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特許7454134放電ランプ及び放電ランプに用いられる陽極
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】放電ランプ及び放電ランプに用いられる陽極
(51)【国際特許分類】
   H01J 61/073 20060101AFI20240314BHJP
【FI】
H01J61/073 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020164426
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022056594
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】團 雅史
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-259639(JP,A)
【文献】特開2017-111995(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0211130(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 61/00-61/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光管の内部に、陽極と陰極が一軸上で対向配置される放電ランプであって、
前記陽極は、
前記一軸の回りに形成された外周面に接するとともに、前記陽極の先端から離れた位置に配置され、かつ、セラミックスを含む、第一被膜と、
前記第一被膜と前記先端の間の前記外周面に接するとともに、前記第一被膜の前記先端側の端部を覆うように配置され、かつ、前記セラミックスよりも高融点の金属を含む、第二被膜と、を備え、
前記第一被膜は、前記第二被膜に覆われていない露出領域を有することを特徴とする、放電ランプ。
【請求項2】
前記露出領域は、前記陽極の先端から3mm以上離れていることを特徴とする、請求項1に記載の放電ランプ。
【請求項3】
前記陽極は、外径が前記一軸の延びる方向に一定である陽極胴部を備え、
前記第一被膜の前記先端側の端部は、前記陽極胴部の外周面に接することを特徴とする、請求項1又は2に記載の放電ランプ。
【請求項4】
前記陽極は、外径が前記先端に向かうにつれて小さくなる陽極前部を備え、
前記第二被膜は、前記陽極前部の外周面に接することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の放電ランプ。
【請求項5】
前記第二被膜が前記第一被膜を覆う領域の、前記一軸の延びる方向における長さは、0.5mm以上、かつ、2.0mm未満であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の放電ランプ。
【請求項6】
前記第二被膜は、2600℃以上の融点を有する材料を主成分とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の放電ランプ。
【請求項7】
前記第二被膜の熱膨張係数と前記陽極の熱膨張係数の差は、前記第一被膜の熱膨張係数と前記陽極の熱膨張係数の差よりも、小さいことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の放電ランプ。
【請求項8】
前記陽極の主成分及び前記第二被膜の主成分は、それぞれ、タングステンであることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の放電ランプ。
【請求項9】
前記セラミックスは、金属酸化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属ケイ化物及び金属窒化物のうち少なくともひとつを含むことを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の放電ランプ。
【請求項10】
放電ランプに用いられる陽極であって、
前記陽極は、
一軸の回りに形成された外周面に接するとともに、前記陽極の先端から離れた位置に配置され、かつ、セラミックスを含む、第一被膜と、
前記第一被膜と前記先端の間の前記外周面に接するとともに、前記第一被膜の前記先端側の端部を覆うように配置され、かつ、前記セラミックスよりも高融点の金属を含む、第二被膜と、を備え、
