(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】検出システムおよび学習方法
(51)【国際特許分類】
G01T 1/22 20060101AFI20240314BHJP
G01T 1/16 20060101ALI20240314BHJP
G01T 1/161 20060101ALI20240314BHJP
G01T 1/164 20060101ALI20240314BHJP
G06N 3/08 20230101ALI20240314BHJP
【FI】
G01T1/22
G01T1/16 A
G01T1/161 A
G01T1/164 A
G06N3/08
(21)【出願番号】P 2020027273
(22)【出願日】2020-02-20
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100110582
【氏名又は名称】柴田 昌聰
(72)【発明者】
【氏名】大手 希望
(72)【発明者】
【氏名】大田 良亮
(72)【発明者】
【氏名】橋本 二三生
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-020577(JP,A)
【文献】特表2008-510136(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0064369(US,A1)
【文献】国際公開第2018/167900(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射した粒子との相互作用によりチェレンコフ光を発生させる輻射体と、前記輻射体で発生したチェレンコフ光を検出する受光面を有し前記受光面上のチェレンコフ光の検出位置および検出時刻を表す信号を出力する光検出器と、を含むチェレンコフ検出器と、
前記光検出器から出力される信号を入力して、前記輻射体における相互作用事象毎に、前記受光面におけるチェレンコフ光検出事象の数ならびに各チェレンコフ光検出事象の前記検出位置および前記検出時刻に基づいて、ニューラルネットワークにより、前記輻射体における相互作用位置を推定する推定部と、
相互作用事象毎に、前記チェレンコフ検出器の光検出器によるn個のチェレンコフ光検出事象のうちからn個未満のチェレンコフ光検出事象の組を複数生成して、これらの複数の組それぞれに含まれる各チェレンコフ光検出事象の前記検出位置および前記検出時刻を学習用データとする学習用データ作成部と、
前記学習用データ作成部により作成された前記学習用データを用いて前記ニューラルネットワークを学習させる学習部と、
を備える検出システム。
【請求項2】
入射した粒子との相互作用によりチェレンコフ光を発生させる輻射体と、前記輻射体で発生したチェレンコフ光を検出する受光面を有し前記受光面上のチェレンコフ光の検出位置および検出時刻を表す信号を出力する光検出器と、を各々含む第1チェレンコフ検出器および第2チェレンコフ検出器と、
前記第1チェレンコフ検出器および前記第2チェレンコフ検出器それぞれの前記光検出器から出力される信号を入力して、陽電子と電子との対消滅により発生した光子対の同時計数事象毎に、前記第1チェレンコフ検出器および前記第2チェレンコフ検出器それぞれの前記受光面におけるチェレンコフ光検出事象の数ならびに各チェレンコフ光検出事象の前記検出位置および前記検出時刻に基づいて、ニューラルネットワークにより、光子対発生位置を推定する推定部と、
同時計数事象毎に、前記第1チェレンコフ検出器の光検出器によるn1個のチェレンコフ光検出事象のうちからn1個未満のチェレンコフ光検出事象の組を複数生成して、これらの複数の組それぞれに含まれる各チェレンコフ光検出事象の前記検出位置および前記検出時刻を第1学習用データとし、前記第2チェレンコフ検出器の光検出器によるn2個のチェレンコフ光検出事象のうちからn2個未満のチェレンコフ光検出事象の組を複数生成して、これらの複数の組それぞれに含まれる各チェレンコフ光検出事象の前記検出位置および前記検出時刻を第2学習用データとする学習用データ作成部と、
前記学習用データ作成部により作成された前記第1学習用データおよび前記第2学習用データを用いて前記ニューラルネットワークを学習させる学習部と、
を備える検出システム。
【請求項3】
入射した粒子との相互作用によりチェレンコフ光を発生させる輻射体と、前記輻射体で発生したチェレンコフ光を検出する受光面を有し前記受光面上のチェレンコフ光の検出位置および検出時刻を表す信号を出力する光検出器と、を含むチェレンコフ検出器と、
前記光検出器から出力される信号を入力して、前記輻射体における相互作用事象毎に、前記受光面におけるチェレンコフ光検出事象の数ならびに各チェレンコフ光検出事象の前記検出位置および前記検出時刻に基づいて、ニューラルネットワークにより、前記輻射体における相互作用位置を推定する推定部と、
を備える検出システムの前記ニューラルネットワークを学習させる方法であって、
相互作用事象毎に、前記チェレンコフ検出器の光検出器によるn個のチェレンコフ光検出事象のうちからn個未満のチェレンコフ光検出事象の組を複数生成して、これらの複数の組それぞれに含まれる各チェレンコフ光検出事象の前記検出位置および前記検出時刻を学習用データとする学習用データ作成ステップと、
前記学習用データ作成ステップにおいて作成された前記学習用データを用いて前記ニューラルネットワークを学習させる学習ステップと、
を備える学習方法。
【請求項4】
