IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 中国石油化工股▲ふん▼有限公司の特許一覧 ▶ 中石化安全工程研究院有限公司の特許一覧

特許7454069多次元マルチパラメータガスセンサー、その製造方法、及びガス検出方法
<>
  • 特許-多次元マルチパラメータガスセンサー、その製造方法、及びガス検出方法 図1
  • 特許-多次元マルチパラメータガスセンサー、その製造方法、及びガス検出方法 図2
  • 特許-多次元マルチパラメータガスセンサー、その製造方法、及びガス検出方法 図3
  • 特許-多次元マルチパラメータガスセンサー、その製造方法、及びガス検出方法 図4
  • 特許-多次元マルチパラメータガスセンサー、その製造方法、及びガス検出方法 図5
  • 特許-多次元マルチパラメータガスセンサー、その製造方法、及びガス検出方法 図6
  • 特許-多次元マルチパラメータガスセンサー、その製造方法、及びガス検出方法 図7
  • 特許-多次元マルチパラメータガスセンサー、その製造方法、及びガス検出方法 図8
  • 特許-多次元マルチパラメータガスセンサー、その製造方法、及びガス検出方法 図9
  • 特許-多次元マルチパラメータガスセンサー、その製造方法、及びガス検出方法 図10
  • 特許-多次元マルチパラメータガスセンサー、その製造方法、及びガス検出方法 図11
  • 特許-多次元マルチパラメータガスセンサー、その製造方法、及びガス検出方法 図12
  • 特許-多次元マルチパラメータガスセンサー、その製造方法、及びガス検出方法 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】多次元マルチパラメータガスセンサー、その製造方法、及びガス検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20240313BHJP
【FI】
G01N27/12 B
G01N27/12 C
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022562097
(86)(22)【出願日】2021-01-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-19
(86)【国際出願番号】 CN2021073721
(87)【国際公開番号】W WO2021203803
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】202010280996.1
(32)【優先日】2020-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】503191287
【氏名又は名称】中国石油化工股▲ふん▼有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】522396333
【氏名又は名称】中石化安全工程研究院有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】李娜
(72)【発明者】
【氏名】安飛
(72)【発明者】
【氏名】孫冰
(72)【発明者】
【氏名】楊哲
(72)【発明者】
【氏名】牟善軍
(72)【発明者】
【氏名】徐偉
(72)【発明者】
【氏名】姜傑
(72)【発明者】
【氏名】王浩志
(72)【発明者】
【氏名】王世強
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-153135(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0017516(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02778667(EP,A1)
【文献】特開2006-194853(JP,A)
【文献】国際公開第2014/012948(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0004020(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種のガスを検出するためのガスセンサーであって、
複数種のガスに対応する複数の電気信号を生成するセンシング構造であって、複数の測定電極及び前記測定電極に塗布された感ガスフィルムを含むセンシング構造と、
前記センシング構造に異なる加熱温度を提供するためのマイクロ加熱構造であって、シリコン基板及び前記シリコン基板上に設けられた加熱層を含み、前記加熱層に異なるサイズ又は異なるレイアウトの加熱電極が集積されて温度の異なる複数の加熱領域を形成し、複数の前記測定電極が対応する加熱領域に集積されるマイクロ加熱構造とを含
前記加熱電極は複数あり、且つ前記加熱電極は加熱抵抗線であり、各加熱抵抗線はそれぞれエンドツーエンドで連結されてリング状になり、複数本の前記加熱抵抗線は間隔を空けて配列され、隣り合う2本の加熱抵抗線の間隔が前記加熱抵抗線の断面幅の2~5倍である、ことを特徴とするガスセンサー。
【請求項2】
数の前記加熱電極のうち少なくとも1つの断面積又は長さが他の加熱電極と異なり、異なる加熱電極は異なる加熱領域を形成する、ことを特徴とする請求項1に記載のガスセンサー。
【請求項3】
前記加熱抵抗線は、断面厚さ300nm~500nm、断面幅10μm~100μm、長さ1.5mm~20mmである、ことを特徴とする請求項2に記載のガスセンサー。
【請求項4】
記加熱電極は、第1加熱抵抗線と、第2加熱抵抗線と、第3加熱抵抗線とを含み、前記第1加熱抵抗線は、断面厚さが300nm、断面幅が20μm、エンドツーエンドで連結されてなるリングの内輪径が5μmであり、前記第2加熱抵抗線は、断面厚さが300nm、断面幅が15μm、エンドツーエンドで連結されてなるリングの内輪径が30μmであり、前記第3加熱抵抗線は、断面厚さが300nm、断面幅が10μm、エンドツーエンドで連結されてなるリングの内輪径が65μmである、ことを特徴とする請求項に記載のガスセンサー。
【請求項5】
前記第1加熱抵抗線は第1加熱領域を形成し、前記第1加熱領域による加熱温度が570~630℃であり、前記第2加熱抵抗線は第2加熱領域を形成し、前記第2加熱領域による加熱温度が370~430℃であり、前記第3加熱抵抗線は第3加熱領域を形成し、前記第3加熱領域による加熱温度が220~280℃である、ことを特徴とする請求項に記載のガスセンサー。
