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特許7454292腎臓結石及び腎臓結石片を磁化するための調合液、並びに腎臓結石及び腎臓結石片を除去するためのキット。
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  • 特許-腎臓結石及び腎臓結石片を磁化するための調合液、並びに腎臓結石及び腎臓結石片を除去するためのキット。 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】腎臓結石及び腎臓結石片を磁化するための調合液、並びに腎臓結石及び腎臓結石片を除去するためのキット。
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/02 20060101AFI20240314BHJP
   A61K 9/00 20060101ALI20240314BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20240314BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20240314BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20240314BHJP
   B82B 1/00 20060101ALI20240314BHJP
   H01F 1/00 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
A61L31/02
A61K9/00
A61K9/10
A61K47/02
A61P13/12
B82B1/00 ZNM
H01F1/00 145
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2022552845
(86)(22)【出願日】2021-02-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-20
(86)【国際出願番号】 EP2021054434
(87)【国際公開番号】W WO2021175660
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2022-10-26
(31)【優先権主張番号】20160490.7
(32)【優先日】2020-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515024623
【氏名又は名称】テヒニッシェ ウニヴェルジテート ミュンヘン
【氏名又は名称原語表記】TECHNISCHE UNIVERSITAT MUNCHEN
【住所又は居所原語表記】Arcisstrasse 21,80333 Munchen(DE)
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュワミンガー,セバスチャン パトリック
(72)【発明者】
【氏名】スリニヴァサン,シャム
(72)【発明者】
【氏名】ゾルヴィー,ローラ アナベル
(72)【発明者】
【氏名】トロザ,カミロ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェングラー,ミヒャエル
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-519957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 31/00-31/18
A61K 9/00-47/69
A61K 49/00-49/22
A61P 13/00-13/12
H01F 1/00
B82B 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腎臓結石(10)又は腎臓結石片を磁化するための調合液(1)であって、
- 磁性粒子(3);
- Li、Na、K、アンモニウム、Mg及びCaの塩化物、過塩素酸塩及びリン酸塩からなる群から選択される少なくとも一つの塩(4);並びに、
- 少なくとも一つの溶媒(5)
を含み、
溶液、懸濁液又は分散液の形態である、調合液(1)。
【請求項2】
磁性粒子(3)が強磁性粒子であ、請求項1に記載の調合液(1)。
【請求項3】
