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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】セラミック電子部品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20240313BHJP
【FI】
H01G4/30 201C
H01G4/30 201D
H01G4/30 311D
H01G4/30 513
H01G4/30 517
H01G4/30 512
H01G4/30 201N
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020155596
(22)【出願日】2020-09-16
(65)【公開番号】P2022049403
(43)【公開日】2022-03-29
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】加藤 洋一
【審査官】小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-004569(JP,A)
【文献】特開2000-138127(JP,A)
【文献】特開2016-063038(JP,A)
【文献】特開2015-135981(JP,A)
【文献】特開2015-170849(JP,A)
【文献】特開2001-210544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
H01C 7/02
H01C 7/04
H01C 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックを主成分とする誘電体層と、内部電極層と、が交互に積層され、略直方体形状を有し、積層された複数の前記内部電極層が交互に対向する2端面に露出するように形成された積層構造と、
前記誘電体層と前記内部電極層との積層方向の両方から前記積層構造を覆うカバー層と、を備え、
前記積層構造において積層された複数の前記内部電極層が前記積層構造の2側面に延びた端部を覆うように設けられたサイドマージン領域は、セラミックを主成分とする誘電体層と金属を主成分とする導電体層とが積層された構造を有し、
前記導電体層は、前記内部電極層とは離間し
前記導電体層は、複数の前記内部電極層とそれぞれ同じ層内に設けられており、
前記導電体層は、前記2端面の間にギャップを有し、
前記積層方向に隣接する少なくとも2層の前記導電体層において、前記ギャップの位置が、前記2端面が対向する方向で異なっており、
前記カバー層には導電体層が設けられていないことを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項2】
前記サイドマージン領域において、前記導電体層と前記内部電極層との間は、キャビティであることを特徴とする請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項3】
前記サイドマージン領域において、前記導電体層と前記内部電極層との間には絶縁体が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項4】
前記サイドマージン領域において、前記導電体層と前記内部電極層との距離は30μm以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項5】
前記サイドマージン領域において、前記内部電極層の主成分金属と、前記導電体層の主成分金属とが同じ金属であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項6】
前記2端面に形成された1対の外部電極を備え、
前記導電体層は、前記1対の外部電極間で、ギャップを有していることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項7】
前記積層構造の2端面のうち一方の端面に接続された内部電極層と、他方の端面との間のエンドマージンにおいて、前記2端面が対向する方向において当該内部電極層と離間する導体層が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項8】
主成分セラミック粒子を含むグリーンシート上に金属導電ペーストが配置された積層単位が複数積層され、略直方体形状を有する積層体と、前記積層単位の積層方向の両方から前記積層体を覆うカバーシートと、を得る工程と、
前記積層体および前記カバーシートを焼成する工程と、を含み、
焼成する前の前記積層体の前記金属導電ペーストには、前記積層体の第1側面側において前記第1側面と第2側面とが対向する方向に離間するギャップと、前記第2側面側において前記第1側面と前記第2側面とが対向する方向に離間するギャップが設けられることで、前記第1側面と前記第2側面とが対向する方向において、前記第1側面側の第1領域と、内側の第2領域と、前記第2側面側の第3領域とに分割され、
