(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】熱中症を始めとする熱ストレスに関する警告装置、警告システム、警告方法及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/00 20060101AFI20240313BHJP
A61B 5/0245 20060101ALI20240313BHJP
G08B 21/02 20060101ALI20240313BHJP
G08B 25/04 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
A61B5/00 102C
A61B5/0245 A
G08B21/02
G08B25/04 K
(21)【出願番号】P 2020154807
(22)【出願日】2020-09-15
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】399035766
【氏名又は名称】エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡原 昌之
(72)【発明者】
【氏名】青木 魁志
(72)【発明者】
【氏名】吉敷 一将
(72)【発明者】
【氏名】増見 陸
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-179213(JP,A)
【文献】特開2018-130531(JP,A)
【文献】特開2012-027893(JP,A)
【文献】特開2019-097977(JP,A)
【文献】特開2002-034946(JP,A)
【文献】特開2018-116584(JP,A)
【文献】国際公開第2018/109942(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00- 5/01
G08B 21/02-21/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱ストレスによる影響の判定対象となる人物の少なくとも脈拍又は心拍のいずれか又は両方の情報を含む生体情報と、少なくとも前記人物の周囲の湿度の情報又は暑さ指数の情報のいずれか又は両方を含む環境情報とを取得する情報取得部と、
取得された前記生体情報に含まれる脈拍の上昇に関する条件と、前記環境情報に含まれる前記湿度の情報
で示される湿度の上昇に関する条件と、暑さ指数の情報
で示される暑さ指数の上昇に関する条件との少なくともいずれかを含む前記熱ストレスによる前記人物の危険性が高いことを示す条件が満たされた場合に、前記人物に対する警告を行う警告部と、
を備え
、
前記警告部は、脈拍数の差分値が脈拍の上昇幅に関する条件を満たし、前記湿度の差分値が湿度の上昇幅に関する条件を満たし、前記暑さ指数の差分値が暑さ指数の上昇速度に関する条件を満たした場合に、前記条件が満たされたとして前記警告を行う警告装置。
【請求項2】
熱ストレスによる影響の判定対象となる人物の少なくとも脈拍又は心拍のいずれか又は両方の情報を含む生体情報と、少なくとも前記人物の周囲の湿度の情報又は暑さ指数の情報のいずれか又は両方を含む環境情報とを取得する情報取得部と、
取得された前記生体情報に含まれる脈拍の上昇に関する条件と、前記環境情報に含まれる前記湿度の情報
で示される湿度の上昇に関する条件と、暑さ指数の情報
で示される暑さ指数の上昇に関する条件との少なくともいずれかを含む前記熱ストレスによる前記人物の危険性が高いことを示す条件が満たされた場合に、前記人物に対する警告を行う警告部と、
を備え
、
前記警告部は、所定期間分の前記暑さ指数の総和に関する条件を満たし、前記暑さ指数の差分値が暑さ指数の上昇速度に関する条件を満たし、脈拍数の差分値が脈拍の上昇速度に関する条件を満たした場合に、前記条件が満たされたとして前記警告を行う警告装置。
【請求項3】
前記警告部は、脈拍数の
差分値が脈拍の上昇幅に関する条件を満たし、前記湿度の
差分値が湿度の上昇幅に関する条件を満たし、前記脈拍数の
差分値が脈拍の上昇速度に関する条件を満たした場合に、前記条件が満たされたとして前記警告を行う、
請求項1
又は2に記載の警告装置。
【請求項4】
熱ストレスによる影響の判定対象となる人物に身に付けられ、前記人物の少なくとも脈拍又は心拍のいずれか又は両方の情報を含む生体情報を取得する生体センサと、
前記人物に身に付けられ又は前記人物の衣服に近接して携帯可能な、少なくとも前記人物の周囲の湿度の情報又は暑さ指数の情報のいずれか又は両方を含む環境情報を取得する環境センサと、
取得された前記生体情報に含まれる脈拍の上昇に関する条件と、前記環境情報に含まれる前記湿度の情報
で示される湿度の上昇に関する条件と、暑さ指数の情報
で示される暑さ指数の上昇に関する条件との少なくともいずれかを含む前記熱ストレスによる前記人物の危険性が高いことを示す条件が満たされた場合に、前記人物に対する警告を行う警告部と、
を備え
、
前記警告部は、脈拍数の差分値が脈拍の上昇幅に関する条件を満たし、前記湿度の差分値が湿度の上昇幅に関する条件を満たし、前記暑さ指数の差分値が暑さ指数の上昇速度に関する条件を満たした場合に、前記条件が満たされたとして前記警告を行う警告システム。
【請求項5】
熱ストレスによる影響の判定対象となる人物に身に付けられ、前記人物の少なくとも脈拍又は心拍のいずれか又は両方の情報を含む生体情報を取得する生体センサと、
前記人物に身に付けられ又は前記人物の衣服に近接して携帯可能な、少なくとも前記人物の周囲の湿度の情報又は暑さ指数の情報のいずれか又は両方を含む環境情報を取得する環境センサと、
取得された前記生体情報に含まれる脈拍の上昇に関する条件と、前記環境情報に含まれる前記湿度の情報
で示される湿度の上昇に関する条件と、暑さ指数の情報
で示される暑さ指数の上昇に関する条件との少なくともいずれかを含む前記熱ストレスによる前記人物の危険性が高いことを示す条件が満たされた場合に、前記人物に対する警告を行う警告部と、
を備え
、
前記警告部は、所定期間分の前記暑さ指数の総和に関する条件を満たし、前記暑さ指数の差分値が暑さ指数の上昇速度に関する条件を満たし、脈拍数の差分値が脈拍の上昇速度に関する条件を満たした場合に、前記条件が満たされたとして前記警告を行う警告システム。
【請求項6】
熱ストレスによる影響の判定対象となる人物の少なくとも脈拍又は心拍のいずれか又は両方の情報を含む生体情報と、少なくとも前記人物の周囲の湿度の情報又は暑さ指数の情報のいずれか又は両方を含む環境情報とを取得する情報取得ステップと、
取得された前記生体情報に含まれる脈拍の上昇に関する条件と、前記環境情報に含まれる前記湿度の情報
で示される湿度の上昇に関する条件と、暑さ指数の情報
で示される暑さ指数の上昇に関する条件との少なくともいずれかを含む前記熱ストレスによる前記人物の危険性が高いことを示す条件が満たされた場合に、前記人物に対する警告を行う警告ステップと、
を有
し、
前記警告ステップにおいて、脈拍数の差分値が脈拍の上昇幅に関する条件を満たし、前記湿度の差分値が湿度の上昇幅に関する条件を満たし、前記暑さ指数の差分値が暑さ指数の上昇速度に関する条件を満たした場合に、前記条件が満たされたとして前記警告を行う警告方法。
【請求項7】
熱ストレスによる影響の判定対象となる人物の少なくとも脈拍又は心拍のいずれか又は両方の情報を含む生体情報と、少なくとも前記人物の周囲の湿度の情報又は暑さ指数の情報のいずれか又は両方を含む環境情報とを取得する情報取得ステップと、
取得された前記生体情報に含まれる脈拍の上昇に関する条件と、前記環境情報に含まれる前記湿度の情報
で示される湿度の上昇に関する条件と、暑さ指数の情報
で示される暑さ指数の上昇に関する条件との少なくともいずれかを含む前記熱ストレスによる前記人物の危険性が高いことを示す条件が満たされた場合に、前記人物に対する警告を行う警告ステップと、
を有
し、
前記警告ステップにおいて、所定期間分の前記暑さ指数の総和に関する条件を満たし、前記暑さ指数の差分値が暑さ指数の上昇速度に関する条件を満たし、脈拍数の差分値が脈拍の上昇速度に関する条件を満たした場合に、前記条件が満たされたとして前記警告を行う警告方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の警告装置としてコンピュータを機能させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱中症を始めとする熱ストレスに対する警告技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、温暖化に伴い、熱中症を始めとする熱ストレスによる健康状態に影響を受ける人が増加している。熱中症は、本来、深部体温や体温を継続的に計測し、計測結果の時間的な変化に基づいて発見している。しかしながら、深部体温は侵襲のため物理的に計測が難しく、現実的ではない。
