(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】通電ベルトの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 48/156 20190101AFI20240313BHJP
F16G 1/08 20060101ALI20240313BHJP
F16G 1/28 20060101ALI20240313BHJP
B29C 48/07 20190101ALI20240313BHJP
B29C 48/90 20190101ALI20240313BHJP
【FI】
B29C48/156
F16G1/08 A
F16G1/28 E
F16G1/28 G
B29C48/07
B29C48/90
(21)【出願番号】P 2023088734
(22)【出願日】2023-05-30
(62)【分割の表示】P 2021004134の分割
【原出願日】2017-07-31
【審査請求日】2023-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000115245
【氏名又は名称】ゲイツ・ユニッタ・アジア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【氏名又は名称】神崎 真
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】井上 龍起
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-507555(JP,A)
【文献】特表2008-503697(JP,A)
【文献】特開2004-042609(JP,A)
【文献】特開2001-205714(JP,A)
【文献】特表2002-537162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/156
B29C 48/154
H01B 7/04
B29D 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマーから成り、接着面を有する第1のベルト本体部と、
前記接着面に配置され、前記第1のベルト本体部の長手方向に延びる導電性心線と、
熱可塑性エラストマーから成り、前記導電性心線を覆うようにして前記接着面に接着され、前記接着面とは反対側の外面に、長手方向にベルト歯と歯底部が交互に形成される歯面を有する第2のベルト本体部とを備え、
前記導電性心線は、通電ベルトの横断面において、一部が前記第1のベルト本体部に密着し、他部が前記第2のベルト本体部に密着しており、少なくとも前記歯面の歯底部において、前記第2のベルト本体部の熱可塑性エラストマーにより完全に覆われる通電ベルトであって、
前記第1のベルト本体部が、金型の外面に形成され、周方向に平行に延びる複数の支持溝にそれぞれ前記導電性心線を係合支持した状態で、前記金型の外面に溶融した熱可塑性エラストマーを供給した後、前記熱可塑性エラストマーを前記金型の外面に対して押圧しつつ冷却して固化させることにより製造されることを特徴とする通電ベルトの製造方法。
【請求項2】
前記熱可塑性エラストマーは、非導電性を有することを特徴とする請求項1に記載の通電ベルトの製造方法。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマーは、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー又はポリエステル系熱可塑性エラストマーであることを特徴とする請求項1乃至請求項2に記載の通電ベルトの製造方法。
【請求項4】
前記導電性心線は、スチール心線であることを特徴とする請求項1に記載の通電ベルトの製造方法。
【請求項5】
前記導電性心線は、前記第1および第2のベルト本体部から構成されるベルト本体の前記歯面の歯底部における厚さ方向の略中央位置に埋設されることを特徴とする請求項1に記載の通電ベルトの製造方法。
【請求項6】