入射した粒子との相互作用によりチェレンコフ光を発生させる輻射体と、前記輻射体で発生したチェレンコフ光を検出する受光面を有し前記受光面上のチェレンコフ光の検出位置および検出時刻を表す信号を出力する光検出器と、を各々含む第1チェレンコフ検出器および第2チェレンコフ検出器と、
前記第1チェレンコフ検出器および前記第2チェレンコフ検出器それぞれの前記光検出器から出力される信号を入力して、陽電子と電子との対消滅により発生した光子対の同時計数事象毎に、前記第1チェレンコフ検出器および前記第2チェレンコフ検出器それぞれの前記受光面におけるチェレンコフ光検出事象の数ならびに各チェレンコフ光検出事象の前記検出位置および前記検出時刻に基づいて、ニューラルネットワークにより、光子対発生位置を推定する推定部と、
を備える検出システムの前記ニューラルネットワークを学習させる方法であって、
同時計数事象毎に、前記第1チェレンコフ検出器の光検出器によるn1個のチェレンコフ光検出事象のうちからn1個未満のチェレンコフ光検出事象の組を複数生成して、これらの複数の組それぞれに含まれる各チェレンコフ光検出事象の前記検出位置および前記検出時刻を第1学習用データとし、前記第2チェレンコフ検出器の光検出器によるn2個のチェレンコフ光検出事象のうちからn2個未満のチェレンコフ光検出事象の組を複数生成して、これらの複数の組それぞれに含まれる各チェレンコフ光検出事象の前記検出位置および前記検出時刻を第2学習用データとする学習用データ作成ステップと、
前記学習用データ作成ステップにおいて作成された前記第1学習用データおよび前記第2学習用データを用いて前記ニューラルネットワークを学習させる学習ステップと、
を備える学習方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チェレンコフ検出器とニューラルネットワークを用いた信号処理部とを備える検出システム、および、該ニューラルネットワークを学習させる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
輻射体中における荷電粒子(例えば、電子、ミューオン)の移動速度が該輻射体中の光速度より速いと、荷電粒子と輻射体との間の相互作用により光が放射される。また、荷電していない粒子(例えば、γ線、ニュートリノ)が輻射体中において光電効果により電子等の荷電粒子を発生させる場合があり、その荷電粒子の移動速度が該輻射体中の光速度より速いと光が放射される。このような現象はチェレンコフ効果またはチェレンコフ放射と呼ばれ、放射される光はチェレンコフ輻射光またはチェレンコフ光と呼ばれる。
【0003】
チェレンコフ検出器は、チェレンコフ効果を利用することで、到来した粒子を検出することができる。チェレンコフ検出器は、入射した粒子との相互作用によりチェレンコフ光を発生させる輻射体と、この輻射体で発生したチェレンコフ光を検出する光検出器と、を備える。チェレンコフ検出器は、例えば、PET(Positron Emission Tomography)装置またはSPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)装置において、被検体から到来したγ線(PETではエネルギ511keV)を検出する放射線検出器として用いられる。
【0004】
非特許文献1に、チェレンコフ検出器の光検出器によるチェレンコフ光検出事象に基づいて輻射体における相互作用位置をニューラルネットワークにより推定する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Hashimoto, F., et al. “Afeasibility study on 3D interaction position estimation using deep neuralnetwork in Cherenkov-based detector: a Monte Carlo simulation study.”Biomedical Physics & Engineering Express, 5 (2019): 035001.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の技術においては、大量の学習用データを用いてニューラルネットワークを学習させた上で、その学習済みのニューラルネットワークにより相互作用位置を推定する必要がある。しかし、学習に用いる大量の学習用データの収集には長時間を要するので、ニューラルネットワークの学習は容易でない。
【0007】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、チェレンコフ検出器とニューラルネットワークを用いた信号処理部とを備える検出システムにおいて該ニューラルネットワークを容易に学習させることができる装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1態様の検出システムは、(1) 入射した粒子との相互作用によりチェレンコフ光を発生させる輻射体と、輻射体で発生したチェレンコフ光を検出する受光面を有し受光面上のチェレンコフ光の検出位置および検出時刻を表す信号を出力する光検出器と、を含むチェレンコフ検出器と、(2) 光検出器から出力される信号を入力して、輻射体における相互作用事象毎に、受光面におけるチェレンコフ光検出事象の数ならびに各チェレンコフ光検出事象の検出位置および検出時刻に基づいて、ニューラルネットワークにより、輻射体における相互作用位置を推定する推定部と、(3) 相互作用事象毎に、チェレンコフ検出器の光検出器によるn個のチェレンコフ光検出事象のうちからn個未満のチェレンコフ光検出事象の組を複数生成して、これらの複数の組それぞれに含まれる各チェレンコフ光検出事象の検出位置および検出時刻を学習用データとする学習用データ作成部と、(4) 学習用データ作成部により作成された学習用データを用いてニューラルネットワークを学習させる学習部と、を備える。
