(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】転がり抵抗係数推定方法
(51)【国際特許分類】
G01M 17/02 20060101AFI20240314BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C19/00 H
(21)【出願番号】P 2019229364
(22)【出願日】2019-12-19
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(73)【特許権者】
【識別番号】309036221
【氏名又は名称】三菱重工機械システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】横田 義一
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-075503(JP,A)
【文献】特開2018-025491(JP,A)
【文献】特開2017-015643(JP,A)
【文献】特開2017-187393(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0311231(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/00 - 17/10
B60C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象タイヤの転がり抵抗係数を推定する転がり抵抗係数推定方法であって、
複数種類のタイヤ
について、トレッドに対して所定の荷重を負荷した状態でタイヤを回転させることによって
、それぞれのタイヤ温度と転がり抵抗係数を得ることで、前記複数種類のタイヤのタイヤ温度と転がり抵抗係数との関係
を示す基準データを取得するステップと、
前記基準データに基づいて、基準タイヤ温度における
前記複数種類のタイヤの第1転がり抵抗係数を取得するステップと、
前記複数種類のタイヤの測定標準に基づく第2転がり抵抗係数を得ることで、前記複数種類のタイヤの第1転がり抵抗係数
を用いて、第1転がり抵抗係数と第2転がり抵抗係数との関係を示す変換式を取得するステップと、
前記測定
対象タイヤについて、トレッドに対して所定の荷重を負荷した状態でタイヤを回転させることによって、タイヤ温度と転がり抵抗係数を得るステップと、
前記測定対象タイヤと同一種類及びサイズのタイヤについての前記基準データに基づいて、前記測定対象タイヤのタイヤ温度と転がり抵抗係数から、基準タイヤ温度における前記測定対象タイヤの第1転がり抵抗係数を取得するステップと、
前記変換式に基づいて、前記測定対象タイヤの第1転がり抵抗係数から、前記測定対象タイヤの測定標準に基づく第2転がり抵抗係数を推定するステップ
と、
を含む転がり抵抗係数推定方法。
【請求項2】
基準タイヤ温度における前記測定対象タイヤの第1転がり抵抗係数を取得するステップでは、前記測定対象タイヤのタイヤ温度と
対応した転がり抵抗係数
について、前記測定対象タイヤと同一種類及びサイズのタイヤ
についての前記基準データの
ベースカーブに沿って基準温度の
位置まで平行移動させることで、基準タイヤ温度における前記
測定対象タイヤの第1転がり抵抗係数を
取得する請求項1記載の転がり抵抗係数推定方法。
【請求項3】
前記基準タイヤ温度は、前記基準データの範囲で任意に決められた温度である請求項
1または2に記載の転がり抵抗係数推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの転がり抵抗係数を推定する転がり抵抗係数推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乗用自動車、及びトラック・バスに装着されるタイヤの転がり抵抗係数(RRC)の測定標準は、日本工業規格(JIS)D4234(ISO 28580)によって規定されている。当該測定標準では、測定条件として、測定対象のタイヤを25℃の雰囲気下で3時間保管し、その後タイヤを所定速度(80km/h)で所定時間(30分)転動させることが規定されている。
