(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】接着性幹細胞を含む細胞集団とその製造方法、及び医薬組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0775 20100101AFI20240314BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240314BHJP
C12Q 1/6837 20180101ALI20240314BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20240314BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20240314BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
C12N5/0775 ZNA
C12Q1/02
C12Q1/6837 Z
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
G01N33/48 M
G01N33/48 P
(21)【出願番号】P 2019562519
(86)(22)【出願日】2018-12-28
(86)【国際出願番号】 JP2018048540
(87)【国際公開番号】W WO2019132026
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2017253879
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 産学共同実用化開発事業 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅田 伸好
(72)【発明者】
【氏名】稲生 渓太
(72)【発明者】
【氏名】小林 千穂
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-151907(JP,A)
【文献】特表2010-527629(JP,A)
【文献】Cytotherapy,2017年06月,Vol. 19, No. 6,p. 680-688
【文献】Cytotherapy,2016年,Vol. 18,p. 336-343
【文献】Cytotherapy,2013年,Vol. 15,p. 753-759
【文献】GENOMICS,1996年,Vol. 31,p. 389-391
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
羊膜由来幹細胞を含む細胞集団の製造方法であって、
a)ドナーから採取した羊膜を酵素処理して、接着性幹細胞を含む細胞集団を取得すること;
b)前記細胞集団を培養すること;及び
c)前記細胞集団において、KCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率が85%以上である細胞集団を取得することを含み
、
前記c)が、
KCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率を測定し、前記細胞集団におけるKCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率が85%以上である
ことを指標として、条件を満たす細胞集団を
選抜することを含む、
方法。
【請求項2】
前記b)の培養が、ヒト血小板溶解物を含む培地を使用することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
接着性幹細胞を含む細胞集団において、
KCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率を測定し、前記細胞集団におけるKCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率が85%以上であることを指標として接着性幹細胞の核型異常をモニタリングする方法。
【請求項4】
ドナーから接着性幹細胞を含む細胞集団を採取し、KCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率を測定し、前記細胞集団におけるKCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率が85%以上であることを指標として評価する、ドナー及び/又はドナーから採取した生体試料の評価方法。
【請求項5】
ドナーから採取した生体試料を酵素処理して得られた細胞集団に対して、KCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率を測定し、前記細胞集団におけるKCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率が85%以上であることを指標として評価する、前記生体試料の最適な酵素処理条件を判断及び/又は予測する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間葉系幹細胞などの接着性幹細胞の細胞集団に関する。本発明は、上記細胞集団の製造方法、並びに上記細胞集団を含む医薬組成物に関する。さらに本発明は、細胞集団における特定のマーカーを発現する接着性幹細胞の比率を指標として利用する、接着性幹細胞の核型異常のモニタリング方法、ドナー及び/又はドナーから採取した生体試料の評価方法、並びに酵素処理条件の判断及び/又は予測方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系間質細胞(Mesenchymal stromal cells)ともよばれる間葉系幹細胞などの接着性幹細胞は、骨髄、脂肪組織、歯髄などに存在することが報告されている体性幹細胞であり、最近では、胎盤、臍帯、卵膜などの胎児付属物にも存在することが明らかになっている。また、前記接着性幹細胞は、免疫抑制能を有しており、急性移植片対宿主病(GVHD)及び炎症性腸疾患であるクローン病などに対する実用化が進んでいる。
【0003】
さらに近年、細胞治療用途としての使用に耐え得る安全な接着性幹細胞を提供することが求められており、例えば、非特許文献1では、細胞治療に使用する間葉系幹細胞の核型解析の判断基準が示されている。また、非特許文献2では、複数ドナーの骨髄由来間葉系幹細胞における核型異常の発生頻度、及び継代数と核型異常発生頻度の相関性について記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Lisbeth Barkholt他、Risk of tumorigenicity in mesenchymal stromal cellebased therapies-Bridging scientific observations and regulatory viewpoints, Cytotherapy, 2013, 15, 753-759
【文献】Brian G. Stultz他、Chromosomal Stability of Mesenchymal Stromal Cells During In Vitro Culture, Cytotherapy, 2016, 18(3), 336-343
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、細胞治療用途としての使用に耐え得る安全な接着性幹細胞を提供するための検討を行ったところ、接着性幹細胞の培養過程において核型異常が高頻度で発生し、さらに継代を重ねるにつれ核型異常が蓄積されるという問題を確認した。上記問題は、造腫瘍性リスクにつながるため、核型異常が確認された接着性幹細胞が少しでも含まれるような接着性幹細胞集団は全て廃棄するしかない。さらに、染色体の構造を1つずつ解析して核型異常の頻度を評価する核型解析の手法は、解析に多大な時間及び労力を必要とするため、迅速な品質保証が出来ない原因にもなる。従って、本発明者らは、上記問題を解決するために、核型異常のない細胞集団を調製しなければならないこと、並びに核型異常の発生を経時的にモニタリングしなければならないという課題を見出した。
【0006】
本課題を解決するために、非特許文献1について検討した。非特許文献1には、細胞治療に使用する間葉系幹細胞について、染色体の構造異常の頻度に対する判断基準が記載されている。また、非特許文献1では、細胞の増殖速度及び倍加回数をできるだけ低く抑えるように培養条件を設定することが、核型異常を含まない細胞集団の取得につながることを示唆している。しかしながら、本発明者らは、増殖速度及び倍加回数を下げても、高頻度で核型異常が発生することを確認した。また、非特許文献1では、核型異常の有無をモニタリングする方法については記載がない。
【0007】
非特許文献2には、複数ドナーの骨髄由来間葉系幹細胞における核型異常の発生頻度及び継代数と核型異常発生頻度の相関性について記載されている。非特許文献1とは異なり、継代の回数が増え、倍加回数が増えるにつれて、核型異常の頻度が低下する傾向が確認されている。このように、細胞の倍加回数と核型異常の関係は文献によって傾向が異なり、核型異常の発生機序についても十分に解明されていない。また、非特許文献2では、継代毎に取得した間葉系幹細胞の核型解析が、拡大培養時の間葉系幹細胞の染色体安定性をモニタリングするために有用であると言及している。しかしながら、核型解析の方法は、間葉系幹細胞を取得した後に、核型解析に供する17個~144個の細胞から染色体を抽出し、染色体の構造を1つずつSKY(Spectral Karyotyping)法で観察している。上記解析には多大な時間と労力を必要としており、核型異常の発生を経時的にモニタリングすることが困難なうえ、核型異常の有無を迅速に評価することができない。また、核型異常を含まない細胞集団を調製する方法については記載がない。
【0008】
以上の課題に鑑み、本発明は、正常核型を維持している接着性幹細胞を含む細胞集団を取得し、かつ接着性幹細胞を含む細胞集団において、核型異常の発生を経時的にモニタリングし、核型異常の有無を迅速に評価する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、接着性幹細胞を含む細胞集団において、KCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率が所定値以上に維持される条件下で培養すると、正常核型を維持している接着性幹細胞を含む細胞集団を取得できることを見出した。さらに本発明者らは、接着性幹細胞を含む細胞集団においてKCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率が所定値以上であることを指標として利用することによって、接着性幹細胞の核型異常の有無をモニタリングできることを見出した。さらに、正常核型を維持している接着性幹細胞を効率的に取得するという観点から、ドナー及び/又はドナーから採取した生体試料の品質を迅速に評価でき、さらに、ドナーから採取した生体試料の最適な酵素処理条件を判断及び/又は予測できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成したものである。
【0010】
すなわち、本明細書によれば、以下の発明が提供される。
(1) 接着性幹細胞を含む細胞集団の製造方法であって、
前記細胞集団において、KCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率が85%以上である細胞集団を取得することを含む、製造方法。
(2) 接着性幹細胞を含む細胞集団であって、
前記細胞集団において、KCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率が85%以上である、細胞集団。
(3) 前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するKCNAB1遺伝子の相対発現量が0.05以上である、(2)に記載の細胞集団。
(4) 前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するSULT1E1遺伝子の相対発現量が0.1以上である、(2)又は(3)に記載の細胞集団。
(5) 前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するMN1遺伝子の相対発現量が0.7以上である、(2)から(4)の何れか一に記載の細胞集団。
(6) 前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するRARRES2遺伝子の相対発現量が0.4以下である、(2)から(5)の何れか一に記載の細胞集団。
(7) 前記接着性幹細胞が、胎児付属物に由来するものである、(2)から(6)の何れか一に記載の細胞集団。
【0011】
(8) (2)から(7)の何れか一に記載の細胞集団と、製薬上許容し得る媒体とを含む、医薬組成物。
(9) (2)から(7)の何れか一に記載の細胞集団と、投与可能な他の細胞とを含む、医薬組成物。
(10) ヒトへの接着性幹細胞の1回の用量が1012個/kg体重以下である、(8)又は(9)に記載の医薬組成物。
(11) 前記医薬組成物が、注射用製剤である、(8)から(10)の何れか一に記載の医薬組成物。
(12) 前記医薬組成物が、移植用製剤である、(8)から(10)の何れか一に記載の医薬組成物。
(13) 前記移植用製剤が細胞塊又はシート状構造である、(12)に記載の医薬組成物。
(14) 免疫関連疾患、虚血性疾患、下肢虚血、脳血管虚血、腎臓虚血、肺虚血、神経性疾患、移植片対宿主病、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、放射線腸炎、全身性エリテマトーデス、紅斑性狼瘡、膠原病、脳卒中、脳梗塞、脳内血腫、脳血管麻痺、肝硬変、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、乾癬、表皮水疱症、糖尿病、菌状息肉腫、強皮症、軟骨等の結合組織の変性及び/又は炎症から起こる疾患、関節軟骨欠損、半月板損傷、離弾性骨軟骨症、無腐性骨壊死、変形性膝関節症、炎症性関節炎、関節リウマチ、眼疾患、血管新生関連疾患、虚血性心疾患、冠動脈性心疾患、心筋梗塞、狭心症、心不全、心筋症、弁膜症、創傷、上皮損傷、線維症、肺疾患、及び癌から選択される疾患の治療剤である、(8)から(13)の何れか一に記載の医薬組成物。
【0012】
(15) 接着性幹細胞を含む細胞集団において、
KCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率を測定し、前記細胞集団におけるKCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率が85%以上であることを指標として接着性幹細胞の核型異常をモニタリングする方法。
(16) ドナーから接着性幹細胞を含む細胞集団を採取し、KCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率を測定し、前記細胞集団におけるKCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率が85%以上であることを指標として評価する、ドナー及び/又はドナーから採取した生体試料の評価方法。
(17) ドナーから採取した生体試料を酵素処理して得られた細胞集団に対して、KCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率を測定し、前記細胞集団におけるKCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率が85%以上であることを指標として評価する、前記生体試料の酵素処理条件を判断及び/又は予測する方法。
【0013】
(21) (2)から(7)の何れか一に記載の細胞集団を、治療を必要とする患者又は被験者に投与することを含む、疾患の治療方法。
(22) ヒトへの接着性幹細胞の1回の用量が1×1012個/kg体重以下である、(21)に記載の方法。
(23) 注射用製剤である、(21)又は(22)に記載の方法。
(24) 移植用製剤である、(21)又は(22)に記載の方法。
(25) 前記移植用製剤が細胞塊又はシート状構造である、(24)に記載の医薬組成物。
(26) 疾患が、免疫関連疾患、虚血性疾患、下肢虚血、脳血管虚血、腎臓虚血、肺虚血、神経性疾患、移植片対宿主病、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、放射線腸炎、全身性エリテマトーデス、紅斑性狼瘡、膠原病、脳卒中、脳梗塞、脳内血腫、脳血管麻痺、肝硬変、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、乾癬、表皮水疱症、糖尿病、菌状息肉腫、強皮症、軟骨等の結合組織の変性及び/又は炎症から起こる疾患、関節軟骨欠損、半月板損傷、離弾性骨軟骨症、無腐性骨壊死、変形性膝関節症、炎症性関節炎、関節リウマチ、眼疾患、血管新生関連疾患、虚血性心疾患、冠動脈性心疾患、心筋梗塞、狭心症、心不全、心筋症、弁膜症、創傷、上皮損傷、線維症、肺疾患、及び癌から選択される疾患である、(21)から(25)の何れか一に記載の方法。
