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特許7454199分子篩炭素及びその製造方法、並びにガス分離装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】分子篩炭素及びその製造方法、並びにガス分離装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20240314BHJP
   B01D 53/047 20060101ALI20240314BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20240314BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20240314BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20240314BHJP
   C01B 37/00 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
C01B32/05
B01D53/047
B01J20/20 A
B01J20/28 Z
B01J20/30
C01B37/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022208875
(22)【出願日】2022-12-26
【審査請求日】2023-04-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/革新的酸素富化TSAによる低環境負荷燃焼技術 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100108213
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 豊隆
(72)【発明者】
【氏名】山根 康之
(72)【発明者】
【氏名】石田 俊
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀樹
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-171375(JP,A)
【文献】国際公開第2003/018189(WO,A1)
【文献】特表2004-529747(JP,A)
【文献】特開平07-299356(JP,A)
【文献】YAMANE et al.,ACS Applied Materials & Interfaces,米国,2022年03月10日,Vol.14, No.15,p.17878-17888
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/05
B01D 53/047
B01J 20/20
B01J 20/28
B01J 20/30
C01B 37/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素の吸着速度定数分布のメインピークの半値幅が0.35秒-1以下であり、かつ、25℃におけるCO2の吸着等温線からBET法によって求められる比表面積が300m2/g以上600m2/g以下であり、
分離対象ガスが空気であって、空気から酸素を選択的に吸着する、分子篩炭素。
【請求項2】
酸素の吸着速度定数分布のメインピークの最大中心が0.030秒-1以上0.250秒-1以下である、請求項1に記載の分子篩炭素。
【請求項3】
分子プローブ法によって求められる0.37nm以上0.46nm以下の細孔入口径を有する細孔の容積が0.150mL/g以上である、請求項1に記載の分子篩炭素。
【請求項4】
難黒鉛化性炭素からなる、請求項1に記載の分子篩炭素。
【請求項5】
原料を炭化して炭化物を得る工程と、
前記炭化物を賦活処理して賦活物を得る賦活工程と、
前記賦活物を焼成する焼成工程と、を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の分子篩炭素の製造方法。
【請求項6】
圧力スイング吸着法によって、空気より酸素を分離するためのガス分離装置であって、
前記圧力スイング吸着法における吸着剤として、請求項1~のいずれか一項に記載の分子篩炭素を備える、装置。
【請求項7】
温度スイング吸着法によって、空気より酸素を分離するためのガス分離装置であって、
前記温度スイング吸着法における吸着剤として、請求項1~のいずれか一項に記載の分子篩炭素を備える、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子篩炭素及びその製造方法、並びにガス分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
分子篩炭素(Carbon Molecular Sieve、CMS)は、その細孔入口径を分離対象とする分子径に合わせて精密に設計及び制御された多孔性炭素材料であり、吸着質の分子径の差に応じた速度分離型の分子篩特性を発現する。このため、圧力スイング吸着(Pressure Swing Adsorption、PSA)法や、温度スイング吸着(Thermal Swing Adsorption、TSA)法を利用した低分子ガスの分離に利用されており、特にPSA法による空気中の酸素と窒素との分離に広く応用されている。
【0003】
PSA法とは、1塔以上の吸着塔に分子篩炭素を充填し、加圧下での選択的吸着と、減圧又は常圧での分子篩炭素の再生を周期的に繰り返すことにより原料ガス中の特定成分を分離する方法である。上述の酸素/窒素分離では分子径の小さい酸素が選択的に吸着され、窒素が製品ガスとして取り出されることになる。
【0004】
近年、化学及び半導体分野における窒素ガスへの要求純度は向上し、CMSの分離性能向上の重要性は高まっている。そのため、CMSの分離性能向上を目的とした多数の先行技術が開示されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、酸素と窒素の分離比α(酸素の吸着速度定数K(O2)と窒素の吸着速度定数K(N2)との比K(O2)/K(N2))が35以上であって、吸着速度特性が、酸素平衡吸着量の95%を吸着するのに要する時間t95と酸素平衡吸着量の50%を吸着するのに要する時間t50との関係で、(t95/t50)<0.4(α-24)(ただし、α>35)を満足する分子篩炭素が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2003/018189号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の分子篩炭素は、ガス分離を発揮するPSA半サイクル時間が90秒~105秒と長いことから、単位時間あたりの窒素ガス発生量が少ないという課題があった。
【0008】
ところで、分子篩炭素は、ウルトラミクロ孔からマクロ孔に至るまで幅広い細孔径分布を有するため、吸着速度定数は、細孔径分布に応じた分布をとる。分離対象ガスが酸素(最小分子径:0.28nm)と窒素(最小分子径:0.30nm)の場合、わずか0.02nmの分子径の差によってガスを分離する必要があり、このわずかな細孔径分布の差、すなわち、吸着速度定数分布の差が、分離性能に大きな影響を与える。
【0009】