前記第1のベルト本体部の前記接着面とは反対側のベルト背面が第1の導電性帆布により被覆され、前記第2のベルト本体部の歯面が第2の導電性帆布により被覆され、前記第1の導電性帆布および前記第2の導電性帆布が前記導電性心線と絶縁されていることを特徴とする請求項5に記載の通電ベルトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば昇降機等の機器を昇降駆動するために利用可能な通電ベルトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、昇降装置等の機器を昇降駆動するための給電用平ベルト(通電ベルト)として特許文献1に開示されたものが知られており、この給電用平ベルトでは、心線として導電体が用いられている。一方、動力伝達のために用いられる歯付きベルトでは、歯付きベルトの本体内における心線の高さ位置(PLD)を固定するため、その製造工程において、心線は金型(モールド)に設けられる小突起に支持される。この小突起により歯付きベルトの歯底部には、ベルトの幅方向に延びる細長の溝が形成され、これにより心線が露出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
歯付きベルトを通電ベルトとして用いようとすると、心線として導電体を用いることが必要である。ところが歯付きベルトの場合、歯底に心線が露出するので、例えば水分や油が歯底に付着すると短絡するおそれが生じる。また歯付きベルトとプーリの噛み合い動作により、歯底部の細長溝の近傍に応力集中が生じて心線折れが生じ易く、これが屈曲疲労の原因となるという問題がある。
【0005】
本発明は、短絡するおそれがなく、かつ屈曲疲労を生じ難い通電ベルトの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、熱可塑性エラストマーから成り、接着面を有する第1のベルト本体部と、接着面に配置され、第1のベルト本体部の長手方向に延びる導電性心線と、熱可塑性エラストマーから成り、導電性心線を覆うようにして接着面に接着され、接着面とは反対側の外面に、長手方向にベルト歯と歯底部が交互に形成される歯面を有する第2のベルト本体部とを備え、導電性心線は、通電ベルトの横断面において、一部が第1のベルト本体部に密着し、他部が第2のベルト本体部に密着しており、少なくとも歯面の歯底部において、第2のベルト本体部の熱可塑性エラストマーにより完全に覆われる通電ベルトであって、第1のベルト本体部が、金型の外面に形成され、周方向に平行に延びる複数の支持溝にそれぞれ導電性心線を係合支持した状態で、金型の外面に溶融した熱可塑性エラストマーを供給した後、熱可塑性エラストマーを金型の外面に対して押圧しつつ冷却して固化させることにより製造されることを特徴としている。
【0007】
熱可塑性エラストマーは、非導電性を有することが好ましい。また熱可塑性エラストマーは、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー又はポリエステル系熱可塑性エラストマーであることが好ましい。
【0008】
導電性心線は、スチール心線であることが好ましい。また導電性心線は、第1および第2のベルト本体部から構成されるベルト本体の歯面の歯底部における厚さ方向の略中央位置に埋設されることが好ましい。
【0009】
第1のベルト本体部の接着面とは反対側のベルト背面が第1の導電性帆布により被覆され、第2のベルト本体部の歯面が第2の導電性帆布により被覆され、第1の導電性帆布および第2の導電性帆布が導電性心線と絶縁されていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、短絡するおそれがなく、かつ屈曲疲労を生じ難い通電ベルトの製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施形態の通電ベルトを示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態の通電ベルト本体と従来の歯付きベルトを示す縦断面図である。
【
図3】第1実施形態において、通電ベルトの製造過程で得られるベルトスラブを示す横断面図である。
【
図4】第1実施形態の通電ベルトの横断面図である。
【
図5】第1実施形態の通電ベルトの製造方法における1次成型工程を示す図である。
【
図6】第1の金型に形成された支持溝を示す縦断面図である。
【
図7】第1実施形態の通電ベルトの製造方法における1次成型品の横断面図である。
【
図8】第1実施形態の通電ベルトの製造方法における2次成型工程を示す図である。
【
図9】第1実施形態の通電ベルトの製造方法における2次成型品の横断面図である。
【
図10】第2実施形態の通電ベルトを示す斜視図である。
【
図11】第2実施形態の通電ベルトを示す縦断面図である。
【
図12】第2実施形態の通電ベルトの横断面図である。
【
図13】第2実施形態の通電ベルトの製造方法における1次成型工程を示す図である。
【
図14】第2実施形態の通電ベルトの製造方法における2次成型工程を示す図である。
