(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】毛細血管拡張抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/30 20060101AFI20240314BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240314BHJP
A61P 9/14 20060101ALI20240314BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
A61K36/30 ZNA
A61P43/00 111
A61P9/14
A61P17/00
A61P43/00 105
(21)【出願番号】P 2020000262
(22)【出願日】2020-01-06
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 寿
(72)【発明者】
【氏名】村上 祐子
(72)【発明者】
【氏名】宮地 克真
(72)【発明者】
【氏名】堀場 大生
(72)【発明者】
【氏名】山羽 宏行
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102670837(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105168091(CN,A)
【文献】特開2017-081829(JP,A)
【文献】特開昭60-174721(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105963335(CN,A)
【文献】特開2011-037738(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルリジサの熱水抽出物を含有することを特徴とするエンドセリンB受容体発現抑制剤。
【請求項2】
血管内皮細胞におけるエンドセリンB受容体発現を抑制する請求項1記載のエンドセリンB受容体発現抑制剤。
【請求項3】
ルリジサの熱水抽出物を含有することを特徴とする毛細血管拡張抑制剤。
【請求項4】
ルリジサの熱水抽出物を含有することを特徴とする肌の赤み改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルリジサ又はクズの抽出物を含有することを特徴とするエンドセリンB受容体発現抑制剤、毛細血管拡張抑制剤、肌の赤み改善剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンドセリンは、内皮細胞由来のペプチドホルモンで、受容体を通して種々の細胞や組織に作用する。例えば、血管平滑筋細胞等において細胞内カルシウム濃度上昇を引き起こし、血管収縮作用を有することが知られている(非特許文献1及び2、特許文献1)。各受容体がもつ生理作用は多彩ではあるが、基本的にエンドセリンA受容体は血管収縮作用、強心作用、中枢交感神経活性の亢進、副腎でのアルドステロン・カテコラミン分泌促進を介して血圧上昇と体液貯留を引き起こす。それに対し、エンドセリンB受容体は血管平滑筋と副腎皮質細胞を除くほとんどの部位でエンドセリンA受容体と拮抗する挙動を示し、全体として血圧低下と利尿促進作用を示す(非特許文献3)。
【0003】
動脈や静脈等の血管は通常、内腔を一層に覆う血管内皮細胞とその周囲を取り巻き血管構造の支持や血管の弛緩収縮等を司る壁細胞(平滑筋細胞及びペリサイト)から構成されている。それに対し、毛細血管は平滑筋細胞をもたず血管内皮細胞で構成されている(非特許文献4)。エンドセリンB受容体は平滑筋細胞においてはエンドセリンA受容体と同様に血管収縮作用を示すが、血管内皮細胞においては血管拡張作用を示す(非特許文献3及び5)。又、血管内皮細胞にはエンドセリンA受容体は存在しないため、エンドセリン/エンドセリン受容体経路を介した血管の収縮弛緩にはエンドセリンB受容体のみが関与している(非特許文献3)。そのため、血管内皮細胞しかもたない毛細血管においてはエンドセリン/エンドセリンB受容体経路を介して血管拡張が起こる。
【0004】
色むらはシミやソバカス、ニキビ等に代表され、日本人女性の肌悩みの上位を占め、化粧品や美容医療分野で重要な研究対象となっている。色むらには、シミやソバカスのようにメラニン色素を要因とする色むらと、ニキビの炎症に代表されるヘモグロビンを要因とする色むらが混在している(非特許文献6)。前者は肌のくすみ、後者は肌の赤みとされている。
【0005】
肌の赤みは、ウイルスやアレルゲンに対するバリア機能が低下することにより、免疫反応が起こりやすく、炎症が引き起こされて皮膚中の毛細血管が拡張することにより生じる。又、敏感肌の肌トラブルとして赤みを挙げた人は血流量が多く、いくつもの細い血管が確認されている。更に、赤ら顔と血管新生因子(VEGFA)との関連が指摘されている。欧米人に見られる赤ら顔、特に酒さは皮脂分泌過剰による脂漏性皮膚炎、及びそれぞれが引き起こす毛細血管拡張が一因であるといわれている(非特許文献7)。エンドセリンB受容体に着目した先行研究として、ヒトケラチノサイトがエンドセリンを産生分泌し、ヒトメラノサイトへの強力な増殖促進効果を、エンドセリンB受容体を介して発揮してシミを引き起こすといった知見がある(非特許文献8)。しかし、肌の赤みに対する効果については研究されていない。
