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特許7454059リチウムイオン電池、電池モジュール、電池パック及び電力消費装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池、電池モジュール、電池パック及び電力消費装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20240313BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20240313BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240313BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0567
H01M4/13
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022548242
(86)(22)【出願日】2022-01-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-10
(86)【国際出願番号】 CN2022073161
(87)【国際公開番号】W WO2022161270
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2022-08-08
(31)【優先権主張番号】202110138000.8
(32)【優先日】2021-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】513196256
【氏名又は名称】寧徳時代新能源科技股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Contemporary Amperex Technology Co., Limited
【住所又は居所原語表記】No.2,Xingang Road,Zhangwan Town,Jiaocheng District,Ningde City,Fujian Province,P.R.China 352100
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鄒海林
(72)【発明者】
【氏名】陳培培
(72)【発明者】
【氏名】彭暢
(72)【発明者】
【氏名】梁成都
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-033824(JP,A)
【文献】特開2014-011065(JP,A)
【文献】特開2011-096643(JP,A)
【文献】国際公開第2019/239947(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052
H01M 10/0567
H01M 4/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池であって、
負極集電体及び前記負極集電体の少なくとも一つの表面に設けられた負極材料を含む電極アセンブリと、
フルオロスルホン酸塩系及び/又はジフルオロリン酸塩系物質を含む電解液とを含み、
前記リチウムイオン電池の化成ガス発生面積係数をαとし、α=M×S/200(I)であり、
前記式(I)において、前記Mは、単位面積あたりの前記負極集電体上の負極材料の担持量であり、その単位はmg/cmで、前記Mの範囲は5mg/cm~100mg/cmであり、
前記式(I)において、前記Sは、前記負極集電体上の負極材料の比表面積であり、その単位はm/gで、前記Sの範囲は0.1m/g~10m/gであり、
前記リチウムイオン電池のガス排出経路係数をβとし、β=100/L(II)であり、
前記式(II)において、前記Lは、前記負極集電体の表面における負極材料の塗布領域の幅であり、その単位はmmで、前記Lの範囲はL≧50mmであり、
ここでは、前記電解液における前記フルオロスルホン酸塩系及び/又はジフルオロリン酸塩系物質の質量百分率w%と、前記リチウムイオン電池の化成ガス発生面積係数αと前記リチウムイオン電池のガス排出係数βとは、0.02≦w×β/α≦3.83(III)を満たし、
前記電解液には、さらに膜形成添加剤を含み、前記膜形成添加剤には、シュウ酸錯体を含まないことを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項2】
前記フルオロスルホン酸塩の構造式は(FSOy+であり、My+はLi、Na、K、Rb、Cs、Mg2+、Ca2+、Ba2+、Al3+、Fe2+、Fe3+、Ni2+及びNi3+のうちの一つから選択される、ことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項3】
前記ジフルオロリン酸塩の構造式は(FPOy+であり、My+はLi、Na、K、Rb、Cs、Mg2+、Ca2+、Ba2+、Al3+、Fe2+、Fe3+、Ni2+及びNi3+のうちの一つから選択される、ことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項4】
前記電解液における前記フルオロスルホン酸塩系及び/又はジフルオロリン酸塩系物質の質量百分率w%の範囲は0.01%~11%である、ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項5】
前記単位面積あたりの負極集電体上の負極材料の担持量Mの範囲は11mg/cm~80mg/cmある、ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項6】
前記負極集電体上の負極材料の比表面積Sの範囲は0.5m/g~5m/gである、ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項7】
前記負極集電体表面上の負極材料の塗布領域の幅Lの範囲は50mm≦L≦200mmである、ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項8】
前記電解液にはフルオロエチレンカーボネート及び/又は1,3-プロパンスルトンが含まれる、ことを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項9】
前記負極材料の孔隙率は10%~40%である、ことを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項10】
電池モジュールであって、
請求項1~9のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池を含む、ことを特徴とする電池モジュール。
【請求項11】
電池パックであって、
請求項1~9のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池又は請求項10に記載の電池モジュールを含む、ことを特徴とする電池パック。
【請求項12】
電力消費装置であって、
請求項1~9のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池、請求項10に記載の電池モジュール又は請求項11に記載の電池パックの少なくとも一つを含む、ことを特徴とする電力消費装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、リチウムイオン電池に関し、特に高エネルギー密度、低ガス発生量のリチウムイオン電池及びその製造方法、電池モジュール、電池パック並びに電力消費装置に関する。
【背景技術】
【0002】
新エネルギー分野の急速な発展に伴い、リチウムイオン電池は、その優れた電気化学的性能、記憶効果がなく、環境に対する汚染が少ないなどの優位性によって、様々な大型動力装置、エネルギー貯蔵システム及び様々な消費者製品に幅広く応用され、特に純電気自動車、ハイブリッド電気自動車などの新エネルギー自動車分野に幅広く応用されている。
【0003】
新エネルギー自動車分野において、消費者はリチウムイオン電池の航続能力に対して、より高い要求を出している。
【0004】
しかしながら、現在のリチウムイオン電池は、人々による航続能力への高い要求を満たすことが難しいため、エネルギー密度がより高いリチウムイオン電池の開発は、リチウムイオン電池の研究開発の主な方向の一つとなっている。
