(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】車両用灯具の制御装置および車両用灯具システム
(51)【国際特許分類】
B60Q 1/115 20060101AFI20240314BHJP
【FI】
B60Q1/115
(21)【出願番号】P 2020037663
(22)【出願日】2020-03-05
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 雅章
【審査官】山崎 晶
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/031255(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0055396(KR,A)
【文献】特開2005-081867(JP,A)
【文献】特開2018-154236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/115
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速度センサで検出される、路面に対する車両の前後軸の角度である車両姿勢角度の変化を導出可能な加速度と、角速度センサで検出される、前記車両姿勢角度の変化を導出可能な角速度とを受信する受信部と、
前記車両の前後方向の加速度の大きさが所定値以下であるときは、前記加速度センサで検出される加速度に基づき車両用灯具の光軸調節を指示する制御信号を生成する第1モード制御を行い、前記車両の前後方向の加速度の大きさが前記所定値を超えているときは、前記角速度センサで検出される角速度に基づき前記車両用灯具の光軸調節を指示する制御信号を生成する第2モード制御を行う制御部と、
前記制御部が生成した制御信号を車両用灯具の光軸調節を行う光軸調節部に送信する送信部と、
を備え
、
前記制御部は、前記第2モード制御において、前記加速度センサで検出される加速度から導出される前記車両姿勢角度の変化と、前記角速度センサで検出される角速度を時間積分することにより求められる前記車両姿勢角度の変化とに基づく光軸調節を指示する制御信号を生成し、
前記受信部は、前記加速度センサから、前記車両の前後方向および前記車両の上下方向の加速度を導出可能な加速度を受信し、
前記制御部は、前記加速度センサで検出される加速度からの前記車両姿勢角度の変化を、前記車両の加速時および減速時の少なくとも一方における、前記車両の前後方向の加速度の時間変化量と前記車両の上下方向の加速度の時間変化量との比率の変化に基づき導出する、
車両用灯具の制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記車両の前後方向の加速度を第1軸に設定し前記車両の上下方向の加速度を第2軸に設定した座標に、前記車両の加速時および減速時の少なくとも一方における前記加速度センサの検出値を経時的にプロットし、少なくとも2点から得られる直線またはベクトルの傾きを前記比率とする、
請求項
1に記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記車両が停止しているときの前記角速度センサの検出値をゼロ点として設定する、請求項
1又は2に記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項4】
前記受信部は、車速センサで検出される、前記車両の速度を受信し、
前記制御部は、前記車両の前後方向の加速度を、前記車速センサから取得される速度を時間微分することにより取得する、
請求項
1又は2に記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記車両の前後方向の加速度を、前記加速度センサから取得する、
請求項
1又は2に記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記車両の前後方向の加速度を、前記角速度センサから取得される角速度を時間積分することにより求められる角度の変化に基づき取得する、
請求項
1又は2に記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項7】
前記受信部は、アクセルペダルまたはブレーキペダルの踏み込み量を受信し、
前記制御部は、前記車両の前後方向の加速度を、前記踏み込み量に基づき取得する、
請求項
1又は2に記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項8】
光軸を調節可能な車両用灯具と、
前記加速度センサと、
前記角速度センサと、
請求項
1又は2に記載の車両用灯具の制御装置と、
を備えることを特徴とする車両用灯具システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用灯具の制御装置および車両用灯具システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、加速度センサを用いた車両用灯具のオートレベリング制御において、加速度センサの検出値から路面に対する車両の傾斜角度の情報を抽出する技術について記載されている。同文献に例示されている車両用灯具の制御装置は、加速度センサで検出される、車両前後方向および車両上下方向の加速度を導出可能な加速度を受信するための受信部と、車両の加速時および減速時の少なくとも一方における、車両前後方向の加速度の時間変化量と車両上下方向の加速度の時間変化量との比率の変化に基づき車両用灯具の光軸調節を指示する制御信号を生成するための制御部と、制御信号を車両用灯具の光軸調節部に送信するための送信部とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたオートレベリング制御では、車両の走行中における車両姿勢角度の変化を加速度センサの検出値から統計的に求め、求めた車両姿勢角度に基づき車両用灯具の光軸調節を行っている。そのため、急加速や急減速して車両に急に大きな加速度が作用した場合に光軸調節を必要な精度で行うことができないことがある。
【0005】
