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特許7453924アンモニア分解触媒及びそれを用いたアンモニアの分解方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】アンモニア分解触媒及びそれを用いたアンモニアの分解方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/63 20060101AFI20240313BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
B01J23/63 M
C01B3/04 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021011400
(22)【出願日】2021-01-27
(65)【公開番号】P2022114919
(43)【公開日】2022-08-08
【審査請求日】2023-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 清
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 彰倫
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第112007641(CN,A)
【文献】特開2010-094626(JP,A)
【文献】特開2014-176792(JP,A)
【文献】特開2011-056488(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C01B 3/04
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリウム(Ce)とプラセオジム(Pr)との複合酸化物を含む担体と、ルテニウム(Ru)とを含有するアンモニア分解触媒であって、
前記複合酸化物の含有量が触媒全体に対して70質量%以上であり、
前記複合酸化物中のCeとPrとのモル比がCe:Pr=99:1~25:75であることを特徴とするアンモニア分解触媒。
【請求項2】
Ru含有量が前記複合酸化物100質量部に対して0.1~10質量部であることを特徴とする請求項1に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項3】
450~650℃の範囲内の温度下で、請求項1又は2に記載のアンモニア分解触媒にアンモニアを接触させて前記アンモニアを分解することを特徴とするアンモニアの分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア分解触媒及びそれを用いたアンモニアの分解方法に関し、より詳しくは、ルテニウムを含有するアンモニア分解触媒及びそれを用いたアンモニアの分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から、水素をクリーンエネルギー源として活用する技術が注目されており、例えば、水素を燃料とする燃料電池によって駆動する自動車の開発が活発に行われている。しかしながら、水素は気体の状態では非常に軽いため、貯蔵手段や輸送・供給手段が問題となっている。例えば、水素ガス自体を貯蔵する方法としては、水素を圧縮又は液化して貯蔵する方法や水素吸蔵合金を用いる方法等が検討されているが、貯蔵能力、コスト、安全性の面等が課題となっている。そこで、新たな水素の供給方法として、液体アンモニアを貯蔵・輸送し、このアンモニアを触媒反応を利用して分解し、生成した水素を供給する方法が検討されており、そのためのアンモニア分解触媒も各種提案されている。特に、固体高分子形燃料電池においては、アンモニアの分解反応で残存したアンモニアが電池を被毒するため、アンモニアをほぼ完全に分解する必要があり、非常に高い触媒活性を有するアンモニア分解触媒が求められている。
【0003】
また、熱効率の観点から、アンモニア分解反応装置として、アンモニアや水素の酸化反応による発熱部分とアンモニアの分解反応による吸熱部分とを一体化した熱交換型の反応装置を用いた場合、アンモニア分解触媒には、前記発熱部分での熱エネルギー消費を抑制するという観点から、反応温度が低い(例えば、500℃)条件下で非常に高いアンモニア分解活性を示すことが要求され、また、反応装置内の熱伝導による触媒の熱劣化を抑制するという観点から、優れた耐熱性(例えば、600℃以上)を示すことも要求される。さらに、コスト面による反応装置の小型化の観点から、アンモニア分解触媒には、アンモニアガスの空間速度が高い(例えば、30000h-1)条件下で非常に高いアンモニア分解活性を示すことが要求される。
