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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】魚肉加工食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/00 20160101AFI20240314BHJP
   A23L 5/10 20160101ALI20240314BHJP
【FI】
A23L17/00 B
A23L5/10 F
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019196924
(22)【出願日】2019-10-30
(65)【公開番号】P2021069299
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】594142263
【氏名又は名称】尾鷲物産株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519388321
【氏名又は名称】玉本 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100108280
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 洋平
(72)【発明者】
【氏名】吉田 富郎
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-077198(JP,A)
【文献】特開2002-243363(JP,A)
【文献】特開平06-169685(JP,A)
【文献】特開2008-178394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23B
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
日経テレコン
FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚肉を40g~80gの大きさにカットするカット工程、カットした魚肉を漬け込み用調味液に浸漬する浸漬工程、浸漬後の魚肉を乾燥する乾燥工程、乾燥後の魚肉を40g~120gの質量毎にパック詰めするパック詰め工程、パックされた魚肉を10℃~20℃から所定の加熱処理温度である83℃~87℃まで15分間~25分間かけて緩やかに上昇させる第1段階熱処理と、前記加熱処理温度において10分間~20分間加熱処理する第2段階熱処理と、パックされた魚肉芯温が15℃~18℃になるまで10分間~15分間かけて緩やかに冷却させる冷却処理を含む加熱工程及び加熱後のパック詰め魚肉を冷蔵または冷凍処理する冷温工程を備えることを特徴とする魚肉加工食品の製造方法。
【請求項2】
前記乾燥工程は、20分間~60分間の間でカットされた魚肉を乾燥処理すると共に、全体の時間の4割~6割の時点で前記魚肉の上下を回転させることを特徴とする請求項1に記載の魚肉加工食品の製造方法。
【請求項3】
前記魚肉が、クロマグロ、ミナミマグロ、メバチマグロ、キハダマグロ、ビンナガマグロ、サバ、カツオ、ブリ及びアジからなる群から選択される一つである請求項1または2に記載の魚肉加工食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚肉加工食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
魚肉を加工食品として提供するために、多くの開発が行われている。例えば、特許文献1には、魚肉に食用油脂と澱粉を含ませた改良剤を加えて調理することで、油脂を強化すると共に食感風味を改良する加工方法が、特許文献2には、魚肉をゼラチン水溶液で処理することで保存性の高い魚肉加工製品を提供する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-173572号公報
【文献】特開2008-017805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、消費者の健康志向に伴って、野菜の摂取量を増加させることが望まれている。野菜をサラダとして摂取する場合に、魚肉加工品としてツナ缶が用いられることが多いが、これ以外にも適当な魚肉加工品の提供が望まれていた。上記特許文献1,2で提供される魚肉加工品は、そのままで食用とするよりも、更に家庭で調理することを予定されていた。
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡単に食用とできると共に、良好な食感を楽しめる魚肉加工食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
こうして、上記目的を達成するための第一の発明に係る魚肉加工食品の製造方法は、魚肉を40g~80gの大きさにカットするカット工程、カットした魚肉を漬け込み用調味液に浸漬する浸漬工程、浸漬後の魚肉を乾燥する乾燥工程、乾燥後の魚肉を40g~120gの質量毎にパック詰めするパック詰め工程、パックされた魚肉を加熱処理する加熱工程、加熱後のパック詰め魚肉を冷蔵または冷凍処理する冷温工程を備えることを特徴とする。
【0006】