前記第一被膜は、前記第二被膜に覆われていない露出領域を有することを特徴とする、陽極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電ランプ及び放電ランプに用いられる陽極に関する。
【背景技術】
【0002】
特定のピーク波長を含む紫外線を放射するショートアーク型水銀ランプなど、発光管の内部に陽極と陰極を対向配置した構造の放電ランプが広く使用されている。そして、放電ランプの発光管内には、水銀、キセノンガス等の発光物質が封入されている。
【0003】
放電ランプにおいては、点灯時に陽極にかかる熱的負荷が高いことから、陽極の過熱等に起因する陽極材料の蒸発が生じ、この蒸発物が発光管の内壁に付着して、発光管の光透過率が低下する、いわゆる黒化が生じることが知られている。黒化が生じると、発光管の外に放射される紫外線の強度が低下し、放電ランプの使用寿命を悪化させる。
【0004】
このような問題を解決するため、陽極表面に放熱層を形成して電極の温度上昇を抑制する技術が知られており、下記特許文献1には陽極の外表面に金属の酸化物を少なくとも一種含む放熱層が形成されているランプが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-259639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の放電ランプのように放熱層を形成したとしても、放電ランプの使用と共に発光管の内壁が黒化していく現象がみられ、紫外線の強度が徐々に低下していた。近年、市場より長寿命の放電ランプが求められていることから、発光管の内壁の黒化を低減するために、陽極の過熱についてさらなる対策が必要となっている。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑み、放熱性に優れる陽極を有する放電ランプおよび当該放電ランプに用いられる陽極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
詳細は後述するが、本発明者の調査の結果、陽極の表面に設けられた放熱層が、放電ランプの使用に伴い、陽極の表面から剥離していることがわかった。特に、陽極の先端側の端部において放熱層の剥離が目立って多く発生していることが判明した。その理由について詳細は後述するが、放熱層の先端側の端部が、点灯時における発光ガスの熱対流の影響を受けているものと考察する。
【0009】
上記調査及び考察を踏まえ、本発明者は、以下の放電ランプを案出した。すなわち、
発光管の内部に、陽極と陰極が一軸上で対向配置される放電ランプであって、
前記陽極は、
前記一軸の回りに形成された外周面に接するとともに、前記陽極の先端から離れた位置に配置され、かつ、セラミックスを含む、第一被膜と、
前記第一被膜と前記先端の間の前記外周面に接するとともに、前記第一被膜の前記先端側の端部を覆うように配置され、かつ、前記セラミックスよりも高融点の金属を含む、第二被膜と、
を備える。
【0010】
前記第一被膜は放熱層であり、前記放熱層である前記第一被膜を覆い形成される第二被膜は、前記第一被膜の剥離や焼損を低減する保護膜として機能する。とりわけ第一被膜の剥離の起点となりやすい、第一被膜の陽極先端側の端部を、第一被膜よりも高融点の第二被膜で覆う。これにより、第二被膜は、放熱層である第一被膜の、熱対流に因る剥離を抑制する。加えて、第二被膜は、陽極表面よりも熱放射効果に優れているため、第二被膜は放熱層としても機能する。
【0011】
前記第一被膜は、前記第二被膜に覆われていない露出領域を有している。露出領域では熱放射効果が特に大きいため、露出領域を有することで、陽極の放熱性が向上する。
【0012】
前記第一被膜において前記第二被膜に覆われていない露出領域は、前記陽極の先端から3mm以上離れていても構わない。これにより、第一被膜の露出領域における剥離や焼損を生じにくくする。
【0013】
前記陽極は、外径が前記一軸の延びる方向に一定である陽極胴部を備え、前記第一被膜の前記先端側の端部は、前記陽極胴部の外周面に接していても構わない。
【0014】
前記陽極は、外径が前記先端に向かうにつれて小さくなる陽極前部を備え、前記第二被膜は、前記陽極前部の外周面に接しても構わない。
【0015】
前記第二被膜が前記第一被膜を覆う領域の、前記一軸の延びる方向における長さは、0.5mm以上、かつ、2.0mm未満であっても構わない。これにより、第一被膜の陽極からの剥離を第二被膜で効果的に抑えることができ、かつ、第二被膜22の積層された第一被膜21が、陽極2からの浮き上がりや剥離を効果的に抑えることができる。
【0016】