本発明はこのような背景に鑑みてなされたものであり、車両の走行状態にかかわらず精度よく安定してオートレベリング制御を行うことが可能な、車両用灯具の制御装置および車両用灯具システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の一つは、車両用灯具の制御装置であって、加速度センサで検出される、路面に対する車両の前後軸の角度である車両姿勢角度の変化を導出可能な加速度と、角速度センサで検出される、前記車両姿勢角度の変化を導出可能な角速度とを受信する受信部と、前記車両の前後方向の加速度の大きさが所定値以下であるときは、前記加速度センサで検出される加速度に基づき車両用灯具の光軸調節を指示する制御信号を生成する第1モード制御を行い、前記車両の前後方向の加速度の大きさが前記所定値を超えているときは、前記角速度センサで検出される角速度に基づき前記車両用灯具の光軸調節を指示する制御信号を生成する第2モード制御を行う制御部と、前記制御部が生成した制御信号を車両用灯具の光軸調節を行う光軸調節部に送信する送信部と、を備え、前記制御部は、前記第2モード制御において、前記加速度センサで検出される加速度から導出される前記車両姿勢角度の変化と、前記角速度センサで検出される角速度を時間積分することにより求められる前記車両姿勢角度の変化とに基づく光軸調節を指示する制御信号を生成し、前記受信部は、前記加速度センサから、前記車両の前後方向および前記車両の上下方向の加速度を導出可能な加速度を受信し、前記制御部は、前記加速度センサで検出される加速度からの前記車両姿勢角度の変化を、前記車両の加速時および減速時の少なくとも一方における、前記車両の前後方向の加速度の時間変化量と前記車両の上下方向の加速度の時間変化量との比率の変化に基づき導出する。
【0007】
その他、本願が開示する課題、およびその解決方法は、発明を実施するための形態の欄、および図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、車両の走行状態にかかわらず精度よく安定してオートレベリング制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】車両用灯具システムの内部構造を説明する概略鉛直断面図である。
【
図2】前照灯ユニットの照射制御部と車両側の車両制御部との動作連携を説明する機能ブロック図である。
【
図3】
図3(A)および
図3(B)は、車両の運動加速度ベクトルの方向と車両姿勢角度との関係を説明するための模式図である。
【
図4】車両前後方向の加速度と車両上下方向の加速度の関係を表すグラフである。
【
図5】車両用灯具システムのオートレベリング制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。尚、以下の説明において、同一の又は類似する構成について共通の符号を付して重複した説明を省略することがある。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態として示す車両用灯具システム200の構造を説明する図であり、車両用灯具システム200を光軸Oに平行な鉛直面で切断した断面図である。
【0012】
車両用灯具システム200は、当該車両用灯具システム200が設けられる車両の車幅方向左右に1つずつ配置される、左右対称に形成された一対の前照灯ユニット210を含む。尚、一対の前照灯ユニット210は、左右対称の構造を有する点以外は実質的に同一の構成であるため、以下では主に右側の前照灯ユニット210Rの構造について説明し、左側の前照灯ユニット210Lの説明については適宜行う。以下の説明において、左側の前照灯ユニット210Lについて説明する場合は前照灯ユニット210Rの対応する部材と同一の符号を付す。また右側の前照灯ユニット210Rを構成する部材の符号には「R」の文字を、左側の前照灯ユニットを構成する部材の符号には「L」の文字を、夫々付す。
【0013】
同図に示すように、前照灯ユニット210Rは、車両の前方側に開口部を有するランプボディ212と、当該開口部を覆う透光カバー214とを有する。ランプボディ212と透光カバー214は、光を車両前方に照射する車両用灯具(以下、「灯具ユニット10」と称する。)を収納する灯室216を形成する。ランプボディ212の車両後方側にはバルブ14の交換時等に際して取り外し可能な着脱カバー212aが設けられている。
【0014】
灯具ユニット10の一部には、当該灯具ユニット10の上下左右方向の揺動中心となるピボット機構218aを有するランプブラケット218が形成されている。ランプブラケット218は、ランプボディ212の壁面に回転自在に支持されたエイミング調整ネジ220と螺合している。灯具ユニット10は、エイミング調整ネジ220の調整状態に応じて定まる灯室216内の所定の位置に固定される。灯具ユニット10は、当該位置を基準にピボット機構218aを中心として、前傾姿勢または後傾姿勢等に姿勢を変化させることが可能である。
【0015】
灯具ユニット10の下面には、曲線道路走行時等において進行方向を照らす曲線道路用配光可変前照灯(AFS:Adaptive Front-lighting System)等を構成するためのスイブルアクチュエータ222の回転軸222aが固定されている。スイブルアクチュエータ222は、車両側から提供される操舵量のデータやナビゲーションシステムから提供される走行道路の形状データ、対向車や先行車を含む前方車と自車との相対位置の関係等に基づき、灯具ユニット10を、ピボット機構218aを中心に進行方向に旋回(スイブル:swivel)させる。これにより灯具ユニット10の照射領域は車両の正面ではなく曲線道路のカーブの先の方向を向き、運転者の前方視認性を向上させる。スイブルアクチュエータ222は、例えば、ステッピングモータを用いて構成することができる。尚、スイブル角度が固定値とされる場合はソレノイド等を用いてスイブルアクチュエータ222を構成してもよい。
【0016】
同図に示すように、スイブルアクチュエータ222は、ユニットブラケット224に固定されている。ユニットブラケット224には、ランプボディ212の外部に配置されたレベリングアクチュエータ226が接続されている。レベリングアクチュエータ226は、例えば、ロッド226aを矢印M,N方向に伸縮させるモータ等を用いて構成されている。ロッド226aが矢印M方向に伸長した場合、灯具ユニット10は、ピボット機構218aを中心として後傾姿勢になるように位置決めされる。逆にロッド226aが矢印N方向に短縮した場合、灯具ユニット10は、ピボット機構218aを中心として前傾姿勢になるように位置決めされる。灯具ユニット10が後傾姿勢になると、光軸Oのピッチ角度、即ち、光軸Oの上下方向の角度を上方に向けるレベリング調整ができる。また灯具ユニット10が前傾姿勢になると、光軸Oのピッチ角度を下方に向けるレベリング調整ができる。このようなレベリング調整を実施することで、車両の姿勢に応じた光軸調整ができる。その結果、車両用灯具システム200による前方照射光の到達距離を最適な距離に調整することができる。
【0017】
灯具ユニット10の灯室216の下方の内壁面には、照射制御部228R(制御装置)が設けられている。照射制御部228Rは、灯具ユニット10の点消灯制御、配光パターンの形成制御、灯具ユニット10の光軸調節、スイブルアクチュエータ222やレベリングアクチュエータ226の制御等を行う。照射制御部228Rは、前照灯ユニット210Rの外部に設けてもよい。
【0018】