そこで、脈拍数や発汗量等の生体情報を取得可能なウェアラブルデバイスを作業員に付けて生体情報を取得し、取得した生体情報に基づいて作業員の体調不良の予兆を検知する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、厚生労働省の指針によるWBGT(Wet Bulb Globe Temperature)や、心拍変動を用いた暑さによる危険状態の推定も行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの手法では、個人差に関係なく一律に定められた指標で判定するため、本当に熱中症のリスクが高い、すなわち熱中症の可能性が高い人であるか否かを精度よく判定することは難しい。そのため、熱中症の可能性が高い人に対して警告を行えない場合があった。このような問題は、熱中症に限らず他の熱ストレスにおいても同様である。
【0005】
上記事情に鑑み、本発明は、従来よりも個人の状態を反映し精度よく熱中症を始めとする熱ストレスによる影響を伴うユーザに対して警告を行うことができる技術の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、熱ストレスによる影響の判定対象となる人物の少なくとも脈拍又は心拍のいずれか又は両方の情報を含む生体情報と、少なくとも前記人物の周囲の湿度の情報又は暑さ指数の情報のいずれか又は両方を含む環境情報とを取得する情報取得部と、
取得された前記生体情報に含まれる脈拍の上昇に関する条件と、前記環境情報に含まれる前記湿度の情報で示される湿度の上昇に関する条件と、暑さ指数の情報で示される暑さ指数の上昇に関する条件との少なくともいずれかを含む前記熱ストレスによる前記人物の危険性が高いことを示す条件が満たされた場合に、前記人物に対する警告を行う警告部と、を備え、前記警告部は、脈拍数の差分値が脈拍の上昇幅に関する条件を満たし、前記湿度の差分値が湿度の上昇幅に関する条件を満たし、前記暑さ指数の差分値が暑さ指数の上昇速度に関する条件を満たした場合に、前記条件が満たされたとして前記警告を行う警告装置である。
本発明の一態様は、熱ストレスによる影響の判定対象となる人物の少なくとも脈拍又は心拍のいずれか又は両方の情報を含む生体情報と、少なくとも前記人物の周囲の湿度の情報又は暑さ指数の情報のいずれか又は両方を含む環境情報とを取得する情報取得部と、取得された前記生体情報に含まれる脈拍の上昇に関する条件と、前記環境情報に含まれる前記湿度の情報で示される湿度の上昇に関する条件と、暑さ指数の情報で示される暑さ指数の上昇に関する条件との少なくともいずれかを含む前記熱ストレスによる前記人物の危険性が高いことを示す条件が満たされた場合に、前記人物に対する警告を行う警告部と、を備え、前記警告部は、所定期間分の前記暑さ指数の総和に関する条件を満たし、前記暑さ指数の差分値が暑さ指数の上昇速度に関する条件を満たし、脈拍数の差分値が脈拍の上昇速度に関する条件を満たした場合に、前記条件が満たされたとして前記警告を行う警告装置である。
【0007】
本発明の一態様は、上記の警告装置であって、前記警告部は、脈拍数の差分値が脈拍の上昇幅に関する条件を満たし、前記湿度の差分値が湿度の上昇幅に関する条件を満たし、前記脈拍数の差分値が脈拍の上昇速度に関する条件を満たした場合に、前記条件が満たされたとして前記警告を行う。
【0010】
本発明の一態様は、熱ストレスによる影響の判定対象となる人物に身に付けられ、前記人物の少なくとも脈拍又は心拍のいずれか又は両方の情報を含む生体情報を取得する生体センサと、前記人物に身に付けられ又は前記人物の衣服に近接して携帯可能な、少なくとも前記人物の周囲の湿度の情報又は暑さ指数の情報のいずれか又は両方を含む環境情報を取得する環境センサと、取得された前記生体情報に含まれる脈拍の上昇に関する条件と、前記環境情報に含まれる前記湿度の情報で示される湿度の上昇に関する条件と、暑さ指数の情報で示される暑さ指数の上昇に関する条件との少なくともいずれかを含む前記熱ストレスによる前記人物の危険性が高いことを示す条件が満たされた場合に、前記人物に対する警告を行う警告部と、を備え、前記警告部は、脈拍数の差分値が脈拍の上昇幅に関する条件を満たし、前記湿度の差分値が湿度の上昇幅に関する条件を満たし、前記暑さ指数の差分値が暑さ指数の上昇速度に関する条件を満たした場合に、前記条件が満たされたとして前記警告を行う警告システムである。
本発明の一態様は、熱ストレスによる影響の判定対象となる人物に身に付けられ、前記人物の少なくとも脈拍又は心拍のいずれか又は両方の情報を含む生体情報を取得する生体センサと、前記人物に身に付けられ又は前記人物の衣服に近接して携帯可能な、少なくとも前記人物の周囲の湿度の情報又は暑さ指数の情報のいずれか又は両方を含む環境情報を取得する環境センサと、取得された前記生体情報に含まれる脈拍の上昇に関する条件と、前記環境情報に含まれる前記湿度の情報で示される湿度の上昇に関する条件と、暑さ指数の情報で示される暑さ指数の上昇に関する条件との少なくともいずれかを含む前記熱ストレスによる前記人物の危険性が高いことを示す条件が満たされた場合に、前記人物に対する警告を行う警告部と、を備え、前記警告部は、所定期間分の前記暑さ指数の総和に関する条件を満たし、前記暑さ指数の差分値が暑さ指数の上昇速度に関する条件を満たし、脈拍数の差分値が脈拍の上昇速度に関する条件を満たした場合に、前記条件が満たされたとして前記警告を行う警告システムである。
【0011】
本発明の一態様は、熱ストレスによる影響の判定対象となる人物の少なくとも脈拍又は心拍のいずれか又は両方の情報を含む生体情報と、少なくとも前記人物の周囲の湿度の情報又は暑さ指数の情報のいずれか又は両方を含む環境情報とを取得する情報取得ステップと、取得された前記生体情報に含まれる脈拍の上昇に関する条件と、前記環境情報に含まれる前記湿度の情報で示される湿度の上昇に関する条件と、暑さ指数の情報で示される暑さ指数の上昇に関する条件との少なくともいずれかを含む前記熱ストレスによる前記人物の危険性が高いことを示す条件が満たされた場合に、前記人物に対する警告を行う警告ステップと、を有し、前記警告ステップにおいて、脈拍数の差分値が脈拍の上昇幅に関する条件を満たし、前記湿度の差分値が湿度の上昇幅に関する条件を満たし、前記暑さ指数の差分値が暑さ指数の上昇速度に関する条件を満たした場合に、前記条件が満たされたとして前記警告を行う警告方法である。
本発明の一態様は、熱ストレスによる影響の判定対象となる人物の少なくとも脈拍又は心拍のいずれか又は両方の情報を含む生体情報と、少なくとも前記人物の周囲の湿度の情報又は暑さ指数の情報のいずれか又は両方を含む環境情報とを取得する情報取得ステップと、取得された前記生体情報に含まれる脈拍の上昇に関する条件と、前記環境情報に含まれる前記湿度の情報で示される湿度の上昇に関する条件と、暑さ指数の情報で示される暑さ指数の上昇に関する条件との少なくともいずれかを含む前記熱ストレスによる前記人物の危険性が高いことを示す条件が満たされた場合に、前記人物に対する警告を行う警告ステップと、を有し、前記警告ステップにおいて、所定期間分の前記暑さ指数の総和に関する条件を満たし、前記暑さ指数の差分値が暑さ指数の上昇速度に関する条件を満たし、脈拍数の差分値が脈拍の上昇速度に関する条件を満たした場合に、前記条件が満たされたとして前記警告を行う警告方法である。
【0012】
本発明の一態様は、上記の警告装置としてコンピュータを機能させるためのコンピュータプログラムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、従来よりも個人の状態を反映し精度よく熱中症を始めとする熱ストレスによる影響を伴うユーザに対して警告を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1の実施形態における熱中症警告システムのシステム構成を表す図である。
【
図2】アラート発報条件を構成するロジックを説明するための図である。
【
図3】アラート発報条件を構成するロジックを説明するための図である。
【
図4】第1の実施形態におけるデータベースサーバが記憶するテーブルの具体例を示す図である。
【
図5】第1の実施形態におけるユーザ端末の機能構成を表す概略ブロック図である。
【
図6】第1の実施形態におけるアプリケーションサーバの機能構成を表す概略ブロック図である。
【
図7】第1の実施形態における熱中症警告システムが行う警告処理の流れを示すシーケンス図である。
【
図8】第1の実施形態におけるアプリケーションサーバが行うアラート発報判定処理の流れを示すフローチャートである。
