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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】炭素繊維の分離回収方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 17/02 20060101AFI20240314BHJP
【FI】
B29B17/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020093158
(22)【出願日】2020-05-28
(65)【公開番号】P2021187031
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】516000044
【氏名又は名称】株式会社サンケン
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】池下 兼明
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/147021(WO,A1)
【文献】米国特許第5312052(US,A)
【文献】特開2018-20500(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 17/00-17/04
C08J 11/00-11/28
B09B 1/00-5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維強化プラスチックに含まれる炭素繊維を強化プラスチックから分離して回収する炭素繊維の分離回収方法であって、
前記炭素繊維強化プラスチックの小片と粉末状に形成されたセラミック粒子とを混入した水溶液を、撹拌機にて撹拌して前記炭素繊維と前記強化プラスチックとを分離させる撹拌分離工程を備えたことを特徴とする炭素繊維の分離回収方法。
【請求項2】
請求項1に記載された炭素繊維の分離回収方法において、
前記セラミック粒子の平均粒径は、5~10μmであることを特徴とする炭素繊維の分離回収方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された炭素繊維の分離回収方法において、
前記撹拌機は、底壁に撹拌羽根が旋回可能に装着され、前記底壁から起立する側壁が凹凸状に形成された撹拌容器を備え、当該撹拌容器内で前記水溶液を撹拌することを特徴とする炭素繊維の分離回収方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載された炭素繊維の分離回収方法において、
前記撹拌分離工程の最終段階にて、前記セラミック粒子を分離された前記炭素繊維に凝集させる凝集剤を前記水溶液に混入して撹拌するセラミック凝集工程を備えたことを特徴とする炭素繊維の分離回収方法。
【請求項5】
請求項4に記載された炭素繊維の分離回収方法において、
前記セラミック凝集工程の後に、前記セラミック粒子が凝集された前記炭素繊維を、網状に形成された回収容器に回収した上で、水洗して前記セラミック粒子を洗い落とすことによって、前記炭素繊維のみを回収する炭素繊維回収工程を備えたことを特徴とする炭素繊維の分離回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維の分離回収方法に関し、詳しくは、炭素繊維強化プラスチックの小片をセラミック粒子を混入した水溶液内で撹拌して、炭素繊維と強化プラスチックとを分離し、炭素繊維を回収する炭素繊維の分離回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車や航空機等には、車体、機体の軽量化及び高強度化を目的として、炭素繊維強化プラスチックが用いられている。炭素繊維強化プラスチックは、OA機器や家電製品にも適用拡大される傾向があり、これら製品の使用後又は成形過程で生じる廃材、端材の再利用方法の開発が求められている。炭素繊維強化プラスチックを再利用するためは、コスト的に高い炭素繊維を強化プラスチックから分離して回収する必要があり、例えば、特許文献1には、炭素繊維強化熱可塑性樹脂の処理方法が開示されている。
【0003】
