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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】双安定性ブーム
(51)【国際特許分類】
   B64G 1/22 20060101AFI20240314BHJP
   B64G 1/66 20060101ALI20240314BHJP
   H01Q 1/12 20060101ALN20240314BHJP
【FI】
B64G1/22 100C
B64G1/66 C
H01Q1/12 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020025283
(22)【出願日】2020-02-18
(65)【公開番号】P2021130338
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】591051874
【氏名又は名称】サカセ・アドテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 秋人
(72)【発明者】
【氏名】堀 利行
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第07895795(US,B1)
【文献】特開2014-008929(JP,A)
【文献】米国特許第05765320(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64G 1/22
H01Q 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸展形態と、巻き取り形態と、の2形態を安定して保持可能な長尺のブーム本体を有し、
該ブーム本体は、伸展形態では、長手方向に直線状に伸び、かつ、長手方向と直交方向の断面形状が開断面形状に湾曲する形態に保持され、巻き取り形態では、長手方向と直交方向の断面形状が直線状に伸び、かつ、長手方向に湾曲して巻き取られた形態に保持される双安定性ブームにおいて、
前記ブーム本体は、周方向に分割され長手方向に平行に延びる複数の分割ブーム部と、該複数の分割ブーム部を連結する屈曲可能の連結部と、を備え、
前記分割ブーム部は、それぞれ、伸展形態では、長手方向に直線状に伸び、かつ、長手方向と直交方向の断面形状が開断面形状に湾曲する形態に保持され、巻き取り形態では、長手方向と直交方向の断面形状が直線状に伸び、長手方向に湾曲して巻き取られた形態に保持される双安定性を有し、
前記伸展形態では、前記複数の分割ブーム部が、それぞれ前記ブーム本体の開断面形状の一部を構成し、前記連結部によって全体としてブーム本体の開断面形状を保持する構成となっており、
前記巻き取り形態では、前記複数の分割ブーム部が、互いに重なることなく、前記伸展形態における開断面形状の凹面側となる面側が凹面となる方向に湾曲して巻き取られる形態となっている
ことを特徴とする双安定性ブーム。
【請求項2】
前記連結部は前記分割ブーム部に接合される連結材によって構成される
請求項1に記載の双安定性ブーム。
【請求項3】
前記連結材は、前記分割ブーム部に全面的に接合されている
請求項2に記載の双安定性ブーム。
【請求項4】
前記連結材は、前記分割ブーム部の側縁部分に部分的に接合されている
請求項2に記載の双安定性ブーム。
【請求項5】
前記分割ブーム部は、繊維基材に樹脂を含浸させた繊維強化樹脂によって構成される
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の双安定性ブーム。
【請求項6】
前記繊維基材は、繊維の配向方向が前記伸展方向に対して互いに逆方向に斜めに交差させた組織である
請求項5に記載の双安定性ブーム。
【請求項7】
前記分割ブーム部と前記連結部は、共通の繊維基材をベースとし、前記分割ブーム部には硬質樹脂を含侵させ、前記連結部には軟質樹脂を含侵させた構成となっている