前記第二被膜は、2600℃以上の融点を有する材料を主成分としても構わない。これにより、第二被膜の破損や焼損をより小さくできる。
【0017】
前記第二被膜の熱膨張係数と前記陽極の熱膨張係数の差は、前記第一被膜の熱膨張係数と前記陽極の熱膨張係数の差よりも、小さくても構わない。これにより、放電ランプの点灯と消灯を繰り返すことによって生じる、陽極に対する第一被膜の位置ずれに因る剥離を低減できる。
【0018】
前記陽極の主成分及び前記第二被膜の主成分は、それぞれ、タングステンであっても構わない。これにより、第二被膜の熱膨張係数と陽極の熱膨張係数との差を小さくして、温度変化による第二被膜の陽極に対する位置ずれを抑え、斯くして陽極からの第二被膜の剥離を防ぐ。
【0019】
前記セラミックスは、金属酸化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属ケイ化物及び金属窒化物のうち少なくともひとつを含んでいても構わない。これにより効果的に熱を放散させるとともに、第一被膜の焼損を抑えられる。
【0020】
放電ランプに用いられる陽極であって、
前記陽極は、
一軸の回りに形成された外周面に接するとともに、前記陽極の先端から離れた位置に配置され、かつ、セラミックスを含む、第一被膜と、
前記第一被膜と前記先端の間の前記外周面に接するとともに、前記第一被膜の前記先端側の端部を覆うように配置され、かつ、前記セラミックスよりも高融点の金属を含む、第二被膜と、
を備える。
【発明の効果】
【0021】
これにより、本発明は、陽極における放熱層(第一被膜)の剥離を抑制し、放熱性に優れる陽極と、当該陽極を有する放電ランプを提供できる。そして、陽極の過熱を防ぎ、発光管内壁の黒化を低減し、放電ランプの長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】放電ランプの一実施形態の概要を示す図である。
図2】陽極の拡大図である。
図3】陽極断面において、図2のP1部の拡大図である。
図4】ランプ点灯時の発光管の内部の様子を模式的に示す図である。
図5A】第二被膜を設けない陽極を使用する前の参考図である。
図5B図5AのP2部の拡大図である。
図6A】第二被膜を設けない陽極を使用した後の参考図である。
図6B図6AのP3部の拡大図である。
図7】放電ランプの第二実施形態における陽極を示す図である。
図8A】放電ランプの第三実施形態の陽極を示す図である。
図8B】放電ランプの第三実施形態の陽極の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
放電ランプの各実施形態につき、図面を参照して説明する。なお、以下の各図面は模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比は必ずしも実際の寸法比と一致しておらず、各図面間においても寸法比は必ずしも一致していない。
【0024】
以下において、XYZ座標系を適宜参照して説明される。また、本明細書において、方向を表現する際に、正負の向きを区別する場合には、「+X方向」、「-X方向」のように、正負の符号を付して記載される。また、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「X方向」と記載される。すなわち、本明細書において、単に「X方向」と記載されている場合には、「+X方向」と「-X方向」の双方が含まれる。Y方向及びZ方向についても同様である。
【0025】
<第一実施形態>
[放電ランプの概要]
図1を参照しながら、放電ランプの一実施形態の概要を説明する。本実施形態の放電ランプ100は、発光管1と、発光管1の内部に軸X1上で対向配置される陽極2及び陰極3と、陽極2及び陰極3をそれぞれ支持する2本のリード棒4と、を備えるショートアーク型放電ランプである。
【0026】
ショートアーク型放電ランプとは、陽極2と陰極3とが40mm以下の間隔(熱膨張をしていない常温時の値)を空けて配置されるものをいう。このような放電ランプの例として、半導体素子、液晶表示素子等の製造工程で使用される露光装置において使用される、定格電力が2kW~35kWの放電ランプがある。
【0027】
発光管1、陽極2、陰極3及びリード棒4は、いずれも軸X1を中心に配置されている。軸X1が延びる方向における発光管1の両端には、封止管部11が設けられている。封止管部11には、リード棒4に電気的に接続される口金7が取り付けられている。
【0028】