【0014】
(31) 医薬組成物の製造のための、(2)から(6)の何れか一に記載の細胞集団の使用。
(32) 前記医薬組成物が、ヒトへの接着性幹細胞の1回の用量が1×1012個/kg体重以下である医薬組成物である、(31)に記載の使用。
(33) 前記医薬組成物が、注射用製剤である、(31)又は(32)に記載の使用。
(34) 前記医薬組成物が、移植用製剤である、(31)又は(32)に記載の使用。
(35) 前記移植用製剤が細胞塊又はシート状構造である、(34)に記載の医薬組成物。
(36) 前記医薬組成物が、免疫関連疾患、虚血性疾患、下肢虚血、脳血管虚血、腎臓虚血、肺虚血、神経性疾患、移植片対宿主病、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、放射線腸炎、全身性エリテマトーデス、紅斑性狼瘡、膠原病、脳卒中、脳梗塞、脳内血腫、脳血管麻痺、肝硬変、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、乾癬、表皮水疱症、糖尿病、菌状息肉腫、強皮症、軟骨等の結合組織の変性及び/又は炎症から起こる疾患、関節軟骨欠損、半月板損傷、離弾性骨軟骨症、無腐性骨壊死、変形性膝関節症、炎症性関節炎、関節リウマチ、眼疾患、血管新生関連疾患、虚血性心疾患、冠動脈性心疾患、心筋梗塞、狭心症、心不全、心筋症、弁膜症、創傷、上皮損傷、線維症、肺疾患、及び癌から選択される疾患の治療剤である、(31)から(35)の何れか一に記載の使用。
【0015】
(41) 疾患の治療において使用するための、(2)から(6)の何れか一に記載の細胞集団。
(42) ヒトへの接着性幹細胞の1回の用量が1×1012個/kg体重以下である、(41)に記載の細胞集団。
(43) 注射用製剤である、(41)又は(42)に記載の細胞集団。
(44) 移植用製剤である、(41)又は(42)に記載の細胞集団。
(45) 前記移植用製剤が細胞塊又はシート状構造である、(44)に記載の医薬組成物。
(46) 疾患が、免疫関連疾患、虚血性疾患、下肢虚血、脳血管虚血、腎臓虚血、肺虚血、神経性疾患、移植片対宿主病、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、放射線腸炎、全身性エリテマトーデス、紅斑性狼瘡、膠原病、脳卒中、脳梗塞、脳内血腫、脳血管麻痺、肝硬変、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、乾癬、表皮水疱症、糖尿病、菌状息肉腫、強皮症、軟骨等の結合組織の変性及び/又は炎症から起こる疾患、関節軟骨欠損、半月板損傷、離弾性骨軟骨症、無腐性骨壊死、変形性膝関節症、炎症性関節炎、関節リウマチ、眼疾患、血管新生関連疾患、虚血性心疾患、冠動脈性心疾患、心筋梗塞、狭心症、心不全、心筋症、弁膜症、創傷、上皮損傷、線維症、肺疾患、及び癌から選択される疾患である、(41)から(45)の何れか一に細胞集団。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、正常核型を維持している接着性幹細胞を含む細胞集団を取得できる。また、本発明によれば、接着性幹細胞を含む細胞集団において、核型異常の発生を経時的にモニタリングし、核型異常の有無を迅速に評価する手段を提供することができる。さらに、本発明によれば、正常核型を維持している安全な接着性幹細胞を含む細胞集団形成の指標として、所定の抗原の陽性率を使用することができる。さらに本発明によれば、染色体安定性が高く臨床使用に適した安全な細胞製剤(医薬組成物)を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、5名の妊婦の胎児付属物から得られた羊膜接着性幹細胞について、フローサイトメーターを用いてKCNAB1に対して陽性となる細胞の比率を解析した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明するが、下記の説明は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、下記の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【0019】
[1]用語の説明
本明細書における「胎児付属物」は、卵膜、胎盤、臍帯及び羊水を指す。さらに「卵膜」は、胎児の羊水を含む胎嚢であり、内側から羊膜、絨毛膜及び脱落膜からなる。このうち、羊膜と絨毛膜は胎児を起源とする。「羊膜」は、卵膜の最内層にある血管に乏しい透明薄膜を指す。羊膜の内層(上皮細胞層ともよばれる)は分泌機能のある一層の上皮細胞で覆われ羊水を分泌し、羊膜の外層(細胞外基質層ともよばれ、間質に相当する)は接着性幹細胞を含む。
【0020】
本明細書における「接着性幹細胞」は、下記の定義を満たす幹細胞を指し、「間葉系間質細胞(Mesenchymal stromal cells)」や「間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cells)」も接着性幹細胞に含まれる。本明細書において、「間葉系幹細胞」は「MSC」と記載されることがある。
【0021】
「接着性幹細胞」としては、各種組織および器官から採取することができる体性幹細胞(組織幹細胞)のうち、下記の定義を満たす細胞を使用することができる。体性幹細胞(組織幹細胞)としては、骨髄由来間葉系幹細胞、造血幹細胞、臍帯血中の幹細胞、臍帯由来幹細胞、羊膜由来幹細胞、羊水幹細胞、胎盤絨毛細胞由来間葉系幹細胞、神経幹細胞、脂肪組織由来幹細胞、膵幹細胞、滑膜間葉幹細胞、歯髄幹細胞、脱落乳歯由来歯髄由来幹細胞、精子幹細胞(GS細胞)、精巣多能性幹細胞(mGS細胞)、角膜上皮幹細胞、角膜実質幹細胞、色素幹細胞、臓器における組織幹細胞等を挙げることができるが、特に限定されない。
【0022】
接着性幹細胞の定義
i)標準培地での培養条件で、プラスチックに接着性を示す。
ii)表面抗原CD73、CD90が陽性であり、CD326が陰性。
【0023】
前記「接着性幹細胞」は上記のi)ii)の定義を満たしていればよく、骨、軟骨、脂肪等への分化能の有無については特に限定されない。本明細書における「接着性幹細胞」には、間葉系幹細胞のように、骨、軟骨、及び脂肪への分化能を有している細胞も含まれる。また、前記「接着性幹細胞」には、上記の定義を満たしているものの、骨、軟骨、脂肪への分化能を有していない細胞も含まれる。また、前記「接着性幹細胞」には、上記の定義を満たしているものの、骨、軟骨、脂肪のうちいずれか1つ、又は2つにのみ分化する細胞も含まれる。
【0024】
本明細書における「羊膜由来接着性幹細胞」は、羊膜に由来する接着性幹細胞を指し、「羊膜間葉系間質細胞」や「羊膜間葉系幹細胞」もこれに含まれる。本明細書において、「羊膜間葉系幹細胞」は「羊膜MSC」と記載されることがある。
【0025】
本明細書における「接着性幹細胞集団」は、接着性幹細胞を含む細胞集団を意味し、その形態は特に限定されず、例えば、細胞ペレット、細胞シート、細胞凝集塊、細胞浮遊液又は細胞懸濁液などが挙げられる。
【0026】
本明細書における「核型異常」とは、染色体の構造異常のことであり、染色体の数的異常や、部分的な構造異常を意味する。数的異常としては、通常2本で対をなしている染色体が1本しか存在しない「モノソミー」、或いは染色体が3本存在する「トリソミー」が挙げられる。部分的な構造異常としては、転座、逆位、欠失が挙げられる。
本明細書における「正常核型」とは、上述した核型異常が認められないか、又は正常に近い核型を意味する。
【0027】
「正常核型」及び「核型異常」は、核型解析により評価することができる。具体的には、分染法により検出される染色体に特徴的なバンドパターンに基づいて、各染色体を同定し、数的異常および部分的な構造異常などを解析することにより、「正常核型」及び「核型異常」について評価することができる。核型解析の種類は特に限定されず、キナクリンマスタードやヘキスト等の蛍光色素により検出を行うQ-band解析、トリプシン等のタンパク分解酵素処理とギムザ染色により検出を行うG-band解析、全染色体を別々の色に染色するマルチカラーFISH法による解析、ギムザ染色による簡易解析などが知られているが、本発明においては何れを用いてもよい。例えば、核型異常を判定するために、20個の細胞から染色体を抽出して核型解析に供し、核型異常の有無を評価することができる。正常核型の判定基準として、解析に供した20個の細胞のうち、核型異常を有する細胞の割合が10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下であり、さらに好ましくは4%以下であり、さらに好ましくは3%以下であり、さらに好ましくは2%以下であり、さらに好ましくは1%以下であり、さらに好ましくは0%である。
【0028】
本明細書における「KCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率」とは、後記する実施例に記載の通り、フローサイトメトリーによって解析した上記抗原について陽性である細胞の比率を示す。本明細書において、「抗原について陽性である細胞の比率」は「陽性率」と記載されることがある。
【0029】
[2]接着性幹細胞を含む細胞集団
本発明により提供される接着性幹細胞を含む細胞集団は、前記細胞集団において、KCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率が85%以上であることを特徴とする。
また、本発明により提供される接着性幹細胞を含む細胞集団が、KCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率が85%以上であるという条件を満たすと、正常核型を維持している接着性幹細胞を含む細胞集団を形成する。そのため、本発明においては、前記条件を、正常核型を維持している接着性幹細胞を含む細胞集団形成の指標とすることができる。また、前記指標を経時的に測定することで、接着性幹細胞の核型異常の変化を迅速かつ簡便に把握し、予測することができる。さらに本発明によれば、前記の指標を利用することによって、ドナー自体及び/又はドナーから採取した生体試料の品質を評価することができる。さらに本発明によれば、前記指標を使用することによって、ドナーから採取した生体試料を酵素処理する際の酵素処理方法が、最適かどうかを判断及び/又は予測することができる。また、前記指標に加え、KCNAB1遺伝子、SULT1E1遺伝子、MN1遺伝子、RARRES2遺伝子の相対発現量が特定の数値範囲を示すことも、正常核型を維持している接着性幹細胞を含む細胞集団形成の指標とすることができる。
【0030】
前記細胞集団において、KCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率は、好ましくは86%以上であり、さらに好ましくは87%以上であり、さらに好ましくは88%以上であり、さらに好ましくは89%以上であり、さらに好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは91%以上であり、さらに好ましくは92%以上であり、さらに好ましくは93%以上であり、さらに好ましくは94%以上であり、さらに好ましくは95%以上であり、さらに好ましくは96%以上であり、さらに好ましくは97%以上であり、さらに好ましくは98%以上であり、さらに好ましくは99%以上であり、さらに好ましくは100%である。
【0031】
本発明の一態様によれば、本発明により提供される接着性幹細胞を含む細胞集団は、CD105、CD73、及び/又はCD90が陽性を呈する接着性幹細胞の比率が90%以上であることを満たしていてもよい。
CD105は、分化クラスター105を意味し、Endoglinとしても知られているタンパク質である。
CD73は、分化クラスター73を意味し、5-Nucleotidase、或いはEcto-5’-nucleotidaseとしても知られているタンパク質である。
CD90は、分化クラスター90を意味し、Thy-1としても知られているタンパク質である。
【0032】
細胞集団においてCD105が陽性を呈する接着性幹細胞の比率は、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%でもよい。
細胞集団においてCD73が陽性を呈する接着性幹細胞の比率は、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%でもよい。
細胞集団においてCD90が陽性を呈する接着性幹細胞の比率は、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%でもよい。
【0033】
本発明の一態様によれば、本発明により提供される接着性幹細胞を含む細胞集団は、CD166が陽性を呈する接着性幹細胞の比率が30%以上であることを満たしていてもよい。
CD166は、分化クラスター166を意味し、Activaed leukocyte cell adhesion molecule(ALCAM)としても知られているタンパク質である。
【0034】
細胞集団においてCD166が陽性を呈する接着性幹細胞の比率は、31%以上、32%以上、33%以上、34%以上、35%以上、36%以上、37%以上、38%以上、39%以上、40%以上、41%以上、42%以上、43%以上、44%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%でもよい。
【0035】
本発明の一態様によれば、本発明により提供される接着性幹細胞を含む細胞集団は、CD45、CD34、及び/又はCD326が陰性を呈する接着性幹細胞の比率が95%以上であることを満たしていてもよい。
CD45は、分化クラスター45を意味し、PTPRC(Protein tyrosine phosphatase,receptor type,C)、或いはLCA(Leukocyte common antigen)としても知られているタンパク質である。
CD34は、分化クラスター34を意味し、Hematopoietic progenitor cell antigen CD34としても知られているタンパク質である。
CD326は、分化クラスター326を意味し、EPCAM遺伝子によってコードされるEpithelial cell adhesion moleculeとしても知られているタンパク質である。
【0036】
細胞集団においてCD45が陰性を呈する接着性幹細胞の比率は、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%でもよい。
細胞集団においてCD34が陰性を呈する接着性幹細胞の比率は、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%でもよい。
細胞集団においてCD326が陰性を呈する接着性幹細胞の比率は、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%でもよい。
【0037】
KCNAB1、CD73、CD90、CD166、CD34、CD45、CD326を含む各種抗原は、当該技術分野において公知の任意の検出方法により検出することができる。これらの抗原を検出する方法としては、例えばフローサイトメトリー又は細胞染色が挙げられるが、これらに限定されない。蛍光標識抗体を用いるフローサイトメトリーにおいて、ネガティブコントロール(アイソタイプコントロール)と比較してより強い蛍光を発する細胞が検出された場合、当該細胞は当該マーカーについて「陽性」と判定される。蛍光標識抗体は、当該技術分野において公知の任意の抗体を使用することができ、例えば、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)、フィコエリスリン(PE)、アロフィコシアニン(APC)等により標識された抗体が挙げられるが、これらに限定されない。細胞染色において、着色するか若しくは蛍光を発する細胞が顕微鏡下にて観察された場合、当該細胞は当該マーカーについて「陽性」と判定される。細胞染色は、抗体を使用する免疫細胞染色であってもよく、抗体を使用しない非免疫細胞染色であってもよい。
【0038】
KCNAB1が陽性を呈する細胞の比率(陽性率)は、具体的には、フローサイトメトリーのドットプロット展開解析を用いて、以下の手順(1)~(8)にて測定することができる。
(1)凍結保存した細胞集団を解凍し、遠心分離により回収する。回収した細胞集団をリン酸バッファー(PBS)にて洗浄し、遠心分離により回収する。
(2)4%パラホルムアルデヒドに、終濃度0.1%となるようポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル(Triton-X)を加えた溶液を用いて細胞を固定・膜透過処理した後、リン酸バッファー(PBS)にて細胞を洗浄し、0.5%BSA/PBSにて2.0×106個/mLとなるように細胞懸濁液を調製する。前記細胞懸濁液を100μLずつ分注する。
(3)分注した細胞懸濁液を遠心分離し、得られた細胞ペレットに0.5%BSA/PBSを100μLずつ添加する。次いで、各抗原マーカーに対応する抗体、又はそのアイソタイプコントロール用抗体を添加する。各反応液をVoltexした後、4℃にて20分間静置する。
