(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】高分子薬剤
(51)【国際特許分類】
C08F 8/42 20060101AFI20240314BHJP
C08F 8/32 20060101ALI20240314BHJP
C08F 222/08 20060101ALI20240314BHJP
A61K 33/22 20060101ALI20240314BHJP
A61K 31/7008 20060101ALI20240314BHJP
A61K 41/00 20200101ALI20240314BHJP
A61K 47/58 20170101ALI20240314BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240314BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
C08F8/42
C08F8/32
C08F222/08
A61K33/22
A61K31/7008
A61K41/00
A61K47/58
A61P35/00
A61P31/04
(21)【出願番号】P 2021509683
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020014322
(87)【国際公開番号】W WO2020196891
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2019064562
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年9月4日、第77回日本癌学会学術総会の抄録集のウェブサイト(https://www.meeting-schedule.com/jca2018/)で発表。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年9月29日、大阪国際会議場(大阪市北区中之島5-3-51)において開催された第77回日本癌学会学術総会で発表。
(73)【特許権者】
【識別番号】514071392
【氏名又は名称】一般財団法人バイオダイナミックス研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】前田 浩
(72)【発明者】
【氏名】イスラム・ワリウル
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/076312(WO,A1)
【文献】PNAS,2010年,107(28),pp.12435-12440
【文献】ISLAM, W.,A novel approach of boron capture neutron therapy-BNCT using polymer conjugated carbohydrate moiety based on EPR effect,Cancer Science,2018年12月,109(S2),p.1096, E-3049
【文献】CHESNOKOV, V. et al.,Anti-cancer activity of glucosamine through inhibition of N-linked glycosylation,Cancer Cell International,2014年,14:45,p.1-10
【文献】TIAN, B. et al.,N-acetyl-D-glucosamine decorated polymeric nanoparticles for targeted delivery of doxorubicin: Synthesis, characterization and in vitro evaluation,Colloids and Surface B: Biointerfaces,2015年,130,p.246-254
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示されるスチレン-マレイン酸共重合体(SMA)とホウ酸化合物とを含み、
【化1】
[式(1)中、nは、3~500を示す。]
該SMAとホウ酸化合物が
、リンカーを介して結合して
おり、
該リンカーが、アミド結合を介してSMAと結合しており、
該ホウ酸化合物が、ホウ酸であり、
該リンカーが、グルコサミンである、
複合体。
【請求項2】
請求項
1に記載の複合体を含む、抗癌剤。
【請求項3】
ホウ素熱中性子捕獲療法に用いるための、請求項
2に記載の抗癌剤。
【請求項4】
以下の工程を含む、請求項
1に記載の複合体の製造方法:
(a)SMAと、リンカーを結合する工程と、
(b)工程(a)で得られた生成物中のリンカー残基と、ホウ酸化合物を結合する工程。
【請求項5】
下記式(1)で示されるスチレン-マレイン酸共重合体(SMA)とグルコサミンの結合体を含
み、
【化2】
[式(1)中、nは、3~500を示す。]
該グルコサミンが、アミド結合を介してSMAと結合している、
抗癌剤。
【請求項6】
請求項
1に記載の複合体を含む、抗菌剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子薬剤に関する。
本特許出願は、日本国特許出願第2019-64562号について優先権を主張するものであり、ここに参照することによって、その全体が本明細書中へ組み込まれるものとする。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、高分子物質が腫瘍部に選択的に集積する原理、EPR効果(enhanced permeability and retention effect)の発見を報告した(非特許文献1:Cancer Research, 1986(12), 46, 6787-6392)。その原理を応用し、低分子の薬剤を生体親和性のある高分子と結合することによって高分子薬剤にすれば、EPR効果を発現して、腫瘍部に圧倒的に集積させることが可能になることを見出した(特許文献1:国際公開WO2004/103409、特許文献2:国際公開WO2006/112361など)。
このように、低分子薬剤を高分子と結合することによって、低分子薬剤の薬効を高めることができる場合がある。
【0003】
低分子薬剤として、例えば、ホウ酸は、従来、抗菌剤、殺菌剤、殺虫剤、医薬品等に使用されてきた。例えば、ゴキブリ駆除の食毒剤として、いわゆるホウ酸団子(10%~50%)が使用されており、アリ駆除にホウ酸液が使用される場合がある。また、眼科領域においては、結膜嚢の洗浄と消毒に、あるいは目薬の保存料としても用いられる。さらに、塩基性の薬品が目に入った際の中和剤として用いられる。欧米では、建築用木材に対して、シロアリや菌類への防虫防腐剤として塗布されていることも多い。
しかしながら、ホウ酸を高分子で結合させた高分子薬剤は知られていない。
【0004】
一方、癌の治療には外科的手術の他に、化学療法、光線力学療法(PDT, photodynamic therapy)、および放射線療法、最近では免疫療法がある。そのうち、とくに放射線による癌治療のうち、患者にホウ素(10B)を含む製剤を投与して、その腫瘍部に加速器や原子炉で生ずる中性子(熱中性子)を照射するホウ素熱中性子捕獲療法(BNCT)がある。これは、このとき生ずるα線が主な殺細胞因子と考えられている。