【0005】
しかし、高エネルギー密度の電池の化成過程において、負極で安定したSEI被膜を形成すると同時に、電解液における溶媒と一部の添加剤は還元又は分解されて電池内部のガス発生が深刻になり、そして、低エネルギー密度の電池に比べて、高エネルギー密度の電池は内部のガス発生がさらに深刻となる。化成により発生したガス、例えばメタン、エタン、エチレン、一酸化炭素などを即時排出できなければ、正負極間で気泡を形成してしまい、正負極へのリチウムイオンの吸蔵と放出に影響を与えることによって、電池の内部抵抗の増加、負極界面の黒斑、負極界面の局部におけるリチウムの析出、容量発揮異常などの問題を引き起こし、最終的に電池の電気性能と安全性に影響を与える。
【0006】
そのため、高エネルギー密度且つ低化成ガス発生量のリチウムイオン電池を早急に開発することが望まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本出願は上記課題に鑑みてなされたものであり、エネルギー密度が高く、且つガス発生量が低いリチウムイオン電池、電池モジュール、電池パック及び電力消費装置を提供することを目的とする。本出願のリチウムイオン電池は、リチウムイオン電池のエネルギー密度を向上させることができるだけでなく、化成ガス発生量及び黒斑とリチウム析出の現象を顕著に軽減することもでき、リチウムイオン電池の電気化学的性能と安全性の向上に有利である。
【0008】
本出願の一つの目的は、高エネルギー密度を有するリチウムイオン電池を提供することである。
【0009】
本出願の一つの目的は、化成ガス発生量が低く且つエネルギー密度が高いリチウムイオン電池を提供することである。
【0010】
本出願の一つの目的は、負極の黒斑とリチウム析出現象が顕著に改善されたリチウムイオン電池を提供することである。
【0011】
本出願の一つの目的は、電池の内部抵抗が低く且つエネルギー密度が高いリチウムイオン電池を提供することである。
【0012】
本出願の一つの目的は、サイクル性能を有する高エネルギー密度が改善されたリチウムイオン電池を提供することである。
【0013】
発明者は、本出願の技術案を採用することにより、一つ又は複数の上記目的を実現できることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本出願はリチウムイオン電池を提供する。このリチウムイオン電池は、
負極集電体及び前記負極集電体の少なくとも一つの表面に設けられた負極材料を含む電極アセンブリと、
フルオロスルホン酸塩系及び/又はジフルオロリン酸塩系物質を含む電解液とを含み、
前記リチウムイオン電池の化成ガス発生面積係数をαとし、α=M×S/200(I)であり、
前記式(I)において、前記Mは、単位面積あたりの前記負極集電体上の負極材料の担持量であり、その単位はmg/cmで、前記Mの範囲は5mg/cm~100mg/cmであり、
前記式(I)において、前記Sは、前記負極集電体上の負極材料の比表面積であり、その単位はm/gで、前記Sの範囲は0.1m/g~10m/gであり、
前記リチウムイオン電池のガス排出経路係数をβとし、β=100/L(II)であり、
前記式(II)において、前記Lは、前記負極集電体表面上の負極材料の塗布領域の幅であり、その単位はmmで、前記Lの範囲はL≧50mmであり、
ここでは、前記電解液における前記フルオロスルホン酸塩系及び/又はジフルオロリン酸塩系物質の質量百分率w%と、前記リチウムイオン電池の化成ガス発生面積係数αと前記リチウムイオン電池のガス排出経路係数βとは、0.01≦w×β/α≦20(III)を満たす。
【0015】
本出願の発明者は、多くの研究及び実験により、電解液におけるフルオロスルホン酸塩系及び/又はジフルオロリン酸塩系の質量百分率w%と、化成ガス発生面積係数αとガス排出経路係数βが、関係式0.01≦w×β/α≦20を満たす時、リチウムイオン電池が改善されたエネルギー密度を有するとともに、非常に低い化成ガス発生量を有し、化成時の負極端における黒斑の出現及びリチウム析出の現象を効果的に防止でき、電池の内部抵抗の改善と電池の電気性能の向上に有利であることを見出した。
【0016】
本出願は、リチウムイオン電池自体の構造から取りかかり、電池の各種の構造パラメータ及び電解液添加剤の種類と含有量を合わせて調整し、電池内部の各種の構造パラメータと電解液パラメータとの相乗作用を総合することによって、高エネルギー密度のリチウムイオン電池を取得するとともに、高エネルギー密度リチウムイオン電池の化成過程における深刻なガス発生と、負極における黒斑とリチウム析出の問題を解決し、リチウムイオン電池の内部抵抗と電気性能を顕著に改善する。
【0017】
任意の実施形態では、任意選択的に、前記フルオロスルホン酸塩の構造式は(FSOy+であり、My+は、
Li、Na、K、Rb、Cs、Mg2+、Ca2+、Ba2+、Al3+、Fe2+、Fe3+、Ni2+及びNi3+のうちの一つから選択される。
【0018】
任意の実施形態では、任意選択的に、前記ジフルオロリン酸塩の構造式は(FPOy+であり、My+は、
Li、Na、K、Rb、Cs、Mg2+、Ca2+、Ba2+、Al3+、Fe2+、Fe3+、Ni2+及びNi3+のうちの一つから選択される。
【0019】
任意の実施形態では、任意選択的に、前記電解液における前記フルオロスルホン酸塩系及び/又はジフルオロリン酸塩系物質の質量百分率w%の範囲は0.01%~11%であり、任意選択的に0.5%~10%であり、さらに任意選択的に0.5%~5%である。
【0020】
本出願の高エネルギー密度リチウムイオン電池を設計する過程において、電解液に適量(0.01%~11%)のフルオロスルホン酸塩系及び/又はジフルオロリン酸塩系物質を加えることで、化成ガス発生量を顕著に低減させることができる。フルオロスルホン酸塩系及び/又はジフルオロリン酸塩系物質の添加量を適切な範囲内で設定することによって、負極端での黒斑の出現を回避する一方、電解液の粘度増加により電解液の電気伝導率に影響を与え、電池内部抵抗の増加を引き起こすことを回避することもできる。
【0021】
任意選択的に、前記電解液における前記フルオロスルホン酸塩系及び/又はジフルオロリン酸塩系物質の質量百分率w%は、0.5~10%であってもよい。
【0022】
任意選択的に、前記電解液における前記フルオロスルホン酸塩系及び/又はジフルオロリン酸塩系物質の質量百分率w%は、0.5~5%であってもよい。
【0023】
具体的には、電解液におけるフルオロスルホン酸塩系及び/又はジフルオロリン酸塩系物質の質量百分率w%が0.5%~10%の範囲内にある時、負極端では黒斑の現象はなく、リチウムイオン電池は顕著に改善された化成ガス発生量を兼ね、電池の体積エネルギー密度と電池の内部抵抗が比較的に優れたレベルにある。
【0024】
さらに、電解液におけるフルオロスルホン酸塩系及び/又はジフルオロリン酸塩系物質の質量百分率w%が0.5%~5%の範囲内にある時、該当するリチウムイオン電池は、優れた高温サイクル特性と常温サイクル特性をさらに両立させる。
【0025】
任意の実施形態では、任意選択的に、前記単位面積あたりの負極集電体上の負極材料の担持量Mの範囲は11mg/cm~80mg/cmであり、任意選択的に11mg/cm~50mg/cmである。
【0026】
単位面積あたりの負極集電体上の負極材料の担持量Mが比較的に少なければ(Mは11mg/cm未満)、リチウムイオン電池の体積エネルギー密度に悪影響を及ぼす。担持量が適切な範囲内にある時、負極材料と電解液との接触面積の増加を回避することにより、化成ガス発生の深刻化及び電池内部抵抗の増加を防止することができる。
【0027】
任意の実施形態では、任意選択的に、前記負極集電体上の負極材料の比表面積Sの範囲は0.5m/g~5m/gである。
【0028】
負極材料の比表面積Sが適切な範囲内にある時、一方では、電解液と負極材料の相界面における反応速度を向上させることによって、界面反応の電気抵抗を低減させ、電池のエネルギー密度を向上させることができる。他方では、化成ガス発生量を減少し、負極端での黒斑の出現を回避することができる。
【0029】
任意の実施形態では、任意選択的に、前記負極集電体表面上の負極材料の塗布領域の幅Lの範囲は50mm≦L≦200mmであり、任意選択的に50mm≦L≦100mmである。
【0030】
負極材料の塗布領域の幅Lが適切な範囲内にある時、一方では、化成で発生したガスの拡散経路が長くなるのを回避することによって、ガスの排出速度に影響を与えず、黒斑現象の出現による電池内部抵抗への影響を回避することができ、他方では、リチウムイオン電池のエネルギー密度に対する影響を軽減することもできる。
