(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】堆積土砂除去のためのシステム
(51)【国際特許分類】
E02F 3/88 20060101AFI20240314BHJP
【FI】
E02F3/88 C
(21)【出願番号】P 2021197881
(22)【出願日】2021-12-06
【審査請求日】2022-04-05
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521533658
【氏名又は名称】株式会社鳥取クリエイティブ研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】599027312
【氏名又は名称】株式会社 吉田組
(73)【特許権者】
【識別番号】391002454
【氏名又は名称】株式会社吉谷機械製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】511107957
【氏名又は名称】三国屋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】枝光 桂資
(72)【発明者】
【氏名】濱崎 隆詞
(72)【発明者】
【氏名】松原 雄平
(72)【発明者】
【氏名】吉谷 勇一郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 敦
(72)【発明者】
【氏名】清水 健
(72)【発明者】
【氏名】大塩 浩次
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-227671(JP,A)
【文献】特開2012-193502(JP,A)
【文献】特開2015-232245(JP,A)
【文献】特開2014-211048(JP,A)
【文献】特開2001-123521(JP,A)
【文献】特開2016-215170(JP,A)
【文献】特開2021-038511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 3/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
堆積土砂を処理するためのシステムであって、
エンジンおよび前記エンジンで駆動可能なポンプ装置を備えた
ポンプ自動車と、
前記
ポンプ自動車に積載された、前記ポンプ装置から水が圧送されることで発生する負圧を利用して吸引力を発生させるエジェクター装置と、
を有し、
前記エジェクター装置は、送水口、吐出口および吸引口を有し、前記ポンプ装置から前記送水口に水が圧送されることで前記吸引口に前記吸引力を発生させ、前記吸引口から土砂を含む水を吸引し、かつ、吸引した前記土砂を含む水を前記吐出口から吐出するように構成され
、
前記ポンプ装置は、高圧ポンプと真空ポンプとを有し、
前記高圧ポンプには、吸水口と、前記エジェクター装置の使用時に前記送水口と接続される放水口とが設けられ、
前記真空ポンプは、前記高圧ポンプとの間で前記エンジンの動力を切り替え可能に設けられ、前記高圧ポンプの内部を減圧して前記吸水口から水を吸引することによって前記高圧ポンプが水で満たされるように構成される、
システム。
【請求項2】
前記エジェクター装置は、一端が前記送水口となり、かつ、他端が前記吐出口となる第1の部分と、前記第1の部分の途中で前記第1の部分と交差して接続された、前記吸引口を有する第2の部分を有する、可動する機構を持たない管状の構造体である請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記エンジンは、前記
ポンプ自動車自身の動力源であり、前記エンジンの動力を前記ポンプ装置の動力として取り出すことができるように構成されている請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記ポンプ装置は複数の
前記放水口を有する請求項1~3のいずれかに記載のシステム。
【請求項5】
前記
ポンプ自動車には複数の前記エジェクター装置が積載される請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記
ポンプ自動車に積載されたアタッチメントをさらに有し、
前記アタッチメントは、
下面が開放した筐体と、
