(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】吸音構造
(51)【国際特許分類】
B60H 1/00 20060101AFI20240314BHJP
F24F 13/24 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
B60H1/00 102L
F24F13/24 242
(21)【出願番号】P 2020029994
(22)【出願日】2020-02-26
【審査請求日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】P 2019138445
(32)【優先日】2019-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390040958
【氏名又は名称】みのる化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】木村 和紀
(72)【発明者】
【氏名】守谷 鉄也
(72)【発明者】
【氏名】坪井 裕之
(72)【発明者】
【氏名】西岡 和道
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-159759(JP,A)
【文献】特開2001-279618(JP,A)
【文献】特開2008-151070(JP,A)
【文献】特開2010-038452(JP,A)
【文献】米国特許第04408679(US,A)
【文献】登録実用新案第3157009(JP,U)
【文献】実開平01-102467(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 13/02
B60R 13/08
B60H 1/00 - 3/06
F24F 13/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の内部に配置され、前記車両内の空間における騒音を低減する吸音構造であって、
ブロー成形品である本体部と、
前記本体部の外表面の少なくとも一部を覆う吸音部材と、
を有し、
前記本体部の外表面には、凹凸構造が設けられ、
前記凹凸構造は、
同じ方向に凹む複数の凹部または
同じ方向に突出する複数の凸部を含み、
前記吸音部材は、前記凹凸構造の少なくとも一部を覆う、吸音構造。
【請求項2】
請求項1に記載の吸音構造であって、
前記本体部は、前記車両のインストルメントパネル内に配置され、内部を気体が通過するダクトである、吸音構造。
【請求項3】
請求項2に記載の吸音構造であって、
前記凹凸構造は、前記ダクトの長手方向に沿って
配置された、複数の
前記凹部を含
み、
複数の前記凹部の深さが同じである、吸音構造。
【請求項4】
請求項2に記載の吸音構造であって、
前記凹凸構造は、前記ダクトの長手方向に沿って
配置された、複数の
前記凸部を含
み、
複数の前記凸部の高さが同じである、吸音構造。
【請求項5】
請求項2に記載の吸音構造であって、
前記凹凸構造は、
凹部と、
前記凹部の内部に配置された複数の凸部と、
を含む、吸音構造。
【請求項6】
請求項1に記載の吸音構造であって、
前記凹凸構造は、複数の
前記凹部を含む、吸音構造。
【請求項7】
請求項6に記載の吸音構造であって、
前記凹部はそれぞれ、所定の方向に
沿って配置された溝である、吸音構造。
【請求項8】
請求項6に記載の吸音構造であって、
複数の前記凹部の深さが同じである、吸音構造。
【請求項9】
請求項3、および、請求項6ないし請求項8のいずれか一項に記載の吸音構造であって、
前記凹凸構造は、隣り合う前記凹部の間に凸状のリブを有し、
前記リブが、前記吸音部材を固定および支持する、吸音構造。
【請求項10】
請求項6ないし請求項8のいずれか一項に記載の吸音構造であって、
前記凹部の底面が平らである、吸音構造。
【請求項11】
請求項6ないし請求項8のいずれか一項に記載の吸音構造であって、
前記凹部の底面が曲面である、吸音構造。
【請求項12】
請求項6ないし請求項8のいずれか一項に記載の吸音構造であって、
前記凹部の底面が粗面である、吸音構造。
【請求項13】
請求項6ないし請求項8のいずれか一項に記載の吸音構造であって、
