(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】回転装置の軸受潤滑構造
(51)【国際特許分類】
F16C 33/66 20060101AFI20240314BHJP
F16C 33/76 20060101ALI20240314BHJP
F16C 19/26 20060101ALI20240314BHJP
F16N 7/36 20060101ALI20240314BHJP
F16N 9/02 20060101ALI20240314BHJP
F16N 31/00 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
F16C33/66 Z
F16C33/76 Z
F16C19/26
F16N7/36
F16N9/02
F16N31/00 B
(21)【出願番号】P 2019219784
(22)【出願日】2019-12-04
【審査請求日】2022-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(72)【発明者】
【氏名】森村 章一
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-277839(JP,A)
【文献】特開昭54-113743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/10
F16C 33/66
F16C 33/76
F16C 19/26
F16N 7/36
F16N 9/02
F16N 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部材に転がり軸受を介して回転部材が回転可能に支持された回転装置の前記転がり軸受をグリースにより潤滑する潤滑構造であって、
前記固定部材は、前記転がり軸受の両側に軸受周辺空間を有し、前記軸受周辺空間の少なくとも片側にグリース溜まりが設けられており、前記固定部材と前記回転部材との間に、各軸受周辺空間の外側に位置するシール構造が設けられており、
一端側がいずれか一方の軸受周辺空間に連通し、他端側が同他方の軸受周辺空間に連通する回転部材内流路が前記回転部材に設けられることにより、軸受内部空間と前記軸受周辺空間と前記回転部材内流路とからなる循環経路が形成され、
前記回転部材内流路は、前記一端側の部分と前記他端側の部分とで前記回転部材の回転時に内部の空気に作用する遠心力に差が生じるような形状を有するものであり、これにより、前記循環経路に遠心ポンプによる循環機能を持たせて、前記循環経路に一方向の空気の流れを生じさせ、
これに伴って前記固定部材に設けられた前記グリース溜まりにあるグリースの基油を循環させる循環機能が得られていることを特徴とする回転装置の軸受潤滑構造。
【請求項2】
前記回転部材内流路は、いずれか一方の軸受周辺空間に連通する環状流路と、同他方の軸受周辺空間に連通する複数の径方向流路と、前記環状流路と前記複数の径方向流路とを連通する複数の軸方向流路とからなることを特徴とする請求項1の回転装置の軸受潤滑構造。
【請求項3】
前記回転部材内流路は、いずれか一方の軸受周辺空間に連通する第1環状流路と、同他方の軸受周辺空間に連通する複数の径方向流路と、前記複数の径方向流路を連通する第2環状流路と、前記第1環状流路と前記第2環状流路とを連通する複数の軸方向流路とからなることを特徴とする請求項1の回転装置の軸受潤滑構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転装置の軸受潤滑構造に関し、特に、複数の軸受によって回転可能に支持された主軸を有する工作機械などでの使用に適した回転装置の軸受潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の主軸装置など一部の回転装置では、軸受直径が大きく剛性の高い軸受を高速に回転させる要求があり、軸受にとって非常に過酷な使われ方がなされる。このため、軸受の潤滑技術は非常に重要である。このような中で、近年、環境への配慮からエアや油を供給する必要がなくローコストなグリース潤滑が見直されてきている。封入されたグリースの大半は、転走面の両脇に付着しており、運転中にグリースから染み出した基油が転走面に供給され潤滑がなされる。主軸装置としてグリース潤滑を行う場合、上記のような過酷な使われ方をするため、グリースの攪拌抵抗が問題となってくる。そのため、他の軸受の用途と比較し、封入するグリースを少量にし、発熱を小さくする必要がある。
【0003】