しかしながら、この方法も旧来の化学療法剤あるいはPDTに用いる光増感剤も、何れの場合も薬剤は一般に低分子薬剤が用いられている。低分子薬剤は、全身に広く拡散・分布し、腫瘍部に選択的に集積することはない。その結果、薬効は乏しい。事実、WHO(国連保健機構)も米国国立がん研究所(NCI)も、これらの癌治療剤の90±5%は失敗であるとしている(非特許文献2:Clin. Trans. Med. (2018) 7:11 /10.1186/s40169-018-0185-6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開WO2004/103409
【文献】国際公開WO2006/112361
【非特許文献】
【0006】
【文献】Cancer Research, 1986(12), 46, 6787-6392
【文献】Clin. Trans. Med. (2018) 7:11 /10.1186/s40169-018-0185-6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、新規高分子薬剤、例えば、抗癌剤(特にBNCT用抗癌剤)、抗菌剤、殺菌剤等として有用な新規高分子薬剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意検討した結果、ホウ酸化合物とポリマーを用いてホウ素を高分子化することによって、EPR効果により他の部位に比べて腫瘍局所により多くホウ素が集積するので、治療効果(抗癌効果)を大幅に改善すると同時に、副作用の低減化を可能にすることに成功した。また、本発明者らは、高分子化したグルコサミンが十分な抗癌作用を示すことを見出した。
さらに、本発明者らは、上記高分子化ホウ酸化合物が、グラム陽性菌およびグラム陰性菌の両方に対して優れた抗菌活性を示すことを見出した。
このような知見に基づき、本発明者らは本発明を完成するに至った。
本発明には、以下の態様が含まれる。
[1]スチレン-マレイン酸共重合体(SMA)とホウ酸化合物とを含み、該SMAとホウ酸化合物が、直接またはリンカーを介して結合している、複合体。[2]上記ホウ酸化合物が、ホウ酸、テトラホウ酸ジナトリウム、およびそれらの混合物から選択される、[1]記載の複合体。
[3]上記リンカーが、アミド結合、エステル結合、チオエステル結合、またはヒドラゾン結合を介してSMAと結合している、[1]または[2]記載の複合体。
[4]上記リンカーが、糖類、アミノ糖類、糖アルコール類、およびそれらの混合物から選択される、[1]~[3]のいずれかに記載の複合体。
[5]上記リンカーが、シス-ジオール化合物である、[1]~[3]のいずれかに記載の複合体。
[6] 該SMAとホウ酸化合物が、直接結合している、[1]または[2]に記載の複合体。
[7][1]~[6]のいずれかに記載の複合体を含む、抗癌剤。
[8]ホウ素熱中性子捕獲療法に用いるための、[7]に記載の抗癌剤。
[9]以下の工程を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の複合体の製造方法:
(a)SMAと、リンカーを結合する工程と、
(b)工程(a)で得られた生成物中のリンカー残基と、ホウ酸化合物を結合する工程。
[10]スチレン-マレイン酸共重合体(SMA)とグルコサミンの結合体を含む、抗癌剤。
[11][1]~[6]のいずれかに記載の複合体を含む、抗菌剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明のSMA-ホウ酸複合体によれば、ホウ酸化合物とポリマーを用いてホウ素を高分子化することによって、EPR効果により他の部位に比べて腫瘍局所により多くのホウ素を集積することができるので、治療効果(抗癌効果)、特にBNCTによる治療効果を大幅に改善することができるのと同時に、副作用を低減することができる。したがって、本発明の複合体は、従来の低分子抗癌剤あるいはBNCT用の低分子ホウ素製剤に比べて抗癌剤としてはるかに優れている。
また、本発明の複合体は、腫瘍局所でホウ酸化合物を遊離させることができるので、遊離したホウ酸化合物により、細胞のエネルギー(ATP)生成系代謝のうち、癌細胞がその多くを依存している解糖系(Warburg effect)の代謝を阻害し、癌細胞の増殖を抑えることができる。
したがって、本発明の複合体は、BNCTの治療効果に加え、解糖系阻害という2つのメカニズムで制癌作用を発揮することができる。
また、本発明の複合体は、細胞内へのグルコース取り込みを阻害することができる。したがって、本発明の複合体は、細胞内へのグルコース取り込み阻害剤として使用することができ、そのことにより症状を改善できる疾患に使用することができる。
さらに、本発明のSMA-グルコサミン結合体によれば、グルコサミンを高分子化することによって、EPR効果により、他の部位に比べて腫瘍局所により多く集積する。その結果、該結合体は腫瘍細胞内でゆっくりとヒドロラーゼ/プロテアーゼ/アミダーゼで切断されるので、グルコサミンが遊離し、そのグルコサミンが抗癌活性を発揮することができる。これは本発明に関する第3の抗癌メカニズムである。
また、本発明の複合体は、グラム陽性菌およびグラム陰性菌の両方に対して優れた抗菌活性を示すので、抗菌剤として使用することができ、これらの細菌による感染症の治療または予防剤として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、SMA、SMA-グルコサミン結合体(SG)、SMA-グルコサミン-ホウ酸複合体(SGB)の赤外吸収スペクトルを示す。図中、矢印がアミド結合に相当するピークである。
【
図2】
図2Aは、SMAのUVスペクトルを示す。BSAは比較のためのウシ血清アルブミンである。 また、
図2Bは、セファクリルS-300カラム(2cm×60cm、GEヘルスケア)によるカラムクロマトグラフィーを示す。分子量の標準としてトランスフェリン90 KDa、BSA 67 KDa、ネオカルチノスタチン(NCS)12 KDaを用いた。SGB + BSAはみかけ上、分子量はもとの約70Kから約150 kDaとなった。もとのSGBは約65 KDaであった。このことは、SGBが溶液中でアルブミン結合性があることを示す。
【
図4】
図4は、SGBからのホウ酸の遊離曲線を示す。
【
図5】
図5は、in vitroでHeLa細胞(1×10
4/well)を用いて行ったSGBの細胞増殖抑制作用を示す。正常酸素分圧下(O
2、21%)、培地のグルコースを0.1%とした。データは薬物処理24時間後のMTT法による値を示す。
【
図6】
図6は、(A)および(A’)遊離のグルコサミンのC26細胞マウス大腸癌細胞に対する増殖抑制作用、(B)および(B’)SMA-グルコサミン結合体(SG)の同上のC26細胞に対する増殖抑制作用、および(C)SG-ホウ酸(SGB)複合体のC26大腸がん細胞に対する増殖抑制作用を示す。なお、(A)、(B)および(C)は、C26細胞を、通常の0.1%グルコースを含む培地で培養した結果であり、(A’)および(B’)は、腫瘍局所の低グルコース、低pH、低酸素分圧下でグルコースをより低い濃度の培地(0.01%)で培養した結果である。これらの条件は高度進行がんのがん組織の微小環境を再現したものである。
