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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】焼成体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/447 20060101AFI20240314BHJP
   C04B 33/13 20060101ALI20240314BHJP
   C01B 25/32 20060101ALI20240314BHJP
   F21V 3/06 20180101ALI20240314BHJP
   A47G 19/00 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
C04B35/447
C04B33/13 A
C01B25/32 Q
F21V3/06 110
A47G19/00 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019021019
(22)【出願日】2019-02-07
(65)【公開番号】P2020128305
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2022-01-04
(73)【特許権者】
【識別番号】517450703
【氏名又は名称】株式会社バイオアパタイト
(73)【特許権者】
【識別番号】391048049
【氏名又は名称】滋賀県
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100169236
【弁理士】
【氏名又は名称】藤村 貴史
(72)【発明者】
【氏名】中村 弘一
(72)【発明者】
【氏名】酒井 有紀
(72)【発明者】
【氏名】植西 寛
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0023784(US,A1)
【文献】特開昭62-162668(JP,A)
【文献】特開昭54-105115(JP,A)
【文献】特開2016-147799(JP,A)
【文献】特開平10-017310(JP,A)
【文献】特開昭54-152009(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108585886(CN,A)
【文献】特開昭63-285154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/447
C04B 33/13
C01B 25/32
F21V 3/06
A47G 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状ケイ酸塩鉱物及びハイドロキシアパタイトを含む組成物を焼成ることを特徴とする透光性焼成体の製造方法であって
前記ハイドロキシアパタイトが、線源としてCuKα線を用いたX線回折において、2θ=31.5~32.5°におけるピークから算出した結晶子サイズが10~200Åであるハイドロキシアパタイトである透光性焼成体の製造方法
【請求項2】
層状ケイ酸塩鉱物及びハイドロキシアパタイトを含む組成物を焼成ることを特徴とする多孔質焼成体の製造方法であって
前記ハイドロキシアパタイトが、線源としてCuKα線を用いたX線回折において、2θ=31.5~32.5°におけるピークから算出した結晶子サイズが10~200Åであるハイドロキシアパタイトである多孔質焼成体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼成体及びその製造方法に関し、詳しくは、層状ケイ酸塩鉱物及びハイドロキシアパタイトを含む組成物を焼成してなることを特徴とする焼成体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
古来から、層状ケイ酸塩鉱物などの粘土を捏ねて、成形してから高温で焼成して得られる陶磁器が生産され、食器、照明器具、調度品を始めとして様々な製品に利用されている。また、陶磁器の技術はファインセラミック製品として、工業的にも応用され、ベアリング、歯科、電子部品、セラミック磁性体、センサー、燃料電池の部材など、利用分野が大きく広がりつつある。
