(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】プラスチック製キャップ
(51)【国際特許分類】
A61J 1/05 20060101AFI20240314BHJP
【FI】
A61J1/05 315D
(21)【出願番号】P 2022570934
(86)(22)【出願日】2020-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2020048647
(87)【国際公開番号】W WO2022137489
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-03-06
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000149000
【氏名又は名称】株式会社大協精工
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】吉田 孝之
【審査官】村上 勝見
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-066748(JP,A)
【文献】特表2011-511741(JP,A)
【文献】特開2007-282891(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61J 1/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬品用容器(A)に取り付けられ、閉鎖式薬物搬送システムに用いられる医療器具と篏合するプラスチック製キャップ(F)であって、
該キャップ(F)は、中央に篏合部(F11)を有する天面部(F1)と、該天面部(F1)の外周から垂下し、下端が開口している円筒状のスカート部(F2)と、該スカート部(F2)の内側で篏合する篏合部材(F3)と、を有し、
前記篏合部(F11)は、リップ(F112)と、該リップ(F112)から垂下する中筒(F113)と、を有し、
前記スカート部(F2)は、内部に下側ゴム栓(F211)を有し、該下側ゴム栓(F211)がOリング形状であり、
前記嵌合部材(F3)は、全打栓状態において、前記下側ゴム栓(F211)の周面から隙間を設けて離れており、前記篏合部材(F3)と前記下側ゴム栓(F211)とは、互いに接触
せず、かつ、
前記医薬品用容器(A)は、半打栓状態で容器内部を凍結乾燥させた後、打栓して密封する容器である、プラスチック製キャップ。
【請求項2】
前記下側ゴム栓(F211)の最外縁の直径が、前記医薬品用容器(A)のリップ(A2)の外縁の直径よりも小さい、請求項1に記載のプラスチック製キャップ。
【請求項3】
前記下側ゴム栓(F211)は、上方に向かって凸状である、請求項1又は2に記載のプラスチック製キャップ。
【請求項4】
前記篏合部(F11)は、リップ(F112)において、上面(F115)と、上側ゴム栓(F111)と、下面(F114)と、からなり、前記医療器具との接触面が、前記篏合部(F11)の前記下面(F114)又は前記上面(F115)で少なくとも1箇所は接触する、請求項1から3のいずれかに記載のプラスチック製キャップ。
【請求項5】
前記篏合部材(F3)は、医薬品容器(A)のリップ(A2)に係合するために、内側に係止爪(F32)を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載のプラスチック製キャップ。
【請求項6】
前記篏合部材(F3)の外周面に、複数の係止爪(F31)を有する、請求項5に記載のプラスチック製キャップ。
【請求項7】
前記篏合部材(F3)の外周面に、スカート部(F2)と仮係合するための凹部(F33)を有し、且つ、スカート部(F2)の開口部側に凸部(F23)を有する、請求項6に記載のプラスチック製キャップ。
【請求項8】