【0003】
このような測定標準は、時間を要するため、タイヤの全数検査には適さず、現実的でない。そこで、タイヤのユニフォミティ試験装置を用いた結果から、転がり抵抗係数を推定する代替方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
具体的には、タイヤを回転体(ドラム)に接触させた状態で、タイヤ温度の時間変化及び転がり抵抗係数の時間変化を測定し、当該タイヤ温度及び転がり抵抗係数の時間変化に基づいて、所定時間経過後の最終温度における転がり抵抗係数を予測する。
【0005】
このような代替方法によれば、短時間の測定時間で転がり抵抗係数を予測することができるため、測定時間の大幅な短縮に繋がる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のタイヤのユニフォミティ試験装置を用いて転がり抵抗係数を推定する代替方法は、長時間かけて転がり抵抗係数のタイヤ最終温度を予測するステップが必要なうえ、タイヤ最終温度の推定誤差が転がり抵抗係数の推定誤差に繋がっており、タイヤ最終温度に依存せずに転がり抵抗係数の値を推定することが求められていた。
【0008】
そこで、本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、タイヤ最終温度に依存せず短時間で転がり抵抗係数を精度よく推定し得る転がり抵抗係数推定方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、タイヤの転がり抵抗係数を推定する転がり抵抗係数推定方法であって、前記タイヤの温度と、前記タイヤのトレッドに対して所定の荷重を負荷した状態で前記タイヤを回転させることによって得られる転がり抵抗係数との関係とに基づいて、基準タイヤ温度における第1転がり抵抗係数を取得するステップと、
前第1転がり抵抗係数と、測定標準に基づくタイヤの転がり抵抗係数との関係に基づいて、前記タイヤの前記測定標準に基づく第2転がり抵抗係数を推定するステップとを含む。
【発明の効果】
【0010】
上述した転がり抵抗係数推定方法によれば、タイヤ最終温度に依存せず短時間で転がり抵抗係数を精度よく推定し得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、転がり抵抗係数推定システム10の全体概略構成図である。
【
図2】
図2は、転がり抵抗係数推定装置100の機能ブロック構成図である。
【
図3】
図3は、測定標準に基づく転がり抵抗係数(RRC_ISO)を推定する全体動作フローを示す図である。
【
図4】
図4は、転がり抵抗係数推定装置100による転がり抵抗係数(RRC_ISO)の推定動作フローを示す図である。
【
図5】
図5は、転がり抵抗係数推定装置100において用いられる基準データ(ベースカーブ)の例を示す図である。
【
図6】
図6は、転がり抵抗係数推定装置100において用いられるRRC_ISOの測定例を示す図である。
【
図7】
図7は、代替値データ(タイヤ20と同一種類及びサイズのタイヤの基準タイヤ温度におけるRRC_UNIF)の計算例を示す図である。
【
図8】
図8は、代替値データからRRC_ISOへの変換式の例を示す図である。
【
図9】
図9は、転がり抵抗係数推定装置100による転がり抵抗係数(RRC_ISO)の推定動作の説明図である。
【
図10】
図10は、ユニフォミティ試験装置50を用いてタイヤ20の転がり抵抗係数(RRC_UNIF)を測定する場合におけるスキム値の説明図である。
【
図11】
図11は、転がり抵抗係数推定装置100の効果のイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。なお、同一の機能や構成には、同一または類似の符号を付して、その説明を適宜省略する。
【0013】
(1)転がり抵抗推定システムの全体概略構成
図1は、転がり抵抗係数推定システム10の全体概略構成図である。
図1に示すように、転がり抵抗係数推定システム10は、ユニフォミティ試験装置50及び転がり抵抗係数推定装置100を含む。
【0014】