【0004】
特開2009-254981号公報(特許文献1)には、ルテニウム等の8族から10族の元素と、酸化セリウムや酸化マグネシウム等の低酸強度酸化物とを含むアンモニア分解触媒が開示されている。しかしながら、このアンモニア分解触媒においては、ルテニウムの粒子径が大きく、また、ルテニウム等が十分に分散担持されていないため、活性サイトの数が少なく、反応温度が低い条件やアンモニアガスの空間速度が高い条件では、高いアンモニア分解活性が得られなかった。
【0005】
また、特開2016-159209号公報(特許文献2)には、塩基性炭酸マグネシウムを含む酸化マグネシウム担体と該担体に担持されたルテニウムとを含有するアンモニア分解触媒が開示されている。しかしながら、このアンモニア分解触媒においては、活性サイトであるルテニウムは高分散担持されているが、担体である酸化マグネシウムが低密度であるため、触媒質量当たりの触媒体積が大きくなり、アンモニアガスの空間速度が高い条件では、高いアンモニア分解活性が得られなかった。
【0006】
さらに、特開2018-1096号公報(特許文献3)には、ルテニウム等の周期表8族~10族に属する金属元素、並びに希土類元素の酸化物とジルコニアとの複合酸化物及びアルミナを含む耐熱性酸化物を含有するアンモニア分解用触媒が開示されている。しかしながら、このアンモニア分解用触媒においては、比較的酸強度の高いアルミナやジルコニア上に担持されたルテニウムでの活性サイト当たりの反応速度が希土類元素の酸化物上に担持されたルテニウムでの活性サイト当たりの反応速度に比べて遅くなるため、触媒全体として反応温度が低い条件やアンモニアガスの空間速度が速い条件では、高いアンモニア分解活性が得られなかった。
【0007】
また、K.Nagaokaら(非特許文献1)には、酸化プラセオジム(Pr11)にルテニウム(Ru)を担持したアンモニア分解触媒や、この触媒にアルカリ金属酸化物やアルカリ土類金属酸化物、希土類酸化物をドープしたアンモニア分解触媒が開示されている。しかしながら、このアンモニア分解触媒においては、ルテニウムが十分に分散担持されておらず、また、酸化プラセオジムの熱安定性が低く、高温に曝されると、ルテニウムが粒成長して粒子径が大きくなるため、活性サイトの数が少なく、反応温度が低い条件やアンモニアガスの空間速度が高い条件では、高いアンモニア分解活性が得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-254981号公報
【文献】特開2016-159209号公報
【文献】特開2018-1096号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】K.Nagaokaら、International Journal of Hydrogen Energy、2014年、第39巻、第35号、20731~20735頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、アンモニアガスの空間速度が高く(例えば、30000h-1)、反応温度が低い(例えば、500℃)条件下で、特に、高温(例えば、600℃以上)に曝された後においても前記条件下で、非常に高いアンモニア分解活性を示すアンモニア分解触媒を提供することを目的とする。また、前記条件下において、アンモニアを効率よく分解して水素を生成させることが可能なアンモニアの分解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のモル比のセリウム(Ce)とプラセオジム(Pr)との複合酸化物を含む担体と、ルテニウム(Ru)とを含有するアンモニア分解触媒を用いることによって、アンモニアガスの空間速度が高く(例えば、30000h-1)、反応温度が低い(例えば、500℃)条件下で、特に、高温(例えば、600℃以上)に曝された後においても前記条件下で、アンモニアを効率よく分解できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明のアンモニア分解触媒は、セリウム(Ce)とプラセオジム(Pr)
との複合酸化物を含む担体と、ルテニウム(Ru)とを含有するアンモニア分解触媒であ
って、前記複合酸化物の含有量が触媒全体に対して70質量%以上であり、前記複合酸化
物中のCeとPrとのモル比がCe:Pr=99:1~25:75であることを特徴とす
るものである。
【0013】
本発明のアンモニア分解触媒においては、Ru含有量が前記複合酸化物100質量部に対して0.1~10質量部であることが好ましい。