前記第1領域および前記第3領域は、前記第1側面と前記第2側面とが対向する方向と前記積層方向とに直交する所定方向において、ギャップを有し、
前記積層方向に隣接する少なくとも2つの前記第1領域において、前記ギャップの位置が前記所定方向で異なっており、
前記積層方向に隣接する少なくとも2つの前記第2領域において、前記ギャップの位置が前記所定方向で異なっており、
前記カバーシートを焼成することによって得られるカバー層には導電体層が設けられていない、ことを特徴とするセラミック電子部品の製造方法。
【請求項9】
前記金属導電ペーストの一部をレーザで除去することで、前記ギャップを形成することを特徴とする請求項8に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサ等のセラミック電子部品は、例えば、内部電極層が誘電体層を挟んで積層された機能部と、内部電極層の側部を保護するサイドマージンとを有している。サイドマージンは、絶縁性や耐湿性を確保するために重要であるが、セラミックスで形成されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-349669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、サイドマージンは、セラミックで構成されていると、金属とセラミックとの層構造からなる機能部と比較して強度が低くなる。サイドマージンで生じる破損が機能部まで達すると機能部が保護されなくなる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、機能部を保護することができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るセラミック電子部品は、セラミックを主成分とする誘電体層と、内部電極層と、が交互に積層され、略直方体形状を有し、積層された複数の前記内部電極層が交互に対向する2端面に露出するように形成された積層構造を備え、前記積層構造において積層された複数の前記内部電極層が前記積層構造の2側面に延びた端部を覆うように設けられたサイドマージン領域は、セラミックを主成分とする誘電体層と金属を主成分とする導電体層とが積層された構造を有し、前記導電体層は、前記内部電極層とは離間していることを特徴とする。
【0007】
上記セラミック電子部品において、前記導電体層は、いずれかの前記内部電極層と同じ層内に設けられ、当該内部電極層との間はキャビティであってよい。
【0008】
上記セラミック電子部品において、前記導電体層は、いずれかの前記内部電極層と同じ層内に設けられ、当該内部電極層との間には絶縁体が設けられていてもよい。
【0009】
上記セラミック電子部品において、前記導電体層は、いずれかの前記内部電極層と同じ層内に設けられ、当該内部電極層との距離は30μm以下であってもよい。
【0010】
上記セラミック電子部品において、前記内部電極層の主成分金属と、前記導電体層の主成分金属とが同じ金属であってもよい。
【0011】
上記セラミック電子部品において、前記2端面に形成された1対の外部電極が備わり、前記導電体層は、前記1対の外部電極間で、ギャップを有していてもよい。
【0012】
本発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、主成分セラミック粒子を含むグリーンシート上に金属導電ペーストが配置された積層単位が複数積層され、略直方体形状を有する積層体を得る工程と、前記積層体を焼成する工程と、を含み、焼成する前の前記積層体の前記金属導電ペーストには、前記積層体の第1側面側において前記第1側面と第2側面とが対向する方向に離間するギャップと、前記第2側面側において前記第1側面と前記第2側面とが対向する方向に離間するギャップが設けられていることを特徴とする。
【0013】
上記セラミック電子部品の製造方法において、前記金属導電ペーストの一部をレーザで除去することで、前記ギャップを形成してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、機能部を保護することができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。
図2】(a)および(b)は図1のA-A線断面図である。
図3図1のB-B線断面図である。
図4】(a)および(b)はサイドマージンについて説明するための図である。
図5】サイドマージンの断面の拡大図である。
図6】(a)および(b)は内部電極層および衝撃吸収層の平面図である。
図7】積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
図8】(a)および(b)は積層工程を例示する図である。
図9】(a)および(b)は積層工程を例示する図である。