前記エジェクター装置と同じ構成を有する第2エジェクター装置であって、前記第2エジェクター装置の吸引口が前記筐体と連通した第2エジェクター装置と、
前記筐体内に配置された撹拌羽根と、
を有する、
請求項1~5のいずれかに記載のシステム。
【請求項7】
前記
ポンプ自動車に積載された可搬式ポンプをさらに有する請求項1~6のいずれかに記載のシステム。
【請求項8】
前記
ポンプ自動車に牽引される被牽引車をさらに有し、
フロート台船が前記被牽引車に積載される、
請求項1~7のいずれかに記載のシステム。
【請求項9】
前記
ポンプ自動車はタイヤ式車両である請求項1~8のいずれかに記載のシステム。
【請求項10】
前記
ポンプ自動車は無限軌道式車両である請求項1~8のいずれかに記載のシステム。
【請求項11】
前記
ポンプ自動車は伸縮ブーム付き車両である請求項1~10のいずれかに記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川の河口部や港湾に堆積した土砂を除去するためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ダム湖、調整池、溜池などでは、水底に土砂が堆積することにより貯水能力が低下するため、堆積した土砂を除去する必要がある。このような、水底に蓄積した土砂を連続的に効率よく除去するものとして、例えば特許文献1~3に開示された、エジェクターポンプを用いた浚渫システムが知られている。この浚渫システムは、高圧ポンプ、エジェクター装置、吸引管、流体注入装置および排砂管を備え、エジェクターを流体注入装置とともに駆動して、水底の堆砂を流体注入装置により注入される流体と混合して、吸引管を通してエジェクターに吸引し、排砂管へ圧送するようになっている。このようなエジェクターポンプはジェット水による負圧を利用して吸引および輸送を行うので、サンドポンプと比較してインペラの摩耗がない分だけ、耐久性が高く、閉塞の可能性が少ないという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-53437号公報
【文献】特開2014-148790号公報
【文献】特開2014-227671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の浚渫システムでは、実際にダム湖等の現場で土砂除去処理を行なう際には、高圧ポンプ、エジェクター装置、吸引管、流体注入装置等の資材に加え、高圧ポンプを駆動する発電機をトラック等に積載して現場まで輸送し、現場にてこれら資材と組み立てるという作業が必要であった。
【0005】
一方、波浪により大量の土砂が海岸から河口部に流れ込んで堆積し、河口部を閉塞してしまうこともある。こうした閉塞を解消するため、河口部において堆積した土砂の除去処理が必要となる。また、波浪により港湾や漁港に土砂が堆積することによって船舶の出港や帰港の妨げになることもあり、このような場合には港湾や漁港において堆積した土砂の除去処理が必要となる。さらには、河川の氾濫、津波、高潮などにより浸水被害が発生した場合も、それら浸水被害が発生した現場において堆積した土砂の除去処理が必要となる。
【0006】
このように、堆積した土砂の除去処理が必要とされる場面は多岐に及んでおり、特に、土砂の堆積が低気圧の通過など天候の変化に起因する場合は、機動性および即応性が求められる。
【0007】
本発明の目的の一つは、堆積した土砂の除去が必要となる様々な場面において高い機動性かつ高い即応性で土砂の除去処理を行なえるシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、堆積土砂を処理するためのシステムであって、
エンジンおよび前記エンジンで駆動可能なポンプ装置を備えた車両と、
前記車両に積載された、前記ポンプ装置から水が圧送されることで発生する負圧を利用して吸引力を発生させるエジェクター装置と、
を有し、
前記エジェクター装置は、送水口、吐出口および吸引口を有し、前記ポンプ装置から前記送水口に水が圧送されることで前記吸引口に前記吸引力を発生させ、前記吸引口から土砂を含む水を吸引し、かつ、吸引した前記土砂を含む水を前記吐出口から吐出するように構成される、
システムが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、堆積した土砂の除去が必要となる様々な場面において高い機動性かつ高い即応性で土砂の除去処理を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態によるシステムの斜視図である。
