IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マツダ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-車両制御装置 図1A
  • 特許-車両制御装置 図1B
  • 特許-車両制御装置 図2
  • 特許-車両制御装置 図3
  • 特許-車両制御装置 図4
  • 特許-車両制御装置 図5
  • 特許-車両制御装置 図6
  • 特許-車両制御装置 図7
  • 特許-車両制御装置 図8
  • 特許-車両制御装置 図9
  • 特許-車両制御装置 図10
  • 特許-車両制御装置 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/095 20120101AFI20240314BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
B60W30/095
G08G1/16 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020066604
(22)【出願日】2020-04-02
(65)【公開番号】P2021160658
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(72)【発明者】
【氏名】後藤 多加志
(72)【発明者】
【氏名】大村 博志
(72)【発明者】
【氏名】川原 康弘
(72)【発明者】
【氏名】野見山 龍介
(72)【発明者】
【氏名】松島 隆幸
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-511505(JP,A)
【文献】特開2011-186878(JP,A)
【文献】特開2010-202147(JP,A)
【文献】特開2019-043190(JP,A)
【文献】特開2019-142303(JP,A)
【文献】特開2017-218115(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00- 1/16
B62D 6/00
B60T 7/12- 8/1769
B60T 8/32- 8/96
B60K 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転を支援するための車両制御装置であって、
所定期間にわたる前記車両の目標走行経路を算出し、
少なくとも前記車両の舵角を入力値として前記車両の挙動を推定する車両モデルを用いて、所定の制約条件下で前記目標走行経路に基づいて補正走行経路を算出すると共に、前記車両が前記補正走行経路を走行するための前記車両の制御目標値を算出するように構成されており、
前記車両制御装置は、前記補正走行経路を算出する際に、前記制約条件下において、前記補正走行経路を評価するための評価関数を用いて、少なくとも前記目標走行経路上の前記車両の位置及び速度に対する前記補正走行経路上の前記車両の位置及び速度の差を最小化するように前記補正走行経路を算出し、
前記車両制御装置は、前記車両の運転支援において、自動操舵制御を伴わずに自動速度制御を行う場合、
前記車両の現在の舵角及び速度を維持するような前記所定期間にわたる第1予測走行経路を算出すると共に、現在のヨーレート及び速度を維持するような前記所定期間にわたる前記車両の挙動を表す第2予測走行経路を算出し、前記第1予測走行経路を前記目標走行経路に設定し、
前記補正走行経路の算出において、前記制約条件となる物標の再設定処理を実行し、前記再設定処理において、前記第2予測走行経路に対する前記物標の相対的な位置関係を維持しながら前記第2予測走行経路を前記第1予測走行経路に一致させるような仮想的な移動によって、前記物標を再配置する、車両制御装置。
【請求項2】
前記車両制御装置は、前記車両の現在のヨー角に対する前記第2予測走行経路上の前記車両のヨー角の変化量と、前記車両の現在の舵角との間の角度差だけ前記物標を前記車両の現在位置に対して回転移動させることにより、前記制約条件となる物標を再配置する、請求項に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記制約条件となる物標は、前記車両の周囲に存在する障害物及び前記車両が走行している車線の両端部を含む、請求項1又は2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記車両制御装置は、前記車両の外部にある障害物を検知し、前記障害物と前記車両との間に、前記障害物に対する前記車両の相対速度の許容上限値の分布を規定する速度分布領域を設定し、この速度分布領域内における許容上限値は前記障害物から距離が離れるほど大きくなるように設定され、
前記制約条件は、前記速度分布領域内において、前記障害物に対する前記車両の相対速度が前記許容上限値を超えないことを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に係り、特に、運転者による車両の運転を支援する車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の現在の挙動に応じて、所定期間(例えば、3秒間)が経過するまでの将来の目標走行経路を予測し、予測した目標走行経路を用いて、車両の運転の支援を行う車両制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の車両制御装置では、所定の運転支援モード(例えば、自動速度制御モード)では、目標走行経路は、現在の車両の挙動(すなわち、車両運動)から予測される。自動速度制御モードでは、操舵制御は運転者が行い、速度制御のみが自動的に行われる。
【0003】
また、このような車両制御装置では、障害物等の外乱に対して、例えばモデル予測制御を用いて、目標走行経路を補正することにより、最適化された補正走行経路が算出される。そして、補正走行経路に基づいて、車両の制御目標値が計算される。モデル予測制御では、車両の所定の物理量を所定の車両モデルに入力することにより、補正走行経路における車両の挙動を推定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-43190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の車両制御装置では、目標走行経路を算出する場合と補正走行経路を算出する場合とでは、車両の異なる物理量が用いられる。具体的には、目標走行経路は、実際の車両運動を表す物理量(例えば、車両の向きに関してヨーレート、車両の移動に関して速度)を用いて計算されるので、将来の挙動が精度よく推定される。一方、補正走行経路は、車両の制御目標となる物理量(例えば、車両の向きに関して舵角、車両の移動に関して加速度)を車両モデルに適用することにより計算することができる。
【0006】
例えば、車両が左に旋回するカーブ車線の出口付近を走行している状況を例に挙げる。この状況において、運転者がコントロールホイールをセンター位置まで戻すと、舵角はゼロになるが、ヨーレートはゼロにならないので、車両はカーブ車線に沿うように走行を継続する。そして、この場合に車両運動又は車両挙動を表すヨーレートを用いて推定される目標走行経路は、カーブ車線と一致するように、左旋回する円弧状の経路となる。
【0007】
なお、仮に車両の現在の舵角(ゼロ)を車両モデルに適用して目標走行経路が計算される場合には、その目標走行経路は、舵角がゼロであるため、カーブ車線の外へ逸脱するように直線的に延びる経路となる。よって、車両モデルを用いて計算される目標走行経路よりも、車両運動に基づいて計算される目標走行経路の方が、走行車線に沿ったより正確な経路となる。
【0008】
一方、車両モデルを用いて算出される補正走行経路は、カーブ車線から逸脱しないように、左旋回するための舵角量を入力値として用いる必要がある。しかしながら、このような舵角量は運転者がコントロールホイールをセンター位置まで戻した操作と矛盾する。さらに、上述のように車両はヨーレートにしたがって左旋回するため、運転者は左旋回するような舵角量の舵角操作をする必要はない。
【0009】
そして、このような舵角操作を要求する補正走行経路が算出されたとしても、自動速度制御においては、操舵が自動的に行われることはないので、コントロールホイールはセンター位置に維持される。一方、補正走行経路における目標速度は、カーブ車線から逸脱しないように、設定速度よりも低速な速度に設定され得る。このため、自動速度制御において、車両が運転者の予想に反して減速され得る。このように、異なる物理量に基づいて目標走行経路と補正走行経路が算出されることに起因して、車両挙動を不安定にするような補正走行経路が算出され得るという問題があった。