磁性粒子(3)が鉄、ニッケル、コバルト、AlNiCo、SmCo、Nd Fe 14 B、Ni 80 Fe 20 、NiFeCo、フェライト、Fe 、γ-Fe 、Fe とγ-Fe の混合相、及びこれらの混合物から選択される、請求項1に記載の調合液(1)。
【請求項4】
磁性粒子(3)が、2~100nm一次粒径を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の調合液(1)。
【請求項5】
磁性粒子(3)が、4~20nmの一次粒径を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の調合液(1)。
【請求項6】
磁性粒子(3)が、5~15nmの一次粒径を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の調合液(1)。
【請求項7】
磁性粒子(3)が、80~150m/g比表面積を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の調合液(1)。
【請求項8】
磁性粒子(3)が、90~120m /gの比表面積を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の調合液(1)。
【請求項9】
調合液に基づく磁性粒子(3)の濃度が、2~40g/lある、請求項1~のいずれか一項に記載の調合液(1)。
【請求項10】
調合液に基づく磁性粒子(3)の濃度が、4~20g/lである、請求項1~8のいずれか一項に記載の調合液(1)。
【請求項11】
調合液中の塩(4)の濃度が、少なくとも100mmolある、請求項1~10のいずれか一項に記載の調合液(1)。
【請求項12】
調合液中の塩(4)の濃度が、100~2000mmolである、請求項1~10のいずれか一項に記載の調合液(1)。
【請求項13】
調合液中の塩(4)の濃度が、200~1000mmolである、請求項1~10のいずれか一項に記載の調合液(1)。
【請求項14】
溶媒(5)が、水、アルコール、及びそれらの混合物から選択される、請求項1~13のいずれか一項に記載の調合液(1)。
【請求項15】
さらに、少なくとも1つの糖及び/又は少なくとも1つのタンパク質及び/又は少なくとも1つの生理的緩衝剤をさらに含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の調合液(1)。
【請求項16】
調合液(1)のpHが、5~8範囲である、請求項1~15のいずれか一項に記載の調合液(1)。
【請求項17】
調合液(1)のpHが、6~7の範囲である、請求項1~15のいずれか一項に記載の調合液(1)。
【請求項18】
調合液(1)が、皮膜形成ポリマー及び架橋ポリマー含まない、請求項1~17のいずれか一項に記載の調合液(1)。
【請求項19】
腎臓結石(10)又は腎臓結石片を除去するためのキットであって、
請求項1~18のいずれか一項に記載の調合液(1)と、調合液によって磁化された腎臓結石又は腎臓結石片を除去するための磁性器具又は磁化可能な器具を含む、キット。
【請求項20】
前記磁性器具又は磁化可能な器具は、磁石針である、請求項19に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎臓結石又は腎臓結石片を磁化し、人体の腎臓から腎臓結石又は腎臓結石片を容易に除去することを可能とするための調合液に関する。さらに、本発明は、腎臓結石又は腎臓結石片を除去するためのキットにも関する。
【背景技術】
【0002】
腎臓結石は、哺乳類の腎臓及び尿路に生じうる結晶沈着物である。現在の研究は、世界人口の約12%が腎臓結石を患っていることを示す。腎臓結石は非常に痛く、二次損傷につながる可能性がある。多くの場合、腎臓結石を外科的に除去する以外に方法はない。腎臓結石は、その大きさに応じて、除去する前に、最初に例えばレーザーパルスを使って砕く。その後、破砕された腎臓結石は、スネアを使用して尿管から摘出される。
【0003】
この処置の欠点は、より小さな腎臓結石片が容易に見落とされる可能性があることである。これは結晶の再成長とさらなる腎臓結石の形成につながる。腎臓結石を除去するためのキットは、特許文献1により知られている。このキットは、磁性粒子又は磁化可能な粒子、架橋性ポリマー及び架橋剤を含む。この場合、磁性粒子又は磁化可能な粒子が腎臓結石に結合し、架橋可能なポリマーが架橋剤を用いた架橋により一種のゲルを形成し、これが磁性粒子又は磁化可能な粒子により磁化された腎臓結石を固めて、それらが体外に排出されることを可能にする。
【0004】