灯具ユニット10は、エイミング調整機構を備えることができる。例えば、レベリングアクチュエータ226のロッド226aとユニットブラケット224の接続部分に、エイミング調整時の揺動中心となるエイミングピボット機構(図示せず)を配置する。また、ランプブラケット218には前述したエイミング調整ネジ220が車幅方向に間隔を空けて配置されている。例えば2本のエイミング調整ネジ220を反時計回り方向に回転させれば、灯具ユニット10はエイミングピボット機構を中心に前傾姿勢となり光軸Oが下方に調整される。同様に2本のエイミング調整ネジ220を時計回り方向に回転させれば、灯具ユニット10はエイミングピボット機構を中心に後傾姿勢となり光軸Oが上方に調整される。また、車幅方向左側のエイミング調整ネジ220を反時計回り方向に回転させれば、灯具ユニット10はエイミングピボット機構を中心に右旋回姿勢となり右方向に光軸Oが調整される。また車幅方向右側のエイミング調整ネジ220を反時計回り方向に回転させれば、灯具ユニット10はエイミングピボット機構を中心に左旋回姿勢となり左方向に光軸Oが調整される。このエイミング調整は、車両出荷時や車検時、前照灯ユニット210Rの交換時に行われる。そして前照灯ユニット210Rが設計上定められた姿勢に調整され、この姿勢を基準に配光パターンの形成制御や光軸位置の調節制御が行われる。
【0019】
灯具ユニット10は、回転シェード12を含むシェード機構18、光源としてのバルブ14、リフレクタ16を内壁に支持する灯具ハウジング17、および投影レンズ20を備える。バルブ14は、例えば、白熱球やハロゲンランプ、放電球、LED等である。リフレクタ16は、バルブ14から放射された光を反射し、バルブ14からの光およびリフレクタ16で反射した光は、その一部が回転シェード12を経て投影レンズ20へと導かれる。
【0020】
回転シェード12は、回転軸12aを中心に回転可能な円筒形状の部材であり、軸方向に一部が切り欠かれた切欠部と、図示しない複数のシェードプレートとを備える。切欠部またはシェードプレートのいずれかが光軸O上に移動することにより、所定の配光パターンが形成される。
【0021】
リフレクタ16は、少なくとも一部が楕円球面状であり、当該楕円球面は、灯具ユニット10の光軸Oを含む断面形状が楕円形状の少なくとも一部となるように設定されている。リフレクタ16の楕円球面状部分は、バルブ14の略中央に第1焦点を有し、投影レンズ20の後方焦点面上に第2焦点を有する。
【0022】
投影レンズ20は、車両前後方向に延びる光軸O上に配置される。バルブ14は、投影レンズ20の後方焦点を含む焦点面である後方焦点面よりも後方側に配置される。投影レンズ20は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズからなり、後方焦点面上に形成される光源像を、反転像として車両用灯具システム200前方の仮想鉛直スクリーン上に投影する。
【0023】
以上、灯具ユニット10の構成について説明したが、灯具ユニット10の構成は必ずしも以上に示したものに限定されず、例えば、投影レンズ20を備えない反射型の灯具ユニット等であってもよい。
【0024】
図2は、前照灯ユニット(前照灯ユニット210R、前照灯ユニット210L)の照射制御部と車両300側の車両制御部302との動作連携を説明する機能ブロック図である。以下では主に前照灯ユニット210Rについて説明を行い、前照灯ユニット210L側の説明については適宜省略する。
【0025】
同図に示すように、前照灯ユニット210Rの照射制御部228Rは、受信部228R1、制御部228R2、送信部228R3、およびメモリ228R4を有する。照射制御部228Rは、車両300に搭載された車両制御部302(車載用ECU(Electronic Control Unit))から得られる情報に基づき電源回路230の制御を行い、バルブ14の点灯制御を実行する。また照射制御部228Rは、車両制御部302から得られた情報に基づき可変シェード制御部232、スイブル制御部234、レベリング制御部236(光軸調節部)を制御する。
【0026】
車両制御部302から送信された各種情報は受信部228R1によって受信され、制御部228R2によって当該情報と必要に応じてメモリ228R4に記憶されている情報とに基づき各種制御信号が生成される。送信部228R3は、生成された上記制御信号を、灯具ユニット10の電源回路230、可変シェード制御部232、スイブル制御部234、レベリング制御部236等に送信する。メモリ228R4は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、不揮発性メモリ(NVRAM(Non Volatile RAM))等である。
【0027】
可変シェード制御部232は、回転シェード12の回転軸12aにギア機構を介して接続されたモータ238を回転制御し、所望のシェードプレートまたは切欠部を光軸O上に移動させる。可変シェード制御部232には、モータ238や回転シェード12に備えられたエンコーダ等の検出センサから回転シェード12の回転状態を示す回転情報が提供され、当該回転情報によりフィードバック制御による正確な回転制御が実現される。スイブル制御部234は、スイブルアクチュエータ222を制御して灯具ユニット10の光軸Oの角度を車幅方向(左右方向)について調整する。例えば、スイブル制御部234は、曲路走行や右左折走行等の旋回時に灯具ユニット10の光軸Oを車両300がこれから進行する方向に向ける。
【0028】
レベリング制御部236は、レベリングアクチュエータ226を制御し、車両上下方向(ピッチ角度方向)に灯具ユニット10の光軸Oを調整する。レベリング制御部236は、例えば、積載荷量増減時や乗車人数増減時における車両姿勢の前傾や後傾に応じて灯具ユニット10の姿勢を調整し、前方照射光の到達距離を最適な距離に調整する。車両制御部302は、前照灯ユニット210Lに対しても同様の情報を提供し、前照灯ユニット210Lに設けられた照射制御部228L(制御装置)が、照射制御部228Rと同様の制御を実行する。
【0029】
前照灯ユニット210L,210Rによって形成される配光パターンは、運転者によるライトスイッチ304の操作内容に応じて切り替え可能である。この場合、ライトスイッチ304の操作に応じて、照射制御部228L,228Rが可変シェード制御部232を介してモータ238を制御して灯具ユニット10により形成する配光パターンを決定する。
【0030】
