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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】光触媒の製造方法及び光触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/08 20060101AFI20240314BHJP
   B01J 23/72 20060101ALI20240314BHJP
   B01J 23/745 20060101ALI20240314BHJP
   B01J 35/39 20240101ALI20240314BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
B01J37/08
B01J23/72 M
B01J23/745 M
B01J35/39
B01J37/04 102
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021509341
(86)(22)【出願日】2020-03-19
(86)【国際出願番号】 JP2020012481
(87)【国際公開番号】W WO2020196329
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-12-17
(31)【優先権主張番号】P 2019061613
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】520399268
【氏名又は名称】フォトジェン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097319
【弁理士】
【氏名又は名称】狩野 彰
(72)【発明者】
【氏名】中澤 滋
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-090336(JP,A)
【文献】特開2012-214348(JP,A)
【文献】特開2003-275599(JP,A)
【文献】特開2018-177553(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104399464(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105195146(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項4】
TiO2粉末とTiO2に対して0.1~5wt%のAl、Li、Mg若しくはCa、その水素化物又はそれらの混合物の粉末とTiO2に対して0.1~5wt%のFe若しくはCu、その酸化物又はそれらの混合物の粉末とを均一に混合して得た第1の混合粉末をるつぼ内に収納し、前記るつぼを真空加熱炉中に配置し、真空排気した後に、真空中で350~550℃の温度で熱処理して成り、TiO2粉末の結晶構造を保持したまま酸素欠陥を導入すると共にTiO2粉末の表面にFe若しくはCu、その酸化物又はそれらの混合物を担持している光触媒。
【請求項5】
TiO2に対して0.1~5wt%のFe若しくはCu、その酸化物又はそれらの混合物を塩酸又は硝酸で溶解して溶解液を得、前記溶解液とTiO2粉末の水懸濁液とを混合した後に乾燥して得た混合乾燥粉末とTiO2に対して0.1~5wt%のAl、Li、Mg若しくはCa、その水素化物又はそれらの混合物の粉末とを均一に混合して第2の混合粉末を得、前記第2の混合粉末をるつぼ内に収納し、前記るつぼを真空加熱炉中に配置し、真空排気した後に、真空中で350~550℃の温度で熱処理して成り、TiO2粉末の結晶構造を保持したまま酸素欠陥を導入すると共にTiO2粉末の表面にFe若しくはCu、その酸化物又はそれらの混合物を担持している光触媒
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TiO2系光触媒の製造方法に関し、また光触媒に関する。光触媒とは、光吸収により励起され、酸化反応及び還元反応を引き起こす触媒物質である。「不均一系の半導体光触媒」や「均一系の色素光触媒」があるが、本明細書において、「光触媒」は「不均一系の半導体光触媒」を意味する。半導体光触媒は伝導帯と価電子帯が禁制帯によって隔てられたバンド構造を持つ。バンドギャップ(禁制帯幅)以上のエネルギーを持つ光(電磁波)により、価電子帯の電子が伝導帯へ励起され、価電子帯に正孔が生成する。伝導帯に励起された電子は価電子帯の電子より還元力が強く、暗時では起こらない還元反応を起こすことができる。同様に、正孔も強力な酸化反応を起こす。有機物分解の場合、正孔により有機物が酸化されて、最終的にCO2に完全酸化される。そして、伝導帯に励起された電子は酸素を還元し、最終的に水が生成される。
【背景技術】
【0002】
TiO2は紫外光領域に吸収を持つ紫外光触媒として知られている。特にアナターゼ型のTiO2は,バンドギャップが3.2eVの金属酸化物半導体であり,紫外光を吸収して高い触媒活性を示すが、可視光領域においては活性を示さない。
【0003】
これまでの研究では、金属や硫黄や窒素のドーピングによって可視光の吸収及び触媒活性化の試みがなされてきたが、現状は可視光領域において十分かつ実用レベルでの触媒活性を持つ光触媒は報告されていない。
【0004】
例えばイオンビームを照射してTiO2のバルク材や薄膜の結晶構造に酸素欠陥を導入し可視光領域で光吸収を持つようにする方法は知られているが、TiO2の粉末等の微細な材料の結晶構造に酸素欠陥を導入し、欠陥量を制御することは容易ではない。
【0005】
また、CaH2やMgH2を用いてTiO2を還元して、TiO2の亜酸化物を製造することは知られている。得られたTiO2の亜酸化物は、結晶構造が変化しているが、可視光を吸収することが確認されている。しかし、得られたTiO2の亜酸化物は光触媒特性を持たない。この従来技術が障害となって、可視光領域において光触媒活性を有する光触媒を開発する目的で、Mgを用いてTiO2粉末に酸素欠陥を導入することに多くの研究者は挑戦しなかったか、あるいは、挑戦するのが困難であったと考えられる。すなわち、CaH2やMgH2を用いてTiO2を還元して、TiO2の亜酸化物を製造する従来技術は、可視光領域において光触媒活性を有する光触媒を開発する目的で、Mgを用いてTiO2粉末に酸素欠陥を導入しようとする研究開発の動機付けを阻害する要因となっていた。
