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特許7454335焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム及び方向性電磁鋼板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム及び方向性電磁鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 8/12 20060101AFI20240314BHJP
   C23C 22/00 20060101ALI20240314BHJP
   C01F 5/40 20060101ALI20240314BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240314BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
C21D8/12 B
C23C22/00 A
C01F5/40
C21D9/46 501B
H01F1/147 183
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019062377
(22)【出願日】2019-03-28
(65)【公開番号】P2019173173
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2018062910
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000108764
【氏名又は名称】タテホ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】泉水 萌子
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-058331(JP,A)
【文献】特開2016-199460(JP,A)
【文献】特開2008-260668(JP,A)
【文献】特開2017-128773(JP,A)
【文献】特開2004-238668(JP,A)
【文献】特開2008-127635(JP,A)
【文献】国際公開第2008/047999(WO,A1)
【文献】特開2002-309378(JP,A)
【文献】特開2012-072004(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1594091(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 8/12, 9/46
C23C 22/00
C01F 5/00- 5/42
H01F 1/12- 1/38, 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素を400~1500質量ppm、ナトリウムを590~650質量ppm、塩素を164~500質量ppm、硫黄をSO換算で0.10~0.70質量%含有し、かつホウ素とナトリウムと塩素と硫黄のモル比(Cl+S)/(B+Na)が0.20~0.40であり、
CAA40%が80~100秒であり、体積基準の累積10%粒子径(D10)が3μm以下であり、リンを100~1000質量ppm含有する焼鈍分離剤用酸化マグネシウム。
【請求項2】
請求項1に記載の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを含む焼鈍分離剤。
【請求項3】
鋼板表面に二酸化ケイ素被膜を形成する工程と、
請求項2に記載の焼鈍分離剤を二酸化ケイ素被膜の表面に塗布し、焼鈍することにより、鋼板表面にフォルステライト被膜を形成する工程
とを含む、方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム及びそれを用いる方向性電磁鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
変圧器や発電機に使用される方向性電磁鋼板は、一般に、ケイ素(Si)を約3%含有するケイ素鋼を熱間圧延し、次いで最終板厚に冷間圧延し、次いで脱炭焼鈍、仕上焼鈍して、製造される。脱炭焼鈍(一次再結晶焼鈍)では、鋼板表面に二酸化ケイ素被膜を形成し、その表面に焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを含むスラリーを塗布して乾燥させ、コイル状に巻き取った後、仕上焼鈍することにより、以下の反応式に示すように、二酸化ケイ素(SiO)と酸化マグネシウム(MgO)が反応してフォルステライト(MgSiO)被膜が鋼板表面に形成されることになる。
2MgO+SiO→MgSiO (I)
このフォルステライト被膜は、鋼板表面に張力を付与し、鉄損を低減して磁気特性を向上させ、また鋼板に絶縁性を付与する役割を果たすので重要である。
【0003】