【
図7A】
図7Aは、C26細胞における、正常酸素分圧下および低酸素分圧下、48時間での、遊離ホウ酸(BA)と比較したSGBのin vitro細胞毒性を示す。
【
図7B】
図7Bは、HeLa細胞における、正常酸素分圧下および低酸素分圧下、48時間での、遊離ホウ酸(BA)と比較したSGBのin vitro細胞毒性を示す。
【
図7C】
図7Cは、C26細胞における、正常酸素分圧下および低酸素分圧下、48時間での、グルコサミンおよびSMA-グルコサミンのin vitro細胞毒性を示す。
【
図7D】
図7Dは、HeLa細胞における、正常酸素分圧下および低酸素分圧下、48時間での、グルコサミンおよびSMA-グルコサミンのin vitro細胞毒性を示す。
【
図8】
図8は、6週齢のddYオスマウスを用いて行ったSGBの1回静注時の毒性評価を示す。
【
図9】
図9は、担がん(S180)マウスにおけるSGBと遊離ホウ酸の各臓器と腫瘍組織の分布を示す。各薬剤の投与24時間後、ICP質量分析によりB10(
10B)を検出した(単位:ppb)。
【
図10A】
図10Aは、ddYマウスにおけるホウ酸およびSMA-グルコサミン-ホウ酸複合体の血漿中半減期を示す。
【
図10B】
図10Bは、ddYマウスにおけるホウ酸およびSMA-グルコサミン-ホウ酸複合体の尿中排泄率を示す。
【
図11】
図11は、C26細胞における遊離ホウ酸とSGBの細胞取り込みの比較を示す。
【
図13A】
図13Aは、Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)に対するSMA-グルコサミン-ホウ酸複合体による抗菌活性を示す。
【
図13B】
図13Bは、Escherichia coli (E. coli, 大腸菌)に対するSMA-グルコサミン-ホウ酸複合体による抗菌活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、スチレン-マレイン酸共重合体(SMA)とホウ酸化合物とを含み、該SMAとホウ酸化合物が、直接またはリンカーを介して結合している、複合体に関する。
【0012】
本発明における「スチレン-マレイン酸共重合体(SMA)」は、下記式(1)に示される繰り返し単位を有する共重合体(コポリマー)であり、スチレン由来の構成単位とマレイン酸(無水マレイン酸も含む)由来の構成単位を必須単位とするものである。SMAは、市販品でもよく、既知の方法によって合成されたものでもよい。一般に、スチレンと無水マレイン酸との共重合により得られる。この場合、マレイン酸由来の部分は、無水物となるが、そのままでも、あるいは使用前に加水分解して遊離酸部分としてもよい。
【化1】
[式(1)中、nは、2以上の整数、例えば3~500を示す。]
【0013】
本発明において、SMAは、そのマレイン酸残基の側鎖部分に種々の官能基が導入された誘導体であってもよい。このようなSMA誘導体としては、例えば、側鎖のカルボキシル基にアルブミンまたはトランスフェリンが結合したもの、側鎖のカルボキシル基がエチル化、ブチル化、ブチルセルソルブ化などのアルキル化されたもの、さらに、側鎖のカルボキシル基がアミド化、アミノエチル化、トリスヒドロキシアミノエチル化、ヒドロキシアミノメタン化、メルカプトエチルアミン化、あるいはポリエチレングリコール(PEG)化、アミノ酸化(リジンやシステイン、その他のアミノ酸結合体など)されたもの、またはヒドラジンにより修飾されたもの、などが挙げられる。
上記側鎖のカルボキシル基がブチル化またはブチルセルソルブ化されたSMAとしては、例えば、SMA(登録商標) Resins(Sartomer、川原油化株式会社)等が存在する。
【0014】
また、本発明におけるSMA誘導体としては、国際公開WO2015/076312に記載のSMA誘導体も含まれる。例えば、下記のSMA誘導体が挙げられる。
(1)SMAのマレイン酸残基のカルボキシル基にアミド結合、エステル結合、またはヒドラゾン結合を介して導入された、-NH
2、-SH、-OH、-COOH、-NH-(C=NH)-NH
2および-C(CH
2-OH)
3から選択される官能基を含有する側鎖を含む、SMA誘導体。
(2)側鎖(b)が、下記式[A]:
【化2】
[式[A]中、R
1は、単結合、アルキレン基、-NH-、-CO-、-(C=NH)-、-N=C(CH
3)-および-(C=NH)-NH-並びにそれらの組合せから選択される基を示し、ここで該アルキレン基は、ヒドロキシル基およびカルボキシル基で置換されていてもよく、
R
2は、水素原子、-NH
2、-SH、-OH、-COOH、-NH-(C=NH)-NH
2および-C(CH
2-OH)
3から選択される基を示し、ただし、R
2が水素原子である場合、R
1は単結合であり、
ここで、式[A]で示される基がSMA誘導体中に複数存在する場合、R
1およびR
2はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
で示される、上記(1)に記載のSMA誘導体。
(3)式[A]中、R
1が、単結合、-CH
2-、-(CH
2)
2-、-(CH
2)
3-、-CH(COOH)-CH
2-、-CH
2-CH(COOH)-、-CH
2-CH(OH)-CH
2-、-(CH
2)
4-、-CH(COOH)-(CH
2)
3-、-(CH
2)
3-CH(COOH)-、-(CH
2)
3-CO-CH(COOH)-、-CH
2-CO-(CH
2)
2-、-N=C(CH
3)-(CH
2)
2-、-(CH
2)
5-、-CH(COOH)-(CH
2)
4-、-(CH
2)
4-CH(COOH)-、-(CH
2)
4-NH-(C=NH)-、-(C=NH)-NH-(CH
2)
4-、-CH(COOH)-(CH
2)
3-NH-(C=NH)-、-(C=NH)-NH-(CH
2)
3-CH(COOH)-および-(CH
2)
6-、並びにこれらのカルボキシル基のα、β、γ、またはδ炭素にケトン基を有するものから選択される、上記(2)に記載のSMA誘導体。
(4)式[A]中、-R
1-R
2が、以下の基:
(1) 水素原子、
(2) -NH
2、
(3) -(CH
2)
2-SH、
(4) -CH(COOH)-CH
2-SH、
(5) -(CH
2)
1-6-NH
2、
(6) -CH
2-CH(OH)-CH
2-NH
2、
(7) -CH(COOH)-(CH
2)
4-NH
2、
(8) -(CH
2)
1-4-CH(COOH)-NH
2、
(9) -(CH
2)
1-4-NH-(C=NH)-NH
2、
(10) -(C=NH)-NH-(CH
2)
1-4-NH
2、
(11) -CH(COOH)-(CH
2)
3-NH-(C=NH)-NH
2、
(12) -(C=NH)-NH-(CH
2)
3-CH(COOH)-NH
2、
(13) -C(CH
2-OH)
3、
(14) -(CH
2)