本発明において、魚肉の種類については、特に問われないが、マグロ、サバ、カツオ、ブリ、アジ、サケなどを用いることが好ましく、マグロ(クロマグロ、ミナミマグロ、メバチマグロ、キハダマグロ、ビンナガマグロなどが含まれる)、カツオを用いることが更に好ましい。
魚肉をカットするときの大きさについては、現代日本人の生活様式(一人暮らしや老人のみの世帯が増加していること)に鑑みて、一回の食事に食せる量とするのが好ましい。カットされた魚肉が小さすぎると食感に乏しくなり、大きすぎると食べ残りが発生する可能性がある。このため、カット魚肉の大きさは40g~80gとすることが好ましい。
【0007】
漬け込み用調味液としては、適当な調味料(例えば、砂糖、食塩、醤油、味醂、酢(梅酢を含む)、ペッパー(ブラックペッパー、ホワイトペッパー、グリーンペッパー、ピンクペッパーを含む)などを水に混合したものを用いることができる。漬け込み用調味液にカット魚肉が浸漬されることにより、適当な味が付けられることで、魚肉加工食品をそのまま食しても良好な味となる。また、漬け込み用調味液には、更にハーブ(例えば、フェンネル、しょうが、わさび、タイム、ローリエ、タラゴン、バジル、オレガノ、パセリ、パクチー、ローズマリー、タイム、セージ、デイル、ガーリック、コリアンダーなど)を用いることができる。
浸漬工程の時間としては、定めた温度にて10分間~60分間が好ましく、15分間~25分間が更に好ましい。
【0008】
乾燥工程は、(1)所定の温度(18℃~40℃、好ましくは20℃~30℃、更に好ましくは25℃~28℃)にて20分間~60分間程度(好ましくは、40分間~50分間)で、または(2)冷風(0℃~15℃、好ましくは4℃~10℃)にて8時間~20時間(好ましくは10時間~16時間)で、カットされた魚肉を乾燥処理する。このとき、全体の4割~6割の時点で前記魚肉の上下を回転させることが好ましい。また、魚肉中の水分を全部乾燥させる(完全に干物とする場合)のではなく、表面に付着した漬け込み用調味液が乾燥する(垂れなくする)程度とするのが好ましい。また、乾燥工程においては、全体の時間の半分程度でカット魚肉の上下を回転させて、むら無く乾燥させることが好ましい。
パック詰め工程においては、一回で食せる適度な量とするのが好ましい。そのような量として、40g~120g(カット魚肉として、1片~3片)とするのが良い。
【0009】
加熱工程としては、パックされた魚肉(10℃~20℃)の状態を所定の加熱処理温度である80℃~90℃(好ましくは、83℃~87℃)まで数分間(15分間~25分間)かけて緩やかに上昇させる第1段階熱処理と、加熱処理温度において10分間~20分間の加熱処理をする第2段階熱処理と、パックされた魚肉芯温が適当な温度(好ましくは15℃~18℃)になるまで適当な時間(10分間~15分間)かけ緩やかに冷却させる冷却処理を行う。このとき、魚肉に急激な温度変化を起こしたり、処理時間が短すぎると、魚肉タンパク質の変性が急激すぎたり、不十分となるため、食味と食感が減少してしまう。また、温度が高すぎたり処理時間が長すぎると、タンパク質の変性が進みすぎて、魚肉が硬くなってしまい、良好な食味と食感が得られにくい。
また、加熱工程において、1段階のみの加熱処理(すなわち、大量の沸騰水に対して、少量の魚肉パックを添加することで、鍋中の水の温度が余り影響を受けない状態で行う加熱処理)を行う場合よりも、2段階の加熱処理(すなわち、予め熱した水に適量の魚肉パックを添加することで、水温を一旦低下させ(約30℃~40℃)、ここで火を入れることで、80℃~90℃の温度まで上昇させ(第1段階熱処理)、その後に所定の時間(10分間~20分間)だけ加熱処理する(第2段階熱処理))を行う方が、柔らかい魚肉加工食品となるので好ましい。その後の冷却処理工程も、急冷で行うよりも、冷水で行うことが柔らかさにつながる。
冷温工程においては、最終的に市場に提供するときの形態に合わせて、冷蔵処理または冷凍処理を行う。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡単に食用とできると共に、良好な食感を楽しめる魚肉加工食品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態の魚肉加工食品の製造方法の流れを示すフローチャートである。
図2】カット工程を行った魚肉の写真図である。
図3】カットした魚肉の浸漬処理を行っているときの写真図である。(A)プレーン漬け込み用調味液に浸漬したもの、(B)ハーブ漬け込み用調味液に浸漬したものを示す。
図4】魚肉を乾燥処理しているときの様子を示す写真図である。
図5】パック詰めされた魚肉を加熱処理しているときの様子を示す写真図である。
図6】冷温工程後のパック詰め魚肉を示す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態について、図表を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。
<魚肉加工食品の製造方法>
図1には、本実施形態の魚肉加工食品の製造方法の流れを示した。
1.漬け込み用調味液の調製(S100)
2000gの食塩、700gの上白糖、4gのホワイトペッパー、100gのトレハロース、475gの味醂及び200gの梅酢の割合で原料を良く混合し、調味液Aを作製した。2000gの調味液Aと13000gの水を混合し、プレーン漬け込み用調味液とした。また、2000gの調味液A、31gのミックスハーブ、2.8gの鷹の爪及び13000gの水を混合し、ハーブ漬け込み用調味液とした。
【0013】
