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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】自動走行システム
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/229 20240101AFI20240313BHJP
   A01B 69/00 20060101ALI20240313BHJP
   G05D 1/648 20240101ALI20240313BHJP
   G05D 105/15 20240101ALN20240313BHJP
   G05D 107/20 20240101ALN20240313BHJP
【FI】
G05D1/229
A01B69/00 303M
A01B69/00 303A
G05D1/648
G05D105:15
G05D107:20
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021203822
(22)【出願日】2021-12-16
(62)【分割の表示】P 2018156205の分割
【原出願日】2018-08-23
(65)【公開番号】P2022033175
(43)【公開日】2022-02-28
【審査請求日】2021-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167302
【弁理士】
【氏名又は名称】種村 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100135817
【弁理士】
【氏名又は名称】華山 浩伸
(74)【代理人】
【識別番号】100167830
【弁理士】
【氏名又は名称】仲石 晴樹
(72)【発明者】
【氏名】西井 康人
【審査官】稲垣 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-211734(JP,A)
【文献】特許第6143716(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/00 - 1/87
A01B 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業領域に対して生成され、間隔をあけて並ぶように配置された複数の直線走行経路を少なくとも含む目標走行経路に沿って、作業車両の測位情報に基づいて前記作業車両を自動走行させる自動走行制御を行う自動走行制御部と、
その自動走行制御部にて自動走行制御を実行している状態において、目標走行経路を前記直線走行経路に直交する方向にシフトさせる経路シフト部と、を備え、
前記経路シフト部は、前記自動走行制御の実行中であっても、操作不可タイミングにおいては、前記目標走行経路をシフトさせる処理を行わないように構成されており、
前記操作不可タイミングは、前記直線走行経路の終端より所定距離だけ手前から前記直線走行経路の終端までの間を前記作業車両が自動走行中のタイミングを含む、
自動走行システム。
【請求項2】
前記操作不可タイミングは、前記目標走行経路を自動走行中の前記作業車両の位置によって設定されている、
請求項1に記載の自動走行システム。
【請求項3】
前記目標走行経路は、2つの前記直線走行経路同士を連結する連結経路を含み、
前記操作不可タイミングは、前記目標走行経路のうち前記連結経路を前記作業車両が自動走行中のタイミングを含む、
請求項2に記載の自動走行システム。
【請求項4】
記経路シフト部は、前記操作不可タイミング以外では、経路オフセットボタンが操作されることによって前記目標走行経路をシフトさせる処理を行い、前記操作不可タイミングにおいては、前記経路オフセットボタンが操作されても前記目標走行経路をシフトさせる処理を行わない、
請求項1~3のいずれか1項に記載の自動走行システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両を目標走行経路に沿って自動走行させる自動走行システムに関する。
【背景技術】
【0002】
上記の自動走行システムは、衛星測位システム等を用いて取得される作業車両の測位情報に基づいて、予め生成した目標走行経路に沿って作業車両を自動走行させるようにしている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1に記載のシステムでは、実際にユーザが運転して作業車両を走行させることで、作業領域に任意の2点を設定し、その2点を結ぶ直線を基準走行経路として生成している。基準走行経路に対して間隔を隔てて平行に並ぶ状態で複数の走行経路を生成している。基準走行経路及び複数の走行経路のいずれもが直線状の直線走行経路となっており、目標走行経路として、複数の直線走行経路が間隔を隔てて平行に並ぶように生成されている。
【0004】
作業車両にて作業領域での作業を行う場合には、ある直線走行経路に沿って作業車両を自動走行させ、作業車両が直線走行経路の終端に到達すると、自動走行から手動走行に切り替えて、隣接する次の直線走行経路の始端まで、手動走行にて作業車両を旋回させる。作業車両が次の直線走行経路の始端に到達すると、手動走行から自動走行に切り替えて、次の直線走行経路に沿って作業車両を自動走行させている。
【0005】
手動走行にて作業車両を旋回させて次の直線走行経路に進入する際に、生成された次の直線走行経路の始端からずれてしまう、又は、生成された次の直線走行経路の始端とは異なる位置に進入したい場合がある。そこで、特許文献1に記載のシステムでは、次の直線走行経路に進入した状態において、生成された次の直線走行経路の始端が作業車両の現在位置に合致するように、生成された次の直線走行経路をその直線走行方向に対して直交する方向にシフトさせている。これにより、シフト後の直線走行経路に沿って作業車両を自動走行させることができる。ちなみに、次の直線走行経路をシフトさせた場合には、それ以外の残りの直線走行経路についても、直線走行方向に対して直交する方向に同じ量だけシフトさせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6143716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載のシステムにおいて、直線走行経路をシフトした場合に、予め生成した直線走行経路を更新してシフト後の直線走行経路を記憶させておく、或いは、シフトしたシフト量を記憶させておく等により、直線走行経路についてシフト後の状態のみを記憶しておくことが考えられる。
【0008】
しかしながら、例えば、次年度に同じ作業領域において作業車両にて作業を行う場合に、予め生成した直線走行経路が記憶されておらず、予め生成した直線走行経路を用いた作業車両の自動走行を行うことができなくなる。よって、再度、予め生成した直線走行経路を生成し直さなければならず、作業手間が増加することになる。
【0009】
例えば、直線走行経路のシフトは、常時、行うものではなく、作業状況の変化等に対応するために一時的に行うものである。よって、一時的に行うシフト後の直線走行経路を更新して記憶していると、通常の作業状況にて作業を行う際に、適切な直線走行経路を取得できず、適切な作業を行い難いものとなる。