特許文献1に開示された炭素繊維強化熱可塑性樹脂の処理方法は、熱可塑性樹脂を抽出可能な有機溶媒と粘度低下剤とを含む処理液を準備する準備工程と、炭素繊維強化熱可塑性樹脂を上記処理液に接触させて熱可塑性樹脂を前記処理液に溶解させる溶解工程と、炭素繊維と熱可塑性樹脂が溶解した処理液とを分離する固液分離工程と、を有する炭素繊維強化熱可塑性樹脂の処理方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-89909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された炭素繊維強化熱可塑性樹脂の処理方法は、有機溶媒を含む処理液を用いて熱可塑性樹脂を化学的に溶解させることによって、炭素繊維と熱可塑性樹脂を分離させる方法である。そのため、処理後の有機溶媒を回収して、環境汚染を回避させる必要がある。したがって、処理設備が大掛かりとなり、処理コストも増大しやすいという問題があった。また、有機溶媒は、溶解させる熱可塑性樹脂の種類に適したものを選択する必要があり、共通の処理設備を用いて複数種類の炭素繊維強化熱可塑性樹脂を処理することが困難であった。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、環境汚染への負荷を軽減しつつ、複数種類の炭素繊維強化プラスチックの炭素繊維を簡単かつ低コストで分離回収することができる炭素繊維の分離回収方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の炭素繊維の分離回収方法は、次のような構成を有している。
(1)炭素繊維強化プラスチックに含まれる炭素繊維を強化プラスチックから分離して回収する炭素繊維の分離回収方法であって、
前記炭素繊維強化プラスチックの小片と粉末状に形成されたセラミック粒子とを混入した水溶液を、撹拌機にて撹拌して前記炭素繊維と前記強化プラスチックとを分離させる撹拌分離工程を備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明においては、炭素繊維強化プラスチックの小片と粉末状に形成されたセラミック粒子とを混入した水溶液を、撹拌機にて撹拌して炭素繊維と強化プラスチックとを分離させる撹拌分離工程を備えたので、炭素繊維強化プラスチックの小片と粉末状に形成されたセラミック粒子とを混入した水溶液を撹拌するときに、水溶液中でセラミック粒子が炭素繊維強化プラスチックの小片に衝突することによって、炭素繊維強化プラスチックの小片から強化プラスチックを削り取って、炭素繊維と強化プラスチックとを機械的に分離させることができる。また、セラミック粒子を介して、炭素繊維と強化プラスチックとを機械的に分離させるので、環境汚染に繋がる有機溶媒等を用いる必要がない。そのため、環境汚染への負荷を軽減できる。また、セラミック粒子は、強化プラスチックより硬いので、強化プラスチックの種類・材質が異なっていても、簡単に削り取ることができる。一方、セラミック粒子は、硬くて高強度の炭素繊維を削ることがない。さらに、分離された炭素繊維は、軽く、セラミック粒子と共に水溶液中で浮遊するので、折損する恐れも少ない。
【0009】
よって、本発明によれば、環境汚染への負荷を軽減しつつ、複数種類の炭素繊維強化プラスチックの炭素繊維を簡単かつ低コストで分離回収することができる炭素繊維の分離回収方法を提供することができる。
【0010】
(2)(1)に記載された炭素繊維の分離回収方法において、
前記セラミック粒子の平均粒径は、5~10μmであることを特徴とする。
【0011】
本発明においては、セラミック粒子の平均粒径は、5~10μmであるので、炭素繊維強化プラスチックに含まれる炭素繊維同士の隙間に入り込んで、炭素繊維の外周に固着した強化プラスチックをより一層簡単に削り落とすことができる。そのため、炭素繊維と強化プラスチックとの分離に要する時間を短縮させることができる。
【0012】
(3)(1)又は(2)に記載された炭素繊維の分離回収方法において、
前記撹拌機は、底壁に撹拌羽根が旋回可能に装着され、前記底壁から起立する側壁が凹凸状に形成された撹拌容器を備え、当該撹拌容器内で前記水溶液を撹拌することを特徴とする。
【0013】
本発明においては、撹拌機は、底壁に撹拌羽根が旋回可能に装着され、底壁から起立する側壁が凹凸状に形成された撹拌容器を備え、当該撹拌容器内で水溶液を撹拌するので、底壁に装着された撹拌羽根が旋回して水溶液を撹拌するときに、水溶液が凹凸状の側壁に衝突することによって、水溶液が螺旋状の渦を巻きながら水平方向及び上下方向に移動することができる。その際、炭素繊維強化プラスチックの小片とセラミック粒子とが凹凸状の側壁に衝突すると共に、セラミック粒子が炭素繊維強化プラスチックの小片に様々な角度で衝突することによって、炭素繊維強化プラスチックの小片から強化プラスチックをより効率的に削り取って、炭素繊維と強化プラスチックとを、より迅速に分離させることができる。
