IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日本触媒の特許一覧

<>
  • 特許-炭素材料含有材料の製造方法 図1
  • 特許-炭素材料含有材料の製造方法 図2
  • 特許-炭素材料含有材料の製造方法 図3
  • 特許-炭素材料含有材料の製造方法 図4
  • 特許-炭素材料含有材料の製造方法 図5
  • 特許-炭素材料含有材料の製造方法 図6
  • 特許-炭素材料含有材料の製造方法 図7
  • 特許-炭素材料含有材料の製造方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】炭素材料含有材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20240314BHJP
【FI】
C01B32/05
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019189167
(22)【出願日】2019-10-16
(65)【公開番号】P2021062992
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100121636
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌靖
(72)【発明者】
【氏名】郷田 隼
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-181829(JP,A)
【文献】特開2010-168251(JP,A)
【文献】特開平07-187849(JP,A)
【文献】特開2001-288413(JP,A)
【文献】特開平06-061138(JP,A)
【文献】特表2012-533498(JP,A)
【文献】特開2019-085298(JP,A)
【文献】特表平09-511021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料部分と基材部分を有する炭素材料含有材料を製造する方法であって、
溶媒(S)に可溶な可溶性炭素材料と、塩基性表面および/またはπ-π相互作用可能な表面を有する基材とを、該溶媒(S)中で混合する混合工程(I)を含み、
前記溶媒(S)が、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、クロロホルム、ジクロロメタン、および水(酸性、塩基性水を含む)からなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒であり、
前記可溶性炭素材料が、加熱によって同一分子間および/または異種分子間で縮合反応が起きる化合物(A)を焼成して得られ、
前記化合物(A)が、縮合に寄与しない骨格として芳香族構造を含み、かつ前記縮合反応によって、2種以上の基から1つの中性分子が形成されて脱離する化合物である、
炭素材料含有材料の製造方法。
【請求項2】
炭素材料部分を有する炭素材料含有材料を製造する方法であって、
溶媒(S)に可溶な可溶性炭素材料と、塩基性表面および/またはπ-π相互作用可能な表面を有する基材とを、該溶媒(S)中で混合する混合工程(I)を含み、
前記溶媒(S)が、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、クロロホルム、ジクロロメタン、および水(酸性、塩基性水を含む)からなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒であり、
前記可溶性炭素材料が、加熱によって同一分子間および/または異種分子間で縮合反応が起きる化合物(A)を焼成して得られ、
前記化合物(A)が、縮合に寄与しない骨格として芳香族構造を含み、かつ前記縮合反応によって、2種以上の基から1つの中性分子が形成されて脱離する化合物である、
炭素材料含有材料の製造方法。
【請求項3】
前記化合物(A)が、分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物である、請求項1または2に記載の炭素材料含有材料の製造方法。
【請求項4】
前記混合工程(I)の後、
(1)前記溶媒(S)の少なくとも一部を除去する溶媒除去工程(IIa)、
(2)前記可溶性炭素材料の少なくとも一部を除去する可溶性炭素材料除去工程(IIb)、
(3)さらに加熱する加熱工程(III)、
(4)前記塩基性表面および/またはπ-π相互作用可能な表面を有する材を除去する基材除去工程(IV)、
からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項2に記載の炭素材料含有材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料含有材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の省資源化や省エネルギー化のトレンドを踏まえ、軽量な炭素材料が開発され、各種分野で用いられている。このような軽量な炭素材料を備えた各種分野で有用な化合物として、例えば、カーボンコート無機粒子、中空炭素微粒子などの炭素材料含有材料が報告されている(例えば、特許文献1~4、非特許文献1~4)。また、工業的に製造されている炭素材料含有材料として、活性炭やカーボンブラックなどが知られている。
【0003】
しかし、従来のカーボンコート無機粒子や中空炭素微粒子などの炭素材料含有材料は、カーボンコートさせる無機粒子や中空構造のベースとなる微粒子の表面に、気相反応や高温蒸着反応などによって炭素材料膜を形成させて製造しなければならず、低コストで大量生産を行う工業的な製造に対して適用することが困難であり、温和な条件で大量生産に適したコート方法等が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-187849号公報
【文献】特開平7-267618号公報
【文献】特開2005-281065号公報
【文献】特開2010-168251号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Dawei Pan et.al., Langmuir, 22, 5872-5876(2006)
【文献】V.Ruiz et.al., Electrochemistry Communications, 24, 35-38(2012)
【文献】H.Nishihara et.al., Adv.Funct.Mater., 26, 6418-6427(2016)
【文献】齋藤理一郎著, 「グラフェンの最先端技術と広がる応用」, 第2章.グラフェンの基礎物性, 3.グラフェンの光電子物性
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、炭素材料含有材料を、温和な条件で簡便に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の炭素材料含有材料の製造方法は、
炭素材料部分と基材部分を有する炭素材料含有材料を製造する方法であって、
溶媒(S)に可溶な可溶性炭素材料と、基材とを、該溶媒(S)中で混合する混合工程(I)を含む。
【0008】
一つの実施形態においては、上記可溶性炭素材料が、加熱によって同一分子間および/または異種分子間で縮合反応が起きる化合物(A)を加熱して得られる。
【0009】
一つの実施形態においては、上記化合物(A)が、分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物である。
【0010】
一つの実施形態においては、
上記混合工程(I)の後、
(1)上記溶媒(S)の少なくとも一部を除去する溶媒除去工程(IIa)、
(2)上記可溶性炭素材料の少なくとも一部を除去する可溶性炭素材料除去工程(IIb)、
(3)さらに加熱する加熱工程(III)、
(4)上記基材部分を除去する基材除去工程(IV)、
からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、炭素材料含有材料を、温和な条件で簡便に製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の製造方法によって得られる炭素材料含有材料の一つの実施形態である有機無機複合体を示す概略断面図である。
図2】本発明の製造方法によって得られる炭素材料含有材料の一つの実施形態である炭素材料含有粒子の一例であるコアシェル粒子を示す概略断面図である。
図3】実施例1で得られるコアシェル粒子(1)のラマンスペクトル図である。
図4】実施例2で得られるコアシェル粒子(2)のラマンスペクトル図である。
図5】実施例3で得られるコアシェル粒子(3)のラマンスペクトル図である。
図6】実施例4で得られるコアシェル粒子(4)のラマンスペクトル図である。
図7】実施例5で得られるコアシェル粒子(5)のラマンスペクトル図である。
図8】実施例6で得られるコアシェル粒子(6)のラマンスペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
≪≪1.炭素材料含有材料の製造方法≫≫
本発明の炭素材料含有材料の製造方法は、炭素材料含有材料を製造する方法であって、溶媒(S)に可溶な可溶性炭素材料と、基材とを、該溶媒(S)中で混合する混合工程(I)を含む。
【0014】
本発明の炭素材料含有材料の製造方法においては、可溶性炭素材料と基材とを溶媒(S)中で混合する。本発明の炭素材料含有材料の製造方法においては、可溶性炭素材料やその前駆体である有機化合物と基材とを共存させた状態において焼成しなくても、可溶性炭素材料と基材とを溶媒(S)中で単に混合することによって、炭素材料含有材料が得られる。すなわち、本発明の炭素材料含有材料の製造方法においては、可溶性炭素材料と基材とを共存させた状態において焼成する必要がなく、焼成に必要となる熱エネルギーを削減できるので、炭素材料含有材料を温和な条件で簡便に製造することができる。
【0015】
本発明の炭素材料含有材料の製造方法において得られる炭素材料含有材料としては、代表的には、
(i)基材部分と炭素材料部分(該基材部分の最表面と強固に相互作用して該基材部分表面に存在している炭素材料部分のみの態様、または、該炭素材料部分および可溶性炭素材料除去工程(IIb)によって除去し得る炭素材料部分との両方を含む態様)とを有する炭素材料含有材料が溶媒(S)中に分散している、炭素材料含有材料分散体、
(ii)上記(i)の炭素材料含有材料分散体に対して、溶媒除去工程(IIa)を行って得られる、基材部分と炭素材料部分(該基材部分の最表面と強固に相互作用して該基材部分表面に存在している炭素材料部分のみの態様、または、該炭素材料部分および可溶性炭素材料除去工程(IIb)によって除去し得る炭素材料部分との両方を含む態様)とを有する炭素材料含有材料(代表的には、後述する「有機無機複合体」)、
(iii)上記(ii)の炭素材料含有材料(代表的には、後述する「有機無機複合体」)に対して、可溶性炭素材料除去工程(IIb)を行って得られる、基材部分と炭素材料部分(実質的に、該基材部分の最表面と強固に相互作用して該基材部分表面に存在している炭素材料部分のみ)とを有する炭素材料含有材料(代表的には、後述する「コアシェル粒子」)、
(iv)上記(iii)の炭素材料含有材料(代表的には、後述する「コアシェル粒子」)に対して、さらに加熱する加熱工程(III)を行って得られる、炭素材料含有材料(代表的には、後述する「高炭素化コアシェル粒子」)、
(v)上記(ii)、(iii)の炭素材料含有材料(代表的には、後述する「有機無機複合体」、後述する「コアシェル粒子」)に対して、さらに、基材部分を除去する基材除去工程(IV)を行って得られる、炭素材料含有材料(代表的には、後述する「中空炭素微粒子」)、
(vi)上記(iv)で得られる炭素材料含有材料(代表的には、後述する「高炭素化コアシェル粒子」)に対して、さらに、基材部分を除去する基材除去工程(IV)を行って得られる、炭素材料含有材料(代表的には、後述する「高炭素化中空炭素微粒子」)、
(vii)上記(v)の炭素材料含有材料(代表的には、後述する「中空炭素微粒子」)に対して、さらに加熱する加熱工程(III)を行って得られる、炭素材料含有材料(代表的には、後述する「高炭素化中空炭素微粒子」)、
などが挙げられる。もちろん、これら(i)~(vii)以外の態様の炭素材料含有材料も、本発明の炭素材料含有材料の製造方法において得られ得る。
【0016】
本発明の炭素材料含有材料の製造方法において得られる炭素材料含有材料は、最終的に、任意の適切な状態を取り得る。このような状態としては、例えば、溶媒中に分散した状態の分散体であってもよいし、溶媒を除去した状態の固形物(例えば、粒子状物、繊維状物、薄膜状物、板状物など)であってもよい。
【0017】
なお、本発明の炭素材料含有材料の製造方法において得られる炭素材料含有材料に含まれる炭素材料部分としては、代表的には、
(i)原料である可溶性炭素材料、
(ii)原料である可溶性炭素材料由来の炭素材料であって、基材の最表面と強固に相互作用して該基材表面に存在している炭素材料、
(iii)上記(ii)の炭素材料が加熱工程(III)によって高炭素化した高炭素化炭素材料、
などが挙げられる。
【0018】
