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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】工作機械及び検知方法
(51)【国際特許分類】
   B23B 25/06 20060101AFI20240313BHJP
   B23B 3/30 20060101ALI20240313BHJP
   B23Q 17/12 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
B23B25/06
B23B3/30
B23Q17/12
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021513583
(86)(22)【出願日】2020-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2020014669
(87)【国際公開番号】W WO2020209134
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2019075849
(32)【優先日】2019-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100154003
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149249
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 達也
(72)【発明者】
【氏名】井上 惇
(72)【発明者】
【氏名】村松 正博
(72)【発明者】
【氏名】野口 賢次
(72)【発明者】
【氏名】風張 晃一
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-001091(JP,A)
【文献】実開昭50-142593(JP,U)
【文献】特開平03-190601(JP,A)
【文献】特開2017-209776(JP,A)
【文献】特開昭63-034051(JP,A)
【文献】特開平08-300240(JP,A)
【文献】特開2009-220242(JP,A)
【文献】特許第6505341(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 25/06
B23B 3/30
B23B 31/00
B23Q 17/12
B24B 41/06
B24B 49/10
G01H 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1チャックを備えて回転自在に設けられる第1主軸と、
第2チャックを備えて回転自在に設けられる第2主軸と、
前記第1チャックに締結されたワークを前記第2チャックに締結させる締結動作を前記第2チャックに行わせる制御部と、
前記第2チャックの締結動作に伴う異常を、前記第1チャック又は前記第2チャックの回転に伴う振動に関して、前記第1チャック又は前記第2チャックについて測定される測定データに基づいて検知する検知部とを有することを特徴とする工作機械。
【請求項2】
前記測定データが、前記第2チャックの締結動作に伴うワークへの前記第2チャックの接触時以降で、前記第2チャックの締結動作に次ぐワークへの工具の接触時以前に測定されたデータを含む、請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記測定データを取得する振動センサを有する、請求項1又は2に記載の工作機械。
【請求項4】
前記制御部が、前記第1主軸と前記第2主軸を同期して回転させた状態で前記締結動作を前記第2チャックに行わせるとともに、少なくとも、前記検知部により前記異常が検出されなかった場合に、連続してワークの加工を行わせる、請求項1~3の何れか1項に記載の工作機械。
【請求項5】
第1主軸の第1チャックに締結されたワークを第2主軸の第2チャックに締結させる締結動作を前記第2チャックに行わせる締結ステップと、
前記第2チャックの締結動作に伴う異常を、前記第1チャック又は前記第2チャックの回転に伴う振動に関して、前記第1チャック又は前記第2チャックについて測定される測定データに基づいて検知する検知ステップとを有することを特徴とする検知方法。
【請求項6】
前記第2チャックの前記締結動作に次いでワークに対する加工を行う加工ステップを有し、
前記締結ステップにおいて、前記第1主軸と前記第2主軸を同期して回転させた状態で前記締結動作を前記第2チャックに行わせ、