(4)0.5%BSA/PBSを添加し、遠心分離により細胞を洗浄した後、0.5%BSA/PBSにて細胞を懸濁し、セルストレーナー(35μmナイロンメッシュフィルター)(コーニング社/品番:352235)にてフィルターろ過する。
(5)フィルターろ過により得られた細胞懸濁液を、BD AccuriTM C6 Flow Cytometer(ベクトン・ディッキンソン社)を用いて解析する(ALL Event 10000)。
(6)測定結果を、縦軸にSSC(側方散乱光)、横軸をFSC(前方散乱光)としたドットプロットで展開する。
(7)ドットプロット展開図において、アイソタイプコントロール用抗体で測定した総細胞のうち、より蛍光強度が強い細胞集団が0.5%以下となる全ての領域(ゲート)を選択する。
(8)抗原マーカーに対応する抗体で測定した総細胞のうち、(7)で選択したゲート内に含まれる細胞の割合を算出する。
【0039】
なお、各表面抗原に対して陰性である細胞の比率(陰性率)は、以下の式により算出する。
陰性率(%)=100-陽性率
【0040】
上記したKCNAB1を検出するタイミングは、特に限定されないが、例えば、生体試料から細胞を分離した直後、培養工程の途中、培養工程における純化後、n回継代した直後(nは1以上の整数を示す)、維持培養の途中、凍結保存前、解凍後、又は医薬品組成物として製剤化する前などが挙げられる。
【0041】
本発明により提供される接着性幹細胞を含む細胞集団は、好ましくは、SDHA遺伝子の発現量に対するKCNAB1遺伝子の相対発現量が0.05以上であることを満たす。
SDHA遺伝子の発現量に対するKCNAB1遺伝子の相対発現量は、0.75以上、0.1以上、0.15以上、0.2以上、0.25以上、0.3以上、0.35以上、0.4以上でもよい。SDHA遺伝子の発現量に対するKCNAB1遺伝子の相対発現量の上限は特に限定されないが、例えば、5以下、4以下、3以下、2以下、1以下、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下でもよい。
【0042】
本発明により提供される接着性幹細胞を含む細胞集団は、好ましくは、SDHA遺伝子の発現量に対するSULT1E1遺伝子の相対発現量が0.1以上であることを満たす。
SDHA遺伝子の発現量に対するSULT1E1遺伝子の相対発現量は、0.13以上、0.15以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上、0.5以上、又は0.6以上でもよい。SDHA遺伝子の発現量に対するSULT1E1遺伝子の相対発現量の上限は特に限定されないが、例えば、5以下、4以下、3以下、2以下、1以下、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、又は0.5以下でもよい。
【0043】
本発明により提供される接着性幹細胞を含む細胞集団は、好ましくは、SDHA遺伝子の発現量に対するMN1遺伝子の相対発現量が0.7以上であることを満たす。
SDHA遺伝子の発現量に対するMN1遺伝子の相対発現量は、0.8以上、0.9以上、1以上、1.1以上、1.2以上、1.3以上、1.4以上、1.5以上、1.6以上、又は1.7以上でもよい。SDHA遺伝子の発現量に対するMN1遺伝子の相対発現量の上限は特に限定されないが、例えば、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下、2以下でもよい。
【0044】
本発明により提供される接着性幹細胞を含む細胞集団は、好ましくは、SDHA遺伝子の発現量に対するRARRES2遺伝子の相対発現量が0.4以下であることを満たす。
SDHA遺伝子の発現量に対するRARRES2遺伝子の相対発現量は、0.3以下、0.2以下、0.1以下、0.05以下、0.04以下、0.03以下、0.02以下、0.01以下、0.009以下、0.008以下、0.007以下、0.006以下、0.005以下、0.004以下、又は0.003以下でもよい。SDHA遺伝子の発現量に対するRARRES2遺伝子の相対発現量の下限は特に限定されないが、例えば、0.001以上、又は0.002以上でもよい。
【0045】
各遺伝子の検出及び/又はその発現量の測定方法としては、当該技術分野において公知の方法であれば特に限定されないが、例えばマイクロアレイ、RT-PCR、定量RT-PCR、又はノーザンブロットハイブリダーゼーションを使用することができる。SDHA遺伝子の発現量に対する各遺伝子の相対発現量の測定方法としては、マイクロアレイを使用することができる。マイクロアレイは、具体的には、以下の手順(1)~(5)にて行なうことができる。なお、以下の手順(3)~(5)は、株式会社理研ジェネシスに委託して実施することができる。
(1)凍結保存した細胞集団を解凍し、遠心分離により回収する。回収した細胞集団をリン酸バッファー(PBS)にて洗浄し、遠心分離により細胞を回収する。
(2)RNA抽出キット(RNeasy Plus Miniキット(QIAGEN社製))を用いてトータルRNAを抽出、精製する。
(3)精製したトータルRNAを鋳型として用いて逆転写反応によりcDNAを合成し、さらに合成されたcDNAからin vitro transcriptionによりcRNAに転写してビオチン標識を行う。
(4)ビオチン標識cRNAをハイブリダイゼーションバッファーに加え、Human GeneGenome U133A 2.0 Array(Affymetrix社製)上で16時間のハイブリダイゼーションを行う。GeneChip Fluidics Station 450(Affymetrix社製)にて洗浄し、フィコエリスリン染色後、GeneChip Scanner 3000 7G(Affymetrix社製)にてスキャンを行い、AGCC(Affymetrix GeneChip Command Console Software)(Affymetrix社製)にて画像解析し、Affymetrix Expression Console(Affymetrix社製)を用いて数値化する。
(5)数値データファイルを、解析ソフトGeneSpring GX(アジレント・テクノロジー社製)を用いて比較解析する。各細胞におけるSDHA遺伝子の発現量に対する各遺伝子の相対発現量を算出する。
SDHA遺伝子の発現量に対する各遺伝子の相対発現量の測定方法としては、定量PCRを使用することができる。定量PCRは、具体的には、以下の手順(1)~(5)にて行なうことができる。
(1)凍結保存した細胞集団を解凍し、遠心分離により回収する。回収した細胞集団をリン酸バッファー(PBS)にて洗浄し、遠心分離により細胞を回収する。
(2)RNA抽出キット(RNeasy Plus Miniキット(QIAGEN社製))を用いてトータルRNAを抽出、精製する。
(3)精製したトータルRNAを鋳型として用いて逆転写反応によりcDNAを合成し、さらに合成したcDNAとTaqman Fast Advanced Master Mix(Applied Biosystems社製)とプライマー(Taqman Gene Expression Assay、Thermo Fisher社製)を混合して96穴プレートに注入し、定量PCRを行う。
(4)各サンプルのSDHAに対するΔCt値をStepOnePlus Real-Time PCR System(Applied Biosystems社製)にて解析し、各細胞におけるSDHA遺伝子の発現量に対する各遺伝子の相対発現量(2^(-ΔCt))を算出する。
【0046】
SDHA(Succinate dehydrogenase complex,subunit A)は、ハウスキーピング遺伝子の一種であり、遺伝子の配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースにID:6389として登録されている。SDHAは、配列番号1に示す塩基配列からなる遺伝子、或いは配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子である。
【0047】
KCNAB1(potassium channel, voltage gated subfamily A regulatory beta subunit 1)遺伝子の配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースにID:7881として登録されている。KCNAB1は、配列番号3に示す塩基配列からなる遺伝子、或いは配列番号4に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子である。
SULT1E1(sulfotransferase family 1E member 1)遺伝子の配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースにID:6783として登録されている。SULT1E1は、配列番号5に示す塩基配列からなる遺伝子、或いは配列番号6に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子である。
MN1(meningioma (disrupted in balanced translocation) 1)遺伝子の配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースにID:4330として登録されている。MN1は、配列番号7に示す塩基配列からなる遺伝子、或いは配列番号8に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子である。
RARRES2(retinoic acid receptor responder (tazarotene induced) 2)遺伝子の配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースにID:5919として登録されている。RARRES2は、配列番号9に示す塩基配列からなる遺伝子、或いは配列番号10に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子である。
【0048】
上記した遺伝子発現量を測定するタイミングは、特に限定されないが、例えば、生体試料から細胞を分離した直後、培養工程の途中、培養工程における純化後、n回継代した直後(nは1以上の整数を示す)、維持培養の途中、凍結保存前、解凍後、又は医薬品組成物として製剤化する前などが挙げられる。
【0049】
本発明の細胞集団においては、接着性幹細胞は、生体外での培養開始後、好ましくは20日以降まで、さらに好ましくは25日以降まで、30日以降まで、35日以降まで、40日以降まで、45日以降まで、50日以降まで、55日以降まで、60日以降まで、65日以降まで、70日以降まで、75日以降まで、80日以降まで、85日以降まで、90日以降まで、95日以降まで、100日以降まで、105日以降まで、又は110日以降まで、正常核型を維持しながら増殖停止することなく培養することが可能である。
【0050】
本発明の細胞集団における接着性幹細胞の継代可能回数は、1回以上、好ましくは2回以上、より好ましくは3回以上、さらに好ましくは4回以上、さらに好ましくは5回以上、さらに好ましくは6回以上、さらに好ましくは8回以上、さらに好ましくは10回以上、さらに好ましくは12回以上、さらに好ましくは14回以上、さらに好ましくは16回以上、さらに好ましくは18回以上、さらに好ましくは20回以上、さらに好ましくは22回以上、さらに好ましくは24回以上、さらに好ましくは25回以上まで、正常核型を維持しながら培養することが可能である。また、継代可能回数の上限は、特に限定されないが、例えば、50回以下、45回以下、40回以下、35回以下、又は30回以下である。
【0051】
本発明により提供される接着性幹細胞を含む細胞集団は、好ましくは10回以上、さらに好ましくは20回以上、30回以上、40回以上、50回以上、又は60回以上、正常核型を維持しながら集団倍加することが可能である。また、本発明により提供される接着性幹細胞を含む細胞集団は、例えば、100回以下、90回以下、80回以下、又は70回以下、集団倍加することが可能であるが、これらに限定されない。集団倍加回数とは、ある一定の培養期間において細胞集団が分裂した回数であり、[log10(培養終了時の細胞数)-log10(培養開始時の細胞数)]/log10(2)の計算式にて算出される。継代培養を行った場合は、継代毎の集団倍加回数を上記の式で計算した後、累積することによって、総集団倍加回数が算出される。
【0052】
本発明により提供される接着性幹細胞を含む細胞集団の細胞生存率は、例えば、トリパンブルー染色、PI(Propidium iodide)染色、MTT(3-(4,5-Dimethyl-2-thiazolyl)-2,5-diphenyltetrazolium Bromide)アッセイ等により測定することができるが、これらに限定されない。
【0053】
本発明により提供される接着性幹細胞を含む細胞集団の細胞生存率は、好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%である。
【0054】
接着性幹細胞の由来は特に限定されないが、例えば、胎児付属物、骨髄、脂肪組織、又は歯髄に由来する接着性幹細胞を使用することができる。接着性幹細胞は、好ましくは、胎児付属物に由来する接着性幹細胞であり、より好ましくは、羊膜に由来する接着性幹細胞である。接着性幹細胞は、自己、同種異系又は異種の生体試料から単離された接着性幹細胞であり、好ましくは、同種異系の生体試料から単離された接着性幹細胞である。
【0055】
接着性幹細胞は、遺伝子組み換えされた又は遺伝子組み換えされていない接着性幹細胞であり、好ましくは、遺伝子組み換えされていない接着性幹細胞である。
【0056】
本発明の細胞集団は、任意の数の接着性幹細胞を含むことができる。本発明の細胞集団は、例えば、1.0×101個、1.0×102個、1.0×103個、1.0×104個、1.0×105個、1.0×106個、1.0×107個、1.0×108個、1.0×109個、1.0×1010個、1.0×1011個、1.0×1012個、1.0×1013個以上又は以下の接着性幹細胞を含むことができるが、これらに限定されない。
【0057】
本発明の細胞集団は、接着性幹細胞以外に、任意の成分を含んでもよい。上記の成分としては、例えば、塩類(例えば、生理食塩液、リンゲル液、ビカネイト輸液)、多糖類(例えば、ヒドロキシルエチルデンプン(HES)、デキストランなど)、タンパク質(例えば、アルブミンなど)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アミノ酸、培地成分(例えば、RPMI1640培地に含まれる成分など)などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0058】
本発明の細胞集団は、使用直前まで凍結状態にて保存することができる。上記の細胞集団は、接着性幹細胞以外に、凍結保存液を含んでもよい。上記の凍結保存液としては、市販の凍結保存液を用いてもよい。例えば、CP-1(登録商標)(極東製薬工業社製)、BAMBANKER(リンフォテック社製)、STEM-CELLBANKER(日本全薬工業社製)、ReproCryo RM(リプロセル社製)、CryoNovo(Akron Biotechnology社製)、MSC Freezing Solution(Biological Industries社製)、CryoStor(HemaCare社製)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
本発明の細胞集団は、媒体と組み合わせた組成物として提供してもよい。媒体としては、好ましくは液体媒体(例えば、培地、ジメチルスルホキシド(DMSO)、凍結保存液、又は後記する製薬上許容し得る媒体など)を使用することができる。
【0060】
本発明の細胞集団と媒体とを含む組成物は、任意の細胞濃度とすることができる。本発明の細胞集団と媒体とを含む組成物の細胞濃度は、例えば、1.0×101個/mL、1.0×102個/mL、1.0×103個/mL、1.0×104個/mL、1.0×105個/mL、1.0×106個/mL、1.0×107個/mL、1.0×108個/mL、1.0×109個/mL、1.0×1010個/mL以上又は以下の細胞濃度とすることができるが、これらに限定されない。
【0061】
[3]接着性幹細胞を含む細胞集団の製造方法
本発明による接着性幹細胞を含む細胞集団の製造方法は、胎児付属物などの生体組織又は器官から採取した細胞を含む細胞集団において、KCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率が85%以上である細胞集団を取得することを含む、製造方法である。また、本発明による接着性幹細胞を含む細胞集団の製造方法は、胎児付属物などの生体組織又は器官から採取した細胞を含む細胞集団を、KCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率が85%以上に維持する条件下において培養する工程を含む方法である。前記条件は、正常核型を維持している接着性幹細胞を含む細胞集団形成の指標であり、本発明の培養方法は、前記指標を満たせば特に制限されない。
