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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】セメント及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/52 20060101AFI20240314BHJP
【FI】
C04B7/52
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020018624
(22)【出願日】2020-02-06
(65)【公開番号】P2021123522
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2023-01-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】久我 龍一郎
(72)【発明者】
【氏名】内田 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】馬場 智矢
(72)【発明者】
【氏名】中口 歩香
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-166927(JP,A)
【文献】特表平05-508607(JP,A)
【文献】特開平06-271343(JP,A)
【文献】特開平01-242445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー回折・散乱法を用いて、予測の対象となるセメント中の粒径10μm以下の粒子の含有率を含む上記セメントの粒度分布を測定する測定工程と、
上記含有率が33.0体積%以下である場合、上記セメントを収容するためのホッパーに対する、上記セメントの付着抑制性能が良好であると予測し、
上記含有率が33.0体積%を超える場合に、上記付着抑制性能が不良であると予測する予測工程、
を含むことを特徴とするセメントの付着抑制性能の予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サイロやバルカー船等に保管されていたセメントを輸送する際に、該セメントがホッパー等の内壁に付着してしまい、輸送に時間がかかる場合がある。
空気輸送またはベルトコンベア輸送に適したポルトランドセメントとして、特許文献1には、空気輸送に適したポルトランドセメントであって、ポルトランドセメント内の通気速度が0~15,800mm/秒の条件で、パウダーレオメーターを用いて測定したAerated Energy(AE)値が、下記(1)式を満たす、ポルトランドセメントが記載されている。
AE≦430.3×exp(-0.92V/1963)+114.7 ・・・(1)
ただし、(1)式中のAEはAerated Energy値(mJ)を表し、Vは通気速度(mm/秒)を表す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-105498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
セメントがホッパー等の内壁に付着した場合、ホッパー等の外壁を木づち等を用いて叩いて、内壁に付着したセメントを落とす必要があったり、セメントをホッパー等から排出するのに長時間を要するという問題がある。
本発明の目的は、ホッパーの内壁に付着しにくく、輸送性に優れたセメントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、粒径10μm以下の粒子の含有率が33.0体積%以下である粒度分布を有するセメントによれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[5]を提供するものである。
[1] 粒径10μm以下の粒子の含有率が33.0体積%以下である粒度分布を有することを特徴とするセメント。
[2] 10%体積累積粒径が3.20μm以上である粒度分布を有する前記[1]に記載のセメント。
[3]パウダーレオメーターを用いたせん断試験によって得られた、上記セメントの破壊包絡線における、垂直応力が0である場合のせん断応力が、0.418kPa以下である前記[1]又は[2]に記載のセメント。
[4] 前記[1]~[3]のいずれかに記載のセメントを製造するための方法であって、セメントクリンカ及び石膏を少なくとも含む上記セメントの原料を、粒径10μm以下の粒子の含有率が33.0体積%以下である粒度分布を有するまで粉砕し、上記セメントを得ることを特徴とするセメントの製造方法。
[5] レーザー回折・散乱法を用いて、予測の対象となるセメント中の粒径10μm以下の粒子の含有率を含む上記セメントの粒度分布を測定する測定工程と、上記含有率が33.0体積%以下である場合、上記セメントを収容するためのホッパーに対する、上記セメントの付着抑制性能が良好であると予測し、上記含有率が33.0体積%を超える場合に、上記付着抑制性能が不良であると予測する予測工程、を含むことを特徴とするセメントの付着抑制性能の予測方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明のセメントは、ホッパーの内壁に対する付着抑制性能(ホッパーの内壁への付着のしにくさ)に優れ、ホッパーから短時間で排出することができることから、輸送性に優れるものである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のセメントは、粒径10μm以下の粒子の含有率が33.0体積%以下である粒度分布を有するものである。