前記凸部(F23)が前記係止爪(F31)を乗り越える力をf3とした場合、前記リップ(A2)の上面から側面を経て下面に至るまでの間に前記係止爪(F32)が乗り越える力f2よりも大きくなる、請求項7に記載のプラスチック製キャップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック製キャップに関する。より詳しくは、安全に閉鎖式薬物搬送システムに適用することができ、医薬品容器からの薬剤の漏れを防止するとともに、前記閉鎖式薬物搬送システムの医療器具と篏合する際に、複数の接続アダプタを要しないプラスチック製キャップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医薬品などの各種薬剤の収納容器として、バイアル等の医薬品容器が広く使用されている。前記医薬品容器は、薬剤を収容した後、医薬品容器口部をゴム栓で密封し、医薬品容器内部を密封状態にして使用される。医薬品容器に収容された薬剤の移し替えは、例えば特許文献1に記載の液体薬剤の移し替え装置等を用いて、医療従事者などの使用者により行われる。薬品容器に収容された薬剤が、特に抗がん剤である場合は、前記使用者に対して医薬品容器内部からのエアロゾル、蒸気、液体の漏れ等によるばく露を防ぐため、一般的に閉鎖式薬物搬送システム(Closed System Transfer Device:CSTD)により行われる必要がある。
【0003】
その一方で、上記医薬品容器は、薬剤を収容した後、医薬品容器口部をゴム栓で密封し、医薬品容器内部を密封状態にして使用される。更に、当該医薬品容器に加熱滅菌などの処理が施されると、ゴム栓が医薬品容器から外れる可能性があるため、当該医薬品容器には、医薬品容器口部に打栓したゴム栓の脱離を防ぎ、医薬品容器内の密封性を確保する目的で、アルミ製やプラスチック製のキャップが、ゴム栓を包みつつ、医薬品容器の口部のリップ下方にわたって嵌合されるのが一般的である。従来広く使用されているアルミ製キャップは、その優れたアルミの変形性によって、医薬品容器口部のリップの下方でかしめられて、優れたゴム栓の脱離防止性を示す。しかし、近年、クリーンルームで薬剤の充填作業等が行われる場合も多く、その製造時及び使用時などにおいて、キャップ同士の衝突などによりアルミ微粒子が発生及び飛散するという問題や、使用後においてアルミの分別廃棄が困難であるといった問題があり、近年はアルミ製キャップの使用が敬遠される傾向にある。
【0004】
このため、プラスチック製キャップを適用することが増加している。その一方で、例えば、医薬品容器内で薬剤を凍結乾燥処理し、その後に密封するといったことが行われる等、医薬品容器内に収容する薬剤の多様化も著しいことから、加工性の高いプラスチック製キャップでは、近年、形状を工夫することで様々な機能を付与したものが種々提案されている(特許文献2、3等参照)。しかし、プラスチック製キャップは、上記アルミ製キャップと比べた場合、アルミ製キャップよりも医薬品容器との係合性に劣るという問題がある。これは、医薬品容器口部のリップに沿ってアルミが自在に変形し、医薬品容器口部に、容易に且つ強固な状態でかしめられた状態となるアルミ製キャップと異なり、プラスチック製キャップでは、キャップ内部に係合用の爪を設け、これを医薬品容器口部のリップに係合させることで固定させる構成としていることが一因している。
【0005】
このため、医薬品容器とプラスチック製キャップとの間における上記係合が弱ければ、キャップは医薬品容器から容易に外れてしまい、一方、医薬品容器とキャップとの係合性が高過ぎるとキャップ自体の打栓が困難となるので、プラスチック製キャップの場合は、キャップと医薬品容器の双方に高い寸法精度が要求される。これに対し、キャップと医薬品容器とがともに合成樹脂製である場合には、冷却時の収縮変形まで計算して所定の形状に成形されるので、両者の寸法精度を上げることが可能であるが、ガラス製医薬品容器の場合は、寸法誤差が合成樹脂製医薬品容器に比べて一桁大きいため、プラスチック製キャップの寸法精度を上げても、キャップの脱離を十分に防止することが困難であるという課題がある。本出願人は、かかる課題に対して、既に、合成樹脂製医薬品容器の場合は勿論、これよりも寸法精度に劣るガラス製医薬品容器の場合にも、医薬品容器の口部に打栓したゴム栓の緊密性を確保することが可能な、医薬品容器用のプラスチック製キャップの内面形状についての提案をしている(特許文献4参照)。当該キャップでは、スカート部の内径を、医薬品容器のリップの外径より大きく形成し、そのスカート部の内面に、天面部に対して垂直方向に複数の突条を形成することで、寸法誤差を吸収する構造としている。
【0006】
また、特許文献5に示されるように、入れ子式雌薬瓶アダプタにおいて、アダプタの下部は薬瓶に対して薬瓶アダプタが整合する。前記アダプタの上部は、ニードルレス注射器に接合するため、直立する雌コネクタを有する。そのため、アダプタの下部の薬瓶側のみならず、アダプタの上部も閉鎖式薬物搬送システムに用いられる医療器具(閉鎖式接続器具等を含む)に篏合するため、複数の接続アダプタが必要になるという問題があった(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2009-504230号公報