請求項1に記載の双安定性ブーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、人工衛星や探査機のアンテナや太陽電池パネル等の宇宙構造物や地上構造物等、種々の構造物の構造材等に用いられるブームに関し、特に、巻き取り形態と、伸展形態を安定して保持し、さらに、巻き取り形態から自己伸展することが可能な双安定性ブームに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の双安定性ブームとしては、たとえば、特許文献1に記載のような伸縮性部材が知られている。
すなわち、ブーム本体は弾性を有する長尺の板材によって構成され、長手方向と直交する方向(以下、短手方向という)に開断面形状に曲付けすると共に、一方で、長手方向に円筒状に巻き取った巻き取り形態に曲付けし、初期形態で、伸展形態と巻き取り形態のいずれかの形態で安定して保持される構成となっている。
巻き取り形態では、ブーム本体は、短手方向の開断面形状が直線状に延ばされており、開断面方向に戻ろうとする弾性復元力が巻き取られた円筒形状の剛性によって保持されている。また、伸展形態では、ブーム本体は短手方向の断面形状が開断面形状で、巻き取り方向の弾性復元力は開断面形状のブーム本体の長手方向の剛性によって保持される。
ブーム本体は伸展形態と巻き取り形態の2形態を有する状態では力学的に不安定で、巻き取り形態から伸展方向に少し伸展させると自己伸展して伸展形態に移行するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2000-507890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このブームを繊維強化樹脂等の樹脂材で成形した場合、巻き取り状態で長期間収納していると、応力緩和によって、ブーム本体の短手方向の断面形状が開断面形状に戻ろうとする弾性復元力が低下し、自己伸展が開始されない、あるいは伸展が開始しても伸展途中で停止するというような問題が生じる。また、伸展初期において、端末を少し引き出した状態では、開断面形状に変形した端末部分と巻き取り形態との境目付近に、開断面形状に戻る弾性復元力が集中して、屈曲が発生し、屈曲が自己伸展の初期抵抗となり、自己伸展を阻害する要因となっている。
【0005】
本発明は、斯かる実情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、自己伸展の初期抵抗が小さく、巻き取り形態に長期間保持した場合でも、確実に自己伸展を進行させ得る双安定性ブームを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、
伸展形態と、巻き取り形態と、の2形態を安定して保持可能な長尺のブーム本体を有し、
該ブーム本体は、伸展形態では、長手方向に直線状に伸び、かつ、長手方向と直交方向の断面形状が開断面形状に湾曲する形態に保持され、巻き取り形態では、長手方向と直交方向の断面形状が直線状に伸び、かつ、長手方向に湾曲して巻き取られた形態に保持される双安定性ブームにおいて、
前記ブーム本体は、周方向に分割され長手方向に平行に延びる複数の分割ブーム部と、該複数の分割ブーム部を連結する屈曲可能の連結部を備え、
前記分割ブーム部は、それぞれ、伸展形態では、長手方向に直線状に伸び、かつ、長手方向と直交方向の断面形状が開断面形状に湾曲する形態に保持され、巻き取り形態では、長手方向と直交方向の断面形状が直線状に伸び、長手方向に湾曲して巻き取られた形態に保持される双安定性を有し、
前記伸展形態では、前記複数の分割ブーム部が、それぞれ前記ブーム本体の開断面形状の一部を構成し、前記連結部によって全体としてブーム本体の開断面形状を保持する構成となっており、
前記巻き取り形態では、前記複数の分割ブーム部が、互いに重なることなく、前記伸展形態における開断面形状の凹面側となる面側が凹面となる方向に湾曲して巻き取られる形態となっていることを特徴とする。
本発明によれば、巻き取り形態における歪量が、複数の分割ブーム部に分散されて小さくなり、巻き取り形態で長期間経過し、応力緩和が生じたとしても、応力緩和の程度が小さく、弾性復元力によってブーム本体を自己伸展させることができる。
また、複数の分割ブーム部に分割することで、各伸展形態と巻き取り形態の分割ブームの内部応力が小さいので、開断面形状に戻る弾性復元力が小さく、引き出した端末部分と巻き取り形態部との境目に生じる屈曲も小さくなり、巻き取り形態から伸展形態に移行する過程における初期抵抗が軽減され、自己伸展しやすくなる。
