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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】経皮治療システム
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/135 20060101AFI20240313BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20240313BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20240313BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240313BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20240313BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240313BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20240313BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240313BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20240313BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
A61K31/135
A61K9/70 401
A61K47/32
A61K47/12
A61K47/14
A61K47/10
A61K47/22
A61K47/18
A61P25/24
A61P25/04
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021561657
(86)(22)【出願日】2020-04-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-29
(86)【国際出願番号】 EP2020060903
(87)【国際公開番号】W WO2020212596
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2022-02-04
(31)【優先権主張番号】16/386,458
(32)【優先日】2019-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】19169726.7
(32)【優先日】2019-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】300005035
【氏名又は名称】エルテーエス ローマン テラピー-ジステーメ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】フロリアン・ハムズ
(72)【発明者】
【氏名】トビアス・クロイドゲン
(72)【発明者】
【氏名】アンヤ・トメレリ
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-201254(JP,A)
【文献】国際公開第2011/105486(WO,A1)
【文献】特開2012-219044(JP,A)
【文献】特表2018-518498(JP,A)
【文献】国際公開第2018/081812(WO,A1)
【文献】特表2016-532643(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0148759(US,A1)
【文献】Henkel Corporation,DURO-TAK and GELVA Transdermal Pressure Sensitive Adhesives PRODUCT SELECTION GUIDE,2016年,https://www.henkel-adhesives.com/content/dam/uai/AIH/master/images/drug-delivery-polymers/durotak-gelva-production-guide-US-4pager-160920.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/327
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
経皮治療システムであって、
該経皮治療システムは、有効成分を透過させない支持層、および該支持層の1つの面に少なくとも1つのマトリックス層を含み、
該マトリックス層は、少なくとも1つの感圧接着剤、およびケタミンまたはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含有し、
該少なくとも1つの感圧接着剤は、遊離ヒドロキシル基を含む、アクリル酸2-エチルヘキシル、酢酸ビニル、およびアクリル酸2-ヒドロキシエチルから得られるアクリルコポリマーを含むことを特徴とし、
該マトリックス層は、少なくとも1種の浸透促進剤を含み、
該少なくとも1種の浸透促進剤は、レブリン酸およびラウリン酸メチルである、
前記経皮治療システム。
【請求項2】
ケタミンは、(S)-ケタミンまたはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物であることを特徴とする、請求項1に記載の経皮治療システム。
【請求項3】
少なくとも1つの感圧接着剤は、4wt.%未満、好ましくは1~3wt.%、より好ましくは1%未満の遊離カルボキシル基を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の経皮治療システム。
【請求項4】
少なくとも1つの感圧接着剤は、遊離カルボキシル基を含まないことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の経皮治療システム。
【請求項5】