【0006】
ルリジサはムラサキ科ボラゴ属の植物でハーブの一種であり、学名:Borago officinalisである。原産はヨーロッパ中部の地中海沿岸である。今までに、ルリジサの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする美白剤、抗シワ剤、抗老化剤及び皮膚化粧料(特許文献2)、保湿剤及び皮膚化粧料(特許文献3)等が知られている。しかしながら、ルリジサの抽出物を有効成分として含有することを特徴とするエンドセリンB受容体発現抑制剤、毛細血管拡張抑制剤、肌の赤み改善剤については知られていない。
【0007】
クズはマメ科クズ属のつる性の多年草であり、学名:Pueraria lobataであるが、今までに、クズの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする美白剤、抗酸化剤及び皮膚化粧料(特許文献4)、シワ改善組成物、老化防止組成物及び皮膚外用組成物(特許文献5)等が知られている。しかしながら、クズの抽出物を有効成分として含有することを特徴とするエンドセリンB受容体発現抑制剤、毛細血管拡張抑制剤、肌の赤み改善剤については知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2014-80369
【文献】特開2018-203628
【文献】特開平09-278641
【文献】特開2012-046457
【文献】特開2012-532098
【非特許文献】
【0009】
【文献】Hirata Y et al,Biochem.Biophys. Res. Commun.,154(3),868-875(1988)
【文献】Yanagisawa M et al,Nature,332(6163),411-415(1988)
【文献】中山和彦,心臓,45(12),1503-1511(2013)
【文献】尾池雄一,「基礎から臨床応用までの血管研究がわかる」,28-36(2004)
【文献】Donald E. Kohan et al,Physiol.Rev.,91(1),1-77(2011)
【文献】井上弥生,粧技誌,45(3),218-224(2011)
【文献】飯田年以,香粧会誌,37(4),263-267(2013)
【文献】芋川玄爾,フレグランスジャーナル,45(9),57-64(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決する課題は、エンドセリンB受容体発現を抑制する植物由来成分を見出し、これを有効成分とする、作用点が明確であり、且つ優れたエンドセリンB受容体発現抑制剤、毛細血管拡張抑制剤、肌の赤み改善剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題の解決に向け鋭意検討を行った結果、ルリジサ又はクズの抽出物に優れたエンドセリンB受容体発現抑制作用を有することを見出した。更に、本発明者らは、ルリジサ又はクズの抽出物を含有する組成物に、優れたエンドセリンB受容体発現抑制効果、毛細血管拡張抑制効果、及び肌の赤み改善効果を見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、ルリジサ又はクズの抽出物を有効成分として含有することを特徴とするエンドセリンB受容体発現抑制剤、毛細血管拡張抑制剤、及び肌の赤み改善剤に関する。
【0013】
本発明は、以下の発明を包含する。
(1)ルリジサ及び/又はクズの抽出物を含有することを特徴とするエンドセリンB受容体発現抑制剤。
(2)血管内皮細胞におけるエンドセリンB受容体発現を抑制する請求項1記載のエンドセリンB受容体発現抑制剤。
(3)ルリジサ及び/又はクズの抽出物を含有することを特徴とする毛細血管拡張抑制剤。
(4)ルリジサ及び/又はクズの抽出物を含有することを特徴とする肌の赤み改善剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明のルリジサ又はクズの抽出物は、エンドセリンB受容体発現抑制効果に優れていた。又、この抽出物を含有することを特徴とするエンドセリンB受容体発現抑制剤、毛細血管拡張抑制剤、肌の赤み改善剤は、安全で、毛細血管拡張予防又は肌の赤み改善効果に優れていた。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実験例5でヒト血管内皮細胞(HUVEC)に蛍光色素を取り込ませた細胞の顕微鏡写真である。点線で囲んだ領域はHUVECが集積し造られた血管であり、管腔の外径としては血管の幅を測定した。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明におけるエンドセリンB受容体は、血管拡張因子であるエンドセリンと結合することで、毛細血管の拡張を引き起こす。別名でエンドセリン受容体B型、エンドセリン受容体B、endothelin receptor type B、endothelin B receptor、EDNRB、ETB、ET-B、ETB1、ETBR、ETRB、HSCR、WS4A、ABCDS、ET-BR、HSCR2とも呼ばれる。