【0009】
本発明の第2態様の検出システムは、(1) 入射した粒子との相互作用によりチェレンコフ光を発生させる輻射体と、輻射体で発生したチェレンコフ光を検出する受光面を有し受光面上のチェレンコフ光の検出位置および検出時刻を表す信号を出力する光検出器と、を各々含む第1チェレンコフ検出器および第2チェレンコフ検出器と、(2) 第1チェレンコフ検出器および第2チェレンコフ検出器それぞれの光検出器から出力される信号を入力して、陽電子と電子との対消滅により発生した光子対の同時計数事象毎に、第1チェレンコフ検出器および第2チェレンコフ検出器それぞれの受光面におけるチェレンコフ光検出事象の数ならびに各チェレンコフ光検出事象の検出位置および検出時刻に基づいて、ニューラルネットワークにより、光子対発生位置を推定する推定部と、(3) 同時計数事象毎に、第1チェレンコフ検出器の光検出器によるn1個のチェレンコフ光検出事象のうちからn1個未満のチェレンコフ光検出事象の組を複数生成して、これらの複数の組それぞれに含まれる各チェレンコフ光検出事象の検出位置および検出時刻を第1学習用データとし、第2チェレンコフ検出器の光検出器によるn2個のチェレンコフ光検出事象のうちからn2個未満のチェレンコフ光検出事象の組を複数生成して、これらの複数の組それぞれに含まれる各チェレンコフ光検出事象の検出位置および検出時刻を第2学習用データとする学習用データ作成部と、(4) 学習用データ作成部により作成された第1学習用データおよび第2学習用データを用いてニューラルネットワークを学習させる学習部と、を備える。
【0010】
本発明の第1態様の学習方法は、(1) 入射した粒子との相互作用によりチェレンコフ光を発生させる輻射体と、輻射体で発生したチェレンコフ光を検出する受光面を有し受光面上のチェレンコフ光の検出位置および検出時刻を表す信号を出力する光検出器と、を含むチェレンコフ検出器と、(2) 光検出器から出力される信号を入力して、輻射体における相互作用事象毎に、受光面におけるチェレンコフ光検出事象の数ならびに各チェレンコフ光検出事象の検出位置および検出時刻に基づいて、ニューラルネットワークにより、輻射体における相互作用位置を推定する推定部と、を備える検出システムのニューラルネットワークを学習させる方法である。本発明の第1態様の学習方法は、(a) 相互作用事象毎に、チェレンコフ検出器の光検出器によるn個のチェレンコフ光検出事象のうちからn個未満のチェレンコフ光検出事象の組を複数生成して、これらの複数の組それぞれに含まれる各チェレンコフ光検出事象の検出位置および検出時刻を学習用データとする学習用データ作成ステップと、(b) 学習用データ作成ステップにおいて作成された学習用データを用いてニューラルネットワークを学習させる学習ステップと、を備える。
【0011】
本発明の第2態様の学習方法は、(1) 入射した粒子との相互作用によりチェレンコフ光を発生させる輻射体と、輻射体で発生したチェレンコフ光を検出する受光面を有し受光面上のチェレンコフ光の検出位置および検出時刻を表す信号を出力する光検出器と、を各々含む第1チェレンコフ検出器および第2チェレンコフ検出器と、(2) 第1チェレンコフ検出器および第2チェレンコフ検出器それぞれの光検出器から出力される信号を入力して、陽電子と電子との対消滅により発生した光子対の同時計数事象毎に、第1チェレンコフ検出器および第2チェレンコフ検出器それぞれの受光面におけるチェレンコフ光検出事象の数ならびに各チェレンコフ光検出事象の検出位置および検出時刻に基づいて、ニューラルネットワークにより、光子対発生位置を推定する推定部と、を備える検出システムのニューラルネットワークを学習させる方法である。本発明の第2態様の学習方法は、(a) 同時計数事象毎に、第1チェレンコフ検出器の光検出器によるn1個のチェレンコフ光検出事象のうちからn1個未満のチェレンコフ光検出事象の組を複数生成して、これらの複数の組それぞれに含まれる各チェレンコフ光検出事象の検出位置および検出時刻を第1学習用データとし、第2チェレンコフ検出器の光検出器によるn2個のチェレンコフ光検出事象のうちからn2個未満のチェレンコフ光検出事象の組を複数生成して、これらの複数の組それぞれに含まれる各チェレンコフ光検出事象の検出位置および検出時刻を第2学習用データとする学習用データ作成ステップと、(b) 学習用データ作成ステップにおいて作成された第1学習用データおよび第2学習用データを用いてニューラルネットワークを学習させる学習ステップと、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、チェレンコフ検出器とニューラルネットワークを用いた信号処理部とを備える検出システムにおいて、該ニューラルネットワークを容易に学習させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、第1実施形態の検出システム1の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、チェレンコフ検出器3の構成を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、相互作用位置の推定の際の信号処理部4の推定部42による処理の一例を説明する図である。
【
図4】
図4は、ニューラルネットワークの学習の際の信号処理部4の学習用データ作成部43および学習部44による処理の一例を説明する図である。
