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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】車両用前照灯
(51)【国際特許分類】
   F21S 41/675 20180101AFI20240314BHJP
   F21S 41/16 20180101ALI20240314BHJP
   F21S 41/176 20180101ALI20240314BHJP
   B60Q 1/04 20060101ALI20240314BHJP
   F21S 41/25 20180101ALI20240314BHJP
   F21W 102/10 20180101ALN20240314BHJP
   F21Y 115/30 20160101ALN20240314BHJP
【FI】
F21S41/675
F21S41/16
F21S41/176
B60Q1/04 E
F21S41/25
F21W102:10
F21Y115:30
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020026010
(22)【出願日】2020-02-19
(65)【公開番号】P2021131959
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】森 泰樹
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 敏光
【審査官】河村 勝也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-138735(JP,A)
【文献】特開2010-006109(JP,A)
【文献】特開2018-166119(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0176805(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 41/00
B60Q 1/04
F21W 102/10
F21Y 115/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ビームを出射するビーム光源と、
前記ビーム光源から入射する光ビームを反射して生成した反射光ビームを出射する回動ミラーと、該回動ミラーを第1及び第2軸の回りに往復回動させて前記反射光ビームを二次元走査の走査光ビームとして出射させるアクチュエータとを有する光偏向器と、
前記走査光ビームから生成した投射光ビームが車両前方の照射領域に照射されて該照射領域に生成される映像の1フレームが、時間順にn(nは2以上の整数)個のサブフィールドから成るとともに、各サブフィールドの照射領域部分が前記照射領域の互いに異なる部分又は範囲の少なくとも一方を占めるように、前記アクチュエータを駆動する駆動部と、
を備えることを特徴とする車両用前照灯。
【請求項2】
請求項1記載の車両用前照灯において、
前記n個のサブフィールドによる前記照射領域部分は、照射領域部分の大なる方が小なる方を包含するように配されていることを特徴とする車両用前照灯。
【請求項3】
請求項1又は2記載の車両用前照灯において、
前記第1及び前記第2軸の回りの前記回動ミラーの往復回動は、それぞれ共振及び非共振による往復回動であり、
前記駆動部は、前記回動ミラーが前記第1軸の回りにフレームレートのn倍の共振周波数で往復回動するように、前記アクチュエータを駆動することを特徴とする車両用前照灯。
【請求項4】
請求項3記載の車両用前照灯において、
前記フレームレートは、30以上であることを特徴とする車両用前照灯。
【請求項5】
請求項3又は4記載の車両用前照灯において、
前記n個の照射領域部分において、水平走査方向の中心は同一位置であることを特徴とする車両用前照灯。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の車両用前照灯において、
前記n個のサブフィールドの照射領域部分は、照射領域部分の小なる方の中心が大なる方の中心より下方に配されていることを特徴とする車両用前照灯。
【請求項7】
光ビームを出射するビーム光源と、
前記ビーム光源から入射する光ビームを反射して生成した反射光ビームを出射する回動ミラーと、該回動ミラーを第1及び第2軸の回りに往復回動させて前記反射光ビームを二次元走査の走査光ビームとして出射させるアクチュエータとを有する光偏向器と、