【0017】
本発明における血管内皮細胞は、血管の内腔を一層に覆う細胞である。
【0018】
本発明における肌の赤み改善は、紫外線や酸化ストレス等の敏感肌の肌トラブルにより起こるヘモグロビンを要因とする肌の赤みを改善することを示す。
【0019】
本発明に用いるルリジサは、植物で、ハーブの一種であり、原産はヨーロッパ中部の地中海沿岸である。高さは30~60センチくらいになり、淡い緑色の葉や茎は白い毛で覆われていて、夏季に青色や白色の星型の花を咲かせる。別名でボリジ・瑠璃苣・ルリヂサ、ボリヂ、ルリジシャ、ルリヂシャ、ボラゴとも呼ばれる。
【0020】
本発明におけるルリジサの抽出物には、シソ目ムラサキ科ボラゴ属のルリジサ(学名:Borago officinalis)が用いられ、部位としては、花、実、種子、葉、茎、根等の植物体の一部又は全草から抽出したものである。その抽出方法は特に限定されず、例えば、加熱抽出したものであっても良いし、常温抽出したものであっても良い。又、抽出には、植物体をそのまま使用しても良く、乾燥、粉砕、細切等の処理を行っても良い。
【0021】
本発明に用いるクズには、マメ科クズ属のつる性の多年草のうち、例えばクズ(Pueraria lobata、P.montana、P.thunbergiana)、タイワンクズ(P.omeiensis、P.tonkinensis)、シナノクズ(P.thomsonii、P.chinensis)を用いることができる。本発明に用いるクズの抽出物とは、クズの花、実、種子、葉、茎、根等の植物体の一部又は全草が用いられ、好ましくはクズの根茎の抽出物をいう。抽出には、これらの植物体をそのまま使用しても良く、乾燥、粉砕、細切等の処理を行っても良い。別名でウマノボタモチ・久須・葛根・くずね・カッコンとも呼ばれる。
【0022】
抽出方法は、特に限定されないが、水もしくは熱水、又は水と有機溶媒の混合溶媒を用い、撹拌又はカラム抽出する方法等により行うことができる。抽出溶媒としては、例えば、水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等)、液状多価アルコール類(1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)が挙げられる。好ましくは、水、低級アルコール及び液状多価アルコール等の極性溶媒が良く、特に好ましくは、水、エタノール、1,3-ブチレングリコール及びプロピレングリコールが良い。これらの溶媒は一種でも二種以上を混合して用いても良い。特に好ましい抽出溶媒としては、水、又は水-エタノール系の混合極性溶媒が挙げられる。溶媒の使用量については、特に限定はなく、例えばルリジサの全草又はクズの根茎(乾燥重量)に対し、10倍以上、好ましくは20倍以上であれば良いが、抽出後に濃縮を行ったり、単離したりする場合の操作の便宜上100倍以下であることが好ましい。又、抽出温度や時間は、用いる溶媒の種類や抽出時の圧力等によって適宜選択できる。
【0023】
上記抽出物は、抽出した溶液のまま用いても良いが、必要に応じて、本発明の効果を奏する範囲で、濃縮(減圧濃縮、膜濃縮等による濃縮)、希釈、濾過、活性炭等による脱色、脱臭、エタノール沈殿等の処理を行ってから用いても良い。更には、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いても良い。
【0024】
本発明は、上記抽出物をそのまま使用しても良く、抽出物の効果を損なわない範囲内で、化粧品、医薬部外品、医薬品又は食品等に用いられる成分である油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、金属石鹸、pH調整剤、防腐剤、香料、保湿剤、粉体、紫外線吸収剤、増粘剤、色素、酸化防止剤、美白剤、キレート剤、賦形剤、皮膜剤、甘味料、酸味料等の成分が含有されていても良い。
【0025】
本発明は、化粧品、医薬部外品、医薬品、食品のいずれにも用いることができ、その剤形としては、例えば、化粧水、クリーム、乳液、ゲル剤、エアゾール剤、エッセンス、パック、洗浄剤、浴用剤、ファンデーション、打粉、口紅、軟膏、パップ剤、錠菓、カプセル剤、チョコレート、ガム、飴、飲料、散剤、顆粒剤、錠剤、糖衣錠剤、シロップ剤、丸剤、懸濁剤、液剤、乳剤、坐剤、注射用溶液等が挙げられる。
【0026】
外用の場合、本発明に用いる上記抽出物の含有量は、固形物に換算して0.0001重量%以上が好ましく、0.001~10重量%がより好ましい。更に、0.01~5重量%が最も好ましい。0.0001重量%未満では十分な効果は望みにくい。10重量%を越えると、効果の増強は認められにくく不経済である。
