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特許7454030標的分子をナノポアに送達するシステム及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】標的分子をナノポアに送達するシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/08 20060101AFI20240313BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20240313BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240313BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20240313BHJP
   G01N 27/00 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
G01N35/08 A
G01N33/543 541A
G01N33/53 D
G01N33/53 M
G01N37/00 101
G01N27/00 Z
【請求項の数】 32
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022183104
(22)【出願日】2022-11-16
(62)【分割の表示】P 2020520038の分割
【原出願日】2018-10-02
(65)【公開番号】P2023022107
(43)【公開日】2023-02-14
【審査請求日】2022-12-16
(31)【優先権主張番号】62/566,983
(32)【優先日】2017-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505093840
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニヴァーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
【住所又は居所原語表記】1111 Franklin Street, 12th Floor, Oakland, CA 94607, USA
(73)【特許権者】
【識別番号】520117053
【氏名又は名称】ホルガー シュミット
【氏名又は名称原語表記】Holger Schmidt
【住所又は居所原語表記】712 Rosedale Ave, Capitola, CA 95010, United States of America
(73)【特許権者】
【識別番号】520117064
【氏名又は名称】アーロン ロウ ホーキンズ
【氏名又は名称原語表記】Aaron Roe Hawkins
【住所又は居所原語表記】4115 N 190 W, Provo, UT 84604, United States of America
(73)【特許権者】
【識別番号】520117075
【氏名又は名称】デイヴィッド ダブリュ. ディーマー
【氏名又は名称原語表記】David W. Deamer
【住所又は居所原語表記】865 Pine Flat Road, Santa Cruz, CA 95060, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー シュミット
(72)【発明者】
【氏名】アーロン ロウ ホーキンズ
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィッド ダブリュ. ディーマー
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0313510(US,A1)
【文献】国際公開第2004/083823(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00-37/00
G01N 33/543
G01N 33/53
G01N 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的分子の検出方法であって、
- 標的分子に結合するキャプチャー分子を含むマイクロビーズを準備すること、
- マイクロビーズを第一のマイクロ流体チップに施与すること、ここで第一のマイクロ流体チップは、第一の面と第二の面とポアとを含む膜を含み、ポアは、膜の第一の面上に第一の開口部と膜の第二の面上に第二の開口部とを含み、さらに、第一のマイクロ流体チップは、ポアに近接するキャプチャー容積を含むチャネルを含む、
- キャプチャー容積に近接するか又はキャプチャー容積内の物理的な障壁にマイクロビーズを押し付けて、ポアのキャプチャー容積内でマイクロビーズを捕捉すること、
- マイクロビーズがポアのキャプチャー容積内で捕捉されている間に、標的分子をキャプチャー分子から放出して、標的分子がポアを通過すること、及び
- イオン電流の変化を測定し、それにより標的分子を検出すること
を含む、標的分子の検出方法。
【請求項2】
物理的な障壁が、チャネル壁である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
物理的な障壁が、チャネル内で形成されたフィルタリング構造である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
物理的な障壁にマイクロビーズを押し付けるステップが、レーザー照射をマイクロビーズに施与して光学補足を使用して、物理的な障壁にマイクロビーズを押し付けることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
物理的な障壁にマイクロビーズを押し付けるステップが、チャネル内で液体流を生じさせてマイクロビーズに流れ圧を加えて、物理的な障壁にマイクロビーズを押し付けることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
オン電流が、第一の面から第二の面にポアを横切るように流れており、キャプチャー容積が、放出した標的分子をポアを介して引き込むために十分に電場が強いポアの周りの第一の面側の容積を定義するものである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
標的分子に結合するキャプチャー分子を含むマイクロビーズを準備するステップが、
- 標的分子がキャプチャー分子に結合していないマイクロビーズを準備すること、
- キャプチャー分子を標的分子に結合できる条件下で、標的分子を含むと疑われる試料をマイクロビーズと接触させること
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
標的キャプチャー分子が、抗体又はそれらの抗原結合断片を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
