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特許7454006制御パラメータ調整方法、プログラムおよび記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】制御パラメータ調整方法、プログラムおよび記録媒体
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/26 20060101AFI20240313BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20240313BHJP
   B05C 5/02 20060101ALN20240313BHJP
   B05C 11/10 20060101ALN20240313BHJP
【FI】
B05D1/26 Z
B05D3/00 D
B05C5/02
B05C11/10
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022026060
(22)【出願日】2022-02-22
(65)【公開番号】P2023122388
(43)【公開日】2023-09-01
【審査請求日】2022-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】仲村 武瑠
(72)【発明者】
【氏名】安陪 裕滋
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-206114(JP,A)
【文献】特開2011-005465(JP,A)
【文献】特開2023-007691(JP,A)
【文献】特開2022-138109(JP,A)
【文献】特開2022-138108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C1/00-21/00
B05D1/00-7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルから処理液を吐出しつつ、前記ノズルに対して基板を相対的に移動させることにより、基板に処理液を塗布する基板処理装置の制御パラメータを調整する制御パラメータ調整方法であって、
a) 前記ノズルが吐出する処理液の吐出圧力の時間変化を示す吐出データを準備する吐出データ準備工程と、
b) 前記吐出データ準備工程の後、前記ノズルに対して前記基板を相対的に移動させる移動機構を制御するための移動制御パラメータを調整する移動制御パラメータ調整工程と、
を含み、
前記移動制御パラメータ調整工程は、
b-1) 設定された移動制御パラメータに基づいて前記移動機構を制御した場合の移動速度を計測する移動速度計測工程と、
b-2) 前記吐出データと、前記移動機構における移動制御の制約条件を課した評価関数とを用いて、前記移動速度計測工程で得られる速度データを評価する評価工程と、
を含む、制御パラメータ調整方法。
【請求項2】
請求項1に記載の制御パラメータ調整方法であって、
前記評価関数は、前記吐出データと前記速度データとの差異を示す評価値を導出する関数である、制御パラメータ調整方法。
【請求項3】
請求項2に記載の制御パラメータ調整方法であって、
前記評価工程は、
b-21) 前記吐出データを第1回帰関数に回帰することにより、第1回帰パラメータを取得する第1回帰工程と、
b-22) 前記速度データを前記第1回帰関数に回帰することにより、第2回帰パラメータを取得する第2回帰工程と、
を含み、
前記第1回帰関数は、前記移動制御の制約条件を課した関数であり、
前記評価関数は、前記第1回帰パラメータと前記第2回帰パラメータとの差異を示す評価値を導出する関数である、制御パラメータ調整方法。
【請求項4】
請求項3に記載の制御パラメータ調整方法であって、
前記評価工程は、
b-23) 前記吐出データと前記速度データのスケールが一致するように、前記吐出データまたは前記速度データを正規化する工程、
を含む、制御パラメータ調整方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の制御パラメータ調整方法であって、
前記評価工程は、
b-24) 前記吐出データから、吐出量をゼロから所定の定常吐出量まで増加させる増加期間の部分吐出データを抽出する第1抽出工程と、
b-25) 前記速度データから、前記増加期間の部分速度データを抽出する第2抽出工程と、
b-26) 前記部分吐出データと、前記評価関数とに基づいて、前記部分速度データを評価する工程と、
を含む、制御パラメータ調整方法。
【請求項6】
請求項に記載の制御パラメータ調整方法であって、
前記第1回帰関数が、非対称ロジスティック関数である、制御パラメータ調整方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の制御パラメータ調整方法であって、
前記吐出データが、前記ノズルから前記処理液を吐出するために前記処理液に付与される吐出圧力を示すデータである、制御パラメータ調整方法。
【請求項8】
コンピュータが実行可能なプログラムであって、
前記コンピュータに請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の制御パラメータ調整方法を実行させる、プログラム。
【請求項9】
コンピュータが読み取り可能な記録媒体であって、
請求項8に記載のプログラムが記録されている、記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示される主題は、制御パラメータ調整方法、プログラムおよび記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイ(FPD)の製造工程では、コータと呼ばれる基板処理装置が用いられる。コータは、ガラスなどの基板に対して、ノズルからレジスト液などの処理液を吐出させながら、基板に対してノズルを走査させる。コータでは、レジスト液等の処理液に圧力が付与されることによって、ノズルから処理液が吐出させる。また、移動機構が、ノズルに対して基板を相対的に移動させることによって、基板の表面に処理液の塗布膜が形成される。
【0003】
この種の基板処理装置においては、基板全体に亘って、塗布膜の膜厚を均一にすることが求められる場合がある。膜厚を均一にするために、塗布条件や制御パラメータの調整が適宜行われている。この調整作業では、技術者が、目視で吐出圧力の波形を確認しつつ、複数の制御パラメータの調整を行う。このため、調整作業は、技術者の知識や経験に依存するところが大きい。したがって、制御パラメータの調整は、技術者の多大な時間と労力を要する。また、処理液を大量に消費してしまうおそれがある。そのため、制御パラメータを効率的に調整する技術がこれまでにも提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、理論上、処理液の吐出流量と、基板(10)に対する塗布ユニット(30)の走行速度との比が一定であれば、基板(10)上の塗布膜の厚さが一定となることに着目して、ポンプ駆動指令を調整する手法が提案されている。具体的には、一定区間毎に、吐出流量波形の傾きと走行速度波形の傾きとが算出され、算出された傾きの誤差が許容範囲に収まるように、ポンプ駆動指令が調整される。
【0005】
また、特許文献2は、基板(G)上で処理液が乾燥固化する分の濃度や処理液の基板付着係数(μ)といった薬液の物性値をもとに推定膜厚(Th)を算出する式を定義し、これを用いて基板(G)の移動速度を求める手法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-005465号公報
【文献】特開2012-206114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載された手法の場合、移動機構に課される移動制御の制約条件(例えば、加減速制御の制約など)が考慮されていない。このため、式を元に求められる基板の移動速度が、実際に制御可能な速度であるか保証がないという問題があった。式で求めた速度が制御可能な速度でない場合、移動機構を制御するための移動制御パラメータを効率的に調整することが難しくなる。
【0008】
本発明の目的は、ノズルに対して基板を移動させる移動制御に制約条件がある場合でも、移動制御パラメータを効率的に調整することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、第1態様は、ノズルから処理液を吐出しつつ、前記ノズルに対して基板を移動させることにより、基板に処理液を塗布する基板処理装置の制御パラメータを調整する制御パラメータ調整方法であって、a)前記ノズルが吐出する処理液の吐出圧力の時間変化を示す吐出データを準備する吐出データ準備工程と、b)前記吐出データ準備工程の後、前記ノズルに対して前記基板を相対的に移動させる移動機構を制御するための移動制御パラメータを調整する移動制御パラメータ調整工程と、を含み、前記移動制御パラメータ調整工程は、b-1)設定された移動制御パラメータに基づいて前記移動機構を制御した場合の移動速度を計測する移動速度計測工程と、b-2)前記吐出データと、前記移動機構における移動制御の制約条件を課した評価関数とを用いて、前記移動速度計測工程で得られる速度データを評価する評価工程とを含む。