【0062】
本発明の製造方法は、例えば、羊膜などの胎児付属物を酵素処理することにより、接着性幹細胞を含む細胞集団を取得する細胞集団取得工程を含むものでもよい。上記の細胞集団取得工程は、羊膜を帝王切開により得る工程を含む工程でもよい。さらに、上記の細胞集団取得工程は、接着性幹細胞を含む生体試料を洗浄する工程を含むものでもよい。
【0063】
羊膜は、上皮細胞層と細胞外基質層からなり、後者には羊膜接着性幹細胞が含まれている。羊膜上皮細胞は、他の上皮細胞同様、特徴として上皮接着因子(EpCAM:CD326)を発現しているのに対し、羊膜接着性幹細胞はCD326の上皮特異的表面抗原マーカーを発現しておらず、フローサイトメトリーで容易に区別可能である。上記の細胞集団取得工程は、羊膜を帝王切開により得る工程を含む工程でもよい。
【0064】
本発明における接着性幹細胞を含む細胞集団は、好ましくは胎児付属物から採取した上皮細胞層と接着性幹細胞層とを含む生体試料を少なくともコラゲナーゼで処理して得た細胞集団である。
【0065】
胎児付属物から採取した生体試料(好ましくは上皮細胞層と接着性幹細胞層とを含む生体試料)の酵素処理は、好ましくは、胎児付属物の細胞外基質層に含まれる接着性幹細胞を遊離することができ、かつ上皮細胞層を分解しない酵素(又はその組み合わせ)による処理である。かかる酵素としては、特に限定されないが、例えば、コラゲナーゼ及び/又は金属プロテイナーゼを挙げることができる。金属プロテイナーゼとしては、非極性アミノ酸のN末端側を切断する金属プロテイナーゼであるサーモリシン及び/又はディスパーゼを挙げることができるが、特に限定されない。
【0066】
コラゲナーゼの活性濃度は、好ましくは50PU/ml以上、より好ましくは100PU/ml以上、さらに好ましくは200PU/ml以上である。また、コラゲナーゼの活性濃度は、特に限定されないが、例えば、1000PU/ml以下、900PU/ml以下、800PU/ml以下、700PU/ml以下、600PU/ml以下、500PU/ml以下である。ここで、PU(Protease Unit)とは、pH7.5、30℃において、FITC-collagen 1ugを1分間で分解する酵素量と定義する。
【0067】
金属プロテイナーゼ(例えば、サーモリシン及び/又はディスパーゼ)の活性濃度は、好ましくは50PU/ml以上、より好ましくは100PU/ml以上、さらに好ましくは200PU/ml以上である。また、金属プロテイナーゼの活性濃度は、好ましくは1000PU/ml以下、より好ましくは900PU/ml以下、さらに好ましくは800PU/ml以下、さらに好ましくは700PU/ml以下、さらに好ましくは600PU/ml以下、さらに好ましくは500PU/ml以下である。ここで、金属プロテイナーゼとしてディスパーゼを用いた態様において、PU(Protease Unit)とは、pH7.5、30℃において、乳酸カゼインから1分間に1ugのチロシンに相当するアミノ酸を遊離する酵素量と定義される。上記の酵素濃度の範囲において、胎児付属物の上皮細胞層に含まれる上皮細胞の混入を防止しながら、細胞外基質層に含まれる接着性幹細胞を効率よく遊離させることができる。コラゲナーゼ及び/又は金属プロテイナーゼの好ましい濃度の組み合わせは、酵素処理後の胎児付属物の顕微鏡観察や、取得した細胞のフローサイトメトリーにより決定することができる。
【0068】
生細胞を効率的に回収する観点から、コラゲナーゼ及び金属プロテイナーゼを組み合わせて胎児付属物を処理することが好ましい。さらに好ましくは、前記組み合わせによって胎児付属物を同時一括に処理する。この場合の金属プロテイナーゼとしては、サーモリシン及び/又はディスパーゼを使用することができるが、これらに限定されない。コラゲナーゼ及び金属プロテイナーゼを含有する酵素液を用いて胎児付属物を一回のみ処理することにより、接着性幹細胞を簡便に取得することができる。また、同時一括に処理することにより、細菌やウィルス等のコンタミネーションのリスクを低減することができる。
【0069】
胎児付属物の酵素処理は、生理食塩水やハンクス平衡塩溶液等の洗浄液を用いて洗浄した羊膜を酵素液に浸漬し、撹拌手段によって撹拌しながら処理することが好ましい。かかる撹拌手段としては、胎児付属物の細胞外基質層に含まれる接着性幹細胞を効率よく遊離させる観点から、例えば、スターラー又はシェーカーを使用することができるが、これらに限定されない。撹拌速度は、特に限定されないが、スターラー又はシェーカーを用いた場合、例えば、10rpm以上、30rpm以上、又は50rpm以上である。また、撹拌速度は、特に限定されないが、スターラー又はシェーカーを用いた場合、例えば、100rpm以下、80rpm以下又は60rpm以下である。酵素処理時間は、特に限定されないが、例えば、10分以上、30分以上、50分以上、70分以上、又は90分以上である。また、酵素処理時間は、特に限定されないが、例えば、6時間以下、4時間以下、2時間以下、100分以下である。酵素処理温度は、特に限定されないが、例えば、16℃以上、20℃以上、24℃以上、28℃以上、32℃以上、又は36℃以上である。また、酵素処理温度は、特に限定されないが、例えば、40℃以下、39℃以下、又は38℃以下である。
【0070】
本発明の製造方法において、所望により、遊離した接着性幹細胞を含む酵素溶液からフィルター、遠心分離や中空糸分離膜、セルソーター等の公知の方法により遊離した接着性幹細胞を分離及び/又は回収することができる。好ましくは、フィルターによって遊離した接着性幹細胞を含む酵素溶液を濾過する。前記酵素溶液をフィルターによって濾過する態様においては、遊離した細胞のみがフィルターを通過し、分解されなかった上皮細胞層はフィルターを通過できずにフィルター上に残るため、遊離した接着性幹細胞を容易に分離及び/又は回収することができるだけでなく、細菌やウィルス等のコンタミネーションのリスクも低減することができる。フィルターとしては、特に限定されないが、例えば、メッシュフィルターを挙げることができる。メッシュフィルターのポアサイズ(メッシュの大きさ)は、特に限定されないが、例えば、40μm以上、60μm以上、80μm以上、又は90μm以上である。また、メッシュフィルターのポアサイズは、特に限定されないが、例えば、200μm以下、180μm以下、160μm以下、140μm以下、120μm以下、又は100μm以下である。濾過速度に関しては特に限定されないが、メッシュフィルターのポアサイズを上記の範囲とすることにより、接着性幹細胞を含む酵素溶液を自然落下により濾過することができ、これにより細胞生存率の低下を防止することができる。
【0071】
メッシュフィルターの材質としては、ナイロンが好ましく用いられる。研究用として汎用されるFalconセルストレーナーなどの40μm、70μm、95μm又は100μmのナイロンメッシュフィルターを含有するチューブが利用可能である。また、血液透析などで使用されている医療用メッシュクロス(ナイロン及びポリエステル)が利用できる。さらに、体外循環時に使用される動脈フィルター(ポリエステルメッシュフィルター、ポアサイズ:40μm以上120μm以下)も利用可能である。他の材質、例えば、ステンレスメッシュフィルター等も用いることが可能である。
【0072】
接着性幹細胞をフィルター通過させる場合、自然落下(自由落下)が好ましい。ポンプ等を用いた吸引など強制的なフィルター通過も可能であるが、細胞に損傷を与えることを避けるため、できるだけ弱い圧力とすることが望ましい。
【0073】
フィルターを通した接着性幹細胞は、倍量又はそれ以上の培地又は平衡塩緩衝液で濾液を希釈した後、遠心分離により回収することができる。平衡塩緩衝液としては、生理食塩液、ダルベッコリン酸バッファー(DPBS)、アール平衡塩溶液(EBSS)、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)、リン酸バッファー(PBS)等を用いることができるが、これらに限定されない。
【0074】
上記の細胞集団取得工程で得られた細胞集団は、前記細胞集団におけるKCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率が85%以上であることを維持する条件下で培養する。前記条件は、正常核型を維持している接着性幹細胞を含む細胞集団を取得する際の指標として有用である。培養方法としては、前記指標を満たすものであれば、特に限定されない。そのような方法としては、例えば、セルソーターにて前記指標を満たす細胞集団を分取することや、前記指標を満たす条件下で細胞集団を培養する方法が挙げられる。
【0075】
前記指標を満たす培養方法としては、例えば、例えば細胞集団を、コーティングしていないプラステチック製培養容器に100~20,000細胞/cm2の密度で播種し、培養することを複数回繰り返す工程を挙げることができる。細胞集団を播種する際の密度の下限は、さらに好ましくは200個/cm2以上であり、さらに好ましくは400個/cm2以上であり、さらに好ましくは600個/cm2以上であり、さらに好ましくは800個/cm2以上であり、さらに好ましくは1000個/cm2以上であり、さらに好ましくは1200個/cm2以上であり、さらに好ましくは1400個/cm2以上であり、さらに好ましくは1600個/cm2以上であり、さらに好ましくは1800個/cm2以上であり、さらに好ましくは2000個/cm2以上である。細胞集団を播種する際の密度の上限は、さらに好ましくは18000個/cm2以下であり、さらに好ましくは16000個/cm2以下であり、さらに好ましくは14000個/cm2以下であり、さらに好ましくは12000個/cm2以下であり、さらに好ましくは10000個/cm2以下であり、さらに好ましくは8000個/cm2以下である。
【0076】
前記指標を満たす他の培養方法としては、例えば、細胞集団を、コーティング剤によりコーティングしたプラスチック製培養容器に100~20,000個/cm2の密度で播種し、培養することを複数回繰り返す工程を挙げることができる。細胞集団を播種する際の密度の好ましい条件は、上記した条件と同様である。
【0077】
コーティング剤としては、例えば、細胞外基質、フィブロネクチン、ビトロネクチン、オステオポンチン、ラミニン、エンタクチン、コラーゲンI、コラーゲンII、コラーゲンIII、コラーゲンIV、コラーゲンV、コラーゲンVI、ゼラチン、ポリ-L-オルニチン、ポリ-D-リジン、マトリゲル(登録商標)マトリックスを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0078】
上記の培養に用いる培地は、任意の動物細胞培養用液体培地を基礎培地とし、必要に応じて他の成分(アルブミン、血清、血清代替試薬、増殖因子、ヒト血小板溶解物など)を適宜添加することにより調製することができる。
【0079】
基礎培地としては、BME培地、BGJb培地、CMRL1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)培地、DMEM培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)、ハムF10培地、ハムF12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、及びこれらの混合培地(例えば、DMEM/F12培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium/Nutrient Mixture F-12 Ham))等の培地を使用することができるが、特に限定されない。
【0080】
また、上記の培養に用いる培地は、市販の無血清培地を用いてもよい。例えば、STK1やSTK2(DSファーマバイオメディカル社製)、EXPREP MSC Medium(バイオミメティクスシンパシーズ社製)、Corning stemgro ヒト接着性幹細胞培地(コーニング社製)などが挙げられるが、特に限定されない。
【0081】
前記基礎培地に対して添加する他の成分としては、例えば、アルブミン、血清、血清代替試薬、増殖因子、又はヒト血小板溶解物などが挙げられる。前記基礎培地にアルブミンを添加する態様においては、アルブミンの濃度は0.05%より多く5%以下が好ましい。また、前記基礎培地に血清を添加する態様においては、血清の濃度は5%以上が好ましい。増殖因子を添加する態様においては、増殖因子を培地中で安定化させるための試薬(ヘパリンなどのタンパク、ゲル、多糖類など)を、増殖因子に加えてさらに添加してもよいし、あらかじめ安定化させた増殖因子を前記基礎培地に対して添加してもよい。増殖因子は例えば、線維芽細胞増殖因子(FGF)、上皮細胞増殖因子(EGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、及びそれらのファミリーを使用することができるが、特に限定されない。
【0082】
前記指標を満たすさらに他の培養方法としては、例えば、培養に用いる基礎培地に、ヒト血小板溶解物(hPL)を添加して培養することが挙げられる。ヒト血小板溶解物は、細菌やウィルスの不活性化及び/又は滅菌処理がされていることが好ましい。上記のヒト血小板溶解物としては、市販のヒト血小板溶解物を用いてもよい。例えば、Stemulate(Cook Regentec社製)、PLTMax(Mill Creek Life Science社製)、UltraGRO(AventaCell BioMedial社製)、PLUS(Compass Biomedical社製)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0083】
培地中におけるヒト血小板溶解物の終濃度は、好ましくは1%以上であり、さらに好ましくは2%以上であり、さらに好ましくは3%以上であり、さらに好ましくは4%以上であり、さらに好ましくは5%以上である。培地中における血小板溶解物の終濃度は、好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは18%以下であり、さらに好ましくは16%以下であり、さらに好ましくは14%以下であり、さらに好ましくは12%以下であり、さらに好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは9%以下であり、さらに好ましくは8%以下であり、さらに好ましくは7%以下であり、さらに好ましくは6%以下である。
【0084】
ヒト血小板溶解物を添加するタイミングは、特に限定されないが、例えば、培養工程の最初、培養工程の途中、培養工程における純化後、n回継代した直後(nは1以上の整数を示す)、維持培養の途中、凍結保存前、又は解凍後などが挙げられる。
【0085】
接着性幹細胞の培養は、例えば、以下のような工程にて行うことができる。まず、細胞懸濁液を遠心分離し、上清を除去し、得られた細胞ペレットを培地にて懸濁する。次に、プラスチック製培養容器に細胞を播種し、3%以上5%以下のCO2濃度、37℃環境にて、培地を用いてコンフルエント率95%以下となるように培養する。上記の培地としては、例えば、αMEM、M199、或いはこれらを基礎とする培地を挙げることができるが、これらに限定されない。上記のような培養により取得した細胞は、1回培養した細胞である。
【0086】
上記の1回の培養の培養期間としては、例えば2から15日間を挙げることができ、より具体的には、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、8日間、10日間、12日間、14日間、又は15日間を挙げることができる。
【0087】
上記の1回培養した細胞は、例えば、以下のようにさらに継代し、培養することができる。まず、1回培養した細胞を、細胞剥離手段にて処理してプラスチック製培養容器から剥離させる。次に、得られた細胞懸濁液を遠心分離し、上清を除去し、得られた細胞ペレットを培地にて懸濁する。最後に、プラスチック製培養容器に細胞を播種し、3%以上、5%以下のCO2濃度、37℃環境にて、培地を用いてコンフルエント率95%以下となるように培養する。上記の培地としては、例えば、αMEM、M199、或いはこれらを基礎とする培地を挙げることができるが、これらに限定されない。上記のような継代及び培養により取得した細胞は、1回継代した細胞である。同様の継代及び培養を行うことにより、n回継代した細胞を取得することができる(nは1以上の整数を示す)。継代回数nの下限は、細胞を大量に製造する観点から、例えば、1回以上、好ましくは2回以上、より好ましくは4回以上、さらに好ましくは6回以上、さらに好ましくは8回以上、さらに好ましくは10回以上、さらに好ましくは12回以上、さらに好ましくは14回以上、さらに好ましくは16回以上、さらに好ましくは18回以上、さらに好ましくは20回以上、さらに好ましくは25回以上である。また、継代回数nの上限は、細胞の老化を抑える観点から、例えば、50回以下、40回以下、30回以下であることが好ましい。上記の細胞剥離手段として、例えば、細胞剥離剤を使用してもよい。細胞剥離剤としては、トリプシン、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等を使用することができるが、特に限定されない。細胞剥離剤として、市販の細胞剥離剤を用いてもよい。例えば、トリプシン-EDTA溶液(Thermo Fisher Scientific社製)、TrypLE Select(Thermo Fisher Scientific社製)、Accutase(Stemcell Technologies社製)、Accumax(Stemcell Technologies社製)などが挙げられるが、これらに限定されない。また、細胞剥離手段として、物理的な細胞剥離手段を使用してもよく、例えば、セルスクレーパー(コーニング社製)を使用することができるが、これに限定されない。細胞剥離手段は、単独で使用してもよく、複数を組み合わせて使用してもよい。