【
図15】第3実施形態の通電ベルトの縦断面図である。
【
図16】第3実施形態の通電ベルトの製造方法を示す図である。
【
図17】通電ベルトを利用する構成の例を示す図である。
【
図18】通電ベルトを組み合わせて利用する構成の第1の例を示す図である。
【
図19】通電ベルトを組み合わせて利用する構成の第2の例を示す図である。
【
図20】通電ベルトを組み合わせて利用する構成の第3の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図示された実施形態を参照して、本発明の通電ベルトおよびその製造方法を説明する。
図1は第1実施形態の通電ベルト10を示している。この通電ベルト10は歯付きベルトであり、ベルト本体11は例えばウレタン等の熱可塑性エラストマーから成形される。
図1において、ベルト本体11の上側の面は平坦な背面12であり、下側の面は、ベルト本体11の長手方向にベルト歯13と歯底部14が交互に形成される歯面である。なお下側の面を平坦面とすることもできる。この場合の通電ベルト10は平ベルトになる。ベルト本体11内には、その長手方向に延びる複数の導電性心線15が埋設され、これらの導電性心線15はベルト本体11の端面から突出している。
【0013】
図1、2を参照して、ベルト本体11内における導電性心線15の位置を説明する。導電性心線15は歯底部14における厚さ方向の略中央に位置に埋設されている。したがって導電性心線15は、
図1および
図2(a)において符号Aで示すように、歯底部14において絶縁性の高い材料(ウレタン)により覆われている。また導電性心線15は、1次成型工程において、第1の金型の外面に形成された支持溝に連続的に係合支持された状態で成型されるので、心線折れが発生しにくく、二次成型工程において、導電性心線15の位置は、(第2の金型の外径+2PLD)の直径円の円弧軌跡を描く。
【0014】
これに対して従来の歯付きベルトでは、
図2(b)において符号Bで示すように、製造工程において、金型(モールド)に設けられる小突起によって歯底部にベルト幅方向に延びる細長溝Hが形成され、この細長溝Hにより、心線Cが露出していた。この細長溝H近傍が、従来の歯付きベルトにおいて最も屈曲し易い箇所となり応力集中して心線折れが発生し易い。さらに心線Cは、従来の歯付きベルトの製造時に金型(モールド)に設けられる離間した小突起によって断続的に支持されるので小突起に支持される箇所で心線折れが生じ易い。心線Cの位置は、従来の歯付きベルトの製造時に、(金型(モールド)の外径+2PLD)の直径円に内接する正n角形軌跡を描く。なおnは金型(モールド)の小突起の数である。
【0015】
図3は通電ベルト10の製造過程で得られるベルトスラブ20の横断面を示している。導電性心線15はベルトの幅方向に関して、基本的に一定間隔毎に設けられるが、一部において、隣り合う導電性心線15の間隔が相対的に広く定められる。導電性心線15の間隔が広い部分は、製造工程において導電性心線15を設けないことにより形成されるスリットレーンS1である。導電性心線15が一定間隔毎に設けられるスラブ部分S2は、その後の工程で、スリットレーンS1において切断されることにより、
図4に示すような通電ベルト10となる。なお通電ベルト10の構成については後に詳述する。
【0016】
図5~9を参照して本実施形態の通電ベルト10の製造方法を説明する。
本製造方法は基本的に1次成型工程と2次成型工程から成る。1次成型工程を実施するための製造装置は、
図5に示すように、第1の金型(モールド)30と押出し成型機31と押圧機32とを備える。第1の金型30は軸心(紙面に垂直)周りに回転し、回転方向は
図5において時計方向である。第1の金型30の外面には、
図6に示すように支持溝33が一定間隔毎に形成される。これらの支持溝33は導電性心線15が係合するもので、第1の金型30の全周にわたって平行に延びる環状溝である。また支持溝33の横断面は、導電性心線15の断面形状に対応した円弧形状である。
【0017】
押出し成型機31は第1の金型30の上方に配置され、導電性心線15が支持溝33に係合した状態の第1の金型30の表面に、例えば溶融したウレタン等の熱可塑性エラストマーを押出して供給する。押圧機32は複数のローラ35に掛け回されたスチールベルト34を有し、スチールベルト34は押出し成型機31から金型30の表面に供給された溶融した熱可塑性エラストマーを押圧しつつ冷却して固化させる。スチールベルト34は、押出し成型機31の下流側から約180°以上の範囲にわたって第1の金型30を覆うように設けられる。