【0006】
再現性があり、また量産性があって、可視光領域において確実な光触媒活性を有する光触媒を製造する方法は知られていなかった。
【0007】
以上のような状況から現在は、紫外光領域ではTiO2系の光触媒が使用され、波長380~800nmの可視光領域ではWO3/CuO系の光触媒が一般的に使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2011/102353号
【文献】特開2012-16679号公報
【文献】国際公開第2012/111709号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、WO3/CuO系の光触媒は可視光領域における揮発性有機化合物(VOC)を完全酸化分解する活性が不十分であるとともにWを原料とするため高価であり資源確保が困難である。本明細書において、「揮発性有機化合物(VOC)」とは、VOC(Volatile Organic Compounds))と呼ばれ、常温常圧で空気中に容易に揮発する有機化合物の総称である。WHOの区分では沸点が50~260℃の有機化合物を示す。ホルムアルデヒドは住宅等の室内空気汚染(シックハウス症候群)の原因物質として知られており、発生源としては、合板、壁紙用接着剤、家具などがある。アセトアルデヒドは実験評価が難しいホルムアルデヒドの代用として光触媒活性を比較する際に使用される最も代表的なVOCであり、またタバコなどの悪臭物質として知られている。トルエンは接着剤や塗料の溶剤及び希釈剤として使用され、内装材等の施工用接着剤・塗料から放散される可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
光触媒として、TiO2粉末とMg、その水素化物又はそれらの混合物の粉末を真空で350℃以上の高温で反応させると、Mgが徐々に酸化を開始し、TiO2の結晶構造を保持したまま酸素欠陥を導入することができ、可視光吸収を増加させることができるとともに表面積を増加させることができることを本発明者は見出した。
【0011】
エリンガム図は金属の酸化のしやすさを示す広く知られた図表であり、横軸が温度であり、縦軸がギブス自由エネルギーである。ギブス自由エネルギーのマイナス値が大きいほど、酸素との結合力が大きいことを意味している。エリンガム図において、TiとO2からTiO2が生成される際のギブス自由エネルギーと温度との関係は直線で表される。この直線より下方に存在する金属の酸化を表す直線を見つけ出すことによって、TiよりもOとの結合力が大きな金属を理論的に見出すことができる。エリンガム図からMgと同様にTiO2に酸素欠陥を導入できる金属として、Al、Li、Caを理論的に選択することができる。当然、水素にも還元力があり、Al、Li、Mg、Caの水素化物も還元力が強く、TiO2粉末に酸素欠陥を導入することができると理論的に推論することができる。
【0012】
加えて、本発明者は、光触媒の表面に、Fe、Cuなどの金属あるいはその金属酸化物を担持することによって、上記酸素欠陥導入による可視光吸収を妨げることなく、可視光吸収率を更に高めると共に、相乗効果によって光触媒活性を高め、光触媒効率を向上できることを見出した。
【0013】
なお、熱処理温度が550℃を超えると、TiO2の結晶構造がアナターゼ型からルチル型へ変化することを本発明者は見出した。これらの知見によって、本発明のTiO2粉末の結晶構造を保持したまま酸素欠陥を導入すると共に金属を担持する光触媒の製造方法及び光触媒に至ったものである。
【0014】
第1の本発明に係る光触媒の製造方法は、請求項1に記載のように、TiO2粉末とTiO2に対して0.1~5wt%のAl、Li、Mg若しくはCa、その水素化物又はそれらの混合物の粉末とTiO2に対して0.1~5wt%のFe若しくはCu、その酸化物又はそれらの混合物の粉末とを均一に混合して得た第1の混合粉末をるつぼ内に収納し、前記るつぼを真空加熱炉中に配置し、真空排気した後に、真空中で350~550℃の温度で熱処理して光触媒を製造する。
【0015】
第2の本発明に係る光触媒の製造方法は、請求項2に記載のように、TiO2に対して0.1~5wt%のFe若しくはCu、その酸化物又はそれらの混合物を塩酸又は硝酸で溶解して溶解液を得、前記溶解液とTiO2粉末の水懸濁液とを混合した後に乾燥して得た混合乾燥粉末とTiO2に対して0.1~5wt%のAl、Li、Mg若しくはCa、その水素化物又はそれらの混合物の粉末とを均一に混合して第2の混合粉末を得、前記第2の混合粉末をるつぼ内に収納し、前記るつぼを真空加熱炉中に配置し、真空排気した後に、真空中で350~550℃の温度で熱処理して光触媒を製造する。
【0016】
第1又は第2の本発明に係る光触媒の製造方法の好ましい実施態様においては、請求項3に記載のように、TiO2がアナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型又はこれらの混合物である。
【0017】
第3の本発明は、請求項4に記載のように、TiO2粉末とTiO2に対して0.1~5wt%のAl、Li、Mg若しくはCa、その水素化物又はそれらの混合物の粉末とTiO2に対して0.1~5wt%のFe若しくはCu、その酸化物又はそれらの混合物の粉末とを均一に混合して得た第1の混合粉末をるつぼ内に収納し、前記るつぼを真空加熱炉中に配置し、真空排気した後に、真空中で350~550℃の温度で熱処理して成り、TiO2粉末の結晶構造を保持したまま酸素欠陥を導入すると共にTiO2粉末の表面にFe若しくはCu、その酸化物又はそれらの混合物を担持している。
【0018】
第4の本発明は、請求項5に記載のように、TiO2に対して0.1~5wt%のFe若しくはCu、その酸化物又はそれらの混合物を塩酸又は硝酸で溶解して溶解液を得、前記溶解液とTiO2粉末の水懸濁液とを混合した後に乾燥して得た混合乾燥粉末とTiO2に対して0.1~5wt%のAl、Li、Mg若しくはCa、その水素化物又はそれらの混合物の粉末とを均一に混合して第2の混合粉末を得、前記第2の混合粉末をるつぼ内に収納し、前記るつぼを真空加熱炉中に配置し、真空排気した後に、真空中で350~550℃の温度で熱処理して成り、TiO2粉末の結晶構造を保持したまま酸素欠陥を導入すると共にTiO2粉末の表面にFe若しくはCu、その酸化物又はそれらの混合物を担持している。