図10】第2実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0017】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。図2(a)および図2(b)は、図1のA-A線断面図である。図3は、図1のB-B線断面図である。図1図3で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、略直方体形状を有する積層チップ10と、積層チップ10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a,20bとを備える。なお、積層チップ10の当該2端面以外の4面のうち、積層方向の上面および下面以外の2面を側面と称する。外部電極20a,20bは、積層チップ10の積層方向の上面、下面および2側面に延在している。ただし、外部電極20a,20bは、互いに離間している。なお、図1において、X軸方向(第1方向)は、積層チップ10の長さ方向であって、積層チップ10の2端面が対向する方向であり、外部電極20aと外部電極20bとが対向する方向である。Y軸方向(第2方向)は、内部電極層の幅方向である。Z軸方向は、積層方向である。X軸方向と、Y軸方向と、Z軸方向とは、互いに直交している。
【0018】
積層チップ10は、誘電体として機能するセラミック材料を含む誘電体層11と、卑金属材料を含む内部電極層とが、交互に積層された構成を有する。各内部電極層の端縁は、積層チップ10の外部電極20aが設けられた第1端面と、外部電極20bが設けられた第2端面とに、交互に露出している。それにより、各内部電極層は、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通している。その結果、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層を介して積層された構成を有する。外部電極20aに接続されている内部電極層を内部電極層12aと称する。外部電極20bに接続されている内部電極層を内部電極層12bと称する。誘電体層11と内部電極層との積層構造において、積層方向の最外層には内部電極層が配置され、当該積層体の上面および下面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13の材料は、誘電体層11とセラミック材料の主成分が同じである。
【0019】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.25mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0020】
内部電極層12a,12bは、Ni(ニッケル),Cu(銅),Sn(スズ)等の卑金属を主成分とする。内部電極層12a,12bとして、Pt(白金),Pd(パラジウム),Ag(銀),Au(金)などの貴金属やこれらを含む合金を用いてもよい。内部電極層12a,12bの平均厚みは、例えば、1μm以下である。誘電体層11は、例えば、一般式ABOで表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主成分とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3-αを含む。例えば、当該セラミック材料として、BaTiO(チタン酸バリウム),CaZrO(ジルコン酸カルシウム),CaTiO(チタン酸カルシウム),SrTiO(チタン酸ストロンチウム),ペロブスカイト構造を形成するBa1-x-yCaSrTi1-zZr(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)等を用いることができる。誘電体層11の平均厚みは、例えば、1μm以下である。なお、内部電極層の積層数は、例えば、100から800である。
【0021】
図2(a)で例示するように、外部電極20aに接続された内部電極層12aと外部電極20bに接続された内部電極層12bとが対向する領域は、積層セラミックコンデンサ100において電気容量を生じる領域である。そこで、当該電気容量を生じる領域を、容量部14と称する。すなわち、容量部14は、異なる外部電極に接続された隣接する内部電極層同士が対向する領域である。
【0022】
同じ外部電極に接続された内部電極層が異なる外部電極に接続された内部電極層を介さずに対向する領域を、エンドマージンと称する。エンドマージン15aは、外部電極20aに接続された内部電極層12a同士が、外部電極20bに接続された内部電極層12bを介さずに対向する領域である。エンドマージン15bは、外部電極20bに接続された内部電極層12b同士が、外部電極20aに接続された内部電極層12aを介さずに対向する領域である。エンドマージンは、電気容量を生じない領域である。
【0023】
なお、容量部14およびエンドマージン15a,15bのように誘電体層と内部電極層とが交互に積層されている領域を、総称して機能部と称することがある。