【
図2】
図1に示す車両に備えられているポンプ装置の主要な構造を模式的に示す図である。
【
図2A】
図2に示すポンプ装置の動作を説明する図である。
【
図2B】
図2に示すポンプ装置の動作を説明する図である。
【
図2C】
図2に示すポンプ装置の動作を説明する図である。
【
図3】
図1に示す車両に備えられているエジェクター装置の一例の斜視図である。
【
図4】
図1に示すシステムを用い、河口に堆積した土砂の除去作業を行う場合について説明する図である。
【
図5A】
図1に示すシステムを用い、港湾に堆積した土砂の除去作業を行う場合について説明する図である。
【
図6A】港湾に堆積した土砂の除去に用いることのできるアタッチメントの一例の、背面側から見た斜視図である。
【
図6B】港湾に堆積した土砂の除去に用いることのできるアタッチメントの一例の、正面側から見た斜視図である。
【
図7】港湾に堆積した土砂の除去の他の形態を示す図である。
【
図8A】それぞれ複数の放水口を有する複数のポンプ装置を備えた車両を用いた場合の、エジェクター装置の利用形態(複数のエジェクター装置を並列的に接続)を示す図である。
【
図8B】それぞれ複数の放水口を有する複数のポンプ装置を備えた車両を用いた場合の、エジェクター装置の利用形態(1つのエジェクター装置に集中的に水を供給)を示す図である。
【
図8C】それぞれ複数の放水口を有する複数のポンプ装置を備えた車両を用いた場合の、エジェクター装置の利用形態(複数のエジェクター装置を直列的に接続)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1を参照すると、車両100、エジェクター装置130、可搬式ポンプ140、ホース150,および配管160を有する、本発明の一実施形態による、堆積土砂を処理するためのシステムが示される。車両100は、それ自身の動力となるエンジン110と、エンジン110で駆動可能なポンプ装置120とを備えている。このように、エジェクター装置130、可搬式ポンプ140、ホース150および配管は、それぞれ車両100に積載されている。車両100としては、エンジン110で駆動可能なポンプ装置120を備えている点および様々な資材を積載できる点で、消防ポンプ自動車を好ましく利用することができる。以下、各部の詳細および本システムの使用形態等について説明する。
【0012】
[ポンプ装置]
図2に示すように、ポンプ装置120は、インペラ125を収容したケーシングを備えた高圧ポンプ121と、高圧ポンプ121に接続された真空ポンプ122とを有する。インペラ125は、シャフト111に連結されている。シャフト111は、車両100(
図1参照))に搭載されたP.T.O(パワー・テイク・オフ)と連結されており、これによってエンジン110(
図1参照)の動力をインペラ125の動力、すなわち高圧ポンプ121の動力として取り出すことができるように構成されている。高圧ポンプ121には吸水口121a、放水口121b、中継口121cが設けられており、インペラ125の駆動により、水は吸水口121aから高圧ポンプ121内に吸い込まれ、吸い込まれた水が放水口121bから放出される。中継口121cは、他のポンプ装置と連結されて中継送水に利用される。吸水口121a、放水口121b、中継口121cにはそれぞれコック(不図示)が設けられている。
【0013】
真空ポンプ122は、ポンプ装置120の動作の開始時に高圧ポンプ121の内部を減圧するのに用いられるポンプであり、接続管126を介して高圧ポンプ121の上部で高圧ポンプ121と接続されている。シャフト111には、真空ポンプ122への動力の入切を切り替えるための電磁クラッチ124が設けられている。電磁クラッチ124は動力伝達機構127を介して真空ポンプ122と機械的に接続され、電磁クラッチ124が繋がった状態では、シャフト111の動力が真空ポンプ122に伝達されて真空ポンプ122が動作するが、電磁クラッチ124が切られると、シャフト111の動力が遮断されて真空ポンプ122は停止するように構成される。
【0014】
次に、ポンプ装置120の動作を説明する。ポンプ装置120の動作前は、高圧ポンプ121の内部は空である。また、吸水口121aにはホースが接続され、このホースを介して高圧ポンプ121は水源と接続されている。この場合、中継口121cのコックは閉じられている。