【発明の効果】
【0019】
(1)本発明の光触媒の製造方法においては、固相-固相反応を利用して、還元金属(Al、Li、Mg又はCa)、その水素化物又はそれらの混合物の粉末によってTiO2の粉末の結晶構造を保持したまま酸素欠陥を導入している。得られた粉末をXRD分析したところTiO2の結晶構造が保持されていることが確認された。
【0020】
このTiO2粉末の結晶構造を保持したまま酸素欠陥を導入することによって、図13に示すように、TiO2のバンドギャップ(禁制帯幅)の中間に酸素欠陥準位が形成されるため、可視光照射による酸化・還元反応が生じやすくなり、可視光の吸収が増加するとともにTiO2結晶の表面積が増加する。
【0021】
(2)本発明の光触媒の製造方法においては、TiO2の表面へFe又はCu等の金属あるいはその金属酸化物を担持している。このTiO2の表面へのFe又はCu等の金属あるいはその金属酸化物の担持は図14に見られるように酸素欠陥導入による可視光吸収を妨げることなく、可視光吸収率を更に高めると共に、電子伝導性の付与や電荷蓄積効果と相まって可視光におけるTiO2結晶の光触媒活性を高め、光触媒効率を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】使用した製造装置の概略図である。
図2】本実施例の光触媒粒子製造の熱処理において実施した温度-時間グラフの概略図である。
図3】アナターゼ型TiO2原料粉末のX線回折パターン図である。
図4】得られた試料粉末のX線回折パターン図である。
図5】得られた試料粉末のX線回折パターン図である。
図6】分光反射率(拡散+正反射率)測定の配置を示す概略図である。
図7】得られた試料粉末の光吸収スペクトルの測定結果を示すグラフである。
図8】得られた試料粉末の光吸収スペクトルの測定結果を示すグラフである。
図9】VOC分解評価試験に用いた装置の概略図である。
図10】得られた試料粉末のVOC分解評価結果を示すグラフである。
図11】得られた試料粉末のVOC分解評価結果を示すグラフである。
図12】得られた試料粉末のVOC分解評価結果を示すグラフである。
図13】TiO2に酸素欠陥を導入し金属担持をした際のエネルギーポテンシャル(エネルギー準位)を示す概略図である。
図14】酸素欠陥導入+CuO担持TiO2、酸素欠陥導入TiO2及びTiO2の光吸収スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0023】
以下、本発明の実施例について添付図面を参照して説明する。
【0024】
(A)還元金属MgによるTiO2への酸素欠陥を導入した光触媒粉末についての実施例
固相-固相反応によってTiO2粉末とMg粉末から酸素欠陥を導入した光触媒TiO2粉末を製造する実施例について説明する。
【0025】
<実施例1>
試料粉末の作製
TiO2原料粉末は石原産業(株)製のアナターゼ型であり、純度は85%以上であり、1次粒径は7nmである。
【0026】
Mg原料粉末は、関東金属製であり、純度は99.5%以上であり、平均粒子径D50は100μmである。
【0027】
TiO2原料粉末80.0gとMg原料粉末1.6gを容器内に秤量して、振とうし、その結果として、TiO2原料粉末とMg原料粉末が均一に混合された原料混合粉末を得た。
【0028】
図1は試料粉末作製に使用した製造装置の概略図である。黒鉛るつぼ1は内径φ70mm×高さ125mmであり、上面の中央にガス抜き穴11が設けられている。原料混合粉末2を黒鉛るつぼ1内に収納した後に、高周波加熱装置4を備えた真空加熱炉3内に水平に配置した。
【0029】
そして、原料混合粉末2が飛散しないように注意しながら、配管5を通じて真空ポンプ6を用いて真空加熱炉3内を8Paまで真空排気した。
【0030】
8Paまで真空排気した直後に、図2に示す熱処理パターンのように、室温(Tr)~550℃(Tmax)まで1時間(0~t1)かけて昇温し、550℃(Tmax)で3時間(t1~t2)保持し、その後、加熱電源をOFFにして、自然冷却した。昇温、保持、冷却の間も真空ポンプ6を用いて真空排気を続けた。
【0031】
十分に冷却した後、真空ポンプ6を停止し大気圧に戻し、黒鉛るつぼ1を取り出し、試料粉末を得た。
【0032】
得られた試料粉末を目視観察したところ、元の白色粉体が鼠色に色づいた、一様の微粉末であった。
【0033】
<実施例1-2>
熱処理パターンを除く他の条件は、まったく実施例1と同様の条件の下で、8Paまで真空排気した直後に、図2に示す熱処理パターンのように、室温(Tr)~350℃(Tmax)まで1時間(0~t1)かけて昇温し、そのまま350℃(Tmax)で3時間(t1~t2)保持し、その後、加熱電源をOFFにして、自然冷却した。昇温、保持、冷却の間も真空ポンプ6を用いて真空排気を続けた。
【0034】
十分に冷却した後、真空ポンプ6を停止し大気圧に戻し、黒鉛るつぼ1を取り出し、試料粉末を得た。
【0035】
得られた試料粉末を目視観察したところ、元の白色粉体が多少黄色に色づいているが、一様の微粉末であった。
【0036】
<実施例1-3>
熱処理パターンを除く他の条件は、まったく実施例1と同様の条件の下で、8Paまで真空排気した直後に、図2に示す熱処理パターンのように、室温(Tr)~600℃(Tmax)まで1時間(0~t1)かけて昇温し、そのまま600℃(Tmax)で3時間(t1~t2)保持し、その後、加熱電源をOFFにして、自然冷却した。昇温、保持、冷却の間も真空ポンプ6を用いて真空排気を続けた。
【0037】
十分に冷却した後、真空ポンプ6を停止し大気圧に戻し、黒鉛るつぼ1を取り出し、試料粉末を得た。
【0038】
得られた試料粉末を目視観察したところ、元の白色粉体が黒色に変化した、一様の微粉末であった。
【0039】
以上の実施例1、実施例1-2、実施例1-3から、TiO2粉末が350℃位の熱処理温度からMgによる酸化還元反応が起こり始めると共に、熱処理温度が高くなるに従ってTiO2の結晶化が進み、550℃位の温度を超えると結晶構造がアナターゼ型からルチル型へと構造変化を起こすことが判明した。