前記凹部の底面の表面形状が複数の凹凸を含む、吸音構造。
【請求項14】
請求項1に記載の吸音構造であって、
前記凹凸構造は、複数の前記凸部を含み、
複数の前記凸部の高さが同じである、吸音構造。
【請求項15】
請求項4または請求項14に記載の吸音構造であって、
前記凸部が、前記吸音部材を固定および支持する、吸音構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の内部に配置される吸音構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の内部には、インストルメントパネル、センターコンソール、インストルメントパネル内に配置される空調用ダクト、車両のドアの内面部品等、多くのブロー成形品が用いられている。
【0003】
車両の内部に配置されるブロー成形品の一例である空調ダクトについては、例えば、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
乗用車、工事用車両および農業用車両等の車両には、車両内の静音化のための種々の工夫がなされている。特に、近年では、車両内をより静音化したいという要求が高まっている。しかしながら、従来の構成に加えて、新たな吸音構造を追加すると、部品点数が増加するとともに、車両内空間が狭くなるという問題がある。このため、従来車両内で用いられている部材を活用して吸音構造を構成することにより、部品点数の増加を最小限に留めることが望ましい。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、従来車両内で用いられているブロー成形品を利用した効率のよい吸音構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、車両の内部に配置され、前記車両内の空間における騒音を低減する吸音構造であって、ブロー成形品である本体部と、前記本体部の外表面の少なくとも一部を覆う吸音部材と、を有し、前記本体部の外表面には、凹凸構造が設けられ、前記凹凸構造は、同じ方向に凹む複数の凹部または同じ方向に突出する複数の凸部を含み、前記吸音部材は、前記凹凸構造の少なくとも一部を覆う。
【0008】
本願の第2発明は、第1発明の吸音構造であって、前記本体部は、前記車両のインストルメントパネル内に配置され、内部を気体が通過するダクトである。
【0009】
本願の第3発明は、第2発明の吸音構造であって、前記凹凸構造は、前記ダクトの長手方向に沿って配置された、複数の前記凹部を含み、複数の前記凹部の深さが同じである。
【0010】
本願の第4発明は、第2発明の吸音構造であって、前記凹凸構造は、前記ダクトの長手方向に沿って配置された、複数の前記凸部を含み、複数の前記凸部の高さが同じである。
【0011】
本願の第5発明は、第2発明の吸音構造であって、前記凹凸構造は、凹部と、前記凹部の内部に配置された複数の凸部と、を含む。
【0012】
本願の第6発明は、第1発明の吸音構造であって、前記凹凸構造は、複数の前記凹部を含む。
【0013】
本願の第7発明は、第6発明の吸音構造であって、前記凹部はそれぞれ、所定の方向に沿って配置された溝である。
本願の第8発明は、第6発明の吸音構造であって、複数の前記凹部の深さが同じである。
本願の第9発明は、第3発明、および、第6発明ないし第8発明のいずれか一発明の吸音構造であって、前記凹凸構造は、隣り合う前記凹部の間に凸状のリブを有し、前記リブが、前記吸音部材を固定および支持する。
【0014】
本願の第10発明は、第6発明ないし第8発明のいずれか一発明の吸音構造であって、前記凹部の底面が平らである。
【0015】
本願の第11発明は、第6発明ないし第8発明のいずれか一発明の吸音構造であって、前記凹部の底面が曲面である。
【0016】
本願の第12発明は、第6発明ないし第8発明のいずれか一発明の吸音構造であって、前記凹部の底面が粗面である。
【0017】
本願の第13発明は、第6発明ないし第8発明のいずれか一発明の吸音構造であって、前記凹部の底面の表面形状が複数の凹凸を含む。
本願の第14発明は、第1発明の吸音構造であって、前記凹凸構造は、複数の前記凸部を含み、複数の前記凸部の高さが同じである。
