(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】CD47を標的とする抗体及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20240313BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240313BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240313BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240313BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240313BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240313BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240313BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240313BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240313BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/28 ZNA
C07K16/46
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 N
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2022529808
(86)(22)【出願日】2021-12-22
(86)【国際出願番号】 CN2021140404
(87)【国際公開番号】W WO2022135460
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2022-05-20
(31)【優先権主張番号】202011544262.6
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522200764
【氏名又は名称】グアンドン ファポン バイオファーマ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】GUANGDONG FAPON BIOPHARMA INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フオ,ヨンティン
(72)【発明者】
【氏名】ルー,リーシェン
(72)【発明者】
【氏名】トゥー,ジンジン
(72)【発明者】
【氏名】ルー,ディー
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,チャン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ジアチン
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/121771(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/123580(WO,A1)
【文献】特表2020-536488(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CDRsとして、
a)配列番号1のアミノ酸配列に示されるLCDR1、配列番号2のアミノ酸配列に示されるLCDR2、配列番号3のアミノ酸配列に示されるLCDR3、配列番号10のアミノ酸配列に示されるHCDR1、配列番号11のアミノ酸配列に示されるHCDR2、配列番号12のアミノ酸配列に示されるHCDR3と、
b)KSSQSLLNTRTRKNYLAに示されるLCDR1、配列番号2に示されるLCDR2、配列番号3に示されるLCDR3、配列番号10に示されるHCDR1、配列番号11に示されるHCDR2、配列番号12に示されるHCDR3
であって、前記LCDR1、LCDR2及びLCDR3は、軽鎖可変領域の配列番号8におけるCDRsであり、前記HCDR1、HCDR2及びHCDR3は、重鎖可変領域の配列番号14におけるCDRsである、LCDR1、LCDR2、LCDR3、HCDR1、HCDR2及びHCDR3と、
c)配列番号1に示されるLCDR1、配列番号2に示されるLCDR2、配列番号3に示されるLCDR3、配列番号10に示されるHCDR1、MIHPSDSETRLNQKFQGに示されるHCDR2、配列番号12に示されるHCDR3
であって、前記LCDR1、LCDR2及びLCDR3は、軽鎖可変領域の配列番号6におけるCDRsであり、前記HCDR1、HCDR2及びHCDR3は、重鎖可変領域の配列番号18におけるCDRsである、LCDR1、LCDR2、LCDR3、HCDR1、HCDR2及びHCDR3と、のうちのいずれか一方を含む、ことを特徴とする抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項2】
抗体は重鎖可変領域配列と軽鎖可変領域配列を含み、前記重鎖可変領域配列と軽鎖可変領域配列の少なくとも一部はネズミ抗体、ヒト化抗体、霊長目抗体又はその変異体の少なくとも一方に由来する、ことを特徴とする請求項1に記載の抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項3】
前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号5~9のいずれかに示されるものであり又は配列番号5~9のいずれかに示されるものと少なくとも95%の同一性を有する配列である、ことを特徴とする請求項2に記載の抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項4】
前記重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号14~18のいずれかに示されるものであり又は配列番号14~18のいずれかに示されるものと少なくとも95%の同一性を有する配列である、ことを特徴とする請求項2に記載の抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項5】
前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号5に示されるものであり、重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号14に示されるものであり、又は、
前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号6に示されるものであり、重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号14に示されるものであり、又は、
前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号6に示されるものであり、重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号15に示されるものであり、又は、
前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号6に示されるものであり、重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号16に示されるものであり、又は、
前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号6に示されるものであり、重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号17に示されるものであり、又は、
前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号6に示されるものであり、重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号18に示されるものであり、又は、
前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号8に示されるものであり、重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号14に示されるものであり、又は、
