(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】テキスタイル製品のダメージ加工方法及び製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 10/00 20060101AFI20240313BHJP
D06M 11/34 20060101ALI20240313BHJP
D06M 11/70 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
D06M10/00 K
D06M11/34
D06M11/70
(21)【出願番号】P 2022541169
(86)(22)【出願日】2021-07-07
(86)【国際出願番号】 JP2021025696
(87)【国際公開番号】W WO2022030171
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-01-05
(32)【優先日】2020-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】398056827
【氏名又は名称】株式会社ファーストリテイリング
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(72)【発明者】
【氏名】松原 正明
(72)【発明者】
【氏名】ダンピット ダーウィン
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-081993(JP,A)
【文献】特開昭50-126997(JP,A)
【文献】国際公開第2014/113238(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2018/0291553(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06B 1/00 - 23/30
D06C 3/00 - 29/00
D06G 1/00 - 5/00
D06H 1/00 - 7/24
D06J 1/00 - 1/12
D06L 1/00 - 4/75
D06M 10/00 - 11/84
D06M 16/00
D06M 19/00 - 23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テキスタイル製品のダメージ加工方法において、
前記テキスタイル製品の表面にレーザービームを照射するステップ(S1)と、
前記レーザービームが照射されたテキスタイル製品をリン酸水溶液により洗浄するステップ(S5)と、
前記洗浄されたテキスタイル製品をオゾンガスに曝すステップ(S7)と、
を含むダメージ加工方法。
【請求項2】
前記オゾンガスに曝すステップ(S7)は、
前記テキスタイル製品を前記オゾンガスに曝す間、水分を含むネット(1)とともに前記テキスタイル製品を撹拌することを含む
請求項1に記載のダメージ加工方法。
【請求項3】
前記オゾンガスを曝すステップ(S7)は、
前記ネット(1)が含む水分を調整することを含む
請求項2に記載のダメージ加工方法。
【請求項4】
前記ネット(1)は、巻き上げられた形状を有する
請求項2に記載のダメージ加工方法。
【請求項5】
前記ネット(1)の網目は、ひし形形状を有する
請求項2に記載のダメージ加工方法。
【請求項6】
前記ネット(1)は、四角形状を有し、
前記四角形の1辺の長さ(d1)がもう1辺の長さ(d2)の2倍以上である
請求項2に記載のダメージ加工方法。
【請求項7】
前記ネット(1)は、樹脂製である
請求項2に記載のダメージ加工方法。
【請求項8】
前記テキスタイル製品を減量加工するステップ(S2)と、
前記テキスタイル製品を漂白するステップ(S3)と、
前記オゾンガスに曝す前に、テキスタイル製品を乾燥するステップ(S6)と、
をさらに含む請求項1に記載のダメージ加工方法。
【請求項9】
テキスタイル製品の製造方法であって、
前記テキスタイル製品にダメージ加工を施すステップを含み、
前記ダメージ加工を施すステップは、