【0003】
陶磁器は、釉薬の有無や焼成温度等によって、土器、せっ器(石器、ストーンウェア)、陶器及び磁器といったものに分類されるが、これらは、層状ケイ酸塩鉱物を主成分とする粘土を捏ねて、成形し、数百℃以上の高温で焼成して得られるという点で共通する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、陶磁器やセラミックス製品はその利用分野を広げつつあり、多様な用途に対応できるように新たな材料や製造方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討した結果、層状ケイ酸塩鉱物に対してハイドロキシアパタイトを配合し、焼成することにより、好ましくは500~1500℃で焼成することにより、新たなセラミックス焼成体が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は、以下の[1]~[11]のとおりである。
[1]層状ケイ酸塩鉱物及びハイドロキシアパタイトを含む組成物を焼成してなることを特徴とする焼成体。
[2]層状ケイ酸塩鉱物及びハイドロキシアパタイトを含む組成物を500~1500℃で焼成してなることを特徴とする焼成体。
[3]前記層状ケイ酸塩鉱物がカオリンである[1]または[2]の焼成体。
[4]前記組成物がさらに、長石を含む[1]~[3]のいずれかの焼成体。
[5]前記組成物中、ハイドロキシアパタイトの含有量が1~40質量%である[1]~[4]のいずれかの焼成体。
[6]透光性焼成体である[1]~[5]のいずれかの焼成体。
[7]多孔質焼成体である[1]~[5]のいずれかの焼成体。
[8]前記ハイドロキシアパタイトが、線源としてCuKα線を用いたX線回折において、2θ=31.5~32.5°におけるピークから算出した結晶子サイズが10~200Åであるハイドロキシアパタイトである[1]~[7]のいずれかの焼成体。
[9]前記ハイドロキシアパタイトが、生物由来のカルシウム分を原料として得られるハイドロキシアパタイトである[1]~[8]のいずれかの焼成体。
[10]層状ケイ酸塩鉱物とハイドロキシアパタイトとを混合し、組成物を得て、該組成物を成形した後に焼成する工程を有することを特徴とする焼成体の製造方法。
[11]層状ケイ酸塩鉱物とハイドロキシアパタイトとを混合し、組成物を得て、該組成物を成形した後に500~1500℃で焼成する工程を有することを特徴とする焼成体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の焼成体は、優れた透光性や吸水性を有する。また、ハイドロキシアパタイトを含むことにより、ハイドロキシアパタイトが有する様々な物質に対する吸着性も有する。さらに、本発明の焼成体の製造方法により、人工合成可能なハイドロキシアパタイトを使用しつつ、粘土鉱物であり生産地が限られる層状ケイ酸塩鉱物の使用量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1のハイドロキシアパタイトのX線回折の結果を表したグラフ図である。
図2】結晶型ハイドロキシアパタイトのX線回折の結果を表したグラフ図である。
図3】低結晶型ハイドロキシアパタイトのX線回折の結果を表したグラフ図である。
図4】非結晶型ハイドロキシアパタイトのX線回折の結果を表したグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[層状ケイ酸塩鉱物]
本発明の層状ケイ酸塩鉱物は、粘土に含まれる層状ケイ酸塩鉱物であれば特に限定なく用いることができる。層状ケイ酸塩鉱物は、Si-O四面体が平面的につながっている構造が基本となっており、この四面体からなる単位構造に加えて、八面体シートなどの他の構造が含まれることによりバリエーションが生じている。本発明の層状ケイ酸塩鉱物としては、蛇紋石、カオリン(カオリナイト)、タルク、パイロフィライト、スメクタイト、バーミキュライト、雲母(マイカ)、緑泥石、モンモリロナイト、珪石、硅石などが挙げられる。好ましくは、カオリン、モンモリロナイトであり、カオリンが最も好ましい。