【0007】
前記連結部は分割ブーム部に接合される連結材によって構成することができる。
このようにすれば、製作が容易となる。
前記連結材は、前記分割ブーム部に全面的に接合された構成とすることもできる。
このようにすれば、分割ブーム部を保護する効果もある。
また、前記連結材は、前記分割ブーム部の側縁に部分的に接合される構成としてもよい。
このようすれば、連結部に要する材料を最小限とすることができる。
また、前記分割ブーム部は、繊維基材に樹脂を含浸させた繊維強化樹脂によって構成することが好適である。
繊維基材は、繊維の配向方向が前記伸展方向に対して互いに逆方向に斜めに交差させた組織とすることができる。
前記分割ブーム部と前記連結部は、共通の繊維基材をベースとし、前記分割ブーム部には硬質樹脂を含侵させ、前記連結部には軟質樹脂を含侵させた構成してもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の双安定性ブームによれば、自己伸展の初期抵抗が小さく、巻き取り形態に長期間保持した場合でも、巻き取り形態から伸展形態への移行を確実に進行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は本発明の実施形態1に係る双安定性ブームを示すもので、(A)は伸展形態の斜視図、(B)は巻き取り形態の斜視図、(C)は伸展形態のブーム本体の長手方向と直交方向の断面図、(D)は(C)のブーム本体を分解して示す断面図、(E)は連結部近傍の拡大断面図、(F)は連結部の他の構成例を分解して示す部分拡大図、(G)は連結部の更に他の構成例を分解して示す部分拡大図である。
図2図2(A)は図1のブーム本体を構成する分割ブーム部の伸展形態の斜視図、(B)は(A)の分割ブーム部の巻取り形態の斜視図、(C)は(A)の分割ブーム部の巻取り形態から伸展形態への移行途中の状態の斜視図である。
図3図1の双安定ブームの巻取り形態から伸展形態への移行途中の状態を示すもので、(A)は移行初期状態の斜視図、(B)は移行がさらに進んだ状態の斜視図である。
図4図4図1のブーム本体を構成するFRPシートの一例を示すもので、(A)は繊維基材として織物組織を用いた場合の糸の配向方向の説明図、(B)は(A)の織物組織の一方の糸の配向方向に沿う概略断面図である。
図5図5は繊維基材としてUD材を用いたFRPシートの一例を示すもので、(A)は積層される複数のFRPシートを示す概略分解図、(B)は積層構造の概略断面図である。
図6図6は本発明の実施形態2に係る双安定性ブームを示すもので、(A)は伸展形態の斜視図、(B)は巻き取り形態の斜視図、(C)は初期伸展状態の斜視図、(D)は伸展形態のブーム本体の長手方向と直交方向の断面図である。
図7図7は本発明の実施形態3に係る双安定性ブームを示すもので、(A)は伸展形態の斜視図、(B)は巻き取り形態の斜視図、(C)は伸展形態のブーム本体の長手方向と直交方向の断面図、(D)は連結部の拡大断面図である。
図8図8図7の伸展過程を示すもので、(A)は初期伸展状態の斜視図、(B)は伸展がさらに進んだ状態の斜視図である。
図9図9図1(C)の他の形態例を示すブーム本体の長手方向と直交方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
[実施形態1]
図1は、本発明の実施1に係る双安定性ブームを示しており、(A)は伸展形態の斜視図、(B)は巻き取り形態の斜視図、(C)は伸展形態のブーム本体の長手方向と直交方向の断面図、(D)は(C)のブーム本体を分解して示す断面図、(E)は連結部近傍の拡大断面図である。
すなわち、この双安定性ブームは、図1(A)に示す伸展形態と、図1(B)に示す巻き取り形態と、の2形態を安定して保持可能な長尺のブーム本体10を有する。以下、必要に応じて、巻取り形態のブーム本体10については、符号の末尾にAを付加し、伸展形態のブーム本体10については、符号の末尾にBを付して説明する。
ブーム本体10は、伸展形態では、長手方向Xに直線状に伸び、かつ、長手方向Xと直交方向の断面形状が開断面形状に湾曲する形態に保持される。一方、巻き取り形態では、長手方向と直交方向の断面形状が直線状に伸び、かつ、長手方向に湾曲して巻き取られた形態に保持される双安定性を有している。