グリースを少量とした場合、グリースやその基油が軸受外部へ漏出したり、外部から軸受内部のグリースに異物が混入したりすることによるグリース劣化の影響が大きく、軸受の寿命が極端に短くなってしまうおそれがある。それを避けるために、例えば、特許文献1に示されているように、軸受の両側にシール構造を設けた軸受潤滑構造が多く用いられている。
【0004】
図3は、従来の回転装置の軸受潤滑構造を示している。なお、回転装置(1)においては、回転軸が複数の軸受を介してハウジングに支持されているが、
図3には、その一部を示す。
【0005】
回転装置(1)は、工作機械の主軸装置などに適用されるもので、固定部材(2)と、回転部材(3)と、固定部材(2)と回転部材(3)との間に配置された軸受(4)と、軸受(4)をグリース潤滑するための軸受潤滑構造(5)とを備えている。
【0006】
軸受(4)は、固定輪である外輪(11)と、回転輪である内輪(12)と、外輪(11)の内周面と内輪(12)の外周面との間に形成された軸受内部空間(6)に配された複数の転動体(13)と、複数の転動体(13)を保持する保持器(14)とからなる。
【0007】
固定部材(2)は、軸受(4)の外輪(11)を支持するハウジング(15)と、ハウジング(15)に固定されてハウジング(15)の左部に設けられた内方突出部(15a)との間に外輪(11)を保持する外輪押さえ(16)とからなる。
【0008】
回転部材(3)は、軸受(4)の内輪(12)と一体に回転する回転軸(17)と、回転軸(17)の左部に設けられた外方突出部(17a)との間に内輪(12)を保持する内輪押さえ(18)とからなる。
【0009】
ハウジング(15)の左部の内方突出部(15a)の内径は、回転軸(17)の外径よりわずかに大きい値に設定されている。外輪押さえ(16)の内径は、ハウジング(15)の左部の内方突出部(15a)の内径に等しくされている。内輪押さえ(18)の左部は、外輪押さえ(16)の内周部を受けるように形成されており、その外径は、回転軸(17)の外径に等しくされている。外輪押さえ(16)の内径は、内輪押さえ(18)の左部の外径よりわずかに大きい値に設定されている。
【0010】
ハウジング(15)の内方突出部(15a)の内径が回転軸(17)の外径よりわずかに大きい値に設定されて、固定部材(2)であるハウジング(15)の内周面と回転部材(3)である回転軸(17)の外周面との間の隙間が小さくされることにより、左側シール部(7)が形成されている。また、外輪押さえ(16)の内径が内輪押さえ(18)の左部の外径よりわずかに大きい値に設定されて、固定部材(2)である外輪押さえ(16)の内周面と回転部材(3)である内輪押さえ(18)の左部の外周面との間の隙間が小さくされることにより、右側シール部(8)が形成されている。
【0011】
こうして、軸受(4)の両側に設けられた左右シール部(7)(8)により、軸受(4)外へのグリースや基油の漏出を防ぐとともに、外部からの異物混入を防いでいる。
【0012】
軸受潤滑構造(5)は、軸受(4)の左右両側に設けられた左右の軸受周辺空間(9)(10)と、各軸受周辺空間(9)(10)に設けられたグリース溜まり(9a)(10a)に封入されたグリース(G)とを備えており、軸受(4)は、左右シール部(7)(8)の内側にある軸受周辺空間(9)(10)に封入されたグリース(G)から染み出した基油によって潤滑される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、
図3のように、軸受(4)の両側に単純にシール構造(左右シール部(7)(8))を設けると、回転時の遠心力によって局所的な風の流れは生じるものの、軸受(4)全体にわたっての風の流れは無くなる。これは言い換えれば、転動体(13)や転走面(転動体(13)を案内する外輪(11)内周面および内輪(12)外周面)の中央部まで基油が行き渡りにくいことを意味している。このように、シール構造を設けることでグリースの劣化は抑えることができるが、代償として肝心の潤滑に問題が生じてくる。このような問題から、軸受内外部の風の流れを無くすとともに、軸受転走面中央に風を流し基油を供給できる構造が必要とされる。
【0015】
特許文献1のものは、グリースやその基油を転走面上に供給することを目的としたものであるが、軸受の内輪や保持器に加工を施した特殊な軸受が必要であり、汎用的な軸受が使用できないことから、コスト面、生産面で不利であるという問題がある。
【0016】
