(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】ガス産生反応装置
(51)【国際特許分類】
C10J 3/02 20060101AFI20240314BHJP
C10J 3/26 20060101ALI20240314BHJP
F27B 1/21 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
C10J3/02 D
C10J3/26
F27B1/21
(21)【出願番号】P 2022024825
(22)【出願日】2022-02-21
【審査請求日】2023-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】391045716
【氏名又は名称】道前 清治
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】道前 清治
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特許第6935952(JP,B1)
【文献】特公昭59-3505(JP,B2)
【文献】特開2014-25632(JP,A)
【文献】特開2016-121255(JP,A)
【文献】特表2015-509993(JP,A)
【文献】特開2013-249352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10J 3/00-3/44、3/72-3/86
F27B 1/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の竪型炉と、
前記竪型炉の下端が浸漬された貯留水を保持する、水位調節可能な貯水部と、
前記竪型炉の外周に隣接して設けられた燃焼室と、
前記竪型炉の内部に立設された、前記竪型炉とは別個の筒であり前記竪型炉の外部に通じる通気ダクトと、
前記竪型炉の内壁と前記通気ダクトの外壁との間に張設された網構造と
を含む、ガス産生反応装置であって、
前記竪型炉の上端であるカーボン材料投入開口部は、閉塞可能に構成され、
前記通気ダクトの下端に位置する採ガス開口部は前記竪型炉内にある前記貯留水の水面に近接して位置付けられ、前記通気ダクトは前記採ガス開口部から上方に延在し、前記通気ダクトの上端は前記カーボン材料投入開口部及び前記竪型炉内空間に対して閉じられている、
ガス産生反応装置。
【請求項2】
前記貯水部が、前記貯留水の水中から水面上へと延在するコンベアを含み、前記コンベアは、前記竪型炉の内部から前記貯留水へと沈降したカーボン材料を受け取って前記貯留水の外かつ前記竪型炉の外へと輸送するように構成される、請求項1に記載のガス産生反応装置。
【請求項3】
前記通気ダクトの外壁又は前記網構造にバイブレーターが設置され、前記バイブレーターは、前記竪型炉の外部から前記竪型炉の筒をなす壁を非通気的に貫通して先端が前記通気ダクトの外壁又は前記網構造に接触又は固定しており前記通気ダクトの外壁又は前記網構造に振動を伝達するように構成された、棒状又は線状部材である、請求項1又は2に記載のガス産生反応装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素含有ガスである水性ガスを発生させ回収する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素排出に起因する地球温暖化の問題が深刻に議論されているなか、燃焼しても二酸化炭素を発生しない水素が次世代燃料として注目されている。水素を製造する方法として、炭化水素の水蒸気改質により水素含有ガスを発生させること、及び水の電気分解により水素を発生させること等が知られており、実用化されてもいる。これらの水素製造プロセス自体も二酸化炭素発生を伴い得るところ、そのような二酸化炭素副産物を減らすこと、捕獲すること、有効利用すること等についても試行錯誤がなされている。水素発生をもたらすことができる材料及び反応は多岐にわたるため、コスト、利用しやすさ、環境へのインパクト等を総合的に考慮して、状況に適した水素製造方法を模索していくことが今後も続くと考えられる。
【0003】