前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号9に示されるものであり、重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号14に示されるものであり、又は、
前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号7に示されるものであり、重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号16に示されるものであり、又は、
前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号8に示されるものであり、重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号16に示されるものであり、又は、
前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号9に示されるものであり、重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号16に示されるものであり、又は、
前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号9に示されるものであり、重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号18に示されるものである、ことを特徴とする請求項2~4のいずれか1項に記載の抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項6】
抗体は定常領域を有し、重鎖定常領域はIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、IgM、IgE、IgDから選ばれるいずれか1つであり、軽鎖定常領域はκ鎖又はλ鎖である、ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項7】
前記定常領域の由来種属はネズミ、ウサギ、ヒツジ、サル、ヒトから選ばれる、ことを特徴とする請求項6に記載の抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項8】
前記軽鎖定常領域はヒトのκ鎖であり、前記重鎖定常領域はヒトIgG4 S228P変異体の
重鎖定常領域である、ことを特徴とする請求項7に記載の抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項9】
前記軽鎖定常領域はヒトのκ鎖であり、かつ前記軽鎖可変領域は、配列番号8に示される配列を含み、前記重鎖定常領域はヒトIgG4 S228P変異体の
重鎖定常領域であり、かつ前記重鎖可変領域は、配列番号14に示される配列を含む、ことを特徴とする請求項8に記載の抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項10】
抗体はCDR移植抗体、多量体抗体と二重特異性抗体のうちのいずれか1つ又は複数である、ことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項11】
前記抗原結合フラグメントはF(ab’)
2、Fab、scFv、
及びFvのうちのいずれか1つ又は複数である、ことを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項12】
前記CD47はヒトCD47、ネズミCD47又はサルCD47である、ことを特徴とする請求項1~11のいずれか1項に記載の抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする、ことを特徴とする核酸。
【請求項14】
請求項13に記載の核酸を含む、ことを特徴とするベクター。
【請求項15】
請求項13に記載の核酸又は請求項14に記載のベクターを含む、ことを特徴とする細胞。
【請求項16】
請求項1~12のいずれか1項に記載の抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメント、請求項13に記載の核酸、請求項14に記載のベクター又は請求項15のいずれか1項に記載の細胞を含む、ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項17】
薬学的に許容される担体をさらに含む、ことを特徴とする請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
CD47陽性腫瘍を治療及び/又は予防する薬物の製造における請求項1~12のいずれか1項に記載の抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメント、請求項13に記載の核酸、請求項14に記載のベクター、請求項15に記載の細胞又は請求項16に記載の組成物の使用。
【請求項19】
前記薬物は赤血球凝集を低減できる、ことを特徴とする請求項18に記載の使用。
【請求項20】
前記薬物は赤血球との結合活性を低減できる、ことを特徴とする請求項18に記載の使用。
【請求項21】
CD47検出又はCD47関連疾患診断キットの製造における請求項1~12のいずれか1項に記載の抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメント、請求項13に記載の核酸、請求項14に記載のベクター又は請求項15に記載の細胞の使用。
【請求項22】
請求項1~12のいずれか1項に記載の抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメントを含む、ことを特徴とするCD47検出キット。
【請求項23】
請求項1~12のいずれか1項に記載の抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメントを含む、ことを特徴とするCD47関連疾患診断キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本開示は、2020年12月23日に中国国家知識産権局へ提出された出願番号がCN202011544262.6で発明の名称が「CD47を標的とする抗体及びその使用」である中国特許出願の優先権を主張し、それを全体として参照により本開示に組み込む。
【0002】
本開示は、バイオ医薬品の技術分野に属する。具体的には、CD47を標的とする抗体及びその使用に関し、より具体的には、抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメント、核酸、ベクター、細胞、組成物、使用及びキットに関する。
【背景技術】
【0003】
がん免疫療法はバイオテクノロジー分野における近年の重要な発見であり、T細胞ベースのCTLA4抗体、PD-1抗体、PD-L1抗体などによる免疫チェックポイント阻害剤療法とCAR-T、TCR-Tなどによる細胞療法はいずれも近年大きな注目を集める免疫療法である。これらはいずれもT細胞の機能回復に着眼し、言い換えれば、主に獲得免疫系の能力向上を中心に行うものである。
【0004】
しかし、免疫チェックポイント(checkpoint)を標的とし、T細胞の機能を活性化させることによって、獲得免疫系の能力を向上させ、さらにがんを完治するという過程は紆余曲折に満ちている。
【0005】
一方、長い間、自然免疫系は腫瘍免疫療法で役割が発揮されていない。実際には、腫瘍浸潤領域の全体で、マクロファージは腫瘍組織に約50%を占めており、さらにマクロファージの数量が腫瘍の予後と負の相関にあり、これは腫瘍の中でマクロファージが重要な役割を果たすことを示している。マクロファージが食作用を発揮するには2つのシグナルが同時に作用する必要がある。
【0006】
1つは細胞表面を標的とする「私を食べて(eat me)」シグナルの活性化であり、もう1つは同じ表面を標的とする「私を食べないで」シグナルの不活化である。いずれかのシグナルが欠けると食作用は起こらない。CD47は「私を食べないで」シグナルであり、マクロファージの表面のシグナル調節タンパク質α(Signal regulatory proteinα、SIRPα)と互いに結合してマクロファージの食作用を阻害することは多くの証拠から示されている。腫瘍細胞はまたCD47の発現によりマクロファージの食作用を回避できる(例えば、特許EP2242512とその中の引用文献を参照する)。
【0007】
CD47はインテグリン関連タンパク質(IAP)とも呼ばれ、アミノ末端の免疫グロブリンドメインとカルボキシ末端の複数の膜貫通領域を有する50kDaの膜タンパク質である。シグナル調節タンパク質α(SIRPα)、SIRPγ、インテグリン、トロンボスポンジン-1(TSP-1)を含みそれらに限定されない様々なリガンドと相互作用する。SIRPαは主に、造血幹細胞を含め、マクロファージ、骨髄系樹状細胞(DC)、顆粒球、肥満細胞とその前駆細胞などの骨髄細胞に発現される。