【請求項6】
シリコン基板上に温度の異なる複数の加熱領域を有する加熱層を作製し、マイクロ加熱構造を形成するステップと、
複数の前記加熱領域内に対応する測定電極をそれぞれ作製し、各測定電極表面に対応する感ガスフィルムを塗布して、センシング構造を形成するステップであって、前記感ガスフィルムは金属酸化物ナノ感ガス材料で製造され、前記金属酸化物ナノ感ガス材料はSnO、WO、In、NiO、MoO、Co、ZnO、MoSのうちのいずれか1種又は複数種であるステップと、
前記マイクロ加熱構造と前記センシング構造をマイクロセンシングチップとしてパッケージ化するステップとを含
シリコン基板上に温度の異なる複数の加熱領域を有する加熱層を作製する前記ステップは、
前記シリコン基板上に断面積の異なる複数本の加熱抵抗線を作製し、各加熱抵抗線はそれぞれエンドツーエンドで連結されてリング状になり、複数本の前記加熱抵抗線は間隔を空けて配列され、隣り合う2本の加熱抵抗線の間隔が前記加熱抵抗線の断面幅の2~5倍である、ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のガスセンサーの製造方法。
【請求項7】
各測定電極表面に対応する感ガスフィルムを塗布する前記ステップは、
各測定電極表面に該測定電極の位置する加熱領域の加熱温度に適合する感ガスフィルムを塗布するステップを含む、ことを特徴とする請求項に記載のガスセンサーの製造方法。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載のガスセンサーを使用してガスを検出する、ことを特徴とするガス検出方法。
【請求項9】
2種以上のガスからなる混合ガスを検出するステップを含む、ことを特徴とする請求項に記載のガス検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサーの技術分野に関し、具体的には、ガスセンサー、ガスセンサーの製造方法及びガス検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス検出の手段は多様であり、その中でも、金属酸化物半導体センシング原理に基づくガスセンサーはppbスケールまでの有毒ガスの検出にも百分率濃度の可燃・爆発性ガスの検出にも応用でき、広く応用されている。このガスセンサーの原理は、ガスの成分や濃度などのパラメータを抵抗変化量に変換し、電流や電圧の出力信号に変換することで検出機能を実現するということである。具体的には、金属酸化物半導体(MOS:Metal-Oxide-Semiconductor)という感ガス抵抗材料は、化学量論比がずれた不純物欠陥によって作製され、特定のガス成分に対する特定の材料の選択性や感度を向上させるために、特定の貴金属が感ガス材料の合成時にドープ又は担持される。MOS材料は、P型半導体とN型半導体とに分けられ、例えば、NiO、PbOなどのP型半導体と、SnO、WO、Fe、InなどのN型半導体とがある。金属酸化物は常温では絶縁体であるが、金属酸化物半導体(MOS)に加工すると感ガス特性を示す。MOS材料が被測定ガスに接触すると、その表面にガスが吸着されて抵抗率が明らかに変化するが、脱着すると抵抗率が元の状態に戻る。MOS材料によるガスの吸着は物理的吸着と化学的吸着に分けられ、常温では主に物理的吸着、すなわちガスとMOS材料表面の分子との吸着であり、それらの間に電子交換がなく、化学結合が形成されない。化学的吸着とはガスとMOS材料表面との間にイオン吸着が成立し、それらの間に電子交換があり、化学結合力が存在する。MOS材料は、加熱されて温度が上昇すると、化学的吸着が増加し、ある温度で最大値に達する。MOS材料の温度がある値より高くなると脱着状態となり、物理的吸着と化学的吸着が同時に減少する。例えば、最も一般的なMOS材料である酸化スズ(SnO)は、常温ではある種類のガスを吸着し、抵抗率はあまり変化しないが、この場合は物理的吸着である。ガス濃度を一定に保ち、MOS材料を加熱すると、MOS材料の導電率は温度の上昇とともに著しく増加し、特に100~500℃の温度範囲で導電率が非常に大きく変化する。そのため、MOS材料で作られた感ガス素子が動作する時に必要な温度は室温より遥かに高く、しかも異なるMOS材料が異なるガス成分、濃度を検出するには変化の多い温度が必要である。
【0003】
複雑な雰囲気環境では混合するガスの種類は十数種類ある可能性があり、複雑な雰囲気を検出することができるためには、複数種のガスを同時に検出できるセンサーデバイスが必要である。現在、複雑な雰囲気を検出するためのセンサーデバイスは通常、複数の同一のマイクロ加熱チップユニットを独立して配置したセンサーアレイを採用し、複数のマイクロ加熱チップユニットはそれぞれ対応する感ガスセンシング材料を加熱して、複雑な雰囲気を検出する機能を実現する。センサーアレイの各マイクロ加熱チップは個別に加熱する必要があり、複数のマイクロ加熱チップは複数の加熱構造を必要とするので、デバイスは全体の集積の度合いが高くなく、体積が大きく、消費電力が高いため、体積が小さく、消費エネルギーが低いという半導体ガスセンサーデバイスの利点を実現することができない。また、上記のガスセンサーデバイスのマイクロ加熱チップの加熱温度は単一であり、1つのマイクロ加熱チップは1つの感ガスセンシング材料を加熱することに対応しており、1つのチップ上に多種のMOSセンシング材料を結合して異なる温度で複雑な雰囲気を検出することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、ガスセンサーの集積の度合いを向上させ、単一のガスセンサーに複数種の感ガスセンシング材料を結合して複雑な雰囲気を検出することができる多次元マルチパラメータガスセンサー、その製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成させるために、本発明の第1態様は、
複数種のガスを検出するためのガスセンサーであって、
複数種のガスに対応する複数の電気信号を生成するセンシング構造であって、複数の測定電極及び前記測定電極に塗布された感ガスフィルムを含むセンシング構造と、