【0010】
第2態様は、第1態様の制御パラメータ調整方法であって、前記評価関数は、前記吐出データと前記速度データとの差異を示す評価値を導出する関数である。
【0011】
第3態様は、第2態様の制御パラメータ調整方法であって、前記評価工程は、b-21)前記吐出データを第1回帰関数に回帰することにより、第1回帰パラメータを取得する第1回帰工程と、b-22)前記速度データを前記第1回帰関数に回帰することにより、第2回帰パラメータを取得する第2回帰工程と、を含み、前記第1回帰関数は、前記移動制御の制約条件を課した関数であり、前記評価関数は、前記第1回帰パラメータと前記第2回帰パラメータとの差異を示す評価値を導出する関数である。
【0012】
第4態様は、第3態様の制御パラメータ調整方法であって、前記評価工程は、b-23)前記吐出データと前記速度データのスケールが一致するように、前記吐出データまたは前記速度データを正規化する工程を含む。
【0013】
第5態様は、第1態様から第4態様のいずれか1つの制御パラメータ調整方法であって、前記評価工程は、b-24)前記吐出データから、吐出量をゼロから所定の定常吐出量まで増加させる増加期間の部分吐出データを抽出する第1抽出工程と、b-25)前記速度データから、前記増加期間の部分速度データを抽出する第2抽出工程と、b-26)前記部分吐出データと、前記評価関数とに基づいて、前記部分速度データを評価する工程とを含む。
【0014】
第6態様は、第様の制御パラメータ調整方法であって、前記第1回帰関数が、非対称ロジスティック関数である。
【0015】
第7態様は、第1態様から第6態様のいずれか1つの制御パラメータ調整方法であって、前記吐出データが、前記ノズルから前記処理液を吐出するために前記処理液に付与される吐出圧力を示すデータである。
【0016】
第8態様は、コンピュータが実行可能なプログラムであって、前記コンピュータに第1態様から第7態様のいずれか1つの制御パラメータ調整方法を実行させる。
【0017】
第9態様は、コンピュータが読み取り可能な記録媒体であって、第8態様のプログラムが記録されている。
【発明の効果】
【0018】
第1態様から第7態様の制御パラメータ調整方法によれば、移動制御の制約条件を課した評価関数を用いて速度データを評価することによって、移動制御の制約条件を考慮しつつ移動制御パラメータを調整できる。このため、移動制御パラメータを効率良く調整できる。
【0019】
第2態様の制御パラメータ調整方法によれば、吐出データと速度データとの差異に基づいて、速度データを評価できる。
【0020】
第3態様の制御パラメータ調整方法によれば、第1回帰パラメータおよび第2回帰パラメータの差異に基づいて、速度データを評価できる。
【0021】
第4態様の制御パラメータ調整方法によれば、スケールを合わせることができるため、吐出データと速度データを比較し易くなる。
【0022】
第6態様の制御パラメータ調整方法によれば、移動制御がS字加減速制御である場合に、移動速度を良好にフィッティングできる。
【0023】
第7態様の制御パラメータ調整方法によれば、吐出圧力と、移動制御パラメータに基づく移動速度とを比較することにより、移動制御パラメータを評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施形態に係る塗布装置の全体構成を模式的に示す図である。
図2】塗布液供給機構の構成を示す図である。
図3図2に示すポンプの作動ディスク部の移動パターンを示すグラフである。
図4】吐出圧力波形を示すグラフである。
図5】制御ユニットの構成例を示すブロック図である。
図6】塗布装置の制御ユニットが実行するパラメータ最適化処理を示すフローチャートである。
図7図6に示す吐出制御パラメータ最適化工程の詳細を示すフローチャートである。
図8図6に示す移動制御パラメータ最適化工程の詳細を示すフローチャートである。
図9】増加期間の部分吐出データと、部分吐出データを回帰関数に回帰した第1回帰曲線を示す図である。
図10】正規化された増加期間の正規化部分速度データと、正規化部分吐出データを回帰した第2回帰曲線とを示す図である。
図11】吐出圧力波形の各期間を説明するための図である。
図12】吐出圧力波形に対して吐出制御パラメータ最適化部が実行する演算の一例を模式的に示す図である。
図13】特徴量Fv1に基づき吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明するための図である。
図14】特徴量Fv2に基づき吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明するための図である。
図15】特徴量Fv3に基づき吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明するための図である。
図16】特徴量Fv4を説明するための図である。
図17】特徴量Fv5を説明するための図である。
図18】特徴量Fv6に基づき吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明するための図である。
図19】特徴量Fv7に基づき吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明するための図である。
図20】特徴量Fv8に基づき吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明するための図である。
図21】特徴量Fv9に基づき吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明するための図である。
図22】特徴量Fv10に基づき吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<1. 実施形態>
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、この実施形態に記載されている構成要素はあくまでも例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。図面においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数が誇張又は簡略化して図示されている場合がある。
【0026】
図1は、実施形態に係る塗布装置1の全体構成を模式的に示す図である。塗布装置1は、基板Sの上面Sfに塗布液を塗布する基板処理装置である。基板Sは、例えば、液晶表示装置用のガラス基板である。なお、基板Sは、半導体ウエハ、フォトマスク用ガラス基板、プラズマディスプレイ用ガラス基板、磁気・光ディスク用のガラス又はセラミック基板、有機EL用ガラス基板、太陽電池用ガラス基板又はシリコン基板、その他フレキシブル基板およびプリント基板などの電子機器向けの各種被処理基板であってもよい。塗布装置1は、例えばスリットコータである。
【0027】
図1においては、塗布装置1の各要素の配置関係を説明するため、XYZ座標系を定義している。基板Sの移動方向は、「X方向」である。X方向において基板Sが進行する方向(移動方向の下流へ向かう方)が+X方向、その逆方向(移動方向の上流へ向かう方)が-X方向である。また、X方向に直交する方向はY方向であり、X方向及びY方向に直交する方向はZ方向である。以下の説明では、Z方向を鉛直方向とし、X方向およびY方向を水平方向とする。Z方向において、+Z方向を上方向、-Z方向を下方向とする。
【0028】
塗布装置1は、+X方向に向かって順に、入力コンベヤ100と、入力移載部2と、浮上ステージ部3と、出力移載部4と、出力コンベヤ110とを備えている。入力コンベヤ100と、入力移載部2と、浮上ステージ部3と、出力移載部4と、出力コンベヤ110とは、基板Sが通過する移動経路を形成している。また、塗布装置1は、移動機構5と、塗布機構7と、塗布液供給機構8と、制御ユニット9とをさらに備えている。
【0029】
基板Sは、上流側から入力コンベヤ100に搬送される。入力コンベヤ100は、コロコンベヤ101と、回転駆動機構102とを備えている。回転駆動機構102は、コロコンベヤ101の各コロを回転させる。コロコンベヤ101の各コロの回転によって、基板Sは、水平姿勢で下流(+X方向)に搬送される。「水平姿勢」とは、基板Sの主面(面積が最大の面)が水平面(XY平面)に対して平行な状態をいう。
【0030】
入力移載部2は、コロコンベヤ21と回転・昇降駆動機構22とを備えている。回転・昇降駆動機構22は、コロコンベヤ21の各コロを回転させるとともに、コロコンベヤ21を昇降させる。コロコンベヤ21の回転によって、基板Sは、水平姿勢で下流(+X方向)に搬送される。また、コロコンベヤ21の昇降により、基板SのZ方向における位置が変更される。基板Sは、入力コンベヤ100から入力移載部2を介して浮上ステージ部3へ移載される。
【0031】