【0014】
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載された炭素繊維の分離回収方法において、
前記撹拌分離工程の最終段階にて、前記セラミック粒子を分離された前記炭素繊維に凝集させる凝集剤を前記水溶液に混入して撹拌するセラミック凝集工程を備えたことを特徴とする。
【0015】
本発明においては、撹拌分離工程の最終段階にて、セラミック粒子を分離された炭素繊維に凝集させる凝集剤を水溶液に混入して撹拌するセラミック凝集工程を備えたので、セラミック粒子を炭素繊維の外周側に凝集させて、水溶液に含まれるセラミック粒子と水との分離を簡単に行うことができる。そのため、水の再利用を促進させることができる。その結果、環境汚染への負荷をより一層低減させることができる。
【0016】
(5)(4)に記載された炭素繊維の分離回収方法において、
前記セラミック凝集工程の後に、前記セラミック粒子が凝集された前記炭素繊維を、網状に形成された回収容器に回収した上で、水洗して前記セラミック粒子を洗い落とすことによって、前記炭素繊維のみを回収する炭素繊維回収工程を備えたことを特徴とする。
【0017】
本発明においては、セラミック凝集工程の後に、セラミック粒子が凝集された炭素繊維を、網状に形成された回収容器に回収した上で、水洗してセラミック粒子を洗い落とすことによって、炭素繊維のみを回収する炭素繊維回収工程を備えたので、洗浄された炭素繊維のみを回収容器に収容しつつ、回収容器から流れ出るセラミック粒子を他の回収容器に収容して、回収したセラミック粒子を次の撹拌分離工程で再利用することができる。そのため、セラミック粒子の再利用率を高めて、より一層低コストに炭素繊維の分離回収を行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、環境汚染への負荷を軽減しつつ、複数種類の炭素繊維強化プラスチックの炭素繊維を簡単かつ低コストで分離回収することができる炭素繊維の分離回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態に係る炭素繊維の分離回収方法の手順を表す工程図である。
図2図1に示す撹拌分離工程に用いる撹拌機の斜視図である。
図3図1に示す撹拌分離工程において、炭素繊維と強化プラスチックとを分離させる模式図であって、図3(A)は撹拌初期の状態を示し、図3(B)は撹拌中期の状態を示し、図3(C)は撹拌終期の状態を示す。
図4図1に示すセラミック凝集工程において、炭素繊維の外周側にセラミック粒子が凝集した状態を表す模式図である。
図5図1に示す炭素繊維回収工程において、分離した炭素繊維を網状に形成された回収容器に回収した上で、水洗してセラミック粒子を洗い落とした状態を表す模式図である。
図6図1に示す撹拌分離工程で撹拌容器に投入する炭素繊維強化プラスチックの小片の拡大写真図である。
図7図1に示す撹拌分離工程に用いる撹拌機の稼働状態を表す写真図である。
図8図1に示す乾燥工程で乾燥された炭素繊維の拡大写真図である。
図9】比較例によって分離回収した炭素繊維の拡大写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。はじめに、本実施形態に係る炭素繊維の分離回収方法に用いる撹拌機の基本構造を説明する。次に、本炭素繊維の分離回収方法の各工程について詳細に説明する。最後に、本実施形態に係る炭素繊維の分離回収方法に対する比較例の結果を説明する。
【0021】
<撹拌機の基本構造>
まず、本実施形態に係る炭素繊維の分離回収方法に用いる撹拌機の基本構造について、図1図2図7を用いて説明する。図1に、本実施形態に係る炭素繊維の分離回収方法の手順を表す工程図を示す。図2に、図1に示す攪拌分離工程に用いる撹拌機の斜視図を示す。図7に、図1に示す撹拌分離工程に用いる撹拌機の稼働状態を表す写真図を示す。
【0022】
図1図2図7に示すように、本実施形態に係る炭素繊維の分離回収方法は、炭素繊維強化プラスチック1に含まれる炭素繊維2を強化プラスチック3から分離して回収する炭素繊維の分離回収方法であって、炭素繊維強化プラスチック1の小片11と粉末状に形成されたセラミック粒子4とを混入した水溶液5を、撹拌機6にて撹拌して炭素繊維2と強化プラスチック3とを分離させる撹拌分離工程S1を備えている。
【0023】