セメントの粒度分布は、レーザー回折散乱粒度分布測定装置を用いたレーザー回折・散乱法によって得ることができる。
セメントの粒径10μm以下の粒子の含有率は、33.0体積%以下、好ましくは32.9体積%以下、より好ましくは32.8体積%以下、特に好ましくは32.7体積%以下である。該含有率が33.0体積%を超える場合、セメントの付着抑制性能が低下する。上記含有率は、セメントの強度発現性や製造の容易性等の観点から、好ましくは15.0体積%以上、より好ましくは20.0体積%以上、特に好ましくは25.0体積%以上である。
【0008】
また、セメントの粒径15μm以下の粒子の含有率は、好ましくは46.0体積%以下、より好ましくは45.5体積%以下、特に好ましくは43.0体積%以下である。該含有率が46.0体積%以下であれば、セメントの付着抑制性能がより向上する。上記含有率は、セメントの強度発現性や製造の容易性等の観点から、好ましくは25.0体積%以上、より好ましくは30.0体積%以上、特に好ましくは35.0体積%以上である。
【0009】
また、セメントの粒径5μm以下の粒子の含有率は、好ましくは18.0体積%以下、より好ましくは17.5体積%以下、特に好ましくは17.0体積%以下である。該含有率が18.0体積%以下であれば、セメントの付着抑制性能がより向上する。上記含有率は、セメントの強度発現性や製造の容易性等の観点から、好ましくは5.0体積%以上、より好ましくは10.0体積%以上、特に好ましくは12.0体積%以上である。
また、セメントの粒径3μm以下の粒子の含有率は、好ましくは9.5体積%以下、より好ましくは9.2体積%以下、特に好ましくは9.0体積%以下である。該含有率が9.5体積%以下であれば、セメントの付着抑制性能がより向上する。上記含有率は、セメントの強度発現性や製造の容易性等の観点から、好ましくは3.0体積%以上、より好ましくは4.0体積%以上、特に好ましくは5.0体積%以上である。
【0010】
セメントの粒度分布において、セメントの10%体積累積粒径は、好ましくは3.20μm以上、より好ましくは3.21μm以上、さらに好ましくは3.22μm以上、さらに好ましくは3.23μm以上、特に好ましくは3.24μm以上である。上記10%体積累積粒径が3.20μm以上であれば、セメントの付着抑制性能がより向上する。
なお、「10%体積累積粒径」とは、レーザー回折散乱粒度分布測定装置を用いて粒子の粒径を測定し、その測定された粒子の粒径に基づいて、粒径の小さい順から累積していった場合に得られた体積累積分布10%における粒径(D10)である。
【0011】
パウダーレオメーターを用いたせん断試験によって得られた、上記セメントの破壊包絡線における、垂直応力が0である場合のせん断応力は、好ましくは0.418kPa以下、より好ましくは0.410kPa以下、さらに好ましくは0.400kPa以下、さらに好ましくは0.390kPa以下、さらに好ましくは0.370kPa以下、特に好ましくは0.350kPa以下である。上記せん断応力が0.418kPa以下であれば、セメントの付着抑制性能がより向上する。上記せん断応力の下限値は、特に限定されるものではないが、入手の容易性等の観点から、好ましくは0.300kPa、より好ましくは0.310kPa、特に好ましくは0.320kPaである。
上記せん断応力の数値は、パウダーレオメーター(例えば、スペクトリス社製、商品名「パウダーレオメーターFT4」)を用いて、せん断試験を行い、該試験において、垂直応力(σ)を所定の数値に段階的に増加させながら、回転せん断翼を回転させて、各垂直応力(σ)におけるせん断応力(τ)を測定した後、垂直応力(σ)とせん断力(τ)関係から、破壊包絡線(τ=C+σtanφの式で表されるもの)を作成し、作成された破壊包絡線から得ることができる。
【0012】
本発明の対象となるセメントは、特に限定されるものではなく、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントや、高炉セメント、フライアッシュセメント等の混合セメントや、エコセメント等が挙げられる。
【0013】
本発明のセメントを製造する方法の一例としては、セメントクリンカ及び石膏を少なくとも含む上記セメントの原料を、粒径10μm以下の粒子の含有率が33.0体積%以下である粒度分布を有するまで粉砕し、上記セメントを得る方法が挙げられる。
粉砕手段は特に限定されるものではなく、セメントの製造において一般的に使用されているボールミル等が挙げられる。
ボールミルを用いて上記セメントの原料を粉砕する際に、上記セメントの原料の性状に応じて、適宜、以下の(1)~(7)の少なくともいずれか一つを行うことによって、粒径10μm以下の粒子の含有率が33.0体積%以下である粒度分布を有するセメントを製造することができる。
(1)ボールミルのライナー(内張り)のかき揚げを弱くする