【
図5】
図5は、ニューラルネットワークの構成の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、シミュレーションの結果を示す図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態の検出システム2の構成を示す図である。
【
図8】
図8は、光子対発生位置の推定の際の信号処理部5の推定部52による処理の一例を説明する図である。
【
図9】
図9は、ニューラルネットワークの学習の際の信号処理部5の学習用データ作成部53および学習部54による処理の一例を説明する図である。
【
図10】
図10は、ニューラルネットワークの構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0015】
図1は、第1実施形態の検出システム1の構成を示す図である。検出システム1は、チェレンコフ検出器3および信号処理部4を備える。チェレンコフ検出器3は、輻射体10および光検出器20を備える。
図2は、チェレンコフ検出器3の構成を示す斜視図である。
【0016】
輻射体10は、入射した粒子(例えばγ線)との相互作用によりチェレンコフ光を発生させる。輻射体10は、屈折率が既知であってチェレンコフ効果が生じ得るモノリシックな材料からなる。輻射体10は、シンチレーション光が生じ難い材料であるのが好ましい。輻射体10の材料は、例えば、鉛ガラス(SiO2+PbO)、フッ化鉛(PbF2)、PWO(PbWO4)等である。輻射体10は直方体形状を有するのが好ましい。
【0017】
光検出器20は、輻射体10で発生したチェレンコフ光を検出する受光面21を有する。光検出器20の受光面21は、直方体形状の輻射体10の一つの面に対向しており、その面と平行である。光検出器20の受光面21は、輻射体10の一つの面に接していてもよい。光検出器20は、受光面21におけるチェレンコフ光検出に基づいて、受光面21上のチェレンコフ光の検出位置(x,y)および検出時刻tを表す信号を出力する。その信号は、チェレンコフ光検出時のパルス出力により、検出時刻tを表すことができる。
【0018】
光検出器20は、フォトンカウンティング動作をすることができる高速・高感度のものであるのが好適である。光検出器20として例えばマルチアノード光電子増倍管またはMPPC(登録商標)が好適に用いられる。マルチアノード光電子増倍管(multi-anode photo multiplier tube)は、複数の画素として複数のアノードを有し、各アノードの受光量に応じた検出信号を出力することができる。MPPC(Multi-Pixel Photon Counter)は、ガイガー・モードで動作するアバランシェ・フォトダイオードにクエンチング抵抗が接続されたものを1つの画素として、複数の画素が2次元配列されたものである。これらは高速・高感度の光検出をすることができる。
【0019】
信号処理部4は、光検出器20から出力される信号を入力する。信号処理部4は、この入力信号を処理することで、輻射体10における相互作用事象毎に、光検出器20の受光面21におけるチェレンコフ光検出事象の数nならびに各チェレンコフ光検出事象の検出位置(x,y)および検出時刻tに基づいて、ニューラルネットワークにより、輻射体10における相互作用位置(x,y,z)を推定する。なお、x,y,z直交座標系のx軸およびy軸は、光検出器20の受光面21に平行であって、互いに直交している。z軸は、光検出器20の受光面21に垂直である。
【0020】
また、信号処理部4は、輻射体10における相互作用事象毎に、光検出器20の受光面21におけるチェレンコフ光検出事象の数nならびに各チェレンコフ光検出事象の検出位置(x,y)および検出時刻tに基づいて、ニューラルネットワークを学習させる為の学習用データを作成する。そして、信号処理部4は、この学習用データを用いてニューラルネットワークを学習させる。
【0021】
信号処理部4は例えばコンピュータにより構成される。信号処理部4は、ニューラルネットワークによる処理をCPU(Central Processing Unit)により行ってもよいが、より高速な処理が可能なDSP(Digital Signal Processor)またはGPU(Graphics Processing Unit)により行うのが好適である。
【0022】
信号処理部4は、前処理部41、推定部42、学習用データ作成部43、学習部44および記憶部45を備える。
【0023】
前処理部41は、光検出器20から出力される信号に基づいて、各チェレンコフ光検出事象について検出位置(x,y)および検出時刻tを求める。検出時刻tは、入力信号のパルスのタイミングから求めることができる。その後、前処理部41は、各チェレンコフ光検出事象の検出位置(x,y)および検出時刻tを含むデータを検出時刻tでソートする。そして、前処理部41は、ソートしたデータのうち一定幅のタイムウィンドウ内にあるデータを、共通の相互作用事象により生じたチェレンコフ光検出事象のデータであると判断する。
【0024】
このようにして、前処理部41は、各チェレンコフ光検出事象の検出位置(x,y)および検出時刻tを含むデータを相互作用事象毎に区分する。これにより、相互作用事象毎に、受光面21におけるチェレンコフ光検出事象の数nならびに各チェレンコフ光検出事象の検出位置(x,y)および検出時刻tを求めることができる。
【0025】