しかしながら、特許文献1では、吸着速度定数分布が考慮されておらず、最小分子径の差が0.02nmである酸素と窒素の分離性能を向上させることが困難であった。
【0010】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、酸素を選択的に吸着し、空気より酸素を分離するための性能が向上した分子篩炭素、及びその製造方法、並びにガス分離装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の分子篩炭素、及びその製造方法、並びに特定のガス分離装置によって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は、以下の実施態様を含む。
[1]酸素の吸着速度定数分布のメインピークの半値幅が0.35秒-1以下であり、かつ、25℃におけるCOの吸着等温線からBET法によって求められる比表面積が300m/g以上600m/g以下である、分子篩炭素。
【0013】
[2]酸素の吸着速度定数分布のメインピークの最大中心が0.030秒-1以上0.250秒-1以下である、[1]に記載の分子篩炭素。
【0014】
[3]分子プローブ法によって求められる0.37nm以上0.46nm以下の細孔入口径を有する細孔の容積が0.150mL/g以上である、[1]に記載の分子篩炭素。
【0015】
[4]難黒鉛化性炭素からなる、[1]に記載の分子篩炭素。
【0016】
[5]分離対象ガスが空気であって、空気から酸素を選択的に吸着する、[1]に記載の分子篩炭素。
【0017】
[6]分離対象ガスが、二酸化炭素、メタン、エタン、エチレン、プロピレン、及びプロパンからなる群から選ばれる少なくとも2種のガスを含む混合ガスであって、前記混合ガスから1つ又は複数のガスを選択的に吸着する、[1]に記載の分子篩炭素。
【0018】
[7]原料を炭化して炭化物を得る工程と、前記炭化物を賦活処理して賦活物を得る賦活工程と、前記賦活物を焼成する焼成工程と、を含む、[1]~[6]のいずれかに記載の分子篩炭素の製造方法。
【0019】
[8]圧力スイング吸着法によって、空気より酸素を分離するためのガス分離装置であって、前記圧力スイング吸着法における吸着剤として、[1]~[5]のいずれかに記載の分子篩炭素を備える、装置。
【0020】
[9]圧力スイング吸着法によって、二酸化炭素、メタン、エタン、エチレン、プロピレン、及びプロパンからなる群から選ばれる少なくとも2種のガスを含む混合ガスから1つ又は複数のガスを選択的に吸着するためのガス分離装置であって、
前記圧力スイング吸着法における吸着剤として、[1]~[4]、及び[6]のいずれかに記載の分子篩炭素を備える、装置。
【0021】
[10]温度スイング吸着法によって、空気より酸素を分離するためのガス分離装置であって、前記温度スイング吸着法における吸着剤として、[1]~[5]のいずれかに記載の分子篩炭素を備える、装置。
【0022】
[11]温度スイング吸着法によって、二酸化炭素、メタン、エタン、エチレン、プロピレン、及びプロパンからなる群から選ばれる少なくとも2種のガスを含む混合ガスから1つ又は複数のガスを選択的に吸着するためのガス分離装置であって、
前記温度スイング吸着法における吸着剤として、[1]~[4]、及び[6]のいずれかに記載の分子篩炭素を備える、装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、酸素を選択的に吸着し、空気より酸素を分離するための性能が向上した分子篩炭素、及びその製造方法、並びにガス分離装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、酸素の吸着装置を示すための模式図である。
図2図2は、酸素の吸着速度曲線の模式図である。
図3図3は、酸素の理論吸着速度曲線群を示す。
図4図4は、L-Curveを示す。
図5図5は、吸着速度定数分布を示す。
図6図6は、分子プローブ法による細孔容積測定装置の概略図を示す。
図7図7は、圧力スイング吸着法を用いた窒素発生装置の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
【0026】
[分子篩炭素]
本実施形態の空気より酸素を分離するための分子篩炭素は、酸素の吸着速度定数分布のメインピークの半値幅が0.35秒-1以下であり、かつ、25℃におけるCO(二酸化炭素)の吸着等温線からBET法によって求められる比表面積が300m/g以上600m/g以下である。
【0027】
分子篩炭素がこのような構成を備えていることにより、分子篩炭素の細孔入口径分布がより均一になるとともに、酸素の吸着量がより増大する。そのため、分子篩炭素は、従来の分子篩炭素と比較して、酸素を選択的に吸着し、空気より酸素を分離するための性能を向上させることができる。一方、酸素の吸着速度定数分布のメインピークの半値幅が0.35秒-1よりも大きい場合、分子篩炭素の細孔入口径分布がブロードになりすぎており、酸素のみならず窒素の吸着も同時に進行する細孔の数が増える。そのため、このような分子篩炭素では、空気より酸素を分離するための性能が低下する。更に、25℃におけるCOの吸着等温線からBET法によって求められる比表面積が300m/gよりも小さい場合、酸素の吸着量が少なくなり、空気より酸素を分離するための性能が低下する。25℃におけるCOの吸着等温線からBET法によって求められる比表面積が600m/gより大きい場合、酸素吸着の場である細孔内部のサイズが酸素の吸着に適さなくなり、酸素の吸着量が少なくなり、空気より酸素を分離するための性能が低下する。
【0028】
酸素をより選択的に吸着し、空気より酸素を分離するための性能をより向上させることができることから、酸素の吸着速度定数分布のメインピークの半値幅は、0.33秒-1以下が好ましく、0.30秒-1以下がより好ましい。下限は、特に限定されないが、例えば、0.05秒-1以上である。なお、酸素の吸着速度定数分布のメインピークの半値幅の求め方は、後記する。
【0029】
酸素をより選択的に吸着し、空気より酸素を分離するための性能をより向上させることができることから、25℃におけるCOの吸着等温線からBET法によって求められる比表面積は、350m/g以上が好ましく、400m/g以上がより好ましく、415m/g以上が更に好ましい。なお、25℃におけるCOの吸着等温線からBET法によって求められる比表面積の具体的な測定方法は、実施例を参照してもよい。
【0030】
本実施形態の分子篩炭素は、好ましくは、酸素の吸着速度定数分布のメインピークの最大中心が0.030秒-1以上0.250秒-1以下であり、より好ましくは0.110秒-1以上0.130秒-1以下である。酸素の吸着速度定数分布のメインピークの最大中心は、分子篩炭素の吸着速度を表す。これが上記範囲にあることで、分子篩炭素の酸素吸着速度が最適化され、従来の分子篩炭素と比較して、空気より酸素を分離するための性能をより向上させることができる。また、酸素の吸着速度定数分布のメインピークの最大中心が0.030秒-1よりも小さい場合、酸素の吸着が遅くなりすぎる傾向にあり、0.250秒-1よりも大きい場合、酸素の吸着が早くなりすぎる傾向にある。そのため、そのような分子篩炭素を圧力スイング吸着法における吸着剤や、温度スイング吸着法における吸着剤に使用した際に、ガス分離装置の運転条件を最適化することが困難になるおそれがある。なお、酸素の吸着速度定数分布のメインピークの最大中心の求め方は、後記する。