前照灯ユニット210L,210Rは、ライトスイッチ304による手動制御に限らず、例えば、車両の周囲の状況を各種センサの検出値に基づき検出し、車両300の状態や車両周囲状況に最適な配光パターンを形成するよう自動制御する構成としてもよい。例えば、各種センサの検出値に基づき自車の前方に先行車や対向車、歩行者等が存在することを検出した場合、照射制御部228L,228Rが、車両制御部302から得られた情報に基づきグレアを防止するべきと判定し、灯具ユニット10によりロービーム用の配光パターンを形成するようにしてもよい。また例えば、各種センサの検出値に基づき自車の前方に先行車や対向車、歩行者等が存在しないことを検出した場合、照射制御部228L,228Rが運転者の視認性を向上させるべきであると判定して回転シェード12による遮光を伴わないハイビーム用配光パターンを形成するようにしてもよい。またロービーム用配光パターンおよびハイビーム用配光パターンに加えて、いわゆる左あるいは右片ハイ用配光パターンやVビーム用配光パターン等の従来公知の特殊ハイビーム用配光パターンや特殊ロービーム用配光パターンを形成可能な場合、照射制御部228L,228Rが、前方車の存在状態に応じて前方車を考慮した最適な配光パターンを形成するようにしてもよい。こうした制御モードはADB(Adaptive Driving Beam)モードと称されることがある。
【0031】
車両制御部302には、先行車や対向車等の対象物の認識手段として、例えば、ステレオカメラ等のカメラ305が接続されている。カメラ305で撮影された画像フレームデータは、画像処理部308で対象物認識処理等の所定の画像処理が施され、その認識結果が車両制御部302へ提供される。例えば、画像処理部308から提供された認識結果データの中に車両制御部302が予め保持している「車両を示す特徴点」を含むデータが存在する場合、車両制御部302は車両の存在を認識して、その情報を照射制御部228L,228Rに提供する。照射制御部228L,228Rは、車両制御部302から車両の情報を受けて、その車両を考慮した最適な配光パターンを決定し、当該配光パターンを形成する。ここで「車両を示す特徴点」とは、例えば、前方車の前照灯や、テールランプ等の標識灯の推定存在領域に現れる所定光度以上の光点である。また例えば、画像処理部308から提供された認識結果データの中に予め保持している歩行者を示す特徴点を含むデータが存在する場合、車両制御部302がその情報を照射制御部228L,228Rに提供し、照射制御部228L,228Rは、その歩行者を考慮した最適な配光パターンを形成する。尚、先行車や対向車等の対象物の認識手段として、例えば、ミリ波レーダ、LiDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)、タイムオブフライト(TOF: Time Of Flight)カメラ、超音波センサ、赤外線カメラ等を用いてもよい。
【0032】
また車両制御部302は、車両300に搭載されているステアリングセンサ310、車速センサ312、ナビゲーションシステム314、傾斜検出装置としての加速度センサ316や角速度センサ317(ジャイロセンサ)等から送られてくる情報も取得可能である。これにより照射制御部228L,228Rは、車両300の走行状態や姿勢に応じて形成する配光パターンを選択したり、光軸Oの方向を変化させて簡易的に配光パターンを変化させたりすることができる。例えば、車両後部の荷室に荷物を載せたり後部座席に乗員がいる場合、車両姿勢は後傾姿勢となり、荷物が下ろされたり後部座席の乗員が下車した場合、車両姿勢は後傾姿勢の状態から前傾する。
【0033】
灯具ユニット10の照射方向は、車両300の姿勢状態に対応して上下に変動して、前方照射の到達距離が変化する。照射制御部228L,228Rは、車両制御部302を経由して加速度センサ316や角速度センサ317から車両300の傾斜角度(以下、「車両姿勢角度θv」と称する。)に関する情報を受信し、レベリング制御部236を介してレベリングアクチュエータ226を制御して光軸Oのピッチ角度が車両姿勢角度θvに応じた角度となるようにする。このように、車両姿勢角度θvに基づき灯具ユニット10のレベリング調整がリアルタイムで行われることで、車両300の使用状況に応じて車両姿勢角度θvが変化しても前方照射の到達距離を最適に調節することができる。このような制御はオートレベリング制御と称されることがある。
【0034】
尚、以上説明した配光パターンの自動形成制御は、例えば、ライトスイッチ304によって配光パターンの自動形成制御が指示された場合に実行される。
【0035】
続いて、上述の構成を備えた車両用灯具システム200によるオートレベリング制御について詳細に説明する。オートレベリング制御では、車両300が急加速または急減速していないときは第1モード制御を行い、車両300が急加速または急減速しているときは第2モード制御を行う。
【0036】
図3(A)および
図3(B)は、第1モード制御を説明する図であり、車両300の運動加速度ベクトルの方向と車両姿勢角度との関係を説明する模式図である。
図3(A)は、後述する車両姿勢角度θvが変化していない状態を示し、
図3(B)は、車両姿勢角度θvが変化している状態を示す。
図3(A)および
図3(B)のいずれにおいても路面角度θr=0の場合と路面角度θr≠0の場合を示している。これらの図において、車両300が前進したときに生じる運動加速度ベクトルαおよび合成加速度ベクトルβを実線矢印で示し、車両300が減速あるいは後進したときに生じる運動加速度ベクトルαおよび合成加速度ベクトルβを破線矢印で示している。
【0037】
例えば、車両300の後部に設けられている荷室に荷物を載せている場合や後部座席に乗員が乗車している場合、車両300の姿勢は後傾姿勢となる。また車両300から荷物が下ろされた場合や後部座席の乗員が下車した場合、車両300の姿勢は後傾姿勢の状態から前傾する。ここで灯具ユニット10の照射方向は車両300の姿勢状態に対応して上下に変動し、前方照射距離の長さが変化する。そこで、照射制御部228L,228Rは、車両制御部302を経由して受信される加速度センサ316の検出値に基づき、レベリング制御部236を介してレベリングアクチュエータ226を制御して光軸Oのピッチ角度を車両300の車両姿勢角度θvに応じた角度に調節する。このように車両姿勢角度θvに基づき灯具ユニット10のレベリング調整をリアルタイムで行うオートレベリング制御を実施することで、車両300の姿勢が変化しても前方照射の到達距離を最適に調節することができる。
【0038】
図2に戻り、加速度センサ316は、例えば、互いに直交する3軸(X軸、Y軸、Z軸)の各方向の加速度を検出する3軸加速度センサである。本実施形態では、加速度センサ316は、X軸が車両300の前後軸の方向に、Y軸が車両300の左右軸の方向に、Z軸が車両300の上下軸の方向に、夫々沿うように車両300に取り付けられる。加速度センサ316は、任意の姿勢で車両300に取り付けてもよい。この場合、加速度センサ316から出力される3軸の各成分の検出値は、例えば、照射制御部228Rによって車両300の前後軸、左右軸、上下軸の成分に変換される。
【0039】