マトリックス層は、少なくとも1種の浸透促進剤を、該マトリックス層の重量を基準にして1~15wt.%の量で含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の経皮治療システム。
【請求項6】
マトリックス層は、ケタミンを、該マトリックス層の重量を基準にして1~25wt.%の量で含むことを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の経皮治療システム。
【請求項7】
マトリックス層は、アルファ-トコフェロール、パルミチン酸アスコルビルおよび/またはジブチルヒドロキシトルエンからなる群から選択される少なくとも1種の抗酸化剤を含むことを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の経皮治療システム。
【請求項8】
マトリックス層は、30~400g/m2の単位面積重量を有することを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の経皮治療システム。
【請求項9】
マトリックス層の、支持層が配置されていない面に、取り外し可能な保護層を含むことを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の経皮治療システム。
【請求項10】
医薬として使用するための、請求項1~のいずれか1項に記載の経皮治療システム。
【請求項11】
うつ病および/または疼痛の処置に使用するための、請求項1~10のいずれか1項に記載の経皮治療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有効成分としてケタミンを含む経皮治療システム(TTS)に関する。本発明はさらに、特にうつ病および/または疼痛の処置に使用するための薬物としての、そのようなシステムの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
過去数年の間に、経皮治療システムは、一般的な剤形よりも利点があるため、多くの疾患を処置するための剤形としてますます重要になってきた。その利点は、例えば、正確な一定の薬物放出であり、これは血漿中の有効成分を一定濃度にするために必要である。さらに、患者は定期的に錠剤を服用する必要がないため、初回通過効果を回避することができ、コンプライアンスが向上し得る。軟膏剤またはクリーム剤のような他の局所適用システムに勝る経皮治療システムの利点は、的確な領域に適用することができ、このため的確な投与量となること、および軟膏剤を偶発的に拭い取って他の部位を汚すリスクがないことである。さらに、軟膏剤または錠剤は定期的に投与しなければならない。なぜなら、有効成分の徐放は通常、そうしないと実現できないからである。
【0003】
数年前には、経皮治療システム中への有効成分の導入は容易に実現するものと考えられ、そのため、この適用形態は多くの有効成分について利用可能であろうと考えられていた。しかしながら、これは正しくないことが分かった。なぜなら、皮膚を介する成分の分子輸送が制約要因となるからである。したがって、新規な有効成分を投与するための経皮治療システムを提供するために、精力的な研究が常に必要である。
【0004】
有効成分であるケタミンは、疼痛を処置するものとして長らく知られている。最近では、ケタミンが、精神的障害、特にうつ病の処置に適していることも発見されている。
【0005】
経皮治療システムは、ケタミンの投与のために魅力のある選択肢となる。
【0006】
ケタミンの投与のための経皮治療システムは、先行技術から知られている。
【0007】
例えば、特許文献1および特許文献2は、遊離カルボキシル基および結晶化阻害剤を含む感圧接着剤が使用される、ケタミンの投与のためのTTSを開示している。
【0008】
しかしながら、先行技術から知られているケタミンの投与のためのTTSは、有効成分の流束およびマトリックス層に含有される有効成分の利用に関して最適化を必要とする。さらに、結晶化阻害剤を利用することなく、ケタミンが安定した形態で存在する製剤を提供することは有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】WO2017/003935A1
【文献】WO2018/195318A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、特に適用後最初の2~12時間に、有効成分の流束が最適、即ち可能な限り高く、マトリックス層に含有されるケタミンが最適に利用される、ケタミンの投与のためのTTSを提供することであった。さらに、TTSに含有されるケタミンは、化学的および物理的に、可能な限り安定している条件下で存在するべきである。さらに、TTSは、デザインにおいて単純、かつその製造において経済的であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は、驚くべきことに、請求項1に記載の経皮治療システムによって解決された。
【0012】
好ましい実施形態は、従属請求項に記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示において、「~を含む(comprising)」または「~を含有する(containing)」という表現は、「~からなる(consisting of)」も意味することができる。
【0014】
本発明は、経皮治療システムであって、当該経皮治療システムは、有効成分を透過させない支持層、および当該支持層の1つの面に少なくとも1つのマトリックス層を含み、当該マトリックス層は、少なくとも1つの感圧接着剤、およびケタミンまたはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含有し、当該少なくとも1つの感圧接着剤は、遊離ヒドロキシル基を含むことを特徴とする、経皮治療システムに関する。
【0015】
一般に、当業者は、数種類の経皮治療システムを知っている。支持層、リザーバー層、接着剤層および取り外し可能な保護層を含むDIR(リザーバー中薬物:drug-in-reservoir)-システムがある。このシステムにおいて、薬学的に活性な成分は、リザーバー層にのみ存在するが、少なくとも1つの接着性ポリマーを含有する接着剤層には存在しない。