前記センシング構造に異なる加熱温度を提供するためのマイクロ加熱構造であって、シリコン基板及び前記シリコン基板上に設けられた加熱層を含み、前記加熱層に異なるサイズ又は異なるレイアウトの加熱電極が集積されて温度の異なる複数の加熱領域を形成し、複数の前記測定電極が対応する加熱領域に集積されるマイクロ加熱構造と、を含むガスセンサーを提供する。
【0006】
さらに、前記加熱電極は複数あり、複数の前記加熱電極のうち少なくとも1つの断面積又は長さが他の加熱電極と異なり、異なる加熱電極は異なる加熱領域を形成する。
【0007】
さらに、前記加熱電極は、断面厚さ300nm~500nm、断面幅10μm~100μm、長さ1.5mm~20mmの加熱抵抗線である。
【0008】
さらに、複数本の前記加熱抵抗線は間隔を空けて配列され、隣り合う2本の加熱抵抗線の間隔が前記加熱抵抗線の断面幅の2~5倍である。
【0009】
さらに、加熱抵抗線はそれぞれエンドツーエンドで連結されてリング状になり、複数本の前記加熱抵抗線は前記シリコン基板に勾配分布している。
【0010】
さらに、前記加熱電極は、第1加熱抵抗線と、第2加熱抵抗線と、第3加熱抵抗線とを含み、前記第1加熱抵抗線は、断面厚さが300nm、断面幅が20μm、エンドツーエンドで連結されてなるリングの内輪径が5μmであり、前記第2加熱抵抗線は、断面厚さが300nm、断面幅が15μm、エンドツーエンドで連結されてなるリングの内輪径が30μmであり、前記第3加熱抵抗線は、断面厚さが300nm、断面幅が10μm、エンドツーエンドで連結されてなるリングの内輪径が65μmである。
【0011】
さらに、前記第1加熱抵抗線は第1加熱領域を形成し、前記第1加熱領域による加熱温度が570~630℃であり、前記第2加熱抵抗線は第2加熱領域を形成し、前記第2加熱領域による加熱温度が370~430℃であり、前記第3加熱抵抗線は第3加熱領域を形成し、前記第3加熱領域による加熱温度が220~280℃である。
【0012】
さらに、前記加熱電極は異なるセグメントを有する加熱抵抗線であり、前記加熱抵抗線の各セグメントの断面積が異なり、かつセグメントがそれぞれ1つの加熱領域に対応する。
【0013】
さらに、前記加熱抵抗線の各セグメントが蛇行曲線状に配列され、前記測定電極は加熱抵抗線の各セグメントのアーク領域内に分布している。
【0014】
さらに、前記加熱抵抗線は、第1セグメント抵抗線と、第2セグメント抵抗線と、第3セグメント抵抗線とを含み、前記第1セグメント抵抗線は、断面厚さが100nm~300nm、断面幅が10μm、蛇行曲線状の配列間隔が20μmであり、前記第2セグメント抵抗線は、断面厚さが100nm~300nm、断面幅が15μm、蛇行曲線状の配列間隔が10μmであり、前記第3セグメント抵抗線は、断面厚さが100nm~300nm、断面幅が5μm、蛇行曲線状の配列間隔が30μmである。
【0015】
さらに、前記第1セグメント抵抗線は第1加熱領域を形成し、前記第1加熱領域による加熱温度が360~440℃であり、前記第2セグメント抵抗線は第2加熱領域を形成し、前記第2加熱領域による加熱温度が580~600℃であり、前記第3セグメント抵抗線は第3加熱領域を形成し、前記第3加熱領域による加熱温度が300~360℃である。
【0016】
さらに、前記加熱電極は前記加熱層の中央領域に分布しており、複数の前記測定電極は前記加熱電極の周辺に分布しているとともに、前記加熱電極と面一である。
【0017】
さらに、前記加熱層の幾何学的形状の長さは前記加熱電極が分布している領域の幾何学的形状の長さの1~6倍であり、前記加熱層の幾何学的形状の長さは500μm~3000μmである。
【0018】
さらに、前記加熱電極は1本の加熱抵抗線を周回したものであり、前記加熱抵抗線は、断面厚さ300nm~500nm、断面幅10μm~100μm、断面長さ1.5mm~13mmである。
【0019】
本発明の第2態様は、
シリコン基板上に温度の異なる複数の加熱領域を有する加熱層を作製し、マイクロ加熱構造を形成するステップと、
複数の前記加熱領域内に対応する測定電極をそれぞれ作製し、各測定電極表面に対応する感ガスフィルムを塗布して、センシング構造を形成するステップであって、前記感ガスフィルムは金属酸化物ナノ感ガス材料で製造され、前記金属酸化物ナノ感ガス材料はSnO、WO、In、NiO、MoO、Co、ZnO、MoSのうちのいずれか1種又は複数種であるステップと、
前記マイクロ加熱構造と前記センシング構造をマイクロセンシングチップとしてパッケージ化するステップとを含む、ガスセンサーの製造方法を提供する。
【0020】
さらに、シリコン基板上に温度の異なる複数の加熱領域を有する加熱層を作製する前記ステップは、
前記シリコン基板上に断面積の異なる複数本の加熱抵抗線又は断面積の異なる複数のセグメントを有する1本の加熱抵抗線を作製し、温度の異なる複数の加熱領域を形成するステップを含む。
【0021】
さらに、各測定電極表面に対応する感ガスフィルムを塗布する前記ステップは、
各測定電極表面に該測定電極の位置する加熱領域の加熱温度に適合する感ガスフィルムを塗布するステップを含む。
【0022】
本発明の第3態様は、上記のガスセンサーを使用してガスを検出するガス検出方法を提供する。
【0023】
さらに、前記ガス検出方法は、2種以上のガスからなる混合ガスを検出するステップを含む。
【発明の効果】
【0024】
本発明によるガスセンサーは、単一のマイクロ加熱構造に異なるサイズ又は異なるレイアウトの加熱電極が集積されて温度の異なる加熱領域を形成し、異なるセンシング材料に対応する加熱温度を提供することによって、複数種のセンシング材料によって異なる温度で複雑な雰囲気を検出する機能を可能としつつ、デバイス全体の体積を小さくし、消費電力を削減させ、ガスセンサーの集積の度合いを向上させる。また、本発明のガスセンサーは感ガス材料の選択性、広域スペクトル性応答及び温度特徴の3つの次元に基づくものであり、マルチパラメータ(異なるセンシング材料、異なる温度)によるガス検出機能を実現し、これによって、単一のガスセンサーに複数種の感ガスセンシング材料を結合して異なる温度で複雑な雰囲気を検出することができる。
【0025】
本発明の実施形態の他の特徴及び利点は、以下の発明を実施するための形態の部分において詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図面は本発明の実施形態をさらに理解するために提供されるものであり、明細書の一部となり、以下の発明を実施するための形態とともに本発明の実施形態を解釈するが、本発明の実施形態を制限するものではない。