図1に示すように、浮上ステージ部3は、略平板状である。浮上ステージ部3は、X方向に沿って3分割されている。浮上ステージ部3は、+X方向に向かって順に、入口浮上ステージ31と、塗布ステージ32と、出口浮上ステージ33とを備えている。入口浮上ステージ31の上面、塗布ステージ32の上面、および出口浮上ステージ33の上面は、同一平面上にある。浮上ステージ部3は、リフトピン駆動機構34と、浮上制御機構35と、昇降駆動機構36とをさらに備えている。入口浮上ステージ31には、複数のリフトピンが配置されている。リフトピン駆動機構34は、複数のリフトピンを昇降させる。浮上制御機構35は、基板Sを浮上させるための圧縮空気を、入口浮上ステージ31、塗布ステージ32、および出口浮上ステージ33に供給する。昇降駆動機構36は、出口浮上ステージ33を昇降させる。
【0032】
入口浮上ステージ31の上面、および、出口浮上ステージ33の上面には、浮上制御機構35から供給される圧縮空気を噴出する多数の噴出穴がマトリクス状に配置されている。各噴出穴から圧縮空気が噴出すると、基板Sが浮上ステージ部3に対して上方に浮上する。すると、基板Sの下面Sbが浮上ステージ部3の上面から離間しつつ、水平姿勢で支持される。基板Sが浮上した状態における、基板Sの下面Sbと浮上ステージ部3の上面との間の距離(浮上量)は、例えば、10μm以上500μm以下である。
【0033】
塗布ステージ32の上面には、浮上制御機構35から供給される圧縮空気を噴出する噴出穴と、気体を吸引する吸引穴とが、X方向およびY方向において、交互に配置されている。浮上制御機構35は、噴出穴からの圧縮空気の噴出量と、吸引穴からの空気の吸引量とを制御する。これにより、塗布ステージ32の上方を通過する基板Sの上面SfのZ方向における位置が規定値となるように、塗布ステージ32に対する基板Sの浮上量が精密に制御される。なお、塗布ステージ32に対する基板Sの浮上量は、後述するセンサ61またはセンサ62の検出結果に基づいて、制御ユニット9により算出される。また、塗布ステージ32に対する基板Sの浮上量は、好ましくは、気流制御によって高精度に調整可能とされる。
【0034】
浮上ステージ部3に搬入された基板Sは、コロコンベヤ21から+X方向への推進力が付与され、入口浮上ステージ31上に搬送される。入口浮上ステージ31、塗布ステージ32および出口浮上ステージ33は、基板Sを浮上状態で支持する。浮上ステージ部3として、例えば、特許第5346643号に記載された構成が採用されてもよい。
【0035】
移動機構5は、浮上ステージ部3の下方に配置されている。移動機構5は、チャック機構51と、吸着・走行機構52とを備える。チャック機構51は、吸着部材に設けられた吸着パッド(図示省略)を備えている。チャック機構51は吸着パッドを基板Sの下面Sbの周縁部に当接させた状態で、基板Sを下側から支持する。吸着・走行機構52は、吸着パッドに負圧を付与することにより、基板Sを吸着パッドに吸着する。また、吸着・走行機構52は、チャック機構51をX方向に往復走行させる。
【0036】
チャック機構51は、基板Sの下面Sbが浮上ステージ部3の上面よりも高い位置に位置する状態で、基板Sを保持する。チャック機構51により基板Sの周縁部が保持された状態で、基板Sは、浮上ステージ部3から付与される浮力により水平姿勢を維持する。
【0037】
図1に示すように、塗布装置1は、板厚測定用のセンサ61を備えている。センサ61は、コロコンベヤ21の近傍に配置されている。センサ61は、チャック機構51に保持された基板Sの上面SfのZ方向における位置を検出する。また、センサ61の直下に基板Sを保持していない状態のチャック(図示省略)が位置することで、センサ61は吸着部材の上面である吸着面の鉛直方向Zにおける位置を検出可能となっている。
【0038】
チャック機構51は、浮上ステージ部3に搬入された基板Sを保持しつつ、+X方向に移動する。これにより、基板Sが入口浮上ステージ31の上方から塗布ステージ32の上方を経由して、出口浮上ステージ33の上方へ搬送される。そして、基板Sは、出口浮上ステージ33から出力移載部4へ移動される。
【0039】
出力移載部4は、基板Sを出口浮上ステージ33の上方の位置から出力コンベヤ110へ移動させる。出力移載部4は、コロコンベヤ41と、回転・昇降駆動機構42とを備えている。回転・昇降駆動機構42は、コロコンベヤ41を回転駆動するとともに、コロコンベヤ41をZ方向に沿って昇降させる。コロコンベヤ41の各コロが回転することによって、基板Sが+X方向へ移動する。また、コロコンベヤ41が昇降することによって、基板SがZ方向に変位する。
【0040】
出力コンベヤ110は、コロコンベヤ111と、回転駆動機構112とを備えている。出力コンベヤ110は、コロコンベヤ111の各コロの回転により基板Sを+X方向に搬送し、基板Sを塗布装置1外へ払い出す。なお、入力コンベヤ100および出力コンベヤ110は、塗布装置1の一部である。ただし、入力コンベヤ100及び出力コンベヤ110は、塗布装置1とは別の装置に組み込まれていてもよい。
【0041】
塗布機構7は、基板Sの上面Sfに塗布液を塗布する。塗布機構7は、基板Sの移動経路の上方に配置されている。塗布機構7は、ノズル71を有する。ノズル71は、下面にスリット状の吐出口を有するスリットノズルである。ノズル71は、位置決め機構(不図示)に接続されている。位置決め機構は、ノズル71を、塗布ステージ32の上方の塗布位置(図1中、実線で示す位置)と、後述するメンテナンス位置との間で移動させる。塗布液供給機構8は、ノズル71に接続されている。塗布液供給機構8がノズル71に塗布液を供給することによって、ノズル71の下面に配置された吐出口から塗布液が吐出される。
【0042】
塗布装置1では、塗布液を吐出するノズル71に対して、移動機構5が基板Sを移動させることによって、基板Sに塗布液が塗布される。しかしながら、移動機構5が、一定位置に配置された基板Sに対してノズル71を移動させるように構成されていてもよい。また、移動機構5が、ノズル71および基板Sの双方を移動させるように構成されていてもよい。この場合、搬送される基板Sの速度よりも速い速度でノズル71が基板Sを追いかけるように、搬送機構5がノズル71および基板Sを搬送してもよい。
【0043】
図2は、塗布液供給機構8の構成を示す図である。塗布液供給機構8は、ポンプ81と、配管82と、塗布液補充ユニット83と、配管84と、開閉弁85と、圧力計86と、駆動部87とを備えている。ポンプ81は、塗布液をノズル71に送給するための送給源であり、体積変化により塗布液を送給する。ポンプ81は、例えば、特開平10-61558号公報に記載されたベローズタイプのポンプを採用してもよい。図2に示すように、ポンプ81は、径方向において弾性膨張収縮自在である可撓性チューブ811を有している。可撓性チューブ811の一方端は、配管82を介して塗布液補充ユニット83と接続されている。可撓性チューブ811の他方端は、配管84を介してノズル71と接続されている。
【0044】
ポンプ81は、軸方向において弾性変形自在であるベローズ812を有している。ベローズ812は、小型ベローズ部813と、大型ベローズ部814と、ポンプ室815と、作動ディスク部816とを有している。ポンプ室815は、可撓性チューブ811とベローズ812との間に配置されている。ポンプ室815には、非圧縮性媒体が封入されている。作動ディスク部816は、駆動部87に接続されている。
【0045】
塗布液補充ユニット83は、塗布液を貯留する貯留タンク831を有している。貯留タンク831は、配管82を介してポンプ81と接続されている。配管82には、開閉弁833が介挿されている。開閉弁833は、制御ユニット9からの指令に応じて開閉する。開閉弁833が開かれると、貯留タンク831からポンプ81の可撓性チューブ811への塗布液の補給が可能となる。また、開閉弁833が閉じると、貯留タンク831からポンプ81の可撓性チューブ811への塗布液の補充が規制される。
【0046】
配管84は、ポンプ81の出力側に接続されている。開閉弁85は、配管84に介挿されている。開閉弁85は、制御ユニット9からの指令に応じて開閉する。開閉弁85が開閉することにより、ノズル71に対する塗布液の送液と送液停止とが切り替えられる。圧力計86は、配管84に配置されている。圧力計86は、ノズル71に送液される塗布液の圧力(吐出圧力)を検出し、検出した圧力値を示す信号を「制御ユニット9に出力する。
【0047】
図3は、図2に示すポンプ81の作動ディスク部816の移動パターンを示すグラフである。図3中、横軸は時刻を示しており、縦軸は作動ディスク部816の移動速度を示す。駆動部87は、制御ユニット9からの指令に応じて、図3に示すような移動パターン(時間経過に対する作動ディスク部816の速度の変化を示すパターン)で作動ディスク部816を軸方向に変位させる。作動ディスク部816の変位により、ベローズ812の内側の容積が変化する。これにより、可撓性チューブ13が径方向に膨張収縮してポンプ動作を実行し、塗布液補充ユニット83から補給される塗布液がノズル71に向けて送給される。作動ディスク部816の移動パターンは、ノズル71から吐出される塗布液の吐出特性と密接に関係しているため、移動パターンに応じて、図4に示すような吐出圧力の時間変化を示す吐出圧力波形が得られる。なお、吐出圧力の増減に応じて、吐出量(ノズル71から吐出される塗布液の量)も増減する。すなわち、吐出圧力波形は、吐出量を示す「吐出データ」の一例である。
【0048】