【0024】
このような積層セラミックコンデンサ100においては、エンドマージン15a,15bにおいて、外部電極と接続されない内部電極層がなくなることによって段差が生じ、形状が樽型になる。この段差解消法として、誘電体やダミー電極で埋める方法が考えられる。
【0025】
そこで、本実施形態においては、図2(b)で例示するように、エンドマージン15aにおいては、内部電極層12bと同じ層内の外部電極20a側に、ダミー電極層17aが設けられている。ダミー電極層17aは、内部電極層12bとは接続されていない。ダミー電極層17aと内部電極層12bとの間には、X軸方向に間隔が空けてある。当該間隔は、絶縁ギャップ18aとして機能する。ダミー電極層17aは、外部電極20aと接続されていてもよく、接続されていなくてもよい。ダミー電極層17aの主成分金属と、内部電極層12bの主成分金属とが同じ金属であることが好ましい。製造過程においてダミー電極層17aと内部電極層12bとを同一工程で作製できるからである。
【0026】
エンドマージン15bにおいては、内部電極層12aと同じ層内の外部電極20b側に、ダミー電極層17b(導電体層)が設けられている。ダミー電極層17bは、内部電極層12aとは接続されていない。ダミー電極層17bと内部電極層12aとの間には、X軸方向に間隔が空けてある。当該間隔は、絶縁ギャップ18bとして機能する。ダミー電極層17bは、外部電極20bと接続されていてもよく、接続されていなくてもよい。ダミー電極層17bの主成分金属と、内部電極層12aの主成分金属とが同じ金属であることが好ましい。製造過程においてダミー電極層17bと内部電極層12aとを同一工程で作製できるからである。
【0027】
図3で例示するように、積層チップ10において、積層チップ10の2側面から内部電極層12a,12bに至るまでの領域をサイドマージン16と称する。すなわち、サイドマージン16は、上記積層構造において積層された複数の内部電極層12a,12bが2側面側に延びた端部を覆うように設けられた領域である。サイドマージン16も、電気容量を生じない領域である。
【0028】
サイドマージン16は、絶縁性や耐湿性を確保するために重要な役割を果たす。このサイドマージン16がセラミックのみで形成されていると、図4(a)で例示するように、セラミックと金属とによって構成されている容量部14との間に熱膨張差が生じる。この熱膨張差によって歪が生じ、容量部14を保護できないおそれがある。
【0029】
また、サイドマージン16は、セラミックで形成されていると、耐衝撃性が低くなる。したがって、図4(b)で例示するように、外からの衝撃によって容量部14まで達する破損が生じやすい。このような破損が生じた場合、ショートや信頼性の悪化などが引き起こされるおそれがあり、容量部14を保護できない。
【0030】
そこで、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100は、サイドマージン16が容量部14を保護することができる構成を有している。図5は、本実施形態に係るサイドマージン16の断面の拡大図である。図5で例示するように、サイドマージン16は、誘電体層11と衝撃吸収層41とが、容量部14における誘電体層11と内部電極層12a,12bとの積層方向において交互に積層された構造を有する。容量部14の各誘電体層11とサイドマージン16の各誘電体層11とは、互いに連続する層である。サイドマージン16において、衝撃吸収層41は、積層チップ10の側面から内部電極層12a,12bの方に延在しているが、内部電極層12a,12bとは離間して接続されていない。したがって、衝撃吸収層41と内部電極層12a,12bとの間には、絶縁ギャップ42が形成されている。本実施形態においては、絶縁ギャップ42は、キャビティ(エアギャップ)である。なお、誘電体層11と内部電極層12a,12bとによって形成される段差は、衝撃吸収層41によって埋められている。したがって、容量部14とサイドマージン16との段差が抑制される。
【0031】
衝撃吸収層41は、金属を主成分とする導電体層である。衝撃吸収層41は、金属層であることが好ましい。金属はセラミックよりも高い衝撃吸収性を有している。したがって、サイドマージン全体がセラミックで形成されている場合と比較して、サイドマージン16の対衝撃吸収性が向上する。また、サイドマージン全体がセラミックで形成されている場合と比較して、サイドマージン16と容量部14との間の熱膨張差が小さくなる。以上のことから、容量部14を保護できるようになる。
【0032】
図6(a)は、内部電極層12bおよび衝撃吸収層41の平面図である。図6(b)は、内部電極層12aおよび衝撃吸収層41の平面図である。図6(a)で例示するように、内部電極層12bと衝撃吸収層41との間に、絶縁ギャップ42が形成されている。また、衝撃吸収層41には、外部電極20aと外部電極20bとの間において、Y軸方向に延びる絶縁ギャップ43が形成されている。絶縁ギャップ43を形成することで、外部電極20aと外部電極20bとのショートを抑制することができる。