【0088】
本発明の製造方法によれば、正常核型を維持している接着性幹細胞を得ることができ、これにより安全な細胞製剤(医薬組成物)を製造することができる。培養1バッチあたりの取得細胞数(単位表面積あたり、単位培養日数あたりの得られる細胞数)の下限は、播種細胞数、播種密度等によって異なるが、例えば、5.0×103(個/cm2/day)以上、6.0×103(個/cm2/day)以上、8.0×103(個/cm2/day)以上、1.0×104(個/cm2/day)以上、1.1×104(個/cm2/day)以上、又は1.2×104(個/cm2/day)以上である。また、培養1バッチあたりの取得細胞数の上限は、特に限定されないが、例えば、1.0×105(個/cm2/day)以下、8.0×104(個/cm2/day)以下、6.0×104(個/cm2/day)以下、4.0×104(個/cm2/day)以下、又は2.0×104(個/cm2/day)以下である。
【0089】
本発明の製造方法によれば、正常核型を維持している接着性幹細胞を得ることができる。これにより、本発明の製造方法によって得られる接着性幹細胞は、生体外での培養開始後、好ましくは20日以降まで、さらに好ましくは30日以降まで、40日以降まで、50日以降まで、60日以降まで、70日以降まで、80日以降まで、90日以降まで、100日以降まで、又は110日以降まで、正常核型を維持しながら増殖停止することなく培養することが可能である。
【0090】
また、本発明の製造方法によって得られる接着性幹細胞は、生体外での培養開始後、倍加回数が好ましくは10回以上、20回以上、30回以上、40回以上、50回以上、又は60回以上になるまで正常核型を維持しながら増殖停止することなく培養することが可能である。
【0091】
本発明の製造方法は、接着性幹細胞を含む細胞集団において、KCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率が85%以上であることを指標として、正常核型を維持している接着性幹細胞を含む集団を識別する識別工程を含むものでもよい。
【0092】
前記接着性幹細胞を含む細胞集団を識別するための手段は、好ましくは、フローサイトメトリー、マイクロアレイ、RT-PCR、及び/又は定量RT-PCRである。
【0093】
上記の識別を行うタイミングは、特に限定されないが、例えば、生体試料から細胞を分離した直後、培養工程の途中、培養工程における純化後、n回継代した直後(nは1以上の整数を示す)、維持培養の途中、凍結保存前、解凍後、又は医薬品組成物として製剤化する前などが挙げられる。
【0094】
また、本発明の製造方法は、KCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率が85%以上であることを指標として前記接着性幹細胞を含む細胞集団を識別した後に、識別した細胞集団を選択的に分離する工程を含むことができる。前記識別した細胞集団を選択的に分離するための手段は、特に限定されないが、例えば、セルソーターによる細胞集団の分取、培養による細胞集団の純化などが挙げられる。
【0095】
また、本発明の製造方法は、前記接着性幹細胞を含む細胞集団を凍結保存する工程を含むことができる。前記細胞集団を凍結保存する工程を含む態様においては、前記細胞集団を解凍後、必要に応じて前記細胞集団を分離、回収及び/又は培養してもよい。また、前記細胞集団を解凍後、そのまま使用してもよい。
【0096】
前記接着性幹細胞を含む細胞集団を凍結保存するための手段は、特に限定されないが、例えば、プログラムフリーザー、ディープフリーザー、液体窒素への浸漬などが挙げられる。凍結する際の温度は、好ましくは-30℃以下、-40℃以下、-50℃以下、-80℃以下、-90℃以下、-100℃以下、-150℃以下、-180℃以下、又は-196℃(液体窒素温度)以下である。凍結する際の好ましい凍結速度は、例えば、-1℃/分、-2℃/分、-5℃/分、-9℃/分、-10℃/分、-11℃/分、又は-15℃/分である。かかる凍結手段としてプログラムフリーザーを用いた場合、例えば、-2℃/分以上-1℃/分以下の凍結速度で-50℃以上-30℃以下の間の温度(例えば、-40℃)まで温度を下げ、さらに-11℃/分以上-9℃/分以下(例えば、-10℃/分)の凍結速度で-100℃以上-80℃以下の温度(例えば、-90℃)まで温度を下げることができる。また、上記の凍結手段として液体窒素への浸漬を用いた場合、例えば、-196℃まで急速に温度を下げて凍結させた後、液体窒素(気相)中で凍結保存することができる。
【0097】
上記の凍結手段により凍結する際、上記の細胞集団は、任意の保存容器に入った状態で凍結されてよい。かかる保存容器としては、例えば、クライオチューブ、クライオバイアル、凍結用バッグ、輸注バッグなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0098】
上記の凍結手段により凍結する際、上記の細胞集団は、任意の凍結保存液中で凍結されてもよい。上記の凍結保存液としては、市販の凍結保存液を用いてもよい。例えば、CP-1(登録商標)(極東製薬工業社製)、BAMBANKER(リンフォテック社製)、STEM-CELLBANKER(日本全薬工業社製)、ReproCryo RM(リプロセル社製)、CryoNovo(Akron Biotechnology社製)、MSC Freezing Solution(Biological Industries社製)、CryoStor(HemaCare社製)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0099】
上記の凍結保存液は、所定濃度の多糖類を含有することができる。多糖類の好ましい濃度は、例えば、1質量%以上、2質量%以上、4質量%以上、又は6質量%以上である。また、多糖類の好ましい濃度は、例えば、20質量%以下、18質量%以下、16質量%以下、14質量%以下、又は13質量%以下である。多糖類としては、例えば、ヒドロキシルエチルデンプン(HES)又はデキストラン(Dextran40など)などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0100】
上記の凍結保存液は、所定濃度のジメチルスルホキシド(DMSO)を含有することができる。DMSOの好ましい濃度は、例えば、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、又は5質量%以上である。また、DMSOの好ましい濃度は、例えば、20質量%以下、18質量%以下、16質量%以下、14質量%以下、12質量%以下、又は10質量%以下である。
【0101】
上記の凍結保存液は、0質量%より多い所定濃度のアルブミンを含有するものでもよい。アルブミンの好ましい濃度は、例えば、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、又は4質量%以上である。また、アルブミンの好ましい濃度は、例えば、30質量%以下、20質量%以下、10質量%以下、又は9質量%以下である。アルブミンとしては、例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)、マウスアルブミン、ヒトアルブミン等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0102】
本発明の製造方法は、前記接着性幹細胞を含む細胞集団を洗浄する工程を含むことができる。上記の接着性幹細胞を含む細胞集団を洗浄する工程において使用される洗浄液としては、例えば、生理食塩液、ダルベッコリン酸バッファー(DPBS)、アール平衡塩溶液(EBSS)、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)、リン酸バッファー(PBS)等を挙げることができるが、これらに限定されない。細胞集団を洗浄することにより、アレルゲン、エンドトキシン等を低減又は除去することができる。上記のアレルゲンとしては、例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)、ブタトリプシン、ブタヘパリンなどを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0103】
本発明の製造方法は、前記接着性幹細胞を含む細胞集団から、必要に応じて望まれない細胞凝集塊を除去する工程を含むことができる。上記の接着性幹細胞を含む細胞集団から望まれない細胞凝集塊を除去する工程は、接着性幹細胞を含む細胞集団(細胞懸濁液)をフィルター濾過する工程を含む工程でもよい。
【0104】
本発明の製造方法は、前記接着性幹細胞を含む細胞集団を保存容器に充填する工程を含むことができる。上記の保存容器としては、例えば、クライオチューブ、クライオバイアル、凍結用バッグ、輸注バッグなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0105】
[4]接着性幹細胞の核型異常をモニタリングする方法、ドナー及び/又はドナーから採取した生体試料の評価方法、並びに最適な酵素処理条件の判断及び/又は予測方法
本発明においては、接着性幹細胞を含む細胞集団におけるKCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率が85%以上であることを指標として測定することによって(好ましくは経時的に測定することによって)、接着性幹細胞の核型異常をモニタリングすることができる。前記モニタリングが必要な工程としては、例えば、培養する工程、凍結保存する工程及び/又は製剤化する工程である。
【0106】
培養する工程においては、指標を経時的に測定することで、接着性幹細胞の核型異常の変化を迅速かつ簡便に把握且つ予測することができる。上記指標を満たす接着性幹細胞を含む細胞集団においては、接着性幹細胞が正常核型を維持していることが分かる。一方上記指標から値が逸脱した培養状態が継続している場合には、接着性幹細胞の核型異常が増加しつつあることが予測できる。核型異常が増加しつつあることを指標から読み取った場合には、培養条件(播種密度、培地、増殖因子、血清の変更など)を必要に応じて適切に変更することによって、接着性幹細胞の核型異常の発現を抑制することができる。また、上記指標を満たさない場合には、例えばセルソーティング技術を利用することによって、上記指標を満たす接着性幹細胞を含む細胞集団を分取することができる。前記細胞集団における接着性幹細胞を再度播種し、継代培養することによって、接着性幹細胞の核型異常の発現を抑制することができる。培養初期段階においては、その工程の最終段階において前記指標を満たすように培養条件(播種密度、培地、増殖因子、血清の変更など)を設計して、少なくとも最終段階においては、上記指標を満たすことができればよい。
【0107】
本発明においては、ドナーから接着性幹細胞を含む細胞集団を取得し、KCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率を測定し、前記細胞集団におけるKCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率が85%以上であることを指標として評価することによって、ドナー自体及び/又はドナーから採取した生体試料の品質を評価することができる。上記指標を満たす接着性幹細胞を含む細胞集団が得られる場合(好ましくは容易に得られる場合)には、ドナー及び/又はドナーから採取した生体試料の品質が良好であることを確認できる。一方、前記接着性幹細胞を含む細胞集団における上記比率が、上記指標から逸脱している場合には、ドナーから採取した生体試料の品質が不良であるため、培養条件(播種密度、培地、増殖因子、血清の変更など)を適切に変更することによって、接着性幹細胞の核型異常の発生を抑制することができる。また、前記接着性幹細胞を含む細胞集団における上記比率が、上記指標から逸脱している場合には、例えばセルソーティング技術を利用することによって、上記指標を満たす接着性幹細胞を含む細胞集団を分取し、前記細胞集団における接着性幹細胞を播種して培養することによって、接着性幹細胞の核型異常を低下させることができる。あるいは、上記指標から逸脱した生体試料を、培養せずに廃棄することで、品質不良の接着性幹細胞を大量に取得するリスクを低減することができる。培養初期段階においては、その工程の最終段階において前記指標を満たすように培養条件(播種密度、培地、増殖因子、血清の変更など)を設計して、少なくとも最終段階においては、上記指標を満たすことができればよい。なお、ドナーから採取した生体試料の品質を確認する場合については、生体試料の調製及び処理方法、細胞集団の培養方法は特に限定されず、任意の方法を採用することができる。
【0108】
本発明においては、ドナーから採取した生体試料を酵素処理して得られた細胞集団に対して、KCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率を測定し、前記細胞集団におけるKCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率が85%以上であることを指標として評価することで、前記生体試料の最適な酵素処理条件を判断及び/又は予測することができる。上記指標を満たす接着性幹細胞を含む細胞集団が得られる場合(好ましくは容易に得られる場合)には、ドナーから採取した生体試料の酵素処理方法が適切であることを判断及び/又は予測することができる。一方、上記指標から値が逸脱した培養状態が継続している場合には、ドナーから採取した生体試料の酵素処理方法が不適切であると判断及び/又は予測することができる。なお、最適な酵素処理方法を判断及び/又は予測する場合については、生体試料の調製及び処理方法、細胞集団の培養方法は特に限定されず、任意の方法を採用することができる。
【0109】
上記の指標は必要なタイミングで測定すればよく、特に限定されないが、生体試料から細胞を分離した直後、培養工程の途中、培養工程における純化後、n回継代した直後(nは1以上の整数を示す)、維持培養の途中、凍結保存前、解凍後、又は医薬品組成物として製剤化する前などが挙げられる。
【0110】
[5]医薬組成物
本発明による接着性幹細胞を含む細胞集団は、医薬組成物として使用することができる。即ち、本発明によれば、本発明による接着性幹細胞を含む細胞集団と、製薬上許容し得る媒体とを含む、医薬組成物が提供される。本発明によればさらに、本発明による接着性幹細胞を含む細胞集団と、投与可能な他の細胞とを含む、医薬組成物が提供される。
【0111】
本発明の医薬組成物は、細胞治療剤、例えば、難治性疾患治療剤として使用することができる。
本発明の医薬組成物は、免疫関連疾患、虚血性疾患、下肢虚血、脳血管虚血、腎臓虚血、肺虚血、神経性疾患、移植片対宿主病、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、放射線腸炎、全身性エリテマトーデス、紅斑性狼瘡、膠原病、脳卒中、脳梗塞、脳内血腫、脳血管麻痺、肝硬変、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、乾癬、表皮水疱症、糖尿病、菌状息肉腫、強皮症、軟骨等の結合組織の変性及び/又は炎症から起こる疾患、関節軟骨欠損、半月板損傷、離弾性骨軟骨症、無腐性骨壊死、変形性膝関節症、炎症性関節炎、関節リウマチ、眼疾患、血管新生関連疾患、虚血性心疾患、冠動脈性心疾患、心筋梗塞、狭心症、心不全、心筋症、弁膜症、創傷、上皮損傷、線維症、肺疾患、及び癌から選択される疾患の治療剤として使用することができる。本発明の医薬組成物を治療部位に効果が計測できる量投与することで、上記疾患を治療することができる。
【0112】
本発明によれば、医薬組成物のために使用される、本発明による接着性幹細胞を含む細胞集団が提供される。
本発明によれば、細胞治療剤のために使用される、本発明による接着性幹細胞を含む細胞集団が提供される。
【0113】
本発明によれば、免疫関連疾患、虚血性疾患、下肢虚血、脳血管虚血、腎臓虚血、肺虚血、神経性疾患、移植片対宿主病、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、放射線腸炎、全身性エリテマトーデス、紅斑性狼瘡、膠原病、脳卒中、脳梗塞、脳内血腫、脳血管麻痺、肝硬変、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、乾癬、表皮水疱症、糖尿病、菌状息肉腫、強皮症、軟骨等の結合組織の変性及び/又は炎症から起こる疾患、関節軟骨欠損、半月板損傷、離弾性骨軟骨症、無腐性骨壊死、変形性膝関節症、炎症性関節炎、関節リウマチ、眼疾患、血管新生関連疾患、虚血性心疾患、冠動脈性心疾患、心筋梗塞、狭心症、心不全、心筋症、弁膜症、創傷、上皮損傷、線維症、肺疾患、及び癌から選択される疾患の治療のために使用される、本発明による接着性幹細胞を含む細胞集団が提供される。