本願の第15発明は、第4発明または第14発明の吸音構造であって、前記凸部が、前記吸音部材を固定および支持する。
【発明の効果】
【0018】
本願の第1発明から第15発明によれば、従来車両の内部に用いられるブロー成形品の形状を工夫して吸音部材を追加することで、効率のよい吸音構造を構成することができる。
【0019】
特に、本願の第2発明によれば、ユーザーに視認されにくい場所に吸音構造が設けられる。
【0020】
特に、本願の第3発明、第4発明または第6発明によれば、本体部の剛性を向上させるとともに、吸音部材のたわみを抑制できる。
【0021】
特に、本願の第3発明または第4発明によれば、本体部の剛性を向上させるとともに、吸音部材のたわみを抑制できる。さらに、ダクト内の空気の流れに沿って凹部または凸部が配置されるため、凹部または凸部を形成したことでダクト内の空気抵抗が増大することを抑制できる。
【0022】
特に、本願の第10発明によれば、特定の周波数帯域における吸音性能が向上する。
【0023】
特に、本願の第11発明によれば、広い周波数帯域における吸音性能が向上する。
【0024】
特に、本願の第12発明および第13発明によれば、音が底面で乱反射することにより、吸音性能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図2】第1実施形態に係るダクトの本体部の上面図である。
【
図3】第1実施形態に係るダクトの一部の斜視図である。
【
図4】第1実施形態に係るダクトの一部の分解斜視図である。
【
図5】第1実施形態に係るダクトの長手方向に沿う断面図である。
【
図6】第1実施形態に係るダクトの長手方向に直交する断面図である。
【
図7】第1実施形態に係るダクトの吸音構造の部分断面図である。
【
図8】変形例に係るダクトの吸音構造の部分断面図である。
【
図10】実験に用いたサンプルの部分断面図である。
【
図12】第2実施形態に係るダクトの一部の分解斜視図である。
【
図13】第2実施形態に係るダクトの長手方向に直交する断面図である。
【
図14】第3実施形態に係るダクトの一部の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0027】
<1.第1実施形態>
<1-1.ダクトの構成について>
まず、本発明の第1実施形態に係る吸音構造100を含むダクト1の大まかな構成について、
図1を参照しつつ説明する。
図1は、ダクト1の上面図である。
図2は、ダクト1の本体部20の上面図である。このダクト1は、乗用車のインストルメントパネルの内部(裏側)の空間に配置される。ダクト1は、インストルメントパネルの裏側に配置されたエアーコンディショナーの吐出口と、インストルメントパネルに設けられた空気の吹き出し口とを連通させる。エアーコンディショナーの駆動時には、エアーコンディショナーから供給された空気が、ダクト1を通って、インストルメントパネルの吹き出し口から運転席および助手席に向かって吐出される。
【0028】
なお、ダクト1が配置されるインストルメントパネルの裏側の空間は密閉されておらず、運転席および助手席が配置されるインストルメントパネルの表側の空間と連通している。このため、ダクト1の表面に吸音構造を設けることにより、運転席および助手席が配置される車内空間の騒音が低減される。
【0029】
図1に示すように、ダクト1は、本体部20と、吸音部材30とを有する。吸音部材30は、本体部20の外表面の少なくとも一部を覆う。
【0030】
本体部20は、ブロー成形品である。ブロー成形とは、樹脂成形の手法の1つであり、中空成形あるいは吹込み成形とも呼ばれる。本体部20は、樹脂材料を溶かしてパイプ状にしたパリソンを金型で挟み込み、中に空気を吹き込むホットパリソン法によって成形される。
【0031】
図2に示すように、本体部20は、第1管状部21、第2管状部22、第3管状部23および第4管状部24を有する。これらの4つの管状部21~24は、それぞれ、一端から他端まで管状に延びる通気管である。4つの管状部21~24の内部空間は、互いに連通していない。4つの管状部21~24の一端は、1か所に集まっている。一方、4つの管状部21~24の他端は、それぞれ異なる位置
に離れて配置されている。
【0032】