【文献】特開2007-217007号公報
【文献】特許第3487748号公報
【文献】特開2009-137641号公報
【文献】特表2015-528368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
薬剤の移し替え装置等が医薬品容器に対して不整合となると、医薬品容器の口部に打栓されたゴム栓を穿刺して孔を開けることが難しくなり、場合によっては医薬品容器から薬剤が漏れるといった事故に繋がる恐れもある。その一方で、アルミニウム製キャップは前述の通りの問題があるため、医薬品容器の口部に打栓されたゴム栓を保持できるプラスチック製キャップが求められている。このような実情のもと、プラスチック製キャップの更なる開発が望まれていた。
【0009】
そこで、本発明では、安全に閉鎖式薬物搬送システムに適用することができ、医薬品容器からの薬剤の漏れを防止するとともに、前記閉鎖式薬物搬送システムの医療器具と篏合する際に、複数の接続アダプタを要しないプラスチック製キャップを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明では、医薬品用容器(A)に取り付けられ、閉鎖式薬物搬送システムに用いられる医療器具と篏合するプラスチック製キャップ(F)であって、
該キャップ(F)は、中央に篏合部(F11)を有する天面部(F1)と、該天面部(F1)の外周から垂下し、下端が開口している円筒状のスカート部(F2)と、該スカート部(F2)の内側で篏合する篏合部材(F3)と、を有し、
前記篏合部(F11)は、リップ(F112)と、該リップ(F112)から垂下する中筒(F113)と、を有し、
前記スカート部(F2)は、内部に下側ゴム栓(F211)を有し、該下側ゴム栓(F211)がOリング形状である、プラスチック製キャップを提供する。
本発明において、前記下側ゴム栓(F211)は、上方に向かって凸状であってよい。
本発明において、前記篏合部(F11)は、リップ(F112)において、上面(F115)と、上側ゴム栓(F111)と、下面(F114)と、からなり、前記医療器具との接触面が、前記篏合部(F11)の前記下面(F114)又は前記上面(F115)で少なくとも1箇所は接触してよい。
本発明において、前記篏合部材(F3)は、医薬品容器(A)のリップ(A2)に係合するために、内側に係止爪(F32)を有していてよい。
本発明において、前記篏合部材(F3)の外周面に、複数の係止爪(F31)を有していてよい。
本発明において、前記篏合部材(F3)の外周面に、スカート部(F2)と仮係合するための凹部(F33)を有し、且つ、スカート部の開口部側に凸部(F23)有していてよい。
本発明において、前記凸部(F23)が前記係止爪(F31)を乗り越える力をf3とした場合、前記リップ(A2)の上面から側面を経て下面に至るまでの間に前記係止爪(F32)が乗り越える力f2よりも大きくなっていてよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、安全に閉鎖式薬物搬送システムに適用することができ、医薬品容器からの薬剤の漏れを防止するとともに、前記閉鎖式薬物搬送システムの医療器具と篏合する際に、複数の接続アダプタを要しないプラスチック製キャップを提供することができる。
なお、ここに記載された効果は、必ずしもこれらに限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係るキャップFの実施形態の一例を説明する図である。
【
図2】本発明に係るキャップFの実施形態の一例を医薬品容器Aに半打栓で適用した状態を説明する図である。
【
図3】本発明に係るキャップFの実施形態の一例を医薬品容器Aに全打栓で適用した状態を説明する図である。
【
図4】本発明に係るキャップFの実施形態の一例を上方から見た斜視図である。
【
図5】本発明に係るキャップFの実施形態の一例を下方から見た斜視図である。
【
図6】本発明に係るキャップFの篏合部材F3の実施形態の一例を上方から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。
以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0014】