標的分子が、ポリペプチド又は核酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
標的分子が核酸を含み、かつキャプチャー分子が相補核酸を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
試料が、血液(又はそれらの任意の画分)、尿、汗、痰、唾液、糞便、又は精液から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
試料とマイクロビーズとの接触を、第二のマイクロ流体チップで実施する、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
第二のマイクロ流体チップが、オートマトンネットワークを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
マイクロビーズが膜の第一の面上で捕捉され、膜の第一の面上のポアの開口部が直径1μmより大きく、かつ膜の第二の面上のポアの開口部が直径1μm未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
マイクロビーズが膜の第一の面上で捕捉され、膜の第一の面上のポアの開口部が直径1μm未満であり、かつ膜の第二の面上のポアの開口部が直径1μm未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
膜の第二の面上のポアの開口部が、100nm未満である、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
膜の第二の面上のポアの開口部が、50nm未満である、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項18】
標的分子の放出が、マイクロビーズに熱を施与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
マイクロビーズが溶液中に配置され、標的分子の放出が、マイクロビーズの近くの溶液のpHを上げるもしくは下げることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
キャプチャー分子からの標的分子の放出が、光切断の使用を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
以下、
- キャプチャー分子を含むマイクロビーズであって、キャプチャー分子が標的分子に結合する、マイクロビーズ
- 第一の面と第二の面とポアとを含む膜を含むマイクロ流体チップであって、ポアが、膜の第一の面上に第一の開口部と膜の第二の面上に第二の開口部とを含み、さらにマイクロ流体チップがポアに近接するキャプチャー容積を含む、マイクロ流体チップ、
を含むシステムであって、
マイクロ流体チップが、キャプチャー容積に近接するか又はキャプチャー容積内の物理的な障壁にマイクロビーズを押し付けて、ポアのキャプチャー容積内でマイクロビーズを捕捉するように配置されており、
マイクロ流体チップが、マイクロビーズがポアのキャプチャー容積内で捕捉されている間に、標的分子をキャプチャー分子から放出して、標的分子がポアを通過するように配置されており、かつ
マイクロ流体チップが、イオン電流の変化を測定し、それにより標的分子を検出するように配置されている、前記システム。
【請求項22】
物理的な障壁が、チャネル壁である、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
物理的な障壁が、チャネル内で形成されたフィルタリング構造である、請求項21に記載のシステム。
【請求項24】
物理的な障壁にマイクロビーズを押し付けることが、レーザー照射をマイクロビーズに施与して光学補足を使用して、物理的な障壁にマイクロビーズを押し付けることを含む、請求項21に記載のシステム。
【請求項25】
物理的な障壁にマイクロビーズを押し付けることが、チャネル内で液体流を生じさせてマイクロビーズに流れ圧を加えて、物理的な障壁にマイクロビーズを押し付けることを含む、請求項21に記載のシステム。
【請求項26】
膜の第一の面上のポアの開口部が直径1μmより大きく、かつ膜の第二の面上のポアの開口部が直径1μm未満である、請求項21に記載のシステム。
【請求項27】
マイクロビーズが膜の第一の面上で捕捉され、膜の第一の面上のポアの開口部が直径1μm未満であり、かつ膜の第二の面上のポアの開口部が直径1μm未満である、請求項21に記載のシステム。
【請求項28】
膜の第二の面上のポアの開口部が、100nm未満である、請求項21に記載のシステム。
【請求項29】
膜の第二の面上のポアの開口部が、50nm未満である、請求項21に記載のシステム。
【請求項30】
標的分子の放出が、マイクロビーズに熱を施与することを含む、請求項21に記載のシステム。
【請求項31】
マイクロビーズが溶液中に配置され、標的分子の放出が、マイクロビーズの近くの溶液のpHを上げるもしくは下げることを含む、請求項21に記載のシステム。
【請求項32】
キャプチャー分子からの標的分子の放出が、光切断の使用を含む、請求項21に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景技術
複数の標的分子(バイオマーカーを含む)、例えば核酸、タンパク質、及び代謝物を同時に分析できるツールについての差し迫った需要がある。特に、かかるツールが、超低濃度で高い特異性及び感受性を有する多様なゲノムバイオマーカー及びプロテオミクスバイオマーカーを分析するために必要とされる[1~5]。これらのツールは、早期の疾患の検出及び個別化医療のために特に必要である。
【0002】
単一試料内での多数の標的分子の直接検出は、分子特異的アッセイ、例えばDNA増幅及び/又はタンパク質サンドイッチアッセイに関して著しい利点を有する。
【0003】
単一分子検出及び分析による多数のタイプの分子を検出する技術は、近年発達しており[13~29]、新たに、多くの次世代分子分析技術の核を形成している。ほとんどのアプローチは、研究及び商業の双方の側面で、蛍光標識を使用しているが[13~20、27~29、30~32]、非光学的技術が近年注目を集めている。かかる例の1つは、ナノポアを使用した単一分析物の電気的検出を含み、ナノスケールの開口部を横切るイオン電流の変調を使用して、ナノポアを通過する粒子を検出する[33~37]。かかる装置は、蛍光又は他の標識を必要としないものも含めて、多様な範囲の標的分子を分析できる。現在の適用は核酸シーケンシングに重点を置いているが、その方法論は、他のタイプの標的分子、例えばタンパク質及び小分子にも使用される[38、39]。
【0004】
発明の要約