【
図9】第2の実施形態における熱中症警告システムのシステム構成を表す図である。
【
図10】第2の実施形態におけるユーザ端末の機能構成を表す概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
(概要)
本発明の実施形態は、熱中症を始めとする熱ストレスによる影響を伴うユーザに対して警告を行うことによって熱ストレスによるユーザの健康状態への影響を未然に低減させるものである。一般的に熱中症の判定の指針に使用されているWBGT(暑さ指数)の情報のみでは熱ストレスの可能性が高い人であるか否かを判定することは難しい。
【0016】
人の体調によっては、ユーザがいる環境の温度が低くても熱中症になり得る。したがって、WBGTの情報のみでは、熱中症の可能性が高い人であるか否かを判定することは難しい。このように、熱ストレスは、ユーザがいる環境の温度に加えて、ユーザの体調の影響も関係する。そこで、本発明の実施形態では、具体的には、ユーザから得られる生体情報と、ユーザの周辺の環境情報との組み合わせにより、熱中症の可能性があることを示す警告を行う対象であるか否かを判定し、判定結果に応じてユーザに対して警告を行う。これにより、熱ストレスによる影響を伴うユーザに対して警告することができる。
【0017】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態における熱中症警告システム100のシステム構成を表す図である。熱中症警告システム100は、環境センサ10、生体センサ20、ユーザ端末30、アプリケーションサーバ40、データベースサーバ50及び管理者装置60を備える。環境センサ10とユーザ端末30の間、生体センサ20とユーザ端末30の間は、無線により通信可能に接続される。例えば、環境センサ10とユーザ端末30の間、生体センサ20とユーザ端末30の間は、Bluetooth(登録商標)により接続される。なお、環境センサ10とユーザ端末30の間、生体センサ20とユーザ端末30の間は、他の無線通信技術により通信可能に接続されてもよいし、有線により通信可能に接続されてもよい。
【0018】
ユーザ端末30、アプリケーションサーバ40及び管理者装置60は、ネットワーク70を介して互いに通信可能に接続される。ネットワーク70は、どのように構成されたネットワークであってもよい。例えば、ネットワーク70は、インターネットで構成されてもよいし、LAN(Local Area Network)で構成されてもよいし、WAN(Wide Area Network)で構成されてもよい。アプリケーションサーバ40には、データベースサーバ50が接続される。熱中症警告システム100における環境センサ10、生体センサ20及びユーザ端末30の台数は、複数であってもよい。
【0019】
第1の実施形態における熱中症警告システム100では、管理者装置60を操作する管理者が、1又は複数の人物の体調を集中管理する構成となっている。以下の説明では、一例として熱中症警告システム100が、作業現場で適用された場合について説明する。
この場合、環境センサ10及び生体センサ20のようなIoTデバイスは、現場で作業を行う作業員(熱ストレスによる影響の判定対象となる人物)に身に付けられる。アプリケーションサーバ40及びデータベースサーバ50はクラウド上のサーバであり、管理者装置60は作業現場の管理室又は作業現場から離れた管理室に備えられる。
【0020】
環境センサ10は、第1の間隔(例えば、3分間隔)で、自センサが取り付けられている人物の周辺の環境情報を取得する。環境情報は、例えば、温度、湿度及びWBGTである。WBGTは、人体の熱収支に与える影響の大きい気温、湿度、気流、日射・輻射の気象条件を組み合わせて表される指標である。一般的に、WBGTは、日常生活においては31°C以上で危険、28~31°C未満で厳重警戒、25~28°C未満で警戒、25°C未満で注意に分類される。環境センサ10は、取得した環境情報に時刻情報を付与してユーザ端末30に送信する。本発明では、暑さ指数を表すものであればWBGT以外の情報が用いられてもよい。なお、環境センサ10は、人物に身に付けられてもよいし、人物の衣服に近接して携帯されていてもよい。
【0021】
生体センサ20は、第2の間隔(例えば、4秒間隔)で、自センサが取り付けられているユーザの生体情報を取得する。生体情報は、例えば、ユーザの脈拍、心拍、発汗量及び血圧等のユーザの生体に関する情報である。生体センサ20は、取得した生体情報に時刻情報を付与してユーザ端末30に送信する。生体センサ20は、例えばユーザの人体に直接取り付け可能なリストバンド型や腕時計型の生体センサであってもよいし、ユーザの生体情報を取得可能な携帯であればその他の形態であってもよい。
【0022】
ユーザ端末30は、環境センサ10及び生体センサ20が取り付けられた人物が所持する端末である。ユーザ端末30は、環境センサ10によって取得された環境情報と、生体センサ20によって取得された生体情報とを取得する。ユーザ端末30は、取得した環境情報と、生体情報とをアプリケーションサーバ40に送信する。ユーザ端末30は、環境情報と生体情報とを取得する度にアプリケーションサーバ40に送信してもよいし、所定の期間分の環境情報と生体情報とを取得したタイミングでアプリケーションサーバ40に送信してもよい。ユーザ端末30は、アプリケーションサーバ40から警告が通知された場合、通知された警告を表示又は音により出力する。ユーザ端末30は、例えばスマートフォン、携帯電話、タブレット端末等の情報処理装置を用いて構成される。
【0023】
アプリケーションサーバ40は、ユーザ端末30から得られる環境情報と、生体情報とに基づいて、熱ストレスによる人物の危険性が高いことを示す条件(以下「アラート発報条件」という。)が満たされた場合に、アラート発報条件を満たした人物に対する警告を行う。例えば、アプリケーションサーバ40は、アラート発報条件を満たした人物が所持しているユーザ端末30と、指定された管理者装置60とのいずれか又は両方に警告を行う。アプリケーションサーバ40は、環境情報と、生体情報とをユーザ毎にデータベースサーバ50に保存する。以下の説明では、生体情報として脈拍の情報を用いる場合を例に説明する。
【0024】
アラート発報条件が満たされたか否かは、以下のロジック1~6単体又はロジック1~6のいずれかの組み合わせにより判定される。
ロジック1:高脈拍数の連続計測
ロジック2:脈拍数の大幅な上昇変化
ロジック3:ユーザ毎の脈拍数の基準
ロジック4:脈拍数と湿度との相関
ロジック5:WBGT値の大幅な上昇変化
ロジック6:WBGT値の累積値による暑熱順化判定
【0025】
以下、上記のロジック1~6について
図2及び3を用いて詳細に説明する。
図2及び3は、アラート発報条件を構成するロジックを説明するための図である。
図2(A)はロジック1を説明するための図であり、
図2(B)はロジック2を説明するための図であり、
図3(A)はロジック4を説明するための図であり、
図3(B)はロジック5を説明するための図である。
図2及び
図3において、横軸はデータの取得時刻を表し、左の縦軸は脈拍数を表し、右の縦軸はWGBTの値を表す。
図2及び
図3において、符号81は湿度を表し、符号82は脈拍を表し、符号83は温度を表し、符号84はWBGTを表す。
【0026】
ロジック1は、体調の悪さが脈拍数に現れることを踏まえたロジックである。ロジック1では、個人の特徴を踏まえ、脈拍数が高い数値にて継続されている状況を検知する。脈拍数は、個人毎に数値が異なる。個人毎の脈拍数の特徴を反映させるためには、過去データを利用して個人の脈拍数の平均値と標準偏差値を用いることが有効である。初期状態では、その人物にとっての体調不良と相関がある脈拍数の異常値(高い脈拍数の値)を標準偏差値の確率を用いた固定の値(例えば、パラメータ:2.24)とし、高い脈拍数が継続する時間を固定の値(例えば、パラメータ:90秒(22点))とする。ここで、90秒(22点)は、生体センサ20の生体情報の取得間隔が4秒である場合の例であり、生体センサ20の生体情報の取得間隔に応じて高い脈拍数が継続する時間を固定の値は変動する。そして、ロジック1では、上記の条件を超える場合、対象の人物が、脈拍数が高い数値にて継続されている状況にいるとして危険と判断する。
【0027】
ロジック1では、以下の(1)~(3)の手順で判定が行われる。
(1)個人の脈拍の平均値μ及び標準偏差σを導出。個人の脈拍の平均値μ及び標準偏差σの導出は、ロジック3で説明する。
(2)異常値として判定するための閾値Th1を、脈拍の平均値μ及び標準偏差σに基づいて設定。例えば、閾値Th1=μ+ασ(αは、所定の係数)と設定。