【0027】
内用の場合、摂取量は年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なる。通常、成人1人当たりの1日の摂取量としては、5mg以上が好ましく、10mg~5gがより好ましい。更に、20mg~2gが最も好ましい。
【0028】
次に本発明を詳細に説明するため、実施例として本発明に用いる抽出物の製造例、実験例及び処方例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。製造例に示す%とは重量%を、処方例に示す含有量の部とは重量部を示す。
【実施例1】
【0029】
ルリジサ又はクズの抽出物を以下のとおり製造した。製造例1~4において抽出材料にはルリジサの全草を用い、製造例5~8において抽出材料にはクズの根茎を用いた。
【0030】
(製造例1)ルリジサの熱水抽出物の調製
ルリジサの乾燥物10gに200mLの水を加え、95~100℃で2時間抽出した。得られた抽出液を濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してルリジサの熱水抽出物を1.4g得た。
【0031】
(製造例2)ルリジサの50%エタノール抽出物の調製
ルリジサの乾燥物10gを200mLの50%エタノール水溶液に室温で7日間浸漬し抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、エバポレーターで濃縮乾固してルリジサの50%エタノール抽出物を1.1g得た。
【0032】
(製造例3)ルリジサのエタノール抽出物の調製
ルリジサの乾燥物10gを200mLのエタノールに室温で7日間浸漬し抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、エバポレーターで濃縮乾固してルリジサのエタノール抽出物を0.4g得た。
【0033】
(製造例4)ルリジサの1,3-ブチレングリコール抽出物の調製
ルリジサの乾燥物10gを200mLの1,3-ブチレングリコールに室温で7日間浸漬し抽出を行った。得られた抽出液を濾過してルリジサの1,3-ブチレングリコール抽出物を192g得た。
【0034】
(製造例5)クズの根茎の熱水抽出物の調製
根皮を取り除いたクズの根茎の乾燥物10gに150mLの水を加え、95~100℃で2時間抽出した。得られた抽出液を濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してクズの根茎の熱水抽出物を1.2g得た。
【0035】
(製造例6)クズの根茎の50%エタノール抽出物の調製
根皮を取り除いたクズの根茎の乾燥物10gを150mLの50%エタノール水溶液に室温で7日間浸漬し、180rpmの速度で振盪抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、エバポレーターで濃縮乾固してクズの根茎の50%エタノール抽出物を2.0g得た。
【0036】
(製造例7)クズの根茎のエタノール抽出物の調製
根皮を取り除いたクズの根茎の乾燥物10gを100mLのエタノールに室温で7日間浸漬し、180rpmの速度で振盪抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、エバポレーターで濃縮乾固してクズの根茎のエタノール抽出物を0.4g得た。
【0037】
(製造例8)クズの根茎の1,3-ブチレングリコール抽出物の調製
根皮を取り除いたクズの根茎の乾燥物10gを200mLの1,3-ブチレングリコールに室温で7日間浸漬し、180rpmの速度で振盪抽出を行った。得られた抽出液を濾過してクズの根茎の1,3-ブチレングリコール抽出物を190g得た。
【実施例2】
【0038】
(処方例1) 化粧水
処方 含有量(部)
1.ルリジサの熱水抽出物(製造例1) 2.0
2.1,3-ブチレングリコール 8.0
3.グリセリン 2.0
4.キサンタンガム 0.02
5.クエン酸 0.01
6.クエン酸ナトリウム 0.1
7.エタノール 5.0
8.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
9.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(40E.O.) 0.1
10.香料 適量
11.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1~6及び11と、成分7~10をそれぞれ均一に溶解し、両者を混合し濾過して製品とする。
【0039】
(比較処方例1) 従来の化粧水
処方例1において、ルリジサの熱水抽出物を精製水に置き換えたものを、従来の化粧水とした。
【0040】
(処方例2) クリーム
処方 含有量(部)
1.クズの根茎の50%エタノール抽出物(製造例6) 1.0
2.スクワラン 5.5
3.オリーブ油 3.0
4.ステアリン酸 2.0
5.ミツロウ 2.0
6.ミリスチン酸オクチルドデシル 3.5