【0014】
また、本発明のアンモニアの分解方法は、450~650℃の範囲内の温度下で、請求項1又は2に記載のアンモニア分解触媒にアンモニアを接触させて前記アンモニアを分解することを特徴とする方法である。
【0015】
なお、本発明のアンモニア分解触媒が、アンモニアガスの空間速度が高く(例えば、30000h-1)、反応温度が低い(例えば、500℃)条件下で、特に、高温(例えば、600℃以上)に曝された後においても前記条件下で、非常に高いアンモニア分解活性を示す理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明のアンモニア分解触媒は、セリウム(Ce)とプラセオジム(Pr)との複合酸化物を含む担体と、ルテニウム(Ru)とを含有するものである。このようなアンモニア分解触媒においては、RuがCeとPrとの複合酸化物(特に、複合酸化物中の酸化プラセオジム)と強い相互作用を示すため、触媒製造時にRuの粒子径が小さくなり、アンモニアの分解反応に寄与する活性サイトが増加すると推察される。また、CeとPrとの複合酸化物が、酸化セリウムと同様に、比較的高い比表面積(10~100m/g)を有しているため、Ru(活性サイト)を高分散で含有(好ましくは、担持)させることができると推察される。さらに、CeとPrとの複合酸化物(特に、複合酸化物中の酸化プラセオジム)からRuへの電子的作用により、活性サイトの質が向上するため、活性サイト当たりの反応速度(ターンオーバー頻度)が向上すると推察される。このように、本発明のアンモニア分解触媒においては、多くの良質な活性サイトが高分散で存在しているため、反応温度が低い条件下でも非常に高いアンモニア分解活性が得られると推察される。また、CeとPrとの複合酸化物は、酸化セリウムや酸化プラセオジムと同様に、酸化マグネシウム等と比較して、材料そのものの密度が高く(6.6~7.3g/cm)、ペレット触媒等として使用する際に、触媒質量当たりの体積を小さくすることができるため、本発明のアンモニア分解触媒は、アンモニアガスの空間速度が高い条件でも非常に高いアンモニア分解活性を示すと推察される。
【0016】
さらに、本発明のアンモニア分解触媒においては、RuがCeとPrとの複合酸化物(特に、複合酸化物中の酸化プラセオジム)と強い相互作用を示すため、高温に曝された後においても、Ruの粒成長が起こりにくく、多くの良質な活性サイトが保持され、非常に高いアンモニア分解活性を示すと推察される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、アンモニアガスの空間速度が高く(例えば、30000h-1)、反応温度が低い(例えば、500℃)条件下で、特に、高温(例えば、600℃以上)に曝された後においても前記条件下で、非常に高いアンモニア分解活性を示すアンモニア分解触媒を得ることができ、前記条件下で、特に、高温に曝された後においても前記条件下で、アンモニアを効率よく分解して水素を生成させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1及び比較例1で得られたアンモニア分解触媒のRu粒子径を示すグラフである。
図2】実施例2及び比較例2~4で得られたアンモニア分解触媒のRu粒子径を示すグラフである。
図3】実施例1及び比較例1で得られたアンモニア分解触媒によるアンモニアの転化率を示すグラフである。
図4】実施例2及び比較例2~4で得られたアンモニア分解触媒によるアンモニアの転化率を示すグラフである。
図5】実施例2~6及び比較例2~3で得られたアンモニア分解触媒におけるプラセオジム含有率とアンモニア転化率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0020】
<アンモニア分解触媒>
先ず、本発明のアンモニア分解触媒について説明する。本発明のアンモニア分解触媒は、セリウム(Ce)とプラセオジム(Pr)との複合酸化物を含む担体と、ルテニウム(Ru)とを含有するアンモニア分解触媒であって、前記複合酸化物の含有量が触媒全体に対して70質量%以上であり、前記複合酸化物中のCeとPrとのモル比がCe:Pr=99:1~10:90である。このような本発明のアンモニア分解触媒は、アンモニアガスの空間速度が高く、反応温度が低い条件下で、特に、高温に曝された後においても前記条件下で、非常に高いアンモニア分解活性を示す。
【0021】