図1は、本発明に係るプラスチック製キャップFの実施形態の一例を示した図である。
本発明に係るプラスチック製キャップFは、医療用容器Aに取り付けられ、閉鎖式薬物搬送システム(Closed System Transfer Device:CSTD)に用いられる医療器具と篏合し、CSTDに適用できるキャップである。
ここで、閉鎖式薬物搬送システム(Closed System Transfer Device:CSTD)の定義について説明する。閉鎖式薬物搬送システムは、閉鎖式接続器具(図示せず)と閉鎖式投与ルートの2つを指す場合があるが、本願明細書では、主として、前者の閉鎖式接続器具を指す。
【0015】
該キャップFは、中央に篏合部F11を有する天面部F1と、該天面部F1の外周から垂下し、下端が開口している円筒状のスカート部F2と、該スカート部F2の内部で篏合する篏合部材F3と、からなる。前記篏合部F11は、リップF112と、該リップF112から垂下する中筒F113と、を有し、前記篏合部F11は、閉鎖式接続器具である医療器具と篏合する。なお、該医療器具としては、例えば、一般的な針部を有したバイアルアダプタをいう。
【0016】
篏合部F11は、前記リップF112内でのばく露を防止するため、下方向に凸形状である上側ゴム栓F111と、前記中筒F113の下端で、且つ、スカート部F2の開口部において上方向に凸形状である下側ゴム栓F211を有している。該下側ゴム栓F211はOリング形状である。
なお、上側ゴム栓F111に対しては、閉鎖式接続器具の針部等を穿刺できる。
【0017】
次に、本発明に係るキャップFの篏合部F11に、閉鎖式接続器具がどのように篏合するか、説明する。
前記閉鎖式接続器具であるバイアルアダプタ(図示せず)がハウジングを有する場合、スパイク針を設けた前記バイアルアダプタが、前記篏合部F11に上面から篏合し、前記ハウジング内で前記リップF112の外縁部分を構成する下面F114又は上面F115で少なくとも1箇所は接触する。よって、前記閉鎖式接続器具を前記篏合部F11へ取り付ける際に、複数のバイアルアダプタを必要としない。
【0018】
また、スカート部F2は、医薬品容器AのリップA2に篏合する際に、逆レ形状の係止爪F32を少なくとも2つ以上設けた篏合部材F3を内部に有する。また、当該篏合部材F3と、下側ゴム栓F211は、リップA2と接触し、篏合した状態となる。なお、前記篏合部材F3と、下側ゴム栓F211は互いに接触していない。互いに接触することで打栓圧が高くなるためである。
【0019】
このため、医薬品容器Aにゴム栓(図示せず)が打栓されていなくても、その気密性を保持しつつ、薬剤の移し替えができ、医薬品容器A内部からのエアロゾル、蒸気、液体の漏れ等によるばく露を防ぎつつ、医薬品容器A内部の無菌性を保ち、安全に閉鎖式薬物搬送システムに適用することができる。また、下側ゴム栓F211がOリング形状であるため、上側ゴム栓F111上面を穿刺した際に、薬剤まで針先が届かず薬剤を吸引できなくなることを防ぐことができる。
【0020】
本発明では、Оリング形状である下側ゴム栓F211は、前記中筒F113の上方に向かって凸状である。これにより、下側ゴム栓F211がキャップFのスカート部F2の内壁面と接触することで、下側ゴム栓F211の脱落を防止することができる。
【0021】
本発明において、前記篏合部F11は、略T字形状で、リップF112において、上面F115と、上側ゴム栓F111と、下面F114と、からなり、前記医療器具との接触面が、前記上面F115又は前記下面F114で少なくとも1箇所は接触する。これにより、より確実に本発明のキャップFを、CSTDに用いられる医療器具と篏合させることができる。
【0022】
次に、
図2で本発明に係るキャップFの実施形態の一例で医薬品容器Aに半打栓した状態を説明し、
図3で本発明に係るキャップFの実施形態の一例で医薬品容器Aに全打栓した状態を説明する。
【0023】
図2に示すように、本発明では、キャップFのスカート部F2に設けた篏合部材F3により、医薬品容器Aに半打栓した状態でキャップFを保持できる。半打栓した状態とは、前記下側ゴム栓F211が、医薬品容器AのリップA2と離間した状態である。前記スカート部F2の内側に設けた凸部F23に、篏合部材F3の凹部F33が嵌め込まれ、リップA2の上面で係止爪F32の一部が接触している。また、半打栓した状態とは、プラスチック製キャップFが、医薬品容器AのリップA2に仮止めされ、前記医薬品容器Aの内部と外気とが、リップA2と、スカート部F2の最下面との空間(隙間)を介して連通する状態をいう。