膜においてナノスケールのポア(ナノポア)を横切るイオン電流の変調を使用して、ナノポアを通過する標的分子を検出する(同定及び/又は計数することを含む)システム及び方法が本明細書において開示される。この原理は主に核酸シーケンシングに適用されているが、他の分子標的、例えばタンパク質及び小分子を検出するためにも使用できる。ナノポア装置が直面する難題は、標的分子の電気泳動によるキャプチャー及び検出を達することができるポアに十分に近い領域への十分な数の標的分子の非効率的な送達である。この非効率的な送達は、スループット(分析の時間及び/又は単位時間毎に検出される標的分子の数)を制限し、かつ標的分子のための任意のアッセイの検出を制限する。フェムトモル濃度~アトモル濃度で試料において生じるバイオマーカーは、ナノポアへの標的分子のより効率的な送達なしに検出されそうにない[40~45]。
【0005】
標的分子をナノポアに送達して、チップベースのシステムを使用して標識なしの単一分子分析を提供するシステム及び方法が本明細書において開示される。該システム及び方法は、マイクロスケールのキャリヤービーズ上での標的分子の濃縮を含む。そしてキャリヤービーズを送達し、ナノポアのキャプチャー半径内の領域で光学的に捕捉する。標的分子を、ビーズから遊離させ、そしてナノポア電流変調を使用して検出する。このアプローチは、分析物の濃度を最大106倍だけ局所的に増加でき、現在の方法を使用して得ることができるものよりも向上したスループット及びはるかに低い検出限界をもたらす。
【0006】
試料調製(例えば、精製、抽出及び事前濃縮)とマイクロ流体チップ上でのナノポアベースの読み取りとを組み合わせるシステムが本明細書において開示される。いくつかの態様において、固相抽出を使用する弁ベースのマイクロ流体チップに、高い特異性を有するキャリヤービーズ上に標的分析物を載せる。これは、フェムトモル濃度及びアトモル濃度の範囲で臨床的に関連のある濃度範囲に到達するためにビーズ上にmLスケールの出発容量から標的の濃度をもたらす。
【0007】
キャリヤービーズに標的分子を特異的に結合し、数ミリリットルの生試料から分子標的の特異的な検出を取り扱うことが証明されているチップベースのマイクロ流体プラットフォームを使用して、ナノポアのキャプチャー容積内で粒子を配置することを含むシステムが本明細書において開示されている。いくつかの例において、マイクロ流体プラットフォームは、米国特許第9,267,891号(US 9,267,891)において記載されるような流体光学プラットフォームを含む。さらに標的分子を、ビーズから遊離させ、そしてナノポアを使用して検出する。開示された装置、システム、及び方法は、バルク溶液と比較してナノポアキャプチャー率において最大6桁までの大きさの改善をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は開示された装置の実施形態を示す2つの図のセットである。左側のパネルは流体光学チップ上で光学的に捕捉することによりナノポアの近くで濃縮された標的分子を保有するマイクロビーズを示す。右側のパネルは、ナノポアのキャプチャー容積に極めて接近してキャリヤービーズから放出される標的分子を示す。キャリヤービーズから放出された標的分子は、ポアを通過する時により速い速度で検出される。
図2A図2Aは、ナノポア検出の背後にある原理を示す2つの上部パネル及び下部パネルのセットである。特に、適用されたバイアス下でのナノポアを通る粒子の移動(左上及び右上のパネル)は、膜を横切るイオン電流における変化を生じる(下部パネル)。
図2B図2Bは、ナノポアの周りのキャプチャー容量の概念を示し、標的分子が十分に強い電気力を受けてポアに移動する。
図3A図3Aは、光学モードでの導波路断面の2つの画像(右下)を有する流体光学チップの配置(左上)の図である。矢印は、画像を取得したチップ上の領域を示す。
図3B図3Bは、試料調製と分析とを組み合わせたハイブリッド流体光学システムの画像である[65]。
図3C図3Cは、図3A及び3Bの流体光学チップを使用したエボラウイルスRNAの濃度依存性増幅を有さない検出を示すグラフである[65]。
図4A図4Aは、流体チャネル中への粒子移行をもたらすためのナノポア配置及び印加電圧の概略図を示す図である。
図4B図4Bは、チャネル上の薄い窒化物又は酸化物の膜における広幅のマイクロポアとイオンビームで粉砕したナノポアとの組合せによるナノポア組み込みを示す図である。
図4C図4Cは、単分子DNA検出のために使用した20nmナノポアの上から見た図である[68]。
図4D図4Dは、光学流体チップ上での個々に標識したH1N1ウイルスの検出を示す見取図である[67、69]。
図5A図5Aは、ZIKV感染中のマーモセットにおけるウイルスRNA及びインターフェロンタンパク質の付加を示す2つのプロットのセットである[8]。
図5B図5Bは、ジカの核酸バイオマーカー及びタンパク質バイオマーカーの固相抽出のためのビーズベースの構築物の描写である。
図5C図5Cは、流体光学プラットフォーム上で付着させた標的分子及び標識を有する図5Bに描写したビーズのスペクトル多重化光学検出からの結果を示すプロットである。
図6図6は、分子分析のためのlab-on-chipシステムの原理を図示する。
図7A図7Aは、逆伝搬ビーム(紫色)を使用した流体光学チップ上の光学粒子捕捉の概略図である[90]。
図7B図7Bは、図7Aにおいて図示したトラップを使用した単一の蛍光マイクロビーズの捕捉である。
図7C図7Cは、図7Aにおいて図示したトラップを使用した約120個の蛍光マイクロビーズの捕捉である。図7Bと7Cの双方について、ビーズは、[90及び91]において記載されるように、交差導波管(緑色の矢印)での励起蛍光を使用することにより可視化される。
図8A図8A(左側のパネル)は、流体光学チップの上から見た図である:チャネル(捕捉ビーム)を通して誘導されたレーザービームは、チャネル壁にぶつかってマイクロビーズを捕捉する;右上の画像:捕捉ビームを使用して捕捉された250個の蛍光ビーズ;右下の画像:捕捉ビームをオフにすることにより目詰まりすることなくビーズが放出される。
図8B図8Bは、捕捉位置の上にナノポアを有する流体光学チップの側面図である;標的はその後ナノポアを使用してポアのキャプチャー半径内でビーズから放出され及び検出される。
図9A図9Aは、マイクロからナノポア下で捕捉された5個のビーズを有する捕捉領域の画像である;挿入図は、キャプチャーのためにDNA構築物で機能化されたビーズを示す。標的分子がプルダウン分子にハイブリダイズしている間にプルダウンオリゴはビーズと複合体化される。
図9B図9Bは、標的分子の放出後のナノポアを横切る時間依存電流を示す。標的分子を熱を使用して放出した。
図9C図9Cは、(濃縮されていないバルク溶液と比較して)捕捉されたビーズの数の関数としてのキャプチャー率の改善を示すプロットである。
図9D図9Dは、ビーズからの標的の放出とナノポア検出との間の遅延の結果としての部分的な拡散性標的分散の概略図である。
図10A図10Aは、ジカNS-1タンパク質のナノポアベースの検出のための構築物を示す。
図10B図10Bは、熱NS-1標的がチップから放出された後の現行の遮断の部分的セグメント観察を示すグラフである。
図10C図10Cは、4652個の移動現象の散布図である。