本撹拌分離工程S1に用いる撹拌機6は、底壁611に撹拌羽根62が旋回可能に装着され、底壁611から起立する側壁612が凹凸状に形成された撹拌容器61を備えている。また、撹拌羽根62は、略U字状に形成された上羽根と下羽根とが十字状に連結され、底壁611の下端に装着された駆動モータ63によって旋回する。ここでは、撹拌容器61の側壁612は、角筒状に形成されているが、円筒状の側壁に複数の凸部又は凹部が上下方向に形成されていても良い。
【0024】
撹拌羽根62が旋回して、炭素繊維強化プラスチック1の小片11と粉末状に形成されたセラミック粒子4とを混入した水溶液5を撹拌容器61内で撹拌するときに、水溶液5が凹凸状(例えば、角筒状)の側壁612に衝突することによって、水溶液5が螺旋状の渦を巻きながら水平方向及び上下方向に移動することができる(図2図7を参照)。その際、炭素繊維強化プラスチック1の小片11とセラミック粒子4とが凹凸状の側壁612に衝突すると共に、セラミック粒子4が炭素繊維強化プラスチック1の小片11に様々な角度で衝突することによって、炭素繊維強化プラスチック1の小片11から強化プラスチック3をより効率的に削り取って、炭素繊維2と強化プラスチック3とを、より迅速に分離させることができる。
【0025】
<本炭素繊維の分離回収方法における各工程>
次に、本炭素繊維の分離回収方法の各工程について、図1図8を用いて詳細に説明する。図3に、図1に示す撹拌分離工程において、炭素繊維と強化プラスチックとを分離させる模式図を示し、図3(A)に撹拌初期の状態を示し、図3(B)に撹拌中期の状態を示し、図3(C)に撹拌終期の状態を示す。図4に、図1に示すセラミック凝集工程において、炭素繊維の外周側にセラミック粒子が凝集した状態を表す模式図を示す。図5に、図1に示す炭素繊維回収工程において、分離した炭素繊維を網状に形成された回収容器に回収した上で、水洗してセラミック粒子を洗い落とした状態を表す模式図を示す。図6に、図1に示す撹拌分離工程で使用する炭素繊維強化プラスチックの小片の拡大写真図を示す。図8に、図1に示す乾燥工程で乾燥された炭素繊維の拡大写真図を示す。
【0026】
図1に示すように、本炭素繊維の分離回収方法は、撹拌分離工程S1と、セラミック凝集工程S2と、炭素繊維回収工程S3と、乾燥工程S4とを備えている。なお、セラミック凝集工程S2は、省略することができる。
【0027】
(撹拌分離工程)
ここで、撹拌分離工程S1は、図2図3に示すように、炭素繊維強化プラスチック1の小片11と粉末状に形成されたセラミック粒子4とを混入した水溶液5を、撹拌機6にて撹拌して炭素繊維2と強化プラスチック3とを分離させる工程である。
【0028】
具体的には、炭素繊維強化プラスチック1を撹拌機6で撹拌できる程度の大きさの小片11に分割して、撹拌機6の撹拌容器61に投入する。撹拌容器61には、水51と炭素繊維強化プラスチック1の小片11とセラミック粒子4とを、例えば、重量比率で100:1:2~3程度の割合で混入することが好ましい。撹拌機6は、3000~4000回転/分程度で10~15分程度、撹拌羽根62を旋回させて、炭素繊維強化プラスチック1の小片11とセラミック粒子4とを混入した水溶液5を撹拌する。
【0029】
図3(A)に示すように、撹拌初期の状態では、水溶液5中に浮遊して撹拌される炭素繊維強化プラスチック1の小片11に対して、粉末状に形成されたセラミック粒子4が衝突して、表面の強化プラスチック3を少しずつ削り取っていく。また、図3(B)に示すように、撹拌中期の状態では、セラミック粒子4によって表面の強化プラスチック3が削り取られた炭素繊維強化プラスチック1の小片11は、細くなって複数の小片11に分割されながら、炭素繊維2を一本一本分離させていく。そして、図3(C)に示すように、撹拌終期になると、略全ての炭素繊維2の分離が完了して、水溶液5には、裸の状態となった炭素繊維2とセラミック粒子4と強化プラスチック3の削りカスが浮遊した状態となる。
【0030】
なお、セラミック粒子4は、陶磁器等に使用する粘土や鉱石粉末等を用いることができる。セラミック粒子4の平均粒径は、5~10μm程度であることが好ましい。この場合、炭素繊維強化プラスチック1に含まれる炭素繊維2同士の隙間に入り込んで、炭素繊維2の外周に固着した強化プラスチック3をより一層簡単に削り落とすことができる。そのため、炭素繊維2と強化プラスチック3との分離に要する時間を短縮させることができる。
【0031】
また、炭素繊維強化プラスチック1の小片11は、その大きさを限定するものではないが、例えば、5~30mm程度の長さの棒状又は短冊状に形成することが好ましい。また、小片11の長手方向は、炭素繊維2の繊維方向に沿って形成されていることが好ましい。