【0016】
さらに、DIA(接着剤中薬物:drug-in-adhesive)-システムが知られており、その中では、リザーバー層は省略され、薬学的に活性な成分は、少なくとも1つの接着性ポリマーを含有する接着剤層(マトリックス層とも呼ばれる)の中に直接存在する。
【0017】
DIR-システムに勝るDIA-システムの利点は、中でも特に、製造方法がより単純であること、および誤用のリスクがより低いことである。誤用のリスクがより低いことは、特に有効成分であるケタミンに関して大きな重要性をもつ。
【0018】
したがって、本発明による経皮治療システムは、好ましくはDIA-システムである。即ち、有効成分であるケタミンまたはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物は、好ましくは、1つの同じ層の中に、少なくとも1つの感圧接着剤と一緒に存在する。
【0019】
そのようなTTSは、その比較的単純なデザインを特徴とし、そのため経済的に有利な製造を特徴とする。さらに、本発明によるそのようなTTSは、遊離ヒドロキシル基を含まない感圧接着剤を含む既知のTTSと比較して、有効成分の流束がより高い。さらに、マトリックス層に含有されるケタミンは、最適に利用される。
【0020】
さらに、本発明によるTTSは、皮膚耐容性が高い。
【0021】
「最適に利用される」という用語は、TTSを患者の皮膚に適用している間に、マトリックス層に含有されるケタミンが、マトリックス層から患者の皮膚の中に可能な限り広い範囲に拡散し、そのため、適用後にマトリックス層の中に残る「未利用の」有効成分が可能な限り少ないことを意味する。
【0022】
「有効成分を透過させない支持層」という用語は、支持層が、実質的に、好ましくは完全に、有効成分であるケタミンに対して不透過性であることを意味する。
【0023】
支持層に適した材料には、ポリエステル、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなど、ポリエチレンもしくはポリプロピレンのようなポリオレフィン、エチレン酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリアミド(ナイロン)および/またはポリウレタンのような材料が含まれる。支持層はまた、複合材料から構成されることも可能であり、好ましくは、アルミニウムでコートしたフィルムおよび上記に挙げた材料のうち1つを含む。
【0024】
感圧接着剤とは、DIN EN923:2016-03に定義されているような、それ自体が感圧接着剤として作用するポリマーである。
【0025】
一般に知られているように、ヒドロキシル基およびヒドロキシ基は、それぞれが-OH基である。
【0026】
ケタミンは、(S)-(+)-2-(2-クロロフェニル)-2-(メチルアミノ)シクロヘキサン-1-オン((S)-ケタミン)、(R)-(-)-2-(2-クロロフェニル)-2-(メチルアミノ)シクロヘキサン-1-オン((R)-ケタミン)、およびラセミ化合物(RS)-(±)-2-(2-クロロフェニル)-2-(メチルアミノ)シクロヘキサン-1-オンである。これらの化合物の薬学的に許容される塩および溶媒和物も含まれる。さらに、これらの化合物の混合物が含まれる。特に好ましい塩は、ケタミン・HClである。
【0027】
より好ましくは、本発明による経皮治療システム中の少なくとも1つの薬学的に活性な成分は、(S)-ケタミンおよび/またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物、好ましくは(S)-ケタミン・HClを含む。
【0028】
本発明による経皮治療システムは、好ましくは、少なくとも1つの感圧接着剤が、遊離ヒドロキシル基を含むアクリルコポリマーを含むことを特徴とする。
【0029】
さらに、本発明による経皮治療システムは、好ましくは、少なくとも1つの感圧接着剤が、遊離ヒドロキシル基を含む、2-エチルヘキシルアクリルアセテート、酢酸ビニル、およびアクリル酸2-ヒドロキシエチルから選択されるアクリルコポリマーを含むことを特徴とする。
【0030】
さらに、本発明による経皮治療システムは、好ましくは、少なくとも1つの感圧接着剤が、出発モノマーとして、アクリル酸2-エチルヘキシル60~80wt.-%、アクリル酸2-ヒドロキシエチル1~10wt.-%、および酢酸ビニル20~30wt.-%、好ましくは、アクリル酸2-エチルヘキシル65~70wt.-%、アクリル酸2-ヒドロキシエチル3~7wt.-%、および酢酸ビニル25~30wt.-%、最も好ましくは、アクリル酸2-エチルヘキシル68wt.-%、アクリル酸2-ヒドロキシエチル5wt.-%、および酢酸ビニル27wt.-%から得られることを特徴とする。
【0031】
重合は、好ましくは、アゾジイソブチロニトリル0.1~0.5wt.-%、好ましくは0.3wt.-%(モノマーのwt.-%)により、開始される。
【0032】
さらに、本発明による経皮治療システムは、好ましくは、少なくとも1つの感圧接着剤が、モノマーとして、アクリル酸2-エチルヘキシル60~80wt.-%、アクリル酸2-ヒドロキシエチル1~10wt.-%、および酢酸ビニル20~30wt.-%、好ましくは、アクリル酸2-エチルヘキシル65~70wt.-%、アクリル酸2-ヒドロキシエチル3~7wt.-%、および酢酸ビニル25~30wt.-%、最も好ましくは、アクリル酸2-エチルヘキシル68wt.-%、アクリル酸2-ヒドロキシエチル5wt.-%、および酢酸ビニル27wt.-%を含むことを特徴とする。
【0033】
少なくとも1つの感圧接着剤の中の残留モノマーは、好ましくは、アクリル酸2-エチルヘキシル0.2wt.-%未満、アクリル酸2-ヒドロキシエチル0.2wt.-%未満、および酢酸ビニル4.0wt.-%未満、好ましくは、アクリル酸2-エチルヘキシル0.1wt.-%以下、アクリル酸2-ヒドロキシエチル0.1wt.-%以下、および酢酸ビニル4.0wt.-%以下である。
【0034】