1-4-NH-CO-NH-NH
2、
(15) -(CH
2)
1-4-CO-CH
2-NH
2、
(16) -CH
2-CO-(CH
2)
4-NH
2、
(17) -CH
2-CO-(CH
2)-OH、
(18) -(CH
2)
1-4-CO-CHOH-COOH、
(19) -CH
2-CO-(CH
2)
2-COOH、
(20) -N=C(CH
3)-(CH
2)
2-COOH、
(21) -(CH
2)
3-NH
2、および
(22) -(CH
2)
3-OH
から選択される基である、上記(2)または(3)に記載のSMA誘導体。
【0015】
本発明において、SMA(その誘導体も含む。以下、特に「誘導体」と言及しない限り、同義である。)は、1種単独でも2種以上の混合物としても使用することができる。
【0016】
本発明の複合体に使用するSMAとして、重合度に応じた各種の分子量のものを使用することができる。例えば、上記重合度(n)が約3~500であるもの、水溶液中のみかけ上の重量平均分子量(Mw)が、約500~100,000ダルトン(Da)、好ましくは約1,000~5,000Daを有するものを使用することができる。
ここで、SMAのみかけ上の重量平均分子量(Mw)は、後述するように、多角度光散乱検出器を用いた静的光散乱法(SLS)により測定することができる。
【0017】
上記「ホウ酸化合物」としては、ホウ酸構造を含有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、ホウ酸、テトラホウ酸ジナトリウム(ボラックス、Borax、Na2tetraborate decahydrate, Na2BO4・H2O)などが挙げられる。
本発明において、ホウ酸化合物は、1種単独でも2種以上の混合物としても使用することができる。
また、ホウ酸化合物を構成するホウ素原子は、BNCTに有効である10B原子の同位体が濃縮されたもの、すなわち、[10B]>[11B]であることが好ましい。
【0018】
本発明の複合体は、上記SMAと上記ホウ酸化合物が、直接またはリンカーを介して結合している。以下、上記SMAと上記ホウ酸化合物が直接結合している複合体を「SMA-B」、上記SMAと上記ホウ酸化合物がリンカーを介して結合している複合体を「SMA-L-B」と称する。
【0019】
上記SMAと上記ホウ酸化合物が直接結合している複合体(SMA-B)としては、例えば、下記構造(2):
【化3】
[式(2)中、nは、2以上の整数、例えば3~500を示す。]
で示されるSMAとホウ酸の複合体などが挙げられる。
【0020】
上記SMA-Bは、SMAの水溶液(pH 8~9)に対し、ホウ酸化合物(例えば、ホウ酸あるいはボラックスなど)を、10~40時間、ゆるやかに撹拌下に加え、SMAにホウ酸化合物を結合させることにより、製造することができる。
本反応における反応温度は、例えば、20~60℃、好ましくは室温(20~30℃)程度であり、反応時間は、例えば、10~40時間、好ましくは24時間程度である。また、本反応は、SMAの3~20%の水溶液中で行うことが好ましい。
本反応に使用するホウ酸の量は、特に限定されないが、SMAに対して過剰量であることが好ましく、例えば、SMAの無水マレイン酸残基に対して1~100モル当量、好ましくは1~5モル当量である。
【0021】
上記SMAと上記ホウ酸化合物がリンカーを介して結合している複合体(SMA-L-B)におけるリンカーとしては、上記SMAと結合するための官能基(a)と、上記ホウ酸化合物と結合するための官能基(b)を含むものが挙げられる。
上記官能基(a)としては、上記SMAと共有結合可能な官能基であれば特に限定されないが、好ましくはSMAのマレイン酸残基のカルボキシル基と共有結合を形成可能な官能基である。このような官能基(a)の具体例としては、例えば、アミノ基(-NH2)、ヒドロキシル基(-OH)、チオール基(-SH)、ヒドラジン基(-NH-NH2)などが挙げられ、より好ましくはアミノ基が挙げられる。
また、上記官能基(b)としては、上記ホウ酸化合物と結合可能な官能基であれば特に限定されないが、好ましくはヒドロキシル基などが挙げられ、より好ましくは2個の隣接したヒドロキシル基(例えば、-(CH)2-3-(OH)2-3、シス-ジオール基)などである。
このようなリンカーとしては、例えば、糖類、アミノ糖類、糖アルコール類などが挙げられ、具体的には、グルコサミン、グルコース、キチン、キトサンなどが挙げられ、特にシス-ジオール基を有する(シス-ジオール化合物)、例えば、α-D-グルコピラノース、α-D-リボフラノース、α-D-エリトロース、グリセルアルデヒドなどが挙げられる。好ましくは、グルコサミンなどが挙げられる。
【0022】
本発明におけるリンカーは、それ自体、抗癌作用を有するものが好ましい。このようなリンカーとしては、例えば、グルコサミン、5-フロロウラシル、核酸のアナログなどが挙げられる。
なお、グルコサミンが抗癌作用を示すことは既に報告されている(例えば、Cancer Cell International, 14:45 (2014)、Mol. Med. Rep. 16:3395-3400 (2017)、PLOS ONE 13 (7): e0200757 (2018))。
【0023】
また、本発明において、上記リンカーは、SMA誘導体を構成する(SMAに導入された)、ホウ酸化合物と結合可能な官能基であってもよい。
【0024】
上記SMA-L-Bは、好ましくは上記リンカーが、アミド結合、エステル結合、チオエステル結合、またはヒドラゾン結合を介してSMAと結合している。これらの結合はそれぞれ、SMAのマレイン酸残基のカルボキシル基と、上記リンカーの官能基(a)であるアミノ基(-NH2)、ヒドロキシル基(-OH)、チオール基(-SH)、またはヒドラジン基(-NH-NH2)との反応により形成され得る。
【0025】
上記SMA-L-Bは、例えば、以下の工程を含む方法によって製造することができる。
(a)SMAと、リンカーを結合する工程と、
(b)工程(a)で得られた生成物中のリンカー残基と、ホウ酸化合物を結合する工程。
以下、SMAとしてSMA(スチレン-無水マレイン酸共重合体)を、ホウ酸化合物としてホウ酸を、リンカーとして官能基(a)としてアミノ基を、官能基(b)として2個の隣接したヒドロキシル基を含むリンカーを使用した場合を例にして、本発明の複合体の製造方法をより詳細に説明する。
【0026】
【化4】
[式中、n、mおよびkは、それぞれ独立して2以上の整数、例えば3~500を示し、n≧m≧kであり、[]で示される繰り返し単位は連続していなくてもよい。また、Lは官能基(a)および(b)以外のリンカー部分を示す。]
【0027】
まず、SMAの無水マレイン酸残基に対し、リンカー(例えばグルコサミン)のアミノ基(-NH2)を反応させ、リンカー残基がペンダント状にぶら下がったSMA-リンカー結合体を得る。
本反応における反応温度は、例えば、10~70℃、好ましくは50~55℃程度であり、反応時間は、例えば、5~50時間、好ましくは24時間程度である。また、本反応は、pH 8~9の水溶液中で行うことが好ましい。