発光管1は、軸X1方向の両端から、それぞれ中央に向かうにつれて、その内径が大きくなるガラス管の領域を有し、その内部に発光空間S1が形成される。発光管1は、ガラス管の中央を膨らませることにより、球体又は楕円球体を呈する。発光空間S1には、水銀などの発光物質の他に、アルゴンガスやキセノンガスなどの始動補助用バッファガスが、適宜封入されている。
【0029】
[陽極]
図2は、陽極2の拡大図である。陽極2は、形状の異なる3つの部分に区分して説明される。3つの区分は、陰極3に近い陽極2の先端側(-X側)から順に、陽極前部26、陽極胴部27及び陽極後部28から構成される。
【0030】
陽極前部26は、軸X1を軸心とする円錐台形状を呈する。陽極前部26では、-X側の陽極2の先端に向かうほど、軸X1回りの径が小さくなる。本実施形態において、陽極前部26は、陰極3に対向する先端側(-X側)に、軸X1に交差する先端面2aを有する。本実施形態において、先端面2aは軸X1に直交する。しかしながら、陽極2の先端が尖っているなど、陽極2の先端は必ずしも面形状でなくてよい。
【0031】
本実施形態では、先端面2aの直径は6mmの円である。本実施形態では、陽極前部26のX軸方向における長さは9.5mmである。
【0032】
陽極胴部27は、軸X1を軸心とする円柱形状を呈する。陽極胴部27では、軸X1回りの径がX軸方向において一定である。本実施形態では、陽極胴部27の直径は25mmである。
【0033】
陽極後部28は、軸X1を軸心とする円錐台形状を呈する。陽極後部28は、後端(+X側)に向かうほど、軸X1回りの径が小さくなる。陽極後部28の+X側の後端面2bには、リード棒4(図2では不図示)が接続される。
【0034】
陽極前部26、陽極胴部27及び陽極後部28は、後述する形状の違いに基づいて陽極2を区分したものであって、必ずしも、陽極2の各部分の材料組成や、各部分の製造方法が異なることを表すものではない。陽極2は、陽極前部26、陽極胴部27及び陽極後部28を同じ材料で、又は、同じ製造方法で製造しても構わないし、陽極前部26、陽極胴部27及び陽極後部28を、一体的に製造しても構わない。
【0035】
本実施形態では、陽極2の全ての部位は、主にタングステンを使用して一体的に製造されている。陽極2は、タングステンの他に、融点が2600℃以上の高融点金属を主に構成されても構わない。しかしながら、陽極前部26、陽極胴部27及び陽極後部28を、異なる材料で別々に製造しても構わない。
【0036】
図3は、軸X1を通る陽極2の断面図のうち、図2のP1部に対応する拡大図である。陽極2は、軸X1回りに形成された外周面2sを有する。陽極2の外周面2sは、陽極前部26の側面(円錐台面)である外周面26s(図3参照)、陽極胴部27の側面(円柱面)である外周面27s(図3参照)、及び陽極後部28の側面(円錐台面)である外周面28s(図2参照)から構成される。
【0037】
本実施形態において、陽極前部26の外周面26sを構成し、最も径方向に離れた二つの母線の延長線がなす角θ1(頂角ともいう。図2参照)は、90度である。
【0038】
図3に示されるように、本実施形態では、陽極前部26の外周面26sと陽極胴部27の外周面27sの境界2cは、外側に向かって一つの角をなすように構成されている。しかしながら、境界2cは、複数の広い角から構成された面取り形状で構成されても構わない。または、境界2cは、角を持たない、なだらかな曲線をなす面取り形状で構成されても構わない。
【0039】
[第一被膜]
図3において、第一被膜21は、左上がりの斜線でハッチングして表されている。第一被膜21は、陽極2の外周面2sに接し、陽極2の先端面2aから離れた位置に形成されている。本実施形態では、図3に示されるように、第一被膜21は、陽極前部26の外周面26sに接することなく、陽極胴部27の外周面27sに接するように構成されている。
【0040】
第一被膜21には、熱放射効果の高いセラミックスを含む。第一被膜21に熱放射効果の高いセラミックスを含ませることにより、効果的に熱を放散させることができる。
【0041】
第一被膜21に含まれるセラミックスとして、金属酸化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属ケイ化物及び金属窒化物のうち、少なくとも一つを含む材料が例示される。これらの材料は、熱を効果的に放散させる。本実施形態では、第一被膜21として酸化ジルコニウムを使用している。第一被膜21として、酸化アルミニウム、炭化ジルコニウム、ホウ化ジルコニウム、ケイ化タンタル及び窒化ジルコニウムを使用しても構わない。セラミックスに含まれる金属として、融点が2000℃以上の材料を使用しても構わない。これにより、陽極2の温度上昇に伴う第一被膜21の焼損を抑えられる。
【0042】