【0008】
CD47/SIRPα相互作用は「私を食べないで」シグナルを伝達し、オートファジーを阻止する。患者の腫瘍と隣接する正常(非腫瘍)組織を分析したところ、CD47タンパク質ががん細胞において過剰に発現され、これは自然免疫の監視と排除からの効果的な回避に役立つことが判明される。CD47-SIRPαと抗CD47抗体の相互作用を遮断することにより、インビトロでは腫瘍細胞の食作用が効果的に誘導されインビボでは様々な血液・固形腫瘍の成長が阻害されることが示される。
【0009】
したがって、CD47はがん治療の有効な標的であり、そしてヒト用治療剤を製造するには適切な拮抗剤を必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
CD47モノクローナル抗体は赤血球と高い標的結合性を有し、赤血球凝集を引き起こしやすいため、関連の抗体の治療効果を大幅に低下させ、薬物の副作用まで引き起こす。本開示はCD47を標的とする抗体を提供することを目的とし、前記抗体はCD47とSIRPαの結合を遮断して、マクロファージの食作用の発揮を促進することができ、さらには、赤血球凝集をある程度避けることができ、安全性に優れる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の目的は抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメントを提供することであり、前記抗体は、CDRとして、
配列番号1又は配列番号1と少なくとも95%の相同性を有するアミノ酸配列に示されるLCDR1、配列番号2又は配列番号2と少なくとも95%の相同性を有するアミノ酸配列に示されるLCDR2、配列番号3又は配列番号3と少なくとも95%の相同性を有するアミノ酸配列に示されるLCDR3と、
配列番号10又は配列番号10と少なくとも95%の相同性を有するアミノ酸配列に示されるHCDR1、配列番号11又は配列番号11と少なくとも95%の相同性を有するアミノ酸配列に示されるHCDR2、配列番号12又は配列番号12と少なくとも95%の相同性を有するアミノ酸配列に示されるHCDR3とを含む。
【0012】
本開示の別の目的は、前記抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメントに関連する核酸、ベクター、細胞又は医薬組成物を提供することである。
【0013】
本開示は、さらに、CD47陽性腫瘍を治療及び/又は予防する薬物の製造における前記抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメント、及び関連する核酸、ベクター、細胞又は医薬組成物の使用に関する。
【0014】
本開示は、さらに、CD47検出又はCD47関連疾患診断キットの製造における前記抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメント、及び関連する核酸、ベクター又は細胞の使用に関する。
【0015】
本開示は、さらに、前記抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメントを含むCD47検出キットを提供する。
【0016】
本開示は、さらに、前記抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメントを含むCD47関連疾患診断キットを提供する。
【発明の効果】
【0017】
本開示は次の有益な効果を有する。
【0018】
本開示は抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメントを提供し、当該抗体はインビトロにおいて赤血球凝集が起こらず、さらには赤血球とは非常に弱いレベルの低結合を示し又は結合しない。CD47とSIRPαの結合を効果的に遮断し、腫瘍細胞に対するマクロファージの食作用活性への媒介を活性化することができ、CD47陽性腫瘍細胞との明らかな標的特異性を示しており、親和性が高く、特異性が高く、赤血球凝集を引き起こさず、しかもヒト赤血球、血小板とは非常に弱い結合を示し、安全性に優れる。したがって、前記抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメントは腫瘍免疫療法で大変要望な標的として利用することができ、ヒト腫瘍の治療において大きな役割を果たし、CD47陽性腫瘍を治療する薬物の製造で幅広い利用が見込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
以下、本開示の実施例に係る技術的解決手段を明瞭に説明するために、実施例で使用する図面を簡単に紹介する。なお、次の図面は本開示のいくつかの実施例を示すものに過ぎず、範囲の限定とは見なされないということは理解できる。当業者は、新規性のある作業をしなくても、これらの図面から他の関連の図面を得ることができる。
【
図1】CD47抗体(7A11H11、7A11H12、7A11H22、7A11H32、7A11H42、陽性コントロール抗体Hu5F9-G4及びhIgG4アイソタイプコントロール)とヒトCD47の結合の平均蛍光強度である。
【
図2】CD47抗体(7A11H52、7A11H14、7A11H15、7A11H33、7A11H34、7A11H35、7A11H55、陽性コントロール抗体Hu5F9-G4及びhIgG4アイソタイプコントロール)とヒトCD47の結合の平均蛍光強度である。
【
図3】CD47抗体(7A11H11、7A11H12、7A11H22、7A11H32、7A11H42、7A11H52、陽性コントロール抗体Hu5F9-G4及びhIgG4アイソタイプコントロール)とサルCD47の結合の平均蛍光強度である。
【
図4】CD47抗体(7A11H14、7A11H15、7A11H33、7A11H34、7A11H35、7A11H55、陽性コントロール抗体Hu5F9-G4及びhIgG4アイソタイプコントロール)とサルCD47の結合の平均蛍光強度である。
【
図5】CD47抗体(7A11H11、7A11H12、7A11H22、7A11H32、7A11H42及びhIgG4アイソタイプコントロール)のヒトCD47のCD47/SIRPα結合に対する阻害結果である。
【
図6】CD47抗体(7A11H52、7A11H14、7A11H15、7A11H33、7A11H34、7A11H35、7A11H55)のヒトCD47のCD47/SIRPα結合に対する阻害結果である。
【
図7】CD47抗体の腫瘍細胞に対するマクロファージの食作用を促進する能力の測定結果である。
【
図8】CD47抗体のRBC凝集能力の測定結果である。
【
図9】CD47抗体のヒト赤血球との結合能力の測定結果である。
【
図10】CD47抗体とヒト血小板の結合アッセイの結果である。
【
図11】CD47抗体の赤血球に対するマクロファージの食作用の活性化アッセイの結果である。
【
図12】CD47抗体のヒトBリンパ球皮下移植腫瘍モデルに対する抗腫瘍結果である。
【
図13】CD47抗体のヒト悪性黒色腫モデルに対する抗腫瘍結果である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、特定の実施例を用いて本開示を一層説明し、ただし実施例は決して本開示への限定ではない。特段の説明がない限り、本開示で使用する試薬、方法と装置は本技術分野の通常の試薬、方法と装置である。
【0021】
特段の説明がない限り、次の実施例で使用する試薬と材料はいずれも市販品である。
【0022】
本開示は、抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメントに関し、前記抗体は、CDRとして、
配列番号1又は配列番号1と少なくとも95%の相同性を有するアミノ酸配列に示されるLCDR1、配列番号2又は配列番号2と少なくとも95%の相同性を有するアミノ酸配列に示されるLCDR2、配列番号3又は配列番号3と少なくとも95%の相同性を有するアミノ酸配列に示されるLCDR3と、
配列番号10又は配列番号10と少なくとも95%の相同性を有するアミノ酸配列に示されるHCDR1、配列番号11又は配列番号11と少なくとも95%の相同性を有するアミノ酸配列に示されるHCDR2、配列番号12又は配列番号12と少なくとも95%の相同性を有するアミノ酸配列に示されるHCDR3とを含む。
【0023】
当該抗体又はその抗原結合フラグメントの大きな利点はCD47と高い親和性を有することである。
【0024】