前記走査光ビームから生成した投射光ビームが車両前方の照射領域に照射されて該照射領域に生成される映像の1フレームが、n(nは2以上の整数)個のサブフィールドから成るとともに、各サブフィールドの照射領域部分が前記照射領域の互いに異なる部分又は範囲の少なくとも一方を占めるように、前記アクチュエータを駆動する駆動部と、
を備え、
前記駆動部は、前記サブフィールドの照射領域部分が時間順に小さくなっていくように前記n個のサブフィールドが配されているフレームと、前記サブフィールドの照射領域部分が時間順に大きくなっていくように前記n個のサブフィールドが配されているフレームとが交互に繰り返されるように、前記アクチュエータを駆動することを特徴とする車両用前照灯。
【請求項8】
複数の個別光ビーム生成部と、
各個別光ビーム生成部からの個別光ビームを集合させて投射光ビームとして車両の前方の照射領域に出射する集合投射部と、
駆動部と、
を備え、
各個別光ビーム生成部は、
光ビームを出射するビーム光源と、
前記ビーム光源から入射する光ビームを反射して生成した反射光ビームを出射する回動ミラーと、該回動ミラーを第1及び第2軸の回りに往復回動させて前記反射光ビームを二次元走査の走査光ビームとして出射させるアクチュエータとを有する光偏向器と、
を備え、
前記駆動部は、
各個別光ビームに対応する投射光ビームの部分が車両前方の照射領域に照射されて生成する映像の1フレームが、n(nは2以上の整数)個のサブフィールドから成るとともに、各サブフィールドの照射領域部分が前記照射領域の互いに異なる部分又は範囲の少なくとも一方を占めるように、各光偏向器の前記アクチュエータを駆動することを特徴とする車両用前照灯。
【請求項9】
請求項8に記載の車両用前照灯において、
前記集合投射部は、
各個別光ビーム生成部からの前記個別光ビームが共通に入射して各個別ビームの波長を変換する蛍光体プレートと、
前記蛍光体プレートに生成された中間映像を前記照射領域に投射する投射レンズ部と、
を備えることを特徴とする車両用前照灯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光偏向器を備える車両用前照灯に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用前照灯では、照射光が照射する照射領域を、一律の光度でなく、例えば、照射領域のうち中央部の照射領域部分は、周辺部の照射領域部分より明るい光度という光度パターンの生成が要望されている。
【0003】
特許文献1は、照射領域の照射領域部分ごとに光度を設定することができる車両用前照灯を開示する。該車両用前照灯は、複数の光源と、複数のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の光偏向器と、共通の中間スクリーン部(例:蛍光体プレートの光ビーム入射面)とを備え、中間スクリーン部に、光偏向器ごとに別々の走査領域であって、少なくとも1つは他の走査領域と重なる複数の走査領域を生成する。この結果、中間スクリーン部には、走査領域が重なる照射領域部分と、重ならない照射領域部分とが混在し、車両用前照灯の前方には、一律の光度でなく、複数の光度段階を有する照射領域が生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-138735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の車両用前照灯では、光偏向器ごとに別々の走査領域を中間スクリーン部に生成し、中間スクリーン部における走査領域の重なり数で車両用前照灯の照射領域の光度の段階数が決定される。
【0006】
したがって、車両用前照灯の照射領域の光度の段階数を増大させたいときは、光源及び光偏向器の個数を増大させる必要がある。これは、車両用前照灯のコストの増大や、大型化という不具合を招来する。
【0007】
本発明の目的は、光源及び光偏向器の個数を増大させることなく、照射領域の光度段階数を増大することができる車両用前照灯を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の車両用前照灯は、
光ビームを出射するビーム光源と、