ここでの欠点は、このキットの提供が非常に高価なことである。また、腎臓結石を除去するための調合液は、架橋ポリマーや架橋剤などの生理的ではない成分を含み、腎臓に過敏症や損傷を引き起こす可能性がある。また、架橋ポリマーの使用には約3.5の非常に低いpHが必要であり、使用者が調合液を取り扱うことを難しくする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第9,925,311号明細書
【発明の概要】
【0006】
この先行技術に基づき、本発明の目的は、人体の腎臓から腎臓結石又は腎臓結石片を安全かつ容易に除去して結果的な損傷及び疾患の回避を可能にする、そして使用者が容易に取り扱うことができる、腎臓結石又は腎臓結石片を磁化するための調合液を提供することである。
【0007】
本発明のさらなる目的は、使用が容易かつ安全であり、これを用いて腎臓結石及び腎臓結石片の両方を容易かつ完全に除去することができるキットを提供することである。
【0008】
その目的は、磁性粒子と、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、アンモニウム(NH )、マグネシウム(Mg)及びカルシウム(Ca)の塩化物、過塩素酸塩及びリン酸塩からなる群から選択される少なくとも一つの塩(例えば、特にLiCl、NaCl、KCl、NHCl、MgCl及びCaCl)と、少なくとも一つの溶媒とを含む、腎臓結石及び腎臓結石片を磁化するための調合液によって達成される。調合液は、溶液、懸濁液又は分散液の形態である。
【0009】
本発明による調合液を使用する場合、磁性粒子を使用することにより、腎臓結石又は腎臓結石片(以下、腎臓結石と腎臓結石片を「腎臓結石」の用語でまとめる)を磁化し、例えば磁石針を用いて患者の腎臓からそれらを除去できることを可能にする。
【0010】
本発明による調合液を用いて磁化する腎臓結石は詳細には制限されず、例えば、シュウ酸カルシウム、リン酸カルシウム、ストルバイト結石(リン酸マグネシウムアンモニウム)、尿石又はシスチン結石であってもよい。
【0011】
本発明の文脈では、磁性粒子は、磁気相互作用により磁石に引き付けられうる粒子を意味すると理解される。ここで、本発明に従って使用される粒子は詳細には限定されず、様々な化学組成を有することができる。ここで好ましい磁性粒子は、マグネタイト、マグヘマイト及びフェライトであり、フェライトは、特にXFe型(式中、X=Co、Cu、Ni、Zn、Mn、Ba、Sr及びMg)の化合物を意味すると理解される。
【0012】
驚くべきことに、上記の塩の少なくとも1つ、あるいは2つ以上の塩の混合物を使用することによって、腎臓結石、特に、非常に小さな破片も完全に除去できることが見いだされた。塩は、磁性粒子の静電反発を防止又は抑制するので、磁性粒子によって磁化された腎臓結石の粒子凝集が改善される。
【0013】
したがって、腎臓結石を非常に安全かつ容易に腎臓から完全に除去することができる。そして、磁化された腎臓結石は腎臓内で分散する傾向にはなく、磁性粒子間の反発相互作用を低減することにより、架橋ポリマーなどの化学的凝集剤を必要とせずに完全に凝集する。
【0014】
したがって、本発明による調合液は、非常に良好な許容性、簡単かつ安全な取り扱い、及び安価な組成により、際立って優れている。使用される塩のために、それは、保存料なしでも、溶液、懸濁液又は分散液の形態で提供することができ、調合液を複雑な方法で調製する必要がないため、使用をより容易にする。したがって、必要に応じて調合液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施形態による調合液を示す概略図である。
図2図2は、図1の調合液で処理した腎臓結石の概略断面図である。
図3図3は、磁性粒子の流体力学的直径をNaClの濃度の関数として示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
従属請求項は、本発明の好ましい実施形態及び改良に関する。
【0017】
その非常に良好な安定供給性のために、磁性粒子は好ましくは強磁性粒子であり、特に、鉄、ニッケル、コバルト、AlNiCo、SmCo、NdFe14B、Ni80Fe20、NiFeCo、フェライト、Fe、γ-Fe、Feとγ-Feの混合相、及びこれらの混合物から選択される。フェライト、Fe、γ-Fe、Feとγ-Feの混合相、及びこれらの鉄酸化物の混合物は、磁場中で非常に高い磁化を有し、したがって非常に容易に磁気的に引き付けることができるため、特に好ましい。
【0018】