当該抗体又はその抗原結合フラグメントの大きな利点はCD47とSIRPαの結合を遮断する活性を有する。
【0025】
当該抗体又はその抗原結合フラグメントの大きな利点は腫瘍細胞に対するマクロファージの食作用を促進する能力を有することである。
【0026】
当該抗体又はその抗原結合フラグメントの大きな利点は赤血球凝集を明らかに低減する効果を有することである。
【0027】
当該抗体又はその抗原結合フラグメントの大きな利点は赤血球とは非常に弱いレベルの低結合を示し又は結合しない。
【0028】
上記の特性を有するため、当該抗体又はその抗原結合フラグメントは、抗体薬物として使用することが好ましい。
【0029】
本開示において、用語「抗体又はその抗原結合フラグメント」は特定の抗原と結合するタンパク質であって、一般に、相補性決定領域(CDR領域)を含むあらゆるタンパク質とタンパク質フラグメントを指す。「抗体」とは特に全長抗体を指す。用語「全長抗体」はポリクローナル抗体、モノクローナル抗体を含む。
【0030】
用語「抗原結合フラグメント」は抗体CDRの一部又は全体を含む物質であり、全長鎖に存在するアミノ酸の少なくともいくつかを欠いているが、抗原と特異的に結合することができる。このようなフラグメントは、標的抗原と結合し、且つ他の抗原結合分子(無傷抗体を含む)と競合的に特定のエピトープと結合できるため、生理活性を有する。いくつかの実施形態において、抗原結合フラグメントはCD47と特異的に認識して結合する機能を有する。
【0031】
いくつかの実施形態において、抗原結合フラグメントはCD47のそのリガンドの結合を遮断し、免疫細胞を活性化させる機能を有するフラグメントであり、一態様において、このようなフラグメントはFab(無傷の軽鎖とFdとからなる)、Fv(VHとVLとからなる)、ScFv(VHとVLが結合ペプチドによって結合される一本鎖抗体)、単一ドメイン抗体(VHだけからなる)から選ばれる。前記フラグメントは組換え核酸技術により、又は抗原結合分子(無傷抗体を含む)の酵素分解又は化学分解により生成されてもよい。
【0032】
用語「相補性決定領域」又は「CDR」とは免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の超可変領域を指す。3種の重鎖CDRと3種の軽鎖CDRがある。なお場合によっては、用語「CDR」と「CDR」とは抗体又はその抗原結合フラグメントとそれによって認識される抗原又はエピトープの結合親和性に役割を果たす1つ若しくは複数又は全ての主要アミノ酸残基を含む領域を指す。別の特定の実施形態において、CDR領域又はCDRとはIMGT定義の免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の超可変領域を指す。
【0033】
本開示において、重鎖の相補性決定領域はHCDRと、軽鎖の相補性決定領域はLCDRと表す。本分野で一般的に用いられるCDR定義方法は、Kabat番号付けスキーム、Chothia及びLesk番号付けスキーム、Lefrancらが1997年に発表した免疫グロブリンスーパーファミリーの全タンパク質配列を対象とする新規な標準化番号付けシステムを含む。
【0034】
Kabatらは初めて免疫グロブリンの可変領域を対象とする標準化番号付けスキームを提案した。彼らの著作「Sequences of Proteins of Immunological Interest」によると、軽鎖(λ、κ)可変領域と抗体重鎖のアミノ酸配列、及びT細胞受容体の可変領域(α、β、γ、δ)が整列され番号が付けられている。過去の数十年に配列が次々と解明されることでKABATMANデータベースが作成され、一般にKabat番号付けスキームは抗体残基の番号付けで一般的に使用する基準と見なされる。本開示ではKabat注釈基準で定義されるCDR領域を採用するが、他の方法で定義されるCDR領域も本開示の保護範囲に含まれる。
【0035】
用語「特異的な認識」、「選択的な結合」、「選択的に結合」、「特異的に結合」又は類似の用語とは抗体又はその抗原結合フラグメントが予め確定した抗原のエピトープとの結合を指す。一般に、抗体又はその抗原結合フラグメントは約10-6M未満、例えば、約10-7M、10-8M、10-9M若しくは10-10M未満、又はより低い親和性(KD)で結合する。
【0036】
本開示に係る抗体又はその抗原結合フラグメントが特異的に認識する対象はは複数の種属、例えば、ヒト、ネズミ、サル(例えば、カニクイザル(cynomolgus monkey))由来のCD47であってもよい。
【0037】
いくつかの実施形態において、前記抗体は重鎖可変領域配列と軽鎖可変領域配列の少なくとも一方を含み、前記重鎖可変領域配列と軽鎖可変領域配列の少なくとも一方の少なくとも一部はネズミ抗体、ヒト化抗体、霊長目抗体又はその変異体の少なくとも一方に由来する。
【0038】
いくつかの実施形態において、前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号5~9のいずれかに示されるものであり又は配列番号5~9のいずれかに示されるものと少なくとも95%の相同性を有する配列である。
【0039】
いくつかの実施形態において、前記重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号14~18のいずれかに示されるものであり又は配列番号14~18のいずれかに示されるものと少なくとも95%の相同性を有する配列である。
【0040】
いくつかの実施形態において、前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号5に示されるものであり、重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号14に示されるものであり、又は前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号6に示されるものであり、重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号14に示されるものであり、又は前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号6に示されるものであり、重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号15に示されるものであり、又は前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号6に示されるものであり、重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号16に示されるものであり、又は前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号6に示されるものであり、重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号17に示されるものであり、又は前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号6に示されるものであり、重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号18に示されるものであり、又は前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号8に示されるものであり、重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号14に示されるものであり、又は前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号9に示されるものであり、重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号14に示されるものであり、又は前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号7に示されるものであり、重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号16に示されるものであり、又は前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号8に示されるものであり、重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号16に示されるものであり、又は前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号9に示されるものであり、重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号16に示されるものであり、又は前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号9に示されるものであり、重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号18に示されるものである。