【0114】
本発明によれば、患者又は被験者に投与して、心筋の再生、心筋細胞の産生、血管新生、血管の修復、又は、免疫応答の抑制のために使用される、本発明による接着性幹細胞を含む細胞集団が提供される。
【0115】
本発明によれば、患者又は被験者に、本発明による接着性幹細胞を含む細胞集団の治療有効量を投与する工程を含む、患者又は被験者に細胞を移植する方法、並びに患者又は被験者の疾患の治療方法が提供される。
【0116】
本発明によれば、医薬組成物の製造のための、本発明による接着性幹細胞を含む細胞集団の使用が提供される。
本発明によれば、細胞治療剤の製造のための、本発明による接着性幹細胞を含む細胞集団の使用が提供される。
【0117】
本発明によれば、免疫関連疾患、虚血性疾患、下肢虚血、脳血管虚血、腎臓虚血、肺虚血、神経性疾患、移植片対宿主病、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、放射線腸炎、全身性エリテマトーデス、紅斑性狼瘡、膠原病、脳卒中、脳梗塞、脳内血腫、脳血管麻痺、肝硬変、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、乾癬、表皮水疱症、糖尿病、菌状息肉腫、強皮症、軟骨等の結合組織の変性及び/又は炎症から起こる疾患、関節軟骨欠損、半月板損傷、離弾性骨軟骨症、無腐性骨壊死、変形性膝関節症、炎症性関節炎、関節リウマチ、眼疾患、血管新生関連疾患、虚血性心疾患、冠動脈性心疾患、心筋梗塞、狭心症、心不全、心筋症、弁膜症、創傷、上皮損傷、線維症、肺疾患、及び癌から選択される疾患の治療剤の製造のための、本発明による接着性幹細胞を含む細胞集団の使用が提供される。
【0118】
本発明によれば、患者又は被験者に投与して、心筋の再生、心筋細胞の産生、血管新生、血管の修復、又は、免疫応答の抑制に必要な治療剤の製造のための、本発明による接着性幹細胞を含む細胞集団の使用が提供される。
【0119】
本発明の医薬組成物は、接着性幹細胞を含む細胞集団を、製薬上許容し得る媒体により希釈したものでもよい。上記の製薬上許容し得る媒体は、患者又は被験者に投与し得る溶液であれば特に限定されない。製薬上許容し得る媒体は、輸液製剤であってもよく、例えば、注射用水、生理食塩液、5%ブドウ糖液、リンゲル液、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液、アミノ酸液、開始液(1号液)、脱水補給液(2号液)、維持輸液(3号液)、術後回復液(4号液)、Plasma-Lyte A(登録商標)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0120】
本明細書における「患者又は被験者」とは、典型的にはヒトであるが、他の動物であってもよい。他の動物としては、例えば、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、サル(カニクイザル、アカゲザル、コモンマーモセット、ニホンザル)、フェレット、ウサギ、げっ歯類(マウス、ラット、スナネズミ、モルモット、ハムスター)等の哺乳動物、ニワトリ、ウズラ等の鳥類が挙げられるが、これらに限定されない。
【0121】
本明細書における「治療」としては、例えば、患者又は被験者の生命予後、機能予後、生存率、体重減少、貧血、下痢、下血、腹痛、発熱、食欲低下、栄養失調、嘔吐、疲労、発疹、炎症、潰瘍、びらん、瘻孔、狭窄、腸閉塞、内出血、直腸出血、痙攣、疼痛、肝機能低下、心機能低下、肺機能低下、又は血液検査項目のうち、少なくとも1つを有意に改善することが挙げられるが、これらに限定されない。
【0122】
本発明の医薬組成物は、患者又は被験者の治療の際に用いられる任意の成分を含んでもよい。上記の成分としては、例えば、塩類(例えば、生理食塩液、リンゲル液、ビカネイト輸液)、多糖類(例えば、ヒドロキシルエチルデンプン(HES)、デキストランなど)、タンパク質(例えば、アルブミンなど)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アミノ酸、培地成分(例えば、RPMI1640培地に含まれる成分など)などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0123】
本発明の医薬組成物は、保存安定性、等張性、吸収性及び/又は粘性を増加するための種々の添加剤、例えば、乳化剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、湿潤剤、抗酸化剤、キレート剤、増粘剤、ゲル化剤、pH調整剤等を含んでもよい。前記増粘剤としては、例えば、HES、デキストラン、メチルセルロース、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられるが、これらに限定されない。増粘剤の濃度は、選択される増粘剤によるが、患者又は被験者に投与した場合に安全であり、かつ所望の粘性を達成する濃度の範囲で、任意に設定することができる。
【0124】
本発明の医薬組成物は、接着性幹細胞以外に、1つ又は複数の他の医薬を含んでもよい。上記の他の医薬としては、例えば、抗生物質、アルブミン製剤、ビタミン製剤、抗炎症剤等が挙げることができるが、これらに限定されない。上記の抗炎症剤としては、5-アミノサリチル酸製剤、ステロイド製剤、免疫抑制剤、生物学的製剤等が挙げられるが、これらに限定されない。上記の5-アミノサリチル酸製剤としては、例えば、サラゾスルファピリジン、メサラジンなどを挙げることができるが、これらに限定されない。上記のステロイド製剤としては、例えば、コルチゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロンなどを挙げることができるが、これらに限定されない。上記の免疫抑制剤としては、例えば、タクロリムス、シクロスポリン、メトトレキサート、アザチプリン、6-メルカプトプリンなどを挙げることができるが、上記の生物学的製剤としては、例えば、インフリキシマブ、アダリムマブ、ウステキヌマブ、セクキヌマブ、イキセキズマブ、ブロダルマブ、トシリズマブ、ベドリズマブ、フィルゴチニブ、ゴリムマブ、セルトリズマブペゴル、アバタセプト、エタネルセプトなどを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0125】
また、上記の他の医薬は、投与可能な他の細胞であってもよい。投与可能な他の細胞としては、血液由来細胞(白血球、赤血球、単核球等)、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、周皮細胞、血管壁細胞、線維芽細胞、骨格筋芽細胞、上皮細胞、間質細胞、成熟脂肪細胞等が挙げられるが、特に限定されない。
【0126】
本発明の医薬組成物のpHは、中性付近のpH、例えば、pH5.5以上、6.5以上又はpH7.0以上とすることができ、またpH10.5以下、pH9.5以下、pH8.5以下又はpH8.0以下とすることができるが、これらに限定されない。
【0127】
本発明の医薬組成物の細胞濃度としては、患者又は被験者に投与した場合に、投与していない患者又は被験者と比較して疾患に対して治療効果を得ることができるような細胞の濃度である。具体的な細胞濃度は、投与形態、投与方法、使用目的、及び患者又は被験者の年齢、体重及び症状等によって適宜決定することができる。本発明の医薬組成物の細胞濃度の下限は、特に限定されないが、例えば、1.0×105個/mL以上、1.0×106個/mL以上、1.2×106個/mL以上、1.4×106個/mL以上、1.6×106個/mL以上、1.8×106個/mL以上、2.0×106個/mL以上、3.0×106個/mL以上、4.0×106個/mL以上、5.0×106個/mL以上、6.0×106個/mL以上、7.0×106個/mL以上、8.0×106個/mL以上、9.0×106個/mL以上、9.5×106個/mL以上、又は1.0×107個/mL以上である。本発明の医薬組成物の細胞濃度の上限は、特に限定されないが、例えば、1.0×1010個/mL以下、1.0×109個/mL以下、8.0×108個/mL以下、6.0×108個/mL以下、4.0×108個/mL以下、2.0×108個/mL以下、又は1.0×108個/mL以下である。
【0128】
本発明の医薬組成物は、好ましくは液剤であり、より好ましくは注射用液剤である。注射用液剤としては、例えば、国際公開WO2011/043136号公報、特開2013-256510号公報などにおいて、注射に適した液体調製物が知られている。本発明の医薬組成物も、上記文献に記載されている注射用液剤とすることができる。
また、上記液剤は細胞の懸濁液でもよく、細胞が液剤中に分散した液体調製物でもよい。さらに前記液剤に含まれる細胞の形態は特に限定されないが、例えばシングルセルでもよいし、細胞凝集塊でもよい。
【0129】
本発明の医薬組成物が注射用液剤である場合、注射用液剤の細胞濃度の下限は、疾患に対する治療効果を高める観点から、1.0×106個/mL以上、1.2×106個/mL以上、1.4×106個/mL以上、1.6×106個/mL以上、1.8×106個/mL以上、2.0×106個/mL以上、3.0×106個/mL以上、4.0×106個/mL以上、5.0×106個/mL以上、6.0×106個/mL以上、7.0×106個/mL以上、8.0×106個/mL以上、9.0×106個/mL以上、9.5×106個/mL以上、又は1.0×107個/mL以上であることが好ましい。また、注射用液剤の細胞濃度の上限は、注射用液剤の調製と投与を容易にする観点から、1.0×109個/mL以下、8.0×108個/mL以下、6.0×108個/mL以下、4.0×108個/mL以下、2.0×108個/mL以下、又は1.0×108個/mL以下であることが好ましい。
【0130】
また、本発明の一態様によれば、本発明の医薬組成物は、移植用製剤であってもよい。移植用製剤は、固体状またはゲル状の製剤であり、例えば、固体状の移植用製剤としては、シート状構造またはペレット構造の移植用製剤が挙げられる。また、ゲル状構造の移植用製剤としては、例えば、国際公開WO2017/126549号公報において、分離された細胞を接着剤(例えば、フィブリノーゲン)により接着させることにより得られるゲルを含む移植用製剤が知られている。また、本発明の一態様によれば、本発明の医薬組成物は、細胞と任意のゲルを混合したゲル製剤であってもよい。ゲル製剤としては、例えば、特表2017-529362号公報において、接着性幹細胞-ヒドロゲル組成物より構成される細胞治療剤が知られている。本発明の医薬組成物も、例えば上記文献に記載されている方法を用いることにより、ゲル製剤とすることができる。
また、シート状構造の移植用製剤としては、例えば、国際公開WO2006/080434号公報、特開2016-52272号公報などにおいて、温度応答性培養皿(例えば、UpCell(登録商標)(セルシード社製))を用いて培養することにより得られる細胞シートや、シート状細胞培養物とフィブリンゲルとの積層体、細胞懸濁液をシート状の基材に塗布した細胞塗布シートなどが知られている。本発明の医薬組成物も、例えば上記文献に記載されている方法を用いることにより、各種のシート状構造の移植用製剤とすることができる。
【0131】
本発明の医薬組成物の投与方法は、特に限定されないが、例えば、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射、リンパ節内注射、静脈内注射、動脈内注射、腹腔内注射、胸腔内注射、局所への直接注射、直接貼付、又は局所に直接移植することなどが挙げられる。本発明の一態様によれば、注射用液剤を注射器に充填して、注射針やカテーテルを通じて静脈内、動脈内、心筋内、間節腔内、肝動脈内、筋肉内、硬膜外、歯肉、脳室内、皮下、皮内、腹腔内、門脈内に投与することができるが、これらに限定されない。医薬組成物の投与方法については、例えば、特開2015-61520号公報、Onken JE,t al.American College of Gastroenterology Conference 2006Las Vegas,NV, Abstract 121.、Garcia-Olmo D,et al.Dis Colon Rectum 2005;48:1416-23.などにおいて、静脈内注射、点滴静脈注射、局所への直接注射、局所への直接移植などが知られている。本発明の医薬組成物も、上記文献に記載されている各種方法により投与することができる。
【0132】
本発明の医薬組成物の用量としては、患者又は被験者に投与した場合に、投与していない患者又は被験者と比較して疾患に対して治療効果を得ることができるような細胞の量である。具体的な用量は、投与形態、投与方法、使用目的、及び患者又は被験者の年齢、体重及び症状等によって適宜決定することができる。ヒトへの接着性幹細胞の1回の用量は、特に限定されないが、例えば、1×104個/kg体重以上、1×105個/kg体重以上、5×105個/kg体重以上、1×106個/kg体重以上、2×106個/kg体重以上、4×106個/kg体重以上、6×106個/kg体重以上、又は8×106個/kg体重以上である。また、ヒトへの接着性幹細胞の1回の用量は、特に限定されないが、例えば、1×1012個/kg体重以下、1×1011個/kg体重以下、1×1010個/kg体重以下、1×109個/kg体重以下、5×108個/kg体重以下、1×108個/kg体重以下、8×107個/kg体重以下、6×107個/kg体重以下、4×107個/kg体重以下、又は2×107個/kg体重以下である。
【0133】
本発明の医薬組成物が注射用液剤である場合、注射用液剤のヒトへの接着性幹細胞の1回の用量は、疾患に対する治療効果を高める観点から、1×105個/kg体重以上、5×105個/kg体重以上、1×106個/kg体重以上、2×106個/kg体重以上、4×106個/kg体重以上、6×106個/kg体重以上、又は8×106個/kg体重以上であることが好ましい。また、注射用液剤のヒトへの接着性幹細胞の1回の用量は、注射用液剤の調製と投与を容易にする観点から、1×109個/kg体重以下、5×108個/kg体重以下、1×108個/kg体重以下、8×107個/kg体重以下、6×107個/kg体重以下、4×107個/kg体重以下、又は2×107個/kg体重以下であることが好ましい。
【0134】
本発明の医薬組成物の投与頻度は、患者又は被験者に投与した場合に、疾患に対して治療効果を得ることができるような頻度である。具体的な投与頻度は、投与形態、投与方法、使用目的、及び患者又は被験者の年齢、体重及び症状等によって適宜決定することができるが、例えば、4週間に1回、3週間に1回、2週間に1回、1週間に1回、1週間に2回、1週間に3回、1週間に4回、1週間に5回、1週間に6回、又は1週間に7回である。
【0135】
本発明の医薬組成物の投与期間は、患者又は被験者に投与した場合に、疾患に対して治療効果を得ることができるような期間である。具体的な投与期間は、投与形態、投与方法、使用目的、及び患者又は被験者の年齢、体重及び症状等によって適宜決定することができるが、例えば、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、又は8週間である。
【0136】
本発明の医薬組成物を患者又は被験者に投与するタイミングは、特に限定されないが、例えば、発症直後、発症からn日以内(nは1以上の整数を示す)、診断直後、診断からn日以内(nは1以上の整数を示す)、寛解の前、寛解の間、寛解の後、再燃の前、再燃の間、再燃の後などが挙げられる。
【0137】
本発明の医薬組成物は、使用直前まで凍結状態にて保存することができる。凍結保存の温度は、好ましくは-30℃以下、-40℃以下、-50℃以下、-80℃以下、-90℃以下、-100℃以下、-150℃以下、-180℃以下、又は-196℃(液体窒素温度)以下である。本発明の医薬組成物を患者又は被験者に投与する際には、37℃で急速に解凍して使用することができる。
【0138】
患者又は被験者において接着性幹細胞を含む細胞集団を用いて治療することができる疾患等の他の例、前記疾患等の更なる具体例、及び、治療の具体的な手順は、Hare et al., J. Am. Coll. Cardiol., 2009 December 8; 54(24): 2277-2286、Honmou et al., Brain 2011: 134; 1790-1807、Makhoul et al., Ann. Thorac. Surg. 2013; 95: 1827-1833、特許第590577号公報、特開2010-518096号公報、特表2012-509087号公報、特表2014-501249号公報、特開2013-256515号公報、特開2014-185173号公報、特表2010-535715号公報、特開2015-038059号公報、特開2015-110659号公報、特表2006-521121号公報、特表2009-542727号公報、特開2014-224117号公報、特開2015-061862号公報、特表2002-511094号公報、特表2004-507454号公報、特表2010-505764号公報、特表2011-514901号公報、特開2013-064003号公報、特開2015-131795号公報等に記載された事項を参照することができる。