【0010】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、予め生成した直線走行経路をシフトさせた状態で作業車両を自動走行させることができながら、予め生成した直線走行経路を用いた作業車両の自動走行が行えなくなるのを防止することができる自動走行システムを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様に係る自動走行システムは、目標走行経路に沿って、作業車両の測位情報に基づいて前記作業車両を自動走行させる自動走行制御を行う自動走行制御部と、その自動走行制御部にて自動走行制御を実行している状態において、目標走行経路を直線走行方向に直交する方向にシフトさせる経路シフト部と、を備える。前記目標走行経路は、作業領域に対して生成され、間隔をあけて並ぶように配置された複数の前記直線走行経路を少なくとも含む。前記経路シフト部は、前記自動走行制御の実行中であっても、操作不可タイミングにおいては、前記目標走行経路をシフトさせる処理を行わない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】自動走行システムの概略構成を示す図
図2】自動走行システムの概略構成を示すブロック図
図3】目標走行経路を生成した状態における作業領域を示す図
図4】携帯通信端末の表示部に表示される作業画面を示す図
図5】経路シフト処理を行った後に、携帯通信端末の表示部に表示される作業画面の一部を拡大した図
図6】経路シフト処理を行うときの動作を示すフローチャート
図7】携帯通信端末の表示部に表示される経路オフセットボタンを含む画面を示す図
図8】経路オフセット処理を行った後に、携帯通信端末の表示部に表示される作業画面の一部を拡大した図
図9】経路オフセット処理を行うときの動作を示すフローチャート
図10】シフト後経路情報を保存するか否かを確認するための確認画面を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る自動走行システムの実施形態を図面に基づいて説明する。
この自動走行システムは、図1に示すように、作業車両としてトラクタ1を適用しているが、トラクタ以外の、乗用田植機、コンバイン、乗用草刈機、ホイールローダ、除雪車等の乗用作業車両、及び、無人草刈機等の無人作業車両を適用することができる。
【0014】
この自動走行システムは、図1及び図2に示すように、トラクタ1に搭載された自動走行ユニット2、及び、自動走行ユニット2と通信可能に通信設定された携帯通信端末3を備えている。携帯通信端末3には、タッチ操作可能な表示部51(例えば、液晶パネル)等を有するタブレット型のパーソナルコンピュータやスマートフォン等を採用することができる。
【0015】
トラクタ1は、駆動可能な操舵輪として機能する左右の前輪5、及び、駆動可能な左右の後輪6を有する走行機体7が備えられている。走行機体7の前方側には、ボンネット8が配置され、ボンネット8内には、コモンレールシステムを備えた電子制御式のディーゼルエンジン(以下、エンジンと称する)9が備えられている。走行機体7のボンネット8よりも後方側には、搭乗式の運転部を形成するキャビン10が備えられている。
【0016】
走行機体7の後部には、3点リンク機構11を介して、作業装置12の一例であるロータリ耕耘装置を昇降可能かつローリング可能に連結することで、トラクタ1をロータリ耕耘仕様に構成することができる。トラクタ1の後部には、ロータリ耕耘装置に代えて、プラウ、播種装置、散布装置等の作業装置12を連結することができる。
【0017】
トラクタ1には、図2に示すように、エンジン9からの動力を変速する電子制御式の変速装置13、左右の前輪5を操舵する全油圧式のパワーステアリング機構14、左右の後輪6を制動する左右のサイドブレーキ(図示せず)、左右のサイドブレーキの油圧操作を可能にする電子制御式のブレーキ操作機構15、ロータリ耕耘装置等の作業装置12への伝動を断続する作業クラッチ(図示せず)、作業クラッチの油圧操作を可能にする電子制御式のクラッチ操作機構16、ロータリ耕耘装置等の作業装置12を昇降駆動する電子油圧制御式の昇降駆動機構17、トラクタ1の自動走行等に関する各種の制御プログラム等を有する車載電子制御ユニット18、トラクタ1の車速を検出する車速センサ19、前輪5の操舵角を検出する舵角センサ20、及び、トラクタ1の現在位置及び現在方位を測定する測位ユニット21等が備えられている。
【0018】
なお、エンジン9には、電子ガバナを備えた電子制御式のガソリンエンジンを採用してもよい。変速装置13には、油圧機械式無段変速装置(HMT)、静油圧式無段変速装置(HST)、又は、ベルト式無段変速装置等を採用することができる。パワーステアリング機構14には、電動モータを備えた電動式のパワーステアリング機構14等を採用してもよい。
【0019】
キャビン10の内部には、図1に示すように、パワーステアリング機構14(図2参照)を介した左右の前輪5の手動操舵を可能にするステアリングホイール38、搭乗者用の運転席39、タッチパネル式の表示部、及び、各種の操作具等が備えられている。
【0020】
図2に示すように、車載電子制御ユニット18は、変速装置13の作動を制御する変速制御部181、左右のサイドブレーキの作動を制御する制動制御部182、ロータリ耕耘装置等の作業装置12の作動を制御する作業装置制御部183、自動走行時に左右の前輪5の目標操舵角を設定してパワーステアリング機構14に出力する操舵角設定部184、及び、予め生成された自動走行用の目標走行経路P(例えば、図3参照)等を記憶する不揮発性の車載記憶部185等を有している。
【0021】
図2に示すように、測位ユニット21には、衛星測位システム(NSS:Navigation Satellite System)の一例であるGPS(Global Positioning System)を利用してトラクタ1の現在位置と現在方位とを測定する衛星航法装置22、及び、3軸のジャイロスコープ及び3方向の加速度センサ等を有してトラクタ1の姿勢や方位等を測定する慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)23等が備えられている。GPSを利用した測位方法には、DGPS(Differential GPS:相対測位方式)やRTK-GPS(Real Time Kinematic GPS:干渉測位方式)等がある。本実施形態においては、移動体の測位に適したRTK-GPSが採用されている。そのため、圃場周辺の既知位置には、図1及び図2に示すように、RTK-GPSによる測位を可能にする基準局4が設置されている。
【0022】
トラクタ1と基準局4との夫々には、図2に示すように、測位衛星71(図1参照)から送信された電波を受信する測位アンテナ24,61、及び、トラクタ1と基準局4との間における測位情報を含む各種情報の無線通信を可能にする通信モジュール25,62等が備えられている。これにより、衛星航法装置22は、トラクタ側の測位アンテナ24が測位衛星71からの電波を受信して得た測位情報と、基地局側の測位アンテナ61が測位衛星71からの電波を受信して得た測位情報とに基づいて、トラクタ1の現在位置及び現在方位を高い精度で測定することができる。また、測位ユニット21は、衛星航法装置22と慣性計測装置23とを備えることにより、トラクタ1の現在位置、現在方位、姿勢角(ヨー角、ロール角、ピッチ角)を高精度に測定することができる。
【0023】