【0018】
導電性心線15は1本ずつロール36から繰り出され、張力調節機37において張力を付与され、案内ローラ38を介して第1の金型30に導かれる。案内ローラ38と第1の金型30の間には筬(図示せず)が設けられており、導電性心線15は、筬に形成された多数の櫛状の筬羽の間隙に1本ずつ通されて分離され、第1の金型30の支持溝33に嵌め込まれて巻き取られる。なお筬において所定の筬羽の間隙には、スリットレーンS1(
図3参照)を形成するため、導電性心線15が通されない。
【0019】
押圧機32のスチールベルト34と第1の金型30とにより成型される1次成型品A1は、案内ローラ39により案内され、巻取りロール40に巻き取られる。
図7は1次成型品A1の断面を示している。すなわち1次成型品A1は、帯状の熱可塑性エラストマー部分Pの表面に、複数本の導電性心線15が一定間隔を空けて接着されたものであり、各導電性心線15は断面の半分が熱可塑性エラストマー部分Pから露出した状態にある。また、上述したようにスリットレーンS1に対応した支持溝33には導電性心線15が供給されないので、1次成型品A1には、導電性心線15に対応した円弧状断面の隆起部Rが形成される。
【0020】
1次成型品A1は巻き取られた状態で2次成型工程に送られる。2次成型工程を実施するための製造装置は、
図8に示すように、1次成型工程の製造装置(
図5参照)と基本的に同じであるが、第1の金型30に代えて第2の金型41が用いられる。第2の金型41は軸心(紙面に垂直)周りに回転し、回転方向は
図8において時計方向である。第2の金型41の外面には、
図6の支持溝33とは異なり、軸方向に平行に延びる歯形が一定間隔毎に形成される。これらの歯形は、歯付きベルトの歯形を成型するためのもので、従来公知の歯付きベルトの製造装置に設けられる構成と基本的に同じであるが、第2の金型41には歯付きベルトの本体内における心線の高さ位置(PLD)を固定するための小突起が設けられていない。
【0021】
2次成型工程では導電性心線15は供給されないので、ロール36、張力調節機37、案内ローラ38および筬(図示せず)は使用されない。1次成型品A1の巻取りロール40は所定の支持装置にセットされ、1次成型品A1は、導電性心線15が設けられた側の面を外側(
図8において上側)に向けた状態で、案内ローラ42とテンションローラ43を介して第2の金型41に導かれる。すなわち1次成型品A1は第2の金型41に向かう移動方向に対して蛇行しないよう、テンションローラ43によって微小な張力を付与される。そして1次成型品A1は、導電性心線15が設けられた側の面を第2の金型41側に向けた状態でスチールベルト34に支持され、押出し成型機31によって、第2の金型41と1次成型品A1の間に、溶融したウレタン等の熱可塑性エラストマーが押し出されて供給される。
【0022】
1次成型工程と同様に、押圧機32が1次成型品A1と金型41の外面間に供給された溶融した熱可塑性エラストマーを金型41の外面に向かって押圧しつつ冷却することにより、熱可塑性エラストマーが、固化して2次成型品A2が得られる。この2次成型品A2は、案内ローラ39により案内される間に、図示しないトリム機によって、側面の不要な部分が切り落とされた後、ベルトスラブ20(
図3参照)として巻取りロール44に巻き取られる。
図9は2次成型品A2の断面を示している。すなわち2次成型品A2は、1次成型品A1の導電性心線15側の面に、ベルト歯13と歯底部14(
図1参照)が交互に形成された熱可塑性エラストマー部分Qの平面部Hが接着(溶着)されたものである。
【0023】
以上のように1次成型工程では、第1の金型30に対して、複数の支持溝33に係合するように複数の導電性心線15を供給しつつ、押出し成型機31により、溶融した熱可塑性エラストマーを供給した後、その熱可塑性エラストマーを第1の金型30の外面に対して押圧しつつ冷却して固化させ、1次成型品A1を製造する。そして2次成型工程では、第2の金型41に対して1次成型品A1を供給しつつ、第2の金型41と1次成型品A1の導電性心線15側の面と間に溶融した熱可塑性エラストマーを供給した後、その熱可塑性エラストマーを第2の金型41の外面に対して押圧しつつ冷却して固化させることにより2次成型品A2を製造する。2次成型品A2の両側はトリム機によって切り落とされて所定の幅に定められ、ベルトスラブ20として巻取りロール44に巻き取られる。
【0024】
ベルトスラブ20は、その後の工程で、スリットレーンS1において切断され、これにより所定幅(例えば15mm)の通電ベルト10が得られる。