前記ビーム光源から入射する光ビームを反射して生成した反射光ビームを出射する回動ミラーと、該回動ミラーを第1及び第2軸の回りに往復回動させて前記反射光ビームを二次元走査の走査光ビームとして出射させるアクチュエータとを有する光偏向器と、
前記走査光ビームから生成した投射光ビームが車両前方の照射領域に照射されて該照射領域に生成される映像の1フレームが、n(nは2以上の整数)個のサブフィールドから成るとともに、各サブフィールドの照射領域部分が前記照射領域の互いに異なる部分又は範囲の少なくとも一方を占めるように、前記アクチュエータを駆動する駆動部と、
を備える。
【0009】
本発明によれば、光偏向器が生成する1フレームがn(nは2以上の整数)個のサブフィールドから構成されるように、かつ各サブフィールドの照射領域部分が照射領域の互いに異なる部分又は範囲の少なくとも一方を占めるように、車両用前照灯から投射光ビームが出射される。この結果、サブフィールドの個数を増加させることにより、光偏向器の個数を増大させることなく、照射領域の光度の段階数の増大を図ることができる。
【0010】
好ましくは、本発明の車両用前照灯において、
前記n個のサブフィールドによる前記照射領域部分は、照射領域部分の大なる方が小なる方を包含するように配されている。
【0011】
この構成によれば、中央部が周辺部により明るい光度パターンの照射領域を円滑に生成することができる。
【0012】
好ましくは、本発明の車両用前照灯において、
前記第1及び前記第2軸の回りの前記回動ミラーの往復回動は、それぞれ共振及び非共振による往復回動であり、
前記駆動部は、前記回動ミラーが前記第1軸の回りにフレームレートのn倍の共振周波数で往復回動するように、前記アクチュエータを駆動する。
【0013】
この構成によれば、共振を利用して、第1軸の回りの回動ミラーの往復回動の周波数を十分に増大できるとともに、1フレームに割り当てるサブフィールドの割り当て個数としてのnを大きくすることができる。
【0014】
好ましくは、本発明の車両用前照灯において、
前記フレームレートは、30以上である。
【0015】
この構成によれば、フレームレートを十分に大きく設定するので、各サブフィールドの照射領域部分の映像品質を保証することができる。
【0016】
好ましくは、本発明の車両用前照灯において、
前記n個の照射領域部分において、主走査方向の中心は同一位置である。
【0017】
この構成によれば、サブフィールドの照射領域部分の中心を同一位置にすることにより、最大光度の位置を該中心の位置に設定することができる。
【0018】
好ましくは、本発明の車両用前照灯において、
前記n個のサブフィールドの照射領域部分は、照射領域部分の小なる方の中心が大なる方の中心より下方に配されている。
【0019】
この構成によれば、車両用前照灯から見て車両に近い照射領域部分の明るさを確保することができる。
【0020】
好ましくは、本発明の車両用前照灯において、
前記駆動部は、前記サブフィールドの照射領域部分が時間順に小さくなっていくように前記n個のサブフィールドが配されているフレームと、前記サブフィールドの照射領域部分が時間順に大きくなっていくように前記n個のサブフィールドが配されているフレームとが交互に繰り返されるように、前記アクチュエータを駆動する。
【0021】
この構成によれば、各フレーム内のサブフィールドの照射領域部分のサイズの変化速度を緩和することによりアクチュエータ及び駆動部の負荷を軽減することができる。
【0022】
本発明の車両用前照灯は、
複数の個別光ビーム生成部と、
各個別光ビーム生成部からの個別光ビームを集合させて投射光ビームとして車両の前方の照射領域に出射する集合投射部と、
駆動部と、
を備え、
各個別光ビーム生成部は、
光ビームを出射するビーム光源と、
前記ビーム光源から入射する光ビームを反射して生成した反射光ビームを出射する回動ミラーと、該回動ミラーを第1及び第2軸の回りに往復回動させて前記反射光ビームを二次元走査の走査光ビームとして出射させるアクチュエータとを有する光偏向器と、
を備え、
前記駆動部は、
各個別光ビームに対応する投射光ビームの部分が車両前方の照射領域に照射されて生成する映像の1フレームが、n(nは2以上の整数)個のサブフィールドから成るとともに、各サブフィールドの照射領域部分が前記照射領域の互いに異なる部分又は範囲の少なくとも一方を占めるように、各光偏向器の前記アクチュエータを駆動する。
【0023】