トラクタ1に備えられる測位アンテナ24、通信モジュール25、及び、慣性計測装置23は、図1に示すように、アンテナユニット80に収納されている。アンテナユニット80は、キャビン10の前面側の上部位置に配置されている。
【0024】
図2に示すように、携帯通信端末3には、表示部51等の作動を制御する各種の制御プログラム等を有する端末電子制御ユニット52、及び、トラクタ側の通信モジュール25との間における測位情報を含む各種情報の無線通信を可能にする通信モジュール55等が備えられている。端末電子制御ユニット52は、トラクタ1を自動走行させるための目標走行経路P(例えば、図3参照)を生成する走行経路生成部53、及び、ユーザが入力した各種の入力情報や走行経路生成部53が生成した目標走行経路P等を記憶する不揮発性の端末記憶部54等を有している。
【0025】
走行経路生成部53が目標走行経路Pを生成するに当たり、携帯通信端末3の表示部51に表示された目標走行経路設定用の入力案内に従って、運転者や管理者等のユーザ等が作業車両や作業装置12の種類や機種等の車体情報を入力しており、入力された車体情報が端末記憶部54に記憶されている。目標走行経路Pの生成対象となる作業領域S(図3参照)を圃場としており、携帯通信端末3の端末電子制御ユニット52は、圃場の形状や位置を含む圃場情報を取得して端末記憶部54に記憶している。
【0026】
圃場情報の取得について説明すると、ユーザ等が運転してトラクタ1を実際に走行させることで、端末電子制御ユニット52は、測位ユニット21にて取得するトラクタ1の現在位置等から圃場の形状や位置等を特定するための位置情報を取得することができる。端末電子制御ユニット52は、取得した位置情報から圃場の形状及び位置を特定し、その特定した圃場の形状及び位置から特定した作業領域Sを含む圃場情報を取得している。図3では、矩形状の作業領域Sが特定された例を示している。
【0027】
特定された圃場の形状や位置等を含む圃場情報が端末記憶部54に記憶されると、走行経路生成部53は、端末記憶部54に記憶されている圃場情報や車体情報を用いて、目標走行経路Pを生成する。
【0028】
図3に示すように、走行経路生成部53は、作業領域S内を中央領域R1と外周領域R2とに区分け設定している。中央領域R1は、作業領域Sの中央部に設定されており、トラクタ1を往復方向に自動走行させて所定の作業(例えば、耕耘等の作業)を行う往復作業領域となっている。外周領域R2は、中央領域R1の周囲に設定されている。走行経路生成部53は、例えば、車体情報に含まれる旋回半径やトラクタ1の前後幅及び左右幅等から、トラクタ1を圃場の畔際で旋回走行させるために必要となる旋回走行用のスペース等を求めている。走行経路生成部53は、中央領域R1の外周に求めたスペース等を確保するように、作業領域S内を中央領域R1と外周領域R2とに区分けしている。
【0029】
走行経路生成部53は、図3に示すように、車体情報や圃場情報等を用いて、目標走行経路Pを生成している。例えば、目標走行経路Pは、中央領域R1において同じ直進距離を有して作業幅に対応する一定距離をあけて平行に配置設定された直線状の複数の作業経路P1とを有している。複数の作業経路P1は、トラクタ1を直進走行させながら、所定の作業を行うための経路である。連結経路P2は、所定の作業を行わずに、トラクタ1の走行方向を180度転換させるためのUターン経路であり、作業経路P1の終端と隣接する次の作業経路P1の始端とを連結している。ちなみに、図3に示す目標走行経路Pは、あくまで一例であり、どのような目標走行経路を設定するかは適宜変更が可能である。
【0030】
走行経路生成部53にて生成された目標走行経路Pは、表示部51に表示可能であり、車体情報及び圃場情報等と関連付けた経路情報として端末記憶部54に記憶されている。経路情報には、目標走行経路Pの方位角、及び、目標走行経路Pでのトラクタ1の走行形態等に応じて設定された設定エンジン回転速度や目標走行速度等が含まれている。
【0031】
このようにして、走行経路生成部53が目標走行経路Pを生成すると、端末電子制御ユニット52が、携帯通信端末3からトラクタ1に経路情報を転送することで、トラクタ1の車載電子制御ユニット18が、経路情報を取得することができる。車載電子制御ユニット18は、取得した経路情報に基づいて、測位ユニット21にて自己の現在位置(トラクタ1の現在位置)を取得しながら、目標走行経路Pに沿ってトラクタ1を自動走行させることができる。測位ユニット21にて取得するトラクタ1の現在位置については、リアルタイム(例えば、数ミリ秒周期)でトラクタ1から携帯通信端末3に送信されており、携帯通信端末3にてトラクタ1の現在位置を把握している。
【0032】
経路情報の転送に関しては、トラクタ1が自動走行を開始する前の段階において、経路情報の全体を端末電子制御ユニット52から車載電子制御ユニット18に一挙に転送することができる。また、例えば、目標走行経路Pを含む経路情報を、情報量の少ない所定距離ごとの複数の経路部分に分割することもできる。この場合には、トラクタ1が自動走行を開始する前の段階においては、経路情報の初期経路部分のみが端末電子制御ユニット52から車載電子制御ユニット18に転送される。自動走行の開始後は、トラクタ1が情報量等に応じて設定された経路取得地点に達するごとに、その地点に対応する以後の経路部分のみの経路情報が端末電子制御ユニット52から車載電子制御ユニット18に転送するようにしてもよい。
【0033】
トラクタ1の自動走行を開始する場合には、例えば、ユーザ等がスタート地点にトラクタ1を移動させて、各種の自動走行開始条件が満たされると、携帯通信端末3にて、ユーザが表示部51を操作して自動走行の開始を指示することで、携帯通信端末3は、自動走行の開始指示をトラクタ1に送信する。これにより、トラクタ1では、車載電子制御ユニット18が、自動走行の開始指示を受けることで、測位ユニット21にて自己の現在位置(トラクタ1の現在位置)を取得しながら、目標走行経路Pに沿ってトラクタ1を自動走行させる自動走行制御を開始する。車載電子制御ユニット18が、衛星測位システムを用いて測位ユニット21により取得されるトラクタ1の測位情報に基づいて、作業領域S内の目標走行経路Pに沿ってトラクタ1を自動走行させる自動走行制御を行う自動走行制御部として構成されている。
【0034】
自動走行制御には、変速装置13の作動を自動制御する自動変速制御、ブレーキ操作機構15の作動を自動制御する自動制動制御、左右の前輪5を自動操舵する自動操舵制御、及び、ロータリ耕耘装置等の作業装置12の作動を自動制御する作業用自動制御、等が含まれている。
【0035】
自動変速制御においては、変速制御部181が、目標走行速度を含む目標走行経路Pの経路情報と測位ユニット21の出力と車速センサ19の出力とに基づいて、目標走行経路Pでのトラクタ1の走行形態等に応じて設定された目標走行速度がトラクタ1の車速として得られるように変速装置13の作動を自動制御する。
【0036】
自動制動制御においては、制動制御部182が、目標走行経路Pと測位ユニット21の出力とに基づいて、目標走行経路Pの経路情報に含まれている制動領域において左右のサイドブレーキが左右の後輪6を適正に制動するようにブレーキ操作機構15の作動を自動制御する。
【0037】
自動操舵制御においては、トラクタ1が目標走行経路Pを自動走行するように、操舵角設定部184が、目標走行経路Pの経路情報と測位ユニット21の出力とに基づいて左右の前輪5の目標操舵角を求めて設定し、設定した目標操舵角をパワーステアリング機構14に出力する。パワーステアリング機構14が、目標操舵角と舵角センサ20の出力とに基づいて、目標操舵角が左右の前輪5の操舵角として得られるように左右の前輪5を自動操舵する。