【0031】
本実施形態の分子篩炭素は、好ましくは、分子プローブ法によって求められる0.37nm以上0.46nm以下の細孔入口径を有する細孔の容積が0.150mL/g以上であり、より好ましくは0.220mL/g以上であり、更に好ましくは、0.225mL/g以上0.260mL/g以下である。空気より酸素を分離する場合、分子篩炭素の細孔入口径とその細孔入口径を有する細孔容積も非常に重要である。本発明者らによる検討によれば、0.37nm以上0.46nm以下の細孔入口径を有する細孔の容積が0.150mL/g以上であることで分子篩炭素の細孔入口径と酸素吸着量が最適化され、従来の分子篩炭素と比較して、空気より酸素を分離するための性能を更に向上させることができる傾向にある。なお、上限は、特に限定されないが、例えば、0.300mL/g以下である。なお、分子プローブ法によって求められる0.37nm以上0.46nm以下の細孔入口径を有する細孔の容積の求め方は、後記する。
【0032】
酸素をより選択的に吸着し、空気より酸素を分離するための性能をより向上させることができることから、本実施形態の分子篩炭素は、好ましくは難黒鉛化性炭素を含み、より好ましくは難黒鉛化性炭素からなる。難黒鉛化性炭素の例としては、石炭;パームヤシ殻、及びココナッツヤシ殻などのヤシ殻;麻、及び綿などの天然繊維;レーヨン、及びポリエステルなどの合成繊維;ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、及びポリビニルアルコールなどの合成樹脂;木炭等を原料とする炭素、カーボンブラック、ガラス状炭素等が挙げられる。
【0033】
(酸素の吸着速度定数の分布のメインピークの半値幅及び最大中心の求め方)
酸素の吸着速度定数の分布のメインピークの半値幅及び最大中心は、次のようにして求める。
まず、酸素の吸着速度定数の分布は、公知の定容法を用いて得られる吸着速度曲線から次のようにして求めることができる。図1に示す酸素の吸着装置の模式図を用いて説明する。
【0034】
まず、酸素の吸着装置において、バルブ1、バルブ2、及びバルブ3を閉鎖し、容積20mLの試料セル6内に3gの分子篩炭素7を充填する。次いで、バルブ2及びバルブ3を開放して、試料セル6及び容積100mLのガス溜め5を排出口9から真空引きする。次いで、バルブ2及びバルブ3を閉鎖し、バルブ1を開放して、導入口8からガス溜め5に、圧力が約75kPa(絶対圧)となるまで酸素(純度:99.999%、浪速酸素株式会社製)を導入する。次いで、バルブ1を閉鎖し、バルブ2を開放して、酸素の吸着測定を開始する。バルブを開放した時点からの経過時間t(秒)における系内の圧力Ptを圧力センサー4により、平衡に達するまで測定する。なお、測定は、25℃(室温)の条件で行う。
【0035】
ここで、吸着分率θ(t)を下記式(1)で定義する。このように定義することで、ガスが吸着していないときはθ(t)=0であり、吸着が進行するにつれてθ(t)の値が増加し、平衡に達した時点でθ(t)=1となる吸着速度曲線θを得ることができる。
【0036】
θ(t)=(Pt-P0)/(Peq-P0)・・・(1)
【0037】
式(1)中、Ptは経過時間t(秒)における系内の圧力(kPa)であり、Peqは平衡に達した時点での圧力(kPa)であり、P0は下記式(2)で定義される圧力(kPa)であり、バルブ2を開放した瞬間の系内の圧力(kPa)である。
【0038】
0=Pg×Vg/Vd・・・(2)
【0039】
式(2)中、Pgはバルブ2の開放前のガス溜め5の圧力(kPa)であり、Vgはガス溜め5の容積(mL)であり、Vdは系の死容積、すなわち系の体積から分子篩炭素7が占める容積を引いた容積(mL)である。
【0040】
吸着分率θ(t)を縦軸に、経過時間t(秒)を横軸にしてプロットすると、図2に例示されるような酸素の吸着速度曲線が得られる。
【0041】
次に、酸素の吸着速度曲線から次のようにして吸着速度定数分布を得る。
分子篩炭素は、マクロ孔からウルトラミクロ孔に至るまでの幅広い細孔径分布を持つため、吸着速度定数も分布を持つ。そこで、多数の吸着速度定数から理論的に求められる理論吸着速度曲線群を準備し、これらの線形加算によって実験的に得られた吸着速度曲線を再現する。線形加算時にそれぞれの理論吸着速度曲線にかけた重み係数で吸着速度定数の分布を表すことができる。具体的には以下のとおりに行う。
【0042】
まず、酸素の理論吸着速度曲線群を準備する。理論吸着速度曲線θidealは、LDFモデルに基づくと、下記式(3)で表される。また、理論吸着速度曲線θidealにおいて、ある時間tでの理論吸着分率をθideal(t)と表すこととする。LDFモデルについては、Adsorption (2017)23:131-147を参照してもよい。
【0043】
θideal(t)=1-exp(-α×kLDF×t)・・・(3)
【0044】
式(3)中、αは、下記式(4)で定義される値である。また、kLDFは吸着速度定数(秒-1)、tは時間(秒)である。
【0045】
α=P0/Peq・・・(4)
【0046】
式(4)中、P0及びPeqは、上記のとおりである。すなわち、P0は上記式(2)で定義される圧力(kPa)であり、Peqは平衡に達した時点での圧力(kPa)である。
【0047】
酸素の理論吸着速度曲線群を得るために、kLDFとしては、次の値を用い、計46個の理論吸着速度曲線からなる群を準備する。
1.00×10-9、1.58×10-9、2.51×10-9、3.98×10-9、6.31×10-9、1.00×10-8、1.58×10-8、2.51×10-8、3.98×10-8、6.31×10-8、1.00×10-7、1.58×10-7、2.51×10-7、3.98×10-7、6.31×10-7、1.00×10-6、1.58×10-6、2.51×10-6、3.98×10-6、6.31×10-6、1.00×10-5、1.58×10-5、2.51×10-5、3.98×10-5、6.31×10-5、1.00×10-4、1.58×10-4、2.51×10-4、3.98×10-4、6.31×10-4、1.00×10-3、1.58×10-3、2.51×10-3、3.98×10-3、6.31×10-2、1.58×10-2、2.51×10-2、3.98×10-2、6.31×10-2、1.00×10-1、1.58×10-1、2.51×10-1、3.98×10-1、6.31×10-1、及び1.00。
【0048】
酸素の理論吸着速度曲線群を得るために、tとしては、次の値を用いる。
0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、400、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、及び2400。
【0049】
これにより得られる酸素の理論吸着速度曲線群を図3に示す。
【0050】
次に、図3に示す理論吸着速度曲線群の線形加算によって実験から得られる酸素の吸着速度曲線を再現する方法を説明する。
【0051】
まず、図3に示す理論吸着速度曲線群を正方行列Aとして表現する。すなわち、AijをAのi行j列目を表すこととして、A11にkLDF=1.0×10-9の値を、t=0.5の値を、A12にkLDF=1.0×10-9の値を、t=1の値を、というようにAの1列目にkLDF=1.0×10-9の時のθの値をt毎に列挙する。