図4は、吐出圧力波形を示すグラフである。図4(a)は、望ましい吐出圧力波形である目標圧力波形を示すグラフである。図4(b)は、実際に測定される吐出圧力波形の一例である。図4中、横軸は時刻を示しており、縦軸は、吐出圧力(または吐出速度)を示している。
【0049】
本実施形態では、作動ディスク部816の移動を規定する各種パラメータ(加速時間、定常速度、定常速度時間、減速時間など)を調整することによって、ノズル71から吐出される塗布液の吐出特性(具体的には、吐出速度(吐出圧力)の時間変化)を所望の目標特性(図4(a)に示すグラフ)と一致あるいは近似させる最適化処理が適宜行われる。この点については、後に詳述する。
【0050】
図1および図2に示すように、塗布液供給機構8から塗布液が供給されるノズル71には、センサ62が配置されている。センサ62は、基板SのZ方向における高さを非接触で検知する。センサ62は、制御ユニット9と電気的に接続されている。センサ62の検出結果に基づいて、制御ユニット9は、浮上している基板Sと、塗布ステージ32の上面との間の距離(離間距離)を測定する。そして、制御ユニット9は、測定した離間距離に基づいて、位置決め機構によるノズル71の塗布位置を調整する。なお、センサ62としては、光学式センサ、または、超音波センサを適用できる。
【0051】
塗布機構7は、ノズル洗浄待機ユニット72を備えている。ノズル洗浄待機ユニット72は、メンテナンス位置に配置されたノズル71に対して所定のメンテナンスを行う。ノズル洗浄待機ユニット72は、ローラ721と、洗浄部722と、ローラバット723とを有している。ノズル洗浄待機ユニット72は、ノズル71に対して洗浄および液だまりの形成を行うことによって、ノズル71の吐出口を塗布処理に適した状態に整える。また、塗布装置1においては、塗布液に加わる吐出圧力を評価するため、ノズル71がメンテナンス位置に配置された状態で、ノズル71から塗布液を吐出する疑似吐出が実行される。
【0052】
図5は、制御ユニット9の構成例を示すブロック図である。制御ユニット9は、塗布装置1の各要素の動作を制御する。制御ユニット9は、コンピュータであって、演算部91と、記憶部93と、ユーザインターフェース95とを備えている。演算部91は、CPU(Central Processing Unit)またはGPU(Graphics Processing Unit)などで構成されるプロセッサである。記憶部93は、RAM(Random Access Memory)などの一過性の記憶装置、および、HDD(Hard Disk Drive)およびSDD(Solid State Drive)などの非一過性の補助記憶装置で構成される。
【0053】
ユーザインターフェース95は、ユーザに情報を表示するディスプレイ、ユーザによる入力操作を受け付ける入力機器を有している。制御ユニット9としては、例えばデスクトップ型、ラップトップ型、あるいはタブレット型のコンピュータを用いることができる。
【0054】
記憶部93は、プログラム931を記憶する。プログラム931は、記録媒体Mによって提供される。すなわち、記録媒体Mは、プログラム931を、コンピュータである制御ユニット9によって読取可能に記録されている。記録媒体Mは、例えば、USB(Universal Serial Bus)メモリ、DVD(Digital Versatile Disc)などの光学ディスク、磁気ディスクなどである。
【0055】
演算部91は、プログラム931を実行することにより、吐出制御部910、吐出特性計測部911、移動制御部912、速度計測部913、吐出制御パラメータ最適化部915、および、移動制御パラメータ最適化部917として機能する。
【0056】
吐出制御部910は、ノズル71に塗布液を送給するポンプ81の動作(送給動作)を制御する。吐出制御部910は、予め設定された吐出制御パラメータに基づいて、ポンプ81の送給動作を制御する。
【0057】
吐出特性計測部911は、吐出特性を計測する。具体的には、吐出特性計測部911は、疑似吐出中に圧力計86から出力される吐出圧力(塗布液の圧力値)に基づいて、吐出圧力の経時変化を示す圧力波形を計測する。すなわち、吐出特性計測部911は、所定のサンプリング周期で圧力計86が測定した吐出圧力を周期的に取得する。これにより、ノズル71から塗布液が吐出される期間において塗布液に与えられた吐出圧力が取得され、吐出データとして記憶部93に記憶される。吐出データは、時刻とその時刻に測定された吐出圧力の関係(すなわち、吐出圧力の経時変化)を示すデータである。
【0058】
移動制御部912は、ノズル71に対して基板Sを移動させる吸着・走行機構52の動作(移動動作)を、予め設定された移動制御パラメータに基づいて制御する。
【0059】
速度計測部913は、チャック機構51および吸着・走行機構52による基板Sの移動速度を計測する。速度計測部913は、吸着・走行機構52の出力(例えば、ロータリーエンコーダの出力など)に基づいて、基板Sの移動速度を計測する。速度計測部913は、取得した速度を、速度データとして記憶部93に記憶させる。速度データは、時刻とその時刻に測定された移動速度の関係(すなわち、移動速度の経時変化)を示すデータである。
【0060】
吐出制御パラメータ最適化部915は、吐出制御パラメータを最適化する処理を行う。吐出制御パラメータ最適化部915は、疑似吐出を行うことによって得られる吐出データ(吐出特性)を、吐出データ評価関数を用いて評価値を算出し、その評価値に基づいて吐出制御パラメータを更新する。そして、吐出制御パラメータ最適化部915は、更新された吐出制御パラメータに基づいて、疑似吐出を再び行う。吐出制御パラメータ最適化部915は、評価値が許容範囲に入るまで、疑似吐出、吐出データの評価、および吐出制御パラメータの更新を繰り返し実行することにより、吐出制御パラメータを最適化する。吐出データ評価関数については、後述する。
【0061】
塗布装置1において、ノズル71から吐出される塗布液を基板Sの上面Sfに均一な膜厚で塗布するためには、ノズル71から吐出される際の塗布液の吐出速度、つまり吐出圧力を調整することが重要である。例えば、図4(a)に示すような目標でノズル71から塗布液を吐出することで、膜厚の均一性を高めることができる。このため、吐出圧力波形が目標吐出圧力波形に近づくように、吐出圧力波形と密接に関連する吐出制御パラメータが最適化される。具体的には、作動ディスク部816の移動を規定する設定値であって、図3および以下に示す16個のポンプ制御用の設定値が、最適化対象の吐出制御パラメータである。
・定常速度V1
・加速時間T1:停止状態から定常速度V1に加速させる時間
・定常速度時間T2:定常速度V1を継続させる時間
・定常速度V2
・加速時間T3:定常速度V1から定常速度V2に減速させる時間
・定常速度時間T4:定常速度V2を継続させる時間
・定常速度V3
・加速時間T5:定常速度V2から定常速度V3に加速させる時間
・定常速度時間T6:定常速度V3を継続させる時間
・定常速度V4
・加速時間T7:定常速度V3から定常速度V4に減速させる時間
・定常速度時間T8:定常速度V4を継続させる時間
・定常速度V5
・加速時間T9:定常速度V4から定常速度V5に加速させる時間
・定常速度時間T10:定常速度V5を継続させる時間
・減速時間T11:定常速度V5から停止状態に減速させる時間
【0062】
上記16個の吐出制御パラメータは、ノズル71に塗布液を送給するポンプ81の動作(送給動作)を制御するための制御量に相当する。なお、吐出制御パラメータの種類および個数は、特に制限されるものではなく、ポンプ81の送給動作を制御する制御量である限り、任意に設定され得る。
【0063】
移動制御パラメータ最適化部917は、移動制御パラメータを最適化する処理を行う。移動制御パラメータ最適化部917は、疑似搬送を行うことによって得られる速度データ(移動特性)を所定の評価関数を用いて評価値を算出し、その評価値に基づいて、移動制御パラメータを更新する。移動制御パラメータ最適化部917は、更新された移動制御パラメータに基づいて、疑似搬送を再び実行する。このように、移動制御パラメータ最適化部917は、評価値が許容範囲に入るまで、疑似搬送、速度データの評価、および移動制御パラメータの更新を繰り返し実行することにより、移動制御パラメータを最適化する。
【0064】
なお、「疑似搬送」とは、移動制御パラメータに基づいて、移動制御部912が吸着・走行機構52を制御することによってチャック機構51を移動させることにより、基板Sを疑似的に搬送することをいう。なお、疑似搬送において、チャック機構51は、実際に基板Sまたは基板S以外の模擬的部材を保持していてもよいし、あるいは、何も保持していなくてもよい。
【0065】
<吐出制御パラメータ最適化工程S1について>
図6は、塗布装置1の制御ユニット9が実行するパラメータ最適化処理を示すフローチャートである。図6に示すパラメータ最適化処理は、例えば、塗布処理の種類に応じてレシピが変更される場合、またはユーザが指示入力を行った場合等に、実行される。
【0066】