【0038】
作業用自動制御においては、作業装置制御部183が、目標走行経路Pの経路情報と測位ユニット21の出力とに基づいて、トラクタ1が作業経路P1(例えば、図3参照)の始端等の作業開始地点に達するのに伴って作業装置12による所定の作業(例えば耕耘作業)が開始され、かつ、トラクタ1が作業経路P1(例えば、図3参照)の終端等の作業終了地点に達するのに伴って作業装置12による所定の作業が停止されるように、クラッチ操作機構16及び昇降駆動機構17の作動を自動制御する。
【0039】
このようにして、トラクタ1においては、変速装置13、パワーステアリング機構14、ブレーキ操作機構15、クラッチ操作機構16、昇降駆動機構17、車載電子制御ユニット18、車速センサ19、舵角センサ20、測位ユニット21、及び、通信モジュール25、等によって自動走行ユニット2が構成されている。
【0040】
この実施形態では、キャビン10にユーザ等が搭乗せずにトラクタ1を自動走行させるだけでなく、キャビン10にユーザ等が搭乗した状態でトラクタ1を自動走行させることも可能となっている。よって、キャビン10にユーザ等が搭乗せずに、車載電子制御ユニット18による自動走行制御により、トラクタ1を目標走行経路Pに沿って自動走行させることができるだけでなく、キャビン10にユーザ等が搭乗している場合でも、車載電子制御ユニット18による自動走行制御により、トラクタ1を目標走行経路Pに沿って自動走行させることができる。
【0041】
キャビン10にユーザ等が搭乗している場合には、車載電子制御ユニット18にてトラクタ1を自動走行させる自動走行状態と、ユーザ等の運転に基づいてトラクタ1を走行させる手動走行状態とに切り替えることができる。よって、自動走行状態にて目標走行経路Pを自動走行している途中に、自動走行状態から手動走行状態に切り替えることができ、逆に、手動走行状態にて走行している途中に、手動走行状態から自動走行状態に切り替えることができる。手動走行状態と自動走行状態との切り替えについては、例えば、運転席39の近傍に、自動走行状態と手動走行状態とに切り替えるための切替操作部を備えることができるとともに、その切替操作部を携帯通信端末3の表示部51に表示させることもできる。また、車載電子制御ユニット18による自動走行制御中に、ユーザがステアリングホイール38を操作すると、自動走行状態から手動走行状態に切り替えることができる。
【0042】
トラクタ1には、図1及び図2に示すように、トラクタ1(走行機体7)の周囲における障害物を検知して、障害物との衝突を回避するための障害物検知システム100が備えられている。障害物検知システム100は、レーザを用いて測定対象物までの距離を3次元で測定可能な複数のライダーセンサ101,102と、超音波を用いて測定対象物までの距離を測定可能な複数のソナーを有するソナーユニット103,104と、障害物検知部110と、衝突回避制御部111とが備えられている。
【0043】
ライダーセンサ101,102及びソナーユニット103,104にて測定する測定対象物は、物体や人等としている。ライダーセンサ101,102は、トラクタ1の前方側を測定対象とする前ライダーセンサ101と、トラクタ1の後方側を測定対象とする後ライダーセンサ102とが備えられている。ソナーユニット103,104は、トラクタ1の右側を測定対象とする右側のソナーユニット103と、トラクタ1の左側を測定対象とする左側のソナーユニット104とが備えられている。
【0044】
障害物検知部110は、ライダーセンサ101,102及びソナーユニット103,104の測定情報に基づいて、所定距離内の物体や人等の測定対象物を障害物として検知する障害物検知処理を行うように構成されている。衝突回避制御部111は、障害物検知部110にて障害物を検知すると、トラクタ1を減速させる又はトラクタ1を走行停止させる衝突回避制御を行うように構成されている。衝突回避制御部111は、衝突回避制御において、トラクタ1を減速させる又はトラクタ1を走行停止させるだけでなく、報知ブザーや報知ランプ等の報知装置26を作動させて、障害物が存在することを報知している。衝突回避制御部111は、衝突回避制御において、通信モジュール25,55を用いて、トラクタ1から携帯通信端末3に通信して表示部51に障害物の存在を表示させることで、障害物が存在することを報知可能としている。
【0045】
障害物検知部110は、ライダーセンサ101,102及びソナーユニット103,104の測定情報に基づく障害物検知処理をリアルタイムで繰り返し行い、物体や人等の障害物を適切に検知している。衝突回避制御部111は、リアルタイムで検知される障害物との衝突を回避するための衝突回避制御を行うようにしている。
【0046】
障害物検知部110及び衝突回避制御部111は、車載電子制御ユニット18に備えられている。車載電子制御ユニット18は、コモンレールシステムに含まれたエンジン用の電子制御ユニット、ライダーセンサ101,102、及び、ソナーユニット103,104等にCAN(Controller Area Network)を介して通信可能に接続されている。
【0047】
トラクタ1を目標走行経路Pに沿って自動走行させるに当たり、作業状況やユーザ等の要望によって、目標走行経路Pにおける作業経路P1をその走行方向に直交する方向にシフトさせたい場合がある。そこで、この自動走行システムには、車載電子制御ユニット18にて自動走行制御を実行していない状態、及び、車載電子制御ユニット18にて自動走行制御を実行している状態の両方の状態において、目標走行経路Pにおける作業経路P1(直線走行経路に相当する)をその走行方向(直線走行方向)に直交する方向にシフトさせるための構成が備えられている。
【0048】
まず、車載電子制御ユニット18にて自動走行制御を実行していない状態で作業経路P1をシフトする経路シフト処理について説明する。
携帯通信端末3には、図2に示すように、車載電子制御ユニット18にて自動走行制御を実行していない状態において、目標走行経路Pにおける作業経路P1をその走行方向に直交する方向にシフトさせる第1経路シフト部91と、第1経路シフト部91にてシフト後の作業経路P1に関するシフト後経路情報を記憶する端末記憶部54(第1シフト後経路情報記憶部に相当する)と、所定の第1リセット条件が成立すると、端末記憶部54にて記憶しているシフト後経路情報をリセットする第1記憶リセット部92とが備えられている。
【0049】
ちなみに、経路シフト処理におけるシフト後経路情報については、例えば、シフト後の作業経路P1についての位置情報や、シフト前の作業経路P1に対するシフト方向及びシフト量に関する情報とすることができる。
【0050】
図4は、携帯通信端末3の表示部51に表示される作業画面を示している。この作業画面では、目標走行経路Pにおける作業経路P1、トラクタ1の現在位置等が表示されている。携帯通信端末3には、目標走行経路Pのうち、作業済みの作業経路P1を登録する作業済み登録部56(図2参照)が備えられている。作業画面では、作業済み登録部56にて作業済みに登録された作業経路P1に色(図4では、グレー)等を付けることで、未作業の作業経路P1と作業済みの作業経路P1とを識別可能となっている。図4は、作業経路P1の途中において車載電子制御ユニット18による自動走行制御を停止させて、作業を中断した状態を例示している。