2.魚肉のカット処理(カット工程S110)
尾頭、内臓及び骨を取り除いて下処理した魚肉(ビンチョウマグロ)について、スティック(40gカット品)とフィレ(80gカット品)を調製した。
3.カットした魚肉の浸漬処理(浸漬工程S120)
100質量gのスティックまたはフィレに対し、約130質量gの割合でプレーン漬け込み用調味液またはハーブ漬け込み用調味液を用意し、ここにスティックまたはフィレを浸漬処理した。浸漬開始から20分後~30分後に魚肉を漬け込み用調味液から取り出した。
ハーブ漬け込み用調味液に浸漬した魚肉については、ハーブが付着している状態のままで次の乾燥工程S130に移行した。また、ハーブの付着が少ない場合には、直接にハーブを魚肉に振り掛けた。
【0014】
4.調味液に浸漬した魚肉の乾燥(乾燥工程S130)
漬け込み用調味液に浸漬した魚肉を乾燥機に投入し、乾燥処理を実施した。このとき、20分間で魚肉を半回転させて、風当たりが均等になるようにした。こうして乾燥処理したものを「調味液付き魚肉」とした。
、乾燥条件として、下記2種類のいずれかを用いた。
(1)所定温度の乾燥
乾燥機 CV30ANセパレート型(旭日調温工業)
温度管理 18℃~30℃
乾燥温度 27℃
乾燥時間 40分間
(2)冷温乾燥
乾燥機 LCU-30P(三洋電機株式会社)
温度管理 5℃~8℃(好ましくは8℃)
乾燥時間 14時間
上記(1)または(2)の条件は、乾燥後の歩留まり85%~95%(更に好ましくは92%)となるところを設定した。
(1)の条件で乾燥させた場合には、短時間で適切な水分量を除去できるので、生産効率が良好となった。
また、(2)の条件で乾燥させた場合には、前日の夕方(例えば、午後6時)に開始し、次の朝(例えば、午前8時)に乾燥処理が終わるので、機械化が行えるので人の管理が軽減化できた。また、品質へのダメージが少なく、より良好な質感の魚肉が得られた。
【0015】
5.魚肉パックの調製(1)(パック詰め工程S140)
300gのサラダオイルに対し、100gの割合で燻製オイル(サクラ燻製オイル)を混合したものを加熱処理用オイルとした。調味液付き魚肉80g(スティック2個またはフィレ1個)に対し、5gの割合で加熱処理用オイルを加えた。加熱処理用オイルを加えた調味液付き魚肉を80g~160g(スティック2個またはフィレ1個、スティック3個、スティック4個、フィレ2個)の範囲として個別に真空密封し、魚肉パック1とした。魚肉パック1では、オイルを充填することにより、保水力を上げ、余分な水分を抜かない効果を引き上げた(魚肉パック2についても同じ)。
なお、上記工程において、燻製オイルに代えて、各種ハーブを用いたものを加熱処理用オイルとしたものを同様に製造した。
【0016】
6.魚肉パックの調製(2)(パック詰め工程S140)
調味液付き魚肉の表面を熱処理し、軽く焼き目を付けた(魚肉の全体を十分に加熱するのではなく、表面の一部に熱を入れて、色が変わった状態とした)。調味液付き魚肉80g(スティック2個またはフィレ1個)に対し、6gの割合で上記加熱処理用オイルを加えた。加熱処理用オイルを加えた調味液付き魚肉を80g~160g(スティック2個またはフィレ1個、スティック3個、スティック4個、フィレ2個)の範囲として個別に真空密封し、魚肉パック2とした。
【0017】
7.魚肉加工食品の製造(加熱工程S150及び冷温工程S160)
室温の魚肉パック1または魚肉パック2を沸騰水が含まれる鍋に入れ、加熱処理を始めた。このとき、沸騰水の重量と魚肉パックの重量とは、約4:1~2:1の範囲であり、パックの添加によって、沸騰水の温度は82℃~86℃程度まで下降した。そこで、加熱を続けることで水温を安定させ、設定温度を85℃とした。全体が85℃となったところで弱火として、そこから85℃の状態で15分間の加熱処理を行った。
こうして、2段階の加熱処理を行うことで、1段階のみの加熱処理(すなわち、大量の沸騰水に対して、少量の魚肉パックを添加することで、鍋中の水の温度が余り影響を受けない状態で行う加熱処理)を行った場合に比べると、柔らかい魚肉加工食品となった。
熱処理後のパックを鍋から取り出し、流水で粗熱を取った後、冷蔵(4℃)または冷凍(-20℃以下)にて保管した。魚肉パック1から得られたものを魚肉加工食品1とし、魚肉パック2から得られたものを魚肉加工食品2とした。
【0018】
<魚肉加工食品の評価>
魚肉加工食品1または魚肉加工食品2の食感と食味を評価した。両魚肉加工食品1,2を室温まで戻した後(冷凍品については、室温または冷蔵庫で自然解凍した)、そのまま又は野菜サラダに混合したものを食した。各魚肉加工食品については、スティックまたはフィレの形状をそのまま食する他に、適当な大きさに切り分けたものを用いた。
その結果、いずれの魚肉加工食品1,2についても、適度な加熱処理が施されていると共に、魚肉本来の食味と柔らかな食感を持っていた。
燻製オイルを用いて真空密封した魚肉加工食品1では、魚肉に燻製の香りが定着していると共に、保水力が向上し、余分な水分が抜けていないため、味が安定化した。また、ハーブ漬け込み用調味液に浸漬した魚肉加工食品は、適度にハーブの香りが付着しており、安定して良好な香りが楽しめた。また、焼き目を付けた魚肉加工食品2は、焼き目の香りを同時に楽しむことができた。
このように、本実施形態によれば、簡単に食用できると共に、良好な食感を楽しむことができる魚肉加工食品を提供できた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6