図1】本発明の実施形態によるガスセンサーの構造概略図である。
図2】本発明の実施例1によるガスセンサーの加熱層の概略図である。
図3】本発明の実施例1による加熱層の温度分布のシミュレーション図である。
図4】本発明の実施例2によるガスセンサーの加熱層の概略図である。
図5】本発明の実施例2による加熱層の温度分布のシミュレーション図である。
図6】本発明の実施例3によるガスセンサーの加熱層の概略図である。
図7】本発明の実施例3によるマイクロ加熱構造の幾何学的パラメータの定義の概略図である。
図8】本発明の実施例3による加熱層の幾何学的形状の長さと加熱電極が分布している領域の幾何学的形状の長さとの比m/hと、パワーとの関係図である。
図9】本発明の実施例3による加熱層の幾何学的形状の長さと加熱電極が分布している領域の幾何学的形状の長さとの比m/hと、熱均一性との関係図である。
図10】本発明の実施例3による加熱層の温度分布のシミュレーション図である。
図11】本発明の実施例4によるガスセンサーの加熱層の概略図である。
図12】本発明の実施例4による加熱層の温度分布のシミュレーション図である。
図13】本発明の実施例5によるガスセンサーの製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の特定実施形態について詳細に説明する。なお、ここで説明する具体的な実施形態は本発明を説明、解釈するために過ぎず、本発明を制限するものではない。
【0028】
本発明の実施形態は、ガスを検出するための、センシング構造、マイクロ加熱構造及び信号検出システムを含む多次元マルチパラメータガスセンサーを提供する。前記センシング構造は、複数種のガスに対応する複数の電気信号を生成し、前記マイクロ加熱構造は前記センシング構造に異なる加熱温度を提供し、前記信号検出システムは、前記センシング構造によって生成された複数の電気信号を取得し、前記電気信号の変化に基づいて前記電気信号に対応するガスの種類及び濃度を決定する。
【0029】
図1は本発明の実施形態によるガスセンサーの構造概略図である。図1に示すように、前記マイクロ加熱構造は、シリコン基板10及び前記シリコン基板10に設けられた加熱層20を含み、前記加熱層20に異なるサイズ又は異なるレイアウトの加熱電極が集積されて温度の異なる複数の加熱領域を形成する。前記センシング構造30は、複数の測定電極及び前記測定電極に塗布された感ガスフィルムを含み、複数の前記測定電極は対応する加熱領域に集積され、各測定電極の表面に塗布された感ガスフィルムの応答温度が該測定電極の位置する加熱領域の加熱温度に適合する。
【0030】
前記感ガスフィルムは金属酸化物ナノ感ガス材料で製造され、前記金属酸化物ナノ感ガス材料は、例えばSnO、WO、In、NiO、MoO、Co、ZnO、MoSである。選択性は広域スペクトル感ガス材料の重要な指標であり、感ガス金属酸化物センシング材料の複数種のガスへの選択性を定量化することで、好ましくは異なる応答特徴のある材料を選択し、特異性及び広域スペクトル性によって分類し、これによって、センサーは、複雑なガス混合物から目的ガスを選択的に同定し、マルチパラメータ定量同定を実現する。
【0031】
感ガス材料の単一ガスに対する選択性や選択的な吸着、表面化学反応及び酸化物のバンド構造が反応温度に密接に関連しており、感ガス材料の選択性に基づいて適切なセンシング材料が選択され、異なるガスに対する感ガス材料の感度の違いが選択性によって表され、選択性と感度との関数関係が決定される。例えば、Sはある感ガス材料の特定濃度でのガスxに対する感度を表し、ΣSxは、全ての参照ガスの同じ濃度での感度の合計を表し、センサーのガスxに対する選択性はSLx=(Sx/ΣSx)*100%として定義される。ある感ガス材料の選択性SLx≧60%の場合は、該感ガス材料はガスxに対して特異的な応答特性を有し、センサーにおいて特徴値を取得するのに適合していることを示し、選択性が20%≦SLx<60%である場合、該感ガス材料は広域スペクトルの特性を有し、複数種のガスに対して高感度であることを示し、選択性SLx<20%の場合、該感ガス材料はガスxに対してほぼ応答しないことを示す。
【0032】
各感ガス材料の選択性は実験を通じて測定されてもよく、例えば、WOナノワイヤの抵抗変化を測定することによりWOナノワイヤの感度が得られ、該感ガス材料の異なるガスに対する選択性が得られる。
【0033】
WOの各種の危険なガスに対する選択性の実験結果を以下に示す。
【0034】
【表1】
上記の実験結果から、この混合ガスに対しては、WOナノワイヤはHSに対しては特異的に応答し、EtOHに対しては広域スペクトルで応答し、他のガスに対してはほぼ応答しないことが判明した。
【0035】
感ガス材料の異なるガスに対する応答感度や選択性が異なるので、目的ガスの濃度を検出するために、選択性には有意な違いが認められた複数種の感ガス材料を選択してマルチパラメータ検出を行う必要がある。比較実験を通じて、SnO、WO、In、NiOなどのナノ材料を選抜してガス検出パラメータとする。
【0036】
マイクロ加熱構造の各加熱領域は異なる感ガス材料に、その応答温度に適合する加熱温度を提供する。測定電極表面の感ガスフィルムは特定のガスに接触すると、特定温度では抵抗率が明らかに変化し、ガスの種類及び濃度が異なる加熱領域の測定電極の抵抗率の変化によって決定される。センシング材料が異なると、応答温度が異なるので、マイクロ加熱構造は、異なるセンシング材料を加熱するための温度の異なる加熱領域を提供し、これにより、単一のマイクロチップに複数種のセンシング材料が結合されて異なる温度で交差検出を行うことを実現し、複雑な雰囲気を検出する機能を実現する。
【0037】
マイクロ加熱構造の関連するパラメータは加熱電極の熱的プロセスを分析することによって決定され得る。過渡熱伝達プロセスはガスセンサーの熱平衡速度、動的熱安定性に影響を及ぼす。その特徴は、消費電力Pと、比熱容量C、温度T、熱抵抗R及び時間tとの変化の間の関係にある。
【0038】
【数1】
【0039】
密度ρ、体積Vの材料の場合、その比熱容量はC=CρVである。時間常数がτ=RCである場合、
【0040】
【数2】
【0041】
となる。
【0042】