【0015】
まず、P.T.Oによりエンジン110の動力を利用してシャフト111を介してインペラ125を回転させることによって高圧ポンプ121を作動させる。この状態で真空ポンプ作動スイッチをオンにすると、電磁クラッチ124が繋がり、真空ポンプ122が作動する。真空ポンプ122が作動することによって、
図2Aに示すように、高圧ポンプ121の内部の空気が吸い出され、高圧ポンプ121の内部が減圧される。
【0016】
高圧ポンプ121の内部が減圧されるにしたがって、
図2Bに示すように、水が大気圧に押されて吸水管121aを通って高圧ポンプ121内に流れ込む。高圧ポンプ121の内側上部には、高圧ポンプ121内の水位が上昇して高圧ポンプ121内が水で満たされることによって作動する真空ポンプ停止スイッチ128が設けられており、この真空ポンプ停止スイッチが作動することによって電磁クラッチ124が切られ、真空ポンプ122が停止する。したがって、真空ポンプ122内に水が浸入することはない。
【0017】
以降は、インペラ125の動作によって、水源の水が吸水口121aから高圧ポンプ121内に吸い込まれ、放水口121bから放出される。高圧ポンプ121の放水口121bとの接続部に、通常は閉じているが高圧ポンプ121の内圧が所定の値より高くなると開く閉塞弁(不図示)を設けてもよい。これにより、高圧ポンプ121の作動開始時の空気と水との置換および放水口121bからの放水を効率よく行うことができる。
【0018】
[エジェクター装置]
エジェクター装置130について
図3を参照して説明する。エジェクター装置130は、第1管部131と、第2管部132とを有する、稼働する機構を持たない構造体である。第1管部131は、一端および他端がそれぞれ送水口131aおよび吐出口131bとなった直管状の部分である。第2管部132は、第1管部131の長さ方向中間部で第1管部131と交差して接続された部分である。
【0019】
第1管部131には送水口131aから動力水が供給される。第1管部131に供給された動力水は、吐出口131bに向かって流れ、吐出口131bから吐出される。この第1管部131内での動力水の流れにより、第2管部132には負圧が発生し、吸引口132aから第1管部131へ向かう真空吸引力が働く。この真空吸引力を利用して、詳しくは後述するように、堆積した土砂を吸引することができる。吸引した土砂は、第1管部131を流れる動力水とともに吐出口131bから吐出される。
【0020】
エジェクター装置130の使用時、送水口131aはホース150aを介して、上述したポンプ装置120の放水口121bと接続され、ポンプ装置120から放出された水が、エジェクター装置130の動力水として用いられる。送水口131aには、第1管部131にジェット水流を発生させるためのノズル部材(不図示)が嵌め込まれていてもよい。これにより、吸引口132aにより大きな真空吸引力を発生させることができる。
【0021】
また、エジェクター装置130の使用時には、吐出口131bおよび吸引口132aにもそれぞれホース150b、150cが接続される。吐出口131bに接続されるホース150bは、吸引した土砂を適宜場所まで導いて排出するためのものである。エジェクター装置130から土砂を排出する場所までの距離が遠い場合は、複数のホースを連結してもよいし、必要に応じてホースと配管を組み合わせてもよいし、さらにはホースの代わりに配管を接続してもよい。吸引口132aに接続されるホース150cは、その先端が吸引すべき土砂の近傍に配置されることによって、吸引口132aを、吸引すべき土砂へ導くためのものである。吸引口132aに接続されるホース150cの先端部には、堆積している土砂を吸引しやすくするための適宜アタッチメントが装着されてもよい。また、吸引口132aに接続されるホースについても吐出口131bの場合と同様に、複数のホースを連結してもよいし、必要に応じてホースと配管を組み合わせてもよいし、さらにはホースの代わりに配管を接続してもよい。
【0022】
[可搬式ポンプ]