この発明の目的は、軸受をグリースにより潤滑する回転装置において、グリースや基油の外部漏出、外部からの異物混入を避けるとともに、軸受の転走面に適切に基油を供給できる軸受潤滑構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この発明の回転装置の軸受潤滑構造は、固定部材に転がり軸受を介して回転部材が回転可能に支持された回転装置の前記転がり軸受をグリースにより潤滑する潤滑構造であって、前記固定部材は、前記転がり軸受の両側に軸受周辺空間を有し、前記軸受周辺空間の少なくとも片側にグリース溜まりが設けられており、前記固定部材と前記回転部材との間に、各軸受周辺空間の外側に位置するシール構造が設けられており、一端側がいずれか一方の軸受周辺空間に連通し、他端側が同他方の軸受周辺空間に連通する回転部材内流路が前記回転部材に設けられることにより、軸受内部空間と前記軸受周辺空間と前記回転部材内流路とからなる循環経路が形成され、前記回転部材内流路は、前記一端側の部分と前記他端側の部分とで前記回転部材の回転時に内部の空気に作用する遠心力に差が生じるような形状を有するものであり、これにより、前記循環経路に遠心ポンプによる循環機能を持たせて、前記循環経路に一方向の空気の流れを生じさせ、これに伴って前記固定部材に設けられた前記グリース溜まりにあるグリースの基油を循環させる循環機能が得られていることを特徴とするものである。
【0018】
この発明の回転装置の軸受潤滑構造によると、軸受の両側の軸受周辺空間(グリース溜まり設置空間)を接続する回転部材内流路を設けることで軸受内部空間(外輪と内輪との間の転動体配置空間)を通過する循環経路が形成されるとともに、循環経路上に回転力を動力源とする循環機能を持たせることで、軸受の転走面を通過する空気の循環が生じる。この空気の循環により、グリース潤滑における基油を転走面を横切るように循環させて利用することができるため、潤滑を適切に行うことができる。
【0019】
ここで、循環経路は、シール構造の内側に配置できるため、異物混入防止、グリースや基油の漏出防止も同時に実現できる。循環経路は、回転軸などに対する簡単な加工のみで実現することができ、回転装置(例えば工作機械の主軸装置)のコストをほとんど上げることなく実現できる。
【0020】
回転部材の回転力を動力源とする循環機能を循環経路に持たせるには、遠心ポンプおよび軸流ポンプの少なくとも一方を利用することができる。
【0021】
遠心ポンプを用いる1例として、前記回転部材内流路は、いずれか一方の軸受周辺空間に連通する環状流路と、同他方の軸受周辺空間に連通する複数の径方向流路と、前記環状流路と前記複数の径方向流路とを連通する複数の軸方向流路とからなるものとされることがあり、また、前記回転部材内流路は、いずれか一方の軸受周辺空間に連通する第1環状流路と、同他方の軸受周辺空間に連通する複数の径方向流路と、前記複数の径方向流路を連通する第2環状流路と、前記第1環状流路と前記第2環状流路とを連通する複数の軸方向流路とからなるものとされることがある。
【発明の効果】
【0022】
この発明によると、循環経路を空気が循環することにより、グリース潤滑における基油を転走面を横切るように循環させて利用することができるため、潤滑を適切に行うことができる。また、循環経路は、シール構造の内側に配置できるため、異物混入防止、グリースや基油の漏出防止も同時に実現できる。しかも、循環経路は、回転軸などに対する簡単な加工のみで実現することができ、回転装置のコストをほとんど上げることなく実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、この発明の回転装置の軸受潤滑構造の1実施形態を示す縦断面図である。
【
図2】
図2は、循環経路の空気流れを模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、従来の回転装置の軸受潤滑構造の1例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、
図1および
図2を参照して、この発明の実施形態について説明する。以下の説明において、
図1の左右を左右というものとする。
【0025】
図1は、この発明の回転装置の軸受潤滑構造の1実施形態を示している。この実施形態の回転装置(1)は、工作機械の主軸装置などに適用されるもので、固定部材(2)と、回転部材(3)と、固定部材(2)と回転部材(3)との間に配置された軸受(4)と、軸受(4)をグリース潤滑するための軸受潤滑構造(5)とを備えている。
【0026】
軸受潤滑構造(5)以外は、
図3に示した従来のものと同じであり、同じ構成には同じ符号を付して、説明を省略する。
【0027】