図11A図11Aは、昇降ゲートマイクロ弁の動作原理を示す[88、89]。
図11B図11Bは、弁あたり0.1~1μLの操作容量で相互接続されたネットワーク(「オートマトン」)へのマイクロ弁の配置例を示す。
図11C図11Cは、図11Bのオートマトンを磁気ビーズ上でのDNA事前濃縮に使用した場合[65]の結果を示すグラフである。蛍光標識した標的を3mLから335倍まで濃縮して、光学検出率における劇的な増加のために5μLの試験容量にした。
【0009】
詳細な説明
ナノポアを含む装置(ナノポア装置)による標的分子の検出は、分子がナノポアを通過する過程で、ナノポア装置がシグナルを生じることを意味する。シグナルは、ナノポアを通過する第一の標的分子から生じるシグナルを、ナノポアを通過する第二の標的分子から生じるシグナルと区別できるということにより、ナノポアを通過する標的分子を同定する。標的分子の検出は、ナノポアを通過する第一及び/又は第二の標的分子の数を計数することも含みうる。標的分子の1つのタイプはバイオマーカーである。バイオマーカーは、生理学的状態もしくは細胞の状態を特徴付け、かつ病気の進行を検出もしくは定義する又は治療応答を予測もしくは定量化するために他覚的に測定されうる、任意の分子、生物学的特性又は物理的特性であってよい。バイオマーカーは、細胞又は生物により生成された任意の分子構築物であってよい。バイオマーカーは、任意の細胞又は組織の内部で発現されていてよく、組織又は細胞の表面上で到達可能であってよく、細胞又は組織、例えば構造成分に構造的に内在してよく、細胞又は組織により分泌されてよく、ネクローシス、アポトーシス等のようなプロセスを介して細胞又は組織の崩壊により生成されてよく、又は任意のそれらの組合せであってよい。バイオマーカーは、任意のタンパク質、炭水化物、脂肪、核酸(DNA又はRNAを含む)、触媒部位、又はそれらの任意の組合せ、例えば酵素、糖タンパク質、細胞膜、ウイルス、細胞、器官、オルガネラ、又は単分子構造もしくは多分子構造、又は単独もしくは組合せであろうと現在公知のもしくは既に開示されている任意の他のかかる構造であってよい。バイオマーカーは、核酸配列、タンパク質配列、又は任意の他の化学的構造により示されうる。
【0010】
本明細書において開示されるように、標的分子は、任意の分子、ナノ粒子、又はナノポア装置を使用して検出されうる他の構造であってよい。標的分子は、核酸、例えばDNA又はRNA、タンパク質、ペプチド、小分子(天然に生じる小分子及び人工の小分子を含む)、又はナノポアを通過できる任意の他の分子を含む。
【0011】
抗体は、抗原もしくはそれらの断片のエピトープを特異的に認識及び結合する、少なくとも軽鎖又は重鎖のイムノグロブリン可変領域を含むポリペプチドである。抗体は、重鎖及び軽鎖から構成され、そのそれぞれは、可変領域、すなわち重鎖可変(VH)領域及び軽鎖可変(VL)領域を有する。共に、VH領域及びVL領域は、抗体によって認識された抗原を結合する要因となる。抗体という用語は、インタクトなイムノグロブリン、並びにそれらのバリアント及び一部、例えばFab’断片、F(ab)’2断片、一本鎖Fvタンパク質(「scFv」)及びジスルフィド安定化Fvタンパク質(「dsFv」)を含む。scFvタンパク質は、イムノグロブリンの軽鎖可変領域とイムノグロブリンの重鎖可変領域とがリンカーにより結合されている融合タンパク質であり、一方でdsFvにおいては、鎖が、ジスルフィド結合を導入して鎖の会合を安定させるように変異されている。前記用語は、遺伝子組み換え型、例えばキメラ抗体、ヘテロ接合抗体(例えば、二重特異性抗体)も含まれる。
【0012】
ナノポアは、少なくとも1nm、少なくとも5nm、少なくとも10nm、少なくとも20nm、少なくとも50nm、少なくとも100nm、少なくとも250nm、少なくとも500nm、少なくとも750nm、又は少なくとも900nmを含む、直径約1ミクロン未満の任意のポアであってよい。ナノポアは、直径1nm~1ミクロン、1nm~100nm、2nm~50nm、5nm~20nm、10nm~20nm、10nm~50nm、20nm~75nm、40nm~60nm、又は前記範囲の任意の間の範囲であってよい。ナノポアは、膜の片面の直径が1μm未満であり、かつ膜の反対の面の直径が1μm超のポアも含む。
【0013】
結合又は安定な結合:2つの物質又は分子間の会合、例えば、標的分子と例えばビーズに接合したキャプチャー分子との会合。結合は、当業者に公知の任意の手法によって、例えば物理的又は機能的特性によって検出されうる。
【0014】
チップベースの流体光学プラットフォーム
開示されたシステム及び方法は、電気的及び光学的な単一分子の検出の双方を可能にすることが示され、かつ上流の試料加工と統合できるチップベースの流体光学プラットフォームを含む[58~70]。図3aは、シリコンチップ上の分子標的と光の非常に効率的な相互作用を可能にする試料実装を示す。
【0015】
図3Aは、液体コアの異なる点で固体コアのARROW導波管(図3A)に接続されている、5μm×12μmのコア寸法を有する液体コア導波管の画像を示す(ガイド付き光学モードの重ね合わせた画像を有するSEM画像を参照されたい)[58~60]。チャネル及び導波管は、犠牲層エッチングと組み合わせた誘電層の堆積を含む標準的な微細加工技術を使用して作成される。このアプローチは、異なる物質(例えばSiO2、SiN、Ta25)及びコア形状を使用して検証されている[71~77]。蛍光検出について、励起光(緑色の矢印)は、直交して交差する固体コアのARROWを通って液体コアに入り、個々の標的がフェムトリットルの励起体積で励起される。それらの蛍光(赤色の矢印)は、チップ面に垂直に収集され、かつ液体コアチャネルに沿って効率的に導かれる[62]。この検出チップを、PDMSベースのマイクロ流体チップ(図2B)と組み合わせてよい。PDMSチップは、異なる試料調製ステップを実施でき[63~65]、かつ直接光学チップに又は示したように管材料を介して連結されうる。このシステムは、臨床試料[65、78、79]、個々のウイルス粒子[66]、及び多重化癌バイオマーカー[69]からのエボラウイルスRNAの増幅なしの非常に特異的な検出を含む、特異的な分子の検出に使用できる。
【0016】
ナノポアの検出原理及びハイスループット/低LoDの制限
図2Aは、ナノポアベースの分子分析の原理を図示する。2つのチャンバーは、微視的開口(ナノポア)を含む膜により分離される。2つのチャンバー間を流れるイオン電流は、粒子が通過して、少なくとも部分的に開口部を塞ぐ場合に変調される。図2Aの下部パネルにおいて、電流の減少(遮断)が示されているが、しかし、ナノポア、電荷、及びポアを通過する分析物に関連する要因に依存して、電流の増加も観察される[47]。本明細書に記載されるように、「遮断」は、ナノポアを通る粒子の移動時の電流における任意の測定可能な変化を意味する。
【0017】