【0010】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、車両挙動を不安定にするような走行経路を算出することを抑制することが可能な車両制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために、本発明は、車両の運転を支援するための車両制御装置であって、所定期間にわたる車両の目標走行経路を算出し、少なくとも車両の舵角を入力値として車両の挙動を推定する車両モデルを用いて、所定の制約条件下で目標走行経路に基づいて補正走行経路を算出すると共に、車両が補正走行経路を走行するための車両の制御目標値を算出するように構成されており、車両制御装置は、補正走行経路を算出する際に、制約条件下において、補正走行経路を評価するための評価関数を用いて、少なくとも目標走行経路上の車両の位置及び速度に対する補正走行経路上の車両の位置及び速度の差を最小化するように補正走行経路を算出し、車両制御装置は、車両の運転支援において、自動操舵制御を伴わずに自動速度制御を行う場合、車両の現在の舵角及び速度を維持するような所定期間にわたる第1予測走行経路を算出すると共に、現在のヨーレート及び速度を維持するような所定期間にわたる車両の挙動を表す第2予測走行経路を算出し、第1予測走行経路を目標走行経路に設定し、補正走行経路の算出において、制約条件となる物標の再設定処理を実行し、再設定処理において、第2予測走行経路に対する物標の相対的な位置関係を維持しながら第2予測走行経路を第1予測走行経路に一致させるような仮想的な移動によって、物標を再配置することを特徴としている。
【0012】
このように構成された本発明によれば、目標走行経路として車両の現在の舵角を用いて算出された第1予測走行経路が採用され、且つ、補正走行経路も第1予測走行経路と同様に車両の舵角を用いて算出される。そして、本発明では、現在のヨーレートに基づいて算出される第2予測走行経路を第1予測走行経路に一致させる仮想的な移動によって、物標(制約条件)を移動させる制約条件の再設定処理が実行される。したがって、本発明では、本来的に不必要な一部の制約条件を排除することができる。そして、自動速度制御を行う場合において、制約条件を満たしながら、運転者のステアリングホイールの操作に適合するように補正走行経路を算出することが可能である。これにより、本発明では、車両の挙動を不安定にするような速度制御が実行されることを回避することができる
【0013】
また、このように構成された本発明によれば、第2予測走行経路は、前記車両の現在のヨーレートを用いて計算されるので、舵角に基づいて算出される目標走行経路よりも車両の運動状態を正確に予測することができる第2予測走行経路を基準とすることにより、制約条件となる物標の仮想的な再配置を精度よく行うことができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、車両制御装置は、車両の現在のヨー角に対する第2予測走行経路上の車両のヨー角の変化量と、車両の現在の舵角との間の角度差だけ物標を車両の現在位置に対して回転移動させることにより、制約条件となる物標を再配置する。このように構成された本発明によれば、第1予測走行経路に対する第2予測走行経路の角度差だけ物標を回転移動させるという簡単な計算処理によって、物標を再配置することができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、制約条件となる物標は、車両の周囲に存在する障害物及び車両が走行している車線の両端部を含む。
【0016】
本発明において、好ましくは、車両制御装置は、車両の外部にある障害物を検知し、障害物と車両との間に、障害物に対する車両の相対速度の許容上限値の分布を規定する速度分布領域を設定し、この速度分布領域内における許容上限値は障害物から距離が離れるほど大きくなるように設定され、制約条件は、速度分布領域内において、障害物に対する車両の相対速度が許容上限値を超えないことを含む。このように構成された本発明によれば、制約条件の再設定処理によって障害物が再配置されることにより、障害物により生成される速度分布領域を目標走行経路に対して適切に設定することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の車両制御装置によれば、車両挙動を不安定にするような走行経路を算出することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A】本発明の実施形態による車両制御装置の構成図である。
図1B】本発明の実施形態による車両制御装置の運転者操作部の詳細を示す図である。
図2】本発明の実施形態による車両制御装置の制御ブロック図である。
図3】本発明の実施形態による車両制御装置における制御目標算出処理の説明図である。
図4】本発明の実施形態による車両制御装置における補正走行経路の説明図である。
図5】本発明の実施形態による車両制御装置における車両モデルの説明図である。
図6】本発明の実施形態による車両制御装置における目標走行経路の補正による障害物回避の説明図である。
図7】本発明の実施形態による車両制御装置において障害物を回避する際の障害物と車両との間のすれ違い速度の許容上限値とクリアランスとの関係を示す説明図である。
図8】本発明の実施形態による目標走行経路と第2目標走行経路の説明図である。
図9】本発明の実施形態による制約条件の再設定処理の説明図である。
図10】本発明の実施形態による制約条件の再設定処理後の目標走行経路と補正走行経路の説明図である。
図11】本発明の実施形態による車両制御装置における運転支援制御の処理フローである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両制御装置について説明する。
まず、図1及び図2を参照して、車両制御装置の構成について説明する。図1Aは車両制御装置の構成図、図1Bは運転者操作部の詳細を示す図、図2は車両制御装置の制御ブロック図である。
【0020】
本実施形態の車両制御装置100は、これを搭載した車両1(図4等参照)に対して複数の運転支援モードにより、それぞれ異なる運転支援制御を提供するように構成されている。運転者は、複数の運転支援モードから所望の運転支援モードを選択可能である。
【0021】
図1Aに示すように、車両制御装置100は、車両1に搭載されており、車両制御演算部(ECU)10と、複数のセンサ及びスイッチと、複数の制御システムと、運転支援モードについてのユーザ入力を行うための運転者操作部35を備えている。複数のセンサ及びスイッチには、車載カメラ21,ミリ波レーダ22,車両の挙動を検出する複数の挙動センサ(車速センサ23,加速度センサ24,ヨーレートセンサ25,舵角センサ26,アクセルセンサ27,ブレーキセンサ28),測位システム29,ナビゲーションシステム30が含まれる。また、複数の制御システムには、エンジン制御システム31,ブレーキ制御システム32,ステアリング制御システム33が含まれる。
【0022】
図1Bに示すように、運転者操作部35は、運転者が操作可能なように車両1の車室内に設けられており、複数の運転支援モードから所望の運転支援モードを選択するためのモード設定操作部として機能する。運転者操作部35には、速度制限モードを設定するためのISAスイッチ36aと、先行車追従モードを設定するためのTJAスイッチ36bと、自動速度制御モードを設定するためのACCスイッチ36cと、レーンキープ制御モードを設定するためのLASスイッチ36dが設けられている。さらに、運転者操作部35には、先行車追従モードにおける車間距離(実質的には、車間距離に代わる車間時間)を設定するための距離設定スイッチ37aと、自動速度制御モード等における車速を設定するための車速設定スイッチ37bと、を備えている。
【0023】
図1Aに示すECU10は、プロセッサ,各種プログラムを記憶するメモリ,入出力装置等を備えたコンピュータにより構成される。ECU10は、運転者操作部35から受け取った運転支援モード選択信号や設定車速信号、及び、複数のセンサ及びスイッチから受け取った信号に基づき、エンジン制御システム31,ブレーキ制御システム32,ステアリング制御システム33に対して、それぞれエンジンシステム,ブレーキシステム,ステアリングシステムを適宜に作動させるための要求信号を出力可能に構成されている。