次に、Aの2列目にkLDF=1.58×10-9の時のθの値を先と同様にt毎に列挙する。これをすべてのkLDFについて繰り返し、46次の正方行列Aを得る。
次に、実験的に得られた酸素の吸着速度曲線をベクトルbで表現する。
【0052】
すなわち、実験で得られた酸素の吸着速度曲線から、t=0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、400、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、及び2400の時の理論吸着分率θideal(t)を求め、列挙してベクトルbとする。
【0053】
次に、線形加算のために各理論吸着速度曲線にかける重みをベクトルxで表現する。ここで、最適なベクトルxを求めるためにTikhonov regularization法を用いる。
【0054】
すなわち、下記式(5)で表される値を最小化するようなxを求める。
【0055】
||Ax-b||2+λ||x||2・・・(5)
【0056】
式(5)中、||Ax-b||2=Σi(Σjijj-bi2であり、||x||2=Σij 2であり、λは正則化パラメータである。
【0057】
λの候補としては以下を準備する。
0、0.01、0.0398、0.063、0.1、0.398、0.63、1、3.98、6.3、10、15.8、25.1、39.8、63、100、158、251、398、630、1000、1580、2510、3980、6300、及び10000。
【0058】
それぞれのλに対して、式(5)で表される値を最小化するxを求める。この時、xはMicrosoft製Excel 2016のソルバー機能を用いて求める。ソルバーの解決方法はGRG(Generalized Reduced Gradient)非線形(一般化簡約勾配)とする。このようにして求められたそれぞれのλに対するxの中から、最適なλ及びそれに対応するxを決定する。これには、L-Curve法を用いる。すなわち、log10||x||を横軸に、log10||Ax-b||を縦軸にプロットしてL-Curveを描き、L字の変曲点付近に対応するλ、及びそれに対応するxを採用する。L-Curve法の例及び採用すべき点を図4に例示する。なお、図4中の矢印に示すプロットが、最適なλ、及びそれに対応するxである。
【0059】
以上の手順により、各理論吸着速度曲線にかける重みであるxが得られる。次いで、横軸に理論吸着速度曲線の吸着速度定数(kLDF)を、縦軸にそれぞれの吸着速度定数に対応する重み(x)でプロットする。これにより、吸着速度定数分布を得ることができる。本明細書においては、本プロットを吸着速度定数分布と定義する。図5に、この方法で得られた吸着速度定数分布を例示する。図5では、kLDF=0.1(秒-1)付近にメインピーク、すなわち重みの極大値が最も大きくなるピークを有することが分かる。
【0060】
本実施形態に係る酸素の吸着速度定数のメインピークの半値幅及び最大中心は、図5に示す吸着速度定数分布を対数正規分布関数でフィッティングすることで求めることができる。フィッティングには、OriginLab製OriginPro2021bを用い、ピークフィット機能を用いて求めることができる。
【0061】
(細孔容積の求め方)
まず、本明細書において、分子プローブ法とは、最小分子径及び密度が既知のガス分子を分子篩炭素に吸着させ、吸着量を測定することで、その最小分子径以上の細孔入口径を有する細孔の細孔容積を求める方法をいう。
【0062】
分子プローブ法によって求められる0.37nm以上0.46nm以下の細孔入口径を有する細孔の容積は、次のようにして求めることができる。図6に示す分子プローブ法による細孔容積測定装置の概略図を用いて説明する。
【0063】
図6に示すように、ピンホール21を有するガラス製容器20に、二硫化炭素(最小分子径:0.37nm、密度:1.263g/mL)を満たしたシャーレ24を静置し、その上にパンチング板23を介してサンプルとなる分子篩炭素を入れた秤量瓶22を静置する。ガラス製容器20は25℃の恒温槽内に静置し、24時間二硫化炭素を分子篩炭素に吸着させる。吸着前後の分子篩炭素の質量変化から、分子篩炭素1gあたりの二硫化炭素の平衡吸着量Ag/gを求める。二硫化炭素の最小分子径は0.37nmであり、二硫化炭素の密度は1.263g/mLであることから、0.37nm以上の細孔入口径を有する細孔の容積A'mL/gは、A'=A/1.263で求められる。
【0064】
二硫化炭素をクロロホルム(最小分子径:0.46nm、密度:1.410g/mL)に代えて、上記と同様の手順にて測定することで、分子篩炭素1gあたりのクロロホルムの平衡吸着量Bg/gを求め、0.46nm以上の細孔入口径を有する細孔の容積B'mL/gを、B'=B/1.410で求める。
【0065】
A'とB'の算出値を用いて、0.37nm以上0.46nm以下の細孔入口径を有する細孔の容積は、A'-B'mL/gで求められる。
【0066】
(分子篩炭素の形状)
分子篩炭素の形状は、特に限定されず、公知の吸着材として適用可能な形状とすることができる。このような形状としては、例えば、ペレット状、粉末状、基板状(シート状)、棒状、ブロック状、球状、楕円球状、歪曲状、及び繊維状等が挙げられる。酸素をより選択的に吸着し、空気より酸素を分離するための性能をより向上させることができ、種々の用途に適用しやすいという観点から、分子篩炭素の形状は、ペレット状、又は粉末状であることが好ましい。また、分子篩炭素がペレット状である場合、不必要な微粉が発生しにくいので、分子篩炭素の成型工程において、配管等の閉塞も起こりにくい。成形のしやすさの観点から、分子篩炭素の形状は、円柱形状をしたペレット状であることがより好ましい。
【0067】
分子篩炭素の形状がペレット状である場合、その平面視形状は、例えば、公知の吸着材として適用可能な形状とすることができる。そのような形状としては、例えば、平面視で、円状、楕円状、矩形状、棒状、及び歪曲状等が挙げられる。分子篩炭素の形状がペレット状である場合、その厚さも特に限定されず、公知の吸着材を参考にすることができる。厚さとしては、圧力スイング吸着法又は温度スイング吸着法における吸着材として適用できることが好ましく、通常、100μm以上10000μm以下である。
【0068】
分子篩炭素の形状が円柱ペレット状である場合、ペレットの直径が0.1mm以上4.0mm以下であり、アスペクト比が1:1~1:10であることが好ましい。このようなペレットは、圧力スイング吸着法又は温度スイング吸着法における吸着材として好適である。
【0069】
なお、本明細書において、ペレットの直径は、ペレット状の分子篩炭素を無作為に30個採取し、これらの分子篩炭素の直径の平均値を意味する。直径は、例えばノギス等で計測できる。具体的な測定方法については、実施例を参照してもよい。
本明細書において、アスペクト比は、1個の分子篩炭素の直径と高さとの比、すなわち、分子篩炭素の直径:分子篩炭素の高さを意味する。アスペクト比は、分子篩炭素を無作為に30個採取し、これらの分子篩炭素のアスペクト比の平均値を意味する。具体的な測定方法については、実施例を参照してもよい。
【0070】
分子篩炭素の形状が粉末状である場合、分子篩炭素の粒度(平均粒子径、D50)は1μm以上150μm以下であることが好ましい。このような粉末は、温度スイング吸着法における吸着剤として好適である。