この検出原理は、最初に「生物学的」ポア(例えば、脂質膜に埋め込まれたα溶血素タンパク質)を使用して証明された[21、33]。過去15年間、種々のナノファブリケーション技術を使用して、無機膜中に「固体状態の」ポアが作成されてきた。固体状態のポアは、生物学的対応物よりも頑強であり、かつ単一のDNAから大きなナノスフェアまでの幅広い標的サイズに適合できる種々の直径で製造されうる[48~51]。効率的で大規模な試料操作のために、それらを容易にマイクロ流体チャネルと統合することもできる。
【0018】
図2Bは、標的粒子が、ナノポアに入り、ナノポアを通過する、十分に強い電場に曝される、ポアの周りの容積を定義するナノポアキャプチャー半径rの概念を示す。この半径は、
【数1】
によって示される標的キャプチャー率Rを定義する。Cは濃度であり、Dは標的分子の拡散係数である。典型的な実験条件について、キャプチャー半径はわずか数マイクロメートルの大きさである。これは、生体液中の標的分子の出発濃度がアトモルからフェムトモルの範囲(103~106標的/mL、又はポアの周囲の容積に依存してより低い濃度)であってよい、医療診断における適用のためのナノポアキャプチャーの現在の制限についての説明である[11、52~56]。
【0019】
感染症について典型的な濃度(103/mL)[52~56]でのDNA標的(~1μm2/秒の拡散係数を有する)は、キャプチャー半径3μmを有するナノポアを通って2・10-8/秒の速度で移動する。したがって、血清10mL中に含まれる10000個の標的のごく一部を検出することは実質的に事実上永久に時間がかかる。しかしながら、10000個全ての標的がポアの周囲の10μmの辺長の立方体内に配置された場合に、移動速度は188個/秒であり、全ての標的が1分未満(53秒)で検出される。
【0020】
ナノポアのキャプチャー容積(~50fL)と典型的な分子診断試験のために十分な数の標的分子を検出するために要求される試料体積(~10μL~10mL)との間には大きなミスマッチがある。いくつかの可能な解決策は、ナノポアを介して全ての試料液体を引き出すこと、又は並行して大量のナノポアを使用することを含みうる。かかる解決策は、ナノスケールのチャネルを介した流体輸送[57](例えば、ナノポア/膜についてナノポアの完全性及び目詰まりを維持するためには圧力が高すぎる)、及び複雑な電子回路の必要性を含む課題を克服するための困難性に直面する。
【0021】
ナノポアのキャプチャー率は、ナノポアの周囲の特定の電圧降下を調整するための塩勾配[41]、α-HLタンパク質ポア中の内部電荷の改変[42、43]、及び圧力勾配[44]を含む、多様な方法により向上されうる。10~80の向上係数が、かかる方法を使用することにより観察でき[45]、DC及びAC電場を交互に使用してナノピペットの先端でのDNAの誘電泳動捕捉から最良の結果をもたらす[45]。これらのいずれか又は全ては、開示された装置、システム、及び方法と組み合わせて使用されうる。
【0022】
流体光学プラットフォームでのナノポアの組み込み
ナノポアは、シグナル生体分子の電気検出及び光学検出の双方をもたらす流体光学プラットフォームに組み込まれうる。これは、H1N1ウイルス及びDNAを使用して証明されている[67~69]。図4Aは、どのように3つの流体貯留体が図3Aのチップ配置においてナノポア上に組み込まれているかを示す。流体チャネルへの移動は、示したように電圧を印加することによって誘導及び検出され、チャネルに入ると、交差する導波管アプローチを使用して粒子を光学的に検出できる。ナノポアは、大きなマイクロポアのRIEエッチング[81、82]又はイオンミリング[67]、続いて残りの薄い膜中のナノポアのイオンミリングを使用して、液体コアの導波管チャネルの上層に示されうる(図4B)。ポアのサイズは、その後の電子又はイオンビームの露光によって制御されうる[83]。図4Cにおいて、直径20nmのポアの例が示されている。図4Dは、このチップ上の個々の標識付けしたH1N1ウイルスの同時の及び相関する電気検出(黒色の線、上部)及び光学検出(赤色の線、下部)を示し、チップ上の粒子送達及び光学検出のための「スマートゲート」としてのナノポアの使用を示す[67~69]。
【0023】
例-ジカウイルスの検出
開示されたシステム及び方法を使用する検出から利益を得ることができる疾患の主な例は、ジカウイルス(ZIKV)感染である。ZIKV RNAは、感染後の最初の1~2週間で検出できるが、ZIKVタンパク質は感染後何ヶ月も検出できる[6~9]。ウイルス血症は一般的に低く、かつタンパク質バイオマーカーはデング熱感染との交差反応性を呈する[9~12]ため、ZIKVは特定の課題を示す。したがって、開示されたシステム及び方法を使用してZIKVを検出する試験が要求される。
【0024】
近年開発されたマーモセット動物モデル[8、46]を使用してジカウイルス(ZIKV)感染の調査のために異なる体液中で核酸バイオマーカー及びタンパク質バイオマーカーの双方を測定することを意図して提案された一連の実験が本明細書において開示されている。特に、開示された流体光学ベースのナノポアシステムは、臨床的に関連する濃度で異なる体液から出発するZIKV感染の核酸標的及びタンパク質標的の双方を検出するために使用される。
【0025】
ジカウイルス感染の2015年の大発生は、この疾患に大きな注目を集めた。急性の流行は静まったが、特に深刻な先天性欠損症を引き起こすウイルスの能力により多くの懸念が残っている[84~86]。マーモセットにおけるZIKV感染がヒトの病気に非常に似ていることを示すモデルが利用可能である[8]。ヒト及びマーモセットの双方において、タンパク質バイオマーカー及び核酸バイオマーカーが種々の病期間に現れるため、検出のために核酸バイオマーカー及びタンパク質バイオマーカーの双方を使用する必要がある[6、7、52]。イムノアッセイは、ジカ抗体と他のフラビウイルス、特にデング熱ウイルスとの顕著な交差反応性により、ジカウイルスの検出が困難である[10、11]。図5aは、マーモセットにおける双方のバイオマーカー負荷が、チップベースのプラットフォームで以前に検出された範囲内にあることを示す[65]。同様のレベルがヒトにおいても見出される[11、52、86]。
【0026】
双方のバイオマーカータイプが、信頼度が高く、繰り返して、多数の試料マトリックス(血液、唾液、尿、精液[8])で検出される場合に、少ない出発体積を使用して双方のバイオマーカータイプを検出できる機器が必須である。ジカ感染に特異的な核酸及びNS-1タンパク質の双方を特異的に抽出するための固相アッセイの開発及び検証が本明細書において開示されている。これらの構築物は、図5Bにおいて該略図として示されている。双方の標的タイプは、優れた特異性を有するストレプトアビジン機能化マイクロビーズにうまく結合された。それぞれのビーズは多くの(240000個までの)標的を保持することに注意する。このアプローチは、[87]に示されているように、異なるスペクトル応答を有する蛍光ラベルを抽出した標的に結合させた蛍光ベースのアッセイで検証された。核酸及びウイルス粒子について以前に実証されているように、流体光学チップ上での多重蛍光検出を使用して、成功した結合を示した(図5C)[65、66]。
【0027】