本明細書においては、特に言及がない限り、本発明の製造方法によって得られる炭素材料含有材料が有する「炭素材料」を、「炭素材料部分」と称することがある。また、本明細書においては、特に言及がない限り、本発明の製造方法によって得られる炭素材料含有材料が含有することがある「基材」を、「基材部分」(後述するように、例えば、基材が無機物の場合は、「無機物部分」)と称することがある。
【0019】
≪1-1.混合工程(I)≫
混合工程(I)においては、溶媒(S)に可溶な可溶性炭素材料と、基材とを、該溶媒(S)中で混合する。
【0020】
混合の方法としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な混合方法を採用し得る。このような混合方法としては、例えば、可溶性炭素材料と基材と溶媒(S)とを、任意の適切な方法(例えば、超音波処理など)で混合する方法が挙げられる。この場合、可溶性炭素材料や基材は、任意の適切な処理(例えば、解砕、破砕、粉砕など)を行って混合してもよい。
【0021】
混合の温度としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な混合温度を採用し得る。このような混合温度としては、本発明の効果をより発現させ得る点で、好ましくは0℃~100℃であり、より好ましくは10℃~90℃であり、さらに好ましくは20℃~80℃である。上記の温度範囲にあることで、可溶性炭素材料を十分に迅速に溶解して基材と混合し得る。
【0022】
混合の際には、本発明の効果を損なわない範囲で、可溶性炭素材料と基材と溶媒(S)以外の、任意の適切な他の成分が含まれていてもよい。
【0023】
可溶性炭素材料と基材との配合割合は、基材100質量%に対して、可溶性炭素材料が、好ましくは0.01質量%~1000000質量%であり、より好ましくは0.1質量%~100000質量%であり、特に好ましくは1質量%~1000質量%である。可溶性炭素材料と基材との配合割合が上記範囲内にあれば、炭素材料含有材料をより温和な条件でより簡便に製造し得る。これらの可溶性炭素材料と基材との配合割合は、目的とする炭素材料含有材料の物性に応じて、任意に調整することができる。例えば、可溶性炭素材料と基材との配合割合を調整することにより、得られる炭素材料含有材料の物性、形態(例えば、溶媒への溶解性や、炭素材料部分または基材部分の形状(粒子状や非粒子状)、炭素材料部分または基材部分のサイズなど)を制御することができる。また、可溶性炭素材料の配合割合が多い方が迅速に基材と複合化し、可溶性炭素材料の配合割合が少ない方が後の可溶性炭素材料除去工程(IIb)で除去しやすい。
【0024】
<1-1-1.可溶性炭素材料>
可溶性炭素材料は、溶媒(S)に可溶な炭素材料である。ここで、炭素材料が溶媒(S)に可溶である場合とは、従来の炭素材料に比べて溶媒への溶解性に優れ、良好な取り扱い性を実現し得る場合である。
【0025】
炭素材料が溶媒(S)に可溶という態様としては、好ましくは、下記の実施態様を採りうる。
(実施態様1)炭素材料の全てが溶媒(S)に溶解する実施態様。すなわち、炭素材料が、溶媒(S)に溶解する成分(成分A)のみからなる実施態様。
(実施態様2)炭素材料の一部が溶媒(S)に溶解する態様。すなわち、炭素材料が、溶媒(S)に溶解する成分(成分A)と溶媒(S)に溶解しない成分(成分B)からなる実施態様。
【0026】
本発明において「溶媒(S)に可溶」とは、任意の適切な溶媒(S)に溶解する成分がある態様を意味する。このような溶媒(S)としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な溶媒を採用し得る。このような溶媒(S)としては、好ましくは、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、クロロホルム、ジクロロメタン等が挙げられる。すなわち、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、クロロホルム、ジクロロメタン、水(酸性、塩基性水を含む)からなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒に溶解する成分がある態様が好ましい。より好ましくは、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、クロロホルムからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒に溶解する成分がある態様であり、さらに好ましくは、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒に溶解する成分がある態様であり、特に好ましくは、N-メチルピロリドンに溶解する成分がある態様である。
【0027】
溶媒(S)は、1種の溶媒のみからなるものであってもよいし、2種以上の溶媒の混合溶媒であってもよい。
【0028】
炭素材料が溶媒(S)に可溶である一つの実施形態は、例えば、炭素材料が、溶媒(S)に可溶である炭素系化合物を含む実施形態である。
【0029】
溶媒(S)に可溶であるか否かの判定方法としては、例えば、炭素材料を溶媒(S)に対して0.001質量%となるように混合したのち、超音波処理を1時間行い、得られた液をPTFE製濾紙(孔径0.45μm)に通したとき、濾紙を通過した液に炭素系化合物が含まれるか否かで判定することができる。濾紙を通過した液に炭素系化合物が含まれる場合、炭素材料が溶媒に可溶である炭素系化合物を含むと判定される。上記PTFE製濾紙としては、例えば、ジーエルサイエンス株式会社製のGLクロマトディスク(型式13P)を用いることができる。
【0030】
可溶性炭素材料は、代表的には、加熱によって同一分子間および/または異種分子間で縮合反応が起きる化合物(A)を加熱して得られる。
【0031】
可溶性炭素材料を得るための、化合物(A)の加熱温度は、化合物(A)の縮合反応温度がT℃であるときに、好ましくは(T-150)℃以上であり、より好ましくは(T-150~T+50)℃であり、さらに好ましくは(T-130~T+45)℃であり、さらに好ましくは(T-100~T+40)℃であり、特に好ましくは(T-80~T+35)℃であり、最も好ましくは(T-50~T+30)℃である。
【0032】
可溶性炭素材料は、上記のように、化合物(A)の縮合反応温度と比べて比較的低温から反応が進行して炭素化が進み得る。加熱温度を上記範囲に調整することにより、溶媒への可溶性により優れる可溶性炭素材料や、構造がより精密に制御された可溶性炭素材料をより温和な条件でより簡便に製造し得る。
【0033】
化合物(A)の縮合反応温度は、TG-DTA分析によって決定できる。具体的には、下記の通りである。
(1)化合物(A)として1種の化合物を用いる場合には、化合物(A)のTG-DTA分析を、窒素ガス雰囲気下、40℃から、昇温速度10℃/分で昇温し、DTAの最も低温側のピークトップ温度を化合物(A)の縮合反応温度(T℃)と決定する。
(2)化合物(A)として2種以上の化合物の混合物を用いる場合には、該混合物のTG-DTA分析を、窒素ガス雰囲気下、40℃から、昇温速度10℃/分で昇温し、DTAの最も低温側のピークトップ温度を化合物(A)(2種以上の化合物の混合物)の縮合反応温度(T℃)と決定する。
(3)ただし、1種の化合物や2種以上の化合物の混合物としての化合物(A)に、例えば、溶媒や水分や水和水等の不純物が含まれている場合は、該不純物の脱離に伴うDTAピーク(不純物ピークと称することもある)が縮合反応温度よりも低温で観測されることがある。このような場合には、上記の不純物ピークは無視して、その化合物(A)の縮合反応温度を決定する。通常は、上記の不純物ピークは無視した上で、DTAの最も低温側のピークトップ温度を、その化合物(A)の縮合反応温度と決定する。
【0034】
可溶性炭素材料を得るための、化合物(A)の加熱温度は、具体的な加熱温度として、好ましくは200℃~500℃であり、より好ましくは220℃~400℃であり、さらに好ましくは230℃~350℃であり、最も好ましくは250℃~300℃である。化合物(A)の加熱温度を上記範囲に調整することにより、溶媒への可溶性により優れる可溶性炭素材料や、構造がより精密に制御された可溶性炭素材料をより温和な条件でより簡便に製造し得る。
【0035】
可溶性炭素材料を得るための、化合物(A)の加熱時間は、具体的な加熱時間として、好ましくは0.1時間~120時間であり、より好ましくは0.5時間~100時間であり、さらに好ましくは1時間~50時間であり、最も好ましくは2時間~24時間である。加熱時間を上記範囲に調整することにより、溶媒への可溶性により優れる可溶性炭素材料や、構造がより精密に制御された可溶性炭素材料をより温和な条件でより簡便に製造し得る。
【0036】
化合物(A)は、好ましくは、23℃環境下で固体であって融点を有する。融点を有することで、焼成の過程で融解し、分子間での反応が良好に進行する。仮に融点を有さない場合、焼成の過程で融解しないので、分子の位置が固定され、分子間での反応が促進されにくく、炭素材料化しにくい。このような化合物(A)を採用することにより、縮合反応を促進し、分解反応を抑制したり、得られる可溶性炭素材料の溶媒への溶解性がより優れる(例えば、溶媒に溶解する成分がより多くなったり、溶解できる溶媒の種類がより増えたりする)。
【0037】
化合物(A)は、縮合に寄与しない骨格が芳香族構造であることが好ましい。骨格が芳香族であることによって、得られる可溶性炭素材料の炭素成分がより安定になり得る。このような芳香族構造としては、例えば、ベンゼン、ナフタレンのような炭素原子からなる芳香族構造;ピリジン、ピリミジン、フラン、チオフェンのような炭素原子およびヘテロ原子(窒素や酸素など)からなるヘテロ芳香族構造;などが好ましく、これらの中でも、ベンゼン、ピリジンのような六員環構造をもつ芳香族構造およびヘテロ芳香族構造がより好ましい。
【0038】
化合物(A)の分子量は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な分子量を採用し得る。このような分子量としては、本発明の効果をより発現させ得る点で、好ましくは500以下であり、より好ましくは75~450であり、さらに好ましくは80~400であり、最も好ましくは100~350である。
【0039】
化合物(A)の縮合反応温度は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な縮合反応温度を採用し得る。このような縮合反応温度としては、本発明の効果をより発現させ得る点で、好ましくは450℃以下であり、より好ましくは400℃以下であり、さらに好ましくは200℃~370℃であり、特に好ましくは250℃~350℃である。
【0040】
化合物(A)の、窒素ガス雰囲気下、40℃から、10℃/分の昇温条件によってTG-DTA分析を行ったときの、温度50℃における初期重量M50に対する温度500℃における重量M500の重量比(M500/M50)は、本発明の効果をより発現させ得る点で、好ましくは0.2以上であり、より好ましくは0.2~0.9であり、最も好ましくは0.3~0.8である。上記の重量比(M500/M50)が上記範囲内に収まる化合物(A)を用いることで、可溶性炭素材料を十分に得ることができる。
【0041】
[化合物(A)の代表的な実施形態(実施形態1)]
化合物(A)の代表的な実施形態(実施形態1)は、加熱によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物である。芳香族環上にラジカルが発生した芳香族化合物が、同一分子間および/または異種分子間で縮合反応を起こし、可溶性炭素材料となり得る。
【0042】
加熱によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物としては、好ましくは、加熱によって気体(常温常圧において気体状態である気体)を発生する芳香族化合物である。
【0043】
加熱によって気体を発生する芳香族化合物としては、芳香族化合物であって、加熱を行うことによって気体が発生するものであれば、任意の適切な芳香族化合物を採用し得る。このような常温常圧において気体状態である気体としては、好ましくは、CO、CO、N、O、H、NOから選ばれる少なくとも1種である。
【0044】
加熱によってCOおよび/またはCOを発生する芳香族化合物としては、例えば、「-C(=O)-」および/または「-O-C(=O)-」構造を有する芳香族化合物(例えば、芳香族ケトン誘導体、芳香族エステル誘導体、酸無水物など)などが挙げられる。
【0045】
加熱によってCOおよび/またはCOを発生する芳香族化合物としては、例えば、下記のような化合物が挙げられる。
【0046】
【化1】
【0047】
加熱によってNを発生する芳香族化合物としては、例えば、「-NH-NH-」構造や「-N=N-」構造や、「-N」構造を有する芳香族化合物(例えば、芳香族アゾ化合物、芳香族アジド化合物、トリアゾール置換芳香族化合物、テトラゾール置換芳香族化合物、トリアジンまたはその誘導体、テトラジンまたはその誘導体、芳香族ヒドラジン誘導体など)などが挙げられる。
【0048】
加熱によってNを発生する芳香族化合物としては、例えば、下記のような化合物が挙げられる。なお、下記の化合物において、Rは、水素原子、または、置換基を有していてもよいアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基を表す。