第一被膜21は、陽極2の中でも、高い温度に晒される先端面2aとその近傍に配置されず、先端面2aから離れた位置に設けられている。これにより、第一被膜21の焼損を抑えられる。また、第一被膜21が先端面2aから離れた位置に設けられると、第一被膜21は必ず、陽極2の外周面2s上に、先端面2a側の端部21eを有することになる(図3参照)。本実施形態では、図3に示されるように、端部21eは、陽極胴部27の外周面2sと陽極前部26の外周面26sとの境界2cに接している。第一被膜21が陽極前部26の外周面26s上に配置されないため、第一被膜21の焼損や剥離を低減できる。
【0043】
第一被膜21の厚みは10μm以上、100μm以下であると好ましく、20μm以上、50μm以下であるとより好ましい。
【0044】
[第二被膜]
第二被膜22は、図3において、右上がりの斜線でハッチングして表されている。図3に示されるように、第二被膜22は、陽極前部26の外周面26sから陽極胴部27の外周面27sにかけて形成されており、陽極胴部27の外周面27sにおいて第一被膜21の端部21eを覆うように形成されている。第二被膜22は、第一被膜21と先端面2aとの間の外周面2sに接している。本実施形態では、第二被膜22が、陽極前部26の外周面26sに接している。
【0045】
第二被膜22は、第一被膜21よりも高融点の金属を主に含むと好ましい。第二被膜22は、2600℃以上の融点を有する金属を主成分とすると、さらに好ましい。本明細書において、「主に含む」、または、「主成分」という表現は、被膜を構成する単位あたりの体積において最も原子の数の多い元素に対して用いられる。
【0046】
第二被膜22の主成分として、タングステン(融点:3410℃)、レニウム(融点:3185℃)、タンタル(融点:2990℃)、又はモリブデン(融点:2620℃)が例示される。例示されたこれらの元素は、高融点であるため、第二被膜22の剥離や焼損をさらに低減できる。
【0047】
第二被膜22の厚みは10μm以上、100μm以下であると好ましく、20μm以上、50μm以下であるとより好ましい。
【0048】
図3に示される第二被膜22は、第一被膜21のうち、端部21eのみを覆っている。すなわち、第一被膜21は、第二被膜22に覆われていない露出領域21nを有する。露出領域21nでは、放熱層である第一被膜21の熱放射効果が特に大きい。そのため、露出領域21nを有することで、陽極2の放熱性が向上する。
【0049】
[第二被膜で第一被膜の端部を覆う理由]
第二被膜22で第一被膜21の端部21eを覆う理由を、図4図5A図5B図6A及び図6Bを参照しながら説明する。
【0050】
図4は、放電ランプの点灯時における発光管1の内部の様子を模式的に示している。図4において-X方向が重力方向である。陰極3から陽極2に向かって延びる破線の矢印は、アーク放電の発生を表している。
【0051】
発光空間S1に封入されたガスは、アーク放電により加熱され、発光空間S1内を対流する(熱対流という)。図4において、発光空間S1において実線で示される矢印は、封入されたガスが熱対流により各場所において流れる方向を表している。
【0052】
図4において、陰極3から陽極2に向かって流れる、矢符G1で示されるガスの流れに注目する。矢符G1で示される流れのガスは、アーク放電の内部又は近傍を経たガスであるため、発光空間S1内部のガスの中でも、とりわけ高温状態にある。
【0053】
図5A及び図5Bは、第二被膜22を設けていない陽極8の状態を説明する参考図である。図5Aは、ランプ点灯直後の陽極8の全体図であり、図5Bは、軸X1を通る陽極8の断面のうち、図5AのP2部の拡大図である。図5Aに示される陽極8では、第一被膜21が、陽極胴部27の外周面27sにのみ設けられている。
【0054】
矢符G1で示された高温のガスの流れの一部は、第二被膜がないため、第一被膜21の端部21eに衝突する。この衝突により、第一被膜21の端部21eは、陽極8の外周面2sから剥離することがある。
【0055】
図6A及び図6Bは、第二被膜22を設けていない陽極8を有する放電ランプを、一定時間使用した後を示している。図6Aは、陽極8の全体図であり、図6Bは、軸X1を通る陽極8の断面のうち、図6AのP3部の拡大図である。図5Bで示された矢符G1のガスの流れにより、図6A及び図6Bに示されるように、第一被膜21の端部21eより剥離した領域が、欠落部分23として表されている。
【0056】