なお、本明細書において、平均粒子径(D50)は、JIS K 1474に準拠して、レーザー回折光散乱法粒度分布測定装置を用いて、体積基準のメジアン径として測定される。
【0071】
(用途)
本実施形態の分子篩炭素は、分離対象ガスとして空気に好適に用いることができる。すなわち、分子篩炭素は、分離対象ガスが空気であって、空気から酸素を選択的に吸着することができる。
【0072】
本実施形態の分子篩炭素は、分離対象ガスとして、二酸化炭素、メタン、エタン、エチレン、プロピレン、及びプロパンからなる群から選ばれる少なくとも2種のガスを含む混合ガスに好適に用いることができる。すなわち、分子篩炭素は、分離対象ガスが、二酸化炭素、メタン、エタン、エチレン、プロピレン、及びプロパンからなる群から選ばれる少なくとも2種のガスを含む混合ガスであって、混合ガスから1つ又は複数のガスを選択的に吸着することができる。
【0073】
[分子篩炭素の製造方法]
本実施形態の分子篩炭素は、公知の製造方法によって得ることができる。
【0074】
このような方法としては、例えば、熱分解法、賦活法、被覆法、及び蒸着法等を挙げることができる。製造方法としては、熱分解法、被覆法、及び蒸着法を用いることが好ましい。これらの製造方法を用いることで、酸素の吸着速度定数の分布のメインピークの半値幅が0.35秒-1以下であり、かつ、25℃におけるCOの吸着等温線からBET法によって求められる比表面積が300m/g以上600m/g以下である分子篩炭素をより容易に製造できる傾向にある。次に、分子篩炭素が活性炭である場合の製造方法を、一例として詳述する。
【0075】
分子篩炭素の製造方法は、原料を炭化して炭化物を得る炭化工程と、炭化物を賦活処理して賦活物を得る賦活工程と、賦活物を焼成する焼成工程と、を含む。
【0076】
(炭化工程)
分子篩炭素の製造方法は、原料を炭化して炭化物を得る炭化工程を含む。
原料としては、所望の分子篩炭素を得ることができる材料であれば特に限定されないが、原料を炭化した後に、難黒鉛化性炭素となる原料が望ましい。
このような原料としては、例えば、石炭;パームヤシ殻、及びココナッツヤシ殻などのヤシ殻;麻、及び綿などの天然繊維;レーヨン、及びポリエステルなどの合成繊維;ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、及びポリビニルアルコールなどの合成樹脂;木炭などを原料とする炭素、カーボンブラック、及びガラス状炭素などが挙げられる。
【0077】
酸素の吸着速度定数の分布のメインピークの半値幅が0.35秒-1以下であり、かつ、25℃におけるCOの吸着等温線からBET法によって求められる比表面積が300m/g以上600m/g以下である分子篩炭素を更に容易に製造できる傾向にあることから、原料としては、石炭、ヤシ殻、合成樹脂、フェノール樹脂、及び木炭からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、ヤシ殻、及びフェノール樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0078】
原料には、必要に応じて、添加剤等を含んでもよい。また、添加物等は、必要に応じて、炭化物に加えてもよい。
このような添加剤等としては、水、コールタール、無水タール、硬質ピッチ、コールタール系ピッチ、及び石油系ピッチが挙げられる。添加剤等は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
添加剤等は、それぞれ、原料又は炭化物100質量部に対して、通常1質量部以上50質量部以下で配合される。また、添加剤等の合計量は、原料又は炭化物100質量部に対して、通常1質量部以上100質量部以下である。原料又は炭化物と、添加剤と、を混合するに際しては、必要に応じて、予め原料又は炭化物中の酸素量を、原料又は炭化物100質量%に対して、1質量%以上20質量%以下の範囲で調節してもよい。酸素量の調節は、例えば、150℃以上300℃以下の加熱下で、原料又は炭化物と、酸素と、を混合することで行うことができる。
【0079】
分子篩炭素の製造方法では、原料を炭化させる前に、原料を粉砕あるいは成型してもよい。このような方法としては、例えば、原料を炭化させる前に、原料を公知の粉砕機を用いて粉末状に粉砕した後、炭化を行う方法が挙げられる。また、原料を炭化させる前に、原料を公知の方法でペレット状に成型した後、炭化を行う方法が挙げられる。
【0080】
原料の形状を粉末状とした場合、粉末の粒度(平均粒子径、D50)は、1μm以上150μm以下であることが好ましい。
【0081】
原料の炭化方法は、特に限定されず、例えば、無酸素の条件で300℃以上900℃以下、好ましくは300℃以上800℃以下まで加熱する方法が挙げられる。
【0082】
炭化時間は、原料、及び炭化を行う設備によって適宜設定できる。炭化時間としては、例えば、15分以上20時間以下、好ましくは30分以上10時間以下である。炭化処理は、例えば、ロータリーキルンなどの公知の製造設備を用いて行うことができる。また、炭化処理は、空気を排除して減圧下で行ってもよく、窒素雰囲気下で行ってもよい。
【0083】
酸素の吸着速度定数の分布のメインピークの半値幅が0.35秒-1以下であり、かつ、25℃におけるCOの吸着等温線からBET法によって求められる比表面積が300m/g以上600m/g以下である分子篩炭素を一層容易に製造できる傾向にあることから、分子篩炭素の製造方法では、公知の粉砕機を用いて、炭化物を粉末状に粉砕してもよい。分子篩炭素の製造方法では、炭化物を粉末状に粉砕した後、必要に応じて粉末状の炭化物に添加剤等を加えて公知の方法で混錬し、得られた混錬物を公知の方法で成型してもよい。
【0084】
炭化物の形状を粉末状とした場合、炭化物の粒度(平均粒子径、D50)は、1μm以上150μm以下であることが好ましい。
【0085】
酸素の吸着速度定数の分布のメインピークの半値幅が0.35秒-1以下であり、かつ、25℃におけるCOの吸着等温線からBET法によって求められる比表面積が300m/g以上600m/g以下である分子篩炭素を一層容易に製造できる傾向にあることから、分子篩炭素の製造方法では、公知の方法を用いて、炭化物、粉末状の炭化物、混錬物、又は粉末状の混錬物を円柱ペレット状に成型してもよい。
炭化物の形状を円柱ペレット状とした場合、円柱ペレットの直径は、通常0.1mm以上4.0mm以下であることが好ましい。また、円柱ペレットのアスペクト比(直径:高さ)は、通常1:1~1:10であることが好ましい。
【0086】
上記炭化工程により、原料の炭化物が得られる。炭化した後は、炭化物を、洗浄処理及び/又は乾燥処理等を行ってもよい。これらの条件は、特に限定されず、公知の条件を採用できる。
【0087】
(賦活工程)
分子篩炭素の製造方法は、炭化物を賦活処理して賦活物を得る賦活工程を含む。
【0088】
賦活処理としては、公知の方法を採用できる。このような方法としては、例えば、水蒸気、酸素、及び二酸化炭などの活性ガスによる賦活方法が挙げられる。賦活処理は、ロータリーキルン、及び流動炉などの公知の製造設備を用いることができる。また、賦活処理は、空気を排除して減圧下で行ってもよく、窒素雰囲気下で行ってもよい。賦活処理としては、例えば、水蒸気を用いた場合、水蒸気を1分間あたり10リットル(L)以上300リットル(L)以下の流量で1分以上1440分以下の間、炭化物と接触させる方法が挙げられる。
【0089】