ブーム本体10について、伸展形態における開断面形状の凹面側となる面を第1面10a、凸面側となる面を第2面10bとすると、巻き取り形態においても、第1面10a側が凹面となる方向に湾曲して巻き取られる形態となっている。
【0011】
ブーム本体10は、周方向に分割され長手方向Xに平行に並んで延びる長尺の2つの分割ブーム部11,11と、2つの分割ブーム部11,11を連結する屈曲自在の連結部12と、を備えている。伸展形態では、複数の分割ブーム部11,11が、それぞれブーム本体10の開断面形状の一部を構成し、連結部12によって全体としてブーム本体10の開断面形状を保持する構成となっている。
ブーム本体10の開断面形状は、図1(C)に示すように、円の一部を構成するようにC字形状に湾曲する断面円弧形状で、円弧の両端と曲率中心Oを結んだ線の成す開口角αは、特に限定されず、たとえば、図9に示すように、両側縁が周方向に重なるような、αがマイナスになるような設定であってもよい。
2つの分割ブーム部11,11は、ブーム本体10を長手方向と直交方向に2分割した構成で、同一形状、同一寸法の長尺の弾性薄板であり、それぞれが、伸展形態と巻き取り形態の2形態を安定して保持することが可能な双安定性を有している。
【0012】
連結部12は、この実施形態では、伸展形態における分割ブーム部11,11の凹面側となる第1面11a,11aに跨って接着される連結材としての第1連結シート12aと、分割ブーム部11,11の凸面側となる第2面11b,11bに跨って接着される第2連結シート12bによって構成されている。連結される分割ブーム部11,11の側縁間
にはわずかな隙間が設けられ、この隙間において、図1(E)に拡大して示すように、第1連結シート12aと第2連結シート12bが接着されて屈曲可能な連結部12を構成している。この実施形態では、第1連結シート12aは、2つの分割ブーム部11,11の第1面11a,11aの全面を被覆するように接着され、第2連結シート12bは、2つの分割ブーム部11,11の第2面11b,11bの全面を被覆するように接着されている。
連結部12を構成する第1連結シート12a、第2連結シート12bには、たとえば、フレキシブルな軟質のエラストマから構成されるフィルムを用いることができるし、さらにフィルムに繊維基材で補強しておいてもよい。また、カーボンではないバイアステープ等を用いることもできる。連結部12は、伸展形態と巻き取り形態のいずれの形態にも柔軟に変形する構成であるが、連結部12の初期形態(無負荷状態)は、伸展形態におけるブーム本体10の形態を保持する構成となっている。すなわち、ブーム本体10の開口角を大きくする方向の変形については、連結部12の分割ブーム部11,11の凹面側の表面が伸びて元に戻す方向の張力が作用し、開口角を小さくする方向への変形は、連結部12の分割ブーム部の11,11の凸面側の表面が伸びて元に戻す方向の張力が作用し、元の開口断面形状に戻される。
【0013】
なお、図示例では、第1連結シート12a、第2連結シート12bは、2つの分割ブーム部11,11の第1面11a、11aと第2面11b,11bの全面を被覆するように張り付られているが、第1連結シート12aのみ、第2連結シート12bのみによって構成してもよい。
また、図1(F)に示すように、第1連結シート112a、第2連結シート112bを連結される分割ブーム部11,11の側縁に部分的に張り付けてもよい。この場合も、第1面11a側のみ、第2面11b側のみを張り付けてもよい。また、図1(G)に示すように、第1連結シート112a,第2連結シート112bの少なくともいずれか一方に、
繊維基材等の補強材112dを貼り付け、あるいは補強材入りシートを使用してもよい。
また、連結部12で連結される分割ブーム部11,11の側縁間の隙間は、狭すぎると巻き取り時の抵抗が大きくなり、広すぎると伸展時の剛性が低くなる傾向があり、適切な範囲に設定される。
【0014】
次に、各分割ブーム部11について説明する。
図2(A)は図1のブーム本体を構成する一つの分割ブーム部の伸展形態の斜視図、(B)は(A)の分割ブーム部の巻取り形態の斜視図、(C)は(A)の分割ブーム部の巻取り形態から伸展形態への移行途中の状態の斜視図である。