【0049】
【化2】
【0050】
加熱によってOを発生する芳香族化合物としては、例えば、「-O-O-」構造を有する芳香族化合物(例えば、芳香族炭素酸化物、芳香族過酸化物など)などが挙げられる。
【0051】
加熱によってOを発生する芳香族化合物としては、例えば、下記のような化合物が挙げられる。なお、下記の化合物において、Rは、水素原子、または、置換基を有していてもよいアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基を表す。
【0052】
【化3】
【0053】
加熱によってHを発生する芳香族化合物としては、例えば、「-CH-」構造を有する縮合多環式芳香族化合物(例えば、フェナレン系化合物など)などが挙げられる。
【0054】
加熱によってHを発生する芳香族化合物としては、例えば、下記のような化合物が挙げられる。
【0055】
【化4】
【0056】
加熱によってNOを発生する芳香族化合物としては、例えば、「-NO」構造を有する芳香族化合物(例えば、芳香族ニトロ化合物など)などが挙げられる。
【0057】
加熱によってNOを発生する芳香族化合物としては、例えば、下記のような化合物が挙げられる。
【0058】
【化5】
【0059】
加熱によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物は、加熱による分解性を有し、骨格の少なくとも一部がかい離・分解することによって気体分子(好ましくは、CO、CO、N、O、H、NOから選ばれる少なくとも1種)が生成し、残った芳香族環上にラジカルが生成する化合物である。このような芳香族化合物を用いることにより、反応触媒を必要とすることなく、自身の分解のみによる反応が起こるため、化学反応の副生成物や反応触媒が炭素材料に存在してしまって致命的な不純物となることを抑制でき、より高品質な可溶性炭素材料を得ることができる。また、このような芳香族化合物を用いることにより、可燃性ガスを使用することなく、比較的温和な温度環境下において、可溶性炭素材料を得ることができる。また、このような芳香族化合物は、触媒作用を必要としない高反応性を有し得る。
【0060】
[化合物(A)の代表的な実施形態(実施形態2)]
化合物(A)の代表的な実施形態(実施形態2)は、縮合反応によって、2種以上の基から1つの中性分子が形成されて脱離する化合物である。この実施形態2においては、1つの化合物が2種以上の基を有している場合であってもよいし、2つ以上の化合物のそれぞれの有する基を組み合わせて2種以上の基となる場合であってもよい。このような化合物(A)が、同一分子間および/または異種分子間で縮合反応を起こし、可溶性炭素材料となり得る。
【0061】
縮合反応としては、2種以上の基から1つの中性分子が形成されて脱離することによる縮合反応であれば、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な縮合反応を採用し得る。このような縮合反応とすることにより、比較的低温で反応を行うことが可能となり得る。このような縮合反応としては、例えば、
(a)-H基と-OH基とからHOが形成されて脱離することによる縮合反応、
(b)-H基と-OR基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからROHが形成されて脱離することによる縮合反応、
(c)-H基と-X基(XはハロゲンまたはCN)とからHXが形成されて脱離することによる縮合反応、
(d)-H基と-NH基とからNHが形成されて脱離することによる縮合反応、
(e)-H基と-NHR基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからRNHが形成されて脱離することによる縮合反応、
(f)-H基と-NR基(R、Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからRNHが形成されて脱離することによる縮合反応、
(g)-H基と-SH基とからHSが形成されて脱離することによる縮合反応、
(h)-H基と-SR基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからRSHが形成されて脱離することによる縮合反応、
(i)-H基と-OOCR基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからRCOOHが形成されて脱離することによる縮合反応、
(j)-H基と-OSO(OH)基とからHSOが形成されて脱離することによる縮合反応、
(k)-H基と-OSOR基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからRSO(OH)が形成されて脱離することによる縮合反応、
(l)-H基と-OSO(OR)基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからROSOHが形成されて脱離することによる縮合反応、
(m)-H基と-OSO(OH)基とからHSOが形成されて脱離することによる縮合反応、
などが挙げられる。特に、脱離した中性成分が該脱離温度(焼成温度)で気体成分であると、炭素材料に取り込まれることなく、気相部にあるため、不純物となりにくい。
【0062】
なお、上記の縮合反応の中でも、特に、
(a)-H基と-OH基とからHOが形成されて脱離することによる縮合反応、
(b)-H基と-OR基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからROHが形成されて脱離することによる縮合反応、
(i)-H基と-OOCR基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからRCOOHが形成されて脱離することによる縮合反応、
である場合には、得られる可溶性炭素材料が、好ましくは、下記の(1)~(6)からなる群から選ばれる少なくとも1種の態様を特に有する。
【0063】
縮合反応として、-H基と-OH基とからHOが形成されて脱離することによる縮合反応(上記(a))を代表例として説明する。
【0064】
実施形態2における化合物(A)の一つの実施形態(実施形態(X)と称することがある)は、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)または2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)であり、該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数の半数が-OH基であり、もう半数が-H基である。
【0065】
実施形態(X)においては、
(i)化合物(A)が、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)である場合、
(ii)化合物(A)が、2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)である場合、
の2つの場合のいずれかを採り得る。
【0066】
実施形態(X)において、「骨格の構造形成に寄与していない置換基」とは、上記(i)の場合の「1個の炭素6員環構造からなる骨格」または上記(ii)の場合の「2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格」の該骨格の構造形成に寄与していない置換基を意味する。例えば、上記(i)の場合として、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)が後に示す化学式(a1-1)で表される場合、1個の炭素6員環構造からなる骨格の構造形成に寄与していない置換基は6個の-OH基と6個の-H基であり、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)が後に示す化学式(a1-2)で表される場合、1個の炭素6員環構造からなる骨格の構造形成に寄与していない置換基は3個の-OH基と3個の-H基である。また、例えば、上記(ii)の場合として、2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)が後に示す化学式(a2-1)で表される場合、2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格の構造形成に寄与していない置換基は6個の-OH基と6個の-H基である。
【0067】
実施形態(X)においては、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)の該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数の半数が-OH基であり、もう半数が-H基であり、2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)の該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数の半数が-OH基であり、もう半数が-H基である。このような置換基の構成を有することにより、化合物(A)は、加熱により、同一分子同士および/または異なる分子間で効果的に脱水反応が起き得る。
【0068】
実施形態(X)において採用し得る化合物(A)としては、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)または2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)であり、該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数の半数が-OH基であり、もう半数が-H基である化合物であれば、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な化合物を採用し得る。このような化合物(A)としては、例えば、下記のような化合物が挙げられる。
【0069】
【化6】
【0070】
実施形態(X)において採用し得る化合物(A)の中でも、-H基と-OH基とからHOが形成されて脱離することによる縮合反応が起こりやすいと推察され、低温で反応が進行しやすいと推察される点で、フロログルシノール(化合物(a1-2))、ヘキサヒドロキシトリフェニレン(HHTP)(化合物(a2-1))が好ましい。
【0071】
実施形態2における化合物(A)の別の一つの実施形態(実施形態(Y)と称することがある)は、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)および/または2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)から選ばれる2種以上であり、該化合物(a1)の骨格の構造形成に寄与していない置換基の数および該化合物(a2)の骨格の構造形成に寄与していない置換基の数の合計の半数が-OH基であり、もう半数が-H基である。
【0072】
実施形態(Y)においては、
(i)化合物(A)が、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)から選ばれる2種以上からなる場合、
(ii)化合物(A)が、2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)から選ばれる2種以上からなる場合、
(iii)化合物(A)が、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)から選ばれる1種以上と2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)から選ばれる1種以上とからなる場合、
の3つの場合のいずれかを採り得る。
【0073】
実施形態(Y)において、「化合物(a1)の骨格の構造形成に寄与していない置換基の数および化合物(a2)の骨格の構造形成に寄与していない置換基の数の合計」とは、下記のような意味である。すなわち、上記(i)の場合、2種以上の化合物(a1)のそれぞれにおける「1個の炭素6員環構造からなる骨格」の該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数を、全て合計した数を意味する。上記(ii)の場合、2種以上の化合物(a2)のそれぞれにおける「2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格」の該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数を、全て合計した数を意味する。上記(iii)の場合、1種以上の化合物(a1)のそれぞれにおける「1個の炭素6員環構造からなる骨格」の該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数と、1種以上の化合物(a2)のそれぞれにおける「2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格」の該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数とを、全て合計した数を意味する。