【0033】
図6(b)で例示するように、内部電極層12aと衝撃吸収層41との間に、絶縁ギャップ42が形成されている。また、衝撃吸収層41には、外部電極20aと外部電極20bとの間において、Y軸方向に延びる絶縁ギャップ43が形成されている。絶縁ギャップ43を形成することで、外部電極20aと外部電極20bとのショートを抑制することができる。なお、ショート抑制の観点から、絶縁ギャップ43のX軸方向の長さは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、15μm以上であることがさらに好ましい。一方、衝撃吸収層41の衝撃吸収性向上の観点から、絶縁ギャップ43のX軸方向の長さは、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることがさらに好ましい。
【0034】
Y軸方向において絶縁ギャップ42が長いと、材料充填密度の低い領域が長くなってしまい、焼成過程やリフロー時の熱衝撃によりクラックが生じて絶縁性を損なうおそれがある。そこで、Y軸方向における絶縁ギャップ42の長さに上限を設けることが好ましい。本実施形態においては、Y軸方向における絶縁ギャップ42の長さは、30μm以下であることが好ましい。
【0035】
衝撃吸収層41は、内部電極層12a,12bの主成分金属と同じ金属を主成分とすることが好ましい。製造過程において衝撃吸収層41と内部電極層12a,12bとを同一工程で作製できるからである。
【0036】
衝撃吸収層41は、Z軸方向の厚みに対してY軸方向の長さが不足すると、焼成時の球状化によって連続性が悪化するおそれがある。そこで、衝撃吸収層41のY軸方向における長さに下限を設けることが好ましい。例えば、衝撃吸収層41のZ軸方向の厚み(例えば、0.5μmから1μm)よりも大きくする観点から、衝撃吸収層41のY軸方向における長さは、1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましい。一方、衝撃吸収層41が設けられる領域は容量を生じない領域であるため、衝撃吸収層41のY軸方向における長さに上限を設けることが好ましい。例えば、衝撃吸収層41のY軸方向における長さは、30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。
【0037】
Y軸方向においてサイドマージン16が薄すぎると、高温耐湿特性の悪化といった不具合が生じるおそれがある。そこで、Y軸方向におけるサイドマージン16の厚みに下限を設けることが好ましい。例えば、Y軸方向におけるサイドマージン16の厚みは、1層あたりの誘電体層11の厚み以上であることが好ましく、誘電体層11の厚みの10倍以上であることがより好ましく、誘電体層11の厚みの20倍以上であることがさらに好ましい。Y軸方向においてサイドマージン16が厚すぎると、体積あたりの静電容量の低下といった不具合が生じるおそれがある。そこで、Y軸方向におけるサイドマージン16の厚みに上限を設けることが好ましい。例えば、Y軸方向におけるサイドマージン16の厚みは、1層あたりの誘電体層11のZ軸方向の厚みの100倍以下であることが好ましく、50倍以下であることがより好ましく、40倍以下であることがさらに好ましい。
【0038】
続いて、積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。図7は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0039】
(原料粉末作製工程)
まず、誘電体層11を形成するための誘電体材料を用意する。誘電体材料は、誘電体層11の主成分セラミックを含む。誘電体層11に含まれるAサイト元素およびBサイト元素は、通常はABOの粒子の焼結体の形で誘電体層11に含まれる。例えば、BaTiOは、ペロブスカイト構造を有する正方晶化合物であって、高い誘電率を示す。このBaTiOは、一般的に、二酸化チタンなどのチタン原料と炭酸バリウムなどのバリウム原料とを反応させてチタン酸バリウムを合成することで得ることができる。誘電体層11の主成分セラミックの合成方法としては、従来種々の方法が知られており、例えば固相法、ゾル-ゲル法、水熱法等が知られている。本実施形態においては、これらのいずれも採用することができる。
【0040】
得られたセラミック粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、Zr(ジルコニウム)、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)、Mg(マグネシウム)、Mn(マンガン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、希土類元素の酸化物、並びに、Co(コバルト)、Ni、Li(リチウム)、B(ホウ素)、Na(ナトリウム)、K(カリウム)およびSiの酸化物もしくはガラスが挙げられる。