前記テキスタイル製品の表面にレーザービームを照射するステップ(S1)と、
前記レーザービームが照射されたテキスタイル製品をリン酸水溶液により洗浄するステップ(S5)と、
前記洗浄されたテキスタイル製品をオゾンガスに曝すステップ(S7)と、
を含む製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テキスタイル製品のダメージ加工方法及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、デニムのようなテキスタイル製品は、使い込まれてダメージを受けた外観を形成するため、脱色される。脱色には、化学薬品を使用するブリーチ法の他、砂又は石を使用して表面を研磨するストーンウォッシュ法等が用いられている。
【0003】
ダメージによる色褪せた外観を乾燥プロセスで形成できる脱色方法としては、オゾン法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
オゾン法によれば、テキスタイル製品は、スプレー等によって水が供給された後、オゾンガスに曝される。このオゾンガスの酸化作用によって水を含む領域のエイジングが進む。
【0006】
水の供給量によってエイジングの進み方が異なるため、通常の着用によって色褪せた外観と同様に、自然に色褪せた外観を形成できる脱色プロセスの開発が進められている。
【0007】
本発明は、自然に色褪せた外観を有するテキスタイル製品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、テキスタイル製品のダメージ加工方法であって、テキスタイル製品の表面にレーザービームを照射するステップ(S1)と、レーザービームが照射されたテキスタイル製品をリン酸水溶液により洗浄するステップ(S5)と、洗浄されたテキスタイル製品をオゾンガスに曝すステップ(S7)と、を含む。
【0009】
本発明の他の一態様は、テキスタイル製品の製造方法であって、テキスタイル製品にダメージ加工を施すステップを含む。ダメージ加工を施すステップは、テキスタイル製品の表面にレーザービームを照射するステップ(S1)と、レーザービームが照射されたテキスタイル製品をリン酸水溶液により洗浄するステップ(S5)と、洗浄されたテキスタイル製品をオゾンガスに曝すステップ(S7)と、を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、自然に色褪せた外観を有するテキスタイル製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態のダメージ加工方法のプロセスを示すフローチャートである。
【
図2】オゾン処理装置においてオゾンガスに曝されるテキスタイル製品の一例を示す斜視図である。
【
図4】ネットの巻き上げられた形状を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のテキスタイル製品のダメージ加工方法及び製造方法の実施の形態について、図面を参照して説明する。以下の説明は本発明の一態様であり、本発明はこの構成に限定されない。
【0013】
[テキスタイル製品の製造方法]
本実施形態におけるテキスタイル製品の製造方法は、後述するダメージ加工方法によってテキスタイル製品を脱色することにより、自然に色褪せた外観を有するテキスタイル製品を製造する。
【0014】
ダメージ加工以外にも、製造方法は必要に応じたプロセスを含み得る。例えばテキスタイル製品が衣服の場合、製造方法は、生地をカットするプロセス、生地を縫製して衣服を仕立てるプロセス等も含み得る。これらプロセスは、ダメージ加工の前又は後のプロセスであってもよい。
【0015】
本明細書において、テキスタイル製品は、ヤーン又は糸等から構成される織物又は編物である。テキスタイル製品としては、例えば生地、又は生地を加工した衣料品、敷物等が挙げられる。
【0016】
テキスタイル製品の素材は特に限定されず、例えば天然繊維、合成繊維、又は再生繊維等が挙げられる。
【0017】
天然繊維としては、例えば綿、麻、亜麻、又はウール等が挙げられる。合成繊維としては、例えばポリエステル樹脂、アクリル樹脂、又はナイロン樹脂等が挙げられる。再生繊維としては、例えばキュプラ、又はレーヨン等が挙げられる。