前記加工ステップにおいて、少なくとも、前記検知ステップで前記異常が検出されなかった場合に、連続してワークの加工を行う、請求項5に記載の検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械及び検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークを工具で加工するCNC旋盤等の工作機械が知られている(例えば、特許文献1~2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-326206号公報
【文献】特開2019-30954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような工作機械は、第1チャックを備える第1主軸と第2チャックを備える第2主軸とを有する場合がある。そして、第1チャックがワークを締結する第1締結動作を行い、その後、第2チャックがワークを締結する第2締結動作を行い、その後、ワークを突っ切り加工して製品化するように構成される場合がある。この場合、第2締結動作に、例えば切屑の噛み込み等の異常がある場合には、製品の加工精度に悪影響を及ぼしかねない。
【0005】
本発明は、上記課題を鑑みて成されたものであり、その目的は、第1チャックに締結されたワークを第2チャックに締結させる締結動作に伴う異常を効果的に検知することができる工作機械及び検知方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の工作機械は、第1チャックを備える第1主軸と、第2チャックを備える第2主軸と、前記第1チャックに締結されたワークを前記第2チャックに締結させる締結動作を前記第2チャックに行わせる制御部と、前記第2チャックの締結動作に伴う異常を、前記第1チャック及び前記第2チャックの少なくとも一方の振動に関する測定データに基づいて検知する検知部とを有することを特徴とする。
【0007】
本発明の工作機械は、上記構成において、前記測定データが、前記第2チャックの締結動作に伴うワークへの前記第2チャックの接触時以降で、前記第2チャックの締結動作に次ぐワークへの工具の接触時以前に測定されたデータを含むのが好ましい。
【0008】
本発明の工作機械は、上記構成において、前記測定データを取得する振動センサを有するのが好ましい。
【0009】
本発明の工作機械は、上記構成において、前記制御部が、前記第1主軸と前記第2主軸を同期して回転させた状態で前記締結動作を前記第2チャックに行わせるとともに、少なくとも、前記検知部により前記異常が検出されなかった場合に、連続してワークの加工を行わせるのが好ましい。
【0010】
本発明の検知方法は、第1主軸の第1チャックに締結されたワークを第2主軸の第2チャックに締結させる締結動作を前記第2チャックに行わせる締結ステップと、前記第2チャックの締結動作に伴う異常を、前記第1チャック及び前記第2チャックの少なくとも一方の振動に関する測定データに基づいて検知する検知ステップとを有することを特徴とする。
【0011】
本発明の検知方法は、上記構成において、前記第2チャックの前記締結動作に次いでワークに対する加工を行う加工ステップを有し、前記締結ステップにおいて、前記第1主軸と前記第2主軸を同期して回転させた状態で前記締結動作を前記第2チャックに行わせ、前記加工ステップにおいて、少なくとも、前記検知ステップで前記異常が検出されなかった場合に、連続してワークの加工を行うのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、第1チャックに締結されたワークを第2チャックに締結させる締結動作に伴う異常を効果的に検知することができる工作機械及び検知方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施の形態である工作機械を示す模式図である。
図2】第2チャックの締結動作に伴う異常がない場合の、第2チャックの振動に関する測定データの一例を示す図である。
図3】第2チャックの締結動作に伴う異常がある場合の、第2チャックの振動に関する測定データの一例を示す図である。
図4】第2チャックの締結動作に伴う異常がある場合とない場合との指標値分布の例を示す図である。
図5】本発明の一実施の形態である検知方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて、本発明の一実施の形態である工作機械及び検知方法について詳細に例示説明する。
【0015】
図1に示す工作機械1は、長尺の棒材をワーク(被加工物)Wとして加工する自動旋盤(CNC旋盤)であり、第1主軸としての正面主軸10と、第2主軸としての背面主軸20とを有している。
【0016】
正面主軸10と背面主軸20は、正面主軸10の軸線と背面主軸20の軸線とが平行となるように、互いに対向して配置されている。以下、正面主軸10と背面主軸20の軸線に平行な方向をZ軸方向とし、Z軸方向に直交する方向をX軸方向とし、Z軸方向及びX軸方向に直交する方向をY軸方向とする。