【0025】
再び
図4を参照して通電ベルト10の構成を詳細に説明する。通電ベルト10は熱可塑性エラストマーから成る第1および第2のベルト本体部51、52と複数本の導電性心線15を有する。第1のベルト本体部51は接着面53を有し、導電性心線15は接着面53に配置され、第1のベルト本体部51の長手方向に、相互に平行に延びる。第2のベルト本体部52は導電性心線15を覆うようにして接着面53に接着(溶着)され、接着面53とは反対側の外面に、長手方向にベルト歯13と歯底部14が交互に形成される(
図1参照)。導電性心線15は、第1および第2のベルト本体部51、52から構成されるベルト本体11の歯底部14における厚さ方向の高さ位置の略中央に位置する。
【0026】
以上のように本実施形態によれば、歯付きベルトの通電ベルト10において、導電性心線15は完全に熱可塑性エラストマーにより覆われ、歯底部14には、従来の歯付きベルトのような細長溝は存在しない。したがって導電性心線15が短絡するおそれはなく、また使用時に心線折れや応力集中が発生することがないので屈曲疲労が生じ難く、通電ベルト10の耐久性が向上する。またベルト本体11内における導電性心線15の高さ位置は、通電ベルト10の製造において、熱可塑性エラストマー部分PおよびQの厚さを管理することにより、簡単に調整できる。
【0027】
図10~12は第2実施形態の通電ベルト60を示している。第1実施形態との違いはベルト本体11の背面12と歯面とが導電性帆布61、62により被覆される点であり、その他の構成は同じである。すなわち、第1のベルト本体部51の接着面53とは反対側のベルト背面12が第1の導電性帆布61により被覆され、また第2のベルト本体部52の歯面が第2の導電性帆布62により被覆される。第1の導電性帆布61と第2の導電性帆布62は、非導電性を有する熱可塑性エラストマーからなるベルト本体の中に埋設された導電性心線15と接触せず絶縁されている。
【0028】
通電ベルト60は、ベルト本体11の両面がそれぞれ第1および第2の導電性帆布61、62により覆われるので、導電性心線15が信号線として用いられる場合であっても、低周波数の電磁波によるノイズを低減することができる。
【0029】
図13は第2実施形態の通電ベルト60の製造方法における1次成型工程を示す。この1次成型工程は基本的に第1実施形態と同様であり、押出し成型機31と押圧機32のローラ35との間に、矢印B1方向に沿って第1の導電性帆布61を供給する点が異なる。すなわち第1の導電性帆布61は押出し成型機31により供給された溶融した熱可塑性エラストマーと押圧機32のスチールベルト34の間に供給され、これにより第1成型品A1の背面側に第1の導電性帆布61が接着される。
【0030】
図14は第2実施形態の通電ベルト60の製造方法における2次成型工程を示す。この2次成型工程は基本的に第1実施形態と同様であり、押出し成型機31と第2の金型41の外面との間に、矢印B2方向に沿って第2の導電性帆布62を供給する点が異なる。すなわち第2の導電性帆布62は、押出し成型機31により供給される溶融した熱可塑性エラストマーと第2の金型41の外面との間に供給され、これにより第2成型品A2の歯面側に第2の導電性帆布62が接着される。
【0031】
なお、第1および第2の導電性帆布61、62は同じ材料であっても、異なるものであってもよい。
【0032】
図15は第3実施形態の通電ベルト70を示している。この通電ベルト70は両歯ベルトであり、ベルト本体11の両面において、ベルト歯13と歯底部14が交互に形成されている。両面に歯形を形成するため、次に述べるように、1次から3次成型工程が実行される。
【0033】
図16は第3実施形態における通電ベルトの製造方法を示している。第3実施形態の製造方法は1次成型工程と2次成型工程と3次成型工程を有する。
図16(a)に示すように1次成型工程は第1実施形態と同じである。1次成型工程により得られた1次成型品A1は
図7に示される構成を有し、
図16(b)に示される2次成型工程において歯形を成型される。2次成型工程では、第1の金型30が第2の金型41に付け替えられる。第2の金型41は
図8を参照して説明した第1実施形態と同じ構成を有し、その外面には、軸方向に平行に延びる歯形が一定間隔毎に形成される。
【0034】