また、層状ケイ酸塩鉱物は、他の粘土鉱物と併用することも可能であり、粘土の形でハイドロキシアパタイトと混合し、用いることも可能である。
層状ケイ酸塩鉱物の平均粒径は特に限定されないが、好ましくは、5μm以下である。平均粒径は、レーザー回折分散法により測定することができる。
層状ケイ酸塩鉱物の配合量は、好ましくは、組成物中、20~90質量%、より好ましくは、30~80質量%である。
【0010】
[他の粘土鉱物]
他の粘土鉱物としては、アロフェン、含水アルミニウムケイ酸塩、イモゴライト、ヒシンゲライト、フェリハイドライト、オパール、ゼオライト、カーロスターナイト等が挙げられる。
【0011】
[ハイドロキシアパタイト]
本発明のハイドロキシアパタイトは、例えば、Ca10(PO(OH)で表されるカルシウム-リン複合体であり、市販されているものを適宜使用することができる。また、酸化カルシウムや水酸化カルシウムとリン酸とを滴下・混合することによりハイドロキシアパタイトを製造することもできる。
【0012】
本発明で用いられるハイドロキシアパタイトは、好ましくは、X線構造解析において、2θが31.500~32.500°に現れるピークの結晶子サイズが10~200Å、より好ましくは30~150Å、さらに好ましくは50~120Åのハイドロキシアパタイトである(以下、説明のために「特定ハイドロキシアパタイト」とも称する。)。特定ハイドロキシアパタイトのX線構造回折の一例を図1に表す。結晶子サイズとは、結晶粒の大きさを表し、結晶性を表す目安となる数値である。結晶子サイズの数値が大きいほど、測定対象である物質の結晶性が高いことを意味する。結晶子サイズが前記範囲にあるハイドロキシアパタイトは、結晶化していない(非結晶型)ハイドロキシアパタイトのみ又は非結晶型ハイドロキシアパタイトと結晶化の程度が低い(低結晶型)ハイドロキシアパタイトとが混合されたものを意味する。ここで、本発明における「非結晶型ハイドロキシアパタイト」とは、X線解析によって、図4のようなチャートが得られる物質を意味する。また、本発明における「低結晶型ハイドロキシアパタイト」とは、X線解析によって得られるチャートが、結晶型ハイドロキシアパタイトのX線解析によって得られるチャート(例えば、図2のチャート参照)と比較してピークの分離の程度が比較的低い(図3のようなチャートが得られる)物質である。
結晶子サイズは、例えば、株式会社リガク社製のX線解析装置 型番:RINT2200V/PCにより測定できる。
【0013】
本発明で用いるハイドロキシアパタイトは、生物由来、好ましくは、化石サンゴ、貝殻または卵殻由来のハイドロキシアパタイトであることが好ましい。生物由来のハイドロキシアパタイトとは、貝殻や卵殻などの生物材料から得られるカルシウム分を原料にして得られたハイドロキシアパタイトのことをいう。
【0014】
本発明のハイドロキシアパタイトは、平均粒子径が1~130μmであることが好ましく、より好ましくは1~20μm、さらに好ましくは1~10μmである。平均粒子径は、レーザー光散乱回折法で測定することができる。
【0015】
ハイドロキシアパタイトの配合量は、組成物中、1~60質量%が好ましく、5~50質量%がより好ましい。
【0016】
[特定ハイドロキシアパタイトの製造方法の例]
本発明において好適に用いられる特定ハイドロキシアパタイトの製造方法の例を説明する。
この製造方法は、酸化カルシウム懸濁液または水酸化カルシウム懸濁液(被添加液)にリン酸溶液(添加液)を添加し又はリン酸溶液(被添加液)に酸化カルシウム懸濁液(添加液)を添加して、前記ハイドロキシアパタイト分散液を得るというものである。
添加液を被添加液に添加する際には、通常のいかなる添加方法も使用可能である。具体的な方法は、例えば、容器に被添加液を入れて、前記容器に滴下ロート等の器具を用いて添加液を滴下する方法が挙げられる。なお、酸化カルシウム懸濁液を添加液として使用する場合には、滴下ロート等に入れた酸化カルシウム懸濁液(または水酸化カルシウム懸濁液)を攪拌しながら滴下することが好ましい。