他方、フォルステライト被膜下の地鉄部についてみると、塗布された焼鈍分離剤により析出物の生成・成長挙動や結晶粒の成長挙動が影響を及ぼされるため、このMgOの種々の特性により方向性電磁鋼板の製品特性は大きく変化する。例えば、MgOをスラリー化した際に持ち込まれる水分が多すぎると鋼板が酸化されて磁気特性が劣化したり被膜に点状欠陥が生成したりする。また、MgO中に含まれる不純物が焼鈍中に鋼中に侵入し、結晶粒成長抑制力が変化することを通じて二次再結晶挙動が変化すること等も知られており、方向性電磁鋼板の特性を向上するために、焼鈍分離剤用酸化マグネシウムに含有される微量成分について、以下に示す通り、種々の研究が行われている。焼鈍分離剤用酸化マグネシウム中の含有量の制御が検討されている微量成分として、酸化カルシウム(CaO)、ホウ素(B)、亜硫酸(SO)、フッ素(F)、及び塩素(Cl)等が挙げられる。さらに、微量成分の含有量だけでなく、焼鈍分離剤用酸化マグネシウム中の、微量成分元素を含む化合物の構造を検討する試みが行われている。
【0004】
そこで、まず、焼鈍分離剤用酸化マグネシウム中の含有量の制御が検討されている微量成分のうち、酸化マグネシウムを製造するに際し、不純物として残留するCaOに着目するものとして、CaOとB量との関係を特定値(〔CaO%〕×〔B%〕=0.025~0.30)におき、CAA値(クエン酸活性度値)(60~250秒)、粒度(10μm以下:60%以上)を満足するように調整することにより、低水和性でありながら、鋼板との付着性力が優れ、下地被膜との反応性に優れる焼鈍分離剤が提案され(特許文献1)、他方、MgClとCa(OH)のスラリーからMg(OH)を経由してMgOを得る工程を考慮して、不純物としてのCaOだけでなく、ハロゲン量を制限するものとして、CaOを0.35~0.50wt%、SOを0.3~1.5wt%、ハロゲンを0.05wt%以下及びBを0.06~0.10wt%含有する焼鈍分離剤が提案されている(特許文献2)。
【0005】
また、特に塩素に着目するものとして、製造工程における原料調整段階において、Mg,Ca,Ba,Cu,Fe,Zn,Mn,Zr,Co,Ni,Al,Sn,Vの中から選ばれる塩素化合物の1種又は2種以上を、Clとして0.005~0.060%、およびBを〔Cl(%)〕×〔B(%)〕=0.001~0.004となるように、それぞれ含有するよう調整され、且つ、測定温度30℃におけるCAA値50~150秒で、粒子径10μm以下のものが70%以上であることを特徴とする、均一な高張力グラス被膜と優れた磁気特性を得るための方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤が提案され(特許文献3)、同じく、仕上げ高温焼鈍前に冷間圧延方向性珪素鋼を被覆するための25℃以下に維持されたマグネシアスラリーであって、a)主要量のマグネシア粒子のクエン酸活性が200秒以下のマグネシア;b)Mg、Ca、Na及び/またはKからなる群から選択された金属塩化物からの少なくとも0.01重量%の塩素によるものであるマグネシアの重量を基準として0.01~0.20重量%のマグネシア中の合計塩素レベル;c)15%までのTiO;d)10%までのSiO;e)15%までのCr;及びc)0.3%までの硼素より実質上なることを特徴とするマグネシアスラリーが提案され(特許文献4)、最終的にMgOを主成分とする焼鈍分離剤の水和水分を0.5~2.0%とし、焼鈍分離剤へ塩素化合物の総塩素含有量が0.020%~0.080%となるように添加し、かつ、焼鈍分離剤の水和水分とCl含有量の関係式が提案されている(特許文献5)。
【0006】
さらに、製造工程の塩素、CaOだけでなく、ホウ素(B)、亜硫酸(SO)に着目し、CAA及び水和量を制御するものとして、前記焼鈍分離剤中のマグネシアとして、不純物のCl濃度が0.01~0.04mass%、CaO濃度が0.25~0.70mass%、B濃度が0.05~0.15mass%、SO濃度が0.05~0.50mass%、CAA40%が50~90秒を満足し、さらに20℃,30分の水和試験による水和量が1.5~2.5mass%でかつ20℃,180分の水和試験による水和量が3.0~5.0mass%である粉体を用いるもの(特許文献6)、マグネシアとして、BET比表面積が36~50m/g、不純物のCl濃度が0.02~0.04%、CAA40%が35~65秒、CAA80%が80~160秒のものを、10mass%以上配合し、かつ、2種以上の混合物からなるマグネシアの平均特性が、BET比表面積:20~35m/g、不純物のCl濃度:0.01~0.04%、CaO濃度:0.25~0.70%、B濃度:0.05~0.15%、SO濃度:0.05~0.50%、CAA40%:55~85秒、CAA80%:100~250秒および20℃,60分の水和試験による水和量:1.5~3.5mass%を満足することを特徴とする焼鈍分離剤用のマグネシアが提案されている(特許文献7)。
【0007】
他方、酸化マグネシウムにリン酸ナトリウム化合物を少なくとも1種の添加剤として使用するもの(特許文献8)、酸化マグネシウムに窒化物系および/または硫化物系のインヒビターとして塩化アンモニウム(NHClまたはNHCl・nHO)を用い、最終焼鈍のための昇温過程で早期劣化することを防止するもの(特許文献9)、マグネシアを主剤とする焼鈍分離剤に水溶性化合物を添加し、副インヒビターを含有する素材における問題点を解決するものも提案されている(特許文献10)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特公平4-25349号公報