【0031】
任意の実施形態では、任意選択的に、前記電解液にはフルオロエチレンカーボネート及び/又は1,3-プロパンスルトンが含まれる。
【0032】
多くの実験及び研究から分かるように、フルオロスルホン酸塩及び/又はジフルオロリン酸塩を含有する電解液に追加のフルオロエチレンカーボネート(FEC)及び/又は1,3-プロパンスルトン(PS)を添加した場合、リチウムイオン電池が高エネルギー密度と低化成ガス発生量を有することを確保する前提で、リチウムイオン電池の高温と低温におけるサイクル性能を顕著に向上させることができる。
【0033】
任意の実施形態では、任意選択的に、前記負極材料の孔隙率は10%~40%である。
【0034】
研究によると、負極材料の孔隙率が大きいほど、化成で発生したガスが負極材料の内部から負極とセパレータの界面まで拡散する経路は多くなり、順調になる。しかし、負極材料の孔隙率が50%を超えると、リチウムイオン電池の体積エネルギー密度は低くなる。負極材料の孔隙率が10%未満である時、負極材料のリチウムイオンの吸蔵/放出の抵抗は比較的大きく、電池の内部抵抗に一定の影響を及ぼす。負極材料の孔隙率を10%~40%に限定することによって、負極材料内部で発生したガスを迅速に外部へ拡散させるとともに、電池が比較的に高い体積エネルギー密度と比較的に低い電池内部抵抗を有することを確保することもできる。
【0035】
本出願の第2の態様によれば、電池モジュールを提供する。この電池モジュールは、本出願の第1の態様におけるリチウムイオン電池を含む。
【0036】
本出願の第3の態様によれば、電池パックを提供する。この電池パックは、本出願の第1の態様におけるリチウムイオン電池又は本出願の第2の態様における電池モジュールを含む。
【0037】
本出願の第4の態様によれば、電力消費装置を提供する。この電力消費装置は、本出願の第1の態様によるリチウムイオン電池、本出願の第2の態様による電池モジュール又は本出願の第3の態様による電池パックの少なくとも一つを含む。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本出願の一実施形態によるリチウムイオン電池の概略図である。
図2図1に示される本出願の一実施形態によるリチウムイオン電池の分解図である。
図3】本出願の一実施形態による電池モジュールの概略図である。
図4】本出願の一実施形態による電池パックの概略図である。
図5図4に示される本出願の一実施形態による電池パックの分解図である。
図6】本出願の一実施形態による電力消費装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下では、図面を適当に参照しながら、本出願に具体的に開示された高エネルギー密度低ガス発生量のリチウムイオン電池、電池モジュール、電池パック、電力消費装置を詳細に説明する。しかし、必要のない詳細な説明を省略する場合がある。例えば、周知の事項に対する詳細な説明、実際に同じである構造に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に長くなることを回避し、当業者に容易に理解させるためである。なお、図面及び以下の説明は、当業者に本出願を十分に理解させるために提供するものであり、特許請求の範囲に記載された主題を限定するためのものではない。
【0040】
簡潔のために、本出願では、幾つかの数値の範囲が具体的に開示されている。しかしながら、任意の下限と任意の上限とを組み合わせて明確に記載されていない範囲を形成してもよく、さらに任意の下限と他の下限とを組み合わせて明確に記載されていない範囲を形成してもよく、同様に、任意の上限と他の任意の上限とを組み合わせて明確に記載されていない範囲を形成してもよい。なお、単独に開示された各点又は単一の数値自体は、下限又は上限として他の任意の点又は単一の数値と組み合わせるか、又は、他の下限又は上限と組み合わせて、明確に記載されていない範囲を形成してもよい。
【0041】
一般的なリチウムイオン電池の化成ガス発生を低減するポリシーでは、解決方法として、化成電流を低減することにより化成ガスの生成速度を低減し、且つ負圧を作ることによりガスの抽出速度を向上させることによって、電池内部ガスの即時排出を確保するのである。本出願の発明者が行った鋭意研究によれば、設計した電池エネルギー密度の向上に伴い、特に捲回型電池に対し、この一般的な方法に従って化成ガスを即時排出することはできず、それにより化成界面の劣化を引き起こしてしまう。
【0042】
ガス発生を低減させるもう一つの方式は、小電流で段階的に加圧する化成方式であるが、この方式は、工程が煩雑で且つ時間がかかり、操作安定性が低く、大規模な工業的利用に不利である。
【0043】
以上から分かるように、リチウムイオン電池の化成ガス発生の問題を改善するためには、電池の化成過程における幾つかのプロセス方法又は操作ステップを調整するだけで実際の必要を満たすことはできない。そのため、リチウムイオン電池のガス発生問題を長期的且つ効果的に改善する方式を見つけたければ、最も実行可能な方式は、リチウムイオン電池自体の構造から取りかかり、電池の各種の構造パラメータ及び電解液添加剤の種類と含有量を合わせて調整することによって、低化成ガス発生のリチウムイオン電池を開発し設計することである。
【0044】
発明者が行った多くの研究と実験を経て、高エネルギー密度低化成ガス発生量を開発し設計する角度からすると、電極アセンブリの構造パラメータと電解液の種類と含有量を総合的に調整することによって、具体的には、単位面積あたりの集電体上の活物質の担持量と、集電体上に担持された活物質の比表面積と、活物質塗布領域の長さとを合わせて調整し、電解液にフルオロスルホン酸塩及び/又はジフルオロリン酸塩系物質を添加し、各パラメータの相乗作用関係を総合的に利用することによって、リチウムイオン電池自体の構造から取りかかり、低化成ガス発生量で高エネルギー密度のリチウムイオン電池を開発し設計する。
【0045】
そして、発明者が行った多くの研究と実験によれば、フルオロスルホン酸塩及び/又はジフルオロリン酸塩系物質の含有量と、単位面積あたりの集電体上の活物質の担持量、集電体上に担持された活物質の比表面積と、活物質塗布領域の長さとの間は、一定の関係式を満たす場合、この関係式を満たすリチウムイオン電池は、顕著に向上した高エネルギー密度を有するとともに、化成ガス発生量を低減させることができる。
【0046】
本出願が提案した理論関係式は、一種類の電池構造への適用に限定されるものではなく、他の需要に応じて電池の形状を変え、ベアセルの捲回方式を変えるか又はベアセルの積層方式を変える時、この理論関係式は同様に適用できる。
【0047】
[リチウムイオン電池]
一般的には、リチウムイオン電池は正極板と、負極板と、電解質と、セパレータとを含む。電池の充放電過程において、活性イオンは正極板と負極板との間を往復して吸蔵し放出する。電解質は、正極板と負極板との間でイオンを伝導する作用を奏する。セパレータは、正極板と負極板との間に設けられ、主に正負極の短絡を防止する作用を奏するとともに、イオンを通過させることができる。
【0048】
本出願はリチウムイオン電池を提供する。このリチウムイオン電池は、
負極集電体及び前記負極集電体の少なくとも一つの表面に設けられた負極材料を含む電極アセンブリと、
フルオロスルホン酸塩系及び/又はジフルオロリン酸塩系物質を含む電解液とを含み、
前記リチウムイオン電池の化成ガス発生面積係数をαとし、α=M×S/200式(I)であり、
前記式(I)において、前記Mは、単位面積あたりの前記負極集電体上の負極材料の担持量であり、その単位はmg/cmで、前記Mの範囲は5mg/cm~100mg/cmであり、
前記式(I)において、前記Sは、前記負極集電体上の負極材料の比表面積であり、その単位はm/gで、前記Sの範囲は0.1m/g~10m/gであり、
前記リチウムイオン電池のガス排出経路係数をβとし、β=100/L式(II)であり、
前記式(II)において、前記Lは、前記負極集電体表面上の負極材料の塗布領域の幅であり、その単位はmmで、前記Lの範囲はL≧50mmであり、
ここでは、前記電解液における前記フルオロスルホン酸塩系及び/又はジフルオロリン酸塩系物質の質量百分率w%と、前記リチウムイオン電池の化成ガス発生面積係数αと前記リチウムイオン電池のガス排出経路係数βとは、0.01≦w×β/α≦20式(III)を満たす。