本発明によれば、複数の個別光ビーム生成部からの個別光ビームを集合させて、個別光ビームの重ね合わせの数に基づいて照射領域の光度の段階数を増大させることができる。
【0024】
好ましくは、本発明の車両用前照灯において、
前記集合投射部は、
各個別光ビーム生成部からの前記個別光ビームが共通に入射して各個別ビームの波長を変換する蛍光体プレートと、
前記蛍光体プレートに生成された中間映像を前記照射領域に投射する投射レンズ部と、
を備える。
【0025】
この構成によれば、集合投射部の蛍光体プレートに生成される映像を用いて、照射領域の光度の段階数を円滑に増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】車両用前照灯の全体の模式図である。
図2】光偏向器の模式的な正面図である。
図3】ラスタースキャンが行われる走査領域について走査領域と照射領域モデルとの相対関係を示す図である。
図4A】設定光度パターン領域を4段階光度パターン領域としたときの特性グラフである。
図4B】設定光度パターン領域を7段階光度パターン領域としたときの特性グラフである。
図5】個別光ビーム生成部におけるフレームとサブフィールドとの関係を示す図である。
図6】所定の1つの個別光ビーム生成部における水平方向の駆動電圧Vh及び垂直方向の駆動電圧Vvの時間変化を示す図である。
図7】3つの個別光ビーム生成部からの走査光ビームCbが蛍光体プレートの入射面上に生成する走査領域の主要点を示した図である。
図8】複数の個別光ビーム生成部の各サブフィールド間の時間関係を示す図である。
図9】入射面における光度パターンを示す図である。
図10図9の光度パターンを図7の入射面に投射した図である。
図11】光度パターン制御の改善についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好ましい実施態様について説明する。なお、本発明は、以下の実施態様に限定されないことは言うまでもない。本発明は、明細書に開示した技術的思想の範囲内で種々の態様で実施される。なお、同様の構成を有する要素については、適宜、添え字(例:a,b,・・・)を変えた符号を使用している。また、添え字のみが異なる符号の要素を総称するときには、適宜、添え字を省略した符号を使用する。
【0028】
(全体)
図1は、車両用前照灯10の全体の模式図である。車両用前照灯10は、複数の個別光ビーム生成部11a,11bと、単一の集合投射部12とを備え、制御装置14により制御される。個別光ビーム生成部11a,11bについては、適宜LD(レーザダイオード)1,LD2でそれぞれ簡略表記する(図9等)。
【0029】
各個別光ビーム生成部11は、LD16、コリメータレンズ17、光偏向器18及び補正レンズ19を備える。集合投射部12は、蛍光体プレート23及び投射レンズ26a-投射レンズ26cを備える。投射レンズ26a-投射レンズ26cは、投射レンズ部を構成する。
【0030】
LD16は、青色のレーザ光を発射光ビームCaとして出射する。コリメータレンズ17は、LD16からの発射光ビームCaを光偏向器18のミラー101(適宜、「回動ミラー」という。)の中心O(図2)に集光する。光偏向器18は、発射光ビームCaを走査光ビームCbに変換して出射する。走査光ビームCbは、補正レンズ19により横断面の形状及び走査速度を補正されてから、集合投射部12の蛍光体プレート23の表面側に入射する。
【0031】
LD16のオン(点灯)及びオフ(消灯)は、制御装置14により制御される。光偏向器18は、制御装置14の駆動部28により制御される。
【0032】
蛍光体プレート23は、裏面側にミラーを有する。該ミラーは、蛍光体プレート23の入射面53(図7)に入射した走査光ビームCbを反射して、反射光ビームを入射面53から集合光ビームCcとして出射する。蛍光体プレート23は、蛍光体粒子を含み、該蛍光体粒子は、青色の走査光ビームCbの一部について波長を変換して、色を青色から黄色に変更する。この結果、蛍光体プレート23の入射面53から投射レンズ26aに向かって出射する集合光ビームCcは、黄色と青色との光の混色により白色となる。
【0033】
集合光ビームCcは、その後、投射レンズ26a,26b,26cから成る投射レンズ部を経て、該投射レンズ部から投射光ビームとして車両の前方の照射領域を照射する。集合光ビームCcは、複数の個別光ビーム生成部11からの走査光ビームCbを集合させた光ビームであり、集合光ビームCcのうち複数の光ビームが重畳した部分は、重畳していない部分より高い光度段階の光度で車両前方の照射領域を照射することができる。また、光ビームの重畳数の多い照射領域部分ほど、光度が高くなる。