ユニフォミティ試験装置50は、タイヤ20の寸法の均一性(ランナウト)など、タイヤ20のユニフォミティに関する試験を実行する。ユニフォミティ試験装置50は、ロードセル51及びドラム52を備え、タイヤ20に所定の荷重を負荷しながら、タイヤ20を回転させる。
【0015】
転がり抵抗係数推定システム10では、ユニフォミティ試験装置50によって測定された値を用いて、タイヤ20の転がり抵抗係数(RRC)が算出される。
【0016】
具体的には、ドラム52の軸受け部には、ロードセル51が設けられており、ドラム52回転時の抵抗(回転抵抗(RF))を測定できる。より具体的には、転がり抵抗係数推定システム10は、ロードセル51を用いて、タイヤ20に所定の荷重(ここでは、タイヤ押し付け荷重(PL)という)が負荷された状態におけるドラム52の回転抵抗(ここでは、全回転抵抗力(Fy)という)を測定することができる。
【0017】
さらに、転がり抵抗係数推定システム10は、タイヤ20がドラム52に接触していない状態、つまり、ドラム52の自由に回転できる状態におけるドラム52の回転抵抗(ここでは、スキム値(Fy`)という)を測定することができる。なお、スキム値とは、ドラム52の回転に関する機械損失(メカニカルロス)である。
【0018】
転がり抵抗係数推定システム10は、全回転抵抗力(Fy)、スキム値(Fy`)及びタイヤ押し付け荷重(PL)に基づいてタイヤ20のRRCを算出する。
【0019】
また、ユニフォミティ試験装置50は、タイヤ20のタイヤ温度、具体的には、タイヤ20のタイヤ温度を測定する温度計(不図示)を備える。例えば、当該温度計は、タイヤ20のトレッド部分のタイヤ温度を測定する。なお、当該温度計は、タイヤ20の表面(例えば、トレッドまたはサイドウォール)の温度を測定してもよいし、タイヤ20のゴム内部の温度を測定してもよい。
【0020】
タイヤ20は、本実施形態では、乗用自動車、或いはトラック・バスに装着される空気入りタイヤである。但し、タイヤ20の種類は、特に限定されない。
【0021】
転がり抵抗係数推定装置100は、タイヤ20の転がり抵抗係数(具体的には、RRC)を測定する。転がり抵抗係数推定装置100は、ユニフォミティ試験装置50と接続される。転がり抵抗係数推定装置100は、ユニフォミティ試験装置50によって測定されたFy、Fy`及びPLに基づいて、タイヤ20のRRC(N/kN)を算出する。
【0022】
特に、本実施形態では、転がり抵抗係数推定装置100は、Fy、Fy`及びPLに基づいて、規格(JIS)D4234(ISO 28580)によって規定されている測定条件に従ったRRCを推定する。転がり抵抗係数推定装置100は、汎用のパーソナルコンピュータにおいて、アプリケーションプログラム(ソフトウェア)を実行することによって実現できる。当該パーソナルコンピュータは、プロセッサ、メモリ、記憶デバイス及び通信インタフェースなどのハードウェアを備える。
【0023】
(2)転がり抵抗係数推定装置の機能ブロック構成
図2は、転がり抵抗係数推定装置100の機能ブロック構成図である。
図2に示すように、転がり抵抗係数推定装置100は、温度測定部110、転がり抵抗係数取得部120、転がり抵抗係数推定部130及び出力部140を備える。
【0024】
温度測定部110は、タイヤ20の表面温度を測定する。具体的には、温度測定部110は、ユニフォミティ試験装置50を介してタイヤ20のトレッド表面のタイヤ温度を測定する。
【0025】
上述したように、ユニフォミティ試験装置50は、タイヤ20のタイヤ温度を測定する温度計を備える。なお、温度計は、非接触型でも接触型でもよい。また、当該温度計は、必ずしもユニフォミティ試験装置50に備えられていなくてもよく、当該温度計と転がり抵抗係数推定装置100とが直接接続されても構わない。
【0026】
転がり抵抗係数取得部120は、タイヤ20のタイヤ温度と、タイヤ20のユニフォミティ測定結果を用いた転がり抵抗係数との関係とに基づいて、基準タイヤ温度における転がり抵抗係数(第1転がり抵抗係数)を取得する。具体的には、タイヤ20のタイヤ温度と、タイヤ20のトレッドに対して所定の荷重を負荷した状態でタイヤ20タイヤを回転させることによって得られる転がり抵抗係数との関係とに基づいて、基準タイヤ温度における第1転がり抵抗係数を取得する。