可搬式ポンプ140は、車両100が到達できない現場で土砂の除去作業を行う場合などに、車両100から降ろして現場付近まで運び、車両100に備えられたポンプ装置120の代わりに、エジェクター装置130に動力水を供給するポンプとして使用される。可搬式ポンプ140の駆動方式は内燃機関駆動方式であってもよいしバッテリー駆動方式であってもよいが、エジェクター装置130により土砂をより効果的に吸引するには高い出力が要求されること、および土砂の除去に長時間要する可能性があることを考慮すると、内燃機関駆動方式であることが好ましい。
【0023】
[配管]
配管160は、エジェクター装置130の説明において述べたとおり、ホースと組み合わせて、または配管単独で、送水のために使用される、本明細書では、「ホース」という用語は、随時任意に曲げて利用できる可撓性を有する管の意味で用い、一方、「配管」という用語は、曲げて使用することができない剛性を有する管の意味で用いる。ホースと配管は、使用する場所や用途等に応じて使い分けることができる。
【0024】
[その他の付加的な構成]
本形態のシステムは、
図1に示すように、被牽引車200をさらに有することができる。被牽引車200には、車両100に積載できない大型の資材、機器および装置が積載される。一例として、
図1に示す被牽引車200は、小型船舶を積載している。
【0025】
[システムの使用形態]
図1等を用いて上述したシステムのいくつかの使用形態について以下に説明する。
【0026】
(河口部での土砂除去)
河口に土砂が堆積し、河口が土砂によって閉塞されている場合の土砂除去作業について
図4を参照して説明する。まず、エジェクター装置130、ホース150a~150dといった各種資材を積載した車両100で、現場となる河口部へ向かい、車両100が現場に到着したら、エジェクター装置130およびホース150a~150dなど、土砂除去作業に必要な資材を車両100から降ろして土砂除去作業の準備を行う。
【0027】
この準備では、具体的には、エジェクター装置130に、前述したようにホース150a~150cを接続し、かつ、ホース150dをポンプ装置120の放水口121b(
図2参照)に接続する。ポンプ装置120に接続したホース150dの先端部は河川Rまで下ろし、河川Rの水をポンプ装置120の水源として利用する。また、堆積した土砂の一部に穴Hを掘る。穴Hの大きさは、河川Rの水が穴Hに滲みだして貯まるような大きさとする。この穴Hの中に、エジェクター装置130の吸引口132a(
図3参照)に接続されたホース150cの先端部を入れる。
【0028】
作業の準備が完了したら、ポンプ装置120を作動させる。ポンプ装置120が作動すると、河川Rの水はポンプ装置120によって汲み上げられ、エジェクター装置130に動力水として連続的に圧送される。ポンプ装置120からエジェクター装置130に水が圧送されると、ホース150cの先端部が穴Hに入れられているので、
図3を用いて説明したように、エジェクター装置130の真空吸引作用により穴H内の土砂Sが水とともにエジェクター装置130に吸引され、ホース150bから吐出される。
【0029】
これによって、河口に堆積した土砂Sが除去されていく。土砂Sの除去作業によって穴Hは次第に大きくなり、河川Sから海への水路が形成される。また、ある程度の土砂が除去されたら、別の位置に新たな穴Hを掘ってその位置で再び土砂の除去作業を行うという作業を繰り返して、河川Sから海への水路を形成してもよい。なお、ホース150bから吐出される土砂Sが河口に堆積した土砂Sの除去作業の妨げにならないように、ホース150bの先端を河口から離れる向きに向けて土砂および水を吐出することが好ましい。また、ホース150bの先端部にノズル(例えば消防ノズル)を装着してもよい。ノズルを装着することで、ノズルの先端から土砂および水を噴射させることができる。この場合、堆積した土砂Sが海に押し流されるように、ホース150bの先端を堆積した土砂Sに向けて土砂および水を噴射させることで、堆積した土砂Sをより効果的に除去することができる。
【0030】
(港湾での土砂除去)
波浪等により港湾に堆積した土砂の除去作業について、
図5A、5B等を参照して説明する。まず、各種資材を積載した車両100で現場へ向かい、現場に着したら、エジェクター装置130およびホース150a~150dなど、土砂除去作業に必要な資材を車両100から降ろして土砂除去作業の準備を行う。エジェクター装置130とホース150a~150cとの接続は、河口に堆積した土砂の除去作業の場合と同様である。
【0031】
ポンプ装置120の吸水口121a(