【0018】
テキスタイル製品は、織り加工、編み加工、かぎ針編み加工、ノッティング加工、又はフェルティング加工等により形成され得る。
【0019】
テキスタイル製品の一例としてはデニムが挙げられるが、これに限定されない。デニムとは、経糸表布の綿製のテキスタイル製品である。デニムでは、糸が綾織りされて、緯糸が2本以上の経糸の下を通る。この綾織りは対角線状のリブを形成し、当該リブはデニムを綿帆布と区別する。
【0020】
一般的なデニムはインディゴデニム又はブラックデニムである。インディゴデニムでは、経糸がインディゴにより染色され、緯糸が白色のままである。綾織りの結果、経糸表布のテキスタイル製品の一方の表面は青色の縦糸によって占められ、他方の表面は白色の緯糸によって占められる。したがって、デニムの製品であるジーンズは、外側が青色、内側が白色を有する。ブラックデニムの場合は、経糸がサルファー染料により染色され、ジーンズの外側が黒色、内側が白色である。
【0021】
インディゴ染めされた経糸の芯は、白色のままであり、デニムの特徴である色褪せ特性をもたらす。時間が経過するにつれて、デニムの色は薄れるが、この色褪せがダメージを受けて使い込まれた外観を生み出し、ファッション性を高めることがある。
【0022】
通常、着用する過程で応力又は摩擦によってダメージを受ける部分の色褪せが生じる。ジーンズにおいて色褪せが生じやすい部分としては、太もも上部、足首、及び膝裏の部分等が挙げられる。ダメージが大きいほど色褪せの程度も大きく、脱色により明るくなる。
【0023】
デニムはジーンズのような衣料品に仕立てられた後、使い込まれた外観形成のため、ダメージ加工が施される。ダメージ加工によって、通常の着用によってエイジングが進んだデニムと同様の色褪せを生じさせることができれば、より自然なダメージを表現でき、ファッション性の高い製品を提供できる。
【0024】
[ダメージ加工方法]
図1は、本実施形態におけるテキスタイル製品のダメージ加工方法のプロセスを示すフローチャートである。
【0025】
以下、テキスタイル製品として、インディゴ染色された綿生地(デニム)の例を説明するが、これに限定されない。
【0026】
(レーザー照射プロセス)
ステップS1では、インディゴ染色された綿生地の表面にレーザービームが照射される。このレーザー照射プロセスでは、綿生地の表面領域に対してレーザー照射装置によりレーザービームが走査される。
【0027】
レーザービームが走査された表面領域には熱が加わり、生地の繊維が焼ける(burn)。焼けることにより、使い込まれた外観を表現するためのダメージが加えられる。また、糊抜きを行うこともできる。
【0028】
表面領域とは、厚みを有する3次元領域をいう。表面領域の厚みは、テキスタイル製品の厚みより薄く、例えばテキスタイル製品の厚みの半分以下である。
【0029】
レーザービームのエネルギー強度及び照射時間は、綿生地の表面領域が焼け焦げ、目的のダメージが加わるように決定され得る。例えば、照射時間は1~3分である。
【0030】
レーザー照射プロセスによれば、装置による加工が可能であるため、サンドペーパー、たわし等のツールを用いて手作業で綿生地を擦るシェービング加工に比べて、処理スピードが速い。
【0031】
またレーザービームの強度及び照射位置の調整は容易である。そのため、特定の表面領域を焼いて画像を形成することもできるし、位置によってダメージの程度を異ならせて自然な色褪せを生み出すこともできる。
【0032】
(プレ洗浄プロセス)
レーザービームの照射後、ステップS2において綿生地は洗浄される。綿生地はウォッシャーに投入され、浴槽内の洗浄液中で撹拌される。例えば、綿生地と洗浄液の質量比は1:3~1:4である。
【0033】
ウォッシャーは、撹拌可能な浴槽を備えるのであれば特に限定されない。そのようなウォッシャーとしては、例えば回転式のドラム状の浴槽を有するウォッシャー等が挙げられる。
【0034】
洗浄液は、セルラーゼ酵素を含む。セルラーゼ酵素により綿生地に減量加工を施して、柔軟性を付与することができる。
【0035】