7.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0
8.ベヘニルアルコール 1.5
9.モノステアリン酸グリセリン 2.5
10.香料 0.1
11.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
12.1,3-ブチレングリコール 8.5
13.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2~9を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分1及び11~13を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃で成分10を加え、更に30℃まで冷却して製品とする。
【0041】
(比較処方例2) 従来のクリーム
処方例2において、クズの根茎の50%エタノール抽出物を精製水に置き換えたものを、従来のクリームとした。
【0042】
(処方例3) 乳液
処方 含有量(部)
1.ルリジサのエタノール抽出物(製造例3) 0.01
2.スクワラン 5.0
3.オリーブ油 5.0
4.ホホバ油 5.0
5.セタノール 1.5
6.モノステアリン酸グリセリン 2.0
7.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0
8.ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(20E.O.) 2.0
9.香料 0.1
10.プロピレングリコール 1.0
11.グリセリン 2.0
12.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
13.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1~8を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分10~13を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃で成分9を加え、更に30℃まで冷却して製品とする。
【0043】
(処方例4) ゲル剤
処方 含有量(部)
1.ルリジサの1,3-ブチレングリコール抽出物(製造例4) 1.0
2.エタノール 5.0
3.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
4.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60E.O.) 0.1
5.香料 適量
6.1,3-ブチレングリコール 5.0
7.グリセリン 5.0
8.キサンタンガム 0.1
9.カルボキシビニルポリマー 0.2
10.水酸化カリウム 0.2
11.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2~5と、成分1及び6~11をそれぞれ均一に溶解し、両者を混合して製品とする。
【0044】
(処方例5) パック
処方 含有量(部)
1.クズの根茎の熱水抽出物(製造例5) 5.0
2.ポリビニルアルコール 12.0
3.エタノール 5.0
4.1,3-ブチレングリコール 8.0
5.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
6.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(20E.O.) 0.5
7.クエン酸 0.1
8.クエン酸ナトリウム 0.3
9.香料 適量
10.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1~10を均一に溶解し製品とする。
【0045】
(処方例6) ファンデーション
処方 含有量(部)
1.ルリジサの50%エタノール抽出物(製造例2) 1.0
2.ステアリン酸 2.4
3.ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(20E.O.) 1.0
4.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 2.0
5.セタノール 1.0
6.液状ラノリン 2.0
7.流動パラフィン 3.0
8.ミリスチン酸イソプロピル 6.5
9.カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.1
10.ベントナイト 0.5
11.プロピレングリコール 4.0
12.トリエタノールアミン 1.1
13.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
14.二酸化チタン 8.0
15.タルク 4.0
16.ベンガラ 1.0
17.黄酸化鉄 2.0
18.香料 適量