【0040】
(B)還元金属MgによるTiO2への酸素欠陥を導入するとともに粉末状のFeを用いてFe担持した光触媒粉末についての実施例
固相-固相反応によってTiO2粉末とMg粉末とFe粉末から酸素欠陥を導入するとともにFe担持した光触媒TiO2粉末を製造する実施例について説明する。
【0041】
<実施例2>
試料粉末の作製
TiO2原料粉末は石原産業(株)製のアナターゼ型であり、純度は85%以上であり、1次粒径は7nmである。
【0042】
Mg原料粉末は、関東金属製であり、純度は99.5%以上であり、平均粒子径D50は100μmである。
【0043】
Fe原料粉末は、Jiangsu Tianyi Ultra Metal Powder Co., Ltd.製であり、純度は98%以上であり、平均粒子径D50は1μmである。
【0044】
TiO2原料粉末80.0gとMg原料粉末0.8gとFe原料粉末0.8gを容器内に秤量して、振とうしたところ、TiO2原料粉末とMg原料粉末とFe原料粉末が均一に混合された原料混合粉末を得た。
【0045】
図1は試料粉末作製に使用した製造装置の概略図である。黒鉛るつぼ1は内径φ70mm×高さ125mmであり、上面の中央にガス抜き穴11が設けられている。原料混合粉末2を黒鉛るつぼ1内に収納した後に、高周波加熱装置4を備えた真空加熱炉3内に水平に配置した。
【0046】
そして、原料混合粉末2が飛散しないように注意しながら、配管5を通じて真空ポンプ6を用いて真空加熱炉3内を8Paまで真空排気した。
【0047】
8Paまで真空排気した直後に、図2に示す熱処理パターンのように、室温(Tr)~500℃(Tmax)まで1時間(0~t1)かけて昇温し、500℃(Tmax)で3時間(t1~t2)保持し、その後、加熱電源をOFFにして、自然冷却した。昇温、保持、冷却の間も真空ポンプ6を用いて真空排気を続けた。
【0048】
十分に冷却した後、真空ポンプ6を停止し大気圧に戻し、黒鉛るつぼ1を取り出し、試料粉末を得た。
【0049】
得られた試料粉末を目視観察したところ、多少鼠色系に色づいている一様の微粉末であった。
【0050】
<実施例2-2>
試料粉末の作製
TiO2原料粉末は石原産業(株)製のアナターゼ型であり、純度は85%以上であり、1次粒径は7nmである。
【0051】
MgH2原料粉末は、バイオコーク製であり、純度は98%以上であり、平均粒子径D50は60μmである。
【0052】
Fe原料粉末は、Jiangsu Tianyi Ultra Metal Powder Co., Ltd.製であり、純度は98%以上であり、平均粒子径D50は1μmである。
【0053】
TiO2原料粉末100.0gとMgH2原料粉末1.1gとFe原料粉末1.0gを容器内に秤量して、振とうしたところ、TiO2原料粉末とMgH2原料粉末とFe原料粉末が均一に混合された原料混合粉末を得た。
【0054】
図1は試料粉末作製に使用した製造装置の概略図である。黒鉛るつぼ1は内径φ70mm×高さ125mmであり、上面の中央にガス抜き穴11が設けられている。原料混合粉末2を黒鉛るつぼ1内に収納した後に、高周波加熱装置4を備えた真空加熱炉3内に水平に配置した。
【0055】
そして、原料混合粉末2が飛散しないように注意しながら、配管5を通じて真空ポンプ6を用いて真空加熱炉3内を8Paまで真空排気した。
【0056】
8Paまで真空排気した直後に、図2に示す熱処理パターンのように、室温(Tr)~500℃(Tmax)まで1時間(0~t1)かけて昇温し、500℃(Tmax)で3時間(t1~t2)保持し、その後、加熱電源をOFFにして、自然冷却した。昇温、保持、冷却の間も真空ポンプ6を用いて真空排気を続けた。昇温時に大きな圧力上昇が認められたが、MgH2が酸化分解してガスが発生したためと考えられる。
【0057】
十分に冷却した後、真空ポンプ6を停止し大気圧に戻し、黒鉛るつぼ1を取り出し、試料粉末を得た。
【0058】
得られた試料粉末を目視観察したところ、多少鼠色がかった白色系に色づいている一様の微粉末であった。
【0059】
(C)還元金属MgによるTiO2への酸素欠陥を導入するとともに粉末状のCuを用いてCu担持した光触媒粉末についての実施例
固相-固相反応によってTiO2粉末とMg粉末とCu粉末から酸素欠陥を導入するとともにCu担持した光触媒TiO2粉末を製造する実施例について説明する。
【0060】
<実施例3>
試料粉末の作製
TiO2原料粉末は石原産業(株)製のアナターゼ型であり、純度は85%以上であり、1次粒径は7nmである。
【0061】
Mg原料粉末は、関東金属製であり、純度は99.5%以上であり、平均粒子径D50は100μmである。
【0062】
Cu原料粉末は、高純度化学製であり、純度は99.5%以上であり、平均粒子径D50は5μmである。
【0063】
TiO2原料粉末80.0gとMg原料粉末0.8gとCu原料粉末0.8gを容器内に秤量して、振とうしたところ、TiO2原料粉末とMg原料粉末とCu原料粉末が均一に混合された原料混合粉末を得た。
【0064】
図1は試料粉末作製に使用した製造装置の概略図である。黒鉛るつぼ1は内径φ70mm×高さ125mmであり、上面の中央にガス抜き穴11が設けられている。原料混合粉末2を黒鉛るつぼ1内に収納した後に、高周波加熱装置4を備えた真空加熱炉3内に水平に配置した。
【0065】
そして、原料混合粉末2が飛散しないように注意しながら、配管5を通じて真空ポンプ6を用いて真空加熱炉3内を8Paまで真空排気した。
【0066】
8Paまで真空排気した直後に、図2に示す熱処理パターンのように、室温(Tr)~500℃(Tmax)まで1時間(0~t1)かけて昇温し、500℃(Tmax)で3時間(t1~t2)保持し、その後、加熱電源をOFFにして、自然冷却した。昇温、保持、冷却の間も真空ポンプ6を用いて真空排気を続けた。
【0067】
十分に冷却した後、真空ポンプ6を停止し大気圧に戻し、黒鉛るつぼ1を取り出し、試料粉末を得た。
【0068】
得られた試料粉末を目視観察したところ、全体的に少し鼠色系に色づいている一様の微粉末であった。
【0069】
<実施例3-4>