【0024】
図3は、キャップFのスカート部F2を、篏合部材F3により、医薬品容器Aに全打栓した状態を示す。全打栓した状態とは、前記下側ゴム栓F211が医薬品容器AのリップA2と接触した状態である。また、全打栓した状態とは、前記スカート部F2の内側に設けた凹部F21に、篏合部材F3の外側に設けた係止爪F31が嵌め込まれ、リップA2の上面で接触していた係止爪F32が、リップA2の側面をスライドし、リップA2の下面で係止する状態をいう。
【0025】
全打栓することで、
図3に示すように、プラスチック製キャップFは、医薬品容器AのリップA2に係止した状態となり、リップA2と前記下側ゴム栓F211とが接触し、リップA2上の空間(隙間)が遮断されるため、前記医薬品容器Aの内部と外気とが連通しない。
【0026】
したがって、本発明に係るキャップFは、医薬品容器A内に充填した薬剤を凍結乾燥するような場合に極めて有効である。本発明に係るキャップFを用いることで、例えば、凍結乾燥工程で、医薬品容器A内で発生したガスを、前記リップA2にある前記空間(隙間)に沿って速やかに排気できると同時に、凍結乾燥終了後に打栓器を用いる等して、
図3に示すように、極めて速やかにゴム栓を打栓することができる。よって、医薬品容器A内部の気密性を担保できる。
【0027】
次に、
図2以降で一例として、前記スカート部F2が、篏合部材F3を覆うための動きに着目し、各部材を乗り越える力(f1~f3)関係について説明する。
篏合部材F3の外周面に設けた凹部F33を、スカート部F2に設けた凸部F23が乗り越える力をf1とし、リップA2を係止爪F32が乗り越える力をf2とした場合、f2>f1の関係となる。凹部F33を、スカート部F2に設けた凸部F23が乗り越える工程を第1係止工程とする。
【0028】
次に、
図3に示すように、前記スカート部F2に設けた凸部F23が、篏合部材F3の外周面に設けた係止爪F31を乗り越える力をf3とした場合、前記リップA2の上面から側面を経て下面に至るまでの間に係止爪F32が乗り越える力f2よりも大きくなり、f3>f2の関係となる。凸部F23が、篏合部材F3の外周面に設けた係止爪F31を乗り越える工程を第2係止工程とする。
【0029】
前記スカート部F2及び篏合部材F3は、f3>f2>f1の関係を有しているが、本発明では、f1とf2との関係は特に限定されず、スカート部F2に設けた凸部F23が、篏合部材F3の外周面に設けた係止爪F31を乗り越える力f3が、前記リップA2を篏合部材F3の内側に設けた係止爪F32が乗り越える力f2よりも大きくなればよく、すなわち、f3>f2の関係であればよい。したがって、本発明においては、スカート部F2及び篏合部材F3は、f3>f1>f2の関係でもよい。
【0030】
なお、「前記リップA2を前記係止爪F32が乗り越える」とは、リップA2の上面にある前記係止爪F32が、リップA2の側面から、リップA2の下面に沿って移動することをいう。係止爪F32がリップA2の下面に移動し、凸部F23が篏合部材F3の外周面に設けた係止爪F31を乗り越え、前記係止爪F31が凹部F21に篏合することで、全打栓の状態となる。よって、前記第1係止工程と前記第2係止工程とを経て、篏合部材F3の外側からスカート部F2が覆われ、より強固に篏合した全打栓の状態になることで、安全に閉鎖式薬物搬送システムに適用でき、医薬品容器Aからの薬剤の漏れを防止することができる。
【0031】
図4は、本発明に係るキャップFの実施形態の一例を上方から見た斜視図であり、
図5は、本発明に係るキャップFの実施形態の一例を下方から見た斜視図であり、
図6は、本発明に係るキャップFの篏合部材F3の実施形態の一例を上方から見た斜視図である。
【0032】
図3及び
図4に示すように、前記スカート部F2の外径は、リップF112や、中筒F113の外径よりも大きい。なお、前記リップF112の外径と、中筒F113の外径を比較した場合、中筒F113の外径より、リップF112の外径が大きい。
【0033】
本発明では、篏合部材F3の外周面に、複数の係止爪F31を有する。前記係止爪31は、例えば、外径方向に延伸する凸形状等とすることができる。これにより、全打栓状態においてキャップFに対して上方への力が加わったとしても、スカート部F2と篏合部材F3とが外れることを防止することができる。
【0034】