【0041】
いくつかの実施形態において、前記抗体は定常領域を有し、重鎖定常領域はIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、IgM、IgE、IgDから選ばれるいずれか1つであり、軽鎖定常領域はκ鎖又はλ鎖である。
【0042】
いくつかの実施形態において、前記定常領域の由来種属はネズミ、ウサギ、ヒツジ、サル、ヒトから選ばれる。
【0043】
いくつかの実施形態において、前記抗体はCDR移植抗体、多量体抗体と二重特異性抗体のうちのいずれか1つ又は複数である。
【0044】
いくつかの実施形態において、前記抗原結合フラグメントはF(ab’)2、Fab、scFv、Fv及び単一ドメイン抗体のうちのいずれか1つ又は複数である。
【0045】
いくつかの実施形態において、前記CD47はヒトCD47、ネズミCD47又はサルCD47である。
【0046】
本開示は、さらに、前記抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする核酸に関する。
【0047】
核酸は一般にRNA又はDNAであり、核酸分子は一本鎖でも二本鎖でもよいが、二本鎖DNAが好ましい。核酸が別の核酸配列と機能的な関係にある場合に、核酸は「作動可能に連結」される。例えば、プロモーター又はエンハンサーがコード配列の転写に影響を与える場合に、プロモーター又はエンハンサーは前記コード配列に作動可能に連結される。ベクターと連結する場合にはDNA核酸を用いるのが好ましい。
【0048】
また、抗体が膜タンパク質であるため、核酸は一般にシグナルペプチド配列を備える。
本開示は、さらに、上記の核酸を備えるベクターに関する。
【0049】
用語「ベクター(vector)」とは、ポリヌクレオチドをその中に挿入可能な核酸送達ビヒクルを指す。挿入されたポリヌクレオチドがコードするタンパク質がベクターにおいて発現される場合に、ベクターは発現ベクターと呼ばれる。ベクターを形質転換、形質導入、又はトランスフェクションにより宿主細胞に導入することで、それが備える遺伝物質エレメントを宿主細胞において発現することができる。
【0050】
ベクターは当業者に周知されるものであり、プラスミド、ファージミド、コスミド、酵母人工染色体(YAC)や細菌人工染色体(BAC)、P1由来人工染色体(PAC)などの人工染色体、λファージ又はM13ファージなどのファージ、動物ウイルスなどを含み、ただしそれらに限定されない。ベクターとして利用可能な動物ウイルスは、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス)、ポックスウイルス、バキュロウイルス、パピローマウイルス、パポーバウイルス(例えば、SV40)を含み、ただしそれらに限定されない。
【0051】
いくつかの実施形態において、本開示に記載のベクターには、エンハンサー、プロモーター、内部リボソーム進入部位(IRES)、他の発現制御エレメント(例えば、転写終結シグナル、又はポリアデニル化シグナル、ポリU配列など)など、遺伝子工学でよく利用する調節エレメントが含まれる。
【0052】
本開示は、さらに、上記の核酸を備え又は上記のベクターを含む細胞に関する。抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする核酸をベクターに結合させた後、細胞における発現で関連の抗体を得ることができる。上記のベクターを真核細胞、特に哺乳動物細胞に導入して、本開示に記載の抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメントを発現できる細胞を構築してもよい。
【0053】
本明細書で用語「細胞」、「細胞株」と「細胞培養物」は入れ替えて使用され、且つそのいずれも子孫を含む。そのため、用語「形質転換体」と「形質転換細胞」は形質転換の回数に関係なく、初代の試験細胞とそれに由来する培養物を含む。なお、変異には意図的ものと意図的でないものがあるため、全ての子孫はDNA含有量が全く同じにはならないということは理解できる。最初の形質転換細胞においてスクリーニングされたのと同じ機能又は生物学的活性有する変異子孫を含む。名称が同じでも意味は異なる場合に、文脈からそれが明らかになる。
【0054】
本開示は、さらに、前記抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメント、前記核酸、前記ベクター又は前記細胞を含む医薬組成物に関する。
【0055】
いくつかの実施形態において、前記組成物は薬学的に許容される担体をさらに含む。「薬学的に許容される担体」は抗体の保存期限又は機能を延長させるために、生理学的に適合性のあるありとあらゆる溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤と抗真菌剤、等張剤と吸収遅延剤などを含んでもよい。
【0056】
CD47陽性腫瘍を治療及び/又は予防する薬物の製造における前記抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメント、前記核酸、前記ベクター、前記細胞又は前記組成物の使用も、本開示の保護範囲に含まれる。
【0057】
前記薬物は赤血球凝集を低減し、赤血球との結合活性を低減することができる。
【0058】
CD47検出又はCD47関連疾患診断キットの製造における前記抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメント、前記核酸、前記ベクター又は前記細胞の使用も、本開示の保護範囲に含まれる。
【0059】
本開示は、さらに、前記抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメントを含むCD47検出キットを提供する。
【0060】
本開示は、さらに、前記抗CD47抗体又はその抗原結合フラグメントを含むCD47関連疾患診断キットを提供する。
【0061】
以下、実施例を用いて本開示の実施形態を詳細に説明する。
【0062】
実施例1:抗CD47ネズミモノクローナル抗体のスクリーニング
1. hCD47-ECD-HIS組換え発現プラスミドの構築
GenBankから提供される配列をテンプレート(CEJ 95640.1)として、ヒトCD47細胞外領域(hCD47-ECD)完全長コーディングDNA配列を遺伝子合成し3’末端に6つのHISタグ配列を追加し、5’末端EcolIと3’末端HindIIIの二重制限部位により発現ベクターpCDNA3.4(thermo社)にクローニングすることにより、CD47細胞外全長タンパク質の組換え真核発現プラスミド、即ちhCD47-ECD-HIS組換えプラスミドDNAを確立した。
【0063】
2. hCD47-ECD-HIS組換えタンパク質の発現と精製
hCD47-ECD-HIS組換えタンパク質の発現と精製は、次のステップを含む。
(1)一過性トランスフェクションの前日に、Expi293(ThermoFisher Scientific、A14635)細胞を継代し、Dynamis培地(gibco、A2617502)を使用して2×106の密度で1L振盪フラスコ(conning、431147)に接種し、細胞培養シェーカー(Adolf Kuhner、ISF4-XC)に入れて37℃下8%CO2と120回転/分で培養した。
【0064】
トランスフェクション当日に、Expi293細胞をセルカウンター(Countstar、IC1000)でカウントし、用時調製したDynamisで培養、希釈して細胞密度を2.9×106に調整した。トランスフェクションに備え、PEI:DNA=3:1で5分間均一に混合し、両者を20回軽やかに均一に混合して、15~30分間静置した。
【0065】
DNA-PEI混合物をExpi293細胞に加えて、均一に混合し、細胞培養シェーカー(Adolf Kuhner、ISF4-XC)に入れて37℃下8%CO2と120回転/分で培養した。4時間トランスフェクションした後に、ペニシリン・ストレプトマイシン溶液(gibco、15140122)と抗凝固剤(gibco、0010057)を追加した。
【0066】
(2)上清の取得である。トランスフェクションして7日間連続培養し、次にサンプルを取得し、最初に低速1000回転/分で4℃下10分間遠心分離し(湘儀H2050R)、次に高速12000回転/分で4℃下30分間とし、細胞培養上清を収集して、0.22μm濾過した。