本反応に使用するリンカーの量は、特に限定されないが、例えば、無水マレイン酸残基に対して1~50モル当量、好ましくは2~10モル当量である。
【0028】
上記工程で得られたSMA-リンカー結合体は、必要に応じて精製することができる。精製方法は、特に限定されず、既知の方法で行うことができるが、例えば、複合体(沈殿物)をpH 7~8のアルカリ水で可溶化し、これを蒸留水に対して透析または限外ろ過し、濃縮する工程を繰り返すことにより、当該複合体を精製することができる。また、当該複合体は、精製後、凍結乾燥させることもできる。
【0029】
次いで、このSMA-リンカー結合体の水溶液に対し、ホウ酸を、10~40時間、ゆるやかに撹拌下に加え、SMA-リンカー結合体に結合させることにより、SMA-リンカー-ホウ酸複合体を得る。
本反応における反応温度は、例えば、20~60℃、好ましくは室温(20~30℃)程度であり、反応時間は、例えば、10~40時間、好ましくは24時間程度である。また、本反応は、SMA-リンカー結合体の3~20%の水溶液中で行うことが好ましい。
本反応に使用するホウ酸の量は、特に限定されないが、リンカー残基に対して過剰量であることが好ましく、例えば、リンカー残基に対して1~100モル当量、好ましくは1~5モル当量である。
【0030】
上記工程においては、ホウ酸の代わりにテトラホウ酸ジナトリウムを同様に用いることができる。
【0031】
上記工程で得られたSMA-リンカー-ホウ酸複合体(SMA-L-B)は、必要に応じて精製することができる。精製方法は、特に限定されず、既知の方法で行うことができるが、例えば、複合体(沈殿物)をpH7~8のアルカリ水で可溶化し、これを透析し、限外ろ過し、濃縮する工程を繰り返すことにより、当該複合体を精製することができる。また、当該複合体は、精製後、凍結乾燥させることもできる。
【0032】
本発明のSMA-ホウ酸複合体(SMA-B)およびSMA-リンカー-ホウ酸複合体(SMA-L-B)のみかけ上の分子量は、特に限定されないが、水溶液中のみかけ上の重量平均分子量(Mw)は、例えば5k~200kDa、好ましくは5k~100kDa、特に10k~100kDaである。
ここで、本発明の複合体のみかけ上の重量平均分子量(Mw)は、後述するように、多角度光散乱検出器を用いた静的光散乱法(SLS)により測定することができる。
【0033】
本発明の複合体の平均粒子サイズは、特に限定されないが、例えば3~200nm、好ましくは5~100nmである。
ここで、本発明の複合体の平均粒子サイズは、後述するように、0.1Mトリス緩衝液(pH 8.2)中、動的および静的光散乱法により測定することができる。
【0034】
本発明の複合体におけるホウ酸結合量は、特に限定されないが、例えば3~30%(W/W)、好ましくは5~15%(W/W)である。
ここで、ホウ酸結合量は、後述するように、文献:J. T. Hatcher and L. V. Wilcox. Colorimetric determination of boron using carmine. Anal. Chem. 22(4), 567-569, 1950に記載の方法により測定することができる。
【0035】
BNCTは、患者にホウ素(10B)製剤を投与し、その腫瘍部に加速器や原子炉で生ずる中性子(熱中性子)を照射するときに生じるα線を主な殺細胞因子として、癌を治療する方法である。本発明の複合体は、BNCTに使用可能なホウ素を、ホウ酸化合物とポリマーを用いて高分子化したものであり、生体内でEPR効果を発揮し、腫瘍部に強く集積する。例えば、静注24時間後に正常組織の20倍以上優れた腫瘍集積性を示す。したがって、本発明の複合体によれば、他の部位に比べて腫瘍局所により多くのホウ素を集積することができるので、BNCTの治療効果(抗癌効果)を大幅に改善することができるのと同時に、腫瘍部以外の箇所での副作用を低減することができる。したがって、本発明の複合体は、従来の低分子抗癌剤に比べて、特にBNCT用抗癌剤として、はるかに有用である。
本発明の複合体を用いるBNCTの条件は、特に限定されず、既知の条件を使用することができる。
【0036】
また、本発明の複合体は、酸性pHにおいて遊離のホウ酸化合物を放出することができる。このことは、後述の実施例でも証明されている。
ここで、固型腫瘍の大半は、その存在に必要なエネルギー(ATP)は嫌気性醗酵、すなわち、ブドウ糖の解糖系に依存している。この解糖系(Warburg effect)におけるリン酸化のステップを、遊離のホウ酸化合物が阻害し、癌細胞の増殖を抑制し得る。したがって、腫瘍部は酸性pHを示すことから、本発明の複合体は腫瘍部で遊離のホウ酸化合物を放出することができるので、癌細胞の増殖を抑制し得る。すなわち、本発明の複合体は、BNCTに依らず、抗癌剤として有用であり得る。
したがって、本発明の複合体は、BNCTの治療効果に加え、解糖系阻害という2つのメカニズムで制癌作用を発揮し得る。
【0037】
また、本発明の複合体は、細胞内へのグルコース取り込みを阻害することができる。したがって、本発明の複合体は、細胞内へのグルコース取り込み阻害剤として使用でき、そのことにより症状を改善できる疾患に使用することができる。このような疾患として、例えば、大腸癌、すい臓癌、乳癌、脳腫瘍、胆のう癌、深部感染症、肺炎、結膜炎などが挙げられる。
【0038】
また、上記SMA-リンカー結合体において、リンカー自体が抗癌作用を有する場合、その結合体を抗癌剤として使用することができる。このようなSMA-リンカー結合体としては、例えば、SMAとグルコサミンとの結合体(SMA-グルコサミン結合体、SG)、SMAと5-フロロウラシルとの結合体、SMAと核酸のアナログとの結合体などが挙げられる。
上記結合体SGは、グルコサミンを高分子化することによって、EPR効果により他の部位に比べて腫瘍局所により多く集積する。その結果、該結合体は腫瘍細胞内でゆっくりとプロテアーゼ/アミダーゼで切断されるので、グルコサミンが遊離し、そのグルコサミンが抗癌活性を発揮する。したがって、該結合体自体、抗癌剤として有用である。
したがって、本発明の複合体が、抗癌作用を示すリンカー(例えば、グルコサミン)を使用した場合、生体内でホウ酸化合物ばかりでなく、該リンカーも解離して放出されるので、より強い抗癌作用を発揮することができる。
【0039】
本発明の複合体およびSMA-リンカー結合体は、SMAを含んでいることから、アルブミンと結合する。SMAとアルブミンが結合することは、例えば、Tsukigawa et al, Cancer Science, 106, 270-278 (2016)に示されており、後述の実施例でも証明されている。
したがって、本発明の複合体および結合体は、生体内(血中)ではアルブミン(約70 kDa)の分子サイズが加算されたサイズで挙動しており、EPR効果を発揮するのに好都合である。そのため、本発明の複合体は、腫瘍部により強く集積することができることから、抗癌剤、特にBNCT用抗癌剤として非常に有用である。同様に、本発明の結合体は、抗癌剤として有用である。
【0040】