図5では、篏合部材F3の外周面に、複数の係止爪F31を設け、また、内側には、複数の係止爪F32を設け、前記係止爪F31と、前記係止爪F32の間には、壁面状で長方形に湾曲した先端部材F38を設けている。前記先端部材F38を設けることで、前記係止爪F31と前記係止爪F32の破損を防止するとともに、リップA2のガイドの役割を果たしている。
【0035】
図6に示すように、前記篏合部材F3は、リング状部材F36と、当該リング状部材F36を垂下して設けた複数の脚部材F37と、からなる。リング状部材F36には、上面から見た際に、リング状の中心方向に向かって複数の凸部F116と、複数の凹部F117を有している。また、前記凹部F117を垂下して、脚部材F37を設けている。
【0036】
図3及び
図5に示すように、前記篏合部材F3は、前記下側ゴム栓F211に触れず、上面に凸部F116を設けている。この場合、前記キャップFを有する天面部F1の下面と、リップA2上面との間に隙間F39が生じているが、前記下側ゴム栓F211が押圧され前記隙間F39へ広がることで、下側ゴム栓F211とリップA2上面の接触面積が増え、気密性を向上させることができる。
なお、複数の凸部F116及び複数の凹部F117は、形状を限定するものではなく、縁を有する円環状でもよい。
【0037】
前記脚部材F37の内側には、医療容器AのリップA2と篏合する逆レ形状の係止爪F32を設けている。また、脚部材F37の外側には、前記スカート部F2の内壁面と接するレ状の係止爪F31と、仮係合するための凹部F33と、を有している。前記脚部材F37の内側に設けた係止爪F32は、外側に設けた係止爪F31よりも厚みがある。これは、前記医療容器AのリップA2との篏合での破損を防止するためである。これにより、全打栓状態おいて、キャップFと医薬品容器Aとをより強固に固定することができる。
【0038】
本発明では、篏合部材F3には、切り欠き部F35が少なくとも1つ以上形成されている。切り欠き部F35の個数は特に限定されないが、複数形成されていることが好ましい。これにより、篏合部材F3の可撓性を向上させ、キャップFを医薬品容器Aに篏合させる際に、割れ等の破損が生じることを防ぐことができる。
【0039】
本発明に係るプラスチック製キャップFを構成する上側ゴム栓F111及び下側ゴム栓F211において、より高い密封性を確保するため、以下に好ましい実施形態を示す。
なお、以下に説明する実施形態は参考であり、その仕様を限定するものではない。
上側ゴム栓F111と下側ゴム栓F211の上下面の全てがゴム素面の場合、前記上側ゴム栓F111の上面はゴム素面で、前記上側ゴム栓F111の下面はプラスチック製フィルムが積層され、シリコーン等の潤滑剤が塗布されていないものが好ましい。
なお、前記上側ゴム栓F111の上面はゴム素面で、仮に上側ゴム栓F111の天面に滑り性が必要な場合には、プラスチック製フィルムを積層できる。前記プラスチック製フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素系樹脂等の一般的なプラスチック製フィルムが使用可能である。
【0040】
本発明に係るプラスチック製のキャップFを形成する素材は、耐熱性や滑り性、耐滅菌性や強度に優れた樹脂であればよく、熱可塑性樹脂や、熱可塑性エラストマー(TPE)、ポリオレフィン系があるが、これらに限定されず、適宜選定することができる。具体的には、例えばフッ素系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂(PP、ホモポリマーの外にエチレン基、ブチレン基などを共重合したコーポリマーも含む)、ポリエステル系樹脂(PET)、ポリスルホン系樹脂(PSF)、メチルペンテン系樹脂(PMP)、ポリアクリレート系樹脂(PAR)、ポリアミド系樹脂(PA)、変性フェニレンオキサイド樹脂(PPE)、環状オレフィン系化合物又は架橋多環式炭化水素化合物を重合体成分とする樹脂、ポリカーボネート樹脂(PC)、オレフィン系樹脂を極性基で変性(グラフト)した樹脂、耐磨耗性にも優れたポリアセタール(POM)、軟質ポリ塩化ビニル(軟質PVC)若しくは熱可塑性ポリウレタン(TPU)などであってよい。
また、キャップFと篏合部材F3とは、同一の素材で形成してもよいし、異なる素材で形成してもよいが、高圧蒸気滅菌条件、例えば121℃、20分に耐えられる耐熱性や、劣化、割れ等の強度の問題がなく、放射線滅菌等で滅菌できる素材であればこれらに限定されない。本発明に係るキャップFをプラスチックで形成することで、擦れ合ったり、ぶつかったりしても微粒子が生じることがない。また、キャップFは、例えば射出成形により製造することができるため、形状や構造の自由度が高い。