【0074】
実施形態(Y)において、例えば、上記(i)の場合として、2種以上の化合物(a1)が下記の化学式(a1-5)および化学式(a1-6)で表される場合、化学式(a1-5)で表される化合物の1個の炭素6員環構造からなる骨格の構造形成に寄与していない置換基は2個の-OH基と4個の-H基であり、化学式(a1-6)で表される化合物の1個の炭素6員環構造からなる骨格の構造形成に寄与していない置換基は4個の-OH基と2個の-H基であり、それらの合計は、6個の-OH基と6個の-H基である。また、例えば、上記(iii)の場合として、1種以上の化合物(a1)が下記の化学式(a1-5)および化学式(a1-7)で表され、1種以上の化合物(a2)が下記の化学式(a2-3)で表される場合、化学式(a1-5)で表される化合物の1個の炭素6員環構造からなる骨格の構造形成に寄与していない置換基は2個の-OH基と4個の-H基であり、化学式(a1-7)で表される化合物の1個の炭素6員環構造からなる骨格の構造形成に寄与していない置換基は6個の-OH基であり、化学式(a2-3)で表される化合物の2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格の構造形成に寄与していない置換基は2個の-OH基と6個の-H基である。
【0075】
【化7】
【0076】
【化8】
【0077】
このような化合物(A)を用いることにより、反応触媒を必要とすることなく、自身の脱水反応による反応が起こるため、化学反応の副生成物や反応触媒が炭素材料中に存在してしまって致命的な不純物となることを抑制でき、より高品質な炭素材料を得ることができる。また、このような化合物(A)を用いることにより、可燃性ガスを使用することなく、比較的温和な温度環境下において、炭素材料を得ることができる。また、このような化合物(A)は、触媒作用を必要としない高反応性を有し得る。
【0078】
実施形態2における化合物(A)の好ましい実施形態として、分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物が挙げられる。
【0079】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物としては、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な、分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物を採用し得る。
【0080】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物において、該フェノール性ヒドロキシル基が結合する芳香環は炭化水素芳香環であることが好ましい。フェノール性ヒドロキシル基が結合する芳香環がヘテロ芳香環であっても本発明の効果を発揮し得るが、環構造がより安定な炭化水素芳香環であるほうが、得られる可溶性炭素材料がより安定となり得る。なお、ヘテロ芳香環とは、炭素によって環構造が構成されている炭化水素芳香環とは異なり、炭素と炭素以外の元素によって環構造が構成されている芳香環を意味する。
【0081】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物は、フェノール性ヒドロキシル基以外の置換基を有していてもよい。このような置換基としては、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な置換基を採用し得る。このような置換基としては、本発明の効果をより高める点では、ヒドロキシル基のみであることが好ましい。ヒドロキシル基以外の置換基が存在しても本発明の効果は発揮され得るが、ヒドロキシル基以外の置換基が存在しないほうが、副反応を防ぎやすく、より炭素材料化しやすい。なお、ここにいうフェノール性ヒドロキシル基以外の置換基としての「ヒドロキシル基」は、フェノール性ではないヒドロキシル基を意味する。なお、当然のことであるが、置換基とは、水素基(-H)に代わって置き換えられた基である。
【0082】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物を構成する元素としては、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な元素を採用し得る。このような元素としては、本発明の効果を高める点では、炭素、酸素、水素のみであることが好ましい。炭素、酸素、水素以外の元素が存在しても本発明の効果は発揮され得るが、炭素、酸素、水素以外の元素が存在しないほうが、副反応を防ぎやすく、より炭素材料化しやすい。
【0083】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物としては、本発明の効果をより発揮させ得るため、該化合物の縮合反応温度が200℃~450℃の範囲であることが好ましく、200~400℃の範囲であることがより好ましい。これにより、効果的に炭素材料化することができる。
【0084】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。2種以上の場合でも、分子間での縮合反応温度は上述の範囲内であることが好ましい。
【0085】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物としては、例えば、一般式(1)~(11)に示す化合物が挙げられる。
【0086】
【化9】
【0087】
一般式(1)~(11)のそれぞれにおいて、Xは水素原子または水酸基を表し、Xの中の3つ以上が水酸基(フェノール性ヒドロキシル基)である。
【0088】
ここで、フェノール性ヒドロキシル基とは、芳香環に結合した水酸基を意味する。すなわち、一般式(1)においては、芳香環に結合した6つのXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(2)においては、芳香環に結合した6つのXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(3)においては、芳香環に結合した10個のXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(4)においては、芳香環に結合した11個のXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(5)においては、芳香環に結合した9つのXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(6)においては、芳香環に結合した9つのXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(7)においては、芳香環に結合した10個のXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(8)においては、芳香環に結合した11個のXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(9)においては、芳香環に結合した9つのXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(10)においては、芳香環に結合した9つのXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(11)においては、芳香環に結合した12個のXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基である。
【0089】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物の中でも、-H基と-OH基とからHOが形成されて脱離することによる縮合反応が起こりやすいと推察され、反応が進行しやすいと推察される点で、好ましくは、フロログルシノール、ヘキサヒドロキシトリフェニレンであり、より好ましくは、フロログルシノールである。
【0090】
[化合物(A)の代表的な実施形態(実施形態3)]
化合物(A)の代表的な実施形態(実施形態3)は、実施形態1と実施形態2の双方を同時に採用する形態である。すなわち、実施形態3は、加熱によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物であり、かつ縮合反応によって、2種以上の基から1つの中性分子が形成されて脱離する化合物である。このような化合物(A)が、同一分子間および/または異種分子間で縮合反応を起こし、可溶性炭素材料となり得る。
【0091】
実施形態3の具体的な構造としては、例えば、化合物(a3-1)が挙げられる。化合物(a3-1)は、加熱により二酸化炭素分子が脱離し、芳香族環上にラジカル(反応活性点)が生じるとともに、ヒドロキシル基と水素基が分子間で脱水し縮合反応が起こる。
【0092】
【化10】
【0093】
このような化合物(A)を用いることにより、反応触媒を必要とすることなく、自身の脱水反応による反応が起こるため、化学反応の副生成物や反応触媒が炭素材料中に存在してしまって致命的な不純物となることを抑制でき、より高品質な可溶性炭素材料を得ることができる。また、このような化合物(A)を用いることにより、可燃性ガスを使用することなく、比較的温和な温度環境下において、可溶性炭素材料を得ることができる。また、このような化合物(A)は、触媒作用を必要としない高反応性を有し得る。
【0094】
<1-1-2.基材>
基材は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な基材を採用し得る。このような基材としては、例えば、粒子状の基材(基材粒子)、非粒子状の基材(例えば、繊維状基材、薄膜状基材、板状基材、任意の形状を有する成型体など)などを採用し得る。
【0095】
基材は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0096】
基材としては、例えば、無機物、有機物、有機無機複合物などが挙げられる。
【0097】
無機物としては、例えば、粒子状の無機物(無機物粒子)、非粒子状の無機物(例えば、繊維状の無機物、薄膜状の無機物、板状の無機物など)などを採用し得る。無機物としては、粒子状の無機物(無機物粒子)が好ましい。
【0098】
有機物としては、例えば、粒子状の有機物(有機物粒子)、非粒子状の有機物(例えば、繊維状の有機物、薄膜状の有機物、板状の有機物など)などを採用し得る。有機物としては、粒子状の有機物(有機物粒子)が好ましい。
【0099】
有機無機複合物としては、例えば、粒子状の有機無機複合物(有機無機複合物粒子)、非粒子状の有機無機複合物(例えば、繊維状の有機無機複合物、薄膜状の有機無機複合物、板状の有機無機複合物など)などを採用し得る。有機無機複合物としては、粒子状の有機無機複合物(有機無機複合物粒子)が好ましい。
【0100】
基材としては、表面の特徴を勘案すると、例えば、塩基性表面を有する基材、π-π相互作用可能な表面を有する基材などが挙げられる。
【0101】
塩基性表面を有する基材は、可溶性炭素材料が酸基(例えば、フェノール性ヒドロキシル基)を有する場合に、酸-塩基相互作用によって、該可溶性炭素材料とより強固に結びつき得る。
【0102】
π-π相互作用可能な表面を有する基材は、可溶性炭素材料がπ電子を有する場合に、π-π相互作用によって、該可溶性炭素材料とより強固に結びつき得る。
【0103】
塩基性表面を有する基材としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な塩基性表面を有する基材を採用し得る。このような塩基性表面を有する基材としては、例えば、アルミナ、酸化マグネシウム、窒化アルミニウム等の無機物、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合物、ベンゾグアナミン・メラミン・ホルムアルデヒド縮合物、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物等の有機物などの塩基性表面を有する物質からなる基材が挙げられる。なお、塩基性表面を有する基材としては、上記のような塩基性表面を有する物質を少なくとも表面に有する基材を好ましく採用し得る。
【0104】
π-π相互作用可能な表面を有する基材としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切なπ-π相互作用可能な表面を有する基材を採用し得る。このようなπ-π相互作用可能な表面を有する基材としては、例えば、窒化ホウ素、黒鉛等の無機物、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合物、ベンゾグアナミン・メラミン・ホルムアルデヒド縮合物、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物等の有機物などのπ-π相互作用可能な表面を有する物質からなる基材が挙げられる。なお、π-π相互作用可能な表面を有する基材としては、上記のようなπ-π相互作用可能な表面を有する物質を少なくとも表面に有する基材を好ましく採用し得る。
【0105】
