存アンモニア濃度測定方法(図4を参照)が繰り返し実行されることにより、気液混合状態の被測定液が連続的にセル20内に供給されるため、セル20中のアンモニアガス濃度は気液平衡状態が維持される。このため、アンモニアガス検知器70を通過した試料ガスを被測定液と混合させて再度測定槽2に還流させても、アンモニアガス検知器70へ供給される試料ガス中のアンモニア濃度に影響を与えない。
【0038】
2.3 測定ステップ(S130)
測定ステップは、試料ガスに含まれるアンモニアガスをアンモニアガス検知器70で検知し、試料水中の溶存アンモニア濃度を測定するステップである。より具体的には、測定ステップでは、試料ガス供給ステップ(S120)により供給された試料ガス中のアンモニアガスの濃度が、アンモニアガス検知器70により測定される。そして、測定されたアンモニアガスの濃度は、試料水の温度に基づいて補正される。試料水の温度により気液平衡時の液相濃度と気相濃度の比率が変化するため、試料水の温度によりアンモニアガス検知器70による測定値も変化するためである。そして、溶存アンモニア濃度とアンモニアガス検知器による測定値との相関関係(図5および図6を参照)に基づいて、アンモニアガス検知器70による測定値から試料水中の溶存アンモニア濃度が算出される。この相関関係(以降、「アンモニア濃度の相関関係」ともいう。)は、予め溶存アンモニア濃度が既知である試料水を用いてアンモニアガス検知器70により測定した結果から得られたものである。アンモニア濃度の相関関係に基づく試料水中の溶存アンモニア濃度の算出は、アンモニアガス検知器70に接続されたコンピュータ(不図示)で行われても良いし、アンモニアガス検知器70で行われても良いし、測定者が当該相関関係に基づいて算出しても良い。なお、測定ステップにおいて、アンモニアガス検知器70により測定されたアンモニアガスの濃度は、試料水の温度に基づいて補正されることなく、アンモニア濃度の相関関係に基づき試料水中の溶存アンモニア濃度が算出されても良い。
【0039】
この実施形態では、試料水の濃度に応じた2種類のアンモニア濃度の相関関係に基づいて、試料水中の溶存アンモニア濃度が算出される(図5および図6を参照)。例えば、養殖水槽の水質管理値としてのアンモニア性窒素の濃度(溶存アンモニア濃度)は0.2~2.0mg/Lであるため、養殖水槽内の水を試料水として用いる場合は、0~0.2mg/Lの溶存アンモニア濃度とアンモニアガス検知器による測定値との相関関係(図5を参照)に基づいて、試料水中の溶存アンモニア濃度が算出されることが好ましい。これにより、養殖水槽等の水質管理値としてのアンモニア濃度の上限値が低い試料水であっても、当該試料水中の溶存アンモニア濃度を正確に測定することができる。また、例えば、下水等、養殖水槽に比べて水質管理値としてのアンモニア濃度の上限値が大きい溶液を試料水として用いる場合は、0~20mg/Lの溶存アンモニア濃度とアンモニアガス検知器による測定値との相関関係(図6を参照)に基づいて、試料水中の溶存アンモニア濃度が算出されることが好ましい。よって、溶存アンモニア濃度測定方法によれば、種々の試料水における溶存アンモニア濃度をより正確に測定することができる。なお、測定ステップにおいて、試料水中の溶存アンモニア濃度の算出に用いられるアンモニア濃度の相関関係は、2種類に制約されず、例えば、1種類であっても良いし、3種類以上であっても良い。また、当該アンモニア濃度の相関関係は、図5および図6に示す試料水の濃度範囲の相関関係に制約されず、試料水の種類に応じて、水質管理値等を考慮した試料水の濃度範囲の相関関係が適宜用いられることが好ましい。
【0040】
このような溶存アンモニア濃度測定方法が連続的に行われることにより、気液混合状態の被測定液が連続的に供給されて気液平衡状態となったセル20中のアンモニアガスの濃度を測定することができるため、当該アンモニアガスの濃度をより正確に測定することができ、試料水中の溶存アンモニア濃度をより正確に算出することができる。また、溶存アンモニア濃度測定方法によれば、気液混合状態の被測定液からガス化した試料ガスを測定するため、被測定液の水質や汚れの影響、および、試料水および試料ガスの流量の影響を受けずに測定できる。また、溶存アンモニア濃度測定方法によれば、アンモニアガス検知器70による測定後の試料ガスが外気に放出されることなく、被測定液と混合されて気液混合状態で再度測定槽2へ供給されるため、環境汚染を抑制することができる。よって、溶存アンモニア濃度測定方法によれば、メンテナンスが容易で、かつ長期間安定して試料水中の溶存アンモニア濃度を測定できる。
【0041】
3.その他の実施形態
上述のように、本発明の好適な各実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されることなく、種々変形して実施可能である。
【0042】
先述の各実施形態では、溶存アンモニア濃度測定装置1,1aは、ヒーター54を備えていたが、ヒーター54を備えていなくても良い。すなわち、溶存アンモニア濃度測定装置1,1aにおいて、気液混合状態の被測定液は、加温されることなく測定槽2へ供給されても良い。
【0043】
また、セル20は、試料ガス供給管30を備えていなくても良い。この場合、試料ガスは、セル20の液相部26に収容されている被測定液から気化して生成され、直接気相部28へ供給される。
【0044】
また、測定槽2は、2つのセル20,22が連結管24により連結されていたが、セル22および連結管24を備えず、セル20のみで構成されていても良い。この場合、測定槽2は、セル20から一定レベル以上に達した被測定液を外部に排出するように、セル20に被測定液排出管34が連結されることが好ましい。また、測定槽2は、3以上のセルが連結管により連結されていても良い。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係る溶存アンモニア濃度測定装置は、試料水中に溶解しているアンモニアの溶存濃度を測定することにより試料水の特性または特性の変化を特定する場合に利用できる。
【符号の説明】
【0046】
1,1a・・・溶存アンモニア濃度測定装置、2・・・測定槽、4・・・被測定液供給機構、6,6a・・・試料ガス供給機構、20,22・・・セル、24・・・連結管、25,27・・・気相部、26,28・・・液相部、30・・・試料ガス供給管、32・・・開口、34・・・被測定液排出管、40・・・試料水供給装置、44・・・pH調整剤供給装置、48・・・混合器、54・・・ヒーター、60,60a・・・ゼロガス生成器、62・・・切り替え弁、70・・・アンモニアガス検知器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6