本発明のアンモニア分解触媒は、CeとPrとの複合酸化物を含む担体を含有するものである。前記担体は、CeとPrとの複合酸化物を含むものであれば特に制限はなく、酸化セリウム及び酸化プラセオジム以外の他の金属酸化物が更に含まれていてもよい。このような他の金属酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタニウム、酸化ケイ素が挙げられる。また、このような他の金属酸化物は、酸化セリウム及び酸化プラセオジムと複合酸化物を形成していてもよい(すなわち、前記担体がCeとPrと他の金属との複合酸化物であってもよい)し、CeとPrとの複合酸化物とは独立して前記担体に含まれていてもよい(すなわち、前記担体がCeとPrとの複合酸化物と他の金属酸化物との混合物であってもよい)。
【0022】
本発明のアンモニア分解触媒において、前記複合酸化物の含有量は触媒全体に対して70質量%以上である。前記複合酸化物の含有量が前記範囲内にあるアンモニア分解触媒は、アンモニアガスの空間速度が高く、反応温度が低い条件下で、特に、高温に曝された後においても前記条件下で、非常に高いアンモニア分解活性を示す。一方、前記複合酸化物の含有量が前記下限未満になると、Ruと前記複合酸化物(特に、複合酸化物中の酸化プラセオジム)との相互作用が弱くなるため、触媒製造時にRuの粒子径が大きくなったり、高温に曝された場合にRuが粒成長して、活性サイトが減少し、また、担体の比表面積が小さくなるため、活性サイトの分散度が低下し、さらに、前記複合酸化物(特に、複合酸化物中の酸化プラセオジム)からRuへの電子的作用が弱くなり、活性サイトの質が低下するため、活性サイト当たりの反応速度(ターンオーバー頻度)が低下し、また、Ru及び前記複合酸化物以外の他の金属酸化物の割合が多くなるため、触媒全体の体積が大きくなることから、アンモニアガスの空間速度が高く、反応温度が低い条件下での、特に、高温に曝された後における前記条件下でのアンモニア分解活性が低下する。また、アンモニアガスの空間速度が高く、反応温度が低い条件下での、特に、高温に曝された後における前記条件下でのアンモニア分解活性が向上するという観点から、前記複合酸化物の含有量としては、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が特に好ましく、100質量%が最も好ましい。
【0023】
また、本発明のアンモニア分解触媒において、前記複合酸化物中のCeとPrとのモル比はCe:Pr=99:1~10:90である。CeとPrとのモル比が前記範囲内にあるアンモニア分解触媒は、反応温度が低い条件下で(特に、高温に曝された後においても)非常に高いアンモニア分解活性を示す。一方、CeとPrとのモル比が前記下限未満(すなわち、Prの割合が前記下限未満)になると、Ruと前記複合酸化物(特に、複合酸化物中の酸化プラセオジム)との相互作用が弱くなるため、触媒製造時にRuの粒子径が大きくなったり、高温に曝された場合にRuが粒成長して、活性サイトが減少し、また、前記複合酸化物(特に、複合酸化物中の酸化プラセオジム)からRuへの電子的作用が弱くなり、活性サイトの質が低下するため、活性サイト当たりの反応速度(ターンオーバー頻度)が低下する。他方、CeとPrとのモル比が前記上限を超える(すなわち、Prの割合が前記上限を超える)と、相対的にCeの割合が少なくなるため、高温に曝された場合に前記複合酸化物が高い比表面積を保持できず、その結果、前記複合酸化物上に担持されているRuが粒成長して、活性サイトが減少する。さらに、Ruへの電子的作用が強すぎて酸化物状態のRuの割合が多くなり、アンモニア分解活性が低下する。また、反応温度が低い条件下での(特に、高温に曝された後においても)アンモニア分解活性が向上するという観点から、CeとPrとのモル比としては、99:1~25:75が好ましく、98:2~33:67が特に好ましい。
【0024】
本発明のアンモニア分解触媒は、このような担体と、ルテニウム(Ru)とを含有するものであり、Ruは前記担体に担持されていることが好ましい。このRuがアンモニア分解反応における活性サイトとなり、アンモニアが分解され、水素が生成する。
【0025】
本発明のアンモニア分解触媒において、Ruの含有量(好ましくは、担持量)としては、前記複合酸化物100質量部に対して、0.1~10質量部が好ましく、0.5~5質量部がより好ましい。Ruの含有量が前記下限未満になると、十分なアンモニア分解活性が得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、Ruのシンタリングが起こりやすく、Ru(活性サイト)の分散度が低下し、アンモニア分解活性が向上せず、コスト的に不利になる傾向にある。
【0026】