(3)脈拍数の値が閾値Th1を超えた時点から、脈拍数の値が閾値Th1を下回るまでの時間が第1の時間T1継続した場合に、熱中症の可能性が高いと判定。なお、データの欠損などを考慮し、データ間隔が空きすぎた場合(例えば、データ間隔が20秒空いた場合)には、判定対象外とする。
【0028】
ロジック1について具体例を挙げて説明する。
生体センサ20が4秒間隔で生体情報を収集する場合、1日あたりの脈拍数データ点数は、7,200点となる。脈拍数データのうち、体調不良による異常値出現率は、5営業日中1時間(2.5%)とする。
上記の条件のもと、異常値と判定する閾値Th1を、μ+2.24σ(97.5%)とする((2)に相当)。
取得される脈拍数の値において、閾値Th1以上となる値が出現し、出現した時点を基準として連続して22点(90秒)継続し続けた場合に異常(熱中症の可能性が高い)と判定する((3)に相当)。
なお、データの欠損を考慮し、データ間隔が20秒(5点)を超えた場合は、判定対象外とする((3)に相当)。
上記の具体例は説明するための一例であるため、標準偏差値の確率を用いた固定の値「2.24」と、高い脈拍数が継続する時間を表す固定の値「22」と、データ間隔「20」は、変数として変更可能なパラメータである。
【0029】
以上の(1)~(3)の手順を踏まえて、閾値Th1を超えた時点から、脈拍数の値が閾値Th1を下回るまでの時間が第1の時間T1継続した一例を
図2(A)に示す。
以下、ロジック1を脈拍の継続時間に関する条件と記載する。閾値Th1を超えた時点から、脈拍数の値が閾値Th1を下回るまでの時間が第1の時間T1継続した場合に脈拍の継続時間に関する条件が満たされたと判定され、第1の時間T1継続しなかった場合に脈拍の継続時間に関する条件が満たされていないと判定される。
【0030】
ロジック2は、脈拍数値の急激な変化が身体に負担となることを踏まえたロジックである。ロジック2では、個人の特徴を踏まえ、脈拍数が急に上昇する状況を検知する。脈拍数は、個人毎に数値が異なる。個人毎の脈拍数の特徴を反映させるためには、過去データを利用して個人の脈拍数の平均値と標準偏差値を用いることが有効である。初期状態では、その人物にとっての体調不良と相関がある脈拍数の異常値(高い脈拍数の値)を標準偏差値の確率を用いた固定の値(例えば、パラメータ:2.24)とし、脈拍数が上昇する短い時間の固定の値(例えば、パラメータ:12秒(3点))とする。ここで、12秒(3点)は、生体センサ20の生体情報の取得間隔が4秒である場合の例であり、生体センサ20の生体情報の取得間隔に応じて脈拍数が上昇する短い時間を固定の値は変動する。そして、ロジック2では、上記の条件を超える場合、対象の人物が、脈拍数が急に上昇する状況にいるとして危険と判断する。
【0031】
ロジック2では、以下の(1a)~(3a)の手順で判定が行われる。
(1a)個人の脈拍の標準偏差σを導出。個人の脈拍の標準偏差σの導出は、ロジック3で説明する。
(2a)異常値として判定するための閾値Th2を、脈拍の標準偏差σに基づいて設定。例えば、閾値Th2=βσ(βは、所定の係数)と設定。
(3a)ある基準となる時点(新たに入力された時点)の脈拍数の値と、過去の脈拍数の値(例えば、3点(12秒)前の脈拍数の値)とを比較し、差分値が閾値Th2を超えた場合に、熱中症の可能性が高いと判定。
【0032】
ロジック2について具体例を挙げて説明する。
生体センサ20が4秒間隔で生体情報を収集する場合、1日あたりの脈拍数データ点数は、7,200点となる。脈拍数データのうち、体調不良による異常値出現率は、5営業日中1時間(2.5%)とする。
上記の条件のもと、異常値と判定する閾値Th2を、標準偏差2.24σ(97.5%)とする((2a)に相当)。
取得される脈拍数の値において、3点(12秒)前の脈拍数値と比較し、閾値Th2以上の場合を異常と判定する((3a)に相当)。
なお、データの欠損を考慮し、データ間隔が20秒(5点)を超えた場合は、判定対象外とする((3a)に相当)。
上記の具体例は説明するための一例であるため、標準偏差値の確率を用いた固定の値「2.24」と、脈拍数が上昇する短い時間を表す固定の値「3」と、データ間隔「20」は、変数として変更可能なパラメータである。
【0033】
以上の(1a)~(3a)の手順を踏まえて、ある基準となる時点の脈拍数の値と、過去の脈拍数の値との差分値が閾値Th2を超えた一例を
図2(B)に示す。
以下、ロジック2を脈拍の上昇速度に関する条件と記載する。ある基準となる時点の脈拍数の値と、過去の脈拍数の値との差分値が閾値Th2を超えた場合に脈拍の上昇速度に関する条件が満たされたと判定され、差分値が閾値Th2を超えなかった場合に脈拍の上昇速度に関する条件が満たされていないと判定される。
【0034】
ロジック3は、脈拍数値には個人差があることを踏まえたロジックである。
ロジック3では、以下の(1b)~(4b)の手順で判定が行われる。
(1b)個人の脈拍の平均値μは、判定処理の開始日の前日までの脈拍のデータを利用。例えば、判定処理の開始日の前日までの個人の脈拍のデータ全てを利用してもよいし、前日までの所定期間分の個人の脈拍のデータを利用してもよい。
(2b)個人の脈拍の標準偏差σは、判定処理の開始日の前日までの脈拍のデータを利用。例えば、判定処理の開始日の前日までの個人の脈拍のデータ全てを利用してもよいし、前日までの所定期間分の個人の脈拍のデータを利用してもよい。
(3b)デバイスの誤差を排除するため脈拍数下限値を設定し、脈拍数下限値以下の脈拍のデータは利用しない。
(4b)デバイスの誤差を排除するため脈拍数上限値を設定し、脈拍数上限値以上の脈拍のデータは利用しない。
【0035】
ロジック4は、脈拍の上昇と、ユーザ周辺の湿度の上昇との相関関係を踏まえたロジックである。ロジック4では、個人の特徴を踏まえ、脈拍数と湿度の値が異なる相関を示している状況を検知する。脈拍数は、個人毎に数値が異なる。個人毎の脈拍数の特徴を反映させるためには、過去データを利用して個人の脈拍数の平均値と標準偏差値を用いることが有効である。初期状態では、その人物にとっての発汗に至る脈拍数値を標準偏差値の確率を用いた固定の値(例えば、パラメータ:1.15)とし、観測時間を固定の値(例えば、パラメータ:12秒(3点))とする。さらに、初期状態では、湿度上昇がみられないと判断する条件を固定の値(例えば、パラメータ:6分(2点))のうち、いずれかにおいて、標準偏差値の確率を用いた固定の値(パラメータ:1.15)を超えないこととする。
【0036】
ここで、12秒(3点)は、生体センサ20の生体情報の取得間隔が4秒である場合の例であり、生体センサ20の生体情報の取得間隔に応じて観測時間の固定の値は変動する。6分(2点)は、環境センサ10の環境情報の取得間隔が3分である場合の例であり、環境センサ10の環境情報の取得間隔に応じて湿度上昇がみられないと判断する条件の固定の値は変動する。
そして、ロジック4では、上記の条件に合致する場合、対象の人物が、脈拍数と湿度の値が異なる相関を示す状況にいるとして危険と判断する。
【0037】
図3(A)に示すように、一般的には、脈拍上昇時に、人の身体近辺の湿度も上昇する傾向が見えられる。ロジック4では、この点を踏まえ、脈拍上昇時に、湿度の上昇が少ない場合に身体に異常が生じている可能性、すなわち熱中症の可能性が高いと判定する。
ロジック4では、以下の(1c)~(5c)の手順で判定が行われる。
(1c)個人の脈拍の標準偏差σを導出。個人の脈拍の標準偏差σの導出は、ロジック3で示す通り。
(2c)脈拍数の変化点を判定するための閾値Th4を、脈拍の標準偏差σに基づいて設定。例えば、閾値Th4=γσ(γは、所定の係数)と設定。
(3c)ある基準となる時点(新たに入力された時点)の脈拍数と、過去の脈拍数の値(例えば、3点(12秒)前の脈拍数の値)とを比較し、差分値が閾値Th4を超えた場合に、過去の脈拍数の値を脈拍数の変化点と判定。
(4c)個人の湿度の標準偏差σ1を導出。個人の湿度の標準偏差σ1の導出は、判定処理の開始日の前日までの湿度のデータを利用。例えば、判定処理の開始日の前日までの個人の湿度のデータ全てを利用してもよいし、前日までの所定期間分の個人の湿度のデータを利用してもよい。
(5c)脈拍数の変化点の時刻を基準として、所定の数の湿度の値(例えば、2個の湿度の値)のいずれかと、その湿度の値の1点前に得られた湿度の値との差分値が、標準偏差σ1以内である場合に、身体に異常が生じている可能性、すなわち熱中症の可能性が高いと判定。なお、データの欠損などを考慮し、データ間隔が空きすぎた場合(例えば、データ間隔が9分空いた場合)には、判定対象外とする。
【0038】
ロジック4について具体例を挙げて説明する。
脈拍数データのうち、発汗による変化出現率は、1営業日中2時間(25%)とする。