以下では、第1管状部21について、一端を第1給気口211、他端を第1排気口212と称する。また、第2管状部22について、一端を第2給気口221、他端を第2排気口222と称する。また、第3管状部23について、一端を第3給気口231、他端を第3排気口232と称する。また、第4管状部24について、一端を第4給気口241、他端を第4排気口242と称する。
【0033】
第1給気口211、第2給気口221、第3給気口231および第4給気口241は、順に連続して並んでいる。すなわち、給気口211,221,231,241付近において、第1管状部21、第2管状部22、第3管状部23および第4管状部24は、隣同士に連結されている。また、第1排気口212、第2排気口222、第3排気口232および第4排気口242は、互いに間隔を空けて配置される。すなわち、第1管状部21、第2管状部22、第3管状部23および第4管状部24は、一端側から他端側に向かうにつれて互いに離れる。
【0034】
第1給気口211、第2給気口221、第3給気口231および第4給気口241は、エアーコンディショナーの吐出口に接続される。一方、第1排気口212、第2排気口222、第3排気口232および第4排気口242は、インストルメントパネルに設けられた吹き出し口に接続される。
【0035】
エアーコンディショナーの駆動時には、エアーコンディショナーの吐出口から、給気口211,221,231,241を介して各管状部21~24へ、温度が調整された空気が供給される。そして、排気口212,222,232,242を介して運転席および助手席が配置される空間へ、当該空気が供給される。
【0036】
本体部20の外表面には、複数の凹凸構造40が設けられている。そして、各凹凸構造40は、吸音部材30によって少なくともその一部が覆われている。吸音部材30は、本体部20の上面に、例えば接着剤により、貼り付けられている。本実施形態では、これらの凹凸構造40と吸音部材30とによって、車両内の騒音を低減する吸音構造100が構成される。吸音構造100の詳細については、後述する。
【0037】
なお、本実施形態のダクト1では、凹凸構造40が本体部20の上面のみに設けられているが、本発明はこれに限られない。凹凸構造40は、本体部20の上面、下面、側面のいずれの場所に設けられていてもよいし、屈曲部に設けられていてもよい。
【0038】
<1-2.吸音構造について>
次に、吸音構造100の構成について、
図3~
図7を参照しつつ、説明する。
図3は、ダクト1の一部の斜視図である。
図4は、ダクト1の一部の分解斜視図である。
図5は、ダクト1の長手方向に沿う断面図である。
図6は、ダクト1の長手方向に直交する断面における断面図である。なお、
図3および
図4は、ダクト1の第1管状部21の一部を切断して示したものである。
【0039】
図3および
図4に示すように、吸音部材30は、凹凸構造40の少なくとも一部を覆う。吸音部材30は、弾性変形可能な板状の部材であり、例えば、ウレタン系やポリエステル系等の発泡性樹脂系吸音材、あるいは、グラスウールやロックウール等の繊維系吸音材が用いられる。本実施形態では、吸音部材30として、板状の発泡ウレタンが用いられる。
【0040】
凹凸構造40は、それぞれ、複数の凹部または複数の凸部を含む。本実施形態の凹凸構造40は、所定の方向に
沿って配置される複数の溝41を含む。溝41は、ダクト1の表面から凹む凹部である。凹凸構造40を、1つの大きな凹みで構成するのではなく、複数の溝41とすることにより、本体部20の剛性を向上できる。また、隣り合う溝41の間が凸状のリブ42となる。これにより、
図6に示すように、吸音部材30をリブ42において固定および支持することができる。したがって、吸音部材30の撓みを抑制することができる。
【0041】
図3および
図4に示すように、本実施形態では、第1管状部21の上面に、3つの溝41が並んで設けられている。具体的には、溝41はそれぞれ、ダクト1の長手方向に沿って
配置される。本体部20はブロー成形品であるため、外表面に複数の溝41を設けた場合、
図6のように、本体部20の内表面に溝41に対応する突出部が形成される場合がある。このとき、溝41をダクト1の長手方向に沿って形成すれば、当該突出部もダクト内の気体の流れの向きに沿って形成される。これにより、当該突出部に起因してダクト1内の空気抵抗が増大することを抑制できる。