添加液の添加速度は、例えば、被添加液中に含まれる酸化カルシウム(水酸化カルシウム)又はリン酸1モルに対して、添加液中に含まれる酸化カルシウム(水酸化カルシウム)又はリン酸換算で0.01~8.0モル/hであることが好ましく、0.05~5.0モル/hであることがより好ましく、0.1~2.0モル/hであることがさらに好ましい。添加速度を前記数値範囲とすることで、ハイドロキシアパタイト以外のリン酸カルシウム化合物の生成を抑制できる。
【0017】
特定ハイドロキシアパタイトの製造方法において、添加液を被添加液に添加する際にはpH調整のための水酸化ナトリウム等のアルカリ剤添加をしなくともよい。
酸化カルシウム懸濁液中の酸化カルシウムの総量と、リン酸溶液中のリン酸の総量の比率は、例えば、モル比でカルシウムイオン:リン酸イオンが10:6~9:6となるようにすることが好ましい。勿論、反応条件等によって、前記比率を変更することも可能である。前記モル比率の調整は、添加液及び被添加液の濃度及び量を調整することにより調整できる。
【0018】
酸化カルシウムなどのカルシウム塩にリン酸を添加する際、或いは、リン酸に対してカルシウム塩を添加する際の温度条件は、90℃以下とする。この場合、添加液及び被添加液の双方を90℃以下にしておくことが好ましい。さらに好ましくは、添加液及び被添加液の温度を5~90℃の範囲とすることが好ましく、20~80℃の範囲とすることがより好ましく、40~70℃の範囲とすることがさらに好ましい。添加液及び被添加液の温度を前記範囲とすることにより、ハイドロキシアパタイトの結晶化を抑制し、かつハイドロキシアパタイトを得るための反応をスムーズに進行させるという効果が得られる。
被添加液を攪拌しながら添加液を添加することも可能である。
【0019】
上記温度条件のもとで被添加液に添加液を添加することにより、X線構造解析において、2θが31.500~32.500°に現れるピークの結晶子サイズが10~200Å、好ましくは30~150Å、より好ましくは50~120Åであるハイドロキシアパタイトの微細な粒子が分散された分散液(反応液)が得られる。この分散液をそのまま焼成前の組成物に配合しても良いし、水等の溶媒を用いて希釈し又は溶媒を蒸発させて濃縮することにより、濃度を調整してから組成物に配合してもよいが、分散液(反応液)を80℃以上に加熱して、乾燥させることが好ましい。乾燥温度は80~500℃がより好ましく、120~400℃がさらに好ましい。乾燥させることにより、特定ハイドロキシアパタイト粉末が得られ、溶媒の量を気にせずに、特定ハイドロキシアパタイトを組成物に配合することができる。
【0020】
[酸化カルシウム懸濁液または水酸化カルシウム懸濁液]
本発明において、前記特定ハイドロキシアパタイトを得る際の出発物質として、酸化カルシウムまたは水酸化カルシウムを用いることができる。本発明においては、酸化カルシウムまたは水酸化カルシウムを溶媒に添加して得られる懸濁液の状態で使用することが好ましい。上記特定ハイドロキシアパタイトの製造方法では、酸化カルシウムまたは水酸化カルシウムを溶解させるため及び/又はpH調整のために酸性又はアルカリ性物質を添加する必要が無く、工程を大幅に省略できる。
酸化カルシウム懸濁液を調製する際に使用する酸化カルシウムは、市販されている酸化カルシウムを用いることが出来る。水酸化カルシウム懸濁液についても同様に、市販の水酸化カルシウムを用いることができる。酸化カルシウム(水酸化カルシウム)懸濁液は、酸化カルシウムを溶媒に添加して得られる。酸化カルシウム(水酸化カルシウム)の添加量は、例えば、溶媒1リットルに対して0.2~9.0モル添加することが好ましく、1.0~5.0モル添加することがより好ましく、1.5~4.0モル添加することがさらに好ましい。溶媒は、メタノール又はエタノール等のアルコール溶媒及び水から選択される溶媒を使用できる。生産効率及び作業上の安全性の観点から、溶媒として水を使用することが好ましい。
【0021】