【0017】
基台2上には、例えばガイドレール機構等の正面側移動機構3によってZ軸方向に移動自在に正面主軸台11が設置されている。正面主軸10は、正面主軸台11にワークWを把持して回転自在に支持され、主軸モータによって回転駆動される。主軸モータとしては、例えば、正面主軸台11の内部において、正面主軸台11と正面主軸10との間に構成されるビルトインモータを採用することができる。
【0018】
基台2上には、例えばガイドレール機構等の背面側移動機構4によってZ軸方向に移動自在に背面主軸台21が設置されている。背面主軸20は、背面主軸台21にワークWを把持して回転自在に支持され、主軸モータによって回転駆動される。主軸モータとしては、例えば、背面主軸台21の内部において、背面主軸台21と背面主軸20との間に構成されるビルトインモータを採用することができる。
【0019】
基台2と正面主軸台11との間または基台2と背面主軸台21との間には、正面主軸10を背面主軸20に対してX軸方向に相対移動させるX軸移動機構が設置される。また、基台2と正面主軸台11との間または基台2と背面主軸台21との間には、正面主軸10を背面主軸20に対してY軸方向に相対移動させるY軸移動機構が設置される。
【0020】
正面主軸10の先端には、第1チャックとしての正面チャック12が開閉自在に設けられている。正面チャック12は、チャックスリーブ13の内側に収容されている。チャックスリーブ13が正面主軸10の先端側に向けてスライド移動すると、チャックスリーブ13のテーパ面により正面チャック12のテーパ面が押圧されて、正面チャック12は閉じられる。反対に、チャックスリーブ13が正面主軸10の基端側に向けてスライド移動すると、チャックスリーブ13のテーパ面による正面チャック12のテーパ面への押圧が解除され、正面チャック12は開かれる。正面チャック12を開いた状態としてワークWを挿入し、正面チャック12を閉じることにより、ワークWが正面チャック12に締結される。正面主軸10は、このようにワークWを正面チャック12に締結することによってワークWを把持することができる。
【0021】
背面主軸20の先端には、第2チャックとしての背面チャック22が開閉自在に設けられている。背面チャック22は、チャックスリーブ23の内側に収容されている。チャックスリーブ23が背面主軸20の先端側に向けてスライド移動すると、チャックスリーブ23のテーパ面により背面チャック22のテーパ面が押圧されて、背面チャック22は閉じられる。反対に、チャックスリーブ23が背面主軸20の基端側に向けてスライド移動すると、チャックスリーブ23のテーパ面による背面チャック22のテーパ面への押圧が解除され、背面チャック22は開かれる。背面チャック22を開いた状態としてワークWを挿入し、背面チャック22を閉じることにより、ワークWが背面チャック22に締結される。背面主軸20は、このようにワークWを背面チャック22に締結することによってワークWを把持することができる。
【0022】
チャックスリーブ13、23のスライド駆動機構は、本発明を限定するものではなく、種々の構成のものを採用することができる。
【0023】
正面主軸10と背面主軸20の間には、ガイドブッシュ30が設けられている。ガイドブッシュ30は、基台2に設置されたガイドブッシュ支持台31に装着され、正面主軸10と同軸に配置されている。ガイドブッシュ30は、ガイドブッシュ支持台31に対して軸線方向に位置調節されることで、ワークWの外径に対応した内径に調節される。ガイドブッシュ30は、ワークWをZ軸方向に移動自在にガイドすることができる。
【0024】
工作機械1は、第1加工部40を備えている。第1加工部40は、ワークWを加工する工具41を備えている。工具41は刃物台42に保持されている。刃物台42は、工具41がガイドブッシュ30の前方に配置され、ガイドブッシュ支持台31にX軸方向及びY軸方向に移動自在に支持されている。刃物台42のZ軸方向の位置は一定である。刃物台42には、工具41として、例えば外径切削バイトや突っ切りバイトなどが搭載されており、これらは、刃物台42の例えばX軸方向への移動により、加工内容に応じて適宜切り替えられる。
【0025】
また、工作機械1は、第2加工部43を備えている。第2加工部43は、ワークWを加工する背面加工用の工具44を備えている。工具44は、図示しない刃物台に保持されている。この刃物台は、基台2に例えばX軸方向やY軸方向などに移動自在に支持されている。刃物台には、工具44として、例えば外径切削バイトや突っ切りバイトなどが搭載されており、これらは、刃物台42の例えばX軸方向への移動により、加工内容に応じて適宜切り替えられる。
【0026】