第1実施形態と同様に、2次成型工程では導電性心線15は供給されないので、ロール36、張力調節機37、案内ローラ38および筬(図示せず)は使用されない。また1次成型品A1は、導電性心線15が設けられた側の面を外側に向けた状態で、案内ローラ42とテンションローラ43を介して第2の金型41に導かれる。そして押出し成型機31によって、第2の金型41と1次成型品A1の間に、溶融したウレタン等の熱可塑性エラストマーが押し出されて供給され、第2の金型41とスチールベルト34の作用により熱可塑性エラストマーが固化して2次成型品A2が得られる。2次成型品A2は巻取りロール44に巻き取られ、その構成は
図9に示すものと同じである。
【0035】
3次成型工程では、2次成型工程と同様に、第2の金型41が装着された状態で、2次成型品A2の背面(歯形が形成されていない面)に歯形が成型される。すなわち2次成型品A2は、背面を外側に向けた状態で、案内ローラ42とテンションローラ43を介して第2の金型41に導かれる。そして押出し成型機31によって、第2の金型41の外面と2次成型品A2の間に、溶融したウレタン等の熱可塑性エラストマーが押し出されて供給され、第2の金型41とスチールベルト34の作用により熱可塑性エラストマーが固化して3次成型品A3が得られる。この3次成型品A3は、案内ローラ39により案内される間に、図示しないトリム機によって、側面の不要な部分が切り落とされた後、巻取りロール45に巻き取られる。
【0036】
なお第3実施形態において、通電ベルト70の両面に形成される歯形の位相が一致しなければならないので、第2の金型41と案内ローラ42の同期をとることが必要である。
【0037】
図17(a)、(b)は第1~第3実施形態のいずれかの通電ベルトを、例えば自動倉庫等において可動式ラックを駆動するシステムの一部として用いた例を示している。この例において、通電ベルト10の少なくとも一部は案内部材である角パイプ71内に収容され、角パイプ71内において歯付きプーリ72に係合する。角パイプ71には第1のクランプ73が取付けられ、第1のクランプ73には通電ベルト10の一端が接続される。通電ベルト10の他端は角パイプ71から突出し、可動式ラック(図示せず)に固定された第2のクランプ74に接続される。
【0038】
通電ベルト10の導電性心線15(
図1参照)は制御部(図示せず)に接続され、可動式ラックは導電性心線15を介して送信または供給される指令信号または電力により、駆動される。
図17(a)は第2のクランプ74と可動式ラックが相対的に右方向へ変位した状態を示し、
図17(b)は第2のクランプ74と可動式ラックが相対的に左方向へ変位した状態を示す。
【0039】
図18~20は、
図17と同様に通電ベルト10を自動倉庫等に利用する場合の構成例を示す。
図18は2本の通電ベルト10、10の背面側を合わせ、両端をそれぞれクランプ73、74によって固定したものである。すなわち通電ベルト10、10の間には隙間が形成され、相互に相対変位できるようにしてクランプ73、74に固定される。各クランプ73、74の通電ベルト10、10に係合する内面には、通電ベルト10の歯面に対応した歯形が形成される。外側の通電ベルト10は撓みやすいので、フランジあるいはガイド部材を設けて、その撓みを抑えることが好ましい。また外側の通電ベルト10の撓みを小さくするために、クランプ73、74に対する外側の通電ベルト10の取付け位置を微調整することが好ましい。さらに、2本の通電ベルト10の背面の接触による摩耗を減らすために、背面を帆布により覆うことが好ましい。
【0040】
図19は2本の通電ベルト10、10の背面側を合わせ、両端をそれぞれクランプ73、74によって固定した点は
図18の例と同様であるが、内側の通電ベルト10の長さを外側の通電ベルト10よりもかなり短いスパンとなるようにしてクランプ73、74に固定される。また内側の通電ベルト10が掛け回される歯付きプーリ72に対して、外側の通電ベルト10が掛け回される平プーリ76は相対的に大きい。これにより、各通電ベルト10、10に所定の張力が作用するように、スパンを調整することができる。
【0041】
図20は3本の通電ベルト10、77、10を組み合わせた構成例である。すなわち
図18に示す2本の通電ベルト10、10の間に、歯部を有しない通電ベルト77を設けた例である。これらの通電ベルト10、77、10がクランプ73、74に固定される部分は、位置ずれが生じないようにするため、例えば熱プレスによって融着しておくことが好ましい。なお中間の通電ベルト77は、2次成型工程では、表面に歯がない平滑な円筒金型を用いるか、または2次成型品の歯を削ることにより成型すればよい。
【符号の説明】
【0042】
13 ベルト歯
14 歯底部
15 導電性心線
51 第1のベルト本体部
52 第2のベルト本体部
53 接着面