分割ブーム部11は、弾性を有する長尺の薄板によって構成され、長手方向Xと直交する方向に開断面形状に曲付けすると共に、一方で、長手方向Xに円筒状に巻き取った巻き取り形態に曲付けし、初期形態で、図2(A)に示す伸展形態11Aと、図2(B)に示す巻き取り形態11Bのいずれかの形態で安定して保持される構成となっている。分割ブーム部11は、伸展形態における開断面形状の凹面側となる面を第1面11a、凸面側となる面を第2面11bとすると、巻き取り形態においても、第1面11a側が凹面となる方向に湾曲して巻き取られる形態となっている。
【0015】
各分割ブーム部11は、図4(A),(B)に示すように、繊維強化樹脂シート(FR
Pシート)13によって構成されている。繊維強化樹脂シート13は、繊維基材15にマトリックス樹脂16を含浸させた構成である。
繊維基材15は、2軸織物組織であり、長手方向に沿った長軸線N1に対して第1軸糸15a及び第2軸糸15bは、互いに反対方向に所定角度θ(配向角)だけ傾斜する構成となっている。配向角としては、45°としている。
この実施形態では、第1軸糸15a、第2軸糸15bは炭素繊維が用いられ、特に、繊維束を扁平に束ねた開繊糸によって構成されている。この例では、この繊維強化樹脂シー
ト13を1層構成としているが、複数枚張り合わせた多層構成としてもよい。
2軸織物組織としては、平織りのバイアスカット材、バイアス織りのいずれも採用する
ことができる。
なお、繊維基材15の基材組織は、織物組織に限定されるものではなく、組紐組織も適用可能であり、その他、編物組織、網組織等も適用可能である。
【0016】
また、図5(A),(B)に示すように、繊維強化樹脂シート(FRPシート)として
、繊維基材として繊維25の束を長軸線N1に対して斜めに配向させたUD材23(マトリックス樹脂26に繊維25を一方向に配向した繊維強化材料)を、複数積層した積層材を用いることもできる。UD材23は、長軸線N1に対して互いに逆方向に配向させた2層構成であればよいが、2層ではねじれる傾向にあり、配向角θを、-θ/+θ/+θ/-θの4層構成とすることにより、ねじれを防止することができる。なお、配向角θの+、-の表記については、反時計回り方向を+、時計回り方向を-としている。配向角θは
、45°程度が好適である。
【0017】
上記した繊維基材15の第1軸糸15a、第2軸糸15bや、UD材23の繊維25については、炭素繊維の他に、ガラス繊維、ポリエステル系繊維、フッ素系繊維、アラミド系繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、金属系繊維等を利用可能である。アンテナ等に用いる場合は、導電性の繊維を使用することもできる。
また、マトリックス樹脂16、26としては、ポリカーボネート樹脂、PETやPBTなどポリエステル系樹脂、PA(ポリアミド)、PEI(ポリエーテルイミド),PEE
K(ポリエーテルエーテルケトン)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)などのエンジニアリングプラスチック、EP(エポキシ樹脂)、ポリイミド系などの耐熱性樹脂等を用いることができる。
【0018】
次に、図3を参照して、本実施形態の双安定性ブームの作用について説明する。
巻き取り形態では、ブーム本体10は、2つの分割ブーム部11,11が伸展方向と直交方向の円弧状の断面形状が直線状に延ばされており、各分割ブーム部11,11の開断面方向に戻ろうとする弾性復元力は、各分割ブーム部11,11の巻き取られた円筒形状の剛性によって保持されている。連結部12については、分割ブーム部11,11の変形に倣って弾性変形している。
巻き取り形態で安定しているブーム本体10の端末を少し引き出すと、図3(A)に示すように、巻き取り形態10Bから伸展形態に移行する移行領域10Cにおいて、ブーム本体10の短手方向の断面形状が、短手方向に湾曲させようとする弾性復元力によって、順次直線状態から開断面形状に移行し、巻き取り形態10Bが伸展形態に向けて移行して自己伸展していく。
伸展初期においては、端末部分が開断面形状に戻りきらず、初期抵抗が発生する。本実施形態の場合、ブーム本体が2つの分割ブーム部11,11に分割されているので、開断
面形状に戻りやすく、初期抵抗が小さくなり、スムースに自己伸展する。