さらに、これらの磁性粒子は、任意の粒径で得ることができる安価な粒子であり、良好な適合性、すなわち明らかな毒性特性はないという特徴を有する。特に、鉄、ニッケル、コバルト、AlNiCo、SmCo、NdFe14B、Ni80Fe20、及びNiFeCoなどの金属粒子と1種以上の上記金属酸化物の混合物を使用することもできる。
【0019】
本発明による調合液の非常に良好な分散性のため、磁性粒子の一次粒径は、2~100nm、特に4~20nm、特に5~15nmである。粒径が小さいほど、調合液中の磁性粒子の分布が良好となり、したがって患者の腎臓内でも良好となる。しかし、凝集が起こりにくくなるという欠点もある。以上の観点から、磁性粒子の一次粒径は、好ましくは5~15nmである。ここで、一次粒径は、透過型電子顕微鏡の手段で測定される。
【0020】
さらなる好ましい展開によれば、磁性粒子は、80~150m/g、特に90~120m/gの比表面積を有する。これにより、腎臓結石への結合が改善される。磁性粒子は、腎臓結石を取り囲み、そしてそれらの凝集を促進する。ここで、比表面積は、77Kで窒素を用いたBET法によるガス吸着等温線によって決定される。
【0021】
調合液の長期安定性を向上させて、従来の注射器具を用いた患者の腎臓内での調合液の分配を容易にするため、調合液に基づく磁性粒子の濃度は、2~40g/L、特に4~20g/Lである。
【0022】
調合液中の塩の濃度が、好ましくは少なくとも100mmol、特に100~2000mmol、特に200~1000mmolであれば、磁性粒子間の反発相互作用を特にうまく低減することができ、さらには、ほとんど完全に抑制することができる。200~1000mmolの範囲の濃度は、生理的適合性の理由から、またコストの理由から、特に好ましい。
【0023】
また、コストの理由と、非常に良好な適合性の理由から、溶媒は好ましくは水である。アルコール又は水とアルコールの混合物の使用は、アルコール又はアルコールのOH-基が腎臓結石の磁性粒子への結合を容易にするので、凝集性の改善に関して有利であろう。アルコールは、あらゆる点で制限されないが、エタノールとグリセリンが特に好ましい。
【0024】
さらなる有利な展開は、調合液が、少なくとも1つの糖及び/又は少なくとも1つのタンパク質及び/又は少なくとも1つの生理的緩衝剤をさらに含むことを提供する。糖及び/又はタンパク質の添加は、調合液の粘度が増加するため、磁化された腎臓結石の凝集及び腎臓からの除去が容易になるという有利な効果を有する。
【0025】
生理的適合性の理由及び使用者の安全性の理由から、調合液のpHは、好ましくは5~8、特に6~7の範囲である。これは特に、本発明による調合液が、その単純な化学組成により、例えば界面活性剤、凝集剤などの酸性又は塩基性pHを必要とする他の助剤を省くことができるため、可能である。
【0026】
特に、コスト削減と生理的適合性の理由から、調合液は皮膜形成ポリマー及び架橋ポリマーを実質的に含まない。すなわち、これは、架橋ポリマー又はこれらのポリマーのための架橋剤が調合液に添加されないことを意味する。
【0027】
同様に本発明によれば、腎臓結石又は腎臓結石片を除去するためのキットも記載される。このキットは、上記に開示された調合液と、本発明による調合液によって磁化された腎臓結石又は腎臓結石片を引き付けて患者の腎臓から除去することができる磁性器具又は磁化可能な器具を含む。特に好適な器具は、磁化され凝集した腎臓結石が相互作用し、可逆的に結合できる永久磁石材料又は電磁材料を含む磁石針である。患者の腎臓から腎臓結石を完全に除去することは、非常に安全かつ容易である。
【0028】
本発明のさらなる詳細、特徴及び利点は、以下の説明及び図から得られる:
図1は、本発明の一実施形態による調合液を示す概略図である;
図2は、図1の調合液で処理した腎臓結石の概略断面図である;そして、
図3は、磁性粒子の流体力学的直径をNaClの濃度の関数として示す図である。
【0029】
本発明の本質的な特徴のみを図に示す。すべての他の特徴は、明確にするために省略した。また同じ参照符号は同じ構成要素を示す。
【0030】
詳細には、図1は、容器2に含まれる腎臓結石又は腎臓結石片を磁化するための調合液1を示す。調合液1は、例えば、調合液1が患者の腎臓に導入される外科的処置で使用することができる。
【0031】
調合液1は、例えば懸濁液の形態であり、したがって、溶媒5と、それに含まれる磁性粒子3と、Li、Na、K、アンモニウム、Mg及びCaの塩化物、過塩素酸塩及びリン酸塩(例えば、特にLiCl、NaCl、KCl、NHCl、MgCl及びCaCl)から成る群から選択される塩4とを含む。