可溶性炭素材料と基材とを溶媒(S)中で混合する混合工程(I)によって、代表的には、基材を含む塊状の炭素材料含有材料が得られ得る(この場合、解砕などによって粒子状の炭素材料含有材料を得ることができ得る)。また、可溶性炭素材料と基材との配合割合を調整することにより、可溶性炭素材料と基材とを溶媒(S)中で混合する混合工程(I)によって、粒子状の炭素材料含有材料が得られる場合もある。
【0106】
基材として繊維状の基材を用いる場合は、例えば、後述するコアシェル粒子の代わりに繊維状のコアシェル繊維が得られ得る。また、繊維状の基材を用いる場合は、例えば、後述する中空炭素微粒子の代わりにチューブ状の中空炭素材料が得られ得る。
【0107】
基材として薄膜状の基材を用いる場合は、可溶性炭素材料と基材とを溶媒(S)中で混合する混合工程(I)によって、例えば、積層状の炭素材料含有材料が得られ得る。また、このような積層状の炭素材料含有材料に対して、さらに、後述する除去工程(II)や加熱工程(III)などを施すことにより、例えば、薄膜状の各種炭素材料が得られ得る。
【0108】
基材として板状や任意の形状を有する成型体の基材を用いる場合は、可溶性炭素材料を溶媒(S)中で溶解させたものに基材を含浸させたり、基材上に塗布したりすることで、炭素材料含有材料が得られ得る。
【0109】
本発明において、本発明の効果をより発現させ得る点で、基材としては粒子状の基材(基材粒子)が好ましい。
【0110】
本明細書にいう「基材粒子」としては、好ましくは、粒子全体が本明細書にいう「基材」である粒子、または、粒子の一部が本明細書にいう「基材」である粒子である。粒子の一部が本明細書にいう「基材」である粒子としては、表面に本明細書にいう「基材」を有する粒子が好ましい。本明細書にいう「基材粒子」としては、より好ましくは、粒子全体が本明細書にいう「基材」である粒子である。
【0111】
基材粒子の平均粒子径は、目的によって適宜設定され得る。本発明の効果をより発現させ得る点で、基材粒子の平均粒子径は、好ましくは0.01μm~100μmであり、特に好ましくは0.1μm~10μmである。
【0112】
基材粒子の平均粒子径は、体積基準の粒度分布における平均粒子径であり、レーザー回折散乱法で測定することが好ましい。
【0113】
≪1-2.溶媒除去工程(IIa)、可溶性炭素材料除去工程(IIb)、加熱工程(III)、基材除去工程(IV)≫
本発明の炭素材料含有材料の製造方法の一つの実施形態においては、混合工程(I)の後、
(1)前記溶媒(S)の少なくとも一部を除去する溶媒除去工程(IIa)、
(2)前記可溶性炭素材料の少なくとも一部を除去する可溶性炭素材料除去工程(IIb)、
(3)さらに加熱する加熱工程(III)、
(4)前記基材部分を除去する基材除去工程(IV)、
からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0114】
なお、本発明の炭素材料含有材料の製造方法の一つの実施形態においては、混合工程(I)の後に、上記の工程(IIa)、(IIb)、(III)、(IV)以外に、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な工程を含んでいてもよい。このような工程としては、例えば、精製工程などが挙げられる。精製工程としては、例えば、精製対象物を、任意の適切な溶媒によって洗浄する工程などが挙げられる。このような溶媒としては、回収した溶媒でもよいが、洗浄効果を上げる点で、フレッシュな溶媒が好ましい。また、洗浄は、1回でもよいし、2回以上の複数回でもよい。なお、このような洗浄は、例えば、上記の工程(IIa)、(IIb)、(III)、(IV)の中において行われてもよい。
【0115】
本発明の炭素材料含有材料の製造方法が、溶媒除去工程(IIa)、可溶性炭素材料除去工程(IIb)、加熱工程(III)、基材除去工程(IV)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む場合、それらの順序は、目的とする炭素材料含有材料の態様に応じて、適宜設定し得る。
【0116】
目的とする炭素材料含有材料が、基材部分と炭素材料部分(該基材部分の最表面と強固に相互作用して該基材部分表面に存在している炭素材料部分のみの態様、または、該炭素材料部分および可溶性炭素材料除去工程(IIb)によって除去し得る炭素材料部分との両方を含む態様)とを有する炭素材料含有材料(代表的には、後述する「有機無機複合体」)の場合には、混合工程(I)の後、好ましくは、溶媒除去工程(IIa)を行い、さらに、必要に応じて、可溶性炭素材料除去工程(IIb)を行うこともある。
【0117】
目的とする炭素材料含有材料が、基材部分と炭素材料部分(実質的に、該基材部分の最表面と強固に相互作用して該基材部分表面に存在している炭素材料部分のみ)を有する炭素材料含有材料(代表的には、後述する「コアシェル粒子」)の場合には、混合工程(I)の後、好ましくは、溶媒除去工程(IIa)を行い、さらに、可溶性炭素材料除去工程(IIb)を行う。
【0118】
目的とする炭素材料含有材料が、炭素材料部分が高炭素化された炭素材料含有材料(代表的には、後述する「高炭素化コアシェル粒子」)の場合には、混合工程(I)の後、好ましくは、溶媒除去工程(IIa)を行い、さらに、可溶性炭素材料除去工程(IIb)を行い、その後、加熱工程(III)を行う。
【0119】
目的とする炭素材料含有材料が、基材部分が除去された炭素材料含有材料(代表的には、後述する「中空炭素微粒子」)の場合には、混合工程(I)の後、好ましくは、溶媒除去工程(IIa)を行い、さらに、必要に応じて、可溶性炭素材料除去工程(IIb)を行い、その後、基材除去工程(IV)を行う。
【0120】
目的とする炭素材料含有材料が、中空炭素微粒子の有する炭素部分が高炭素化された炭素材料含有材料(代表的には、後述する「高炭素化中空炭素微粒子」)の場合には、混合工程(I)の後、好ましくは、溶媒除去工程(IIa)を行い、さらに、可溶性炭素材料除去工程(IIb)を行い、その後、加熱工程(III)を行い、その後、基材除去工程(IV)を行うか、または、混合工程(I)の後、好ましくは、溶媒除去工程(IIa)を行い、さらに、必要に応じて、可溶性炭素材料除去工程(IIb)を行い、その後、基材除去工程(IV)を行い、その後、加熱工程(III)を行う。
【0121】
<1-2-1.溶媒除去工程(IIa)>
上述の通り、混合工程(I)によって、代表的には、基材部分と炭素材料部分(該基材の最表面と強固に相互作用して該基材表面に存在している炭素材料部分のみの態様、または、該炭素材料部分および可溶性炭素材料除去工程によって除去しうる炭素材料部分との両方を含む態様)とを有する炭素材料含有材料(代表的には、後述する「有機無機複合体」)が得られ得る。この炭素材料含有材料は、混合工程(I)の直後においては、代表的には、溶媒(S)を含んでいる。すなわち、この炭素材料含有材料は、代表的には、分散体の態様であり得る。
【0122】
このようにして得られた炭素材料含有材料(代表的には、後述する「有機無機複合体」)に対して、溶媒(S)の少なくとも一部を除去する溶媒除去工程(IIa)を行ってもよい。
【0123】
溶媒除去工程(IIa)により、溶媒(S)の少なくとも一部を除去する。代表的には、溶媒除去工程(IIa)においては、溶媒(S)の実質的に全てを除去する。
【0124】
溶媒除去工程(IIa)において、溶媒(S)の少なくとも一部を除去する手段としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な溶媒除去手段を採用し得る。このような溶媒除去手段としては、例えば、蒸留、透析などが挙げられる。
【0125】
<1-2-2.可溶性炭素材料除去工程(IIb)>
本発明の炭素材料含有材料の製造方法においては、混合工程(I)の後、可溶性炭素材料の少なくとも一部を除去する可溶性炭素材料除去工程(IIb)を行ってもよい。
【0126】
可溶性炭素材料除去工程(IIb)により、可溶性炭素材料の少なくとも一部を除去する。代表的には、可溶性炭素材料除去工程(IIb)においては、炭素材料部分の中で、基材部分の最表面と強固に相互作用して該基材部分表面に存在している炭素材料部分以外の、可溶性炭素材料除去工程(IIb)によって除去し得る炭素材料部分の少なくとも一部を除去する。代表的には、可溶性炭素材料除去工程(IIb)によって除去し得る炭素材料部分の実質的に全てを除去する。
【0127】
可溶性炭素材料除去工程(IIb)において、可溶性炭素材料の少なくとも一部を除去する手段としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な可溶性炭素材料除去手段を採用し得る。このような可溶性炭素材料除去手段としては、例えば、任意の適切な溶媒による洗浄などが挙げられる。洗浄は適切な溶媒で可溶部分を溶かし出した後、ろ過や遠心分離を行うことで達成できる。このような溶媒としては、回収した溶媒でもよいが、洗浄効果を上げる点で、フレッシュな溶媒が好ましい。また、洗浄は、1回でもよいし、2回以上の複数回でもよい。
【0128】
<1-2-3.加熱工程(III)>
本発明の炭素材料含有材料の製造方法においては、混合工程(I)の後、加熱工程(III)を行ってもよい。
【0129】
加熱工程(III)により、代表的には、炭素材料部分が高炭素化される。
【0130】
加熱工程(III)における加熱温度としては、具体的な加熱温度として、好ましくは500℃~3000℃であり、より好ましくは600℃~2500℃であり、最も好ましくは700℃~2000℃である。加熱工程(III)における加熱温度を上記範囲に調整することにより、炭素材料部分を効果的に高炭素化させることができる。上記温度は基材の耐熱温度以下であることが好ましい。
【0131】
加熱工程(III)における加熱時間は、具体的な加熱時間として、好ましくは0.1時間~120時間であり、より好ましくは0.5時間~100時間であり、さらに好ましくは1時間~50時間であり、最も好ましくは2時間~24時間である。加熱時間を上記範囲に調整することにより、炭素材料部分を効果的に高炭素化させることができる。
【0132】
<1-2-4.基材除去工程(IV)>
本発明の炭素材料含有材料の製造方法においては、混合工程(I)の後、基材除去工程(IV)を行ってもよい。
【0133】
基材除去工程(IV)により、基材部分の少なくとも一部を除去する。代表的には、基材除去工程(IV)により、基材部分の実質的に全てを除去する。
【0134】
基材除去工程(IV)において、基材部分の少なくとも一部を除去する手段としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な基材除去手段を採用し得る。このような基材除去手段としては、例えば、任意の適切な溶剤による処理などが挙げられる。例えば、基材部分が無機物部分の場合、炭素材料部分が溶解されずに無機物部分を溶解できる溶剤で除去する方法が挙げられる。上記のような溶解特性をもつ溶剤としては、特に限定はされないが、水系溶剤が好ましい。このように水系溶剤が好ましい理由としては、本発明の製造方法で製造される炭素材料含有材料に含まれる炭素材料部分は水に溶けにくく、一方、無機物部分は水(特に酸性水や塩基性水)に溶けるものが多いためである。水系溶剤としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸等の酸性水溶液;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の塩基性水溶液;などが挙げられる。また、基材除去工程(IV)において、温度は、特に限定はされないが、水系溶剤の溶解特性を効果的に発現させ得る点で、好ましくは0℃~150℃であり、より好ましくは20℃~100℃である。さらに、基材除去工程(IV)の物理的な処理としては、特に限定はされないが、除去性を効果的に発現させ得る点で、好ましくは、静置、撹拌、超音波処理、せん断操作であり、より好ましくは、撹拌、超音波処理、せん断操作である。
【0135】
≪≪2.炭素材料含有材料の製造方法の代表例≫≫
本発明の炭素材料含有材料の製造方法によって製造し得る炭素材料含有材料としては、多種多様なものが挙げられ、形状としても、粒子状、非粒子状(例えば、繊維状、薄膜状など)など、各種の形状を取り得る。形状としては、粒子状が好ましい。
【0136】
基材として、例えば、粒子状の基材(基材粒子)、非粒子状の基材(例えば、繊維状基材、薄膜状基材など)などの各種の形状の基材を採用する場合、それぞれの形状に応じて、多種多様な、炭素材料含有材料が得られ得る。この場合の基材としては、粒子状の基材(基材粒子)が好ましい。
【0137】
基材粒子を用いる場合は、本発明の炭素材料含有材料の製造方法によって、代表的には、基材粒子を含む塊状の炭素材料含有材料が得られ得る。この場合、解砕などによって、粒子状の炭素材料含有材料を得ることができ得る。また、可溶性炭素材料と基材との配合割合を調整することにより、本発明の炭素材料含有材料の製造方法によって、粒子状の炭素材料含有材料が得られる場合もある。
【0138】
繊維状基材を用いる場合は、本発明の炭素材料含有材料の製造方法によって、後述するコアシェル粒子の代わりに繊維状のコアシェル繊維が得られ得る。また、繊維状基材を用いる場合は、本発明の炭素材料含有材料の製造方法によって、後述する中空炭素微粒子の代わりにチューブ状の中空炭素材料が得られ得る。