このため、リアルタイムな温度変化は
【0043】
【数3】
【0044】
であり、ここで、Tmは加熱による熱と放散熱が同じになったときの定常状態の温度
【0045】
【数4】
【0046】
である。
【0047】
加熱電極が予め設定された温度になって定常熱伝達が始まると、マイクロ加熱構造の各部分は外部環境と熱伝達を行い、主に熱放射、自体の中央領域から周辺への熱伝導、接触ガスと感ガス材料との熱伝導や周囲熱対流などがあり、表現式は以下の通りである。
【0048】
【数5】
【0049】
ここで、
【0050】
【数6】
【0051】
は中心からカンチレバーへの熱伝導を表し、
【0052】
【数7】
【0053】
は異種材料同士の熱伝導を表し、
【0054】
【数8】
【0055】
は熱対流を表す。
【0056】
ここで、λmはマイクロホットプレートの熱伝導係数を表し、λairは空気の熱伝導係数を表し、hfは空気対流係数を表し、εは黒体放射の放射率を表し、σはボルツマン定数を表し、ビーム方向の熱伝導は一次元熱伝達とみなされ、ビームの横断面積はAbeamとして表され、長さはlであり、熱伝導の熱損失に加えて、加熱層の表面積が大きいほど外部環境と接触するときの熱損失が大きく、発生した温度勾配が大きくなる。加熱電極の抵抗値は
【0057】
【数9】
【0058】
として表され、このことから、材料が一定である場合、熱抵抗は熱伝導経路の長さlに比例し、通過する横断面積に反比例し、熱伝導係数に反比例することが分かる。
【0059】
以上の熱分析から分かるように、マイクロ加熱構造の定常状態温度は、加熱電極の熱抵抗を変化させること、熱パワー、即ち加熱電極の両端に印加された電圧値の大きさを調整すること、及び加熱電極の間隔を調整することによって変更されてもよく、ここでは、間隔が小さいほど加熱温度が高くなる。熱均一性を向上させるには熱抵抗値を低下させることが必要であり、熱抵抗値の低下は、熱伝導率の高い材料を選択することや、加熱電極の幾何学的因子を最適化させることによって行われる。具体的には、加熱領域の有効長さlを小さくしたり断面積を増大したりすることで熱均一性を向上させ、また、断面積を増大すると定常状態熱的プロセスにおける熱伝導が増加する。さらに、熱抵抗の低下が熱伝導の応答速度を向上させるにつれて、センシング構造が迅速に熱平衡になるまでの時間が短縮される。
【0060】
以上の分析を総合すると、異なる温度域の加熱層が設計され、同一マイクロ加熱構造でセンシング構造が領域ごとに加熱されることによって、センサーの複雑な雰囲気に対する検出機能が達成される。
【実施例
【0061】
実施例1
図2は本発明の実施例1によるガスセンサーの加熱層の概略図である。前記加熱層の加熱電極は複数あり、複数の前記加熱電極のうちの少なくとも1つの加熱電極の断面積又は長さが他の加熱電極と異なり、各加熱電極は異なる加熱領域を形成する。前記加熱電極は加熱抵抗線であり、複数本の加熱抵抗線は複数の加熱領域を形成する。
【0062】
ジュールの法則によると、電流が導体を流れることにより生じる熱は電流の二乗に比例し、導体の抵抗に比例し、通電時間に比例する。つまり、加熱抵抗線の両端に一定の電圧が印加されると、回路で生じた熱が加熱抵抗線で温度の形態として発現される。同一の回路では、流れる電流の密度及び通電時間が一定である場合、加熱抵抗線の抵抗を変えると、異なる温度が得られる。抵抗計算式R=ρ・L/S=ρ・L/(w・t)では、ρは加熱抵抗線の抵抗率(感ガスセンシング材料に関連する)、Lは加熱抵抗線の長さ、Sは加熱抵抗線の断面積(S=w・t)、wは加熱抵抗線の断面幅、tは加熱抵抗線の断面厚さを表す。抵抗計算式によれば、加熱抵抗線の長さを長くしても、横断面を小さくしても、加熱抵抗線の抵抗を増大し、加熱抵抗線がより高い温度を示すようにし、逆の場合も同様である。したがって、加熱抵抗線の長さ及び断面積は温度分布に影響を与える。通常、感ガスセンシング材料に必要な加熱温度は100~700℃の間であり、加熱電極の抵抗Rは70Ω~250Ωの間であり、加熱抵抗線の堆積厚さ(即ち断面厚さt)は300nm~500nmである。上記の抵抗式により計算したところ、加熱抵抗線の断面幅wは10μm~100μm、長さLは1.5mm~20mmである。好ましい実施形態では、前記加熱抵抗線は、断面厚さ300nm~500nm、断面幅10μm~100μm、長さ1.5mm~20mmである。
【0063】
図2に示すように、本実施例における加熱電極は、第1加熱抵抗線211と、第2加熱抵抗線212と、第3加熱抵抗線213とを含む。第1加熱抵抗線211の断面積は第2加熱抵抗線212の断面積よりも大きく、第2加熱抵抗線212の断面積は第3加熱抵抗線213の断面積よりも大きい。第1加熱抵抗線211、第2加熱抵抗線212、第3加熱抵抗線213は、それぞれエンドツーエンドで連結されてリング形となり、3本の加熱抵抗線は前記シリコン基板に勾配分布している。第2加熱抵抗線212で構成されるリングは第3加熱抵抗線213で構成されるリング内にあり、第1加熱抵抗線211で構成されるリングは第2加熱抵抗線212で構成されるリング内にある。具体的には、前記第1加熱抵抗線211は、断面厚さが300nm、断面幅が20μm、エンドツーエンドで連結されてなるリングの内輪径が5μmであり、前記第2加熱抵抗線212は、断面厚さが300nm、断面幅が15μm、エンドツーエンドで連結されてなるリングの内輪径が30μmであり、前記第3加熱抵抗線213は、断面厚さが300nm、断面幅が10μm、エンドツーエンドで連結されてなるリングの内輪径が65μmである。前記加熱層は加熱電極パッド23と加熱電極リード25をさらに含み、加熱電極リード25は第1加熱抵抗線211、第2加熱抵抗線212、第3加熱抵抗線213で構成されるリングを貫通して加熱電極パッド23に接続される。第1加熱抵抗線211は第1加熱領域201を形成し、第1加熱領域201は面積が50×50μmであり、570~630℃の加熱温度を提供することができ、加熱対象とする感ガスフィルムの材料がSnOであり、第2加熱抵抗線212は第2加熱領域202を形成し、第2加熱領域202は面積が90×90μmであり、370~430℃の加熱温度を提供することができ、加熱対象とする感ガスフィルムの材料はNiOであり、第3加熱抵抗線213は第3加熱領域203を形成し、第3加熱領域203は面積が130×130μmであり、220~280℃の加熱温度を提供することができ、加熱対象とする感ガスフィルムの材料がInである。本実施例による加熱層の温度分布のシミュレーション図が図3に示され、加熱層の温度が中央から縁部へ逓減し、中央領域の温度は600℃に達し、縁部の温度は100~200℃である。