【0024】
車載カメラ21は、車両1の周囲を撮像し、撮像した画像データを出力する。ECU10は、画像データに基づいて対象物(例えば、車両、歩行者、道路、区画線(車線境界線、白線、黄線)、交通信号、交通標識、停止線、交差点、障害物等)を特定する。さらに、本実施形態においては、車載カメラ21として、車両を運転中の運転者を撮像する車室内カメラも備えている。なお、ECU10は、交通インフラや車々間通信等によって、車載通信機器を介して外部から対象物の情報を取得してもよい。
【0025】
ミリ波レーダ22は、対象物(特に、先行車、駐車車両、歩行者、障害物等)の位置及び速度を測定する測定装置であり、車両1の前方へ向けて電波(送信波)を送信し、対象物により送信波が反射されて生じた反射波を受信する。そして、ミリ波レーダ22は、送信波と受信波に基づいて、車両1と対象物との間の距離(例えば、車間距離)や車両1に対する対象物の相対速度を測定する。なお、本実施形態において、ミリ波レーダ22に代えて、レーザレーダや超音波センサ等を用いて対象物との距離や相対速度を測定するように構成してもよい。また、複数のセンサを用いて、位置及び速度測定装置を構成してもよい。
【0026】
車速センサ23は、車両1の絶対速度を検出する。
加速度センサ24は、車両1の加速度(前後方向の縦加速度、横方向の横加速度)を検出する。なお、加速度は、増速側(正)及び減速側(負)を含む。
ヨーレートセンサ25は、車両1のヨーレートを検出する。
舵角センサ26は、車両1のステアリングホイールの回転角度(舵角)を検出する。
アクセルセンサ27は、アクセルペダルの踏み込み量を検出する。
ブレーキセンサ28は、ブレーキペダルの踏み込み量を検出する。
【0027】
測位システム29は、全球測位衛星システム(GNSS)及び/又はジャイロシステムであり、車両1の位置(現在車両位置情報)を検出する。また、測位システム29は、デッドレコニングや路車間通信(Wi-Fi等を用いる)による位置情報取得手段を含んでもよい。
【0028】
ナビゲーションシステム30は、内部に地図情報を格納しており、ECU10へ地図情報を提供することができる。ECU10は、地図情報及び現在車両位置情報に基づいて、車両1の周囲(特に、進行方向前方)に存在する道路、交差点、交通信号、建造物等を特定する。地図情報は、ECU10内に格納されていてもよい。
【0029】
エンジン制御システム31は、車両1のエンジンを制御するコントローラである。ECU10は、車両1を加速又は減速させる必要がある場合に、エンジン制御システム31に対して、エンジン出力の変更を要求するエンジン出力変更要求信号を出力する。
【0030】
ブレーキ制御システム32は、車両1のブレーキ装置を制御するためのコントローラである。ECU10は、車両1を減速させる必要がある場合に、ブレーキ制御システム32に対して、車両1への制動力の発生を要求するブレーキ要求信号を出力する。
【0031】
ステアリング制御システム33は、車両1のステアリング装置を制御するコントローラである。ECU10は、車両1の進行方向を変更する必要がある場合に、ステアリング制御システム33に対して、操舵方向の変更を要求する操舵方向変更要求信号を出力する。
【0032】
図2に示すように、ECU10は、入力処理部10a、周辺物標検出部10b、目標走行経路算出部10c、運転操作判断部10e、及び制御目標算出部10fとして機能する単一のCPU又はプロセッサを備えている。なお、本実施形態では、単一のCPUが複数の上記機能を実行するように構成されているが、これに限らず、複数のCPUがこれら機能を実行するように構成することができる。
【0033】
入力処理部10aは、車載カメラ21を含む種々のセンサ/スイッチ群、及び運転者操作部35から入力された入力情報を処理するように構成されている。この入力処理部10aは、走行路面を撮像したカメラ21の画像を解析し、車両1が走行している走行車線(車線の両側の区画線)を検出する画像解析部として機能する。
【0034】
周辺物標検出部10bは、ミリ波レーダ22、カメラ21等からの入力情報に基づいて周辺物標を検出するように構成されている。
目標走行経路算出部10cは、ミリ波レーダ22、車載カメラ21、センサ群等からの入力情報に基づいて車両の目標走行経路を算出するように構成されている。
【0035】
運転操作判断部10eは、運転支援制御として自動速度制御及び/又は自動操舵制御が実行されているときに、乗員がアクセルペダル,ブレーキペダル,又はステアリングホイールを操作した場合、乗員による操作を優先して、乗員による操作に応じた要求信号を制御システム31~33へ出力するように構成されている。すなわち、運転操作判断部10eにより、乗員は、自動的な運転支援制御をオーバーライドして、自らが運転操作を行うことが可能である。
【0036】
制御目標算出部10fは、目標走行経路算出部10cによって算出された目標走行経路を補正して、補正走行経路を算出し、この補正走行経路に基づいて制御システム31~33へ要求信号を出力するように構成されている。
【0037】
例えば、制御目標算出部10fは、周辺物標検出部10bによって回避すべき周辺物標が検出された場合に、目標走行経路を補正して補正走行経路を算出する。また、制御目標算出部10fは、運転支援モードの変更によって目標走行経路自体が変更になった場合にも、新たな目標走行経路を補正して補正走行経路を算出する。車両1は、この補正走行経路を走行することにより、新たな目標走行経路へ合流する。すなわち、この場合の補正走行経路は、現在の車両挙動(舵角,加速度等)を新たな目標走行経路における車両挙動に適合させるための遷移的な経路である。
【0038】
制御目標算出部10fは、補正走行経路を算出するため、所定の評価関数を用いる。制御目標算出部10fは、目標走行経路を基準として評価関数を用いて複数の候補走行経路を評価し、所定の制約条件(又は、拘束条件)を満足するように最適化された1つの補正走行経路を算出する。また、本実施形態においては、評価関数及び制約条件は、選択されている運転支援モードや周辺物標等に基づいて、適宜設定される。
【0039】
ECU10は、制御目標算出部10fによって決定された最適な補正走行経路を走行すべく、少なくともエンジン制御システム31,ブレーキ制御システム32,又はステアリング制御システム33のいずれか1つ又は複数に対する要求信号を生成し、出力する。
【0040】
次に、本実施形態による車両制御装置100が備える運転支援モードについて説明する。本実施形態では、運転支援モードとして、5つのモード(レーンキープ制御モード、先行車追従モード、自動速度制御モード、速度制限モード、基本制御モード)が備えられている。
【0041】
<レーンキープ制御モード>
レーンキープ制御モードは、車両1が車線の中央付近を走行するようにステアリング制御するモードであり、車両制御装置100による自動的なステアリング制御、速度制御(エンジン制御、ブレーキ制御)を伴う。
【0042】
本実施形態では、レーンキープ制御モードの選択時(すなわち、LASスイッチ36dが操作又は押下されている状態)において、走行車線の車線両端部の検出の可否に応じて、異なる制御が行われる。すなわち、車線両端部の検出中、ECU10は、車両1が走行車線の中央付近を走行するようにステアリング制御及び速度制御を行う。しかしながら、車線両端部が検出されない場合、運転支援モードは、基本制御モード(オフモード)に切り替えられる。基本制御モードでは、運転者がステアリング操作,アクセル操作及びブレーキ操作を行う。
【0043】
なお、車線両端部とは、車両1が走行する車線の両端部(白線等の区画線,道路端,縁石,中央分離帯,ガードレール等)であり、隣接する車線や歩道等との境界である。ECU10は、この車線両端部を車載カメラ21より撮像された画像データから検出する。また、ナビゲーションシステム30の地図情報から車線両端部を検出してもよい。
【0044】
<先行車追従モード>
先行車追従モードは、基本的に、車両1と先行車との間に車速に応じた所定の車間距離又は車間時間を維持しつつ、先行車の走行軌跡を車両1に追従走行させるモードであり、車両制御装置100による自動的なステアリング制御,速度制御(エンジン制御,ブレーキ制御)を伴う。
【0045】
本実施形態では、ECU10は、車載カメラ21による画像データ及びミリ波レーダ22による測定データにより、先行車を検出する。具体的には、車載カメラ21による画像データにより前方を走行する他車両を走行車として検出する。更に、本実施形態では、ミリ波レーダ22による測定データにより、車両1と他車両との車間距離が所定距離(例えば、400~500m)以下である場合に、当該他車両が先行車として検出される。なお、代替的に、車載カメラ21及び/又はミリ波レーダ22が先行車を検出して、先行車の位置等の先行車情報をECU10へ出力してもよい。