また、生物の外殻、鱗及び/又は骨、特に貝殻や卵殻を焼成して得られた粉末を前記溶媒に添加することにより、酸化カルシウム懸濁液を調製することが好ましい。このように調製された酸化カルシウム懸濁液は、生物由来の原料を使用することにより、人体に悪影響を及ぼす不純物が含まれていないため、より好ましい。生物の外殻として、化石サンゴや、ホタテやアコヤガイ等の貝殻が例示できる。生物の鱗として、魚類又はは虫類の鱗が例示できる。生物の骨として、ほ乳類、魚類、は虫類又は両生類の骨が例示できる。卵殻として、鶏の卵殻を例示できる。入手及び加工が容易であることから、生物の外殻、例えばホタテ又はアコヤガイの貝殻または卵殻を使用することがより好ましい。
前記粉末は、貝殻や卵殻を、例えば、800~1050℃の温度で、1~96時間、好ましくは5~72時間焼成することにより調製できる。焼成前に貝殻や卵殻を粉末化しても良いし、焼成後に粉末化しても良い。
前記粉末を水に添加して酸化カルシウム懸濁液を調製する場合には、前記粉末の添加量を、前記溶媒1リットルに対して、酸化カルシウム換算で0.2~9.0モル添加することが好ましく、1.0~5.0モル添加することがより好ましく、1.5~4.0モル添加することがさらに好ましい。前記粉末に含まれる酸化カルシウムの量は、塩酸滴定等通常の方法により確認できる。
【0022】
[リン酸溶液]
本発明で使用するリン酸溶液は、市販のリン酸をエタノール又はメタノール等のアルコール溶媒及び水から選択される溶媒に溶解させて調製できる。生産効率及び作業上の安全性の観点から、溶媒として水を使用することが好ましい。リン酸溶液の濃度は、基材のより良好な生産効率を達成する観点から、例えば、0.5~10.0Mにすることが好ましく、1.0~7.0Mにすることがより好ましく、2.0~5.0Mにすることがさらに好ましい。
【0023】
[長石]
本発明の焼成体は、焼成前の組成物が長石を含むことが好ましい。長石は、アルカリ金属、アルカリ土類金属などのアルミノケイ酸塩を主成分とする三次元構造のテクトケイ酸塩の一種である。本発明においては、アルカリ長石が好ましい。長石の配合量は、焼成前の組成物中、1~40質量%であることが好ましい。
【0024】
[その他の成分]
本発明の焼成体は、焼成前の組成物に、層状ケイ酸塩鉱物及びハイドロキシアパタイト以外のその他の成分を含むことができる。その他の成分としては、粘土、石灰石(炭酸カルシウム)、解膠剤、分散剤が挙げられる。解膠剤としては、セルロールナノファイバー、ケイ酸ナトリウムなどが挙げられる。分散剤としてはアクリル酸系分散剤などが挙げられる。
石灰石の配合量は、焼成前の組成物中、1~10質量%が好ましい。解膠剤の配合量は、焼成前の組成物中、1~30質量%が好ましい。分散剤の配合量は、焼成前の組成物中、0.1~30質量%が好ましい。
【0025】
[焼成温度]
本発明の焼成体は、層状ケイ酸塩鉱物及びハイドロキシアパタイトを含む組成物を500~1500℃の温度で焼成することにより得られる。
興味深いことに、焼成温度が1260℃超1500℃以下の範囲では、透光性のある焼成体が得られ、焼成温度が500~1260℃の範囲では、透光性は低い一方で吸水性のある焼成体が得られる。
【0026】
[焼成体の製造方法]
本発明の焼成体の製造方法は、層状ケイ酸塩鉱物とハイドロキシアパタイトとを混合し、組成物を得て、該組成物を成形した後に500~1500℃で焼成する工程を有することを特徴とするものである。そのほかの工程は、一般的な陶磁器(セラミック製品)の製造方法の工程を採用することができる。たとえば、陶磁器の焼成前の成形方法には、押出成形、ろくろ成形(手ろくろ、機械ろくろ、ローラーマシン)、射出成形、プレス成形、泥漿鋳込み成形、排泥鋳込み成形、圧力鋳込み成形、固形鋳込み成形、テープ成形などがあるがいずれも採用することができる。特に、ろくろ成形、泥漿鋳込み成形及び排泥鋳込み成形が好ましい。
【0027】
ろくろ成形は、回転する円盤上に杯土(本発明においては、層状ケイ酸塩鉱物及びハイドロキシアパタイトを含む組成物)を置いて旋回させ、遠心力を利用して成形する方法である。杯土は、層状ケイ酸塩鉱物、ハイドロキシアパタイト及び必要に応じてその他の成分をボールミル等により粉砕混合し、フィルタープレスなどにより脱水したものを、土練機などを用いて混錬することにより得られる。