賦活処理の温度は、特に限定されないが、酸素の吸着速度定数の分布のメインピークの半値幅が0.35秒-1以下であり、かつ、25℃におけるCOの吸着等温線からBET法によって求められる比表面積が300m/g以上600m/g以下である分子篩炭素を更に容易に製造できる傾向にあることから、750℃以上1200℃以下であることが好ましく、800℃以上1100℃以下であることがより好ましい。
【0090】
活性ガスの分圧は、例えば、10%以上100%以下であり、好ましくは30%以上100%以下である。
【0091】
賦活時間は、原料、賦活温度、及び製造設備などの条件によって適宜設定できる。賦活時間としては、例えば、30分間以上48時間以下であり、好ましくは1.0時間以上36時間以下であり、より好ましくは70分間以上24時間以下である。
【0092】
賦活処理後には、洗浄処理、及び/又は乾燥処理等を行ってもよい。これらの条件は、特に限定されず、公知の条件を採用できる。
【0093】
(焼成工程)
分子篩炭素の製造方法は、賦活物を焼成する焼成工程を含む。
焼成処理を行うことで、賦活物の細孔径分布が調整され、分子篩炭素の細孔径分布を均一にすることができる。そのため、分子篩炭素は、従来の分子篩炭素と比較して、酸素を選択的に吸着し、空気より酸素を分離するための性能を向上させることができる。
【0094】
焼成処理としては、賦活物に炭素源を接触させて、焼成する方法が挙げられる。焼成方法としては、例えば、熱分解法、被覆法、及び蒸着法が挙げられる。
【0095】
被覆法又は蒸着法に用いられる炭素源としては、例えば、コールタール、無水タール、コールタール系ピッチ、石油系ピッチ、及びクレオソート油が挙げられる。熱分解法及び蒸着法に用いられる炭素源としては、例えば、メタノール、及びエタノール等のアルコール;酢酸エチル等のエステル;アセトン、及びメチルエチルケトン等のケトン;ベンゼン、トルエン、及びキシレン等の芳香族系炭化水素;ヘキサン等の脂肪族炭化水素;ジメチルホルムアミド等のアミド;エチレングリコール等の多価アルコールを挙げることができる。
【0096】
賦活物の細孔径分布をより容易に調整でき、分子篩炭素の細孔径分布をより均一にすることができることから、被覆法又は蒸着法において、炭素源がベンゼンであって、その焼成温度が600℃以上900℃以下である場合、ベンゼンの使用量の下限は、賦活物100質量部に対して、通常1.0質量部以上、好ましくは1.5質量部以上、より好ましくは2.0質量部以上、更に好ましくは2.5質量部以上、より更に好ましくは3.0質量部以上である。ベンゼンの使用量の上限は、賦活物100質量部に対して、通常10質量部以下、好ましくは9.0質量部以下、より好ましくは8.5質量部以下、更に好ましくは8.0質量部以下、より更に好ましくは7.5質量部以下である。
【0097】
賦活物の細孔径分布をより容易に調整でき、分子篩炭素の細孔径分布をより均一にすることができることから、焼成温度は、通常600℃以上900℃以下、より好ましくは700℃以上800℃以下である。
【0098】
焼成時間は、焼成温度に応じて適宜決定することができ、例えば、15分以上240分以下である。
【0099】
焼成処理は、例えば、窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下、又はその他不活性ガス雰囲気下で行うことができる。
焼成処理は、これらのガスをキャリガスとして、炭素源を流通させながら行ってもよい。その場合、キャリガスの流量は、110L/min以上であることが好ましく、150L/min以上300L/min以下であることがより好ましく、170L/min以上250L/min以下であることが更に好ましい。キャリアガスに流通させる炭素源としては、ベンゼンが好ましい。このような焼成処理によれば、酸素の吸着速度定数の分布のメインピークの半値幅が0.35秒-1以下であり、かつ、25℃におけるCOの吸着等温線からBET法によって求められる比表面積が300m/g以上600m/g以下である分子篩炭素を一層容易に製造できる傾向にある。
【0100】
焼成処理後には、洗浄処理、及び/又は乾燥処理等を行ってもよい。これらの条件は、特に限定されず、公知の条件を採用できる。
【0101】
[ガス分離装置]
ガス分離装置は、上記の分子篩炭素を備え、圧力スイング吸着法、又は温度スイング吸着法を用いて酸素を分離できる装置であれば、特に限定されない。即ち、ガス分離装置は、酸素ガスを含む空気から、酸素ガス以外のガスを効率的に分離回収する装置である。このようなガス分離装置は、上記の分子篩炭素を備える他は従来のガス分離装置と同様の構成を備えるものであってもよい。
【0102】
また、ガス分離装置は、上記の分子篩炭素を備え、圧力スイング吸着法、又は温度スイング吸着法を用いて、二酸化炭素、メタン、エタン、エチレン、プロピレン、及びプロパンからなる群から選ばれる少なくとも2種のガスを含む混合ガスから1つ又は複数のガスを選択的に吸着して、ガスを分離できる装置であってもよい。このようなガス分離装置は、上記の分子篩炭素を備える他は従来のガス分離装置と同様の構成を備えるものであってもよい。
【0103】
具体的には、次のようなガス分離装置が挙げられる。
本実施形態のガス分離装置は、圧力スイング吸着法によって、空気より酸素を分離するためのガス分離装置であって、圧力スイング吸着法における吸着剤として、分子篩炭素を備える。
【0104】
本実施形態のガス分離装置は、圧力スイング吸着法によって、二酸化炭素、メタン、エタン、エチレン、プロピレン、及びプロパンからなる群から選ばれる少なくとも2種のガスを含む混合ガスから1つ又は複数のガスを選択的に吸着するためのガス分離装置であって、圧力スイング吸着法における吸着剤として、分子篩炭素を備える。
【0105】
本実施形態のガス分離装置は、温度スイング吸着法によって、空気より酸素を分離するためのガス分離装置であって、温度スイング吸着法における吸着剤として、分子篩炭素を備える。
【0106】
本実施形態のガス分離装置は、温度スイング吸着法によって、二酸化炭素、メタン、エタン、エチレン、プロピレン、及びプロパンからなる群から選ばれる少なくとも2種のガスを含む混合ガスから1つ又は複数のガスを選択的に吸着するためのガス分離装置であって、温度スイング吸着法における吸着剤として、分子篩炭素を備える。
【0107】
分子篩炭素は、吸着材として好適に使用できる。吸着材は、空気から酸素を効率よく分離することができるため、圧力スイング吸着法、又は温度スイング吸着法を用いたガス分離装置に好適である。
吸着材は、分子篩炭素のみで形成されていてもよいし、他の公知の部材を組み合わせて形成されていてもよい。
【0108】
次に、図7を用いて、空気より酸素を分離するためのガス分離装置であって、圧力スイング吸着法における吸着剤として分子篩炭素を備えるガス分離装置の一例について説明する。
【0109】
ガス分離装置は、図7に示すように、分子篩炭素を充填した吸着塔A及びBと、原料空気を加圧するコンプレッサー11と、原料空気を貯蔵する原料タンク12と、製品ガスを貯蔵する製品タンク17と、吸着塔A及びBの工程を切り替えるために開閉するバルブ13a、バルブ13b、バルブ14a、及びバルブ14bと、吸着塔から生じる製品ガスを製品タンクに送るためのバルブ16a及びバルブ16bと、均圧用のバルブ15と、製品ガス取り出し用のバルブ18と、吸着ガスを排気するための排出口19とから構成される。
【実施例