【0032】
使用される塩4は好ましくはNaClであり、通常、好ましくは水である溶媒5中に溶解した状態で存在する。しかし図1は説明図であるため、塩4は粒子状で示される。
【0033】
図1が示すように、磁性粒子3は、調合液1中に均一に分布している。磁性粒子3の間には、わずかな反発相互作用のみが存在する。この反発相互作用は、塩4によって抑制される。より重要なことは、磁性粒子3は、塩4との静電相互作用によって空間的に一緒に保たれているが、凝集はしない。
【0034】
この調合液1は、高い長時間安定性を特徴とし、安全に使用でき、図2に概略的に示すように腎臓結石及び腎臓結石片を磁化することを可能にする。また、腎臓結石や非常に小さな腎臓結石の破片でさえも腎臓から完全に除去できるようにする追加の凝集手段を必要としない。
【0035】
図2は、磁性粒子3が腎臓結石10にどのように結合するかを示す。この結合は、特に共有結合であるが、物理的な性質のものであってもよい。磁性粒子3が調合液1によって腎臓結石10に近づくと、すぐに磁性粒子3は腎臓結石10の表面に結合し、腎臓結石10が「磁化」されるようにする。
【0036】
磁性粒子3の間に作用する反発相互作用を低減させるか抑制し、その結果、磁化された腎臓結石10を静電的に引き付けることができる塩4の存在により、このように磁化された数個の腎臓結石10の凝集が達成される。したがって、磁化された腎臓結石10は、腎臓に挿入することもできる磁性器具を用いて、非常に容易に引き付けられて腎臓から除去することができる。
【0037】
図3は、磁性粒子の流体力学的直径をNaClの濃度の関数として示したグラフである。流体力学的直径は、磁性粒子が凝集する能力の尺度である。流体力学的直径が大きいほど、凝集能力が高く、腎臓結石を磁化して凝集後に腎臓から抽出することが容易である。
【0038】
磁性粒子として、Fe粒子を用いた。ここで使用したナノ粒子は、Massartプロセスに従って、塩化鉄(II)と塩化鉄(III)を苛性ソーダで共沈させて製造した(例えば、以下を参照:Roth et al.https://doi.org/10.1016/j.jmmm.2014.10.074)。この粒子を脱イオン水で洗浄し、次に、X線回折、BET法による窒素吸着等温線、及び磁気測定のために凍結乾燥した。
【0039】
TEM測定では、平均粒径が10nmであることが明らかになり、そしてX線回折パターンでは、粒子の主な構造としてマグネタイトが確認された。透過型電子顕微鏡法では、空気プラズマを30秒間使用してあらかじめ親水化したQuantifoil TEMグリッド(10μL)に、約0.01g/Lの濃度でサンプルを滴下した。
【0040】
サンプルを冷風乾燥機で乾燥させ、さらに一日後にJEOL JEM 1400Plus透過型電子顕微鏡で測定した。TEMはカタラーゼ結晶の回折パターンを用いて較正した。粒径の統計解析のために、酸化鉄サンプルの少なくとも5枚の画像を撮影し、画像処理プログラムImageJを用いて1画像あたり少なくとも30個の粒子を測定した。シェラー法を用いたX線回折により、9nmの一次粒径を決定することができた。磁気測定により、50000 Oeの磁場において75Am/kgの飽和磁化が明らかになった。
【0041】
また、この粒子では残留磁化が検出できず、したがって超常磁性挙動も検出できなかった。77Kで窒素を用いたBET法による粒子の比表面積は100m/gであった。これにはMicromeritics社のGemini VIIを使用し、0.05から0.25p/Pの間の9点を測定した。サンプルのデッドボリュームは、77Kでヘリウムを用いて事前に決定した。
【0042】
この粒子の流体力学的直径は180nmであり、等電点はpH6であった。これらの磁性粒子を、溶媒としての水に4g/Lの濃度で分散させた。
【0043】
このようにして、3つの懸濁液を調製し、それぞれを容器に充填した。容器1には塩としてのNaClを添加しなかった(NaClの濃度:0M)。容器2には、調合液中のNaCl濃度が0.1MとなるようにNaClを添加した。容器2には、調合液中のNaCl濃度が1Mとなるように、NaClを添加した。
【0044】
この図は、NaCl濃度が高くなるにつれて流体力学的直径が大きくなることを示す。結果として磁性粒子間の反発相互作用が減少するため、本調合液によって磁化された腎臓結石を凝集させる能力も向上する。
【符号の説明】
【0045】
1 調合液
2 容器
3 磁性粒子
4 塩
5 溶媒
10 腎臓結石
図1
図2
図3