工作機械1は、制御部50を備えている。制御部50は、例えばCPU(中央演算処理装置)やメモリ(記憶装置)等を備えたマイクロコンピュータで構成されたものとすることができる。制御部50は、正面主軸10(正面主軸台11、正面チャック12を含む)、背面主軸20(背面主軸台21、背面チャック22を含む)、第1加工部40及び第2加工部43の各作動を統合制御することができる。
【0027】
ここで、制御部50は、正面チャック12及び/又は背面チャック22に把持させたワークWに対して第1加工部40及び第2加工部43により所定の加工及び突っ切り加工を連続的に行って複数の製品を得るように、正面主軸10、背面主軸20、第1加工部40及び第2加工部43を作動させる機能を有している。
【0028】
より具体的には、制御部50は、第1加工部40に、正面チャック12に締結されたワークWに対して所定の加工を行わせ、その後、図1に示すように、背面チャック22に、正面チャック12に締結されたワークWを締結させ、この状態で第1加工部40にワークWに対して突っ切り加工を行わせる機能を有している。つまり、制御部50は、正面チャック12に締結されたワークWを背面チャック22に締結させる締結動作を背面チャック22に行わせるように構成されている。ここで、制御部50は、この背面チャック22の締結動作の際は、正面主軸10によってワークWを回転させた状態で、背面主軸20の回転数を正面主軸10の回転数に同期させ、このように回転数を同期させた状態で、ワークWの先端部を背面チャック22に挿入して背面チャック22に締結させる。つまり、制御部50は、正面主軸10と背面主軸20を同期して回転させた状態で背面チャック22の締結動作を行わせるように構成されている。
【0029】
また、制御部50は、正面チャック12及び背面チャック22に締結されたワークWを第1加工部40によって突っ切り加工した後に、第2加工部43に、背面チャック22に締結されたワークWに対して追加的な加工を行わせて、ワークWを製品とする機能を有している。なお、制御部50は、第2加工部43によるこのような追加的な加工を行わせることなく、突っ切り加工されたワークWをそのまま製品とする機能を有してもよい。また、工作機械1は第2加工部43を有さない構成であってもよい。
【0030】
上記のような背面チャック22の締結動作時に、例えば切屑の噛み込み等の異常がある場合には、突っ切り加工や追加的な加工の精度に悪影響を及ぼし、製品の加工精度に悪影響を及ぼす虞がある。このため、本実施の形態である工作機械1には、背面チャック22の締結動作に伴う異常を、背面チャック22の振動に関する測定データに基づいて検知する検知部60が設けられている。
【0031】
検知部60は、背面チャック22の振動に関する測定データを記憶する記憶部61と、記憶部61に記憶された測定データに基づいて背面チャック22の締結動作に伴う異常の有無を判定する判定部62とを有している。また、工作機械1は、背面チャック22の振動に関する測定データを取得する振動センサ63と、判定部62の判定基準を設定するための入力部64と、判定部62による判定結果を報知する報知部65とを有している。
【0032】
検知部60は、制御部50を構成するマイクロコンピュータで構成することができる。なお、検知部60は、これに限らず、例えば、制御部50を構成するマイクロコンピュータとは別の、CPUやメモリ等を備えた追加的なマイクロコンピュータで構成されてもよい。
【0033】
記憶部61は、例えばメモリで構成することができる。記憶部61は、振動センサ63が取得した背面チャック22の振動、つまり背面主軸20の回転の振れに関する測定データを記憶するように構成されている。振動センサ63は、背面主軸20を支持する背面主軸台21に配置されているが、これに限らず、例えば背面主軸20に配置してもよい。振動センサ63は、背面主軸20の回転の振れを検出できる任意のセンサであってよく、例えば加速度センサ、AEセンサ、変位計、マイクロフォンなどであってよい。なお、背面主軸20の回転の振れに関する測定データは、本実施の形態では振動センサ63によって取得されるが、これに限らず、例えば、背面主軸20を回転駆動する主軸モータの負荷(電流値又は電圧値)を測定することで取得されてもよい。つまり、記憶部61は、振動センサ63が取得した測定データを記憶するように構成されたものに限らず、例えば、主軸モータの負荷を測定することで取得された測定データを記憶するように構成されてもよい。
【0034】
ここで、背面チャック22の振動に関する測定データは、背面チャック22の締結動作に伴うワークWへの背面チャック22の接触時以降で、背面チャック22の締結動作に次ぐワークWへの工具41の接触時以前(以下、特定期間ともいう)に測定されたデータを含んでいる。測定データは、常時測定されていてもよい。このような測定データの例を図2図3に示す。図2は背面チャック22とワークWとの間への切屑の噛み込みによる異常がない場合の測定データを示し、図3は背面チャック22とワークWとの間への切屑の噛み込みによる異常がある場合の測定データを示している。
【0035】