19.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2~8を加熱溶解し、80℃に保ち油相とする。成分19に成分9を良く膨潤させ、続いて、成分1及び10~13を加えて均一に混合する。これに粉砕機で粉砕混合した成分14~17を加え、ホモミキサーで撹拌し75℃に保ち水相とする。この油相に水相をかき混ぜながら加え、乳化する。その後、冷却し、45℃で成分18を加え、かき混ぜながら30℃まで冷却して製品とする。
【0046】
(処方例7) 浴用剤
処方 含有量(部)
1.クズの根茎のエタノール抽出物(製造例7) 1.0
2.炭酸水素ナトリウム 50.0
3.黄色202号(1) 適量
4.香料 適量
5.硫酸ナトリウムにて全量を100とする
[製造方法]成分1~5を均一に混合し製品とする。
【0047】
(処方例8) 軟膏
処方 含有量(部)
1.クズの根茎の1,3-ブチレングリコール抽出物(製造例8) 5.0
2.ポリオキシエチレンセチルエーテル(30E.O.) 2.0
3.モノステアリン酸グリセリン 10.0
4.流動パラフィン 5.0
5.セタノール 6.0
6.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
7.プロピレングリコール 10.0
8.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2~5を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分1及び6~8を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら30℃まで冷却して製品とする。
【0048】
(処方例9) 散剤
処方 含有量(部)
1.ルリジサの熱水抽出物(製造例1) 0.5
2.クズの根茎の熱水抽出物(製造例5) 0.5
3.乾燥コーンスターチ 39.0
4.微結晶セルロース 60.0
[製造方法]成分1~4を混合し、散剤とする。
【0049】
(処方例10) 錠剤
処方 含有量(部)
1.ルリジサのエタノール抽出物(製造例3) 2.5
2.クズの根茎のエタノール抽出物(製造例7) 2.5
3.乾燥コーンスターチ 25.0
4.カルボキシメチルセルロースカルシウム 20.0
5.微結晶セルロース 40.0
6.ポリビニルピロリドン 7.0
7.タルク 3.0
[製造方法]成分1~5を混合し、次いで成分6の水溶液を結合剤として加えて顆粒成型する。成型した顆粒に成分7を加えて打錠する。1錠0.52gとする。
【0050】
(処方例11) 錠菓
処方 含有量(部)
1.ルリジサのエタノール抽出物(製造例3) 1.0
2.クズの根茎のエタノール抽出物(製造例7) 1.0
3.乾燥コーンスターチ 49.8
4.エリスリトール 40.0
5.クエン酸 5.0
6.ショ糖脂肪酸エステル 3.0
7.香料 0.1
8.精製水 0.1
[製造方法]成分1~5及び8を混合し、顆粒成型する。成型した顆粒に成分6及び7を加えて打錠する。1粒1.0gとする。
【0051】
(処方例12) 飲料
処方 含有量(部)
1.ルリジサの熱水抽出物(製造例1) 0.025
2.クズの根茎の熱水抽出物(製造例5) 0.025
3.ステビア 0.05
4.リンゴ酸 5.0
5.香料 0.1
6.精製水 94.8
[製造方法]成分3及び4を少量の水に溶解する。次いで、成分1、2、5及び6を加えて混合する。
【0052】
次に、本発明の効果を詳細に説明するため、実験例を挙げる。
【0053】
実験例1 ヒト血管内皮細胞におけるエンドセリンB受容体タンパク質をコードする遺伝子発現に及ぼすルリジサ及びクズの抽出物の影響
エンドセリンB受容体mRNA発現量の測定を行った。ヒト血管内皮細胞(HUVEC)を6well plateに播種し、HuMedia-EG2(クラボウ)の培地にて、37℃、5%CO2条件下で培養した。コンフルエントな状態になったところで、最終濃度10μg/mLになるようにルリジサ抽出物(製造例1)又はクズ抽出物(製造例5)を溶解させたHuMedia-EG2に置き換えた。添加から24時間後に総RNAの抽出を行った。細胞からの総RNAの抽出はRNAiso Plus(タカラバイオ)を用いて行い、総RNA量は分光光度計(NanoDrop)を用いて260nmにおける吸光度により求めた。mRNA発現量の測定は、細胞から抽出した総RNAを基にしてリアルタイムRT-PCR法により行った。リアルタイムRT-PCR法には、High Capacity RNA-to-cDNA Kit(Applied Biosystems)及びSYBR Select Master Mix(Applied Biosystems)を用いた。即ち、500ngの総RNAを逆転写反応後、PCR反応(95℃:15秒間、60℃:60秒間、40cycles)を行った。その他の操作は定められた方法に従い、エンドセリンB受容体mRNAの発現量を、内部標準であるβ―アクチンmRNAの発現量に対する割合として求めた。エンドセリンB受容体発現抑制率は、コントロール(試料未添加)群のエンドセリンB受容体mRNAの発現量に対する試料添加群のエンドセリンB受容体mRNAの発現量の比率として算出した。尚、各遺伝子の発現量の測定に使用したプライマーは次の通りである。