【文献】特許第3043975号公報
【文献】特許第2690841号公報
【文献】特許第2686455号公報
【文献】特許第4823719号公報
【文献】特許第4893259号公報
【文献】特許第5245277号公報
【文献】特許第3730254号公報
【文献】特許第4194753号公報
【文献】特許第4192822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上、方向性電磁鋼板の磁気特性及び絶縁特性の改善について、種々研究開発されているが、焼鈍分離剤の性能はフォルステライト被膜の性能にあり、具体的には、(a)フォルステライト被膜の生成しやすさ(フォルステライト被膜生成率)、(b)被膜の外観、(c)被膜の密着性、及び(d)未反応酸化マグネシウムの酸除去性の4点に左右され、言い換えると、方向性電磁鋼板の特性及び価値は、フォルステライト被膜を形成するための焼鈍分離剤用酸化マグネシウムの性能に依存している。しかしながら、従来の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムでは、方向性電磁鋼板の被膜不良の発生を完全には防止できておらず、また一定の効果が得られないため信頼性を欠いていた。したがって、十分な性能を有する焼鈍分離剤用酸化マグネシウムは未だ見出されていない。
【0010】
そこで本発明は、磁気特性及び絶縁特性に優れた方向性電磁鋼板を得るための焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを提供することを目的とする。具体的には、鋼板の表面に、フォルステライト被膜生成率、被膜の外観、被膜の密着性、及び未反応酸化マグネシウムの酸除去性に優れたフォルステライト被膜を生成することができる焼鈍分離剤用酸化マグネシウム及びそれを用いた方向性電磁鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記従来技術を考慮して鋭意研究の結果、フォルステライト被膜の組成に関与するホウ素成分とナトリウム成分の総モル数を考慮し、フォルステライト被膜の形成速度に関与する塩素成分及び硫黄成分を制限しつつ、焼鈍分離剤中のホウ素とナトリウムの含有総モル数に対する塩素及び硫黄の含有総モル数を所定の比率に制限すると、フォルステライト被膜生成率、被膜の外観、被膜の密着性、及び未反応酸化マグネシウムの酸除去性に優れたフォルステライト被膜を形成できることを見出した。
【0012】
即ち、本発明は、ホウ素を400~1500質量ppm、ナトリウムを1~650質量ppm、塩素を500質量ppm以下、硫黄をSO換算で0.10~0.70質量%含有し、かつホウ素及びナトリウムの合計含有モルに対する塩素及び硫黄の合計含有モル比(Cl+S)/(B+Na)が0.20~0.40である焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、酸化マグネシウムを主剤とする焼鈍分離剤において、ホウ素成分とナトリウム成分の総モル数を考慮し、塩素成分及び硫黄成分を制限しつつ、焼鈍分離剤中のホウ素とナトリウムの含有総モル数に対する塩素及び硫黄の含有総モル数を所定の比率に制限すると、磁気特性及び絶縁特性に優れた方向性電磁鋼板を得ることができる。具体的には、本発明に係る焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを用い、鋼板表面に二酸化ケイ素被膜を形成した後、二酸化ケイ素被膜の表面に上記焼鈍分離剤を塗布し、焼鈍することにより、鋼板の表面に、フォルステライト被膜生成率、被膜の外観、被膜の密着性、及び未反応酸化マグネシウムの酸除去性に優れたフォルステライト被膜を形成することができる。
【0014】
リンを100~1000質量ppm含有することにより、更にフォルステライト被膜生成率、被膜の外観、被膜の密着性、及び未反応酸化マグネシウムの酸除去性に優れたフォルステライト被膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の酸化マグネシウムは、酸化マグネシウムを主体とし、ホウ素を400~1500質量ppm、ナトリウムを1~650質量ppm、塩素を500質量ppm以下、硫黄をSO換算で0.10~0.70質量%含有し、かつホウ素及びナトリウム合計含有モルに対する塩素及び硫黄の合計含有モル比(Cl+S)/(B+Na)が0.20~0.40であって、リンを100~1000質量ppm含有し、方向性電磁鋼板の焼鈍分離剤として使用される。その物性は、例えば、体積基準の累積10%粒子径(D10)が3μm以下であり、例えば、CAA40%が50~200秒である。なお、本明細書中、特に断りのない限り、ppmは質量ppmを意味し、%は質量%を意味する。
【0016】
まず、本発明の酸化マグネシウムに添加成分として含有される各成分の含有率から順に説明する。
【0017】