洗浄液は、必要に応じてアンチバックステイン剤等の公知の助剤を含むことができる。アンチバックステイン剤は、綿生地から脱離した染料の再付着による汚れを抑える。
【0036】
洗浄条件は、綿生地の種類、又は色等に応じて適宜選択できる。例えば、綿生地は、洗浄液が投入され、40~50℃に設定された浴槽内で、10~50分撹拌される。次いで、浴槽から洗浄液が排出され、綿生地は水ですすがれる。すすぎ液は排出される。
【0037】
(漂白プロセス)
ステップS3において、洗浄された綿生地が漂白される。この漂白プロセスは省略することもできる。補助的な脱色のため、後述するオゾンプロセスによる綿生地の脱色に加えて、この漂白プロセスが行われてもよい。
【0038】
漂白プロセスにおいて、ウォッシャー内の浴槽に漂白液が投入される。綿生地は、目的の色に脱色されるまで、例えば3~30分間、漂白液中に浸される。脱色中、綿生地は撹拌されてもよい。
【0039】
漂白液は、次亜塩素酸カルシウム又は次亜塩素酸ナトリウムの水溶液である。これら漂白剤の酸化作用によって、インディゴの自然な青色を有する綿生地が得られる。例えば、綿生地と漂白液の質量比は、1:3~1:5とすることができる。
【0040】
脱色後、ウォッシャーから漂白剤が排出され、綿生地は水によりすすがれる。例えば、綿生地とすすぎ用の水の質量比は1:4~1:6である。漂白液の除去のため、水によるすすぎは複数回繰り返される。
【0041】
(中和プロセス)
ステップS4において、漂白された綿生地が中和される。
【0042】
中和プロセスでは、ウォッシャーの浴槽内に中和液が投入される。例えば、綿生地と中和液の質量比は1:3~1:5である。中和液は、メタ重亜硫酸ナトリウム及びチオ硫酸ナトリウムを含む。中和液は、必要に応じてアンチバックステイン剤のような助剤を含むこともできる。
【0043】
例えば、綿生地は、45~50℃に設定された中和液の浴槽内で、5~10分浸される。この間、綿生地は撹拌されてもよい。その後、浴槽から中和液が排出され、綿生地は水によってすすがれる。すすぎは数回行われる。
【0044】
(リン酸洗浄プロセス)
ステップS5において、中和された綿生地がリン酸水溶液により洗浄される。リン酸水溶液により綿生地のpHは4~5付近の弱酸性に調整される。
【0045】
このようなpH調整により、後述するオゾンプロセスにおいてオゾンガスに曝されたとき、色褪せによるより自然なダメージの表現が可能である。また綿生地に生じる汚れやしみを減らすことができる。
【0046】
リン酸洗浄プロセスでは、ウォッシャーの浴槽内にリン酸水溶液が投入され、綿生地はリン酸水溶液中に浸される。例えば、リン酸水溶液の濃度は5~10g/Lである。綿生地は、リン酸水溶液中で撹拌されてもよい。その後、浴槽からリン酸水溶液が排出される。
【0047】
(乾燥プロセス)
ステップS6において、綿生地は、ウォッシャーから乾燥機へと移される。乾燥機において水分がほとんどないか、完全にない状態まで綿生地が乾燥処理される。
【0048】
(オゾンプロセス)
ステップS7において、綿生地は乾燥機からオゾン処理装置へと移され、オゾン処理装置によってオゾンガスに曝される。
【0049】
オゾン処理装置は、綿生地を収容して密閉できる容器と、容器内にオゾンガスを供給するオゾンガス発生器とを備える。オゾンガスは、O3分子を含むガスをいい、空気中に含まれる他の分子又は不純物を含んでもよい。
【0050】
オゾンガスの濃度は、通常、20~80g/Nm3とすることができる。必要な外観が得られるまで、綿生地はオゾンガスに曝される。オゾンガスに曝される時間が長いほど色褪せしやすいが、オゾンガスに曝される時間は、例えば20~60分である。
【0051】
綿生地は、オゾン処理装置の容器内に複数のネットとともに投入される。ネットは、水に浸され、水分を含む。次いで、容器内にオゾンガスが供給され、綿生地は撹拌されながらオゾンガスに曝される。
【0052】
容器内では、乾燥状態の綿生地にネットとオゾンガスの両方から水分が供給される。水分が供給された領域では酸化反応が進行して脱色が起こる。レーザービームにより焼かれた表面領域においては、オゾンガスによる脱色によってエイジングを進めることができる。
【0053】