図2参照)に接続されるホース150dは先端部が海中の堆積した土砂付近まで下され、この状態でポンプ装置120が駆動される。ポンプ装置120が駆動されると、ポンプ装置120は、海水を吸い込んでエジェクター装置130へ動力水として圧送する。ポンプ装置120からエジェクター装置130に海水が圧送されると、エジェクター装置130は、その真空吸引作用によって、ホース150dを介して土砂を海水とともに吸引し、吸引された土砂および海水は、ポンプ装置120から圧送された海水とともにホース150bから吐出される。この処理をホース150dの位置を移動しながら行うことで、港湾に堆積した土砂を除去することができる。
【0032】
港湾においては、除去すべき土砂は車両100が通行できる岸壁から離れていることが多く、この場合は、エジェクター装置130の吸引口132a(
図3参照)に接続されるホース150cには適宜の部位に適宜の数のフロート165が取り付けられることが好ましい。これにより、土砂を吸引するホースを堆積した土砂の上に導き易くするとともに、ホースの先端の位置、言い換えれば湾港のどの位置で土砂を除去しているかを容易に把握できるようにすることができる。また、。一方、エジェクター装置130の吐出口131b(
図3参照)に接続されるホース150bは、除去した土砂が再び湾港に流れ込まないように、港湾から離れる向きに向けられることが好ましい。
【0033】
ホース150cの先端には、土砂をより効率良く除去するためのアタッチメント170を装着することができる。アタッチメント170を使用する場合は、このアタッチメント170も車両100に積載される。
【0034】
アタッチメント170の一例を
図6Aおよび
図6Bに示す。図示のアタッチメント170は、フレーム171と、筐体172と、第2エジェクター装置173と、撹拌羽根174と、モータ175とを有する。
【0035】
フレーム171は、筐体172および第2エジェクター装置173を固定支持する。筐体172は、底面が開放した箱状の構造体である。第2エジェクター装置173は、前述したエジェクター装置130と同様に構成され、同様の機能を有する。第2エジェクター装置173の吸引口には、筐体172の内部と連通する配管が接続されている。第2エジェクター装置173の送水口は、ホースによってポンプ装置120の放水口と接続され、また、第2エジェクター装置173の吐出口は、ホースによって、陸上に設置されているエジェクター装置130の送水口と接続される。したがって、このような構成のアタッチメント170を用いる場合は、2つのエジェクター装置130、173に水を供給することになるので、車両100が複数のポンプ装置120を備えること、および/または1つのポンプ装置120が複数の放水口を有することが必要となる。一般に、消防ポンプ自動車は複数の放水口を有する。よって、第2エジェクター装置173を有するアタッチメント170を用いて土砂を除去する場合は、消防ポンプ自動車をベースとした車両100を用いることが好ましい。
【0036】
撹拌羽根174は、筐体172の内側に配置され、筐体172に固定されたモータ175を駆動源として回転するように構成される。モータ175の電力は、車両100のバッテリーから供給することができる。また、モータ175は、海中で使用されることから防水構造のものが用いられる。図示した例では、アタッチメント170は2つの撹拌羽根174を有しているが、撹拌羽根174の数は任意であってよい。また、撹拌羽根の構造も任意であってよい。
【0037】
上述のとおり構成されたアタッチメント170は、除去すべき土砂がある所定の位置で海中に沈められる。そして、ポンプ装置120が駆動されると、ポンプ装置120から第2エジェクター装置173に海水が圧送され、それにより第2エジェクター装置173に生じる真空吸引作用によって、筐体172内の海水が土砂とともに第2エジェクター装置173に吸引され、ホース150cを通って次段のエジェクター装置130に吐出される。次段のエジェクター装置130では、ポンプ装置120から圧送される海水により生じる真空吸引作用によって、第2エジェクター装置173から吐出された土砂および海水がエジェクター装置130に吸引され、ポンプ装置120から圧送された海水とともにホース150bから吐出される。
【0038】
このように、アタッチメント170が第2エジェクター装置173を有することで、吸引手段である第2エジェクター装置173を、吸引の対象となる土砂に近い位置に配置することができる。一般に、エジェクター装置による吸引力は、吸引の対象物との距離が長くなるほど弱くなる。したがって、アタッチメント170に第2エジェクター装置173を取り付けることで、堆積した土砂をより効果的に吸引することができる。