開示されたシステム及び方法を使用したジカウイルスの標識なしでの検出
開示された計画は、前記例において記載したビーズベースの固相抽出の特異性及び普遍性を利用できる。しかしながら、分析は、複雑なサンドイッチ構築物の光学的検出を、最適化したスループットを有する標識なしの電気ナノポア検出に置き換えることにより、著しく単純化できる。
【0028】
このアプローチは、高度な試料調製と個々の分子の電気的検出とを組み合わせた統合プラットフォームを使用し、ハイスループットでのナノポア検出を使用して分子診断を可能にする。3つの特定の領域を扱うことができる:キャリヤービーズの光学捕捉を使用したナノポアキャプチャー率の向上;超低(アトモル)濃度でのハイスループット分子検出のためのマイクロ流体試料処理の統合;及びマーモセット動物モデルを使用して複雑な試料マトリックス(血清、唾液、尿、精液)から出発するZIKV感染についての核酸及びタンパク質の多重分析。
【0029】
分子診断について有意義な低い標的濃度でハイスループットでのナノポア検出を可能にする2つの要素がある:1つは、キャリヤーマイクロビーズの光学捕捉を使用して、ナノポアのキャプチャー容積に近い標的分子を保有及び保持することである。これは、ポアによる効率的なキャプチャーをもたらし、したがって標的分子の迅速な検出をもたらす。
【0030】
第二の要素は、キャリヤーマイクロビーズ上での標的分子の選択及び事前濃縮である。この要素は、アッセイの特異性を確実にし、ナノポア検出を使用してアトモル濃度までの検出下限(LoD)を達成できることを確実にする。
【0031】
第三の要素は、複雑な試料マトリックスに含まれる標的分析物でプラットフォームを検証することである。これを証明するために、いくつかの関連する液体におけるZIKV感染の核酸検出及びタンパク質検出のために新たなハイスループットナノポア分析を使用することができる。この計画のこれらの結果は、幅広い疾患及びバイオマーカーのタイプに適用可能である。
【0032】
キャリヤービーズの光学捕捉を使用したナノポアキャプチャー率の向上
マイクロビーズ上に負荷された標的分子のナノポアへの送達は、液体コア導波管マイクロチャネルを使用した統合した光学粒子捕捉に基づく[88~92]。図7Aは、図3aの一般的な流体光学チップをどのように粒子捕捉に変えることができるかを概略して示す。2つのレーザービームは、反対の末端からチップに結合される(紫色の矢印)。レーザービームは、チャネル中の微粒子上で光学的な力を発揮する:勾配力は、強度が最も高いチャネルの中心に粒子を引き寄せ、かつ散乱力は、それらをビームの方向に沿って押す[88、89]。2つのビームは、反対の散乱力を生じ、かつそれぞれのビームがいくつかの伝達損失を経験するために、チャネルにおいてこれらの力が相殺されて粒子が捕捉される1点がある[90]。捕捉点の位置は、2つの捕捉ビームにおける相対的な力を調整することにより制御されうる[90]。
【0033】
この案の記載内容におけるこの捕捉の他の重要な利点は、多くの粒子を光学的に「収集」して、著しい局所濃度の増加を生じることができることである[91]。図7B及び7Cは、それぞれ、個々に及び120個を超える蛍光マイクロビーズの上から見た画像を示す。これらのビーズは、図7aに示すように、液体チャネルと、交差する固体コアの導波管との間の交差部で捕捉され、かつ交差ビームで蛍光を励起することによって可視化された。
【0034】
チップ上でのマイクロビーズの光学操作は、検出のためにナノポアに標的分子を送達するために使用されうる。図8は、図7Aの光学配置を著しく単純化するアプローチの一例を示す。最初に、図8aは、単独のレーザービームが、チャネル壁にぶつかって標的を保有するキャリヤービーズの収集を進める/捕捉するために使用されるチップの上から見た図を示す。図8aにおける2つのカメラ画像は、ビームの存在下で250個の蛍光マイクロビーズの捕捉に成功し(上部)、壁に付着せずチャネルを詰まらせずに放出に成功した(下部)ことを示す。この非常に単純な捕捉方法を使用して、ナノポア検出は次のように実行されうる:図8bは、標的を保有するマイクロビーズを含む流体チャネルが、光閉込めのためのARROW層スタックの頂部に位置する目的の領域の側面図を示す[60~66]。マイクロビーズは、圧力ベースの流れ(図8aを参照されたい)を使用して貯留体から中央の導波管領域に運ばれ、ナノポアの直下のトラップに集められる。適した機構(熱の付加、pHの変化等)を使用して、ナノポアのキャプチャー容積に近接することにより、標的をビーズから放出し、電気泳動により速い速度でポアから引き出されうる(図8a、右側)。このアプローチが、捕捉ビームを止め、ビーズのチャネルをフラッシュし、そしてトラップを新たな一連のビーズで再び満たすことにより、急速な連続したビーズのいくつかのバッチの分析を可能にすることに留意されたい。
【0035】
このアプローチの実現可能性は、核酸及びタンパク質の双方を検出することが示されている。核酸について、磁性マイクロビーズ(直径1μm)を、変異メラノーマ遺伝子(BRAFV600E)の配列に一致する14bpのプルダウンオリゴマーで機能化した。この構築物は、光学検出アッセイで以前に検証されている[80]。そして、適合する100マーの合成標的をビーズに付加し、図9Aの挿入図において示した構築物を形成した。
【0036】
核酸検出
次に、図7Aの二重ビームトラップを使用して、標的ビーズ複合体を捕捉し、マイクロポア/ナノポアの下に配置した。図9aは、マイクロポア下に収集された5個のビーズ(ビデオカメラによりモニタリングされる)の画像を示す(20nmのナノポアは分解されない)。ビーズを捕捉した後に、チップを、プルダウ配列に対する標的核酸の融解温度(34℃)を超えて加熱し、そして電圧を、ポアに印加して放出された核酸を検出した。
【0037】
図9Bは、示した数の捕捉されたビーズでのナノポアを横切る標的核酸の観察された移動を示す。移動率は、ビーズの数と相関しており、より多くのビーズがポアの近くに集中している場合に標的核酸がポアの近くに集中していることを示す。測定された移動率を、240000個の標的分子(単一のビーズ上にある結合部位と同様の数の標的)が流体チャネル全体に均一に分布している濃縮されていないバルク溶液(すなわち2nMの濃度でビーズを有さない)の移動率と比較した。図9cは、捕捉されたビーズの数の関数として、濃縮されていないバルク濃度と比較した移動率における改善係数を示す。開示されたシステム及び方法は、捕捉されたビーズの数に対してほぼ線形の依存性を有する1桁~2桁の移動率における改善をもたらす。
【0038】
改善の程度は2つの主な要因によって制限される。第一に、ビーズ上の全ての結合部位が占有されていなかった可能性がある。第二に、アッセイは、粒子捕捉を止め、ヒーターをつけ、そして電気的ナノポア検出を開始する間に2分が経過している実験設定によって制限されてた。この間に、図8dにおいて示すように、標的は、~220μmまでの距離だけポアから拡散した。観察された改善は、粒子の放出とナノポア検出の開始との間の標的分子の拡散に基づく推定値と非常によく一致していた。システム及び方法のさらなる最適化は、より効率的な標的検出をもたらしうる。
