(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】下半身用衣類
(51)【国際特許分類】
A41B 11/14 20060101AFI20240314BHJP
A41B 11/00 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
A41B11/14 Z
A41B11/00 Z
(21)【出願番号】P 2019206369
(22)【出願日】2019-11-14
【審査請求日】2022-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 貞一
(72)【発明者】
【氏名】田中 千晶
【審査官】横山 綾子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-025427(JP,A)
【文献】特開2018-131703(JP,A)
【文献】登録実用新案第3061140(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41B 11/00-11/14
D06M 13/00ー15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系染色法によってアスタキサンチンが付着したポリウレタンを含む繊維からなり、前記ポリウレタンを含む繊維は、ポリウレタン繊維のみからなる繊維又はポリウレタン繊維と他の繊維とからなる繊維であることを特徴とする下半身用衣類。
【請求項2】
ポリウレタンを含む繊維は、ポリウレタン繊維にナイロン繊維が巻き付いた構造を有することを特徴とする請求項1記載の下半身用衣類。
【請求項3】
アスタキサンチン付着量(初期付着量)が0.5ppm以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の下半身用衣類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造が容易であり、長期間にわたってアスタキサンチンを徐放して、着用することにより日常的にアスタキサンチンを摂取することができる下半身用衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
アスタキサンチンは、キサントフィル類の1種であって、一部の藻類やオキアミ、エビ、鯛、鮭等に含まれ、自然界に広く分布している橙色色素である。
アスタキサンチンは、高い抗酸化作用を有することが知られており、紫外線やストレス改善効果、筋肉損傷や疾病を改善する効果等を有するとされている。近年では、アスタキサンチンを配合したサプリメントや健康食品、スキンケア用品等も発売されている。
【0003】
このようなアスタキサンチンを繊維製品に付着させることにより、スキンケア効果を有する衣類を作製することが試みられている。
日常的にアスタキサンチンを摂取して、スキンケア効果を発揮するためには、長期間にわたって衣料品からアスタキサンチンが徐放される必要がある。しかしながら、アスタキサンチンは繊維に対する親和性が低いため、通常の処理方法では繊維に吸着・充填することは困難であるとされてきた。例えば、アスタキサンチンを含む処理液中に衣料を浸漬又はパディングし、乾燥させる方法では、僅かな回数の洗濯によりアスタキサンチンが失われてしまうという問題があった。一方、アスタキサンチンを繊維に化学的に結合させようとすると、アスタキサンチンの効果が失われてしまったり、繊維から全くアスタキサンチンが放出されなくなってしまったりする。
【0004】
そのため、例えば特許文献1に記載されるように、オレフィン系繊維又はナイロン繊維の中空糸に、80℃以下で圧力25MPa以下の二酸化炭素媒体中でアスタキサンチンを染色固定化する等の特殊な方法が試みられてきた。しかしながら、このような特殊な方法では、使用できる繊維の種類が限定されるうえ、染色加工が煩雑で高コストであるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、製造が容易であり、長期間にわたってアスタキサンチンを徐放して、着用することにより日常的にアスタキサンチンを摂取することができる下半身用衣類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アスタキサンチンが付着したポリウレタンを含む繊維からなる下半身用衣類である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、ポリウレタンを含む繊維製品であれば、驚くべきことに水系染色法等の従来公知の処理方法であっても容易にアスタキサンチンを繊維製品に付着させることができ、スキンケア効果が見込める程度の適度な除放性と洗濯耐久性とを発揮できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明の下半身用衣類は、アスタキサンチンが付着したポリウレタンを含む繊維からなる。