(2)ボール径を小さくする
(3)ミル径を小さくする
(4)ミル内の粉体の充填率を上げる
(5)ボールの充填率を小さくする
(6)ミルの循環比を大きくする、又は、ボールミルの長さを短くする等によって、セメントの滞留時間を短くする
(7)分級機による微粉の循環量を小さくする
【0014】
本発明のセメントの付着抑制性能の予測方法は、レーザー回折・散乱法を用いて、予測の対象となるセメント中の粒径10μm以下の粒子の含有率を含むセメントの粒度分布を測定する測定工程と、上記含有率が33.0体積%以下である場合、上記セメントを収容するためのホッパーに対する、上記セメントの付着抑制性能が良好である(上記セメントは、ホッパーの内壁に付着しにくい性状である)と予測し、上記含有率が33.0体積%を超える場合に、上記付着抑制性能が不良であると予測する予測工程を含むものである。
上記予測方法を、サイロやバルカー船に保管されているセメントに対して行うことで、該セメントが輸送性に優れたものであるかどうかを判断することができる。特にバルカー船においては配管輸送性に優れたセメントが求められるので、上記予測方法によって、付着抑制性能が特に良好であると予測されたセメントは、バルカー船での輸送用に用いられるセメントとして選択し、それ以外のセメントは、貨車やトラック、セメント袋用に用いされるセメントにするなどの仕分けを行うことができる。
また、上記予測方法を製造直後のセメントに対して行うことで、該セメントが輸送性に優れたものであるかどうかを判断することができ、予測結果に基づいて、セメントの製造条件を適宜変更することができる。
【実施例
【0015】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1~4、比較例1~6]
製造条件が異なる10種類のセメントについて、それぞれ、レーザー回折散乱粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製、商品名「MW3300EXII」)を用いた、レーザー回折・散乱法によって、セメントの粒度分布を測定した。なお、測定は、エタノールを分散媒とし、1分間の超音波分散後に行った。なお、表1中、「10%体積累積粒径」は、「D10」と示した。結果を表1に示す。
また、各セメントのブレーン比表面積(表2中、「ブレーン値」と示す。)、及び、粉砕助剤(ジエチレングリコール;以下、「DEG」という。)の残量(表2中、「DEGの残量」と示す。)を表2に示す。
また、各セメントについて、パウダーレオメーター(スペクトリス社製、商品名「パウダーレオメーターFT4」)を用いてせん断試験を行い、各セメントの破壊包絡線を作成した後、該破壊包絡線における、垂直応力が0である場合のせん断応力(表2中、「せん断応力」と示す。)を算出した。
【0016】
また、ホッパーを模擬した、下部に排出口を有する逆円錐形の筒にセメントを投入し、セメントが排出口から流出した後の上記筒の内壁に付着しているセメントを目視することで、セメントの付着抑制性能を、以下の5段階で評価した(表2中、「付着抑制性の評価」と示す。)。なお、ホッパーを模擬した上記筒は、材質が鉄であり、上部開口部の直径が200mm、排出口の直径が70mm、逆円錐形の傾斜角が45度であるものである。なお、数値が大きいほど、付着抑制性能に優れていると評価することができる。
1:ホッパーの内壁に付着したセメントによって、ホッパーの排出口が閉塞し、ホッパーの外壁に、木づち等を用いて4回以上の衝撃を与えても、セメントがホッパーの排出口から流下しない。
2:ホッパーの内壁全体にセメントが付着し、ホッパーの外壁を、木づち等を用いて4回以上の衝撃を与えることで、セメントがホッパーの排出口から流下する。
3:ホッパーの内壁の一部にセメントが付着し、ホッパーの外壁を、木づち等を用いて1~3回の衝撃を与えることで、セメントがホッパーの排出口から流下する。
4:ホッパーの内壁にわずかなセメントが付着するものの、セメントがホッパーの排出口から流下する。
5:ホッパーの内壁にセメントがほとんど付着せず、セメントがホッパーの排出口から流下する。
結果を表2に示す。
【0017】
【表1】
【0018】
【表2】
【0019】
表1から、実施例1~4(粒径10μm以下の粒子の含有率:31.7~32.7体積%、パウダーレオメーターを用いたせん断試験によって得られた、セメントの破壊包絡線における、垂直応力が0である場合のせん断応力:0.335~0.416kPa)の付着抑制性能の評価は4~5である(付着抑制性能が良好である)のに対して、比較例1~6(粒径10μm以下の粒子の含有率:33.1~34.7体積%、パウダーレオメーターを用いたせん断試験によって得られた、セメントの破壊包絡線における、垂直応力が0である場合のせん断応力:0.420~0.530kPa)の付着抑制性能の評価は1~3である(付着抑制性能が不良である)ことがわかる。
なお、実施例1~4における、セメントの粉砕助剤の残量は44~80mg/kgであり、比較例1~6における、セメントの粉砕助剤の残量は50~150mg/kgであることがわかる。一般的に、粉砕助剤の残量が多い程、セメントがホッパーの内壁に付着しやすくなると言われているが、実施例1~4、比較例1~6の結果から、そのような傾向は見られなかった。