移行領域10Cにおいては巻き取り形態10Bから、まず、各分割ブーム部11,11が並列的に湾曲形態となったW字形状に移行し、巻き取り形態からの距離が遠くなるにしたがって、連結部12の弾性復元力によって、徐々にW字形状の境界山部が徐々に低くなりC字状の一つの湾曲形態に移行していく。
【0019】
本実施形態1では、ブーム本体10が2つの分割ブーム部11,11に分割されている
ので、巻き取り形態における歪量が、複数の分割ブーム部11,11に分散されて小さく
なる。したがって、たとえば、巻き取り形態で、月単位、年単位で長期間経過し、応力緩和が生じたとしても、応力緩和の程度が小さく、2つの分割ブーム部11,11によって
構成されるブーム本体10を、各分割ブーム部11,11の弾性復元力によって確実に自
己伸展させることができる。
【0020】
実施例
ブーム本体10の自己伸展の性能については、ブーム本体10の繊維基材、マトリックス樹脂、直径、分割ブーム部の分割数、厚さ、曲率、幅、弾性率等によって変化し、具体的な使用用途等に応じて適宜選択される。
実施例として、以下の条件で、ブーム本体を製作したところ、初期抵抗が小さく、スムースに自己伸展することを確認できた。
直径: φ20mm
開口角: ほぼ0°
繊維基材:
・平織りのバイアスカット(45°)、
・バイアス織、
・組紐
・UD積層材:-45°/+45°/+45°/-45°の4層構成
繊維:24tonグレードの炭素繊維
マトリックス樹脂:エポキシ樹脂
樹脂含有率(Vf):60~65 vol/%
厚さ:0.08mm~0.35mm
UD積層材の場合、60μm/ply、総厚で240μm
なお、繊維基材が平織りの場合、バイアスカットする関係で、1.4mまでに制限されるが、バイアス織り、UD積層材、組紐の場合は、長さに制限はない。
【0021】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。以下の説明では、主として上記実施形態と異なる点についてのみ説明するものとし、同一の構成部分については同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
[実施形態2]
まず、図6を参照して、本発明の実施形態2について説明する。
図6は本発明の実施形態2に係る双安定性ブームを示しており、(A)は伸展形態の斜視図、(B)は巻き取り形態の斜視図、(C)は伸展初期形態の斜視図、(D)は伸展形態のブーム本体の長手方向と直交方向の断面図である。
この実施形態2では、ブーム本体210について、伸展形態における開断面形状が、実施形態1と異なり、各分割ブーム部11,11の円弧形状が並列に連なったW字状となっ
ている。このような異形断面形状も、本発明の開断面形状に含まれるものとする。長手方向と直交方向の断面の一方の面が凹状に湾曲する湾曲面を有する形状であれば、本発明が適用可能である。本実施形態では、開断面形状が、各分割ブーム部11,11の第1面1
1a,11aが凹状に湾曲している。
ブーム本体210は、伸展形態210Aでは、図6(A)に示すように、長手方向Xに直線状に伸び、かつ、長手方向Xと直交方向の断面形状がW字形状に湾曲する形態に保持される。この伸展形態210AのW字形状は、連結部212によって保持される。
一方、巻き取り形態210Bでは、図6(B)に示すように、長手方向と直交方向の断面形状が直線状に伸び、かつ、長手方向に湾曲して巻き取られた形態に保持される双安定性を有している。
【0022】
本実施形態2においても、巻き取り形態210Bで安定しているブーム本体210を、一部引き出すと、図6(C)に示すように、巻き取り形態210Bから伸展形態に移行する移行領域210Cにおいて、ブーム本体20の長手方向と直交方向の断面形状が、順次直線状態から開断面形状に移行していく。実施形態1と異なり、W字形状のまま自己伸展する。
本実施形態2でも、ブーム本体210が2つの分割ブーム部11,11に分割されてい
るので、巻き取り形態における歪量が、複数の分割ブーム部11,11に分散されて小さ
くなり、巻き取り形態あるいは伸展形態で長期間経過し、応力緩和が生じたとしても、応力緩和の程度が小さく、各分割ブーム部11,11の弾性復元力によって確実に自己伸展
させることができる。
【0023】
[実施形態3]
次に、図7及び図8を参照して本発明の実施形態3について説明する。