以上の調査分析を踏まえ、本発明者は、図3に示される陽極を発明するに到った。陽極2では、第一被膜21の剥離の起点となり易い端部21eを、第一被膜21よりも高融点の第二被膜22で覆っている。これにより、第一被膜21は、第二被膜22に押さえられて剥離しにくくなるとともに、焼損を抑えられる。第二被膜22は、第一被膜21に比べて高融点であるため、第二被膜22は、熱の影響により剥離や焼損しにくい。
【0057】
図3に示される陽極について、第二被膜22が第一被膜21を覆う領域(積層領域)の、陽極2のX軸方向における長さ(重なりしろ)をd1とする(図3参照)。長さd1は、0.5mm以上であるとよい。これにより、第一被膜21の陽極2からの剥離を効果的に抑えることができる。
【0058】
また、第一被膜21は、第二被膜22に覆われている場合でも、温度によって第一被膜21が陽極2の外周面2sから浮き上がったり、剥離したりすることがある。長さd1を2.0mm未満にすると、第二被膜22の積層された第一被膜21の、陽極2からの浮き上がりや剥離を効果的に抑えられる。そして、第一被膜21の露出領域が増えるため、第一被膜21の熱放射効果が大きくなる。
【0059】
陽極2のX軸方向における、第二被膜22と先端面2aとの間隔をd2とすると(図3参照)、間隔d2は1mm以上であるとよい。これにより、第二被膜22を先端面2aから遠ざけて、第二被膜22が特に高温の領域に位置しないようにする。これにより、第二被膜22の熱による焼損や剥離をさらに小さくできる。
【0060】
ところで、放電ランプ100の点灯と消灯を繰り返すと、繰り返した分だけ温度変化が生じる。そして、この温度変化により、熱膨張差の大きい陽極8と第一被膜21との間に位置ずれが生じ、両者の接合力が低下することがある。両者の接合力の低下は、第一被膜21の剥離を促進する。
【0061】
このような、放電ランプの点灯と消灯を繰り返しに伴う第一被膜21の剥離を低減するには、第二被膜22の材料を選択する際、第二被膜22の熱膨張係数と陽極2の熱膨張係数の差が、第一被膜21の熱膨張係数と陽極2の熱膨張係数の差よりも小さくなるように、第二被膜22の材料を選択するとよい。放電ランプの点灯と消灯を繰り返しても、第一被膜21は陽極2から剥離しにくい第二被膜22に押さえられて、第一被膜21は剥離しにくくなる。
【0062】
第二被膜22の熱膨張係数と陽極2の熱膨張係数の差が、第一被膜21の熱膨張係数と陽極2の熱膨張係数の差よりも小さくなる例を示す。例えば、第一被膜21として使用され得る、酸化ジルコニウムの熱膨張係数は、7.9~11.0×10-6/K、酸化アルミニウムの熱膨張係数は7.2~8.3×10-6/K、炭化ジルコニウムの熱膨張係数は7.0~7.4×10-6/K、窒化ジルコニウムの熱膨張係数は約7.2×10-6/Kである。
他方、陽極として使用され得るタングステンの熱膨張係数は、約5×10-6/Kである。
【0063】
第一被膜と陽極に前段落で例示した材料を使用するとき、第二被膜22として使用され得る材料として、例えば、タングステン(熱膨張係数が約5×10-6/K)、タンタル(熱膨張係数が約6.4×10-6/K)、又はモリブデン(熱膨張係数が約4.8~6.7×10-6/K)を選択する。そうすると、第二被膜22の熱膨張係数と陽極2の熱膨張係数の差が、第一被膜21の熱膨張係数と陽極2の熱膨張係数の差よりも小さくなる。
【0064】
第二被膜22の主成分に、陽極2の主成分と同じ材料を選択することで、第二被膜22と陽極2との熱膨張係数差が実質的になくなる。これにより、温度変化による第二被膜22の陽極2に対する位置ずれを抑えて、陽極2からの第二被膜22の剥離を防ぐ。本実施形態では、第二被膜22の主成分として、陽極2の主成分と同じタングステンを使用している。タングステンは特に融点が高いため、熱により破損又は焼損しにくい点からも、陽極2及び第二被膜22の主成分として特に好ましい材料である。
【0065】
[第一被膜21及び第二被膜22の形成方法]
第一被膜21及び第二被膜22の形成方法の一例を、以下に示す。まず、第一被膜21を構成する材料の粒子(例えば、粒径10μm以下の酸化ジルコニウムの粒子)を溶媒(例えば、ニトロセルロースと酢酸ブチルからなる溶媒)に分散させた、第一分散液を作製する。第一分散液は、ペースト状の粘性流体を含む。
【0066】
作製した第一分散液を、陽極2の外周面2sに筆で塗布する。筆の他に、塗布ローラを使用しても構わないし、スプレー塗布しても構わない。第一分散液を塗布した後に、陽極2を乾燥及び焼結させることによって、第一被膜21を得る。
【0067】
次に、第二被膜22を構成する材料の粒子(例えば、粒径10μm以下のタングステンの粒子)を溶媒(例えば、ニトロセルロースと酢酸ブチルからなる溶媒)に分散させて、第二分散液を作製する。第二分散液は、ペースト状の粘性流体を含む。
【0068】