【0046】
本実施形態では、先行車追従モードの選択時(すなわち、TJAスイッチ36bが操作又は押下されている状態)において、先行車の検出の可否に応じて、異なる制御が行われる。すなわち、先行車の検出中は、ECU10は、車両1が先行車を追従走行するようにステアリング制御及び速度制御を行う。しかしながら、先行車が検出されない間は、ECU10は、車両1が設定車速(一定速度)を目標速度として走行するように速度制御を行い、運転者がステアリング操作を行う。なお、設定車速は、例えば、車速設定スイッチ37bによって設定することができる。または、代替的に、先行車が検出されない間は、運転支援モードは、基本制御モード(オフモード)に切り替えられる。
【0047】
また、代替的な先行車追従モードにおいて、車線両端部及び先行車の検出の可否に応じて、異なる制御が行われるように構成してもよい。例えば、代替的な先行車追従モードでは、車線両端部及び先行車が検出されている場合、ECU10は、車両1が先行車の走行軌跡を追従するのではなく、先行車との所定の車間距離を維持しながら、車両1が走行車線の中央付近を走行するようにステアリング制御及び速度制御を行う。一方、先行車は検出されているが、車線両端部は検出されていない場合は、ECU10は、車両1が先行車の走行軌跡を追従走行するようにステアリング制御及び速度制御を行う。さらに、車線両端部は検出されているが、先行車は検出されていない場合、ECU10は、車両1が走行車線の中央付近を設定車速で走行するようにステアリング制御及び速度制御を行う。さらに、先行車も車線両端部も検出されていない場合、ECU10は、車両1は設定車速で走行するように速度制御を行い、運転者がステアリング操作を行う。
【0048】
<自動速度制御モード>
また、自動速度制御モードは、車速設定スイッチ37bを使用して運転者によって予め設定された所定の設定車速(一定速度)を目標速度として維持するように速度制御するモードであり、車両制御装置100による自動的な速度制御(エンジン制御,ブレーキ制御)を伴うが、ステアリング制御は行われない。この自動速度制御モードでは、車両1は、設定車速を維持するように走行するが、運転者によるアクセルペダルの踏み込みにより設定車速を超えて増速され得る。また、運転者がブレーキ操作を行った場合には、運転者の意思が優先され、設定車速から減速される。また、先行車に追いついた場合には、車速に応じた車間距離又は車間時間を維持しながら先行車に追従するように速度制御され、先行車が存在しなくなると、再び設定車速に復帰するように速度制御される。
【0049】
<速度制限モード>
また、速度制限モードは、車両1の車速が速度標識による制限速度又は運転者によって設定された設定車速を超えないように速度制御するモードであり、車両制御装置100による自動的な速度制御(エンジン制御)を伴うが、ステアリング制御は行われない。制限速度は、車載カメラ21により撮像された速度標識や路面上の速度表示の画像データをECU10が画像認識処理することにより特定してもよいし、外部からの無線通信により受信してもよい。速度制限モードでは、運転者が制限速度を超えるようにアクセルペダルを踏み込んだ場合であっても、車両1は制限速度までしか増速されない。
【0050】
<基本制御モード>
基本制御モードは、運転者操作部35により、何れの運転支援モードも選択されていないときのモード(オフモード)であり、車両制御装置100による自動的なステアリング制御及び速度制御は行われない。
【0051】
次に、本実施形態による車両制御装置100により計算される目標走行経路について説明する。本実施形態では、ECU10に備えられた目標走行経路算出部10cが、以下の第1走行経路R1~第3走行経路R3を時間的に繰返し計算するように構成されている(例えば、0.1秒毎)。本実施形態では、ECU10は、センサ等の情報に基づいて、現時点から所定期間(例えば、3秒)が経過するまでの間の走行経路を計算する。走行経路Rx(x=1,2,3)は、所定時間毎(例えば、0.3秒毎)に設定される走行経路上の車両1の目標位置(Px_k)及び目標速度(Vx_k)により特定される(k=0,1,2,・・・,n)。更に、各目標位置において、目標速度以外に複数の変数(加速度、ジャーク、ヨーレート、舵角、車両角度等)について目標値が特定される。
【0052】
なお、第1走行経路~第3走行経路は、車両1が走行する走行路上又は走行路周辺の物標(駐車車両、歩行者等の障害物)に関する周辺物標の検出情報を考慮せずに、走行路の形状,先行車の走行軌跡,車両1の走行挙動,及び設定車速に基づいて計算される。このように、本実施形態では、周辺物標の情報が計算に考慮されないので、これら複数の走行経路の全体的な計算負荷を低く抑えることができる。
【0053】
(第1走行経路)
第1走行経路R1は、道路形状に即して車両1に走行車線内の走行を維持させるように所定期間分だけ設定される。詳しくは、第1走行経路R1は、原則的に、車線の中央付近の走行を維持するように設定される。
【0054】
目標走行経路算出部10cは、車載カメラ21により撮像された車両1の周囲の画像データの画像認識処理を実行し、車線両端部を検出する。車線両端部は、上述のように、区画線(白線等)や路肩等である。目標走行経路算出部10cは、車線両端部の幅方向の中央部を車両1の幅方向中央部(例えば、重心位置)が通過するように、第1走行経路R1の複数の目標位置P1_kを設定する。また、第1走行経路R1の各目標位置P1_kにおける目標速度V1_kは、原則的に、運転者が運転者操作部35の車速設定スイッチ37bによって設定した速度、又は車両制御装置100によって予め設定された所定の設定車速(一定速度)に設定される。
【0055】
(第2走行経路)
第2走行経路R2は、先行車の走行軌跡を追従するように所定期間分だけ設定される。目標走行経路算出部10cは、車載カメラ21による画像データ,ミリ波レーダ22による測定データ,車速センサ23による車両1の車速に基づいて先行車情報(先行車の位置,速度,加速度等)を取得し、先行車情報に基づいて、将来の所定期間にわたる先行車の走行挙動を推定又は予測する。具体的には、目標走行経路算出部10cは、先行車の予測走行挙動として、先行車が現在の走行挙動を維持しながら現在から所定期間後まで走行すると仮定する。
【0056】
そして、目標走行経路算出部10cは、先行車の予測走行挙動に基づいて、車両1が先行車に対して、先行車の後方位置において、車両1の速度に応じた車間距離(実際は、先行車との車間時間)を維持するように、第2走行経路R2(目標位置P2_k、目標速度V2_k)を計算する。
【0057】
(第3走行経路)
第3走行経路R3は、車両1の現在の舵角δと速度Vに基づいて所定期間分だけ設定される。即ち、第3走行経路R3は、車両1の現在の舵角δと速度Vを維持して、車両1が定常円旋回するように設定される。よって、第3走行経路R3の目標速度V3_kは、現在の速度Vに設定され、目標位置P3_kは、円弧経路上を車両1が速度Vで走行した場合における所定時間毎の通過位置に設定される。
【0058】
次に、本実施形態による車両制御装置100における運転支援モードと走行経路との関係について説明する。本実施形態では、運転者が運転者操作部35を操作して1つの運転支援モードを選択すると、選択された運転支援モードに応じて第1~第3走行経路のうちの1つが目標走行経路として選択されるように構成されている。
【0059】
レーンキープ制御モードの選択時には、車線両端部が検出されていると、第1走行経路が選択される。この場合、車速設定スイッチ37bによって設定された設定車速が目標速度となる。
また、先行車追従モードの選択時には、先行車が検出された場合、第2走行経路が選択される。この場合、目標速度は、先行車の車速に応じて設定される。また、先行車追従モードの選択時において、先行車が検出されない場合、車線両端部の検出の可否に応じて、第1又は第3走行経路が選択され、設定車速が目標速度となる。
【0060】
また、自動速度制御モードの選択時には、第3走行経路が選択される。自動速度制御モードは、上述のように速度制御を自動的に実行するモードであり、車速設定スイッチ37bによって設定された設定車速が目標速度となる。また、運転者によるステアリングホイールの操作に基づいてステアリング制御が実行される。
【0061】