図7は本発明の実施形態3に係る双安定性ブームを示しており、(A)は伸展形態の斜視図、(B)は巻き取り形態の斜視図、(C)は伸展形態のブーム本体の長手方向と直交方向の断面図、(D)は連結部を模式的に示す拡大断面図である。
上記各実施形態では、分割ブーム部と連結部が別部材で構成されているが、本実施形態3では、分割ブーム部311,311と連結部312が、共通の繊維基材をベースとし、
分割ブーム部311,311には硬質樹脂を含侵させ、連結部312には軟質樹脂を含侵
させた構成となっている。
すなわち、ブーム本体310の開断面形状は、実施形態1と同様に、円の一部を構成するようにC字形状に湾曲する断面円弧形状で、2つの分割ブーム部311,311は、ブーム本体310を長手方向と直交方向に2分割した構成となっている。各分割ブーム部311,311は、同一形状、同一寸法の長尺の弾性板であり、それぞれが、伸展形態と巻
き取り形態の2形態を安定して保持することが可能な双安定性を有している。
分割ブーム部311,311は、たとえば、図4に記載の繊維強化樹脂シート13によ
って構成される。図7(D)に示すように、各分割ブーム部311,311の繊維基材1
5を分断せずに、連結部312を介して各分割ブーム部311,311に跨る共通の繊維
基材15としている。なお、図示例では、樹脂が含侵される繊維基材15を模式的に示すもので、繊維糸の方向は、長軸線N1に対して-45°/+45°の配向角を有している
。この繊維基材15の分割ブーム部311,311に対応する部分に、硬質樹脂として、
実施形態1と同様のマトリックス樹脂16を含侵させ、連結部312に対応する部分に、軟質樹脂17を含侵させている。軟質樹脂17としては、TPU(熱可塑性ポリウレタン)等のエラストマーが用いられる。
なお、繊維基材としては、図4に示した繊維強化樹脂シート13に限らず、図5に示したUD材23を用いることもできるし、組みひも組織等の他の繊維基材を用いることができる。
【0024】
本実施形態3においても、巻き取り形態310Bで安定しているブーム本体310を、一部引き出すと、図8(A)に示すように、巻き取り形態310Bから伸展形態に移行する移行領域310Cにおいて、ブーム本体310の長手方向と直交方向の断面形状が、W字形状に移行する。この状態から、さらに伸展すると、図8(B)に示すように、徐々にW字の境界山部が徐々に低くなって、一つの湾曲形態となり、所定の開断面形状の伸展形態に移行する。
本実施形態3でも、ブーム本体310が2つの分割ブーム部311,311に分割され
ているので、巻き取り形態及び伸展形態における歪量が、複数の分割ブーム部311,3
11に分散されて小さくなり、巻き取り形態あるいは伸展形態で長期間経過し、応力緩和が生じたとしても、応力緩和の程度が小さく、各分割ブーム部21,21の弾性復元力に
よって確実に自己伸展あるいは収縮させることができる。
なお、この実施形態3の連結部312の構成で、伸展形態の開断面形状を、実施形態2のように、W字形状とすることもできる。
【0025】
なお、上記各実施形態では、ブーム本体を構成する分割ブーム部は2分割の例について説明したが、それぞれの実施形態で、3つ以上に分割してもよいし、各分割ブーム部の周長が違っていてもよく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0026】
10 ブーム本体
10A 伸展形態、10B 巻き取り形態、10C 移行領域
11 分割ブーム部
11a 第1面(伸展形態における凹面)、11b 第2面
12 連結部、12a 第1連結シート(連結材)、12b 第2連結シート(連結材)
13 繊維強化樹脂シート、
15 繊維基材、15a 第1軸糸、15b 第2軸糸
16 マトリックス樹脂
23 UD材、25 繊維、26 マトリックス樹脂
210 ブーム本体(実施形態2)、
210A 伸展形態、210B 巻き取り形態、210C 移行領域
212 連結部
310 ブーム本体(実施形態3)
310A 伸展形態、310B 巻き取り形態、310C 移行領域
311 分割ブーム部、312 連結部
17 軟質樹脂
N1 長軸線、O 曲率中心、
X 長手方向
α 開口角、θ 配向角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9