本発明の下半身用衣類がポリウレタンを含むことにより、水系染色法等の従来公知の処理方法であっても容易にアスタキサンチンを繊維製品に付着させることができる。この理由については定かではないが、ポリウレタンのソフトセグメント(水酸基を有する化合物に由来する部分)とアスタキサンチンとの親和性が高く、該ソフトセグメント部位にアスタキサンチンが浸透して適度に保持されるのではないかと推測される。
【0010】
上記ポリウレタンは、ウレタン結合を有するポリマーを意味する。上記ポリウレタンは、通常、イソシアネート基と水酸基を有する化合物の重付加により生成される。原料となる水酸基を有する化合物の種類により、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、ポリカーボネート系ポリウレタン等があるが、本発明ではいずれのポリウレタンであっても用いることができる。なかでも、特にアスタキサンチンの親和性に優れることから、ポリエーテル系ポリウレタン又はポリエステル系ポリウレタンが好ましく、ポリエーテル系ポリウレタンが更に好ましい。
【0011】
上記ポリウレタンを含む繊維は、ポリウレタンを含んでいればよく、具体的には例えば、ポリウレタン繊維のみからなる繊維製品や、ポリウレタン繊維と他の繊維とからなる繊維製品や、ポリウレタン以外の繊維にポリウレタンをコーティングしたコーティング繊維を含む繊維製品等を用いることができる。なかでも、製造が容易であり、優れた肌触りや風合いを付与することができ、かつ、アスタキサンチンの付着量を調整することが容易であることから、ポリウレタン繊維と他の繊維とからなる繊維製品が好適である。
【0012】
上記ポリウレタン繊維としては、例えば、モビロン(登録商標)(日清紡テキスタイル社製)、ロイカ(登録商標)(旭化成社製)、ライクラ(登録商標)(東レ・オペロンテックス社製)等の市販品を用いることができる。
【0013】
上記他の繊維としては、綿(セルロース系繊維)、麻、絹、羊毛等の天然繊維や、ポリエチレンテレフタレート、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、アセテート、ナイロン、ビニロン、ビニリデン、ポリ塩化ビニル、アクリル、アクリル系、ポリエチレン、ポリプロピレン等の合成繊維が挙げられる。これらの他の繊維は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、ナイロンは、パンティストッキング等をはじめとする下半身用衣類の多くに用いられるものであり、摩擦や折り曲げに対して強く、比較的柔らかい素材であることから好適である。
【0014】
上記他の繊維がナイロンである場合、上記ポリウレタンを含む繊維はポリウレタン繊維にナイロン繊維が巻き付いた構造を有することが好ましい。
ポリウレタンを含む繊維がこのような構造を有することで、着用時に必要な強度と伸縮性の両立が可能となる。
【0015】
上記ポリウレタンを含む繊維がポリウレタン繊維と他の繊維とからなる場合、ポリウレタンを含む繊維におけるポリウレタン繊維の含有量の好ましい下限は5重量%、好ましい上限は35重量%である。ポリウレタン繊維の含有量をこの範囲内とすることにより、衣類としての機能性と充分なアスタキサンチン付着量とを両立させることができる。上記ポリウレタン繊維の含有量のより好ましい下限は10重量%、より好ましい上限は30重量%である。
【0016】
上記アスタキサンチンは、キサントフィル類の1種であって、IUPAC名では3,3’-ジヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオンで表される。上記アスタキサンチンには、3つの光学異性体と4つの幾何異性体が存在するが、いずれも用いることができる。また、上記アスタキサンチンには、アスタキサンキチンのエステル等の誘導体も含まれる。
上記アスタキサンチンは、高い抗酸化作用を有することが知られており、紫外線やストレス改善効果、筋肉損傷や疾病を改善する効果、スキンケア効果等を有するとされる。
上記アスタキサンチンは、一部の藻類やオキアミ、エビ、鯛、鮭等に由来する天然物や、化学合成した合成物を用いることができる。
【0017】
上記アスタキサンチンは、オイルや懸濁液(水懸濁液)の形で市販されているものも用いることができる。また、アスタキサンチンを単独で用いてもよく、アスタキサンチンを含む混合物や、他のキサントフィル類との混合物を用いてもよい。
具体的には例えば、アスタリール(登録商標)(富士化学工業社製)、アスタッツ(登録商標)(富士フイルム社製)等の市販品のオイルや懸濁液を用いることができる。
【0018】
本発明の下半身用衣類において、アスタキサンチン付着量(初期付着量)は0.00005wt%(0.5ppm)以上であることが好ましい。アスタキサンチン付着量(初期付着量)が0.00005wt%(0.5ppm)以上であることにより、特に高いスキンケア効果等の効果を発揮することができる。アスタキサンチン付着量(初期付着量)は0.00025wt%(2.5ppm)以上であることがより好ましく、0.0005wt%(5ppm)以上であることが更に好ましい。アスタキサンチン付着量(初期付着量)の上限は特に限定されないが、1.0wt%(10000ppm)程度が実質的な上限である。