また、前処理部41は、チェレンコフ光検出事象の数nが閾値th未満である相互作用事象のデータを破棄して、推定部42は、チェレンコフ光検出事象の数nが閾値th以上である相互作用事象について選択的に相互作用位置を推定するのが好適である。これは、チェレンコフ光検出事象の数nが閾値th未満である相互作用事象の場合、推定部42による相互作用位置の推定の精度が悪いからである。同様に、学習用データ作成部43は、チェレンコフ光検出事象の数nが閾値th以上である相互作用事象について学習用データを作成するのが好適である。例えば閾値thは3である。
【0026】
推定部42は、前処理部41により前処理が為された後のデータを入力して、相互作用事象毎に、光検出器20の受光面21におけるチェレンコフ光検出事象の数nならびに各チェレンコフ光検出事象の検出位置(x,y)および検出時刻tに基づいて、ニューラルネットワークにより相互作用位置(x,y,z)を推定する。ここで用いられるニューラルネットワークは、例えば、多層パーセプトロン(Multi-layer Perceptron、MLP)、畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network、CNN)、再帰型ニューラルネットワーク(Recurrent Neural Network、RNN)等である。
【0027】
推定部42は、複数のニューラルネットワークを有し、チェレンコフ光検出事象の数nに対応したニューラルネットワークにより相互作用位置を推定してもよい。すなわち、チェレンコフ光検出事象の数がnである相互作用事象については、その数nに対応して設けられたニューラルネットワークにより、相互作用位置を推定してもよい。
【0028】
学習用データ作成部43は、相互作用事象毎に、チェレンコフ検出器3の光検出器20によるn個のチェレンコフ光検出事象のうちからn個未満のチェレンコフ光検出事象の組を複数生成して、これらの複数の組それぞれに含まれる各チェレンコフ光検出事象の検出位置および検出時刻を学習用データとする。相互作用事象に含まれるチェレンコフ光検出事象がn個であって、そのうちからm個のチェレンコフ光検出事象の組を生成する場合(ただし、m<n)、n個の集合の中からm個を取り出す組合せの個数はnCm である。
【0029】
学習部44は、学習用データ作成部43により作成された学習用データを用いてニューラルネットワークを学習させる。記憶部45は、前処理部41、推定部42、学習用データ作成部43および学習部44それぞれによる処理の前、途中および後のデータを記憶する。
【0030】
図3は、相互作用位置の推定の際の信号処理部4の推定部42による処理の一例を説明する図である。推定部42は、前処理部41により前処理が為された後の相互作用事象毎のデータを入力する。すなわち、推定部42は、各相互作用事象に含まれるn個のチェレンコフ光検出事象それぞれのデータ(x,y,t)を入力する。推定部42は、各相互作用事象に含まれるn個のチェレンコフ光検出事象のうちから検出タイミングの早い5個のチェレンコフ光検出事象のデータを選択し、その5個のチェレンコフ光検出事象のデータ(x,y,t)を学習済みのニューラルネットワークへ入力させる。これによりニューラルネットワークから出力されるデータは、輻射体10における相互作用位置(x,y,z)を推定した結果を表すものとなる。
【0031】
図4は、ニューラルネットワークの学習の際の信号処理部4の学習用データ作成部43および学習部44による処理の一例を説明する図である。学習用データ作成部43は、前処理部41により前処理が為された後の相互作用事象毎のデータを入力する。すなわち、学習用データ作成部43は、各相互作用事象に含まれるn個のチェレンコフ光検出事象それぞれのデータ(x,y,t)を入力する。
【0032】
学習用データ作成部43は、各相互作用事象に含まれるn個のチェレンコフ光検出事象のうちから5個のチェレンコフ光検出事象の組を複数生成する。このとき最大でnC5個の組を生成することができる。学習用データ作成部43は、各組に含まれる5個のチェレンコフ光検出事象それぞれのデータ(x,y,t)を学習用データとし、その学習用データをニューラルネットワークへ入力させる。これによりニューラルネットワークから組の個数と同じ数の出力データ(x,y,z)が得られる。学習部44は、ニューラルネットワークから出力されるデータ(x,y,z)と教師データ(X,Y,Z)との間の誤差を評価し、その誤差が小さくなるように誤差逆伝播法によりニューラルネットワークのパラメータを調整して、ニューラルネットワークを学習させる。
【0033】
図5は、ニューラルネットワークの構成の一例を示す図である。この図に示されるニューラルネットワークは、入力層、出力層および3つの中間層を含む5層構造を有する多層パーセプトロン(MLP)である。このMLPは、5個のチェレンコフ光検出事象それぞれのデータ(x,y,t)を入力し、相互作用位置(x,y,z)の推定の結果を出力する。なお、ニューラルネットワークからの出力データは、位置を表すものであってもよいし、各位置の相互作用の確信度を表すものであってもよい。
【0034】
次に、第1実施形態についてモンテカルロ法を用いて行ったシミュレーションの結果を説明する。輻射体10として、PbF
2からなり、40×40×10mm
3の直方体形状を有するものを想定した。光検出器20の受光面21は、輻射体10の40×40mm
2の面に接しているものとした。光検出器20として、空間分解能および時間分解能の双方が無限小である理想的なものを想定した。ニューラルネットワークとして
図5に示したMLPを用い、そのMLPから位置を表すデータを出力させた。
【0035】