試料粉末に、TiO2原料粉末80.0gとMg原料粉末0.4gとCu原料粉末0.4gを容器内に秤量して、振とうし、TiO2原料粉末とMg原料粉末とCu原料粉末が均一に混合された原料混合粉末を使用した以外は、まったく実施例3と同じ条件で試験を行った。
【0070】
得られた試料粉末を目視観察したところ、全体的に少し茶色系に色づいている一様の微粉末であった。
【0071】
<実施例3-6>
試料粉末に、TiO2原料粉末80.0gとMg原料粉末0.4gとCu原料粉末3.2gを容器内に秤量して、振とうし、TiO2原料粉末とMg原料粉末とCu原料粉末が均一に混合された原料混合粉末を使用した以外は、まったく実施例3と同じ条件で試験を行った。
【0072】
得られた試料粉末を目視観察したところ、全体的に少し茶色系に色づいている一様の微粉末であった。
【0073】
<実施例3-7>
試料粉末に、TiO2原料粉末80.0gとMg原料粉末3.2gとCu原料粉末0.8gを容器内に秤量し振とうし、TiO2原料粉末とMg原料粉末とCu原料粉末が均一に混合された原料混合粉末を使用した以外は、まったく実施例3と同じ条件で試験を行った。
【0074】
得られた試料粉末を目視観察したところ、全体的に少し茶色系に色づいている一様の微粉末であった。
【0075】
(D)硝酸鉄溶液によってTiO2粉末に酸化鉄を担持した後に、還元金属MgによるTiO2への酸素欠陥を導入した光触媒粉末についての実施例
硝酸鉄溶液によってTiO2粉末に酸化鉄を担持した後に、固相-固相反応によって酸化鉄を担持したTiO2粉末とMg粉末から酸素欠陥を導入した酸化鉄担持光触媒TiO2粉末を製造する実施例について説明する。
【0076】
<実施例4>
試料粉末の作製
TiO2原料粉末は石原産業(株)製のアナターゼ型であり、純度は85%以上であり、1次粒径は7nmである。
【0077】
Mg原料粉末は、関東金属製であり、純度は99.5%以上であり、平均粒子径D50は100μmである。
【0078】
まず、25~30%硝酸溶液に担持金属であるFeを0.8g溶解した硝酸鉄溶液を作製し、TiO2原料粉末80.0gを水で懸濁させた水懸濁液と前記硝酸鉄溶液とを混合して撹拌する。次にこの混合溶液を170℃以上の温度で乾燥して得た混合乾燥粉末とMg原料粉末0.8gを容器内に秤量して、振とうしたところ、混合乾燥粉末とMg原料粉末が均一に混合された第2原料混合粉末を得た。
【0079】
図1は試料粉末作製に使用した製造装置の概略図である。黒鉛るつぼ1は内径φ70mm×高さ125mmであり、上面の中央にガス抜き穴11が設けられている。第2原料混合粉末2を黒鉛るつぼ1内に収納した後に、高周波加熱装置4を備えた真空加熱炉3内に水平に配置した。
【0080】
そして、第2原料混合粉末2が飛散しないように注意しながら、配管5を通じて真空ポンプ6を用いて真空加熱炉3内を8Paまで真空排気した。
【0081】
8Paまで真空排気した直後に、図2に示す熱処理パターンのように、室温(Tr)~500℃(Tmax)まで1時間(0~t1)かけて昇温し、500℃(Tmax)で3時間(t1~t2)保持し、その後、加熱電源をOFFにして、自然冷却した。昇温、保持、冷却の間も真空ポンプ6を用いて真空排気を続けた。
【0082】
十分に冷却した後、真空ポンプ6を停止し大気圧に戻し、黒鉛るつぼ1を取り出し、試料粉末を得た。
【0083】
得られた試料粉末を目視観察したところ、薄黄緑色をした一様の微粉末であった。
【0084】
(E)硝酸銅溶液によってTiO2粉末に酸化銅を担持した後に、還元金属MgによってTiO2へ酸素欠陥を導入した光触媒粉末についての実施例
硝酸銅溶液によってTiO2粉末に酸化銅を担持した後に、固相-固相反応によって酸化銅を担持したTiO2粉末とMg粉末から酸素欠陥を導入した酸化銅担持光触媒TiO2粉末を製造する実施例について説明する。
【0085】
<実施例5>
試料粉末の作製
TiO2原料粉末は石原産業(株)製のアナターゼ型であり、純度は85%以上であり、1次粒径は7nmである。
【0086】
Mg原料粉末は、関東金属製であり、純度は99.5%以上であり、平均粒子径D50は100μmである。
【0087】
まず、25~30%硝酸溶液に担持金属であるCuを0.8g溶解した硝酸銅溶液を作製し、TiO2原料粉末80.0gを水で懸濁させた水懸濁液と前記硝酸銅溶液とを混合して撹拌する。次にこの混合溶液を170℃以上の温度で乾燥して得た混合乾燥粉末とMg原料粉末0.8gを容器内に秤量して、振とうしたところ、混合乾燥粉末とMg原料粉末が均一に混合された第2原料混合粉末を得た。
【0088】
図1は試料粉末作製に使用した製造装置の概略図である。黒鉛るつぼ1は内径φ70mm×高さ125mmであり、上面の中央にガス抜き穴11が設けられている。第2原料混合粉末2を黒鉛るつぼ1内に収納した後に、高周波加熱装置4を備えた真空加熱炉3内に水平に配置した。
【0089】
そして、第2原料混合粉末2が飛散しないように注意しながら、配管5を通じて真空ポンプ6を用いて真空加熱炉3内を8Paまで真空排気した。
【0090】
8Paまで真空排気した直後に、図2に示す熱処理パターンのように、室温(Tr)~500℃(Tmax)まで1時間(0~t1)かけて昇温し、500℃(Tmax)で3時間(t1~t2)保持し、その後、加熱電源をOFFにして、自然冷却した。昇温、保持、冷却の間も真空ポンプ6を用いて真空排気を続けた。
【0091】
十分に冷却した後、真空ポンプ6を停止し大気圧に戻し、黒鉛るつぼ1を取り出し、試料粉末を得た。
【0092】
得られた試料粉末を目視観察したところ、多少茶色系に色づいた一様の微粉末であった。
【0093】
<実施例5-7>
第2原料混合粉末中におけるCuとMgの割合を変更した以外は、実施例5とまったく同じ条件で試験を行った。
【0094】
25~30%硝酸溶液に担持金属であるCuを0.08g溶解した硝酸銅溶液を作製し、TiO2原料粉末80.0gを水で懸濁させた水懸濁液と前記硝酸銅溶液とを混合して撹拌する。次にこの混合溶液を170℃以上の温度で乾燥して得た混合乾燥粉末とMg原料粉末0.4gを容器内に秤量して、振とうしたところ、混合乾燥粉末とMg原料粉末が均一に混合された第2原料混合粉末を得た。
【0095】
真空中で実施例5と同様の熱処理パターンで加熱、保持、冷却した後、大気圧に戻し、取り出して得られた試料粉末を目視観察したところ、多少茶色系に色づいた一様の微粉末であった。