【0139】
以下の実施例にて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0140】
<比較例1>
以下に示す比較例1及び実施例1では、核型安定性の高い接着性幹細胞を含む細胞集団を取得するための指標を検討した。
(工程1-1:羊膜の採取)
インフォームドコンセントを得た待機的帝王切開症例の妊婦から、胎児付属物である卵膜及び胎盤を無菌的に採取した。得られた卵膜及び胎盤を生理食塩水が入った滅菌バットに収容し、卵膜の断端から羊膜を用手的に剥離した。羊膜をハンクス平衡塩溶液(Ca・Mg不含有)にて洗浄し、付着した血液及び血餅を除去した。
【0141】
(工程1-2:羊膜の酵素処理及び羊膜接着性幹細胞の回収)
上皮細胞層と接着性幹細胞層とを含む羊膜を240PU/mLコラゲナーゼ及び200PU/mLディスパーゼIを含有するハンクス平衡塩溶液(Ca・Mg含有)に浸し、37℃にて90分間、50rpmの条件にて振盪攪拌することにより羊膜を酵素処理した。酵素処理後の溶液を目開き95μmのナイロンメッシュでろ過することにより羊膜の未消化物を取り除き、羊膜接着性幹細胞を含む細胞懸濁液を回収した。
【0142】
(工程1-3:羊膜接着性幹細胞の培養)
上述の「羊膜の酵素処理及び羊膜接着性幹細胞の回収」で得られた、羊膜接着性幹細胞を含む細胞集団を6,000cells/cm2の密度で培養容器のCellSTACK(登録商標)(コーニング社製)に播種し、終濃度にして10%のウシ胎児血清(FBS)及び10ng/mLの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含むαMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)にてサブコンフルエントになるまで接着培養した。その後、TrypLE Selectを用いて0継代目の細胞を剥離し、1/5量の細胞を先の培養と同じスケールのCellSTACK(登録商標)に播種することにより、継代培養を行った。培地交換は2~4日に1回の頻度で実施した。サブコンフルエントに達した時点でTrypLE Selectを用いて1継代目の細胞を剥離し、細胞濃度が2×107cells/mLになるようRPMI1640を添加した。これに等量のCP-1(登録商標)溶液(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移して-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で1日凍結保存した。その後、解凍して約15,000~18,000cells/cm2の密度で2継代目の細胞をCellSTACK(登録商標)に播種し、終濃度にして10%のウシ胎児血清(FBS)及び10ng/mLの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含むαMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)にてサブコンフルエントになるまで接着培養した。その後、TrypLE Selectを用いて2継代目の細胞を剥離し、1/5量の細胞を先の培養と同じスケールのCellSTACK(登録商標)に播種することにより、継代培養を行った。培地交換は2~4日に1回の頻度で実施した。サブコンフルエントに達した時点でTrypLE Selectを用いて3継代目の細胞を剥離し、細胞濃度が4×106cells/mLになるようRPMI1640を添加した。これに等量のCP-1(登録商標)溶液(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移して-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で1日凍結保存した。その後、解凍して約6,000cells/cm2の密度で4継代目の細胞をCellSTACK(登録商標)に播種し、終濃度にして10%のウシ胎児血清(FBS)及び10ng/mLの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含むαMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)にてサブコンフルエントになるまで接着培養した。その後、TrypLE Selectを用いて4継代目の細胞を剥離し、1/5量の細胞を先の培養と同じスケールのCellSTACK(登録商標)に播種することにより、継代培養を行った。培地交換は2~4日に1回の頻度で実施した。サブコンフルエントに達した時点でTrypLE Selectを用いて5継代目の細胞を剥離し、細胞濃度が4×106cells/mLになるようRPMI1640を添加した。これに等量のCP-1(登録商標)溶液(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移して-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で凍結保存した。
【0143】
(工程1-4:羊膜接着性幹細胞の抗原解析)
上記の培養方法で培養した5継代目の羊膜接着性幹細胞に関し、フローサイトメーターを用いて各種表面抗原(MSCマーカーとして知られているCD73の陽性率、CD90の陽性率、CD105の陽性率、CD166の陽性率、CD45の陰性率、CD34の陰性率、CD326の陰性率)を解析した。その結果、CD73、CD90、CD105の陽性率はいずれも90%以上であった(具体的にはCD73:100%、CD90:97%、CD105:100%)、CD166の陽性率はいずれも30%以上であった(具体的にはCD166:98%)。CD45、CD34、CD326の陰性率はいずれも95%以上であった(具体的にはCD45:100%、CD34:100%、CD326:100%)。以上の結果から、上記の培養方法で培養した細胞が接着性幹細胞であることが確認された。
また、上記の培養方法で培養した3、5継代目の羊膜接着性幹細胞に関して固定及び膜透過処理を行い、フローサイトメーターを用いてKCNAB1抗原に対して陽性となる細胞の比率を解析した。その結果、いずれの継代数においても85%未満であった(3継代目:78%、5継代目:81%)。
【0144】
なお、本測定では、アイソタイプコントロール用抗体として、FITC Mouse IgG1, κ Isotype Control(BD社/型番:550616)、PE Mouse IgG1, κ Isotype Control(BD社/型番:555749)を使用し、CD73抗原に対する抗体としてFITC Mouse Anti-Human CD73(BD社/型番:561254)を、CD90抗原に対する抗体としてFITC Mouse Anti-Human CD90(BD社/型番:555595)を、CD105抗原に対する抗体としてAnti-Human Antibodies FITC Conjugate(BioLegend社/型番:323203)を、CD166抗原に対する抗体としてPE Mouse Anti-Human CD166(BD社/型番:559263)を、CD45抗原に対する抗体としてFITC Mouse Anti-Human CD45(BD社/型番:555482)を、CD34抗原に対する抗体としてPE Mouse Anti-Human CD34(BD社/型番:555822)を、CD326抗原に対する抗体としてFITC Mouse Anti-Human EpCAM(BD社/型番:347197)を、KCNAB1抗原に対する抗体として、Kcnab1 monoclonal antibody(FITC)(Abnova社/型番:MAB11866)を使用した。表面抗原解析、及び抗原解析は、ベクトン・ディッキンソン(BD)社のBD AccuriTM C6 Flow Cytometerを用い、測定条件は解析細胞数:5,000cells、流速設定:Slow(14μL/min)とした。また、各抗原に対する陽性細胞の比率は、以下の手順で算出した。
(1)測定結果を、縦軸に側方散乱光(SSC)、横軸をFSC(前方散乱光)としたドットプロットで展開した。
(2)ドットプロット展開図において、アイソタイプコントロール用抗体で測定した総細胞のうち、より蛍光強度が強い細胞集団が0.5%以下となる全ての領域(ゲート)を選択した。
(3)抗原マーカーに対応する抗体で測定した総細胞のうち、(2)で選択したゲート内に含まれる細胞の割合を算出した。
【0145】
(工程1-5:羊膜接着性幹細胞の遺伝子発現解析)
上記の培養方法で培養した5継代目の羊膜接着性幹細胞に関し、マイクロアレイによる遺伝子(KCNAB1遺伝子、SULT1E1遺伝子、MN1遺伝子、RARRES2遺伝子)発現解析を株式会社理研ジェネシスに委託した。
以下の手順(1)~(4)によりマイクロアレイ解析を実施した。なお、以下の手順(2)~(4)は、株式会社理研ジェネシスが実施した。
(1)凍結保存した細胞集団を解凍し、遠心分離により回収した。回収した細胞集団をリン酸バッファー(PBS)にて洗浄し、遠心分離により細胞を回収した。その後、RNeasy Plus Miniキット(QIAGEN社製)を用いてトータルRNAを抽出、精製した。
(2)100ngのトータルRNAから逆転写反応によりcDNAを合成し、cDNAからin vitro transcriptionによりcRNAに転写してビオチン標識を行った(3’IVT PLUS Reagent Kitを使用)。
(3)10.0μgの標識cRNAをハイブリダイゼーションバッファーに加え、Human GeneGenome U133A 2.0 Array(Affymetrix社製)上で16時間のハイブリダイゼーションを行った。GeneChip Fluidics Station 450(Affymetrix社製)にて洗浄、フィコエリスリン染色後、GeneChip Scanner 3000 7G(Affymetrix社製)にてスキャンを行い、AGCC(Affymetrix GeneChip Command Console Software)(Affymetrix社製)にて画像解析し、Affymetrix Expression Console(Affymetrix社製)を用いて数値化した。
(4)数値データファイルを、解析ソフトGeneSpring GX(アジレント・テクノロジー社製)を用いて解析した。
各遺伝子の発現レベルを、SDHA遺伝子の発現レベルに対する相対発現量として求めた。その結果、KCNAB1遺伝子:0.03、SULT1E1遺伝子:0.05、MN1遺伝子:0.69、RARRES2遺伝子:0.41であった。
【0146】
(工程1-6:羊膜接着性幹細胞の核型解析)
上記の培養方法で培養した3、5継代目の羊膜接着性幹細胞に関し、Gバンド法による核型解析を株式会社日本遺伝子研究所に委託した。3、5継代目に凍結した細胞を解凍し、約8,000cells/cm2の密度でT25フラスコ各2枚に播種し、終濃度にして10%のウシ胎児血清(FBS)及び10ng/mLの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含むαMEMを5mL添加し、24時間培養した。その後、T25フラスコを終濃度にして10%のウシ胎児血清(FBS)及び10ng/mLの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含むαMEMで満たし、室温で株式会社日本遺伝子研究所(宮城県仙台市)に輸送した。株式会社日本遺伝子研究所において任意の20個の細胞を回収し、そこから染色体を取り出し、分染法で検出される染色体に特徴的なバンドパターンをもとに各染色体を同定し、異数性や転座などの核型異常の有無を解析した。その結果、3、5継代目のいずれの細胞においても核型異常が認められた。具体的には、3継代目においては、20個中1個の細胞で核型異常が認められ、2番染色体長腕の同腕染色体が増加(+i(2)(q10))していた。5継代目においては、20個中5個の細胞で核型異常が認められ、5個の全てにおいて2番染色体のトリソミーが認められた。
【0147】
<実施例1>
(工程2-1:羊膜の採取)
比較例1と同じ手法にて羊膜を取得した。
【0148】
(工程2-2:羊膜の酵素処理及び羊膜接着性幹細胞の回収)
比較例1と同じ手法にて羊膜接着性幹細胞を含む細胞集団を取得した。
【0149】
(工程2-3:羊膜接着性幹細胞の培養)
上述の「羊膜の酵素処理及び羊膜接着性幹細胞の回収」で得られた、羊膜接着性幹細胞を含む細胞集団を6,000cells/cm2の密度でCellSTACK(登録商標)に播種し、終濃度にして5%のヒト血小板溶解物(hPL)及を含むαMEMにてサブコンフルエントになるまで接着培養した。その後、TrypLE Selectを用いて0継代目の細胞を剥離し、1/5量の細胞を先の培養と同じスケールのCellSTACK(登録商標)に播種することにより、継代培養を行った。培地交換は2~4日に1回の頻度で実施した。サブコンフルエントに達した時点でTrypLE Selectを用いて1継代目の細胞を剥離し、細胞濃度が2×107cells/mLになるようRPMI1640を添加した。これに等量のCP-1(登録商標)溶液(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移して-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で1日凍結保存した。その後、解凍して約15,000~18,000cells/cm2の密度で2継代目の細胞をCellSTACK(登録商標)に播種し、終濃度にして5%のヒト血小板溶解物(hPL)を含むαMEMにてサブコンフルエントになるまで接着培養した。その後、TrypLE Selectを用いて2継代目の細胞を剥離し、1/5量の細胞を先の培養と同じスケールのCellSTACK(登録商標)に播種することにより、継代培養を行った。培地交換は2~4日に1回の頻度で実施した。サブコンフルエントに達した時点でTrypLE Selectを用いて3継代目の細胞を剥離し、細胞濃度が4×106cells/mLになるようRPMI1640を添加した。これに等量のCP-1溶液(登録商標)(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移して-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で1日凍結保存した。その後、解凍して約6,000cells/cm2の密度で4継代目の細胞をCellSTACK(登録商標)に播種し、終濃度にして5%のヒト血小板溶解物(hPL)を含むαMEMにてサブコンフルエントになるまで接着培養した。その後、TrypLE Selectを用いて4継代目の細胞を剥離し、1/5量の細胞を先の培養と同じスケールのCellSTACK(登録商標)に播種することにより、継代培養を行った。培地交換は2~4日に1回の頻度で実施した。サブコンフルエントに達した時点でTrypLE Selectを用いて5継代目の細胞を剥離し、細胞濃度が4×106cells/mLになるようRPMI1640を添加した。これに等量のCP-1(登録商標)溶液(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移して-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で凍結保存した。6継代目以降は全て約6,000cells/cm2の密度で細胞をCellSTACK(登録商標)に播種し、終濃度にして5%のヒト血小板溶解物(hPL)を含むαMEMにてサブコンフルエントになるまで接着培養した。その後、TrypLE Selectを用いて剥離し、継代培養を9継代目まで繰り返した。
【0150】
(工程2-4:羊膜接着性幹細胞の抗原解析)
上記の培養方法で培養した5継代目の羊膜接着性幹細胞に関し、フローサイトメーターを用いて各種表面抗原(CD73の陽性率、CD90の陽性率、CD105の陽性率、CD166の陽性率、CD45の陰性率、CD34の陰性率、CD326の陰性率)を解析した。その結果、CD73、CD90、CD105の陽性率はいずれも50%以上であった(具体的にはCD73:99%、CD90:100%、CD105:100%)。CD166の陽性率はいずれも30%以上であった(具体的にはCD166:100%)。CD45、CD34、CD326の陰性率はいずれも95%以上であった(具体的にはCD45:100%、CD34:100%、CD326:100%)。以上の結果から、上記の培養方法で培養した細胞が接着性幹細胞であることが確認された。
また、上記の培養方法で培養した3、5継代目の羊膜接着性幹細胞に関し、フローサイトメーターを用いてKCNAB1抗原に対して陽性となる細胞の比率を解析した。その結果、いずれの継代数においても85%以上であった(3継代目:91%、5継代目:90%)。よって、実施例1の5継代目の羊膜接着性幹細胞は、KCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率が85%以上である、という条件を満たすことがわかった。