特許文献1は、有機廃棄物を炭化炉で炭化して得た炭化物とガス化剤とを、熱分解ガス化炉において、前記炭化炉で発生した高熱の燃焼ガスによって加熱して、熱分解ガスを発生させる熱分解ガス化装置を開示している。特許文献1においてガス化剤とは水蒸気のことを指し、熱分解ガスは水性ガスを含んでいる。特許文献1に開示された熱分解ガス化装置は、同心状に立設された外筒と内筒を有し、外筒の空間には燃焼ガスが導入されて内筒及びその内容物が加熱されるように構成されており、内筒の空間には炭化物と水蒸気が供給されて、高温条件下で熱分解ガスが発生する。熱分解ガスは内筒上端の熱分解ガス排出路から回収される。特許文献1の実施例では、このようにして得られたガス化成分が水素(H2)60%、一酸化炭素(CO)20%、及び二酸化炭素(CO2)20%からなったことが記載されている。
【0004】
特許文献2は、燃焼室と還元層と乾燥層とを有する縦型円筒状の木炭水性ガス発生装置と、木炭、水及び空気を前記木炭水性ガス発生装置へ供給する各供給手段とを備える木炭水性ガス製造装置を用いて、木炭と水とから水性ガス反応により木炭水性ガスを製造する方法を記載している。特許文献2の木炭水性ガス製造装置の還元層と燃焼室は、燃焼室を外側とし伝熱壁を介して同心円筒状に配設されている。そして、燃焼室内には熱交換器が設けられ、この熱交換器に水を供給して高温・高圧の過熱水蒸気を発生させ、この過熱水蒸気を還元層に導入することによって、水性ガス反応を行わせることが、特許文献2の方法の特徴とされている。
【0005】
特許文献1及び2に記載されているように、水性ガスとは、加熱された炭素と水から、C+H2O→CO+H2という吸熱反応によって生じる混合ガスである。一酸化炭素と水はさらにCO+H2O→CO2+H2といういわゆる水性ガスシフト反応も起こし得る。水性ガスは水素を含むほか、一緒に含まれる一酸化炭素も可燃性であり良好な燃料となる。水素の発熱量は約3055kcal/m3、一酸化炭素の発熱量は約3035kcal/m3である。
【0006】
本発明者は、廃棄物等(例えば古タイヤ)を乾溜に基づき分解処理しつつ生じた炭化水素油等の有用産物を回収できる乾溜炉の操業に長年の実績を有している。一般に乾溜炉では、まず、炉内に堆積させた被処理物を、炉外からの酸素供給を抑制した条件で、炉内の空気を用いて燃焼させる。この燃焼により炉内空気中の酸素を二酸化炭素に変えて消費し、炉内を無酸素化するとともに、その燃焼熱で高温無酸素ガスを発生させる。乾溜のための熱を炉外からも供給し得る。そして、高温無酸素ガスが炉内の被処理物の間を通過するとき、被処理物中の炭素含有物質に乾溜反応すなわち熱分解反応が起こる。炉上方で回収される乾溜ガス及び炉下方で回収される残渣からは、直接、あるいは冷却等の分離処理を経て、油、可燃ガス、カーボン等の炭化水素系又は炭素系の物質を回収することができる。
【0007】
本発明者による特許文献3は、上部、下部、及び最下部を有する筒状の竪型炉と、前記竪型炉の最下部が少なくとも部分的に浸漬する貯留水を保持する貯水部と、前記竪型炉の下部の外側において前記竪型炉の外周に隣接して設けられた燃焼室と、前記竪型炉の下部の外側にさらに設けられたエアボックスと、開閉口を介して前記エアボックスと接続し、先端が前記竪型炉の内部空間に接続する吹込ノズルとを備え、前記燃焼室と前記竪型炉の内部空間とは竪格子によって隔てられ、前記竪格子は、前記燃焼室に面する第1開口と前記竪型炉の内部空間に面する第2開口とを繋げる孔を形成し、前記孔は、外側域と中央域と内側域を有し、前記外側域は前記第1開口から前記中央域へと徐々に狭くなり、前記中央域は略一定の狭さを有し、前記内側域は、前記中央域から前記第2開口へと55~65°の開口角度で広くなっている、反応設備を開示している。特許文献3の反応設備は、被処理物(炭素含有物体)を乾溜機序で熱分解する際に、炉内に起こるガス流と被処理物との相互作用及び/又は化学反応を促進させるように工夫されたものであり、乾溜処理に適した典型的な被処理物であった古タイヤに限らず多様な被処理物に対応できるものであった。
【0008】