【0028】
泥漿鋳込み成形は、粉体(本発明においては、層状ケイ酸塩鉱物及びハイドロキシアパタイトを含む組成物)を水などの液体の中に添加して懸濁させた泥漿を石膏型などの鋳型に流し込み、所望の形状を得る成形法である。
排泥鋳込み成形は、泥漿を鋳型に流し入れ、鋳型の内側表面部分の泥漿が固まった後に、泥漿を排出することで成形体を得る方法である。
泥漿は、粉体(本発明においては、層状ケイ酸塩鉱物及びハイドロキシアパタイトを含む組成物)を水などの液体の中に添加して懸濁させ、フィルタープレスなどを用いて脱水したものに、解膠剤(分散剤)と水を加えることによっても製造することができる。
また、成形後、焼成前に、成形体を乾燥させてもよい。
【実施例
【0029】
以下、実施例により本開示の内容をさらに詳しく説明する。実施例により、本開示の範囲が限定されないことは言うまでもない。
【0030】
[実施例1]
生物由来合成ハイドロキシアパタイト(ニワトリの卵殻由来の炭酸カルシウムを焼成することにより得られた酸化カルシウムを用いて得られたハイドロキシアパタイトであり、X線構造解析において、2θが31.500~32.500°に現れるピークの結晶子サイズが10~200Åであるハイドロキシアパタイト)40質量%、石灰石5質量%、長石20質量%、カオリンおよび粘土鉱物35質量%(カオリン30質量%、粘土鉱物5質量%)を混合して得られる混合物100質量部に対し、水70質量部、セルロースナノファイバー2質量部、珪酸ナトリウム0.3質量部、アクリル酸系分散剤1質量部を加え、ボールミルにて3時間湿式粉砕をおこない、鋳込み成形用の組成物(泥漿)を得た。ここで得られた泥漿をΦ150×H300mmの石膏型に注型して、着肉後に脱型し、乾燥後、1280℃で焼成することにより透光性磁器を得た。
得られた透光性磁器は、優れた透光性を有し、間接照明用カバーなどの照明器具に有用であった。
【0031】
[実施例2]
生物由来合成ハイドロキシアパタイト(実施例1と同様)40質量%、石灰石5質量%、長石20質量%、カオリンおよび粘土鉱物35質量%(カオリン30質量%、粘土鉱物5質量%)を混合して得られる混合物100質量部に対し、水70質量部、セルロースナノファイバー2質量部、珪酸ナトリウム0.3質量部、アクリル酸系分散剤1質量部を加え、ボールミルにて3時間湿式粉砕をおこない、鋳込み成形用の組成物(泥漿)を得た。ここで得られた泥漿をΦ150×H300mmの石膏型に注型して、着肉後に脱型し、乾燥後、1100℃で焼成することにより焼成体(多孔質陶器)を得た。
得られた多孔質陶器は、吸水性を有していた。
【0032】
[実施例3]
生物由来合成ハイドロキシアパタイト(実施例1と同様)40質量%、石灰石5質量%、長石20質量%、カオリンおよび粘土鉱物35質量%(カオリン20質量%、粘土鉱物15質量%)からなる混合物100質量部に対し、水45質量部、セルロースナノファイバー5質量部を混錬し、組成物(坏土)を得た。ここで得られた坏土をろくろを用いてΦ100×H100mmの碗状に成形し、削り加工をし、乾燥後、1280℃で焼成することにより焼成体(透光性磁器)を得た。
得られた透光性磁器は、優れた透光性を有し、間接照明用カバーなどの照明器具に有用であった。
【0033】
[実施例4]
生物由来合成ハイドロキシアパタイト(実施例1と同様)40質量%、石灰石5質量%、長石20質量%、カオリンおよび粘土鉱物(カオリン20質量%、粘土鉱物15質量%)からなる混合物100質量部に対し、水45質量部、セルロースナノファイバー5質量部を混錬し、坏土を得た。ここで得られた坏土をろくろ用いてΦ100×H100mmの碗状に成形し、削り加工をし、乾燥後、1100℃で焼成することにより焼成体(多孔質陶器)を得た。
得られた多孔質陶器は、吸水性を有していた。
【0034】
上記のように、本発明の焼成体は、透光性磁器、多孔質陶器として、食器、照明器具などの用途に有用である。また、ハイドロキシアパタイトが配合されていることから、耐熱性、耐アルカリ性に優れており、耐熱性や耐アルカリ性が求められる用途にも好適である。
図1
図2
図3
図4