別の実施形態では、本発明による経皮治療システムは、好ましくは、少なくとも1つの感圧接着剤が、出発モノマーとして、アクリル酸2-エチルヘキシル60~80wt.-%、アクリル酸2-ヒドロキシエチル1~10wt.-%、およびアクリル酸メチル15~30wt.-%、好ましくは、アクリル酸2-エチルヘキシル65~75wt.-%、アクリル酸2-ヒドロキシエチル3~7wt.-%、およびアクリル酸メチル20~25wt.-%、最も好ましくはアクリル酸2-エチルヘキシル72wt.-%、アクリル酸2-ヒドロキシエチル5wt.-%、およびアクリル酸メチル23wt.-%から得られることを特徴とする。
【0035】
重合は、好ましくは、アゾジイソブチロニトリル0.1~0.5wt.-%、好ましくは0.2wt.-%(モノマーのwt.-%)により、開始される。
【0036】
別の実施形態では、本発明による経皮治療システムは、好ましくは、少なくとも1つの感圧接着剤が、モノマーとして、アクリル酸2-エチルヘキシル60~80wt.-%、アクリル酸2-ヒドロキシエチル1~10wt.-%、およびアクリル酸メチル15~30wt.-%、好ましくは、アクリル酸2-エチルヘキシル65~75wt.-%、アクリル酸2-ヒドロキシエチル3~7wt.-%、およびアクリル酸メチル20~25wt.-%、最も好ましくは、アクリル酸2-エチルヘキシル72wt.-%、アクリル酸2-ヒドロキシエチル5wt.-%、およびアクリル酸メチル23wt.-%を含むことを特徴とする。
【0037】
少なくとも1つの感圧接着剤の中の残留モノマーは、好ましくは、アクリル酸2-エチルヘキシル0.2wt.-%未満、アクリル酸2-ヒドロキシエチル0.02wt.-%未満、およびアクリル酸メチル0.1wt.-%未満、好ましくは、アクリル酸2-エチルヘキシル0.1wt.-%以下、アクリル酸2-ヒドロキシエチル0.01wt.-%以下、およびアクリル酸メチル0.05wt.-%未満である。
【0038】
驚くべきことに、マトリックス層の中にそのようなコポリマーを使用すると、有効成分の流束を高め、マトリックス層に含有されるケタミンが最適に利用されることが判明した。
【0039】
さらに、驚くべきことに、本発明による経皮治療システムは、マトリックスポリマー、特に高接着性で定評のあるカルボキシル基を含むアクリレートポリマーの使用が控えられているけれども、良好から十分な接着強度を有することが判明した。
【0040】
好適な感圧接着剤は、独国Henkelの、DURO-TAK、特にDURO-TAK87-4287、DURO-TAK87-2516、DURO-TAK2287またはDURO-TAK2510の商品名で知られている。
【0041】
遊離カルボキシル基が存在すると、有効成分の流束およびこの有効成分の利用を低減し得るため、本発明による経皮治療システムは、好ましくは、少なくとも1つの感圧接着剤が、4wt.%未満、好ましくは1~3wt.%、より好ましくは1%未満の遊離カルボキシル基を含むことを特徴とする。
【0042】
遊離カルボキシル基が存在すると、有効成分の流束およびこの有効成分の利用を低減し得るため、本発明による経皮治療システムは、好ましくは、少なくとも1つの感圧接着剤が遊離カルボキシル基を含まないことを特徴とする。
【0043】
さらに、本発明による経皮治療システムは、好ましくは、遊離ヒドロキシル基を含む少なくとも1つの感圧接着剤が、架橋剤を使用せずに得られていることを特徴とする。
【0044】
架橋剤は、治療システムの各単独層の粘着性を高め、硬度を高めることができる化学物質である。そのような架橋剤は、一般に金属キレートを含む。
【0045】
感圧接着剤の製造中に架橋剤を使用しないこともまた、有効成分の流束を高め得る。
【0046】
さらに、本発明による経皮治療システムは、好ましくは、遊離ヒドロキシル基を含む少なくとも1つの感圧接着剤が、架橋剤を使用して得られていることを特徴とする。
【0047】
架橋剤は、治療システムの各単独層の粘着性を高め、硬度を高めることができる化学物質である。そのような架橋剤は、一般に金属キレートを含む。
【0048】
感圧接着剤の製造中における架橋剤もまた、有効成分の流束を高め得る。
【0049】
さらに、本発明による経皮治療システムは、好ましくは、遊離ヒドロキシル基を含む少なくとも1つの感圧接着剤が、マトリックス層全体の重量の60~90wt.-%、好ましくは70~85wt.-%を占めることを特徴とする。
【0050】
さらに、本発明による経皮治療システムは、好ましくは、マトリックス層が1種の浸透促進剤を含むことを特徴とする。
【0051】
少なくとも1種の浸透促進剤は、有効成分を、溶解した形態で安定化させる化合物であり、このため、皮膚を介する有効成分の比較的高い長時間にわたる安定した吸収をもたらす。したがって、「浸透促進剤」という用語は「可溶化剤」という用語に置き換えてもよい。
【0052】
浸透促進剤は、レブリン酸、吉草酸、ヘキサン酸、カプリル酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、3-メチルブタン酸、ネオヘプタン酸、ネオナノン酸(neonanonic acid)、イソステアリン酸、オレイン酸、パルミトレイン酸、リノレン酸、バクセン酸、ペトロセリン酸、エライジン酸、オレイン酸、アラキドン酸、ガドレイン酸、エルカ酸、プロピオン酸メチル、吉草酸メチル、セバシン酸ジエチル、ラウリン酸メチル、ラウリン酸エチル、オレイン酸エチル、デカン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、および/もしくはオレイン酸イソプロピルのような、カルボン酸、脂肪酸、ならびに/または脂肪酸エステルから好ましくは選択される。
【0053】
さらに、ジエチルトルアミド(DEET)、モノカプリル酸プロピレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、アジピン酸ジイソプロピル、オイゲノール、Transcutol、乳酸ラウリルおよび/またはオレイルアルコールのような化合物は、浸透促進剤として適している。
【0054】
本発明による経皮治療システムは、より好ましくは、少なくとも1種の浸透促進剤が、レブリン酸および/またはラウリン酸メチルから選択されることを特徴とする。
【0055】
より一層好ましくは、少なくとも1種の浸透促進剤は、レブリン酸とラウリン酸メチルとの混合物を含み、さらに一層好ましくは、少なくとも1種の浸透促進剤は、レブリン酸とラウリン酸メチルとの混合物である。