【0049】
発明者が行った多くの研究と実験を経て、高エネルギー密度で、且つ低化成ガス発生量を有するリチウムイオン電池を設計し開発したければ、いずれかのパラメータを単独に調整するのではなく、電池及び電池エネルギー密度の向上に関連する、化成ガス発生の低減に関連する、電池エネルギー密度の向上及び化成ガス発生の低減の両方に関連する各種のパラメータを総合的に調整する必要がある。
【0050】
具体的には、化成ガス発生は、主に化成過程において電解液における有機成分、例えば有機溶媒又は有機添加剤を負極材料の表面で還元分解して界面保護膜の形成中に発生するものである。単位面積あたりの集電体上の負極材料の担持量Mを増加させることで、電池の体積エネルギー密度を顕著に向上させることができる一方、負極材料と電解液との接触面積もそれに応じて増加し、さらに、より多くの電解液が還元分解されて、より多くのガスが発生してしまう。
【0051】
同様に、比表面積Sが比較的に大きい負極材料を選択することで、一方では、負極材料と電解液との接触面積を増加させ、リチウムイオンの相界面での伝送抵抗を低減させ、さらに電池のエネルギー密度を向上させることができるが、負極材料と電解液との接触面積の増大により、より多くの電解液が還元分解され、さらに、より多くのガスが発生してしまう。
【0052】
このことから分かるように、設計したリチウムイオン電池が高エネルギー密度を有することを確保する前提(Mの範囲は5mg/cm~100mg/cm、Sの範囲は0.1m/g~10m/g)で、化成過程においてガスが発生する角度からすると、負極材料の比表面積Sと単位面積あたりの集電体上の負極材料の担持量Mはいずれも電解液と負極材料との接触面積に影響を与えることにより化成ガス発生に影響を与えることである。そのため、本出願では、MとSに関連する化成ガス発生面積係数αが定義され、化成ガス発生面積係数αは、電解液と負極材料の接触面積と、化成ガス発生との関係を全体的に表すことができる。発明者が行った多くの研究と実験によれば、Mと、Sとαとは、関係式α=M×S/200を満たす。
【0053】
他方では、電池内部ガスの排出の角度から考慮すると、本出願のリチウムイオン電池を開発し設計する時、負極集電体表面上の負極材料の塗布領域の幅Lに対して、Lを比較的に大きく設計する場合、電池の体積エネルギー密度の向上に有利であるが、電池内部ガスの排出経路の長さもそれに応じて増加してしまう。実際のベアセルの設計において、体積エネルギー密度をさらに増加させるために、Lを可能な限り長く設計する必要があるが、Lが長過ぎると、化成で発生したガスの迅速な排出に不利である。
【0054】
このことから分かるように、設計したリチウムイオン電池が高エネルギー密度を有することを確保する前提(Lの範囲はL≧50mm)で、化成過程においてガスを即時排出する角度からすると、負極材料の塗布領域の幅Lは、ガス拡散経路の長さに影響することにより化成ガス発生に影響を与える。そのため、本出願では、Lに関連するガス排出経路係数βが定義され、βの大きさは、化成で発生するガスの排出難易度を表すことができる。発明者が行った多くの研究と実験を経て、Lとβは、関係式β=100/Lを満たす。
【0055】
さらに他方では、化成過程におけるガスの発生量を低減させることを考慮すると、電解液の配合方法を改善することは、化成ガス発生をより効果的に改善する方式である。リチウムイオン電池によく使用される電解液は、一般的には有機溶媒と有機添加剤を含む。化成過程において、これらの有機成分は、優先的に負極表面で還元されて負極界面の保護膜を形成し、それと同時にガス生成物が発生する。これを基礎として、本出願は電解液の配合方法を改善し、フルオロスルホン酸塩系又はジフルオロリン酸塩系の無機添加剤で一部の一般的な有機添加剤を代替する。これらの無機添加剤は、有機添加剤よりも優先して負極表面で還元され、直接的に黒鉛などの負極活物質の表面で還元されて無機物被覆層を形成するため、ガス生成物を形成することはなく、添加剤の分解によるガス発生問題も存在しなくなる。
【0056】
さらに、優先的に負極活物質表面で還元されて無機物被覆層を形成するため、電解液溶媒の負極表面での還元分解を効果的に抑制することによって、電解液溶媒の還元分解によるガス発生量をさらに減少させることができる。
【0057】
このことから分かるように、設計したリチウムイオン電池が高エネルギー密度を有することを確保する前提(Mの範囲は5mg/cm~100mg/cm、Sの範囲は0.1m/g~10m/g、Lの範囲はL≧50mm)で、化成過程においてガスが発生する角度からすると、電池全体の設計と開発過程において、電解液の配合方法を改善することは、ガス発生量を根本的に低減させる方法である。
【0058】
しかし、発明者が行った多くの研究と実験を経て、電解液に過量の無機塩系添加剤を追加することで、電解液の粘度が増加し、電解液の電気伝導率が悪化してしまい、且つ電解液におけるリチウムイオンの移動速度をある程度阻害し、さらに電池内部抵抗の増加を引き起こす。
【0059】
上記三つの態様による論述から分かるように、エネルギー密度が高く且つ低化成ガス発生量を両立させるリチウムイオン電池を開発し設計することは、各種のパラメータが相乗的に作用する結果であり、それに関連する一つのパラメータ値を変える時、それに関連する他のパラメータ値も対応して変えないなら、電池の体積エネルギー密度と化成ガス発生量をそれぞれの最も優れた範囲内に同時に維持するように確保できない。
【0060】
電池エネルギー密度の向上に関連する、化成ガス発生の低減に関連する、電池エネルギー密度の向上及び化成ガス発生の低減の両方に関連する各種のパラメータを総合的に考慮した場合、本出願の発明者は、多くの研究及び実験を経て、電解液におけるフルオロスルホン酸塩系及び/又はジフルオロリン酸塩系の質量百分率w%と、化成ガス発生面積係数αとガス排出経路係数βが、関係式0.01≦w×β/α≦20を満たす時、得られたリチウムイオン電池が顕著に向上したエネルギー密度を有するとともに、非常に低い化成ガス発生量を有し、化成時の負極端における黒斑の出現及びリチウム析出の現象を効果的に防止でき、電池の内部抵抗の改善と電池の電気性能の向上に有利であることを見出した。
【0061】
任意選択的に、w×β/αの値は、19.14、3.83、0.64、0.38、0.19、1.74、0.96、0.24、0.83、1.10、1.65、3.31、0.02、0.87、1.74、3.48、8.70、17.40、19.14であってもよく、又はその数値は、上記数値のうちいずれか二つの数値の範囲内にある。
【0062】
本出願は、リチウムイオン電池自体の構造から取りかかり、電極アセンブリの各種の構造パラメータ及び電解液添加剤の種類と含有量を合わせて調整し、電池内部の各種の構造パラメータと電解液パラメータとの相乗作用を総合することによって、高エネルギー密度のリチウムイオン電池を開発し設計するとともに、高エネルギー密度リチウムイオン電池の化成過程における深刻なガス発生と、負極における黒斑とリチウム析出の問題を解決し、リチウムイオン電池の内部抵抗と電気性能を顕著に改善する。
【0063】
[電解液]
電解液は、正極板と負極板との間でイオンを伝導する作用を奏する。本出願に記載の電解液は、フルオロスルホン酸塩系及び/又はジフルオロリン酸塩系物質を含む。
【0064】
幾つかの実施形態では、任意選択的に、前記フルオロスルホン酸塩の構造式は(FSOy+であり、My+は、
Li、Na、K、Rb、Cs、Mg2+、Ca2+、Ba2+、Al3+、Fe2+、Fe3+、Ni2+及びNi3+のうちの一つから選択される。
【0065】
幾つかの実施形態では、任意選択的に、前記ジフルオロリン酸塩の構造式は(FPOy+であり、My+は、
Li、Na、K、Rb、Cs、Mg2+、Ca2+、Ba2+、Al3+、Fe2+、Fe3+、Ni2+及びNi3+のうちの一つから選択される。
【0066】
幾つかの実施形態では、任意選択的に、前記電解液における前記フルオロスルホン酸塩系及び/又はジフルオロリン酸塩系物質の質量百分率w%の範囲は0.01%~11%であり、任意選択的に0.5%~10%であり、さらに任意選択的に0.5%~5%である。
【0067】
本出願の高エネルギー密度リチウムイオン電池を設計する過程において、電解液に適量(0.01%~11%)のフルオロスルホン酸塩系及び/又はジフルオロリン酸塩系物質を加えることで、化成ガス発生量を顕著に低減させることができる。フルオロスルホン酸塩系及び/又はジフルオロリン酸塩系物質の添加量を適切な範囲内にすることによって、負極端での黒斑の出現とリチウム析出を回避する一方、電解液の粘度増加による電解液電気伝導率の悪化を回避することもでき、且つ電解液によるリチウムイオン移動速度の低下により、電池内部抵抗の増加を引き起こすことをある程度回避する。