【0054】
エンドセリンB受容体用のプライマーセット
CAAGGACCCATCGAGATCAAG(配列番号1)
CGAACACAAGGCAGGACACA(配列番号2)
β-アクチン用のプライマーセット
CACTCTTCCAGCCTTCCTTCC(配列番号3)
GTGTTGGCGTACAGGTCTTTG(配列番号4)
【0055】
その結果を表1に示す。ヒト血管内皮細胞におけるエンドセリンB受容体mRNA発現量は、ルリジサ及びクズ抽出物により減少した。尚、ルリジサの抽出物(製造例2、3及び4)、クズの抽出物(製造例6、7及び8)にも同等の効果が認められた。
【0056】
【0057】
実験例2 ヒト血管内皮細胞におけるUVA照射によるエンドセリンB受容体発現変化に及ぼすルリジサ及びクズの抽出物の影響
ヒト血管内皮細胞(HUVEC)を6well plateに播種し、HuMedia-EG2(クラボウ)の培地にて、37℃、5%CO2条件下で培養した。コンフルエントな状態になったところで、HUVECをPBS(-)にて洗浄した後、PBS(-)存在下、UVA 10J/cm2を照射した。照射後は、最終濃度10μg/mLになるようにルリジサ抽出物(製造例1)又はクズ抽出物(製造例5)を溶解させたHuMedia-EG2に置き換えた。この操作を3日間繰り返し、最終照射から24時間培養した後、総RNAの抽出を行った。細胞からの総RNAの抽出はRNAiso Plus(タカラバイオ)を用いて行い、総RNA量は分光光度計(NanoDrop)を用いて260nmにおける吸光度により求めた。mRNA発現量の測定は、細胞から抽出した総RNAを基にしてリアルタイムRT-PCR法により行った。リアルタイムRT-PCR法には、High Capacity RNA-to-cDNA Kit(Applied Biosystems)及びSYBR Select Master Mix(Applied Biosystems)を用いた。即ち、500ngの総RNAを逆転写反応後、PCR反応(95℃:15秒間、60℃:60秒間、40cycles)を行った。その他の操作は定められた方法に従い、エンドセリンB受容体mRNAの発現量を、内部標準であるβ―アクチンmRNAの発現量に対する割合として求めた。エンドセリンB受容体発現抑制率は、コントロール(試料未添加)群のエンドセリンB受容体mRNAの発現量に対する試料添加群のエンドセリンB受容体mRNAの発現量の比率として算出した。
【0058】
その結果を表2に示す。ルリジサ及びクズ抽出物にUVA照射により上昇したエンドセリンB受容体mRNA発現量を減少させる効果が認められた。尚、ルリジサの抽出物(製造例2、3及び4)、クズの抽出物(製造例6、7及び8)にも同等の効果が認められた。
【0059】
【0060】
実験例3 ヒト血管内皮細胞におけるUVA照射による血管拡張とルリジサ及びクズの抽出物の影響
ヒト血管内皮細胞(HUVEC)を60mm dishに播種し、HuMedia-EG2(クラボウ)の培地にて、37℃、5%CO2条件下で培養した。コンフルエントな状態になったところで、HUVECをPBS(-)にて洗浄した後、PBS(-)存在下、UVA 10J/cm2を照射した。照射から24時間培養した後、CellTrackerTM Orange CMRA Dye(Invitrogen)を希釈したHuMedia-EG2に置き換えた。30分後にPBS(-)にて洗浄した後、トリプシン-EDTAを用いて細胞を剥離し、ThinCert CELL CULTURE INSERT FOR 6 WELL PLATES(Greiner)のインサート内に、あらかじめCellmatrix Type 1-A(新田ゼラチン)を500mL加えコラーゲンゲルを固形化させたものの上に、1×105個播種した。細胞が接着した後、その上からCellmatrix Type 1-Aを500mL加えコラーゲンゲルを固形化させ、インサート内外を最終濃度10μg/mLになるようにルリジサ抽出物(製造例1)又はクズ抽出物(製造例5)を溶解させたHuMedia-EG2で満たした。添加から24時間後に、蛍光顕微鏡(キーエンス)にて観察した。
【0061】
HUVECによる血管形成の結果を
図1、外径の計測結果を表3に示す。UVA照射により拡張するHUVECが形成する血管の外径が、ルリジサ及びクズ抽出物により減少したため、ルリジサ及びクズ抽出物に毛細血管拡張抑制効果が認められた。尚、ルリジサ抽出物(製造例2、3及び4)、クズ抽出物(製造例6、7及び8)にも同等の効果が認められた。
【0062】
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に関わる、ルリジサ又はクズの抽出物を有効成分として含有することを特徴とするエンドセリンB受容体発現抑制剤、毛細血管拡張抑制剤、肌の赤み改善剤は、各剤の目的に対して優れた改善効果を発揮する。従って、肌の赤みの改善を目的とする化粧品、医薬品、医薬部外品及び食品を提供することができる。
【配列表】