【0067】
(3)HisTrapアフィニティークロマトグラフィー精製である。上清を1mL/分の速度でHisTrapアフィニティークロマトグラフィーにロードし、ロードを完了した後、カラム5個分の体積の20mM Tris-HClと150mM NaClのpH8.0の平衡溶液でカラムを洗い流した。カラム5個分の体積の20mM Tris-HClと150mM NaClと0~500mM イミダゾールのpH8.0の溶離液でカラムを洗い流し、溶離ピークを収集した。精製後のCD47-ECDタンパク質をポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により同定した。
【0068】
3.抗CD47ネズミモノクローナル抗体のスクリーニング
ステップ2で精製したhCD47-ECD-HIS組換えタンパク質(以下、hCD47抗原という)をBALB/Cマウス(広東省実験動物センターから購入)の免疫化に使用する。方法は具体的に次のとおりである。
【0069】
(1)動物の免疫化である。完全フロイントアジュバントで精製後のhCD47抗原を乳化し、皮下又は腹腔内注射により6~8週齢のBALB/Cマウスを免疫し、免疫化のための用量は25μg/匹であり、1群当たり5匹である。1週間をあけて2回目の免疫を行い、不完全フロイントアジュバントで乳化し、免疫化のための用量は25μg/匹であった。4回の免疫後に尾静脈から採血してELISA法で勾配希釈により血清の力価を測定した。融合の3日前に追加免疫し、細胞融合のために抗体力価最高のマウスを選択した。
【0070】
(2)細胞融合である。骨髄腫細胞としてBALB/C由来のsp2/0(ATCC(登録商標)CRL-1581)を使用し、融合時は対数増殖期であった。免疫後マウスから脾臓を摘出して、リンパ球単細胞懸濁液を調製した。マウス脾臓リンパ球と骨髄腫細胞を1:5~1:10で混合し、37℃の50%PEG1500(pH8.0)1mLを滴加し、不完全培地DMEMと残りの停止溶液を加え、遠心分離して上清を捨てた後、HAT培地を加えて懸濁させ均一に混合し、96ウェルプレートにプレーティングして、5%CO2の37℃恒温インキュベーターに入れて培養した。培養1週間後、HT培地と1回目に培地を交換し、さらに3日間培養後、HT培地と2回目に培地を交換した。
【0071】
(3)スクリーニングとクローニングである。2週間融合後、細胞上清を採取してELISA試験で検出し、細胞上清と精製CD47-ECD-His組換えタンパク質の結合状況を検出し、ELISA結果陽性の細胞をスクリーニングした後、2回目にELISA試験を行い再検出した。
【0072】
陽性ウェルの細胞を限界希釈し、各限界希釈後7日目にELISAにおいて値を測定し、OD280陽性値の高い方のモノクローナルウェルを選択して、ELISAにより96ウェルプレート全体が結果陽性となるまで限界希釈を行った。陽性値の高い方のモノクローナル株を選択した。
【0073】
(4)細胞上清モノクローナル抗体の調製と精製である。15%血清含有DMEM培地を使用してT25培養フラスコにおいて陽性クローンを培養し、拡大培養する時は、800回転/分で5分間遠心分離し、上清を捨て細胞を500mL振盪フラスコに移し、無血清培地(Hybridoma-SFM Complete DPM、Gibco、12300-067)を加えて、細胞密度を約3×105個/mLとした。
【0074】
引き続き1~2週間培養した後、細胞死亡率が60%~70%になると、細胞懸濁液を収集して8000回転/分で20分間高速遠心分離し、上清を取得し、アフィニティークロマトグラフィーにより上清を精製し、Protein Aアフィニティークロマトグラフィーにより抗体を精製した。
【0075】
ロードして、UV280ベースラインが0となるまで、pH7.4の2.5M PBSで洗い流した。pH3.5の0.1M クエン酸溶液で溶離し、2mLごとに溶離管に収集し、1管当たり100μLの1M Tris溶液を加えた。収集液を濃縮した。精製後のモノクローナル抗体の濃度を測定し、SDS-PAGEにより抗体の純度を検証した。分注し(100μL/管)、-80℃で保存した。
【0076】
実施例2:ネズミモノクローナル抗体のヒト化設計と組み合わせ
ネズミ抗体の軽鎖CDRのアミノ酸配列は配列番号1~3に示すとおりである。
【0077】
【0078】
ネズミ抗体の重鎖CDRのアミノ酸配列は配列番号10~12に示すとおりである。
【0079】
【0080】
ネズミ抗体の軽鎖可変領域(>7A11D3D3-VL)のアミノ酸配列は配列番号4に示すとおりである。
【0081】
ネズミ抗体の重鎖可変領域(>7A11D3D3-VH)のアミノ酸配列は配列番号13に示すとおりである。
【0082】
ネズミ抗体のヒト化設計を行い、7A11D3D3ネズミモノクローナル抗体の軽鎖に5つのヒト化配列を設計し、それぞれが7A11-L01~05であり、ヒト化軽鎖可変領域(7A11-L01~05)のアミノ酸配列は配列番号5~9に示すとおりである。重鎖に5つのヒト化配列を設計し、それぞれが7A11-H01~05であり、ヒト化重鎖可変領域(7A11-H01~05)のアミノ酸配列は配列番号14~18に示すとおりである。
【0083】
上記のアミノ酸配列を組み合わせて得た抗体及びその重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)に対応する配列は表1に示すとおりである。
【0084】
【0085】
実施例3:CD47抗体の産生
ヒト化可変ドメインと分泌シグナルをヒトκとヒトFcIgG4S228Pの定常ドメインと組み合わせて、哺乳動物発現系にクローニングし、293細胞にトランスフェクションしてヒト化mAbを得た。ヒト化変異体を完全長IgG分子として発現させて、培地に分泌させてタンパク質Aで精製した。
【0086】
Expi293細胞においてヒト化抗体、陽性コントロール抗体Hu5F9-G4(Hu5F9-G4配列は米国特許US2015/0183874A1に開示されている)を一過性発現し、精製した。
【0087】
Expi293細胞における抗体の一過性発現としては、ベクターpCDNA3.4を用い、最初に抗体の重鎖と軽鎖を単独のpCDNA3.4ベクターにクローニングし、化学トランスフェクション試薬としてPEI(Polysciencesから購入)を使用して、化学的なトランスフェクション法で抗体分子の重鎖と軽鎖を備えるpCDNA3.4ベクターをExpi293細胞に導入し、メーカーの説明に従い、培養したExpi293細胞を一過性トランスフェクションした。
【0088】
一過性トランスフェクションの前日に、Expi293(ThermoFisher Scientific、A14635)細胞を継代し、Dynamis培地(gibco、A2617502)を使用して2E6の密度で1L振盪フラスコ(conning、431147)に接種し、細胞培養シェーカー(Adolf Kuhner、ISF4-XC)に入れて37℃下8%CO2と120回転/分で培養した。
【0089】
トランスフェクション当日に、Expi293細胞をセルカウンター(Countstar、IC1000)でカウントし、用時調製したDynamisで培養、希釈して細胞密度を2.9E6に調整した。トランスフェクションに備え、PEI:DNA=3:1で5分間均一に混合し、両者を20回軽やかに均一に混合して、15~30分間静置した。DNA-PEI混合物をExpi293細胞に加えて、均一に混合し、細胞培養シェーカー(Adolf Kuhner、ISF4-XC)に入れて37℃下8%CO2と120回転/分で培養した。4時間トランスフェクションした後に、ペニシリン・ストレプトマイシン溶液(gibco、15140122)と抗凝固剤(gibco、0010057)を追加した。
【0090】
上清の取得と精製である。トランスフェクションして7日間連続培養し、次にサンプルを取得し、最初に低速1000回転/分で4℃下10分間遠心分離し(湘儀H2050R)、次に高速12000回転/分で4℃下30分間とし、細胞培養上清を収集して、0.22μm濾過した。培養上清をProteinA Sepharoseカラム(GE Healthcare)に使用する。カラムをPBSで洗浄し、その後、溶離バッファー(0.1M クエン酸ナトリウムバッファー、pH3.0)でタンパク質を溶離した。収集した画分をpH9.0の1M Trisで中和した。最後に、精製サンプルをPBSと透析した。
【0091】
実施例4:CD47抗体親和性測定
1.実験方法