【0068】
任意選択的に、前記電解液における前記フルオロスルホン酸塩系及び/又はジフルオロリン酸塩系物質の質量百分率w%は、0.5~10%であってもよい。
【0069】
任意選択的に、前記電解液における前記フルオロスルホン酸塩系及び/又はジフルオロリン酸塩系物質の質量百分率w%は、0.5~5%であってもよい。
【0070】
具体的には、電解液におけるフルオロスルホン酸塩系及び/又はジフルオロリン酸塩系物質の質量百分率w%が0.5%~10%の範囲内にある時、負極端では黒斑の現象はなく、リチウムイオン電池は顕著に改善された化成ガス発生量を兼ね、電池の体積エネルギー密度と電池の内部抵抗が比較的に優れたレベルにある。
【0071】
さらに、電解液におけるフルオロスルホン酸塩系及び/又はジフルオロリン酸塩系物質の質量百分率w%が0.5%~5%の範囲内にある時、該当するリチウムイオン電池は、優れた高温と低温のサイクル性能をさらに両立させる。
【0072】
任意選択的に、w%の値は、0.01%、0.1%、0.5%、1%、2%、5%、10%、11%であってもよく、又はその数値は、上記数値のうちいずれか二つの数値の範囲内にある。
【0073】
幾つかの実施形態では、溶媒は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、ブチレンカーボネート(BC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ギ酸メチル(MF)、酢酸メチル(MA)、酢酸エチル(EA)、酢酸プロピル(PA)、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル(EP)、プロピオン酸プロピル(PP)、酪酸メチル(MB)、酪酸エチル(EB)、1,4-ブチロラクトンン(GBL)、スルホラン(SF)、ジメチルスルホン(MSM)、エチルメチルスルホン(EMS)及びジエチルスルホン(ESE)のうちの一つ以上から選択されてもよい。
【0074】
幾つかの実施形態では、フルオロスルホン酸塩及び/又はジフルオロリン酸塩を含む前記電解液には、任意選択的に添加剤がさらに含まれてもよい。例えば、添加剤は負極膜形成添加剤を含んでもよく、正極膜形成添加剤を含んでもよく、電池の何らかの性能を改善できる添加剤、例えば電池の過充電性能を改善する添加剤、電池の高温性能を改善する添加剤、及び電池の低温性能を改善する添加剤などをさらに含んでもよく、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、1,3-プロパンスルトン(PS)などであってもよい。
【0075】
多くの実験及び研究を経て、フルオロスルホン酸塩及び/又はジフルオロリン酸塩を含有する電解液に追加のフルオロエチレンカーボネート(FEC)及び/又は1,3-プロパンスルトン(PS)を添加した場合、リチウムイオン電池が高エネルギー密度と低化成ガス発生量を有することを確保する前提で、リチウムイオン電池の高温と低温におけるサイクル性能を顕著に向上させることができる。
【0076】
幾つかの実施形態では、前記電解液に任意選択的にリチウム塩がさらに含まれてもよく、前記リチウム塩は、LiN(C2x+1SO)(C2y+1SO)、LiPF、LiBF、LiBOB、LiAsF、Li(FSON、LiCFSO及びLiClOのうちの一つ又は複数から選択されてもよく、ここでは、xとyは自然数である。
【0077】
[負極板]
負極板は、負極集電体及び負極集電体の少なくとも一つの表面に設けられた負極材料を含んでもよい。負極材料は負極活物質を含み、負極活物質として、人造黒鉛、天然黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、シリコン系材料、スズ系材料及びチタン酸リチウムなどを列挙できる。前記シリコン系材料は、シリコン単体、シリコン酸化物、シリコン炭素複合体、シリコン窒素複合体及びシリコン合金のうちの一つ以上から選択されてもよい。前記スズ系材料は、スズ単体、スズ酸化物及びスズ合金のうちの一つ以上から選択されてもよい。
【0078】
幾つかの実施形態では、任意選択的に、単位面積あたりの負極集電体上の負極材料の担持量Mの範囲は11mg/cm~80mg/cmであり、任意選択的に11mg/cm~50mg/cmである。
【0079】
本出願は、当業者によく知られている方式、例えばスラリーコーティングする過程における塗布回数を変えることによって、単位面積あたりの負極集電体上の負極材料の担持量Mを変える。
【0080】
単位面積あたりの負極集電体上の負極材料の担持量Mが比較的に少なければ(Mは11mg/cm未満)、リチウムイオン電池の体積エネルギー密度に悪影響を及ぼす。担持量が50mg/cmから増大し続ける場合、電池体積エネルギー密度の向上は顕著ではない一方、過量の担持量は、負極材料と電解液との接触面積を増加させることにより化成ガス発生を深刻にし、電池の内部抵抗を増加させてしまう。
【0081】
幾つかの実施形態では、任意選択的に、単位面積あたりの負極集電体上の負極材料の比表面積Sの範囲は0.5m/g~5m/gである。
【0082】
本出願は、当業者によく知られている方式、例えばスラリーに異なる含有量で異なる比表面積Sを有する人造黒鉛を加えることによって、比表面積Sを変える。
【0083】
負極材料の比表面積Sが適切な範囲内にある時、一方では、電解液と負極材料の相界面における反応速度を向上させることによって、電池内部抵抗を低減させることができ、他方では、化成ガス発生量を減少し、負極端でもの黒斑の出現を回避することができる。
【0084】
任意選択的に、Sの値は、0.1、0.5、1.1、3、5、10であってもよく、又はその数値は、上記数値のうちいずれか二つの数値の範囲内にある。
【0085】
例示的に、負極集電体は、その自体の厚さ方向において対向する二つの表面を有し、負極材料は、負極集電体の対向する二つの表面のいずれか一つ又は両者上に設けられている。
【0086】
幾つかの実施形態では、負極集電体表面上の負極材料の塗布領域の幅Lの範囲は50mm≦L≦200mmであり、任意選択的に50mm≦L≦100mmである。
【0087】
本出願は、当業者によく知られている方式、例えばスリットのプロセス制御を変えることによって、負極材料の塗布領域の幅Lを変える。
【0088】
負極材料の塗布領域の幅Lが適切な範囲内にある時、一方では、化成で発生したガスの拡散経路が長くなるのを回避することによって、ガスの排出速度に影響を与えず、黒斑現象の出現及び電池内部抵抗への影響を回避することができ、他方では、リチウムイオン電池のエネルギー密度に対する影響を軽減することもできる。
【0089】
任意選択的に、Lの値は、200、150、100、95、50であってもよく、又はその数値は、上記数値のうちいずれか二つの数値の範囲内にある。
【0090】
幾つかの実施形態では、任意選択的に、負極材料の孔隙率は10%~40%である。
【0091】
研究によると、負極材料の孔隙率が大きいほど、化成で発生したガスが負極材料の内部から負極とセパレータの界面まで拡散する経路は多くなり、順調になる。しかし、負極材料の孔隙率が50%を超えると、リチウムイオン電池の体積エネルギー密度は低下する傾向にある。負極材料の孔隙率が10%未満である時、負極材料のリチウムイオンの吸蔵/放出の抵抗は比較的大きく、電池の内部抵抗が増加する傾向にある。負極材料の孔隙率を10%~40%に限定することによって、負極材料内部で発生したガスを迅速に外部へ拡散させるとともに、電池が比較的に高い体積エネルギー密度と比較的に低い電池内部抵抗を有することを確保することもできる。
【0092】
任意選択的に、負極材料の孔隙率は、10%、15%、35%であってもよく、又はその数値は、上記数値のうちいずれか二つの数値の範囲内にある。
【0093】
本出願のリチウムイオン電池において、前記負極集電体は、金属箔シート又は複合集電体を採用してもよい。例えば、金属箔シートとして、銅箔を採用してもよい。複合集電体は、高分子材料基材と高分子材料基材の少なくとも一つの表面上に形成された金属層とを含んでもよい。複合集電体は、金属材料(銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、銀及び銀合金など)を高分子材料基材(例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、1,3-プロパンスルトン(PS)、ポリエチレン(PE)などの基材)上に形成することによって形成されてもよい。