軸受潤滑構造(5)は、軸受(4)の左右両側に設けられた左右の軸受周辺空間(21)(22)と、各軸受周辺空間(21)(22)に設けられたグリース溜まり(21a)(22a)に封入されたグリース(G)とを備えており、軸受(4)は、シール構造(左右シール部(7)(8))の内側にある軸受周辺空間(21)(22)に封入されたグリース(G)から染み出した基油によって潤滑される。
【0028】
左右の軸受周辺空間(21)(22)は、従来のものに比べて、径方向内方に開口する面が大きくなされており、外周側の面が軸方向外側に行くにつれて径が小さくなるテーパ面とされている。そして、このテーパ面の部分にグリース溜り(21a)(22a)が形成されて、このグリース溜り(21a)(22a)にグリース(G)が封入されている。
【0029】
軸受潤滑構造(5)は、グリース(G)を転動体(13)および転動体(13)を案内する転走面に供給しやすくするための流路として、回転軸(17)に設けられた3つの流路(23)(24)(25)、すなわち、径方向外方に開口していて左の軸受周辺空間(21)に連通する左側環状流路(23)と、環状流路(23)の径方向内方の端部に連通して右方にのびる複数(例えば4本)の軸方向流路(24)と、複数の軸方向流路(24)に連通して径方向外方に開口している右側環状流路(25)とを備えているとともに、右側環状流路(25)と右の軸受周辺空間(22)とを連通するように内輪押さえ(18)に設けられた複数(例えば4本)の径方向流路(26)を備えている。
【0030】
こうして、左右の軸受周辺空間(21)(22)どうしが溝状の環状流路(23)と穴状の軸方向流路(24)と穴状の径方向流路(26)とで接続され、軸受内部空間(6)を通過する閉じた循環経路が構成されている。
【0031】
軸方向流路(24)は、回転軸(17)の右端面から穿孔されており、その右端開口は、栓(27)で閉じられている。
【0032】
回転部材(3)が回転する際には、大きな回転力(遠心力)が作用するので、循環経路を構成している各流路(23)(24)(25)(26)の形状を上記のように互いに異なるものとすることにより、循環経路に遠心ポンプによる循環機能を持たせることができ、これにより、循環経路に一方向の空気の流れを生じさせることができる。
【0033】
すなわち、循環経路においては、回転軸(17)が回転する際、径方向流路(26)の中の空気は、径方向流路(26)を形成している壁面に押される形で、回転軸(17)と同じ速度で回転するが、左側環状流路(23)の中の空気は、左側環状流路(23)を形成している壁面と摩擦し合う形となって回転軸(17)より遅く回転する。このため、双方の内部に生じる遠心力に差が生じ、この2つの流路(23)(26)が軸方向流路(24)で接続されていることから、回転部材(3)(回転軸(17)および内輪押さえ(18))の回転中は、
図2に示すように、循環経路中を矢印で示す一方向に空気が流れる。
【0034】
したがって、この実施形態の軸受潤滑構造(5)によると、グリース(G)から染み出した基油は、この空気の流れに乗って転走面に供給され、軸受(4)を適切に潤滑することができる。
【0035】
なお、上記実施形態では、回転軸(17)中に遠心ポンプの効果を持たせて空気の循環流れを生じさせたが、循環機能は軸受内空間(6)や軸受周辺空間(21)(22)に設けてもよい。また、回転部材の回転力を動力源とする循環機能を有するものであれば、遠心ポンプに限られるものではなく、例えばらせん状溝を流路に設けた軸流ポンプなど他のものを用いてもよい。
【0036】
また、グリース溜まり(21a)(22a)は、左右両側に設置した方がより効果的ではあるが、左右軸受周辺空間(21)(22)のいずれか片側だけに設置してもよい。
【0037】
また、
図1では、シール構造(左右シール部(7)(8))について、径方向の隙間を狭めてシールとしているが、これに限定されるものではなく、軸受(4)内外部での風の出入りがなければ、シール構造として、接触式のシール部品やエアシールなどを使用することができる。
【0038】
さらに、左側および右側の2つの環状流路(23)(25)が設けられているが、右側の環状流路(25)は環状流路に限られるものではなく、軸方向流路(24)と径方向流路(26)との連通は、例えば径方向流路(26)と同様の形状としてもよい。
【符号の説明】
【0039】
(1):回転装置
(2):固定部材
(3):回転部材
(4):軸受
(5):軸受潤滑構造
(6):軸受内部空間
(7)(8):左右シール部(シール構造)
(21)(22):軸受周辺空間
(21a)(22a):グリース溜まり
(23):左側環状流路(回転部材内流路)
(24):軸方向流路(回転部材内流路)
(25):右側環状流路 (回転部材内流路)
(26):径方向流路 (回転部材内流路)
(G):グリース