【0051】
図4の作業画面において、作業経路P1をその走行方向に直交する方向にシフトさせるための経路シフトボタン93が表示されている。これにより、車載電子制御ユニット18にて自動走行制御を実行する前等、車載電子制御ユニット18にて自動走行制御を実行していない状態において、ユーザ等が経路シフトボタン93を押し操作することで、第1経路シフト部91が、トラクタ1の現在位置に作業経路P1が一致するように、作業経路P1の全てをその走行方向に直交する方向にシフトさせる経路シフト処理を行っている。経路シフト処理では、例えば、図5に示すように、トラクタ1の現在位置に作業経路P1が一致するように、作業経路P1の全てをシフトさせている。図5に示すものでは、作業経路P1の全てをシフトさせているが、例えば、作業済みの作業経路P1はシフトさせずに、未作業の作業経路P1のみをシフトさせることもできる。
【0052】
第1経路シフト部91による経路シフト処理は、車載電子制御ユニット18にて自動走行制御を実行していない状態であれば、車載電子制御ユニット18が自動走行制御を行う場合の全てについて行えるのではなく、車載電子制御ユニット18が直進モードにて自動走行制御を行う場合においてのみ、第1経路シフト部91が経路シフト処理を行うことができる。
【0053】
直進モードについて説明すると、車載電子制御ユニット18は、自動走行制御において、目標走行経路Pにおいて複数の作業経路P1のみについてトラクタ1を自動走行させる直進モードを実行可能に構成されている。直進モードでは、車載電子制御ユニット18が、複数の作業経路P1の夫々において、作業経路P1の始端から終端まで作業経路P1に沿ってトラクタ1を自動走行させるものの、作業経路P1の終端にトラクタ1が到達すると、手動運転に切り替えている。よって、作業経路P1の終端から次の作業経路P1の始端までの旋回走行は、ユーザ等の手動運転にて行われる。
【0054】
第1経路シフト部91による経路シフト処理は、直進モードにて自動走行制御を行う直前のタイミング等の直進モードにて自動走行制御を行う前に、その直進モードにて自動走行制御を行うときの作業経路P1をシフトする処理である。直進モードは、作業経路P1の始端だけでなく、作業経路P1の途中から開始することもできるので、トラクタ1が作業経路P1の始端やその近傍に位置する場合だけでなく、トラクタ1が作業経路P1の途中に位置する場合でも、第1経路シフト部91による経路シフト処理を行うことができる。
【0055】
第1経路シフト部91が経路シフト処理を行うと、端末電子制御ユニット52は、通信モジュール55を用いて、経路情報として、シフト後経路情報を送信している。車載電子制御ユニット18は、通信モジュール25にて受信するシフト後経路情報に基づいて、自動走行制御を行うようにしている。これにより、第1経路シフト部91が経路シフト処理を行った後に、車載電子制御ユニット18が直進モードにて自動走行制御を行うときには、経路シフト処理にてシフトされたシフト後の作業経路P1に沿ってトラクタ1を自動走行させることができる。
【0056】
経路シフト処理にて作業経路P1のシフトが行われた場合には、図5に示すように、端末電子制御ユニット52が、作業画面において、シフト後の作業経路P1を表示させている。シフト後の作業経路P1は、トラクタ1の現在位置に作業経路P1が一致するように、作業経路P1の全てをその走行方向に直交する方向にシフトさせたものとなっている。図5において、点線にて示す作業経路P1が、シフト前の作業経路P1を示している。このように、第1経路シフト部91にて経路シフト処理が行われると、作業経路P1がシフト前の位置からシフト後の位置に変更されて表示されることになる。
【0057】
図6のフローチャートに基づいて、第1経路シフト部91にて経路シフト処理を行うときの動作について説明する。
まず、車載電子制御ユニット18が直進モードにて自動走行制御を実行する前等に、直進モードにて作業を開始させたい箇所等にトラクタ1を位置させて、経路シフトボタン93(図4参照)を押し操作する(ステップ#1)。
【0058】
経路シフトボタン93が押し操作されると、第1経路シフト部91が経路シフト処理を行い、トラクタ1の現在位置に作業経路P1が一致するように、作業経路P1の全てをその走行方向に直交する方向にシフトさせる(ステップ#1のYesの場合、ステップ#2)。このとき、作業画面についても、図5に示すように、作業経路P1がシフト前の位置からシフト後の位置に変更されて表示される。
【0059】
端末電子制御ユニット52は、第1経路シフト部91による経路シフト処理後の作業経路P1に関するシフト後経路情報を端末記憶部54に記憶させている(ステップ#3)。
【0060】
このようにして、第1経路シフト部91による経路シフト処理、及び、シフト後経路情報の記憶が行われると、その後、直進モードでの自動走行の開始の指示を受けると、車載電子制御ユニット18は、経路シフト処理が行われたシフト後経路情報に基づいて、直進モードでの自動走行制御を行う。
【0061】
端末記憶部54に記憶しているシフト後経路情報は、いつまでも記憶しているわけではなく、第1リセット条件が成立すると、第1記憶リセット部92が、端末記憶部54にて記憶しているシフト後経路情報をリセットしている(ステップ#4のYesの場合、ステップ#5)。第1記憶リセット部92が、第1リセット条件が成立するか否かの判別を行い、第1リセット条件が成立すると、端末記憶部54にて記憶しているシフト後経路情報を削除してリセットしている。
【0062】
第1経路シフト部91による経路シフト処理は、常時、行うものではなく、作業領域Sでの作業状況の変化やユーザ等の要望に対応するために一時的に行うものである。そこで、作業領域Sでの作業が終了した状態において、第1リセット条件が成立するように第1リセット条件を設定している。これにより、作業領域Sでの作業が終了した状態で、シフト後経路情報をリセットし、シフト後経路情報を記憶しておくことの不都合が生じるのを防止している。
【0063】
第1リセット条件について説明する。
端末記憶部54(経路記憶部に相当する)には、走行経路生成部53にて生成された目標走行経路Pが記憶されているが、1つの作業領域Sに対する目標走行経路Pだけでなく、複数の作業領域Sの夫々に対応する目標走行経路Pが記憶されている。車載電子制御ユニット18が直進モードにて自動走行制御を行う場合には、端末電子制御ユニット52が、端末記憶部54に記憶されている複数の作業領域Sの夫々における目標走行経路Pから、作業対象の作業領域Sにおける目標走行経路Pを読み出して、その目標走行経路Pの作業経路P1に関する経路情報をトラクタ1に転送している。
【0064】
そこで、第1リセット条件は、端末記憶部54から次の作業対象の作業領域Sに対応する目標走行経路Pが読み出されたことに設定することができる。これにより、作業対象の作業領域Sでの作業が終了して、次の作業領域Sにおいてトラクタ1を自動走行させるための作業が行われていると判断することができ、端末記憶部54にて記憶しているシフト後経路情報をリセットすることができる。
【0065】
また、第1リセット条件は、第1経路シフト部91により作業経路P1をシフトする経路シフト処理(シフト動作)から所定期間が経過することに設定することができる。これにより、経路シフト処理を行ってから所定期間が経過すると、作業領域Sでの作業が終了したと判断することができ、端末記憶部54にて記憶しているシフト後経路情報をリセットすることができる。