【0056】
さらに、本発明による経皮治療システムは、好ましくは、少なくとも1種の浸透促進剤が、マトリックス層の中に、マトリックス層の重量を基準にして1~15wt.-%、好ましくは4~10wt.-%の量で存在することを特徴とする。
【0057】
本発明による経皮治療システム用の適用時間は、好ましくは、少なくとも6時間、より好ましくは少なくとも12時間、より一層好ましくは少なくとも24時間である。有効成分の量は、好ましくは所望の適用時間に適合させる。
【0058】
本発明による経皮治療システムは、ケタミンを、マトリックス層の中に、マトリックス層の重量を基準にして、1~25wt.-%、好ましくは5~15wt.-%の量で含有することが好ましい。
【0059】
本発明による経皮治療システムは、さらに好ましくは、マトリックス層が少なくとも1種の抗酸化剤を含むことを特徴とする。
【0060】
少なくとも1種の抗酸化剤は、他の物質、特に有効成分の酸化を防止または低減する化学物質であり、このため、治療システムの経時変化に対抗する作用をする。特に、抗酸化剤は、その遊離基捕捉剤としての効果を特徴とし、空気中の酸素に影響される感受性の分子、特に有効成分の酸化分解を防止することを特徴とする。少なくとも1種の抗酸化剤は、好ましくは、アルファ-トコフェロール、パルミチン酸アスコルビルおよび/またはジブチルヒドロキシトルエンからなる群から選択される。
【0061】
好ましくは、本発明による経皮治療システムは、少なくとも1種の抗酸化剤を、マトリックス層の中に、マトリックス層の総重量を基準にして、0.001~5wt.-%、好ましくは0.01~2wt.-%の量で含有する。
【0062】
上記の構成成分の他に、マトリックス層は、一般的な添加剤をさらに含んでもよい。添加剤は、その機能によって、軟化剤/可塑剤、粘着付与剤、安定化剤、担体および/または充填剤として分類することができる。生理学的に危険でない該当物質は、当業者に公知である。
【0063】
軟化剤/可塑剤は、6~20個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖の、飽和または不飽和のアルコール、トリグリセリドおよびポリエチレングリコールから選択することができる。
【0064】
粘着付与剤は、トリグリセリド、ジプロピレングリコール、樹脂、樹脂エステル、テルペンおよびその誘導体、エチレン酢酸ビニル接着剤、ジメチルポリシロキサンならびにポリブテンから選択することができる。
【0065】
安定化剤は、トコフェロールおよびそのエステル誘導体、ならびにアスコルビン酸およびそのエステル誘導体から選択することができ、より好ましくは、脂肪酸のアスコルビルエステルおよびトコフェロールから選択され、より好ましくは、パルミチン酸アスコルビルまたはα-トコフェロールである。
【0066】
シリカゲル、二酸化チタンおよび酸化亜鉛のような担体および/または充填剤は、粘着性および付着強度のようなある種の物理的パラメーターに望ましい影響を及ぼすように、ポリマーとともに使用することができる。
【0067】
さらに、誤用抑止剤(abuse deterrent agent)を経皮治療システムに添加して、その誤用の可能性を防止すること、または少なくとも低減することができる。誤用抑止剤として使用することができる物質の例としては、苦味剤、ゲル形成剤、刺激剤、胃腸、心臓または呼吸器に急性効果をもたらす物質、激烈な悪心または嘔吐をもたらす物質、不快な匂いをもたらす物質、眠気を誘発する物質、抽出を試みると有効成分の不活性化または分解をもたらす物質がある。
【0068】
さらに、経皮治療システムは、その目的とする使用、即ち経皮適用以外の何らかの方法で使用された場合に、有効成分および/またはシステムを無効にする誤用抑止機能を含むこともできる。
【0069】
さらに、追加の有効成分を経皮治療システムに添加して、ケタミンの潜在的な有害作用を抑制すること、またはケタミンの効果を増強することができる。追加の有効成分は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID、例えば、イブプロフェン、ケトプロフェン、メロキシカム、ピロキシカム、インドメタシン)、COX-2阻害剤(例えば、セレコキシブ、エトリコキシブ)、オピオイド(例えば、フェンタニル、ブプレノルフィン、モルヒネ、コデイン、オキシコドン、ヒドロコドン、ジヒドロモルヒネ、ペチジン)、MAOI(不可逆性および非選択性、例えば、フェネルジン、トラニルシプロミン、イソカルボキサジド)、MAOI(MAO-Aの可逆的阻害剤、例えばモクロベミド)、MAOI(MAO-Bの選択的阻害剤(preferential inhibitor)、例えばデプレニル)、三環系(および四環系)抗うつ薬(例えば、クロミプラミン、イミプラミン、アミトリプチリン、ノルトリプチリン、プロトリプチリン、マプロチリン、アモキサピン、ドキセピン、デシプラミン、トリミプラミン)、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(例えば、フルオキセチン、セルトラリン、パロキセチン、フルボキサミン、シタロプラム、エスシタロプラム)、選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害剤(例えば、レボキセチン、アトモキセチン)、ノルアドレナリンおよびドパミン再取り込み阻害剤/遊離薬(例えばブプロピオン)、セロトニンおよびノルアドレナリン再取り込み阻害剤(例えば、ベンラファキシン、ミルナシプラン、デュロキセチン)、セロトニン拮抗薬/再取り込み阻害剤(例えば、ネファゾドン、トラゾドン)、アルファ2-アドレノセプター拮抗薬(例えばミルタザピン)の群から選択することができる。
【0070】
好ましくは、本発明による経皮治療システムは、マトリックス層が、30~400g/m、好ましくは100~275g/mの単位面積重量を有することをさらに特徴とする。
【0071】
好ましくは、本発明による経皮治療システムは、マトリックス層の、支持層が配置されていない面に、取り外し可能な保護層を含むことをさらに特徴とする。
【0072】