また、速度制限モードの選択時にも第3走行経路が選択される。速度制限モードも、上述のように速度制御を自動的に実行するモードであり、目標速度は、制限速度以下の範囲で、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量に応じて設定される。また、運転者によるステアリングホイールの操作に基づいてステアリング制御が実行される。
【0062】
また、基本制御モード(オフモード)の選択時には、第3走行経路が選択される。基本制御モードは、基本的に、速度制限モードにおいて制限速度が設定されない状態と同様である。
【0063】
次に、図3図5を参照して、本実施形態によるECU10の制御目標算出部10fにおいて実行される制御目標算出処理について説明する。図3は制御目標算出処理の説明図、図4は補正走行経路の説明図、図5は車両モデルの説明図である。本実施形態において、制御目標算出処理には、走行経路補正処理が含まれる。
【0064】
図3及び図4に示すように、制御目標算出部10fは、目標走行経路Rを外部環境(障害物3等)や運転支援モードの変更に応じて補正して、補正走行経路Rcを算出する。そして、制御目標算出部10fは、車両1がこの補正走行経路Rcを走行するための所定の制御量の制御目標値(加速度目標、舵角目標)を計算し、制御目標に基づいて車両1の制御システムへ要求信号を出力する。なお、図4には、所定期間(例えば、3秒)にわたる例示的な目標走行経路R,補正走行経路Rcが示されている。各経路R,Rcには、それぞれ所定時間毎(例えば、0.3秒毎)の目標位置P,補正目標位置Pcが示されている。
【0065】
具体的には、制御目標算出部10fは、センサ/スイッチ群から各種情報を受け取り、目標走行経路算出部10cから目標走行経路Rを受け取り、周辺物標検出部10bから周辺物標に関する情報を受け取る。制御目標算出部10fは、これらの情報に基づいて、制約条件(周辺物標との衝突回避等)を満足しつつ、目標走行経路Rからの逸脱量が小さくなるように最適化された補正走行経路Rcをモデル予測制御を用いて計算する。すなわち、本実施形態では、制御目標算出部10fは、制約条件下で(又は拘束条件下で)所定の評価関数Jの評価値を最小にするという最適化問題を解くように構成されたソルバーを含む。このため、制御目標算出部10fは、最適化計算部11aとモデル予測部11bを備えている。
【0066】
本実施形態では、概略的には、最適化計算部11aは、車両1の現在の挙動(速度、位置、加速度、舵角等)に基づいて、制約条件(障害物等)を回避するような候補補正走行経路を設定し、候補補正走行経路上の各候補目標位置での物理量(加速度、舵角)を入力値としてモデル予測部11bへ与える。モデル予測部11bは、入力値を車両モデルに適用することにより、候補補正走行経路上での車両1の挙動を計算し、候補補正走行経路上の各候補目標位置を特定すると共に、車両挙動に基づく種々の物理量を最適化計算部11aへフィードバックする。各候補目標位置は、隣り合う候補目標位置間での移動距離を積算していくことにより算出される。
【0067】
車両モデルは、車両1の物理的な運動を規定するものであり、以下の運動方程式で記述される。この車両モデルは、本例では図5に示す2輪モデルである。車両モデルにより車両1の物理的な運動が規定される。
【0068】

【0069】
図5及び式(1)、(2)中、mは車両1の質量、Iは車両1のヨーイング慣性モーメント、lはホイールベース、lfは車両重心点と前車軸間の距離、lrは車両重心点と後車軸間の距離、Kfは前輪1輪あたりのタイヤコーナリングパワー、Krは後輪1輪あたりのタイヤコーナリングパワー、Vは車両1の車速、δは前輪の実舵角、βは車両重心点の横すべり角、rは車両1のヨー角速度、θは車両1のヨー角、yは絶対空間に対する車両1の横変位、tは時間である。
【0070】
最適化計算部11aは、候補補正走行経路上での車両1の挙動を表すフィードバックに基づいて評価関数Jを用いて、候補補正走行経路を評価する。本実施形態では、評価関数Jは、補正走行経路の評価に関する評価項JEと、制約条件に関する制約項JCとを含む。評価項JEは、複数の評価ファクタを有する。また、制約項JCは複数の制約ファクタを有する。制御目標算出部10fは、実行中の運転支援モード及びセンサ情報等に応じて異なるように評価関数Jを設定する。
【0071】
複数の評価ファクタは、目標位置Pでの車両1の挙動を表す複数の物理量(例えば、速度(縦方向及び横方向)、加速度(縦方向及び横方向)、ジャーク(縦方向及び横方向)、ヨーレート、車線中心に対する横位置、車両角度、舵角、舵角速度、その他ソフト制約)にそれぞれ対応して設定されている。評価ファクタには、目標走行経路と補正走行経路の物理量の差が小さいほど評価が高くなる第1評価ファクタと、物理量自体の大きさが小さいほど評価が高くなる第2評価ファクタが含まれる。本実施形態では、評価値が小さな値となるほど、評価が高くなる。
【0072】
第1評価ファクタは、目標走行経路と補正走行経路の差を最小化するための評価ファクタであり、第1評価ファクタの物理量は、例えば、速度(縦方向及び横方向)、横位置等である。一方、第2評価ファクタは、所定の物理量を最小化するための評価ファクタであり、第2評価ファクタの物理量は、例えば、加速度(縦方向及び横方向)、ジャーク(縦方向及び横方向)、舵角、舵角速度等である。
【0073】
また、複数の制約ファクタは、複数の物理量にそれぞれ対応して設定されている。制約ファクタは、対応する物理量に対して規定された制限範囲(下限値~上限値)をその物理量が超えた量に応じて、ペナルティ値として見積もられる。よって、超過量が大きいほど、ペナルティ値は大きくなる(すなわち、結果的に、評価値は大きくなる)。
【0074】
例えば、速度(縦方向及び横方向)、加速度(縦方向及び横方向)、ジャーク(縦方向及び横方向)、舵角、舵角速度、ヨーレートを含む複数の物理量には、それぞれ原則的に固定された制限範囲が規定されている。しかしながら、固定の制限範囲よりも狭い範囲に制限範囲が変更される場合がある。例えば、下記で説明する速度分布領域(図6参照)が適用される場合には、車両1の位置に応じて物標3に対する速度の制限範囲が変更される。
【0075】
評価関数J(=JE+JC)は、以下の式で記述される。


【0076】
評価項JEについて、式中、Wk(Xk-Xrefk)2は評価ファクタ、Xkは候補補正走行経路の物理量、Xrefkは目標走行経路の物理量又は0(ゼロ値)、Wkは評価ファクタの重み係数(例えば、0≦Wk≦1)である(但し、k=1~n)。したがって、本実施形態の評価項JEは、n個の評価ファクタの物理量について、候補補正走行経路の物理量から目標走行経路の物理量(目標走行経路との差を最小化する評価ファクタの場合)又はゼロ値(物理量自体を最小化する評価ファクタの場合)を差し引いた差分の2乗の和を重み付けして、所定期間(例えば、N=3秒)の走行経路長にわたって合計した値に相当する。なお、重み係数Wkは、各運転支援モードに応じて異なって設定される。
【0077】
一方、制約項JCは、複数の物理量の制限範囲からの超過量に応じた評価値の合計値を、所定期間(例えば、N=3秒)の走行経路長にわたって合計した値に相当する。各評価値は、例えば、超過量を2乗した値に所定の重み係数Wを乗じた値とすることができる。なお、所定の物理量の制限範囲は、周辺物標等に応じて変動し得る。
【0078】
本実施形態では、評価関数Jは、制約項JCが組み込まれたラグランジュ関数である。よって、最適化計算部11aは、無制約の最適化問題を解くように構成されており、良好な収束性で最適解を導出可能である。仮に評価関数Jが制約項JCを含まない場合、モデル予測部11bからのフィードバックが制約条件を満足しないと、そのフィードバックは最適化問題の収束性に何ら寄与しない。この場合、最適解が所定計算時間内に得られないおそれがある。
【0079】
さらに、本実施形態では、フィードバックが制約条件を完全には満足しない場合であっても、最適化計算部11aは、その候補補正走行経路を、制約条件を考慮して評価関数Jにより評価することができる。これにより、本実施形態では、収束性を向上させることができる。例えば、センサ情報等のノイズ誤差や、道路環境の評価に対する誤差や、モデル関数に起因する誤差等により、制約条件をわずかに超えるような候補補正走行経路を確実に評価することができる。ただし、本実施形態では、制約項JCの重み係数を大きな値に設定することにより、制約項JCを制約条件として確実に機能させることができる。
【0080】