【0094】
本出願のリチウムイオン電池において、前記負極材料は、一般的には、負極活物質及び選択的な接着剤と、選択的な導電剤及び他の選択的な助剤とを含み、一般的には負極スラリーをコーティングし乾燥して得られるものである。負極スラリーは、一般的には、負極活物質及び選択的な導電剤と接着剤を溶媒に分散させて均一に撹拌して形成されるものである。溶媒は、N-メチルピロリドン(NMP)又は脱イオン水であってもよい。
【0095】
例示的に、導電剤は、超伝導カーボン、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン及びカーボンナノファイバーのうちの一つ以上から選択されてもよい。
【0096】
例示的に、接着剤は、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸ナトリウム(PAAS)、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリビニルアルコール(PVA)、アルギン酸ナトリウム(SA)、ポリメタクリル酸(PMAA)及びカルボキシメチルキトサン(CMCS)のうちの一つ以上から選択されてもよい。
【0097】
他の選択的な助剤は、例えば増粘剤(例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)などである。
【0098】
[正極板]
正極板は、正極集電体及び正極集電体の少なくとも一つの表面に設けられた正極材料を含む。
【0099】
例示的に、正極集電体は、その自体の厚さ方向において対向する二つの表面を有し、正極材料は、正極集電体の対向する二つの表面のいずれか一つ又は両表面上に設けられている。
【0100】
本出願のリチウムイオン電池において、正記負極集電体は、金属箔シート又は複合集電体を採用してもよい。例えば、金属箔シートとして、アルミニウム箔を採用してもよい。複合集電体は、高分子材料基材と高分子材料基材の少なくとも一つの表面上に形成された金属層とを含んでもよい。複合集電体は、金属材料(アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、銀及び銀合金など)を高分子材料基材(例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、1,3-プロパンスルトン(PS)、ポリエチレン(PE)などの基材)上に形成することによって形成されてもよいが、本出願では、これらの材料に限定されない。
【0101】
前記正極材料は正極活物質を含み、正極活物質は、リチウムイオンの放出と吸蔵が可能な材料から選択される。具体的には、前記正極活物質は、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガン鉄リチウム、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムニッケルマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物、及び上記化合物に他の遷移金属又は非遷移金属を添加して得られた化合物のうちの一つ又は複数から選択されてもよいが、本出願では、これらの材料に限定されない。
【0102】
前記正極材料は、任意選択的に導電剤をさらに含む。導電剤の種類に対して具体的に制限せず、当業者は実際の必要に応じて選択してもよい。例示的に、正極材料に用いる導電剤は、超伝導カーボン、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン及びカーボンナノファイバーのうちの一つ以上から選択されてもよい。
【0103】
本出願では、当技術分野で既知の方法に従って正極板を製造してもよい。例示的に、本出願の正極材料、導電剤と接着剤を溶媒(例えばN-メチルピロリドン(NMP)に分散させて均一な正極スラリーを形成し、正極スラリーを正極集電体上に塗布し、乾燥や冷間加圧などの工程を経て正極板を得てもよい。
【0104】
[セパレータ]
電解液を採用するリチウムイオン電池、及び固体電解質を採用するいくつかのリチウムイオン電池には、セパレータがさらに含まれている。セパレータは、正極板と負極板との間に設けれ、隔離作用を奏する。本出願では、セパレータの種類に対して特に制限することはなく、よく知られている、良好な化学的安定性と機械的安定性を有する任意の多孔質構造のセパレータを選択してもよい。幾つかの実施形態では、セパレータの材質は、ガラス繊維、不織布、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリフッ化ビニリデンのうちの一つ以上から選択されてもよい。セパレータは、単層薄膜であってもよく、多層複合薄膜であってもよく、特に制限はない。セパレータが多層複合薄膜である場合、各層の材料は同じであってもよく、異なってもよく、特に制限はない。
【0105】
幾つかの実施形態では、正極板と負極板とセパレータは、捲回プロセス又は積層プロセスによって電極アセンブリを製造してもよい。
【0106】
幾つかの実施形態では、リチウムイオン電池は外装を含んでもよい。この外装は、上記電極アセンブリと電解質のパッケージングに用いられてもよい。
【0107】
幾つかの実施形態では、リチウムイオン電池の外装は、硬質ケース、例えば硬質プラスチックケース、アルミニウムケース、鋼製ケースなどであってもよい。リチウムイオン電池の外装は、軟質バッグ、例えば袋式軟質バッグであってもよい。軟質バッグの材質はプラスチックであってもよく、プラスチックとして、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)及びポリブチレンサクシネート(PBS)などが挙げられる。
【0108】
本出願は、リチウムイオン電池の形状に対して特に制限せず、それは円柱形、四角形又は他の任意の形状であってもよい。例えば、図1は、一例としての方形構造のリチウムイオン電池5である。
【0109】
幾つかの実施形態では、図2を参照すると、その外装は筐体51とトップカバー53とを含んでもよい。ここでは、筐体51は、底板と底板上に接続された側板とを含んでもよく、底板と側板とで取り囲んで収容キャビティを形成する。筐体51は収容キャビティに連通する開口を有し、トップカバー53は、前記開口をカバーして設けられることによって前記収容キャビティを閉鎖することができる。正極板と負極板とセパレータは、捲回プロセス又は積層プロセスによって電極アセンブリ52を形成することができる。電極アセンブリ52は、前記収容キャビティ内にパッケージングされる。電解液は、電極アセンブリ52に浸潤する。リチウムイオン電池5に含まれる電極アセンブリ52の数は一つ又は複数であってもよく、当業者は実際の具体的な需要に応じて選択してもよい。
【0110】
また以下では、図面を適当に参照しながら、本出願のリチウムイオン電池、電池モジュール、電池パックと装置を説明する。
【0111】
[電池モジュール]
幾つかの実施形態では、リチウムイオン電池を電池モジュールに組み立てもよく、電池モジュールに含まれるリチウムイオン電池の数は一つ又は複数であってもよく、具体的な数は、当業者は電池モジュールの応用と容量に基づいて選択してもよい。
【0112】
図3は、一例としての電池モジュール4である。図3を参照すると、電池モジュール4において、複数のリチウムイオン電池5は、電池モジュール4の長さ方向に沿って順に配列して設けられてもよい。無論、任意の他の方式に従って配置してもよい。さらに、この複数のリチウムイオン電池5を締め具によって固定してもよい。
【0113】
任意選択的に、電池モジュール4は、収容空間を有するハウジングをさらに含んでもよく、複数のリチウムイオン電池5はこの収容空間に収容される。
【0114】
[電池パック]
幾つかの実施形態では、上記電池モジュールをさらに電池パックに組み立ててもよく、電池パックに含まれる電池モジュールの数は、当業者は電池パックの応用と容量に基づいて選択してもよい。
【0115】