【0096】
<実施例5-11>
第2原料混合粉末中におけるCuとMgの割合を変更した以外は、実施例5とまったく同じ条件で試験を行った。
【0097】
25~30%硝酸溶液に担持金属であるCuを3.2g溶解した硝酸銅溶液を作製し、TiO2原料粉末80.0gを水で懸濁させた水懸濁液と前記硝酸銅溶液とを混合して撹拌する。次にこの混合溶液を170℃以上の温度で乾燥して得た混合乾燥粉末とMg原料粉末0.8gを容器内に秤量して、振とうしたところ、混合乾燥粉末とMg原料粉末が均一に混合された第2原料混合粉末を得た。
【0098】
真空中で実施例5と同様の熱処理パターンで加熱、保持、冷却した後、大気圧に戻し、取り出して得られた試料粉末を目視観察したところ、多少茶色系に色づいた一様の微粉末であった。
【0099】
<実施例5-12>
第2原料混合粉末中におけるCuとMgの割合を変更した以外は、実施例5とまったく同じ条件で試験を行った。
【0100】
25~30%硝酸溶液に担持金属であるCuを0.24g溶解した硝酸銅溶液を作製し、TiO2原料粉末80.0gを水で懸濁させた水懸濁液と前記硝酸銅溶液とを混合して撹拌する。次にこの混合溶液を170℃以上の温度で乾燥して得た混合乾燥粉末とMg原料粉末3.2gを容器内に秤量して、振とうしたところ、混合乾燥粉末とMg原料粉末が均一に混合された第2原料混合粉末を得た。
【0101】
真空中で実施例5と同様の熱処理パターンで加熱、保持、冷却した後、大気圧に戻し、取り出して得られた試料粉末を目視観察したところ、多少茶色系に色づいた一様の微粉末であった。
【0102】
(F)TiO2の結晶構造の異なる光触媒粉末についての実施例
<実施例6>
試料粉末の作製
TiO2原料粉末は日本アエロジル(株)製のアナターゼ型87%とルチル型13%の混合粉末であり、純度は99%以上であり、1次粒径は20nmである。
【0103】
Mg原料粉末は、関東金属製であり、純度は99.5%以上であり、平均粒子径D50は100μmである。
【0104】
まず、25~30%硝酸溶液に担持金属であるCuを0.8g溶解した硝酸銅溶液を作製し、TiO2原料粉末80.0gを水で懸濁させた水懸濁液と前記硝酸銅溶液とを混合して撹拌する。次にこの混合溶液を170℃以上の温度で乾燥して得た混合乾燥粉末とMg原料粉末0.8gを容器内に秤量して、振とうしたところ、混合乾燥粉末とMg原料粉末が均一に混合された第2原料混合粉末を得た。
【0105】
図1は試料粉末作製に使用した製造装置の概略図である。黒鉛るつぼ1は内径φ70mm×高さ125mmであり、上面の中央にガス抜き穴11が設けられている。原料粉末2を黒鉛るつぼ1内に収納した後に、高周波加熱装置4を備えた真空加熱炉3内に水平に配置した。
【0106】
そして、原料粉末2が飛散しないように注意しながら、配管5を通じて真空ポンプ6を用いて真空加熱炉3内を8Paまで真空排気した。
【0107】
8Paまで真空排気した直後に、図2に示す熱処理パターンのように、室温(Tr)~450℃(Tmax)まで1時間(0~t1)かけて昇温し、450℃(Tmax)で3時間(t1~t2)保持し、その後、加熱電源をOFFにして、自然冷却した。昇温、保持、冷却の間も真空ポンプ6を用いて真空排気を続けた。
【0108】
十分に冷却した後、真空ポンプ6を停止し大気圧に戻し、黒鉛るつぼ1を取り出し、試料粉末を得た。
【0109】
得られた試料粉末を目視観察したところ、薄い黄色の一様の微粉末であった。
【0110】
<実施例6―2>
試料粉末の作製
TiO2原料粉末は高純度化学製のルチル型であり、純度は99%以上であり、1次粒径は500nmである。
【0111】
まず、25~30%硝酸溶液に担持金属であるCuを0.8g溶解した硝酸銅溶液を作製し、TiO2原料粉末80.0gを水で懸濁させた水懸濁液と前記硝酸銅溶液とを混合して撹拌する。次にこの混合溶液を170℃以上の温度で乾燥して得た混合乾燥粉末とMg原料粉末0.8gを容器内に秤量して、振とうしたところ、混合乾燥粉末とMg原料粉末が均一に混合された第2原料混合粉末を得た。
【0112】
図1は試料粉末作製に使用した製造装置の概略図である。黒鉛るつぼ1は内径φ70mm×高さ125mmであり、上面の中央にガス抜き穴11が設けられている。原料粉末2を黒鉛るつぼ1内に収納した後に、高周波加熱装置4を備えた真空加熱炉3内に水平に配置した。
【0113】
そして、原料粉末2が飛散しないように注意しながら、配管5を通じて真空ポンプ6を用いて真空加熱炉3内を8Paまで真空排気した。
【0114】
8Paまで真空排気した直後に、図2に示す熱処理パターンのように、室温(Tr)~500℃(Tmax)まで1時間(0~t1)かけて昇温し、500℃(Tmax)で3時間(t1~t2)保持し、その後、加熱電源をOFFにして、自然冷却した。昇温、保持、冷却の間も真空ポンプ6を用いて真空排気を続けた。
【0115】
十分に冷却した後、真空ポンプ6を停止し大気圧に戻し、黒鉛るつぼ1を取り出し、試料粉末を得た。
【0116】
得られた試料粉末を目視観察したところ、薄い黄土色をした一様の微粉末であった。
【0117】
<実施例6―3>
試料粉末の作製
TiO2原料粉末は高純度化学製のブルッカイト型であり、純度は99%以上であり、1次粒径は30nmである。
【0118】
まず、25~30%硝酸溶液に担持金属であるCuを0.8g溶解した硝酸銅溶液を作製し、TiO2原料粉末80.0gを水で懸濁させた水懸濁液と前記硝酸銅溶液とを混合して撹拌する。次にこの混合溶液を170℃以上の温度で乾燥して得た混合乾燥粉末とMg原料粉末0.8gを容器内に秤量して、振とうしたところ、混合乾燥粉末とMg原料粉末が均一に混合された第2原料混合粉末を得た。
【0119】
図1は試料粉末作製に使用した製造装置の概略図である。黒鉛るつぼ1は内径φ70mm×高さ125mmであり、上面の中央にガス抜き穴11が設けられている。原料粉末2を黒鉛るつぼ1内に収納した後に、高周波加熱装置4を備えた真空加熱炉3内に水平に配置した。
【0120】
そして、原料粉末2が飛散しないように注意しながら、配管5を通じて真空ポンプ6を用いて真空加熱炉3内を8Paまで真空排気した。
【0121】