バイオレイヤー干渉法(ForteBio)で本開示の抗体のヒトCD47(hCD47)と結合する平衡解離定数(KD)を測定した。ForteBio親和性測定は従来の方法(Estep,P et al.,High throughput solution Based measurement of antibody-antigen affinity and epitope binning.MAbs;2013.5(2):p.270-8)で行い、具体的には次のとおりである。
【0092】
アッセイバッファーにおいてセンサーをオフラインで30分間平衡化し、その後60秒間オンラインで検出してベースラインを確立し、オンラインにおいて実施例3で精製した抗体をAHCセンサー(ForteBio)にロードしてForteBio親和性測定を行い、次に、ロードした抗体を有するセンサーを100nM CD47抗原に曝露させて5分間作用させ、次に解離速度の測定に備え、センサーをアッセイバッファーに移して5分間解離した。1:1結合モデルを用いて速度論的解析を行った。
【0093】
2.実験結果
CD47抗体親和性測定結果は表2に示される。結果が示すように、CD47抗体は高い親和性を有する。
【0094】
【0095】
実施例5:CD47抗体とヒトCD47の結合
1.実験方法
フローサイトメトリーベースのアッセイにおいて本開示のCD47抗体とヒトCD47の結合を測定する。ステップは具体的に次のとおりである。
【0096】
ヒトCD47を発現するがん細胞株CCRF-CEM(上海中国科学院セルバンク、ヒト急性リンパ芽球性白血病Tリンパ球)を使用する。CCRF-CEM細胞(0.1×106個の細胞)と異なる濃度(最大濃度30μg/mL、3倍希釈、合計10濃度)の実験抗体(本開示のCD47抗体及びHu5F9-G4抗体)を、3%ウシ血清アルブミン(BSA)含有PBSにおいて、氷上で30分間インキュベートした。その後、細胞を少なくとも2回洗浄し、FCMバッファー(1×PBS+3%BSA)でPEヤギ抗ヒトIgG Fc(1:500×希釈)蛍光二次抗体を調製し、100μL/ウェルで対応の96ウェルプレートに加え、4℃下冷蔵庫で30分間インキュベートした。
【0097】
96ウェルプレートを取り出し、250gで5分間遠心分離し、丁寧に上清を除去した後、FCMバッファーを200μL/ウェルで加え、再び250gで5分間遠心分離し、丁寧に上清を除去し、細胞を少なくとも2回洗浄して1×PBSを用いて100μL/ウェルで再懸濁させ、フローサイトメトリーより分析し、そのMFIに基づいてGraphPadで濃度依存曲線を当てはめした。Hu5F9-G4抗体を陽性コントロール抗体とした。
【0098】
2.実験結果
CD47抗体とヒトCD47の結合のEC
50結果は表3に示され、CD47抗体(7A11H11、7A11H12、7A11H22、7A11H32、7A11H42、陽性コントロール抗体Hu5F9-G4及びhIgG4アイソタイプコントロール)とヒトCD47の結合の平均蛍光強度は
図1に示され、CD47抗体(7A11H52、7A11H14、7A11H15、7A11H33、7A11H34、7A11H35、7A11H55、陽性コントロール抗体Hu5F9-G4及びhIgG4アイソタイプコントロール)とヒトCD47の結合の平均蛍光強度は
図2に示され、結果が示すように、本開示のCD47抗体は細胞レベルにおいてヒトCD47に対し陽性コントロール抗体と相当な特異的結合能力を有する。
【0099】
【0100】
実施例6:CD47抗体とサルCD47の結合
1.実験方法
完全長サルCD47を備えるpCDNA3.4ベクターをトランスフェクションすることにより、サルCD47を過剰発現するCHO細胞安定細胞株(CHO-cynoCD47細胞)を生成し、CHO-cynoCD47細胞(0.1×106個の細胞)と異なる濃度(最大濃度10μg/mL、3倍希釈、合計10濃度)の実験抗体(本開示のCD47抗体及びHu5F9-G4抗体)を、3%ウシ血清アルブミン(BSA)含有PBSにおいて、氷上で30分間インキュベートした。
【0101】
その後、細胞を少なくとも2回洗浄し、FCMバッファー(1×PBS+3%BSA)でPEヤギ抗ヒトIgG Fc(1:500×希釈)蛍光二次抗体を調製し、100μL/ウェルで対応の96ウェルプレートに加え、4℃下冷蔵庫で30分間インキュベートした。
【0102】
96ウェルプレートを取り出し、250gで5分間遠心分離し、丁寧に上清を除去した後、FCMバッファーを200μL/ウェルで加え、再び250gで5分間遠心分離し、丁寧に上清を除去し、細胞を少なくとも2回洗浄して1×PBSを用いて100μL/ウェルで再懸濁させ、フローサイトメトリーより分析し、そのMFIに基づいてGraphPadで濃度依存曲線を当てはめした。Hu5F9-G4抗体を陽性コントロール抗体とした。
【0103】
2.実験結果
CD47抗体とサルCD47の結合のEC
50結果は表4に示され、CD47抗体(7A11H11、7A11H12、7A11H22、7A11H32、7A11H42、7A11H52、陽性コントロール抗体Hu5F9-G4及びhIgG4アイソタイプコントロール)とサルCD47の結合の平均蛍光強度は
図3に示され、CD47抗体(7A11H14、7A11H15、7A11H33、7A11H34、7A11H35、7A11H55、陽性コントロール抗体Hu5F9-G4及びhIgG4アイソタイプコントロール)とサルCD47の結合の平均蛍光強度は
図4に示され、結果が示すように、本開示に係る抗体は細胞レベルにおいてサル陽性コントロール抗体と相当な特異的結合能力を有する。
【0104】
【0105】
実施例7:ヒトCD47リガンドSIRPαとCD47の相互作用に対するCD47抗体の遮断
1.実験方法
フローサイトメトリーにより本開示のCD47抗体のヒトCD47とSIRPαの結合を遮断する能力を測定する。ステップは具体的に次のとおりである。
【0106】
抗体の希釈である。FCMバッファー(1×PBS+3%BSA)で本開示のCD47抗体とコントロール抗体Hu5F9-G4を90μg/mLに希釈し、その後、3倍勾配希釈で10の濃度とし、サブタイプコントロールhIgG4を30μg/mL、1.1μg/mL、0.04μg/mLに希釈し、リガンドhSIRPα-mFC(AcroBiosystems)を10μg/mLに希釈した。
【0107】
CCRF-CEM(上海中国科学院セルバンク)細胞を0.1×106個の細胞/ウェルでV底96ウェルプレートに加え、CD47抗体の量が増加する条件下でhSIRPα-mFC結合を監視した。PEヤギ抗マウスIgG Fc二次抗体(Biolegend)を用いて結合SIRPαを確認した。Hu5F9-G4抗体を陽性コントロール抗体とした。
【0108】
2.実験結果
CD47抗体(7A11H11、7A11H12、7A11H22、7A11H32、7A11H42、Hu5F9-G4及びhIgG4アイソタイプコントロール)のヒトCD47のCD47/SIRPα結合に対する阻害結果は
図5に示され、CD47抗体(7A11H52、7A11H14、7A11H15、7A11H33、7A11H34、7A11H35、7A11H55)のヒトCD47のCD47/SIRPα結合に対する阻害結果は
図6に示され、結果が示すように、本開示のCD47抗体は細胞レベルにおいて明らかな阻害でCD47とSIRPαの結合を遮断することができ、陽性コントロール抗体と比べたところ、本開示のCD47抗体は相当な遮断能力を示している。
【0109】
実施例8:CD47抗体の腫瘍細胞に対するマクロファージの食作用を促進する能力の検出
1.実験方法
フローサイトメトリーベースのアッセイにおいて本開示のCD47抗体の腫瘍細胞に対するマクロファージの食作用を促進する能力を測定する。ステップは具体的に次のとおりである。
【0110】
ドナーから採取し立ての血液を分離して末梢血単核細胞(PBMC)を得て、hCD14磁気ビーズ(Miltenyi/130-050-201)によりPBMCからCD14陽性単球を分離して、rhGM-CSF(R&D、7954-GM-010)を含む完全培地を調製し、rhGM-CSFの最終濃度は50ng/mLであり、CD14陽性単球の濃度は5E5/mLであり、20mL/皿でシャーレに加えた。5%CO2と37℃の細胞インキュベーターに移し、3日ごとに用時調製した培地と半分交換した。(50ng/mL GM-CSF含有で)引き続き4日間培養した。8日目にマクロファージの上清を15mL遠心分離管に取り分けると同時に、予冷したDPBSを加え、セルスクレーパーで直接的に細胞を収集した。
【0111】
ヒトCD47を高発現する腫瘍細胞株Jurkat(上海中国科学院セルバンク)を標的細胞種とし、CellTrace(商標)CFSEキットの説明に従って、標的腫瘍細胞を蛍光標識した。標識した腫瘍細胞を上記のとおりに分化させたマクロファージと1:1の割合で共培養すると同時に、最終濃度10μg/mL、1μg/mL、0.1μg/mLの抗体を加えて37℃下2時間インキュベートした。
【0112】