【0027】
より具体的には、転がり抵抗係数取得部120は、温度測定部110によって測定されたタイヤ20のタイヤ温度を取得する。また、転がり抵抗係数取得部120は、ユニフォミティ試験装置50によって測定された全回転抵抗力(Fy)、スキム値(Fy`)及びタイヤ押し付け荷重(PL)をユニフォミティ測定結果として取得する。
【0028】
なお、ユニフォミティ測定結果は、タイヤ20を10km/h程度で回転させた状態で取得される。
【0029】
より具体的には、転がり抵抗係数取得部120は、取得したFy、Fy`及びPLを用い、JIS D4234に規定される「フォース法」に基づいてタイヤ20のRRCを算出する。ユニフォミティ試験装置50を用いたタイヤ20のRRCの算出方法については、さらに後述する。なお、タイヤ20のRRCは、「フォース法」に限定されず、JIS D4234に規定される「トルク法」、「パワー法」、または「惰行法」の何れかによって算出されてもよい。
【0030】
さらに、転がり抵抗係数取得部120は、タイヤ温度と、ユニフォミティ測定結果を用いた転がり抵抗係数(RRC_UNIF)との関係を示す基準データ(ベースカーブ)に基づいて、第1転がり抵抗係数(基準タイヤ温度における転がり抵抗係数)を算出する。なお、基準タイヤ温度は、基準データの範囲で任意に決めてよい。
【0031】
図5は、転がり抵抗係数推定装置100において用いられる基準データ(ベースカーブ)の例を示す。
図5に示すように、基準データは、ユニフォミティ測定結果を用いた転がり抵抗係数(RRC_UNIF)と、タイヤ温度との関係を示す。
【0032】
なお、
図5では、タイヤ20と同一種類及びサイズのタイヤを正転及び逆転させた場合におけるベースカーブが示されている。
【0033】
基準データ(ベースカーブ)は、タイヤの種別(グレードを含む)及びサイズ別に、予め測定された結果に基づいて準備される。基準データは、転がり抵抗係数推定装置100内に保持されていてもよいし、通信ネットワークを介して、外部から取得されてもよい。
【0034】
転がり抵抗係数取得部120は、温度測定部110によって測定されたタイヤ温度と、取得したFy、Fy`及びPLを用いて算出されたRRC(RRC_UNIF)とに基づいて、基準データ(ベースカーブ)に沿って基準タイヤ温度の位置まで平行移動させる。これにより、タイヤ20固有の第1転がり抵抗係数、具体的には、基準タイヤ温度におけるRRC_UNIFが算出される。
【0035】
なお、基準データ(ベースカーブ)を用いた第1転がり抵抗係数の算出方法については、さらに後述する。
【0036】
転がり抵抗係数推定部130は、温度測定部110によって測定されたタイヤ温度と、測定標準(JIS D4234)に基づくタイヤの転がり抵抗係数との関係に基づいて、タイヤ20の測定標準に基づく転がり抵抗係数(第2転がり抵抗係数)を推定する。つまり、第2転がり抵抗係数は、当該測定標準に基づいて測定された転がり抵抗係数(RRC_ISO)である。
【0037】
また、転がり抵抗係数推定部130は、ユニフォミティ測定結果を用いた転がり抵抗係数、つまり、ユニフォミティ試験装置50によって測定されたFy、Fy`及びPLを用いて算出された転がり抵抗係数(RRC_UNIF)と、測定標準に基づいて測定された第2転がり抵抗係数との関係を示す変換式を用いて、測定標準における第2転がり抵抗係数(RRC_ISO)を推定する。
【0038】
転がり抵抗係数推定部130は、タイヤ20の測定標準における第2転がり抵抗係数を取得するため、次に示す変換式が予め準備される。つまり、変換式は、転がり抵抗係数推定システム10ではなく、別個の方法で事前に取得され、データとして準備される。転がり抵抗係数推定部130は、
図5に示した基準データ(ベースカーブ)、及び準備された当該データ(以下、事前準備データ)を利用する。
【0039】
図6は、転がり抵抗係数推定装置100において用いられる測定標準に基づいて測定された転がり抵抗係数(RRC_ISO)の測定例を示す。