8Paまで真空排気した直後に、図2に示す熱処理パターンのように、室温(Tr)~500℃(Tmax)まで1時間(0~t1)かけて昇温し、500℃(Tmax)で3時間(t1~t2)保持し、その後、加熱電源をOFFにして、自然冷却した。昇温、保持、冷却の間も真空ポンプ6を用いて真空排気を続けた。
【0122】
十分に冷却した後、真空ポンプ6を停止し大気圧に戻し、黒鉛るつぼ1を取り出し、試料粉末を得た。
【0123】
得られた試料粉末を目視観察したところ、ほとんど色づいていない白色の一様の微粉末であった。
【0124】
(G)その他の光触媒粉末についての比較例
【0125】
<比較例>
比較例として市販のアナターゼ型光触媒を入手した。
【0126】
市販のアナターゼ型光触媒は石原産業(株)製のST-01(商品名)であり、純度は87%であり、1次粒径は7nmである。
【0127】
(H)最終試料粉末の測定
得られた最終試料粉末について、リガク製X線回折装置RINT 2200VK/PCを用いてX線回折分析を行った。測定結果を図3図5に示す。図3図5において、曲線は最終試料粉末のX線回折プロファイルであり、アナターゼ型TiO2の標準ピークパターンとともに表示している。図3はアナターゼ型TiO2原料粉末のX線回折プロファイルを示している。図4は実施例1で得られた最終試料粉末のX線回折プロファイルを示している。図4のX線回折プロファイルから分かるように、熱処理温度が550°である実施例1の最終試料粉末は元のアナターゼ型の結晶構造を残したままであることが分かる。
【0128】
一方、図5は600℃(Tmax)で3時間熱処理にしたときに得られた最終試料粉末のX線回折プロファイルを示している。図5から熱処理温度が600℃になるとアナターゼ型の結晶構造が崩れてルチル型の結晶に変化していくことが分かる。また、熱処理温度が350℃である実施例1-2においては、熱処理温度が300℃近くになると一時的に炉内温度及び気圧が増大する変化が見られることからTiO2とMgの間に酸化還元反応が生じてTiO2の結晶構造に酸素欠陥が導入され始めるが、300℃未満では炉内の温度及び気圧に急激な変化は見られず、還元金属であるMgによるTiO2の還元反応が生じない。このように、最終試料粉末の結晶構造は350℃~550℃の熱処理温度において原料粉末であるTiO2の結晶構造を維持しつつ、結晶化が進むと同時に、還元金属によるTiO2の還元作用と物質拡散等が生じているものと考えられる。
【0129】
光触媒粉末の特性試験
次に、実施例1~6-3の光触媒粉末及び比較例の光触媒粉末についての特性試験について説明する。
【0130】
(I)光吸収スペクトルの測定結果
試料粉末を光透過のない厚さで平坦な平板状に成形して分光反射率測定用試料を準備した。
【0131】
分光反射率(拡散+正反射率)は、SolidSpec-3700DUV(島津製作所製、ダブルビーム式)を用いて、測定した。
【0132】
図6は分光反射率(拡散+正反射率)測定の配置を示す概略図である。分光反射率測定用試料の測定部分を包むように積分球を配置する。積分球の鉛直方向から8°傾いた部分に光入口を設けてある。不図示の分光器から特定波長の光が光入口を通って分光反射率測定用試料の測定部分に入射される。そして、反射光を測定して、試料の分光反射率(拡散+正反射率)を測定する。
【0133】
250~700nmにおける光吸収スペクトルの測定結果が図7及び図8に比較例と共に示されている。
【0134】
図7には、実施例1、実施例2、実施例2-2、実施例3、実施例4、実施例5及び比較例で得られた試料粉末の光吸収スペクトルの測定結果が示されている。図8には、実施例5、実施例6、実施例6-2、実施例6-3及び比較例で得られた試料粉末の光吸収スペクトルの測定結果が示されている。350nm以下の波長(紫外光領域)では、実施例1、実施例2、実施例2-2、実施例3、実施例4、実施例5、実施例6、実施例6-2、実施例6-3及び比較例の吸収率は約90~95%であり、ほぼ同等である。400~700nmの波長(可視光領域)においては、実施例1の吸収率が48~18%であり、実施例2の吸収率が62~59%であり、実施例2-2の吸収率が62~58%であり、実施例3の吸収率が30~28%であり、実施例4の吸収率が76~24%であり、実施例5の吸収率が67~42%であり、実施例6の吸収率が62~45%であり、実施例6-2の吸収率が67~35%であり、実施例6-3の吸収率が57~47%であり、比較例の吸収率が28~5%である。実施例1~6-3の光触媒は、いずれも、比較例に比べて、可視光領域での吸収率ははるかに優れていることがわかる。
【0135】
実施例2及び実施例2-2の光触媒は比較例の光触媒に比べて、可視光領域における吸収率が特に優れており、紫外光から可視光領域(250~700nm)において、還元材として還元金属(Mg)又はその水素化物(MgH2)を使用してもその光吸収スペクトルは殆ど同じであり、光触媒特性も殆ど同じであることが予測される。また、実施例5、実施例6、実施例6-2、実施例6-3の光触媒は、比較例の光触媒に比べて、可視光領域における吸収率が優れており、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型のいずれの結晶型であっても、本発明によって、市販のアナターゼ型光触媒よりも可視光領域における光吸収率を高められることがわかる。
【0136】
本実施例の光触媒は、いずれも資源も豊富で安価なTiO2をベースにしており、可視光領域における光触媒として使用されている酸化タングステン光触媒(WO3)のように高価で希少なWを使用せずに、優れた可視光領域の光吸収特性をもたせられることがわかる。
【0137】
(J)光触媒によるVOC分解評価試験
本発明に係る光触媒は、揮発性有機化合物(VOC)を分解することが期待されている。VOCを分解する能力の優劣を評価するために、気化したイソプロピルアルコール(IPA)が充満した容器内に実施例や比較例の光触媒を配置し、キセノンランプから発する光がUVカットフィルターを通して光触媒に照射されて、時間経過とともに変化するIPA残存率及びCO2発生量を測定した。IPAは光照射された光触媒によって一次分解されアセトンが生成され、アセトンがさらに二次分解されてCO2が発生する反応を利用するものである。
【0138】
図9に光触媒によるVOC分解評価試験に用いた装置の概観を示す。バッチ式パイレックス製反応器を用いて、下記条件で試験を行った。