【0064】
一実施形態では、複数本の加熱抵抗線は間隔を空けて配列され、隣り合う2本の加熱抵抗線の間隔dが加熱抵抗線の断面幅wの2~5倍(隣り合う2本の加熱抵抗線の断面幅が等しくない場合、隣り合う2本の加熱抵抗線のうち間隔が断面幅の大きな加熱抵抗線の断面幅の2~5倍である)である。シミュレーション結果から、断面幅wが50μmよりも大きく、隣り合う2本の加熱抵抗線の間隔dと断面幅wとの関係が2w≦d≦5wである場合、加熱層の中央から加熱層の縁部への方向において、隣り合う2本の加熱抵抗線の間で少なくとも6℃の温度勾配があり、温度が径方向の長さの増加に伴って低下し、温度の異なる加熱領域が形成され、隣り合う2本の加熱抵抗線の間隔を大きくすると、各加熱領域の温度差が増大する。
【0065】
本実施例では、第3加熱領域203の温度は第2加熱領域202の温度よりも小さく、第2加熱領域202の温度は第1加熱領域201の温度よりも小さく、加熱層には、3つの温度勾配の加熱領域が形成されている。第1加熱領域201には加熱温度が高く要求される感ガスセンシング材料、第3加熱領域203には加熱温度が低く要求される感ガスセンシング材料が塗布されており、第1加熱領域201、第2加熱領域202、第3加熱領域203の感ガスセンシング材料はそれぞれ特定のガス成分を検出する。加熱電極リードの両端に8V電圧が印加された条件下で、第1加熱領域201の加熱温度は最高600℃程度、第2加熱領域202の加熱温度は350℃程度、第3加熱領域203の加熱温度は最低250℃であり、同一加熱抵抗線によって異なる温度勾配の加熱領域が得られ、同一加熱層において複数種の感ガスセンシング材料が同時に加熱される。
【0066】
実施例2
抵抗計算式R=ρ・L/S=ρ・L/(w・t)では、ρは加熱抵抗線の抵抗率(感ガスセンシング材料に関連する)、Lは加熱抵抗線の長さ、Sは加熱抵抗線の断面積(S=w・t)、wは加熱抵抗線の断面幅、tは加熱抵抗線の断面厚さを表す。通常、感ガスセンシング材料に必要な加熱温度は100~700℃の間であり、加熱電極の抵抗Rは70Ω~250Ωの間であり、加熱抵抗線の堆積厚さ(即ち断面厚さt)は300nm~500nmである。上記の抵抗計算式によれば、加熱抵抗線の断面幅wは50μm~150μm、長さLは10mm~20mmである。
【0067】
図4は本発明の実施例2によるガスセンサーの加熱層の概略図である。図4に示すように、前記加熱層の加熱電極21は異なるセグメントを有する加熱抵抗線であり、該加熱抵抗線の各セグメントの断面積が異なり、かつセグメントがそれぞれ1つの加熱領域に対応する。本実施例では、前記加熱抵抗線の各セグメントが蛇行曲線状に配列され、測定電極22は各セグメントの加熱抵抗線のアーク領域内に分布している。前記加熱抵抗線は、第1セグメント抵抗線21aと、第2セグメント抵抗線21bと、第3セグメント抵抗線21cとを含み、第1セグメント抵抗線21aは、断面厚さが100nm~300nm、断面幅が10μm、蛇行曲線状の配列間隔が20μmであり、第2セグメント抵抗線21bは、断面厚さが100nm~300nm、断面幅が15μm、蛇行曲線状の配列間隔が10μmであり、第3セグメント抵抗線21cは、断面厚さが100nm~300nm、断面幅が5μm、蛇行曲線状の配列間隔が30μmである。第1セグメント抵抗線21aは第1加熱領域201を形成し、第1加熱領域201は、面積が60×60μmであり、360~440℃の加熱温度を提供することができ、加熱対象とする感ガスフィルムの材料がNiOであり、第2セグメント抵抗線21bは第2加熱領域202を形成し、第2加熱領域202は、面積が90×90μmであり、580~600℃の加熱温度を提供することができ、加熱対象とする感ガスフィルムの材料がSnOであり、第3セグメント抵抗線21cは第3加熱領域203を形成し、第3加熱領域203は、面積が75×75μmであり、300~360℃の加熱温度を提供することができ、加熱対象とする感ガスフィルムの材料がWOである。本実施例では、前記加熱層は、1対の加熱電極パッド23と複数対の測定電極パッド24を含み、前記加熱抵抗線の両端は加熱電極パッド23に接続され、前記測定電極22はそれぞれ対応する測定電極パッド24に接続される。
【0068】
本実施例では、第1セグメント抵抗線21a、第2セグメント抵抗線21b、第3セグメント抵抗線21cの断面幅が順に増大し、第1加熱領域201、第2加熱領域202、第3加熱領域203の加熱温度が順に低下する。本実施例による加熱層の温度分布のシミュレーション図が図5に示され、加熱抵抗線の両端に8V電圧が印加された条件下で、第2加熱領域202の加熱温度は最高600℃程度に達し、第1加熱領域201又は第3加熱領域203の加熱温度は最低350℃に達する。本実施例では、同一加熱抵抗線によって異なる温度勾配の加熱領域が得られ、同一加熱層において複数種の感ガスセンシング材料が同時に加熱される。
【0069】
実施例3
図6は本発明の実施例3によるガスセンサーの加熱層の概略図である。図6に示すように、加熱層の加熱電極21は1本の加熱抵抗線を周回したものであり、加熱層20の中央領域に分布し、測定電極22は加熱電極21の周辺に分布し、かつ前記加熱電極と面一である。前記測定電極22は4対あり、加熱電極21と測定電極22はシリコン基板10の同一面に設けられ、かつ4対の測定電極22は全て加熱電極21に隣接し、加熱電極21は4対の測定電極22を一体として加熱する。前記シリコン基板10の表面には、1対の加熱電極パッド23と4対の測定電極パッド24が設けられ、加熱電極21の両端は加熱電極パッド23まで引き出され、前記測定電極22はそれぞれ、対応する測定電極パッド24まで引き出される。
【0070】