本実施形態では、最適化計算部11aは、モデル予測部11bからのフィードバックに基づいて、評価関数Jを用いて候補補正走行経路についての評価値を算出する。最適化計算部11aは、評価値に応じて、新たな候補目標走行経路を設定し、この新たな候補補正走行経路に基づいて、修正した入力値をモデル予測部11bへ与える。本実施形態では、このような最適化計算部11aとモデル予測部11bとの間でのフィードバックが複数回繰り返されることにより、評価関数Jの評価値が最小化(又は、最適化)された補正走行経路Rcが算出される。なお、フィードバックの最大繰り返し回数は、所定回数に制限されてもよい。
【0081】
次に、図6図7を参照して、本実施形態による障害物回避処理について説明する。図6は目標走行経路の補正による障害物回避の説明図、図7は障害物を回避する際の障害物と車両との間のすれ違い速度の許容上限値とクリアランスとの関係を示す説明図である。図6では、車両1は走行路(車線)7上を走行しており、走行中又は停車中の車両3とすれ違って、車両3を追い抜こうとしている。
【0082】
一般に、道路上又は道路付近の障害物(例えば、先行車、駐車車両、歩行者等)とすれ違うとき(又は追い抜くとき)、車両1の運転者は、進行方向に対して直交する横方向において、車両1と障害物との間に所定のクリアランス又は間隔(横方向距離)を保ち、且つ、車両1の運転者が安全と感じる速度に減速する。具体的には、先行車が急に進路変更したり、障害物の死角から歩行者が出てきたり、駐車車両のドアが開いたりするといった危険を回避するため、クリアランスが小さいほど、障害物に対する相対速度は小さくされる。
【0083】
また、一般に、後方から先行車に近づいているとき、車両1の運転者は、進行方向に沿った車間距離(縦方向距離)に応じて速度(相対速度)を調整する。具体的には、車間距離が大きいときは、接近速度(相対速度)が大きく維持されるが、車間距離が小さくなると、接近速度は低速にされる。そして、所定の車間距離で両車両の間の相対速度はゼロとなる。これは、先行車が駐車車両であっても同様である。
【0084】
このように、運転者は、障害物と車両1との間の距離(横方向距離及び縦方向距離を含む)と相対速度との関係を考慮しながら、危険がないように車両1を運転している。
【0085】
そこで、本実施形態では、図6に示すように、車両1は、車両1から検知される障害物(例えば、駐車車両3)に対して、障害物の周囲に(横方向領域、後方領域、及び前方領域にわたって)又は少なくとも障害物と車両1との間に、車両1の進行方向における相対速度についての許容上限値を規定する2次元分布(速度分布領域40)を設定するように構成されている。速度分布領域40では、障害物の周囲の各点において、相対速度の許容上限値Vlimが設定されている。
【0086】
図6から分かるように、速度分布領域40は、原則的に、障害物からの横方向距離及び縦方向距離が小さくなるほど(障害物に近づくほど)、相対速度の許容上限値が小さくなるように設定される。また、図6では、理解の容易のため、同じ許容上限値を有する点を連結した等相対速度線が示されている。等相対速度線a,b,c,dは、それぞれ許容上限値Vlimが0km/h,20km/h,40km/h,60km/hに相当する。本例では、各等相対速度領域は、略矩形に設定されている。
【0087】
本実施形態では、すべての運転支援モードにおいて、障害物に対する車両1の相対速度が速度分布領域40内の許容上限値Vlimを超えることがないように目標走行経路の補正が実施される。すなわち、速度分布領域40が、車両1の速度に対する制約条件となる。具体的には、制御目標算出部10fは、周辺物標検出部10bによって回避すべき障害物(周辺物標)が検出されると、障害物に対して速度分布領域40を設定する。そして、制御目標算出部10fは、速度分布領域40により規定される許容上限値Vlimを超えることがないように、目標走行経路算出部10cによって算出された目標走行経路Rを補正して、補正走行経路Rcを算出する。図6には、例示的な補正走行経路Rc1,Rc2,Rc3が示されている。
【0088】
なお、速度分布領域40は、必ずしも障害物の全周にわたって設定されなくてもよく、少なくとも障害物の後方、及び、車両1が存在する障害物の横方向の一方側(図6では、車両3の右側領域)に設定されればよい。
【0089】
図7に示すように、車両1がある絶対速度で走行するときにおいて、障害物の横方向に設定される許容上限値Vlimは、クリアランスXがD0(安全距離)までは0(ゼロ)km/hであり、D0以上で2次関数的に増加する(Vlim=k(X-D02。ただし、X≧D0)。即ち、安全確保のため、クリアランスXがD0以下では車両1は相対速度がゼロとなる。一方、クリアランスXがD0以上では、クリアランスが大きくなるほど、車両1は大きな相対速度ですれ違うことが許容される。
【0090】
図7の例では、障害物の横方向における許容上限値は、Vlim=f(X)=k(X-D02で定義されている。なお、kは、Xに対するVlimの変化度合いに関連するゲイン係数であり、障害物の種類等に依存して設定される。また、D0も障害物の種類等に依存して設定される。
【0091】
なお、本実施形態では、VlimがXの2次関数となるように定義されているが、これに限らず、他の関数(例えば、一次関数等)で定義されてもよい。また、図7を参照して、障害物の横方向の許容上限値Vlimについて説明したが、障害物の縦方向を含むすべての径方向について同様に設定することができる。その際、係数k、安全距離D0は、障害物からの方向に応じて設定することができる。
【0092】
なお、速度分布領域40は、種々のパラメータに基づいて設定することが可能である。パラメータとして、例えば、車両1と障害物の相対速度、障害物の種類、車両1の進行方向、障害物の移動方向及び移動速度、障害物の長さ、車両1の絶対速度等を考慮することができる。即ち、これらのパラメータに基づいて、係数k及び安全距離D0を選択することができる。
【0093】
また、本実施形態において、障害物は、車両,歩行者,自転車,崖,溝,穴,落下物等を含む。更に、車両は、自動車,トラック,自動二輪で区別可能である。歩行者は、大人,子供,集団で区別可能である。
【0094】
図6に示すように、車両1が走行路7上を走行しているとき、車両1のECU10に内蔵された周辺物標検出部10bは、車載カメラ21から画像データに基づいて障害物(車両3)を検出する。このとき、障害物の種類(この場合は、車両、歩行者)が特定される。
【0095】
また、周辺物標検出部10bは、ミリ波レーダ22の測定データ及び車速センサ23の車速データに基づいて、車両1に対する障害物(車両3)の位置及び相対速度並びに絶対速度を算出する。なお、障害物の位置は、車両1の進行方向に沿ったx方向位置(縦方向距離)と、進行方向と直交する横方向に沿ったy方向位置(横方向距離)が含まれる。
【0096】
制御目標算出部10fは、検知したすべての障害物(図6の場合、車両3)について、それぞれ速度分布領域40を設定する。そして、制御目標算出部10fは、車両1の速度が速度分布領域40の許容上限値Vlimを超えないように目標走行経路Rの補正を行う。
【0097】
即ち、目標走行経路Rを車両1が走行すると、ある目標位置において目標速度が速度分布領域40によって規定された許容上限値を超えてしまう場合には、目標位置を変更することなく目標速度を低下させるか(図6の経路Rc1)、目標速度を変更することなく目標速度が許容上限値を超えないように迂回経路上に目標位置を変更するか(図6の経路Rc3)、目標位置及び目標速度の両方が変更される(図6の経路Rc2)。
【0098】
なお、一般的に、評価関数Jにおいて、舵角速度を最小化するための評価ファクタの重み係数が大きい場合に補正走行経路Rc1が算出され、前後方向の加速度を最小化するための評価ファクタの重み係数が大きい場合に補正走行経路Rc3が算出される。
【0099】
例えば、図6は、計算されていた目標走行経路Rが、走行路7の幅方向の中央位置(目標位置)を60km/h(目標速度)で走行する経路であった場合を示している。この場合、前方に駐車車両3が障害物として存在するが、上述のように、目標走行経路Rの計算段階においては、計算負荷の低減のため、この障害物は考慮されていない。
【0100】
目標走行経路Rを走行すると、車両1は、速度分布領域40の等相対速度線d,c,c,dを順に横切ることになる。即ち、60km/hで走行する車両1が等相対速度線d(許容上限値Vlim=60km/h)の内側の領域に進入することになる。したがって、制御目標算出部10fは、目標走行経路Rの各目標位置における目標速度を許容上限値Vlim以下に制限するように目標走行経路Rを補正して、補正走行経路Rc1を生成する。即ち、補正走行経路Rc1では、各目標位置において目標速度が許容上限値Vlim以下となるように、車両3に接近するに連れて目標速度が徐々に40km/h未満に低下し、その後、車両3から遠ざかるに連れて目標速度が元の60km/hまで徐々に増加される。