【0042】
また、
図4~
図6に示すように、本実施形態では、溝41の底面410は平らである。また、溝41は、長手方向の両端部に、本体部20の上面と底面410とを繋ぐテーパー面411を有する。これにより、本体部20の内表面に形成される突出部についても、長手方向の両端部がテーパー状となる。その結果、当該突出部に起因してダクト1内の空気抵抗が増大することを、さらに抑制できる。
【0043】
本実施形態では、溝41内に形成される空気層400の厚みと、吸音部材30の厚みとがいずれも5mmである。
図7は、ダクト1の吸音構造100の部分断面図である。
図7には、溝41の底面410で反射される3種類の音S1,S2,S3の波形が、2点鎖線で模式的に示されている。
図7に示す音S1,S2,S3はいずれも、ダクト1の外から溝41内に入射され、底面410において垂直に反射した音の波形である。ただし、音S1,S2,S3は、互いに波長が異なる。音S1は、波形の腹部分が吸音部材30の内側の表面と一致している。音S2は、波形の腹部分が吸音部材30の厚みの中心と一致している。音S3は、波形の腹部分が吸音部材30の外側の表面と一致している。
【0044】
凹凸構造40および吸音部材30で構成される吸音構造100は、底面410で反射する音の波形の腹部分が吸音部材30と重なる場合に、効果的に音を吸収することができる。このため、
図7に示す例では、音S1よりも波長が長く、音S3よりも波長が短い音を、効果的に吸収することができる。また、
図7に示す例では、効果的に吸収できる音域は、音S2の波長を中心とした周波数帯域となる。
【0045】
吸音対象となる音域の中心周波数fが予めわかっている場合、当該周波数fの音を効率よく吸収できる空気層400の厚みLと吸音部材30の厚みUとの関係は、音速cを用いて以下のように示される。
【数1】
【0046】
なお、吸音部材30は、凹凸構造40の全てを覆っていなくてもよい。
図3に示すように、凹凸構造40の一部が吸音部材30から露出していてもよい。
【0047】
図8は、一変形例に係る吸音構造100Aの部分断面図である。
図8の例のように、底面410Aの表面形状が複数の凹凸を含んでもよい。このようにすれば、外部から溝41A内に入射した音が底面410Aで乱反射されるため、より効率よく音を吸収できる。また、凹凸形状に代えて、凹部(溝41)の底面を粗面としてもよい。この場合であっても、外部から凹部(溝41)内に入射した音が底面で乱反射されるため、効率よく音を吸収できる。
【0048】
<1-3.凹部(溝)の底面形状について>
続いて、凹凸構造40の凹部の底面形状、すなわち、溝41の底面410の形状について、
図9~
図11を参照しつつ説明する。
図9は、他の変形例に係るダクトの断面図である。
【0049】
上述した実施形態では、凹凸構造40の底面410は平らに形成されていた。これに対し、
図9のダクトでは、凹凸構造40Bを構成する3つの溝41Bの底面410Bが、それぞれ、曲面となっている。このように、凹凸構造40Bの底面410Bの形状は、曲面であってもよい。
【0050】
ここで、3つのサンプルを用いた実験について説明する。
図10は、実験で用いた3つのサンプルの部分断面図である。
図11は、3つのサンプルに対して吸音性能を計測した実験の結果を示した図である。この実験は、JIS A 1409に基づく残響室吸音率の測定方法で行われた。なお、
図11に示す実験結果は、各サンプルの等価吸音面積(吸音性能)を示している。
【0051】
サンプル1は、上述した実施形態のダクト1と同様、平らな底面610Cを有する複数の溝61Cが形成された樹脂製の板60Cと、板60Cの表面に貼り付けられた吸音部材70Cとから構成される。溝61C内の空気層600Cの厚みは5mmであり、吸音部材70Cの厚みは5mmである。
【0052】
サンプル2は、曲面状の底面610Dを有する複数の溝61Dが形成された樹脂製の板60Dと、板60Dの表面に貼り付けられた吸音部材70Dとから構成される。溝61D内の空気層600Dの厚みは5mmであり、吸音部材70Dの厚みは5mmである。
【0053】