ホウ素(B)は、焼鈍分離剤MgOと電磁鋼板の表面SiOとの反応で形成されるフォルステライトMgSiOの被膜形成を促進する元素であり、通常、焼鈍分離剤MgOの製造工程で所定量を添加すればよく、例えばホウ酸、ホウ酸マグネシウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸ナトリウム、及び酸化ホウ素から選択できる少なくとも1種類以上を反応前の水酸化マグネシウムの原料である塩化マグネシウム溶液又は水酸化カルシウムスラリー中に添加することができ、また、反応後の水酸化マグネシウムスラリー中に添加することができる。さらに、ろ過、水洗、乾燥後の水酸化マグネシウム粉体に混合添加することもできる。その後水酸化マグネシウムを焼成して酸化マグネシウムの粉末を得るが、酸化マグネシウム中のホウ素は400~1500ppmとなるように調整される。酸化マグネシウム中のホウ素量はさらに、同様の製造方法によって得られたホウ素含有量が違う酸化マグネシウムを混合することで調整することもできる。ここで、400ppm未満ではフォルステライトの十分な被膜が形成されず、一方1500ppmより多いと過剰に厚い被膜が形成されて点状欠陥の原因となり、いずれも良好な被膜特性が得られない。したがって、400~1500ppm、好ましくは550~1400ppmの範囲、より好ましくは700~1300ppmの範囲とする。
【0018】
ナトリウム(Na)は、フォルステライト被膜形成速度を調整する元素であり、通常、焼鈍分離剤MgOの製造工程で所定量を添加すればよく、例えば塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、及びホウ酸ナトリウムから選択できる少なくとも1種類以上を反応前の水酸化マグネシウムの原料である塩化マグネシウム溶液又は水酸化カルシウムスラリー中に添加することができ、また、反応後の水酸化マグネシウムスラリー中に添加することができる。さらに、ろ過、水洗、乾燥後の水酸化マグネシウム粉体に混合添加することもできる。その後水酸化マグネシウムを焼成して酸化マグネシウムの粉末を得るが、酸化マグネシウム中のナトリウムは1~650ppmとなるように調整される。酸化マグネシウム中のナトリウムはさらに、同様の製造方法によって得られたナトリウム含有量が違う酸化マグネシウムを混合することで調整することもできる。ここで、1ppm未満ではフォルステライト被膜形成速度が遅く、十分な被膜が形成されず、一方650ppmより多いと被膜形成速度が速くなりすぎ、過剰に厚い被膜が形成されて点状欠陥の原因となり、いずれも良好な被膜特性が得られない。したがって、1~650ppm、好ましくは5~640ppm、より好ましくは10~630ppm、特に好ましくは10~620ppmの範囲とする。
【0019】
塩素(Cl)は、フォルステライト被膜形成を促進する元素であり、塩化物の添加はガラス被膜形成温度を低下し、低温で表面をシールする。通常、MgClとCa(OH)のスラリーからMg(OH)を製造する工程で反応条件(反応温度、反応時間、反応率)により塩素量を制御することができるが、塩素量が不足する場合は、さらに金属塩化物を、反応前の水酸化マグネシウムの原料である塩化マグネシウム溶液又は水酸化カルシウムスラリー中に添加することができ、また、反応後の水酸化マグネシウムスラリー中に添加することができる。さらに、ろ過、水洗、乾燥後の水酸化マグネシウム粉体に混合添加することもできる。前記金属塩化物としては塩素を含む組成物であれば特に限定されないが、例えば塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムから選択できる少なくとも1種類以上を添加することで制御できる。また、反応条件により水酸化マグネシウムの粒子形状、粒子径、凝集状態を制御し、さらに洗浄条件(時間、水洗時の水量等)により塩素量を制御できる。酸化マグネシウム中の塩素はさらに、同様の製造方法によって得られた塩素含有量が違う酸化マグネシウムを混合することで調整することもできる。ここで、500ppmより多いと過剰に被膜形成が促進され、過剰に厚い被膜が形成されて点状欠陥の原因となり、良好な被膜特性が得られない。最終的に焼成されて得られる酸化マグネシウム中の塩素量は500ppm以下、好ましくは50~450ppmの範囲、より好ましくは150~400ppmの範囲とする。
【0020】
硫黄(S)は、フォルステライト被膜形成を促進し、被膜の形態に影響を与える元素である。通常、焼鈍分離剤MgOの製造工程で所定量を添加すればよく、例えば硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、及び硫酸ナトリウムから選択できる少なくとも1種類以上を反応前の水酸化マグネシウムの原料である塩化マグネシウム溶液又は水酸化カルシウムスラリー中に添加することができ、また、反応後の水酸化マグネシウムスラリー中に添加することができる。さらに、ろ過、水洗、乾燥後の水酸化マグネシウム粉体に混合添加することもできる。その後水酸化マグネシウムを焼成して酸化マグネシウムの粉末を得るが、酸化マグネシウム中の硫黄はSO換算で0.10から0.70質量%となるように調整される。酸化マグネシウム中の硫黄はさらに、同様の製造方法によって得られた硫黄含有量が違う酸化マグネシウムを混合することで調整することもできる。ここで、0.10質量%未満では地鉄と被膜の界面の凹凸がなくなって被膜が剥離しやすくなり、一方0.70質量%より多いと十分な被膜が形成されず、いずれも良好な被膜特性が得られない。従って、0.10~0.70質量%、好ましくは0.15~0.50質量%の範囲、より好ましくは0.20~0.30質量%の範囲とする。