シミュレーションでは、輻射体における各粒子の相互作用を逐一トラッキングしており、その履歴を参照することで輻射体における相互作用位置が分かるので、これを教師データ(X,Y,Z)とすることができる。
【0036】
実験の場合は、例えば、コリメーションされたγ線(ペンシルビーム)を使用する。このペンシルビームをxy平面に垂直に入射させたときの位置を相互作用位置(X,Y)の代わりとする。同様に、ペンシルビームをxz平面に垂直に入射させると(X,Z)が分かり、ペンシルビームをyz平面に垂直に入射させると(Y,Z)が分かる。この方法では、一発で教師データ(X,Y,Z)を得ることができないので、各平面用のニューラルネットワークを個別に学習し、その予測を統合する。例えば、(X,Y)用、(X,Z)用および(Y,Z)用それぞれのニューラルネットワークの出力の平均を教師データ(X,Y,Z)とすることができる。
【0037】
シミュレーションは、第1比較例、第2比較例および第1実施例それぞれについて行った。第1比較例では、相互作用事象に含まれるチェレンコフ光検出事象の個数が5であるデータのみを学習用データとして用いてMLPを学習させた。第2比較例では、相互作用事象に含まれるチェレンコフ光検出事象の個数が5以上7以下であるデータのうち検出タイミングの早い5個のチェレンコフ光検出事象のデータを学習用データとして用いてMLPを学習させた。第1実施例では、相互作用事象に含まれるチェレンコフ光検出事象の個数nが5以上7以下であるデータに基づいて、
図4を用いて一例として説明した条件で作成した学習用データを用いてMLPを学習させた。
【0038】
第1比較例で作成された学習用データの個数は521,460個であった。第2比較例で作成された学習用データの個数は、875,000個であり、第1比較例の場合の1.68倍であった。第1実施例で作成された学習用データの個数は、4,170,600個であり、第1比較例の場合の8倍であった。このように、第1比較例および第2比較例と比べると、第1実施例では、より多くの学習用データを用意することができる。
【0039】
図6は、シミュレーションの結果を示す図である。この図は、第1比較例、第2比較例および第1実施例それぞれについて、xy平面での相互作用位置の推定誤差のヒストグラム、および、z軸方向の相互作用位置の推定誤差のヒストグラムを示す。推定誤差は、真の相互作用位置から推定相互作用位置を引いた値である。横軸は誤差を表し、縦軸は頻度を表す。各ヒストグラムをローレンツ関数で近似して、そのローレンツ関数の半値全幅(Full Width at Half Maximum、FWHM)を求めた。
【0040】
第1比較例では、xy平面での推定誤差のFWHMは0.89mmであり、z軸方向の推定誤差のFWHMは1.57mmであった。第2比較例では、xy平面での推定誤差のFWHMは0.79mmであり、z軸方向の推定誤差のFWHMは1.42mmであった。第1実施例では、xy平面での推定誤差のFWHMは0.65mmであり、z軸方向の推定誤差のFWHMは1.40mmであった。第1比較例および第2比較例と比べると、第1実施例では、軸方向の推定誤差およびxy平面での推定誤差の何れも小さい値であった。第1実施例では、より多くの学習用データを用いてMLPを学習させたことにより、相互作用位置の推定の精度が向上したと考えられる。
【0041】
次に第2実施形態について説明する。
図7は、第2実施形態の検出システム2の構成を示す図である。検出システム2は、第1チェレンコフ検出器3A、第2チェレンコフ検出器3Bおよび信号処理部5を備える。チェレンコフ検出器3A,3Bは、第1実施形態におけるチェレンコフ検出器3と同じ構成を有する。チェレンコフ検出器3A,3Bそれぞれの輻射体10の入射面11(光検出器20側と反対の面。
図2参照)は互いに対向している。
【0042】
第1チェレンコフ検出器3Aと第2チェレンコフ検出器3Bとの間の空間にRI線源があると、そのRI線源から放出された陽電子と電子とが対消滅し、その対消滅により光子対(エネルギ511keVのγ線の対)が発生する。光子対を構成する2つの光子は互いに反対方向に飛行する。一方の光子を第1チェレンコフ検出器3Aにより検出するとともに他方の光子を第2チェレンコフ検出器3Bにより検出することにより、すなわち、2つのチェレンコフ検出器3A,3Bにより光子対を同時計数すること(同時計数事象)により、光子対発生事象(対消滅事象)を検出することができる。
【0043】
信号処理部5は、チェレンコフ検出器3A,3Bそれぞれの光検出器20から出力される信号を入力する。信号処理部5は、これらの入力信号を処理することで、同時計数事象毎に、チェレンコフ検出器3A,3Bそれぞれの光検出器20の受光面におけるチェレンコフ光検出事象の数ならびに各チェレンコフ光検出事象の検出位置および検出時刻に基づいて、ニューラルネットワークにより、光子対発生位置(対消滅位置)を推定する。
【0044】
また、信号処理部5は、同時計数事象毎に、チェレンコフ検出器3A,3Bそれぞれの光検出器20の受光面におけるチェレンコフ光検出事象の数ならびに各チェレンコフ光検出事象の検出位置および検出時刻に基づいて、ニューラルネットワークを学習させる為の学習用データを作成する。そして、信号処理部5は、この学習用データを用いてニューラルネットワークを学習させる。
【0045】
信号処理部5は例えばコンピュータにより構成される。信号処理部5は、ニューラルネットワークによる処理をCPUにより行ってもよいが、より高速な処理が可能なDSPまたはGPUにより行うのが好適である。
【0046】
信号処理部5は、前処理部51、推定部52、学習用データ作成部53、学習部54および記憶部55を備える。