【0034】
(光偏向器)
図2は、光偏向器18の模式的な正面図である。光偏向器18の構成の説明の便宜上、光偏向器18の正面視で三軸座標系を定義する。光偏向器18の正面視で、横、縦及び板厚の方向をそれぞれX軸、Y軸及びZ軸の方向とする。
【0035】
光偏向器18は、正面視で横長の矩形になっており、MEMSとしてシリコン結晶のウェーハから製造される。光偏向器18は、内側から外側に順番に、ミラー101、トーションバー102a,102b、内側アクチュエータ103a,103b、可動枠104、外側アクチュエータ105a,105b及び固定枠106を備える。
【0036】
ミラー101は、中心Oに発射光ビームCaが照射される。内側アクチュエータ103a,103bは、ミラー101を包囲する。可動枠104は、内側アクチュエータ103a,103bを包囲する。トーションバー102a,102bは、Y軸方向に延在し、両端においてミラー101と可動枠104とに結合している。
【0037】
外側アクチュエータ105a,105bの各々は、ミアンダ配列の複数のカンチレバー107から構成され、可動枠104と固定枠106との間に介在する。内側アクチュエータ103及び外側アクチュエータ105は、共に圧電式アクチュエータである。
【0038】
ミラー101は、第1回転軸Ah及び第2回転軸Avの2軸方向に往復回動する。第1回転軸Ah及び第2回転軸Avは、ミラー101の中心Oを通り、相互に直交する。第1回転軸Ahは、トーションバー102の中心線に一致する。第2回転軸Avは、X軸に平行である。
【0039】
第1回転軸Ahの回りのミラー101の往復回動は、ミラー101の共振が利用されるので、該往復回動の周波数Fhは、共振周波数となる。これに対し、第2回転軸Avの回りのミラー101の往復回動は、非共振であり、該往復回動の周波数Fvは、非共振周波数となる。Fv<Fhである。
【0040】
(光度)
図3は、ラスタースキャン31が行われる走査領域30について走査領域30と照射領域モデル32との相対関係を示す図である。ラスタースキャン31は、車両用前照灯10の投射レンズ26cから出射した単一の光ビームの走査線を意味する。これに対し、照射領域モデル32は、対比のために便宜上設定した照射領域である。
【0041】
ラスタースキャン31による走査領域30は、照射領域モデル32を完全に内側に含む必要がある。したがって、走査領域30は、照射領域モデル32の周輪郭線の外接矩形より大きい矩形に設定する必要がある。この結果、照射領域モデル32の周線より外側で走査領域30より内側の領域への光ビームの照射は、無駄な照射になる。このことを踏まえて、次の図4A及び図4Bについて説明する。
【0042】
図4A及び図4Bは、設定光度パターン領域35をそれぞれ4段階光度パターン領域37及び7段階光度パターン領域39としたときの特性グラフである。なお、以下、単一の光度ではなく、複数の光度段階で生成される像を「映像」という。映像が投射される対象は、スクリーンに限定されず、照射領域も含まれる。
【0043】
図4A及び図4Bの横軸は、出射角γを示している。出射角γは、車両用前照灯10から前方の照射領域を見た時の各方向の角度に等しい。車両用前照灯10から見てまっすぐ前方がγ=0°であり、右側及び左側をそれぞれγ>0°及びγ<0°としている。
【0044】
図4A図4Bにおいて、設定光度パターン領域35と4段階光度パターン領域37又は7段階光度パターン領域39との間の領域部分は、無駄な照射が行われている領域部分を意味する。図4A図4Bとの対比から光度パターンを所望の設定光度パターン領域35に近づけ、かつ無駄な照射領域部分を減らすためには、光度段階の個数を増大すればよいことが分かる。
【0045】
従来技術では、光度段階の個数を増大するために、個別光ビーム生成部11の個数の増大で対処していた。これに対し、この車両用前照灯10では、個別光ビーム生成部11の個数を増大することなく、光度段階の個数の増大を図っている。以下に、詳細に説明する。
【0046】
(フレーム及びサブフィールド)
図5は、個別光ビーム生成部11におけるフレームとサブフィールドとの関係を示している。1フレームは、時間順に3つのサブフィールドSF1,SF2,SF3から構成されている。サブフィールドSF1,SF2,SF3の照射領域部分44-1,44-2,44-3は、照射領域モデル45の内側に互いに異なる照射領域部分として生成される。