【0039】
一方、第2エジェクター装置173による土砂の吸引除去の間、モータ175が駆動されて撹拌羽根174が回転する。撹拌羽根174が回転すると、筐体172内の海水が撹拌され、筐体172の下では堆積した土砂が巻き上げられる。これにより、第2エジェクター装置173による土砂の吸引をより効果的に行うことができる。
【0040】
上述した例では、アタッチメント170は、第2エジェクター装置173および撹拌羽根174を有している。しかし、アタッチメント170は、第2エジェクター装置173または撹拌羽根174のいずれか一方のみを有していてもよい。
【0041】
図7に、港湾に堆積した土砂の除去の他の形態を示す。図示した形態では、フロート台船180および小型船舶190をさらに用いる。これらフロート台船180および小型船舶190は、
図1に示した被牽引車200に積載されて現場まで搬送することができる。
【0042】
フロート台船180は、土砂を吸引するホースの操作、あるいはアタッチメント170の操作を、作業者がフロート台船180上で行うことができるようにすることによって、土砂の吸引を補助するためのものである。小型船舶190は、フロート台船180を目的の場所へ移動させるのに用いられる。小型船舶190としては、例えば、エンジン付きのゴムボートであってよい。
【0043】
港湾に堆積した土砂の除去は、岸壁から離れた海上での作業となることから、場所を任意に変更しながらの除去作業は制限される。そこで、フロート台船180を用いることによって、土砂を吸引するホースやアタッチメントの位置を作業者がフロート台船180上で任意に変更することが可能になり、また、小型船舶190を用いることによって、フロート台船180を任意に移動させることが可能になり、その結果、広範囲にわたる土砂の除去作業を効率よく、かつ簡便に行うことができる。フロート台船180は、それ自身で任意に移動できるように、エンジン付きであっても良い。
【0044】
土砂の除去にアタッチメント170(
図6A等参照)を用いる場合、フロート台船180は、アタッチメント170を支持する支持機構およびアタッチメント170を移動させる移動機構を備えることができる。港湾に堆積した土砂の除去においては、比較的広範囲にわたって土砂を除去する必要がある場合がある。その場合はアタッチメント170を移動させながらの作業となる。アタッチメント170の移動には、アタッチメント170を一旦上昇させ、その状態で次の場所へアタッチメント170を移動させた後、再び降下させるという作業が伴う。また、次の場所へのアタッチメント170の移動において、その移動距離が短い場合は、フロート台船180を移動させるより、フロート台船180上でアタッチメント170を移動させたほうが効率的である。そこで、アタッチメント170を支持する支持機構およびアタッチメント170を移動させる移動機構をフロート台船180が備えるようにすることで、アタッチメント170の移動に伴う作業者の負担を軽減することができる。
【0045】
[複数のエジェクター装置の接続形態]
前述したように、一般に消防ポンプ自動車は複数の放水口を有しているので、車両100として消防ポンプ自動車を利用する場合は、複数の放水口を利用することができる。また、車両100に複数のエジェクター装置130を積載することも可能である。そこで、車両100として消防ポンプ自動車を利用する場合に、これら複数の放水口を利用してより効率良く土砂を除去し得るいくつかの形態を以下に示す。
【0046】
(複数のエジェクター装置を並列的に接続)
図8Aに、複数のエジェクター装置130を並列的に接続した形態を示す。
図8Aに示す形態では、車両100は、左右両側にそれぞれ2つずつ、合計4つの放水口を有するポンプ装置を備える(車両100の構成は、以降の形態でも同じである)。そして、4つのエジェクター装置130-a、130-b、130-c、130-dが、各放水口に対して独立して接続されている。このように複数のエジェクター装置を独立して並列的に接続することで、接続されたエジェクター装置の数に比例した土砂除去能力を達成することができる。なお、
図8Aでは1台の車両を用いているが、複数台の車両を用いて複数のエジェクター装置を並列的に接続することもできる。