【0041】
次に、カバー層13を形成するためのカバー材料を用意する。カバー材料は、カバー層13の主成分セラミックを含む。主成分セラミックとして、例えば、BaTiO粉を作製する。BaTiO粉は、誘電体材料と同様の手順により作製することができる。得られたBaTiO粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、Zr、Ca、Sr、Mg、Mn、V、Cr、希土類元素の酸化物、並びに、Co、Ni、Li、B、Na、KおよびSiの酸化物もしくはガラスが挙げられる。なお、カバー材料として、上述した誘電体材料を用いてもよい。
【0042】
(積層工程)
次に、原料粉末作製工程で得られた誘電体材料に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリーを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上に例えば厚み0.8μm以下の帯状の誘電体グリーンシート51を塗工して乾燥させる。
【0043】
次に、図8(a)で例示するように、誘電体グリーンシート51の表面に、有機バインダを含む内部電極形成用の金属導電ペーストをスクリーン印刷、グラビア印刷等により印刷することで、内部電極層用の電極パターン52を配置する。金属導電ペーストには、共材としてセラミック粒子を添加する。セラミック粒子の主成分は、特に限定するものではないが、誘電体層11の主成分セラミックと同じであることが好ましい。
【0044】
次に、図8(b)で例示するように、電極パターン52において、絶縁ギャップ42,43に相当する位置をレーザなどで除去することで、電極パターン52に溝56を形成する。図9(a)は、一方のパターンであるAパターンを例示する図である。図9(b)は、他方のパターンであるBパターンを例示する図である。
【0045】
CO・YAGレーザを用いると、波長が長いためにスポット径が大きくなって微細加工が困難であるおそれがある。UV(紫外線)レーザを用いると、誘電体グリーンシート51に含まれるセラミック(例えばチタン酸バリウム)の吸収域に波長が入るため、誘電体グリーンシート51を加工してしまうおそれがある。そこで、ここでのレーザとして、可視光レーザ(青色~緑色)を用いることが好ましい。可視光レーザは、誘電体グリーンシート51を透過するため、誘電体グリーンシート51への影響を抑制することができる。また、可視光レーザの波長は短いため、スポット径が小さくなり、微細加工が容易となる。また、ピコ秒パルスのレーザを利用することで、誘電体グリーンシート51への熱ダメージが抑制される。また、金属導電ペーストに含まれる材料が小径化されて電極パターン52が薄層化することで、低いエネルギで対象箇所を除去することができるため、誘電体グリーンシート51へのダメージを抑制しつつ、誘電体グリーンシート51上での金属導電ペーストへの直接の加工が可能となる。次に、AパターンとBパターンとを交互に積層していく。
【0046】
次に、原料粉末作製工程で得られたカバー材料に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリーを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上に例えば厚み10μm以下の帯状のカバーシートを塗工して乾燥させる。積層された誘電体グリーンシート51の上下にカバーシートを所定数(例えば2~10層)だけ積層して熱圧着する。
【0047】
(焼成工程)
このようにして得られたセラミック積層体を、N雰囲気で脱バインダ処理した後に外部電極20a,20bの下地となるNiペーストをディップ法で塗布し、酸素分圧10-5~10-8atmの還元雰囲気中で1100~1300℃で10分~2時間焼成する。このようにして、積層セラミックコンデンサ100が得られる。
【0048】
(再酸化処理工程)
その後、Nガス雰囲気中で600℃~1000℃で再酸化処理を行ってもよい。
【0049】
(めっき処理工程)
その後、めっき処理により、外部電極20a,20bに、Cu,Ni,Sn等の金属コーティングを行ってもよい。
【0050】
本実施形態に係る製造方法によれば、電極パターン52において、一方の側面側においてY軸方向に離間するギャップと、他方の側面側においてY軸方向に離間するギャップが設けられている。それにより、衝撃吸収層41を形成できるとともに、絶縁ギャップ42を形成することができる。衝撃吸収層41を形成することで、機能部を保護することができるようになる。また、電極パターン52に、X軸方向に離間するギャップが設けられていることから、外部電極20aと外部電極20bとのショートを抑制することができる。
【0051】
(第2実施形態)