また、本発明の複合体は、グラム陽性菌およびグラム陰性菌の両方に対して優れた抗菌活性を示すので、抗菌剤として有利に使用することができ、これらの細菌による感染症の治療または予防剤として使用することができる。このよう感染症として、例えば、ベータラクタム耐性菌、MRSAなどの感染症に対し、各種剤型で用いることができる。
【0041】
本発明の複合体および結合体は、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒト)に安全に投与することができ、患者(哺乳動物)における各種疾患(特に癌)の予防または治療に用いることができる。したがって、本発明は、本発明の複合体または結合体を患者に投与することを含む、各種疾患(例えば、癌)の治療または予防方法を提供する。
【0042】
さらに、本発明の複合体は、ホウ素熱中性子捕獲療法(BNCT)に使用できるので、本発明はまた、癌を患う患者(哺乳動物)に本発明の複合体を投与すること、その腫瘍部に加速器や原子炉で生ずる中性子(熱中性子)を照射することを含む、癌の治療方法を提供する。
また、本発明の結合体は、抗癌剤として使用できるので、本発明はまた、癌を患う患者(哺乳動物)に本発明の結合体を投与することを含む、癌の治療方法を提供する。
【0043】
また、本発明は、本発明の複合体または結合体と医薬的に許容可能な担体を含む医薬組成物を提供する。医薬的に許容可能な担体は、製剤分野において従来使用されているものでよく、特に限定されない。
【0044】
さらに、本発明は、各種疾患(例えば、癌)の治療または予防に使用するための、本発明の複合体または結合体を提供する。
また、本発明は、各種疾患(例えば、癌)を治療または予防するための医薬を製造するための、本発明の複合体または結合体の使用を提供する。
【0045】
本発明の複合体または結合体を医薬として使用する場合、用法、用量、分量、剤型等は特に限定されず、対象の疾患、患者、投与形態などに応じて適宜決定することができる。
【実施例】
【0046】
実施例1:SMA-グルコサミン-ホウ酸複合体の合成
【化5】
上記反応スキームにしたがって、SMA-グルコサミン-ホウ酸複合体を合成した。具体的には、次の各工程を行った。
(1)SMA-グルコサミン結合体の合成
SMA(スチレン-無水マレイン酸共重合体、水溶液中のみかけ上の重量平均分子量7,500Da、Sortmer
(R), 川原油化株式会社)とグルコサミン(和光純薬)を、0.2M重炭酸ソーダ中(pH8.8)で、無水マレイン酸に対し50モル倍過剰のグルコサミンを撹拌下に加え、50~55℃でアミノ基と無水マレイン酸の結合反応を進行させた。pHが7.5以下になると炭酸ソーダを加え、pH8.5以上とし、反応を続けた。24時間後に透明になった反応液を純水に対して透析し、未反応のグルコサミンを除去した。透析外水は6時間おきに5回純水と入れ替えた。透析後の反応液を凍結乾燥し、粉末のSMA-グルコサミン結合体(SG)を得た。収量は、SMAに対して約80%(w/w)であった。
この凍結乾燥SGを、10mg/mlになるように蒸留水に溶解しようとしたが、難溶性であった。0.2M重炭酸ソーダに溶かした場合、そのpHは8.5であった。
また、このSGも蒸留水に対し、透析、凍結乾燥したものを、10mg/mlになるように蒸留水に溶解した場合、そのpHは6~8であった。
【0047】
(2)SMA-グルコサミン-ホウ酸複合体の合成
上記(1)で得られたSMA-グルコサミン結合体(SG、100mg)を0.2M重炭酸ソーダ溶液(pH 8.8)に溶解し、それに対し50モル過剰のホウ酸を加え、マグネチックスターラーで撹拌、溶解した。これを室温に24時間放置の後、上記(1)と同様に純水に対し24時間透析し、その間、透析外液を蒸留水で5回取り換え、低分子のホウ酸を除き、凍結乾燥して、SMA-グルコサミン-ホウ酸複合体(SGB)を得た。収量は、SGに対して約90%(w/w)であった。この凍結乾燥SGBを、10mg/mlになるように蒸留水に溶解した場合、そのpHは約7.5であった。
得られたSGBに含有されるホウ酸含量を、文献:J. T. Hatcher and L. V. Wilcox. Colorimetric determination of boron using carmine. Anal. Chem. 22(4), 567-569, 1950に記載の方法にしたがって定量した。
すなわち、まず、ホウ酸(和光純薬製)濃度0.1~1.0mg/mlの溶液を作成し、各々の1mlを標準溶液とした。各々の標準溶液を含む各試験管に濃塩酸2~3滴と濃硫酸0.5mlを加え、よく混合したのち冷却した。次いで、各試験管に0.05%のカーマインの濃硫酸溶液を0.5mlずつ加え、よく撹拌し、45分以上静置した。出現する赤色(545 nmの吸収)に基づいて検量線を作成した。標準のホウ酸溶液の検量線から、SMA-グルコサミン-ホウ酸の複合体中のホウ酸量を定量した。その結果、この複合体中には約7.3%のホウ酸が含まれていた。
【0048】
<IR吸収スペクトルの解析>
反応前のSMA、SMA-グルコサミン結合体(SG)およびSMA-グルコサミン-ホウ酸複合体(SGB)の粉末約1mgをとり、約200mgのKBrの粉末をよくまぜ、その混合物を真空中にP
2O
5存在下に充分乾燥した後に常法により加圧下にペレットを作製し、フーリエ赤外吸収スペクトルを測定した。その結果、各複合体(SGおよびSGB)について、SMA上のカルボキシル基(-COOH)とグルコサミンのアミノ基(-NH
2)の縮合反応によるアミド結合(-CO-NH-)に固有のピークが検出された(
図1)。
【0049】
<紫外吸収スペクトルの測定>
SMAおよびSGBの紫外吸収スペクトル(波長235~310 nm)を測定した。比較のため、ヒトトランスフェリン、ウシ血清アルブミン(BSA)、ネオカルチノスタチン(NCS)、およびSGBとBSAの混合物(SGB + BSA)のスペクトルを測定した。その結果を
図2Aに示す。
【0050】
<ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による分析>
SGBを、10mg/mlになるように0.1Mトリス緩衝液(pH 8.2)に溶解し、その1mlにBSAを3%になるように添加するか、あるいは無添加の溶液を調製し、室温にて約5時間静置した。この各々の溶液を、セファクリルS-300カラム(2cm×60cm、GEヘルスケア)を用いて0.4ml/minの速度で溶出、4.0mlずつの分画採取し、260nmと280nmの吸収で有効成分の溶出をモニターした。溶出はいずれも0.1Mトリス緩衝液(pH 8.2)を用いた。また、分子量の標準として、ヒトトランスフェリン(90 kDa)、BSA(67 kDa)、NCS(12 kDa)を用いた。その結果を
図2Bに示す。
SGBとBSAの混合液中の有効成分(SGB + BSA)のみかけ上の分子量は、約150 kDaであった。もとのSGBは約65 kDa、BSAは約67 kDaであったことから、混合液中の有効成分はSGBとBSAが結合したものであると考えられた。
【0051】
<静的光散乱法による分子量の測定>
反応前のSMA、SGおよびSGBのみかけの重量平均分子量を、Wyatt Technology社 Santabarbara, CA, USAの多角度光散乱検出器(DAWN HELEOS II)を用いて、静的光散乱法(SLS)により測定した。その結果を表1に示す。