マトリックスに接触しており、適用前に取り外される取り外し可能な保護層は、例えば、支持層を製造するために使用されるものと同じ材料を含むが、但し、その材料は、例えばシリコーン処理によって取り外し可能にされている。他の取り外し可能な保護層は、ポリテトラフルオロエチレン、表面加工紙、セロハン、およびポリ塩化ビニルなどである。
【0073】
さらに、本発明は、医薬としての上記の経皮治療システムに関する。
【0074】
さらに、本発明は、大うつ病性障害(MDD)(単にうつ病としても知られる)の処置に使用するための上記の経皮治療システムに関する。
【0075】
特に、上記の経皮治療システムは、自殺のリスクの低減および/または治療抵抗性うつ病(TRD)の処置に使用することができる。
【0076】
大うつ病性障害(MDD)とは、低い自己評価、および通常は楽しい活動における興味または喜びの喪失を伴う、広汎性で持続性の気分の落ち込みを特徴とする精神障害である。大うつ病性障害は、個人の家族、仕事または学校生活、睡眠および食習慣、ならびに総体的な健康に悪影響を及ぼす、能力が失われた状態である。
【0077】
治療抵抗性うつ病(TRD)とは、一定期間内に適切な抗うつ薬療法に十分に応答しない大うつ病性障害(MDD)の人々を冒す状態のことである。
【0078】
さらに、アメリカ精神医学会(American Psychiatric Association)の精神障害の診断と統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:DSM-5)により認められている下位分類は、メランコリアのうつ病、非定型のうつ病、緊張病性うつ病、不安性の苦痛を伴ううつ病、周産期発症のうつ病および季節性情動障害である。
【0079】
さらに、本発明は、好ましくは、疼痛の処置に使用するための上記の経皮治療システムに関する。
【0080】
疼痛とは、強烈なまたは有害な刺激によって引き起こされることが多い苦痛の感覚である。長期間続く疼痛は慢性または持続性と呼ばれ、急速に回復する疼痛は急性と呼ばれる。
【0081】
侵害受容性疼痛は、接近する、または有害な強度を超える刺激に反応する知覚神経線維(侵害受容器)の刺激によって引き起こされ、侵害刺激の様式によって分類される。最も一般的なカテゴリーは、熱性の、機械的な、および化学的な刺激である。一部の侵害受容器は、これらの様式のうち1つより多くに反応し、したがってポリモーダルと呼ばれる。
【0082】
侵害受容性疼痛は、「内臓」、「深部体性」および「表在体性」疼痛に分けることもできる。
【0083】
神経障害性疼痛は、身体感覚に関与する神経系(体性感覚系)の任意の部位を冒す損傷または疾患によって引き起こされる。神経障害性疼痛は、末梢性、中枢性、または複合性(末梢性および中枢性)の神経障害性疼痛に分けることができる。末梢性神経障害性疼痛は、「灼けつくような」、「ヒリヒリする」、「電撃的な」、「刺すような」または「ピリピリちくちくする」と表現されることが多い。
【0084】
さらに、本発明の経皮治療システムは、異なる投与計画において、例えば連続投与または時間差を設けた投与(staggered administration)において使用することができる。
【0085】
連続投与では、経皮システムは、血漿中で個々の有効成分濃度を実現するために、少なくとも12時間続く期間、適用される。
【0086】
反復投与は、好ましくは連続的に、遅延なく行われる。即ち、本発明による1つまたはそれ以上のTTSが適用期間の最後に除去されると、次の適用期間用の本発明による1つまたはそれ以上のTTSが直ちに適用される。好ましくは、本発明によるTTSが全く身体に適用されない時間は、10分以下、より好ましくは5分以下である。
【0087】
時間差を設けた投与では、経皮システムは、血漿中で個々の有効成分濃度を実現するために、少なくとも4時間続く期間、適用される。
【0088】
時間差を設けた投与は、好ましくは、1日1回、週2回または週1回行われる。即ち、本発明による1つまたはそれ以上のTTSが適用期間の最後に除去されると、次の適用期間用の本発明による1つまたはそれ以上のTTSは、少なくとも18時間の投薬をしない期間を考慮して適用される。
【0089】
好ましい実施形態では、本発明による全てのTTSは、全期間にわたって個体の同じ皮膚領域に投与される。即ち、個体の所定の皮膚領域は、繰り返し、本発明によるTTSで覆われたり、本発明によるTTSを貼り付けられたりする。
【0090】
別の好ましい実施形態では、本発明による全てのTTSは、全期間にわたって毎回、個体の異なる皮膚領域に投与される。即ち、個体の所定の皮膚領域が、繰り返し、本発明によるTTSで覆われたり、本発明によるTTSを貼り付けられたりするわけではない。
【0091】
本発明は、非限定的な例を使用して以下でさらに説明される。
【実施例1】
【0092】
実施例1a~cのS-ケタミンを含有するコーティング組成物の製剤を、下の表1に要約している。表1に示されてもいるように、製剤は重量パーセントを基準とした。
【0093】
【表1】
【0094】
DURO-TAK387-2516:架橋剤を使用して得られた、ヒドロキシル基を含むアクリレート酢酸ビニルコポリマーを主剤とする感圧接着剤。
【0095】
DURO-TAK387-4287:架橋剤を使用せずに得られた、遊離ヒドロキシル基を含むアクリレート酢酸ビニルコポリマーを主剤とする感圧接着剤。
【0096】
DURO-TAK387-2052:架橋剤を使用して得られた、遊離カルボキシル基を含むアクリレート酢酸ビニルコポリマーを主剤とする感圧接着剤。
【0097】
実施例1aおよび1bについては、ビーカーに、S-ケタミン塩基および溶媒(酢酸エチル)、ならびにレブリン酸、ならびにラウリン酸メチル(実施例1b)を入れた。アクリル系感圧接着剤ポリマーDURO-TAK387-4287を添加し、次いで、この混合物を、300rpmまでで、均質な混合物が得られるまで撹拌した(撹拌時間は約60分とした)。
【0098】
実施例1cについては、ビーカーに、S-ケタミン塩基および溶媒(酢酸エチル)、ならびにレブリン酸を入れた。アクリル系感圧接着剤ポリマー(DURO-TAK387-2052)を添加し、次いで、この混合物を、300rpmまでで、均質な混合物が得られるまで撹拌した(撹拌時間は約60分とした)。
【0099】