第1実施形態では、カバー層13が設けられている構成について説明したが、カバー層13は設けられていなくてもよい。図10は、第2実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100aの断面図であり、図3と同じ方向の断面に相当する。例えば、図10で例示するように、カバー層13が設けられず、積層方向の最外層は誘電体層11となっていてもよい。
【0052】
積層セラミックコンデンサ100aは、第1実施形態に係る製造方法において、カバーシートを設けずに、最上層の誘電体グリーンシート51には電極パターン52を設けなければよい。なお、この場合において、最上層および最下層の誘電体層11が全誘電体層11の平均厚みの95%~105%である。
【0053】
(第3実施形態)
第1実施形態では、絶縁ギャップ42,43がキャビティとなっていたが、絶縁物が埋め込まれていてもよい。例えば、セラミック、ガラス、樹脂などが埋め込まれていてもよい。第3実施形態に係る積層セラミックコンデンサは、第1実施形態に係る製造方法において、溝56に絶縁物を印刷などで配置することで製造することができる。
【0054】
なお、上記各実施形態においては、セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサについて説明したが、それに限られない。例えば、バリスタやサーミスタなどの、他の電子部品を用いてもよい。
【実施例
【0055】
続いて、実施形態に係る積層セラミックコンデンサを作製し、特性について調べた。
【0056】
(実施例1)
チタン酸バリウム粉末に対して添加物を添加し、ボールミルで十分に湿式混合粉砕して誘電体材料を得た。チタン酸バリウム粉末に対して添加物を添加し、ボールミルで十分に湿式混合粉砕してカバー材料を得た。
【0057】
誘電体材料に有機バインダとしてブチラール系、溶剤としてトルエン、エチルアルコールを加えてドクターブレード法にて誘電体グリーンシート51を作製した。得られた誘電体グリーンシート51に金属導電ペーストの電極パターン52を印刷した。次に、電極パターン52において、絶縁ギャップ42,43に相当する位置をレーザなどで除去した。次に、AパターンとBパターンとを交互に積層した。AパターンおよびBパターンを合計で200層積層した。
【0058】
次に、原料粉末作製工程で得られたカバー材料に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリーを使用して、基材上にカバーシートを塗工して乾燥させた。積層された誘電体グリーンシート51の上下にカバーシートを所定数だけ積層して熱圧着した。
【0059】
(実施例2)
実施例2においては、カバーシートを積層しなかった。最上層の誘電体グリーンシート51には電極パターン52を印刷しなかった。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0060】
(比較例)
比較例においては、サイドマージン16に相当する領域をセラミックだけで構成した。その他条件は、実施例1と同様とした。
【0061】
(分析)
実施例1,2および比較例のそれぞれについて、1000個のサンプルを作製した。各サンプルに対してリフローを行なった。実施例1,2および比較例のそれぞれについて、リフロー後のショート発生率およびリフロー後の高温耐湿試験不良率を測定した。ショートについては、絶縁抵抗の測定を行ない、絶縁抵抗値が1MΩ以下となっていたらショートが発生したと判定した。高温耐湿試験については、85℃-85%RHの環境下で4Vの電圧を印加して17時間放置した後、絶縁抵抗値が1MΩ以下となっていたら不良と判定した。結果を表1に示す。
【表1】
【0062】
表1に示すように、比較例では、リフロー後にショートが発生する率が高く、リフロー後に耐湿不良率が高くなった。これは、サイドマージンをセラミックのみで構成したことで、熱衝撃を吸収することができず、機能部が十分に保護されなかったからであると考えられる。一方、実施例1および実施例2では、リフロー後のショート発生率も耐湿不良率も低くなった。これは、サイドマージンに衝撃吸収層41を設けたことで、熱衝撃が吸収され、機能部が十分に保護されたからであると考えられる。なお、実施例2よりも実施例1の方が、リフロー後の耐湿不良率が低くなった。これは、カバー層13を設けたことで十分な耐湿性が得られたからであると考えられる。
【0063】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0064】
10 積層チップ
11 誘電体層
12a,12b 内部電極層
13 カバー層
14 容量部
15a,15b エンドマージン
16 サイドマージン
17a,17b ダミー電極層
18a,18b 絶縁ギャップ
20a,20b 外部電極
41 衝撃吸収層
42 絶縁ギャップ
43 絶縁ギャップ
51 誘電体グリーンシート
52 電極パターン
100 積層セラミックコンデンサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10