【0047】
前処理部51は、第1チェレンコフ検出器3Aの光検出器20から出力される信号について第1実施形態における前処理部41と同様の処理を行う。前処理部51は、第2チェレンコフ検出器3Bの光検出器20から出力される信号についても第1実施形態における前処理部41と同様の処理を行う。
【0048】
前処理部51は次のような処理をも行う。前処理部51は、第1チェレンコフ検出器3Aの光検出器20から出力された信号に基づいて検出された相互作用事象データと、第2チェレンコフ検出器3Bの光検出器20から出力された信号に基づいて検出された相互作用事象のデータとが、同時計数タイムウィンドウ内にある場合に、両データが共通の光子対発生事象によるものであると判断する。このとき、両データの代表時刻が同時計数タイムウィンドウ内にあるか否かを判定すればよい。代表時刻は、各相互作用事象に含まれる検出時刻のうち最も早い検出時刻でもよいし、検出時刻の平均値でもよい。
【0049】
推定部52は、前処理部51により前処理が為された後のデータを入力して、同時計数事象毎に、チェレンコフ検出器3A,3Bそれぞれの光検出器20の受光面におけるチェレンコフ光検出事象の数ならびに各チェレンコフ光検出事象の検出位置および検出時刻に基づいて、ニューラルネットワークにより光子対発生位置(x,y,z)を推定する。ここで用いられるニューラルネットワークは、例えば、多層パーセプトロン(MLP)、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)、再帰型ニューラルネットワーク(RNN)等である。
【0050】
学習用データ作成部53は、同時計数事象毎に、第1チェレンコフ検出器3Aの光検出器20によるn1個のチェレンコフ光検出事象のうちからn1個未満のチェレンコフ光検出事象の組を複数生成して、これらの複数の組それぞれに含まれる各チェレンコフ光検出事象の検出位置および検出時刻を第1学習用データとし、また、第2チェレンコフ検出器3Bの光検出器20によるn2個のチェレンコフ光検出事象のうちからn2個未満のチェレンコフ光検出事象の組を複数生成して、これらの複数の組それぞれに含まれる各チェレンコフ光検出事象の検出位置および検出時刻を第2学習用データとする。
【0051】
学習部54は、学習用データ作成部53により作成された第1学習用データおよび第2学習用データを用いてニューラルネットワークを学習させる。記憶部55は、前処理部51、推定部52、学習用データ作成部53および学習部54それぞれによる処理の前、途中および後のデータを記憶する。
【0052】
図8は、光子対発生位置の推定の際の信号処理部5の推定部52による処理の一例を説明する図である。推定部52は、前処理部51により前処理が為された後の同時計数事象毎のデータを入力する。すなわち、推定部52は、同時計数事象毎に、第1チェレンコフ検出器3Aによるn1個のチェレンコフ光検出事象それぞれのデータ(x,y,t)を入力するとともに、第2チェレンコフ検出器3Bによるn2個のチェレンコフ光検出事象それぞれのデータ(x,y,t)を入力する。推定部52は、第1チェレンコフ検出器3Aによるn1個のチェレンコフ光検出事象それぞれのデータのうちから検出タイミングの早い5個のチェレンコフ光検出事象のデータを選択し、第2チェレンコフ検出器3Bによるn2個のチェレンコフ光検出事象それぞれのデータのうちから検出タイミングの早い5個のチェレンコフ光検出事象のデータを選択して、これらの選択したデータを学習済みのニューラルネットワークへ入力させる。これによりニューラルネットワークから出力されるデータは、光子対発生位置(x,y,z)を推定した結果を表すものとなる。
【0053】
図9は、ニューラルネットワークの学習の際の信号処理部5の学習用データ作成部53および学習部54による処理の一例を説明する図である。学習用データ作成部53は、前処理部51により前処理が為された後の同時計数事象毎のデータを入力する。すなわち、学習用データ作成部53は、同時計数事象毎に、第1チェレンコフ検出器3Aによるn1個のチェレンコフ光検出事象それぞれのデータ(x,y,t)を入力するとともに、第2チェレンコフ検出器3Bによるn2個のチェレンコフ光検出事象それぞれのデータ(x,y,t)を入力する。
【0054】
学習用データ作成部53は、第1チェレンコフ検出器3Aによるn1個のチェレンコフ光検出事象のうちから5個のチェレンコフ光検出事象の組を複数生成する。このとき最大でn1C5個の組を生成することができる。学習用データ作成部53は、各組に含まれる5個のチェレンコフ光検出事象それぞれのデータ(x,y,t)を第1学習用データとする。
【0055】
学習用データ作成部53は、第2チェレンコフ検出器3Bによるn2個のチェレンコフ光検出事象のうちから5個のチェレンコフ光検出事象の組を複数生成する。このとき最大でn2C5個の組を生成することができる。学習用データ作成部53は、各組に含まれる5個のチェレンコフ光検出事象それぞれのデータ(x,y,t)を第2学習用データとする。
【0056】
学習用データ作成部53は、第1学習用データおよび第2学習用データをニューラルネットワークへ入力させる。学習用データ作成部53は、最大でn1C5×n2C5 組の学習用データをニューラルネットワークへ入力させることができる。これによりニューラルネットワークから組の個数と同じ数の出力データ(x,y,z)が得られる。学習部54は、ニューラルネットワークから出力されるデータ(x,y,z)と教師データ(X,Y,Z)との間の誤差を評価し、その誤差が小さくなるように誤差逆伝播法によりニューラルネットワークのパラメータを調整して、ニューラルネットワークを学習させる。