図4図5は、一例としての電池パック1である。図4図5を参照すると、電池パック1には、電池ケースと電池ケースの中に設けられた複数の電池モジュール4が含まれてもよい。電池ケースは上ケース2と下ケース3とを含み、上ケース2は、下ケース3をカバーして設けられ、且つ電池モジュール4を収容するための密閉空間を形成することができる。複数の電池モジュール4は、任意の方式に従って電池ケースの中に配置されてもよい。
【0116】
[電力消費装置]
また、本出願は電力消費装置をさらに提供する。この電力消費装置は、本出願により提供されるリチウムイオン電池、電池モジュール、又は電池パックのうちの一つ以上を含む。前記リチウムイオン電池、電池モジュール、又は電池パックは、前記装置の電源として用いられてもよく、前記装置のエネルギー貯蔵ユニットとして用いられてもよい。前記装置は、移動体設備(例えば携帯電話、ノートパソコンなど)、電動車両(例えば純電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、電動自転車、電動スクーター、電動ゴルフカート、電動トラックなど)、電気列車、船舶と衛星、エネルギー貯蔵システムなどであってもよいが、それらに限らない。
【0117】
前記電力消費装置として、その使用上の需要に応じてリチウムイオン電池、電池モジュール又は電池パックを選択してもよい。
【0118】
図6は、一例としての装置である。この装置は純電気自動車、ハイブリッド電気自動車、又はプラグインハイブリッド電気自動車などである。この装置の、リチウムイオン電池に対する高出力と高エネルギー密度の需要を満たすために、電池パック又は電池モジュールを採用してもよい。
【0119】
別の例としての装置は、携帯電話、タブレットコンピュータ、ノートパソコンなどであってもよい。この装置に、一般的には薄型化と軽量化が求められており、電源としてリチウムイオン電池を採用してもよい。
【0120】
実施例
以下では、本出願の実施例を説明する。以下に記述されている実施例は、例示的なもので、本出願を解釈することのみに用いられ、本出願を限定するものとして理解すべきではない。実施例において具体的な技術又は条件が明記されていないものは、当技術分野の文献に記述されている技術若しくは条件、又は製品説明書に従って実行する。使用する試薬又は機器について、製造メーカーが明記されていないものは、いずれも市販で購入できる一般的な製品である。本出願の実施例における各成分の含有量については、特に説明しない限り、いずれも質量基準である。
【0121】
実施例1
[リチウムイオン電池の製造]
【0122】
1)正極板の製造
正極活物質LiNi0.8Mn0.1Co0.1と、導電剤アセチレンブラックと、接着剤ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、重量比94:3:3に従って溶媒N-メチルピロリドン(NMP)に溶解させ、十分に撹拌し、均一に混合して正極スラリーを得る。その後、正極スラリーを正極集電体上に均一に塗布し、その後、乾燥、冷間加圧、スリットを経て、正極板を得る。
【0123】
2)負極板の製造
活物質人造黒鉛と、導電剤アセチレンブラックと、接着剤スチレンブタジエンゴム(SBR)と、増粘剤カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)とを、重量比95:2:2:1に従って溶媒脱イオン水に溶解させ、均一に混合して負極スラリーとして製造された。負極スラリーを負極集電体の銅箔上に一回又は複数回均一に塗布し、乾燥、冷間加圧、スリットを経て、負極材料比表面積Sが0.1m/gで、負極材料の担持量Mが11mg/cmで、負極材料の塗布領域の幅Lが95mmである負極板を得る。
【0124】
3)電解液の製造
アルゴンガス雰囲気のグローブボックス(HO<0.1ppm、O<0.1ppm)内において、有機溶媒EC/EMCを、体積比3/7で均一に混合し、12.5%のLiPF6リチウム塩を加えて有機溶媒に溶解させ、そして電解液総重量の1%を占めるフルオロスルホン酸リチウムを加え、均一に撹拌し、実施例1の電解液を得る。
【0125】
4)セパレータ
ポリプロピレン膜をセパレータとする。
【0126】
5)リチウムイオン電池の製造
正極板と、セパレータと、負極板とを順に積層し、隔離作用を奏するようにセパレータを正負極板の間に位置させ、そして捲回してベアセルを得る。ベアセルに対してラグの溶接を行い、ベアセルをアルミニウムケースに装入し、80℃で焼成して水分を除去し、直ちに電解液を注入してシールし、帯電していない電池を得る。帯電していない電池に対して、静置、熱間冷間加圧、化成、整形、容量試験などの工程を順に経て、実施例1のリチウムイオン電池製品を得る。
【0127】
実施例2~24、実施例27~37
実施例2~24と実施例27~37にそれぞれ対応する負極材料比表面積S、負極集電体上の負極材料担持量M、負極材料塗布領域の幅L、電解液におけるフルオロスルホン酸塩/ジフルオロリン酸塩の含有量w%は、表1に示す通りであり、他のプロセス条件は実施例1と同じである。最後にそれぞれ実施例2~24と、実施例27~37のリチウムイオン電池製品を得る。
【0128】
実施例25
電解液に、電解液質量の1%を占めるフルオロエチレンカーボネート(FEC)を追加すること以外に、他のパラメータとプロセス過程は実施例20と同じであり、実施例25のリチウムイオン電池製品を得る。
【0129】
実施例26
電解液に、電解液質量の1%を占める1,3-プロパンスルトン(PS)を追加すること以外に、他のパラメータとプロセス過程は実施例20と同じであり、実施例26のリチウムイオン電池製品を得る。
【0130】
比較例1~7
比較例1~7のそれぞれに対応する負極材料比表面積S、負極集電体上の負極材料担持量M、負極材料塗布領域の幅L、電解液におけるフルオロスルホン酸塩/ジフルオロリン酸塩の含有量w%は、表1に示す通りであり、他のプロセス条件は実施例1と同じである。最後にそれぞれ比較例1~7のリチウムイオン電池製品を得る。
【0131】
[負極板の関連パラメータ試験]
1)負極材料比表面積Sの試験
全ての実施例と比較例の負極板上の負極材料をブレードで掻き取り、そして規格GB/T21650.2-2008を参照して試験を行う。具体的な値は、表1を参照されたい。
【0132】
2)負極材料塗布領域の幅Lの試験
ノギスを用いて、全ての実施例と比較例の負極板上の負極材料塗布領域の幅Lを測定する。具体的な値は、表1を参照されたい。
【0133】
3)負極板孔隙率の試験
負極板を直径10cmの小円板に打ち抜き、マイクロメータを利用して厚さを測定し、見かけ体積V1を算出し、そして規格GB/T24586-2009を参照し、気体置換法を用いて実の体積V2を測定すれば、孔隙率=(V1-V2)/V1×100%である。具体的な値は、表4を参照されたい。
【0134】
[電池性能試験]
1)化成後に満充電、負極界面の黒斑とリチウム析出情况
化成後の全ての実施例と比較例の電池を45℃で120分静置し、そして-80kPaの真空を作り、続いて0.02Cで3.4Vまで定電流充電し、5分静置してから0.1Cで3.75Vまで定電流充電し、負圧を解消して常圧に戻す。最後に0.5Cで4.2Vまで充電し、満充電する。その後、満充電した電池を解体させ、界面に黒斑とリチウム析出の状況があるか否かを観察する。
【0135】
2)体積エネルギー密度試験
25℃において、リチウムイオン電池を1Cで4.2Vまで定電流充電し、そして4.2Vで電流が0.05C未満になるまで定電圧充電し、さらに0.33Cで2.8Vまで放電し、放電エネルギーQを得る。ノギスを利用して電池の縦横高さを測定し、体積Vを算出すれば、体積エネルギー密度=Q/Vである。
【0136】
3)セル内部抵抗試験
25℃において、リチウムイオン電池を1Cで4.2Vまで定電流充電し、そして4.2Vで電流が0.05C未満になるまで定電圧充電し、さらに0.5Cで60分放電し、即ちセルの電量を50%SOCに調整する。そして、交流内部抵抗測定計を用いてセルの正負極を接続してセルの内部抵抗を測定し、摂動は5mVで、周波数は1000ヘルツである。
【0137】
4)リチウムイオン電池の25℃における電池サイクル性能試験
25℃において、リチウムイオン電池を1Cで4.2Vまで定電流充電し、そして4.2Vで電流が0.05C未満になるまで定電圧充電し、そしてリチウムイオン電池を1Cで2.8Vまで定電流放電し、これを一つの充放電過程とする。このように充電と放電を繰り返し、1000回循環した後のリチウムイオン電池の容量維持率を算出する。
25℃で1000回循環した後のリチウムイオン電池の容量維持率(%)=(1000回目の循環における放電容量/初回循環における放電容量)×100%である。