その後、細胞を少なくとも2回洗浄し、丁寧にパージして細胞を落とし、アロフィコシアニン(allophycocyanin、APC)で標識したCD14抗体(Biolegendから購入、B259538)を加え、0.1%BSA含有PBSにおいて氷上(遮光)で30分間インキュベートした。細胞を少なくとも2回洗浄しフローサイトメトリーにより分析した。貪食された細胞集団は生細胞のうちCD14陽性で且つ蛍光色素CFSE(carboxyfluorescein diacetate、カルボキシフルオレセインジアセテート、succinimidyl ester、スクシンイミジルエステル)も陽性の細胞集団である。Hu5F9-G4抗体を陽性コントロール抗体とした。
【0113】
2.実験結果
CD47抗体の腫瘍細胞に対するマクロファージの食作用を促進する能力の測定結果は
図7に示され、結果が示すように、本開示のCD47抗体は腫瘍細胞に対するマクロファージの食作用を促進する能力を有し、腫瘍細胞に対するマクロファージの食作用を促進する能力は陽性コントロール抗体Hu5F9-G4と同等であった。
【0114】
実施例9:CD47抗体によるヒト赤血球(RBC)凝集アッセイ
1.実験方法
赤血球凝集アッセイを行ってCD47抗体のRBC凝集能力を特徴づけた。抗体がヒトRBCの沈降を避ける能力を観察しRBC凝集に関してCD47抗体をスクリーニングした。方法は具体的に次のとおりである。
【0115】
PBSにおいてヒト赤血球を2%に希釈し、滴加したCD47抗体(濃度は200μg/mL、100μg/mL、50μg/mL、25μg/mL、12.5μg/mL、6.25μg/mL、1.5625μg/mL、0.78125μg/mL、0.390625μg/mL、0.195313μg/mL、0.097656μg/mL)と丸底96ウェルプレートにおいて37℃下2時間インキュベートした。未沈殿の赤血球が存在することは赤血球凝集の証拠であり、未凝集の赤血球が沈殿して鮮明な赤いスポットを形成するが、未沈殿の赤血球が霧状となっている。Hu5F9-G4抗体を陽性コントロール抗体とした。
【0116】
2.実験結果
CD47抗体のRBC凝集能力の測定結果は
図8に示され、結果が示すように、CD47抗体濃度が200μg/mLとなった以降はいずれも細胞凝集を引き起こさないことから、本開示のCD47抗体が明らかな赤血球凝集低減効果を有することが示され、CD47抗体はがんの臨床治療で副作用を明らかに低減することができ、安全性に優れる。
【0117】
実施例10:CD47抗体とヒト赤血球(RBC)の結合アッセイ
1.実験方法
CD47モノクローナル抗体はヒト赤血球と結合する特性を有し、CD47抗体阻害剤の場合は、薬効が赤血球から干渉され腫瘍がオフターゲットとなるというリスクはある。スクリーニングにより赤血球との結合活性が低い抗体を特定できればオフターゲットのリスクを低減して、その安全性を向上させることができる。ステップは具体的に次のとおりである。
【0118】
(1)抗体の希釈である。FACSバッファーでCD47抗体を初期濃度が20μg/mLとなるよう希釈し、体積は180μLであり、3倍勾配希釈(60+120)により、11の濃度とした。
【0119】
(2)細胞をカウントしプレーティングする。RBC細胞を250gで5分間遠心分離した後、上清を捨て、FACSバッファーで細胞密度を2E+06に調整し、100μL/管でV底96ウェルプレートに等分した。
【0120】
(3)上記のように希釈した抗体を細胞に加え、100μL/ウェルで、2℃~8℃下30分間インキュベートした。
【0121】
(4)96ウェルプレートを取り出し、250gで5分間遠心分離し、丁寧に上清を除去した後、FACSバッファーを200μL/ウェルで加え、再び250gで5分間遠心分離し、丁寧に上清を除去した。
【0122】
(5)FACSバッファーでPEヤギ抗ヒトIgG Fc(biolegend)蛍光二次抗体(1:500希釈)を調製し、100μL/ウェルで対応の96ウェルプレートに加え、細胞を再懸濁させ、2℃~8℃下30分間インキュベートした。
【0123】
(6)96ウェルプレートを取り出し、250gで5分間遠心分離し、丁寧に上清を除去した後、FACSバッファーを200μL/ウェルで加え、再び250gで5分間遠心分離し、丁寧に上清を除去した。
【0124】
(7)1×PBSを用いて100μL/ウェルで再懸濁させ、FACSで検出した。フローサイトメーター(Beckman、cytoflex)でデータを解析し、GraphPad Prismで製図した。Hu5F9-G4抗体を陽性コントロール抗体とした。
【0125】
2.実験結果
CD47抗体のヒト赤血球との結合能力の測定結果は
図9に示され、結果が示すように、陽性コントロール抗体と比べ、本開示のCD47抗体のヒト赤血球との結合活性は明らかに低下し、薬物としての安全性が向上している。
【0126】
実施例11:CD47抗体と血小板の結合アッセイ
1.実験方法
CD47モノクローナル抗体とヒト赤血球の結合と同じように、CD47モノクローナル抗体は血小板と結合する活性を有し、血小板の低減による多くの副作用はある。血小板と低結合する抗体はオフターゲットのリスクを低減して、その安全性を向上させることができる。方法は具体的に次のとおりである。
【0127】
抗体の希釈である。FACSバッファーで抗体を20μg/mLに希釈し、体積は240μLであった。
【0128】
細胞をカウントしプレーティングする。全血細胞を20倍希釈し、100μL/管でV底96ウェルプレートに等分した。
【0129】
上記のように希釈した抗体を細胞に加え、100μL/ウェルで、2℃~8℃下30分間インキュベートした。
【0130】
96ウェルプレートを取り出し、250gで5分間遠心分離し、丁寧に上清を除去した後、FACSバッファーを200μL/ウェルで加え、再び250gで5分間遠心分離し、丁寧に上清を除去した。
【0131】
FACSバッファーでPE蛍光二次抗体を調製して1:500希釈し(PEヤギ抗ヒトIgG Fc、biolegend、409304)、100μL/ウェルで対応の96ウェルプレートに加えると同時に、各ウェルには1μLのAPC抗ヒトCD61(biolegend、336411)を加えて、細胞を再懸濁させ、2℃~8℃下30分間インキュベートした。
【0132】
96ウェルプレートを取り出し、250gで5分間遠心分離し、丁寧に上清を除去した後、FACSバッファーを200μL/ウェルで加え、再び250gで5分間遠心分離し、丁寧に上清を除去した。
【0133】
1×PBSを用いて200μL/ウェルで再懸濁させ、FACSで検出した。Hu5F9-G4抗体を陽性コントロール抗体とした。
【0134】
2.実験結果
CD47抗体と血小板の結合アッセイの結果は
図10に示され、結果が示すように、本開示のCD47抗体は血小板との結合活性が陽性コントロール抗体より明らかに弱く、より優れた安全性を示している。
【0135】
実施例12:CD47抗体の赤血球に対するマクロファージの食作用の活性化アッセイ
1.実験方法
検出方法は実施例8と同じであり、標的細胞として赤血球を腫瘍細胞に置き換え、本開示のCD47抗体は赤血球に対するマクロファージの食作用を活性化させる効果があるかどかを検出した。Hu5F9-G4抗体を陽性コントロール抗体とした。
2.実験結果
【0136】
CD47抗体の赤血球に対するマクロファージの食作用の活性化アッセイの結果は
図11に示され、結果が示すように、本開示のCD47抗体は非常に弱いレベルで赤血球に対するマクロファージの食作用を媒介し、しかも媒介効果が陽性コントロール抗体より明らかに弱く、より優れた安全性を示している。
【0137】
実施例13:抗腫瘍活性アッセイ
1.実験方法
70匹のNOD SCID雌マウス(浙江維通利華実験動物技術有限公司から購入)を用いてヒトBリンパ球皮下移植腫瘍モデル(Raji)及びヒト悪性黒色腫モデル(A375)を構築して、本開示のCD47抗体の抗腫瘍活性を評価した。Hu5F9-G4抗体とTJC-4抗体を陽性コントロール抗体とし、hIgG4をアイソタイプコントロール抗体とした。
【0138】
2.実験結果
CD47抗体のヒトBリンパ球皮下移植腫瘍モデルに対する抗腫瘍結果は
図12に示され、結果が示すように、本開示のCD47抗体は陽性コントロール抗体より抗ヒトBリンパ球皮下移植腫瘍効果が明らかに優れている。
【0139】
CD47抗体のヒト悪性黒色腫モデルに対する抗腫瘍結果は
図13に示され、結果が示すように、陽性コントロール抗体と比べ、本開示のCD47抗体は抗ヒト悪性黒色腫効果がより優れている。
【0140】
上記の実施例は本開示の好ましい実施形態であり、本開示の実施形態は上記の実施例に限定されず、本開示の趣旨を逸脱せず他に変更、改変、置き換え、組み合わせ、簡略化を行った場合に、いずれも同等な置換として本開示の保護範囲に含まれる。
【配列表】