図2において、時刻t1は、背面チャック22の締結動作のためのチャックスリーブ23のスライド移動が開始された時刻であり、時刻t1においては、このチャックスリーブ23のスライド移動の開始に伴う振動の発生により、振動強度のピークが測定されている。時刻t2は、背面チャック22の締結が行われた時刻(つまり、背面チャック22の締結動作に伴うワークWへの背面チャック22の接触時)であり、時刻t2においては、この背面チャック22の締結に伴う振動の発生により、振動強度のピークが測定されている。時刻t3は、背面チャック22の締結動作に次いで工具41によるワークWに対する突っ切り加工が開始された時刻(背面チャック22の締結動作に次ぐワークWへの工具41の接触時)であり、時刻t3においては、この突っ切り加工に伴う振動の発生により、振動強度のピークが測定されている。図3にも、図2に対応する時刻t1~t3を示している。図3においては、切屑の噛み込み異常により、時刻t2以降、時刻t3以前の部分の強度が、図2の場合と比較して増大している。したがって、このような強度の増大の有無を判定することで、背面チャック22の締結動作に伴う異常の有無を判定することができる。
【0036】
時刻t2以降、時刻t3以前の部分(特定期間に測定された測定データ)の強度の増大の有無を判定するための判定基準は、例えば、高速フーリエ変換(FFT:Fast FourierTransform)処理に基づくものであってもよいし、統計的手法に基づくものであってもよいし、機械学習に基づくものであってもよいし、その他の手法に基づくものであってもよい。高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)処理に基づく判定基準は、時間領域の測定データをFFT処理して得た周波数領域データにおける、所定の周波数あるいは周波数帯域の強度に基づく所定の指標値を算出し、算出した指標値を閾値と比較するステップを含むものであってよい。統計的手法に基づく判定基準は、例えば、測定データから所定数の強度データを切り出し、その平均値と標準偏差(又は分散)とに基づいて指標値を算出し、算出した指標値を閾値と比較するステップを含むものであってよい。また、機械学習に基づく判定基準は、例えば、深層学習等によって構築されるものであってよい。いずれの手法に基づく場合においても、判定基準は、工作機械1の出荷時等に予め読み込まれ、及び/又は適時読み込まれる異常群及び正常群のモデルデータを利用するものであってもよいし、これに代えて、又は加えて、工作機械1の加工時に得られた過去の測定データを利用するものであってもよい。
【0037】
統計的手法に基づく判定基準により、時刻t2以降、時刻t3以前の部分の強度の増大の有無を判定したときの判定結果の例を図4に示す。この判定では、測定データから所定数の強度データを切り出し、その平均値と標準偏差とに基づいて指標値を算出し、算出した指標値を閾値と比較した。時刻t2以降、時刻t3以前の部分の測定データに基づくことにより、背面チャック22の締結動作に伴う異常を精度良く検知できていることが、図4に示す結果から分かる。
【0038】
したがって、判定部62は、特定期間に測定された測定データに基づいて背面チャック22の締結動作に伴う異常の有無を判定するのが好ましい。また、判定部62による判定は、特定期間に行われる。特定期間の開始時刻、つまり、背面チャック22の締結動作に伴うワークWへの背面チャック22の接触時は、背面チャック22の締結動作を開始するタイミングから算出してもよいし、その他の手法で算出してもよい。特定期間の終了時刻、つまり、背面チャック22の締結動作に次ぐワークWへの工具41の接触時は、工具41による加工を開始するタイミングから算出してもよいし、その他の手法で算出してもよい。
【0039】
入力部64は、判定部62の判定基準やワークWの加工条件等の入力を受付けるように構成されている。入力部64は、例えば、ボタン、キーボード、タッチパネル等で構成することができる。なお、判定部62の判定基準を入力部64によらずに自動的に作成するように構成してもよい。
【0040】
報知部65は、判定部62が判定した背面チャック22の締結動作に伴う異常の有無を、例えば表示又は音により、報知するように構成されている。報知部65は、例えば、ディスプレイ、警告灯又はスピーカ等で構成することができる。
【0041】
背面チャック22の締結動作に伴う異常の有無の判定は、制御部50が正面主軸10と背面主軸20を同期して回転させた状態で行われる。制御部50は、検知部60により背面チャック22の締結動作に伴う異常が検出されなかった場合に、正面主軸10と背面主軸20の回転を停止させることなく、つまり連続して、第1加工部40にワークWを突っ切り加工させるように構成されている。つまり、制御部50は、少なくとも、検知部60により背面チャック22の締結動作に伴う異常が検出されなかった場合に、連続してワークWの加工を行わせるように構成されている。