乾溜ガス中には、炭化水素系ガスの他に、水素ガスも含まれる。特に特許文献3のように最下部を貯留水に浸漬させる構造を有する竪型炉では、高温の炭素含有固形物が、貯水部の水面に落下するとき、そこで生じる水蒸気と反応して、水素と一酸化炭素で構成される水性ガスを発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5342664号公報
【文献】特表2015-012302号公報
【文献】特許第6935952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献3に記載された竪型炉は、特にとりたてて水素を取得することに特化したものではなく、多量の炭化水素系ガス等の混合物である乾溜ガスに混じって水素が回収されていたにすぎなかった。
【0011】
それに対し本開示は、乾溜能を有する竪型炉において、水素含有ガスを生じさせ効率よく回収する、ガス産生反応装置を提供するものである。
【0012】
本発明者は、従来の乾溜炉の操業のなかで、炭化水素系の油及びガスに加えて、相当量のカーボン系固形物が回収されていたことに着目し、その有効利用の可能性を模索していた。これらのカーボン系固形物は、乾溜反応の残渣として炉の下方から、及び乾溜ガスに混じった粒子として炉の上方からも回収されていた。本発明はその模索の過程のなかから生まれたものである。しかしながら本発明の実施形態は、乾溜炉の操業から得られるカーボン材料に限らず様々な由来のカーボン材料を使用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示は以下の実施形態を含む。
[1]
筒状の竪型炉と、
前記竪型炉の下端が浸漬された貯留水を保持する、水位調節可能な貯水部と、
前記竪型炉の外周に隣接して設けられた燃焼室と、
前記竪型炉の内部に立設された、前記竪型炉とは別個の筒であり前記竪型炉の外部に通じる通気ダクトと、
前記竪型炉の内壁と前記通気ダクトの外壁との間に張設された網構造と
を含む、ガス産生反応装置であって、
前記竪型炉の上端であるカーボン材料投入開口部は、閉塞可能に構成され、
前記通気ダクトの下端に位置する採ガス開口部は前記竪型炉内にある前記貯留水の水面に近接して位置付けられ、前記通気ダクトは前記採ガス開口部から上方に延在し、前記通気ダクトの上端は前記カーボン材料投入開口部及び前記竪型炉内空間に対して閉じられている、
ガス産生反応装置。
[2]
前記貯水部が、前記貯留水の水中から水面上へと延在するコンベアを含み、前記コンベアは、前記竪型炉の内部から前記貯留水へと沈降したカーボン材料を受け取って前記貯留水の外かつ前記竪型炉の外へと輸送するように構成される、[1]に記載のガス産生反応装置。
[3]
前記通気ダクトの外壁又は前記網構造にバイブレーターが設置され、前記バイブレーターは、前記竪型炉の外部から前記竪型炉の筒をなす壁を非通気的に貫通して先端が前記通気ダクトの外壁又は前記網構造に接触又は固定しており前記通気ダクトの外壁又は前記網構造に振動を伝達するように構成された、棒状又は線状部材である、[1]又は[2]に記載のガス産生反応装置。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は一実施形態によるガス産生反応装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付の図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。添付の図面は発明の概念を示すための図であることが理解されるべきである。従って各部材や空間の大きさは正確な縮尺比率で描かれているとは限らず、厳密な断面図であるとも限らない。しかしながら以下の詳細な説明を読めば、図面が本質的に表すところの意味が明らかに理解されるであろう。
【0016】
図1において、一実施形態によるガス産生反応装置100の概観が示されている。ガス産生反応装置100の本体は、筒状である竪型炉110から構成され、その断面が右下がりハッチングによって示されている。竪型炉という用語は、幅よりも長さ(高さ)の方が大きい筒状であって立設される竪型すなわち縦型の炉を意味する。本開示における「立設」という用語は、縦に長い構造が概して垂直に設置されることを意味するが、その構造が下端において固定支持されていることは必ずしも意味しない。例えば、立設される竪型炉は、炉の外側壁を介して固定支持されていてもよいし、上から吊り下げられるかたちで支持されていてもよい。竪型炉110の大きさは、個々のアプリケーションに応じて様々であり得、例えば実験用炉では1メートル程度の高さのものであり得、典型的には2~5メートル、あるいはそれ以上の高さの大型炉にすることも可能である。