【0021】
塩素及び硫黄は被膜形成を促進する元素である一方、ホウ素も被膜形成を促進する元素である。しかしながら塩素及び硫黄は、MgOの表面水和層の反応性に寄与する結果、被膜促進するものであるのに対し、ホウ素はガラス状になったホウ素化合物がMgO粒子の表面に存在することで焼結を促進するもので、被膜形成への関与因子として塩素及び硫黄の過剰は被膜の過酸化による不良に直接影響するが、ホウ素の過剰はそれほどでもない。そこで、まず、被膜促進元素のバランスを、塩素及び硫黄合計含有モルに対するホウ素モルの比率(Cl+S)/Bで考慮するのが肝要である。一方、ナトリウムは被膜抑制元素であるが、他の金属イオンと容易に結合して、低融点化合物を形成し、被膜促進元素が過多となると、深さ方向へのアンカーとなる被膜が過剰に形成され、磁束密度に悪影響を与える。したがって、ナトリウムはガラス状になったホウ素化合物をMgO粒子の表面に存在させるホウ素との関係で塩素及び硫黄合計含有モルに対するバランスをとることにより、密着性と高磁束密度のバランスをとることが肝要である。よって、ホウ素及びナトリウム含有モルに対する塩素及び硫黄合計含有モル比(Cl+S)/(B+Na)は0.20~0.40の範囲に調整され、フォルステライト被膜生成率、被膜の外観、被膜の密着性、及び未反応酸化マグネシウムの酸除去性を良好に保持するのが好ましい。
【0022】
リン(P)は、被膜形成を促進する元素である。通常、焼鈍分離剤MgOの製造工程で所定量を添加すればよく、例えばリン酸、リン酸マグネシウム、及びリン酸カルシウムから選択できる少なくとも1種類以上を反応前の水酸化マグネシウムの原料である塩化マグネシウム溶液又は水酸化カルシウムスラリー中に添加することができ、反応後の水酸化マグネシウムスラリー中に添加することができ、ろ過、水洗、乾燥後の水酸化マグネシウム粉体に混合添加することもできる。その後水酸化マグネシウムを焼成して酸化マグネシウムの粉末を得るが、酸化マグネシウム中のリンは100~1000ppmとなるように調整される。酸化マグネシウム中のリンはさらに、同様の製造方法によって得られたリン含有量が違う酸化マグネシウムを混合することで調整することもできる。すなわち、100ppm未満では十分な被膜が形成されず、一方1000ppmより多いと過剰に厚い被膜が形成されて点状欠陥の原因となり、いずれも良好な被膜特性が得られない。従って、100~1000ppm、好ましくは120~900ppmの範囲、より好ましくは150~600ppmの範囲とする。
【0023】
なお、リンも、硫黄及び塩素と同様、MgOの表面水和層の反応性に寄与する結果、被膜促進するものである。酸化マグネシウム中のリンは100~1000ppmとなるように調整されるが、ホウ素及びナトリウム含有モルに対する塩素及び硫黄合計含有モル比(S+Cl)/(B+Na)はリン含有モル数を含め、(S+Cl+P)/(B+Na)は好ましくは、0.25~0.55の範囲、より好ましくは0.30~0.50の範囲とする。
【0024】
体積基準の累積10%粒子径(D10)は3μm以下が好ましく、クエン酸活性度(CAA40%)は50~200秒が好ましい。体積基準の累積10%粒子径(D10)が3μmを超えると、酸化マグネシウムの一次粒子径が粗大になり、酸化マグネシウム粒子の反応性が悪くなるため、(a)フォルステライト被膜生成率が低下する。よって、好ましくは3μm以下、より好ましくは2.9μm以下の範囲とする。
【0025】
他方、CAAは固相-液相反応により、実際の電磁鋼板の表面で起こる二酸化ケイ素と酸化マグネシウムとの固相-固相反応の反応性を、経験的にシミュレートしており、一次粒子を含む酸化マグネシウム粒子の反応性を測定するものである。酸化マグネシウムのCAA40%が200秒より大きければ、酸化マグネシウム粒子の反応性が悪く、(a)フォルステライト被膜生成率が低下する。また、酸で除去した際残留物が残り、(d)酸除去性も悪い。他方、酸化マグネシウムのCAA40%が50秒未満であれば、酸化マグネシウム粒子の反応性が速くなりすぎ、均一なフォルステライト被膜ができなくなり、フォルステライト被膜の(b)被膜外観及び/又は(c)密着性が悪くなる。すなわち、上述したクエン酸活性度は50秒未満では水和量が大きくなりすぎ、一方200秒を超えると反応性が低すぎて、いずれの場合も良好な被膜特性が得られない。よって、好ましくは50~200秒の範囲、より好ましくは60~150秒の範囲とする。なお、ここでクエン酸活性度(CAA40%)とは、温度:303K、0.4Nのクエン酸水溶液中に40%の最終反応当量の酸化マグネシウムを投与して攪拌したときの、最終反応までの時間、つまりクエン酸が消費され溶液が中性となるまでの時間を意味する。
【0026】
本発明において、酸化マグネシウムの製造方法は公知の方法を用いることができる。例えば、原料として塩化マグネシウムを用い、この水溶液に水酸化カルシウムをスラリーの状態で添加し反応させ、水酸化マグネシウムを形成する。次いで、この水酸化マグネシウムを、ろ過、水洗、乾燥させた後、加熱炉で焼成し、酸化マグネシウムを形成し、これを所望の粒径まで粉砕して、製造することができる。