図7に示すように、mは加熱層の幾何学的形状の長さ、hは加熱電極が分布している領域の幾何学的形状の長さ、Cはシリコン基板のキャビティの幾何学的形状の長さを表す。図8に示すように、加熱層の幾何学的形状の長さと加熱電極が分布している領域の幾何学的形状の長さとの比m/hと、パワーとの関係から、加熱層の幾何学的形状の長さmは加熱電極が分布している領域の幾何学的形状の長さhの1~6倍であることが分かる。前記加熱層の幾何学的形状の長さmは500μm~3000μmであり、前記加熱電極21が分布している領域の幾何学的形状の長さhは85μm~3000μmである。ここで、m/hと消費電力との関係を図8に示す。さらに、加熱電極及び測定電極のレイアウトは熱均一性に関連する。図9に示すように、m/hが大きくなるにつれて、温度中心(加熱電極)から加熱層の縁部までミクロンごとに温度勾配の変化が小さくなり、比が大きいほどパワー及び均一性が優れるものの、加工及び経済性から、m/hの範囲のさらなる拡大が好ましくない。
【0071】
一方、シリコン基板10のキャビティ13は、加熱電極21が中央に配置された加熱層20がさらに高い作動温度に達するのに有利であり、前記キャビティ13の幾何学的形状の長さCは前記加熱電極21が分布している領域の幾何学的形状の長さhの2倍以下、即ち0≦C/h≦2であり、C/hの比が最大である場合、加熱層20の温度は700℃に安定化する。前記加熱電極21が分布している領域の幾何学的形状の長さhは85μm~3000μmであり、前記キャビティ13の幾何学的形状の長さCは50μm~6000μmであることが好ましい。前記測定電極22は、線幅と間隔の両方が1μm~10μmであるインターディジタル構造を採用してもよい。前記加熱電極21は加熱抵抗線を周回したものであり、前記加熱抵抗線の厚さtは300nm~500nmであり、前記加熱抵抗線の幅wは10μm~100μmである。前記加熱抵抗線の2つの周回部の間隔dが加熱抵抗線の幅wの2倍よりも小さく、即ちd<2wである。感ガスセンシング材料に必要な加熱温度が最高700℃であるので、マイクロ加熱構造の抵抗Rは通常90Ω~200Ωの間であり、抵抗計算式R=ρ・L/S=ρ・L/(w・t)では、ρは加熱抵抗線の抵抗率(感ガスセンシング材料に関連する)、Lは加熱抵抗線の長さ、Sは加熱抵抗線の断面積(S=w・t)、wは加熱抵抗線の幅、tは加熱抵抗線の厚さを表し、抵抗式により計算したところ、加熱抵抗線Lの長さの範囲は1.5mm~13mmである。好ましい実施形態として、加熱抵抗線は、断面厚さが300nm~500nm、断面幅が10μm~100μm、長さが1.5mm~13mmである。
【0072】
図10は本実施例の加熱層の温度分布のシミュレーション図であり、シミュレーション条件は、加熱層の幾何学的形状の長さm=500μm、加熱電極が分布している領域の幾何学的形状の長さh=245μm、m/h=500μm/245μm=2、加熱抵抗線の線幅w=20μm、加熱抵抗線の間隔d=50μm、加熱抵抗線の厚さt=300nmである。図10に参照するように、上記のシミュレーション条件下で、加熱パワー48mWの場合、加熱温度は全て610℃程度であり、加熱層の温度差が小さい。
【0073】
本実施例のマイクロ加熱構造は、各加熱領域の温度差が小さく、応答温度差が小さい(30℃以内)感ガスセンシング材料に適合する。例えばCo、MoO、ZnO、MoSがあり、これらの感ガスセンシング材料の最適作動温度差は全て30℃以内である。
【0074】
本発明では、上記の実施例によるガスセンサーは、単一のマイクロ加熱構造に異なるサイズ又は異なるレイアウトの加熱電極が集積されて温度の異なる加熱領域を形成し、異なるセンシング材料に対応する加熱温度を提供し、これによって、複数種のセンシング材料によって異なる温度で複雑な雰囲気を検出する機能を実現しつつ、デバイス全体の体積を小さくし、消費電力を削減させ、ガスセンサーの集積の度合いを向上させる。さらに、本発明のガスセンサーは感ガス材料の選択性、広域スペクトル性応答及び温度特徴の3つの次元に基づくものであり、マルチパラメータ(異なるセンシング材料、異なる温度)によるガス検出機能を実現し、単一のガスセンサーに複数種の感ガスセンシング材料を結合して異なる温度で複雑な雰囲気を検出することを実現できる。
【0075】
実施例4
図11は本発明の実施例4によるガスセンサーの加熱層の概略図である。図11に示すように、本実施例における加熱電極は、第1加熱抵抗線211と第2加熱抵抗線212を含み、第1加熱抵抗線211の断面積は第2加熱抵抗線212の断面積よりも大きい。第1加熱抵抗線211、第2加熱抵抗線212はそれぞれエンドツーエンドで連結されてリング形となり、第1加熱抵抗線211で構成ざれるリングは第2加熱抵抗線212で構成されるリング内にある。具体的には、前記第1加熱抵抗線211は、断面厚さが300nm、断面幅が20μm、エンドツーエンドで連結されてなるリングの内輪径が5μmであり、前記第2加熱抵抗線212は、断面厚さが300nm、断面幅が15μm、エンドツーエンドで連結されてなるリングの内輪径が30μmである。前記加熱層は加熱電極パッド23と加熱電極リード25をさらに含み、加熱電極リード25は第1加熱抵抗線211、第2加熱抵抗線212で構成されるリングを貫通して加熱電極パッド23に接続される。第1加熱抵抗線211は第1加熱領域201を形成し、第2加熱抵抗線212は第2加熱領域202を形成する。加熱抵抗線の両端に1.5V電圧が印加された条件下で、第1加熱領域201による加熱温度は200~230℃であり、第2加熱領域202による加熱温度は160~180℃である。この条件下の加熱層の温度分布のシミュレーション図を図12に示す。
【0076】
第1加熱領域201及び第2加熱領域202は同じ感ガスフィルムが塗布されてもよく、同じ感ガスフィルムであっても、温度が異なると、応答信号が異なり、このため、異なる応答信号に応じて異なるガスの検出が可能である。例えば、第1加熱領域201及び第2加熱領域202のいずれにもCoナノキューブセンシング材料が塗布されており、CoナノキューブはHS、CO、CH及びHの4種類のガスの全てに対して一定の応答を持つので、異なる温度の条件での異なるガスに対するCoナノキューブの応答の違いによって、異なる種類のガスをさらに区別することができ、このように、同じセンシング材料は異なる温度の条件での複数種のガスを検出することができる。
【0077】
実施例5
図13は本発明の実施例5によるガスセンサーの製造方法のフローチャートである。図13に示すように、本実施例によるガスセンサーの製造方法は、ステップS1)~S3)を含む。
【0078】
S1)シリコン基板上に温度の異なる複数の加熱領域を有する加熱層を作製し、マイクロ加熱構造を形成する。
【0079】