サンプル3は、平板状の樹脂製の板60Eと、板60Eの表面に貼り付けられた吸音部材70Eとから構成される。吸音部材70Eの厚みは10mmである。このように、サンプル1、サンプル2およびサンプル3は、その全体の厚みがほぼ同一である。
【0054】
サンプル1の板60Cと、サンプル2の板60Dとは、同じ種類の樹脂によって形成される。また、サンプル1の吸音部材70Cと、サンプル2の吸音部材70Dと、サンプル3の吸音部材70Eとは、いずれも、同じ種類の発泡ウレタンによって形成される。
【0055】
図11に示すように、サンプル1は、約1500Hz以上の周波数帯域において、サンプル3と比較して非常に良好な吸音性能を有することがわかる。特に、約1500Hz以上4000Hz以下の周波数帯域では、サンプル1は、サンプル2よりも良好な吸音性能を有する。
【0056】
また、サンプル2は、ほぼ全ての周波数帯域において、サンプル3と比較して良好な吸音性能を有することがわかる。
【0057】
これにより、吸音構造の全体の厚みが同一の場合、サンプル1のように、凹凸構造の凹部の底面が平らな吸音構造は、特定の周波数帯域において、非常に良好な吸音性能を有することがわかった。また、サンプル2のように、凹凸構造の凹部の底面が曲面である場合、広い周波数帯域において、良好な吸音性能を有することがわかった。
【0058】
また、サンプル3のように、単にダクトの本体部の表面に吸音部材を貼り付けた場合と比べて、サンプル1,2のように、ダクト1の本体部20の表面に凹凸構造40を設けて吸音部材30を貼り付けた場合の方が、同じ厚みであっても吸音性能が向上することがわかった。
【0059】
車両の内部に露出する部分には、ブロー成形品等の樹脂製品が用いられることが多くある。このようなブロー成形品を用いて吸音構造を構成することにより、部品点数としては吸音部材を追加するだけで、効率のよい吸音構造を実現することができる。
【0060】
特に、本実施形態では、吸音構造100がインストルメントパネル内のダクト1に設けられる。ダクト1は、通常ユーザーから視認されにくいものの、車両の内部空間と繋がったインストルメントパネル内の空間に配置される。このため、ダクト1の表面に吸音構造100を設けることにより、ユーザーに視認される車室の美観を損ねることなく、車両の内部の騒音を低減できる。
【0061】
なお、本実施形態では、1つの吸音構造100の凹凸構造40が、3つの溝41で構成されていた。しかしながら、吸音構造100の凹凸構造40を構成する溝41の数は、1つまたは2つであってもよく、4つ以上であってもよい。
【0062】
また、上記の実施形態では、吸音構造100に含まれる各溝41が、ダクト1内の気流の向きに沿って形成されていた。しかしながら、溝41の向きは、他の向きであってもよい。例えば、ダクト1の空気抵抗に影響しない部分に吸音構造100を設ける場合には、ダクト1内の気流の向きとは異なる方向に沿って、溝41を設けてもよい。
【0063】
<2.第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係る吸音構造100Dについて、
図12および
図13を参照しつつ説明する。この吸音構造100Dは、第1実施形態に係る吸音構造100と同様、乗用車のインストルメントパネルの内部空間に配置されるダクトに設けられたものである。
図12は、吸音構造100Dの設けられたダクトの一部の分解斜視図である。
図13は、当該ダクトの長手方向に直交する断面における断面図である。
【0064】
吸音構造100Dは、ダクトの本体部20Dに設けられた凹凸構造40Dと、吸音部材30Dとにより構成される。本実施形態の凹凸構造40Dは、本体部20Dの外表面から突出する複数の凸部43Dを含む。すなわち、本実施形態の凹凸構造40Dは、凹部ではなく、複数の凸部43Dにより構成される。凹凸構造40Dが複数の凸部43Dにより構成されることにより、本体部20Dの剛性を向上できる。
【0065】
吸音部材30Dが凹凸構造40Dを覆うように配置されると、
図13に示すように、吸音部材30Dの本体部20D側の面が凸部43Dに接する。この吸音構造100Dでは、凸部43D間の本体部20Dの表面が、凹凸構造40Dの底部430Dとなる。このため、底部430Dと吸音部材30Dとの間に空気層400Dが形成される。これにより、凹凸構造が複数の凹部により構成される場合と同様に、外部からこの空気層400Dへと入射した音を、効率よく吸収できる。