このようなRuの粒子径としては特に制限はないが、0.5~50nmが好ましく、1~20nmがより好ましい。Ruの粒子径が前記下限未満になると、Ruを高活性なメタル状態で利用することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、活性サイトの数が減少し、アンモニア分解活性が低下する傾向にある。
【0027】
また、Ruの分散度としては特に制限はないが、2~90%が好ましく、5~90%がより好ましい。Ruの分散度が前記下限未満になると、活性サイトの数が減少し、アンモニア分解活性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、Ruを高活性なメタル状態で保持することが困難となる傾向にある。
【0028】
本発明のアンモニア分解触媒の形態としては特に制限はなく、ハニカム形状のモノリス触媒、ペレット形状のペレット触媒が挙げられる。また、粉末状の触媒をそのまま使用してもよい。本発明のアンモニア分解触媒をペレット触媒の形態で使用する場合、その平均粒子径としては特に制限はないが、0.1~50mmが好ましく、0.2~20mmがより好ましい。また、粉末状のアンモニア分解触媒をそのまま使用する場合、その平均粒子径としては特に制限はないが、0.01~100μmが好ましく、0.05~50μmがより好ましい。
【0029】
このような本発明のアンモニア分解触媒の製造方法としては特に制限はなく、例えば、Ceの塩とPrの塩とを所定の割合で含有する溶液中において、CeとPrとを所定の割合で含有する沈殿物を生成させ、これを焼成してCeとPrとの複合酸化物を含む担体を形成し、この担体にRuの塩を含有する溶液を含浸させた後、乾燥して、前記担体にRuを担持させる方法(含浸法)や、Ceの塩とPrの塩とRuの塩とを所定の割合で含有する溶液中において、CeとPrとRuとを所定の割合で含有する沈殿物を生成させ、これを焼成して、CeとPrとの複合酸化物を含む担体とRuとを含有する(好ましくは、前記担体にRuを担持した)触媒を得る方法(共沈法)が挙げられる。
【0030】
前記Ceの塩としては、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、酢酸塩、錯体等が挙げられる。前記Prの塩としては、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、酢酸塩、錯体等が挙げられる。前記Ruの塩としては、塩化物、酢酸塩、硝酸塩、アンモニウム塩、クエン酸塩、ジニトロジアンミン塩、ニトロシル硝酸塩、錯体等が挙げられる。
【0031】
前記含浸法において、Ceの塩とPrの塩とを含有する溶液中でCeとPrとを含有する沈殿物を生成させる場合、前記Ceの塩とPrの塩とを含有する溶液に尿素を含有させることが好ましい。これにより、大きさや形状、組成がより均一な沈殿物が生成する。
【0032】
また、前記共沈法において、Ceの塩とPrの塩とRuの塩とを含有する溶液中でCeとPrとRuとを含有する沈殿物を生成させる場合、前記Ceの塩とPrの塩とRuの塩とを含有する溶液にアルカリ金属やアンモニウムの炭酸塩を添加することが好ましい。このアルカリ金属やアンモニウムの炭酸塩は沈殿剤として作用し、CeとPrとの複合酸化物とルテニウム水酸化物とが高度に分散した状態で緩く結びついた沈殿物が得られる。
【0033】
また、本発明のアンモニア分解触媒は、アンモニアの分解反応に使用する前に、還元処理を施すことが好ましい。これにより、アンモニアガスから水素と窒素をより効率よく生成させることができる。これは、還元処理により、ルテニウムが酸化物の状態から高活性なメタル状態に還元され、アンモニア分解活性が向上するためと考えられる。
【0034】
前記還元処理は、水素ガス、アンモニアガス、ヒドラジンガス、一酸化炭素等の還元性ガスを用いて行ってもよいし、アンモニアの分解反応に使用するアンモニアガスを用いて行ってもよい。また、前記還元性ガスは窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスと混合して使用してもよい。還元処理温度としては、500~600℃が好ましく、還元処理時間としては、0.1~10時間が好ましい。
【0035】
<アンモニアの分解方法>
本発明のアンモニアの分解方法は、450~650℃の範囲内の温度下で、前記本発明のアンモニア分解触媒にアンモニアを接触させて前記アンモニアを分解し、水素と窒素を生成させる方法である。したがって、本発明のアンモニアの分解方法は、有害物としてのアンモニアを分解する方法としてだけでなく、クリーンエネルギー源としての水素を製造する方法としても有用である。
【0036】