【0047】
また、サブフィールドSF1,SF2,SF3の時間順に後ろのサブフィールドの照射領域部分が前のサブフィールドの照射領域部分の内側に完全に、すなわち、はみ出すことなく含まれるように、サイズを縮小されている。換言すると、照射領域部分は、大なる方が小なる方を包含するように、配されている。
【0048】
区画49は、最大照射領域部分のサブフィールドSF1の照射領域部分を内側に含む区画として定義される。1フレームでは、サブフィールドの照射領域部分の重なり数が多い照射領域部分ほど、1フレーム当たりの光ビームによる照射量が多くなること、すなわち高い光度段階であることを意味する。
【0049】
図6は、個別光ビーム生成部11a(LD1)における水平方向の駆動電圧Vh及び垂直方向の駆動電圧Vvの時間変化を示している。縦軸の駆動電圧Vh及び駆動電圧Vvの目盛りの数値は相対値である。駆動電圧Vh及び駆動電圧Vvは、それぞれ第1回転軸Ah及び第2回転軸Avの回りのミラー101の回動角としての振れ角αh及び振れ角αvにほぼ比例する。
【0050】
駆動電圧Vhの振幅は、サブフィールドSF1,SF2,SF3の順番に狭くなる。駆動電圧Vhの振幅中心の位置は、不動である。駆動電圧Vvの振幅は、サブフィールドSF1,SF2,SF3の照射領域部分の順番に狭くなる。駆動電圧Vvの振幅中心の位置は、サブフィールドSF1,SF2,SF3の順番に下方に移動する。
【0051】
こうして、LD1では、照射領域は、サブフィールドSF1,SF2,SF3の順番に、水平方向及び垂直方向共に内側に入り込むように、段階的に縮小しつつ、垂直方向の中心が下降していく。また、照射領域モデル45における光度段階は、高い方から低い方へ、すなわち明るい方から暗い方へ(a)サブフィールドSF1-SF3の全部の集合光ビームCcが重なっているサブフィールドSF3の照射領域部分、(b)サブフィールドSF1の照射領域部分の外側でかつサブフィールドSF2の照射領域部分の内側の照射領域部分、及び(c)サブフィールドSF2の照射領域部分の外側でかつサブフィールドSF3の照射領域部分の内側の照射領域部分の順になる。
【0052】
(光度パターン)
次の(表1)は、車両用前照灯10の各個別光ビーム生成部11の各サブフィールドSFについて、水平方向及び垂直方向の配光角及びオフセット角に割り当てた値を示している。なお、LD1,LD2に相当する個別光ビーム生成部11a,11bは、図1に記載されているが、LD3に相当する個別光ビーム生成部は、図示を省略している。LD3は、例えば、LD1,LD2を車両用前照灯10の共通の集合投射部12に対して水平方向左右に配置するならば、集合投射部12の中心線から垂直方向の上に配置したLDとなる。
【0053】
【表1】
【0054】
(表1)において、水平の配光角のR,Lとは、それぞれ水平方向の出射角γhの最右端及び最左端の水平角度に相当する。垂直の配光角のU,Dとは、それぞれ垂直方向の出射角γvの最上端及び最下端の垂直角度に相当する。
【0055】
水平及び垂直のオフセット角とは、出射角γh及び出射角γvの振れ幅の中心の値である。オフセット角は、制御装置14の駆動部28がそれぞれ内側アクチュエータ103及び外側アクチュエータ105に供給する駆動電圧のオフセット電圧の制御により制御される。
【0056】
(表1)から分かるように、LD1,LD2に関しては、水平のオフセット角は、サブフィールドSF1-SF3間で同一であるのに対し、垂直のオフセット角は、サブフィールドSF1-SF3間で相違している。これに対し、LD3に関しては、水平のオフセット角は、サブフィールドSF1-SF3間で相違するのに対し、垂直のオフセット角は、サブフィールドSF1-SF3間で同一となっている。このことの意味するところは、LD1,LD2の光偏向器18は、縦横の走査方向をそれぞれ車両用前照灯10の垂直方向及び水平方向に合わせているのに対し、LD3の光偏向器18は、縦横の走査方向をそれぞれ車両用前照灯10の水平方向及び垂直方向に合わせていることを意味する。
【0057】
(光度パターン)
図7は、LD1-LD3からの走査光ビームCbが蛍光体プレート23の入射面53上に生成する走査領域の主要点を示した図である。入射面53は、蛍光体プレート23の表面でもある。入射面53の裏面側には走査光ビームCbを反射して集合光ビームCcを生成するミラー面が存在するので、蛍光体プレート23は走査光ビームCbの入射面であり、かつ集合光ビームCcの出射面である。