なお、本測定の方法、試薬は比較例1と同じである。
【0151】
(工程2-5:羊膜接着性幹細胞の遺伝子発現解析)
上記の培養方法で培養した5継代目の羊膜接着性幹細胞に関し、マイクロアレイによる遺伝子(KCNAB1遺伝子、SULT1E1遺伝子、MN1遺伝子、RARRES2遺伝子)発現解析を株式会社理研ジェネシスに委託した。
比較例1と同様にしてマイクロアレイ解析を実施した。各遺伝子の発現レベルを、SDHA遺伝子の発現レベルに対する相対発現量として求めた。その結果、KCNAB1遺伝子:0.44、SULT1E1遺伝子:0.68、MN1遺伝子:1.77、RARRES2遺伝子:0.003であった。
【0152】
(工程2-6:羊膜接着性幹細胞の核型解析)
上記の培養方法で培養した3、5継代目の羊膜接着性幹細胞に関し、Gバンド法による核型解析を株式会社日本遺伝子研究所に委託した。3、5継代目に凍結した細胞を解凍し、約8,000cells/cm2の密度でT25フラスコ各2枚に播種し、終濃度にして5%のヒト血小板溶解物(hPL)を含むαMEMを5mL添加し、24時間培養した。その後、T25フラスコを終濃度にして5%のヒト血小板溶解物(hPL)を含むαMEMで満たし、室温で株式会社日本遺伝子研究所(宮城県仙台市)に輸送した。株式会社日本遺伝子研究所において任意の20個の細胞を回収し、そこから染色体を取り出し、分染法で検出される染色体に特徴的なバンドパターンをもとに各染色体を同定し、異数性や転座などの核型異常の有無を解析した。その結果、3、5継代目の全ての細胞が正常核型を維持していた。
【0153】
表1に比較例1及び実施例1におけるKCNAB1の陽性率と核型解析の結果についてまとめる。
【0154】
【0155】
以上の結果より、KCNAB1の陽性率が85%以上である細胞集団は、正常核型を維持していることが分かった。また、正常核型を維持している接着性幹細胞を含む細胞集団を取得するための指標として、KCNAB1の陽性率が85%以上であるという条件が有効であることが示唆された。つまり、本発明によれば、KCNAB1の陽性率が85%以上であるという条件を指標とすることによって、正常核型を維持している接着性幹細胞を含む細胞集団を取得することができる。これにより、臨床使用に適した安全な細胞製剤を製造することができる。
【0156】
また、KCNAB1の陽性率が85%以上であるという条件を指標とすれば、通常1ヶ月程度の評価期間を要する核型解析を行わずして、生体試料の核型安定性を評価(判断及び/又は予測)することができる。
さらに本発明によれば、接着性幹細胞を含む細胞集団において、KCNAB1の陽性率が85%以上であることを指標とすることで、生体試料の核型安定性(接着性幹細胞の核型異常の有無)の経時的モニタリングについても簡便かつ短時間で実施することができる。これにより、生体試料の品質評価に必要なコストの低下と品質評価に必要となる期間の短縮が可能となり、細胞製剤の製造コスト削減につなげることができる。
【0157】
<実施例2>
比較例1及び実施例1におけるドナーとは異なるドナー2名(#1、#2)のインフォームドコンセントを得た待機的帝王切開症例の妊婦から、胎児付属物である卵膜及び胎盤を無菌的に採取し、それぞれの胎児付属物を「工程1-1:羊膜の採取」、「工程1-2:羊膜の酵素処理及び羊膜接着性幹細胞の回収」に沿って処理し、羊膜接着性幹細胞を取得した。
#1、#2のドナーから取得した羊膜接着性幹細胞を含む細胞集団を「実施例1:羊膜接着性幹細胞の培養」の方法で培養し、5継代目の細胞集団を取得した。
【0158】
上記の培養方法で培養する羊膜接着性幹細胞に関しては、「工程1-4:羊膜接着性幹細胞の抗原解析」と同様にして、フローサイトメーターを用いてKCNAB1に対して陽性となる細胞の比率を解析することができる。KCNAB1の陽性率は#1が85%以上(具体的には、#1:94%)、#2が85%未満であった(具体的には、49%)。また、上記の培養方法で培養した羊膜接着性幹細胞に関して、「工程1-6:羊膜接着性幹細胞の核型解析」と同様にして核型を解析することができる。核型解析の結果、#1は全ての細胞が正常核型を維持していたが、#2は核型異常が認められた(具体的には、20個中1個の細胞で核型異常が認められ、13番染色体の構造異常(add(13)(p11.2)))であった。
表2に実施例2におけるKCNAB1の陽性率と核型解析の結果についてまとめる。
【0159】
【0160】
<実施例3>
以下に示す実施例3では、比較例1、実施例1、実施例2と比較してドナーや酵素処理条件、培養条件が異なる羊膜接着性幹細胞を取得した。
比較例1、実施例1、及び実施例2におけるドナーとは異なるドナー3名(#3~#5)のインフォームドコンセントを得た待機的帝王切開症例の妊婦から、胎児付属物である卵膜及び胎盤を無菌的に採取した。
【0161】
(工程3-1:羊膜の採取)
比較例1と同じ手法にて羊膜を取得した。
【0162】
(工程3-2:羊膜の酵素処理及び羊膜接着性幹細胞の回収)
上皮細胞層と接着性幹細胞層とを含む羊膜を480PU/mLコラゲナーゼ及び400PU/mLディスパーゼIを含有するハンクス平衡塩溶液(Ca・Mg含有)に浸し、37℃にて90分間、50rpmの条件にて振盪攪拌することにより羊膜を酵素処理した。酵素処理後の溶液を目開き95μmのナイロンメッシュでろ過することにより羊膜の未消化物を取り除き、羊膜接着性幹細胞を含む細胞懸濁液を回収した。
【0163】
(工程3-3:羊膜接着性幹細胞の培養)
上述の「羊膜の酵素処理及び羊膜接着性幹細胞の回収」で得られた、羊膜接着性幹細胞を含む細胞集団を1,000cells/cm2の密度でCellSTACK(登録商標)に播種し、終濃度にして5%のヒト血小板溶解物(hPL)及を含むαMEMにてサブコンフルエントになるまで接着培養した。培地交換は3~5日に1回の頻度で実施した。その後、TrypLE Selectを用いて0継代目の細胞を剥離し、細胞濃度が2×107cells/mLになるよう生理食塩液を添加した。これに等量のCP-1(登録商標)溶液(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移して-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で1日凍結保存した。その後、解凍して約1,000cells/cm2の密度で1継代目の細胞をCellSTACK(登録商標)に播種し、終濃度にして5%のヒト血小板溶解物(hPL)を含むαMEMにてサブコンフルエントになるまで5日間接着培養した。その後、TrypLE Selectを用いて1継代目の細胞を剥離し、細胞濃度が2×107cells/mLになるよう生理食塩液を添加した。これに等量のCP-1(登録商標)溶液(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移して-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で1日凍結保存した。その後、解凍して約1,000cells/cm2の密度で2継代目の細胞をCellSTACK(登録商標)に播種し、終濃度にして5%のヒト血小板溶解物(hPL)を含むαMEMにてサブコンフルエントになるまで5日間接着培養した。その後、TrypLE Selectを用いて2継代目の細胞を剥離し、細胞濃度が4×106cells/mLになるよう生理食塩液を添加した。これに等量のCP-1溶液(登録商標)(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移して-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で凍結保存した。
【0164】
(工程3-4:羊膜接着性幹細胞の抗原解析)
上記の培養方法で培養した2継代目の羊膜接着性幹細胞に関し、フローサイトメーターを用いて各種表面抗原(CD73の陽性率、CD90の陽性率、CD105の陽性率、CD166の陽性率、CD45の陰性率、CD34の陰性率、CD326の陰性率)を解析した。その結果、CD73、CD90、CD105の陽性率はいずれも50%以上であった(具体的には#3~#5ともに全て100%)。CD166の陽性率はいずれも30%以上であった(具体的には#3:99%、#4:100%、#5:99%)。CD45、CD34、CD326の陰性率はいずれも95%以上であった(具体的には#3:99%、#4:100%、#5:100%)。以上の結果から、上記の培養方法で培養した細胞が接着性幹細胞であることを確認した。
また、上記の培養方法で培養した2継代目の羊膜接着性幹細胞に関し、フローサイトメーターを用いてKCNAB1抗原に対して陽性となる細胞の比率を解析した。その結果、いずれのドナーにおいても85%以上であった(#3:98.2%、#4:99.9%、#5:99.7%)。よって、実施例3の2継代目の羊膜接着性幹細胞は、#3~#5の全てのドナーについて、KCNAB1が陽性を呈する接着性幹細胞の比率が85%以上である、という条件を満たすことがわかった。なお、本測定の方法、試薬は比較例1と同じである。
【0165】
(工程3-5:羊膜接着性幹細胞の遺伝子発現解析)
上記の培養方法で培養した2継代目の羊膜接着性幹細胞に関し、マイクロアレイによる遺伝子(KCNAB1遺伝子、SULT1E1遺伝子、MN1遺伝子、RARRES2遺伝子)発現解析を株式会社理研ジェネシスに委託した。
比較例1と同様にしてマイクロアレイ解析を実施した。各遺伝子の発現レベルを、SDHA遺伝子の発現レベルに対する相対発現量として求めた。その結果、#3はKCNAB1遺伝子:0.15、SULT1E1遺伝子:0.36、MN1遺伝子:0.81、RARRES2遺伝子:0.01であった。#4はKCNAB1遺伝子:0.07、SULT1E1遺伝子:0.16、MN1遺伝子:0.75、RARRES2遺伝子:0.001であった。#5はKCNAB1遺伝子:0.11、SULT1E1遺伝子:0.27、MN1遺伝子:1.38、RARRES2遺伝子:0.001であった。
【0166】
さらに、上記の培養方法で培養した2継代目の羊膜接着性幹細胞に関し、定量PCRによる遺伝子(KCNAB1遺伝子、SULT1E1遺伝子、MN1遺伝子、RARRES2遺伝子)発現解析を行った。以下の手順(1)~(4)により定量PCRによる遺伝子発現解析を実施した。
(1)凍結保存した細胞集団を解凍し、遠心分離により回収した。回収した細胞集団をリン酸バッファー(PBS)にて洗浄し、遠心分離により細胞を回収した。その後、RNeasy Plus Miniキット(QIAGEN社製)を用いてトータルRNAを抽出、精製した。
(2)精製したトータルRNAにReverTra Ace qPCR RT Master Mix(東洋紡社製)を添加し、トータルRNAを鋳型として用いて逆転写反応によりcDNAを合成した。
(3)合成したcDNAとTaqman Fast Advanced Master Mix(Applied Biosystems社製)、及びプライマー(Taqman Gene Expression Assay、Thermo Fisher社製、SDHAのプライマーのAssay ID:Hs00188166_m1、KCNAB1のプライマーのAssay ID:Hs00185764_m1、SULT1E1のプライマーのAssay ID:Hs00960938_m1、MN1のプライマーのAssay ID:Hs00159202_m1、RARRES2のプライマーのAssay ID:Hs00414615_m1)を混合して96穴プレートに注入し、定量PCRを行った。
(4)各サンプルのSDHAに対するΔCt値をStepOnePlus Real-Time PCR System(Applied Biosystems社製)にて解析し、各細胞におけるSDHA遺伝子の発現量に対する各遺伝子の相対発現量(2^(-ΔCt))を算出した。その結果、#3はKCNAB1遺伝子:0.77、SULT1E1遺伝子:0.37、MN1遺伝子:1.1、RARRES2遺伝子:0.0026であった。#4はKCNAB1遺伝子:0.72、SULT1E1遺伝子:0.13、MN1遺伝子:1.8、RARRES2遺伝子:0.0029であった。#5はKCNAB1遺伝子:4.4、SULT1E1遺伝子:0.50、MN1遺伝子:5.9、RARRES2遺伝子:0.0033であった。
【0167】
(工程3-6:羊膜接着性幹細胞の核型解析)
上記の培養方法で培養した2継代目の羊膜接着性幹細胞に関し、Gバンド法による核型解析を株式会社日本遺伝子研究所に委託した。2継代目に凍結した細胞を解凍し、約8,000cells/cm2の密度でT25フラスコ各2枚に播種し、終濃度にして5%のヒト血小板溶解物(hPL)を含むαMEMを5mL添加し、24時間培養した。その後、T25フラスコを終濃度にして5%のヒト血小板溶解物(hPL)を含むαMEMで満たし、室温で株式会社日本遺伝子研究所(宮城県仙台市)に輸送した。株式会社日本遺伝子研究所において任意の20個の細胞を回収し、そこから染色体を取り出し、分染法で検出される染色体に特徴的なバンドパターンをもとに各染色体を同定し、異数性や転座などの核型異常の有無を解析した。その結果、2継代目の全ての細胞が正常核型を維持していた。
【0168】
以上の結果から、KCNAB1の陽性率が85%以上である細胞集団は、正常核型を維持していることがわかった。また、羊膜から異なる方法で羊膜接着性幹細胞を採取・培養しても、KCNAB1の陽性率が85%以上であることを調べれば、ドナー自体及びドナーから採取した生体試料の品質を評価することができることが示唆された。つまり、本発明によれば、KCNAB1の陽性率が85%以上であることを指標とすることによって、核型異常のない羊膜接着性幹細胞の含有量が高い生体試料を選定(ドナースクリーニング)することができる。さらに、KCNAB1の陽性率が85%以上であることを指標とすることによって、酵素処理条件、培養条件を最適化(酵素処理条件・培養条件の改良)することができる。これにより、品質評価の期間を短縮することができ、酵素処理条件や培養条件といった製造方法の改良に要する期間を削減することが可能となる。
【0169】
<実施例4>
上記の実施例1で得られた羊膜接着性幹細胞の一部を医薬組成物の調製に供する。羊膜接着性幹細胞2.0×108個、6.8mLのCP-1溶液(登録商標)、3.2mLの25%ヒト血清アルブミン溶液、及び10mLのRPMI1640培地を含有する医薬組成物(細胞製剤)を調製する。当該医薬組成物を凍結用バッグに封入し、凍結状態で保存する。尚、使用時に医薬組成物を解凍し、患者に供することができる。
【0170】
<参考例>
(工程4-1:骨髄由来間葉系幹細胞の培養)
ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC間葉系幹細胞、Lonza社製)3ドナー分(#6~#8)を購入し、それぞれ解凍して6,000cells/cm2の密度でφ15cmのディッシュに播種し、Lonza社製の専用培地でサブコンフルエントになるまで接着培養した。培地交換は3~5日に1回の頻度で実施した。その後、TrypLE Selectを用いて細胞を剥離し、細胞濃度が2×106cells/mLになるよう生理食塩液を添加した。これに等量のCP-1(登録商標)溶液(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移して-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で凍結保存した。
【0171】
(工程4-2:骨髄由来間葉系幹細胞の抗原解析)
上記の培養方法で培養した骨髄由来間葉系幹細胞に関し、フローサイトメーターを用いて各種表面抗原(CD73の陽性率、CD90の陽性率、CD105の陽性率、CD166の陽性率、CD45の陰性率、CD34の陰性率、CD326の陰性率)を解析した。その結果、CD73、CD90、CD105の陽性率はいずれも50%以上であった。CD166の陽性率はいずれも30%以上であった。CD45、CD34、CD326はいずれも5%未満であった。
また、フローサイトメーターを用いてKCNAB1抗原に対して陽性となる細胞の比率を解析した。その結果、いずれのドナーにおいても85%未満であった(#6:66%、#7:71%、#8:57%)。なお、本測定の方法、試薬は比較例1と同じである。
【0172】
(工程4-3:骨髄由来間葉系幹細胞の遺伝子発現解析)
上記の培養方法で培養した骨髄由来間葉系幹細胞に関し、定量PCRによる遺伝子(KCNAB1遺伝子、SULT1E1遺伝子、MN1遺伝子、RARRES2遺伝子)発現解析を行った。その結果、#6はKCNAB1遺伝子:0.0015、SULT1E1遺伝子:発現量が低すぎるので検出不可、MN1遺伝子:0.54、RARRES2遺伝子:0.0026であった。#7はKCNAB1遺伝子:0.0020、SULT1E1遺伝子:発現量が低すぎるので検出不可、MN1遺伝子:0.90、RARRES2遺伝子:0.0029であった。#8はKCNAB1遺伝子:0.0033、SULT1E1遺伝子:発現量が低すぎるので検出不可、MN1遺伝子:0.52、RARRES2遺伝子:0.0033であった。なお、本測定の方法、試薬は実施例3と同じである。
表3に実施例3及び参考例における定量PCR遺伝子発現解析の結果についてまとめる。
【0173】
【配列表】