【0042】
また、制御部50は、検知部60により背面チャック22の締結動作に伴う異常が検出された場合に、ワークWの加工条件を変更する(切り込み速度を低下させる等)等の対応を行った上で、連続してワークWの加工を行わせる機能を有している。制御部50は、検知部60により背面チャック22の締結動作に伴う異常が検出された場合に、その異常が解消されるまでワークWの加工を行わせない機能を有していてもよい。
【0043】
判定部62は、背面チャック22の締結動作に伴う異常の有無だけでなく、背面チャック22の締結動作に伴う異常の態様(切屑の噛み込み位置の特定、切屑の噛み込みによる異常であるか、その他の原因による異常であるか、など)も判定するように構成されてもよい。
【0044】
本発明の一実施の形態である検知方法は、上記のような工作機械1を用いて行うことができる。なお、本実施の形態である検知方法は、他の工作機械を用いる場合にも適用可能である。
【0045】
本実施の形態の検知方法は、図5に示すように、締結ステップS1と、検知ステップS2と、報知ステップS3と、加工ステップS4とを有している。締結ステップS1は、正面主軸10の正面チャック12に締結されたワークWを背面主軸20の背面チャック22に締結させる締結動作を背面チャック22に行わせるステップである。検知ステップS2は、背面チャック22の締結動作に伴う異常を、背面チャック22の振動に関する測定データに基づいて検知するステップである。報知ステップS3は、検知ステップS2で検知された異常の有無を報知するステップである。加工ステップS4は、背面チャック22の締結動作に次いでワークWに対する工具41による加工を行うステップである。
【0046】
締結ステップS1においては、制御部50が、正面主軸10と背面主軸20を同期して回転させた状態で背面チャック22の締結動作を行わせる。
【0047】
締結ステップS1において背面チャック22の締結動作が行われると、検知ステップS2が開始される。検知ステップS2においては、判定部62が、記憶部61に記憶された測定データのうちの特定期間の測定データに基づいて、背面チャック22の締結動作に伴う異常の有無を判定する。この判定は、制御部50が正面主軸10と背面主軸20を同期して回転させた状態で行われる。
【0048】
検知ステップS2が終了すると、報知ステップS3が開始される。報知ステップS3においては、報知部65が、検知ステップS2で検知された異常の有無を報知する。なお、報知ステップS3は、検知ステップS2で異常が検知された場合にのみ報知するようにしてもよい。異常を報知することにより、使用者に適切な対応を促すことができる。
【0049】
報知ステップS3が終了すると、加工ステップS4が開始される。加工ステップS4においては、制御部50が、工具41にワークWに対する突っ切り加工を行わせる。また、制御部50は、必要に応じて工具44にワークWに対する追加的な加工を行わせ、そのワークWを製品とする。検知ステップS2で異常が検出されなかった場合には、制御部50は、正面主軸10と背面主軸20の回転を停止させることなく、つまり連続して、ワークWに対する突っ切り加工を行わせる。検知ステップS2で異常が検知された場合には、制御部50は、ワークWの加工条件を変更する等の対応を行った上で、連続してワークWの加工を行わせる。検知ステップS2で異常が検知された場合には、その異常が解消されるまで、加工ステップS4によるワークWに対する加工を行わないようにしてもよい。
【0050】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0051】
例えば、前記実施の形態においては、工作機械1はガイドブッシュ30を備えているが、ガイドブッシュ30を備えない構成とすることもできる。
【0052】
また、前記実施の形態においては、背面チャック22の締結動作に伴う異常を、背面チャック22の振動に関する測定データに基づいて検知しているが、背面チャック22の振動に関する測定データに代えて、或いは加えて、正面チャック12の振動に関する測定データを用いてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 工作機械
2 基台
3 正面側移動機構
4 背面側移動機構
10 正面主軸(第1主軸)
11 正面主軸台
12 正面チャック(第1チャック)
13 チャックスリーブ
20 背面主軸(第2主軸)
21 背面主軸台
22 背面チャック(第2チャック)
23 チャックスリーブ
30 ガイドブッシュ
31 ガイドブッシュ支持台
40 第1加工部
41 工具
42 刃物台
43 第2加工部
44 工具
50 制御部
60 検知部
61 記憶部
62 判定部
63 振動センサ
64 入力部
65 報知部
W ワーク
図1
図2
図3
図4
図5