【0139】
薄膜状基材を用いる場合は、本発明の炭素材料含有材料の製造方法によって、積層状の炭素材料含有材料が得られ得る。また、このような積層状の炭素材料含有材料に対して、さらに、可溶性炭素材料除去工程(IIb)や加熱工程(III)などを施すことにより、薄膜状の各種炭素材料が得られ得る。
【0140】
本発明の炭素材料含有材料の製造方法によって製造し得る炭素材料含有材料において、炭素材料部分の膜厚は、その大きさを制御することによって各種用途に採用し得る。このような炭素材料部分の膜厚としては、例えば、具体的な態様を代表的な例として説明すると、
(態様1)可溶性炭素材料除去工程(IIb)によって、基材部分の最表面と強固に相互作用して該基材表面に存在している炭素材料部分以外の炭素材料部分を全て除去して得られる、炭素材料含有材料における炭素材料部分の膜厚、
(態様2)炭素材料含有材料が有する炭素材料部分の全てまたは一部を残した状態の該炭素材料含有材料における炭素材料部分の膜厚、
が挙げられる。
【0141】
上記(態様1)における炭素材料部分は、より具体的には、可溶性炭素材料除去工程(IIb)によって、基材部分の最表面と強固に相互作用して該基材表面に存在している炭素材料部分以外の炭素材料(代表的には、可溶性炭素材料)を全て除去して得られる、該基材の最表面と強固に相互作用している炭素材料部分である。このような炭素材料部分の膜厚は薄く、炭素材料部分の構造にもよるが、好ましくは0.3nm~10nmであり、より好ましくは0.4nm~3nmである。炭素材料部分の膜厚をこのような範囲内に制御すれば、基材と強固に相互作用した炭素材料部分を、各種用途に十分に利用し得る。
【0142】
なお、上記(態様1)において、代表的には、炭素材料部分の膜厚は薄いものの、可溶性炭素材料除去工程(IIb)によって適切な可溶性炭素材料除去方法を採用することによって、上限無く厚みを調整することも可能である。
【0143】
上記(態様2)における炭素材料部分の膜厚は、上記(態様1)における炭素材料部分の膜厚よりも代表的には厚いが、炭素材料膜としての機能をより発揮させ得るには、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは50μm以下であり、さらに好ましくは10μm以下であり、最も好ましくは1μm以下である。上記(態様2)において、炭素材料部分の膜厚をこのような範囲に制御すれば、膜としての機能を十分に発揮し得る。
【0144】
なお、炭素材料部分の膜厚は、炭素材料含有材料の製造方法において用いる原料化合物(例えば、可溶性炭素材料、さらに詳細には、代表的には、化合物(A))の種類や、製造条件によっても、適切に制御し得る。
【0145】
このような炭素材料部分の膜厚は、種々の分析方法により確認することができる。このような分析方法としては、例えば、電子顕微鏡による直接観察による方法(方法A)や、元素分析や熱重量分析から算出される炭素量を基材部分のマクロな表面積(有機分子が侵入できないようなミクロ構造の表面積を除く)と炭素材料部分の密度から推定する方法(方法B)が挙げられる。
【0146】
上記(方法A)としては、より具体的には、例えば、試料となる炭素材料含有材料の断面を透過型電子顕微鏡または走査型電子顕微鏡、好ましくは、エネルギー分散型X線分析装置を付帯した透過型電子顕微鏡または走査型電子顕微鏡を用いる方法が挙げられる。
【0147】
上記(方法B)において、基材部分のマクロな表面積は、試料となる炭素材料含有材料の形状や含有される基材部分の形状等から推定できる。
【0148】
上記(方法A)においては、例えば、試料が粒子である場合には、好ましくは、試料に含まれる個々の粒子について3箇所以上の厚みを測定し、その単純平均値をその粒子の膜厚とし、より好ましくは10個以上の粒子について膜厚を求め、その単純平均値を試料の平均膜厚とすることができる。このようにして得られた膜厚(平均膜厚)が、例えば、上述した制御したい所望の膜厚範囲となることが好ましい。
【0149】
上記(方法B)においては、分析された膜厚が試料の平均的な膜厚とみなせる。この(方法B)により分析された膜厚が、例えば、上述した制御したい所望の膜厚範囲となることが好ましい。
【0150】
このような炭素材料含有材料の代表的な実施形態としては、有機無機複合体、炭素材料含有粒子などが挙げられる。炭素材料含有粒子としては、例えば、コアシェル粒子、高炭素化コアシェル粒子、中空炭素微粒子、高炭素化中空炭素微粒子などが挙げられる。以下、代表的且つ具体的な炭素材料含有材料について、その製造方法を説明する。
【0151】
≪2-1.有機無機複合体の製造方法≫
本発明の製造方法によって得られる炭素材料含有材料の一つの実施形態は、有機無機複合体である。
【0152】
有機無機複合体は、代表的には、溶媒(S)に可溶な可溶性炭素材料と、基材としての無機物とを、該溶媒(S)中で混合する混合工程(I)によって得られ得る。
【0153】
混合の方法としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な混合方法を採用し得る。このような混合方法としては、例えば、可溶性炭素材料と無機物と溶媒(S)とを、任意の適切な方法(例えば、超音波処理など)で混合する方法が挙げられる。この場合、可溶性炭素材料や無機物は、任意の適切な処理(例えば、解砕、破砕、粉砕など)を行って混合してもよい。
【0154】
混合の際には、本発明の効果を損なわない範囲で、可溶性炭素材料と無機物と溶媒(S)以外の、任意の適切な他の成分が含まれていてもよい。
【0155】
可溶性炭素材料と無機物との配合割合は、基材100質量%に対して、可溶性炭素材料が、好ましくは0.01質量%~1000000質量%であり、より好ましくは0.1質量%~100000質量%であり、特に好ましくは1質量%~1000質量%である。可溶性炭素材料と無機物との配合割合が上記範囲内にあれば、構造がより精密に制御された有機無機複合体をより温和な条件でより簡便に製造し得る。これらの可溶性炭素材料と無機物との配合割合は、目的とする有機無機複合体の物性に応じて、任意に調整することができる。例えば、可溶性炭素材料と無機物との配合割合を調整することにより、得られる有機無機複合体の物性、形態(例えば、溶媒への溶解性や、炭素材料部分または無機物部分の形状(粒子状や非粒子状)、炭素材料部分または無機物部分のサイズなど)を制御することができる。
【0156】
可溶性炭素材料は、代表的には、加熱によって同一分子間および/または異種分子間で縮合反応が起きる化合物(A)を加熱して得られる。
【0157】
可溶性炭素材料は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0158】
無機物は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0159】
「可溶性炭素材料」については、<1-1-1.可溶性炭素材料>の項目における説明を援用し得る。
【0160】
「無機物」については、<1-1-2.基材>の項目における説明を援用し得る。
【0161】
有機無機複合体は、炭素材料部分と無機物部分とを含む。炭素材料部分は、可溶性炭素材料を含み、代表的には、(i)基材部分の最表面と強固に相互作用して該基材部分表面に存在している炭素材料部分と、(ii)可溶性炭素材料除去工程(IIb)によって除去しうる炭素材料部分とを含む。
【0162】
図1に示すように、炭素材料含有材料の一つの好ましい実施形態においての有機無機複合体100は、代表的には、マトリックスとしての炭素材料10中に複数の無機物粒子20(この場合、無機酸化物粒子である)が分散したものであり、炭素材料10と無機物粒子20との界面には、炭素材料が無機物粒子20の表面に存在する官能基と結合を形成して生じた炭素材料の領域(炭素材料結合領域)30が存在している。そうすると、例えば、炭素材料が溶媒に可溶である場合には、有機無機複合体100を、炭素材料を溶解する溶媒によって処理すると、図2に示すように、無機物粒子20の表面に炭素材料結合領域(溶媒によって溶解しない領域)30がコーティングされたコアシェル粒子(コア部分:無機酸化物粒子、シェル部分:炭素材料結合領域)200が得られ得る。こうして得られるコアシェル粒子200からコア部分としての無機物粒子20を除去すると、炭素材料を有する中空炭素微粒子が得られ得る。
【0163】
有機無機複合体中の炭素材料部分の含有割合は、質量割合として、好ましくは0.01質量%~99.99質量%であり、特に好ましくは0.1質量%~99.9質量%である。有機無機複合体中の炭素材料部分の含有割合が上記範囲内にあれば、有機無機複合体は温和な条件で工業的に製造可能であり、また、有機無機複合体を材料として中空炭素微粒子等を工業的に製造することができる。これらの炭素材料部分の含有割合は、目的とする物性に応じて、可溶性炭素材料除去工程(IIb)等により容易に任意の割合にすることが可能である。
【0164】
有機無機複合体中の無機物部分の含有割合は、質量割合として、好ましくは0.01質量%~99.99質量%であり、特に好ましくは0.1質量%~99.9質量%である。有機無機複合体中の無機物部分の含有割合が上記範囲内にあれば、有機無機複合体は温和な条件で工業的に製造可能であり、また、有機無機複合体を材料として中空炭素微粒子等を工業的に製造することができる。これらの無機物部分の含有割合は、目的とする物性に応じて、可溶性炭素材料除去工程(IIb)等により容易に任意の割合にすることが可能である。
【0165】
有機無機複合体は、空気雰囲気下、40℃から、10℃/分の昇温条件によってTG-DTA分析を行ったときの、DTAの立ち上がり温度で示される酸化開始温度が、好ましくは200℃以上であり、より好ましくは250℃以上であり、最も好ましくは300℃以上である。有機無機複合体において、空気雰囲気下、40℃から、10℃/分の昇温条件によってTG-DTA分析を行ったときの、DTAの立ち上がり温度で示される酸化開始温度が、上記範囲内にあれば、本発明の炭素材料含有材料は、酸化安定性が高く、すなわち構造が制御され、骨格構造が保たれているために耐酸化性(耐分解性)が高くなる。仮に、C=O結合が生成するような骨格の開裂が生じていると、骨格の安定性が下がり、耐酸化性(耐分解性)が低くなってしまうというおそれがある。
【0166】
本発明の製造方法によって得られる炭素材料含有材料の一つの実施形態である有機無機複合体は、前述の通り、炭素材料部分と無機物部分を含み、炭素材料部分は、可溶性炭素材料を含み、代表的には、(i)基材部分の最表面と強固に相互作用して該基材部分表面に存在している炭素材料部分と、(ii)可溶性炭素材料除去工程(IIb)によって除去しうる炭素材料部分とを含む。
【0167】
炭素材料部分は、C1sXPS分析により容易に炭素成分の存在が確認できる。また、炭素材料部分は、好ましくは、その構造内にベンゼン環由来のハニカム構造(グラフェン構造)を有する。グラフェン構造は、ラマン分光分析によってその有無の確認ができる(非特許文献4)。
【0168】
炭素材料部分は、不純物となる金属成分の含有量が合計で、通常、炭素原子100原子%に対し、好ましくは0.1原子%以下であり、より好ましくは0.01原子%以下であり、特に好ましくは実質的にゼロである。これらは、炭素材料部分を蛍光X線元素分析法(XRF)により分析することによって確認することができる。また、炭素材料含有材料(この項目では有機無機複合体)を蛍光X線元素分析法(XRF)により分析した場合、炭素材料含有材料(この項目では有機無機複合体)を構成する無機物部分に含まれる金属成分以外の金属成分の含有量が、炭素原子100原子%に対し、好ましくは0.1原子%以下であり、より好ましくは0.01原子%以下であり、特に好ましくは実質的にゼロである。例えば、無機物部分がアルミナである炭素材料含有材料(この項目では有機無機複合体)を蛍光X線元素分析法(XRF)にて分析した場合、アルミナに含まれる金属成分がアルミニウムのみの場合、アルミニウム以外の金属成分の含有量が、炭素原子100原子%に対し、好ましくは0.1原子%以下であり、より好ましくは0.01原子%以下であり、特に好ましくは実質的にゼロである。
【0169】
炭素材料部分は、その構成する元素として、炭素を必須とし、炭素以外の元素を含んでいてもよい。このような炭素以外の元素としては、好ましくは、酸素、水素、窒素、硫黄、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素から選ばれる少なくとも1種の元素であり、より好ましくは、酸素、水素、窒素、硫黄から選ばれる少なくとも1種の元素であり、さらに好ましくは、酸素、水素、窒素から選ばれる少なくとも1種の元素であり、特に好ましくは、酸素、水素から選ばれる少なくとも1種の元素である。炭素材料部分を構成する元素のうち水素以外の元素の総量を100原子%としたとき、炭素は、好ましくは60原子%以上であり、より好ましくは70原子%以上であり、さらに好ましくは75原子%以上である。また、炭素以外の元素は、好ましくは10原子%以上である。各元素の割合がこの範囲に入ることで、炭素材料部分でありながら良好な溶解性を発現することが可能となる。これらは、炭素材料部分をX線光電子分光法(C1sXPS)により定量することによって確認することができる。また、炭素材料含有材料(この項目では有機無機複合体)をX線光電子分光法(C1sXPS)により定量した場合、炭素材料含有材料(この項目では有機無機複合体)を構成する無機物部分に含まれる元素以外の元素の総量を100原子%としたとき、炭素は、好ましくは60原子%以上であり、より好ましくは70原子%以上であり、さらに好ましくは75原子%以上である。また、炭素以外の元素は、好ましくは10原子%以上である。