【0066】
このように、凹凸構造は、複数の凸部を含むものであってもよい。また、凹凸構造は、複数の凸部と複数の凹部とを組み合わせたものであってもよい。なお、1つのダクトの中で、異なる形状の凹凸構造が設けられてもよい。
【0067】
<3.第3実施形態>
続いて、本発明の第3実施形態に係る吸音構造100Eについて、
図14を参照しつつ説明する。この吸音構造100Eは、第1実施形態に係る吸音構造100および第2実施形態に係る吸音構造100Dと同様に、乗用車のインストルメントパネルの内部空間に配置されるダクトに設けられたものである。
図14は、吸音構造100Eの設けられたダクトの一部の分解斜視図である。
【0068】
吸音構造100Eは、ダクトの本体部20Eに設けられた凹凸構造40Eと、吸音部材30Eとにより構成される。本実施形態の凹凸構造40Eは、本体部20Eの外表面から凹む凹部44Eと、凹部の内部に配置された複数の凸部45Eとを含む。凸部45Eの最も突出した箇所は、本体部20Eの外表面の延長線上に配置される。
【0069】
吸音部材30Eが凹凸構造40Eを覆うように配置されると、吸音部材30Eの本体部20E側の面が、本体部20Eの外表面および凸部45Eに接する。本実施形態の凹凸構造40Eでは、凹部44Eの底部440Eと吸音部材30Eとの間に空気層が形成される。これにより、外部から当該空気層へと入射した音を、効率よく吸収できる。
【0070】
凹凸構造40を、1つの大きな凹部44Eのみで構成するのではなく、凹部44Eの内部に複数の凸部45Eを配置することにより、本体部20Eの剛性を向上できる。また、凸部45Eが吸音部材30Eと接触することにより、吸音部材30Eを凸部45Eにおいて固定および支持することができる。したがって、吸音部材30Eの撓みを抑制することができる。
【0071】
このように、凹凸構造は、凹部と、凹部の内部に配置された複数の凸部とを含むものであってもよい。なお、本実施形態の凸部45Eはそれぞれ、平面視で長方形状であるが、本発明はこれに限られない。凸部45Eは、平面視で丸形、楕円型等の他の形状であってもよい。また、本実施形態の複数の凸部45Eは格子状に整列しているが、本発明はこれに限られない。複数の凸部45Eは、ランダム、その他の配置であってもよい。
【0072】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0073】
上記の第1実施形態のダクト1は、4つの管状部21~24を有していた。しかしながら、ダクト1が有する管状部の数は、1~3つであってもよく、5つ以上であってもよい。
【0074】
また、上記の実施形態の吸音構造は、インストルメントパネル内に配置されるダクトの表面に設けられていたが、本発明はこれに限られない。本発明の吸音構造は、例えば、インストルメントパネルの外表面および内表面、グローブボックスの内表面および外表面、センターコンソールの側面等に設けられてもよい。また、本発明の吸音構造は、車両の天井面や底面、車両のドアの内面等に設けられてもよい。
【0075】
また、吸音構造の細部の構成については、本願の各図に示された形状と、相違していてもよい。また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0076】
1 ダクト
20,20D,20E 本体部
21 第1管状部
22 第2管状部
23 第3管状部
24 第4管状部
30,30D,30E 吸音部材
40,40B,40D,40E 凹凸構造
41,41A,41B 溝
42 リブ
43D 凸部
44E 凹部
45E 凸部
60C,60D,60E 板
61C,61D 溝
70C,70D,70E 吸音部材
100,100A,100D,100E 吸音構造
211 第1給気口
212 第1排気口
221 第2給気口
222 第2排気口
231 第3給気口
232 第3排気口
241 第4給気口
242 第4排気口
400,400D 空気層
410,410A,410B,430D,440E 底面
411 テーパー面
600C,600D 空気層
610C,610D 底面
S1,S2,S3 音