【0066】
図示は省略するが、例えば、携帯通信端末3の表示部51に表示された作業画面において、第1リセットボタンを表示させることができる。第1リセット条件は、ユーザ等により第1リセットボタンが押し操作されたことに設定することができる。これにより、ユーザ等の意思を確認した上で、シフト後経路情報をリセットすることができる。
【0067】
このように、第1リセット条件は、各種の条件を設定することができる。第1リセット条件として、複数の条件が設定されている場合には、例えば、複数の条件のうち、1つの条件でも成立すると、第1リセット条件が成立しているとすることができる。
【0068】
次に、車載電子制御ユニット18にて自動走行制御を実行している状態で作業経路P1をシフトする経路オフセット処理について説明する。
携帯通信端末3には、図2に示すように、車載電子制御ユニット18にて自動走行制御を実行している状態において、目標走行経路Pにおける作業経路P1をその走行方向に直交する方向にシフトさせる第2経路シフト部94と、第2経路シフト部94にてシフト後の作業経路P1に関するシフト後経路情報を記憶する端末記憶部54(第2シフト後経路情報記憶部に相当する)と、所定の第2リセット条件が成立すると、端末記憶部54にて記憶しているシフト後経路情報をリセットする第2記憶リセット部95とが備えられている。
【0069】
ちなみに、経路オフセット処理におけるシフト後経路情報については、例えば、シフト後の作業経路P1及びシフト後の作業経路P1を連結する連結経路P2についての位置情報や、シフト前の作業経路P1及び連結経路P2に対するシフト方向及びシフト量に関する情報とすることができる。
【0070】
図7に示すように、携帯通信端末3の表示部51に表示される作業画面等において、作業経路P1をその走行方向に直交する方向にシフトさせるための経路オフセットボタン96が表示されている。これにより、車載電子制御ユニット18にて自動走行制御を実行している途中等において、ユーザ等が経路オフセットボタン96を押し操作することで、第2経路シフト部94が、未作業の作業経路P1の全てをその走行方向に直交する方向にシフトさせる経路オフセット処理を行っている。経路オフセット処理では、例えば、図5に示すように、点線にて示す未作業の作業経路P1が、実線にて示す未作業の作業経路P1のように、未作業の作業経路P1の全てをシフトさせている。
【0071】
第2経路シフト部94は、経路オフセット処理において、右側の経路オフセットボタン96又は左側の経路オフセットボタン96のどちらのボタンを押し操作するか、経路オフセットボタン96を押す回数等に応じて、作業経路P1をシフトさせるシフト方向、及び、シフト量を特定しており、その特定したシフト方向及びシフト量だけ、未作業の作業経路P1をシフトさせている。
【0072】
第2経路シフト部94による経路オフセット処理は、第1経路シフト部91による経路シフト処理とは異なり、車載電子制御ユニット18が直進モードにて自動走行制御を行う場合に限らず、車載電子制御ユニット18が自動走行制御を行う場合の全てについて行える。ここで、車載電子制御ユニット18による自動走行制御の実行途中であっても、経路オフセットボタン96の押し操作を不可とする押し操作不可タイミングが設定されている。この押し操作不可タイミングでは、経路オフセットボタン96の押し操作を不可として、第2経路シフト部94による経路オフセット処理が行われないようにしている。トラクタ1が連結経路P2を自動走行中に作業経路P1をシフトさせると、どちらの方向に作業経路P1をシフトさせるのかが分かり難くなる。また、連結経路Pの始端から所定距離(例えば、10m)だけ手前の作業経路P1上の位置から連結経路Pの始端までの間にトラクタ1が位置する場合に、作業経路P1をシフトすると、その作業経路P1をシフトさせるための制御動作が安定して行われる前にトラクタ1が連結経路P2に到達してしまい、制御動作が不安定になる可能性がある。そこで、押し操作不可タイミングとしては、例えば、トラクタ1が連結経路P2を自動走行中のタイミング、及び、連結経路Pの始端から所定距離(例えば、10m)だけ手前の作業経路P1上の位置から連結経路Pの始端までの間にトラクタ1が位置するタイミングに設定されている。
【0073】
第2経路シフト部94が経路オフセット処理を行うと、端末電子制御ユニット52は、通信モジュール55を用いて、経路情報として、シフト後経路情報を送信している。車載電子制御ユニット18は、通信モジュール25にて受信するシフト後経路情報に基づいて、自動走行制御を行うようにしている。これにより、第2経路シフト部94が経路オフセット処理を行った後に、車載電子制御ユニット18が自動走行制御を行うときには、経路オフセット処理にてシフトされたシフト後の作業経路P1に沿ってトラクタ1を自動走行させることができる。ちなみに、この場合には、連結経路P2についても、シフト後の作業経路P1において、作業経路P1の終端と次の作業経路P1の始端を連結するように変更されることになる。
【0074】
経路オフセット処理にて作業経路P1のシフトが行われた場合には、図8に示すように、端末電子制御ユニット52が、作業画面において、シフト前の作業経路P1を表示させた状態を維持しており、トラクタ1の現在位置が作業経路P1からはずれた位置に表示されることになる。これにより、ユーザ等は、第2経路シフト部94による経路オフセット処理を行っていることを認識することができる。
【0075】
図9のフローチャートに基づいて、第2経路シフト部94にて経路オフセット処理を行うときの動作について説明する。
まず、車載電子制御ユニット18が自動走行制御を実行している途中等に、ユーザ等が経路オフセットボタン96(図7参照)を押し操作する(ステップ#11)。
【0076】
経路オフセットボタン96が押し操作されると、第2経路シフト部94が経路オフセット処理を行い、特定したシフト方向及びシフト量だけ、未作業の作業経路P1の全てをその走行方向に直交する方向にシフトさせる(ステップ#11のYesの場合、ステップ#12)。このとき、作業画面では、図8に示すように、作業経路P1がシフト前の位置に維持されており、トラクタ1の現在位置が作業経路P1からはずれた位置に表示される。
【0077】
端末電子制御ユニット52は、第2経路シフト部94による経路オフセット処理後の作業経路P1に関するシフト後経路情報を端末記憶部54に記憶させている(ステップ#13)。
【0078】
このようにして、第2経路シフト部94による経路オフセット処理、及び、シフト後経路情報の記憶が行われると、車載電子制御ユニット18は、用いる経路情報をシフト前経路情報からシフト後経路情報に変更して、シフト後経路情報に基づいて、自動走行制御を継続している。
【0079】
端末記憶部54に記憶しているシフト後経路情報は、いつまでも記憶しているわけではなく、第2リセット条件が成立すると、第2記憶リセット部95が、端末記憶部54にて記憶しているシフト後経路情報をリセットしている(ステップ#14のYesの場合、ステップ#15)。第2記憶リセット部95が、第2リセット条件が成立するか否かの判別を行い、第2リセット条件が成立すると、端末記憶部54にて記憶しているシフト後経路情報を削除してリセットしている。
【0080】
第2経路シフト部94による経路オフセット処理は、常時、行うものではなく、自動走行の途中における作業状況の変化やユーザ等の要望に対応するために一時的に行うものである。そこで、自動走行が終了した状態において、第2リセット条件が成立するように第2リセット条件を設定している。これにより、自動走行が終了した状態で、シフト後経路情報をリセットし、シフト後経路情報を記憶しておくことの不都合が生じるのを防止している。