【0110】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0111】
〔実施例1〕
(炭化工程)
フェノール樹脂をロータリーキルン中で空気を排除しつつ、最終温度が800℃になるまで約5時間かけて昇温し、フェノール樹脂の炭化を行った。フェノール樹脂の炭化物100質量部を粉砕機で平均粒子径(D50)が0.15mm以下になるまで粉砕し、フェノール樹脂炭化物の粉末を得た。このフェノール樹脂炭化物の粉末100質量部に、水20質量部を加えながら、コールタール40質量部を更に加えて混錬した。得られた混錬物を押し出し成型機に充填し、直径が2.0mmで、アスペクト比が1:5の円柱ペレット状になるように成型した。得られた円柱ペレットを無作為に30個サンプリングし、これらのペレットの直径をノギスで測定し、平均値として直径を求めた。また、得られた円柱ペレットを無作為に30個サンプリングし、これらのペレットの高さをノギスで測定し、平均値を求め、直径:高さの平均値としてアスペクト比を求めた。その結果、得られた円柱ペレットは、ペレットの直径が2.0mmであり、アスペクト比が1:5であることを確認した。
【0112】
(賦活工程)
得られた円柱ペレットをロータリーキルン中で空気を排除しつつ、最終温度が800℃になるまで約5時間かけて昇温した。その後、水蒸気を1分間あたり、100リットルの流量で100分間、円柱ペレットと接触させて、賦活処理を行い、賦活物を得た。
【0113】
(焼成工程)
次いで、800℃の窒素雰囲気下にて、得られた賦活物100質量部に対して、200L/minの窒素をキャリアガスとして、ベンゼン5.0質量部を120分かけて流通せしめた。この焼成処理により、分子篩炭素を得た。
【0114】
〔実施例2〕
焼成工程において、ベンゼンを5.0質量部から7.5質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で分子篩炭素を得た。実施例1と同様にしてペレットの直径及びアスペクト比を求めたところ、得られた円柱ペレットは、ペレットの直径が2.0mmであり、アスペクト比が1:5であることを確認した。
【0115】
〔実施例3〕
(炭化工程)
ヤシ殻をロータリーキルン中で空気を排除しつつ、最終温度が800℃になるまで約5時間かけて昇温し、ヤシ殻の炭化を行った。ヤシ殻の炭化物100質量部を粉砕機で平均粒子径(D50)が0.1mm以下になるまで粉砕し、ヤシ殻炭化物の粉末を得た。このヤシ殻炭化物の粉末100質量部に、水20質量部を加えながら、コールタール40質量部を更に加えて混錬した。得られた混錬物を押し出し成型機に充填し、直径が2.0mmで、アスペクト比が1:5の円柱ペレット状になるように成型した。実施例1と同様にしてペレットの直径及びアスペクト比を求めたところ、得られた円柱ペレットは、ペレットの直径が2.0mmであり、アスペクト比が1:5であることを確認した。
【0116】
(賦活工程)
得られた円柱ペレットをロータリーキルン中で空気を排除しつつ、最終温度が800℃になるまで約5時間かけて昇温した。その後、水蒸気を1分間あたり、100リットルの流量で100分間、円柱ペレットと接触させて、賦活処理を行い、賦活物を得た。
【0117】
(焼成工程)
次いで、800℃の窒素雰囲気下にて、得られた賦活物100質量部に対して、200L/minの窒素をキャリアガスとして、ベンゼン7.5質量部を120分かけて流通せしめた。この焼成処理により、分子篩炭素を得た。
【0118】
〔実施例4〕
焼成工程において、ベンゼンを7.5質量部から7.0質量部に変更したこと以外は、実施例3と同様の方法で分子篩炭素を得た。実施例1と同様にしてペレットの直径及びアスペクト比を求めたところ、得られた円柱ペレットは、ペレットの直径が2.0mmであり、アスペクト比が1:5であることを確認した。
【0119】
〔実施例5〕
賦活工程において、水蒸気を円柱ペレットに接着させた賦活時間を100分間から120分間に、焼成工程において、ベンゼンを7.5質量部から6.0質量部にそれぞれ変更したこと以外は、実施例3と同様の方法で分子篩炭素を得た。実施例1と同様にしてペレットの直径及びアスペクト比を求めたところ、得られた円柱ペレットは、ペレットの直径が2.0mmであり、アスペクト比が1:5であることを確認した。
【0120】
〔実施例6〕
焼成工程において、ベンゼンを7.5質量部から5.0質量部に変更したこと以外は、実施例3と同様の方法で分子篩炭素を得た。実施例1と同様にしてペレットの直径及びアスペクト比を求めたところ、得られた円柱ペレットは、ペレットの直径が2.0mmであり、アスペクト比が1:5であることを確認した。
【0121】
〔実施例7〕
焼成工程において、ベンゼンを7.5質量部から4.0質量部に変更したこと以外は、実施例3と同様の方法で分子篩炭素を得た。実施例1と同様にしてペレットの直径及びアスペクト比を求めたところ、得られた円柱ペレットは、ペレットの直径が2.0mmであり、アスペクト比が1:5であることを確認した。
【0122】
〔実施例8〕
賦活工程において、水蒸気を円柱ペレットに接着させた賦活時間を100分間から80分間に、焼成工程において、ベンゼンを7.5質量部から3.0質量部にそれぞれ変更したこと以外は、実施例3と同様の方法で分子篩炭素を得た。実施例1と同様にしてペレットの直径及びアスペクト比を求めたところ、得られた円柱ペレットは、ペレットの直径が2.0mmであり、アスペクト比が1:5であることを確認した。
【0123】
〔比較例1〕
焼成工程において、キャリアガス量を200L/minから100L/minに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で分子篩炭素を得た。実施例1と同様にしてペレットの直径及びアスペクト比を求めたところ、得られた円柱ペレットは、ペレットの直径が2.0mmであり、アスペクト比が1:5であることを確認した。
【0124】
〔比較例2〕
賦活工程において、水蒸気を円柱ペレットに接着させた賦活時間を100分間から60分間に、焼成工程において、ベンゼンを7.5質量部から3.0質量部にそれぞれ変更したこと以外は、実施例3と同様の方法で分子篩炭素を得た。実施例1と同様にしてペレットの直径及びアスペクト比を求めたところ、得られた円柱ペレットは、ペレットの直径が2.0mmであり、アスペクト比が1:5であることを確認した。
【0125】
〔比較例3〕
焼成工程において、キャリアガス量を200L/minから100L/minに、かつ、ベンゼンを7.5質量部から4.0質量部にそれぞれ変更したこと以外は、実施例3と同様の方法で分子篩炭素を得た。実施例1と同様にしてペレットの直径及びアスペクト比を求めたところ、得られた円柱ペレットは、ペレットの直径が2.0mmであり、アスペクト比が1:5であることを確認した。
【0126】
〔比較例4〕
焼成工程において、キャリアガス量を200L/minから75L/minに、かつ、ベンゼンを7.5質量部から4.0質量部にそれぞれ変更したこと以外は、実施例3と同様の方法で分子篩炭素を得た。実施例1と同様にしてペレットの直径及びアスペクト比を求めたところ、得られた円柱ペレットは、ペレットの直径が2.0mmであり、アスペクト比が1:5であることを確認した。
【0127】
〔比較例5〕
焼成工程において、キャリアガス量を200L/minから50L/minに、かつ、ベンゼンを7.5質量部から4.0質量部にそれぞれ変更したこと以外は、実施例3と同様の方法で分子篩炭素を得た。実施例1と同様にしてペレットの直径及びアスペクト比を求めたところ、得られた円柱ペレットは、ペレットの直径が2.0mmであり、アスペクト比が1:5であることを確認した。