【0032】
なお、炭素繊維強化プラスチック1は、自動車や航空機等の使用済み部品(廃材)を用いても、成形過程で発生する端材を用いても良い。また、強化プラスチック3は、熱可塑性のプラスチックでも、熱硬化性のプラスチックでも良い。また、炭素繊維2は、ポリアクリロニトリルを原料とするPAN系炭素繊維でも、コールタールピッチや石油ピッチを原料とするピッチ系炭素繊維でも良い。
【0033】
(セラミック凝集工程)
次に、セラミック凝集工程S2は、図4に示すように、撹拌分離工程S1の最終段階にて、セラミック粒子4を凝集させる凝集剤7を水溶液5に混入して、セラミック粒子4を炭素繊維2の外周側に凝集させる工程である。凝集剤7としては、例えば、ポリ塩化アルミニウム(PAC)や硫酸アルミニウムなどを用いることができる。セラミック凝集工程S2によって、強化プラスチック3から分離された炭素繊維2の外周側にセラミック粒子4を凝集させて、水溶液5に含まれるセラミック粒子4と水51との分離を簡単に行うことができる。そのため、水51の再利用を促進させることができる。その結果、環境汚染への負荷をより一層低減させることができる。
【0034】
(炭素繊維回収工程)
次に、炭素繊維回収工程S3は、図5に示すように、セラミック凝集工程S2の後に、セラミック粒子4が凝集された炭素繊維2を、網状に形成された回収容器8に回収した上で、水洗してセラミック粒子4を洗い落とすことによって、炭素繊維2のみを回収する工程である。この工程によって、洗浄された炭素繊維2のみを回収容器8に収容しつつ、回収容器8から流れ出るセラミック粒子4を他の回収容器(図示しない)に収容して、回収したセラミック粒子4を次の撹拌分離工程S1で再利用することができる。そのため、セラミック粒子4の再利用率を高めて、より一層低コストに炭素繊維2の分離回収を行うことができる。
【0035】
(乾燥工程)
乾燥工程S4は、炭素繊維回収工程S3にて回収された炭素繊維2を乾燥させて、水分を除去する工程である。水分が除去された炭素繊維2は、図8に示すように、ランダムな方向に配列されて綿状となる。具体的には、回収した炭素繊維2を乾燥炉に入れ、例えば、60~70℃程度で約4~5時間保持して、ゆっくりと乾燥させる。上記温度で、ゆっくり乾燥させることによって、炭素繊維2の劣化や痩せ等を回避でき、再利用時における炭素繊維2の性能維持に寄与できる。
【0036】
<本炭素繊維の分離回収方法の比較例>
次に、本実施形態に係る炭素繊維の分離回収方法に対する比較例を、図9を用いて簡単に説明する。図9に、比較例によって分離回収した炭素繊維の拡大写真図を示す。
【0037】
本実施形態に係る炭素繊維の分離回収方法は、前述したように、炭素繊維強化プラスチック1に含まれる炭素繊維2を強化プラスチック3から分離して回収する炭素繊維の分離回収方法であって、炭素繊維強化プラスチック1の小片11と粉末状に形成されたセラミック粒子4とを混入した水溶液5を、撹拌機6にて撹拌して炭素繊維2と強化プラスチック3とを分離させる撹拌分離工程S1を備えている。
【0038】
これに対して、比較例の炭素繊維の分離回収方法は、炭素繊維強化プラスチック1の小片11のみを混入した水溶液5を、撹拌機6にて撹拌して炭素繊維2と強化プラスチック3とを分離させる撹拌分離工程を備えている。したがって、比較例の撹拌分離工程における水溶液5には、粉末状に形成されたセラミック粒子4が混入されていない。
【0039】
すなわち、比較例では、水51と炭素繊維強化プラスチック1の小片11との重量比率は、100:1程度であり、撹拌機6は、3000~4000回転/分程度で10~15分程度、撹拌羽根62を旋回させて、炭素繊維強化プラスチック1の小片11を混入した水溶液5を撹拌した。その結果、図9に示すように、炭素繊維強化プラスチック1の小片11から、一部の炭素繊維2を分離させることはできたが、多くの炭素繊維強化プラスチック1の小片11は、元の状態で残存した。
【0040】
この比較例の結果から、本実施形態に係る炭素繊維の分離回収方法では、炭素繊維強化プラスチック1の小片11と粉末状に形成されたセラミック粒子4とを混入した水溶液5を撹拌するときに、水溶液5中でセラミック粒子4が炭素繊維強化プラスチック1の小片11に衝突することによって、炭素繊維強化プラスチック1の小片11から強化プラスチック3を削り取って、炭素繊維2と強化プラスチック3とを機械的に分離させることができたことを、推認できる。
【0041】
<作用効果>