事前にリン酸水溶液により洗浄されたテキスタイル製品は、オゾンガスに曝されたとき、洗浄されていない場合に比べ、自然な色褪せが生じる。色褪せはフェードと呼ばれることがある。
【0054】
水分が多い領域ほどエイジングが進みやすいが、ネットからテキスタイル製品へ徐々に水分が移るため、スプレーのようにテキスタイル製品に直接水を供給する場合に比べてエイジングのばらつきが少なく、より自然な色褪せが生じやすい。
【0055】
またネットが綿生地とともに撹拌されるため、テキスタイル製品に均一に水が供給され、自然な色褪せが生じやすい。
【0056】
目的とする脱色の程度にもよるが、例えばネットの全質量に対して1~20質量%程度の水を含むネットを、綿生地に対して10~20質量%使用することができる。ネットの含水量が1~20質量%となるようにネットを浸す水の量を計量することにより、水の供給量を調整することができ、調整操作が容易である。
【0057】
自然な色褪せのために適量の水を均一に供給する操作は難しく、従来は手作業で行われていたが、ネットを用いることによりこのような手作業が不要となり、製造効率が向上する。
【0058】
なおネットは、布地と異なり、目が粗いため、過剰な含水を回避することができ、水分の供給操作が容易である。
【0059】
例えば、布地は、布地の90~100質量%に相当する水分を含むことができる。オゾンガスに曝すには過剰な含水量であり、布地自身も重くなって容器内でバランスがとりにくいため、均一な水の供給が難しくなる。したがって、布地を水に浸した後、乾燥し、10~20質量%程度の含水量に調整する必要がある。
【0060】
一方、ネットの含水量は、水に浸したとしてもネットの質量に対して10~15質量%程度と適度な含水量であり、その後の乾燥による含水量の調整が不要である。逆に含水量が不足する場合は、使用するネットの数を増やせばよい。したがって、工程管理が容易であり、製造コストを減らすことができる。
【0061】
また布地よりも目が粗いネットは、水分を分散させやすく、テキスタイル製品の表面領域に対して均一に水分を供給できる。異物やテキスタイル製品から脱離した染料も付着しにくいため、ネットを介してテキスタイル製品に汚れがつきにくい。
【0062】
ネットは、布地に比べて空隙が多いため、柔らかい。テキスタイル製品の形状に沿ってネットの形状が変わりやすいため、テキスタイル製品との接触頻度が増え、水分を供給しやすい。
【0063】
本実施形態のネットは、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、又はナイロン樹脂等の樹脂製であり、耐久性に優れる。ネットは、これら樹脂の糸(合成繊維)の編物又は織物であってもよいし、これら樹脂の成形体であってもよい。
【0064】
なかでも、ネットは、ポリエステル樹脂からなることが好ましい。ポリエステル樹脂は、天然繊維や他の樹脂に比べて含水量が少なく、過剰な含水を回避しやすい。
【0065】
ネットの形状は特に限定されず、四角形、三角形、又は円筒状等であってもよい。撹拌する場合はからまりを減らす観点から、ネットは、巻き上げられた形状を有することが好ましい。
【0066】
ネットのサイズについても限定されないが、からまりを抑える観点から、4~10cm程度とすることができる。
【0067】
ネットの網目の形状は、四角形状、ひし形形状等であってもよく、これらに限定されない。ネットを構成する線間のピッチは、0.1~1.0cmとすることができ、適度な含水量とする観点からは、0.3cm以上が好ましい。
【0068】
上記ネットを使用したオゾンプロセスによれば、より進んだエイジング及び自然なフェードのために、砂又は石等の研磨材は不要であるが、研磨材の併用を排除するものではない。容器内に研磨材が投入され、綿生地とともに撹拌されてもよい。
【0069】
図2は、オゾン処理装置によりオゾンガスに曝される綿生地の例を示す。
図2に例示するオゾン処理装置10は、回転式の容器であるタンブラー11を備える。
【0070】
オゾン処理装置10は、タンブラー11内にオゾンガスを供給し、タンブラー11内に収容された綿生地20をオゾンガスに曝す。オゾン処理装置10は、オゾンガスに曝す間、タンブラー11を回転させて綿生地20を撹拌することができる。