上記の条件のもと、発汗による変化が出現したと検出するための閾値Th4を、標準偏差1.15σ(75%)とする((2c)に相当)。
ある基準となる時点よりも3点(12秒)前の脈拍数値と比較し、閾値Th4以上の場合を変化出現点と判定する((3c)に相当)。
変化出現点の検出後、変化出現点の検出時刻を基準として2点(6分)内の湿度の値いずれかにおいて、1点(3分)前の湿度数値と比較した値が、個人の湿度の標準偏差1.15σ1以内の場合を異常と判定する((5c)に相当)。
なお、データの欠損を考慮し、データ間隔が9分(3点)を超えた場合は、判定対象外とする((5c)に相当)。
上記の具体例は説明するための一例であるため、標準偏差値の確率を用いた固定の値「1.15」と、「3点(12秒)」と、「2点(6分)」と、「1点(3分)」と、データ間隔「9分(3点)」は、変数として変更可能なパラメータである。
【0039】
以下、ロジック4を脈拍数と湿度の相関に関する条件と記載する。所定の数の湿度の値のいずれかと、その湿度の値の1点前に得られた湿度の値との差分値が標準偏差σ1以内である場合に脈拍数と湿度の相関に関する条件が満たされたと判定され、差分値が標準偏差σ1よりも大きい場合に脈拍数と湿度の相関に関する条件が満たされていないと判定される。
【0040】
ロジック5は、WBGT値の急激な変化が身体に負担となることを踏まえたロジックである。ロジック5では、個人の周囲の特徴を踏まえ、WBGT値が急に上昇する状況を検知する。WBGT値は、個人毎の環境により数値が異なる。個人毎の環境によるWBGT値の特徴を反映させるためには、過去データを利用して個人環境の平均値と標準偏差値を用いることが有効である。初期状態では、その人物にとっての体調不良と相関があるWBGT値の異常値(高いWBGT地)を、標準偏差値の確率を用いた固定の値(例えば、パラメータ:1.86)とし、WBGT値が上昇する短い時間を固定の値(例えば、パラメータ:9分(3点))とする。そして、ロジック5では、上記の条件を超える場合、対象の人物が、WBGT値が急に上昇する状況にいるとして危険と判断する。
【0041】
ロジック5では、以下の(1d)~(3d)の手順で判定が行われる。
(1d)個人の脈拍の標準偏差σを導出。個人の脈拍の標準偏差σの導出は、ロジック3で示す通り。
(2d)異常値として判定するための閾値Th5を、標準偏差σに基づいて設定。例えば、閾値Th5=δσ(δは、所定の係数)と設定。
(3d)ある基準となる時点(新たに入力された時点)のWBGT値と、過去のWBGT値(例えば、3点(9分)前のWBGT値)とを比較し、差分値が閾値Th5を超えた場合に、熱中症の可能性が高いと判定。
【0042】
ロジック5について具体例を挙げて説明する。
環境センサ10が3分間隔で環境情報を収集する場合、1日あたりのWBGT値のデータ点数は、160点となる。WBGT値データのうち、体調不良による異常値出現率は、2営業日中1時間(6.25%)とする。
上記の条件のもと、異常値と判定する閾値Th5を、標準偏差1.86σ(93.75%)とする((2d)に相当)。
ある基準となる時点(新たに入力された時点)のWBGT値と、ある基準となる時点の3点(9分)前のWBGT値と比較し、閾値Th5以上の場合を異常と判定する((3d)に相当)。
上記の具体例は説明するための一例であるため、標準偏差値の確率を用いた固定の値「1.86」と、WBGT値が上昇する短い時間を表す固定の値「9分(3点)」は、変数として変更可能なパラメータである。
【0043】
以上の(1d)~(3d)の手順を踏まえて、ある基準となる時点のWBGT値と、過去のWBGT値との差分値が閾値Th5を超えた一例を
図3(B)に示す。
以下、ロジック5をWBGTの上昇幅に関する条件と記載する。ある基準となる時点のWBGT値と、過去のWBGT値との差分値が閾値Th5を超えた場合にWBGTの上昇幅に関する条件が満たされたと判定され、差分値が閾値Th5を超えていない場合にWBGTの上昇幅に関する条件が満たされていないと判定される。
【0044】
ロジック6は、暑熱順化が、WBGT値と関連することを踏まえたロジックである。例えば、ロジック6では、暑熱順化が、WBGT値の累積に比例すると仮定している。ロジック6では、個人の周囲の特徴を踏まえ、WBGT累積値による個人の暑熱順化の状況を検知する。このように、ロジック6では、個人毎の熱への環境にさらされている状況により異なる暑熱順化を、WBGT値を用いて判定する。暑熱順化を算出するために、初期状態では、WBGT値の0値基準値を固定の値(例えば、パラメータ:21℃)とし、0値基準値を超える場合に加算、0値基準値を下回る場合に減算する。暑熱順化したと判断するWBGT累積値の閾値を固定の値(パラメータ:4,480)とする。そして、ロジック6では、対象の人物が、所定の期間におけるWBGT累積値がWBGT累積値の閾値を下回る場合に暑熱順化していない状況にいるとして危険と判断する。
【0045】
一般的に、暑熱順化は、「やや暑い環境」で「ややきつい」と感じる運動を毎日30分程度継続すると、2週間程度で完成すると言われている。暑熱順化していない人のWBGT基準値は、22℃と設定して注意を促している。そこで、以上の点を踏まえ、ロジック6では以下の基準で暑熱順化しているか否かを判定する。
(1e)WBGT値の平均(例えば、21℃)の環境を0値基準とする。一例として、暑熱順化したと判断する閾値Th6は、平均25℃(+4℃)環境にて7日間過ごしたWBGTの累積値とする。
(2e)WBGT値の平均(例えば、21℃を下回る場合は、値に応じてWBGTの累積値を減算し、WBGTの累積値は0を下回らないものとする。
(3e)WBGTの累積値が閾値Th6を下回る場合には、暑熱順化できていない可能性が高いと判定。
【0046】
ロジック6について具体例を挙げて説明する。
環境センサ10が3分間隔で環境情報を収集する場合、1日あたりのWBGT値のデータ点数は160点となる。
業務中のWBGT値の平均21℃で業務する環境を0値基準とし、暑熱順化したと判断する閾値Th6を4,480とする。閾値Th6は、例えば次のように算出される。4,480 =(25-21)×(1日データ点数:160)×(経過日:7)
対象の人物がいる環境のWBGT値が、0値基準値を超える場合に加算、0値基準値を下回る場合に減算する。なお、WBGTの累積値は0を下回らないものとする((5)に相当)。
対象の人物が7日間過ごした環境のWBGT値の累積値が、閾値Th6を下回る場合には異常と判定する((3e)に相当)。
上記の具体例は説明するための一例であるため、WBGT値の0値基準値を固定の値「21」と、WBGT累積値の閾値を固定の値「4480」は、変数として変更可能なパラメータである。
【0047】
以下、ロジック6をWBGTの総和に関する条件と記載する。WBGTの累積値が閾値Th6を下回る場合にWBGTの総和に関する条件が満たされたと判定され、WBGTの累積値が閾値Th6以上である場合にWBGTの総和に関する条件が満たされていないと判定される。
【0048】
アプリケーションサーバ40は、上記のロジックに基づいて、以下の4つのパターンでアラート発報条件が満たされたと判定する。
・ロジック1が満たされた場合
・ロジック4が満たされ、かつ、ロジック2が満たされた場合(順不同)
・ロジック4が満たされ、かつ、ロジック5が満たされた場合(順不同)
・ロジック6が満たされ、かつ、ロジック5が満たされ、かつ、ロジック2が満たされた場合(順不同)
【0049】
データベースサーバ50は、アプリケーションサーバ40が取得した各ユーザの環境情報と生体情報とを時系列順に記憶する。データベースサーバ50は、各ユーザの環境情報と生体情報とを状態情報テーブルとして記憶してもよい。さらに、データベースサーバ50は、ユーザ毎の判定結果を記憶する。データベースサーバ50は、ユーザ毎の判定結果を判定結果テーブルとして記憶してもよい。
【0050】
管理者装置60は、管理者(例えば、作業員の管理者)が操作する装置である。管理者装置60は、アプリケーションサーバ40から通知された警告を出力する。管理者装置60は、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置を用いて構成される。なお、管理者装置60は、操作に応じて、判定対象ユーザの判定処理を行うようにアプリケーションサーバ40に指示してもよい。管理者装置60は、操作に応じて、ユーザ毎の判定処理の結果をアプリケーションサーバ40から取得してもよい。
【0051】
図4は、データベースサーバ50が記憶するテーブルの具体例を示す図である。
図4(A)は状態情報テーブルの一例を示す図であり、
図4(B)は判定結果テーブルの一例を示す図である。