【0057】
図10は、ニューラルネットワークの構成の一例を示す図である。この図に示されるニューラルネットワークは、入力層、出力層および3つの中間層を含む5層構造を有する多層パーセプトロン(MLP)である。このMLPは、第1チェレンコフ検出器3Aにより検出されたn1個のチェレンコフ光検出事象のうちから選択した5個のチェレンコフ光検出事象それぞれのデータ(x,y,t)を入力するとともに、第2チェレンコフ検出器3Bにより検出されたn2個のチェレンコフ光検出事象のうちから選択した5個のチェレンコフ光検出事象それぞれのデータ(x,y,t)を入力して、光子対発生位置(x,y,z)の推定の結果を出力する。なお、ニューラルネットワークからの出力データは、位置を表すものであってもよいし、各位置の光子対発生の確信度を表すものであってもよい。
【0058】
次に、第2実施形態についてモンテカルロ法を用いて行ったシミュレーションの結果を説明する。第1チェレンコフ検出器3Aおよび第2チェレンコフ検出器3Bそれぞれとして、前述のものを想定した。第1チェレンコフ検出器3Aおよび第2チェレンコフ検出器3Bそれぞれの入射面11の中心位置を互いに結ぶ線分の中点をxyz直交座標系の原点とし、その線分がz軸上にあるとし、各々の入射面11の各辺がx軸またはy軸に平行であるとし、両入射面11の間の間隔を50mmとした。ニューラルネットワークとして
図10に示したMLPを用い、そのMLPから各位置の光子対発生の確信度を表すデータを出力させた。
【0059】
光子対発生位置(教師データ(X,Y,Z))として、原点を中心としてx軸、y軸およびz軸それぞれの正負方向に5mm間隔で125(=5×5×5)個の位置を想定した。3次元空間の対称性を考慮して、或る一つの象限(および該象限の境界の軸上)にRI線源を配置して光子対を発生させで同時計数情報を収集し、この同時計数情報を用いることで他の象限についても同時計数情報を作成した。
【0060】
シミュレーションは、第3比較例、第4比較例および第2実施例それぞれについて行った。第3比較例では、共通の光子対発生事象に含まれる相互作用事象の個数n1,n2が何れも5であるデータのみを学習用データとして用いてMLPを学習させた。第4比較例では、共通の光子対発生事象に含まれる相互作用事象の個数n1,n2が何れも5以上8以下であるデータのうち検出タイミングの早い5個ずつのチェレンコフ光検出事象のデータを学習用データとして用いてMLPを学習させた。第2実施例では、共通の光子対発生事象に含まれる相互作用事象の個数n1,n2が何れも5以上8以下であるデータに基づいて、
図9を用いて一例として説明した条件で作成した学習用データを用いてMLPを学習させた。
【0061】
第3比較例で作成された学習用データの個数は43,000個であった。第4比較例で作成された学習用データの個数は、122,125個であり、第3比較例の場合の2.84倍であった。第2実施例で作成された学習用データの個数は、6,666,375個であり、第3比較例の場合の155倍であった。このように、第3比較例および第4比較例と比べると、第2実施例では、より多くの学習用データを用意することができる。
【0062】
図11は、シミュレーションの結果を示す図である。この図は、第3比較例、第4比較例および第2実施例それぞれの光子対発生位置の推定の精度を示す。第3比較例では推定精度は91.45%であり、第4比較例では推定精度は93.80%であり、第2実施例では推定精度は95.11%であった。第3比較例および第4比較例と比べると、第2実施例では、光子対発生位置の推定の精度が高い値であった。第2実施例では、より多くの学習用データを用いてMLPを学習させたことにより、光子対発生位置の推定の精度が向上したと考えられる。
【0063】
なお、光子対発生位置によって学習用データの数に偏りがあると、その偏りがある学習用データを用いて学習させたニューラルネットワークによる光子対発生位置の推定にも偏りが生じることが考えられる。そこで、2つのチェレンコフ検出器の間の各光子対発生位置について作成された学習用データの数を確認しながら同時計数データの収集を行い、或る光子対発生位置について作成された学習用データの数が或る目標値に達したら、その光子対発生位置については同時計数データの収集を終了するのが好ましい。この場合、各光子対発生位置についての同時計数データの収集の所要時間は位置によって異なることがある。
【0064】
以上のとおり、本実施形態によれば、チェレンコフ検出器とニューラルネットワークを用いた信号処理部とを備える検出システムにおいて、該ニューラルネットワークを学習させる際に用いる大量の学習用データを短時間で作成することができ、該ニューラルネットワークを容易に学習させることができる。ニューラルネットワークの学習は、検出システムの製造者においても容易に行うことができ、検出システムの利用者においても容易に行うことができる。例えば、検出システムのキャリブレーションを行うことが必要となった場合に、利用者自らがニューラルネットワークの再学習または追加学習を容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0065】
1,2…検出システム、3…チェレンコフ検出器、3A…第1チェレンコフ検出器、3B…第2チェレンコフ検出器、10…輻射体、20…光検出器、4…信号処理部、41…前処理部、42…推定部、43…学習用データ作成部、44…学習部、45…記憶部、5…信号処理部、51…前処理部、52…推定部、53…学習用データ作成部、54…学習部、55…記憶部。