【0170】
有機無機複合体に含まれる炭素材料部分は、代表的には、(i)基材部分の最表面と強固に相互作用して該基材部分表面に存在している炭素材料部分と、(ii)可溶性炭素材料除去工程(IIb)によって除去しうる炭素材料部分とを含む。
【0171】
上記(i)の炭素材料部分と上記(ii)の炭素材料部分は、いずれも、溶媒に可溶であり得る。ここで、上記(i)の炭素材料部分は、基材部分の最表面と強固に相互作用して該基材部分表面に存在しているので、上記(ii)の炭素材料部分と比べると、溶媒に対する可溶性は低い傾向がある。また、上記(ii)の炭素材料は、可溶性炭素材料除去工程(IIb)によって除去しうる炭素材料部分であり、溶媒に対する可溶性は高い傾向がある。なお、ここでいう「溶媒」は、本発明の製造方法において、混合工程(I)で用いる溶媒(S)と同じである必要はない。
【0172】
有機無機複合体に含まれる炭素材料部分が溶媒に可溶という態様としては、好ましくは、下記の実施態様を採りうる。
(実施態様1)炭素材料部分の全てが溶媒に溶解する実施態様。すなわち、炭素材料部分が、溶媒に溶解する成分(成分A)のみからなる実施態様。
(実施態様2)炭素材料部分の一部が溶媒に溶解する態様。すなわち、炭素材料部分が、溶媒に溶解する成分(成分A)と溶媒に溶解しない成分(成分B)からなる実施態様。
【0173】
有機無機複合体に含まれる炭素材料部分が溶媒に可溶という態様としては、より好ましくは、上記の(実施態様2)である。すなわち、溶媒に溶解する成分(成分A)が、可溶性炭素材料除去工程(IIb)によって除去しうる炭素材料部分であり、溶媒に溶解しない成分(成分B)が、基材部分の最表面と強固に相互作用して該基材部分表面に存在している炭素材料部分である。
【0174】
溶媒としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な溶媒を採用し得る。このような溶媒としては、好ましくは、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、クロロホルム、ジクロロメタン等が挙げられる。すなわち、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、クロロホルム、ジクロロメタンからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒に溶解する成分がある態様が好ましい。より好ましくは、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、クロロホルムからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒に溶解する成分がある態様であり、さらに好ましくは、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒に溶解する成分がある態様であり、特に好ましくは、N-メチルピロリドンに溶解する成分がある態様である。
【0175】
溶媒は、1種の溶媒のみからなるものであってもよいし、2種以上の溶媒の混合溶媒であってもよい。
【0176】
炭素材料部分が溶媒に可溶である一つの実施形態は、例えば、炭素材料部分が、溶媒に可溶である炭素系化合物を含む実施形態である。
【0177】
溶媒に可溶であるか否かの判定方法としては、例えば、有機無機複合体を溶媒に対して0.001質量%となるように混合したのち、超音波処理を1時間行い、得られた液をPTFE製濾紙(孔径0.45μm)に通したとき、濾紙を通過した液に炭素系化合物が含まれるか否かで判定することができる。濾紙を通過した液に炭素系化合物が含まれる場合、炭素材料部分が溶媒に可溶である炭素系化合物を含むと判定される。上記PTFE製濾紙としては、例えば、ジーエルサイエンス株式会社製のGLクロマトディスク(型式13P)を用いることができる。
【0178】
炭素材料部分は、好ましくは、(i)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてGバンド(一般的に1550cm-1~1650cm-1の範囲内)にピークを示す。したがって、炭素材料部分が、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてGバンド(一般的に1550cm-1~1650cm-1の範囲内)にピークを有することは、炭素材料部分がグラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有していることを意味している。Gバンドは、強度が高く、シャープであれば、よりきれいなグラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有しているといえる。
【0179】
炭素材料部分は、好ましくは、(ii)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてDバンド(一般的に1300cm-1~1400cm-1の範囲内)にピークを示す。グラフェン構造の欠陥に由来する構造を有する炭素材料部分は、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいて、Dバンド(一般的に1300cm-1~1400cm-1の範囲内)にピークを示す。したがって、炭素材料部分が、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおけるDバンド(一般的に1300cm-1~1400cm-1の範囲内)にピークを有することは、その炭素材料部分が官能基を含むことや、グラフェン構造の欠陥に由来する構造またはグラフェン構造の欠陥に由来する構造に類似の構造を有していることを意味している。Dバンドは、強度が低ければ、よりきれいなグラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有しているといえる。また、Dバンドが確認できるということは、本発明の製造方法で得られる炭素材料含有材料が官能基を有することを意味しており、これにより、溶媒に対する溶解性を高め得る。
【0180】
炭素材料部分は、好ましくは、(i)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてGバンド(一般的に1550cm-1~1650cm-1の範囲内)にピークを示し、さらに、(ii)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてDバンド(一般的に1300cm-1~1400cm-1の範囲内)にピークを示す。
【0181】
炭素材料部分は、好ましくは、(iii)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてG′バンド(一般的に2650cm-1~2750cm-1の範囲内)にピークを示す。したがって、炭素材料部分が、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてG′バンド(一般的に2650cm-1~2750cm-1の範囲内)にピークを有することは、炭素材料部分がグラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有していることを意味している。G′バンドの強度は、グラフェン構造が1層のときに最も強く、グラフェン構造の積層数が増えるにつれて徐々に小さくなる。しかしながら、G′バンドは、グラフェン構造の積層数が増えるにつれて徐々に強度が小さくなっても、ピークは観察することができる。したがって、G′バンドにピークを有することは、炭素材料部分がグラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有しているといえる。G′バンドは、2Dバンドとも呼ばれることがある。
【0182】
炭素材料部分は、好ましくは、(i)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてGバンド(一般的に1550cm-1~1650cm-1の範囲内)にピークを示し、さらに、(ii)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてDバンド(一般的に1300cm-1~1400cm-1の範囲内)にピークを示し、さらに、(iii)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてG′バンド(一般的に2650cm-1~2750cm-1の範囲内)にピークを示す。
【0183】
炭素材料部分は、好ましくは、(iv)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてD+D′バンド(一般的に2800cm-1~3000cm-1の範囲内)にピークを示す。グラフェン構造の欠陥に由来する構造を有する炭素材料は、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいて、D+D′バンド(一般的に2800cm-1~3000cm-1の範囲内)にピークを示す。したがって、炭素材料部分が、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてD+D′バンド(一般的に2800cm-1~3000cm-1の範囲内)にピークを有することは、その炭素材料部分が官能基を含むことや、グラフェン構造の欠陥に由来する構造またはグラフェン構造の欠陥に由来する構造に類似の構造を有していることを意味している。D+D′バンドは、強度が低ければ、よりきれいなグラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有しているといえる。D+D′バンドは、D+Gバンドとも呼ばれることがある。また、D+D′バンドが確認できるということもまた、本発明の製造方法で得られる炭素材料含有材料が官能基を有することを意味しており、これにより、溶媒に対する溶解性を高め得る。
【0184】
炭素材料部分は、好ましくは、(i)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてGバンド(一般的に1550cm-1~1650cm-1の範囲内)にピークを示し、さらに、(ii)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてDバンド(一般的に1300cm-1~1400cm-1の範囲内)にピークを示し、さらに、(iii)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてG′バンド(一般的に2650cm-1~2750cm-1の範囲内)にピークを示し、さらに、(iv)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてD+D′バンド(一般的に2800cm-1~3000cm-1の範囲内)にピークを示す。
【0185】
炭素材料部分は、好ましくは、溶媒に可溶である炭素系化合物を含む。
【0186】
一つの実施形態として、炭素材料部分は、例えば、(i)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてGバンド(一般的に1550cm-1~1650cm-1の範囲内)にピークを示し、さらに、(ii)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてDバンド(一般的に1300cm-1~1400cm-1の範囲内)にピークを示し、さらに、溶媒に可溶である炭素系化合物を含む。
【0187】
炭素材料部分において、官能基を含むことと共に、グラフェン構造の一部に欠陥を有している場合、この欠陥が、炭素材料部分の溶媒への溶解性の発現に寄与し得る。
【0188】
炭素材料部分は、上記のように、従来公知の炭素材料とは異なり、グラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有し、炭素材料部分の溶媒への溶解性がより優れる(例えば、溶媒に溶解する炭素材料部分の成分がより多くなったり、炭素材料部分が溶解できる溶媒の種類がより増えたりする)。
【0189】
炭素材料部分に含まれる炭素系化合物の分子量は、好ましくは1000~1300000であり、より好ましくは5000~1000000であり、さらに好ましくは10000~700000であり、特に好ましくは15000~500000であり、最も好ましくは20000~300000である。炭素材料部分に含まれる炭素系化合物の分子量が上記範囲内にあれば、炭素材料部分の溶媒への溶解性がより優れる(例えば、溶媒に溶解する炭素材料部分の成分がより多くなったり、炭素材料部分が溶解できる溶媒の種類がより増えたりする)。炭素材料部分に含まれる炭素系化合物の分子量が1300000を超えると、炭素材料部分の溶媒への溶解性が悪くなるおそれがある。炭素材料部分に含まれる炭素系化合物の分子量が1000未満であると、炭素材料部分としての特徴が薄れるおそれがある。これらの分子量は、後述する手法により分析できる。