図4(A)に示すように、状態情報テーブルは、ユーザID、環境情報及び生体情報の項目を有する。ユーザIDは、作業者(ユーザ)を識別するための識別情報である。例えば、ユーザIDは、作業者のユーザ端末30のMACアドレスであってもよいし、アプリケーションの番号であってもよいし、ユーザを一意に識別可能な情報であればどのような情報であってもよい。環境情報は、環境センサ10によって取得された温度、湿度及びWBGT等の情報である。環境情報の項目には、温度、湿度及びWBGTの実測値が、取得された時刻に対応付けられている。
【0052】
環境情報は、環境センサ10によって第1の間隔で取得されるため、遅延または障害などが発生しない限り、環境情報の項目には第1の間隔で、温度、湿度及びWBGTの情報が時系列順に保存されることになる。生体情報は、生体センサ20によって取得された脈拍等の情報である。生体情報の項目には、脈拍の実測値が、取得された時刻毎に対応付けられている。生体情報は、生体センサ20によって第2の間隔で取得されるため、遅延または障害などが発生しない限り、生体情報の項目には第2の間隔で、脈拍の情報が時系列順に保存されることになる。なお、状態情報テーブルには、環境情報及び生体情報は、時系列順に保存されていなくてもよい。
【0053】
図4(B)に示すように、判定結果テーブルは、ユーザID、判定結果及び通知先の項目を有する。ユーザIDは、作業者(ユーザ)を識別するための識別情報である。例えば、ユーザIDは、作業者のユーザ端末30のMACアドレスであってもよいし、アプリケーションの番号であってもよいし、ユーザを一意に識別可能な情報であればどのような情報であってもよい。判定結果テーブルに登録されるユーザIDは、状態情報テーブルに登録されるユーザIDと同じである。判定結果は、アプリケーションサーバ40が判定したアラート発報条件を満たすか否かの判定結果を表す。通知先は、アラート発報条件を満たすと判定された場合に警告の通知先となる装置を表す。例えば、通知先には、ユーザ端末30や管理者装置60アドレス情報が登録される。通知先には、他の装置の情報が登録されてもよい。例えば、通知先には、ユーザ端末30のユーザの家族が保持する通信装置のアドレス情報が登録されてもよい。
【0054】
上記の例では、状態情報テーブルと、判定結果テーブルとが、別々のテーブルとしてデータベースサーバ50に記憶される構成を示しているが、状態情報テーブルと、判定結果テーブルとは一体のテーブルで構成されてもよいし、ユーザ毎のテーブルとして構成されてもよい。
【0055】
図5は、第1の実施形態におけるユーザ端末30の機能構成を表す概略ブロック図である。ユーザ端末30は、通信部31、表示部32、操作部33、制御部34及び記憶部35を備える。
通信部31は、他の装置との間で通信を行う。通信部31は、例えば環境センサ10及び生体センサ20との間で通信を行う。通信部31は、例えばネットワーク70を介してアプリケーションサーバ40との間で通信を行う。通信部31がアプリケーションサーバ40との間で通信を行い場合、通信部31は、環境情報及び生体情報をアプリケーションサーバ40に送信し、アプリケーションサーバ40から送信された警告を受信する。
【0056】
表示部32は、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の画像表示装置である。表示部32は、警告を表示する。表示部32は、画像表示装置をユーザ端末30に接続するためのインタフェースであってもよい。この場合、表示部32は、警告を表示するための映像信号を生成し、自身に接続されている画像表示装置に映像信号を出力する。
【0057】
操作部33は、ユーザの指示をユーザ端末30に入力するための入力装置である。例えば、操作部33は、アプリケーションサーバ40から得られる警告の表示指示の入力を受け付ける。操作部33は、タッチパネル、ボタン等の既存の入力装置を用いて構成される。また、操作部33は、入力装置をユーザ端末30に接続するためのインタフェースであってもよい。この場合、操作部33は、入力装置においてユーザの入力に応じて生成された入力信号をユーザ端末30に入力する。
【0058】
制御部34は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサやメモリを用いて構成される。制御部34は、プログラムを実行することによって、情報取得部341及び入出力制御部342の機能を実現する。これらの機能の一部(例えば、情報取得部341及び入出力制御部342の一部)は、予めユーザ端末30に搭載されている必要はなく、追加のアプリケーションプログラムがユーザ端末30にインストールされることで実現されてもよい。
【0059】
情報取得部341は、通信部31によって受信された情報を取得する。情報取得部341は、例えば環境情報及び生体情報を取得する。情報取得部341は、例えば警告を取得する。
【0060】
入出力制御部342は、操作部33から入力された指示に応じた制御を行う。入出力制御部342は、操作部33を介して、警告の表示指示がなされた場合には、表示部32に警告を表示する。
【0061】
記憶部35は、ユーザ情報351及び警告情報352を記憶する。ユーザ情報351は、ユーザ端末30のユーザに関する情報であり、例えば情報取得部341によって取得された環境情報及び生体情報である。記憶部35には、ユーザ情報351として、時系列順に所定数の環境情報及び生体情報の情報が記憶されていてもよいし、メモリ容量の観点から最新の環境情報及び生体情報の情報が記憶されていてもよい。警告情報352は、アプリケーションサーバ40から送信された警告の内容を示す情報である。記憶部35は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置などの記憶装置を用いて構成される。警告情報352は、不図示のメモリに一時的に記憶されてもよい。
【0062】
図6は、第1の実施形態におけるアプリケーションサーバ40の機能構成を表す概略ブロック図である。アプリケーションサーバ40は、通信部41及び制御部42を備える。
通信部41は、他の装置との間で通信を行う。通信部41は、例えばネットワーク70を介してユーザ端末30及び管理者装置60との間で通信を行う。通信部41は、例えばデータベースサーバ50との間で通信を行う。
【0063】
制御部42は、CPU等のプロセッサやメモリを用いて構成される。制御部42は、プログラムを実行することによって、情報取得部421、判定部422及び警告部423の機能を実現する。これらの機能の一部(例えば、情報取得部421、判定部422及び警告部423の一部)は、予めアプリケーションサーバ40に搭載されている必要はなく、追加のアプリケーションプログラムがアプリケーションサーバ40にインストールされることで実現されてもよい。
【0064】
情報取得部421は、通信部41によって受信された情報を取得する。情報取得部421は、例えばユーザ端末30又はデータベースサーバ50から、環境情報及び生体情報を取得する。情報取得部421は、例えば警告の通知先に関する情報をデータベースサーバ50から取得する。
【0065】
判定部422は、情報取得部421によって取得された環境情報及び生体情報に基づいて、アラート発報条件を満たすか否かを判定する。
【0066】
警告部423は、判定部422によりアラート発報条件が満たされたと判定された場合に、通知先に対して警告を行う。
【0067】
図7は、第1の実施形態における熱中症警告システム100が行う警告処理の流れを示すシーケンス図である。
環境センサ10は、第1の間隔で環境情報を取得する(ステップS101)。環境センサ10は、取得した環境情報をユーザ端末30に送信する(ステップS102)。環境センサ10は、環境情報を取得する度にユーザ端末30に送信してもよいし、一定の期間分まとめて環境情報をユーザ端末30に送信してもよい。ユーザ端末30の情報取得部341は、環境センサ10から送信された環境情報を取得する。情報取得部341は、取得した環境情報を記憶部35に記憶する。
【0068】
生体センサ20は、第1の間隔で生体情報を取得する(ステップS103)。生体センサ20は、取得した生体情報をユーザ端末30に送信する(ステップS104)。生体センサ20は、生体情報を取得する度にユーザ端末30に送信してもよいし、一定の期間分まとめて生体情報をユーザ端末30に送信してもよい。ユーザ端末30の情報取得部341は、生体センサ20から送信された生体情報を取得する。情報取得部341は、取得した生体情報を記憶部35に記憶する。
【0069】