シリコン基板上に断面積の異なる複数本の加熱抵抗線又は断面積の異なる複数のセグメントを有する1本の加熱抵抗線を作製し、温度の異なる複数の加熱領域を形成する。
【0080】
例えば、エッチングプロセス又はフォトリソリフトオフプロセスを用いて、前記シリコン基板上に断面積の異なる複数本の加熱抵抗線を作製し、複数本の前記加熱抵抗線は温度の異なる複数の加熱領域を形成する。例えば、p型ボロンドープシリコン(Si)を有するSOIウエハ層をシリコン基板とし、SOI(Silicon-On-Insulator、即ちシリコン・オン・インシュレータ)シリコンウエハとは、上層のシリコンとバッキング基板との間に埋め込み酸化物層(BOX)を支持層として導入し、プラズマ増強化学気相堆積方法によってシリコンウエハの正面と背面に厚さ1μm以下の酸化ケイ素又は窒化ケイ素薄膜層を塗布したものである。シリコンウエハの表面に薄いフォトレジストフィルムをスピンコーティングして、加熱によりフォトレジストの溶媒成分を蒸発した後、予め作成されたマスクを用いて正確に位置合わせをし、紫外線リソグラフィー技術によってフォトレジスト上の所定の領域を露光し、露光した面へ100~500nm厚の加熱層として金属を真空蒸着によって蒸着する。蒸着済みのシリコンウエハをアセトン溶液に入れて4~5時間浸漬し、フォトレジストを溶解して、余分な蒸着金属をリンスすると、加熱層を形成する。
【0081】
S2)複数の前記加熱領域内に対応する測定電極をそれぞれ作製し、各測定電極表面に対応する感ガスフィルムを塗布して、センシング構造を形成する。ここでは、前記感ガスフィルムは金属酸化物ナノ感ガス材料で製造され、前記金属酸化物ナノ感ガス材料はSnO、WO、In、NiO、MoO、Co、ZnO、MoSのうちのいずれか1種又は複数種である。
【0082】
温度の異なる加熱領域内に測定電極を作製し、各測定電極表面に該測定電極の位置する加熱領域の加熱温度に適合する感ガスフィルムを塗布する。加熱抵抗線と測定電極が同一面にある場合、加熱抵抗線の作製中に測定電極を作製してもよい。例えば、シリコン基板の表面に犠牲層を作製し、フォトリソグラフィープロセスによってシリコン基板の表面に加熱抵抗線及び測定電極のパターンを形成し、次に、エッチングプロセスによって加熱抵抗線及び測定電極を前記犠牲層までエッチングする。
【0083】
水熱、ソルボサーマル、マイクロ波合成の方法によって金属酸化物ナノ材料を製造して、感ガスセンシング材料とする。合成過程で高温高圧条件が採用され、金属塩の金属酸化物への転化が促進される。合成過程に亘って原位置反応も行われ、これは、電子のこれらの間での移動に有利であり、材料の感ガス特性を向上させ、異なる形態(ナノ粒子、ナノワイヤ、ナノシートなど)、異なる状態(分散液、固体粉末など)の金属酸化物に適合している。上記の方法で製造された金属酸化物ナノ材料は、特異性又は広域スペクトル型感ガス材料であり、酸化性ガス及び還元性ガスと反応しうる。測定電極の表面への感ガス材料の塗布方法は、例えば、ドリップ法、エアスプレー法、マイクロスプレー法、堆積法、筆塗りなどであり、塗布された感ガス材料が乾燥されると、感ガスフィルムが得られる。
【0084】
S3)前記マイクロ加熱構造と前記センシング構造をマイクロセンシングチップとしてパッケージ化する。
【0085】
感ガスセンシング材料の作動温度の温差△Tに応じて適切なマイクロ加熱構造を選択する。選択された感ガスセンシング材料の最適作動温度範囲の温差△Tが0~30℃以内であれば、実施例3によるマイクロ加熱構造が採用されてもよい。選択された感ガスセンシング材料の最適作動温度範囲の温差△T>30℃であれば、実施例1又は実施例2によるマイクロ加熱構造が採用されてもよく、各領域の温度は加熱抵抗線の線幅及び間隔を変更することで調整される。
【0086】
例えば、SnO、WO、In、NiOナノ材料について感ガス特性をテストした結果、この4種類のセンシング材料は、NO、HS、CO混合ガスに対しては、選択性が全て20%≦SLx<60%の範囲であり、広域スペクトルで応答する特徴を持つことが分かった。4種類の材料の最適作動温度を測定した結果、それぞれ、SnO(600℃)、WO(350℃)、In(250℃)、NiO(400℃)であり、この4種類の材料を感ガスセンシング材料として用いると、最適作動温度範囲の温差△T>30℃となり、このため、実施例1又は実施例2によるマイクロ加熱構造が採用される。
【0087】
次に、選択されたマイクロ加熱構造とセンシング構造とを集積してマイクロセンシングチップとしてパッケージ化した後、マイクロセンシングチップと、信号検出システム(マイクロセンシングチップによる複数の電気信号を検出し、電気信号の変化に応じて、対応するガスの種類及び濃度を決定する)が集積された回路基板と一体にパッケージ化して、ガスセンサーとする。
【0088】
本発明の実施形態は、さらに、上記の多次元マルチパラメータガスセンサーを用いてガスを検出するガス検出方法を提供する。前記ガス検出方法は、2種以上のガスからなる混合ガスを検出するステップを含み、感ガス材料の選択性、広域スペクトル性応答及び温度特徴によってガス濃度の検出が実現され、これによって、複雑なガス混合物から目的ガスを選択的に同定し、多成分ガスの検出正確性を向上させることができる。
【0089】
以上は、図面を参照して本発明の好適な実施例について詳細に説明したが、本発明の実施形態は上記の実施例の詳細に限定されるものではなく、本発明の実施例の技術的思想を逸脱することなく、本発明の実施例の技術案について複数種の簡単な変形を行うことが可能であり、これらの簡単な変形は全て本発明の実施形態の特許範囲に属する。なお、上記の特定実施例に記載のそれぞれの具体的な技術的特徴は、矛盾がない場合、任意の適切な方式で組み合わせられてもよく、本発明の実施形態の思想に反しない限り、これらも本発明の実施形態の開示内容とみなすべきである。
【符号の説明】
【0090】
10 シリコン基板
20 加熱層
21 加熱電極
22 測定電極
23 加熱電極パッド
24 測定電極パッド
25 加熱電極リード
30 センシング構造
201 第1加熱領域
202 第2加熱領域
203 第3加熱領域
211 第1加熱抵抗線
212 第2加熱抵抗線
213 第3加熱抵抗線
21a 第1セグメント抵抗線
21b 第2セグメント抵抗線
21c 第3セグメント抵抗線

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13