【0081】
第2リセット条件について説明する。
例えば、車載電子制御ユニット18による自動走行制御が中断したことを第2リセット条件とすることもできる。しかしながら、この場合には、車載電子制御ユニット18による自動走行制御が中断したタイミングで、端末記憶部54にて記憶しているシフト後経路情報がリセットされることになる。よって、経路オフセット処理にてシフトした作業経路P1から車載電子制御ユニット18による自動走行制御を再開することができなくなる。
【0082】
そこで、第2リセット条件は、車載電子制御ユニット18による自動走行制御が中断した後に、手動運転にてトラクタ1が所定距離移動されることに設定することができる。車載電子制御ユニット18による自動走行制御が中断しただけでなく、その後、手動運転にてトラクタ1が所定距離移動されると、自動走行が終了して手動運転に切り替えられたものと判断することができ、端末記憶部54にて記憶しているシフト後経路情報をリセットすることができる。
【0083】
車載電子制御ユニット18による自動走行制御が中断しただけでは、端末記憶部54にて記憶しているシフト後経路情報がリセットされず、端末記憶部54にてシフト後経路情報を記憶している状態が維持される。よって、端末記憶部54にて記憶されているシフト後経路情報を用いることで、経路オフセット処理にてシフトした作業経路P1から車載電子制御ユニット18による自動走行制御を再開することができる。
【0084】
トラクタ1の自動走行を行う際には、端末電子制御ユニット52から車載電子制御ユニット18に目標走行経路Pに関する経路情報を転送している。この経路情報の転送方法として、上述の如く、自動走行の開始後は、トラクタ1が経路取得地点に達するごと等の送信タイミングになる毎に、それ以後の所定本数の経路部分のみの経路情報を端末電子制御ユニット52から車載電子制御ユニット18に転送することができる。この場合には、車載電子制御ユニット18が、転送される経路情報から走行可能な走行経路(作業経路P1又は連結経路P2)を特定し、その特定した走行経路に沿ってトラクタ1を自動走行させている。
【0085】
そこで、第2リセット条件は、車載電子制御ユニット18が経路情報から特定した走行経路が異なる走行経路に変更されることに設定することができる。このような条件に設定することで、自動走行が中断されても、トラクタ1が自動走行する走行経路が同じ走行経路であれば、端末記憶部54にて記憶しているシフト後経路情報をリセットせず、トラクタ1が自動走行する走行経路が変更されると、端末記憶部54にて記憶しているシフト後経路情報をリセットすることができる。
【0086】
図示は省略するが、例えば、携帯通信端末3の表示部51に表示された作業画面において、第2リセットボタンを表示させることができる。第2リセット条件は、ユーザ等により第2リセットボタンが押し操作されたことに設定することができる。これにより、ユーザ等の意思を確認した上で、シフト後経路情報をリセットすることができる。
【0087】
このように、第2リセット条件は、各種の条件を設定することができる。第2リセット条件として、複数の条件が設定されている場合には、例えば、複数の条件のうち、1つの条件でも成立すると、第2リセット条件が成立しているとすることができる。
【0088】
上述の如く、経路オフセット処理によるシフト後経路情報については、いつまでも記憶しているわけではなく、所定の条件が成立することで、リセットされている。しかしながら、ユーザ等が、その後の自動走行においても、シフト後経路情報を用いた自動走行を行いたい場合もある。
【0089】
そこで、例えば、図10に示すように、端末電子制御ユニット52が、シフト後経路情報を保存するか否かを確認するための確認画面を携帯通信端末3の表示部51に表示させることができる。この場合、ユーザ等が「はい」のボタンを押し操作することで、端末電子制御ユニット52は、シフト後経路情報を端末記憶部54に保存(リセットできないように記憶)している。図10の確認画面については、端末電子制御ユニット52が、経路オフセット処理を行った後のタイミングにて、携帯通信端末3の表示部51に表示させることができる。
【0090】
〔別実施形態〕
本発明の他の実施形態について説明する。
尚、以下に説明する各実施形態の構成は、夫々単独で適用することに限らず、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0091】
(1)作業車両の構成は種々の変更が可能である。
例えば、作業車両は、エンジン9と走行用の電動モータとを備えるハイブリット仕様に構成されていてもよく、また、エンジン9に代えて走行用の電動モータを備える電動仕様に構成されていてもよい。
例えば、作業車両は、走行部として、左右の後輪6に代えて左右のクローラを備えるセミクローラ仕様に構成されていてもよい。
例えば、作業車両は、左右の後輪6が操舵輪として機能する後輪ステアリング仕様に構成されていてもよい。
【0092】
(2)上記実施形態では、走行経路生成部53、第1経路シフト部91、第1記憶リセット部92、第2経路シフト部94、第2記憶リセット部95を携帯通信端末3に備えた例を示したが、例えば、走行経路生成部53、第1経路シフト部91、第1記憶リセット部92、第2経路シフト部94、第2記憶リセット部95をトラクタ1の作業車両側に備えることもできる。
【0093】
(3)上記実施形態では、車載電子制御ユニット18が直進モードにて自動走行制御を行う場合のみ、第1経路シフト部91による経路シフト処理を行うようにしているが、直進モードに限らず、車載電子制御ユニット18が自動走行制御を行う場合の全てについて、第1経路シフト部91による経路シフト処理を行うようにしてもよい。
【0094】
(4)上記実施形態では、車載電子制御ユニット18にて自動走行制御を実行していない状態において、第1経路シフト部91による経路シフト処理を行うが、車載電子制御ユニット18にて自動走行制御を実行している状態において、第1経路シフト部91による経路シフト処理を行うようにしてもよい。
また、車載電子制御ユニット18にて自動走行制御を実行している状態において、第2経路シフト部94による経路オフセット処理を行うが、車載電子制御ユニット18にて自動走行制御を実行していない状態において、第2経路シフト部94による経路オフセット処理を行うようにしてもよい。
つまり、車載電子制御ユニット18にて自動走行制御を実行していない状態、及び、車載電子制御ユニット18にて自動走行制御を実行している状態の両方の状態において、作業経路P1をシフトさせる構成を備えていればよく、どのように作業経路P1をシフトさせるかは適宜変更が可能である。
【0095】
<発明の付記>
本発明の第1特徴構成は、作業領域に対して、間隔を隔てて平行に並ぶ複数の直線走行経路を少なくとも含む目標走行経路を生成する走行経路生成部と、
その走行経路生成部にて生成された目標走行経路を記憶する経路記憶部と、
衛星測位システムにより取得される作業車両の測位情報に基づいて、目標走行経路に沿って作業車両を自動走行させる自動走行制御を行う自動走行制御部と、
その自動走行制御部にて自動走行制御を実行していない状態において、目標走行経路における直線走行経路をその直線走行方向に直交する方向にシフトさせる第1経路シフト部と、