ユーザ端末30の通信部31は、環境情報及び生体情報をアプリケーションサーバ40に送信する(ステップS105)。アプリケーションサーバ40は、ユーザ端末30から送信された環境情報及び生体情報をデータベースサーバ50に保存する(ステップS106)。例えば、アプリケーションサーバ40は、環境情報及び生体情報をユーザ毎に時系列順に保存する。なお、通信環境により、環境情報及び生体情報が時系列順に受信できない場合も想定される。そのため、アプリケーションサーバ40は、環境情報及び生体情報について、とりあえず取得した順番でユーザ毎にデータベースサーバ50に保存しておいてもよい。ステップS101~S106の処理は、繰り返し実行される。これにより、データベースサーバ50には、ユーザ毎の環境情報及び生体情報が時系列順に保存される。
【0070】
アプリケーションサーバ40の判定部422は、所定のタイミングでアラート発報判定処理を実行する(ステップS107)。アラート発報判定処理は、アラート発報条件が満たされたか否かを判定するための処理である。アラート発報判定処理の流れについては
図8で説明する。ここで、所定のタイミングとは、予め定められた時刻になったタイミングであってもよいし、データベースサーバ50に環境情報又は生体情報が保存されたタイミングであってもよいし、ユーザ端末30又は管理者装置60からアラート発報判定処理の開始指示がなされたタイミングであってもよい。以下の
図7の説明では、アラート発報判定処理により、アラート発報条件が満たされたとして説明する。
【0071】
判定部422は、アラート発報条件が満たされた旨の通知を警告部423に出力する。判定部422が出力する通知には、アラート発報条件が満たされたか否かを示す情報と、ユーザIDとが含まれる。警告部423は、通知に含まれるユーザIDを含む通知先に対して警報を発報する(ステップS108)。具体的には、まず警告部423は、情報取得部421に対してアラート発報条件が満たされたユーザの通知先の情報の取得を要求する。情報取得部421は、警告部423からの要求に従って、データベースサーバ50に対して通知先の情報を要求する。この際、情報取得部421は、ユーザIDと、判定結果と、通知先の情報を要求する旨の通知とを含む要求情報を、通信部41を介してデータベースサーバ50に送信する。データベースサーバ50は、アプリケーションサーバ40から送信された要求情報に応じて、ユーザIDに対応付けられている通知先の情報を判定結果テーブルから取得する。さらに、データベースサーバ50は、ユーザIDに対応付けられている判定結果を、要求情報に含まれている判定結果で上書きする。データベースサーバ50は、取得した通知先の情報をアプリケーションサーバ40に応答する。
【0072】
情報取得部421は、通信部41を介して通知先の情報を取得する。警告部423は、取得された通知先を宛先として、警告を送信する(ステップS109及びステップS110)。
ユーザ端末30は、アプリケーションサーバ40から送信された警告を受信する。ユーザ端末30の入出力制御部342は、操作部33から入力される指示に応じて、警告を表示部32に表示する(ステップS111)。
管理者装置60は、アプリケーションサーバ40から送信された警告を受信する。管理者装置60は、入力される指示に応じて、警告を表示部に表示する(ステップS112)。
【0073】
図8は、第1の実施形態におけるアプリケーションサーバ40が行うアラート発報判定処理の流れを示すフローチャートである。
情報取得部421は、判定対象ユーザの情報を取得する(ステップS201)。具体的には、情報取得部421は、ユーザIDで識別される判定対象ユーザに関する環境情報と生体情報とをデータベースサーバ50から取得する。例えば、情報取得部421は、データベースサーバ50に保存されている判定対象ユーザに関する環境情報と生体情報とを全て取得してもよいし、直近の所定期間(例えば、1週)分の環境情報と生体情報とを取得してもよい。情報取得部421は、取得した環境情報と生体情報とを判定部422に出力する。
【0074】
判定部422は、情報取得部421から出力された生体情報に基づいて、脈拍の継続時間に関する条件(ロジック1)を満たすか否かを判定する(ステップS202)。判定部422は、脈拍の継続時間に関する条件を満たすと判定した場合(ステップS202-YES)、アラート発報条件を満たすと判定する(ステップS203)。脈拍数の値が閾値Th1を下回るまでの時間が第1の時間T1継続した場合には熱中症の可能性が高いことが想定される。そのため、判定部422は、脈拍の継続時間に関する条件が満たされただけであっても、アラート発報条件を満たすと判定する。その後、アプリケーションサーバ40はアラート発報判定処理を終了する。
【0075】
アラート発報条件を満たすと判定した上記の例では、ロジック1が満たされた場合を示している。脈拍が、普段よりも高い状態が一定時間経過していると、体に熱が籠る状態になり危険であることが想定される。これは、以下の参考文献にも記載されているように、厚生労働省が推奨している熱へのばく露を止めることが必要とされている兆候である。このように、ロジック1に示す条件が満たされた場合には人物の身体が危険な状態にあるため、アラートの発報が必要となる。
(参考文献:熱中症を防ごう P6.3健康管理(4)身体の状況の確認 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r985200000323h1-att/2r985200000323m3.pdf)
【0076】
一方、判定部422は、脈拍の継続時間に関する条件を満たさないと判定した場合(ステップS202-NO)、環境情報と生体情報とに基づいて脈拍数と湿度の相関に関する条件(ロジック4)を満たすか否かを判定する(ステップS204)。判定部422は、脈拍数と湿度の相関に関する条件を満たすと判定した場合(ステップS204-YES)、ステップS205及びステップS206の処理を行う。ステップS205及びステップS206の処理は、どちらのステップが先に行われてもよい。なお、判定部422は、ステップS205及びステップS206のいずれか一方のステップでアラート発報条件を満たすと判定した場合には、他方のステップを実行しなくてよい。
【0077】
判定部422は、生体情報に基づいて脈拍の上昇速度に関する条件(ロジック2)を満たすか否かを判定する(ステップS205)。判定部422は、脈拍の上昇速度に関する条件を満たすと判定した場合(ステップS205-YES)、アラート発報条件を満たすと判定する(ステップS203)。すなわち、判定部422は、脈拍数と湿度の相関に関する条件が満たされて、かつ、脈拍の上昇速度に関する条件が満たされた場合にアラート発報条件を満たすと判定する。
【0078】
アラート発報条件を満たすと判定した上記の例では、ロジック4が満たされ、かつ、ロジック2が満たされた場合を示している。
一般的に脈拍が上昇した後は熱を下げるために発汗する。この発汗状態を体表付近の湿度上昇で検知する。もし対象人物の周辺の湿度が上がらなかった場合、体の異常により発汗できない状態か、外気湿度が高すぎて発汗できない状態か、被服が汗で濡れていて湿度が高い状態のまま発汗できない状態にあることが想定される。いずれの状態にしても、熱を下げる発汗がうまく機能しない危険な状況である。このような状況下で脈拍が短時間において急上昇した場合には、体に熱が籠る状態が加速し人物の身体が危険な状態になる。そのため、ロジック4に示す条件が満たされ、ロジック2に示す条件が満たされた場合には、アラートの発報が必要となる。
【0079】
判定部422は、環境情報に基づいてWBGTの上昇幅に関する条件(ロジック5)を満たすか否かを判定する(ステップS206)。判定部422は、WBGTの上昇幅に関する条件を満たすと判定した場合(ステップS206-YES)、アラート発報条件を満たすと判定する(ステップS203)。すなわち、判定部422は、脈拍数と湿度の相関に関する条件が満たされて、かつ、WBGTの上昇幅に関する条件が満たされた場合にアラート発報条件を満たすと判定する。
【0080】
アラート発報条件を満たすと判定した上記の例では、ロジック4が満たされ、かつ、ロジック5が満たされた場合を示している。
ロジック4の示す条件が満たされた状況において、WBGT値が、短時間において急上昇すると、環境依存として、体に熱が籠る状態が加速し人物の身体が危険な状態になる。そのため、ロジック4に示す条件が満たされ、ロジック5に示す条件が満たされた場合には、アラートの発報が必要となる。
【0081】
判定部422は、脈拍数と湿度の相関に関する条件を満たさないと判定した場合(ステップS204-NO)、脈拍の上昇速度に関する条件を満たさないと判定した場合(ステップS205-NO)又はWBGTの上昇幅に関する条件を満たさないと判定した場合(ステップS206-NO)、環境情報に基づいてWBGTの総和に関する条件(ロジック6)を満たすか否かを判定する(ステップS207)。