図6に示すように、RRC_ISOのデータは、タイヤ20の複数の種類について準備される。
図6の例では、転がり抵抗係数のランク(AAA~C)に応じた複数種類のタイヤについて測定されたRRC_ISOが準備される。当該ランクは、日本自動車タイヤ協会(JATMA)が規定するRRCのラベリング制度と一致する。
【0040】
図7は、代替値データ(タイヤ20と同一種類及びサイズのタイヤの基準温度におけるRRC_UNIF)の計算例を示す。
図7に示すように、代替値データは、RRC、具体的には、RRC_ISOが異なる複数のタイヤ(タイヤ20と同一種類及びサイズのタイヤ)について準備される。代替値データは、RRC_ISO毎に、基準タイヤ温度におけるRRC_UNIFを示す。
【0041】
代替値データは、当該RRC_UNIF(例えば、RRC=6.1)を有するタイヤについて異なるタイヤ表面温度において測定された複数のRRCの値(図中の「測定データ」)のううち、基準タイヤ温度におけるRRC_UNIFである。
【0042】
図8は、代替値データからRRC_ISOへの変換式の例を示す。
図8に示すように、当該変換式は、一次方程式であり、ユニフォミティ測定結果を用いた転がり抵抗係数(RRC_UNIF)の値を、測定標準(JIS/ISO)に基づいて測定された転がり抵抗係数(RRC_ISO)の値に変換するために用いられる。
【0043】
図8に示すように、RRC_ISOは、
図7に示した基準タイヤ温度における代替値データ(具体的には、RRC_UNIF)の一次関数として近似できる。当該変換式は、
図6に示したタイヤ毎のRRC_ISOの測定結果と、
図7に示した基準タイヤ温度における代替値データ(RRC_UNIF)から求めることができる。但し、当該変換式は、一次関数に限定されない。
【0044】
転がり抵抗係数推定部130は、
図5~
図7に示した事前準備データに基づいて準備された変換式(
図8)を用いて、タイヤ20の測定標準に基づいて測定された転がり抵抗係数(RRC_ISO)を算出する。つまり、転がり抵抗係数推定装置100は、JIS D4234に従った測定を実施することなく、ユニフォミティ試験装置50のみを用いて、RRC_ISOを推定することができる。
【0045】
出力部140は、転がり抵抗係数推定部130によって推定されたRRC_ISOを所定の方法で出力する。具体的には、出力部140は、推定されたRRC_ISOをディスプレイ上に表示したり、通信ネットワークを介して他のシステムなどに送信したりすることができる。
【0046】
また、出力部140は、温度測定部110によって測定されたタイヤ20の表面温度、転がり抵抗係数取得部120によって取得されたRRC_UNIF、及び上述した事前準備データを出力することもできる。
【0047】
(3)転がり抵抗係数推定装置の動作
次に、転がり抵抗係数推定装置100の動作について説明する。具体的には、ユニフォミティ試験装置50を用いて測定された転がり抵抗係数(RRC_UNIF)から、測定標準に基づく転がり抵抗係数(RRC_ISO)を推定する動作について説明する。
【0048】
(3.1)全体動作フロー
図3は、測定標準に基づく転がり抵抗係数(RRC_ISO)の全体推定動作フローを示す。全体推定動作フローには、上述した事前準備データの取得が含まれる。
【0049】
図3に示すように、転がり抵抗係数推定装置100は、ユニフォミティ試験装置50を用いて、複数種類のタイヤ20の転がり抵抗係数(RRC_UNIF)を測定する。具体的には、転がり抵抗係数推定装置100は、複数種類のタイヤ20について、
図5に示したような基準データ(ベースカーブ)を測定する(S10)。
【0050】
転がり抵抗係数推定装置100は、測定したベースカーブを他のシステムに送信したり、メモリに保持したりする。
【0051】
次に、ステップS10において測定対象となったタイヤ20について、RRC_ISOが測定される(S20)。本ステップにおけるRRC_ISOの測定は、JIS D4234に従って実行される。つまり、本ステップは、転がり抵抗係数推定システム10内ではなく、JIS D4234に従った測定が可能な測定装置を用いて実行される。
【0052】
この結果、