【0101】
また、補正走行経路Rc3は、目標走行経路Rの目標速度(60km/h)を変更せず、このため等相対速度線d(相対速度60km/hに相当)の外側を走行するように設定された経路である。制御目標算出部10fは、目標走行経路Rの目標速度を維持するため、目標位置が等相対速度線d上又はその外側に位置するように目標位置を変更するように目標走行経路Rを補正して、補正走行経路Rc3を生成する。したがって、補正走行経路Rc3の目標速度は、目標走行経路Rの目標速度であった60km/hに維持される。
【0102】
また、補正走行経路Rc2は、目標走行経路Rの目標位置及び目標速度の両方が変更された経路である。補正走行経路Rc2では、目標速度は、60km/hには維持されず、車両3に接近するに連れて徐々に低下し、その後、車両3から遠ざかるに連れて元の60km/hまで徐々に増加される。
【0103】
補正走行経路Rc1のように、目標走行経路Rの目標位置を変更せず、目標速度のみを変更する補正は、速度制御を伴うが、ステアリング制御を伴わない運転支援モードに適用することができる(例えば、自動速度制御モード、速度制限モード、基本制御モード)。
また、補正走行経路Rc3のように、目標走行経路Rの目標速度を変更せず、目標位置のみを変更する補正は、ステアリング制御を伴う運転支援モードに適用することができる(例えば、先行車追従モード)。
また、補正走行経路Rc2のように、目標走行経路Rの目標位置及び目標速度を共に変更する補正は、速度制御及びステアリング制御を伴う運転支援モードに適用することができる(例えば、先行車追従モード)。
【0104】
次に、図8図10を参照して、本実施形態による制約条件の再設定処理について説明する。図8は目標走行経路と第2目標走行経路の説明図、図9は制約条件の再設定処理の説明図、図10は制約条件の再設定処理後の目標走行経路と補正走行経路の説明図である。
【0105】
図8において、車両1は、カーブ車線7の出口付近を所定の運転支援モードで走行している。この運転支援モードにおいて、目標走行経路Rとして第3走行経路R3が選択されている。この運転支援モードでは、自動操舵が行われないため、運転者は操舵を手動で実行する。なお、所定の運転支援モードは、速度制限モード,自動速度制御モード,オフモードであり得る。また、カーブ車線7の側方に障害物3(例えば、駐車車両)が検出されており、障害物3の周囲には制約条件となり得る速度分布領域40が設定されている。
【0106】
図8において、車両1はカーブ車線7の出口付近に達しており、運転者はコントロールホイールをセンター位置まで戻している(舵角はゼロ)。車両1は、舵角δ(δ=0)と速度V(例えば、設定車速)で走行しているので、第3走行経路R3は、図8に示すように、速度Vで定常円旋回(図8の例では、特に等速直線運動)するように設定される。こよって、第3走行経路R3は、カーブ車線7を逸脱するように設定される。しかしながら、実際には、車両1は、ヨーレートφ(φ≠0)にしたがってカーブ車線7に沿うように運動を継続するので、車両1はカーブ車線7を逸脱しない。よって、この場合において、第3走行経路R3の位置推定精度の低さ自体は、自動操舵が行われない(すなわち、操舵目標が用いられない)運転支援モードでは、車両1の走行に悪影響を与えない。
【0107】
しかしながら、カーブ車線7を逸脱しないことが補正走行経路Rcを計算する上での制約条件となり得る。そして、この制約条件(カーブ車線7)下において舵角を入力値とする車両モデルを用いて計算される補正走行経路Rcでは、補正走行経路Rc上の各補正目標位置における舵角の制御目標値はゼロではなく、むしろ左旋回操作を要求する制御目標値となる。
【0108】
このように、補正走行経路Rcにおいて、計算上は左旋回操作が要求されることになる。しかしながら、実際には車両1はヨーレートφにしたがって左旋回運動するので、運転者はコントロールホイールをセンター位置から左旋回方向へ操作する必要はない。一方、補正走行経路Rcでは左旋回操作が要求されることによって、各補正目標位置における加速度目標(又は目標速度)が影響を受け得る。すなわち、補正走行経路Rcの各補正目標位置における目標速度が減速された低速度に設定され得る。このため、自動速度制御において、運転者の意図に反して車両1が減速され得る。よって、図8の例において、カーブ車線7を制約条件として適用すると、補正走行経路Rcに基づく車両1の走行が不安定となり得る。
【0109】
そこで、本実施形態では、上述のようなカーブ車線7からの逸脱を制約条件としないように、制約条件の再設定処理が実行される。まず、ECU10(制御目標算出部10f)は、車両1の現在の車両の挙動又は車両運動(速度V,ヨーレートφ)に基づいて所定期間分の第2目標走行経路R3φを計算する。具体的には、第2目標走行経路R3φは、車両1が現在の速度V及びヨーレートφを維持しながら、旋回半径R(=V/φ)で規定される円弧経路を定常円旋回するように計算される。よって、第2目標走行経路R3φの各目標速度は現在の速度Vに設定され、各目標位置は円弧経路上を車両1が速度Vで走行した場合における所定時間毎の通過位置に設定される。
【0110】
よって、図8に示すように、第2目標走行経路R3φ(第2予測走行経路)は、各目標位置Pφにおいて、目標走行経路R(R3;第1予測走行経路)に対する位置的なずれDを有する。制約条件の再設定処理では、制約条件となる物標(例えば、カーブ車線7の両端部や障害物3)がずれDだけ仮想的に移動される。すなわち、この処理では、第2予測走行経路(R3φ)に対する物標の相対的な位置関係を維持しながら第2予測走行経路(R3φ)を第1予測走行経路(R3)に一致させるような仮想的な移動によって、物標が再配置される。よって、移動後の物標と目標走行経路R(R3)との相対的な位置関係は、移動前の物標と第2目標走行経路R3φとの間の相対的な位置関係と一致する。
【0111】
このような物標の再配置の一例を図9により説明する。車両1の中心位置O(例えば、車両1の重心)を原点として、車両1の現在の前後方向をx軸とするxy直交座標を仮定する。現在位置における車両1のヨー角はゼロである。目標走行経路R(R3)は、舵角δの方向に延びる。一方、第2目標走行経路R3φ上の目標位置Pφは、原点(中心位置O)からの距離rφに応じて、ヨーレートφにしたがって目標走行経路R(R3)から離れていく。目標位置Pφにおいて、車両1はx軸に対してヨー角θを有する。すなわち、原点におけるヨー角と目標位置Pφにおけるヨー角の変化量は、θである。よって、原点(中心位置O)から距離rφの位置にある物標は、ヨー角の変化量θから舵角δを差し引いた角度差β(θ-δ)だけ、第2目標走行経路R3φから目標走行経路R(R3)への方向へ回転移動される。
【0112】
図10は、制約条件となる物標(カーブ車線7,障害物3)を再配置した状態を示している。車両1と目標走行経路R(第3走行経路R3)は、xy座標上において、移動していないが、カーブ車線7,障害物3(及び速度分布領域40)は、再配置されている。また、第2目標走行経路R3φは、再配置されると、目標走行経路R(第3走行経路R3)とほぼ一致する。
【0113】
このように制約条件を再配置することにより、図10において、カーブ車線7は、もはや制約条件とならないことは明らかである。一方、障害物3及び速度分布領域40は、制約条件となるため、ECU10(制御目標算出部10f)は、再配置後の障害物3及び速度分布領域40に基づいて、補正走行経路Rcを算出する(図10参照)。このように、本実施形態では、制約条件となる物標を再配置することにより、不要な制約条件(図8では、カーブ車線7)を排除することができる。また、本実施形態では、第2目標走行経路R3φが、現在の車両運動(特に、ヨーレートφ)を用いて算出されるが(ヨーレートベース経路)、目標走行経路R(第3走行経路R3)及び補正走行経路Rcが、いずれも車両1の制御目標となる物理量(特に、舵角)を用いて算出される(舵角ベース経路)。このため、計算される補正走行経路Rcにおける車両1の挙動を安定させることができる。
【0114】
図8は、第3走行経路R3と実際の車両運動とがヨーレートに起因して相違する例を示しているが、他の例として、車両1がバンク路や低μ路を走行する場合や、運転者が車両1のコントロールホイールをセンター位置を中心に小刻みに左右方向へ操作する場合がある。