以上詳細に説明したように、本実施形態に係る炭素繊維の分離回収方法によれば、炭素繊維強化プラスチック1の小片11と粉末状に形成されたセラミック粒子4とを混入した水溶液5を、撹拌機6にて撹拌して炭素繊維2と強化プラスチック3とを分離させる撹拌分離工程S1を備えたので、炭素繊維強化プラスチック1の小片11と粉末状に形成されたセラミック粒子4とを混入した水溶液5を撹拌するときに、水溶液5中でセラミック粒子4が炭素繊維強化プラスチック1の小片11に衝突することによって、炭素繊維強化プラスチック1の小片11から強化プラスチック3を削り取って、炭素繊維2と強化プラスチック3とを機械的に分離させることができる。また、セラミック粒子4を介して、炭素繊維2と強化プラスチック3とを機械的に分離させるので、環境汚染に繋がる有機溶媒等を用いる必要がない。そのため、環境汚染への負荷を軽減できる。また、セラミック粒子4は、強化プラスチック3より硬いので、強化プラスチック3の種類・材質が異なっていても、簡単に削り取ることができる。一方、セラミック粒子4は、硬くて高強度の炭素繊維2を削ることがない。さらに、分離された炭素繊維2は、軽く、セラミック粒子4と共に水溶液5中で浮遊するので、折損する恐れも少ない。
【0042】
よって、本実施形態によれば、環境汚染への負荷を軽減しつつ、複数種類の炭素繊維強化プラスチック1の炭素繊維2を簡単かつ低コストで分離回収することができる炭素繊維の分離回収方法を提供することができる。
【0043】
また、本実施形態によれば、セラミック粒子4の平均粒径は、5~10μmであるので、炭素繊維強化プラスチック1に含まれる炭素繊維2同士の隙間に入り込んで、炭素繊維2の外周に固着した強化プラスチック3をより一層簡単に削り落とすことができる。そのため、炭素繊維2と強化プラスチック3との分離に要する時間を短縮させることができる。
【0044】
また、本実施形態によれば、撹拌機6は、底壁611に撹拌羽根62が旋回可能に装着され、底壁611から起立する側壁612が凹凸状に形成された撹拌容器61を備え、当該撹拌容器61内で水溶液5を撹拌するので、底壁611に装着された撹拌羽根62が旋回して水溶液5を撹拌するときに、水溶液5が凹凸状の側壁612に衝突することによって、水溶液5が螺旋状の渦を巻きながら水平方向及び上下方向に移動することができる。その際、炭素繊維強化プラスチック1の小片11とセラミック粒子4とが凹凸状の側壁612に衝突すると共に、セラミック粒子4が炭素繊維強化プラスチック1の小片11に様々な角度で衝突することによって、炭素繊維強化プラスチック1の小片11から強化プラスチック3をより効率的に削り取って、炭素繊維2と強化プラスチック3とを、より迅速に分離させることができる。
【0045】
また、本実施形態によれば、撹拌分離工程S1の最終段階にて、セラミック粒子4を分離された炭素繊維2に凝集させる凝集剤7を水溶液5に混入して撹拌するセラミック凝集工程S2を備えたので、セラミック粒子4を炭素繊維2の外周側に凝集させて、水溶液5に含まれるセラミック粒子4と水51との分離を簡単に行うことができる。そのため、水51の再利用を促進させることができる。その結果、環境汚染への負荷をより一層低減させることができる。
【0046】
また、本実施形態によれば、セラミック凝集工程S2の後に、セラミック粒子4が凝集された炭素繊維2を、網状に形成された回収容器8に回収した上で、水洗してセラミック粒子4を洗い落とすことによって、炭素繊維2のみを回収する炭素繊維回収工程S3を備えたので、洗浄された炭素繊維2のみを回収容器8に収容しつつ、回収容器8から流れ出るセラミック粒子4を他の回収容器に収容して、回収したセラミック粒子4を次の撹拌分離工程S1で再利用することができる。そのため、セラミック粒子4の再利用率を高めて、より一層低コストに炭素繊維2の分離回収を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、例えば、炭素繊維強化プラスチックの小片をセラミック粒子を混入した水溶液内で撹拌して、炭素繊維と強化プラスチックとを分離し、炭素繊維を回収する炭素繊維の分離回収方法として利用できる。
【符号の説明】
【0048】
1 炭素繊維強化プラスチック
2 炭素繊維
3 強化プラスチック
4 セラミック粒子
5 水溶液
6 撹拌機
7 凝集剤
8 回収容器
10 炭素繊維の分離回収方法
11 小片
61 撹拌容器
62 撹拌羽根
611 底壁
612 側壁
S1 撹拌分離工程
S2 セラミック凝集工程
S3 炭素繊維回収工程
S4 乾燥工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9