【0071】
タンブラー11内にはいくつかのネット1も投入される。ネット1は水分を含み、綿生地20とともにネット1が撹拌されることにより、ネット1から綿生地20に水分が供給される。
【0072】
図3は、ネット1の一例を示す。
図4は、
図3のネット1が巻き上げられた形状を示す。
ネット1は、ポリエステル樹脂製の糸で編まれている。
【0073】
ネット1は、平面上において四角形状を有する。四角形の1辺(長辺)の長さd1は、もう1辺(短辺)の長さd2の2倍以上であることが好ましい。このようなネット1は、カールしやすく、巻き上げられた形状が形成されやすい。
【0074】
ネット1は、長辺方向、短辺方向又は斜め方向等の様々な方向にカールし得る。カールによってネット1のサイズが小さくなるため、ネット1とテキスタイル製品のからまり又はネット1同士のからまりを減らすことができる。
【0075】
一例としてのネット1の長辺の長さd1は8.7cmであり、短辺の長さd2は3cmである。またネット1の糸の長辺方向のピッチd3及び短辺方向のピッチd4は、いずれも0.3cmである。
【0076】
なお長さd1の上限は特に限定されないが、通常は長さd2の5~10倍以下とすることができる。使用時(巻き上げ時)にからまりにくいサイズ、例えば全長が4~10cm程度のサイズとなるように、長さd1及びd2を適宜決定すればよい。
【0077】
同様にカールの形成を容易にする観点からは、ネット1の網目は、ひし形形状を有することが好ましい。上述のように、ネット1を巻き上げてからまりを減らすことができる。
【0078】
(バイオ研磨プロセス)
ステップS8では、綿生地が再びウォッシャーの浴槽内に移され、セルラーゼ酵素を含む洗浄液により洗浄される。
【0079】
綿生地の表面の繊維はそれまでのプロセスにより剥離し、毛羽立つことがあるが、バイオ研磨プロセスでは、このような繊維を酵素により除去し、毛羽立ちを抑える。
【0080】
例えば綿生地は、洗浄液が投入された30~40℃の浴槽内で10~15分間撹拌される。綿生地と洗浄液の質量比は、1:3とすることができる。その後、綿生地は水ですすがれる。
【0081】
(中和プロセス)
ステップS9において、オゾンガスに曝された綿生地のオゾン臭を取り除き、黄変化を減らすため、綿生地は中和される。
【0082】
中和プロセスでは、まずウォッシャー内の浴槽にチオ硫酸ナトリウム溶液とアンチバックステイン剤が投入される。例えば綿生地は、45℃に設定された浴槽内で2分撹拌される。綿生地とチオ硫酸ナトリウム溶液の質量比は1:3とすることができる。
【0083】
次いで、浴槽内に化学薬品、洗剤、さらに過酸化水素が順次導入され、8~13分間撹拌された後、浴槽からチオ硫酸ナトリウム溶液が排出される。その後、水によるすすぎが数回行われる。
【0084】
(着色プロセス)
ステップS10において、綿生地は着色される。この着色プロセスは、必要に応じて行えばよい。着色プロセスでは直接染料を用いることができる。染料の使用量は、目的の色又は濃度に応じて決定することができる。
【0085】
(仕上げプロセス)
ステップS11では、綿生地の仕上げプロセスが実施される。
【0086】
仕上げプロセスは、例えばシリコーン等を含む柔軟剤を用いて綿生地の柔軟性を高めるプロセス、定着剤を用いて綿生地の摩擦堅牢度を高めるプロセス、又はクエン酸等を用いて綿生地のpHを調整するプロセス等を含む。
【0087】
以上のように、本実施形態によれば、レーザービームによりテキスタイル製品の表面領域を焼いた後、オゾンガスに曝すことにより、テキスタイル製品のエイジングを進め、色褪せを生じさせることができる。
【0088】
オゾンガスに曝す前にテキスタイル製品はリン酸水溶液により洗浄され、弱酸性のpHに調整されるため、オゾンガスに曝した際、通常の着用時と同様の自然な色褪せが生じたテキスタイル製品を提供することができる。また綿生地に生じる汚れやしみ等も減らすことができる。
【0089】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0090】
1・・・ネット、10・・・オゾン処理装置、20・・・綿生地