【0115】
なお、制約条件の再設定処理において、図9に示したように物標を角度差βだけ回転移動することに代えて、第2目標走行経路R3φ上の目標位置に対する物標の横方向距離(車線の延びる方向に対する横方向)が維持されるように、目標走行経路R(R3)上の対応する目標位置に対して同じ横方向距離だけ離間させるように物標を再配置してもよい。
【0116】
次に、図11を参照して、本実施形態の車両制御装置100における運転支援制御の処理フローを説明する。図11は運転支援制御の処理フローである。
ECU10は、図11の処理フローを所定時間(例えば、0.1秒)ごとに繰り返して実行している。まず、ECU10(入力処理部10a)は、情報取得処理を実行する(S11)。情報取得処理において、ECU10は、測位システム29及びナビゲーションシステム30から、現在車両位置情報及び地図情報を取得し(S11a)、車載カメラ21,ミリ波レーダ22,車速センサ23,加速度センサ24,ヨーレートセンサ25,運転者操作部35等からセンサ情報を取得し(S11b)、舵角センサ26,アクセルセンサ27,ブレーキセンサ28等からスイッチ情報を取得する(S11c)。
【0117】
次に、ECU10(入力処理部10a,周辺物標検出部10b)は、情報取得処理(S11)において取得した各種の情報を用いて所定の情報検出処理を実行する(S12)。情報検出処理において、ECU10は、現在車両位置情報及び地図情報並びにセンサ情報から、車両1の周囲及び前方エリアにおける走行路形状に関する走行路情報(直線区間及びカーブ区間の有無,各区間長さ,カーブ区間の曲率半径,車線幅,車線両端部位置,車線数,交差点の有無,カーブ曲率で規定される制限速度等)、走行規制情報(制限速度、赤信号等)、先行車情報(先行車の位置,速度,加速度等),周辺物標情報を検出する(S12a)。
【0118】
また、ECU10は、スイッチ情報から、運転者による車両操作に関する車両操作情報(舵角,アクセルペダル踏み込み量,ブレーキペダル踏み込み量等)を検出し(S12b)、更に、スイッチ情報及びセンサ情報から、車両1の挙動に関する走行挙動情報(車速、縦加速度、横加速度、ヨーレート等)を検出する(S12c)。
【0119】
次に、ECU10(目標走行経路算出部10c)は、計算により得られた情報に基づいて、目標走行経路算出処理を実行する(S13)。目標走行経路算出処理では、上述のように、第1走行経路R1,第2走行経路R2,及び第3走行経路R3が計算される。
【0120】
次に、ECU10(制御目標算出部10f)は、自動速度制御モード(ACC),速度制限モード(ISA),及びオフモードのうちのいずれか選択されているか否かを判定する(S13a)。これらのうちいずれかが選択されている場合(S13a;Yes)、ECU10は、目標走行経路Rとして第3走行経路R3を選択して、上述のように、制約条件の再設定処理(S13b)を実行する。一方、上記モードのいずれもが選択されていない場合(S13a;No)、選択されている運転支援モードに応じて、目標走行経路Rを選択する。
【0121】
次に、ECU10(制御目標算出部10f)は、目標走行経路R、周辺物標情報、各種のセンサ情報等に基づいて、制御目標算出処理を実行する(S14)。制御目標算出処理では、上述のように、補正走行経路Rcが算出され、この補正走行経路Rc上の各補正目標位置Pcにおける所定の制御量の制御目標(加速度目標、舵角目標)が生成される。
【0122】
最後に、ECU10(制御目標算出部10f)は、生成した補正走行経路Rcにおける制御目標に基づいて、システム制御処理を実行して(S15)、処理を終了する。システム制御処理では、補正走行経路Rcにおける制御目標に応じて、要求信号(エンジン要求信号,ブレーキ要求信号,ステアリング要求信号)が生成され、生成された要求信号が車両1の制御システム31~33へ出力される。
【0123】
次に、本発明の実施形態による車両制御装置100の作用について説明する。
本発明の実施形態の車両1の運転を支援するための車両制御装置100は、所定期間にわたる車両1の目標走行経路Rを算出し、少なくとも車両1の舵角を入力値として車両1の挙動を推定する車両モデルを用いて、所定の制約条件下で目標走行経路Rに基づいて補正走行経路Rcを算出すると共に、車両1が補正走行経路Rcを走行するための車両1の制御目標値(加速度、舵角)を算出するように構成されており、車両制御装置100は、補正走行経路Rcを算出する際に、制約条件下において、補正走行経路Rcを評価するための評価関数Jを用いて、少なくとも目標走行経路R上の車両1の位置及び速度に対する補正走行経路Rc上の車両1の位置及び速度の差を最小化するように補正走行経路Rcを算出し、車両制御装置100は、車両1の運転支援において、自動操舵制御を伴わずに自動速度制御を行う場合、車両1の現在の舵角を用いて所定期間にわたる第1予測走行経路(第3走行経路R3)を算出すると共に、現在の車両運動に基づいて所定期間にわたる車両1の挙動を表す第2予測走行経路(第2目標走行経路R3φ)を算出し、第1予測走行経路(R3)を目標走行経路Rに設定し、補正走行経路Rcの算出において、制約条件となる物標の再設定処理を実行し、制約条件の再設定処理において、第2予測走行経路(R3φ)に対する物標(カーブ車線7,障害物3)の相対的な位置関係を維持しながら第2予測走行経路(R3φ)を第1予測走行経路(R3)に一致させるような仮想的な移動によって、物標を再配置する。
【0124】
このように構成された本実施形態では、目標走行経路Rとして車両1の現在の舵角を用いて算出された第1予測走行経路(R3)が採用され、且つ、補正走行経路Rcも第1予測走行経路(R3)と同様に車両1の舵角を用いて算出される。そして、本実施形態では、現在の車両運動に基づいて算出される第2予測走行経路(R3φ)を第1予測走行経路(R3)に一致させる仮想的な移動によって、物標(制約条件)を移動させる制約条件の再設定処理が実行される。したがって、本実施形態では、本来的に不必要な一部の制約条件(カーブ車線7)を排除することができる。そして、自動速度制御を行う場合において、制約条件を満たしながら、運転者のステアリングホイールの操作に適合するように補正走行経路Rcを算出することが可能である。これにより、本実施形態では、車両1の挙動を不安定にするような速度制御が実行されることを回避することができる。
【0125】
また、本実施形態では、第2予測走行経路(R3φ)は、車両1の現在のヨーレートφを用いて計算される。このように構成された本実施形態では、舵角に基づいて算出される目標走行経路R(第3走行経路R3)よりも車両1の運動状態を正確に予測することができる第2予測走行経路(R3φ)を基準とすることにより、制約条件となる物標の仮想的な再配置を精度よく行うことができる。
【0126】
また、本実施形態では、車両制御装置100は、車両1の現在のヨー角(図9ではゼロ)に対する第2予測走行経路(R3φ)上の車両1のヨー角θの変化量と、車両1の現在の舵角δとの間の角度差βだけ物標を車両1の現在位置に対して回転移動させることにより、制約条件となる物標を再配置する。このように構成された本実施形態では、第1予測走行経路(R3)に対する第2予測走行経路(R3φ)の角度差だけ物標を回転移動させるという簡単な計算処理によって、物標を再配置することができる。
【0127】
また、本実施形態では、制約条件となる物標は、車両1の周囲に存在する障害物3及び車両が走行している車線7の両端部を含む。
【0128】
また、本実施形態では、車両制御装置100は、車両1の外部にある障害物3を検知し、障害物3と車両1との間に、障害物3に対する車両1の相対速度の許容上限値Vlimの分布を規定する速度分布領域40を設定し、この速度分布領域40内における許容上限値Vlimは障害物3から距離が離れるほど大きくなるように設定され、制約条件は、速度分布領域40内において、障害物3に対する車両1の相対速度が許容上限値Vlimを超えないことを含む。このように構成された本実施形態では、制約条件の再設定処理によって障害物3が再配置されることにより、障害物3により生成される速度分布領域40を目標走行経路R(R3)に対して適切に設定することができる。
【符号の説明】
【0129】
1 車両
3 障害物
7 車線
10 ECU
40 速度分布領域
100 車両制御装置
D ずれ
O 中心位置
Pφ 目標位置
R 目標走行経路
R3 第1目標走行経路
R3φ 第2目標走行経路
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11