【0128】
〔比較例6〕
賦活工程において、水蒸気を円柱ペレットに接着させた賦活時間を100分間から60分間に、焼成工程において、キャリアガス量を200L/minから50L/minに、かつ、ベンゼンを7.5質量部から2.0質量部にそれぞれ変更したこと以外は、実施例3と同様の方法で分子篩炭素を得た。実施例1と同様にしてペレットの直径及びアスペクト比を求めたところ、得られた円柱ペレットは、ペレットの直径が2.0mmであり、アスペクト比が1:5であることを確認した。
【0129】
〔比較例7〕
賦活工程において、水蒸気を円柱ペレットに接着させた賦活時間を100分間から40分間に、焼成工程において、ベンゼンを7.5質量部から3.0質量部にそれぞれ変更したこと以外は、実施例3と同様の方法で分子篩炭素を得た。実施例1と同様にしてペレットの直径及びアスペクト比を求めたところ、得られた円柱ペレットは、ペレットの直径が2.0mmであり、アスペクト比が1:5であることを確認した。
【0130】
[評価方法]
〔酸素の吸着速度定数分布のメインピークの半値幅〕
実施例及び比較例で得られた分子篩炭素を用いて、酸素の吸着速度定数分布のメインピークの半値幅(秒-1)を上記の方法により求めた。
【0131】
〔比表面積〕
25℃におけるCOの吸着等温線からBET法によって求められる比表面積(m/g)は、次のようにして求めた。すなわち、比表面積/細孔分布測定装置(マイクロトラック・ベル(株)製のBELSORP(登録商標)-MAX(商品名))を使用し、実施例及び比較例で得られた分子篩炭素を減圧下(真空度:0.1kPa以下)にて250℃で3時間加熱した後、25℃における分子篩炭素の二酸化炭素吸着等温線を測定した。
得られた二酸化炭素吸着等温線を使用し、BET解析により、得られた曲線から多点法により相対圧P/P0=0.01以上0.1以下の領域での直線を算出し、この直線から比表面積を算出した。
【0132】
〔酸素の吸着速度定数分布のメインピークの最大中心〕
実施例及び比較例で得られた分子篩炭素を用いて、酸素の吸着速度定数分布のメインピークの最大中心(秒-1)を上記の方法により求めた。
【0133】
〔0.37nm以上0.46nm以下の細孔入口径を有する細孔の容積〕
実施例及び比較例で得られた分子篩炭素を用いて、分子プローブ法によって求められる0.37nm以上0.46nm以下の細孔入口径を有する細孔の容積(mL/g)を上記の方法により求めた。
【0134】
〔ガス分離性能の評価〕
ガス分離性能は、圧力スイング吸着法を用いた窒素発生装置による分子篩炭素1tあたりの製品窒素発生量(Nm3/h・t)及び窒素収率(%)で評価した。
【0135】
なお、分子篩炭素1tあたりの製品窒素発生量は、窒素発生装置において使用する分子篩炭素の質量をM(t)、1時間当たりの製品窒素発生量をQ(Nm3/h)とすると、下記式(6)で示される。
製品窒素発生量(Nm3/h・t)=Q(Nm3/h)/M(t)・・・(6)
窒素収率は、供給する原料ガス中の窒素から分離回収できる窒素の割合を表したものであり、下記式(7)で表される。
窒素収率(%)=100×(時間当たりの製品窒素発生量(NL/h)/(時間当たりの製品窒素発生量(NL/h)+時間当たりの排ガス量(NL/h)))・・・(7)
【0136】
また、窒素発生装置としては、図7の模式図に示すようなガス分離装置を用いて、次の運転操作に従って、ガス分離装置を操作した。
【0137】
まず、ガス分離装置において、各バルブ13a、13b、14a、14b、15、16a、16b、及び18を閉鎖する。次いで、コンプレッサー11で圧縮された原料空気を、原料タンク12に供給し、バルブ13aを開放し、空気を吸着塔Aに導入する。その後、吸着塔Aで酸素が吸着され、バルブ16aを開放することで、未吸着のガス(主として窒素)がバルブ16aを通って製品タンク17へ供給される。その後、バルブ16aを閉鎖し、バルブ18を開放することで、製品タンク17中の主として窒素ガスが排出される。この時、吸着塔Aは加圧状態となる。この操作と共に、上記と同様の操作を行って予め吸着塔Bに酸素を吸着させた酸素を排出する。すなわち、バルブ14bを開放することで、吸着塔Bで吸着した酸素がバルブ14bを通って19から排出される。この時、吸着塔Bは大気圧となる。吸着塔A及びBをこの状態に保ち、59秒が経過したのち、バルブ13a及び14bを閉鎖し、バルブ15が開放することで吸着塔A及びBが均圧される。均圧時間は1秒とする。均圧後、バルブ14bを閉鎖し、バルブ13b、16b、及び14aを開放することで、吸着塔Aからの吸着した酸素ガスが排出口19から排出され、吸着塔Bでの酸素吸着が進行する。この操作を繰り返すことで製品窒素を連続的に取り出す。
なお、一連の操作のなかでバルブ18の開度は一定とする。バルブ18の開度を調整することで製品窒素の取り出し流量を変化させることができ、これにより製品窒素濃度を調整することができる。
【0138】
ここで、本明細書においては、製品窒素濃度を99.99%とした。
【0139】
〔測定結果〕
酸素の吸着速度定数分布のメインピークの半値幅、比表面積、酸素の吸着速度定数分布のメインピークの最大中心、0.37nm以上0.46nm以下の細孔入口径を有する細孔の容積、製品窒素発生量、及び窒素収率のそれぞれの結果を表1に示す。
【0140】
【表1】
【0141】
表1に示すとおり、酸素の吸着速度定数分布のメインピークの半値幅が0.35秒-1以下であり、かつ、25℃におけるCOの吸着等温線からBET法によって求められる比表面積が300m/g以上600m/g以下である分子篩炭素(実施例1~8)は、上記条件を満たさない分子篩炭素(比較例1~5)に比べて、ガス分離性能が著しく向上していることが分かる。
【0142】
すなわち、酸素の吸着速度定数分布のメインピークの半値幅が0.35秒-1以下であり、かつ、25℃におけるCOの吸着等温線からBET法によって求められる比表面積が300m/g以上600m/g以下である分子篩炭素は、上記条件を満たさない分子篩炭素に比べて、酸素と窒素との間のガス分離性能が著しく向上していることが分かる。
【符号の説明】
【0143】
1…バルブ、2…バルブ、3…バルブ、4…圧力センサー、5…ガス溜め、6…試料セル、7…分子篩炭素、8…導入口、9…排出口、A…吸着塔、B…吸着塔、11…コンプレッサー、12…原料タンク、13a…バルブ、13b…バルブ、14a…バルブ、14b…バルブ、15…バルブ、16a…バルブ、16b…バルブ、17…製品タンク、18…バルブ、19…排出口、20…ガラス製容器、21…ピンホール、22…分子篩炭素を入れた秤量瓶、23…パンチング板、24…二硫化炭素又はクロロホルムを満たしたシャーレ
【要約】
【課題】酸素を選択的に吸着し、空気より酸素を分離するための性能が向上した分子篩炭素、及びその製造方法、並びにガス分離装置を提供する。
【解決手段】本発明の空気より酸素を分離するための分子篩炭素は、酸素の吸着速度定数分布のメインピークの半値幅が0.35秒-1以下であり、かつ、25℃におけるCOの吸着等温線からBET法によって求められる比表面積が300m/g以上600m/g以下である。
【選択図】図5
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7