【0017】
本実施形態の竪型炉110の下端は、貯水部120に保持された貯留水121に浸漬される。貯水部120は、例えば貯留水121の量を増減することによって、水位調節可能である。従って、水位を限りなく低くしていけば、竪型炉110の下端が水面より上に出てしまうこともあり得るが、あくまでガス産生反応装置100の使用時においては、上記のように竪型炉110の下端は貯留水121に浸漬され、従って筒状の竪型炉110の下端は水によって閉じられる。
【0018】
竪型炉110の外周に隣接して、燃焼室130が設けられる。燃焼室130の内部では、燃料導入口131から燃料が導入され、燃焼が起こされる。この燃焼熱が、竪型炉110の伝熱性の壁を通じて、竪型炉110の内部に堆積されたカーボン材料(図示していない)を約900℃前後又はそれ以上(例えば約800~1000℃)の温度に加熱する。燃料は、化石燃料であり得、当該ガス産生反応装置100から生産・回収され得る乾溜ガスから(冷却等を経て)得られる炭化水素系の油又はガスを利用することもできる。地球温暖化ガスの削減あるいはカーボンリサイクルという観点から有利なことに、水素ガスや水性ガス等、例えば当該ガス産生反応装置100から生産される水素ガス、一酸化炭素、又は水性ガスを燃焼室130の燃料に含ませることもできる。
【0019】
燃焼室130は、例えば筒状の竪型炉110の外周に放射状に複数箇所設置され得る。
図1では、竪型炉110の左右両側に燃焼室130が示されているが、これは、竪型炉110の全外周が燃焼室によって覆われていることは必ずしも意味せず、燃焼室フリーの竪型炉外壁面も存在し得る。このように、竪型炉の任意の箇所に任意の高さに渡り燃焼室を外設することができ、その取り付け及び取り外しも比較的容易であり、バレーボールのアタックの如く場所の狙いを定めて炉内を加熱できるため、本発明者はこの燃焼室の使用態様をアタックファーネス(attack furnace)と呼んでいる。
【0020】
竪型炉110の内部には、竪型炉110とは別個の筒であり竪型炉110の外部に通じる通気ダクト140が立設される。竪型炉110の「外部に通じる」とは、筒状である通気ダクト140の開放された下端(採ガス開口部143)から入って上方に向かう気体が竪型炉110の外部に誘導されて回収されることを意味する。例えば
図1に示す実施形態では、通気ダクト140から分岐したサブ通気ダクト141がガス滞留室142を経て竪型炉110の外部に通じている。従って、通気ダクト140内を上昇してきたガスはサブ通気ダクト141、ガス滞留室142を通って外部で回収される。通気ダクト140内を上昇するガスを竪型炉110の外部に誘導する形態は様々であり得る。例えば
図1に示す特定の実施形態では、サブ通気ダクト141は通気ダクト140の上端付近で通気ダクト140から分岐しているが、この分岐点をもっと下方(通気ダクト140の長さ方向の中央寄り)としてもよい。また、
図1に示す特定の実施形態では、通気ダクト140は竪型炉110の上端にまで達しているが、通気ダクト140の上端を竪型炉110の上端より低くしてもよい(この、より低い通気ダクト上端が取り得る位置の一例を点線で示している)。
【0021】
ガス滞留室142又はそのさらに下流に、水素及び/又はその他の成分を分離するための装置を提供することができる。水素及び/又はその他の成分を互いに分離するためのガス分離装置は当業者に知られている。例えば、比重の違い、液体への溶解度の違い、凝縮温度の違い、吸着材への吸着率の違い、膜の透過率の違い等を利用して、水素及び/又はその他の成分を互いに分離する態様が企図される。
【0022】
図示していないが、竪型炉110内部の、通気ダクト140以外の領域の上端付近(例えば、燃焼室130の上端より上に位置する領域)の内壁には、従来の乾溜炉と同様に、炉内に堆積されたカーボン材料の間を通って上昇してくる乾溜ガスを外部に導いて回収するための導出管が設けられてもよい。