図6に示したようなRRC_ISOの測定結果が取得される。
【0053】
次いで、基準タイヤ温度における代替値データが計算される(S30)。なお、本ステップは、転がり抵抗係数推定システム10で実行されてもよいし、他のシステムにおいて実行されてもよい。
【0054】
具体的には、転がり抵抗係数推定装置100は、
図7に示したような代替値データ、具体的には、RRC_ISO値が異なる複数種類のタイヤ20についてのベースカーブ(タイヤ20のRRC_UNIFと表面温度との関係)に基づいて、複数種類のタイヤ20の基準タイヤ温度におけるRRC_UNIFを代替値データとして取得する。
【0055】
さらに、取得した代替値データを用いて、からRRC_ISOへの変換式が作成される(S40)。本ステップも、転がり抵抗係数推定システム10で実行されてもよいし、他のシステムにおいて実行されてもよい。
【0056】
具体的には、取得した複数の代替値データを用いて、
図8に示したような代替値データ-RRC_ISO変換式が作成される。
【0057】
次いで、転がり抵抗係数推定装置100は、作成された代替値データ-RRC_ISO変換式を用いて、測定対象のタイヤ20の転がり抵抗係数(RRC_ISO)を推定する(S50)。
【0058】
(3.2)転がり抵抗係数(RRC_ISO)の推定動作フロー
図4は、転がり抵抗係数推定装置100による転がり抵抗係数(RRC_ISO)の推定動作フローを示す。
【0059】
図4に示すように、転がり抵抗係数推定装置100は、ユニフォミティ試験装置50を用いたタイヤ20の転がり抵抗係数(RRC_UNIF)の測定を実施する(S51)。なお、測定対象のタイヤ20の標準的なRRC_ISOは、
図6に示したように既知である。
【0060】
具体的には、転がり抵抗係数推定装置100は、ユニフォミティ試験装置50を用いて、タイヤ20の全回転抵抗力(Fy)、スキム値(Fy`)及びタイヤ押し付け荷重(PL)をユニフォミティ測定結果として取得する。また、転がり抵抗係数推定装置100は、測定時におけるタイヤ20の温度(タイヤ温度)を取得する。
【0061】
RRC_UNIFは、(式1)によって求めることができる。
【0062】
RRC_UNIF=(Fy-Fy`)/PL …(式1)
なお、RRC_UNIFの演算では、タイヤ20の外径及びドラム52の外径の情報が用いられてもよい。転がり抵抗係数推定装置100は、(式1)を用いて取得したRRC_UNIF(例えば、RRC=6.0)のベースカーブ(
図7参照)に沿って、基準タイヤ温度の位置まで平行移動させる(S53)。
【0063】
図9は、転がり抵抗係数推定装置100による基準タイヤ温度における転がり抵抗係数(RRC_UNIF)の推定動作の説明図である。
図9に示すように、転がり抵抗係数推定装置100は、ステップS51において取得した所定温度(例えば、60℃)におけるRRC_UNIF(=6.0)のベースカーブBCに沿って、基準温度の位置まで平行移動させる。
【0064】
なお、
図9は、転がり抵抗係数推定装置100内部での情報処理を図示したものであり、実際には、所定のアルゴリズムに基づいて基準タイヤ温度のRRC_UNIFが演算される。
【0065】
転がり抵抗係数推定装置100は、代替値データ-RRC_ISO変換式(
図8参照)を用いて、測定対象のタイヤ20のRRC_ISOを推定する(S55)。このような転がり抵抗係数推定装置100の動作によって、JIS D4234に従ったRRC_ISOの測定を全てのタイヤ20について実行することなく、当該RRC_ISOを推定することが可能となる。
【0066】
(3.3)スキム値(メカニカルロス)への対応
ユニフォミティ試験装置50を用いてタイヤ20の転がり抵抗係数(RRC_UNIF)を測定する場合、駆動系のメカニカルロスによる影響(スキム値)を考慮する必要がある。具体的には、ドラム52(
図1参照)の軸受機構(ベアリングの抵抗、及び潤滑剤(グリス)の抵抗などを含む)の回転抵抗(RF)を低くする必要がある。
【0067】
上述したように、RRCは、全回転抵抗力/タイヤ押し付け荷重によって算出できるが、当該メカニカルロスを考慮する必要があるため、(式1)のような演算をする必要がある。