【0058】
入射面53は、中間映像スクリーンとしての機能を有する。すなわち、車両用前照灯10の前方の照射領域が最終映像スクリーンであれば、走査光ビームCbの走査により入射面53に中間映像が表示され、前方の照射領域には、最終映像が表示される。
【0059】
なお、ここで、映像と呼んだのは、均一の光度の像でなく、複数の段階の光度を包含する像、すなわち光度パターン像であるからである。車両用前照灯10は、人が映像を見るスクリーンに映像を生成する映像装置としての用途も存在する。
【0060】
図7において各符号の定義は、次のとおりである。
Op:入射面53の中心
M1-M3:LD1-LD3の走査光ビームCbが入射面53上に生成する走査領域のcenter(中心)の位置
Wp:入射面53の水平方向(横方向)の幅
Hp:入射面53の垂直方向(縦方向)の幅
D1:M1-M3間又はM2-M3間の水平方向の距離
D2:Op-M1間又はOp-M2間の垂直方向の距離
D3:M1-M3間又はM2-M3間の垂直方向の距離
【0061】
寸法例は、次のとおりである。単位はmmである。
Wp=17.64
D1=1.36
D2=0.4
D3=0.96
【0062】
図8は、LD1-LD3の各サブフィールド間の時間関係を示している。なお、数値は、一例である。
【0063】
LD1-LD3間において同一番号のサブフィールド同士は、制御装置14により同期されている。1フレームは、80Hzである。したがって、フレームレートは、80FPSとなる。各サブフィールドの周波数は、フレームの周波数のn(nは2以上の整数)倍となる。図8では、各サブフィールドの周波数は、240Hzである。この結果、n=3とされる。
【0064】
図9は、入射面53における光度パターンを山塊58で示している。山塊58は、ターゲットの光度パターンを示している。山塊58において上の位置ほど、光度が高いことを意味する。
【0065】
LD1-LD3の各々に対し、3つのサブフィールドが割り当てられているので、車両用前照灯10全体としては9段階の光度を割り当てることができる。図9では、光度の段階ごとに、異なるグレースケールで図示されている。
【0066】
図10は、図9の光度パターンを図7の入射面53に投射した図である。図9の光度パターンは、図7の山塊58を上から入射面53上に投射したものと等価である。
【0067】
図11は、光度パターン制御の改善についての説明図である。図11では、2種類のフレーム61a,フレーム61bが設定される。フレーム61aでは、サブフィールドは、時間順に、図5のフレームと同様にSF1→SF2→SF3と並ぶ。フレーム61bでは、サブフィールドは、時間順に、フレーム61aとは逆にSF3→SF2→SF1と並ぶ。
【0068】
そして、駆動部28(図1)は、フレーム61aとフレーム61bとを交互に繰り返すように、光偏向器18の内側アクチュエータ103の駆動電圧Vh及び外側アクチュエータ105の駆動電圧Vvを制御する。
【0069】
(変形例)
図6及び図10の実施形態では、サブフィールドSF1,SF2,SF3の照射領域部分の中心は、その順番に下方に配されるように、駆動部(図1)が光偏向器18を駆動している。そして、その場合、サブフィールドSF1,SF2,SF3の照射領域部分は、水平方向及び垂直方向の両方向に小さくされていく。しかしながら、本発明では、n個のサブフィールドの照射領域部分について、小なる方の中心が大なる方の中心より下方に配するときに、垂直方向の大きさのみを小さくして、水平方向の大きさを同一に維持してもよい。
【0070】
実施例の蛍光体プレート23は、裏面側にミラーを有する反射型になっている。本発明では、蛍光体プレートとして、透過型の蛍光体プレート、すなわち、両面がそれぞれ入射面及び出射面となっていて、両者の間に蛍光体粒子が充填されている蛍光体プレートを備えることができる。
【符号の説明】
【0071】
10・・・車両用前照灯、11・・・個別光ビーム生成部、12・・・集合投射部、16・・・LD(光源)、・・・光偏向器、・・・蛍光体プレート、26a-26c・・・投射レンズ(投射レンズ部)、28・・・駆動部、30・・・走査領域、101・・・ミラー(回動ミラー)。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11