加速度センサ316は、重力加速度ベクトルGに対する車両300の傾きを検出し、重力加速度ベクトルGの3軸方向の各軸成分の数値を出力する。即ち、加速度センサ316の検出値から、水平面に対する路面の傾斜角度(第1角度)である路面角度θrと、路面に対する車両300の傾斜角度(第2角度)である車両姿勢角度θvとを含む、水平面に対する車両300の傾斜角度(合計角度)である合計角度θをベクトルとして検出することができる。また車両300の走行時、加速度センサ316は、重力加速度ベクトルGと車両300の移動により生じる運動加速度ベクトルαとが合成された合成加速度ベクトルβの3軸の各成分に対応する検出値を出力する。路面角度θr、車両姿勢角度θv、および合計角度θは、夫々、X軸の上下方向の角度、言い換えれば車両300のピッチ方向の角度である。尚、以下の説明では、説明の便宜のため、加速度センサ316のY軸方向の成分、即ち車両300のロール方向の角度は考慮しないこととする。
【0040】
オートレベリング制御は、車両300のピッチ方向の角度の変化にともなう車両用灯具の前方照射距離の変化を吸収し、照射光の前方到達距離を最適に保つことを目的とするものである。従って、オートレベリング制御に必要とされる車両300の傾斜角度は、路面に対する車両300の前後軸(加速度センサ316のX軸)の角度、即ち、車両姿勢角度θvである。即ち、オートレベリング制御では、車両姿勢角度θvが変化した場合に灯具ユニット10の光軸位置を「調節」し、路面角度θrが変化した場合に灯具ユニット10の光軸位置を「維持」するように制御することが望まれる。このような制御を実現するには、加速度センサ316から得られる合計角度θから車両姿勢角度θvについての情報を抽出する必要がある。
【0041】
ここで車両300は路面に対して平行に移動する。よって、運動加速度ベクトルαは、車両姿勢角度θvによらず路面に対して平行なベクトルとなる。
【0042】
また
図3(A)に示すように、車両300の車両姿勢角度θvが0°であった場合、理論上は加速度センサ316のX軸(あるいは車両300の前後軸)は路面に対して平行となるため、運動加速度ベクトルαは、加速度センサ316のX軸に平行なベクトルとなる。よって、車両300の加減速によって運動加速度ベクトルαの大きさが変化した際に加速度センサ316によって検出される合成加速度ベクトルβの先端の軌跡は、X軸に対して平行な直線となる。
【0043】
一方、
図3(B)に示すように、車両姿勢角度θvが0°でない場合、加速度センサ316のX軸は路面に対して斜めにずれるため、運動加速度ベクトルαは、加速度センサ316のX軸に対して斜めに延びるベクトルとなる。よって、車両300が加減速することにより車両300に作用する運動加速度ベクトルαの大きさが変化した際の合成加速度ベクトルβの先端の軌跡は、X軸に対して傾いた直線となる。
【0044】
そこで、照射制御部228Rは、車両制御部302を経由して加速度センサ316から車両300の前後方向(X軸方向)の加速度と車両300の上下方向(Z軸方向)の加速度を受信する。そして、制御部228R2において、車両300の加速時および減速時の少なくとも一方における、車両の前後方向に作用する加速度の時間変化量と車両上下方向の加速度の時間変化量との比率(合成加速度ベクトルβの向き(傾き)を示す情報)を算出する。
【0045】
図4は、車両前後方向の加速度と車両上下方向の加速度の関係を表すグラフである。同図に示すように、例えば、照射制御部228Rは、車両300の前後方向の加速度を第1軸(X軸)に設定し、車両300の上下方向の加速度を第2軸(Z軸)に設定した座標に、車両300の加速時および減速時の少なくとも一方における加速度センサ316の検出値を経時的にプロットする。
【0046】
同図に示す点tA1~tAnは、
図3(A)に示す状態での時間t1~tnにおける加速度センサ316の検出値である。また同図に示す点tB1~tBnは、
図3(B)に示す状態での時間t1~tnにおける加速度センサ316の検出値である。照射制御部228Rは、少なくとも2点から得られる直線またはベクトル(合成加速度ベクトルβ)の傾きを上述した比率として算出する。本実施形態では、照射制御部228Rは、プロットされた複数点tA1~tAn,tB1~tBnに対して最小二乗法等を用いて直線近似式A,Bを求め、当該直線近似式A,Bの傾きを比率として算出する。
【0047】
車両姿勢角度θvが0°の場合、加速度センサ316の検出値から、x軸に平行な直線近似式Aが得られる。即ち、直線近似式Aの傾きは0となる。これに対し、車両姿勢角度θvが0°でない場合、加速度センサ316の検出値から、車両姿勢角度θvに応じた傾きを有する直線近似式Bが得られる。従って、車両300の加減速時における車両前後方向の加速度の時間変化量および車両上下方向の加速度の時間変化量の比率の変化を計測することで、加速度センサ316の検出値から、車両姿勢角度θvについての情報として車両姿勢角度θvの変化を知ることができる。そして、得られた車両姿勢角度θvの変化情報を利用することで、より高精度なオートレベリング制御を実現することができる。
【0048】
車両用灯具システム200は、上述した比率の変化を検出することで得られる車両姿勢角度θvについての情報を利用して、例えば、次のようにオートレベリング制御を行う。まず例えば、車両メーカの製造工場やディーラの整備工場等において、車両300は水平面に置かれて基準状態(例えば、車両300の運転席に1名乗車している状態、あるいは空車状態)とされる。そして工場の初期化処理装置のスイッチ操作、または照射制御部228Rと加速度センサ316とを車両制御部302を介して接続するCAN(Controller Area Network)システムの通信等により、照射制御部228Rに初期化信号が送信される。照射制御部228Rに送信された初期化信号は、受信部228R1で受信されて制御部228R2に送られる。制御部228R2は、初期化信号を受けると、受信部228R1が受信した加速度センサ316の検出値を基準傾斜角度として用いて、初期エイミング調整を実施する。また制御部228R2は、このときの加速度センサ316の検出値を、路面角度θrの基準値(θr=0°)、車両姿勢角度θvの基準値(θv=0°)としてメモリ228R4に記録し、これらの基準値を保持する。
【0049】
車両300の走行中(本実施形態では、車速センサ312の検出値が0より大きくなったときから、車速センサ312の検出値が0となるまでの間とする。以下、「車両走行中」と称する。)、積載荷量や乗車人数が増減して車両姿勢角度θvが変化することは稀であるため、走行中の合計角度θの変化を路面角度θrの変化と推定することができる。そこで制御部228R2は、車両300が加減速時でないときに車両走行中に合計角度θが変化した場合、光軸調節を行わないか、あるいは、制御部228R2が光軸位置の維持を指示する制御信号を生成し、送信部228R3からレベリング制御部236に送信するようにしてもよい。尚、「車両走行中」であることをどのように判定するかは、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。
【0050】