図6に示すように、パラメータの最適化処理が開始されると、まず、吐出制御パラメータ最適化部915が、吐出制御パラメータを最適化する(吐出制御パラメータ最適化工程S1)。吐出制御パラメータ最適化工程S1は、吐出制御パラメータを調整する工程の一例である。吐出制御パラメータ最適化工程S1の後、移動制御パラメータ最適化部917は、移動制御パラメータを最適化する処理を実行する(移動制御パラメータ最適化工程S2)。移動制御パラメータ最適化工程S2は、移動制御パラメータを調整する工程の一例である。以下、吐出制御パラメータ最適化工程S1および移動制御パラメータ最適化工程S2について、順に説明する。
【0067】
<吐出制御パラメータ最適化工程S1の詳細>
図7は、図6に示す吐出制御パラメータ最適化工程S1の詳細を示すフローチャートである。吐出制御パラメータ最適化工程S1が開始されると、まず、ノズル71が、メンテナンス位置に移動される(ノズル移動工程S11)。ノズル移動工程S11により、疑似吐出が実行可能となる。
【0068】
ノズル移動工程S11の後、吐出制御パラメータ最適化部915は、吐出制御パラメータを設定する(吐出制御パラメータ設定工程S12)。具体的には、上述した16個の吐出制御パラメータが設定される。なお、吐出制御パラメータの初期値は、例えば、乱数から生成した値、あるいは、ユーザが指定した値とされる。吐出制御パラメータ設定工程S12の後、吐出制御部910は、設定された吐出制御パラメータに基づいて疑似吐出を行う。この疑似吐出が行われている間、吐出特性計測部911は、吐出圧力を計測する(吐出圧力計測工程S13)。これにより、設定された吐出制御パラメータに対する吐出データが取得される。
【0069】
吐出制御パラメータ最適化部915は、所定の吐出データ評価関数を用いて、取得された吐出データに対する評価値を導出する(評価値導出工程S14)。この評価値は、吐出データの評価結果を示す値である。具体的には、吐出圧力波形(図4(b))が、目標吐出圧力波形(図4(a))から相異するほど、評価値が大きくなるように、吐出データ評価関数が設計される。
【0070】
評価値導出工程S14の後、吐出制御パラメータ最適化部915は、導出した評価値が所定の許容範囲に入るかどうかを判定する(判定工程S15)。評価値が許容範囲に入る場合(判定工程S15においてYes)、吐出制御パラメータ最適化部915は、吐出制御パラメータ最適化工程S1を終了する。評価値が許容範囲外である場合(判定工程S15においてNo)、吐出制御パラメータ最適化部915は、現在設定されている吐出制御パラメータと、その吐出制御パラメータに対応する評価値とに基づいて、次の探索点(すなわち、新たな吐出制御パラメータ)を取得する(探索点取得工程S16)。探索アルゴリズムとしては、ベイズ最適化または遺伝的アルゴリズムなど、任意のアルゴリズムを採用し得る。
【0071】
探索点取得工程S16によって新たな吐出制御パラメータが取得されると、再び、吐出制御パラメータ設定工程S12が実行される。このように、吐出制御パラメータ最適化工程S1では、評価値が許容範囲に入るまで、吐出制御パラメータが変更されつつ疑似吐出が行われることによって、吐出制御パラメータが最適化される。
【0072】
<移動制御パラメータ最適化工程S2について>
図8は、図6に示す移動制御パラメータ最適化工程S2の詳細を示すフローチャートである。理論上、ノズル71からの塗布液の吐出量と基板Sの移動速度との比を一定にすることによって、基板Sの上面Sfに均一な膜厚で塗布することが可能である。そこで、移動制御パラメータ最適化部917は、吐出量に対応する吐出圧力と、移動速度との比が一定となるように、吸着・走行機構52を制御するための移動制御パラメータを最適化する。
【0073】
図4(a)に示すように、ノズル71から塗布液が吐出される吐出期間は、増加期間T01と、定常吐出期間T02と、減少期間T03とを含む。増加期間T01は、吐出圧力が上昇する期間、すなわち、吐出量が増加する期間である。定常吐出期間T02は、吐出圧力がほぼ一定となる期間、すなわち、吐出量が一定となる期間である。減少期間T03は、吐出圧力が減少する期間、すなわち、吐出量が減少する期間である。
【0074】
定常吐出期間T02では、吐出量がほぼ一定に維持される。このため、定常吐出期間T02においては、移動速度は、吐出量に応じた速度に維持される。増加期間T01では、吐出圧力の増加に応じて吐出量が増加する。このため、増加期間T01においては、移動速度を、吐出圧力の増加に追従させて増加させることによって膜厚を均一にすることができる。そこで、移動制御パラメータ最適化工程S2では、増加期間T01の吐出データに基づいて、移動制御パラメータの最適化が行われる。
【0075】
具体的に、まず、予め吐出制御パラメータ最適化工程S1によって最適化された吐出制御パラメータに基づく吐出データが準備される(吐出データ準備工程S20)。吐出データは、吐出制御パラメータ最適化工程S1において、吐出制御パラメータの調整段階で取得されたものであってもよいし、改めて取得しなおされたものであってもよい。
【0076】
続いて、移動制御パラメータ最適化部917は、準備された吐出データから、増加期間T01のデータを抽出する(第1抽出工程S21)。以下、吐出データから抽出されたデータを、「部分吐出データ」と称する。第1抽出工程S21の後、移動制御パラメータ最適化部917は、部分吐出データを、所定の回帰関数に回帰する(第1回帰工程S22)。この第1回帰工程S22により、吐出データについての回帰パラメータが取得される。以下、取得された回帰パラメータを、「第1回帰パラメータ」と称する。
【0077】
図9は、増加期間T01の部分吐出データDp1と、部分吐出データDp1を回帰関数に回帰した第1回帰曲線Rc1を示す図である。図9において、横軸は時刻を示し、縦軸は吐出圧力を示している。
【0078】
回帰関数としては、非特許文献1(”A five-parameter logistic equation for investigating asymmetry of curvature in baroreflex studies”, J H Ricketts, G A Head, Am. J. Physiol., 1999 Aug;277(2):R441-54)に記載された非線形ロジスティック関数を用いることが可能である。この非ロジスティック関数は、具体的には、次の式(1)~(3)で表される。
【数1】
【0079】
式(1)~(3)で表される非対称ロジスティック関数は、説明変数(x)と目的変数(y)との関係がS字となる(図9参照)。式(1)~(3)において、「P」は目的変数(y)のプラトーの最小値であり、「P+P」は、目的変数(y)のプラトーの最大値である。すなわち、「P」は目的変数(y)の範囲(プラトーの最大値と最小値の差)である。「P」はS字部分における下部の曲率を示す第1曲率パラメータである。「P」は目的変数(y)が50%となるときの説明変数(x)の値である。「P」はS字部分における上部の曲率を示す第2曲率パラメータである。
【0080】
移動制御パラメータ最適化部917は、第1回帰工程S22の後、移動制御パラメータを設定する(移動制御パラメータ設定工程S23)。移動制御パラメータの初期値は、乱数から生成した値、あるいは、ユーザが指定した値とされる。移動制御パラメータ設定工程S23の後、移動制御部912は、疑似搬送を行う。疑似搬送が行われる間、速度計測部913は、移動速度を計測する(移動速度計測工程S24)。これにより、設定された移動制御パラメータに対する速度データが取得される。
【0081】
続いて、移動制御パラメータ最適化部917は、取得された速度データから、増加期間T01のデータを抽出する(第2抽出工程S25)。以下、速度データから抽出されたデータを、部分速度データと称する。
【0082】
移動制御パラメータ最適化部917は、部分速度データを正規化する(正規化工程S26)。具体的には、移動制御パラメータ最適化部917は、部分速度データにおける縦軸(移動速度)のスケール(数値の大きさ)が、吐出データにおける縦軸(吐出圧力)のスケール(数値の大きさ)と一致するように、部分速度データを改変する。より具体的には、移動速度の範囲の大きさ(最大と最小の差)が、吐出圧力の範囲の大きさ(最大と最小の差)と一致するように、部分速度データを正規化する。以下、正規化された部分速度データを「正規化部分速度データ」と称する。このように、正規化が行われることによって、部分吐出データと部分速度データの比較が容易となる。
【0083】
なお、元の速度データを予め正規化し、その正規化された速度データから増加期間T01のデータ(正規化部分速度データ)が抽出されてもよい。また、部分吐出データが、移動速度のスケールに合わせて正規化されてもよい。また、元の吐出データを予め正規化し、その正規化された吐出データから増加期間T01のデータ(正規化部分吐出データ)が抽出されてもよい。
【0084】
正規化工程S26の後、移動制御パラメータ最適化部917は、正規化された移動速度を示す正規化部分速度データを、回帰関数に回帰する(第2回帰工程S27)。この第2回帰工程S27で用いられる回帰関数は、第1回帰工程S22で用いられた回帰関数と同じである。
【0085】
図10は、正規化された増加期間T01の正規化部分速度データDs1と、正規化部分吐出データを回帰した第2回帰曲線Rc2とを示す図である。図10において、横軸は時刻を示し、縦軸は移動速度を示している。
【0086】