【0039】
タンパク質検出
タンパク質検出は、図5bにおいて示す光学アッセイの固相抽出構築物バージョンを使用した。構築物のタンパク質検出バージョンを図10aにおいて示す。NS-1タンパク質を抗NS-1抗体HM333で機能化したビーズと一緒にインキュベートした後に、ビーズを磁石で固定して、未結合の標的分子を溶液から除去した。標的分子を、溶液を50℃に加熱することによってビーズから放出させ、そしてその上清を回収した。この時点まで、この構築物を使用した試料調製をチップ外で実施していたが、過度な実験をせずにチップ上で移動できる。上清を流体光学体チップに導入し、そしてナノポアに電圧をかけた。図9bは、ナノポアにおけるNS1の検出を示す。特に、NS1タンパク質分子は、そのサイズ(~2nm×9nm)[93]により、20nmのナノポアの全域で電流を遮断する。これは、開示された方法及びシステムが複数の標的分子に適用できることを証明する。図9cは、検出した全ての4652個の遮断事象についての遮断深度及び持続時間の散布図を示す。その値はHM333抗体の値とは明らかに異なり、NS1抗原が検出されていることを確認している。
【0040】
例 - 光学捕捉を使用した100万倍のキャプチャー率の向上の実証
開示されたプロセスの最適化は、より少ない光出力を要求し、かつ光学圧力及び流れ圧力のより容易な平衡を提供する、図8Aのより単純な単一ビーム機構を使用した分析物検出の実証を含む。(i)1000個のビーズを超える捕捉(図9Aにおいて示すような~10個の代わりに)、及び(ii)標的の放出及び電気的読み出しを同時に実施できる条件の最適化により、キャプチャーの向上を改善することも含む。これにより、検出前の時間遅延が解消される(図9dにおいて示す)。最適化は、光学捕捉及び加熱構成要素に関して、ナノポア読み出しの電気的絶縁によって達せられる。さらに、ナノポアの形状[83]を印加電圧と組み合わせて最適化して、可能な限りビーズ捕捉領域に一致する電気的キャプチャー容積を生じることができる。この領域特性の最適化は、種々のナノポア形状をモデル化することが示されているCOMSOLシミュレーションを使用して実施できる[67~69、83]。次に、核酸(BRAF-V600Eオリゴマー)を使用して、1000000xのバルク溶液検出と比較してキャプチャー率の向上を実証でき、これは、以前に報告された向上よりも4桁高い[45]。
【0041】
図8及び9は、捕捉ベースのキャプチャー率の向上が実現可能であることを示す。しかしながら、この方法が最終的に電気的クロストークによって制限される場合に、直線チャネルにおける障害に対してビーズを押す単一ビーム法の純粋な流れベースの実装を、光学捕捉の代わりに使用できる。純粋な流れベースの実装において使用できるナノ流体フィルタリング構造は、例えば[94]において記載されている。
【0042】
例 - 同一試料からの核酸標的及びタンパク質標的のナノポア検出
ナノポアベースの分子分析のためのビーズベースの標的送達は、マイクロビーズベースの固相抽出(SPE)が異なる分析物のタイプの単離のためにうまく使用されているため、例示的なアプローチとして選択されている[64、65、95~99]。図8A~10Cにおける結果は、向上したキャプチャー率を有する核酸及びタンパク質のジカ標的の双方の電気的検出を示すために拡張できる。バルク溶液からのジカ核酸(合成オリゴマー)のナノポア検出は、上記で説明したNS-1検出と同様に説明できる。これらの結果は、双方の標的についての遮断シグナル及び向上されていない割合の関連を提供する。チップ上での核酸及びタンパク質の双方の捕捉の向上した検出は、提案した単一ビーム捕捉を使用して達せられる(図8A)。それぞれの標的のタイプのキャプチャー率の改善は、別々に測定及び最適化される。これらの測定値から、標的の放出方法(熱、pH、光切断等)は、[96~99、100~102]において記載されているように最適化されうる。追加の条件は、例えば、標的のプルダウン連結に関する全ての結合の強度を最大化し、かつプルダウン配列の設計を(核酸について)所望の融解温度に最適化することによってさらに最適化されうる。
【0043】
開示された結果は、双方の標的についてビーズベースの抽出が可能であり、かつタンパク質及び核酸の双方を中程度の熱活性化を使用してビーズから放出させることができることを示す。熱放出は核酸アッセイのための選び抜かれた方法である一方で、タンパク質放出のためには最適ではない場合がある。熱放出が遅すぎるか又は非効率的である場合に、他の方法、例えば光切断、pH又は塩濃度の変更(ビーズを捕捉したままで)を使用できる[96~99、100~102]。塩濃度が電気ナノポア検出プロセスの細部にも影響するため、後者のアプローチには注意が必要である。第二に、これは開示された結果における問題ではない思われるが、いずれかの標的からの現行の遮断シグナルが小さすぎる場合に、ナノポアの直径及び厚さを最適化して、ビーズから放出される前の標的へのより大きな実体(例えば、より長い核酸、又は二次抗体)の結合が可能である。その場合に、追加の実体はポアにより読み取られるが、標準的なサンドイッチアッセイのように標的の結合前の存在に依存するため、特異性は維持される(例えば図10aを参照されたい)。
【0044】
例 - 核酸及びタンパク質についての検出限界(LoD)及びダイナミックレンジ(DR)
開示されたシステム及び方法は、臨床的に関連する範囲の分析物を検出しなければならず、現行のゴールドスタンダード法と拮抗する。ZIKV感染についてのRNA負荷は、103~106/mLの範囲である[11、52、53、103]。NS1濃度は109/mL程度であるが、ダイナミックレンジは、限られたELISAアッセイの範囲により十分に調査されない[104]。開示されたシステム及び方法において使用される流体光学チップは、光学的読み出しを使用して低いLoD及び記録DRを証明している[65]。これらのアッセイパラメーターは、核酸及びタンパク質の試料の連続希釈を使用して、電気的なナノポア検出のために体系的に評価されうる。LoD及びDRは、最初に個々に定義され、最後に双方の標的を含む単一の試料から二重検出する。最適化、例えば標的の事前濃縮は、緩衝液中の合成標的で実施されうる。計画の最終段階で、双方のパラメーターを、臨床試料中で評価する。
【0045】
例 - 超低濃度(アトモル濃度)でのハイスループット分子検出のためのマイクロ流体試料処理の統合
ナノポア位置でのより高いキャプチャー率が検出のために重要である。同様に、高い特異性で非常に低い出発濃度から標的分子をキャリヤービーズに結合することが重要である。使用されうる1つのアプローチは、参考文献[64、65、78、80]において記載されている。このアプローチは、相互に連結させた昇降式ゲートマイクロ弁のアレイに基づいており[105~107]、その動作原理を図11Aにおいて示す。その弁は、含気性マイクロチャネル及び試料を保有するマイクロチャネルを中央で分離する薄い柔軟なPDMS膜を有する3つの層を含む。負圧が含気性層に適用されない限り、弁シートは基板上にあり、流体層中の通過から流体を防ぐ。負圧をかけると、弁が上昇し、液体が通過する(図11Aにおける右図)。図11Bは、十字形の形状の弁シートを備えた弁をネットワーク(「オートマトン」)に配置して、弁を適切な順序で操作することにより複雑な試料調製タスクを実施できることを示す[64、65、78、106、107]。