実施例1dについては、ビーカーに、S-ケタミン塩基および溶媒(酢酸エチル)、ならびにレブリン酸を入れた。アクリル系感圧接着剤ポリマー(DURO-TAK387-2516)を添加し、次いで、この混合物を、300rpmまでで、均質な混合物が得られるまで撹拌した(撹拌時間は約60分とした)。
【0100】
得られたS-ケタミンを含有するコーティング組成物を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(シリコーン処理済み、厚さ75μm、剥離ライナーとして機能し得る)にコートし、室温でおよそ15分間、および60℃で15分間乾燥した。コーティング厚さにより、マトリックス層の単位面積重量が、それぞれ、136.5g/m(実施例1a)、132.8g/m(実施例1b)、130.0g/m(実施例1c)および122.8g/m(実施例1d)になった。乾燥したフィルムをポリエチレンテレフタレート支持層(厚さ23μm)に積層して、S-ケタミンを含有する自己接着性層構造を得た。
【0101】
次いで、個々のシステムを、S-ケタミンを含有する自己接着性層構造から打ち抜いた。特定の実施形態では、上記のTTSに、好ましくは角が丸く、有効剤(active agent)を含まない感圧接着剤マトリックス層を含む、表面積がより大きいさらなる自己接着性層を設けることができる。これは、TTSが、その物理的性質のみに基づくと皮膚に十分に接着しない場合、および/またはS-ケタミンを含有するマトリックス層が、廃棄物を避ける目的で、明白な角(正方形または長方形の形状)を有する場合に有利である。次いで、システムを打ち抜き、一次包装材料のパウチに入れて封止する。
【0102】
実施例1a、実施例1bおよび実施例1dを使用する、局所耐容性の評価およびS-ケタミンの血漿レベルの決定のための前臨床設定
前臨床設定、実施例1aおよび実施例1d
この実験ではGottingenミニブタを使用した。試験品製剤および対応するプラセボ製剤を、貼付剤適用時間3.5日(84時間)で試験した。5つの実薬貼付剤および2つの対応するプラセボ製剤貼付剤を、各試験品製剤につき動物1頭に試験した。
TTSのサイズ:10cm
【0103】
前臨床設定、実施例1b
この実験ではGottingenミニブタを使用した。試験品製剤および対応するプラセボ製剤を、貼付剤適用時間1日(24時間)で試験した。5つの実薬貼付剤および2つの対応するプラセボ製剤貼付剤を、動物1頭に試験した。
TTSサイズ:10cm
【0104】
DRAIZE法による局所不耐容性反応の評価(即ち、浮腫、紅斑または痂皮形成に特に重点化)では、経皮貼付剤で処置した動物のいずれにおいても、適用部位に、浮腫または紅斑のいずれも現れなかった。
【0105】
貼付剤を除去した後に、他の局所不耐容性の徴候(例えば変色または腫脹)は、動物のいずれにおいても、適用部位のいずれにおいても認められなかった。
【0106】
S-ケタミンの血漿レベルの決定の結果を図1に示す。
【0107】
皮膚透過速度の測定
実施例1a~1cにより製造したTTSの透過量および対応する皮膚透過速度を、OECDガイドライン(2004年4月13日に採用)および経皮貼付剤の品質に関するEMAガイドライン(EMA/CHMP/QWP/608924/2014、2014年10月23日に採用)に従って、7.0mlフランツ拡散セルを用いて行ったin vitro実験により、決定した。分層ヒト腹部皮膚(split thickness human abdominal skin)(女性)を使用した。デルマトームを使用し、全てのTTS用に正常な表皮を用いて、皮膚を500μmの厚さに製造した。面積が1.152cmの打ち抜き片を、TTSから打ち抜いた。フランツセルのレセプター培地(抗菌剤として0.1%アジ化食塩水を含むリン酸緩衝液pH5.5)中のS-ケタミン透過量を32±1℃の温度で測定し、対応する皮膚透過速度[μg/cm*時間]を計算した。結果を表2および図2に示す。
【0108】
【表2】
【0109】
S-ケタミンの利用度
24時間および48時間時点のS-ケタミンの利用度を、24時間後および48時間後のTTSの残留含量ならびにS-ケタミンの初期含量を基に計算した。結果を表3および図3に示す。
【0110】
【表3】
【0111】
図1図3に要約されている結果は、有効成分の利用度の改善および有効成分の流束の改善を示す。
【実施例2】
【0112】
本発明および先行技術による各システムを使用しての皮膚透過の比較
実施例2a~cのS-ケタミンを含有するコーティング組成物の製剤を、実施例1に記載しているものと同様に製造した。これらを下の表4に要約している。表4に示されてもいるように、製剤は重量パーセントを基準とした。
【0113】
【表4】
Eutanol HD:オレイルアルコール(促進剤)
Transcutol:ジエチレングリコールモノエチルエーテル(促進剤)
Plastoid B:メタクリル酸ブチルおよびメタクリル酸メチルのコポリマー
【0114】
皮膚透過速度を実施例1と同様に決定した。それを図4に要約している。本発明による実施例(実施例2aおよび実施例2b)の皮膚透過は、流束の発生(最初の8時間の流束)が参照例(実施例2c)と比較して有意に高いため、有利である。
【実施例3】
【0115】
コーティング重量が異なる本発明によるシステムを使用しての皮膚透過の比較
実施例3a~cのS-ケタミンを含有するコーティング組成物の製剤を、実施例1に記載しているものと同様に製造した。これらを下の表5に要約している。表5に示されてもいるように、製剤は重量パーセントを基準とした。
【0116】
【表5】
【0117】
皮膚透過速度を実施例1と同様に決定した。それを図5に要約している。各実施例の皮膚透過は、コーティング重量が流束の発生および流束のプロファイルに及ぼす影響を示す。
【実施例4】
【0118】
架橋剤およびラウリン酸メチルまたはラウリン酸エチルを用いた本発明によるシステムを使用しての皮膚透過の比較
実施例4a~cのS-ケタミンを含有するコーティング組成物の製剤を、実施例1に記載しているものと同様に製造した。これらを下の表6に要約している。表6に示されてもいるように、製剤は重量パーセントを基準とした。
【0119】
【表6】
【0120】