【0068】
図10は、ユニフォミティ試験装置50を用いてタイヤ20の転がり抵抗係数(RRC_UNIF)を測定する場合におけるスキム値の説明図である。
【0069】
図10の左側部分は、タイヤ20の転がり抵抗係数(RRC_UNIF)測定時におけるタイヤ押し付け荷重(PL)及び全回転抵抗力(Fy)を示す。
図10の右側部分は、ユニフォミティ試験装置50の駆動系のメカニカルロスに伴うスキム荷重(PL’)及びスキム値(Fy`)を示す。
【0070】
図10に示すように、メカニカルロスに伴う回転抵抗(RF)は、全回転抵抗(メカニカルロスに伴う回転抵抗を含む)よりも十分に小さい。メカニカルロスに伴う回転抵抗、つまり、スキム値(Fy`)が大きいと、RRC_UNIFの測定精度に大きな誤差が生じ得るためである。
【0071】
(4)作用・効果
以上説明した転がり抵抗係数推定システム10によれば、以下のような効果が得られる。具体的には、転がり抵抗係数推定装置100によれば、ユニフォミティ試験装置50を用いたユニフォミティ測定結果から取得したRRC_UNIFを用いて、測定対象の個別のタイヤ20についてRRC_ISOを推定することができる。具体的には、転がり抵抗係数推定装置100は、予め準備されたタイヤ20のベースカーブと、RRC_ISOとの関係(
図8に示した代替値データ-RRC_ISO変換式)に基づいて、タイヤ20のRRC_ISOを推定する。
【0072】
このため、JIS D4234に従ったRRC_ISOの測定を全てのタイヤ20について実行する必要がない。これにより、ユニフォミティ測定結果を用いてRRCを推定する場合でも、処理負荷が高い演算を回避でき、短時間でRRC_ISOを推定し得る。また、JIS D4234によって定義された転がり抵抗係数の値を推定し得る。
【0073】
図11は、このような転がり抵抗係数推定装置100の効果のイメージ図である。
図11に示すように、従来のユニフォミティ測定結果を用いてRRCを推定する方法では、
図11に示す(1)~(3)のステップを経てRRC_ISOを推定していた。
【0074】
一方、本実施形態に係る転がり抵抗係数推定装置100では、(1)から(2)を経由せずに(3)を直接推定することが可能である(図中の一点鎖線の矢印参照)。具体的には、基準タイヤ温度におけるRRC(RRC_UNIF)を求めた後(図中の(1))、
図8に示した代替値データ-RRC_ISO変換式を用いて当該タイヤの測定標準に基づくRRC_ISOを直接推定できる(図中の(3))。
【0075】
つまり、基準タイヤ温度におけるRRC_UNIFから、基準タイヤ温度におけるRRC_ISOを演算する必要がない。
【0076】
また、上述したように、本実施形態では、代替値データ-RRC_ISO変換式では、タイヤ20が接地面(路面)を所定時間転動した後におけるRRC_ISOが対応付けられる。このため、代替値データ-RRC_ISO変換式を用いて、JIS D4234に基づくRRCを速やかに推定し得る。
【0077】
(5)その他の実施形態
以上、実施例に沿って本発明の内容を説明したが、本発明はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変形及び改良が可能であることは、当業者には自明である。
【0078】
例えば、上述した実施形態では、RRC_UNIFの演算(式1)において、スキム値(Fy`)が考慮されていたが、ユニフォミティ試験装置50の駆動系のメカニカルロスを十分に低減できる場合には、当該スキム値は、考慮されなくても構わない。スキム値の低減策としては、当該駆動系の潤滑性向上、及びドラム52の回転をモータなどでアシストすることが挙げられる。
【0079】
上記のように、本発明の実施形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【符号の説明】
【0080】
10 転がり抵抗係数推定システム
20 タイヤ
50 ユニフォミティ試験装置
51 ロードセル
52 ドラム
100 転がり抵抗係数推定装置
110 温度測定部
120 転がり抵抗係数取得部
130 転がり抵抗係数推定部
140 出力部
BC ベースカーブ