本発明のアンモニアの分解方法において、分解反応温度は450~650℃であり、450~550℃であることが好ましい。本発明のアンモニア分解触媒は、このような分解反応温度が低い条件でも高いアンモニア分解活性を示すことから、本発明のアンモニアの分解方法においては、このような分解反応温度が低い条件においても効率よくアンモニアを分解して水素を生成させることが可能となる。
【0037】
また、本発明のアンモニアの分解方法において、アンモニアガスの空間速度としては、5000~60000h-1が好ましく、15000~45000h-1がより好ましい。本発明のアンモニア分解触媒は、このようなアンモニアガスの空間速度が高い条件でも高いアンモニア分解活性を示すことから、本発明のアンモニアの分解方法においては、このようなアンモニアガスの空間速度が高い条件においても効率よくアンモニアを分解して水素を生成させることが可能となる。
【実施例
【0038】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
先ず、硝酸二アンモニウムセリウム(IV)9.14gと硝酸プラセオジム(III)六水和物3.63gと尿素24gとを200gのイオン交換水に溶解した。得られた水溶液を100℃に保温しながら8時間攪拌した。これにより、尿素が分解してアンモニアが生成し、さらに、沈殿物が生成した。この沈殿物をろ過により回収した後、沸騰水(100℃)で洗浄した。洗浄後の固体成分を110℃で17時間乾燥させた後、大気中、650℃で8時間焼成して複合酸化物を得た。この複合酸化物中のCeとPrのモル比はCe:Pr=67:33である。
【0040】
次に、ドデカカルボニルトリルテニウム(0)0.128gをテトラヒドロフラン75gに溶解した。得られた溶液に前記複合酸化物4gを、攪拌しながら添加して浸漬させて、前記溶液を前記複合酸化物に含浸させた後、室温で蒸発乾固させた。得られた乾固物を80℃で16時間乾燥させて粉末状の固体成分を得た。この固体成分を250kgf/cmの水圧で圧粉成型した後、ペレット径が0.35~0.71mmの範囲内となるように破砕、整粒してペレット触媒を得た。このペレット触媒におけるRu含有量は前記複合酸化物100質量部に対して1.5質量部である。また、得られたペレット触媒をメスシリンダーに入れ、質量と体積を測定してペレット触媒の密度を算出したところ、1.87g/cmであった。
【0041】
(実施例2)
CeとPrとの複合酸化物を含む担体とRuとを含有する触媒において、Ru含有量が前記複合酸化物100質量部に対して3質量部、CeとPrとのモル比がCe:Pr=67:33となるように、塩化ルテニウム0.609gと、所定量の硝酸セリウム(III)六水和物及び硝酸プラセオジム(III)六水和物とを200mlのイオン交換水に溶解した。得られた水溶液に、炭酸カリウム12.6gを200mlのイオン交換水に溶解して調製した水溶液を、激しく攪拌しながら徐々に添加した。これにより、沈殿物が生成した。なお、このときの炭酸カリウムの量は、カリウムのモル数が、ルテニウムのモル数の3倍、セリウムのモル数の4倍、及びプラセオジムのモル数の3倍の総量となるように決定した。生成した沈殿物を常温で24時間静置して熟成させた後、ろ過により回収し、さらに洗浄した。洗浄後の固体成分を110℃で17時間乾燥させた後、大気中、500℃で2時間焼成して粉末状の固体成分を得た。この固体成分を250kgf/cmの水圧で圧粉成型した後、ペレット径が0.35~0.71mmの範囲内となるように破砕、整粒してペレット触媒を得た。このペレット触媒の密度を実施例1と同様にして測定したところ、0.95g/cmであった。
【0042】
(実施例3)
CeとPrとの複合酸化物を含む担体とRuとを含有する触媒において、Ru含有量が前記複合酸化物100質量部に対して3質量部、CeとPrとのモル比がCe:Pr=99:1となるように、硝酸セリウム(III)六水和物及び硝酸プラセオジム(III)六水和物の量を変更した以外は実施例2と同様にして、ペレット触媒を得た。このペレット触媒の密度を実施例1と同様にして測定したところ、0.96g/cmであった。
【0043】
(実施例4)
CeとPrとの複合酸化物を含む担体とRuとを含有する触媒において、Ru含有量が前記複合酸化物100質量部に対して3質量部、CeとPrとのモル比がCe:Pr=98:2となるように、硝酸セリウム(III)六水和物及び硝酸プラセオジム(III)六水和物の量を変更した以外は実施例2と同様にして、ペレット触媒を得た。このペレット触媒の密度を実施例1と同様にして測定したところ、0.96g/cmであった。
【0044】
(実施例5)