車両300の停止時(例えば、車速センサ312の検出値が0となった後、加速度センサ316の検出値が安定したとき。以下、「車両停止時」と称する。)、制御部228R2は、加速度センサ316で検出された現在の合計角度θから、メモリ228R4から読み出した車両姿勢角度θvの基準値を減算し、車両停止時の路面角度θrを計算する。そして、制御部228R2は、この路面角度θrを新たな路面角度θrの基準値としてメモリ228R4に記録する。尚、加速度センサ316の検出値が安定したときとするのは、車両300が停止してから車両300の姿勢が安定するまでに若干の時間を要し、車両300の姿勢が安定していない状態では正確な合計角度θを検出することが困難なためである。この「安定した時」は、加速度センサ316の検出値の単位時間あたりの変化量が所定量以下となったときとしてもよいし、また例えば、車速センサ312の検出値が0になってから所定時間経過後としてもよい。尚、「車両停止時」、「所定量」、および「所定時間」の値は、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。
【0051】
一方、車両の停止中(例えば、加速度センサ316の検出値が安定したときから車両300の発進時(例えば、車速センサ312の検出値が0を超えたとき)まで。以下、「車両停止中」と称する。)、車両300が移動して路面角度θrが変化することは稀であり、車両停止中の合計角度θの変化を車両姿勢角度θvの変化と推定することができる。そこで、制御部228R2は、車両停止中に合計角度θが変化した場合、加速度センサ316の検出値とメモリ228R4から読み出した路面角度θrの基準値とから得られる車両姿勢角度θvを用いて、光軸調節を指示する制御信号を生成する。具体的には、制御部228R2は、車両停止中に所定のタイミングで繰り返し車両姿勢角度θvを計算する。車両姿勢角度θvは、加速度センサ316から受信した現在の合計角度θからメモリ228R4に記録されている路面角度θrの基準値を減じて得られる。そして制御部228R2は、計算した車両姿勢角度θvとメモリ228R4に保持されている車両姿勢角度θvの基準値との差が所定量以上であった場合(人の乗降や荷物の積み卸し等により車両姿勢角度θvが大きく変化した場合)に、新たに得られた車両姿勢角度θvに基づき制御信号を生成する。これにより車両姿勢角度θvの些細な変化により頻繁に光軸調節が行われてしまうのを回避することができ、その結果、制御部228R2の制御負担を軽減することができ、またレベリングアクチュエータ226の長寿命化を図ることができる。生成された制御信号は、送信部228R3によってレベリング制御部236に送信され、制御信号に基づいた光軸調節が実行される。計算した車両姿勢角度θvは、新たな基準値としてメモリ228R4に記録される。尚、「車両停止中」であることをどのように判定するかは、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。
【0052】
車両300の加速時および減速時の少なくとも一方、例えば、車両が発進したときあるいは停止するときの所定時間、制御部228R2は、加速度センサ316の検出値を記録する。制御部228R2は、車両上下方向の加速度を第1軸とし車両上下方向の加速度を第2軸とした座標に、記録した検出値をプロットし、最小二乗法により直線近似式を連続的、あるいは所定時間毎に算出する。そして制御部228R2は、得られた直線近似式の傾きの変化に基づき灯具ユニット10の光軸調節を指示する制御信号を生成し、これにより光軸位置を補正する。例えば、制御部228R2は、得られた直線近似式の傾きと前回の計算で得られた直線近似式の傾きとを比較し、直線近似式の傾きの変化が検出された場合、当該傾きの変化に基づき補正処理を実行する。また制御部228R2は、あわせてメモリ228R4に保持されている車両姿勢角度θvの基準値を補正する。
【0053】
また例えば、メモリ228R4に保持されている車両姿勢角度θvがp°であり、直線近似式の傾きの変化の初回計算からの積算値がq°であったとする。あるいは、前回の車両停止中における車両姿勢角度θvの変化量、即ち、車両停止時に保持していた車両姿勢角度θvと車両発進時に保持していた車両姿勢角度θvとの差がp°であり、前回の発進時に算出した直線近似式と今回の発進時に算出した直線近似式との傾きの差がq°であったとする。この場合、制御部228R2は、車両姿勢角度θvの誤差(p-q)°だけ光軸位置を調節するための制御信号を生成し、送信部228R3が当該制御信号を送信する。また制御部228R2は、メモリ228R4に保持されている車両姿勢角度θvの基準値を(p-q)°だけ補正する。これにより、上述したように路面角度θrおよび車両姿勢角度θvの基準値を繰り返し書き換えることで加速度センサ316の検出誤差等が積み重なって、オートレベリング制御の精度が低下してしまうことを回避することができる。あるいは、オートレベリング制御の精度低下を軽減することができる。
【0054】
光軸位置の補正方法および車両姿勢角度θvの基準値の補正方法は、次のようであってもよい。即ち、車両300の加減速に起因した車両姿勢の傾きや、車両300の曲進に起因した車両姿勢の傾き等の外乱を除外することができない場合、直線近似式の傾きの変化量が車両姿勢角度θvの変化量から大きくずれる可能性がある。この場合、直線近似式の傾きの変化量だけ光軸位置および車両姿勢角度θvの基準値を補正しても、実際の車両姿勢角度θvからずれてしまう。また直線近似式の傾きが変化していることから実際の車両姿勢角度θvが保持している基準値からずれている可能性が高いため、保持している基準値を使用して光軸調節を実施しても高精度にオートレベリング制御を実施できない可能性がある。そこで、制御部228R2は、前記比率あるいは直線近似式の傾きの変化が検出された場合に、当該傾きの変化に基づく光軸位置の補正制御として、光軸位置を水平方向あるいは初期位置に近づけ、車両姿勢角度θvの基準値を0°に近づけるように補正する。これにより、灯具ユニット10の光軸位置を車両姿勢角度θvの変化に精度良く追従させることができなくなった場合でも、光軸位置を水平あるいは初期位置に近づけて運転者の視認性を確保するフェールセーフ機能を実現することができる。
【0055】
尚、制御部228R2は、計算した車両姿勢角度θvと、メモリ228R4に保持されている車両姿勢角度θvの基準値との差が所定量以上であった場合に、計算した車両姿勢角度θvを新たな基準値としてメモリ228R4に記録するようにしてもよい。同様に、制御部228R2は、計算した路面角度θrと、メモリ228R4に記録されている路面角度θrの基準値との差が所定量以上であった場合に、計算した路面角度θrを新たな基準値としてメモリ228R4に記録するようにしてもよい。これにより、路面角度θrあるいは車両姿勢角度θvの基準値が頻繁に書き換えられることを回避できる。また制御部228R2は、車両300の発進時の合計角度θと停止時の合計角度θとが異なる場合に路面角度θrを計算してもよい。これにより、制御部228R2の制御負担を軽減することができる。