作製した第二分散液を、陽極2の外周面2sに形成されている第一被膜21の陽極2側の端部21eを覆うように、筆で塗布する。筆の他に、塗布ローラを使用しても構わないし、スプレー塗布しても構わない。第二分散液を塗布した後に、陽極2を乾燥及び焼結させることによって、第二被膜22を得る。
【0069】
上記において、第一被膜21を塗布し乾燥させた後に焼結することなく、第二被膜22を塗布し乾燥させて、その後で、第一被膜21の焼結と第二被膜22の焼結とを同時に行っても構わない。
【0070】
<第二実施形態>
図7を参照しながら、放電ランプの第二実施形態における陽極を示す。図7は、図3と同様の様式で示した、第二実施形態の陽極における断面拡大図である。
【0071】
第一被膜21の端部21eは、陽極前部26と陽極胴部27との境界2cの+X側に位置している。第二被膜22は、陽極胴部27の外周面2sにおいて第一被膜21の端部21eを覆うように形成されているが、第二被膜22は、陽極前部26と陽極胴部27との境界2cを超えるように形成されておらず、陽極胴部27の外周面27s上のみに存在する。
【0072】
本実施形態では、第一被膜21及び第二被膜22は、共に、高温となるアーク放電の中心から離れているため、第一被膜21及び第二被膜22は、いずれも、熱による焼損や剥離をさらに低減できる。
【0073】
第二実施形態について、以上に説明した以外の事項は第一実施形態と同様の構造を有する。第三実施形態についても同様である。
【0074】
<第三実施形態>
図8Aを参照しながら、放電ランプの第三実施形態における陽極を示す。図8Aは、図3と同様の様式で示した、第三実施形態の陽極における断面拡大図である。第一被膜21は、陽極前部26と陽極胴部27との境界2cを覆うように設けられている。その結果、第一被膜21の端部21eは、境界2cよりも-X側に位置する。第二被膜22は、陽極前部26の外周面26sにのみ形成されている。本実施形態は、第一被膜21が陽極2を広範囲に覆っているため、放熱性が高い。
【0075】
第二被膜22に覆われていない第一被膜21である露出領域と、陽極2の先端面2aとの軸X1方向における間隔d3は、3mm以上であるとよい。第一被膜21は、剥離の起点となりやすい端部21e以外の部分でも剥離を生じることがある。間隔d3が3mm以上であると、第一被膜21の露出領域が、特に高温となる部分から遠ざけられ、第一被膜21の露出部分における焼損や剥離を低減できる。
【0076】
図8Bは第三実施形態の陽極の変形例である。第一被膜21は、陽極前部26の外周面26sに形成されているが、陽極胴部27の外周面27sに形成されていない。上記の各実施形態を総合すると、第一被膜21は、陽極2の外周面2sにおいて、陽極2の先端面2aから離れた位置にあればよい。
【0077】
以上で、放電ランプの陽極の各実施形態を説明したが、本発明は上記した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、上記の実施形態に種々の変更又は改良を加えることができる。
【0078】
上記の各実施形態では、垂直点灯の放電ランプ(軸X1が鉛直方向に向けられる放電ランプ)を例に説明したが、水平点灯の放電ランプ(軸X1が水平方向に向けられる放電ランプ)であっても構わない。
【0079】
上記の各実施形態では、第一被膜21の端部21eのX方向における位置が、陽極2の軸X1の周方向でほぼ同じ位置を示すことを想定している。しかしながら、第一被膜21の端部21eのX方向における位置が、陽極2の軸X1の周方向で変化しても構わない。
【0080】
上記の各実施形態では、ショートアーク型の放電ランプについて示したが、ショートアーク型以外の放電ランプであっても構わない。
【0081】
上記の各実施形態では、第一被膜21は、陽極後部28の外周面2sに設けられていないが、第一被膜21を、陽極胴部27に加えて、陽極後部28の外周面2sに設けても構わない。
【符号の説明】
【0082】
1 :発光管
2,8 :陽極
2a :(陽極の)先端面
2c :(陽極胴部と陽極前部の)境界
2s :(陽極の)外周面
26 :陽極前部
26s :(陽極前部の)外周面
27 :陽極胴部
27s :(陽極胴部の)外周面
28 :陽極後部
2s :外周面
3 :陰極
4 :リード棒
7 :口金
11 :封止管部
21 :第一被膜
21e :(第一被膜の)端部
21n :(第一被膜の)露出領域
22 :第二被膜
23 :欠落部分
100 :放電ランプ
S1 :発光空間
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8A
図8B