CeとPrとの複合酸化物を含む担体とRuとを含有する触媒において、Ru含有量が前記複合酸化物100質量部に対して3質量部、CeとPrとのモル比がCe:Pr=50:50となるように、硝酸セリウム(III)六水和物及び硝酸プラセオジム(III)六水和物の量を変更した以外は実施例2と同様にして、ペレット触媒を得た。このペレット触媒の密度を実施例1と同様にして測定したところ、1.02g/cmであった。
【0045】
(実施例6)
CeとPrとの複合酸化物を含む担体とRuとを含有する触媒において、Ru含有量が前記複合酸化物100質量部に対して3質量部、CeとPrとのモル比がCe:Pr=33:67となるように、硝酸セリウム(III)六水和物及び硝酸プラセオジム(III)六水和物の量を変更した以外は実施例2と同様にして、ペレット触媒を得た。このペレット触媒の密度を実施例1と同様にして測定したところ、1.05g/cmであった。
【0046】
(比較例1)
硝酸プラセオジム(III)六水和物を用いず、硝酸二アンモニウムセリウム(IV)の量を13.71gに変更した以外は実施例1と同様にして、酸化セリウム担体とルテニウム(Ru)とを含有するペレット触媒を得た。このペレット触媒におけるRu含有量は前記酸化セリウム100質量部に対して1.5質量部である。また、得られたペレット触媒の密度を実施例1と同様にして測定したところ、1.87g/cmであった。
【0047】
(比較例2)
硝酸プラセオジム(III)六水和物を用いず、硝酸セリウム(III)六水和物を20.61g用いた以外は実施例2と同様にして、酸化セリウム担体とルテニウム(Ru)とを含有するペレット触媒を得た。このペレット触媒におけるRu含有量は前記酸化セリウム100質量部に対して3.0質量部である。また、得られたペレット触媒の密度を実施例1と同様にして測定したところ、0.99g/cmであった。
【0048】
(比較例3)
硝酸セリウム(III)六水和物を用いず、硝酸プラセオジム(III)六水和物を20.88g用いた以外は実施例2と同様にして、酸化プラセオジム担体とルテニウム(Ru)とを含有するペレット触媒を得た。このペレット触媒におけるRu含有量は前記酸化プラセオジム100質量部に対して3.0質量部である。また、得られたペレット触媒の密度を実施例1と同様にして測定したところ、1.05g/cmであった。
【0049】
(比較例4)
硝酸セリウム(III)六水和物と硝酸プラセオジム(III)六水和物との代わりに硝酸マグネシウム(III)六水和物を51.97g用い、炭酸カリウムの量を34.25gに変更した以外は実施例2と同様にして、酸化マグネシウム担体とルテニウム(Ru)とを含有するペレット触媒を得た。このペレット触媒におけるRu含有量は前記酸化マグネシウム100質量部に対して3.0質量部である。また、得られたペレット触媒の密度を実施例1と同様にして測定したところ、0.48g/cmであった。
【0050】
<Ru分散度及びRu粒子径>
得られたペレット触媒のRu分散度及びRu粒子径をCOパルス吸着法により測定した。具体的には、U字型石英ガラス製反応管に0.1~0.3gのペレット触媒を入れ、これに20ml/minの水素ガスを供給しながら550℃で15分間の還元処理を施した後、20ml/minのヘリウムガスを供給しながら550℃で20分間のパージ処理を施した。次に、ヘリウムガスを流量20ml/minで導入しながら、触媒床を-78℃まで冷却して安定させた後、-78℃の温度下でCOガス(100%)を反応管に0.2974ml/パルスの条件でパルス状に導入してペレット触媒にCOを吸着させた。このときのCOの導入量と排出量とからCOの吸着量を求め、得られたCO吸着量からペレット触媒におけるRu粒子の表面積を求め、得られたRu粒子の表面積とRuの質量からRu分散度(%)及びRu粒子径(nm)を算出した。その結果を表1及び図1図2に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1及び図1に示したように、含浸法によりRuを担持したペレット触媒(実施例1、比較例1)においては、担体として、CeとPrとの複合酸化物(実施例1)を用いることによって、酸化セリウム(比較例1)を用いた場合に比べて、Ru粒子径を小さくできることがわかった。また、表1及び図2に示したように、共沈法によりRuを含有させたペレット触媒(実施例2、比較例2~4)においても、担体として、CeとPrとの複合酸化物(実施例2)を用いることによって、酸化セリウム(比較例2)、酸化プラセオジム(比較例3)又は酸化マグネシウム(比較例4)を用いた場合に比べて、Ru粒子径を小さくできることがわかった。さらに、CeとPrとの複合酸化物にRuを、共沈法により含有させた場合(実施例2)には、含浸法により担持した場合(実施例1)に比べて、Ru粒子径を小さくできることがわかった。