【0056】
また制御部228R2は、車両300の1回の発進から停止までの間における加減速時の加速度センサ316の検出値を記録しておき、車両停止時等に直線近似式を算出して、上述の補正処理を実行してもよい。
【0057】
ところで、第1モード制御では、車両300の加減速時における加速度センサ316の検出値を経時的にプロットし、最小二乗法により統計的に直線近似式を連続的、あるいは所定時間毎に算出し、得られた直線近似式の傾きの変化に基づき灯具ユニット10の光軸調節を行う。このため、加速度センサ316からの検出値の蓄積や直線近似式の算出等に時間を要し、第1モード制御では迅速な光軸調節を行うことができず、とくに急加速または急減速して車両300に急に大きな加速度が作用して車両300の姿勢が大きく変化した場合には灯具ユニット10の光軸調節を必要な精度で行うことができないことがある。
【0058】
そこで照射制御部228Rは、車両300に大きな加速度が作用していないとき(上記加速度≦予め定められた所定値のとき)は前述した第1モード制御で灯具ユニット10の光軸調節を行い、一方、車両300に大きな加速度が作用しているとき(上記加速度>上記所定値のとき)は角速度センサ317の検出値に基づく第2モード制御で灯具ユニット10の光軸調節を行う。
【0059】
より詳細には、上記第1モード制御では、照射制御部228Rは、加速度センサ316の検出値から求められる車両姿勢角度θvの変化Δθvaccに基づき灯具ユニット10の光軸調節を行い、例えば、照射制御部228Rは、加速または減速により生じた加速度によって変化した方向とは逆の方向に大きさΔθvaccだけ光軸調節を行う。一方、第2モード制御では、照射制御部228Rは、角速度センサ317により検出される角速度(角速度センサ317のY軸(ピッチ軸)の検出値から取得される角速度)を時間積分することにより求められる車両姿勢角度θvの変化Δθvgyroに基づき光軸調節を行い、例えば、急加速または急減速により生じた加速度によって変化した方向と逆の方向に大きさΔθvgyroだけ光軸調節を行う。上記の時間積分は、例えば、急加速または急減速により大きな加速度が検出された(加速度が予め定められた値を超えた)ことを契機として開始し、例えば、急加速または急減速による大きな加速度が検出されなくなる(加速度が予め定められた値以下となる)まで第2モード制御による光軸調節を持続する。
【0060】
尚、車両300に大きな加速度が作用していないときには第2モード制御を行わずに角速度センサ317の検出値を用いない第1モード制御を行うのは、角速度センサ317は温度変化や振動等に起因するドリフト(ゼロ点(バイアス値)の時間変化)の影響により、角速度を時間積分して求められる角度θvgyroには時間とともに誤差が累積し、継続的な使用が難しいからである。一方、短い時間に限って利用する限り、角速度センサ317は加速度センサ316に比べて高い精度で迅速に角速度や角度の情報を得ることができる。そこで上記のように車両300に大きな加速度が作用していないときは第1モード制御を行い、車両300に大きな加速度が作用したときは角速度センサ317の検出値を用いる第2モード制御を行うことで、車両300の走行中に安定して精度よくオートレベリング制御を行うことができる。尚、角速度センサ317は、このように短い時間に限って利用する限り、必ずしも高性能なものは要求されず、以上の仕組みは低コストで実現可能である。
【0061】
第2モード制御に用いる角速度センサ317(ジャイロセンサ)の種類は必ずしも限定されないが、例えば、車両300の角速度(単位時間当たりの回転量(角度/秒))を検出する、互いに直交するX軸、Y軸、Z軸を有するMEMS(Micro Electro Mechanical System)式の3軸角速度センサ(3軸ジャイロセンサ)を用いる。角速度センサ317は、例えば、加速度センサ316や磁気センサ等とともにパッケージングされたもの(「6軸センサ」、「9軸センサ」等と称される。)でもよい。角速度センサ317は、車両300のロール軸、ピッチ軸、およびヨー軸を夫々中心とした角速度を精度よく検出可能な位置(車両300の回転中心等)に設けられる。角速度センサ317は、例えば、センサのX軸については車両300の前後軸(ロール軸)に、センサのY軸については車両300の左右軸(ピッチ軸)に、センサのZ軸については車両300の上下軸(ヨー軸)に夫々沿うように設けられる。角速度センサ317は、任意の姿勢で車両300に取り付けてもよい。この場合、角速度センサ317から出力される3軸の各成分の検出値は、例えば、照射制御部228Rによって車両300の前後軸、左右軸、上下軸の成分に変換される。角速度センサ317は、車両300の温度変化の少ない位置に設置することが好ましい。センサのY軸(ピッチ軸)の検出値(Y軸を軸とする回転の角速度)は車両300のピッチ角、つまり車両姿勢角度θvが変化する速度(角速度)を表わす。当該検出値を時間積分することにより車両姿勢角度θvの変化量を求めることができる。
【0062】
第1モード制御と第2モード制御の切り替え、即ち、車両300に予め定められた値を超える加速度が作用しているか否かの判定は、例えば、車両制御部302を経由して受信される、車速センサ312や加速度センサ316、および角速度センサ317の検出値に基づき行うことができる。例えば、車速センサ312の検出値を用いる場合、照射制御部228Rは、当該検出値に基づく車速を時間微分することにより求められる加速度に基づき上記判定を行う。また例えば、加速度センサ316の検出値を用いる場合、照射制御部228Rは、当該検出値から取得される車両300の前後方向の加速度に基づき上記判定を行う。また例えば、角速度センサ317の検出値を用いる場合、照射制御部228Rは、当該検出値を時間積分して得られる角度の変化量(車両姿勢角度θvの変化量)から求まる加速度に基づき上記判定を行う。さらに上記判定は、例えば、車両制御部302等を介して取得される、アクセルペダルまたはブレーキペダルの踏み込み量が予め定められた値を超えるか否かに基づき行ってもよい。以上に示した方法の2つ以上を組み合わせてAND条件やOR条件をとることにより上記判定を行ってもよい。
【0063】
前述したように、角速度センサ317は、ドリフトにより時間の経過とともにゼロ点がずれていくため随時補正(以下、「ゼロ点補正」と称する。)することが好ましい。ゼロ点補正は、例えば、車両姿勢角度θvが安定している車両停止中の期間(例えば、イグニッションをオンした後、機器の温度が安定した時点から発進前まで)に行う。
【0064】
図5は、車両用灯具システム200がオートレベリング制御に際して行う処理(以下、「オートレベリング処理S500」と称する。)を説明するフローチャートである。尚、同図において符号の前に付した「S」の文字は処理ステップの意味である。また判定ブロックに付した「Y」の文字は「Yes」を意味し、「N」の文字は「No」を意味する。