【0046】
これらのオートマトンは、増幅なしでのエボラ検出のためのオンチップの試料調製ステップをうまく実行するために使用されている(図3B及び3Cを参照されたい)[65]。オートマトンのマイクロ弁構造は、単一の100nLマイクロ弁中で大きい出発体積で磁気ビーズを収集し、続いて非常に小さい体積で再懸濁及び標的放出することにより標的の事前濃縮を可能にした。図10Cは、オートマトン弁において3mL~5μLまで335倍だけ濃縮させた分子ビーコン(図10Aに類似)でタグ付けした合成エボラ配列を含むビーズとしてこの原理を示す[65]。この原理を使用して、エボラRNA検出[78]について103/mL(1.7aM)の超低の検出限度が証明されている。これは、臨床的に関連する範囲の下限に相当する[55]。オートマトンチップを、全血から出発する試料調製のために使用できる[80]。
【0047】
オートマトンチップを、特定のジカ核酸(合成オリゴマー及び全ゲノムの双方)及びタンパク質(NS-1)の抽出を実行するために使用できる。タンパク質及び核酸の標的を、前記したオートマトンの配置を使用して個々に評価できる[64、65]。固相抽出、続くナノポア検出を使用して、緩衝液中の標的分子の一連の出発濃度を検出できる。これらの標的分子の系列希釈は、それぞれ、核酸について109/mL(1.7pM)~103/mL(1.7aM)、及びタンパク質について10nM~10fMの濃度範囲を含む。標的を、チップ上で100~1000個の機能化マイクロビーズと混合して、続くナノポア読み出しのための流体光学チップ中で捕捉することができる。移動率を、それぞれの出発濃度について3回ずつ記録できる。
【0048】
これらの能力は、徐々により複雑になる試料マトリックスで実証される:103/mL(核酸)及び107/mL(タンパク質)の出発濃度で双方の分子標的のナノポアベースの検出が最初に達せられる。個々にそれぞれの標的についてこの制限にうまく達した後に、混合緩衝液から双方の標的のチップ上での抽出を実行する。このため、核酸及びタンパク質のビーズを異なるマイクロ弁に保存し、チップ上で順次抽出できる。全ての実験について、全く標的を有さず、かつ標的が一致してない陰性対照を実行できる。成功した試料調製は、標的の蛍光標識(図5を参照されたい)及び標準のARROW流体光学チップでの蛍光検出[80]によって、すなわちナノポア検出なしに、独立して確認される。開示されたアプローチの重要な利点は、標的特異性がビーズ抽出ステップによって提供されるため、遮断シグナルの細部が標的同定のために重要ではないことに留意されたい。最終的に、試料調製は、マーモセットからの生物学的試料、例えば細胞の上清、血清、唾液、精液、又は尿を使用して行われる。
【0049】
ビーズ上への標的に特異的なプルダウン及び事前濃縮はうまく使用されている[64、65、95~99]。このプロセスの最適化において2つの考えうる複雑さがある。~10000個の標的分子(103/mL濃度で10mL量)の抽出が非常に非効率的である場合に、いくつかのアプローチを使用して効率を改善できる。より小さなマイクロ弁容積を、インキュベート及び混合のために使用できる。代わりに、より効率的な「気泡混合」オートマトンチップを使用できる[78、79]。このチップは、標的抽出のための磁気ビーズを保持する大きな培養貯留体を特徴とする。気泡を定期的にこれらの貯留体を通して押し出して、粒子の混合及び標的の抽出を向上させる。標的抽出を、標識した合成エボラオリゴマーを試験標的として使用することにより最適化できる。それぞれのウェーハは、64個のかかる培養領域を保持でき、大量の出発体積の速い(~1時間)処理を可能にする[78]。他の代替方法は、標的を、最初に多数のビーズ(~106)上に引き下ろし、そして小さいオートマトン弁容積に放出させる2つのステッププロセスを含む。この放出に続いて、所望の最終的に少数のビーズ上に移動させ、再結合させる。さらに他の代替方法では、標的をより多くのビーズ(103~104)上に残し、これらを流体光学チップ上で~100個のバッチで順次試験することを含む。それというのも検出ステップが高速であり、並列化できるからである。
【0050】
他の考えうる複雑さは、ビーズ上への非効率的なプルダウン、並びにマイクロチャネル及びマイクロ弁の壁への付着による、オンチップの試料調製中の標的の損失である。これらの損失メカニズムを最小限にするために、ガラスチャネルをポリエチレングリコール化合物[108~110]で被覆でき、一方で、ウシ血清アルブミン(BSA)、ポリ(L-乳酸)[111]又は他の材料[112]をPDMSチップに適用できる。被覆を、検出の標的限界に達するまで最適化できる。光ビームでキャリヤービーズを送達する開示されたアプローチは、捕捉点への輸送中に流体光学チップ上の壁から標的分子を離し続ける利点を有することに留意されたい[88]。
【0051】
例 - 複雑な試料マトリックスから出発するZIVK検出の多重の直接検出
開示されたシステム及び方法は、標的分子を含む複雑な出発マトリックスを処理する能力について試験することができる(図6を参照)。ジカ感染は、4つの異なる試料のタイプ(血清、唾液、精液、尿)が疾患の検出及びモニタリングに関連しているため、テストケースとして理想的である[8、11、52、53、99、103]。検証を2つの段階で実行できる。第一段階において、標的分子を細胞上清中で検出し、第二段階において、前記で挙げた4つの試料のタイプを含む試料中で検出する。チップ外での試料調製物を最初に使用して、ナノポアチップ上の核酸レベル及びタンパク質レベルを測定してよい。LoD及びダイナミックレンジは、最初の緩衝液ベースの試験と同様の性能に達することを目標として評価できる。その後、試料調製のためのオートマトンチップ及び検出のためのナノポアチップを使用して、一連を繰り返せる。再度、LoD及びDRの性能を、全ての試料タイプの系列希釈を使用することにより定量化する。それぞれ挙げた試料タイプの標的分子の測定は、流体光学プラットフォームで実施されている[65、80]。最適化については、本明細書において記載され、かつ当技術分野において公知の表面処理を含みうるマイクロチャネルの表面処理を含みうる。
【0052】
参考文献
以下の全ては、参照をもってその全体を本明細書に組み込まれたものとする。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図6
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
図9D
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図11C