皮膚透過速度を実施例1と同様に決定した。それを図6に要約している。各実施例の皮膚透過は、架橋剤であるアルミニウムアセチルアセトネートが流束の発生に影響しないこと、および流束の発生に関してラウリン酸メチルの方がラウリン酸エチルより有利であることを示す。
【実施例5】
【0121】
異なるポリマーを用いたシステムを使用しての皮膚透過の比較
実施例5a~fのS-ケタミンを含有するコーティング組成物の製剤を下の表7に要約している。表7に示されてもいるように、製剤は重量パーセントを基準とした。
【0122】
【表7】
【0123】
DURO-TAK87-4098:架橋剤を使用せずに得られた、官能基を含まないアクリレート酢酸ビニルコポリマーを主剤とする感圧接着剤。
【0124】
DURO-TAK87-9301:架橋剤を使用せずに得られた、官能基を含まないアクリレートポリマーを主剤とする感圧接着剤。
【0125】
DURO-TAK87-4287:架橋剤を使用せずに得られた、遊離ヒドロキシル基を含むアクリレート酢酸ビニルコポリマーを主剤とする感圧接着剤。
【0126】
DURO-TAK87-2054:架橋剤を使用して得られた、遊離カルボキシル基を含むアクリレート酢酸ビニルコポリマーを主剤とする感圧接着剤。
【0127】
DURO-TAK87-6908:架橋剤を使用せずに得られた、官能基を含まないポリイソブチレンポリマーを主剤とする感圧接着剤。
【0128】
Plastoid B:架橋剤を使用せずに得られた、官能基を含まないメタクリル酸ブチルとメタクリル酸メチルとのコポリマーを主剤とする感圧接着剤。
【0129】
実施例5a~dおよび5fについては、ビーカーにS-ケタミン塩基を入れた。接着性ポリマーを添加し、次いで、この混合物を、200rpmまでで、均質な混合物が得られるまで撹拌した(撹拌時間は約90分とした)。
【0130】
得られたS-ケタミンを含有するコーティング組成物を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(シリコーン処理済み、厚さ75μm、剥離ライナーとして機能し得る)にコートし、室温でおよそ15分間、および60℃で15分間乾燥した。コーティング厚さにより、マトリックス層の単位面積重量が、それぞれ、109.2g/m(実施例5a)、105.1g/m(実施例5b)、106.0g/m(実施例5c)、105.0g/m(実施例5d)および100.2g/m(実施例5f)になった。乾燥したフィルムをポリエチレンテレフタレート支持層(厚さ23μm)に積層して、S-ケタミンを含有する自己接着性層構造を得た。
【0131】
実施例5eについては、ビーカーにS-ケタミン塩基を入れた。メタクリル酸ブチルとメタクリル酸メチルとのコポリマー溶液(50%;Plastoid B)を添加し、次いで、この混合物を、200rpmまでで、均質な混合物が得られるまで撹拌した(撹拌時間は約90分とした)。
【0132】
得られたS-ケタミンを含有するコーティング組成物を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(シリコーン処理済み、厚さ75μm、剥離ライナーとして機能し得る)にコートし、室温でおよそ15分間、および60℃で15分間乾燥した。コーティング厚さにより、マトリックス層の単位面積重量が107.3g/mになった。乾燥したフィルムをポリエチレンテレフタレート支持層(厚さ23μm)に積層して、S-ケタミンを含有する自己接着性層構造を得た。
【0133】
皮膚透過速度を実施例1と同様に決定した。それを図7に要約している。各実施例の皮膚透過は、遊離ヒドロキシル基を含む感圧接着剤の方が、皮膚流束速度に関してより有利であることを示す。
【実施例6】
【0134】
異なるポリマーを用いたシステムを使用してのプローブタックおよび接着力の比較
実施例5a~dおよび5fのS-ケタミンを含有するコーティング組成物の製剤を、プローブタックおよび接着力の測定のために使用した。
【0135】
【表8】
【0136】
プローブタックの測定:
機器:プローブタック試験機、PT1000(ChemInstruments、米国)
プローブの直径:5.0mm
プローブのマトリックスとの接触時間:1秒
サンプルサイズ:11.3cm
【0137】
積層片を打抜き型でサンプルサイズに打ち抜いた。その後、サンプルリングを使用して、プローブタック試験機にサンプルを載せ、測定を開始した(積層物毎にn=3回測定)。各測定後、サンプルリングおよびプローブをガソリン(沸点範囲80/110)で清浄にした。
【0138】
3回測定の平均値が報告された。
【0139】
接着力の測定:
機器:定速伸長(CRE)引張試験機、zwicki-lineZ5.0(Zwick-Roell AG、独国)
試験プレート:DIN EN1939/ASTM D3330/3330M-04によるステンレス鋼プレート
サンプルサイズ:幅:25mm;長さ:およそ10cm
測定前経路/測定経路/測定後経路:5mm/50mm/5mm
試験速度:300mm/分
【0140】
積層片を打抜き型で25mm幅片に打ち抜いた。その後、打ち抜き片をおよそ10cm長のサンプルに製造した。剥離ライナーを下端で数ミリメートル持ち上げ、現れたマトリックス面に、接着剤面を有する延伸テープを貼り付けた。その後、剥離ライナーを完全に剥がし、サンプルを鋼プレートに手作業で貼り付けた。10分の平衡時間後に、および鋼プレートを機器の中に固定し、ゼロに調整し、延伸テープの自由端を上部クランプに取り付けた後に、測定を開始した。上記のパラメーターを用いて測定を開始した。
【0141】
3回の測定の平均値が報告された。
【図面の簡単な説明】
【0142】
図1図1は、S-ケタミンの血漿レベルの決定の結果を示す。
図2図2は、実施例(1)に基づく被風透過速度の測定結果を示す。
図3図3は、S-ケタミンの利用度の測定結果を示す。
図4図4は、他の実施例(2)に基づく皮膚透過速度の測定結果を示す。
図5図5は、他の実施例(3)に基づく皮膚透過速度の測定結果を示す。
図6図6は、他の実施例(4)に基づく皮膚透過速度の測定結果を示す。
図7図7は、他の実施例(5)に基づく皮膚透過速度の測定結果を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7