i) 反応器容量:約392ml
ii) 光源:キセノンランプ300W(波長範囲:300~800nm)
iii) カットフィルター:420nm(420nm以下の波長をカットするときに使用)
iv) 雰囲気:乾燥空気(エアーコンプレッサーより供給)、室温
v) VOC(揮発性有機化合物)種類:IPA(イソプロピルアルコール)
vi) VOC濃度:約258ppm
vii) CO2及びVOCはガスクロマトグラフ(GC)(アジレント(株)製,Agilent 3000A MicroGC)のPlot Qカラム及びOV-1カラムを用いて検出した。CO2濃度はCO2センサー(理研計器(株)製,RI-2150)で測定した空気中の濃度を基にGCの積分値から簡易的に割り出した。VOCの初期濃度は光イオン化ガス検出センサー(RAE Systems社製、MiniRAE 3000)で測定し、系内のVOC濃度減少率はGC積分値の変化から計算した。
【0139】
図10には、300~800nmの光(紫外光から可視光)を照射した場合における実施例2、実施例2-2、実施例3、実施例3-4、実施例3-6、実施例3-7、実施例4、実施例5及び比較例で得られた試料粉末のVOC分解評価結果が示されている。なお、(a)はVOC残存率(%)を示し、(b)はCO2発生量(ppm)を示す。
【0140】
300~800nmの光(紫外光から可視光)を照射した場合には、実施例4を除く実施例3、実施例3-4、実施例3-6、実施例3-7、実施例2、実施例2-2、比較例、実施例5の光触媒は、3時間以内でほとんどのVOCを完全分解しており、実施例3、実施例3-6、実施例2、実施例4、実施例2-2、実施例3-7、比較例、実施例5、実施例4の光触媒の順に、VOCが分解されて発生するCO2の量が多いことがわかる。特に、300~800nmの光(紫外光から可視光)を照射した場合には、実施例3、実施例3-4、実施例3-6、実施例3-7、実施例2、実施例2-2の光触媒は、比較例としたアナターゼ型の光触媒よりCO2の発生量が多く、また実施例5も3時間以降では比較例よりもCO2発生量が多くなると予測され、いずれの光触媒も、比較例の光触媒より光触媒としての性能(光触媒性能)が高いことが分かる。
【0141】
図11には、420nm以上の光(可視光)を照射した場合における実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、実施例5-7、実施例5-11、実施例5-12で得られた試料粉末のVOC分解評価結果が示されている。なお、(a)はVOC残存率(%)を示し、(b)はCO2発生量(ppm)を示す。
【0142】
420nm以上の光(可視光)を照射した場合には、比較例の光触媒はほとんど活性を示さない。実施例5の光触媒は14時間の内にVOCの残存率はほぼ0となり、24時間でほぼ完全分解に近い状態にあり、約3000ppmのCO2が発生している。この値は、紫外光から可視光領域における比較例の光触媒のVOC分解によるCO2の発生量とほぼ同等のレベルである。実施例2の光触媒は実施例5には及ばないが、23時間でVOCの残存率はほぼ0となり、24時間で約2500ppmのCO2が発生しており、更にCO2の発生量は多くなると予測され、この値は光触媒として十分な特性を持っていることが分かる。実施例5-7、実施例5-11、実施例5-12はIPAの分解、CO2の発生量共に実施例5には及ばないものの十分な光触媒特性を有している。実施例3や実施例4の光触媒も時間の経過と共にVOCの減少が見られ、またそれに伴ってCO2の発生も見られることから、可視光領域で活性を示す光触媒といえる。実施例2~5のVOCの残存率が、減少後に一旦増加した後に減少する変化は、光照射された光触媒によってIPAが一次分解されアセトンが生成されることによるガス気体の増加のためであり、その後アセトンは二次分解されて容器内のVOCは減少すると同時に完全分解されたCO2量が増加していく。
【0143】
図12には、420nm以上の光(可視光)を照射した場合における、TiO2の結晶型が異なる実施例5、実施例6、実施例6-2、実施例6-3で得られた試料粉末のVOC分解評価結果が示されている。なお、(a)はVOC残存率(%)を示し、(b)はCO2発生量(ppm)を示す。
【0144】
420nm以上の光(可視光)を照射した場合には、実施例5、6、6-2、6-3の順に、VOCが分解されて発生するCO2の量が減少しており、TiO2の結晶型によって光触媒としての性能が異なることが分かる。実施例5の触媒は可視光領域で非常に高い光触媒性能を示し、比較例の触媒の紫外光から可視光領域で見られるVOC分解によるCO2の発生量と同等の光触媒性能を示している。実施例6、実施例6-2、実施例6-3の可視光領域での光触媒性能は実施例5程ではないが、24時間で数100ppm以上のCO2が発生しており、光触媒性能が高いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明に係る光触媒は、紫外光から可視光領域においては、市販の紫外線光触媒に比べてVOC分解能力が優れていると同時に、特に可視光照射した場合においてもVOC分解能力が優れているので、室外で建造物の壁等の汚れ防止に用いることができるばかりでなく、一般家庭や事務所や映画館や自動車や列車(特に地下鉄列車)の室内やトンネル内に設置して、シックハウス原因物質や有害有機化合物を分解して、より健全な環境を保つことができる。また、本発明に係る光触媒を空気中に配置することによって、空気の清浄化に役立つばかりでなく、本発明に係る光触媒を水中に配置すると、大腸菌などを殺菌することができ、水の清浄化にも役立ち、トイレ、風呂、プール、理容院、病院の内部や周辺に配置することによって、衛生的な水の環境を維持することができる。また、本発明に係る光触媒によって、臭いの原因物質を分解することができ、トイレ、風呂、プール、理容院、病院、鉄道列車、自動車の内部や周辺に配置することによって、衛生的で悪臭の少ない環境を維持することができる。
【符号の説明】
【0146】
1 黒鉛るつぼ
2 原料混合粉末
3 真空加熱炉
4 高周波加熱装置
5 配管
6 真空ポンプ
11 ガス抜き穴
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14