吸着・走行機構52は、チャック機構51の加減速をS字状に行う「S字加減速制御」を実行する。すなわち、吸着・走行機構52における移動制御の制約条件は、S字加減速である。S字加減速制御を行うため、増加期間T01における時間と移動速度の関係は、S字状となっている(図10参照)。したがって、回帰関数として非対称ロジスティック関数を用いることにより、移動速度に精度良くフィットする第2回帰曲線Rc2を得ることができる。第1回帰工程S22および第2回帰工程S27において用いられる非対称ロジスティック関数は、吸着・走行機構52における移動制御の制約条件(S字加減速)が課された関数である。
【0087】
図8に戻って、第2回帰工程S27の後、移動制御パラメータ最適化部917は、速度データに対する評価値Fvを導出する(評価値導出工程S28)。この評価値Fvは、速度データ(より詳細には、部分速度データ)に対する評価結果を示す値である。評価値Fvは、例えば、次の式(4)で表される速度データ評価関数を用いて導出される。
【数2】
【0088】
式(4)において、P,Pは、吐出圧力の第1回帰曲線Rc1における第1曲率パラメータおよび第2曲率パラメータを示す。また、P′,P′は、移動速度の第2回帰曲線Rc1における第1曲率パラメータおよび第2曲率パラメータを示す。また、α,βは、任意に設定される重み定数である。
【0089】
上述したように、膜厚を均一にするためには、吐出圧力と移動速度との比が一定であることが望ましい。増加期間T01において吐出圧力と移動速度との比を一定にする場合、移動速度の第2回帰曲線Rc2におけるS字部分の傾きを、吐出圧力の第1回帰曲線Rc1におけるS字部分の傾きと平行にするとよい。ここで、第1回帰曲線Rc1および第2回帰曲線Rc2のS字部分の傾きは第1曲率パラメータP,P′および第2曲率パラメータP、P′で表される。このため、第1回帰曲線Rc1および第2回帰曲線Rc2間でこれらのパラメータの相違を評価値とすることができる。
【0090】
式(4)に示される速度データ評価関数では、第1曲率パラメータP,P′の絶対差と、第2曲率パラメータP,P′の絶対差との線形和が、評価値Fvとして求められる。第1回帰曲線Pc1の傾きと第2回帰曲線Pc2の傾きが平行に近づくほど、評価値Fvが小さくなる(すなわち、肯定的評価となる)。
【0091】
なお、速度データ評価関数は、式(4)に限定されるものではない。例えば、Pに対するP′の比の値(=P′/P)と、Pに対するP′の比の値(=P′/P)とを、評価関数として用いてもよい。これらの比の値が1に近づくほど、第1回帰曲線Pc1の傾きと第2回帰曲線Pc2の傾きとが平行となる。このため、評価関数は、例えば、次式で示されるように、1と各比の値の絶対差の線形和を評価値として導出するように設計されていてもよい。
【数3】
【0092】
評価値導出工程S28の後、移動制御パラメータ最適化部917は、導出した評価値Fvが所定の許容範囲に入るかどうかを判定する(判定工程S29)。評価値Fvが許容範囲に入る場合(判定工程S29においてYes)、移動制御パラメータ最適化部917は、移動制御パラメータ最適化工程S2を終了する。一方、評価値Fvが許容範囲外である場合(判定工程S29においてNo)、移動制御パラメータ最適化部917は、現在設定されている移動制御パラメータと、その移動制御パラメータに対応する評価値Fvとに基づいて、次の探索点(新たな移動制御パラメータ)を取得する(探索点取得工程S30)。探索アルゴリズムとしては、ベイズ最適化または遺伝的アルゴリズムなど、任意のアルゴリズムを採用し得る。
【0093】
探索点取得工程S30によって新たな移動制御パラメータが取得されると、再び移動制御パラメータ設定工程S23およびそれ以降の工程が実行される。このように、移動制御パラメータ最適化工程S2では、評価値Fvが許容範囲に入るまで、移動制御パラメータが変更されつつ疑似搬送が行われることによって、移動制御パラメータが最適化される。
【0094】
以上のように、本実施形態によれば、移動制御の制約条件を課した速度データ評価関数(式(4))を用いて評価値を導出し、当該評価値に基づいて移動制御パラメータが調整される。このため、移動制御の制約条件を考慮して移動制御パラメータが調整されるため、移動制御パラメータを効率良く最適化できる。
【0095】
なお、第1回帰工程S22および第2回帰工程S27において用いられる回帰関数は、非対称ロジスティック関数に限定されるものではない。回帰関数は、例えば、対称性を有するロジスティック関数、シグモイド関数または折れ線関数であってもよい。また、吸着・走行機構52に適用される移動制御は、S字加減速制御に限定されない。例えば、吸着・走行機構52に直線加減速制御が適用されてもよい。直線加減速制御が適用される場合、移動制御の制約条件を課した回帰関数として、1次関数が採用されてもよい。非対称ロジスティック関数とは異なる回帰関数を採用する場合、吐出データおよび速度データをそれぞれ回帰して得られる各回帰パラメータの絶対差の線形和を、評価値として導出する速度データ評価関数が用いられてもよい。
【0096】
<吐出データの評価関数について>
次に、図7の評価値導出工程S14において説明した、吐出データを評価するための速度データ評価関数について説明する。この速度データ評価関数は、吐出データが示す吐出圧力波形に対する評価値を導出する関数である。速度データ評価関数は、吐出圧力波形に対する複数の評価項目毎の特徴量Fv1~Fv10の線形和を、評価値として導出するように設計される。以下、各評価項目の特徴量Fv1~Fv10について説明する。
【0097】
図11は、吐出圧力波形の各期間を説明するための図である。図11中、横軸は時刻を示し、縦軸は吐出圧力を示す。なお、図11以降の各グラフにおいても、横軸は時刻を示し、縦軸は吐出圧力を示す。
【0098】
図11に示すように、ノズル71からの塗布液の吐出を開始する時刻taにおける吐出圧力と、ノズル71からの塗布液の吐出を終了した時刻teにおける吐出圧力とは、初期圧力Piとなっている。ただし、吐出の開始時および終了時それぞれの圧力が、常に初期圧力Piに一致するとは限らない。
【0099】
図11に示すように、吐出期間Ttは、立ち上がり期間Taと、遷移期間Tbと、定常期間Tcと、立ち下がり期間Tdとに分割される。立ち上がり期間Taは、塗布液供給機構8がノズル71からの塗布液の吐出を開始する時刻ta(すなわち、塗布液供給機構8が作動ディスク部816の移動を開始する時刻ta)から、吐出圧力が目標圧力Ptに到達する時刻tbまでの期間である。つまり、時刻taにおいてノズル71からの塗布液の吐出が開始されると、吐出圧力は、時刻taから時刻tbまでの間に、初期圧力Piから目標圧力Ptまで増加する。
【0100】
遷移期間Tbは、時刻tbから、所定の振動減衰期間を経過する時刻tcまでの期間である。この振動減衰期間は、吐出圧力の時間変化が安定するのに要する期間であり、例えばユーザによるユーザインターフェース95への入力操作によってあらかじめ設定され、記憶部93に記憶されている。立ち上がり期間Taと遷移期間Tbは、図4に示す増加期間T01に相当する。
【0101】
定常期間Tcは、時刻tcから、塗布液供給機構8が吐出圧力の減少を開始する時刻td(すなわち、塗布液供給機構8が作動ディスク部816の目標速度からの減速を開始する時刻td)までの期間である。つまり、塗布液供給機構8は、時刻tcから時刻tdまでの間、作動ディスク部816を等速(上述したV5)で移動させ、時刻tdに作動ディスク部816の減速を開始する。なお、定常期間Tcにおいて、吐出圧力は基本的に目標圧力Ptで安定する。ただし、定常期間Tcにおいても、吐出圧力の時間変化は微小な振動を含んでいる。このため、定常期間Tcにおいて、吐出圧力は、目標圧力Ptよりも大きくなったり、小さくなったりする。遷移期間Tbと定常期間Tcとは、定圧期間Tbcを構成する。つまり、定圧期間Tbcは、時刻tbから時刻tdの間の期間である。
【0102】
立ち下がり期間Tdは、時刻tdから、塗布液供給機構8がノズル71からの塗布液の吐出を終了する時刻te(すなわち、塗布液供給機構8が作動ディスク部816を停止させる時刻te)までの期間である。つまり、吐出圧力は、時刻tdから時刻teまでの間に初期圧力Piまで減少し、時刻teにおいて、ノズル71からの塗布液の吐出が停止する。
【0103】
図12は、吐出圧力波形に対して吐出制御パラメータ最適化部915が実行する演算の一例を模式的に示す図である。図12に示すように、吐出制御パラメータ最適化部915は、吐出圧力波形を時間微分することによって、吐出圧力波形の1回微分D1を算出する。さらに、吐出制御パラメータ最適化部915は、吐出圧力の時間変化の1回微分D1を時間で微分することによって、吐出圧力の時間変化の2回微分D2を算出する。また、吐出制御パラメータ最適化部915は、次の各式に基づき、平均絶対誤差MAEおよび二乗平均平方根誤差RMSEを算出する。
MAE(α、β)=(1/n)・(Σ|α-β|)
RMSE(α、β)=((1/n)・(Σ(α-β)))1/2
nは、データ数である。
【0104】