【0190】
炭素材料部分中の炭素系化合物の含有割合は、好ましくは50質量%~100質量%であり、より好ましくは70質量%~100質量%であり、さらに好ましくは90質量%~100質量%であり、特に好ましくは95質量%~100質量%であり、最も好ましくは実質的に100質量%である。炭素材料部分中の炭素系化合物の含有割合が上記範囲内にあれば、炭素材料部分の溶媒への溶解性がより優れる(例えば、溶媒に溶解する炭素材料部分の成分がより多くなったり、炭素材料部分が溶解できる溶媒の種類がより増えたりする)。
【0191】
炭素材料部分は、好ましくは、XRD分析によって得られるXRDスペクトルチャートにおいて、20°~30°の範囲内にピークを示す。すなわち炭素材料部分は、グラフェン構造が積層した構造(グラフェン積層構造)を有することも、好ましい実施形態の一つである。積層構造を有することで、炭素材料部分はより強固になり得るとともに、より安定なものとなり得る。
【0192】
炭素材料部分のさらに好ましい形態は、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいて上述した形態(i)~(iv)のいずれの形態、あるいは組合せた形態;(i)および(ii)、(i)、(ii)および(iii)、(i)、(ii)、(iii)および(iv)を有し、且つ、XRD分析によって得られるXRDスペクトルチャートにおいて、20°~30°の範囲内にピークを示す形態である。
【0193】
有機無機複合体は、任意の適切な状態を取り得る。このような状態としては、例えば、溶媒中に分散した状態の分散体であってもよいし、溶媒を除去した状態の固形物(例えば、粒子状物、繊維状物、薄膜状物、板状物など)であってもよい。
【0194】
有機無機複合体は、好ましくは、バルク状態で存在し得る。一般には、バルク状態の物質が備える性質が、その物質の固有の性質である。すなわち、バルク状態の物質は、その物質のもつ基本的な性質、例えば、沸点、融点、粘度、密度などの値を決定できる。ある物質の物性といえば、バルク部分が持つ性質を指す。バルク状態の例としては、粒子、ペレット、フィルム等である。粒子の存在状態としては、例えば、粉体が挙げられる。フィルムとしては、自立したフィルムであることが好ましい。
【0195】
≪2-2.炭素材料含有粒子の製造方法≫
本発明の製造方法によって得られる炭素材料含有材料の一つの実施形態は、炭素材料含有粒子である。
【0196】
炭素材料含有粒子としては、代表的には、コアシェル粒子、高炭素化コアシェル粒子、中空炭素微粒子、高炭素化中空炭素微粒子などが挙げられる。
【0197】
<2-2-1.コアシェル粒子の製造方法>
コアシェル粒子は、代表的には、基材部分と炭素材料部分(実質的に、該基材部分の最表面と強固に相互作用して該基材部分表面に存在している炭素材料部分のみ)とを有する炭素材料含有材料である。
【0198】
コアシェル粒子は、本発明の炭素材料含有材料の製造方法において、代表的には、混合工程(I)の後、溶媒除去工程(IIa)を行って得られる、基材部分と炭素材料部分(該基材部分の最表面と強固に相互作用して該基材部分表面に存在している炭素材料部分および可溶性炭素材料除去工程(IIb)によって除去し得る炭素材料部分との両方を含む)とを有する炭素材料含有材料(代表的には、後述する「有機無機複合体」)に対して、可溶性炭素材料除去工程(IIb)を行って得られる。可溶性炭素材料除去工程(IIb)においては、有機無機複合体に含まれる炭素材料を溶解する溶媒によって処理する。これにより、図2に示すように、無機物粒子20の表面に炭素材料結合領域(溶媒によって溶解しない領域)30がコーティングされたコアシェル粒子(コア部分:無機物粒子、シェル部分:炭素材料結合領域)200が得られ得る。このようなコアシェル粒子も炭素材料含有材料である。
【0199】
溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、クロロホルム、ジクロロメタン等が挙げられ、好ましくは、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、クロロホルムであり、より好ましくはN,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンであり、特に好ましくはN-メチルピロリドンである。
【0200】
<2-2-2.高炭素化コアシェル粒子の製造方法>
高炭素化コアシェル粒子は、代表的には、コアシェル粒子の炭素材料部分が高炭素化された炭素材料含有材料である。
【0201】
高炭素化コアシェル粒子は、本発明の炭素材料含有材料の製造方法において、代表的には、コアシェル粒子(コア部分:無機物粒子、シェル部分:炭素材料結合領域)に対して、加熱工程(III)を行って得られる。この加熱工程(III)により、シェル部分を高炭素化させ得る。これにより、高炭素化コアシェル粒子(コア部分:無機物粒子、シェル部分:高炭素化物)が得られ得る。高炭素化することで、得られる炭素材料含有材料の強度や耐熱性を向上することができる。高炭素化コアシェル粒子も炭素材料含有材料である。
【0202】
加熱工程(III)における加熱温度は、コアの無機成分が耐えられる温度内であればよいが、具体的な加熱温度として、好ましくは500℃~3000℃であり、より好ましくは600℃~2500℃であり、最も好ましくは700℃~2000℃である。加熱工程(III)における加熱温度を上記範囲に調整することにより、シェル部分を効果的に高炭素化させることができる。
【0203】
加熱工程(III)における加熱時間は、具体的な加熱時間として、好ましくは0.1時間~120時間であり、より好ましくは0.5時間~100時間であり、さらに好ましくは1時間~50時間であり、最も好ましくは2時間~24時間である。加熱時間を上記範囲に調整することにより、シェル部分を効果的に高炭素化させることができる。
【0204】
<2-2-3.中空炭素微粒子の製造方法>
【0205】
中空炭素微粒子は、代表的には、有機無機複合体やコアシェル粒子の無機物部分が除去された炭素材料含有材料である。
【0206】
中空炭素微粒子は、本発明の炭素材料含有材料の製造方法において、代表的には、有機無機複合体やコアシェル粒子(コア部分:無機物粒子、シェル部分:炭素材料結合領域)に対して、基材除去工程(IV)を行って得られる。
【0207】
基材除去工程(IV)における無機物部分の除去の方法は、例えば、炭素材料部分が溶解されずに無機物部分を溶解できる溶剤で除去する方法が挙げられる。上記のような溶解特性をもつ溶剤としては、特に限定はされないが、水系溶剤が好ましい。このように水系溶剤が好ましい理由としては、本発明の製造方法で製造される炭素材料含有材料に含まれる炭素材料部分は水に溶けにくく、一方、無機物部分は水(特に酸性水や塩基性水)に溶けるものが多いためである。水系溶剤としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸等の酸性水溶液;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の塩基性水溶液;などが挙げられる。また、基材除去工程(IV)において、温度は、特に限定はされないが、水系溶剤の溶解特性を効果的に発現させ得る点で、好ましくは0℃~150℃であり、より好ましくは20℃~100℃である。さらに、基材除去工程(IV)の物理的な処理としては、特に限定はされないが、除去性を効果的に発現させ得る点で、好ましくは、静置、撹拌、超音波処理、せん断操作であり、より好ましくは、撹拌、超音波処理、せん断操作である。
【0208】
<2-2-4.高炭素化中空炭素微粒子の製造方法>
高炭素化中空炭素微粒子は、代表的には、高炭素化コアシェル粒子の無機物部分が除去された炭素材料含有材料、あるいは、中空炭素微粒子の炭素材料部分が高炭素化された炭素材料含有材料である。
【0209】
高炭素化中空炭素微粒子は、本発明の炭素材料含有材料の製造方法において、代表的には、高炭素化コアシェル粒子(コア部分:無機物粒子、シェル部分:高炭素化された炭素材料結合領域)に対して、基材除去工程(IV)を行って得られるか、または、中空炭素微粒子に対して、加熱工程(III)を行って得られる。
【0210】
高炭素化中空炭素微粒子は、炭素材料部分が高炭素化されているので、得られる炭素材料含有材料の強度や耐熱性を向上することができる。高炭素化中空炭素微粒子も炭素材料含有材料である。
【実施例
【0211】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。また、本明細書において、「質量」は「重量」と読み替えても良い。ただし、本明細書中のC1sXPSに係る部分の%は原子%を意味する。
【0212】
<ラマン分光分析>
ラマン分光分析は以下の装置、条件により行った。
測定装置:顕微ラマン(日本分光NRS-3100)
測定条件:532nmレーザー使用、対物レンズ20倍、CCD取り込み時間1秒、積算64回(分解能=4cm-1)
なおラマン分析においてG’バンド、D+D’バンドは重なって現れることがあり、D+D’バンドが特にショルダーを持つブロードなピークとして分析されることがある。この場合はショルダーピークの変曲点をG’バンドのピークとみなす。
【0213】
〔実施例1〕
フロログルシノール(東京化成工業株式会社製、融点:220℃、縮合反応温度:330℃)を、窒素雰囲気下、300℃で2時間焼成し、可溶性炭素材料(SCM300)を調整した。
得られた可溶性炭素材料(SCM300)を10mgとり、DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)30mlに溶解させた。ここへ、基材としての窒化ホウ素粒子(昭和電工製)を100mg加え、1分間超音波処理して混合し、窒化ホウ素粒子の表面に可溶性炭素材料(SCM300)をコートした。
その後、ろ過およびDMFによる洗浄精製、乾燥を行うことで、炭素材料含有材料であるコアシェル粒子(1)を得た。
得られたコアシェル粒子(1)の炭素の存在はラマン分析によりGバンドの存在の有無により確認した。
得られたコアシェル粒子(1)を窒素雰囲気下700℃で2時間焼成することで、表面の炭素成分がより炭素化された高炭素化コアシェル粒子(1)を得た。
以上のように、本発明の製造方法によれば、炭素材料含有材料を、温和な条件で簡便に製造できる。
【0214】
〔実施例2〕
基材として、窒化ホウ素粒子(昭和電工製)に代えて、アルミナ粒子(昭和電工製)を用いた以外は、実施例1と同様に行い、コアシェル粒子(2)を得た。
得られたコアシェル粒子(2)の炭素の存在はラマン分析によりGバンドの存在の有無により確認した。
以上のように、本発明の製造方法によれば、炭素材料含有材料を、温和な条件で簡便に製造できる。
【0215】
〔実施例3〕
基材として、窒化ホウ素粒子(昭和電工製)に代えて、酸化マグネシウム粒子(宇部興産製)を用いた以外は、実施例1と同様に行い、コアシェル粒子(3)を得た。
得られたコアシェル粒子(3)の炭素の存在はラマン分析によりGバンドの存在の有無により確認した。
以上のように、本発明の製造方法によれば、炭素材料含有材料を、温和な条件で簡便に製造できる。
【0216】
〔実施例4〕
基材として、窒化ホウ素粒子(昭和電工製)に代えて、窒化アルミニウム粒子(トクヤマ製)を用いた以外は、実施例1と同様に行い、コアシェル粒子(4)を得た。
得られたコアシェル粒子(4)の炭素の存在はラマン分析によりGバンドの存在の有無により確認した。
以上のように、本発明の製造方法によれば、炭素材料含有材料を、温和な条件で簡便に製造できる。
【0217】
〔実施例5〕
基材として、窒化ホウ素粒子(昭和電工製)に代えて、アルミニウム粒子(ECKA製)を用いた以外は、実施例1と同様に行い、コアシェル粒子(5)を得た。
得られたコアシェル粒子(5)の炭素の存在はラマン分析によりGバンドの存在の有無により確認した。
以上のように、本発明の製造方法によれば、炭素材料含有材料を、温和な条件で簡便に製造できる。
【0218】
〔実施例6〕
基材として、窒化ホウ素粒子(昭和電工製)に代えて、エポスター(日本触媒製)を用いた以外は、実施例1と同様に行い、コアシェル粒子(6)を得た。
得られたコアシェル粒子(6)の炭素の存在はラマン分析によりGバンドの存在の有無により確認した。
以上のように、本発明の製造方法によれば、炭素材料含有材料を、温和な条件で簡便に製造できる。
【0219】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0220】
本発明の製造方法で得られる炭素材料含有材料は、軽量で、優れた潤滑性、優れた電気伝導性、優れた熱伝導性、優れた抗酸化性を持つようなフィラー等として有用なカーボンコート無機粒子や中空炭素微粒子などを工業的に製造する際の材料として有効に利用可能である。利用が想定される用途としては、固体潤滑剤として、潤滑油等への潤滑用添加剤として、無機材料や樹脂等の有機材料への導電助剤、帯電防止剤、強度付与剤、摩擦低減剤、熱伝導性付与剤等が挙げられる。
【符号の説明】
【0221】
10 炭素材料
20 無機物粒子
30 炭素材料結合領域
100 有機無機複合体
200 コアシェル粒子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8