【0052】
<動的光散乱法による粒子サイズの測定>
反応前のSMA、SGおよびSGBを各15mg/mlになるように0.1Mトリス緩衝液(pH 8.2)にとかし、何れも0.2μmのフィルター(注射器に接続しているもの:ミリポア社製)を通し、ろ過し、その溶液を大塚電子(Photal Inc.、大阪)のModel ELSZ・2000ZS光散乱測定装置にて25℃で測定した。この装置はHe/Neレーザーを光源とし、ヒストグラムでデータは表示される。その結果を表1に示す。
【0053】
<透過型電子顕微鏡(TEM)による上記ホウ酸複合体の粒子サイズの測定>
上記複合体を10mg/mlになるように蒸留水にとかし、その50μlをマイクロチューブにとり、50μlの0.1%リンタングステン酸(phosphotungstic acid)を加え、マイクロチューブ内で混合し、透過型電顕(TEM)のグリッド(ELS-C10、Okenshoji Co., Ltd)に約10μl量ずつを付着させ、そのグリッドをデシケーター内に置き、真空下に乾燥した。常法によりグリッドをTEM(JEOL、JEM-1400 Plus, Tokyo, Japan)に装填し、TEMによりその粒子を観察した。その結果を、表1および
図3に示す。これらの粒子の平均サイズは85±5.5nm(30個の平均)であった。
【0054】
<表面荷電(Zeta電位)の測定>
反応前のSMA、SGおよびSGBを、20mg/mlになるように脱イオン水に溶解し、表面荷電(Zeta電位)を測定した。グルコサミンの付加によりSMAの表面荷電は-47.5mVから-27mVに減少し、さらに負電荷をもつホウ酸の付加により、負電荷は-37mVと増加した。
その結果を表1に示す。
【0055】
【0056】
試験例1:SMA-グルコサミン-ホウ酸複合体からのホウ酸の放出(遊離)
固型腫瘍の組織のpHは弱酸性(pH 5~6.5 vs 正常の7.4)であることが知られている。一方、固型腫瘍のエネルギー(ATP)生成は主として、グルコースを利用する解糖系の代謝によっている。そのとき、遊離のホウ酸はこの解糖系(Warburg効果)を競争的に阻害し、結果として腫瘍の増殖が抑えられる。
本試験は、下式で示されるとおり、固型腫瘍の有する弱酸性pHにおいて、SMA-グルコサミン-ホウ酸複合体から遊離のホウ酸(BO
3
-3)が生ずることを確認するための試験である。
【化6】
【0057】
上記実施例1で得られたSMA-グルコサミン-ホウ酸複合体(SGB)100mgを、1mLのpH 5.0、6.0、7.4の緩衝液に溶かし、その溶液を同じ緩衝液に対してcut off値約6 KDaの透析チューブ(Visking, φ10mm)を用いて20mlの大型試験管に入れ、37℃振とう下で透析し、ホウ酸の遊離を経時的に検討した。透析外液は20mlの各々の同一の緩衝液とした。経時的に外液のサンプル0.5mlをとり、上記のカーマイン法で定量した。結果を
図4に示す。これによると酸性pH 5.0で最も早くホウ酸は遊離した。
【0058】
試験例2:in vitroでのSMA-グルコサミン-ホウ酸複合体の生物活性
上記複合体(SGB)の細胞増殖抑制作用の検討は、HeLa細胞(1×10
4/well)をファルコン96穴プラスチックプレート(BD Labware、 Franklin Lake, N.J., USA)を用い、MTTアッセイ法(テトラゾリウム塩、同仁化学製、熊本)により行った。この細胞の培養はEagle MEM培地に10%ウシ胎児血清を加え、37℃、5% CO
2を含む空気95%の条件で行った。この系に遊離のホウ酸、あるいは上記SMA-グルコサミン-ホウ酸複合体を加え、37℃ 24時間培養し、さらに培地を新しい培地に変え、さらに24時間培養後に生細胞をMTT法により計測した。その成績を
図5に示す。この培養は好気的条件なので、in vivoの固型腫瘍の解糖系は嫌気条件下で中心的に亢進しているので、ここに得られるデータは低めの値であるが、それでも有意に癌細胞の増殖を抑えていることが認められた。
【0059】
試験例3:グルコサミン、SMA-グルコサミン結合体およびSMA-グルコサミン-ホウ酸複合体のマウス大腸がん細胞(C26)に対するin vitroの細胞毒性
マウス腹腔内で継代培養したC26細胞をイーグルMEM培地で洗浄(遠心、1,500rpm)し、細胞数を10
5/mlになるように調整した。その0.1ml(MEM培地)を試験例2に準じ培養した(細胞数:1×10
4細胞/ウェル)。ただし、この培地はヒト固型癌組織の微小環境の低酸素分圧を模して、通常の21%に対し、6~9%の低酸素下で、かつグルコースを、正常の0.1%使用した培地と、市販のグルコースフリー培地に10%FCS(ウシ胎児血清、ギブコ社)を加え約0.01%となっている培地を使用した。
まず、上記の細胞を正常酸素分圧で24~30時間培養し、次に培地[ペトリディッシュ、96穴]を微好気性条件に移した。その微好気性条件は、嫌気培養チャンバーに市販の酸素吸収剤を加えて作製した。即ち嫌気培養チェンバー内に、三菱ガス化学社製アネロパック-ミクロアエロジェネレーター低酸素化剤(酸素吸収剤)を入れて微好気(低酸素)性の酸素分圧(6~9%)にした。そのときに用いた密閉型チャンバーは(株)スギヤマゲン社製の角形ジャー中型3.5Lのものである。この状態で検討すべき薬剤を所定の濃度で各培地に加え、さらに36時間培養した後、上記MTT法で生細胞数を測定した。その結果を
図6に示す。
図6中、(A)、(B)および(C)は、C26細胞を、通常の0.1%グルコースを含む培地で培養した結果であり、(A’)および(B’)は、C26細胞を、腫瘍局所の低グルコース、低pH、低酸素分圧下でグルコースをほぼ含まない培地(0.01%)で培養した結果である。
また、
図6(A)および(A’)は薬剤として遊離のグルコサミンを、(B)および(B’)は薬剤としてSMA-グルコサミン結合体(SG)を、および(C)は薬剤としてSG-ホウ酸(SGB)複合体を使用した。
図6に示されるとおり、(A)遊離のグルコサミン、(B) SG、(C) SGBの順に細胞増殖抑制作用は強まった。また、マウス大腸がん細胞C26を、臨床の固型癌の状況に近い無(低)グルコース状態であるグルコースなし培地で培養した場合((A’)および(B’))、グルコサミンの殺細胞効果が、グルコース添加培地での培養((A)、(B)および(C))に比べて、2~5倍強くなった。
【0060】
試験例4:C26細胞およびHeLa細胞における、正常酸素分圧下および低酸素分圧下、48時間での各薬物のin vitro細胞毒性の比較
結腸癌C26およびHeLa細胞(1×10
4細胞/ウェル)をFalcon 96ウェル培養プレートに播種し、正常酸素分圧下(5%CO
2、95%空気)および低酸素分圧下(低酸素チャンバーを使用、pO
2 6-8%)、10%FBSを含むイーグルMEM中、37°Cで一晩培養した。C26細胞およびHeLa細胞の両方を、ホウ酸(BA)またはSGB存在下で処置し、正常酸素分圧下または低酸素分圧下、48時間培養した。最後に、細胞生存率をMTTアッセイで分析した。その結果を
図7AおよびBに示す。