なお、アスタキサンチン付着量は、下半身用衣類のサンプルからアセトン等の有機溶媒によりアスタキサンチンを抽出し、該抽出液の474nmの波長の吸光度を測定し、予め作成した検量線から算出することができる。
【0019】
本発明の下半身用衣類は、水系染色法等の従来公知の処理方法により容易に製造することができる。具体的には例えば、アスタキサンチンを含む処理液中にポリウレタンを含む繊維からなる下半身用衣類を浸漬又はパディングし、乾燥させる方法により製造することができる。
【0020】
本発明の下半身用衣類としては例えば、パンティストッキング、タイツ、レギンス、靴下等が挙げられる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、製造が容易であり、長期間にわたってアスタキサンチンを徐放して、着用することにより日常的にアスタキサンチンを摂取することができる下半身用衣類を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施例におけるアスタキサンチン付下半身用衣類を着用した場合と未着用の場合との角層水分量変化率を示したグラフである。
【
図2】実施例におけるアスタキサンチン付下半身用衣類を着用した場合と未着用の場合との水分蒸散量変化率を示したグラフである。
【
図3】実施例におけるアスタキサンチン付下半身用衣類を着用した場合と未着用の場合との皮膚粘弾性変化率を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0024】
(1)アスタキサンチン付繊維製品の製造
13デニールのポリウレタン糸に22デニールのナイロン糸を巻き付けたシングルカバー糸からなるパンティストッキングを準備した。市販のアスタキサンチン懸濁液(ASTOTS-AWS、富士フイルム社製)に蒸留水を加えて濃度を調整して、アスタキサンチン濃度が0.2%owfのアスタキサンチン処理液を調製した。
得られたアスタキサンチン処理液にパンティストッキングを1:15の浴比で70℃、20分間、攪拌しながら浸漬処理を行うことにより、アスタキサンチン付下半身用衣類を得た。
【0025】
(2)アスタキサンチン付着量(初期付着量)の測定
得られたアスタキサンチン付下半身用衣類の一部を切り出し、アセトンを用いてアスタキサンチンを抽出し、抽出液の474nmの波長の吸光度を測定した。別に作成した検量線から、アスタキサンチン付着量(初期付着量)を算出した。同様の測定を2回繰り返し、3回の測定結果を平均したところ、85ppmであった。
【0026】
(3)着用試験
得られたアスタキサンチン付き下半身用衣類を風呂上がりに着用し、起床時に脱ぐというサイクルで14日間着用した場合と着用しなかった場合の脚のすね部の角層水分量変化率、水分蒸散量変化率及び皮膚粘弾性変化率を経時で測定した。結果を
図1~3に示した。各測定の結果から、アスタキサンチン付下半身用衣類を着用することでスキンケア効果が得られることがわかる。
なお、角層水分量変化率はSKICON-200EX-USB(ヤヨイ社製)によって測定した。また、水分蒸散量変化率はTewameter TM300(Courage+Khazaka社製)によって測定した。皮膚粘弾性変化率についてはCutometer DUAL MPA580(Courage+Khazaka社製)によって測定した。
【0027】
(4)オレイン酸の吸着率の測定
綿白布に皮脂の代わりとしてオレイン酸を浸みこませた。次いで、オレイン酸をしみこませた綿白布を紙で挟みこみ、綿白布中のオレイン酸の量を調節した。続いて、得られたアスタキサンチン付下半身用衣類の一部を切り取った試験片を綿白布の間に挟み込み、汗試験片用治具用いて30分間プレスすることで試験片のオレイン酸処理を行った。その後、試験片を取り出し、洗剤(花王社製、アタック)を0.67g/Lの濃度となるように加えた洗剤液中に入れて30分攪拌して、試験片を水洗、乾燥する洗濯処理を行った。オレイン酸処理及び洗濯処理前後の試験片の重量からオレイン酸吸収率を求めたところ、39000ppmあった。
【0028】
(5)アスタキサンチン付着量の測定
(4)の洗濯処理後の試験片について、(2)と同様の方法でアスタキサンチンの付着量を測定した。次いで、比較として、オレイン酸処理を行わず洗濯処理のみを行ったものについてアスタキサンチンの付着量を測定した。結果を表1に示した。表1及び上記オレイン酸の吸着率の測定の結果から、皮脂に当たるオレイン酸が存在する場合にはアスタキサンチンが減少していること、また、下半身用衣類を着用した場合は、吸着した皮脂を介してアスタキサンチンが肌へ移行することが分かる。また、オレイン酸処理を行わなかったものと比較して、オレイン酸処理を行ったもののアスタキサンチン付着量が大きくは減少していないことから、洗濯耐性を有していることが分かる。なお、上記方法で繊維に付着させたアスタキサンチンは単に洗濯を行っただけではほとんど減少しない。
【0029】
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、製造が容易であり、長期間にわたってアスタキサンチンを徐放して、着用することにより日常的にアスタキサンチンを摂取することができる下半身用衣類を提供することができる。