【0065】
オートレベリング処理S500は、例えば、ライトスイッチ304によってオートレベリング制御モードの実行指示がなされている状態において、イグニッションがオンにされた後に照射制御部228R(制御部228R2)により繰り返し実行され、イグニッションがオフにされると実行を終了する。以下、同図とともにオートレベリング処理S500について説明する。
【0066】
まず制御部228R2は、車両300が車両走行中であるか否かを判定する(S101)。車両走行中である場合(S101:Y)、処理はS102に進み、車両走行中でない場合(S101:N)、処理はS107に進む。
【0067】
S102では、制御部228R2は、車両300が急加速または急減速中であるか否か(予め定められた値を超える加速度が作用しているか否か)を判定する。車両300が急加速または急減速中である場合(S102:Y)、処理はS103に進む。一方、車両300が急加速または急減速中でない場合(S102:N)、処理はS122に進む。
【0068】
S103では、制御部228R2は、角速度センサ317のY軸(ピッチ軸)の検出値(角速度)を時間積分することにより車両姿勢角度θvの変化を求める。そして制御部228R2は、求めた変化に基づき光軸調節を指示する制御信号を生成して光軸位置を補正する(S104)(第2モード制御)。その後はS102の処理に戻る。即ち、急加速または急減速が検知されなくなるまで第2モード制御は持続される。
【0069】
S122では、制御部228R2は、車両300が加減速中であるか否かを判定する。車両300の加減速は、例えば、加速度センサ316の検出値、アクセルペダルやブレーキペダル(ともに図示せず)の踏み込みの有無等から検出することができる。車両300が加減速中である場合(S122:Y)、処理はS123に進み、車両が加減速中でない場合(S122:N)、処理はS101に戻る。
【0070】
S123では、制御部228R2は、加速度センサ316の複数の検出値から直線近似式を算出し、得られた直線近似式の傾きと前回算出した直線近似式の傾きとを比較する。そして、制御部228R2は、直線近似式の傾きの変化を検出したか否かを判定する(S124)。直線近似式の傾きの変化が検出された場合(S124:Y)、制御部228R2は、光軸調節を指示する制御信号を生成して光軸位置を補正し(第1モード制御)、車両姿勢角度θvの基準値を補正する(S125)。その後、処理はS101に戻る。
【0071】
S107では、制御部228R2は、車両停止時であるか否かを判定する。車両停止時である場合(S107:Y)、処理はS108に進み、車両停止時でない場合(S107:N)、処理はS110に進む。
【0072】
S108では、制御部228R2は、現在の合計角度θから車両姿勢角度θvの基準値を減じて路面角度θrを計算する。そして、制御部228R2は、計算した路面角度θrを新たな基準値としてメモリ228R4に記録する(S109)。その後、処理はS101に戻る。
【0073】
S110(車両停止中(車両走行中でなく車両停止時でもない場合))では、制御部228R2は、現在の合計角度θから路面角度θrの基準値を減じて車両姿勢角度θvを計算する。続いて、制御部228R2は、計算した車両姿勢角度θvと車両姿勢角度θvの基準値との差が所定量以上であるか否かを判定する(S111)。差が所定量未満である場合(S111:N)、処理はS101に戻る。差が所定量以上である場合(S111:Y)、処理はS112に進む。
【0074】
S112では、制御部228R2は、計算した車両姿勢角度θvに基づき光軸位置を調節する。そして、制御部228R2は、計算した車両姿勢角度θvを基準値としてメモリ228R4に記録する(S113)。
【0075】
続いて、制御部228R2は、角速度センサ317の補正(ゼロ点補正)を行う(S114)。即ち、制御部228R2は、この車両停止中に車両制御部320を経由して受信される角速度センサ317の現在の検出値をゼロ点として記録し直す。その後、処理はS101に戻る。
【0076】
以上に説明したように、本実施形態の車両用灯具システム200は、急加速や急減速により車両300に大きな加速度が作用していないときは、加速度センサ316で検出される加速度に基づき灯具ユニット10の光軸調節を行い(第1モード制御)、急加速や急減速により車両300に急に大きな加速度が作用しているときは、角速度センサ317で検出される角速度に基づき灯具ユニット10の光軸調節を行う。そのため、車両300の走行中に精度よく安定してオートレベリング制御を行うことができる。
【0077】
尚、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。また例えば、上記の実施形態は本発明を分かりやすく説明するために構成を詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また上記の実施形態の構成の一部について、他の構成に追加、削除、置換することが可能である。
【0078】
例えば、第1モード制御の他の態様として、例えば、特開2012-106719号公報に記載されている第2実施形態や第3実施形態の構成がある。
【0079】
本発明の他の態様としては、制御装置としての照射制御部228L,228Rを挙げることができる。照射制御部228L,228Rは、加速度センサ316から車両前後方向および車両上下方向の加速度を受信するための受信部228L1,228R1と、上述したオートレベリング制御を実行するための制御部228L2,228R2と、制御部228L2,228R2により生成された制御信号をレベリング制御部236に送信するための送信部228L3,228R3とを備える。車両用灯具システム200における照射制御部228は広義の制御部に相当し、照射制御部228における制御部228L2,228R2は狭義の制御部に相当する。
【0080】
上述の各実施形態において、照射制御部228がレベリング制御部236を介さずに光軸調節部としてのレベリングアクチュエータ226を制御してもよい。即ち、照射制御部228がレベリング制御部236として機能してもよい。また、上述の各実施形態における光軸調節を指示する制御信号の生成は、車両制御部302が実施してもよい。即ち、車両制御部302がオートレベリング制御を実行する制御装置を構成してもよい。この場合、照射制御部228は、車両制御部302からの指示に基づいてレベリングアクチュエータ226の駆動を制御する。
【符号の説明】
【0081】
10 灯具ユニット、200 車両用灯具システム、228,228L,228R 照射制御部、228L1,228R1 受信部、228L2,228R2 制御部、228L3,228R3 送信部、300 車両、316 加速度センサ、317 角速度センサ
O 光軸、θ 合計角度、θr 路面角度、θv 車両姿勢角度、α 運動加速度ベクトル、β 合成加速度ベクトル