また、C26およびHeLa細胞を上記のように培養し(
図7A、B)、グルコサミン(G)およびSMA-グルコサミン(SG)で処置した。最後に、細胞生存率をMTTアッセイで測定した。
これらの図から、SGおよびSGBが、特に固型がん組織の環境と類似の低酸素分圧下で、非常に強力な細胞毒性を示すことが明らかとなった。
【0061】
試験例5:in vivoでのSMA-グルコサミン-ホウ酸複合体の毒性評価
In vivoの活性の検定(毒性評価)は、6週齢のddYオスマウスを用いて行った。まず上記SMA-グルコサミン-ホウ酸複合体(SGB)を15、20、30mg/kg(ホウ酸相当量)になるように生理食塩水に溶かし、各0.1mlを静脈投与して調べた。用いたSGB中のホウ酸含量は、7~8%(w/w)であった。投与後、体重およびその他指標を30日間追跡した。その結果を
図8に示す。
ホウ酸として30mg/kg群は投与後、2~4日にやや体重減少があるものの、何れも5~6日目には回復し、重篤な毒性を発現するまでには至っていない。このSGBとしての総投与量は、ポリマー体として375mg/kgとなり、これはマウス当りでは13.2mg/マウスとなる。
【0062】
試験例6:遊離ホウ酸とSMA-グルコサミン-ホウ酸複合体の静脈注射後の体内分布の比較
マウスS180腫瘍(固型、肉腫)細胞をマウスの背部皮下に移植(10
6個)し、その腫瘍の直径が約10~12mmになったところで、ホウ素を含有するSMA-グルコサミン-ホウ酸複合体(SGB)を静脈注射により投与した。検討はもとのホウ酸量と、上記SGB量を、ホウ酸換算量として表記し、15mg/kgを蒸留水に溶かし、約0.1ml容量を投与した。投与24時間後、マウスを麻酔薬により屠殺後、各組織・臓器および血液(これは下大静脈から注射針を穿刺して)を採取した。さらに各臓器、組織中に含まれる血液は5単位/mlのヘパリンを含む20mlの生理食塩水をシリンジにとり、それを間歇的に注入により、血管内腔を洗浄した。これらの組織標品約100mgをファルコンチューブ(15ml)に取り入れ、それに濃硫酸と濃硝酸の1:1の混液の0.25mlを添加し、80℃で2時間分解し、ついでこのサンプルを冷却後、10mlの蒸留水を加え、Vortexでよく撹拌し、ホウ素含量の測定に供した。すなわち、このサンプルの5mlを新しいファルコンチューブ(10ml)にとり、ICP(Inductively Coupled Plasma)質量計に装填し、
10Bと
11Bの元素の量をppb単位で定量した。この結果によれば、
10B/
11Bは何れもほぼ同様に正常臓器に比べ腫瘍部によく集積(低分子のホウ酸の約20倍)していることがわかり、高分子化したSGBは抗癌剤として低分子のホウ酸よりもはるかに優れているとの結論に至った。
上記の結果を踏まえて、同様の実験を行った。マウス肉腫S180細胞をddYマウスの背部皮下に接種(10
6個)した。腫瘍の直径が約10~14 mmのときに、遊離ホウ酸またはSMA-グルコサミン-ホウ酸複合体(SGB)を15 mg/kgで蒸留水に溶かし、その約0.1mlを静脈注射した。静脈注射24時間後、マウスを屠殺し、血液、腫瘍組織および他の正常組織(脳、肺、肝臓、脾臓、腎臓など)を取り出し、各組織の試料約100 mgをファルコンチューブ(15ml)に取り、それに0.25 mlの濃硝酸と濃硫酸の1:1の溶液を添加し、80℃で2時間消化した。試料を冷却し、10 mlの蒸留液を各チューブに加えた。最後に、
10BをICP MS(Agilent Technology、モデル7900、米国カリフォルニア州サンタクララ)で定量(ppb)した。その結果を
図9に示す。SGBは遊離ホウ酸に比べて腫瘍部に顕著に集積していた。
【0063】
試験例7:ddYマウスにおけるホウ酸およびSMA-グルコサミン-ホウ酸複合体の血漿中半減期および尿中排泄率
SGBおよび遊離ホウ酸を、各々15 mg/kgのホウ酸相当量でddYマウスに静脈注射した。静脈注射後、0、3、6、12、および24時間ごとに血液試料を収集し、遠心分離して血漿を得た。次いで、血漿を上記試験例6と同様に処理し、血漿中のホウ素量より、血中のホウ酸の半減期として血中濃度を算出した。その結果を
図10Aに示す。また、24時間の静脈内注射後、マウスケージ内に厚い濾紙(ワットマン3MM)を敷き、その上に吸着された尿を採取し、さらに膀胱内の残留尿をシリンジで採取した。次いで、試験例6と同様に、ICP MSでホウ素の量を定量し、尿中排泄率を決定した。その結果を
図10Bに示す。SGBは、遊離ホウ酸に比べ、尿中への排泄は極めて少なかった。
【0064】
試験例8:C26細胞における遊離ホウ酸とSMA-グルコサミン-ホウ酸複合体(SGB)の細胞取り込みの比較
最初に、C26細胞(2×10
4細胞/ウェル)を、24ウェルプレート中、10%FBSを含むイーグルMEM培地で一晩培養した後、ホウ酸またはSGBで処置し、次いで、37℃で培養した。薬物処置の24時間後、細胞を0.1%トリトンX 100によって溶解し、ICP MSによってホウ素量の細胞内への取り込み量を測定した。その結果を
図11に示す。SGBのホウ酸塩の取り込みは、遊離ホウ酸よりも約3~7倍高くなった。
【0065】
試験例9:SMA-グルコサミン-ホウ酸複合体によるグルコース取り込みの阻害および乳酸産生
HeLa細胞(1×10
4細胞/ウェル)をFalcon 96ウェル培養プレートに播種し、低酸素分圧下(pO
2 1%)、イーグルMEM中、一晩培養した。細胞を、ホウ酸(BA)、SG(SMA-グルコサミン)およびSGBの各ホウ酸相当量濃度100 μg/mlで処置した。所定の時間に、グルコース取り込み(
図12A)および乳酸分泌(
図12B)を、同仁化学研究所のアッセイキットの指示書にしたがって測定した。
【0066】
試験例10:SMA-グルコサミン-ホウ酸複合体(SGB)によるホウ酸の抗菌活性の増強
病原細菌として、グラム陽性菌のStaphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)とEscherichia coli(E. coli, 大腸菌)を用いて、SGBの抗菌性を検討した。
図13A、Bにその結果を示す。
まず、96ウェルを持つファルコン社のプラスチックプレートに、ミューラヒントン培地0.1 mlを各ウェルに加え、次いで10μlの各菌の懸濁液(10
4/ウェル)を加えた。試験試料として、グルコサミン約20%とホウ酸約8%を含有するSGBを用いた。この各ウェルに、遊離ホウ酸相当量0、0.5、1.0、3 mg/mlのSGBを加え、37℃の定温下で24時間培養した。SGBの添加から24時間後、このプレートの650 nmの濁度を測定して、菌量の増加(抑制)とみなし検討した。
ホウ酸は、眼科領域等で抗菌物質として用いられており、そのときのホウ酸濃度は10 mg/ml(1%)以上である。
図13A、Bに示すとおり、SGBは、10 mg/mlよりも顕著に低いホウ酸濃度で、グラム陽性菌(黄色ブドウ球菌)およびグラム陰性菌(大腸菌)の両方に対して抗菌活性を示した。すなわち、SGBは、ホウ酸よりも強い抗菌活性を示すことが明らかである。また、同種の実験をより嫌気性下の状態において行った場合、SGBの抗菌性はさらに増加した。