【0027】
また、水酸化カルシウムの代わりに、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸基を有するアルカリ性化合物を用いることもできる。また、海水、潅水、苦汁等のような塩化マグネシウム含有水溶液を反応器に導入し、1773~2273Kで直接酸化マグネシウムと塩酸を生成させるアマン法(Aman process)により酸化マグネシウムを生成させ、これを所望の粒径まで粉砕して、酸化マグネシウムを製造することができる。
【0028】
更に、鉱物マグネサイトを焼成して得た酸化マグネシウムを、水和させ、得られた水酸化マグネシウムを焼成し、これを所望の粒径まで粉砕して、酸化マグネシウムを製造することもできる。
【0029】
MgO中の微量含有物の量は、公知の方法により制御できる。MgO中の微量含有物の量を制御する方法としては、例えば、MgO中の微量含有物の量が所定の範囲となるように、粗生成物の製造工程中に、又は得られた粗生成物の微量含有物量を最終焼成前に制御することにより行うことができる。粗生成物の製造工程中での制御は、例えば、原料に含まれる微量含有物の量を分析し、その結果を踏まえ、制御する対象の微量含有物が所定量となるように、湿式又は乾式で添加するか、湿式で除去することにより制御することができる。微量含有物の添加は、例えば、添加する元素を混合し、乾燥させることにより行うことができる。また、微量含有物の除去は、例えば、湿式で過剰な含有物を物理的に洗浄するか、化学的に分離することにより行うことができる。化学的な分離は、例えば、可溶性の水和物を形成させて、溶解させ、ろ過し、洗浄して分離するか、又は不溶性の化合物を形成させて、析出させ、析出物を吸着して分離することにより行うことができる。最終焼成前での粗生成物の微量含有物量の制御は、例えば、異なる組成を有する粗生成物を組み合わせて混合することで、微量含有物が所定の範囲となるように微量元素の量の過不足を調整し、これを最終焼成することにより制御できる。更に、微量含有元素の量を制御するため、いずれの場合も、粗生成物MgOを製造し、得られたMgOを分析した後、微量含有元素の量に関する個々の結果に応じて、上記の手順を繰り返し・組み合わせることができる。
【0030】
酸化マグネシウムのD10及びCAAは、公知の方法により調整でき、例えば、次のような方法により行うことができる。すなわち、水酸化マグネシウムの製造工程中の反応温度及びアルカリ源の濃度を調整することにより、水酸化マグネシウムの一次粒子径及び二次粒子径を制御し、酸化マグネシウムのD10及びCAAを調整することができる。また、粒子径を制御した水酸化マグネシウムの焼成温度及び時間を制御することによっても、酸化マグネシウムのD10及びCAAを調整することができる。また、D10及びCAAの調整方法として、粉砕後のD10及びCAAを測定し、複数回焼成を行うことでも調整することができる。更に、焼成した酸化マグネシウムを、ジョークラッシャー、ジャイレトリークラッシャー、コーンクラッシャー、インパクトクラッシャー、ロールクラッシャー、カッターミル、スタンプミル、リングミル、ローラーミル、ジェットミル、ハンマーミル、ピンミル、回転ミル、振動ミル、遊星ミル、ボールミル等の粉砕機を使用して粉砕することによっても、酸化マグネシウムのCAAを調整することができる。また、D10及びCAAの調整方法として、粉砕後のD10及びCAAを測定し、複数回粉砕を行うことでも調整することができる。
【0031】
本発明の方向性電磁鋼板は、例えば、下記のような方法で製造することができる。方向性電磁鋼板はSi 2.5~4.5%を含有するケイ素鋼スラブを熱間圧延し、酸洗後、冷間圧延を行うか、中間焼鈍をはさむ2回冷間圧延を行って、所定の板厚に調整する。次に、冷間圧延したコイルを923~1173Kの湿潤水素雰囲気中で、脱炭を兼ねた再結晶焼鈍を行い、このとき鋼板表面にシリカ(SiO)を主成分とする酸化被膜を形成させる。本発明の焼鈍分離剤用MgOを水に均一に分散させ、水スラリーを得て、この鋼板上に、水スラリーを、ロールコーティング又はスプレーを用いて連続的に塗布し、約573Kで乾燥させる。こうして処理された鋼板コイルを、例えば、1473Kで20時間の最終仕上げ焼鈍を行って、鋼板表面にフォルステライト被膜(MgSiO)を形成する。フォルステライト被膜は、絶縁被膜であるとともに、鋼板表面に張力を付与して、方向性電磁鋼板の鉄損値を向上させることができる。
【実施例
【0032】
下記の実施例により本発明を詳細に説明するが、これらの実施例は本発明をいかなる意味においても制限するものではない。
【0033】
<測定方法・試験方法>
(1)ホウ素(B)の含有量の測定方法
測定試料を塩酸に完全に溶解させた後、超純水で希釈し、ICP発光分光分析装置(PS3520 VDD 株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いて、試料中のホウ素(B)の含有量を測定した。
【0034】
(2)ナトリウム(Na)の含有量の測定方法
測定試料を硝酸に完全に溶解させた後、超純水で希釈し、日立偏光ゼーマン原子吸光光度計(Z-2300 株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて、試料中のナトリウム(Na)の含有量を測定した。