【0023】
竪型炉110の内壁と通気ダクト140の外壁との間には、網構造150が張設される。網構造150は、竪型炉110内に導入されるカーボン材料の沈降率を制御する役目を果たす多孔性構造である。すなわち、竪型炉110内に導入されたカーボン材料は網構造150によっていったん沈降が妨げられ炉内に保持されるが、加熱分解を受けて物理的サイズが小さくなったり、後述するバイブレーターによる振動を受けたりした場合には、網構造150の孔を通って貯留水121へと落下する。
【0024】
図1に示す実施形態のように、通気ダクト140の先端位置に合わせて網構造150を張設することが好ましいが、網構造150の位置はこれに限定されない。網構造150の孔の大きさは、使用されるカーボン材料のサイズや形状に合わせて変動させ得る。孔径の違う(又は孔径が同じ)複数の網構造150を上下に階層的に設置してもよい。網構造150の上に、まず比較的サイズの大きいカーボン材料を堆積させて、その上によりサイズの小さいカーボン材料を堆積させることも沈降の制御のために好ましくなり得る。
【0025】
竪型炉110の上端であるカーボン材料投入開口部160は、閉塞可能に構成される。つまり、開放された状態のカーボン材料投入開口部160から竪型炉110内にカーボン材料が投入され、その後、例えば蓋161によってカーボン材料投入開口部160は閉塞され、外部から炉内への酸素流入が遮断される。従って、竪型炉110は乾溜能を有する。
図1に示す実施形態では、カーボン材料投入開口部160は複数段(3段)のダンパー162で閉塞されており、これは、炉の閉塞状態を維持したまま複数バッチのカーボン材料を導入することを可能にするものである。カーボン材料は、炭素を主成分とする材料であり、純粋なカーボンの他、炭化水素及びその誘導体も含み得る。本実施形態のガス産生反応装置で使用されるカーボン材料の例としては、乾溜炉の残渣又は産物として得られるカーボン材料、石炭、木炭等が挙げられるがこれらに限定されない。カーボン材料は典型的に10センチ以下、例えばサブセンチメートルサイズ、サブミリメートルサイズ、もしくはサブマイクロメートルサイズの最大径を有するものであり得、又はこれらの混合物であり得る。
【0026】
通気ダクト140の下端に位置する採ガス開口部143は、竪型炉110内にある貯留水121の水面に向かって、水面に近接して位置付けられる。本明細書において、採ガス開口部143が「水面に近接」するとは、採ガス開口部143から通気ダクト140内へとガスが入ることが可能なように採ガス開口部143が水面上の空間に曝されていることを意味し、水面から採ガス開口部143までの距離が、水面から竪型炉110の筒本体(ダンパー等を含まない)の上端までの距離の25%以下であることを意味する。水面から採ガス開口部143までの距離が、水面から竪型炉110の筒本体上端までの距離の15%以下又は10%以下であることが好ましい。水面から採ガス開口部143までの距離は、例えば50cm以内、20cm以内、又は10cm以内とし得る。この距離は通常は2cm以上である。上述したように、貯留水121の水位は調節可能であり、ガス産生反応装置100の使用時にこれらの距離となるように水位を調節することができる。
【0027】
通気ダクト140は、採ガス開口部143から上方に延在するが、ただし、通気ダクト140の上端は、竪型炉110のカーボン材料投入開口部160及び竪型炉内空間(カーボン材料が投入される空間)に対して閉じられている。つまり、カーボン材料投入開口部160から炉内に投入される際のカーボン材料が通気ダクト140中に直接入ることはなく、また、炉内に堆積されたカーボン材料やその間を上昇していく乾溜ガスが通気ダクト140中に入ることも防止される。
【0028】