判定部422は、WBGTの総和に関する条件を満たさないと判定した場合(ステップS207-NO)、アラート発報条件を満たさないと判定する(ステップS208)。その後、アプリケーションサーバ40はアラート発報判定処理を終了する。
【0082】
判定部422は、WBGTの総和に関する条件を満たすと判定した場合(ステップS207-YES)、生体情報に基づいて脈拍の上昇速度に関する条件を満たすか否かを判定する(ステップS209)。判定部422は、脈拍の上昇速度に関する条件を満たすと判定した場合(ステップS209-YES)、環境情報に基づいてWBGTの上昇幅に関する条件を満たすか否かを判定する(ステップS210)。判定部422は、WBGTの上昇幅に関する条件を満たすと判定した場合(ステップS210-YES)、アラート発報条件を満たすと判定する(ステップS203)。すなわち、判定部422は、WBGTの総和に関する条件が満たされて、かつ、脈拍の上昇速度に関する条件が満たされて、かつ、WBGTの上昇幅に関する条件が満たされた場合にアラート発報条件を満たすと判定する。
【0083】
アラート発報条件を満たすと判定した上記の例では、ロジック6が満たされ、かつ、ロジック5が満たされ、かつ、ロジック2が満たされた場合を示している。
日本では四季があるため、気温の低い冬から夏へかけて、熱への順化が適切に行われると熱中症リスクは低くなるが、逆に、熱への順化(暑熱順化)が適切でないと、熱中症に罹患しやすい状態となり得る。暑熱順化は、体が徐々に熱へ慣れていく仕組みであるため、その指標値として、体表付近にある環境センサ10で検出するWBGT値を活用して暑熱順化を判断している(ロジック6)。なお、暑熱順化(ロジック6)は、熱中症の罹患リスクの傾向のみを判断する処理であるため、熱中症の危険を検知する条件として、対象の人物が、WBGT値急上昇(ロジック5)な環境に位置し、脈拍の急上昇(ロジック2)を伴う状況に位置している場合に人物の身体が危険な状態になる。そのため、ロジック6が満たされ、かつ、ロジック5が満たされ、かつ、ロジック2が満たされた場合には、アラートの発報が必要となる。
【0084】
一方、判定部422は、WBGTの総和に関する条件を満たしたとしても、脈拍の上昇速度に関する条件を満たさないと判定した場合(ステップS209-NO)、又は、WBGTの上昇幅に関する条件を満たさないと判定した場合(ステップS210-NO)、アラート発報条件を満たさないと判定する(ステップS208)。
【0085】
以上のように構成された熱中症警告システムによれば、従来よりも個人の状態を反映し精度よく熱中症を始めとする熱ストレスによる影響を伴うユーザに対して警告を行うことが可能となる。具体的には、熱中症警告システムでは、環境情報や生体情報それぞれ又は環境情報と生体情報とを組み合わせて人物の熱ストレスによる危険性を判定している。環境情報と生体情報とは、相関関係にあるため、組み合わせて判定に用いることによって判定精度を向上させることができる。そのため、従来よりも個人の状態を反映し精度よく熱中症を始めとする熱ストレスによる影響を伴うユーザに対して警告を行うことが可能になる。
【0086】
(第2の実施形態)
第2の実施形態における熱中症警告システムでは、ユーザ個人が、ユーザ端末30において自身の体調を管理する構成となっている。
図9は、第2の実施形態における熱中症警告システム100aのシステム構成を表す図である。熱中症警告システム100aは、環境センサ10、生体センサ20及びユーザ端末30aを備える。熱中症警告システム100aでは、アプリケーションサーバ40、データベースサーバ50及び管理者装置60を備えない点、ユーザ端末30aがアプリケーションサーバ40によるアラート発報判定処理を行う点で熱中症警告システム100とシステム構成が異なる。そのほかの構成については第1の実施形態と同様である。以下、相違点について説明する。
【0087】
ユーザ端末30aは、環境センサ10及び生体センサ20が取り付けられた人物が所持する端末である。ユーザ端末30aは、環境センサ10によって取得された環境情報と、生体センサ20によって取得された生体情報とを取得する。ユーザ端末30aは、取得した環境情報と、生体情報とに基づいてアラート発報条件が満たされた場合に、アラート発報条件を満たした人物に対する警告を行う。例えば、ユーザ端末30aは、アラート発報条件を満たした場合、表示画面に警告を表示してもよいし、音により警告を報知してもよい。ユーザ端末30aは、環境情報と、生体情報とを時系列順に記憶する。なお、ユーザ端末30aは、複数のユーザの環境情報と生体情報とを、時系列順に記憶してもよいし、取得した順に記憶してもよい。
【0088】
図10は、第2の実施形態におけるユーザ端末30aの機能構成を表す概略ブロック図である。ユーザ端末30aは、通信部31、表示部32、操作部33、制御部34a及び記憶部35aを備える。
制御部34aは、CPU等のプロセッサやメモリを用いて構成される。制御部34aは、プログラムを実行することによって、情報取得部341、入出力制御部342、判定部343及び警告部344の機能を実現する。これらの機能の一部(例えば、判定部343及び警告部344)は、予めユーザ端末30aに搭載されている必要はなく、追加のアプリケーションプログラムがユーザ端末30aにインストールされることで実現されてもよい。
【0089】
判定部343は、記憶部35aに記憶されている環境情報及び生体情報に基づいて、アラート発報条件を満たすか否かを判定する。判定部343が行う判定処理は、第1の実施形態における判定部422が行う処理と同様であるため説明を省略する。
【0090】
警告部344は、判定部343によりアラート発報条件が満たされたと判定された場合に警告を行う。警告部344は、例えば通知先の情報を取得しない点及び通知先として管理者装置60が含まれない点を除けば基本的な処理は、第1の実施形態における警告部423と同様である。
【0091】
記憶部35aは、ユーザ情報351a及び警告情報352を記憶する。ユーザ情報351aは、例えば第1の実施形態で示した状態情報テーブルである。第1の実施形態では状態情報テーブルがユーザ毎に環境情報及び生体情報を格納しているのに対して、第2の実施形態における状態情報テーブルには、ユーザ端末30aのユーザや、ユーザ端末30aのユーザが登録したユーザの環境情報及び生体情報が格納される。記憶部35aは、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置などの記憶装置を用いて構成される。警告情報352は、不図示のメモリに一時的に記憶されてもよい。
【0092】
以上のように構成された熱中症警告システム100aによれば、ユーザが所持しているユーザ端末30aでアラート発報の判定を行うことができる。これにより、外部の装置と通信を行えないような閉じた環境下であっても熱中症の警告が可能になる。
【0093】
第1の実施形態及び第2の実施形態に共通する変形例について説明する。
判定部422及び判定部343は、
図8に示すフローチャートの順番で判定処理を行わなくてもよい。例えば、判定部422及び判定部343は、ステップS204の処理をステップS202よりも先に行ってもよいし、ステップS207の処理をステップS202やステップS204よりも先に行ってもよい。
上記の例では、生体情報として脈拍の情報を用いる場合について説明したが、生体情報として他の情報が用いられてアラート発報条件の判定が行われてもよい。例えば、判定部422及び判定部343は、生体情報として心拍の情報を用いてアラート発報条件の判定を行ってもよいし、生体情報として脈拍の情報及び心拍の情報の両方を用いてアラート発報条件の判定を行ってもよい。脈拍の情報及び心拍の情報の両方を用いる場合、判定部422及び判定部343は、脈拍数と心拍数との平均値を利用してもよいし、両方の値を用いてもよい。
【0094】
上述した実施形態におけるユーザ端末30,30a及びアプリケーションサーバ40をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
【0095】
さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【0096】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0097】
10…環境センサ, 20…生体センサ, 30、30a…ユーザ端末(警告装置), 31…通信部, 32…表示部, 33…操作部, 34、34a…制御部, 35…記憶部, 40…アプリケーションサーバ(警告装置), 41…通信部, 42…制御部, 50…データベースサーバ, 60…管理者装置, 341…情報取得部, 342…入出力制御部, 343…判定部, 344…警告部, 421…情報取得部, 422…判定部, 423…警告部