【0053】
<アンモニア分解反応>
触媒床の体積が0.2cmとなるように、実施例1及び比較例1で得られたペレット触媒は0.4gを、実施例2~7及び比較例2~3で得られたペレット触媒は0.2gを、比較例4で得られたペレット触媒は0.1gを反応管に充填し、これを常圧固定床流通型反応装置に装着し、触媒床の中心付近に触媒床温度を測定するための熱電対を配置した。触媒床に、20%水素/80%窒素混合ガスを流量40ml/minで供給しながら、550℃で1時間の還元処理を施した後、さらに、650℃で2時間の加熱処理を施した。次に、この触媒床に、100%アンモニアガスを流量100ml/min(空間速度30000h-1に相当)で流通させて500℃でアンモニアの分解反応を行い、触媒出ガス中のアンモニア濃度をフーリエ変換赤外吸収型アンモニアガス分析計を用いて測定して、アンモニアの転化率を求めた。その結果を表2及び図3図4に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
表2及び図3に示したように、含浸法によりRuを担持したペレット触媒(実施例1、比較例1)においては、担体として、CeとPrとの複合酸化物(実施例1)を用いることによって、酸化セリウム(比較例1)を用いた場合に比べて、アンモニアの転化率が高くなり、アンモニア分解活性が向上することが確認された。また、表2及び図4に示したように、共沈法によりRuを含有させたペレット触媒(実施例2、比較例2~4)においても、担体として、CeとPrとの複合酸化物(実施例2)を用いることによって、酸化セリウム(比較例2)、酸化プラセオジム(比較例3)又は酸化マグネシウム(比較例4)を用いた場合に比べて、アンモニアの転化率が高くなり、アンモニア分解活性が向上することが確認された。さらに、CeとPrとの複合酸化物にRuを、共沈法により含有させた場合(実施例2)には、含浸法により担持した場合(実施例1)に比べて、アンモニアの転化率が高くなり、アンモニア分解活性が向上することが確認された。これらは、担体として、CeとPrとの複合酸化物を用いることによって、Ru粒子径を小さくなり、その結果、得られたペレット触媒において活性サイト数が増大し、触媒活性が向上したためと考えられる。
【0056】
また、表1~表2及び図1図4に示したように、実施例1で得られたペレット触媒は、比較例2で得られたペレット触媒に比べて、Ru粒子径が若干大きかったが、アンモニアの転化率は高くなり、アンモニア分解活性に優れたものであった。これは、PrからRuへの電子的作用により活性サイトの質が向上して、活性サイト当たりの反応速度(ターンオーバー頻度)が向上するといったRu粒子径以外の要因によるものと考えられる。
【0057】
なお、比較例4で得られたペレット触媒については、実施例2で得られたペレット触媒に比べて、反応管への充填質量が半分であり、触媒床中のRu量も半分であったため、アンモニアの転化率が低くなった可能性が考えられる。そこで、酸化マグネシウム100質量部に対するRu含有量を6.0質量部(比較例4で得られたペレット触媒のRu含有量の2倍)に変更した以外は比較例4と同様に酸化マグネシウム担体とルテニウム(Ru)とを含有するペレット触媒を調製し、このペレット触媒0.1gを反応管に充填して上記と同様にアンモニアの分解反応を行ったが、アンモニアの転化率は向上しなかった。
【0058】
また、表2に示した結果に基づいて、共沈法によりRuを含有させたペレット触媒(実施例2~6、比較例2~3)のアンモニアの転化率をPr含有率に対してプロットした。その結果を図5に示す。図5に示したように、担体として、Pr含有率が1~90mol%の範囲内にあるCeとPrとの複合酸化物(実施例2~6)を用いることによって、酸化セリウム(比較例2)又は酸化プラセオジム(比較例3)を用いた場合に比べて、アンモニアの転化率が高くなり、アンモニア分解活性が向上することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上説明したように、本発明によれば、アンモニアガスの空間速度が高く、反応温度が低い条件下で、特に、高温に曝された後においても前記条件下で、非常に高いアンモニア分解活性を示すアンモニア分解触媒を得ることができる。したがって、本発明のアンモニアの分解方法は、このような非常に高いアンモニア分解活性を示すアンモニア分解触媒を用いているため、アンモニアガスの空間速度が高く、反応温度が低い条件下で、特に、高温に曝された後においても前記条件下で、アンモニアを効率よく分解して水素を生成させることが可能な方法として有用である。
図1
図2
図3
図4
図5