【0047】
(1つのエジェクター装置に集中的に水を供給)
図8Bに、水の供給を1つのエジェクター装置130に集中させた形態を示す。
図8Bに示す形態では、ポンプ装置の各放水口に接続されたホースを集合させた状態で1つのエジェクター装置130に接続されている。これにより、より大きな真空吸引力をエジェクター装置130に発生させることができる。本形態は、サイズの大きな土砂を除去する場合など、より大きな真空吸引力が必要な場合に有効である。なお、
図8Bでは1台の車両を用いているが、複数台の車両を用いて1つのエジェクター装置に集中的に水を供給することもできる。
【0048】
(複数のエジェクター装置を直列的に配置)
図8Cに、複数のエジェクター装置130を直列的に接続した形態を示す。
図8Cに示す形態では、ポンプ装置の各放出口にそれぞれエジェクター装置130の送水口が接続され、初段のエジェクター装置130-aの吐出口が次段のエジェクター装置130-bの吸引口に説測され、そのエジェクター装置130-bの送水口が、さらにその次の段のエジクター装置130-cの吸引口に接続されるというように、複数のエジェクター装置130-a、130-b、130-c、130-dが直列的に接続されている。このような構成によれば、堆積した土砂を吸引するのは初段のエジェクター装置130-aのみであるが、初段のエジェクター装置130-aによって吸引された土砂は次段のエジェクター装置130-bに搬送された後、さらにその次の段のエジェクター装置130-cへと順次搬送され、最終的には最終段のエジェクター装置130-dの吐出口に接続されたホースから吐出される。本形態は、堆積した土砂をより遠くへ搬送する場合に有効である。なお、
図8Cでは1台の車両を用いているが、複数台の車両を用いて複数のエジェクター装置を直列的に接続することもできる。
【0049】
[他の形態]
以上、本発明の代表的ないくつかの形態を説明したが、本発明は、上述した形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【0050】
(車両)
車両として一般的なのは空気入りタイヤで走行する車両であるが、空気入りタイヤでは走行が困難な場所まで各種資材等を搬送する必要が生じることもある。そのような場合に備え、車両を無限軌道車両とすることもできる。また、車両は、伸縮ブーム付きの車両であってもよい。車両として伸縮ブーム付きの車両を用いた場合、例えば、湾港に堆積した土砂の除去において、土砂が吸引されるホースを伸縮ブームの先端から吊下げて土砂の除去作業を行うことができる。これにより、伸縮ブームの伸縮範囲内であれば、フロート台船および小型船舶を用いることなく土砂の吸引場所の変更を任意かつ容易に行うことができる。伸縮ブーム付きの車両としては、はしご車およびクレーン車を挙げることができる。
【0051】
(土砂除去の監視および遠隔操作)
ホースの先端部、あるいは上述したアタッチメントにカメラ(不図示)を取り付け、そのカメラで撮影された画像により土砂の除去状況を監視することもできる。これにより、土砂がどの程度除去されたかを容易に把握することができる。カメラで撮影される画像は、動画であってもよいし静止画であってもよい。カメラで撮影した画像は、例えばコンピュータに送信され、適宜のディスプレイに表示させることができる。ただし、カメラ自体は水中に配置されるので、カメラとしては防水性能を有するカメラが用いられる。さらに、上述したアタッチメント170を用いる場合、カメラで撮影された画像を利用して土砂の除去状況を監視しながら、第2エジェクター装置173の動作および撹拌羽根174の動作を遠隔操作することもできる。
【符号の説明】
【0052】
100 車両
110 エンジン
111 シャフト
120 ポンプ装置
121 高圧ポンプ
121a 吸水口
121b 放水口
122 真空ポンプ
124 電磁クラッチ
125 インペラ
126 接続管
127 動力伝達機構
128 真空ポンプ停止スイッチ
130 エジェクター装置
131 第1管部
131a 送水口
131b 吐出口
132 第2管部
132a 吸引口
140 可搬式ポンプ
150、150a~150d ホース
160 配管
165 フロート
170 アタッチメント
171 フレーム
172 筐体
173 第2エジェクター装置
174 撹拌羽根
175 モータ
180 フロート台船
190 小型船舶
200 被牽引車