【0035】
(3)塩素(Cl)の含有量の測定方法
測定試料を硝酸に溶解した後、超純水で希釈し、分光光度計(UV-2550 島津製作所製)を用いて質量を測定することで、試料中の塩素(Cl)濃度を算出した。
【0036】
(4)リン(P)の含有量の測定方法
測定試料を塩酸と硫酸の混酸に溶解させた後、超純水で希釈し、ICP発光分光分析装置(PS3520 VDD 株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いて、試料中のリン(P)の含有量を測定した。
【0037】
(5)硫黄の酸化物(SO)の含有量の測定方法
測定試料をアルミリング35mmφを使用し全圧30MPaにて加圧成形し、ケイ光X線分析装置(Simultix12型 株式会社リガク製)を用いて、試料中の硫黄の酸化物(SO)の含有量を測定した。本測定結果から、硫黄(S)のモル数を算出した。
【0038】
(6)CAA40%の測定方法
0.4Nのクエン酸溶液1×10-4と、指示薬として適量(2×10-6)の1%フェノールフタレイン液とを、2×10-4ビーカーに入れ、液温を303Kに調整し、マグネチックスターラーを使用して700rpmで攪拌しながら、クエン酸溶液中に40%の最終反応当量の酸化マグネシウムを投入して、最終反応までの時間、つまりクエン酸が消費され溶液が中性となるまでの時間を測定した。
【0039】
(7)体積基準の累積10%粒子径(D10
測定試料をメタノールで溶解し、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置(MT3300EX-II LEEDS & NORTHRUP製)を用いて、試料の体積基準の累積10%粒子径(D10)を測定した。その際、出力40Wの超音波で180秒間分散した。
【0040】
(8)フォルステライト被膜生成率試験
フォルステライトの形成機構は反応式:2MgO+SiO→MgSiOで示される。そのため、試験対象の酸化マグネシウム粉末と非晶質の二酸化ケイ素のモル比を2:1になるように調合した混合物を作成し、この混合物0.8×10-3kgを圧力50MPaで成形し、直径1.5×10-3m、厚み約3×10-3mの成形体を得た。次に、この成形体を窒素雰囲気中で、1473Kで4.0時間焼成し、得られた焼結体中のフォルステライト生成量を、X線回折により定量分析して、これに基づきフォルステライト被膜生成率を算出した。ここで、生成率が90%以上の場合、十分な反応性を有し、良好なフォルステライト被膜が形成されると考えられる。
【0041】
(9)フォルステライト被膜の外観、フォルステライト被膜の密着性及び未反応酸化マグネシウムの酸除去性の評価試験
試験試料供試鋼として、方向性電磁鋼板用のケイ素鋼スラブを、公知の方法で熱間圧延、冷間圧延を行って、最終板厚0.28×10-3mとし、更に、窒素25%+水素75%の湿潤雰囲気中で脱炭焼鈍した鋼板を用いた。脱炭焼鈍前の鋼板の組成は、質量%で、C:0.01%、Si:3.29%、Mn:0.09%、Al:0.03%、S:0.07%、N:0.0053%、残部は不可避的な不純物とFeであった。この電磁鋼板上に試験対象の酸化マグネシウムを塗布し、乾燥、最終仕上焼鈍することで、電磁鋼板上にフォルステライト被膜を形成させ、この被膜特性を調査した。具体的には、試験対象の酸化マグネシウムをスラリー状にして、乾燥後の質量で14×10-3kg・m-2になるように鋼板に塗布し、乾燥後、1473Kで20.0時間の最終仕上焼鈍を行った。最終仕上焼鈍が終了したのち冷却し、鋼板を水洗し、塩酸水溶液で酸洗浄した後、再度水洗して、乾燥させた。
【0042】
(i)外観
フォルステライト被膜の外観は、洗浄後の被膜を評価した。評価は、灰色のフォルステライト被膜が、均一に厚く形成されている場合を◎、被膜が均一であるがやや薄く形成されている場合を○、被膜が不均一で薄いが、下地の鋼板が露出している部分がない場合を△、被膜が不均一で非常に薄く、下地の鋼板が明らかに露出した部分がある場合を×とした。
【0043】
(ii)密着性
フォルステライト被膜の密着性は、洗浄前の被膜の状態に基づき評価した。評価は、被膜が均一に形成され、剥離部位が存在しない場合を◎、被膜が僅かに不均一であるが、剥離部分が存在しない場合を○、被膜が均一で、ピンホール状の剥離部位が存在する場合を△、被膜が不均一で、明確な剥離部位が存在する場合を×とした。
【0044】
(iii)未反応酸化マグネシウムの酸除去性
未反応酸化マグネシウムの酸除去性は、洗浄後の被膜の状態に基づき評価した。評価は、未反応の酸化マグネシウムが完全に除去されている場合を◎、明確な未反応酸化マグネシウムの残存は認められないものの、被膜に濃淡があり僅かに未反応酸化マグネシウムが残存すると判断した場合を○、点状に未反応酸化マグネシウムの残存が明確に観察される場合を△、明らかに未反応酸化マグネシウムが残存している場合を×とした。
【0045】
<実施例1~2及び比較例1~3>