その第1経路シフト部にてシフト後の直線走行経路に関するシフト後経路情報を記憶する第1シフト後経路情報記憶部と、
所定の第1リセット条件が成立すると、前記第1シフト後経路情報記憶部にて記憶しているシフト後経路情報をリセットする第1記憶リセット部とが備えられている点にある。
【0096】
本構成によれば、自動走行制御部にて自動走行制御を実行していない状態において、第1経路シフト部にて直線走行経路をシフトさせるので、自動走行制御部は、シフト後の直線走行経路を含む目標走行経路を用いて自動走行制御を行うことで、シフト後の直線走行経路に沿って作業車両を自動走行させることができる。第1経路シフト部にて直線走行経路をシフトさせると、シフト後経路情報が第1シフト後経路記憶部に記憶されるが、第1記憶リセット部は、第1リセット条件が成立すると、シフト後経路情報をリセットしている。これにより、シフト後経路情報は、いつまでも記憶されていることがなく、所望のタイミングにてリセットさせることができるので、シフト後経路情報が、経路記憶部に記憶されている目標走行経路に悪影響を与えることがなく、自動走行制御部は、経路記憶部に記憶されている目標走行経路を用いて自動走行制御を行うことができる。
【0097】
以上のことから、予め生成した直線走行経路をシフトさせた状態で作業車両を自動走行させることができながら、予め生成した直線走行経路を含む目標走行経路を用いた作業車両の自動走行が行えなくなるのを防止することができる。
【0098】
本発明の第2特徴構成は、前記経路記憶部は、複数の作業領域の夫々に対応する目標走行経路を記憶するように構成され、
前記自動走行制御部は、前記経路記憶部から読み出された作業対象の作業領域に対応する目標走行経路に基づいて、自動走行制御を行うように構成され、
前記第1リセット条件は、前記経路記憶部から次の作業対象の作業領域に対応する目標走行経路が読み出されたことに設定されている点にある。
【0099】
本構成によれば、走行経路生成部にて生成された目標走行経路が経路記憶部に記憶されているが、1つの作業領域に対する目標走行経路だけでなく、複数の作業領域の夫々に対応する目標走行経路が経路記憶部に記憶されている。自動走行制御部が自動走行制御を行う場合には、経路記憶部に記憶されている複数の作業領域の夫々における目標走行経路から、作業対象の作業領域における目標走行経路を読み出し、その読み出した目標走行経路を用いて自動走行制御を行っている。
【0100】
そこで、第1リセット条件は、経路記憶部から次の作業対象の作業領域に対応する目標走行経路が読み出されたことに設定している。これにより、作業対象の作業領域での作業が終了して、次の作業領域において作業車両を自動走行させるための作業が行われていると判断することができ、適切なタイミングにてシフト後経路情報をリセットすることができる。
【0101】
本発明の第3特徴構成は、前記第1リセット条件は、前記第1経路シフト部により直線走行経路をシフトするシフト動作から所定期間が経過することに設定されている点にある。
【0102】
第1経路シフト部により直線走行経路をシフトするシフト動作から所定期間が経過すると、作業対象の作業領域での作業が終了して、次の作業領域においてトラクタを自動走行させるための作業が行われていると判断することができる。そこで、第1リセット条件は、第1経路シフト部により直線走行経路をシフトするシフト動作から所定期間が経過することに設定することで、適切なタイミングにてシフト後経路情報をリセットすることができる。
【0103】
本発明の第4特徴構成は、作業領域に対して、間隔を隔てて平行に並ぶ複数の直線走行経路を少なくとも含む目標走行経路を生成する走行経路生成部と、
その走行経路生成部にて生成された目標走行経路を記憶する経路記憶部と、
衛星測位システムにより取得される作業車両の測位情報に基づいて、目標走行経路に沿って作業車両を自動走行させる自動走行制御を行う自動走行制御部と、
その自動走行制御部にて自動走行制御を実行している状態において、目標走行経路における直線走行経路をその直線走行方向に直交する方向にシフトさせる第2経路シフト部と、
その第2経路シフト部にてシフト後の直線走行経路に関するシフト後経路情報を記憶する第2シフト後経路情報記憶部と、
所定の第2リセット条件が成立すると、前記第2シフト後経路情報記憶部にて記憶しているシフト後経路情報をリセットする第2記憶リセット部とが備えられている点にある。
【0104】
本構成によれば、自動走行制御部にて自動走行制御を実行している状態において、第2経路シフト部にて直線走行経路をシフトさせるので、自動走行制御部は、シフト後の直線走行経路を含む目標走行経路を用いて自動走行制御を継続することで、シフト後の直線走行経路に沿って作業車両を自動走行させることができる。第2経路シフト部にて直線走行経路をシフトさせると、シフト後経路情報が第2シフト後経路記憶部に記憶されるが、第2記憶リセット部は、第2リセット条件が成立すると、シフト後経路情報をリセットしている。これにより、シフト後経路情報は、いつまでも記憶されていることがなく、所望のタイミングにてリセットさせることができるので、シフト後経路情報が、経路記憶部に記憶されている目標走行経路に悪影響を与えることがなく、自動走行制御部は、経路記憶部に記憶されている目標走行経路を用いて自動走行制御を行うことができる。
【0105】
以上のことから、予め生成した直線走行経路をシフトさせた状態で作業車両を自動走行させることができながら、予め生成した直線走行経路を含む目標走行経路を用いた作業車両の自動走行が行えなくなるのを防止することができる。
【0106】
本発明の第5特徴構成は、前記第2リセット条件は、前記自動走行制御部による自動走行制御が中断した後に、手動運転にて作業車両が所定距離移動されることに設定されている点にある。
【0107】
自動走行制御部による自動走行制御が中断したことを第2リセット条件とすることもできる。しかしながら、この場合には、自動走行制御部による自動走行制御が中断したタイミングで、シフト後経路情報がリセットされることになる。よって、シフト後の直線走行経路から自動走行制御部による自動走行制御を再開することができなくなる。
【0108】
そこで、第2リセット条件は、自動走行制御部による自動走行制御が中断した後に、手動運転にて作業車両が所定距離移動されることに設定している。自動走行制御部による自動走行制御が中断しただけでなく、その後、手動運転にて作業車両が所定距離移動されると、自動走行が終了して手動運転に切り替えられたものと判断することができ、適切なタイミングにてシフト後経路情報をリセットすることができる。
【0109】
自動走行制御部による自動走行制御が中断しただけでは、シフト後経路情報がリセットされず、シフト後経路情報を記憶している状態が維持される。よって、記憶されているシフト後経路情報を用いることで、シフト後の直線走行経路から自動走行制御部による自動走行制御を再開することができる。
【符号の説明】
【0110】
1 トラクタ(作業車両)
18 車載電子制御ユニット(自動走行制御部)
53 走行経路生成部
54 端末記憶部(経路記憶部、第1シフト後経路情報記憶部、第2シフト後経路情報記憶部)
91 第1経路シフト部
92 第1記憶リセット部
94 第2経路シフト部
95 第2記憶リセット部
P1 作業経路(直線走行経路)
S 作業領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10