図13は、特徴量Fv1に基づき吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明するための図である。図13に示す評価項目では、定常期間Tcにおける吐出圧力の平均値(すなわち定常圧力Pm)と初期圧力Piとの差に相当する振幅を有する台形波形と、実際の吐出圧力波形との誤差(理想台形絶対誤差)に基づき、吐出圧力波形が評価される。
【0105】
具体的には、立ち上がり期間Taのうち、所定の下側基準圧力と、当該下側基準圧力より大きい所定の上側基準圧力との間における吐出圧力の時間変化に対して線形回帰分析が実行されて、立ち上がり回帰直線Lr_Rが算出される。この立ち上がり回帰直線Lr_Rは、時刻t11から時刻t12の間で、初期圧力Piから定常圧力Pmまで線形に増加する。
【0106】
同様に、立ち下がり期間Tdのうち、上側基準圧力と下側基準圧力との間における吐出圧力の時間変化に対して線形回帰分析が実行されて、立ち下がり回帰直線Lr_Fが算出される。この立ち下がり回帰直線Lr_Fは、時刻t13から時刻t14の間で、定常圧力Pmから初期圧力Piまで線形に減少する。
【0107】
なお、下側基準圧力および上側基準圧力は、初期圧力Piより大きくて目標圧力Ptより小さい圧力であり、例えばユーザによるユーザインターフェース95への入力操作によって設定されて、記憶部93に記憶される。例えば、下側基準圧力は、初期圧力Piと目標圧力Ptとの差の絶対値の20%の圧力を初期圧力Piに加算した圧力としてもよい。また、上側基準圧力は、初期圧力Piと目標圧力Ptとの差の絶対値の80%の圧力を初期圧力Piに加算した圧力としてもよい。
【0108】
また、時刻taから時刻t11までの区間に対して、開始時近似直線Lr_sが設定される。この開始時近似直線Lr_sは、初期圧力Piを示す傾きがゼロの直線である。つまり、開始時近似直線Lr_sは、ノズル71からの塗布液の吐出開始時点(時刻ta)から、立ち上がり回帰直線Lr_Rの開始時点までを接続する直線である。なお、回帰直線の状態(傾き)によっては、時刻t11は時刻taより前になり、時刻t12は時刻tbより後になることもある。このように、t11<taとなる場合には、開始時近似直線Lr_sは省略される。
【0109】
また、時刻t14から時刻teまでの区間に対して、終了時近似直線Lr_eが設定される。この終了時近似直線Lr_eは、初期圧力Piを示す傾きがゼロの直線である。つまり、終了時近似直線Lr_eは、立ち下がり回帰直線Lr_Fの終了時点から、ノズル71からの塗布液の吐出終了時点(時刻te)までを接続する直線である。なお、te<t14となる場合には、終了時近似直線Lr_eは省略される。
【0110】
さらに、時刻t12から時刻t13の区間に対して、定常直線Lr_mが設定される。この定常直線Lr_mは、定常圧力Pmを示す傾きがゼロの直線である。つまり、定常直線Lr_mは、立ち上がり回帰直線Lr_Rの終了時点(時刻t12)と立ち下がり回帰直線Lr_Fの開始時点(時刻t13)とを接続する、定常圧力Pmを示す直線である。
【0111】
以上のように、吐出制御パラメータ最適化部915は、時系列で配列された開始時近似直線Lr_s、立ち上がり回帰直線Lr_R、定常直線Lr_m、立ち下がり回帰直線Lr_Fおよび終了時近似直線Lr_eで構成された近似波形WF1を算出する。そして、吐出制御パラメータ最適化部915は、時刻taから時刻teまでの吐出期間Ttの全体において、吐出圧力波形の圧力値と近似波形WF1との間の平均絶対誤差MAE(理想台形絶対誤差)を、特徴量Fv1として算出する。吐出制御パラメータ最適化部915は、算出した特徴量Fv1を、記憶部93に記憶させる。
【0112】
特徴量Fv1に基づく評価によれば、吐出期間Ttの全体における吐出圧力の時間変化が理想的な形状(すなわち、台形形状)から大きく乖離する場合に、この吐出圧力に対して大きなスコア(すなわち、否定的評価)を与えることができる。
【0113】
図14は、特徴量Fv2に基づき吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明するための図である。図14の評価項目では、吐出圧力の立ち上がりの滑らかさが評価される。具体的には、立ち上がり期間Taのうち、下側基準圧力P2_lと、当該下側基準圧力P2_lより大きい上側基準圧力P2_uとの間における吐出圧力の時間変化に対して曲線回帰分析が実行されて、立ち上がり回帰曲線Nrが算出される。この曲線回帰分析は二次曲線によって実行される。
【0114】
下側基準圧力P2_lは初期圧力Piに設定される。また、上側基準圧力P2_uは、下側基準圧力P2_lより大きくて目標圧力Ptより小さい圧力である。上側基準圧力P2_uは、例えばユーザによるユーザインターフェース95への入力操作によって設定され、記憶部93に記憶される。上側基準圧力P2_uは、初期圧力Piと目標圧力Ptとの差の絶対値の20%の圧力を初期圧力Piに加算した圧力としてもよい。この立ち上がり回帰曲線Nrは、時刻t21から時刻t22の間で、下側基準圧力P2_l(初期圧力Pi)から上側基準圧力P2_uまで増加する。なお、時刻t21は時刻taに一致し、時刻t22は時刻taより後で時刻tbより前の時刻である。
【0115】
吐出制御パラメータ最適化部915は、立ち上がり回帰曲線Nrで構成された波形WF2を算出する。そして、吐出制御パラメータ最適化部915は、時刻t21から時刻t22までの立ち上がり初期期間Ta_sにおいて、測定された吐出圧力波形の圧力値と波形WF2との間の二乗平均平方根誤差RMSEを、特徴量Fv2として算出する。そして、吐出制御パラメータ最適化部915は、算出した特徴量Fv2を、記憶部93に記憶させる。
【0116】
特徴量Fv2に基づく評価によれば、ノズル71からの塗布液の吐出開始前の状態の影響を受けて、吐出開始直後の吐出圧力に異常が発生した場合に、この吐出圧力に対して大きなスコア(すなわち、否定的評価)を与えることができる。なお、曲線回帰分析に使用可能な曲線は二次曲線に限られず、指数関数などの別の曲線でもよい。
【0117】
図15は、特徴量Fv3に基づき吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明するための図である。図15の評価項目では、立ち上がり期間Taが一定期間内に収まっているかが評価される。具体的には、吐出制御パラメータ最適化部915は、初期圧力Piから目標圧力Ptへ吐出圧力が増大するのに要する時刻taから時刻tbまでの立ち上がり期間Taの長さ(=tb-ta)を特徴量Fv3として算出する。そして、吐出制御パラメータ最適化部915は、算出した特徴量Fv3を、記憶部93に記憶させる。
【0118】
特徴量Fv3に基づく評価によれば、目標圧力Ptまでの立ち上がり期間が、所定の一定期間よりも短いまたは長い吐出圧力に対して、大きなスコア(すなわち、否定的評価)を与えることができる。
【0119】
図16は、特徴量Fv4を説明するための図である。図16(A)は、特徴量Fv4に基づき吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明するための図である。図16(B)は、特徴量Fv4に基づく評価によって不適正と判断される吐出圧力の時間変化の例を示す図である。図16(A)の評価項目では、吐出圧力の立ち上がりにおける異常の有無が評価される。
【0120】
具体的には、吐出制御パラメータ最適化部915は、時刻taから時刻tbまでの立ち上がり期間Taについて、吐出圧力の時間変化の1回微分D1を算出して、1回微分波形WF4を求める。そして、吐出制御パラメータ最適化部915は、立ち上がり期間Taにおいて、1回微分波形WF4が、所定の閾値Th4と交差する回数を、特徴量Fv4として求める。図16(A)の例では、1回微分波形WF4と閾値Th4(例えば、0.002)とは、時刻t41および時刻t42のそれぞれで交差しており、交差回数(特徴量Fv4)は2回となる。吐出制御パラメータ最適化部915は、算出した特徴量Fv4を、記憶部93に記憶させる。
【0121】
特徴量Fv4に基づく評価によれば、立ち上がり期間Taにおける吐出圧力の時間変化に段が生じた場合に(例えば、図16(B))、この吐出圧力に対して大きなスコア(すなわち、否定的評価)を与えることができる。
【0122】
図17は、特徴量Fv5を説明するための図である。図17(A)は、特徴量Fv5に基づき吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明するための図である。図17(B)は、特徴量Fv5に基づく評価によって不適正と判断される吐出圧力の時間変化の例を示す図である。図17(A)の評価項目では、吐出圧力の立ち上がりにおける異常の有無が評価される。
【0123】
具体的には、吐出制御パラメータ最適化部915は、時刻taから時刻tbまでの立ち上がり期間Taについて、吐出圧力の時間変化の2回微分D2を算出して、2回微分波形WF5を求める。そして、吐出制御パラメータ最適化部915は、立ち上がり期間Taにおいて、2回微分波形WF5の絶対値が、所定の閾値Th5と交差する回数を、特徴量Fv5として求める。図17(A)の例では、2回微分波形WF5の絶対値と閾値Th5(例えば、0.0002)とは、時刻t51、t52、t53およびt54のそれぞれで交差しており、交差回数(特徴量Fv5)は4回となる。吐出制御パラメータ最適化部915は、算出した特徴量Fv5を、記憶部93に記憶させる。