【0138】
5)リチウムイオン電池の45℃におけるサイクル性能試験
45℃において、リチウムイオン電池を1Cで4.2Vまで定電流充電し、そして4.2Vで電流が0.05C未満になるまで定電圧充電し、そしてリチウムイオン電池を1Cで2.8Vまで定電流放電し、これを一つの充放電過程とする。このように充電と放電を繰り返し、800回循環した後のリチウムイオン電池の容量維持率を算出する。
25℃で800回循環した後のリチウムイオン電池の容量維持率(%)=(800回目の循環における放電容量/初回循環における放電容量)×100%である。
上記全ての実施例と比較例のリチウムイオン電池の関連パラメータと電池性能試験パラメータは、それぞれ表1~表4にリストアップされている。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【0139】
[各設計パラメータによるリチウムイオン電池エネルギー密度、化成ガス発生と電池内部抵抗への影響]
表1と表2から分かるように、実施例1~37のリチウムイオン電池に対して、各種の設計パラメータの相乗作用で、設計し開発したリチウムイオン電池は関係式0.01≦w×β/α≦20を満たし、該当するリチウムイオンは、高エネルギー密度が維持され(実施例1~37のリチウムイオン電池の体積エネルギー密度はいずれも550WhL-1以上であり)、化成ガス発生の問題が顕著に改善され(実施例1~37のリチウムイオン電池には大量の黒斑とリチウム析出現象はなく)、リチウムイオン電池内部抵抗が比較的に低い(実施例1~37のリチウムイオン電池内部抵抗はいずれも0.46mΩ以下で、大部分は0.30~0.37mΩにある)との優位性を両立させる。
【0140】
しかし、実施例1~37に比べ、比較例1~7のリチウムイオン電池の各種の設計パラメータは関係式0.01≦w×β/α≦20を満たさないため、比較例1~7のリチウムイオン電池に対応する効果は比較的に低い。具体的には、比較例1の体積エネルギー密度は非常に低い(510WhL-1のみである)とともに、大量の黒斑の現象が出現しており、これは、化成ガス発生量が大きく、リチウムイオン電池の化成ガス発生問題が改善されていないことを表明している。比較例2のリチウムイオン電池は、体積エネルギー密度が適度であるが、大量の黒斑とリチウム析出現象が出現しており、これは、リチウムイオン電池の化成ガス発生問題が改善されていないことを表明している。比較例3のリチウムイオン電池は、黒斑現象が出現していないが、その体積エネルギー密度が非常に低い(530WhL-1のみである)。比較例4のリチウムイオン電池は、大量の黒斑の現象が出現しており、且つ電池の内部抵抗が非常に高い(0.553mΩ)。比較例5のリチウムイオン電池は、黒斑現象が出現していないが、その電池の内部抵抗が非常に高い(0.658mΩ)。比較例6と比較例7のリチウムイオン電池は、黒斑現象が出現していないが、その体積エネルギー密度が非常に低い(それぞれ500WhL-1と350WhL-1のみである)。
【0141】
[フルオロスルホン酸塩系及び/又はジフルオロリン酸塩の含有量w%によるリチウムイオン電池への影響]
表1と、表2と表3とを総合して分かるように、実施例17~24において、w%が0.01%~11%の範囲内にある時、大量の黒斑が出現することはなく、電池エネルギー密度と電気抵抗は比較的に優れたレベルに維持される。しかし、実施例17~24に比べ、比較例2におけるリチウムイオン電池は、フルオロスルホン酸塩系及び/又はジフルオロリン酸塩系物質を含有しないため、大量の黒斑とリチウム析出の現象が出現しており、これは、この電池の化成ガス発生が深刻であることを表明している。比較例5において、w%の値が比較的に大きい(15%)時、電池エネルギー密度に対してほとんど影響を与えないが、電池の内部抵抗は比較的に大きい。
【0142】
表3から分かるように、実施例19~23において、w%が0.5%~10%の範囲内にある時、リチウムイオン電池は高エネルギー密度を有し、黒斑が出現しておらず、化成ガス発生量が顕著に改善され、電池の内部抵抗も比較的に低い。さらに、実施例19~22において、w%が0.5%~5%の範囲内にある時、対応するリチウムイオン電池は、優れた高温と低温のサイクル性能をさらに両立させる。
【0143】
[単位面積あたりの負極集電体上の負極材料担持量Mによるリチウムイオン電池への影響]
表1と表2に基づき、実施例6~11を総合的に比較し、実施例7~10に対して、Mが11mg/cm~80mg/cmの範囲内にある時、電池エネルギー密度は比較的に高いレベル(570~579WhL-1)にあり、電池の内部抵抗もいずれも0.4mΩ以下である。しかし、実施例6に対して、Mの量は比較的に低く(5mg/cm)、リチウムイオン電池のエネルギー密度は比較的に低い(550WhL-1)。実施例11に対して、Mの量は比較的に高く(100mg/cm)、リチウムイオン電池のエネルギー密度は比較的に低く(550WhL-1)、リチウムイオン電池の内部抵抗もそれに応じて比較的に大きい(0.411mΩ)。さらに、Mの値が50mg/cm~80mg/cmの範囲内にある時、リチウムイオン電池は、黒斑の現象がなく、化成ガス発生問題が顕著に改善され、そして電池エネルギー密度が比較的に高いレベルに維持され、電池の内部抵抗も比較的に低い。
【0144】
[負極材料の比表面積Sによるリチウムイオン電池への影響]
表1と表2に基づき、実施例1~5を総合的に比較し、実施例2~4のSが0.5m/g~5m/gの範囲内にあり、リチウムイオン電池のエネルギー密度が比較的に高く、負極端未の黒斑が出現しておらず、化成ガス発生問題が顕著に改善されている。しかし、実施例1に対して、Sの値が比較的に小さい(0.1m/g)ため、電池の内部抵抗は比較的に大きくなる。実施例5に対して、Sの値が比較的に大きい(10m/g)ため、負極材料と電解液との接触面積は増大し、それによって負極端で黒斑の現象が出現している。
【0145】
[負極材料塗布領域の幅Lによるリチウムイオンへの影響]
表1と表2に基づき、実施例12~16と比較例6を総合的に比較し、比較例6に比べ、実施例12~16のLは50mm≦L≦200mmの範囲内にあり、この時、リチウムイオン電池は比較的に高いエネルギー密度レベルを有し、且つ電池の内部抵抗は比較的に低い。実施例14~16に対して、Lは50mm≦L≦100mmの範囲内にあり、この時、リチウムイオン電池は比較的に高いエネルギー密度レベルと比較的に低い電池内部抵抗を有するだけでなく、負極端で黒斑が出現することもなく、化成ガス発生問題が顕著に改善されている。
【0146】
[フルオロエチレンカーボネート、1,3-プロパンスルトン添加剤によるリチウムイオン電池のサイクル性能への影響]
表3に基づき、実施例25と、26と、20とを比較し、フルオロスルホン酸塩系及び/又はジフルオロリン酸塩系物質を含有する電解液に、フルオロエチレンカーボネート或1,3-プロパンスルトン添加剤を追加することで、リチウムイオン電池の高温と低温におけるサイクル性能を効果的に向上させることができる。
【0147】
[負極材料の孔隙率によるリチウムイオン電池への影響]
表4に基づき、実施例33~37を総合的に比較し、実施例33、35、36の孔隙率が10%~40%の範囲内にあるため、対応するリチウムイオン電池の内部抵抗(0.41mΩ以下)と、体積エネルギー密度(~570WhL-1)は良好なレベルに維持される。しかし、実施例34の負極材料の孔隙率は比較的に低く、電池内部抵抗は比較的に大きく、実施例37の負極材料の孔隙率は比較的に高く、リチウムイオン電池の体積エネルギー密度は比較的に低い。
【0148】
説明すべきことは、本出願は上記実施形態に限定されない。上記実施形態は例示に過ぎず、本出願の技術案の範囲内で、技術思想と実質的に同一の構成を有し、同様な作用と効果を奏する実施形態は、いずれも本出願の技術範囲内に含まれるものとする。なお、本出願の主旨から逸脱しない範囲内で、実施形態に対して当業者が想到し得る様々な変形を実施し、実施形態における一部の構成要素を組み合わせて構築される他の形態も、本出願の範囲内に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0149】
1 電池パック
2 上ケース
3 下ケース
4 電池モジュール
5 リチウムイオン電池
51 筐体
52 電極アセンブリ
53 トップカバーアセンブリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6