ガス産生反応装置100のこのような構成により、以下のようなプロセスが可能になる。すなわち、カーボン材料投入開口部160を通して投入されて、竪型炉110内で竪型炉内壁と通気ダクト140外壁との間の空間に堆積されたカーボン材料は、必要に応じて着火されて、さらに燃焼室130からの熱を受けて、カーボン材料投入開口部160が閉鎖された後の竪型炉110内で実質的な無酸素状態で約900℃前後又はそれ以上の高熱に加熱される。炉内に残っていた酸素は早期の段階で消費される。カーボン材料の状態に応じて、竪型炉110内では乾溜反応乃至熱分解反応も起こり得る。高温となり、典型的には脆く及び小さくなったカーボン材料は、自発的に又は後述するバイブレーター等による補助を受けて炉内を沈降していき、やがて網構造150から貯留水121へと落下する。その際に高温のカーボン材料が貯留水121の水又は水蒸気と接触して、水素含有ガスである水性ガスが発生し、その水性ガスの大部分は、カーボン材料の間を通って上昇していく乾溜ガスとは別ルートとなる、物理的障壁のない採ガス開口部143から通気ダクト140へのルートに導かれ、回収される。
【0029】
図示していないが、好ましい一実施形態では、通気ダクト140の外壁又は網構造150にバイブレーターが設置される。該バイブレーターは、竪型炉110の外部から竪型炉110の筒をなす壁を非通気的に貫通して、先端が通気ダクト140の外壁又は網構造150に接触又は固定しており、通気ダクト140の外壁又は網構造150に振動を伝達するように構成された、棒状又は線状部材である。線状部材は例えば金属ワイヤであり得る。「壁を非通気的に貫通」とは、空気の流入を実質的に回避できるように最小限の大きさの壁穴を通して棒状又は線状部材が竪型炉110の外部から内部へと貫通していることを意味する。これは、壁穴の大きさを棒状又は線状部材の外径とほぼ同じ大きさにすることによって達成され得る。例えば、竪型炉110の外部から棒状部材に与えた振動を通気ダクト140の外壁又は網構造150に伝達することができる。あるいは、通気ダクト140の外壁又は網構造150から竪型炉110の外部へと繋がっている一本又は複数本の線状部材を引っ張ったり動かしたりして、それらに振動を与えることができる。これら以外の機構のバイブレーター又は撹拌機構を設けてもよい。例えば、通気ダクト140の外壁又は網構造150に接触又は固定しない単なる棒状部材を火掻き棒的な撹拌機構とすることができる。これらのバイブレーター又は撹拌機構は、炉内でのカーボン材料の沈降を制御(特に、促進)するために有利である。
【0030】
いくつかの実施形態では、貯水部120は、貯留水121の水中から水面上へと延在するコンベア170を含み得る。コンベア170は、竪型炉110の内部から貯留水121へと沈降したカーボン材料を受け取って、貯留水121の外かつ竪型炉110の外へと輸送するように構成される。例えば
図1に示す実施形態のように、循環式のコンベア170は、貯留水121の水中から水面上へと延在しコンベア170の固定床を提供する鉄板171と、その鉄板171の上側(順方向)及び下側(逆方向)に沿って移動する一続きの(すなわちモーター174の駆動により循環する)チェーン172を含み得る。実際には鉄板171の上面はチェーン172を載せてチェーン172に接触し得る。チェーン172には、カーボン材料を押し送る役目を果たす多数のブレード(例えば角材)173が、チェーン172の進行方向に対して直行して固定されている。例えば複数段のダンパー162からの順次的なカーボン材料投入から始まって、加熱を受けながら炉内を沈降し貯留水121まで沈降したカーボン材料を、コンベア170で連続的に除去することにより、達磨落とし的にガス産生反応装置100を操業することができる。コンベア170により竪型炉110の外で回収された残渣であるカーボン材料は、ガス産生反応装置100に再導入するために又は他の用途のために利用され得ることは言うまでもない。
【0031】
ガス産生反応装置100の各部分を構成させるために適した材料は当業者に知られている。特に、約900℃前後の加熱を行う炉に適した耐熱ステンレス鋼等の材料は公知であり、上記特許文献にも例示されており、当業者は同様の耐熱性材料を本実施形態のガス産生反応装置100において適宜使用することができる。
【符号の説明】
【0032】
100 ガス産生反応装置
110 竪型炉
120 貯水部
130 燃焼室
140 通気ダクト
141 サブ通気ダクト
143 採ガス開口部
150 網構造
160 カーボン材料投入開口部
162 ダンパー
170 コンベア