【0124】
特徴量Fv5に基づく評価によれば、立ち上がり期間Taにおける吐出圧力の時間変化に段が生じた場合に(例えば、図17(B)に示すように)、この吐出圧力に対して大きなスコア(すなわち、否定的評価)を与えることができる。
【0125】
図18は、特徴量Fv6に基づき吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明するための図である。図18の評価項目では、吐出圧力の立ち上がりが後半において失速していないかが評価される。具体的には、吐出制御パラメータ最適化部915は、時刻taから時刻tbまでの立ち上がり期間Taについて、吐出圧力の時間変化の2回微分D2を算出して、2回微分波形WF6を求める。
【0126】
そして、吐出制御パラメータ最適化部915は、立ち上がり期間Taにおいて、2回微分波形WF6が、所定の正の閾値(Th5)より大きくなる時間T_1stと、2回微分波形WF6が所定の負の閾値(-Th5)より小さくなる時間T_2ndとをそれぞれ求める。ここで、正の閾値と負の閾値とは、同一の絶対値(Th5)を有して、互いに異なる符号を有する。かかる正および負の閾値の絶対値(Th5)は、上記の特徴量Fv5による評価で用いた閾値Th5のそれと等しい。そして、吐出制御パラメータ最適化部915は、これらの時間の比(=T_1st/T_2nd)を、特徴量Fv6として求める。さらに、吐出制御パラメータ最適化部915は、次式に基づき、特徴量Fv6を変換する。
Fv6=|1-Fv6|
吐出制御パラメータ最適化部915は、変換された特徴量Fv6を、記憶部93に記憶させる。
【0127】
塗布液の塗布対象となる基板Sの移動速度は、加速期間の後半においても失速することなく目標速度に到達する。したがって、塗布液に与えられる吐出圧力も立ち上がり期間Taにおいて失速することなく、目標圧力Ptに到達することが好適となる。特徴量Fv6に基づく評価によれば、立ち上がり期間Taにおいて吐出圧力が失速した場合に、この吐出圧力に対して大きなスコア(すなわち、否定的評価)を与えることができる。
【0128】
図19は、特徴量Fv7に基づき吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明するための図である。図19の評価項目では、立ち上がりの終了時における吐出圧力の時間変化の鋭さが評価される。具体的には、立ち上がり期間Taのうち、下側基準圧力P7_lと、当該下側基準圧力P7_lより大きい上側基準圧力P7_uとの間における吐出圧力の時間変化に対して直線回帰分析が実行されて、立ち上がり終期回帰直線Lrが算出される。ここで、下側基準圧力P7_lは、初期圧力Piと目標圧力Ptとの差の絶対値の80%の圧力を初期圧力Piに加算した圧力であり、上側基準圧力P7_uは、初期圧力Piと目標圧力Ptとの差の絶対値の90%の圧力を初期圧力Piに加算した圧力であり、吐出圧力は、時刻t71から時刻t72までの間に、下側基準圧力P7_lから上側基準圧力P7_uへ増大する。
【0129】
この立ち上がり終期回帰直線Lrは、時間経過に伴って増大して、時刻t73において定常圧力Pm(定常期間Tcにおける吐出圧力の平均値)に到達する。こうして、時刻t71から時刻t73の区間に対して、立ち上がり終期回帰直線Lrが設定される。さらに、吐出制御パラメータ最適化部915は、時刻t73から時刻tbまでの間において定常圧力Pmを示す傾きがゼロの延設直線Lmを設定する。上述の通り、時刻tbは、吐出圧力が目標圧力Ptに到達する時刻であり、立ち上がり期間Taの終了時刻に相当する。つまり、この延設直線Lmは、立ち上がり終期回帰直線Lrの終了時点から立ち上がり期間Taの終了時点まで延びるように設けられる。なお、tb<t73の場合には、延設直線Lmは省略される。
【0130】
以上のように、時系列で配列された立ち上がり終期回帰直線Lrおよび延設直線Lmで構成された近似波形WF7が算出される。そして、吐出制御パラメータ最適化部915は、吐出圧力が目標圧力Ptの90%となる時刻t72から100%となる時刻tbまでの立ち上がり終期期間Ta_eにおいて、吐出圧力波形の圧力値P_measureと近似波形WF7との間の差を示す値を、特徴量Fv7として算出する。具体的には、重み基準時間幅Tw=t73-t72が設定される。そして、重み付き二乗平方根誤差和が、次式に基づき算出される。
Fv7=(Σ(P_measure-WF7)×W)1/2
時刻t≦t73+2×Twの範囲でW=1
時刻t>t73+2×Twの範囲でW=w
wは、1より大きい重み係数であり、例えば10である。
【0131】
吐出制御パラメータ最適化部915は、算出した特徴量Fv7を、記憶部93に記憶させる。特徴量Fv7に基づく評価によれば、立ち上がりの勢いが弱く丸みを帯びた波形を吐出圧力の時間変化が示す場合に、この吐出圧力に対して大きなスコア(すなわち、否定的評価)を与えることができる。
【0132】
図20は、特徴量Fv8に基づき吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明するための図である。図20の評価項目では、吐出圧力の立ち上がりに発生するオーバーシュートの程度が評価される。具体的には、吐出制御パラメータ最適化部915は、吐出圧力が最大値Pmaxに達した時刻t81において、吐出圧力の2回微分D2の符号(正/負)を求める。そして、吐出制御パラメータ最適化部915は、吐出圧力の2回微分D2の符号が、時刻t81での符号から2回切り替わる時刻t82を算出する。そして、時刻t81から時刻t82までの初期振動期間Tb_sにおける吐出圧力の時間変化が評価される。
【0133】
具体的には、この初期振動期間Tb_sにおける吐出圧力の時間変化の最小値P8minが求められて、定常圧力Pmおよび圧力P8minのうち、小さい方の圧力が、対象圧力Pgに選択される。そして、最大圧力Pmaxと対象圧力Pgとの差、すなわち次式に基づき、特徴量Fv8が算出される。
Fv8=Pmax-Pg
【0134】
吐出制御パラメータ最適化部915は、算出した特徴量Fv8を、記憶部93に記憶させる。特徴量Fv8に基づく評価によれば、立ち上がりの勢いが強く、大きなオーバーシュートを吐出圧力の時間変化が示す場合に、この吐出圧力に対して大きなスコア(すなわち、否定的評価)を与えることができる。
【0135】
図21は、特徴量Fv9に基づき吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明するための図である。図21の評価項目では、遷移期間Tbにおける吐出圧力の時間変化の安定度が評価される。具体的には、吐出制御パラメータ最適化部915は、遷移期間Tbにおける吐出圧力と、定常期間Tcにおける吐出圧力の平均値である定常圧力Pmとについて、次式に基づき、二乗平均平方根誤差RMSE(P_measure,Pm)を特徴量Fv9として算出する。
Fv9=RMSE(P_measure,Pm)
【0136】
吐出制御パラメータ最適化部915は、算出した特徴量Fv9を、記憶部93に記憶させる。特徴量Fv9に基づく評価によれば、吐出圧力の時間変化が遷移期間Tbにおいてリンギングを示す場合に、この吐出圧力に対して大きなスコア(すなわち、否定的評価)を与えることができる。
【0137】
図22は、特徴量Fv10に基づき吐出圧力の時間変化を評価する評価項目を説明するための図である。図22に示す評価項目では、定圧期間Tbcにおける吐出圧力の時間変化の安定度が評価される。具体的には、吐出制御パラメータ最適化部915は、定圧期間Tbcにおいて、吐出圧力の最大値Pmaxと最小値P10minとを求める。そして、吐出制御パラメータ最適化部915は、次式に基づいて、定圧期間Tbcにおける最大圧力Pmaxと最小圧力P10minとの差を特徴量Fv10として算出する。
Fv10=Pmax-P10min
【0138】
吐出制御パラメータ最適化部915は、算出した特徴量Fv10を、記憶部93に記憶させる。特徴量Fv10に基づく評価によれば、塗布液の膜厚に影響の大きな定常期間Tcにおいて大きなばらつきを吐出圧力の時間変化が示す場合に、この吐出圧力に対して大きなスコア(すなわち、否定的評価)を与えることができる。
【0139】
なお、上述した特徴量Fv1~Fv10は、例示である。したがって、その他の特徴量が評価値の算出に使用されてもよい。また、特徴量Fv1~Fv10のうち一部のみが評価値の算出に使用されてもよい。
【0140】
この発明は詳細に説明されたが、上記の説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。上記各実施形態及び各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせたり、省略したりすることができる。
【符号の説明】
【0141】
1 塗布装置
5 移動機構
7 塗布機構
9 制御ユニット
51 チャック機構
52 吸着・走行機構
71 ノズル
912 移動制御部
913 速度計測部
915 吐出制御パラメータ最適化部
917 移動制御パラメータ最適化部
931 プログラム
Rc1 第1回帰曲線
Rc2 第2回帰曲線
S 基板

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22