【0041】
上側ゴム栓F111及び下側ゴム栓F211を形成する素材は、例えばブチルゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ハロゲン化ブチルゴム、エチレンプロピレンターポリマー、シリコンゴム等の合成ゴム又は天然ゴムの配合物などであってよく、積層するフッ素系樹脂には、例えば四フッ化エチレン樹脂、三フッ化塩化エチレン樹脂、四フッ化エチレン-六フッ化プロピレン共重合樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、フッ化ビニール樹脂、四フッ化エチレン-エチレン共重合体樹脂、三フッ化塩化エチレン-エチレン共重合体樹脂等を用いることができる。
【0042】
本発明に係るキャップFでは、
図1~
図3に示すように、前記リップF112上面に指で脱離可能なカバーDが一体に設けられていてもよい。すなわち、キャップFとカバーDとが、例えば、上述した樹脂によってそれぞれ成形された形態でもよい。このカバーDは本発明においては必須ではないが、キャップFのリップF112上面の汚染を防止するために設けることができる。前記カバーDには全周にわたるか、或いは部分的に形成された1個又は複数の指掛けD1が形成されていることが好ましい。使用者は、必要に応じて指掛けD1に指をかけてカバーDが容易に取り外せるようになっている。
【0043】
なお、カバーDの他の実施形態としては、ガス、水蒸気、菌などを通過しないガス不透過フィルムや、ガスや水蒸気等を通すガス透過フィルム等で成形することが挙げられる。本発明では、リップF112の汚染を防止できる方法であればよく、例えば本発明に係るキャップFのリップF112上面を覆うことができ、且つ、剥離可能なシール等でカバーDを形成してもよい。
【0044】
以上に説明した本発明に係るキャップFの使用方法を、
図1~
図3を参照して説明する。
まず、医薬品容器Aに所望の薬剤を充填した後、医薬品容器Aに半打栓状態でキャップFを保持させる。この半打栓状態では、スカート部F2と篏合部材F3とは凹部F33と係止爪F23を介して仮篏合し、篏合部材F3の内側の凸部F32は医薬品容器AのリップA2に係合する。次いで、凍結乾燥し、凍結乾燥終了後に打栓器を用いる等して、医薬品容器Aを密封する。この際、キャップFの降下に伴い複数の凸部F32がリップA2の外周面に接触しつつ、弾性変形して下降し、凸部F32の先端が、リップA2の外周面を過ぎると、凸部F32が元の状態に戻り、医薬品容器Aに固定される。また、これと同時に、篏合部材F3の上方がスカート部F2の内側に入り、複数の係止爪F31が弾性変形して、スカート部F2と篏合部材F3とが強固に篏合する。次いで、使用者は、CSTDに用いる医療器具を用いて、上面F115側から上側ゴム栓F111を穿刺し、薬剤の移し替えを行う。
【0045】
なお、上述した例では、キャップFを医薬品容器Aの開口部に嵌め込み、医薬品容器Aを密封した状態とした後、打栓器を用いる等してキャップFを嵌め込んだが、本発明はこれに限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上のことから明らかなように、本発明によれば、本発明を構成する篏合部材及び下側ゴム栓により、本発明に係るキャップが医療用容器のリップと接触し篏合した状態となるため、医薬品容器にゴム栓が打栓されていなくても、その気密性を保持しつつ、薬剤の移し替えができ、医薬品容器内部からのエアロゾル、蒸気、液体の漏れ等によるばく露を防ぎつつ、医薬品容器内部の無菌性を保ち、安全に閉鎖式薬物搬送システムに適用することができ、更には、前記閉鎖式薬物搬送システムの医療器具と篏合する際に、複数の接続アダプタを要しないプラスチック製アダプタを提供できる。
【符号の説明】
【0047】
A:医薬品容器
A2:リップ
D:カバー
D1:指掛け
F:プラスチック製キャップ
F1:天面部
F11:篏合部
F111:上側ゴム栓
F112:リップ
F113:中筒
F114:下面
F115:上面
F116:凸部
F117:凹部
F2:スカート部
F21:凹部
F23:凸部
F211:下側ゴム栓
F3:篏合部材
F31:係止爪
F32:係止爪
F33:凹部
F35:切り欠き部
F36:リング部材
F37:脚部材
F38:先端部材
F39:隙間