試薬を用いて、実施例1~2及び比較例1~3の酸化マグネシウムを得た。具体的には、まず、塩化マグネシウム(試薬特級)を純水に溶解させ0.5×10mol・m-3の塩化マグネシウム水溶液を作製した。次に水酸化カルシウム(試薬特級)を純水に入れ、0.5×10mol・m-3の水酸化カルシウム分散液を作製した。これらの塩化マグネシウム水溶液及び水酸化カルシウム分散液をMgCl/Ca(OH)=1.1のモル比で1.0×10-3になるように混合し、混合液を得た。その後、ホウ酸(特級)、硫酸マグネシウム(特級)、塩化ナトリウム(特級)、リン酸マグネシウム(一級)を適量混合液に投入し、4枚ばねの攪拌羽を使用して、600rpmで攪拌しながら313Kにて5.5時間反応させ、水酸化マグネシウムスラリーを得た。その後、水酸化マグネシウムスラリーを濾過し、得られた水酸化マグネシウムをその質量の100倍の質量の純水で洗浄し、378Kで12.0時間乾燥して、水酸化マグネシウム粉末を得た。得られた水酸化マグネシウム粉末に、塩化マグネシウム六水和物(特級)を適量混合した後、電気炉で焼成し、表1に示す成分を含有する実施例1~2及び比較例1~3の酸化マグネシウム粉末を得た。なお、焼成は、酸化マグネシウムのCAA40%が80~100秒の範囲となる条件で行った。
【0046】
得られた実施例1~2及び比較例1~3の酸化マグネシウム粉末について、上記のとおり、含有成分の測定及び評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1から明らかなように、(Cl+S)/(B+Na)が0.20~0.40の範囲にあり、かつそれぞれの成分含有量が所定の範囲にある実施例1~2の酸化マグネシウムは、フォルステライト被膜生成率が90%以上と優れていた。さらに、これらの酸化マグネシウムから形成したフォルステライト被膜は、フォルステライト被膜の外観、フォルステライト被膜の密着性及び未反応酸化マグネシウムの酸除去性に優れていた。一方、(Cl+S)/(B+Na)が0.20~0.40の範囲にない比較例1~3の酸化マグネシウムは、これらの酸化マグネシウムから形成したフォルステライト被膜について、フォルステライト被膜の外観、フォルステライト被膜の密着性及び未反応酸化マグネシウムの酸除去性に問題があり、さらに比較例1及び3の酸化マグネシウムは、フォルステライト被膜生成率が低かった。
【0049】
<実施例3~5及び比較例4~5>
苦汁を用いて、実施例3~5及び比較例4~5の酸化マグネシウムを得た。具体的には、まず、濃度2.0×10mol・m-3のマグネシウムイオンを含む苦汁に、水酸化カルシウムスラリーを、反応後の水酸化マグネシウム濃度が2.0×10mol・m-3になるように添加し、混合液を得た。その後、ホウ酸(特級)、硫酸マグネシウム(特級)、塩化ナトリウム(特級)、リン酸マグネシウム(一級)を適量混合液に投入し、600rpmで攪拌しながら323Kにて7.0時間反応させた。その後、フィルタープレスで濾過し、水洗し、乾燥して水酸化マグネシウムを得た。この水酸化マグネシウムに、塩化マグネシウム六水和物(特級)を適量混合した後、ロータリーキルンで焼成したのち粉砕し、実施例3~5及び比較例4~5の酸化マグネシウム粉末を得た。なお、焼成は、酸化マグネシウムのCAA40%が80~100秒の範囲となる条件で行った。
【0050】
得られた実施例3~5及び比較例4~5の酸化マグネシウム粉末について、上記のとおり、含有成分の測定及び評価試験を行った。結果を表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
表2から明らかなように、(Cl+S)/(B+Na)が0.20~0.40の範囲にあり、かつそれぞれの成分含有量が所定の範囲にある実施例3~5の酸化マグネシウムは、フォルステライト被膜生成率が90%以上であり優れていた。さらに、これらの酸化マグネシウムから形成したフォルステライト被膜は、フォルステライト被膜の外観、フォルステライト被膜の密着性及び未反応酸化マグネシウムの酸除去性に優れていた。一方、(Cl+S)/(B+Na)が0.20~0.40の範囲にない比較例4の酸化マグネシウムは、フォルステライト被膜生成率は90%未満であり、これらの酸化マグネシウムから形成したフォルステライト被膜は、フォルステライト被膜の外観、フォルステライト被膜の密着性及び未反応酸化マグネシウムの酸除去性に問題があった。また、(Cl+S)/(B+Na)が0.20~0.40の範囲にあっても、ホウ素及び硫黄の含有量が少ない比較例5の酸化マグネシウムは、フォルステライト被膜生成率が低く、さらに、これらの酸化マグネシウムから形成したフォルステライト被膜は、フォルステライト被膜の外観、フォルステライト被膜の密着性及び未反応酸化マグネシウムの酸除去性に問題があった。
【0053】
以上より、本発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムは、フォルステライト被膜生成率、被膜の外観、被膜の密着性、及び未反応酸化マグネシウムの酸除去性に優れたフォルステライト被膜を生成することができることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、鋼板の表面に、フォルステライト被膜生成率、被膜の外観、被膜の密着性、及び未反応酸化マグネシウムの酸除去性に優れたフォルステライト被膜を生成することができる焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを提供できる。